特許第6819781号(P6819781)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6819781逆浸透膜処理方法、水系のバイオファウリング抑制方法及びそのための装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6819781
(24)【登録日】2021年1月6日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】逆浸透膜処理方法、水系のバイオファウリング抑制方法及びそのための装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20060101AFI20210114BHJP
   C02F 1/76 20060101ALI20210114BHJP
   C02F 1/50 20060101ALI20210114BHJP
   B01D 65/08 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   C02F1/44 C
   C02F1/76 A
   C02F1/50 510A
   C02F1/50 510C
   C02F1/50 520B
   C02F1/50 520F
   C02F1/50 520K
   C02F1/50 531K
   C02F1/50 531L
   C02F1/50 531M
   C02F1/50 531N
   C02F1/50 531P
   C02F1/50 540B
   C02F1/50 550C
   C02F1/50 550D
   C02F1/50 550L
   C02F1/50 560E
   C02F1/50 532E
   C02F1/50 532J
   C02F1/50 531J
   B01D65/08
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2019-521865(P2019-521865)
(86)(22)【出願日】2019年4月19日
(86)【国際出願番号】JP2019016730
(87)【国際公開番号】WO2019208405
(87)【国際公開日】20191031
【審査請求日】2019年4月23日
(31)【優先権主張番号】特願2018-85219(P2018-85219)
(32)【優先日】2018年4月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】大塚雄太
(72)【発明者】
【氏名】依田勝郎
【審査官】 河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−010718(JP,A)
【文献】 特開2006−263510(JP,A)
【文献】 特開2003−267811(JP,A)
【文献】 特開2003−146817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00 − 71/82
C02F 1/44
C02F 1/50
C02F 1/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系において、被処理水に添加する前に、安定化剤及びハロゲン系酸化剤を全残留ハロゲン濃度が全塩素濃度として100mg−Cl/L以上となるように反応させて結合ハロゲンを生成させた反応溶液を製造し、
当該反応溶液を安定化結合塩素濃度が被処理水中0.05mg−Cl/L以上20mg−Cl/L以下の範囲になるように、被処理水に添加し、当該被処理水を逆浸透膜処理する方法であり、
前記安定化剤が、スルファミン酸化合物であり、
前記反応溶液が、前記安定化剤を前記ハロゲン系酸化剤1molに対して1mol以上で反応させたものであり、
前記反応溶液は、全残留ハロゲン濃度が全塩素濃度として100mg−Cl/L以上100000mg−Cl/L以下のものであり、当該反応溶液中の遊離ハロゲン比率(%)が、全残留ハロゲンの10%以下のものである、
前記逆浸透膜処理方法
【請求項2】
前記反応溶液中の安定化結合塩素比率(%)が、全残留ハロゲンの85%以上である、請求項1記載の逆浸透膜処理方法。
【請求項3】
遊離ハロゲン濃度が遊離塩素濃度として0.2mg−Cl/L未満の被処理水を逆浸透膜処理する、請求項1又は2に記載の逆浸透膜処理方法。
【請求項4】
前記全残留ハロゲン濃度が125mg−Cl/L以上である、請求項1〜のいずれか1項記載の逆浸透膜処理方法。
【請求項5】
水系において、結合ハロゲンを含む反応溶液を製造する装置であり、
被処理水に添加する前に、安定化剤及びハロゲン系酸化剤を全残留ハロゲン濃度が全塩素濃度として100mg−Cl/L以上となるように反応させて結合ハロゲンを含む反応溶液を生成させる反応溶液生成部を有し
前記安定化剤が、スルファミン酸化合物であり、
前記反応溶液が、前記安定化剤を前記ハロゲン系酸化剤1molに対して1mol以上で反応させたものであり、
前記反応溶液は、全残留ハロゲン濃度が全塩素濃度として100mg−Cl/L以上100000mg−Cl/L以下のものであり、当該反応溶液中の遊離ハロゲン比率(%)が全残留ハロゲンの10%以下のものであり、
前記反応溶液を安定化結合塩素濃度が被処理水中0.05mg−Cl/L以上20mg−Cl/L以下の範囲になるように、被処理水に添加する、
前記製造装置。
【請求項6】
請求項5記載の結合ハロゲンを含む反応溶液を製造する装置であり、
前記ハロゲン系酸化剤1molに対して前記安定化剤を1mol以上で反応させ、前記安定化剤及び前記ハロゲン系酸化剤を全残留ハロゲン濃度が全塩素濃度として100mg−Cl/L以上になるように反応溶液を調製すること、及び、
前記反応溶液を安定化結合塩素濃度が被処理水中0.05mg−Cl/L以上20mg−Cl/L以下の範囲になるように、被処理水に添加することを制御する制御部、を有する、
前記製造装置。
【請求項7】
前記結合ハロゲンを含む反応溶液が、逆浸透膜のファウリングを抑制するための反応溶液、又は水系のバイオファウリングを抑制するための反応溶液である、請求項5又は6記載の製造装置。
【請求項8】
水系において、被処理水に添加する前に、安定化剤及びハロゲン系酸化剤を全残留ハロゲン濃度が全塩素濃度として100mg−Cl/L以上となるように反応させて結合ハロゲンを生成させた反応溶液を製造し、
当該反応溶液を安定化結合塩素濃度が被処理水中0.05mg−Cl/L以上20mg−Cl/L以下の範囲になるように、水系に添加し、水系のバイオファウリングを抑制する方法であり、
前記安定化剤が、スルファミン酸化合物であり、
前記反応溶液が、前記安定化剤を前記ハロゲン系酸化剤1molに対して1mol以上で反応させたものであり、
前記反応溶液は、全残留ハロゲン濃度が全塩素濃度として100mg−Cl/L以上100000mg−Cl/L以下のものであり、当該反応溶液中の遊離ハロゲン比率(%)が、全残留ハロゲンの10%以下のものである、
前記水系のバイオファウリングを抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透膜処理方法、及び結合ハロゲンを含む反応溶液を製造する装置、水系のバイオファウリング抑制方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
水処理水系において、工業用水及び超純水の製造、排水の回収・再利用、海水やかん水の淡水化等を目的として、被処理水を逆浸透(RO)膜で処理することがよく行われている。
しかし、被処理水中に含まれる微生物が逆浸透膜処理装置の通水配管内や逆浸透膜の膜面で増殖してスライムを形成し、これによって逆浸透膜における透過水量低下等のファウリングを引き起こすことがある。この対策として、過酸化水素水、結合ハロゲン剤、ハロゲン剤等の酸化剤が、微生物の増殖抑制や有機物の分解に用いられている。
例えば、微生物の増殖による逆浸透膜のファウリングの防止のために、遊離塩素剤及び安定化剤をそれぞれ被処理水に添加して被処理水中に安定化結合塩素を生成させ、当該安定化結合塩素を含む被処理水を逆浸透膜に給水したり、又はクロラミンを添加しこれを含む被処理水を逆浸透膜に給水したりしている。
【0003】
また、各種工場のプラント冷却水系、排水処理水系、鉄鋼水系、紙パルプ水系、切削油水系などでも、微生物(例えば、細菌や糸状菌や藻類など)が原因となりバイオフィルム等が水系に発生する。このバイオフィルム等は、熱効率の低下;通水配管、流路、膜(例えば、RO膜など)などの閉塞;配管金属材質の腐食等の障害を引き起こすといわれている。
【0004】
さらに、例えば、特許文献1には、被処理液を透過膜に供給して膜分離を行う方法において、被処理液に遊離塩素剤を添加して殺菌を行った後、アンモニウムイオンを添加してクロラミンを生成させ、微生物の増殖を抑制することを特徴とする膜分離方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−104310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、後述する比較例1に示すように、塩素系酸化剤及び安定化剤を被処理水に添加して結合塩素を生成させた場合、この被処理水中の遊離塩素濃度は0.2mg−Cl/L程度であった。例えば、遊離塩素濃度が0.2mg−Cl/L程度含む被処理水を、バイオファウリングを防止する目的のために、逆浸透膜に給水すると、逆浸透膜は耐塩素性が低いため逆浸透膜が劣化しやすい。また、例えば、遊離塩素は腐食の原因となるため、水系中の遊離塩素濃度が小さい方が、水系(例えば、通水配管や流路など)の腐食が抑制できるため、好ましい。
【0007】
また、遊離塩素を含む被処理水が逆浸透膜処理に到達するまでの時間をできるだけ長くして、当該被処理水中の遊離塩素濃度を減らす方法が考えられる。しかし、比較例1のように、遊離塩素が0.2mg−Cl/L程度生成された被処理水を一定時間経過させた場合でも、被処理水中の遊離塩素濃度はほとんど減少しなかった。このことから、時間を経過させても、水系(例えば、被処理水など)中の遊離塩素濃度の減少効果はほとんど得られない。また、時間を経過させても遊離塩素濃度の減少効果がほとんど得られない場合、循環水系などの水系(例えば、通水配管や流路など)でも、水系に存在する遊離塩素のために腐食が生じる可能性がある。
【0008】
また、安定化剤のスルファミン酸添加量を大幅に上げて遊離塩素を減少させる方法が考えられる。しかし、比較例2のように、安定化剤濃度を1オーダー上げても被処理水中の遊離塩素濃度は0.2mg−Cl/L程度のままであった。このことから、安定化剤の添加量を大幅に上げても、水系(例えば、被処理水)中の遊離塩素濃度の減少効果は限定的である。
【0009】
そこで、本発明は、ハロゲン系酸化剤及び安定化剤を水系に使用した場合でも、水系中の遊離ハロゲン濃度をできるだけ少なくする技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討した結果、ハロゲン系酸化剤及び安定化剤を所定以上の全残留ハロゲン濃度になるように反応させた反応溶液を水系(例えば、被処理水など)に添加する前に製造し、当該反応溶液を水系(例えば、被処理水など)に添加することで、当該水系(例えば、被処理水など)中の遊離ハロゲン濃度(具体的には遊離塩素濃度)が大幅に低減できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明は、安定化剤及びハロゲン系酸化剤を全残留ハロゲン濃度が全塩素濃度として100mg−Cl/L以上となるように反応させて結合ハロゲンを生成させた反応溶液を、被処理水に添加し、当該被処理水を逆浸透膜処理する方法を提供するものである。
また、本発明は、安定化剤及びハロゲン系酸化剤を全残留ハロゲン濃度が全塩素濃度として100mg−Cl/L以上となるように反応させて結合ハロゲンを生成させた反応溶液を、水系に添加し、水系のバイオファウリングを抑制する方法を提供するものである。
本発明は、結合ハロゲンを含む反応溶液を製造する装置であり、
安定化剤及びハロゲン系酸化剤を反応させて結合ハロゲンを含む反応溶液を生成させる生成部と、
前記反応溶液が安定化剤及びハロゲン系酸化剤を全残留ハロゲン濃度が全塩素濃度として100mg−Cl/L以上になるように調整する制御部と、
を有する製造装置を提供するものである。
前記安定化剤が、スルファミン酸化合物であってもよい。
前記安定化剤が、前記ハロゲン系酸化剤1molに対して1mol以上で反応させてもよい。
前記反応溶液中の遊離ハロゲン比率(%)が、全残留ハロゲンの10%以下であってもよい。
前記全残留ハロゲン濃度が125mg−Cl/L以上であってもよい。
前記結合ハロゲンを含む反応溶液が、逆浸透膜のファウリングを抑制するための反応溶液、又は水系のバイオファウリングを抑制するための反応溶液であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ハロゲン系酸化剤及び安定化剤を水処理水系に使用した場合でも、水系(例えば、被処理水など)中の遊離ハロゲン濃度をできるだけ少なくする技術を提供することができる。なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】安定化剤及び塩素系酸化剤の希釈混合時の溶液(反応溶液)中の塩素の結合状態を示す図である。縦軸:塩素存在比率(%)(◆安定化結合塩素、□遊離塩素)、横軸:反応溶液中の全残留ハロゲン濃度(mg−Cl/L)。
図2】本発明の実施形態の一例として、水系において、逆浸透膜処理系の前段に、安定化剤及びハロゲン系酸化剤を混合して全残留ハロゲン濃度を所定以上になるように反応させた反応溶液を、被処理水に添加して、当該被処理水を逆浸透膜処理する場合のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好ましい実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が限定されて解釈されることはない。また、各数値範囲の上限値と下限値は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0015】
本発明の実施形態に係る逆浸透膜処理する方法は、安定化剤及びハロゲン系酸化剤を全残留ハロゲン濃度が全塩素濃度として100mg−Cl/L以上となるように反応させて結合ハロゲンを生成させた反応溶液を、被処理水に添加し、当該被処理水を逆浸透膜処理するものである。
また、本発明の別の実施形態に係る水系のバイオファウリングを抑制する方法は、安定化剤及びハロゲン系酸化剤を全残留ハロゲン濃度が全塩素濃度として100mg−Cl/L以上となるように反応させて結合ハロゲンを生成させた反応溶液を、水系に添加するものである。
なお、「バイオファウリング(Biofouling)」とは、狭義には、水処理などに用いられる膜に微生物が繁茂し、バイオフィルムなどの微生物に由来する物質が、膜を目詰まりさせる現象を意味する。しかし、本発明において「バイオファウリング(Biofouling)」とは、膜を目詰まりさせる現象にとどまらず、冷却塔や紙パルプ製造工程などの水系における微生物汚れ(スライム)も含むものである。
【0016】
<安定化剤>
本実施形態で用いる「安定化剤」は、後述するハロゲン系酸化剤と反応して、後述する結合ハロゲン(好適には、安定化結合ハロゲン)を生成できるものであれば、特に限定されず、好ましくは、アミノ基を有する化合物である。なお、本明細書において、アンモニア、第一級アミン又は第二級アミンから水素を除いた1価の官能基(−NH、−NHR、−NRR’)を「アミノ基」という。
【0017】
前記安定化剤として、例えば、スルファミン酸又はその誘導体等のスルファミン酸化合物;5,5’−ジメチルヒダントイン等のヒダントイン;イソシアヌル酸;尿素;ビウレット;カルバミン酸メチル;カルバミン酸エチル;、アセトアミド、ニコチン酸アミド、メタンスルホンアミド及びトルエンスルホンアミド等のアミド化合物;マレイミド、コハク酸イミド及びフタルイミド等のイミド化合物;アラニン、グリシン、ヒスチジン、リシン、トレオニン、オルニチン、フェニルアラニン等のアミノ酸;メチルアミン、ヒドロキシルアミン、モルホリン、ピペラジン、イミダゾール及びヒスタミン、アミノメタンスルホン酸、タウリン等のアミン;アンモニア;硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩等が挙げられる。当該安定化剤の例示は、安定化結合塩素を生成し易い塩素安定化剤の例示でもある。
これらから1種又は2種以上選択して、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
前記安定化剤のうち、スルファミン酸化合物及び/又は有機窒化化合物(例えば、アミノ酸、アミド化合物等)が好ましい。より好ましくはスルファミン酸化合物であり、当該スルファミン酸化合物を用いることで、遊離塩素濃度を低減できる。当該スルファミン酸化合物を用いることより、適宜、逆浸透膜の劣化をより良好に抑制できること、また、適宜、水系の腐食をより良好に抑制することもできる。さらに、本実施形態であれば、適宜、結合ハロゲンに起因する効果をより良好に発揮させること(例えば、逆浸透膜のファウリングをより良好に防止できることなど)もできる。
【0019】
前記スルファミン酸化合物としては、下記一般式[1]で表される化合物又はその塩が挙げられる。
【0020】
NSOH・・・[1]
(ただし、一般式[1]において、R及びRは、各々独立に、水素原子又は炭素数1〜8の炭化水素である。)
前記炭素数1〜8の炭化水素として、例えば置換基を有してもよい芳香族(より好適にはフェニル基)、置換基を有してもよいアルキル基(より好適にはメチル基)等が挙げられる。
【0021】
前記一般式[1]で表されるスルファミン酸化合物としては、例えば、RとRがともに水素原子であるスルファミン酸のほかに、N−メチルスルファミン酸、N,N−ジメチルスルファミン酸、N−フェニルスルファミン酸等及びこれらの塩等が挙げられる。
【0022】
前記化合物の塩は、一般的なものでよく、無機塩(アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、鉄塩、亜鉛塩等の金属塩;アンモニウム塩等)又は有機塩(カルボン酸塩等)を挙げることができる。
前記化合物の無機塩の例示としては、例えば、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩等)、他の金属塩(マンガン塩、銅塩、亜鉛塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩等)、アンモニウム塩及びグアニジン塩等を挙げることができる。
【0023】
前記スルファミン酸塩の具体例としては、スルファミン酸ナトリウム、スルファミン酸カリウム、スルファミン酸カルシウム、スルファミン酸ストロンチウム、スルファミン酸バリウム、スルファミン酸鉄、スルファミン酸亜鉛、スルファミン酸アンモニウム等が挙げられる。
前記スルファミン酸化合物から1種又は2種以上選択して、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
<ハロゲン系酸化剤>
本実施形態で用いるハロゲン系酸化剤は、特に限定されないが、例えば塩素系、臭素系、及び臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物等が挙げられる。当該ハロゲン系酸化剤は、塩素系又は臭素系等のいずれでもよいが、塩素系酸化剤が、本発明の効果を奏しやすい観点から、好ましい。
【0025】
本実施形態で用いる塩素系酸化剤として、特に限定されないが、例えば、塩素ガス、二酸化塩素、次亜塩素酸又はその塩、亜塩素酸又はその塩、塩素酸又はその塩、過塩素酸又はその塩、塩素化イソシアヌル酸又はその塩等を挙げることができる。このうち、次亜塩素酸塩が、取り扱いが容易な観点及び本発明の効果を奏しやすい観点から、好ましい。これらから1種又は2種以上選択して、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
塩素系酸化剤の塩形の具体例としては、例えば、次亜塩素酸アルカリ金属塩(例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等)、次亜塩素酸アルカリ土類金属塩(例えば、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸バリウム等)、亜塩素酸アルカリ金属塩(例えば、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム等)、亜塩素酸アルカリ土類金属塩(例えば、亜塩素酸バリウム等)、他の亜塩素酸金属塩(例えば、亜塩素酸ニッケル等)、塩素酸アルカリ金属塩(例えば、塩素酸アンモニウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム等)、塩素酸アルカリ土類金属塩(例えば、塩素酸カルシウム、塩素酸バリウム等)等を挙げることができる。
これらから1種又は2種以上選択して、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、次亜塩素酸アルカリ金属塩、次亜塩素酸アルカリ土類金属塩は、海水等の塩化ナトリウム含有液を電解によって発生させたものであってもよい。
【0027】
本実施形態で用いる臭素系酸化剤として、特に制限はないが、例えば、液体臭素、塩化臭素、臭素酸又はその塩、次亜臭素酸又はその塩などを挙げることができる。これらから1種又は2種以上選択して、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。当該塩は、一般的に用いることができるものであればよく、例えば、上述した塩(例えば、アルカリ金属塩など)を用いてもよい。
本実施形態では、ハロゲン系酸化剤としては、臭素化合物と塩素系酸化剤と反応物を用いることができる。ここで、臭素化合物としては臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム及び臭化水素酸、特に臭化ナトリウムを好適に用いることできる。そして、塩素系酸化剤としては上述した塩素系酸化剤、特に次亜塩素酸ナトリウムを好適に用いることができる。
【0028】
<結合ハロゲン>
結合ハロゲンは、次亜塩素酸などのハロゲン系酸化剤が、アンモニアやアミノ化合物と反応して生成した化合物で、遊離塩素などの遊離ハロゲンと比べ酸化力の弱い酸化剤である。
本実施形態で用いる結合ハロゲンは特に限定されるものでないが、後述する安定化結合塩素濃度及び/又は活性化結合塩素濃度して検出される化合物で、特に安定化結合塩素濃度として検出されるものがより好ましい。
なお、本実施形態においては、安定化結合塩素濃度として検出される結合ハロゲンを安定化結合塩素と記載する。
【0029】
<反応溶液>
本実施形態では、前記安定化剤と前記ハロゲン系酸化剤とを全残留ハロゲン濃度が全塩素濃度として100mg−Cl/L以上の所定濃度になるように反応させた反応溶液を用いることが好適である。当該反応溶液は、前記安定化剤と前記ハロゲン系酸化剤とを、同時期に又は別々に、混合してもよい。当該反応溶液には、反応の際に生成された結合ハロゲンが含まれる。
本実施形態では、反応溶液中の遊離ハロゲン濃度を低くし、一方で反応溶液中の結合ハロゲンの生成効率を高くすることができる。結合ハロゲンの生成効率が高いことにより、結合ハロゲンに起因する効果を効率的に引き出すことができる。また、遊離ハロゲンは水系の還元物質によって分解されやすいため、結合ハロゲンを効果的に発揮させるためには、結合ハロゲンの生成効率を高くすることが好ましいので、本実施形態はこの観点からも有利な利点を有する。
【0030】
本実施形態では、この全残留ハロゲン濃度が所定濃度以上になるように反応させた反応溶液を、水系に添加する。より具体的には、当該反応溶液を、水系の水(例えば、被処理水や循環水など)に添加する。当該反応溶液を水系(例えば、被処理水など)に添加した場合、当該水系(例えば、被処理水など)中の遊離ハロゲン濃度を遊離塩素濃度として0.2mg−Cl/L未満に容易にすることができ、さらに遊離塩素濃度として当該遊離ハロゲン濃度を0.1mg−Cl/L以下にすること、よりさらに0.05mg−Cl/L以下(より好適には0.01mg−Cl/L以下)にすることも可能である。また、反応溶液を水系(例えば、被処理水など)に添加し反応時間5分後に、当該水系(例えば、被処理水など)中の遊離塩素がDPD法にて検出されなくなることが望ましい。
【0031】
本実施形態の反応溶液を水系(例えば、被処理水など)に添加することで水系(例えば、被処理水など)中の遊離ハロゲン濃度(例えば、遊離塩素濃度)が大幅に低減できる。このため、本実施形態の逆浸透膜処理を行う場合、その後給水される逆浸透膜の劣化を抑制でき、また、本実施形態の反応溶液は結合ハロゲンを含むため、当該反応溶液を水系(例えば、被処理水など)に添加することでその後給水される逆浸透膜のファウリングを抑制できる。また、このように本実施形態では遊離ハロゲン濃度が大幅に低減できることで、本実施形態の反応溶液を水系に添加した場合、水系(例えば、通水配管や流路など)の遊離ハロゲンを原因とする腐食をより良好に抑制することができる。より具体的には、本実施形態の反応溶液の添加によって、水系に備える設備や装置など(より具体的には、当該設備や装置などの通水配管や流路など)の腐食をより良好に抑制することができる。当該腐食は一般的に金属の腐食をいうが、本実施形態において、特に言及しない場合プラスチックなどの樹脂の劣化も含める意味であり、より好適には本実施形態において金属腐食の抑制である。また、本実施形態の反応溶液であれば、水系(例えば、通水配管や流路など)において、適宜、結合ハロゲンに起因する効果(例えば、逆浸透膜やその他水系のファウリング抑制などの効果)をより良好に発揮させることができる。
【0032】
本実施形態において、前記反応溶液の全残留ハロゲン濃度が、少なくとも100mg−Cl/L以上、好ましくは125mg−Cl/L以上、より好ましくは150mg−Cl/L以上になるように前記安定化剤と前記ハロゲン系酸化剤とを反応させる。当該反応溶液を水系(例えば、被処理水など)に添加することにより、適宜、逆浸透膜の劣化をより良好に抑制できる。また、本実施形態であれば、適宜、水系の腐食をより良好に抑制することもできる。また、本実施形態であれば、適宜、結合ハロゲンに起因する効果(例えば、逆浸透膜のファウリング抑制、水系のバイオファウリング抑制など)もより良好に発揮させることができる。
また、前記反応溶液の全残留ハロゲン濃度の上限値は特に限定されないが、使用するハロゲン系酸化剤や安定化剤の観点から、上限は100000mg−Cl/L程度である。
【0033】
前記反応溶液の全残留ハロゲン濃度が100mg−Cl/L以上になるように反応させることで、遊離ハロゲン比率(%)を全残留ハロゲンの10%以下に抑えることができる。これにより、適宜、逆浸透膜の劣化をより良好に抑制でき、また、適宜、水系の腐食をより良好に抑制できる。
さらに前記反応溶液の全残留ハロゲン濃度が150mg−Cl/L以上になるように反応させることで、反応溶液中の全残留ハロゲンの95%以上を安定化結合塩素にすることができ、反応溶液中の遊離ハロゲン比率(%)は全残留ハロゲンの2%未満に抑えることができる。これにより、適宜、逆浸透膜の劣化をより良好に抑制できること、また、適宜、水系の腐食を良好に抑制することもできる。さらに、本実施形態であれば、適宜、結合ハロゲンに起因する効果(例えば、逆浸透膜のファウリング抑制、水系のバイオファウリング抑制など)をより良好に発揮させることができる。
【0034】
本実施形態において、前記反応溶液中の遊離ハロゲン比率(%)は、全残留ハロゲンの10%以下が好ましく、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは3%以下、より好ましくは2.5%以下、より好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.5%以下、より好ましくは1.1%以下である。遊離塩素比率(%)の少ない反応溶液を水系(例えば、被処理水など)に用いることにより、適宜、逆浸透膜の劣化をより良好に抑制でき、また、適宜、水系の腐食をより良好に抑制できる。また、本実施形態によれば、適宜、結合ハロゲンに起因する効果(例えば、逆浸透膜のファウリング抑制、水系のバイオファウリング抑制など)をより良好に発揮させることができる。
【0035】
本実施形態において、前記反応溶液中の安定化結合塩素比率(%)は、全残留ハロゲンの85%以上が好ましく、より好ましくは87%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である。当該安定化結合塩素比率(%)の高い反応溶液を水系(例えば、被処理水など)に用いることにより、適宜、逆浸透膜の劣化を抑制でき、また適宜、水系の腐食をより良好に抑制できる。また、本実施形態によれば、適宜、結合ハロゲンに起因する効果(例えば、逆浸透膜のファウリング抑制、水系のバイオファウリング抑制など)をより良好に発揮させることができる。
【0036】
なお、全残留ハロゲン濃度、遊離ハロゲン濃度及び遊離ハロゲン比率(%)はそれぞれ全塩素濃度(全残留塩素濃度)、遊離塩素濃度、遊離塩素比率(%)として測定(算出)されるが、これら全残留塩素濃度、遊離塩素濃度、遊離塩素比率(%)と、活性化結合塩素濃度、安定化結合塩素濃度及び安定化結合塩素比率(%)とは、後述の<全残留塩素濃度測定方法>にて測定(算出)することができる。
【0037】
前記反応溶液は、高濃度の安定化剤及び高濃度のハロゲン系酸化剤を混合して全残留塩素濃度が前記所定濃度となるように反応させたものが好適である。この両者を高濃度で混合させて得られた所定の全残留塩素濃度の反応溶液を、水系(例えば、被処理水など)に添加する前に水で希釈してもよい。
【0038】
また、前記反応溶液は、前記安定化剤及び前記ハロゲン系酸化剤のいずれか又は両方を水で希釈し、当該いずれか又は両方を水で希釈した希釈液を用いて全残留塩素濃度が前記所定濃度となるように反応させたものが好適である。
また、前記反応溶液は、水希釈前の薬剤と水希釈後の薬剤とを混合して調製してもよいし、水希釈後の薬剤と水希釈後の薬剤とを混合して調製してもよし、水系(例えば、被処理水など)に添加する前に水希釈で調製してもよい。
【0039】
前記希釈に用いる水として、例えば、脱塩水、純水、超高純水等が挙げられる。当該水は、工業用水、井水、水道水、雨水等から不純物除去処理(例えば、イオン交換処理、膜処理等)を行ったものが好ましい。このうち、脱塩水又は純水が、コスト及び本技術の効果の観点から、好ましい。
【0040】
前記安定化剤中の有効成分濃度(好適にはスルファミン酸化合物濃度)は、特に限定されないが、その下限値は、反応溶液中の遊離塩素濃度をより減少できる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上であり、その上限値は、溶解度の観点から、30質量%程度である。
【0041】
前記ハロゲン系酸化剤中の有効ハロゲン濃度は、特に限定されないが、その下限値は、反応溶液中の遊離ハロゲン濃度をより減少できる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、その上限値は、溶解度・安定性などの観点から、好ましくは12質量%程度である。
【0042】
前記安定化剤の使用量は、前記ハロゲン系酸化剤1molに対して、好ましくは1mol以上、より好ましくは1.1mol以上で反応させることである。前記安定化剤の使用量の上限値は、安定的に反応しやすくコストの観点から、前記ハロゲン系酸化剤1molに対して、好ましくは20mol以下、より好ましくは15mol以下、さらに好ましくは10mol以下、よりさらに好ましくは5mol以下である。当該安定化剤の使用量の範囲として、前記ハロゲン系酸化剤1molに対して、さらに好ましくは1〜10molであり、よりさらに好ましくは1〜3molである。
【0043】
本実施形態において、前記安定化剤が、アルカリ金属水酸化物を含むアルカリとスルファミン酸化合物とを含むものであることが好ましい。この安定化剤を用いて前記ハロゲン系酸化剤と反応させて所定の全残留ハロゲン濃度にした反応溶液を得、この反応溶液を水系(例えば、被処理水など)に添加することが好適である。
【0044】
前記安定化剤のアルカリとスルファミン酸化合物との含有割合が、N/アルカリ金属(モル比)で、好ましくは0.5〜1.0であり、より好ましくは0.5〜0.7である。なお、前記N/アルカリ金属(モル比)は、上述のスルファミン酸化合物のモル数と、アルカリ金属水酸化物により構成されるアルカリのモル数とに相当し、ここでスルファミン酸塩に含まれるアルカリ金属塩の量はアルカリとして加算される。
【0045】
前記反応溶液のpHは、特に限定されず、アルカリであることが好ましく、より好ましくは11以上であり、さらに好ましくは13以上である。
【0046】
前記反応溶液の温度は、特に限定されず、この下限値として好ましくは−5℃以上であり、また、この上限値として好ましくは80℃以下である。当該温度の範囲として、より好ましくは10〜60℃、さらに好ましくは10〜40℃である。本実施形態で用いる反応溶液は、一般的に被処理水を逆浸透膜処理する装置における被処理水の温度で実施することが可能であり、このことは本実施形態における利点であるが、この装置に本実施形態は特に限定されない。また、本実施形態で用いる反応溶液は、例えば、循環水系の装置に使用することも可能であり、また、適用する装置の温度条件に適用させて実施することも可能である。
【0047】
なお、本実施形態では、本発明の効果を損なわない範囲で、前記安定化剤と前記ハロゲン系酸化剤以外に任意成分を使用してもよい。例えば、反応溶液に任意成分を混合してもよいし、反応溶液を添加した水系(例えば、被処理水など)に任意成分を混合してもよい。任意成分として、例えば、pH調整剤、アルカリ剤、分散剤、スケール防止剤、他の作用機構で働くスライムコントロール剤等が挙げられる。
前記アルカリ剤として、アルカリ金属塩(例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩等)等が挙げられる。
【0048】
<本実施形態における水系での使用方法:(例えば、被処理水を逆浸透膜処理する方法など)>
本実施形態における水系として、特に限定されないが、例えば、被処理水を処理する水処理水系、工業用水及び超純水の製造の水処理系、排水の回収・再利用の水処理系、海水やかん水の淡水化の水処理系、プラント冷却水系、排水処理水系、鉄鋼水系、紙パルプ水系、切削油水系などからなる群より選択される1種又は2種以上の水系に適用させることも可能である。
【0049】
本実施形態の一例として、本実施形態の水系(より好適には水処理水系)では、前記反応溶液を被処理水に添加し、当該被処理水を逆浸透膜で処理する。この被処理水から逆浸透膜処理によって透過水(処理水)を得ることができる。これにより、工業用水及び超純水の製造、排水の回収・再利用、海水やかん水の淡水化等を行うことができる。
【0050】
また、本実施形態の一例として、本実施形態の水系では、前記反応溶液を水系に添加し、結合ハロゲンに起因する効果を発揮させることができる。また、本実施形態の反応溶液は、適宜、水系のバイオファウリング及び/又は腐食を抑制することができる。また、本実施形態は、各種工場のプラント冷却水系、排水処理水系、鉄鋼水系、紙パルプ水系、切削油水系等で用いることができる。
また、水系のうち、循環水系が、長時間にわたり循環させながら運転させることが多いことから、腐食の低減の観点からも、好適である。さらには、循環冷却水系(好適には開放循環冷却水系)等がより好適である。本実施形態は、腐食抑制の観点から、とりわけ、循環冷却水系等に対して、結合ハロゲンを効果的かつ長期にわたり添加することができる。
【0051】
本実施形態の反応溶液を含む水系(例えば、被処理水など)は、遊離ハロゲン濃度を遊離塩素濃度として0.2mg−Cl/L未満に抑えることができる。さらに、本実施形態によれば、前記反応溶液を含む水系(例えば、被処理水など)の遊離ハロゲン濃度を遊離塩素濃度として0.1mg−Cl/L以下に抑えることが好適であり、より好適には0.00〜0.05mg−Cl/L程度に抑えることができる。
【0052】
このように逆浸透膜を通過させる水系(例えば、被処理水など)中の遊離塩素濃度を従来の方法(具体的には後述する比較例1〜2)よりも低減できるので、適宜、逆浸透膜の劣化をより良好に抑制でき、また、適宜、水系の腐食をより良好に抑制できる。さらに当該水系(例えば、被処理水など)中には安定化結合塩素を含むので、適宜、逆浸透膜のファウリングをより良好に抑制でき、また、適宜、結合ハロゲンに起因する効果をより良好に発揮させることもできる。また、当該結合ハロゲン(好適には安定化結合塩素)を含む反応溶液を水系(例えば、被処理水など)に添加して、水系(例えば、水処理水系など)に使用することも可能である。これによって、水系におけるバイオファウリングを抑制する効果及び殺菌・殺藻効果なども期待でき、当該水系として、例えば、水処理水系;冷却塔などの循環水系;紙パルプ製造などのプロセス水系などが挙げられる。また、当該水系(例えば、被処理水)中の安定化結合塩素は、従来のクロラミンTと比較して高い安定性が期待でき、また遊離塩素発生も少ないことが期待できる。
【0053】
本実施形態で用いられる原水(例えば、被処理水)は、特に限定されず、例えば、有機物を含んだ産業用排水、海水・かん水、淡水(河川水、湖水等)、工業用水・市水等が挙げられる。
【0054】
従って、本実施形態の逆浸透膜処理を用いる水処理方法は、電子デバイス製造分野、半導体製造分野、その他の各種産業分野で排出される高濃度〜低濃度TOC含有排水の回収・再利用のための水処理;海水・かん水の淡水化;工業用水や市水からの純水又は超純水製造;その他の分野の水処理に有効に適用することが可能である。本実施形態は、逆浸透膜をより劣化させやすい海水・かん水中の遊離臭素の生成も抑制できることから、海水・かん水の淡水化に適用することが好適である。
また、本実施形態の別の側面として、本実施形態を水系に用いる方法は、プラント冷却水系、排水処理水系、鉄鋼水系、紙パルプ水系、切削油水系などに適用することが好適であり、より好適には循環冷却水系である。これにより、この水系の腐食を抑制することができ、また、適宜、本実施形態の反応溶液中の結合ハロゲンに起因する効果を水系にて発揮させることもできる。
【0055】
<逆浸透膜>
本実施形態に用いる逆浸透膜(以下、「RO膜」ともいう)は、特に限定されず、例えば、ポリアミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリイミド系、ポリエチレンイミン系、ポリエチレンオキシド系、酢酸セルロース系等が挙げられる。
このなかで、ポリアミド系RO膜は、イオン性物質の阻止率が高く、流束が大きいので好適に用いることができる利点を有する。特に芳香族ポリアミド系RO膜は、塩素に対する耐性が低いため、ハロゲン系酸化剤を用いた場合、遊離塩素が多く残存し膜劣化が生じやすい。本実施形態であれば、水系(例えば、被処理水など)中の遊離塩素濃度を非常に低減することができ、一方でRO膜のファウリング防止効果も得ることができるので、処理能力に優れているが耐塩性の低いポリアミド系RO膜を効率よく用いることができる。
【0056】
<反応溶液の用量及び用法>
本実施形態の反応溶液は、水系(例えば、被処理水など)中、好ましくは3〜100mg/L、より好ましくは5〜50mg/L、さらに好ましくは10〜40mg/Lになるように水系(例えば、被処理水など)に添加することが好適である。当該添加量は、被処理水の場合が好適である。
【0057】
本実施形態において前記反応溶液を水系(例えば、被処理水など)に添加する場合、水系(例えば、被処理水など)中の安定化結合塩素濃度が、下限値として好ましくは0.05mg−Cl/L以上、より好ましくは0.1mg−Cl/L以上、また上限値として好ましくは20mg−Cl/L以下、より好ましくは5mg−Cl/L以下になるように調整することが好適である。
本実施形態において前記反応溶液を水系(例えば、被処理水など)に添加する場合、当該水系(例えば、被処理水など)中の安定化結合塩素濃度の範囲が、好ましくは0.5〜5mg−Cl/L、より好ましくは1〜2mg−Cl/Lになるように調整することが好適である。当該添加量は、被処理水の場合が好適である。
また、本実施形態において前記反応溶液を水系(例えば、被処理水など)に添加した場合、当該水系(例えば、被処理水など)中の遊離ハロゲンが検出されないように調整することが好適である。当該添加は、被処理水の場合が好適である。
【0058】
本実施形態の反応溶液の添加は、膜処理を行う水系の場合、水系で膜処理(好適には逆浸透膜処理)を行う前であれば、特に限定されない(例えば、図2参照)。当該反応溶液は、水系(例えば、被処理水など)の取水口から膜処理(好適には逆浸透膜処理)の間に添加することが好ましい。当該反応溶液の添加場所として、例えば、取水口、凝集処理、固液分離処理、プレフィルター処理、逆浸透膜処理又はこれら各流路のいずれでもよい。
なお、前記反応溶液の添加方法は、特に限定されず、一般的に水処理水系で用いられる方法を採用することができ、両者が混合できればよく、水系(例えば、被処理水など)を前記反応溶液に添加してもよい。
より具体的な一例として、例えば、本実施形態であれば、水系(好適には、被処理水)中の結合ハロゲン(好適には安定化結合塩素)を高濃度にできるため、逆浸透膜処理よりも上流付近で前記反応溶液を添加でき、これより下流にて結合ハロゲンに起因する効果を発揮させることも可能である。
【0059】
また、本実施形態の反応溶液を添加場所として、例えば、被処理水の取水口付近で前記反応溶液を添加することができる(図2参照)。
また、一例として、本実施形態であれば、被処理水中の遊離塩素濃度を大幅に低減できたため逆浸透膜処理の直前に添加することができる。これにより、逆浸透膜劣化を抑制しつつ、逆浸透膜処理直前の被処理水中の安定化結合塩素を高濃度にできるため、バイオファウリング抑制効果を効率よく高めることができる。この効果を得るため、逆浸透膜処理直前で、被処理水中の安定化結合塩素濃度を調整してもよい。
【0060】
また、本実施形態の水系が循環水系の場合、本実施形態の反応溶液を添加する時期又は場所は、特に限定されず、結合ハロゲンに起因する効果を期待する場所に添加することができる。本実施形態において、好適には、冷却水系や蓄熱水系、集塵水系、スクラバー水系等を有する開放循環式装置等に適用することである。
【0061】
本実施形態は、結合ハロゲン(好適には安定化結合塩素)を高濃度にできるので、本実施形態の反応溶液を水系に添加した下流では、水系の通水配管又は流路に付着する微生物又は生物等の付着(バイオファウリング)を防止することや殺菌・殺藻なども可能である。本実施形態であればこのように水系のバイオファウリングが抑制でき、さらに本実施形態であれば遊離ハロゲンをできるだけ少なくすることができるので、腐食を抑制することを目的として、水系(例えば、通水配管や流路など)に使用することもできる。
【0062】
本実施形態の別の側面として、本実施形態の前記反応溶液の使用又は使用方法を提供することができ、当該使用目的として、例えば、水系のバイオファウリング抑制方法、水系の防食方法、又は水系の膜スケール防止方法等が挙げられる。また、本実施形態は、本実施形態の前記反応溶液を水系に添加することによって、水処理方法、バイオファウリング抑制方法、防食方法、又はスケール防止方法を提供することもできる。なお、上述した構成と重複する構成については適宜省略する。
【0063】
<水処理装置>
本発明は、別の態様として、前記反応溶液製造装置、及びこれを備える水処理装置等を提供することも可能である。当該反応溶液製造装置及びこれを備える水処理装置は、上述した本実施形態の方法(好適には被処理水を逆浸透膜処理する方法)を行うことができるものである。当該逆浸透膜処理方法により、透過水(処理水)を得ることができる。なお、被処理水から分けられた濃縮水は水処理水系に戻すことも可能である。
また、当該反応溶液製造装置及びこれを備える水系装置(好適には循環水装置)は、適宜、結合ハロゲンに起因する効果(例えば、バイオファウリングの抑制など)を発揮させることができ、また、適宜、水系(好適は循環水系)の腐食を抑制することもできる。
【0064】
本発明の実施形態に係る反応溶液製造装置は、
結合ハロゲンを含む反応溶液を製造する装置が好適であり、当該反応溶液製造装置は、
安定化剤及びハロゲン系酸化剤を反応させて結合ハロゲンを含む反応溶液を生成させる生成部と、
前記反応溶液が安定化剤及びハロゲン系酸化剤を全残留ハロゲン濃度が全塩素濃度として100mg−Cl/L以上になるように調整する制御部と、
を有する装置がより好適である。
前記反応溶液は、逆浸透膜のファウリングを抑制するための反応溶液、又は、水系のバイオファウリングを抑制するための反応溶液が好適である。
【0065】
本発明の実施形態に係る水処理装置は、
安定化剤及びハロゲン系酸化剤を反応させて生成させた結合ハロゲンを含む反応溶液を生成させる生成部と、
前記反応溶液が、安定化剤及びハロゲン系酸化剤を全残留ハロゲン濃度が全塩素濃度として100mg−Cl/L以上になるように調整する制御部と、
前記全残留ハロゲン濃度が全塩素濃度として100mg−Cl/L以上の反応溶液を添加した水系(好適には、被処理水)を逆浸透膜処理する逆浸透膜処理部と、
を有する装置が好適である。
【0066】
本実施形態の一例を示し、図2を参照して、本発明を説明するが、本実施形態が、これに限定されるものではない。
【0067】
前記制御部6は、上述した反応溶液中の全残留ハロゲン濃度になるように安定化剤及びハロゲン系酸化剤の配合を調整することが可能である。前記制御部6は、安定化剤とハロゲン系酸化剤とを反応させる反応溶液混合部9から、反応溶液中の全残留ハロゲン濃度の測定値(データ)を得ることができる。また、前記制御部6は、MF膜処理部及び/又はRO膜処理部、これらの直前又は直後の全残留ハロゲン濃度の測定値(データ)を得ることができる。当該全残留ハロゲン濃度を測定する装置(図示せず)は、公知の測定装置を用いてもよい。また、反応溶液混合部9から反応溶液又は水系(例えば、被処理水など)を採取して全残留ハロゲン濃度を測定し、その測定結果を制御部6に入力してもよい。
【0068】
前記制御部6は、この全残留ハロゲン濃度の測定値に基づき、上述した所定の全残留ハロゲン濃度になるように、安定化剤の添加量及びハロゲン系酸化剤の添加量をそれぞれ安定化剤添加部7及びハロゲン系酸化剤添加部8に指令することができる。これにより、前記安定化剤添加部7から安定化剤が反応溶液混合部9に添加され、また前記ハロゲン系酸化剤添加部8からハロゲン系酸化剤が反応溶液混合部9に添加される。
【0069】
前記制御部6は、必要に応じて、希釈するための水を、安定化剤、ハロゲン系酸化剤、又はこれら混合薬剤に、添加し調整することができる。
前記制御部6は、反応溶液混合部9から、前記反応溶液を水系(例えば、被処理水など)に添加するようにポンプや反応溶液添加部(図示せず)等に指令することができる。この添加場所は、逆浸透膜処理部2から水系(例えば、被処理水など)の取水口のいずれの場所であってもよい。また、前記制御部6は、水系(例えば、被処理水など)に対する前記反応溶液の添加量、添加タイミング、撹拌等を制御することも可能である。また、前記制御部6は、反応溶液添加後の系内の濃度が所定値になるように安定化剤の添加量及びハロゲン系酸化剤の添加量を調整することができる。また、前記制御部6は、前記反応溶液を水系(例えば、被処理水など)に連続的に又は非連続的(間欠的)に添加するように調整することができる。
【0070】
なお、本実施形態の方法を、前記反応溶液を製造する装置又は被処理水を逆浸透膜処理等を行うための装置(例えば、パーソナルコンピュータ、PLC等)におけるCPU等を含む制御部によって実現させることも可能である。また、本実施形態の方法を、記録媒体(不揮発性メモリ(USBメモリ等)、HDD、CD、ネットワーク、サーバ等)等を備えるハードウェア資源にプログラムとして格納し、前記制御部によって実現させることも可能である。
前記制御部によって、前記反応溶液を製造するシステム、又は前記反応溶液を製造し水系(例えば、被処理水など)に添加するように制御する逆浸透膜分離処理システム若しくは水系システム(例えば、水処理システムや循環水システムなど)を提供することも可能である。
なお、本実施形態を水系システムや循環水システムに適用する場合、通常の水処理装置や循環水装置に、本実施形態の製造装置を組み込むことで、本実施形態の方法を実行することができる。
【0071】
本実施形態における反応溶液製造装置は、反応溶液生成部10及び制御部6を備えることが好適である。
反応溶液生成部10は、安定化剤添加部7及びハロゲン系酸化剤添加部8、並びに、安定化剤及びハロゲン系酸化剤を混合して全残留ハロゲン濃度が所定濃度になるように反応溶液を生成する反応溶液混合部9を備えることが好適である。
前記反応溶液生成部10は、これら安定化剤添加部7、ハロゲン系酸化剤添加部8及び反応溶液混合部9を、前記制御部6からの指令によって制御してもよい。また前記反応溶液生成部10には、前記制御部6の指令を受ける第二制御部を有していてもよく、この第二制御部によって、安定化剤添加部7、ハロゲン系酸化剤添加部8及び反応溶液混合部9が制御されてもよい。
【0072】
また、安定化剤添加部7及びハロゲン系酸化剤添加部8は、それぞれ安定化剤及びハロゲン系酸化剤を保存することが可能な槽であってもよく、又は通水配管等の流路であってもよい。これら薬剤、希釈水の各添加量及び各移送量は、ポンプや流量調整弁等で調整することができる。
また、反応溶液混合部9は、安定化剤及びハロゲン系酸化剤が混合可能な場所があればよく、例えば、通水配管等の流路や槽等が挙げられる。また、反応溶液混合部9には、撹拌等の混合装置を備えることが好ましい。これら薬剤、反応溶液、希釈水等の添加量及び移送量は、ポンプや流量調整弁等で調整することができる。
【0073】
本実施形態の別の態様として、安定化剤添加部7及びハロゲン系酸化剤添加部8のそれぞれの吐出口にポンプを設け、反応溶液混合物9を混合ラインとし当該混合ラインの入り口にキャッチ弁を備える。当該混合ラインには、両薬剤を混合できる装置が設けられていることが好適であり、例えばスタティックミキサー等が挙げられる。
前記制御部10の指令により、安定化剤添加部7及びハロゲン系酸化剤添加部8のそれぞれのポンプ吐出口から混合ラインに安定化剤及びハロゲン系酸化剤を移送する。前記制御部10の指令により、全残留ハロゲン濃度が所定以上になるように、キャッチ弁で両者の流量を調整する。両者が合流する混合ラインで両者を反応させて全残留ハロゲン濃度が所定以上で結合ハロゲンを含む反応溶液を生成する。そして、当該反応溶液を水系(例えば、被処理水など)に添加し、当該水系(例えば、被処理水など)を逆浸透膜にて処理する。これにより、透過水を得ることができる。当該反応溶液を用いることで、逆浸透膜の劣化を抑制しつつ、逆浸透膜のファウリングを抑制することができる。さらに、当該反応溶液を用いることで、適宜、水系のバイオファウリング抑制効果を得ることもできる。なお、当該バイオフィルムやスライムは、微生物(細菌、藻等)等によって生成されるものである。
【0074】
本実施形態の装置又はシステムにより、本実施形態の遊離ハロゲンが大幅に低減されかつ結合ハロゲンを含む反応溶液を、水系(例えば、被処理水など)に添加することができ、これにより逆浸透膜の劣化を抑制しつつ、逆浸透膜のファウリング抑制効果、水系のスライム抑制効果などを得ることができる。
また、本実施形態に係る水処理システムは、純水製造システム、海水淡水化システム、排水処理システム等が挙げられる。また、本実施形態に係る水系装置は、特に限定されず、これら例示システムを有する純水製造装置や海水淡水化装置等の水処理系装置であってもよく、循環冷却水装置などの循環水系を有する装置であってもよい。
【0075】
また、本技術は、以下の構成を採用することも可能である。
〔1〕 安定化剤及びハロゲン系酸化剤を全残留ハロゲン濃度が全塩素濃度として100mg−Cl/L以上となるように反応させて結合ハロゲンを生成させた反応溶液を、被処理水に添加し、当該被処理水を逆浸透膜処理する方法。
〔2〕 安定化剤及びハロゲン系酸化剤を全残留ハロゲン濃度が全塩素濃度として100mg−Cl/L以上となるように反応させて結合ハロゲンを生成させた反応溶液を、水系に添加し、当該水系のバイオファウリングを抑制する方法。
〔3〕
前記安定化剤が、スルファミン酸化合物である、前記〔1〕又は〔2〕記載の方法。
〔4〕
前記安定化剤が、前記ハロゲン系酸化剤1molに対して1mol以上で反応させる、前記〔1〕〜〔3〕記載の方法。
〔5〕
前記反応溶液中の遊離ハロゲン比率(%)が、全残留ハロゲンの10%以下である、前記〔1〕〜〔4〕のいずれか記載の方法。
〔6〕
前記全残留ハロゲン濃度が125mg−Cl/L以上である、前記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の方法。
【0076】
〔6〕
結合ハロゲンを含む反応溶液を製造する装置であり、
安定化剤及びハロゲン系酸化剤を反応させて結合ハロゲンを含む反応溶液を生成させる生成部と、
前記反応溶液が安定化剤及びハロゲン系酸化剤を全残留ハロゲン濃度が全塩素濃度として100mg−Cl/L以上になるように調整する制御部と、
を有する製造装置。
〔7〕
前記結合ハロゲンを含む反応溶液が、逆浸透膜のファウリングを抑制するための反応溶液、又は水系のバイオファウリングを抑制するための反応溶液である、前記〔6〕記載の製造装置。前記製造装置は、逆浸透膜処理装置、又は循環冷却水装置に適用することが好適である。
〔8〕
前記安定化剤が、スルファミン酸化合物である、前記〔6〕又は〔7〕のいずれか記載の製造装置。
〔9〕
前記安定化剤が、前記ハロゲン系酸化剤1molに対して1mol以上で反応させる、前記〔6〕〜〔8〕のいずれか記載の製造装置。
〔10〕
前記反応溶液中の遊離ハロゲン比率(%)が、全残留ハロゲンの10%以下である、前記〔6〕〜〔9〕のいずれか記載の製造装置。
〔11〕
前記全残留ハロゲン濃度が125mg−Cl/L以上である、前記〔6〕〜〔10〕のいずれか記載の製造装置。
【実施例】
【0077】
以下の実施例及び比較例等を挙げて、本発明の実施形態について説明をする。なお、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0078】
[実施例1:被処理水中の遊離塩素濃度]
酸化剤系薬剤と安定化剤を事前に混合してから系内に添加した際の塩素の結合状態を机上にて評価した。
<手順>
スルファミン酸濃度が20%以上であるスルファミン酸ナトリウム溶液を調製した。そこへ有効塩素濃度10%以上の次亜塩素酸ナトリウムを添加した。混合比は次亜塩素酸ナトリウム1mg−Cl/L溶液に対してスルファミン酸として3mg/L以上とした。
これにより、安定化剤及び塩素系酸化剤を含む反応溶液を調製した。この安定化剤及び塩素系酸化剤を含む反応溶液の全残留塩素濃度は100mg−Cl/L以上であった。そして、被処理水として500mg/L NaCl溶液を用いた。
500mg/L NaCl溶液に、調製5分後の上記反応溶液を濃度が20mg/Lとなるように添加した。スルファミン酸を添加してから5分後、及び60分後の残留塩素濃度をDPD法により測定した。
【0079】
<全残留塩素濃度の算出方法>
なお、全残留塩素濃度は以下の方法をもとに算出した。
全残留塩素濃度=遊離塩素濃度+活性化結合塩素濃度+安定化結合塩素濃度。
遊離塩素濃度:DPD法(ポケット残留塩素計、HACH社製)による遊離塩素濃度[ここで、DPD法による遊離塩素濃度は、遊離塩素測定用試薬であるDPD(Free)試薬による5〜30秒後の塩素濃度測定結果(mg−Cl/L)]。
活性化結合塩素濃度:遊離塩素測定用試薬であるDPD(Free)試薬による300秒後の塩素濃度測定結果(mg−Cl/L)から、上記遊離塩素濃度(mg−Cl/L)の測定結果を差し引いた値。
安定化結合塩素濃度:全塩素測定用試薬であるDPD(Total)試薬による180秒後の塩素濃度測定結果(mg−Cl/L)から、遊離塩素測定用試薬であるDPD(Free)試薬による300秒後の塩素濃度測定結果(mg−Cl/L)を差し引いた値。
遊離塩素比率(%)=(遊離塩素濃度/全残留塩素濃度)×100
安定化結合塩素比率(%)=(安定化結合塩素濃度/全残留塩素濃度)×100
なお、試験環境の温度は25℃とした。
【0080】
<結果・考察>
[被処理水に薬剤(反応溶液)添加した直後の残留塩素濃度結果(反応溶液添加後の被処理水)]
・遊離塩素濃度=0.01mg−Cl/L
・活性化結合塩素濃度=0.00mg−Cl/L
・安定化結合塩素濃度=1.26mg−Cl/L
【0081】
安定化剤及び塩素系酸化剤をそれぞれ高濃度で反応させたため、反応時間5分で反応溶液中の遊離塩素が検出されなくなった。
このことから、安定化剤と塩素系酸化剤とを全残留塩素濃度が100mg−Cl/L以上になるように反応させて生成させた安定化結合塩素を含む反応溶液を用いれば、短時間で残留塩素が検出されることがなくなる。
よって、本発明の反応溶液の残留塩素は逆浸透膜を劣化させないレベルに十分に達していることから、当該反応溶液は、逆浸透膜劣化を抑制できる。さらに、当該反応溶液は安定化結合塩素を含むものであるから、逆浸透膜システムにおけるスライムを抑制して逆浸透膜のファウリングを防止することができる。
【0082】
さらに、全残留塩素濃度48000mg/L以上になるように安定化剤及び塩素系酸化剤を含む反応溶液を調製した。この反応溶液を、水温5℃、20℃、40℃、50℃の500mg/L NaCl溶液(被処理水)に添加し混合した。反応溶液を添加した各水温の500mg/L NaCl溶液における遊離塩素濃度は、いずれも30秒以内に遊離塩素が検出されなくなった。
このことから、逆浸透膜処理装置で通常処理する水温においても、実施例1のような反応溶液を用いることで、短時間で残留塩素が検出されることがなくなる。よって、本発明の反応溶液は、通常逆浸透膜処理する水温において、問題なく利用することができる。
【0083】
[比較例1及び2]
酸化剤系薬剤と安定化剤を別々で系内に添加した際の塩素の結合状態を机上にて評価した。
<手順>
ビーカーに、被処理水として、500mg/L NaCl溶液を用意した。
上記[実施例1]のような、予め安定化剤及び塩素系酸化剤を混合した混合溶液を用いずに、ぞれぞれ別々にNaCl溶液に添加し、安定化剤及び塩素系酸化剤をNaCl溶液に添加しながら全残留塩素濃度及びスルファミン酸濃度を調整した。
上記NaCl溶液に、次亜塩素酸ナトリウム溶液及びスルファミン酸ナトリウム溶液をこの順番で別々に、全残留塩素濃度が1mg−Cl/L、スルファミン酸濃度が3mg/L以上となるように添加した。
スルファミン酸を添加してから、5分後及び60分後の残留塩素濃度をDPD法により測定した(計算法は実施例1と同様)。
試験環境の温度は25℃とした。
【0084】
<結果・考察>
[比較例1:塩素系酸化剤添加次いでスルファミン酸添加の被処理水]
(1)塩素系酸化剤添加の被処理水にスルファミン酸添加から「5分後」の残留塩素濃度結果
・遊離塩素濃度=0.20mg−Cl/L
・活性化結合塩素濃度=0.47mg−Cl/L
・安定化結合塩素濃度=0.37mg−Cl/L
(2)塩素系酸化剤添加の被処理水にスルファミン酸添加から「60分後」の残留塩素濃度結果
・遊離塩素濃度=0.20mg−Cl/L
・活性化結合塩素濃度=0.29 mg−Cl/L
・安定化結合塩素濃度=0.53 mg−Cl/L
【0085】
[比較例2:塩素系酸化剤添加次いで高濃度スルファミン酸添加の被処理水]
スルファミン酸濃度を、さらに1オーダー上げた「スルファミン酸27mg/L」を添加した際の残留塩素濃度結果(60分後)
・遊離塩素濃度=0.19mg−Cl/L
・活性化結合塩素濃度=0.28mg−Cl/L
・安定化結合塩素濃度=0.55mg−Cl/L
【0086】
上記結果より、比較例1は遊離塩素0.2mg−Cl/L程度が残留しており、RO膜を劣化させる恐れがあった。時間の経過によっても減少しきらず、系内で安定化剤を反応させることにより遊離塩素を低減することは難しい。スルファミン酸の濃度を大幅に上げても効果は限定的だった。
【0087】
[実施例2:反応溶液の全残留塩素濃度]
安定化剤と塩素系酸化剤とを反応させて生成させた安定化結合塩素を含む反応溶液において、酸化剤系薬剤とその安定化剤を混合する際の全残留塩素濃度を変えた場合の塩素の結合状態を机上にて評価した。
<手順>
純水をビーカーに用意した。試験環境の温度は25℃とした。純水にスルファミン酸濃度が20%以上となるように調製したスルファミン酸ナトリウム溶液を添加した。このスルファミン酸を含む水溶液に有効塩素濃度10%以上の次亜塩素酸ナトリウムを添加した。混合比は次亜塩素酸ナトリウム1mg/L溶液に対してスルファミン酸として3mg/L以上となるようにした。これにより、安定化剤及び塩素系酸化剤を含む反応溶液を調製した。
調製した反応溶液を30秒混合後の残留塩素濃度をDPD法により測定した(計算法は実施例1と同様)。この操作を、純水量を変えながら繰り返し行った。これにより、希釈混合時の塩素の結合状態を調整し、安定化剤及び塩素系酸化剤を含む反応溶液の全残留塩素濃度が異なる反応溶液を調製した(表1及び図1参照)。
【0088】
<結果>
混合後の全残留塩素濃度ごとに、全残留塩素に占める安定化結合塩素及び遊離塩素の存在比率をまとめた結果を表1及び図1に示す。図1に示すのは、特に低濃度側のみである。
結果から、混合後の全残留塩素濃度が100mg−Cl/L以上であれば、遊離塩素を全残留塩素の10%以内に抑えることができる。
よって、次亜塩素酸ナトリウムと安定化剤のどちらか若しくは両方が希釈して使用された際には、混合後の全残留塩素濃度が100mg−Cl/L以上である必要があり、好ましくは125mg−Cl/L以上、さらに好ましくは150mg−Cl/L以上であることが望ましい。
なお、実施例2の反応溶液を、被処理水に対して調製5分後の上記反応溶液を濃度が20mg/Lとなるように添加した場合、遊離塩素濃度は0.00〜0.05mg/L程度である。
【0089】
このことから、安定化剤と塩素系酸化剤とを全残留塩素濃度が100mg−Cl/L以上になるように反応させて生成させた安定化結合塩素を含む反応溶液を用いれば、短時間で残留塩素が検出されることがなくなる。
よって、本発明の反応溶液の残留塩素は逆浸透膜を劣化させないレベルに十分に達していることから、当該反応溶液は、逆浸透膜劣化を抑制できる。さらに、当該反応溶液は安定化結合塩素を含むものであるから、逆浸透膜システムにおけるスライムを抑制して逆浸透膜のファウリングを防止することができる。
【0090】
【表1】
【0091】
[実施例3:安定化剤の使用割合]
酸化剤系薬剤と安定化剤の混合比率を変えた際の塩素の結合状態を机上にて評価した。
<手順>
純水をビーカーに用意した。試験環境の温度は25℃とした。純水にスルファミン酸濃度が20%以上となるように調製したスルファミン酸ナトリウム溶液を添加した。このスルファミン酸を含む水溶液に有効塩素濃度10%以上の次亜塩素酸ナトリウムを添加した。これにより、安定化剤及び塩素系酸化剤を含む反応溶液を調製した。
調製した反応溶液を30秒混合後の残留塩素濃度をDPD法により測定した(計算法は実施例1と同様)。この操作を、同残留塩素濃度(450mg−Cl/L)でスルファミン酸量を変えながら繰り返し行った。これにより、塩素系酸化剤及び安定化剤の使用割合変更時の塩素状態を調整し、安定化剤及び塩素系酸化剤を含む反応溶液における塩素系酸化剤及び安定化剤の使用割合が異なる反応溶液を調製した(表2参照)。
【0092】
<結果>
次亜塩素酸1molに対するスルファミン酸の添加量[mol]を表2に示す。結果から、次亜塩素酸1molに対して1.1mol以上のスルファミン酸が添加されていれば、全残留塩素の95%以上が安定化結合塩素となり、遊離塩素は被処理水中の2.0%未満に抑えることができていることがわかる。
よって、次亜塩素酸ナトリウムに対して安定化剤の添加量が少なく添加された際にも、次亜塩素酸に対してスルファミン酸を1.1モル倍以上添加されていれば、ほぼ全量が安定化結合塩素となった安定な成分を得ることができる。
【0093】
このことから、安定化剤と塩素系酸化剤とを全残留塩素濃度が100mg−Cl/L以上になるように反応させて生成させた安定化結合塩素を含む反応溶液を調製する場合、安定化剤と塩素系酸化剤との使用割合を、塩素系酸化剤1モルに対して安定化剤と1.1モル倍以上にすることが、より好適である。
これにより、本発明の反応溶液は、逆浸透膜劣化をより良好に抑制できる。さらに、当該反応溶液はより良好に安定化結合塩素を含むことができるので、逆浸透膜システムにおけるスライムを抑制して逆浸透膜のファウリングをより良好に防止することができる。
【0094】
【表2】
【符号の説明】
【0095】
1 水処理水系;2 RO膜処理部(RO膜処理);3 凝集処理部(凝集処理);4 固液分離処理部(固液分離処理);5 MF膜処理部(プレフィルター処理);6 制御部;7 安定化剤添加部;8 ハロゲン系酸化剤添加部;9 反応溶液混合部;10 反応溶液生成部
図1
図2