(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光電変換膜を備えた光電変換素子では、光電変換膜上に導電膜が形成されている。したがって、光電変換膜の表面平坦性が十分でないと、その上に形成される導電膜の表面平坦性が不十分となる場合がある。光電変換素子を備える固体撮像素子において、光電変換素子の導電膜の表面平坦性が不十分であると、導電膜に局所的な電界集中が発生し、画質が低下する。
このため、結晶セレン膜を含む光電変換膜において、表面平坦性をさらに向上させることが望まれている。
【0007】
結晶セレン膜を含む光電変換膜の表面平坦性を向上させるためには、結晶セレン膜の膜厚を薄くして結晶粒径を小さくすることにより、表面平坦性の良好な結晶セレン膜を形成する必要がある。しかしながら、結晶セレン膜の膜厚を薄くすると、結晶セレン膜を含む光電変換膜を備えた光電変換素子において、長波長領域の感度が得られにくくなる。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、十分な厚みを有し、かつ表面平坦性の良好な結晶セレン膜を含む光電変換膜、およびその製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、上記の光電変換膜を備え、可視光全域で十分な感度が得られ、かつ導電膜に局所的な電界集中が発生しにくい光電変換素子、上記の光電変換素子を備える固体撮像素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた。
その結果、接合膜上に、アモルファスセレン膜と金属膜とをこの順に形成してから熱処理する方法により、結晶セレン膜を形成すればよいことを見出した。そして、この方法を用いて十分に厚い膜厚の結晶セレン膜を形成しても、良好な表面平坦性が得られることを確認し、本発明を想到した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に関わる。
(1)接合膜と、前記接合膜上に形成された結晶セレン膜とを有し、
前記結晶セレン膜は、厚みが0.1〜5μmであり、表面の平均面粗さが5nm以下であることを特徴とする光電変換膜。
(2)前記結晶セレン膜上に、金属膜が形成されていることを特徴とする(1)に記載の光電変換膜。
(3)前記金属膜が、金単体、モリブデン単体、金および/またはモリブデンを含む合金からなる群から選択されたいずれか1種からなることを特徴とする(2)に記載の光電変換膜。
【0011】
(4)接合膜上に、アモルファスセレン膜と金属膜とをこの順に形成してから熱処理することにより、厚みが0.1〜5μmであり、表面の平均面粗さが5nm以下である結晶セレン膜を形成する熱処理工程を有することを特徴とする光電変換膜の製造方法。
(5)前記熱処理工程後に、前記金属膜の少なくとも一部を除去する除去工程を有することを特徴とする(4)に記載の光電変換膜の製造方法。
【0012】
(6)(1)〜(3)のいずれかに記載の光電変換膜を備えることを特徴とする光電変換素子。
(7)(6)に記載の光電変換素子を備えることを特徴とする固体撮像素子。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光電変換膜は、接合膜と、接合膜上に形成された厚みが0.1〜5μmで表面の平均面粗さが5nm以下である結晶セレン膜とを有する。したがって、本発明の光電変換膜は、十分な厚みを有し、かつ表面平坦性の良好な結晶セレン膜を有する。
本発明の光電変換素子は、十分な厚みを有し、かつ表面平坦性の良好な結晶セレン膜を含む光電変換膜を備える。したがって、本発明の光電変換素子は、可視光全域で十分な感度が得られ、しかも、光電変換膜の上に形成される導電膜における局所的な電界集中の発生を防止できる。
また、本発明の固体撮像素子は、本発明の光電変換素子を備えるので、高感度で高画質の画像が得られる。
【0014】
本発明の光電変換膜の製造方法では、接合膜上に、アモルファスセレン膜と金属膜とをこの順に形成してから熱処理することにより、結晶セレン膜を形成する。このため、厚みが0.1〜5μmであり、表面の平均面粗さが5nm以下である結晶セレン膜を有する光電変換膜が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、例を挙げて本発明を詳細に説明する。
「光電変換素子」
(第1実施形態)
図1は、本発明の光電変換膜を備える光電変換素子の一例を説明するための断面模式図である。
図1に示す光電変換素子100は、透明基板1上に、透明導電膜2(電極)と、半絶縁性金属酸化物膜3と、光電変換膜17と、電極6とがこの順に積層されているものである。
図1に示す光電変換素子100は、透明基板1側から光入射を行うものである。
【0017】
透明基板1としては、例えば、ガラス基板などを用いることができる。
透明導電膜2としては、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)、IZO(酸化亜鉛スズ)、AZO(アルミニウム添加酸化亜鉛)などからなるものを用いることができる。
【0018】
半絶縁性金属酸化物膜3は、n型半導体として機能するものである。半絶縁性金属酸化物膜3としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ガリウム(Ga
2O
3)、酸化セリウム(CeO
2)、酸化イットリウム(Y
2O
3)、酸化インジウム(In
2O
3)からなる群から選択される1種または2種以上のものを用いることができる。
【0019】
本実施形態では、光電変換膜17として、
図1に示すように、接合膜4と、接合膜4上に形成された結晶セレン膜5と、結晶セレン膜5上に形成された金属膜15とからなるものを備える。
【0020】
接合膜4は、
図1に示すように、半絶縁性金属酸化物膜3の一方の面(
図1においては上面)に接して配置されている。接合膜4は、接合膜4の下層(本実施形態においては半絶縁性金属酸化物膜3)と結晶セレン膜5との接着力を向上させる機能を有する。
接合膜4は、テルル(Te)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)から選ばれるいずれか1種または2種以上からなるものであることが好ましい。接合膜4としては、上記の中でもテルル膜を用いることが好ましい。
【0021】
接合膜4は、半絶縁性金属酸化物膜3と結晶セレン膜5との間の全域に連続して形成されたものであってもよいし、接合膜4の厚みを薄くすることによって半絶縁性金属酸化物膜3と結晶セレン膜5との間の一部に形成されていない領域が存在しているものであってもよい。例えば、接合膜4が平面視で島状に形成されている場合など、半絶縁性金属酸化物膜3と結晶セレン膜5との間の一部に接合膜4の形成されていない領域が存在していても、接合膜4によって半絶縁性金属酸化物膜3と結晶セレン膜5との密着性を向上させることができる。
【0022】
接合膜4の膜厚は0.1〜10nmであることが好ましい。接合膜4の膜厚が、0.1nm以上であると、半絶縁性金属酸化物膜3と結晶セレン膜5との接着力を効果的に高くでき、好ましい。また、接合膜4の膜厚が10nm以下、より好ましくは3nm以下であると、接合膜4が結晶セレン中の結晶欠陥となり、暗電流増加の要因となることを防止できる。
【0023】
接合膜4の半絶縁性金属酸化物膜3と反対側の面(
図1においては上面)には、結晶セレン膜5が配置されている。
結晶セレン膜5の膜厚は0.1〜5μmである。結晶セレン膜5の膜厚が0.1μm以上であると、可視光全域で十分な感度を得ることができ、光電変換層として良好に機能する。結晶セレン膜5の膜厚は、長波長領域の感度を高めるために、0.5μm以上であることがより好ましい。また、結晶セレン膜5の膜厚が5μm以下であると、効率よく形成でき、生産性に優れた光電変換素子100となる。結晶セレン膜5の膜厚は、2μm以下であることが好ましい。
【0024】
結晶セレン膜5の表面(
図1においては上面)のRa(平均面粗さ)は5nm以下であり、3nm以下であることが好ましく、小さいほど好ましい。結晶セレン膜5のRa(平均面粗さ)が5nm以下であると、その上に形成される導電膜(本実施形態においては金属膜15および電極6)が良好な表面平坦性を有するものとなる。よって、金属膜15および電極6に局所的な電界集中が発生しにくい。
【0025】
金属膜15は、後述する製造方法により結晶セレン膜5を形成するために設けられたものである。本実施形態においては、金属膜15は、電極6とともに、電極として機能する。
金属膜15の材料としては、一般的な金属材料を適用することが可能であり、例えば、Au(金)、Ag(銀)、Al(アルミニウム)、Mo(モリブデン)、Cr(クロム)、Ti(チタン)からなる群から選択されたいずれかの単体またはいずれか1種以上を含む合金などが挙げられる。金属膜15が、金単体、モリブデン単体、金および/またはモリブデンを含む合金からなる群から選択されたいずれか1種で形成されている場合、金属膜15と結晶セレン膜5との密着性が高くなり、好ましい。また、金属膜15が金単体または金を含む合金で形成されている場合、光透過率の高い金属膜15となり、好ましい。
【0026】
電極6は、ITO、IZO、AZO、Al(アルミ)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)、Ti(チタン)など導電性を有する材料からなる。電極6は、透光性を有するものであってもよいし、透光性を有していなくてもよい。
【0027】
「製造方法」
次に、
図1に示す光電変換素子100の製造方法を説明する。
図1に示す光電変換素子100を製造するには、まず、透明基板1の一方の面(
図1においては上面)に、例えば、スパッタリング法などにより透明導電膜2を形成する。
次いで、透明導電膜2上に、スパッタリング法、パルスレーザー蒸着法、真空蒸着法などにより、半絶縁性金属酸化物膜3を形成する。なお、半絶縁性金属酸化物膜3として、酸化ガリウム膜または酸化亜鉛膜を形成する場合、スパッタリング法などを用いて非加熱で半絶縁性金属酸化物膜3を成膜でき、好ましい。
【0028】
次に、
図1に示す半絶縁性金属酸化物膜3の上面(結晶セレン膜5の被形成面上)に、真空蒸着法やスパッタリング法などにより、接合膜4を形成する。
接合膜4は、後述する熱処理の際に半絶縁性金属酸化物膜3と結晶セレン膜5との接着力を向上させ、結晶セレン膜5の膜剥がれを防止する機能を有する。
【0029】
続いて、接合膜4上に、例えば真空蒸着法やスパッタリング法などにより、厚み0.1〜5μmのアモルファスセレン膜を形成する。
その後、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法などにより、アモルファスセレン膜上に金などからなる金属膜15を形成する。
【0030】
金属膜15の膜厚は1nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましい。金属膜15の膜厚が1nm以上であると、ひび割れの無い良好な金属膜15となる。その結果、後述する熱処理工程において、アモルファスセレン膜により均一に熱を加えることができ、熱処理工程後に得られる結晶セレン膜5の表面平坦性がより一層良好となる。また、金属膜15の膜厚が50nm以下であると、効率よく形成でき、生産性に優れた光電変換素子100となる。金属膜15の膜厚は20nm以下であることが好ましい。
【0031】
本実施形態では、金属膜15を成膜した後、例えば、100℃〜220℃の温度で30秒〜1時間の熱処理を行う(熱処理工程)。このことにより、アモルファスセレン膜が結晶化され、厚みが0.1〜5μmで、表面の平均面粗さが5nm以下である結晶セレン膜5が形成される。
熱処理工程における熱処理温度および熱処理時間が上記範囲内であると、結晶性の良好な結晶セレン膜5が得られる。
【0032】
その後、光電変換膜17の金属膜15の上に、真空蒸着法、スパッタリング法などにより、ITOなどからなる電極6を形成する。以上の工程を行うことにより、
図1に示す光電変換素子100が得られる。
【0033】
図1に示す光電変換素子100は、接合膜4と、接合膜4上に形成された結晶セレン膜5と、結晶セレン膜5上に形成された金属膜15とからなる光電変換膜17を有する。光電変換膜17の有する結晶セレン膜5は、厚みが0.1〜5μmであり、十分な厚みを有する。このため、本実施形態の光電変換素子100は、可視光全域で十分な感度が得られる。さらに、本実施形態では、光電変換膜17の有する結晶セレン膜5の表面の平均面粗さが5nm以下であり、良好な表面平坦性を有する。このため、本実施形態の光電変換素子100では、結晶セレン膜5の上に形成されている金属膜15および電極6も良好な表面平坦性を有する。よって、本実施形態の光電変換素子100は、金属膜15および電極6に局所的な電界集中が発生しにくい。
【0034】
本実施形態では、光電変換膜17の結晶セレン膜5を、接合膜4上に、アモルファスセレン膜と金属膜15とをこの順に形成してから熱処理することにより形成する。このため、厚みが0.1〜5μmであり、表面の平均面粗さが5nm以下である結晶セレン膜5を有する光電変換膜17が得られる。
【0035】
これに対し、例えば、接合膜4上に形成したアモルファスセレン膜を、その上に金属膜15を形成せずに熱処理しても、厚みが0.1〜5μmであり、表面の平均面粗さが5nm以下である結晶セレン膜5は得られない。これは、金属膜15を形成せずに熱処理した場合、結晶セレン膜の厚みを0.1μm以上にすると、結晶セレン膜の結晶粒径が大きくなって、表面平坦性が低下するためである。
【0036】
本実施形態では、アモルファスセレン膜上に金属膜15を形成してから熱処理するので、結晶セレン膜の厚みを0.1μm以上にしても、結晶セレンの結晶粒径が微細となり、表面の平均面粗さが5nm以下である結晶セレン膜となる。これは、金属膜15が形成されていることによって、熱処理時にアモルファスセレン膜に均一に熱が加わって、結晶セレン膜を形成する結晶粒が柱状に成長し、結晶セレン膜の結晶性が改善されることによるものであると推定される。
【0037】
(第2実施形態)
図2は、本発明の光電変換膜を備える光電変換素子の他の例を説明するための断面模式図である。
図2に示す光電変換素子200は、基板7上に、電極8と、半絶縁性金属酸化物膜9と、光電変換膜18と、透明導電膜12(電極)とがこの順に積層されているものである。
図2に示す光電変換素子200は、透明導電膜12側から光入射を行うものである。
【0038】
図2に示す光電変換素子200において、電極8、半絶縁性金属酸化物膜9、光電変換膜18の接合膜4および結晶セレン膜5、透明導電膜12は、それぞれ
図1に示す光電変換素子100の電極6、半絶縁性金属酸化物膜3、光電変換膜17の接合膜4および結晶セレン膜5、透明導電膜2(電極)と同じものであるので、説明を省略する。
【0039】
図2に示す光電変換素子200は、透明導電膜12側から光入射を行うものであるため、基板7として、透光性を有しない材料からなるものを用いてもよい。具体的には、基板7として、例えば、シリコン基板などを用いることができる。
図2に示す光電変換素子200では、金属膜15の膜厚は、50nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましい。金属膜15の膜厚が50nm以下であると、光透過率が十分に高いものとなり、金属膜15側から結晶セレン膜5に十分な光を入射できる。
【0040】
次に、
図2に示す光電変換素子200の製造方法を説明する。
図2に示す光電変換素子200を製造するには、まず、基板7の一方の面(
図2においては上面)に、真空蒸着法、スパッタリング法などにより、電極8を形成する。
次いで、電極8上に、
図1に示す光電変換素子100の半絶縁性金属酸化物膜3と同様にして、半絶縁性金属酸化物膜9を形成する。
【0041】
次に、半絶縁性金属酸化物膜9上面(結晶セレン膜5の被形成面上)に、光電変換膜17の製造方法と同様にして、接合膜4を形成する。その後、光電変換膜17の製造方法と同様にして、接合膜4上に、アモルファスセレン膜と金属膜15とをこの順に形成する。
本実施形態では、金属膜15の膜厚は、熱処理後に表面平坦性の良好な結晶セレン膜5が得られるように、1nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましい。また、金属膜15の膜厚は、金属膜15の光透過率を確保するために、50nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましい。
【0042】
金属膜15を成膜した後、光電変換膜17の製造方法と同様にして、熱処理を行う(熱処理工程)。このことにより、アモルファスセレン膜が結晶化され、厚みが0.1〜5μmで、表面の平均面粗さが5nm以下である結晶セレン膜5が形成される。
次いで、光電変換膜18の金属膜15の上に、例えば、スパッタリング法などにより透明導電膜12を形成する。以上の工程を行うことにより、
図2に示す光電変換素子200が得られる。
【0043】
図2に示す光電変換素子200は、
図1に示す光電変換素子100と同様に、接合膜4と、接合膜4上に形成された結晶セレン膜5と、結晶セレン膜5上に形成された金属膜15とからなる光電変換膜18を有する。光電変換膜18の有する結晶セレン膜5は、厚みが0.1〜5μmであり、十分な厚みを有する。このため、本実施形態の光電変換素子200は、可視光全域で十分な感度が得られる。さらに、本実施形態では、光電変換膜18の有する結晶セレン膜5の表面の平均面粗さが5nm以下であり、良好な表面平坦性を有する。このため、本実施形態の光電変換素子200では、結晶セレン膜5の上に形成されている金属膜15および透明導電膜12も良好な表面平坦性を有する。よって、本実施形態の光電変換素子200は、金属膜15および透明導電膜12に局所的な電界集中が発生しにくい。
【0044】
上述した実施形態の光電変換素子100、200では、結晶セレン膜5上に、金属膜15が形成されている光電変換膜17、18を備える場合を例に挙げて説明したが、光電変換膜は金属膜を含まないものであってもよい。
なお、上述した実施形態の光電変換素子200が、接合膜4と結晶セレン膜5のみからなる光電変換膜を備える場合、金属膜によって透明導電膜12側から結晶セレン膜5に入射する光が妨げられることがなく、好ましい。
【0045】
接合膜4と結晶セレン膜5のみからなる光電変換膜を備える光電変換素子を製造する場合、例えば、以下に示す製造方法を用いることができる。まず、上述した実施形態の製造方法と同様にして、光電変換膜の結晶セレン膜を形成する熱処理工程まで行う。その後、金属膜を除去する除去工程を行う。
除去工程において金属膜を除去する方法は、金属膜の材料に応じて適宜決定できる。例えば、金属膜が金からなる場合、金エッチング液に浸して金を除去する方法が挙げられる。例えば、金属膜がモリブデンからなる場合、過酸化水素水に浸してモリブデンを除去する方法が挙げられる。
【0046】
また、上記の除去工程は、結晶セレン膜を形成する際に形成した金属膜の少なくとも一部を除去する工程であってもよい。すなわち、除去工程によって、金属膜の一部のみを除去してもよいし、金属膜の全てを除去してもよい。
【0047】
「固体撮像素子」
図3は、本発明の固体撮像素子の一例を説明するための模式図である。
図3に示す固体撮像素子40は、シリコン基板表面に形成された回路を有する信号読み出し回路部41と、信号読み出し回路部41上に積層された光電変換部42とを有する。
図3に示す固体撮像素子40の光電変換部42は、可視光全域で十分な感度が得られ、しかも、金属膜15および透明導電膜12に局所的な電界集中が発生しにくい
図2に示す光電変換素子200を備えている。このため、
図3に示す固体撮像素子40は、高感度で高画質の画像が得られる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。なお、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0049】
「試料1」
以下に示す方法により、
図4に示す試料を作成し、評価した。
ガラス基板21上に、真空蒸着法により膜厚1nmのテルルからなる接合膜22を成膜した。続いて、接合膜22上に、真空蒸着法により、膜厚0.5μmのアモルファスセレン膜と膜厚10nmの金薄膜からなる金属膜24とを形成した。その後、接合膜22とアモルファスセレン膜と金属膜24の形成されたガラス基板21を、200℃で1分間熱処理し、膜厚500nmの結晶セレン膜23を形成した。
【0050】
「試料2」
アモルファスセレン膜上に金属膜24を形成せずに熱処理したこと以外は、試料1と同様にして、試料2を得た。
【0051】
試料1および試料2の表面を、原子間力顕微鏡(AFM)で観察した。
図5(a)は、試料1の原子間力顕微鏡(AFM)写真であり、
図5(b)は、試料2の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。また、試料1および試料2の表面について、AFM像観察(
図5(a)および
図5(b)参照)からRq(RMS)(自乗平均面粗さ)とRa(平均面粗さ)とRmax(面内最大高低差)とを算出した。その結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
「試料3」
ガラス基板に代えて、酸化シリコン膜付きのシリコン基板を用いたこと以外は、試料1と同様にして、試料3を得た。
「試料4」
ガラス基板に代えて、酸化シリコン膜付きのシリコン基板を用いたこと以外は、試料2と同様にして、試料4を得た。
【0054】
試料3および試料4の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
図6(a)は、試料3の走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、
図6(b)は、試料4の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0055】
表1に示すように、アモルファスセレン膜上に金属膜を形成してから熱処理した試料1の結果は、Rq、Ra、Rmaxの全てにおいて、アモルファスセレン膜上に金属膜を形成せずに熱処理した試料2と比較して非常に数値が小さかった。このことから、試料1の表面は、試料2の表面と比較して、表面平坦性が良好であることが分かった。
また、
図5(a)および
図5(b)に示す原子間力顕微鏡(AFM)写真からも、試料1の表面が試料2の表面と比較して、良好な表面平坦性を有していることが確認できた。
【0056】
なお、
図6(a)に示すように、試料3の金属膜は、結晶セレン膜の表面形状に沿って均一な厚みで形成されている。また、上記のように、試料3の金属膜および結晶セレン膜は、試料1と同様の製造方法で形成した。このことから、表1に示す試料1の表面(金属膜の表面)のRq、Ra、Rmaxの結果は、試料1の結晶セレン膜の表面のRq、Ra、Rmaxの結果とみなすことができる。
【0057】
また、
図6(a)および
図6(b)に示すように、アモルファスセレン膜上に金属膜を形成してから熱処理した試料3では、結晶セレン膜を形成する結晶粒が柱状に成長しており、アモルファスセレン膜上に金属膜を形成せずに熱処理した試料4と比較して結晶セレンの結晶粒径が微細であり、良好な表面平坦性を有していた。
【0058】
「試料5」
真空蒸着法により、膜厚10nmのモリブデン薄膜からなる金属膜24を形成したこと以外は、試料1と同様にして、試料5を得た。
【0059】
試料5の表面を、原子間力顕微鏡(AFM)で観察した。
図7は、試料5の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。また、試料5の表面について、AFM像観察(
図7参照)からRq(RMS)(自乗平均面粗さ)とRa(平均面粗さ)とRmax(面内最大高低差)とを算出した。その結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表2に示すように、アモルファスセレン膜上にモリブデン薄膜からなる金属膜を形成してから熱処理した試料5の結果は、Rq、Ra、Rmaxの全てにおいて、表1に示す試料2と比較して非常に数値が小さかった。このことから、試料5の表面は、試料2の表面と比較して、表面平坦性が良好であることが分かった。
また、
図7および
図5(b)に示すように、原子間力顕微鏡(AFM)写真からも、試料5の表面が試料2の表面と比較して、良好な表面平坦性を有していることが確認できた。