(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(c)ピロメリット酸エステルの含有割合が、前記(b)トリメリット酸エステル及び前記(c)ピロメリット酸エステルの合計含有量に対して40質量%以下である、請求項1に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
前記(b)トリメリット酸エステル及び前記(c)ピロメリット酸エステルの合計含有量が、前記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して5質量部以上200質量部以下である、請求項1又は2に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、例えば、本発明の塩化ビニル樹脂成形体を形成する際に用いることができる。また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、当該塩化ビニル樹脂成形体を有する本発明の積層体の製造に用いることができる。そして、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、自動車インスツルメントパネルなどの自動車内装部品の表皮用など、自動車内装材用として好適に用いることができる。
【0023】
(塩化ビニル樹脂組成物)
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、(a)塩化ビニル樹脂と、(b)トリメリット酸エステルと、(c)所定の直鎖率のアルキル基を有するピロメリット酸エステルとを含み、上記(c)ピロメリット酸エステルの含有割合が所定以上の割合であることを特徴とする。また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、上記成分に加え、任意に、(d)シリコーンオイルおよび添加剤などを更に含有してもよい。そして、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、上記所定の成分を所定の割合で含んでいるため、当該組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体などの低温下における引張伸びを確保しつつ、初期および熱老化試験後の損失弾性率E”のピークトップ温度を低下させることができる。その結果、例えば当該塩化ビニル樹脂成形体を自動車インスツルメントパネルの表皮として採用した際に、表皮が、エアバッグの膨張、展開時に、予期せぬ位置でクラックを発生することなく設計通りに良好に割れることができる。
【0024】
<(a)塩化ビニル樹脂>
ここで、塩化ビニル樹脂組成物に用いられる(a)塩化ビニル樹脂は、例えば、1種類又は2種類以上の塩化ビニル樹脂粒子を含有することができ、任意に、1種類又は2種類以上の塩化ビニル樹脂微粒子を更に含有することができる。中でも、(a)塩化ビニル樹脂は、少なくとも塩化ビニル樹脂粒子を含有することが好ましく、塩化ビニル樹脂粒子および塩化ビニル樹脂微粒子を含有することがより好ましく、1種類の塩化ビニル樹脂粒子および2種類の塩化ビニル樹脂微粒子を併用することが更に好ましい。
なお、本明細書において、「樹脂粒子」とは、粒子径が30μm以上の粒子を指し、「樹脂微粒子」とは、粒子径が30μm未満の粒子を指す。
また、(a)塩化ビニル樹脂は、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法など、従来から知られているいずれの製造法によっても製造され得る。
【0025】
<<組成>>
(a)塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニル単量体単位からなる単独重合体の他、塩化ビニル単量体単位を好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上含有する塩化ビニル系共重合体が挙げられる。塩化ビニル系共重合体を構成し得る、塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体(共単量体)の具体例としては、エチレン、プロピレンなどのオレフィン類;塩化アリル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、三フッ化塩化エチレンなどのハロゲン化オレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類;イソブチルビニルエーテル、セチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アリル−3−クロロ−2−オキシプロピルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのアリルエーテル類;アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジエチル、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸、そのエステルまたはその酸無水物類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類;アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライドなどのアクリルアミド類;アリルアミン安息香酸塩、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドなどのアリルアミンおよびその誘導体類;などが挙げられる。以上に例示される単量体は、共単量体の一部に過ぎず、共単量体としては、近畿化学協会ビニル部会編「ポリ塩化ビニル」日刊工業新聞社(1988年)第75〜104頁に例示されている各種単量体が使用され得る。これらの共単量体は、1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。なお、上記(a)塩化ビニル樹脂には、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、塩素化ポリエチレンなどの樹脂に、(1)塩化ビニルまたは(2)塩化ビニルと前記共単量体とがグラフト重合された樹脂も含まれる。
ここで、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。
【0026】
<<塩化ビニル樹脂粒子>>
塩化ビニル樹脂組成物において、塩化ビニル樹脂粒子は、通常、マトリックス樹脂(基材)として機能する。なお、塩化ビニル樹脂粒子は、懸濁重合法により製造することが好ましい。
【0027】
[平均重合度]
ここで、塩化ビニル樹脂粒子の平均重合度は、800以上が好ましく、1000以上がより好ましく、1800以上が更に好ましく、2300以上が一層好ましく、5000以下が好ましく、3000以下がより好ましい。塩化ビニル樹脂粒子の平均重合度が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の物理的強度を十分確保しつつ、低温下における引張伸びをより良好にできるからである。また、塩化ビニル樹脂粒子の平均重合度が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂成形体の溶融性を向上させ、表面平滑性を向上できるからである。
なお、本発明において「平均重合度」は、JIS K6720−2に準拠して測定することができる。
【0028】
[平均粒子径]
また、塩化ビニル樹脂粒子の平均粒子径は、通常30μm以上であり、50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、500μm以下が好ましく、250μm以下がより好ましく、200μm以下が更に好ましい。塩化ビニル樹脂粒子の平均粒子径が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性がより向上するからである。また、塩化ビニル樹脂粒子の平均粒子径が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性がより向上すると共に、当該組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の平滑性をより向上させることができるからである。
なお、本発明において、「平均粒子径」は、JIS Z8825に準拠し、レーザー回折法により体積平均粒子径として測定することができる。
【0029】
[含有割合]
そして、(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂粒子の含有割合は、(a)塩化ビニル樹脂100質量%に対して70質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、100質量%とすることができ、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂粒子の含有割合が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の物理的強度を十分確保できる共に、低温下における引張伸びをより向上できるからである。また、(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂粒子の含有割合が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性が更に向上するからである。
【0030】
<<塩化ビニル樹脂微粒子>>
塩化ビニル樹脂組成物において、塩化ビニル樹脂微粒子は、通常、ダスティング剤(粉体流動性改良剤)として機能する。なお、塩化ビニル樹脂微粒子は、乳化重合法により製造することが好ましい。
【0031】
[平均重合度]
ここで、塩化ビニル樹脂微粒子の平均重合度は、(a)塩化ビニル樹脂が含有する塩化ビニル樹脂微粒子全体(相加平均値)として600以上であることが好ましく、900以上であることがより好ましく、2000以下であることが好ましく、1700以下であることがより好ましい。そして、例えば、ダスティング剤として異なる平均重合度を有する2種類の塩化ビニル樹脂微粒子を併用する場合は、一方の塩化ビニル樹脂微粒子の平均重合度を500以上1500以下とし;他方の塩化ビニル樹脂微粒子の平均重合度を1600以上2200以下とする;等、適宜選択することができる。ダスティング剤としての塩化ビニル樹脂微粒子の平均重合度が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性がより良好になると共に、当該組成物を用いて形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温下における引張伸びがより向上するからである。また、塩化ビニル樹脂微粒子の平均重合度が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性がより向上し、当該組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の表面平滑性がより向上するからである。
ここで、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性を更に向上させる観点からは、ダスティング剤としての塩化ビニル樹脂微粒子の平均重合度は、基材としての塩化ビニル樹脂粒子の平均重合度よりも小さいことが好ましい。
【0032】
[平均粒子径]
また、塩化ビニル樹脂微粒子の平均粒子径は、通常30μm未満であり、10μm以下であることが好ましく、0.1μm以上であることが好ましい。塩化ビニル樹脂微粒子の平均粒子径が上記下限以上であれば、例えばダスティング剤としてのサイズを過度に小さくすることなく、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を更に良好に発揮できるからである。また、塩化ビニル樹脂微粒子の平均粒子径が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性がより高まり、形成される塩化ビニル樹脂成形体の平滑性を更に向上させることができるからである。
【0033】
[含有割合]
そして、(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂微粒子の含有割合は、(a)塩化ビニル樹脂100質量%に対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、0質量%であってもよい。(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂微粒子の含有割合が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性が更に向上するからである。また、(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂微粒子の含有割合が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の低温下における引張伸びを更に良好にできるからである。
【0034】
<(b)トリメリット酸エステル>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、(b)トリメリット酸エステルを更に含むことを必要とする。塩化ビニル樹脂組成物が(b)トリメリット酸エステルを含まなければ、当該組成物を用いて得られる塩化ビニル成形体に、低温下における良好な引張伸びを発揮させることができない。ここで、(b)トリメリット酸エステルは、塩化ビニル樹脂組成物において、通常、可塑剤としての機能を担う。
【0035】
ここで、(b)トリメリット酸エステルは、通常、トリメリット酸と一価アルコールとのエステル化合物であり、例えば、下記式(2)で示される化合物で表すことができる。
【化2】
ここで、上記式(2)中、R
5、R
6及びR
7は任意のアルキル基であることが好ましく、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0036】
<<アルキル基の種類>>
ここで、上記式(2)中のR
5、R
6及びR
7として(b)トリメリット酸エステルが好適に有するアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−ステアリル基などの直鎖状アルキル基;
i−プロピル基、i−ブチル基、i−ペンチル基、i−ヘキシル基、i−ヘプチル基、i−オクチル基、2−エチルヘキシル基、i−ノニル基、i−デシル基、i−ウンデシル基、i−ドデシル基、i−トリデシル基、i−テトラデシル基、i−ペンタデシル基、i−ヘキサデシル基、i−ヘプタデシル基、i−オクタデシル基、t−ブチル基、t−ペンチル基、t−ヘキシル基、t−ヘプチル基、t−オクチル基、t−ノニル基、t−デシル基、t−ウンデシル基、t−ドデシル基、t−トリデシル基、t−テトラデシル基、t−ペンタデシル基、t−ヘキサデシル基、t−ヘプタデシル基、t−オクタデシル基などの分岐状アルキル基;
などを挙げることができる。
なお、上記(b)トリメリット酸エステルは、単一化合物からなるものであっても、混合物であってもよい。
【0037】
<<R
5〜R
7の直鎖率>>
また、上記式(2)中、R
5、R
6及びR
7の直鎖率は、特に制限されることなく、それぞれ90モル%以上であることが好ましく、99モル%以上であることがより好ましく、100モル%であることが更に好ましい。(b)トリメリット酸エステルが有するR
5、R
6及びR
7がそれぞれ直鎖率90モル%以上のアルキル基であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の低温下における引張伸びがより高まるからである。
なお、本発明において、上記式(2)中における「R
5の直鎖率」とは、塩化ビニル樹脂組成物中に含まれているトリメリット酸エステルの一部又は全部をテトラヒドロフランで抽出し、当該抽出物を、液体クロマトグラフィーを用いて測定した際に得られる、抽出したトリメリット酸エステルが有しているR
5の合計中の直鎖状アルキル基の割合(モル%)を意味する。また、「R
6の直鎖率」及び「R
7の直鎖率」についても上記同様の意味とする。
【0038】
<<R
5〜R
7の炭素数>>
ここで、(b)トリメリット酸エステルは、上記式(2)中のR
5、R
6及びR
7が、それぞれ炭素数8以上のアルキル基であることが好ましく、それぞれ炭素数10以下であることが好ましく、R
5、R
6及びR
7の全てが炭素数8又は9であることがより好ましく、R
5、R
6及びR
7の全てがn−オクチル基又はn−ノニル基であることが更に好ましい。(b)トリメリット酸エステルが上記下限以上の炭素数のアルキル基を有すれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の低温下における引張伸びをより良好にできるからである。また、(b)トリメリット酸エステルが上記上限以下の炭素数のアルキル基を有すれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の物理的強度をより保てるからである。
なお、本発明において「炭素数」は、特に制限されることなく、例えば、液体クロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0039】
<<各炭素数を有するアルキル基の含有割合>>
また、(b)トリメリット酸エステルは、塩化ビニル樹脂組成物に含まれている(b)トリメリット酸エステルが有する全R
5〜R
7に対し、炭素数7以下および炭素数11以上のアルキル基の合計含有割合がそれぞれ0モル%以上10モル%以下であることが好ましい。
また、(b)トリメリット酸エステルは、上記式(2)中の全R
5〜R
7に対し、炭素数8及び炭素数9のアルキル基の合計含有割合が5モル%以上100モル%以下であることが好ましい。
更に、(b)トリメリット酸エステルは、上記式(2)中の全R
5〜R
7に対し、炭素数10のアルキル基の含有割合が0モル%以上95モル%以下であることが好ましい。
なお、本発明において、トリメリット酸エステルについての各炭素数を有する「アルキル基の含有割合」は、特に制限されることなく、塩化ビニル樹脂組成物に用いられるトリメリット酸エステルをアルカリで加水分解した後に加水分解されたアルコールを分離させた試料を、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した際に得られる、トリメリット酸エステルが有している全R
5〜R
7中の各炭素数のアルキル基の割合(モル%)として求めることができる。
【0040】
<<含有量>>
ここで、(b)トリメリット酸エステルの含有量は、(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、通常0質量部超であり、1質量部以上であることが好ましく、60質量部以上であることがより好ましく、65質量部以上であることが更に好ましく、180質量部以下であることが好ましく、150質量部以下であることがより好ましく、125質量部以下であることが更に好ましい。(b)トリメリット酸エステルの含有量が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の低温下における引張伸びをより良好に保てるからである。また、(b)トリメリット酸エステルの含有量が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物および塩化ビニル樹脂成形体の、可塑剤によるべた付きをより抑制することができるからである。
【0041】
<(c)ピロメリット酸エステル>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、(c)所定の構造を有するピロメリット酸エステルを所定以上の割合で更に含むことを必要とする。つまり、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、上述の(b)トリメリット酸エステルおよび(c)ピロメリット酸エステルを併用する必要がある。ここで、(c)ピロメリット酸エステルは、上記(b)トリメリット酸エステルと同様に、塩化ビニル樹脂組成物において、通常、可塑剤としての機能を担う。
【0042】
ここで、(c)ピロメリット酸エステルは、ピロメリット酸と一価アルコールとのエステル化合物であり、下記式(1)で示される化合物で表される。
【化3】
ここで、上記式(1)中、R
1、R
2、R
3、及びR
4はアルキル基であって、互いに同一であっても異なっていてもよい。また、上記式(1)中、R
1、R
2、R
3、及びR
4の合計の直鎖率は所定の割合以上である必要がある。
【0043】
<<R
1〜R
4の合計の直鎖率>>
ここで、上記式(1)中、R
1、R
2、R
3、及びR
4の合計の直鎖率は、90モル%以上である必要がある。換言すれば、(c)ピロメリット酸エステルは、直鎖状ピロメリット酸エステルである必要がある。また、上記式(1)中、R
1、R
2、R
3、及びR
4の合計の直鎖率は99モル%以上であることが好ましく、100モル%であることがより好ましい。つまり、塩化ビニル樹脂組成物に含まれている(c)ピロメリット酸エステルが有するR
1〜R
4は、全て直鎖状アルキル基であることがより好ましい。(c)ピロメリット酸エステルが有するアルキル基R
1〜R
4の合計の直鎖率が90モル%未満であると、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の、初期および熱老化試験後の損失弾性率E”のピークトップ温度を良好に低下させることができない。
【0044】
<<アルキル基の種類>>
ここで、上記式(1)中のR
1、R
2、R
3、及びR
4として(c)ピロメリット酸エステルが有するアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−ステアリル基などの直鎖状アルキル基;
i−プロピル基、i−ブチル基、i−ペンチル基、i−ヘキシル基、i−ヘプチル基、i−オクチル基、2−エチルヘキシル基、i−ノニル基、i−デシル基、i−ウンデシル基、i−ドデシル基、i−トリデシル基、i−テトラデシル基、i−ペンタデシル基、i−ヘキサデシル基、i−ヘプタデシル基、i−オクタデシル基、t−ブチル基、t−ペンチル基、t−ヘキシル基、t−ヘプチル基、t−オクチル基、t−ノニル基、t−デシル基、t−ウンデシル基、t−ドデシル基、t−トリデシル基、t−テトラデシル基、t−ペンタデシル基、t−ヘキサデシル基、t−ヘプタデシル基、t−オクタデシル基などの分岐状アルキル基;
などを挙げることができる。
なお、上記(c)ピロメリット酸エステルは、単一化合物からなるものであっても、混合物であってもよい。
【0045】
<<R
1〜R
4の炭素数>>
ここで、(c)ピロメリット酸エステルは、上記式(1)中のR
1、R
2、R
3及びR
4が、いずれも炭素数4以上のアルキル基であることが好ましく、炭素数6以上のアルキル基であることがより好ましく、炭素数12以下のアルキル基であることが好ましく、炭素数10以下のアルキル基であることがより好ましく、n−ヘキシル基、n−オクチル基、又はn−デシル基であることが更に好ましい。(c)ピロメリット酸エステルが上記下限以上の炭素数を有するアルキル基を有すれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の、低温下における引張伸びをより良好に確保しつつ、初期および熱老化試験後の損失弾性率E”のピークトップ温度をより低下させることができるからである。また、(c)ピロメリット酸エステルが上記上限以下の炭素数を有するアルキル基を有すれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の物理的強度をより良好にできるからである。
【0046】
<<各炭素数を有するアルキル基の含有割合>>
また、(c)ピロメリット酸エステルは、塩化ビニル樹脂組成物に含まれている(c)ピロメリット酸エステルが有するR
1〜R
4のアルキル基が一分子中に異なる2種以上の炭素数を有することが好ましく、異なる3種以上の炭素数を有することがより好ましく、異なる3種の炭素数を有することが更に好ましい。そして、(c)ピロメリット酸エステルは、塩化ビニル樹脂組成物に含まれている(c)ピロメリット酸エステルが有する全R
1〜R
4に対し、炭素数6のアルキル基の合計含有割合が0モル%超30モル%以下であることが好ましく、炭素数8のアルキル基の合計含有割合が10モル%以上70モル%以下であることが好ましく、炭素数10のアルキル基の合計含有割合が20モル%以上80モル%以下であることが好ましい。(c)ピロメリット酸エステル中に、炭素数6、8、および10のアルキル基が上述の含有割合で併存していれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の、初期および熱老化試験後の損失弾性率E”のピークトップ温度をより良好に低下させることができるからである。
なお、本発明において、ピロメリット酸エステルについての各炭素数の「アルキル基の含有割合」は、上述したトリメリット酸エステルについてと同様の方法で求めることができる。
【0047】
<<含有割合>>
ここで、(c)ピロメリット酸エステルの含有割合は、上記(b)トリメリット酸エステル及び当該(c)ピロメリット酸エステルの合計含有量(100質量%)に対して、15質量%以上である必要がある。また、上記(c)ピロメリット酸エステルの含有割合は20質量%以上であることが好ましく、通常100質量%未満であり、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。(c)ピロメリット酸エステルの含有割合が上記下限未満であると、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の、初期および熱老化試験後の損失弾性率E”のピークトップ温度を良好に低下させることができない。また、(c)ピロメリット酸エステルの含有割合が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物および塩化ビニル樹脂成形体の耐ブロッキング性を向上させることができるため、塩化ビニル樹脂成形体等をより容易に製造し得るからである。
【0048】
また、(c)ピロメリット酸エステルの含有割合は、可塑剤((b)トリメリット酸エステル、(c)ピロメリット酸エステル、および後述するその他の可塑剤を含む)の合計含有量(100質量%)に対して、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、通常100質量%未満であり、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。(c)ピロメリット酸エステルの含有割合が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の、初期および熱老化試験後の損失弾性率E”のピークトップ温度をより良好に低下できるからである。また、(c)ピロメリット酸エステルの含有割合が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物および塩化ビニル樹脂成形体の耐ブロッキング性をより向上することができるからである。
【0049】
更に、(c)ピロメリット酸エステルの含有量は、(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、30質量部以上であることがより好ましく、180質量部以下であることが好ましく、100質量部以下であることがより好ましく、50質量部以下であることが更に好ましい。(c)ピロメリット酸エステルの含有量が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の、初期および熱老化試験後の損失弾性率E”のピークトップ温度をより良好に低下できるからである。また、(c)ピロメリット酸エステルの含有量が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物および塩化ビニル樹脂成形体の耐ブロッキング性をより向上することができるからである。
【0050】
そして、(b)トリメリット酸エステル及び(c)ピロメリット酸エステルの合計含有量は、(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して5質量部以上であることが好ましく、70質量部以上であることがより好ましく、110質量部以上であることが更に好ましく、200質量部以下であることが好ましく、170質量部以下であることがより好ましい。(b)トリメリット酸エステルおよび(c)ピロメリット酸エステルの含有量を上記下限以上にすれば、例えば可塑剤としての効果が十分に発揮され、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の低温下における引張伸びを更に向上させることができるからである。また、(b)トリメリット酸エステルおよび(c)ピロメリット酸エステルの含有量を上記上限以下にすれば、得られる塩化ビニル樹脂成形体の表面のべた付きをより良好に抑えることができるからである。
【0051】
なお、(b)トリメリット酸エステル及び(c)ピロメリット酸エステルの形態は特に限定されないが、(a)塩化ビニル樹脂との混合容易性の観点から、また、形成された塩化ビニル樹脂成形体表面でのブルーミング発生(成形体表面に配合成分が折出し、表面が白くなる現象)を抑制する観点からは、常温常圧で液体であることが好ましい。
ここで、本発明において、「常温」とは23℃を指し、「常圧」とは、1atm(絶対圧)を指す。
【0052】
<(d)シリコーンオイル>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、上述した(a)塩化ビニル樹脂、(b)トリメリット酸エステル、および(c)ピロメリット酸エステルに加え、(d)シリコーンオイルを更に含んでもよい。(d)シリコーンオイルは、塩化ビニル樹脂組成物を用いて成形した塩化ビニル樹脂成形体において、通常、成形加工性調節剤、表面改質剤等の役割を担う。
【0053】
<<含有量>>
ここで、塩化ビニル樹脂組成物が(d)シリコーンオイルを更に含む場合は、(d)シリコーンオイルの含有量は、上記(c)ピロメリット酸エステル100質量部に対して0.7質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、1.2質量部以上であることが更に好ましく、2質量部以下であることが好ましく、1.5質量部以下であることがより好ましい。(d)シリコーンオイルの含有量が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂成形体の、直鎖状ピロメリット酸エステルに起因したブロッキングをより低減することができるからである。また、(d)シリコーンオイルの含有量が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて塩化ビニル樹脂成形体をより容易に製造できるからである。
【0054】
また、(d)シリコーンオイルの含有量は、可塑剤((b)トリメリット酸エステル、(c)ピロメリット酸エステル、および後述するその他の可塑剤を含む)100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以下であることがより好ましく、0.4質量部以下であることが更に好ましい。(d)シリコーンオイルの含有量が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂成形体の、可塑剤による表面べた付きの発生を十分に抑制すると共に、直鎖状ピロメリット酸エステルによるブロッキングをより低減することができるからである。また、(d)シリコーンオイルの含有量が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて塩化ビニル樹脂成形体をより容易に製造できるからである。
【0055】
そして、(d)シリコーンオイルの含有量は、(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、0.3質量部以上であることがより好ましく、1質量部以下であることが好ましく、0.6質量部以下であることがより好ましい。(d)シリコーンオイルの含有量が上記下限以上であれば、表面べた付き性がより低く、耐ブロッキング性がより優れた塩化ビニル樹脂組成物および塩化ビニル樹脂成形体を得ることができるからである。また、(d)シリコーンオイルの含有量が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて塩化ビニル樹脂成形体をより容易に製造できるからである。
【0056】
<<種類>>
(d)シリコーンオイルは、未変性シリコーンオイルであってもよく、変性シリコーンオイルであってもよく、これらの混合物であってもよい。未変性シリコーンオイルとしては、特に限定されることなく、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリ(メチルエチル)シロキサン等のポリシロキサン構造を有する高分子、及びこれらの混合物等が挙げられる。
また、変性シリコーンオイルとしては、例えば、カルボキシル基、水酸基(シラノール変性)、メルカプト基、アミノ基、エポキシ基、(メタ)アクリロイルオキシ基等の極性基がポリシロキサン構造を有する高分子に導入されている極性基変性シリコーンオイル;非極性基がポリシロキサン構造を有する高分子に導入されている非極性基変性シリコーンオイル;等が挙げられる。中でも、極性基変性シリコーンオイルが好ましく、シラノール変性シリコーンオイルがより好ましい。
なお、上記極性基又は非極性基が導入される部位は、ポリシロキサン構造を有する高分子の末端(片末端、両末端)及び/又は側鎖である。
また、本明細書において、「(メタ)アクリロイルオキシ」とは、アクリロイルオキシ及び/又はメタクリロイルオキシを意味する。
【0057】
<添加剤>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、上述した成分以外に、各種添加剤を更に含有してもよい。添加剤としては、特に限定されることなく、上記(b)トリメリット酸エステル及び(c)ピロメリット酸エステル以外のその他の可塑剤;過塩素酸処理ハイドロタルサイト、ゼオライト、β−ジケトン、脂肪酸金属塩などの安定剤;離型剤;上記塩化ビニル樹脂微粒子以外のダスティング剤;及びその他の添加剤;などが挙げられる。
【0058】
<<その他の可塑剤>>
塩化ビニル樹脂組成物では、上述した(b)トリメリット酸エステル及び(c)ピロメリット酸エステルに加え、1種又は2種以上の、その他の可塑剤、例えば、一次可塑剤、二次可塑剤などを使用しうる。ここで、二次可塑剤を用いる場合は、当該二次可塑剤と等質量以上の一次可塑剤を併用することが好ましい。
ここで、いわゆる一次可塑剤としては、
ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−(2−エチルヘキシル)フタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジフェニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジトリデシルフタレート、ジウンデシルフタレート、ジベンジルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジノニルフタレート、ジシクロヘキシルフタレートなどのフタル酸誘導体;
ジメチルイソフタレート、ジ−(2−エチルヘキシル)イソフタレート、ジイソオクチルイソフタレートなどのイソフタル酸誘導体;
ジ−(2−エチルヘキシル)テトラヒドロフタレート、ジ−n−オクチルテトラヒドロフタレート、ジイソデシルテトラヒドロフタレートなどのテトラヒドロフタル酸誘導体;
ジ−n−ブチルアジペート、ジ(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ジイソノニルアジペートなどのアジピン酸誘導体;
ジ−(2−エチルヘキシル)アゼレート、ジイソオクチルアゼレート、ジ−n−ヘキシルアゼレートなどのアゼライン酸誘導体;
ジ−n−ブチルセバケート、ジ−(2−エチルヘキシル)セバケート、ジイソデシルセバケート、ジ−(2−ブチルオクチル)セバケートなどのセバシン酸誘導体;
ジ−n−ブチルマレエート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジ−(2−エチルヘキシル)マレエートなどのマレイン酸誘導体;
ジ−n−ブチルフマレート、ジ−(2−エチルヘキシル)フマレートなどのフマル酸誘導体;
トリエチルシトレート、トリ−n−ブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、アセチルトリ−(2−エチルヘキシル)シトレートなどのクエン酸誘導体;
モノメチルイタコネート、モノブチルイタコネート、ジメチルイタコネート、ジエチルイタコネート、ジブチルイタコネート、ジ−(2−エチルヘキシル)イタコネートなどのイタコン酸誘導体;
ブチルオレエート、グリセリルモノオレエート、ジエチレングリコールモノオレエートなどのオレイン酸誘導体;
メチルアセチルリシノレート、ブチルアセチルリシノレート、グリセリルモノリシノレート、ジエチレングリコールモノリシノレートなどのリシノール酸誘導体;
n−ブチルステアレート、ジエチレングリコールジステアレートなどのステアリン酸誘導体(但し、12−ヒドロキシステアリン酸エステルを除く);
ジエチレングリコールモノラウレート、ジエチレングリコールジペラルゴネート、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルなどのその他の脂肪酸誘導体;
トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ−(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェートなどのリン酸誘導体;
ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ−(2−エチルブチレート)、トリエチレングリコールジ−(2−エチルヘキソエート)、ジブチルメチレンビスチオグリコレートなどのグリコール誘導体;
グリセロールモノアセテート、グリセロールトリアセテート、グリセロールトリブチレートなどのグリセリン誘導体;
エポキシヘキサヒドロフタル酸ジイソデシル、エポキシトリグリセライド、エポキシ化オレイン酸オクチル、エポキシ化オレイン酸デシルなどのエポキシ誘導体;
アジピン酸系ポリエステル、セバシン酸系ポリエステル、フタル酸系ポリエステルなどのポリエステル系可塑剤;
などが挙げられる。
【0059】
また、いわゆる二次可塑剤としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等のエポキシ化植物油;塩素化パラフィン、トリエチレングリコールジカプリレートなどのグリコールの脂肪酸エステル、ブチルエポキシステアレート、フェニルオレエート、ジヒドロアビエチン酸メチルなどが挙げられる。
【0060】
そして、上述したその他の可塑剤の中でも、エポキシ化大豆油を、(b)トリメリット酸エステル及び(c)ピロメリット酸エステルと併用することが好ましい。
【0061】
また、上記その他の可塑剤の含有量は、(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上が更に好ましく、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、10質量部以下が更に好ましい。その他の可塑剤の含有量が上記範囲内であれば、低温下における引張伸びがより良好な塩化ビニル樹脂成形体をより容易に製造することができるからである。
【0062】
<<過塩素酸処理ハイドロタルサイト>>
塩化ビニル樹脂組成物が含有し得る、過塩素酸処理ハイドロタルサイトは、例えば、ハイドロタルサイトを過塩素酸の希薄水溶液中に加えて撹拌し、その後必要に応じて、ろ過、脱水または乾燥することによって、ハイドロタルサイト中の炭酸アニオン(CO
32-)の少なくとも一部を過塩素酸アニオン(ClO
4-)で置換(炭酸アニオン1モルにつき過塩素酸アニオン2モルが置換)することにより、過塩素酸導入型ハイドロタルサイトとして容易に製造することができる。上記ハイドロタルサイトと上記過塩素酸とのモル比は任意に設定できるが、一般には、ハイドロタルサイト1モルに対し、過塩素酸0.1モル以上2モル以下が好ましい。
【0063】
ここで、未処理(過塩素酸アニオンを導入していない未置換)のハイドロタルサイト中の炭酸アニオンの過塩素酸アニオンへの置換率は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは85モル%以上である。また、未処理(過塩素酸アニオンを導入していない未置換)のハイドロタルサイト中の炭酸アニオンの過塩素酸アニオンへの置換率は、好ましくは95モル%以下である。未処理(過塩素酸アニオンを導入していない未置換)のハイドロタルサイト中の炭酸アニオンの過塩素酸アニオンへの置換率が上記の範囲内にあることにより、低温下における引張伸びを確保しつつ、初期および熱老化試験後の損失弾性率E”のピークトップ温度が低い塩化ビニル樹脂成形体をより容易に製造することができるからである。
【0064】
なお、ハイドロタルサイトは、一般式:[Mg
1-xAl
x(OH)
2]
x+[(CO
3)
x/2・mH
2O]
x-で表される不定比化合物で、プラスに荷電した基本層[Mg
1-xAl
x(OH)
2]
x+と、マイナスに荷電した中間層[(CO
3)
x/2・mH
2O]
x-とからなる層状の結晶構造を有する無機物質である。ここで、上記一般式中、xは0より大きく0.33以下の範囲の数である。天然のハイドロタルサイトは、Mg
6Al
2(OH)
16CO
3・4H
2Oである。合成されたハイドロタルサイトとしては、Mg
4.5Al
2(OH)
13CO
3・3.5H
2Oが市販されている。合成ハイドロタルサイトの合成方法は、例えば特開昭61−174270号公報に記載されている。
【0065】
ここで、過塩素酸処理ハイドロタルサイトの含有量は、特に制限されることなく、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上が更に好ましく、7質量部以下が好ましく、6質量部以下がより好ましい。過塩素酸処理ハイドロタルサイトの含有量が上記範囲であれば、低温下における引張伸びを確保しつつ、初期および熱老化試験後の損失弾性率E”のピークトップ温度が低い塩化ビニル樹脂成形体をより容易に製造することができるからである。
【0066】
<<ゼオライト>>
塩化ビニル樹脂組成物は、ゼオライトを安定剤として含有し得る。ゼオライトは、一般式:M
x/n・[(AlO
2)
x・(SiO
2)
y]・zH
2O(一般式中、Mは原子価nの金属イオン、x+yは単子格子当たりの四面体数、zは水のモル数である)で表される化合物である。当該一般式中のMの種類としては、Na、Li、Ca、Mg、Znなどの一価又は二価の金属及びこれらの混合型が挙げられる。
【0067】
ここで、ゼオライトの含有量は、特に制限されることなく、(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、5質量部以下が好ましい。
【0068】
<<β−ジケトン>>
β−ジケトンは、塩化ビニル樹脂組成物を成形して得られる塩化ビニル樹脂成形体の初期色調の変動をより効果的に抑えるために用いられる。β−ジケトンの具体例としては、ジベンゾイルメタン、ステアロイルベンゾイルメタン、パルミトイルベンゾイルメタンなどが挙げられる。これらのβ−ジケトンは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
なお、β−ジケトンの含有量は、特に制限されることなく、(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、5質量部以下が好ましい。
【0070】
<<脂肪酸金属塩>>
塩化ビニル樹脂組成物が含有し得る脂肪酸金属塩は、特に制限されることなく、任意の脂肪酸金属塩とすることができる。中でも、一価脂肪酸金属塩が好ましく、炭素数12〜24の一価脂肪酸金属塩がより好ましく、炭素数15〜21の一価脂肪酸金属塩が更に好ましい。脂肪酸金属塩の具体例は、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ストロンチウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸バリウム、ラウリン酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸バリウム、2−エチルヘキサン酸亜鉛、リシノール酸バリウム、リシノール酸亜鉛等である。脂肪酸金属塩を構成する金属としては、多価陽イオンを生成しうる金属が好ましく、2価陽イオンを生成しうる金属がより好ましく、周期表第3周期〜第6周期の、2価陽イオンを生成しうる金属が更に好ましく、周期表第4周期の、2価陽イオンを生成しうる金属が特に好ましい。最も好ましい脂肪酸金属塩はステアリン酸亜鉛である。
【0071】
ここで、脂肪酸金属塩の含有量は、特に制限されることなく、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.05質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、5質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましく、0.5質量部以下が更に好ましい。脂肪酸金属塩の含有量が上記範囲内であれば、塩化ビニル樹脂組成物および塩化ビニル樹脂成形体の、色差の値を更に小さくできるからである。
【0072】
<<離型剤>>
離型剤としては、特に制限されることなく、例えば、12−ヒドロキシステアリン酸エステルおよび12−ヒドロキシステアリン酸オリゴマーなどの12−ヒドロキシステアリン酸系潤滑剤が挙げられる。ここで、離型剤の含有量は、特に制限されることなく、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下とすることができる。
【0073】
<<その他のダスティング剤>>
塩化ビニル樹脂組成物が含有し得る、上記塩化ビニル樹脂微粒子以外の、その他のダスティング剤(粉体流動性改良剤)としては、炭酸カルシウム、タルク、酸化アルミニウムなどの無機微粒子;ポリアクリロニトリル樹脂微粒子、ポリ(メタ)アクリレート樹脂微粒子、ポリスチレン樹脂微粒子、ポリエチレン樹脂微粒子、ポリプロピレン樹脂微粒子、ポリエステル樹脂微粒子、ポリアミド樹脂微粒子などの有機微粒子;が挙げられる。中でも、平均粒径が10nm以上100nm以下の無機微粒子が好ましい。
【0074】
ここで、その他のダスティング剤の含有量は、特に制限されることなく、(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して30質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましく、10質量部以上とすることができる。その他のダスティング剤は、1種類を単独で、又は2種類以上を併用してもよく、また、上述した塩化ビニル樹脂微粒子と併用してもよい。
【0075】
<<その他の添加剤>>
塩化ビニル樹脂組成物が含有し得るその他の添加剤としては、特に制限されることなく、例えば、着色剤(顔料)、耐衝撃性改良剤、過塩素酸処理ハイドロタルサイト以外の過塩素酸化合物(過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等)、酸化防止剤、防カビ剤、難燃剤、帯電防止剤、充填剤、光安定剤、発泡剤等が挙げられる。
【0076】
着色剤(顔料)の具体例は、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ポリアゾ縮合顔料、イソインドリノン系顔料、銅フタロシアニン系顔料、チタンホワイト、カーボンブラックである。1種又は2種以上の顔料が使用される。
キナクリドン系顔料は、p−フェニレンジアントラニル酸類が濃硫酸で処理されて得られ、黄みの赤から赤みの紫の色相を示す。キナクリドン系顔料の具体例は、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ、キナクリドンバイオレットである。
ペリレン系顔料は、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸無水物と芳香族第一級アミンとの縮合反応により得られ、赤から赤紫、茶色の色相を示す。ペリレン系顔料の具体例は、ペリレンレッド、ペリレンオレンジ、ペリレンマルーン、ペリレンバーミリオン、ペリレンボルドーである。
ポリアゾ縮合顔料は、アゾ色素が溶剤中で縮合されて高分子量化されて得られ、黄、赤系顔料の色相を示す。ポリアゾ縮合顔料の具体例は、ポリアゾレッド、ポリアゾイエロー、クロモフタルオレンジ、クロモフタルレッド、クロモフタルスカーレットである。
イソインドリノン系顔料は、4,5,6,7−テトラクロロイソインドリノンと芳香族第一級ジアミンとの縮合反応により得られ、緑みの黄色から、赤、褐色の色相を示す。イソインドリノン系顔料の具体例は、イソインドリノンイエローである。
銅フタロシアニン系顔料は、フタロシアニン類に銅を配位した顔料で、黄みの緑から鮮やかな青の色相を示す。銅フタロシアニン系顔料の具体例は、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルーである。
チタンホワイトは、二酸化チタンからなる白色顔料で、隠蔽力が大きく、アナタース型とルチル型がある。
カーボンブラックは、炭素を主成分とし、酸素、水素、窒素を含む黒色顔料である。カーボンブラックの具体例は、サーマルブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、ボーンブラックである。
【0077】
耐衝撃性改良剤の具体例は、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体、塩素化ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、クロロスルホン化ポリエチレンなどである。塩化ビニル樹脂組成物では、1種又は2種以上の耐衝撃性改良剤が使用できる。なお、耐衝撃性改良剤は、塩化ビニル樹脂組成物中で微細な弾性粒子の不均一相となって分散する。塩化ビニル樹脂組成物では、当該弾性粒子にグラフト重合した鎖及び極性基が(a)塩化ビニル樹脂と相溶し、塩化ビニル樹脂組成物を用いてなる塩化ビニル樹脂成形体の耐衝撃性が向上する。
【0078】
酸化防止剤の具体例は、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、亜リン酸塩などのリン系酸化防止剤などである。
【0079】
防カビ剤の具体例は、脂肪族エステル系防カビ剤、炭化水素系防カビ剤、有機窒素系防カビ剤、有機窒素硫黄系防カビ剤などである。
【0080】
難燃剤の具体例は、塩素化パラフィン等のハロゲン系難燃剤;リン酸エステル等のリン系難燃剤;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の無機水酸化物;などである。
【0081】
帯電防止剤の具体例は、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル類、スルホン酸塩類等のアニオン系帯電防止剤;脂肪族アミン塩類、第四級アンモニウム塩類等のカチオン系帯電防止剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル類等のノニオン系帯電防止剤;などである。
【0082】
充填剤の具体例は、シリカ、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、クレーなどである。
【0083】
光安定剤の具体例は、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ニッケルキレート系等の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤などである。
【0084】
発泡剤の具体例は、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のニトロソ化合物、p−トルエンスルホニルヒドラジド、p,p−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)等のスルホニルヒドラジド化合物などの有機発泡剤;フロンガス、炭酸ガス、水、ペンタン等の揮発性炭化水素化合物、これらを内包したマイクロカプセルなどの、ガス系の発泡剤;などである。
【0085】
<塩化ビニル樹脂組成物の調製方法>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、上述した成分を混合して調製することができる。
ここで、上記(a)塩化ビニル樹脂と、(b)トリメリット酸エステルと、(c)ピロメリット酸エステルと、必要に応じて更に併用される(d)シリコーンオイル及び各種添加剤との混合方法としては、特に限定されることなく、例えば、上記塩化ビニル樹脂微粒子およびその他のダスティング剤を含むダスティング剤を除く成分をドライブレンドにより混合し、その後、ダスティング剤を添加、混合する方法が挙げられる。ここで、ドライブレンドには、ヘンシェルミキサーの使用が好ましい。また、ドライブレンド時の温度は、特に制限されることなく、50℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、200℃以下が好ましい。
【0086】
<塩化ビニル樹脂組成物の用途>
そして、得られた塩化ビニル樹脂組成物は、粉体成形に好適に用いることができ、パウダースラッシュ成形により好適に用いることができる。
【0087】
(塩化ビニル樹脂成形体)
本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、上述した塩化ビニル樹脂組成物を、任意の方法で成形することにより得られることを特徴とする。そして、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を用いて得られているため、低温下における良好な引張伸びを維持しつつ、初期および熱老化試験後の損失弾性率E”のピークトップ温度が十分低い。従って、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、自動車内装材、例えば自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等の自動車内用部品の表皮として好適に用いられ、特に、自動車インスツルメントパネルの表皮として好適に用いられる。
【0088】
<<塩化ビニル樹脂成形体の成形方法>>
ここで、パウダースラッシュ成形時の金型温度は、特に制限されることなく、200℃以上とすることが好ましく、220℃以上とすることがより好ましく、300℃以下とすることが好ましく、280℃以下とすることがより好ましい。
【0089】
そして、塩化ビニル樹脂成形体を製造する際には、特に限定されることなく、例えば、以下の方法を用いることができる。即ち、上記温度範囲の金型に本発明の塩化ビニル樹脂組成物を振りかけて、5秒以上30秒以下の間放置した後、余剰の塩化ビニル樹脂組成物を振り落とし、さらに、任意の温度下、30秒以上3分以下の間放置する。その後、金型を10℃以上60℃以下に冷却し、得られた本発明の塩化ビニル樹脂成形体を金型から脱型する。そして、脱型された塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、金型の形状をかたどったシート状の成形体として得られる。
【0090】
(積層体)
本発明の積層体は、発泡ポリウレタン成形体と、上述した塩化ビニル樹脂成形体とを有する。そして、本発明の積層体は、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成された塩化ビニル樹脂成形体を有しているため、低温下における引張伸びを良好に維持しつつ、初期および熱老化試験後の損失弾性率E”のピークトップ温度を十分低くすることができる。従って、本発明の積層体は、例えば、自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等といった自動車内装部品用の自動車内装材として好適に用いられ、特に、自動車インスツルメントパネル用に好適に用いられる。
【0091】
ここで、積層方法は、特に限定されることなく、例えば、以下の方法を用いることができる。即ち、(1)発泡ポリウレタン成形体と、塩化ビニル樹脂成形体とを別途準備した後に、熱融着、熱接着、又は公知の接着剤などを用いることにより貼り合わせる方法;(2)塩化ビニル樹脂成形体上で発泡ポリウレタン成形体の原料となるイソシアネート類とポリオール類などとを反応させて重合を行うと共に、公知の方法によりポリウレタンの発泡を行うことにより、塩化ビニル樹脂成形体上に発泡ポリウレタン成形体を直接形成する方法;などが挙げられる。中でも、工程が簡素である点、および、種々の形状の積層体を得る場合においても塩化ビニル樹脂成形体と発泡ポリウレタン成形体とを強固に接着し易い点から、後者の方法(2)の方が好適である。
【実施例】
【0092】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、塩化ビニル樹脂粒子および塩化ビニル樹脂微粒子の平均重合度、平均粒子径;(b)トリメリット酸エステルおよび(c)ピロメリット酸エステルが有するアルキル基の直鎖率、各炭素数を有するアルキル基の含有割合;塩化ビニル樹脂組成物の耐ブロッキング性;初期および加熱(熱老化試験)後の塩化ビニル樹脂成形体についての低温での引張伸び、初期および加熱(熱老化試験)後の塩化ビニル樹脂成形体についての損失弾性率のピークトップ温度;は、下記の方法で測定および評価した。
【0093】
<平均重合度>
塩化ビニル樹脂粒子及び塩化ビニル樹脂微粒子の平均重合度は、JIS K6720−2に準拠し、塩化ビニル樹脂粒子及び塩化ビニル樹脂微粒子のそれぞれを、シクロヘキサノンに溶解させて粘度を測定することにより、算出した。
【0094】
<平均粒子径>
塩化ビニル樹脂粒子及び塩化ビニル樹脂微粒子の平均粒子径(体積平均粒子径(μm))は、JIS Z8825に準拠して測定した。具体的には、塩化ビニル樹脂粒子及び塩化ビニル樹脂微粒子を、それぞれ水槽内に分散させ、以下に示す装置を用いて、光の回折・散乱強度分布を測定・解析し、粒子径及び体積基準の粒子径分布を測定することにより、算出した。
・装置:レーザー回折式粒度分布測定機(島津製作所製、SALD−2300)
・測定方式:レーザー回折及び散乱
・測定範囲:0.017μm〜2500μm
・光源:半導体レーザー(波長680nm、出力3mW)
【0095】
<直鎖率>
(b)トリメリット酸エステルが有するアルキル基(R
5、R
6、及びR
7)のそれぞれの直鎖率(モル%)、および(c)ピロメリット酸エステルが有するアルキル基(R
1〜R
4)の合計の直鎖率(モル%)は、液体クロマトグラフィーを用いて測定した。
【0096】
<各炭素数を有するアルキル基の含有割合>
(b)トリメリット酸エステルが有するR
5〜R
7の合計アルキル基に対する各炭素数を有するアルキル基の含有割合(モル%)、および(c)ピロメリット酸エステルが有するR
1〜R
4の合計アルキル基に対する各炭素数を有するアルキル基の含有割合(モル%)は、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した。
【0097】
<耐ブロッキング性>
塩化ビニル樹脂組成物の耐ブロッキング性は、以下の通り評価した。具体的には、JIS R3503に記載のビーカー(200ml)に、得られた塩化ビニル樹脂組成物を80g測り入れた。次に、塩化ビニル樹脂組成物が入ったビーカーを水平が取れた台上に載せ、底面が平滑でφ58mmである1kgの重りを塩化ビニル樹脂組成物上に直接載せて、1時間室温環境下(温度:23℃、相対湿度:50%)で放置することにより、塩化ビニル樹脂組成物を加圧した。その後、重りを外し、15cm×15cmの平織り金網(線径:1.0mm、目開き:9.16mm×9.16mm、2.5メッシュ)とビーカーの開口部とを密着させながら、塩化ビニル樹脂組成物をビーカーごと平らな台上にひっくり返し、ビーカーを取り除いた。そして、平織り金網を静かに持ち上げ、持ち上げた平織り金網の上に残った塩化ビニル樹脂組成物の重量を測定した。金網の上に残った塩化ビニル樹脂組成物の重量が少ないほど、耐ブロッキング性が高く、粉体貯蔵性に優れている。
【0098】
<低温での引張伸び>
<<初期>>
得られた塩化ビニル樹脂成形シートを、JIS K6251に記載の1号ダンベルで打ち抜き、JIS K7161に準拠して、引張速度200mm/分で、−20℃の低温下における引張破断伸び(%)を測定した。引張破断伸びの値が大きいほど、初期(成形後未加熱)の塩化ビニル樹脂成形体の、低温での延性が優れている。
<<加熱(熱老化試験)後>>
発泡ポリウレタン層が裏打ちされた積層体を試料とした。当該試料をオーブンに入れ、温度130℃の環境下で600時間、加熱を行った。次に、加熱後の積層体から発泡ポリウレタン層を剥離して、塩化ビニル樹脂成形シートのみを準備した。そして、上記初期の場合と同様の条件にて、600時間加熱後の塩化ビニル樹脂成形シートの引張破断伸び(%)を測定した。温度−20℃における引張破断伸びの値が大きいほど、加熱(熱老化試験)後における塩化ビニル樹脂成形体の、低温での延性が優れている。
【0099】
<損失弾性率のピークトップ温度>
<<初期>>
得られた塩化ビニル樹脂成形シートを、幅10mm×長さ40mmの寸法で打ち抜くことにより測定試料とした。そして、JIS K7244−4に準拠して、周波数10Hz、昇温速度2℃/分、測定温度−90℃〜+100℃の範囲で、当該測定試料についての損失弾性率E”のピークトップ温度(℃)を測定した。損失弾性率のピークトップ温度が低いほど、初期(成形後未加熱)の塩化ビニル樹脂成形体の、低温での粘性が優れている。
<<加熱後>>
発泡ポリウレタン層が裏打ちされた積層体を試料とした。当該試料をオーブンに入れ、温度130℃の環境下で600時間加熱を行った。次に、加熱後の積層体から発泡ポリウレタン層を剥離して、塩化ビニル樹脂成形シートのみを準備した。そして、上記初期の場合と同様の条件にて、600時間加熱後の塩化ビニル樹脂成形シートについての損失弾性率E”のピークトップ温度(℃)を測定した。損失弾性率のピークトップ温度が低いほど、加熱(熱老化試験)後における塩化ビニル樹脂成形体の、低温での粘性が優れている。
【0100】
(実施例1)
<塩化ビニル樹脂組成物の調製>
表1に示す配合成分のうち、可塑剤(トリメリット酸エステル、直鎖状ピロメリット酸エステル、およびエポキシ化大豆油)と、ダスティング剤である、乳化重合で得られた塩化ビニル樹脂微粒子とを除く成分をヘンシェルミキサーに入れて混合した。そして、混合物の温度が80℃に上昇した時点で上記可塑剤を全て添加し、更に昇温することにより、ドライアップ(可塑剤が、塩化ビニル樹脂である塩化ビニル樹脂粒子に吸収されて、上記混合物がさらさらになった状態をいう。)させた。その後、ドライアップさせた混合物が温度100℃以下に冷却された時点で、ダスティング剤である、乳化重合で得られた塩化ビニル樹脂微粒子を添加し、塩化ビニル樹脂組成物を調製した。
そして、得られた塩化ビニル樹脂組成物について、上述の方法に従って、耐ブロッキング性を評価した。結果を表1に示す。
なお、塩化ビニル樹脂組成物の調製に用いたピロメリット酸エステルについては、R
1、R
2、R
3、及びR
4の合計の直鎖率は100モル%であった。また、R
1〜R
4の合計アルキル基に対する炭素数6のアルキル基の合計含有割合は10モル%、炭素数8のアルキル基の合計含有割合は40モル%、炭素数10のアルキル基の合計含有割合は50モル%であった。
また、塩化ビニル樹脂組成物の調製に用いたトリメリット酸エステルについては、R
5〜R
7の直鎖率はいずれも100モル%であり、R
5〜R
7のうち、炭素数8のアルキル基の合計含有割合が100モル%であった。
【0101】
<塩化ビニル樹脂成形体の製造>
上述で得られた塩化ビニル樹脂組成物を、温度250℃に加熱したシボ付き金型に振りかけ、10秒〜20秒程度の任意の時間放置して溶融させた後、余剰の塩化ビニル樹脂組成物を振り落とした。その後、当該塩化ビニル樹脂組成物を振りかけたシボ付き金型を、温度200℃に設定したオーブン内に静置し、静置から60秒経過した時点で当該シボ付き金型を冷却水で冷却した。金型温度が40℃まで冷却された時点で、塩化ビニル樹脂成形体として、145mm×175mm×1mmの塩化ビニル樹脂成形シートを金型から脱型した。
そして、得られた塩化ビニル樹脂成形シートについて、上述の方法に従って、初期(成形後未加熱)の、低温での引張伸びおよび損失弾性率のピークトップ温度を測定、算出した。結果を表1に示す。
【0102】
<積層体の形成>
得られた塩化ビニル樹脂成形シート2枚を、200mm×300mm×10mmの金型の中に、シボ付き面を下にして、2枚のシート同士が重ならないように敷いた。
別途、プロピレングリコールのPO(プロピレンオキサイド)・EO(エチレンオキサイド)ブロック付加物(水酸基価28、末端EO単位の含有量=10%、内部EO単位の含有量4%)を50部、グリセリンのPO・EOブロック付加物(水酸基価21、末端EO単位の含有量=14%)を50部、水を2.5部、トリエチレンジアミンのエチレングリコ−ル溶液(東ソー社製、商品名「TEDA−L33」)を0.2部、トリエタノールアミンを1.2部、トリエチルアミンを0.5部、および整泡剤(信越化学工業製、商品名「F−122」)を0.5部混合して、ポリオール混合物を得た。また、得られたポリオール混合物とポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(ポリメリックMDI)とを、インデックスが98になる比率で混合した混合液を調製した。そして、調製した混合液を、上述の通り金型中に敷かれた塩化ビニル樹脂成形シート2枚の上にそれぞれ注いだ。その後、348mm×255mm×10mmのアルミニウム板で上記金型に蓋をして、金型を密閉した。金型を密閉してから5分間放置することにより、表皮としての塩化ビニル樹脂成形シート(厚さ:1mm)に、発泡ポリウレタン成形体(厚さ:9mm、密度:0.18g/cm
3)が裏打ちされた積層体が、金型内で形成された。そして、形成された積層体を金型から取り出して、上述の方法に従って、加熱(熱老化試験)後の、低温での引張伸びおよび損失弾性率E”のピークトップ温度を測定、算出した。結果を表1に示す。
【0103】
(実施例2)
塩化ビニル樹脂組成物の調製において、表1に示す配合成分の通り、トリメリット酸エステルの配合量を120部、直鎖状ピロメリット酸エステルの配合量を40部、12−ヒドロキシステアリン酸の配合量を0.2部に変更した以外は実施例1と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形シート、および積層体を製造した。
そして、実施例1と同様の方法により測定、算出を行った。結果を表1に示す。
【0104】
(実施例3)
塩化ビニル樹脂組成物の調製において、表1に示す配合成分の通り、トリメリット酸エステルの配合量を130部、直鎖状ピロメリット酸エステルの配合量を30部、12−ヒドロキシステアリン酸の配合量を0.2部に変更した以外は実施例1と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形シート、および積層体を製造した。
そして、実施例1と同様の方法により測定、算出を行った。結果を表1に示す。
【0105】
(実施例4)
塩化ビニル樹脂組成物の調製において、表1に示す配合成分の通り、塩化ビニル樹脂粒子として、実施例1の塩化ビニル樹脂粒子とは異なる平均重合度を有する塩化ビニル樹脂粒子を用いた。また、塩化ビニル樹脂微粒子として、実施例1の塩化ビニル樹脂微粒子とは異なる平均重合度を有する塩化ビニル樹脂微粒子を1種類のみ用いた。更に、トリメリット酸エステルの配合量を130部、直鎖状ピロメリット酸エステルの配合量を30部、12−ヒドロキシステアリン酸の配合量を0.2部に変更した。上記以外は実施例1と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形シート、および積層体を製造した。
そして、実施例1と同様の方法により測定、算出を行った。結果を表1に示す。
【0106】
(実施例5)
塩化ビニル樹脂組成物の調製において、トリメリット酸エステルの配合量を110部、直鎖状ピロメリット酸エステルの配合量を40部に変更した以外は実施例4と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形シート、および積層体を製造した。
そして、実施例1と同様の方法により測定、算出を行った。結果を表1に示す。
【0107】
(比較例1)
塩化ビニル樹脂組成物の調製において、表1に示す配合成分の通り、直鎖状ピロメリット酸エステルに替えて分岐状ピロメリット酸エステルを用いた。また、過塩素酸導入型ハイドロタルサイトの配合量を4.5部に変更した。上記以外は実施例1と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形シート、および積層体を製造した。
そして、実施例1と同様の方法により測定、算出を行った。結果を表1に示す。
【0108】
(比較例2)
塩化ビニル樹脂組成物の調製において、表1に示す配合成分の通り、トリメリット酸エステルの配合量を140部、直鎖状ピロメリット酸エステルの配合量を20部、12−ヒドロキシステアリン酸の配合量を0.2部に変更した以外は実施例1と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形シート、および積層体を製造した。
そして、実施例1と同様の方法により測定、算出を行った。結果を表1に示す。
【0109】
(比較例3)
塩化ビニル樹脂組成物の調製において、表1に示す配合成分の通り、直鎖状ピロメリット酸エステルに替えて分岐状ピロメリット酸エステルを用いた以外は実施例4と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形シート、および積層体を製造した。
そして、実施例1と同様の方法により測定、算出を行った。結果を表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
1)大洋塩ビ社製、製品名「TH−2800」(懸濁重合法、平均重合度:2800、平均粒子径:130μm)
2)大洋塩ビ社製、製品名「TH−2500」(懸濁重合法、平均重合度:2500、平均粒子径:129μm)
3)花王社製、製品名「トリメックスN−08」
4)ADEKA社製、製品名「アデカサイザー UL−100」(R
1〜R
4は炭素数6、8、又は10のアルキル基、R
1〜R
4の合計の直鎖率:100モル%)
5)ADEKA社製、製品名「アデカサイザー UL−80」(R
1〜R
4は炭素数8のアルキル基、R
1〜R
4の合計の直鎖率:0モル%)
6)ADEKA社製、製品名「アデカサイザー O−130S」
7)協和化学工業社製、製品名「アルカマイザー(登録商標)5」
8)水澤化学工業社製、製品名「MIZUKALIZER DS」
9)昭和電工社製、製品名「カレンズDK−1」
10)堺化学工業社、製品名「SAKAI SZ2000」
11)ADEKA社製、製品名「アデカスタブ LS−12」
12)信越シリコーン社製、製品名「KF−9701」(シラノール両末端変性シリコーンオイル)
13)新第一塩ビ社製、製品名「ZEST(登録商標) PQLTX」(乳化重合法、平均重合度:800、平均粒子径:1.8μm)
14)東ソー社製、製品名「リューロンペースト(登録商標)860」(乳化重合法、平均重合度:1600、平均粒子径:1.6μm)
15)東ソー社製、製品名「リューロンペースト(登録商標)761」(乳化重合法、平均重合度:2100、平均粒子径:1.6μm)
16)大日精化社製、製品名「DA PX 1720(A)ブラック」
【0112】
表1より、式(1)におけるR
1、R
2、R
3、及びR
4の合計の直鎖率が90モル%以上であるアルキル基を有する直鎖状ピロメリット酸エステルを用いた実施例1〜3および実施例4〜5では、当該直鎖率が90モル%未満である分岐状ピロメリット酸エステルを用いた比較例1および比較例3それぞれに対して、低温下における引張伸びを良好に確保しつつ、初期および熱老化試験後の、とりわけ熱老化試験後の損失弾性率E”のピークトップ温度を低下させることが分かった。また、直鎖状ピロメリット酸エステルの含有割合が所定未満である比較例2では、熱老化試験後の損失弾性率E”のピークトップ温度を十分に低下させることができないことが分かった。