(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6819713
(24)【登録日】2021年1月6日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】有機溶媒の処理方法及び処理材
(51)【国際特許分類】
B01J 47/014 20170101AFI20210114BHJP
B01J 41/13 20170101ALI20210114BHJP
B01J 41/14 20060101ALI20210114BHJP
B01J 41/07 20170101ALI20210114BHJP
B01J 41/05 20170101ALI20210114BHJP
B01J 47/12 20170101ALI20210114BHJP
B01J 47/127 20170101ALI20210114BHJP
【FI】
B01J47/014
B01J41/13
B01J41/14
B01J41/07
B01J41/05
B01J47/12
B01J47/127
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-60899(P2019-60899)
(22)【出願日】2019年3月27日
(65)【公開番号】特開2020-157249(P2020-157249A)
(43)【公開日】2020年10月1日
【審査請求日】2020年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】藤村 侑
(72)【発明者】
【氏名】川勝 孝博
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋一
【審査官】
富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−069175(JP,A)
【文献】
国際公開第2017/169832(WO,A1)
【文献】
特開2013−023442(JP,A)
【文献】
特開2013−023439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 39/00−49/90
B01D 61/00−71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品製造工程で使用される有機溶媒から微粒子を除去する有機溶媒の処理方法において、
前記有機溶媒に超純水を、有機溶媒と超純水との合計に対する超純水の割合が5〜80質量%(ただし5〜15質量%を除く)となるように添加する工程と、
水中において正、あるいは負の荷電を有し、含水率が3質量%以上である処理材と該超純水添加有機溶媒とを接触させる工程を有し、前記処理材は、アニオン交換基を有するポリマーよりなることを特徴とする有機溶媒の処理方法。
【請求項2】
前記処理材として、水と接触処理した処理材を用いることを特徴とする請求項1に記載の有機溶媒の処理方法。
【請求項3】
前記処理材は繊維の形態となっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機溶媒の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品製造工程で使用される有機溶媒から微粒子を除去する処理方法及び処理材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体製造プロセスの発展により、水中の微粒子管理が益々厳しくなってきており、例えば、国際半導体技術ロードマップ(ITRS:International Technology Roadmap for Semiconductors)では、2019年には、粒子径>11.9nmの保証値として、<1000個/Lとすることが求められている。それに関連し、半導体製造時に用いられる溶媒中の微粒子除去については、上記超純水のように、明確な微粒子管理は設定されていないが、半導体構造の微細化に伴って、パターン倒壊を防ぐために、表面張力の小さな溶媒がウエハ洗浄時に用いられるようになってきている。その結果として、溶媒中の微粒子等の除去ニーズは高まってきている。
【0003】
有機溶媒から微粒子を除去する方法としては蒸留法が従来より行われている(特許文献1,2)。また、有機溶媒をフィルターで濾過することも行われている(特許文献3)。
【0004】
特許文献4には、イソプロピルアルコールから微粒子を除去するために、蒸留するだけでなく、さらにイオン交換樹脂(カチオン性樹脂、アニオン性樹脂又はそれらの混合物)を接触させることが記載されている。
【0005】
なお、超純水中のシリカ濃度を低下させるために、アニオン交換基を有するアニオン吸着膜と水とを接触させることが特許文献5に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−211000号公報
【特許文献2】特開2016−30233号公報
【特許文献3】特開平2−119901号公報
【特許文献4】特表2003−535836号公報
【特許文献5】特開平10−216721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、電子部品製造工程で使用される有機溶媒から微粒子を除去することができる有機溶媒の処理方法及び処理材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電子部品製造工程で使用される有機溶媒の処理方法は、電子部品製造工程で使用される有機溶媒から微粒子を除去する有機溶媒の処理方法において、水中において正、あるいは負の荷電を有し、含水率が3質量%以上である処理材と該有機溶媒とを接触させる工程を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様では、前記接触工程の前に、前記有機溶媒に超純水を添加する。
【0010】
本発明の一態様では、前記処理材として、水と接触処理した処理材を用いる。
【0011】
本発明の一態様では、前記処理材は、アニオン交換基を有するポリマーよりなる。
【0012】
本発明の一態様では、前記処理材は繊維の形態となっている。
【0013】
本発明の処理材は、電子部品製造工程で使用される有機溶媒と接触することにより有機溶媒から微粒子を除去する有機溶媒処理材であって、水中において正、あるいは負の電荷を有するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の処理方法及び処理材によると、有機溶媒中の微粒子を処理材に吸着させて除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0016】
本発明方法では、電子部品製造工程で使用される有機溶媒を液体状態において、水中において正又は負の荷電を有し、含水率が3質量%以上である処理材と接触させて、微粒子を除去する。微粒子としては、シリカ微粒子のほか、各種の無機又は有機物微粒子、特に負又は正の荷電を有する微粒子が挙げられる。
【0017】
本発明の一態様では、処理材として、有機溶媒との接触前に水と接触させたものを用いる。
【0018】
本発明の別の一態様では、有機溶媒に超純水を添加した後、該処理材と接触させる。
【0019】
この処理材は、好ましくは、カチオン交換基又はアニオン交換基が付与されたポリマーよりなる。
【0020】
ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドなどのポリエーテル、PTFE、CTFE、PFA、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂、ポリ塩化ビニルなどのハロゲン化ポリオレフィン、ナイロン−6、ナイロン−66などのポリアミド、ユリア樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリスチレン、セルロース、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアクリルニトリル、ポリエーテルニトリル、ポリビニルアルコールおよびこれらの共重合体などの素材が使用できるが、この限りではない。特に1種類の素材に限定されることはなく、必要に応じて種々の素材を選択できる。ただし、有機溶媒に耐性を有することが必要である。
【0021】
ポリマーにイオン交換能を与える場合、イオン交換基としては、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、カルボン酸基、水酸基、フェノール基、4級アンモニウム基、1〜3級アミン基、ピリジン基、アミド基、などがあるがこの限りではない。これらの官能基はH型、OH型だけでなく、Naなどの塩型であってもよい。本発明では、これらの官能基が少なくとも一種類以上導入された糸を使用してもよいし、それぞれ異なったイオン交換基が導入された糸を複数種用いて、異なる交換基をもつ複合フィルタとしてもよい。
【0022】
官能基の導入方法はポリマー材質によって異なり、適当な導入方法を選択する。例えば、ポリスチレンの場合、硫酸溶液中にパラホルムアルデヒドを適量添加し、加熱架橋することで、スルホン酸基の導入が可能である。ポリビニルアルコールの場合は、水酸基に、トリアルコキシシラン基やトリクロロロシラン基、あるいはエポキシ基などを作用させることなどにより、官能基を導入することができる。材質によって直接官能基を導入できない場合は、まず、スチレンなどの反応性の高いモノマー(反応性モノマーと呼ぶ)を導入した上で、官能基を導入するといったような、2段階以上の導入操作を経て、目的とする官能基を導入しても良い。これらの反応性モノマーとしては、グリシジルメタクリレート、スチレン、クロロメチルスチレン、アクロレイン、ビニルピリジン、アクリロニトリルなどがあるが、この限りではない。官能基は、ナノファイバ化する前に導入されていてもよいが、繊維を集束する際に、イオン交換能を有する高分子や樹脂を溶解あるいは微粉砕したものを、塗布したり、混練したり、化学反応によって結合させることによって、イオン交換基を導入しても良い。
【0023】
処理材の形態は、平面状の膜のほか、繊維状、中空糸状などのいずれでもよい。処理材は多孔膜であってもよい。
【0024】
処理材を有機溶媒と接触させる前に水と接触させることにより、処理材の微粒子除去性能を向上させることができる。このように処理材を水(超純水)と接触させる処理は、処理される有機溶媒が超純水を添加していない有機溶媒100%のものである場合に行われることが好ましい。なお、本発明では、処理材を超純水と接触させた後、この処理材を処理予定有機溶媒と接触させる処理を、以下、水接処理ということがある。
【0025】
水接処理を行うには、例えば、処理材と超純水を容器に収容して接触させた後、該容器に処理予定有機溶媒を注入し、その後、有機溶媒を排出する処理を行う。また、処理材をカラムに充填し、超純水を流通させた後、処理予定有機溶媒を流通させてもよい。後者の場合、有機溶媒をそのまま流し続けて有機溶媒処理工程に移行してもよい。
【0026】
処理材と有機溶媒又は超純水を添加した有機溶媒(以下、有機溶媒等ということがある。)接触させるには、有機溶媒等を収容した容器内に処理材を投入し、浸漬させる方法のほか、処理材を収容したカラムに有機溶媒等を通液する方法や、処理材が多孔膜である場合、有機溶媒等を透過させる形態にて接触させる方法などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
本発明が処理対象とする電子部品製造工程で使用される有機溶媒としては、特に限定はないが、その代表的なものを挙げれば次のものがある。即ち、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類;メチレンクロライド、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロルエチレン、パクロルエチレン、1,1,1−トリクロルエタン、フロン113、クロルベンゼン、o−、m−、p−ジクロルベンゼン、o−、m−、p−ジクロルベンゼン、o−、m−、p−クロルトルエンなどのハロゲン化炭化水素;エチルエーテルなどのエーテル類;PO、BOなどのエポキシ類;ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類;アセトン、MEK、MIBKなどのケトン類;酢酸エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチルなどのエステル類。N−メチル−2−ピロリドン(NMP)。
【0028】
本発明は、特に、イソプロピルアルコール(以下、IPAと記載することがある。)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)など、半導体製造プロセスで使用される有機溶媒の処理に好適である。
【0029】
処理材に対し超純水添加有機溶媒を接触させて有機溶媒中の微粒子を除去する場合、超純水は、全溶媒(有機溶媒と超純水との合計)に対して5〜80質量%、特に5〜50質量%となるよう添加することが好ましいが、これに限定されない。
【実施例】
【0030】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0031】
以下の実施例1〜4及び比較例1では、次のIPA系試験液を下記の処理材を用い、下記の接触方法1で接触させた。
【0032】
<試験液>
試験液1:IPA(関東化学社製高純度IPA)にシリカ微粒子(コアフロント社製sicastar:粒径30nm)を50mg/L添加したもの。
【0033】
試験液2:上記IPAと超純水とを50:50の割合で混合し、上記シリカ微粒子を上記量添加したもの。
【0034】
<処理材>
処理材A:環境浄化研究所製イオン交換繊維DMAEMA繊維20m(7.7g)
処理材B:アストム社製アニオン交換膜AHA約30cm×20cm、厚さ220μm(湿潤状態で16g)
【0035】
<接触方法>
処理材をポリエチレン容器(250mL容)に充填し、試験液を100mL注入し、30分浸漬する。
【0036】
[実施例1〜4,比較例1,2]
上記試験液1又は2を、下記のように処理した各処理材と、上記接触方法1に従って接触させた。接触後のシリカ濃度をモリブデン吸光光度法によって測定し、シリカ除去率を算出した。結果を表1に示す。
【0037】
実施例1:上記処理材A(処理せず、そのまま使用)
実施例2:上記処理材B(処理せず、そのまま使用)
実施例3:ポリエチレン容器(250mL容)に処理材B及び超純水100mLを収容し、30分間浸漬した後、超純水を排出した水接処理品
実施例4:上記処理材A(処理せず、そのまま使用)
比較例1:処理材Aを110℃で24時間乾燥した乾燥処理品
比較例2:処理材Bを110℃で24時間乾燥した乾燥処理品
【0038】
【表1】
【0039】
[考察]
含水率が3%以上であるコンディショニング状態で行った実施例1,2では、比較例1,2よりも良好なシリカ除去率が得られる。
【0040】
さらに処理材の含水率をさらに高める(実施例3)と、より高いシリカ除去率が得られる。
【0041】
また、IPA中へ超純水を添加することで、処理材Aへの水コンディショングを実施していなくても、非常に良好なシリカ除去率を得られる。
【0042】
[参考例1〜3]
上記処理材A,Bとシリカ微粒子添加超純水(シリカ微粒子添加量50μg/L)とを接触方法1に準じて接触させ、シリカ除去率を求めた。
【0043】
結果を表2に示す。
【0044】
【表2】