(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれ、また、ハイブリット自動車をはじめとする電気自動車用の電池として高出力の二次電池の開発も強く望まれている。このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。
【0003】
このリチウムイオン二次電池は、負極および正極の活物質に、リチウムが脱離および挿入できる材料が用いられている。このようなリチウムイオン二次電池については、現在研究、開発が盛んに行われているところであるが、中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0004】
これまでに提案されている活物質材料としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO
2)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO
2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn
2O
4)などが挙げられる。このうちリチウムニッケル複合酸化物、及びリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、サイクル特性が良く、低抵抗で高出力が得られ電池特性に優れた材料として注目され、近年さらには高出力化に必要な低抵抗化が重要視されている。
【0005】
上記の活物質材料に対して、さらなる低抵抗化を実現する方法としては、リチウムイオン伝導性物質を、活物質材料に被覆する手法が用いられており、とりわけ、タングステン酸リチウムやケイ酸リチウムなどが有用とされ、他の金属元素についても研究が進んでいる。
【0006】
例えば、特許文献1には、活物質材料であるリチウムニッケル複合酸化物粉末に、タングステン酸リチウムを混合させることで、正極抵抗が低減し出力特性が改善されることが報告されているが、リチウムイオン伝導性物質として、ランタンを含む化合物、ひいては、本発明に関わるランタンニオブ酸リチウムを用いるとの記載は一切ない。
【0007】
また、特許文献2は、固体電解質を用いたリチウム二次電池に関する発明が記載され、この固体電解質としてランタンニオブ酸リチウムを用いたものが開示されているが、本文献は、電解質に関する発明であり、正極の低抵抗化に関しては、何ら記載はない。
【0008】
また、特許文献3には、リチウムイオン二次電池正極用の表面修飾リチウム含有複合酸化物に関する発明が記載され、この発明によりサイクル耐久性、安全性に優れたリチウムイオン二次電池が提供できるとされている。しかし、表面修飾化合物として挙げられているのは、リチウムを含まない、ニオブ等の金属元素と酸素元素とのみからなる金属酸化物であり、加えて金属酸化物の被膜により高出力化を達成できるとする記載もない。
【0009】
また、非特許文献1には、リチウムニッケル複合酸化物粉末の表面に酸化ランタンが被覆されることで、二次電池のサイクル特性が改善すること、および絶縁体の酸化ランタンが被覆されても、出力は改善されないことが開示されている。さらに、非特許文献1では、表面被覆材料として、リチウムイオン伝導性物質であるランタンニオブ酸リチウムを用いることに関しては一切記載されていない。以上から、リチウムイオン伝導性物質であるランタンニオブ酸リチウムが、リチウムイオン二次電池の正極活物質の表面被覆材として用いられた報告例はないのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は係る問題点に鑑み、正極に用いられた場合に高容量の低下を抑制しながら高出力が得られる非水系電解質二次電池用正極材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため、非水系電解質二次電池用正極活物質として用いられるリチウム金属複合酸化物の粉体特性および電池の正極抵抗に対する影響について鋭意研究したところ、リチウム金属複合酸化物粉末と、ランタンニオブ酸リチウム粉末と、を単に混合することで、電池の正極抵抗を大幅に低減して出力特性を向上させることが可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
第1発明の非水系電解質二次電池用正極材料は、一般式Li
zNi
1−x−yCo
xM
yO
2(ただし、0.01≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.97≦z≦1.20、Mは添加元素であり、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物粉末と、ランタンニオブ酸リチウム粉末と、の混合物を含むことを特徴とする。
第2発明の非水系電解質二次電池用正極材料は、第1発明において、前記正極材料に含まれるランタンニオブ酸リチウム粉末は、粒径が0.01〜0.5μmの範囲にあることを特徴とする。
第3発明の非水系電解質二次電池用正極材料は、第1発明または第2発明において、前記ランタンニオブ酸リチウムに含まれる、ランタンおよびニオブ量の合計量が、前記リチウム金属複合酸化物粉末に含まれるニッケル、コバルトおよびMの原子数の合計に対して、0.1〜3.0原子%であることを特徴とする。
第4発明の非水系電解質二次電池用正極材料は、第1発明から第3発明のいずれかにおいて、前記ランタンニオブ酸リチウムがLi
5La
3Nb
2O
12であることを特徴とする。
第5発明の非水系電解質二次電池用正極材料は、第1発明から第4発明のいずれかにおいて、前記正極材料には、さらに非水系有機溶剤が含まれることを特徴とする。
第6発明の非水系電解質二次電池は、第1発明から第5発明のいずれかの非水系電解質二次電池用正極材料を含む正極を有することを特徴とする。
第7発明の非水系電解質二次電池用正極材料の製造方法は、一般式Li
zNi
1−x−yCo
xM
yO
2(ただし、0.01≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.97≦z≦1.20、Mは添加元素であり、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物粉末と、ランタンニオブ酸リチウム粉末と、を混合する工程を含むことを特徴とする。
第8発明の非水系電解質二次電池用正極材料の製造方法は、第7発明において、前記ランタンニオブ酸リチウム粉末は、粒径が0.01〜0.5μmの範囲にあることを特徴とする。
第9発明の非水系電解質二次電池用正極材料の製造方法は、第7発明または第8発明において、前記リチウム金属複合酸化物粉末と、前記ランタンニオブ酸リチウムと、を混合する工程の前に、前記リチウム金属複合酸化物粉末を水洗する工程を含むことを特徴とする。
第10発明の非水系電解質二次電池用正極材料の製造方法は、第7発明から第9発明のいずれかにおいて、前記ランタンニオブ酸リチウムに含まれる、ランタンおよびニオブ量の合計量が、前記リチウム金属複合酸化物粉末に含まれるニッケル、コバルトおよびMの原子数の合計に対して、0.1〜3.0原子%であることを特徴とする。
第11発明の非水系電解質二次電池用正極材料の製造方法は、第7発明から第10発明のいずれかにおいて、前記ランタンニオブ酸リチウムがLi
5La
3Nb
2O
12であることを特徴とする。
第12発明の非水系電解質二次電池用正極材料の製造方法は、第7発明から第11発明のいずれかにおいて、前記リチウム金属複合酸化物粉末と、前記ランタンニオブ酸リチウムと、を混合する工程において、非水系有機溶剤を添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1発明によれば、あらかじめ定められたリチウム金属複合酸化物粉末と、ランタンニオブ酸リチウム粉末と、の混合物を含む非水系電解質二次電池用正極材料により、この正極材料が、電池の正極に用いられた場合に、高容量とともに高出力な非水系電解質二次電池を実現することができる。
第2発明によれば、ランタンニオブ酸リチウム粉末の粒径が0.01〜0.5μmの範囲にあることで、ランタンニオブ酸リチウムの正極材料内の分散性を向上させることができ、正極材料内でニオブ酸リチウムが均一に混合され、さらに高容量とともに高出力な非水系電解質二次電池を実現することができる。
第3発明によれば、ランタンニオブ酸リチウムに含まれる、ランタンおよびニオブの合計量が、リチウム金属複合酸化物粉末に含まれるニッケル、コバルトおよびMの原子数の合計に対して、0.1〜3.0原子%であることにより、非水系電解質二次電池の、高い充放電容量と出力特性を両立することができる。
第4発明によれば、ランタンニオブ酸リチウム粉末が、Li
5La
3Nb
2O
12であることにより、この化合物が、高いリチウムイオン伝導率を有するものであるので、リチウム金属複合酸化物粉末と混合することで、非水系電解質二次電池の、より高い充放電量と出力特性を得ることができる。
第5発明によれば、正極材料には、さらに非水系有機溶剤が含まれることにより、微粒子であるランタンニオブ酸リチウムの凝集が抑制され、正極材料中でのランタンニオブ酸リチウムの分散性が一層向上する。
第6発明によれば、非水系電解質二次電池が、第1発明から第5発明のいずれかに記載の非水系電解質二次電池用正極材料を含む正極を有することにより、高容量とともに高出力な非水系電解質二次電池を得ることができる。
第7発明によれば、あらかじめ定められたリチウム金属複合酸化物粉末と、ランタンニオブ酸リチウム粉末と、を混合する、非水系電解質二次電池用正極材料の製造方法により、リチウム金属複合酸化物粉末とランタンニオブ酸リチウム粉末との混合物を含む正極材料が得られ、この正極材料が電池の正極に用いられると、高容量とともに高出力な非水系電解質二次電池を実現することができる。
第8発明によれば、粒径が0.01〜0.5μmの範囲にあるランタンニオブ酸リチウム粉末を用いることで、ランタンニオブ酸リチウムの正極材料内の分散性を向上させることができる。
第9発明によれば、リチウム金属複合酸化物粉末と、ランタンニオブ酸リチウム粉末と、を混合する前に、リチウム金属複合酸化物粉末を水洗する工程を含むことにより、製造された正極材料の電池容量および安全性を向上させることができる。
第10発明によれば、ランタンニオブ酸リチウムに含まれる、ランタンおよびニオブの合計量が、リチウム金属複合酸化物粉末に含まれるニッケル、コバルトおよびMの原子数の合計に対して、0.1〜3.0原子%であることにより、製造された非水系電解質二次電池において、高い充放電容量と出力特性を両立することができる。
第11発明によれば、ランタンニオブ酸リチウムが、Li
5La
3Nb
2O
12であることにより、この化合物が、高いリチウムイオン伝導率を有するものであるので、この化合物がリチウム金属複合酸化物粉末と混合することで、非水系電解質二次電池の高い充放電量と出力特性を得ることができる。
第12発明によれば、リチウム金属複合酸化物粉末と、ランタンニオブ酸リチウム粉末と、を混合する際に、非水系有機溶剤を添加することにより、微粒子であるランタンニオブ酸リチウムの凝集が抑制され、正極材料中でのランタンニオブ酸リチウムの分散性が一層向上する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明するが、まず本発明に係る正極材料について説明した後、その製造方法および該正極材料を含む正極を有する非水系電解質二次電池について説明する。
【0018】
(1)正極材料
本発明の非水系電解質二次電池用正極材料は、一般式Li
zNi
1−x−yCo
xM
yO
2(ただし、0.01≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.97≦z≦1.20、Mは添加元素であり、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、一次粒子と、一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物粉末と、ランタンニオブ酸リチウム粉末と、の混合物を含むことを特徴とするものである。
本発明においては、母材となる正極活物質として上記一般式で表されるリチウム金属複合酸化物粉末を用いることにより、高い充放電容量が得られ、さらにリチウム金属複合酸化物粉末と、ランタンニオブ酸リチウム粉末とを混合することにより、充放電容量の低下を抑制しながら出力特性を向上させるものである。
【0019】
通常、正極活物質の表面が異種化合物により完全に被覆されてしまうと、リチウムイオンの移動(インターカレーション)が大きく制限されるため、結果的にリチウム複合酸化物の持つ高容量という長所が損なわれてしまう。また、リチウム複合酸化物中に異種元素を固溶させることは、容量の低下を招きやすい。
一方で、リチウムイオン伝導率が高い化合物はリチウムイオンの移動を促す効果があるため、正極活物質の表面をこのような高リチウム伝導性物質で被覆することにより正極活物質の表面におけるインターカレーションの促進が可能である。しかし、従来の一般的な被覆手法では熱処理等の後処理が必要であり、正極活物質が有する優れた電池特性の劣化を招く恐れもある。
【0020】
ランタンニオブ酸リチウムもリチウムイオン伝導率が高い化合物であるが、ランタンニオブ酸リチウムは、リチウム金属複合酸化物と単に混合して、リチウム金属複合酸化物の粒子間に分散させるのみで、リチウムの移動を促進して、大幅に正極抵抗を低減できることを、本発明者は見出した。このニオブ酸リチウムが正極材料中に均一に存在し、活物質表面に接触することで、電解液もしくは正極活物質に作用して、電解液と正極活物質界面との間でリチウムの伝導パスが形成され、活物質の反応抵抗を低減して出力特性を向上させることができる。
【0021】
正極材料内でランタンニオブ酸リチウムが不均一に分布された場合は、リチウム金属複合酸化物の粒子間でリチウムイオンの移動が不均一となるため、特定のリチウム金属複合酸化物粒子に負荷がかかり、サイクル特性の悪化や反応抵抗の上昇を招きやすい。したがって、正極材料内において均一にランタンニオブ酸リチウムが分布されていることが好ましい。
【0022】
したがって、上記ニオブ酸リチウムを正極材料内で均一に分散させる必要があり、ランタンニオブ酸リチウムの粒径を0.01〜0.5μmの範囲とすることで、ランタンニオブ酸リチウムの分散性を向上させることができた。その粒径が0.01μm未満では、十分なリチウムイオン伝導度を有しない微細なランタンニオブ酸リチウムの粒子が含まれ、このような微粒子が多く存在する部分では上記効果が得られず、結果的に不均一に分散された場合と同様にサイクル特性の悪化や反応抵抗の上昇が起きる。加えて、粉砕コストがかかり過ぎることがある。
また、粒径が0.5μmを超えると、正極材料内にランタンニオブ酸リチウムを均一に分散させることができず、反応抵抗の低減効果が十分に得られない。粒径は、レーザー回折散乱法を用いて測定することができ、D10以上D90以下を粒径の範囲とする。ここで、D10は、各粒径における粒子数を粒径の小さい側から累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の10%となる粒径を意味している。また、D90は、同様に粒子数を累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の90%となる粒径を意味している。
なお、粒径が上記範囲を超える場合には、混合前に粉砕することが好ましい。
【0023】
このランタンニオブ酸リチウムに含まれる、ランタンおよびニオブの合計量は、混合するリチウム金属複合酸化物に含まれるニッケル、コバルトおよびMの原子数の合計に対して、0.1〜3.0原子%とすることが好ましい。これにより、高い充放電容量と出力特性を両立することができる。ランタンとニオブ量の合計が0.1原子%未満では、出力特性の改善効果が十分に得られない場合があり、ランタンとニオブ量の合計が3.0原子%を超えると、ニオブ酸リチウムが多くなり過ぎてリチウム金属複合酸化物と電解液のリチウム伝導が阻害され、充放電容量が、特に正極材料の重量あたりの充放電容量が低下することがある。
【0024】
このランタンニオブ酸リチウムがLi
5La
3Nb
2O
12であることが好ましい。このランタンニオブ酸リチウムは、高いリチウムイオン伝導率を有するものであり、リチウム金属複合酸化物粉末と混合することで上記効果が十分に得られる。
【0025】
さらに、正極材料は、非水系有機溶剤をさらに含むことが好ましい。これにより、微粒子であるランタンニオブ酸リチウムの凝集が抑制され、正極材料中でのランタンニオブ酸リチウムの分散性が一層向上する。非水系有機溶剤としては、例えばN−メチル−2−ピロリジノンが該当するが、特にこれに限定されない。しかし、後述する正極の作成時に使用する非水系有機溶剤と同じものを用いるのが望ましい。使用する非水系有機溶剤を限定することで、異物混入の可能性を抑えることができるからである。
【0026】
リチウム金属複合酸化物のリチウム量は、リチウム金属複合酸化物中のニッケル、コバルトおよびMの原子数の和(Me)とリチウム(Li)の原子数との比(Li/Me)で0.97〜1.20である。
Li/Meが0.97未満であると、上記正極材量を用いた非水系電解質二次電池における正極の反応抵抗が大きくなるため、電池の出力が低くなってしまう。また、Li/Meが1.20を超えると、正極活材料の放電容量が低下するとともに、正極の反応抵抗も増加してしまう。そこで、より大きな放電容量を得るためには、Li/Meを1.10以下とすることが好ましい。
【0027】
Coおよび添加元素Mは、サイクル特性や出力特性などの電池特性を向上させるために添加するものであるが、これらの添加量を示すxおよびyが0.35を超えると、Redox反応に貢献するNiが減少するため、電池容量が低下する。
一方、Coの添加量を示すxが0.01未満になると、サイクル特性や熱安定性が十分に得られない。したがって、電池に用いたときに十分な電池容量を得るためには、Mの添加量を示すyを0.15以下とすることが好ましい。
【0028】
また、電解液との接触面積を多くすることが、出力特性の向上に有利であることから、一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物粒子を用いる。
リチウム金属複合酸化物粉末は、比表面積が0.5〜2m
2/gであることが好ましい。比表面積が0.5m
2/g未満になると、電解液との接触が十分に得られず、出力特性や電池容量が低下することがある。また、比表面積が2m
2/gを超えると、電解液の分解が促進され熱安定性が低下するがある。比表面積を0.5〜2m
2/gとすることにより、電解液との接触を高めて出力特性や電池容量をより良好なものとするとともに熱安定性安も確保することができる。また、正極材料の好ましい態様においては、正極材料の比表面積はリチウム金属複合酸化物粉末と同程度となる。
【0029】
本発明の正極材料は、リチウム金属複合酸化物粉末と、ランタンニオブ酸リチウムの微粉末を混合することにより出力特性を改善したものであり、正極活物質としてのリチウム金属複合酸化物の粒径、タップ密度などの粉体特性は、通常に用いられる正極活物質の範囲内であれば良く、また、リチウム金属複合酸化物は、公知の方法で得られたものでよく、上記組成および粉体特性を満たすものを用いることができる。
リチウム金属複合酸化物粉末と、ランタンニオブ酸リチウムを混合することにより得られる効果は、たとえば、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物など、本発明で掲げた正極活物質だけでなく一般的に使用されるリチウム二次電池用正極活物質にも適用できる。
【0030】
図1には本発明の実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極材料の製造方法を示す。本発明の非水系電解質二次電池用正極材料の製造方法は、母材としての正極活物質として一般式Li
zNi
1−x−yCo
xM
yO
2(ただし、0.01≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.97≦z≦1.20、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物粉末と、ランタンニオブ酸リチウム粉末、好ましくは粒径0.01〜0.5μmのランタンニオブ酸リチウム粉末を混合するものである。
【0031】
リチウム金属複合酸化物粉末とランタンニオブ酸リチウムは、正極材料内で微粒子を均一に分散させ、正極活物質表面に微粒子を接触させるため十分混合する。
【0032】
さらに、前記リチウム金属複合酸化物粉末と、前記ランタンニオブ酸リチウムを混合する際に、非水系有機溶剤を添加することが好ましい。これにより、ランタンニオブ酸リチウムの凝集が抑制され、正極材料内で微粒子をさらに均一に分散させることができる。非水系有機溶剤としては、例えばN−メチル−2−ピロリジノンが該当するが、特にこれに限定されない。しかし、後述する正極の作成時に使用する非水系有機溶剤と同じものを用いるのが望ましい。使用する非水系有機溶剤を限定することで、異物混入の可能性を抑えることができるからである。
【0033】
その混合には、一般的な混合機を使用することができ、例えば、シェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどを用いてリチウム金属複合酸化物粒子の形骸が破壊されない程度で、ニオブ酸リチウムを十分に混合してやればよい。
これにより、ランタンニオブ酸リチウムの微粒子を、リチウム金属複合酸化物粉末表面に均一に分布させることができる。
【0034】
本発明の製造方法においては、正極材料の電池容量および熱安定性を向上させるために、上記混合工程の前に、さらにリチウム金属複合酸化物粉末を水洗することができる。
この水洗は、公知の方法および条件でよく、リチウム金属複合酸化物粉末から過度にリチウムが溶出して電池特性が劣化しない範囲で行えばよい。
水洗した場合には、ランタンニオブ酸リチウムと混合しても、固液分離のみで乾燥せずにランタンニオブ酸リチウムと混合した後、乾燥してもいずれの方法でもよい。
また乾燥は、公知の方法および条件でよく、リチウム金属複合酸化物の電池特性が劣化しない範囲で行えばよい。
【0035】
(2)非水系電解質二次電池
本発明の非水系電解質二次電池は、正極、負極および非水系電解液などからなり、一般の非水系電解質二次電池と同様の構成要素により構成される。
なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本発明の非水系電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基に、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、本発明の非水系電解質二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
【0036】
(a)正極
本発明による非水系電解質二次電池用正極材料を用いて、例えば、以下のようにして、非水系電解質二次電池の正極を作製する。
まず、粉末状の正極材料、導電材、結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭、粘度調整等の目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製する。
ここで、正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、非水系電解質二次電池の性能を決定する重要な要素となる。
そのため、溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量部とした場合、一般の非水系電解質二次電池の正極と同様、正極活物質の含有量を60〜95質量部とし、導電材の含有量を1〜20質量部とし、結着剤の含有量を1〜20質量部とすることが望ましい。
【0037】
得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じ、電極密度を高めるべく、ロールプレス等により加圧することもある。
このようにして、シート状の正極を作製することができる。
作製したシート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等をして、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、前記例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。
【0038】
正極の作製にあたって、導電剤としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。
必要に応じ、正極活物質、導電材、活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加する。
使用する溶剤としては、具体的には、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することができる。
【0039】
(b)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金等、あるいは、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
【0040】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、コークス等の炭素物質の粉状体を用いることができる。
この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDF等の含フッ素樹脂等を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0041】
(c)セパレータ
正極と負極との間には、セパレータを挟み込んで配置する。
セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
【0042】
(d)非水系電解液
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等から選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0043】
支持塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、LiN(CF
3SO
2)
2等、およびそれらの複合塩を用いることができる。
さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤等を含んでいてもよい。
【0044】
(e)非水系電解質二次電池の形状、構成
以上のように説明してきた正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される本発明の非水系電解質二次電池の形状は、円筒型、積層型等、種々のものとすることができる。
いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リード等を用いて接続し、電池ケースに密閉して、非水系電解質二次電池を完成させる。
【0045】
(f)特性
本発明の正極材料を含む正極を有する非水系電解質二次電池は、高容量で高出力となる。
特により好ましい形態で得られた正極材料を用いた非水系電解質二次電池は、例えば、2032型コイン電池の正極に用いた場合、165mAh/g以上の高い初期放電容量と低い正極抵抗が得られ、さらに高容量で高出力である。また、熱安定性が高く、安全性においても優れているものである。
【0046】
正極界面抵抗はコイン型セルを充電電位4.0Vまで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタットを使用して、交流インピーダンス測定を行い
図2に模式図として示すようなインピーダンススペクトルを得た。得られたインピーダンススペクトルには、高周波領域と中間周波領域とに2つの半円が観測され、低周波領域に直線が観察されていることから、
図3に示す等価回路モデルを組んで正極界面抵抗を解析した。ここで、Rsはバルク抵抗、R1は正極被膜抵抗、Rctは電解液/正極界面抵抗(界面のLi+移動抵抗)、Wはワーブルグ成分を示す。
【実施例】
【0047】
本発明により得られた正極材料を用いた正極を有する非水系電解質二次電池について、その正極界面抵抗を確認した。
以下、本発明の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0048】
(電池の製造および評価)
得られた非水系電解質二次電池用正極活物質の評価は、以下のように
図4に示す電池を作製し、正極界面抵抗を測定することで行なった。
非水系電解質二次電池用正極材料52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚み100μmにプレス成形して、正極(評価用電極)1を作製した。
次に作製した正極1を真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。
乾燥した正極(評価用電極)1、負極2、セパレータ3および電解液とを用いて、
図4のコイン型電池10を、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
負極2には、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用い、電解液には、1MのLiPF
6を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(宇部興産株式会社製)を用いた。セパレータ3には膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。また、コイン型電池10は、ガスケット4とウェーブワッシャー5を有し、正極缶6と負極缶7とでコイン状の電池に組み立てられた。
【0049】
製造したコイン型電池10の性能を示す正極抵抗は、コイン型電池10を充電電位4.0Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン社製、1255B)を使用して交流インピーダンス法により測定して
図2に示すインピーダンススペクトルを得た。
得られたインピーダンススペクトルには、高周波領域と中間周波領域とに2つの半円が観測され、低周波領域に直線が観察されていることから、
図3に示す等価回路モデルを組んで正極界面抵抗を解析した。ここで、Rsはバルク抵抗、R1は正極被膜抵抗、Rctは電解液/正極界面抵抗(界面のLi+移動抵抗)、Wはワーブルグ成分、CPE1、CPE2は定相要素を示す。
【0050】
(実施例1)
ニッケルを主成分とする酸化物と水酸化リチウムを混合して焼成する公知の技術で得られたLi
1.02Ni
0.82Co
0.15Al
0.03O
2で表されるリチウム金属複合酸化物粉末を1.5g/mlの条件で水洗して正極材料の母材とした。母材の比表面積は、1.35m
2/gであった。 なお、組成はICP法により分析しランタンニオブ酸リチウムの粒径はレーザー回折散乱法により確認を行い、比表面積は窒素ガス吸着BET法を用いて評価した。
【0051】
LaNb添加材料である粒径5〜80μmのランタンニオブ酸リチウム(Li
5La
3Nb
2O
12)粉末を、自転・公転ミキサーを用いて十分に粉砕し、粒径0.01〜0.5μmのランタンニオブ酸リチウム粉末を得た。作製したリチウム金属複合酸化物粉末20gに、粒径0.01〜0.5μmのランタンニオブ酸リチウム(Li
5La
3Nb
2O
12)粉末0.18gを添加し、さらに、N−メチル−2−ピロリドンを加えて、自転・公転ミキサーを用いて十分に混合して、ランタンニオブ酸リチウムとリチウム金属複合酸化物粉末の混合物を得て正極材料とした。
この正極材料中の、LaおよびNbの含有量をICP法により分析したところ、ニッケル、コバルトおよびMの原子数の合計に対して0.1原子%の組成であることを確認した。
これより、ランタンニオブ酸リチウム粉末とリチウム金属複合酸化物粉末の混合物の配合と正極材料の組成が同等であることも確認した。
【0052】
(電池評価)
得られた正極材料を用いて形成された正極を有するコイン型電池10について、電池特性を評価した。
【0053】
(実施例2)
母材となるリチウム金属複合酸化物粉末にランタンニオブ酸リチウム(Li
5La
3Nb
2O
12)粉末0.55gを添加した以外は、実施例1と同様にして作製した非水系電解質二次電池用正極材料を用いてコイン型電池を作製し、その電池評価を行った。この時のLaとNbの含有率の和は0.3原子%であった。
【0054】
(実施例3)
母材となるリチウム金属複合酸化物粉末にランタンニオブ酸リチウム(Li
5La
3Nb
2O
12)粉末0.92gを添加した以外は、実施例1と同様にして作製した非水系電解質二次電池用正極材料を用いてコイン型電池を作製し、その電池評価を行った。この時のLaとNbの含有率の和は0.5原子%であった。
【0055】
(比較例1)
実施例1で母材として用いたリチウム金属複合酸化物粉末を正極活物質(正極材料)に用いてコイン型電池を作成し、その電池評価を行った。
【0056】
【表1】
【0057】
(評価)
実施例1〜3の正極材料は、本発明に従って製造されたため、この正極材料を用いた非水系電解質二次電池は、初期放電容量が従来と変わらず大きく、かつ比較例に比べ正極界面抵抗が低いものとなっており、優れた特性を有した電池が得られることが確認された。
特に実施例3は、正極界面抵抗が良好である。
比較例1は、ランタンニオブ酸リチウムが混合されていないため、正極界面抵抗が高く、高出力化の要求に対応することは困難である。
以上の結果より、本発明の正極材料を用いた非水系電解質二次電池は、正極界面抵抗が低いものとなり、優れた特性を有した電池となることが確認できた。