特許第6819841号(P6819841)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6819841ポリアリーレンエーテルケトン樹脂及びその製造方法、並びに成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6819841
(24)【登録日】2021年1月6日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】ポリアリーレンエーテルケトン樹脂及びその製造方法、並びに成形体
(51)【国際特許分類】
   C08G 67/00 20060101AFI20210114BHJP
【FI】
   C08G67/00
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2020-551593(P2020-551593)
(86)(22)【出願日】2020年6月8日
(86)【国際出願番号】JP2020022462
【審査請求日】2020年9月24日
(31)【優先権主張番号】特願2019-136053(P2019-136053)
(32)【優先日】2019年7月24日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100154759
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 貴子
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100207240
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 喜弘
(72)【発明者】
【氏名】岩楯 展行
(72)【発明者】
【氏名】矢木 直人
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−031828(JP,A)
【文献】 特開昭61−247731(JP,A)
【文献】 特開平05−295104(JP,A)
【文献】 国際公開第2019/142942(WO,A1)
【文献】 ZHANG, Zhenghui, XU, Tongwen,Poly(ether ketone)s Bearing Pendent Sulfonate Groups via Copolyacylation of a Sulfonated Monomer and Isomeric AB-Type Comonomers,Journal of Polymer Science, Part A: Polymer Chemistry,2013年11月 6日,Vol.52,p.200-207
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/00−67/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1−1)、(2−1)及び(3−1)で表される繰り返し単位を有するポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
【化1】
(式中、m1は1〜3のいずれかの整数である。)
【化2】
(式中、m2は1〜3のいずれかの整数である。)
【化3】
(式中、nは0〜2のいずれかの整数である。)
【請求項2】
前記繰り返し単位(1−1)と(3−1)の合計モル量と、前記繰り返し単位(2−1)のモル量との割合が、モル比で、95:5〜5:95の範囲である、請求項1に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
【請求項3】
下記一般式(1−2)で表されるモノマー(1−2)と、下記一般式(2−2)で表されるモノマー(2−2)と、下記一般式(3−2)で表されるモノマー(3−2)とを、有機スルホン酸及び五酸化二リンの存在下で反応させる、請求項1または2に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造方法。
【化4】
(式中、m1は1〜3のいずれかの整数である。)
【化5】
(式中、m3は0〜2のいずれかの整数である。)
【化6】
(式中、nは0〜2のいずれかの整数である。)
【請求項4】
前記モノマー(1−2)が下記モノマー(1−2−A)であり、前記モノマー(2−2)が下記モノマー(2−2−A)であり、前記モノマー(3−2)が下記モノマー(3−2−A)である、請求項3に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造方法。
【化7】
【化8】
【化9】
【請求項5】
請求項1または2に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂を含む成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂及びその製造方法、並びに成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンエーテルケトン樹脂(以下「PAEK樹脂」と略すことがある。)は、耐熱性、耐薬品性、強靭性等に優れ、高温で連続使用可能な結晶性スーパーエンプラとして、電気電子部品、自動車部品、医療用部品、繊維、フィルム用途等に幅広く利用されている。
【0003】
従来、PAEK樹脂としては、4,4’−ジフルオロベンゾフェノンとハイドロキノンの2つのモノマーを、ジフェニルスルホン中で炭酸カリウムを用いた芳香族求核置換型溶液重縮合反応(例えば、特許文献1参照)により製造される、1つの繰り返し単位中に2つのエーテル基と1つのケトン基を持つポリエーテルエーテルケトン樹脂(以下「PEEK樹脂」と略すことがある。)がよく知られている。
また、ハイドロキノンの代わりに、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンを使用することで製造される、1つの繰り返し単位中にエーテル基、ケトン基を1つずつ持つポリエーテルケトン樹脂(以下「PEK樹脂」と略すことがある。)や、1つの繰り返し単位中に1つのエーテル基、2つのケトン基を有するポリエーテルケトンケトン樹脂(以下「PEKK樹脂」と略すことがある。)もある。
【0004】
しかしながら、これらのPAEK樹脂の製造に用いられている芳香族求核置換型溶液重縮合反応は、モノマーに高価な4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを使用するため原料費が高く、かつ、反応温度が300℃以上で製造工程費も高いという欠点があり、樹脂の価格が高くなる傾向にある。
【0005】
そこで、モノマーに4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを用いることなく、かつ、温和な重合条件で、PAEK樹脂を製造する芳香族求電子置換型溶液重縮合反応が知られている。
芳香族求電子置換型溶液重縮合反応を用いた例として、4−フェノキシ安息香酸クロリドをフッ化水素−三フッ化ホウ素の存在下で反応させる方法によるPEK樹脂(例えば、特許文献2参照)、テレフタル酸クロリドとジフェニルエーテルをルイス酸の存在下で反応させる方法によるPEKK樹脂(例えば、特許文献3参照)、4−フェノキシ安息香酸をメタンスルホン酸と五酸化二リンの混合物存在下で反応させる方法によるPEK樹脂(例えば、特許文献4参照)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4320224号明細書
【特許文献2】米国特許第3953400号明細書
【特許文献3】米国特許第3065205号明細書
【特許文献4】特開昭61−247731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来のPEEK樹脂、PEK樹脂、PEKK樹脂等のPAEK樹脂は、部分結晶性のポリマーであり、そのガラス転移温度は高く耐熱性に優れるものの、結晶融点も高く、成形加工に高い温度や圧力を要して成形加工性が劣るという欠点がある。
【0008】
そこで、本発明は、耐熱性に優れ高いガラス転移温度を有し、低融点化が可能で、良好な成形加工性を有する耐衝撃性に優れたポリアリーレンエーテルケトン樹脂を提供することを目的とする。また、本発明は、このポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造に好適な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
PAEK樹脂などのスーパーエンプラは、高い耐熱性を実現するため、できるだけ不純物のない均一構造のポリマーが望ましいものとされていた。したがって、従来、PAEK樹脂としては単一の繰り返し単位を有するポリマーの開発が中心であった。しかし単一の繰り返し単位構造では結晶融点などの熱物性の調整が難しく、成形加工性の改良が困難であった。
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、剛直かつ靭性成分である下記繰り返し単位(1−1)及び下記繰り返し単位(3−1)と、柔軟成分である下記繰り返し単位(2−1)とを特定の割合で共重合させたPAEK樹脂は、結晶融点を低下させることが可能で、良好な成形加工性及び耐衝撃性を発現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含するものである。
[1]下記一般式(1−1)、(2−1)及び(3−1)で表される繰り返し単位を有するポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
【0012】
【化1】
(式中、m1は1〜3のいずれかの整数である。)
【0013】
【化2】
(式中、m2は1〜3のいずれかの整数である。)
【0014】
【化3】
(式中、nは0〜2のいずれかの整数である。)
[2]前記繰り返し単位(1−1)と(3−1)の合計モル量と、前記繰り返し単位(2−1)のモル量との割合が、モル比で、95:5〜5:95の範囲である、前記[1]に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
[3]下記一般式(1−2)で表されるモノマー(1−2)と、下記一般式(2−2)で表されるモノマー(2−2)と、下記一般式(3−2)で表されるモノマー(3−2)とを、有機スルホン酸及び五酸化二リンの存在下で反応させる、前記[1]または[2]に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造方法。
【0015】
【化4】
(式中、m1は1〜3のいずれかの整数である。)
【0016】
【化5】
(式中、m3は0〜2のいずれかの整数である。)
【0017】
【化6】
(式中、nは0〜2のいずれかの整数である。)
[4]前記モノマー(1−2)が下記モノマー(1−2−A)であり、前記モノマー(2−2)が下記モノマー(2−2−A)であり、前記モノマー(3−2)が下記モノマー(3−2−A)である、前記[3]に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造方法。
【0018】
【化7】
【0019】
【化8】
【0020】
【化9】
[5]前記[1]または[2]に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂を含む成形体。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、耐熱性に優れ高いガラス転移温度を有するとともに、低融点化が可能で、良好な成形加工性を有する耐衝撃性に優れたポリアリーレンエーテルケトン樹脂を提供することができる。また、本発明は、このポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造に好適な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のPAEK樹脂、及び該PAEK樹脂の製造方法について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の一実施態様としての一例であり、これらの内容に特定されるものではない。
【0023】
(ポリアリーレンエーテルケトン樹脂(PAEK樹脂))
本発明のPAEK樹脂は、下記一般式(1−1)、(2−1)及び(3−1)で表される繰り返し単位を有する。
【0024】
【化10】
(式中、m1は1〜3のいずれかの整数である。)
【0025】
【化11】
(式中、m2は1〜3のいずれかの整数である。)
【0026】
【化12】
(式中、nは0〜2のいずれかの整数である。)
【0027】
本発明のPAEK樹脂は、剛直かつ靭性成分である、繰り返し単位(1−1)及び(3−1)と、柔軟成分である、繰り返し単位(2−1)を有するので、繰り返し単位(1−1)及び(3−1)と繰り返し単位(2−1)との割合を調整することにより、結晶融点を制御することができる。本発明のPAEK樹脂は、結晶融点を低くすることができる。本発明のPAEK樹脂における繰り返し単位(2−1)は、PAEK樹脂の分子鎖に適度な屈曲構造を与える役割を有しており、生成する高分子の会合性の低下をもたらすと考えられる。エーテル結合を含んだ繰り返し単位(2−1)を特定の割合で含有させることによって、生成する高分子は溶解性を保持したまま溶液中に留まり、析出による分子成長の停止が阻止されると考えられる。その結果、本発明のPAEK樹脂は、高い分子量を示し、良好な成形加工性を示すとともに、優れた耐衝撃性を示す。
また繰り返し単位(2−1)は、上述したようにPAEK樹脂の分子鎖に屈曲構造を与える役割を有しており、PAEK樹脂の結晶融点を低くすることに有効に働いていると考えられる。
【0028】
本発明のPAEK樹脂において、繰り返し単位(1−1)と(3−1)の合計モル量と、上記繰り返し単位(2−1)のモル量との割合が、モル比〔(繰り返し単位(1−1)のモル量+繰り返し単位(3−1)のモル量):繰り返し単位(2−1)のモル量〕で、99:1〜5:95の範囲であることが好ましく、98:2〜30:70の範囲であることがより好ましく、96:4〜44:56の範囲であることがさらに好ましい。この割合の範囲で、繰り返し単位(2−1)のモル量に対する、繰り返し単位(1−1)及び繰り返し単位(3−1)の合計モル量の比の値を大きくすることで、ガラス転移温度(Tg)を高く調整することができ、結晶化度及び結晶融点(Tm)を高くすることができて、耐熱性に優れたPAEK樹脂とすることができる。また、この割合の範囲で、繰り返し単位(2−1)のモル量に対する、繰り返し単位(1−1)及び繰り返し単位(3−1)の合計モル量の比の値を小さくすることで、結晶融点(Tm)を比較的低くすることができ、成形加工性及び耐衝撃性に優れたPAEK樹脂とすることができる。
この割合を調整することで、本発明のPAEK樹脂のガラス転移温度(Tg)を120℃以上、より好ましくは135℃以上に調整することができる。より具体的には、120〜165℃、好ましくは125〜160℃、より好ましくは135〜155℃に調整することができる。
また、本発明のPAEK樹脂の結晶融点(Tm)を350℃以下に調整することができる。より具体的には、250〜350℃、好ましくは260〜350℃、より好ましくは265〜349℃に調整することができる。
繰り返し単位(1−1)及び(3−1)と繰り返し単位(2−1)との割合を最適化することで、耐熱性、成形加工性及び耐衝撃性に優れるPAEK樹脂とすることができる。
【0029】
(ポリアリーレンエーテルケトン樹脂(PAEK樹脂)の製造方法)
本発明のPAEK樹脂の製造方法の一の態様は、下記一般式(1−2)で表されるモノマー(1−2)と、下記一般式(2−2)で表されるモノマー(2−2)と、下記一般式(3−2)で表されるモノマー(3−2)とを、有機スルホン酸及び五酸化二リンの存在下で反応させる、PAEK樹脂の製造方法である。
【0030】
【化13】
(式中、m1は1〜3のいずれかの整数である。)
【0031】
【化14】
(式中、m3は0〜2のいずれかの整数である。)
【0032】
【化15】
(式中、nは0〜2のいずれかの整数である。)
【0033】
上記モノマー(1−2)としては、4、4’−オキシビス安息香酸(m1=1)、1,4−ビス(4−カルボキシフェノキシ)ベンゼン(m1=2)、4,4’−ビス(p−カルボキシフェノキシ)ジフェニルエーテル(m1=3)が挙げられる。
上記モノマー(2−2)としては、例えば3−フェノキシ安息香酸(m3=0)、3−(4−フェノキシフェノキシ)安息香酸(m3=1)、3−[4−(4−フェノキシフェノキシ)フェノキシ]安息香酸(m3=2)等が挙げられる。なお、m3が1または2の場合、各フェノキシ基におけるエーテル基と芳香族基との結合位置はそれぞれ独立してオルト位、メタ位、パラ位のいずれでもよいが、通常パラ位である。
上記モノマー(3−2)としては、ジフェニルエーテル(n=0)、1、4−ジフェノキシベンゼン(n=1)、4,4’−オキシビス(フェノキシベンゼン)(n=2)が挙げられる。
【0034】
本発明のPAEK樹脂の製造方法の好ましい実施態様としては、上記モノマー(1−2)が、m1=1の場合の下記モノマー(1−2−A)であり、上記モノマー(2−2)が、m3=0の場合の下記モノマー(2−2−A)であり、上記モノマー(3−2)が、n=1の場合の下記モノマー(3−2−A)である、PAEK樹脂の製造方法が挙げられる。
【0035】
【化16】
【0036】
【化17】
【0037】
【化18】
【0038】
本発明のPAEK樹脂の製造方法は、芳香族求電子置換型溶液重縮合反応であるので、温和な重合条件で反応させることができ、具体的には、有機スルホン酸及び五酸化二リンを20〜100℃で1〜40時間で混合してから、この混合液に、上記モノマー(1−2)、上記モノマー(2−2)及び上記モノマー(3−2)を添加し、混合し、昇温させてから、例えば、40〜80℃で1〜100時間、一括して反応させることで、PAEK樹脂を製造することができる。
【0039】
有機スルホン酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸等が挙げられる。中でも、脂肪族スルホン酸が好ましい。より具体的には、有機スルホン酸として、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸(トシル酸)等が挙げられる。
【0040】
有機スルホン酸の添加量と、五酸化二リンの添加量との割合は、質量比で、100:35〜100:1の範囲であることが好ましく、100:30〜100:5の範囲であることがより好ましく、100:25〜100:5の範囲であることがさらに好ましい。
【0041】
上記モノマー(1−2)、上記モノマー(2−2)及び上記モノマー(3−2)の合計の添加量と、有機スルホン酸及び五酸化二リンの合計の添加量との割合は、質量比で、1:100〜50:100の範囲であることが好ましく、2:100〜45:100の範囲であることがより好ましく、5:100〜40:100の範囲であることがさらに好ましい。
本発明のPAEK樹脂の製造において、有機スルホン酸(例えば、特にメタンスルホン酸)及び五酸化二リンを用いることにより、良好な特性を示すPAEK樹脂を製造することができる。例えば、有機スルホン酸と五酸化二リンを用いる代わりに、無水塩化アルミニウムを用いてPAEK樹脂を製造しようとすると、重合速度が速すぎて、ポリマーシーケンスの制御が困難になる。
【0042】
高分子量化の観点からは上記反応工程における上記モノマー(1−2)の添加量と、上記モノマー(3−2)の添加量との割合は、モル比で、85:100〜115:100の範囲であることが好ましく、90:100〜110:100の範囲であることがより好ましく、92:100〜108:100の範囲であることが特に好ましい。また、本発明では、上記反応工程後に、ポリマー末端のカルボキシル基を減らす目的で、末端カルボキシル基と(3−2)を反応させる末端封止工程をさらに設けることもできる。上記反応工程で添加した(3−2)とは別に末端封止工程で添加する(3−2)の添加量の割合は、上記反応工程で添加した(1−2)、(2−2)、(3−2)の合計量に対してモル比で30:100〜0.1:100の範囲であることが好ましく、20:100〜0.5:100の範囲であることがより好ましく、15:100〜1:100であることがさらに好ましい。
【0043】
上記モノマー(1−2)及び上記モノマー(3−2)の合計の添加量と、上記モノマー(2−2)の添加量との割合は、モル比で、99:1〜5:95の範囲であることが好ましく、98:2〜30:70の範囲であることがより好ましく、96:4〜44:56の範囲であることがさらに好ましい。ただし、末端封止はこの限りではない。
【0044】
<ポリアリーレンエーテルケトン樹脂(PAEK樹脂)を含有する樹脂組成物>
本発明に係るPAEK樹脂は、他の配合物と合わせて樹脂組成物を作製することができる。
他の配合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、無機フィラー、有機フィラー等が挙げられる。
フィラーの形状としては、特に限定はなく、例えば、粒子状、板状、繊維状等のフィラーが挙げられる。
PAEK樹脂を含有する樹脂組成物は、フィラーとしては繊維状フィラーを含有することがより好ましい。繊維状フィラーの中でも、カーボン繊維とガラス繊維は、産業上利用範囲が広いため、好ましい。
【0045】
<ポリアリーレンエーテルケトン樹脂(PAEK樹脂)を含む成形体>
本発明に係るPAEK樹脂は、耐熱性に優れ高いガラス転移温度(Tg)を有するとともに、低融点化が可能で、良好な成形加工性及び優れた耐衝撃性を有する。そのため、ニートレジンとしての使用や、ガラス繊維、炭素繊維、フッ素樹脂等のコンパウンドとしての使用が可能である。そして、本発明に係るPAEK樹脂を成形することで、ロッド、ボード、フィルム、フィラメント等の一次加工品や、各種射出加工品、各種切削加工品、ギア、軸受、コンポジット、インプラント、3D成形品等の二次加工品を製造することができ、これらの本発明に係るPAEK樹脂を成形してなる成形品は、自動車、航空機、電気電子、医療用部材等の利用が可能である。
【実施例】
【0046】
(ガラス転移点(Tg)及び結晶融点(Tm))
パーキンエルマー製DSC装置(Pyris Diamond)を用いて、50mL/minの窒素流下、20℃/minの昇温条件で40〜400℃まで測定を行い、ガラス転移点(Tg)及び結晶融点(Tm)を求めた。
【0047】
(5%重量減少温度(Td5(℃)))
TG−DTA装置(株式会社リガク TG−8120)を用いて、20mL/minの窒素流下、20℃/minの昇温速度で測定を行い、5%重量減少温度を測定した。
【0048】
(還元粘度(PAEK樹脂の分子量相当)dL/g)
キャノンフェンスケ粘度計(柴田科学株式会社製)を用いて、25℃において、溶媒、及び、溶媒100mL中にポリマー0.3gを溶解したポリマー溶液の流出時間を測定し、次式で還元粘度を算出した。なお溶媒には、クロロホルムとトリフルオロ酢酸を4:1の質量比で混合した溶液を用いた。
還元粘度(dL/g)=(t−t0)/(c×t0)
ここで、t0は溶媒の流出時間、tはポリマー溶液の流出時間、cはポリマー溶液中のポリマー濃度(g/dL)を示す。
【0049】
(アイゾット(Izod)衝撃強度の測定)
ノッチなしの短冊状テストピース(長さ70mm×幅5mm×厚さ2mm)をJISK7110に準拠して衝撃強度を測定した。
【0050】
(実施例1)
窒素導入管、温度計、還流冷却器、及び攪拌装置を備えた4つ口のセパラブルフラスコに、メタンスルホン酸12.38gと五酸化二リン2.97gを仕込み、100℃に昇温し、4時間撹拌した。その後80℃まで冷却後、4,4’−オキシビス安息香酸1.02g、3−フェノキシ安息香酸0.09gと1,4−ジフェノキシベンゼン1.03gとを仕込み、24時間反応させた。その後、室温まで冷却し、反応溶液を強撹拌したメタノール中に注ぎ込み、ポリマーを析出させた。そして、析出したポリマーを濾過した。
更に析出したポリマーをメタノールで2回洗浄した。次に、イオン交換水で2回洗浄した。その後、固液分離し、濾過した洗浄ケーキを真空下の180℃で10時間乾燥させることにより、ポリマーを得た。
【0051】
(実施例2)
窒素導入管、温度計、還流冷却器、及び攪拌装置を備えた4つ口のセパラブルフラスコに、メタンスルホン酸12.38gと五酸化二リン2.97gを仕込み、100℃に昇温し、4時間撹拌した。その後80℃まで冷却後、4,4’−オキシビス安息香酸1.00g、3−フェノキシ安息香酸0.19gと1,4−ジフェノキシベンゼン0.68gとを仕込み、24時間反応させた。その後、室温まで冷却し、反応溶液を強撹拌したメタノール中に注ぎ込み、ポリマーを析出させた。そして、析出したポリマーを濾過した。
更に析出したポリマーをメタノールで2回洗浄した。次に、イオン交換水で2回洗浄した。その後、固液分離し、濾過した洗浄ケーキを真空下の180℃で10時間乾燥させることにより、ポリマーを得た。
【0052】
(実施例3)
窒素導入管、温度計、還流冷却器、及び攪拌装置を備えた4つ口のセパラブルフラスコに、メタンスルホン酸128.88gと五酸化二リン30.93gを仕込み、100℃に昇温し、8時間撹拌した。その後80℃まで冷却後、4,4’−オキシビス安息香酸13.296g、3−フェノキシ安息香酸4.902gと1,4−ジフェノキシベンゼン13.506gとを仕込み、17時間反応させた。その後、1,4−ジフェノキシベンゼン1.501gを仕込み、23時間反応させた。室温まで冷却し、反応溶液を強撹拌したメタノール中に注ぎ込み、ポリマーを析出させた。そして、析出したポリマーを濾過した。
更に析出したポリマーをメタノールで2回洗浄した。次に、イオン交換水で2回洗浄した。その後、固液分離し、濾過した洗浄ケーキを真空下の180℃で10時間乾燥させることにより、ポリマーを得た。
【0053】
(実施例4)
窒素導入管、温度計、還流冷却器、及び攪拌装置を備えた4つ口のセパラブルフラスコに、メタンスルホン酸128.88gと五酸化二リン30.93gを仕込み、100℃に昇温し、5時間撹拌した。その後80℃まで冷却後、4,4’−オキシビス安息香酸10.834g、3−フェノキシ安息香酸8.988gと1,4−ジフェノキシベンゼン11.005gとを仕込み、17時間反応させた。その後、1,4−ジフェノキシベンゼン1.376gを仕込み、23時間反応させた。室温まで冷却し、反応溶液を強撹拌したメタノール中に注ぎ込み、ポリマーを析出させた。そして、析出したポリマーを濾過した。
更に析出したポリマーをメタノールで2回洗浄した。次に、イオン交換水で2回洗浄した。その後、固液分離し、濾過した洗浄ケーキを真空下の180℃で10時間乾燥させることにより、ポリマーを得た。
【0054】
(実施例5)
窒素導入管、温度計、還流冷却器、及び攪拌装置を備えた4つ口のセパラブルフラスコに、メタンスルホン酸12.38gと五酸化二リン2.97gを仕込み、100℃に昇温し、4時間撹拌した。その後80℃まで冷却後、4,4’−オキシビス安息香酸0.67g、3−フェノキシ安息香酸1.48gと1,4−ジフェノキシベンゼン0.68gとを仕込み、24時間反応させた。その後、室温まで冷却し、反応溶液を強撹拌したメタノール中に注ぎ込み、ポリマーを析出させた。そして、析出したポリマーを濾過した。
更に析出したポリマーをメタノールで2回洗浄した。次に、イオン交換水で2回洗浄した。その後、固液分離し、濾過した洗浄ケーキを真空下の180℃で10時間乾燥させることにより、ポリマーを得た。
【0055】
(実施例6)
窒素導入管、温度計、還流冷却器、及び攪拌装置を備えた4つ口のセパラブルフラスコに、メタンスルホン酸12.29gと五酸化二リン2.95gを仕込み、100℃に昇温し、4時間撹拌した。その後80℃まで冷却後、4,4’−オキシビス安息香酸1.03g、3−フェノキシ安息香酸0.86gと1,4−ジフェノキシベンゼン1.05gとを仕込み、17時間反応させた。その後、室温まで冷却し、反応溶液を強撹拌したメタノール中に注ぎ込み、ポリマーを析出させた。そして、析出したポリマーを濾過した。
更に析出したポリマーをメタノールで2回洗浄した。次に、イオン交換水で2回洗浄した。その後、固液分離し、濾過した洗浄ケーキを真空下の180℃で10時間乾燥させることにより、ポリマーを得た。
【0056】
実施例1〜6に係るPAEK樹脂のガラス転移温度(Tg)、結晶融点(Tm)、5%重量減少温度(Td5(℃))、還元粘度(dL/g)、及びアイゾット(Izod)衝撃強度を測定し、結果を表1−1に示した。なお、実施例5及び6のポリマーは明確な融点を持たない非晶性ポリマーであった。
【0057】
(比較例1)
窒素導入管、温度計、還流冷却器、及び攪拌装置を備えた4つ口のセパラブルフラスコに、メタンスルホン酸12.38gと五酸化二リン2.97gを仕込み、100℃に昇温し、4時間撹拌した。その後80℃まで冷却後、3−フェノキシ安息香酸2.63gを仕込み、24時間反応させた。その後、室温まで冷却し、反応溶液を強撹拌したメタノール中に注ぎ込み、ポリマーを析出させた。そして、析出したポリマーを濾過した。
更に析出したポリマーをメタノールで2回洗浄した。次に、イオン交換水で2回洗浄した。その後、固液分離し、濾過した洗浄ケーキを真空下の180℃で10時間乾燥させることにより、ポリマーを得た。比較例1に係るPAEK樹脂のガラス転移温度(Tg)、結晶融点(Tm)、5%重量減少温度(Td5(℃))、還元粘度(dL/g)、及びアイゾット(Izod)衝撃強度を測定し、結果を表1−2に示した。なお、比較例1のポリマーは明確な融点を持たない非晶性ポリマーであった。
【0058】
(比較例2)
比較例2に係るPEEK樹脂として、ビクトレックス社製:VICTREX PEEK 150Pを準備し、そのガラス転移温度(Tg)、結晶融点(Tm)、5%重量減少温度(Td5(℃))、還元粘度(dL/g)、及びアイゾット(Izod)衝撃強度を測定し、結果を表1−2に示した。
【0059】
(比較例3)
比較例3に係るPEK樹脂として、ビクトレックス社製:VICTREX HTを準備し、そのガラス転移温度(Tg)、結晶融点(Tm)、5%重量減少温度(Td5(℃)、還元粘度(dL/g)、及びアイゾット(Izod)衝撃強度を測定し、結果を表1−2に示した。
【0060】
(比較例4)
窒素導入管、温度計、還流冷却器、および撹拌装置を備えた4つ口のセパラブルフラスコに、メタンスルホン酸818gと五酸化二リン82gを仕込み、窒素雰囲気下の室温で20時間撹拌した。その後、イソフタル酸12.4gとジフェニルエーテル42.5gを仕込み、60℃まで昇温後、10時間反応させた。その後、4,4’−オキシビス安息香酸45.1gを添加し、更に40時間反応させた。室温まで冷却後、反応溶液を強撹拌したメタノール中に注ぎ込み、ポリマーを析出させ、濾過した。更にポリマーをメタノールで2回洗浄した。次に、イオン交換水で2回洗浄した。その後、ポリマーを真空下の180℃で10時間乾燥させることにより、ポリマーを得た。
比較例4に係るPAEK樹脂のガラス転移温度(Tg)、結晶融点(Tm)、5%重量減少温度(Td5(℃))、還元粘度(dL/g)、及びアイゾット(Izod)衝撃強度を測定し、結果を表1−2に示した。
【0061】
【表1-1】
【0062】
【表1-2】
但し、上記表1−2中、比較例4については、繰り返し単位(2−1)は、イソフタル酸の繰り返し単位に読み替えてモル%を表示している。
【0063】
表1−1に示されるように、実施例のPAEK樹脂は、ガラス転移温度(Tg)を135℃以上に調整することができ、市販のPEEK樹脂(比較例2)やPEK樹脂(比較例3)と同等の耐熱性に優れた樹脂であることがわかる。また、実施例のPAEK樹脂は、このように優れた耐熱性を保持したまま、340℃以下の結晶融点(Tm)に制御することが可能であり、この結晶融点(Tm)は市販のPEEK樹脂(比較例2)やPEK樹脂(比較例3)の結晶融点(Tm)(373℃)よりも低いので、良好な成形加工性を有し、また、PEEK樹脂(比較例2)、PEK樹脂(比較例3)と同程度の耐衝撃性を有し、比較例4と比較し、エーテル結合の比率が増加しているため、耐衝撃性が優れていることがわかる。なお、繰り返し単位(1−1)及び(3−1)を有さない比較例1のPAEK樹脂は、実施例のPAEK樹脂と比較し、ガラス転移温度(Tg)及び5%重量減少温度(Td5)の値が低く、耐熱性に劣ることがわかる。
【0064】
本出願は、2019年7月24日に出願された日本出願特願2019−136053号に基づく優先権を主張し、当該日本特許出願に記載されたすべての記載内容を援用する。

【要約】
下記一般式(1−1)、(2−1)及び(3−1)で表される繰り返し単位を有するポリアリーレンエーテルケトン樹脂である。
(式中、m1は1〜3のいずれかの整数である。)
(式中、m2は1〜3のいずれかの整数である。)
(式中、nは0〜2のいずれかの整数である。)