特許第6819823号(P6819823)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6819823ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6819823
(24)【登録日】2021年1月6日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09B 67/20 20060101AFI20210114BHJP
   C09B 47/10 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   C09B67/20 B
   C09B47/10
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2020-528482(P2020-528482)
(86)(22)【出願日】2020年4月30日
(86)【国際出願番号】JP2020018350
【審査請求日】2020年5月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【弁理士】
【氏名又は名称】財部 俊正
(72)【発明者】
【氏名】坂本 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】山路 文香
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一司
(72)【発明者】
【氏名】徳岡 真由美
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 勝徳
【審査官】 井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−284590(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/051876(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/185471(WO,A1)
【文献】 特開2009−221376(JP,A)
【文献】 特開2006−184427(JP,A)
【文献】 特開2014−181321(JP,A)
【文献】 特開2007−284589(JP,A)
【文献】 特開2007−320986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 1/00− 69/10
G02B 5/20
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を顔料化する工程を有する、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の製造方法であって、
前記ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料は、水と反応して酸を発生する化合物を用いて合成したハロゲン化亜鉛フタロシアニンを析出させて得られたものであり、
前記工程は、前記ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を水と共に混練した後、洗浄することによりハロゲン化亜鉛フタロシアニンプレ顔料を得る前処理工程と、前記ハロゲン化亜鉛フタロシアニンプレ顔料を、無機塩及び有機溶剤と共に混練する工程と、を含む、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の製造方法。
【請求項2】
前記前処理工程では、前記ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を水及び無機塩と共に混練する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記前処理工程では、加熱しながら前記ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を水と共に混練する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記前処理工程における混練時間は、1時間以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記前処理工程では、pHが5.0以上であるハロゲン化亜鉛フタロシアニンプレ顔料を得る、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記前処理工程は、前記ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を、前記ハロゲン化フタロシアニン顔料100質量部に対して、50質量部以上の水と共に混練した後、洗浄することによりハロゲン化亜鉛フタロシアニンプレ顔料を得る工程である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、着色組成物は様々な分野に用いられており、着色組成物の具体的な用途としては、印刷インキ、塗料、樹脂用着色剤、繊維用着色剤、IT情報記録用色材(カラーフィルタ、トナー、インクジェット)などが挙げられる。着色組成物に用いられる色素は、主に顔料と染料とに大別されるが、着色力の点において優勢とされている有機顔料に注目が集まっている。
【0003】
有機顔料を構成する有機化合物は、合成後には微粒子同士が凝集し、クルードと呼ばれる凝集体の状態で存在する。そのため、通常、合成後の有機化合物をそのまま顔料として用いることはできず、粒子サイズを調整するための顔料化工程が行われる。顔料化工程で顔料化される上記有機化合物の凝集体(クルード)は粗顔料と呼ばれ、当該粗顔料を混練等により磨砕することで、微細な有機顔料を得ることができる。
【0004】
有機顔料としては、カラーフィルタの緑色画素部等に用いられるハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料が注目されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2018/043548号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、顔料粒子の更なる微細化を可能とする、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の新規な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ハロゲン化亜鉛フタロシアニンの合成方法としては、例えば、クロロスルホン酸法、溶融法等が知られている。これらの方法では、水と反応して酸を発生する化合物を用いてハロゲン化亜鉛フタロシアニンを合成する。合成されたハロゲン化亜鉛フタロシアニンを水又は酸性溶液中で析出させることで、ハロゲン化亜鉛フタロシアニンの凝集体である粗顔料(ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料)が得られる。このような方法では、通常、粗顔料に上記水と反応して酸を発生する化合物等に由来する酸が付着するため、当該粗顔料を顔料化する前に、粗顔料に付着した酸を除去するための洗浄が行われる。しかしながら、本発明者らの検討の結果、ろ液のpHが洗浄に用いられる水と同等のpHになるまで粗顔料を洗浄したとしても、粗顔料の内部には酸が残留してしまうことが明らかになった。本発明は、このような検討結果に基づきなされたものである。
【0008】
すなわち、本発明の一側面は、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を顔料化する工程を有する、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の製造方法に関する。この方法で用いられる上記ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料は、水と反応して酸を発生する化合物を用いて合成したハロゲン化亜鉛フタロシアニンを析出させて得られたものであり、上記工程は、上記ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を水と共に混練する前処理工程を含む。
【0009】
上記側面の製造方法によれば、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料に内包された酸を除去することができ、これにより微細なハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を得ることができる。
【0010】
一態様において、前処理工程では、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を水及び無機塩と共に混練してよい。
【0011】
一態様において、前処理工程では、加熱しながらハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を水と共に混練してよい。
【0012】
一態様において、前処理工程における混練時間は、1時間以上であってよい。
【0013】
一態様において、前処理工程では、pHが5.0以上であるハロゲン化亜鉛フタロシアニンプレ顔料を得てよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、顔料粒子の更なる微細化を可能とする、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の新規な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は下記実施形態に何ら限定されるものではない。
【0016】
一実施形態のハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の製造方法は、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を用意する第1の工程と、当該ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を顔料化する第2の工程と、を有し、第2の工程が、当該ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を水と共に混練する前処理工程を含む。ここで、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料は、水と反応して酸を発生する化合物を用いて合成したハロゲン化亜鉛フタロシアニンを析出させて得られたものであり、ハロゲン化亜鉛フタロシアニンは、下記式(1)で表される構造を有する化合物である。
【化1】
[式(1)中、X〜X16は、各々独立に、水素原子又はハロゲン原子を表す。]
【0017】
第1の工程では、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を用意する。ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料は、1種又はハロゲン原子数の異なる複数種のハロゲン化亜鉛フタロシアニンを含有する。
【0018】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。ハロゲン化亜鉛フタロシアニンは、ハロゲン原子として、臭素原子及び塩素原子の少なくとも一方を有することが好ましく、臭素原子を有することが好ましい。ハロゲン化亜鉛フタロシアニンは、ハロゲン原子として、塩素原子及び臭素原子の一方又は両方のみを有していてもよい。すなわち、上記式(1)中のX〜X16は、塩素原子又は臭素原子であってよい。
【0019】
一態様において、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料における、式(1)で表される化合物1分子中の臭素原子の数の平均は、13個未満である。臭素原子の数の平均は、12個以下又は11個以下であってよい。臭素原子の数の平均は、0.1個以上、6個以上又は8個以上であってよい。上述の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。例えば、臭素原子の数の平均は、0.1個以上13個未満、8〜12個又は8〜11個であってよい。なお、以下の同様の記載においても、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0020】
臭素原子の数の平均が13個未満である場合、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料における、式(1)で表される化合物1分子中のハロゲン原子の数の平均は、14個以下、13個以下、13個未満又は12個以下であってよい。ハロゲン原子の数の平均は、0.1個以上であり、8個以上又は10個以上であってもよい。
【0021】
臭素原子の数の平均が13個未満である場合、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料における、式(1)で表される化合物1分子中の塩素原子の数の平均は、5個以下、3個以下、2.5個以下又は2個未満であってよい。塩素原子の数の平均は、0.1個以上、0.3個以上、0.6個以上、0.8個以上、1個以上、1.3個以上又は2個以上であってよい。
【0022】
他の一態様において、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料における、式(1)で表される化合物1分子中の臭素原子の数の平均は、13個以上である。臭素原子の数の平均は、14個以上であってよい。臭素原子の数の平均は、15個以下であってよい。
【0023】
臭素原子の数の平均が13個以上である場合、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料における、式(1)で表される化合物1分子中のハロゲン原子の数の平均は、13個以上、14個以上又は15個以上であってよい。ハロゲン原子の数の平均は、16個以下であり、15個以下であってもよい。
【0024】
臭素原子の数の平均が13個以上である場合、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料における、式(1)で表される化合物1分子中の塩素原子の数の平均は、0.1個以上又は1個以上であってよい。塩素原子の数の平均は、3個以下又は2個未満であってよい。
【0025】
上記ハロゲン原子の数(例えば、臭素原子の数及び塩素原子の数)は、例えば、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析計(日本電子株式会社製のJMS−S3000等)を用いたハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料の質量分析により特定することができる。具体的には、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料における、亜鉛原子と各ハロゲン原子の質量比から、亜鉛原子1個あたりの相対値として、各ハロゲン原子の数を算出することができる。
【0026】
第1の工程は、例えば、水と反応して酸を発生する化合物を用いてハロゲン化亜鉛フタロシアニンを合成する工程と、合成したハロゲン化亜鉛フタロシアニンを析出させてハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を得る工程とを含む。
【0027】
水と反応して酸を発生する化合物を用いてハロゲン化亜鉛フタロシアニンを合成する方法としては、例えば、クロロスルホン酸法、溶融法等が挙げられる。
【0028】
クロロスルホン酸法としては、亜鉛フタロシアニンを、クロロスルホン酸等の硫黄酸化物系の溶媒に溶解し、これに塩素ガス、臭素を仕込みハロゲン化する方法が挙げられる。この際の反応は、例えば、温度20〜120℃かつ3〜20時間の範囲で行われる。クロロスルホン酸法では、上記クロロスルホン酸等の硫黄酸化物系の溶媒が水と反応して酸を発生する化合物である。例えば、クロロスルホン酸は、水と反応して塩酸と硫酸を発生する。
【0029】
溶融法としては、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム等のハロゲン化アルミニウム、四塩化チタン等のハロゲン化チタン、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム等のアルカリ金属ハロゲン化物又はアルカリ土類金属ハロゲン化物(以下、「アルカリ(土類)金属ハロゲン化物」という)、塩化チオニルなど、各種のハロゲン化の際に溶媒となる化合物の一種又は二種以上の混合物からなる10〜170℃程度の溶融物中で、亜鉛フタロシアニンをハロゲン化剤にてハロゲン化する方法が挙げられる。溶融法では、上記ハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化チタン、アルカリ(土類)金属ハロゲン化物、塩化チオニル等のハロゲン化の際に溶媒となる化合物が水と反応して酸を発生する化合物である。例えば、塩化アルミニウムは、水と反応して塩酸を発生する。
【0030】
好適なハロゲン化アルミニウムは、塩化アルミニウムである。ハロゲン化アルミニウムを用いる上記方法における、ハロゲン化アルミニウムの添加量は、亜鉛フタロシアニンに対して、通常は、3倍モル以上であり、好ましくは10〜20倍モルである。
【0031】
ハロゲン化アルミニウムは単独で用いてもよいが、アルカリ(土類)金属ハロゲン化物をハロゲン化アルミニウムに併用すると溶融温度をより下げることができ、操作上有利になる。好適なアルカリ(土類)金属ハロゲン化物は、塩化ナトリウムである。加えるアルカリ(土類)金属ハロゲン化物の量は溶融塩を生成する範囲内でハロゲン化アルミニウム10質量部に対してアルカリ(土類)金属ハロゲン化物が1〜15質量部が好ましい。
【0032】
ハロゲン化剤としては、塩素ガス、塩化スルフリル、臭素等が挙げられる。
【0033】
ハロゲン化の温度は10〜170℃が好ましく、30〜140℃がより好ましい。さらに、反応速度を速くするため、加圧することも可能である。反応時間は、5〜100時間であってよく、好ましくは30〜45時間である。
【0034】
前記化合物の二種以上を併用する溶融法は、溶融塩中の塩化物と臭化物とヨウ化物の比率を調節したり、塩素ガス、臭素、ヨウ素等の導入量及び反応時間を変化させたりすることによって、生成するハロゲン化亜鉛フタロシアニン中における特定ハロゲン原子組成のハロゲン化亜鉛フタロシアニンの含有比率を任意にコントロールすることができるため好ましい。また、溶融法によれば、反応中の原料の分解が少なく原料からの収率がより優れ、強酸を用いず安価な装置にて反応を行うことができる。
【0035】
本実施形態では、原料仕込み方法、触媒種及びその使用量、反応温度並びに反応時間の最適化により、既存のハロゲン化亜鉛フタロシアニンとは異なるハロゲン原子組成のハロゲン化亜鉛フタロシアニンを得ることができる。
【0036】
上記いずれの方法であっても、反応終了後、得られた混合物を水又は塩酸等の酸性水溶液中に投入し、生成したハロゲン化亜鉛フタロシアニンを沈殿(析出)させる。この際、上記水と反応して酸を発生する化合物が酸を発生する。酸としては、塩酸、硫酸等が挙げられる。
【0037】
ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料としては、上記沈殿物をそのまま用いてもよいが、上記沈殿物を、濾過し、水、硫酸水素ナトリウム水、炭酸水素ナトリウム水又は水酸化ナトリウム水で洗浄し、必要に応じてアセトン、トルエン、メチルアルコール、エチルアルコール、ジメチルホルムアミド等の有機溶剤洗浄を行い、乾燥等の後処理を行ったものをハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料として用いることが好ましい。
【0038】
上記沈殿物又は上記後処理後の沈殿物を、必要に応じてアトライター、ボールミル、振動ミル、振動ボールミル等の粉砕機内で乾式磨砕したものをハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料として用いてもよい。ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料の粒度分布の算術標準偏差は、例えば、15nm以上である。ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料の粒度分布の算術標準偏差は、例えば、1500nm以下である。ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料の粒度分布の算術標準偏差がこのような範囲であると、後述する前処理工程における酸の除去効果が得られやすくなる。ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料の粒度分布の算術標準偏差は、動的光散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定することができ、具体的には以下の方法、条件で測定することができる。
<方法>
ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料2.48gを、ビックケミー社製BYK−LPN6919 1.24g、DIC株式会社製ユニディックZL−295 1.86g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート10.92gと共に0.3〜0.4 mmのジルコンビーズを用いて、東洋精機株式会社製ペイントシェーカーで2時間分散して分散体を得る。ジルコンビーズをナイロンメッシュで取り除いた後の分散体0.02gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート20gで希釈して粒度分布測定用分散体を得る。
<条件>
・測定機器:動的光散乱式粒子径分布測定装置LB−550(株式会社堀場製作所製)
・測定温度:25℃
・測定試料:粒度分布測定用分散体
・データ解析条件:粒子径基準 散乱光強度、分散媒屈折率 1.402
【0039】
上記第1の工程で得られるハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料(第2の工程で用いられるハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料)は酸(塩酸、硫酸等)を内包しており、そのpHは、例えば、4.0以下であり、3.8以下であってもよい。ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料のpHは、例えば1.5以上であり、3.5以上であってもよい。ここで、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料のpHは、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料 5gをメタノール 5gと混合した後、さらにイオン交換水 100mlと混合し、得られた混合物を5分間加熱して煮沸状態とし、さらに5分間加熱して煮沸状態を維持し、加熱後の混合物を30℃以下に放冷した後、イオン交換水で混合物の全量を100mlに調整してからろ過し、得られたろ液の25℃でのpHを測定することにより確認できる。
【0040】
第1の工程で得られるハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料が酸(塩酸、硫酸等)を内包する理由は、以下のように推察される。すなわち、ハロゲン化亜鉛フタロシアニンは、中心金属である亜鉛とイソインドリンユニット上の窒素原子との距離が長く、中心金属(亜鉛)周辺に大きな空孔を有しているため、酸性条件下でフタロシアニン環の窒素がプロトン化された後に、カウンターアニオン(例えば塩化物イオン)が中心金属(亜鉛)に接近しやすく、カウンターアニオンと中心金属(亜鉛)が結合して安定な構造をとりやすいと考えられる。そのため、例えば、ハロゲン化亜鉛フタロシアニンを沈殿させた後に、ろ液のpHが洗浄に用いられる水と同等のpHになるまで当該沈殿物を洗浄したとしても、沈殿物中に内包された酸(水と反応して酸を発生する化合物に由来する酸等)が除去され難く、粗顔料中に酸が残留してしまうと推察される。
【0041】
第2の工程は、例えば、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を水と共に混練する前処理工程と、前処理工程後のハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料(以下、「ハロゲン化亜鉛フタロシアニンプレ顔料」ともいう)をさらに混練して磨砕することで微細化する工程(微細化工程)とを含む。前処理工程及び微細化工程の混練は、例えばニーダー、ミックスマーラー等を用いて行うことができる。
【0042】
前処理工程における水の投入のタイミングは特に限定されない。前処理工程では、予め調製したハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料及び水を含む混合物を混練してよく、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料の混練中に水を加えてもよい。
【0043】
前処理工程で使用する水は、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料に内包される酸を溶解させることができるものであれば特に限定されず、脱イオン水、イオン交換水、超純水等であってよい。水の25℃でのpHは、例えば、5.5〜8.5であってよい。
【0044】
水の温度は、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料に内包された酸がより除去されやすくなる観点から、好ましくは40℃以上である。水の温度は、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料との混合中に調整してもよい。すなわち、前処理工程では、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料に内包された酸がより除去されやすくなる観点から、加熱しながらハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を水と共に混練してもよい。加熱は、水の温度が上記温度となるように行ってよい。
【0045】
水の使用量は、例えば、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料100質量部に対して、50質量部以上であってよく、500質量部以下であってよい。水の使用量が上記下限値以上であると、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料に内包された酸がより除去されやすくなる傾向がある。
【0046】
前処理工程では、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料に内包された酸がより除去されやすくなる観点から、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を、無機塩及び水と共に混練する工程であってもよい。この際、少なくとも一部の無機塩は、固体の状態で存在しており、混練時にハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料に加わる力を向上させる。したがって、無機塩が水に溶解しないように、混練時の水の温度での溶解度以上の量の無機塩を使用することが好ましい。
【0047】
無機塩としては、水溶性無機塩が好適に用いられる。例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩が好ましく用いられる。無機塩の平均粒子径は、好ましくは0.5〜50μmである。このような無機塩は、通常の無機塩を微粉砕することにより容易に得られる。
【0048】
前処理工程では有機溶剤(例えば、後述する微細化工程で用い得る有機溶剤)を使用してもよいが、有機溶剤の使用量は水の使用量よりも少ないことが好ましく、有機溶剤を使用しないことがより好ましい。有機溶剤の使用量は、例えば、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料100質量部に対して、40質量部以下であり、20質量部以下又は10質量部以下であってもよい。
【0049】
前処理工程の混練時間は、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料の量等に応じて適宜調整してよい。ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料に内包された酸がより除去されやすくなる観点では、1時間以上が好ましく、3時間以上、5時間以上又は7時間以上であってもよい。混練時間は、例えば、30時間以下、20時間以下又は10時間以下であってよい。
【0050】
混練後は、酸を含む水を充分に除去する観点から、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料の洗浄を行うことが好ましい。洗浄は、水洗(40℃未満の水による洗浄)、湯洗(40℃以上の水による洗浄)のいずれも採用できる。洗浄は、1〜5回の範囲で繰り返し行ってよい。具体的には、ろ液のpHが洗浄に用いられる水のpHと同等(例えば、両者の差が0.2以下)になるまで洗浄を行うことが好ましい。水溶性無機塩を用いた場合は、水洗することで容易に水溶性無機塩を除去することができる。洗浄後は、必要に応じて、濾過、乾燥、粉砕等の操作を行ってもよい。
【0051】
前処理工程では、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料に内包された酸をより一層除去する観点から、上記混練及び洗浄を複数回繰り返し行ってもよい。
【0052】
上記前処理工程では、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料に内包された酸の少なくとも一部が除去されたハロゲン化亜鉛フタロシアニンプレ顔料が得られる。ハロゲン化亜鉛フタロシアニンプレ顔料のpH(ハロゲン化亜鉛フタロシアニンプレ顔料 5gをメタノール 5gと混合した後、さらにイオン交換水 100mlと混合し、得られた混合物を5分間加熱して煮沸状態とし、さらに5分間加熱して煮沸状態を維持し、加熱後の混合物を30℃以下に放冷した後、イオン交換水で混合物の全量を100mlに調整してからろ過して得られるろ液の25℃でのpH)は、より微細な顔料粒子が得られやすくなる観点から、好ましくは4.0以上であり、より好ましくは5.0以上であり、さらに好ましくは6.0以上であり、特に好ましくは6.5以上である。ハロゲン化亜鉛フタロシアニンプレ顔料のpHは、例えば、8.5以下であり、7.0以下であってもよい。
【0053】
微細化工程は、ハロゲン化亜鉛フタロシアニンプレ顔料を、有機溶剤と共に混練する工程であってよく、無機塩及び有機溶剤と共に混練する工程であってもよい。微細化工程では、水を使用しないことが好ましい。水の使用量は、例えば、有機溶剤100質量部に対して、20質量部以下であり、10質量部以下又は5質量部以下であってもよい。
【0054】
有機溶剤には、ハロゲン化亜鉛フタロシアニンプレ顔料及び無機塩を溶解しないものを用いることができる。有機溶剤としては、結晶成長を抑制し得る有機溶剤を使用することが好ましい。このような有機溶剤としては水溶性有機溶剤が好適に使用できる。有機溶剤としては、例えばジエチレングリコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール、液体ポリプロピレングリコール、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−ブトキシエタノール、2−(イソペンチルオキシ)エタノール、2−(ヘキシルオキシ)エタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等を用いることができる。有機溶剤(例えば水溶性有機溶剤)の使用量は、特に限定されるものではないが、ハロゲン化亜鉛フタロシアニンプレ顔料100質量部に対して1〜500質量部が好ましい。
【0055】
微細化工程では、ハロゲン化亜鉛フタロシアニンプレ顔料を加熱しながら混練してよい。加熱温度は、より微細な顔料粒子が得られやすくなる観点から、好ましくは40℃以上であり、より好ましくは60℃以上であり、さらに好ましくは80℃以上であり、特に好ましくは90℃以上である。加熱温度は、例えば、150℃以下であってよい。
【0056】
微細化工程の混練時間は、例えば、1〜60時間であってよい。
【0057】
微細化工程では、無機塩及び有機溶剤を用いる場合、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料と、無機塩と、有機溶剤とを含む混合物が得られるが、この混合物から有機溶剤と無機塩を除去し、必要に応じてハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を主体とする固形物に対して洗浄、濾過、乾燥、粉砕等の操作を行ってもよい。
【0058】
洗浄としては、水洗、湯洗のいずれも採用できる。洗浄は、1〜5回の範囲で繰り返し行ってよい。水溶性無機塩及び水溶性有機溶剤を用いた場合は、水洗することで容易に有機溶剤と無機塩を除去することができる。必要であれば、酸洗浄、アルカリ洗浄、有機溶剤洗浄を行ってもよい。
【0059】
上記洗浄及び濾過後の乾燥としては、例えば、乾燥機に設置した加熱源による80〜120℃の加熱等により、顔料の脱水及び/又は脱溶剤をする回分式或いは連続式の乾燥等が挙げられる。乾燥機としては、一般に、箱型乾燥機、バンド乾燥機、スプレードライヤー等が挙げられる。特に、スプレードライヤーを用いるスプレードライ乾燥はペースト作製時に易分散であるため好ましい。
【0060】
乾燥後の粉砕は、比表面積を大きくしたり、一次粒子の平均粒子径を小さくしたりするための操作ではなく、例えば箱型乾燥機、バンド乾燥機を用いた乾燥の場合のように顔料がランプ状等となった際に顔料を解して粉末化するために行うものである。例えば、乳鉢、ハンマーミル、ディスクミル、ピンミル、ジェットミル等による粉砕などが挙げられる。
【0061】
上記製造方法によれば、微細なハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を得ることができる。このような効果が得られる理由を本発明者らは以下のとおり推察する。まず、顔料化の際に酸が存在する場合、酸が粒子の凝集を促進するため、顔料粒子の微細化が阻害される。一方、上記製造方法では、前処理工程において粗顔料に内包された酸が除去されるため、上記のような酸による影響を緩和することができる。そのため、上記方法によれば、微細なハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料が得られる。
【0062】
上記製造方法で得られるハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料は、カラーフィルタ用の緑色顔料として好適に用いられる。一般に、カラーフィルタの画素部に用いられる顔料の粒子が小さいほど、コントラスト及び輝度が向上する傾向がある。そのため、上記製造方法により得られたハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料をカラーフィルタ用の緑色顔料として用いる場合、優れたコントラストが得られる傾向があり、また、優れた輝度が得られる傾向がある。
【0063】
上記方法により得られるハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の一次粒子の平均粒子径(平均一次粒子径)は、例えば、30nm以下である。上記方法によれば、例えば、25nm以下の平均一次粒子径を有するハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料を得ることもできる。ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の平均一次粒子径は、10nm以上であってよい。ここで、平均一次粒子径は、一次粒子の長径の平均値であり、後述する平均アスペクト比の測定と同様にして一次粒子の長径を測定することにより求めることができる。
【0064】
ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の一次粒子の平均アスペクト比は、例えば、1.2以上、1.3以上、1.4以上又は1.5以上である。ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の一次粒子の平均アスペクト比は、例えば、2.0未満、1.8以下、1.6以下又は1.4以下である。このような平均アスペクト比を有するハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料によれば、より優れたコントラストが得られる。
【0065】
一次粒子の平均アスペクト比が1.0〜3.0の範囲にあるハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料は、アスペクト比が5以上の一次粒子を含まないことが好ましく、アスペクト比が4以上の一次粒子を含まないことがより好ましく、アスペクト比が3を超える一次粒子を含まないことがさらに好ましい。
【0066】
一次粒子のアスペクト比及び平均アスペクト比は、以下の方法で測定することができる。まず、透過型電子顕微鏡(例えば日本電子株式会社製のJEM−2010)で視野内の粒子を撮影する。そして、二次元画像上に存在する一次粒子の長い方の径(長径)と、短い方の径(短径)とを測定し、短径に対する長径の比を一次粒子のアスペクト比とする。また、一次粒子40個につき長径と、短径の平均値を求め、これらの値を用いて短径に対する長径の比を算出し、これを平均アスペクト比とする。この際、試料であるハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料は、これを溶媒(例えばシクロヘキサン)に超音波分散させてから顕微鏡で撮影する。また、透過型電子顕微鏡の代わりに走査型電子顕微鏡を使用してもよい。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
<粗顔料の合成>
(粗顔料A1の合成)
300mlフラスコに、塩化スルフリル(富士フイルム和光純薬工業株式会社製) 91g、塩化アルミニウム(関東化学株式会社製) 109g、塩化ナトリウム(東京化成工業株式会社製) 15g、亜鉛フタロシアニン(DIC株式会社製) 30g、臭素(富士フイルム和光純薬工業株式会社製) 230gを仕込んだ。130℃まで昇温し、130℃で40時間保持した。反応混合物を水に取り出した後、ろ過し、水洗し、乾燥することによりハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料(粗顔料A1)を得た。なお、水洗は、ろ液のpHと洗浄に用いられる水のpHの差が±0.2になるまで行った。
【0069】
粗顔料A1について日本電子株式会社製JMS−S3000による質量分析を行い、平均塩素数が1.8個、平均臭素数が13.2個のハロゲン化亜鉛フタロシアニンであることを確認した。なお、質量分析時のDelay Timeは500ns、Laser Intensityは44%、m/z=1820以上1860以下のピークのResolvingPower Valueは31804であった。
【0070】
(粗顔料A2の合成)
300mlフラスコに、塩化スルフリル(富士フイルム和光純薬工業株式会社製) 90g、塩化アルミニウム(関東化学株式会社製) 105g、塩化ナトリウム(東京化成工業株式会社製) 14g、亜鉛フタロシアニン(DIC株式会社製) 27g、臭素(富士フイルム和光純薬工業株式会社製) 55gを仕込んだ。130℃まで昇温し、130℃で40時間保持した。反応混合物を水に取り出した後、ろ過し、水洗し、乾燥することによりハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料(粗顔料A2)を得た。なお、水洗は、ろ液のpHが洗浄に用いられる水と同等のpHになるまで行った。
【0071】
粗顔料A2について日本電子株式会社製JMS−S3000による質量分析を行い、平均塩素数が2.9個、平均臭素数が9.3個のハロゲン化亜鉛フタロシアニンであることを確認した。なお、質量分析時のDelay Timeは510ns、Laser Intensityは40%、m/z=1820以上1860以下のピークのResolvingPower Valueは65086であった。
【0072】
(粗顔料A1及び粗顔料A2のpH測定)
300mlビーカーに、粗顔料(粗顔料A1又は粗顔料A2) 5gとメタノール 5gとをはかりこみ混合した後、さらにイオン交換水 100mlをはかりこみ、ホットスターラーで5分かけて煮沸状態とし、さらに5分間煮沸を続けた。次いで、30℃以下に放冷した後、100mlのメスシリンダーへ移し、イオン交換水で全量を100mlに調整してからろ過した。ろ液のpHと比電導度を測定した。粗顔料A1の25℃でのpHは3.7であり、比電導度は163μS/cm(マイクロジーメンス・パー・センチメートル)であった。粗顔料A2の25℃でのpHは3.4であり、比電導度は193μS/cmであった。このことから、粗顔料A1及び粗顔料A2には酸が内包されており、ろ液のpHが洗浄に用いられる水と同等のpHになるまで水洗を行ったとしても、酸を除去できないことが確認された。なお、pHは、横河電機株式会社製のPH71 パーソナルpHメータで測定し、比電導度はメトラー・トレド株式会社製のセブンイージーS30で測定した。
【0073】
<実施例1>
(前処理工程)
粗顔料A1 300g、粉砕した塩化ナトリウム 3000g及び水 600gを双腕型ニーダーに仕込み、60℃で6時間混練した。混練後、80℃のお湯に取り出し、1時間攪拌した。その後、ろ過し、湯洗し、乾燥し、粉砕することにより、ハロゲン化亜鉛フタロシアニンプレ顔料(プレ顔料B1)を得た。
【0074】
(プレ顔料B1のpH測定)
300mlビーカーに、プレ顔料B1 5gとメタノール 5gとをはかりこみ混合した後、さらにイオン交換水 100mlをはかりこみ、ホットスターラーで5分かけて煮沸状態とし、さらに5分間煮沸を続けた。次いで、30℃以下に放冷した後、100mlのメスシリンダーへ移し、イオン交換水で全量を100mlに調整してからろ過した。ろ液のpHと比電導度を測定したところ、25℃でのpHは6.6であり、比電導度は132μS/cmであった。このことから、プレ顔料B1では、内包されていた酸の少なくとも一部が除去されていることが確認された。
【0075】
(微細化工程)
プレ顔料B1 40g、粉砕した塩化ナトリウム 400g及びDEG(ジエチレングリコール) 63gを双腕型ニーダーに仕込み、80℃で8時間混練した。混練後の混合物を80℃の水2kgに取り出し、1時間攪拌した。その後、ろ過し、湯洗し、乾燥し、粉砕することにより、緑色顔料G1を得た。
【0076】
(平均一次粒子径の測定)
緑色顔料G1をシクロヘキサンに超音波分散させてから顕微鏡で撮影し、二次元画像上の凝集体を構成する一次粒子40個の平均値から、一次粒子の平均粒子径(平均一次粒子径)を算出した。一次粒子の平均粒子径は25nmであった。
【0077】
(緑色顔料G1のpH測定)
300mlビーカーに、緑色顔料G1 5gとメタノール 5gとをはかりこみ混合した後、さらにイオン交換水 100mlをはかりこみ、ホットスターラーで5分かけて煮沸状態とし、さらに5分間煮沸を続けた。次いで、30℃以下に放冷した後、100mlのメスシリンダーへ移し、イオン交換水で全量を100mlに調整してからろ過した。ろ液のpHと比電導度を測定したところ、25℃でのpHは6.7であり、比電導度は91μS/cmであった。
【0078】
(コントラスト及び輝度の評価)
ピグメントイエロー138(大日精化社製クロモファインイエロー6206EC) 1.65gを、DISPERBYK−161(ビックケミー社製) 3.85g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 11.00gと共に0.3〜0.4 mmのジルコンビーズを用いて、東洋精機株式会社製ペイントシェーカーで2時間分散して分散体を得た。
【0079】
上記分散体 4.0g、ユニディックZL−295 0.98g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 0.22gを加えて、ペイントシェーカーで混合することで調色用黄色組成物(TY1)を得た。
【0080】
実施例1で得られた緑色顔料G1 2.48gを、ビックケミー社製BYK−LPN6919 1.24g、DIC株式会社製 ユニディックZL−295 1.86g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート10.92gと共に0.3〜0.4mmのジルコンビーズを用いて、東洋精機株式会社製ペイントシェーカーで2時間分散してカラーフィルタ用顔料分散体(MG1)を得た。
【0081】
上記カラーフィルタ用顔料分散体(MG1) 4.0g、DIC株式会社製 ユニディックZL−295 0.98g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート0.22gを加えて、ペイントシェーカーで混合することでカラーフィルタ用緑色画素部を形成するための評価用組成物(CG1)を得た。
【0082】
評価用組成物(CG1)を、ソーダガラス基板上にスピンコートし、90℃で3分乾燥した後に、230℃で1時間加熱した。これにより、着色膜をソーダガラス基板上に有する、コントラスト評価用ガラス基板を作製した。なお、スピンコートする際にスピン回転速度を調整することにより、230℃で1時間加熱して得られる着色膜の厚さを1.8μmとした。
【0083】
さらに、上記で作製した調色用黄色組成物(TY1)と評価用組成物(CG1)を混合して得られる塗液を、ソーダガラス基板上にスピンコートし、90℃で3分乾燥した後に、230℃で1時間加熱した。これにより、着色膜をソーダガラス基板上に有する、輝度評価用ガラス基板を作製した。なお、調色用黄色組成物(TY1)と評価用組成物(CG1)の混合比と、スピンコートする際のスピン回転速度を調整することにより、230℃で1時間加熱して得られる着色膜のC光源における色度(x,y)が(0.275,0.570)となる着色膜を作製した。
【0084】
コントラスト評価用ガラス基板における着色膜のコントラストを壺坂電機株式会社製のコントラストテスターCT−1で測定し、輝度評価用ガラス基板における着色膜の輝度を日立ハイテクサイエンス社製U−3900で測定した。結果を表1に示す。なお、表1に示すコントラスト及び輝度は、比較例1のコントラスト及び輝度を基準とする値である。
【0085】
<実施例2〜4>
前処理工程における、混練時の加熱温度及び混練時間を、表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、プレ顔料B2〜B4を得た。また、実施例1と同様にして、プレ顔料B2〜B4のpH及び比電導度を測定した。結果を表1に示す。
【0086】
プレ顔料B1に代えてプレ顔料B2〜B4をそれぞれ用いたこと以外は、実施例1と同様にして、緑色顔料G2〜G4を得た。また、実施例1と同様にして、緑色顔料G2〜G4の平均一次粒子径、pH及び比電導度を測定した。また、緑色顔料G1に代えて緑色顔料G2〜G4をそれぞれ用いたこと以外は、実施例1と同様にして、コントラスト評価用ガラス基板及び輝度評価用ガラス基板を作製し、コントラスト及び輝度を測定した。結果を表1に示す。
【0087】
<実施例5及び6>
微細化工程における、混練時の加熱温度及び/又は混練時間を、表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、緑色顔料G5及びG6をそれぞれ得た。また、実施例1と同様にして、緑色顔料G5及びG6の平均一次粒子径、pH及び比電導度を測定した。また、緑色顔料G1に代えて緑色顔料G5又はG6を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、コントラスト評価用ガラス基板及び輝度評価用ガラス基板を作製し、コントラスト及び輝度を測定した。結果を表1に示す。
【0088】
<比較例1>
プレ顔料B1に代えて粗顔料A1を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、微細化工程を行い、緑色顔料G7を得た。すなわち、比較例1では、実施例1における前処理工程を行わなかった。また、実施例1と同様にして、緑色顔料G7の平均一次粒子径、pH及び比電導度を測定した。また、緑色顔料G1に代えて緑色顔料G7を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、コントラスト評価用ガラス基板及び輝度評価用ガラス基板を作製し、コントラスト及び輝度を測定した。結果を表1に示す。
【0089】
<比較例2>
前処理工程において、水 600gに代えて、DEG(ジエチレングリコール) 600gを用いたこと以外は、実施例3と同様にして、プレ顔料B8を得た。また、実施例1と同様にして、プレ顔料B8のpH及び比電導度を測定した。次いで、プレ顔料B1に代えて、プレ顔料B8を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、緑色顔料G8を得た。また、実施例1と同様にして、緑色顔料G8の平均一次粒子径、pH及び比電導度を測定した。また、緑色顔料G1に代えて緑色顔料G8を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、コントラスト評価用ガラス基板及び輝度評価用ガラス基板を作製し、コントラスト及び輝度を測定した。結果を表1に示す。
【0090】
<実施例7>
粗顔料A1に代えて粗顔料A2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、粗顔料の前処理を行い、プレ顔料B9を得た。また、実施例1と同様にして、プレ顔料B9のpH及び比電導度を測定した。結果を表2に示す。
【0091】
プレ顔料B1に代えてプレ顔料B9を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、緑色顔料G9を得た。また、実施例1と同様にして、緑色顔料G9の平均一次粒子径、pH及び比電導度を測定した。また、ピグメントイエロー138(大日精化社製クロモファインイエロー6206EC)に代えてピグメントイエロー185(BASF社製Paliotol Yellow D1155)を用いたこと、緑色顔料G1に代えて緑色顔料G9を用いたこと、及び、着色膜の色度(x,y)を(0.230,0.670)に調整したこと以外は、実施例1と同様にして、コントラスト評価用ガラス基板及び輝度評価用ガラス基板を作製し、コントラスト及び輝度を測定した。結果を表2に示す。
【0092】
<比較例3>
プレ顔料B9に代えて粗顔料A2を用いたこと以外は、実施例7と同様にして、微細化工程を行い、緑色顔料G10を得た。すなわち、比較例3では、実施例7における前処理工程を行わなかった。また、実施例7と同様にして、緑色顔料G10の平均一次粒子径、pH及び比電導度を測定した。また、緑色顔料G9に代えて緑色顔料G10を用いたこと以外は、実施例7と同様にして、コントラスト評価用ガラス基板及び輝度評価用ガラス基板を作製し、コントラスト及び輝度を測定した。結果を表2に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【要約】
ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を顔料化する工程を有する、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の製造方法であって、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料は、酸性化合物又は水と反応して酸を発生する化合物を用いて合成したハロゲン化亜鉛フタロシアニンを析出させて得られたものであり、上記工程は、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン粗顔料を水と共に混練する前処理工程を含む、ハロゲン化亜鉛フタロシアニン顔料の製造方法。