(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6819619
(24)【登録日】2021年1月6日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】ワーク切断方法及びワイヤソー
(51)【国際特許分類】
B24B 55/02 20060101AFI20210114BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20210114BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20210114BHJP
B28D 5/04 20060101ALI20210114BHJP
B28D 7/02 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
B24B55/02 Z
B24B27/06 H
H01L21/304 611W
B28D5/04 C
B28D7/02
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-8110(P2018-8110)
(22)【出願日】2018年1月22日
(65)【公開番号】特開2019-126854(P2019-126854A)
(43)【公開日】2019年8月1日
【審査請求日】2019年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】北川 幸司
(72)【発明者】
【氏名】豊田 史朗
【審査官】
須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2017−077594(JP,A)
【文献】
特開2014−009413(JP,A)
【文献】
特開2012−035336(JP,A)
【文献】
特開2003−191158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B27/06;55/02
B28D5/04;7/02
H01L21/304
B23D61/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に砥粒が固着された固定砥粒ワイヤを複数の溝付ローラに巻掛けることによってワイヤ列を形成し、前記固定砥粒ワイヤを軸方向に往復走行させながら、前記ワイヤ列に対してワークを切り込み送りすることにより、前記ワークを軸方向に並ぶ複数の箇所で同時に切断するワイヤソーによるワークの切断方法であって、
前記固定砥粒ワイヤによるワーク切断中にはワーク切断用クーラントを前記ワイヤ列上に供給し、前記ワークの切断後に前記ワイヤ列から前記ワークを引き抜く際には、前記ワーク切断用クーラントとは異なる前記ワーク切断用クーラントよりも高粘度のワーク引き抜き用クーラントを前記ワイヤ列上に供給し、
前記ワーク切断用クーラントとして、25℃における粘度が5mPas以下のものを使用し、前記ワーク引き抜き用クーラントとして、25℃における粘度が15mPas以上のものを使用することを特徴とするワーク切断方法。
【請求項2】
前記ワーク切断用クーラントとして、水分の含有量が99質量%以上のものを使用し、前記ワーク引き抜き用クーラントとして、水分の含有量が90質量%以下のものを使用すること特徴とする請求項1に記載のワーク切断方法。
【請求項3】
前記ワークとして、直径が300mm以上のものを切断することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のワーク切断方法。
【請求項4】
表面に砥粒が固着された固定砥粒ワイヤが複数の溝付ローラに巻掛けされることによって形成されたワイヤ列と、ワークを保持しながら前記ワイヤ列に押し当てるワーク送り機構と、前記ワイヤ列上にクーラントを供給するクーラント供給機構とを具備し、前記固定砥粒ワイヤを軸方向に往復走行させながら、前記ワイヤ列に対して前記クーラント供給機構よりクーラントを供給しつつ、前記ワーク送り機構により前記ワークを切り込み送りすることにより、前記ワークを軸方向に並ぶ複数の箇所で同時に切断するワイヤソーであって、
前記クーラント供給機構は、前記固定砥粒ワイヤによるワーク切断中にはワーク切断用クーラントを前記ワイヤ列上に供給し、前記ワークの切断後に前記ワイヤ列から前記ワークを引き抜く際には、前記ワーク切断用クーラントとは異なる前記ワーク切断用クーラントよりも高粘度のワーク引き抜き用クーラントを前記ワイヤ列上に供給するものであり、
前記ワーク切断用クーラントは、25℃における粘度が5mPas以下のものであり、前記ワーク引き抜き用クーラントは、25℃における粘度が15mPas以上のものであることを特徴とするワイヤソー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワーク切断方法及びワイヤソーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばシリコンインゴットや化合物半導体インゴット等のワークからウェーハを切り出す手段として、ワイヤソーが知られている。このワイヤソーでは、複数のローラの周囲に切断用ワイヤが多数巻掛けられることによりワイヤ列が形成されており、その切断用ワイヤが軸方向に高速駆動され、かつ、スラリ又はクーラントが適宜供給されながらワイヤ列に対してワークが切り込み送りされることにより、このワークが各ワイヤ位置で同時に切断されるようにしたものである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、
図3に、従来の一般的なワイヤソーの一例の概要を示す。
図3に示すように、このワイヤソー101は、主に、ワークWを切断するためのワイヤ102(高張力鋼線)、ワイヤ102を複数の溝付きローラ103、103’に巻掛けることで形成したワイヤ列104、ワイヤ102に張力を付与するための機構105、105’、切断されるワークWを下方へと送り出すワーク送り機構106、切断時にGC(炭化ケイ素)砥粒等を液体に分散させたスラリを供給する機構107で構成されている。
【0004】
ワイヤ102は、一方のワイヤリール108から繰り出され、張力付与機構105を経て、溝付きローラ103に入っている。ワイヤ102はこの溝付きローラ103に300〜400回程度巻掛けられた後、もう一方の張力付与機構105’を経てワイヤリール108’に巻き取られている。
【0005】
また、溝付きローラ103は鉄鋼製円筒の周囲にポリウレタン樹脂を圧入し、その表面に一定のピッチで溝を切ったローラであり、巻掛けられたワイヤ102が、駆動用モータ110によって予め定められた周期で往復方向に駆動できるようになっている。
【0006】
なお、ワークWの切断時には、ワーク送り機構106によってワークWは保持されつつ押し下げられ、溝付きローラ103に巻掛けられたワイヤ102に送り出される。このようなワイヤソー101を用い、ワイヤ102にワイヤ張力付与機構105を用いて適当な張力をかけて、駆動用モータ110によりワイヤ102を往復方向に走行させながらスラリをノズル109を介して供給し、ワーク送り機構106でワークを切り込み送りすることでワークを切断する。
【0007】
一方、砥粒を含むスラリを使用せず、代わりにダイヤモンド砥粒等をワイヤの表面に固着した固定砥粒ワイヤを使用して、ワークを切断する方法も知られており、直径150mm程度以下の小直径インゴットの切断には一部で実用化している。
【0008】
この固定砥粒ワイヤによる切断では、
図3に示したワイヤソーの鋼線ワイヤの代わりに固定砥粒ワイヤを装着し、スラリを砥粒を含まないクーラントに変えることで、ワイヤソーをそのまま使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−20197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
固定砥粒ワイヤによる切断では、遊離砥粒を使用していないため環境面からも産業廃棄物が少なく、また、加工速度が速いなど、遊離砥粒を利用したワイヤソーによる加工と比べて有利な点が多い。しかしながら、ワイヤソーでは、
図3に示すように、溝付ローラ103に巻掛けられた1本のワイヤ102にワークWを対し押しつけて移動させて切断するため、切断終了時にワークWはワイヤ102の下側へ位置しており、ワークWを取り出すためには、ワークWを上方へ移動させることにより、ワイヤ102をワークWの切断されてウェーハ状となった間隙を通過して相対的に下側へ抜き取ることで、切断後のワークWを引き抜く必要がある。
【0011】
切断後のワークWを引き抜く際、
図4(a)に示すように、遊離砥粒を用いたワイヤソーの場合は、遊離砥粒Gの幅の分だけワイヤ102とワークWとの間に隙間(クリアランス)ができ、さらに、ワーク表面に残存したスラリに含まれる遊離砥粒が転動することにより摩擦抵抗が低減するため、ワイヤ102の抜き取りは比較的容易であった。しかし、
図4(b)に示すように、固定砥粒を用いたワイヤソーの場合、固定砥粒ワイヤ202とワークWとの間のクリアランスは遊離砥粒を用いたワイヤソーに比べて狭く、また転動する遊離砥粒も存在しないため、固定砥粒ワイヤ202が抜けにくく、ワークWに引っかかって固定砥粒ワイヤ202が浮き上がり、この状態で固定砥粒ワイヤ202を抜くとワーク切断面がダメージを受けて当該切断面にいわゆるソーマークが生じやすく、これによってWarpが悪化して品質を損なうだけでなく、ワイヤの浮き上がりが大きくなった場合には、ワイヤ断線に至る事がある。ワイヤ断線が発生した場合には、固定砥粒ワイヤを溝付ローラに巻掛け直す手間が必要となり、また巻掛け直す分の固定砥粒ワイヤが余分に必要になるなど損失が大きい。
【0012】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、固定砥粒ワイヤからなるワイヤ列から切断後のワークを引き抜く場合に、ワークにワイヤが引っかかってソーマークが生じたり、ワイヤ断線が発生したりすることを抑制するワーク切断方法及びワイヤソーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を達成するために、本発明では、表面に砥粒が固着された固定砥粒ワイヤを複数の溝付ローラに巻掛けることによってワイヤ列を形成し、前記固定砥粒ワイヤを軸方向に往復走行させながら、前記ワイヤ列に対してワークを切り込み送りすることにより、前記ワークを軸方向に並ぶ複数の箇所で同時に切断するワイヤソーによるワークの切断方法であって、前記固定砥粒ワイヤによるワーク切断中にはワーク切断用クーラントを前記ワイヤ列上に供給し、前記ワークの切断後に前記ワイヤ列から前記ワークを引き抜く際には、前記ワーク切断用クーラントとは異なる前記ワーク切断用クーラントよりも高粘度のワーク引き抜き用クーラントを前記ワイヤ列上に供給することを特徴とするワーク切断方法を提供する。
【0014】
このような方法であれば、固定砥粒ワイヤからなるワイヤ列から切断後のワークを引き抜く場合に、ワークにワイヤが引っかかってソーマークが生じたり、ワイヤ断線が発生したりすることを抑制できる。
【0015】
またこのとき、前記ワーク切断用クーラントとして、25℃における粘度が5mPas以下のものを使用し、前記ワーク引き抜き用クーラントとして、25℃における粘度が15mPas以上のものを使用することが好ましい。
【0016】
このように、ワーク切断中に、上記粘度を有するワーク切断用クーラントを使用し、かつ、ワークを引き抜く際に、上記粘度を有するワーク引き抜き用クーラントを使用すると、スライス品質、特にWarpが悪化せず、また、ソーマークやワイヤ断線が発生したりすることをより確実に抑制できる。
【0017】
また、このとき、前記ワーク切断用クーラントとして、水分の含有量が99質量%以上のものを使用し、前記ワーク引き抜き用クーラントとして、水分の含有量が90質量%以下のものを使用することが好ましい。
【0018】
このような水分含有量のクーラントであれば、本発明で用いるワーク切断用クーラント及びワーク引き抜き用クーラントとして好適である。
【0019】
また、このとき、前記ワークとして、直径が300mm以上のものを切断することができる。
【0020】
本発明のワーク切断方法は、大直径のワークを切断する場合に特に有効である。
【0021】
また、本発明では、表面に砥粒が固着された固定砥粒ワイヤが複数の溝付ローラに巻掛けされることによって形成されたワイヤ列と、ワークを保持しながら前記ワイヤ列に押し当てるワーク送り機構と、前記ワイヤ列上にクーラントを供給するクーラント供給機構とを具備し、前記固定砥粒ワイヤを軸方向に往復走行させながら、前記ワイヤ列に対して前記クーラント供給機構よりクーラントを供給しつつ、前記ワーク送り機構により前記ワークを切り込み送りすることにより、前記ワークを軸方向に並ぶ複数の箇所で同時に切断するワイヤソーであって、前記クーラント供給機構は、前記固定砥粒ワイヤによるワーク切断中にはワーク切断用クーラントを前記ワイヤ列上に供給し、前記ワークの切断後に前記ワイヤ列から前記ワークを引き抜く際には、前記ワーク切断用クーラントとは異なる前記ワーク切断用クーラントよりも高粘度のワーク引き抜き用クーラントを前記ワイヤ列上に供給するものであることを特徴とするワイヤソーを提供する。
【0022】
本発明のワイヤソーは、ワークの切断後にワイヤ列からワークを引き抜く際には、ワーク切断用クーラントとは異なるワーク切断用クーラントよりも高粘度のワーク引き抜き用クーラントを前記ワイヤ列上に供給するものである。これにより、切断後のワークにワイヤが引っかかってソーマークが生じたり、ワイヤ断線が発生したりすることを抑制できるものとなる。
【発明の効果】
【0023】
このように、本発明のワーク切断方法およびワイヤソーであれば、固定砥粒ワイヤを用いたワイヤソーにおいて、ワーク切断後のワーク引き抜きの際、ワーク切断用クーラントよりも高粘度のワーク引き抜き用クーラントを供給することにより、切断後のワークにワイヤが引っかかってソーマークが生じたり、ワイヤ断線が発生したりすることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明のワイヤソーの一例を示す概略図である。
【
図2】(a)ワークの切断終了時のワークと固定砥粒ワイヤとの位置関係を示す図である。(b)ワイヤの引っ掛かり発生時のワークと固定砥粒ワイヤとの状態を示す図である。(c)ワークの引き抜き終了時のワークと固定砥粒ワイヤとの位置関係を示す図である。
【
図3】従来の一般的なワイヤソーの一例を示す概略図である。
【
図4】(a)遊離砥粒方式におけるワークの間隙におけるワイヤの状態を示す図である。(b)固定砥粒方式におけるワークの間隙における固定砥粒ワイヤの状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
上記のように、固定砥粒ワイヤを用いてワークの切断を行う場合、ワークの切断終了後にワイヤ列から切断後のワークを引き抜こうとすると、ワイヤが切断後のワークに引っ掛かり、切断面にソーマークが生じたり、ワイヤが断線したりするという問題があった。
【0026】
そこで、本発明者らはこのような問題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、ワークの切断後にワイヤ列から切断後のワークを引き抜く際には、ワーク切断用クーラントよりも高粘度のワーク引き抜き用クーラントをワイヤ列上に供給すれば、ワークを引き抜く際のワーク切断面の潤滑性が改善するため、切断後のワークにワイヤが引っかかってソーマークが生じたり、ワイヤ断線が発生したりすることを抑制できることを知見し、本発明を完成させた。
【0027】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
図1は、本発明のワイヤソー1の一例を示す概略図である。
図1に示すように、本発明のワイヤソー1は、主に、ワークWを切断するための固定砥粒ワイヤ2、固定砥粒ワイヤ2を巻回した複数の溝付ローラ3、3’、溝付ローラ3、3’に固定砥粒ワイヤ2が巻掛けられることによって形成されたワイヤ列4、固定砥粒ワイヤ2に張力を与えるための張力付与機構5、5’、切断されるワークWを下方へ送り出すワーク送り機構6、切断時及びワークを引き抜く際にクーラントを供給するクーラント供給機構7で構成されている。
【0029】
ここで、固定砥粒ワイヤの繰出しと巻き取りについてより詳しく説明する。固定砥粒ワイヤ2は、一方のワイヤリール8から繰り出され、トラバーサ9を介してパウダクラッチ(低トルクモータ10)やダンサローラ(デッドウェイト)(不図示)等からなる張力付与機構5を経て、溝付ローラ3に入っている。また、固定砥粒ワイヤ2がこの溝付ローラ3と3’に400〜500回程度巻掛けられることによってワイヤ列4が形成される。さらに、固定砥粒ワイヤ2は、トラバーサ9’を介して、パウダクラッチ(低トルクモータ10’)やダンサローラ(デッドウェイト)(不図示)から成るもう一方の張力付与機構5’を経てワイヤリール8’に巻き取られている。
【0030】
このようなワイヤソー1は、固定砥粒ワイヤ2をその軸方向に往復走行させながら、ワイヤ列4に対してクーラント供給機構7よりクーラントを供給しつつ、ワーク送り機構6によりワークWを切り込み送りすることにより、ワークWを軸方向に並ぶ複数の箇所で同時に切断する。固定砥粒ワイヤ2の往復走行は、複数の溝付ローラ3、3’間に巻回された固定砥粒ワイヤ2を一方向へ所定の長さ前進させた後に、他方向へ前述の前進量よりも少ない長さ後退させ、これを一送りサイクルとして、このサイクルを繰り返すことにより、固定砥粒ワイヤ2を一方向へ送り出す。溝付ローラ3’は、巻掛けられた固定砥粒ワイヤ2が、駆動用モータ11によって予め定められた周期で往復方向に駆動できるようになっている。
【0031】
図2(a)、(c)は、それぞれワークの切断終了時とワーク引き抜き終了時のワークWと固定砥粒ワイヤ202の位置関係を示した図である。
図2(a)に示したように、切断終了時には、ワークWがワイヤ列よりも下側へ位置している。そのため、ワークWを取り出すためには、ワークWを上方へ移動させることにより、固定砥粒ワイヤ202を、切断されてウェーハ状となったワークWのウェーハ間の間隙を通過させて、固定砥粒ワイヤ202を相対的に下側へ引き抜く必要がある(
図2(c))。
【0032】
しかし、固定砥粒を用いた従来のワイヤソーの場合、固定砥粒ワイヤ202とワークWとの間のクリアランスが小さいため(
図4(b)参照)、固定砥粒ワイヤ202がワークWに引っかかって、
図2(b)に示すように浮き上がり、ワークWの切断面にソーマークが生じたり、ワイヤ断線が発生したりする。
【0033】
一例として、ワイヤとワークWとの間のクリアランスは、遊離砥粒方式では25μm以上程度あるのに対して、固定砥粒方式では6μm以下程度である。
【0034】
ソーマークが生じたり、ワイヤ断線が生じたりすることを防ぐために、本発明のワイヤソー1は、固定砥粒ワイヤ2によるワーク切断中にはワーク切断用クーラントをワイヤ列4上に供給し、ワークWの切断後にワイヤ列4からワークWを引き抜く際には、ワーク切断用クーラントとは異なるワーク切断用クーラントよりも高粘度のワーク引き抜き用クーラントをワイヤ列4上に供給するクーラント供給機構7を具備している。
【0035】
このように、本発明のワイヤソー1では、ワーク切断後のワーク引き抜き時にワーク切断用クーラントよりも高粘度なワーク引き抜き用クーラントを供給することにより、ワーク切断面の潤滑性が向上するので、ワークにワイヤが引っかかってソーマークが生じたり、ワイヤ断線が発生したりすることを抑制できる。特に、ワーク切断後のワーク引き抜き時には、ワーク切断面にワイヤが接触した際に発生するソーマークを避けるためにワイヤの走行速度をワーク切断時に比較して1/100あるいは、それ以下の低速にすることが好ましいため、ワーク切断用と同じクーラントをワイヤ列上に供給した場合には、ワイヤを低速にしたことによってワーク切断面へのクーラント供給量が減少し、ワーク切断面の潤滑性が著しく低下する。しかし、本発明のワイヤソー1は、ワーク引き抜き時には、ワーク切断用クーラントよりも高粘度のワーク引き抜き用クーラントを供給することで、これを防止することができる。
【0036】
続いて、本発明のワーク切断方法を、上記本発明のワイヤソーを用いる場合を例に説明する。
【0037】
まず、
図1に示すように、表面に砥粒が固着された固定砥粒ワイヤ2を複数の溝付ローラ3、3’に巻掛けることによってワイヤ列4を形成する。続いて、固定砥粒ワイヤ2を駆動用モータ11によって、固定砥粒ワイヤ2の軸方向に往復走行させる。そして、ワーク送り機構6によって、ワイヤ列4に対して円柱状のワークWを切り込み送りすることにより、ワークWを軸方向に並ぶ複数の箇所で同時に切断する。
【0038】
本発明のワーク切断方法では、固定砥粒ワイヤ2によるワーク切断中にはワーク切断用クーラントをワイヤ列4上に供給し、ワークの切断後にワイヤ列4からワークWを引き抜く際には、ワーク切断用クーラントとは異なるワーク切断用クーラントよりも高粘度のワーク引き抜き用クーラントを前記ワイヤ列4上に供給する。
【0039】
これにより、ワークWの引き抜き時にワイヤが切断後のワークに引っ掛かり、断面にソーマークが生じたり、ワイヤが断線したりすることを抑制できる。
【0040】
ワーク切断用クーラントの粘度は、25℃において5mPas以下が好ましい。また、ワーク引き抜き用クーラントの粘度は、25℃において10mPas以上が好ましく、より好ましく15mPas以上、さらに好ましくは20mPas以上である。但し、あまりに粘度が高いとハンドリングが難しくなるので、500mPas以下であることが好ましい。
【0041】
また、ワーク切断用クーラントに含まれる水分の含有量は99質量%以上であることが好ましく、ワーク引き抜き用クーラントに含まれる水分の含有量は90質量%以下であることが好ましい。
【0042】
ワーク切断時に供給するクーラント(ワーク切断用クーラント)は、含有する水分の量が多いほど切断部の冷却効果が高く、良好なWarp品質が得られやすくなるが、一般的にワイヤソー装置のクーラント接液部の材質は、炭素鋼やインバー材などの鉄を主体とした合金であるため、錆の発生を防ぐ成分、いわゆる防錆剤を含むことが好ましい。そのため、ワーク切断用クーラントに含まれる水分の含有量は100質量%未満であることが好ましい。さらに、ワーク切断用クーラントには、ワークの切断によって生じる切り屑の混入があるため、切り屑がクーラント供給経路内に固着するのを防ぐために分散剤を添加することが好ましく、また、切り屑のシリコンが水と反応して水素が発生するのを防止するためにpH調整剤を添加することが好ましい。また、クーラントを循環供給するタンクで泡が発生するのを防止するために消泡剤を添加することが好ましい。上記のような添加物の合計は1質量%以下程度となることが好ましい。
【0043】
ワークの切断時に、上記のようなワーク切断に最適な物性(粘度)を有するワーク切断用クーラントを供給することで、高粘度のワーク切断用クーラントを使用した際に生じる切断部での切断抵抗の増加や、これに伴うワークの温度の高温化の恐れが無く、スライス品質、特にWarpが悪化せず良好なWarp品質を得ることができる。
【0044】
一方、ワークを引き抜く際に供給するクーラント(ワーク引き抜き用クーラント)の25℃における粘度は、10mPas以上が好ましく、より好ましく15mPas以上、さらに好ましくは20mPas以上である。このような粘度を有するワーク引き抜き用クーラントを使用すれば、ワーク切断面の潤滑性を改善することができる。このような粘度を得るためには、ワーク引き抜き用クーラントに含まれる水分の量を90質量%以下とし、残りの10質量%以上の成分として、増粘作用のある成分を添加すればよい。
【0045】
また、ワークとして、直径が300mm以上のものを切断することが好ましい。ワークのサイズが大きくなるほど、ワークに隣接する固定砥粒ワイヤの長さとワークを引き抜く距離が長くなって、固定砥粒ワイヤが引っ掛かりやすくなるため、本願の切断方法が特に有効な手段となる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
(実施例1〜4)
図1に示すような本発明のワイヤソーを用いて、本発明の切断方法に従い、ワークの切断が終了した後に、ワーク引き抜き時に供給するクーラントを変化させて、ワイヤ列からのワークの引き抜きを行った。複数のワークの切断を行い、ワーク引き抜き時の断線の発生頻度を評価した。なお、固定砥粒ワイヤは下記の表1に示すものを用い、ワークの切断条件及び引き抜き条件は下記の表2に示した。なお、各クーラントの25℃における粘度は、デジタル粘度計(東機産業(株)製 TVB−10型)を用いて測定した。結果を下記表3に示した。
【0048】
(比較例)
ワーク引き抜き用クーラントとして、ワーク切断用クーラントと同じ粘度のクーラントを用いたこと以外は、実施例と同様にして複数のワークの切断を行い、ワーク引き抜き時の断線の発生頻度を評価した。結果を下記表3に示した。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
表3に示したように、ワーク引き抜き用クーラントとして、ワーク切断用クーラントと同じ粘度のクーラントを使用した比較例では、全てのワーク切断においてワイヤが引っかかって浮き上がりが発生し、その後断線した。一方、ワーク引き抜き用クーラントとして、ワーク切断用クーラントよりも高粘度のクーラントを使用した実施例1〜4では、比較例と比べ、ワイヤの浮き上がりの発生が抑制され、断線の発生が抑制されていた。
【0053】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0054】
1…本発明のワイヤソー、 2…固定砥粒ワイヤ、 3、3’…溝付ローラ、
4…ワイヤ列、 5、5’…張力付与機構、 6…ワーク送り機構、
7…クーラント供給機構、 8、8’…ワイヤリール、
9、9’…トラバーサ、 10、10’…低トルクモータ、
11…駆動用モータ、 W…ワーク。