(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】深溝の底から放出された電子の軌道を説明する図。
【
図3】走査電子顕微鏡内に配置される荷電粒子通過制限部材の一例を示す図。
【
図4】試料から放出される電子を偏向する偏向器によって、荷電粒子通過制限部材の開口部へ電子を偏向したときの電子軌道を説明する図。
【
図5】上層パターンと下層パターンが交差して重ねられた多層構造パターンの一例を示す図。
【
図6】荷電粒子通過制限部材の開口部に電子軌道を位置付けたときの電子の到達範囲を示す図。
【
図7】上層パターンが強調されたSEM像の一例を示す図。
【
図8】試料から放出される電子を偏向する偏向器によって、荷電粒子通過制限部材の開口部へ電子を偏向したときの電子軌道を説明する図。
【
図9】荷電粒子通過制限部材の開口部に電子軌道を位置付けたときの電子の到達範囲を示す図。
【
図10】下層パターンが強調されたSEM像の一例を示す図。
【
図11】長方形開口を有する反射板(荷電粒子通過制限部材)の一例を示す図。
【
図13】電子の反射板への到達位置と、SEM像との関係を示す図。
【
図14】電子の反射板への到達位置と、SEM像との関係を示す図。
【
図15】電子の反射板への到達位置と、SEM像との関係を示す図。
【
図16】電子の反射板への到達位置と、SEM像との関係を示す図。
【
図17】電子の反射板への到達位置と、SEM像との関係を示す図。
【
図18】電子の反射板への到達位置と、SEM像との関係を示す図。
【
図19】電子の反射板への到達位置と、SEM像との関係を示す図。
【
図20】反射板に対する電子の到達位置、輝度、及びパターンの傾斜角との関係を示すグラフ。
【
図21】円環開口部を備えた反射板への電子の到達位置と、信号波形との関係を示す図。
【
図22】円環開口部を備えた反射板への電子の到達位置と輝度との関係を示すグラフ。
【
図23】エネルギーフィルタリング機能を備えた反射板の一例を示す図。
【
図24】エネルギーフィルタリングのための電源が接続された反射板の一例を示す図。
【
図25】反射板に印加する電圧を変化させたときの電子の軌道の変化を説明する図。
【
図26】弧状の溝及び複数方向に長手方向を持つ溝の少なくとも一方を有する反射板の一例を示す図。
【
図27】二段の電子偏向器によって、反射板に直交する方向に二次電子を偏向した電子光学系の一例を示す図。
【
図28】電子ビームと二次電子軌道を電子ビームの理想光軸から離間するように偏向する電子光学系の一例を示す図。
【
図29】反射板を通過した電子を直接検出器に偏向する偏向器を備えた電子光学系の一例を示す図。
【
図30】オーバーレイ誤差計測工程を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
深溝底や下層パターン領域が検出困難な原因の一つとして溝底/下層より発生する電子が表面に到達し難いことが挙げられる。
図1に深溝で発生した信号電子の振る舞いを示す。深溝底より発生した信号電子は一定の仰角範囲に分布する。高仰角の電子(ビーム光軸と放出方向の相対角が大きな電子)は当然溝側壁に衝突してしまうため表面に到達せず検出不可となる。例えばアスペクト比(孔の深さ/孔の幅)が50程度の場合、幾何計算上88 °以下の仰角であれば信号電子は側壁に衝突してしまう。これにより表面に到達する電子の絶対数が減少することで溝底の検出が困難となってしまう。
【0011】
しかし深溝に関しては溝の延伸する方向には側壁が存在しないため、溝の長手方向に沿って放出される信号は、ロスすることなく検出することができる。よってその方位の信号成分を弁別もしくは強調することでコントラスト向上を計ることが可能である。多層レイヤにおいて一方向に延伸する下層パターンに対しても同様の理由から信号ロスの少ない方位が存在するためその方位の信号弁別、強調は有効である。
【0012】
より、具体的には単なる電子の軌道弁別ではなく、特定の方向に延びる長い軌道範囲の電子を選択的に検出できれば、所望の観察パターンのエッジ部から放出される電子の検出効率の低下を抑制しつつ、所望の観察パターンのコントラスト向上の妨げとなる方向へ放出する電子の遮断が可能となる。
【0013】
以下に説明する実施例では、特定方向に長い、溝状のパターンの底部や多層レイヤの下層配線等のコントラストの向上が可能な荷電粒子線装置に関するものである。
【0014】
以下に説明する実施例では、例えば、試料から放出された荷電粒子を偏向する偏向器を備えた荷電粒子線装置であって、荷電粒子源と偏向器との間に配置され、前記試料から放出された荷電粒子の通過を制限する開口を備えた部材と、前記試料から放出され、前記開口を通過した荷電粒子に基づいて取得される検出信号を処理する演算装置を備え、前記偏向器は、前記開口の第1の位置と、当該第1の位置とは異なる前記開口の第2の位置に、前記試料から放出された荷電粒子を偏向するように調整され、前記演算装置は前記第1の位置に前記荷電粒子が偏向されたときに得られる第1の検出信号と、前記第2の位置に前記荷電粒子が偏向されたときに得られる第2の検出信号を処理することを特徴とする荷電粒子線装置を提案する。
【0015】
上述のような構成によれば、信号電子制限用開口部と偏向器の組み合わせにより検出器搭載箇所や観察に用いる光学条件の制約を受けず任意の方位角方向で信号電子弁別することが可能となる。それにより溝底や多層レイヤ中の下層パターンなど特定方位に信号電子イールドの高い試料に関し、その方位がどのような方向であっても方位角弁別によるコントラスト向上等画質改善を図ることができる。
【実施例1】
【0016】
図2は、荷電粒子線装置の一態様である走査電子顕微鏡の電子光学系の一例を示す図である。この電子光学系は電子源24、対物レンズ9、試料(半導体ウエハ)27、試料に対置させた加速電極10、二次電子用偏向器13、14および16、1次電子ビーム偏向用走査偏向器12、イメージシフトコイル11、電子源と対物レンズ9の間に設置された検出器17、18、信号電子(二次電子や後方散乱電子)を制限する反射板15を備える装置である。
【0017】
また、
図2に例示する走査電子顕微鏡には、電子源24から電子を引き出すための引出電極23、引出電極23によって引き出された電子を加速する加速電極22、加速電極22によって加速された1次ビーム(電子ビーム)25を集束するコンデンサレンズ20、試料上の任意の視野位置に視野を偏向するイメージシフトコイル(イメージシフト偏向器)11、試料27上でビームを一次元的、或いは二次元的に走査する走査偏向器12、及び1次ビーム25を加速するための正電圧が印加される後段加速電極10が備えられている。更に、
図2に例示する走査電子顕微鏡には、加速電圧制御電源0、検出器によって得られた検出信号を処理する信号処理部1、二次電子偏向器を制御する偏向器制御電源2、1次ビーム25の偏向器を制御する偏向器制御電源3、対物レンズ制御電源4、及び試料に印加する負電圧を調整することで、1次ビーム25の試料27への到達エネルギーを制御するリターディング電源5が備えられている。
【0018】
走査電子顕微鏡の光学素子は、制御装置201によって制御されている。制御装置201は、走査電子顕微鏡の制御に必要な信号を光学素子の制御電源等に供給する共に、検出器によって得られた信号の処理を実行する。また、制御装置201は、走査偏向器12に供給する走査偏向器と同期させて検出器の信号を、フレームメモリ等に記憶させることによって、画像信号を生成する。制御装置201には、制御部6、画像処理部(演算処理装置)7、及びデータ保存部8が含まれている。制御部6は、データ保存部8に記憶された制御条件に基づいて、各電源に制御信号を供給すると共に、検出信号を画像処理部7に伝達する。画像処理部7は、データ保存部8に記憶された測定条件や演算条件に基づいたデータ処理を実行する。制御装置201の具体的な制御内容や測定、演算内容については後述する。
【0019】
ここで二次電子偏向器は二次電子から高エネルギー帯の反射電子まで全ての信号電子を偏向対象とする偏向器である。検出器17、18は反射板15を挟み上下に設置される。二次電子偏向器13、14は反射板15より試料側に配置され、試料より放出された信号電子の反射板に対する到達位置を制御する。到達位置は、制御装置201等の制御よって任意の位置の指定位置に位置付けることができる。
【0020】
試料から放出され、反射板15の開口部を通過した信号電子は、二次電子偏向器16によって、検出器18に向かって偏向される。なお、
図2は、反射板(信号電子軌道選択部材)を通過した信号電子を直接検出する検出器として検出器18を例示しているが、これに限られることなく、例えば別に設けた反射板に信号電子が衝突した結果、新たに発生させる電子を検出する検出器であっても良い。
【0021】
二次電子偏向器13、14、16には、電子ビーム(1次ビーム25)を偏向することなく、信号電子を選択的に偏向するためのウィーン条件を生成するために、直交電磁界を発生する偏向器(ウィーンフィルタ)が採用されている。ここで反射板15の開口部形状代表例を
図3に示す。
図3に例示するように、反射板15(荷電粒子通過制限部材)には1次ビームを通過させるための通過孔28と、当該通過孔28とは別に、円環形状の円環開口部29が設けられている。
【0022】
試料から放出された電子を、二次電子偏向器13、14によって円環開口部29に向けて偏向することによって、円環開口部29を通過する電子と、反射板15に衝突する電子に分けられる。試料から放出される電子の軌道がある程度の範囲を持っている前提を考えると、円環開口部29は、特定方向(
図3の円環状開口部29の場合、円環状開口部の開口の長手方向(周方向))に長く、その形状が長方形に近似できるような軌道範囲の電子を選択的に通過させることになる。以下に、
図3に例示するような円環開口部を有する軌道選択部材を用いた信号の選択法を、
図4〜
図10を参照して説明する。
【0023】
図4は円環開口部29を有する反射板15に対し、二次電子偏向器13で信号電子の到達位置を制御する例を説明する図である。
図4〜
図7を用いて、多層構造の半導体デバイスの上層パターン(縦ライン)のエッジコントラストを向上する例について説明する。
【0024】
まず
図4に例示するように、多層レイヤ試料より放出された信号電子26を、二次電子偏向器13によって反射板15の円環開口部29のφ=0方向へ偏向する。
図5は試料30の拡大図である。反射板15に到達した信号電子は、
図6に示すよう反射板15で一定の範囲に広がる。その到達電子の広がり31に対し円環開口部29はφ=0方向に狭く、φ=π/2方向に広い長方形スリットの働きをする。
【0025】
ここで縦ラインのラインエッジより放出される電子は、その発生効率または反射方向の関係によりφ=π/2方向に広がる傾向にある。逆に横ラインに関してはエッジから発生する電子がφ=0方向へ広がる傾向にあることから、縦ラインエッジの信号は絞りを容易に通過可能であるのに対し横ラインエッジの信号はその多くが円環開口部でカットされる。その結果、円環開口部29通過後の信号電子に基づいて生成SEM像は
図7に例示するように上層パターン(縦ライン)が強調されたものとなる。
【0026】
図8〜
図10を用いて、多層構造の半導体デバイスの下層パターン(横ライン)のエッジコントラストを向上する例について説明する。まず
図8に例示するように、多層レイヤ試料より放出された信号電子26を、二次電子偏向器13によって反射板15の円環開口部29のφ=π/2方向へ偏向する。反射板15に到達した信号電子は、
図9に示すよう信号電子の広がり31に対し円環開口部29はφ=0方向へ広く、φ=π/2方向へ狭い長方形スリットとなる。よって
図8の例では縦ラインエッジの信号の多くが円環開口部にてカットされ、横ラインエッジの信号を高効率に検出できることから、取得されるSEM像は
図10に例示するように下層パターン(横ライン)が強調された像となる。
【0027】
特にウィーンフィルタの二次電子偏向器を用いる場合、信号電子軌道を偏向しても、1次ビームの軌道は変化しないため、観察視野位置のズレを発生させることなく、特定方向のエッジを強調する信号検出を行うことが可能となる。
【0028】
図4〜
図10を用いて説明したように、偏向器の偏向条件を調整することによって、多層構造パターンの上層パターンと下層パターンのそれぞれを強調した画像を生成することが可能となるため、それぞれの強調画像を用いた位置比較を行うことが可能となる。より具体的には、上層パターンが強調された画像、下層パターンが強調された画像、及び基準画像を用いて、オーバーレイ誤差計測を行うことができる。
図30は、
図2のような電子光学系を持つ電子顕微鏡を用いて、オーバーレイ誤差計測を行う工程を示すフローチャートである。
【0029】
まず、図示しない電子顕微鏡の真空容器に半導体ウェハを導入した後、所望の測定位置に電子顕微鏡の視野(Field Of View:FOV)を位置付け(ステップ3001)、第1の偏向条件に、二次電子偏向器の条件を設定(ステップ3002)して第1の画像を取得する(ステップ3003)。第1の偏向条件は例えば縦ラインが強調された画像を取得するのに適した偏向条件とする。次に第2の偏向条件に、二次電子偏向器の条件を設定(ステップ3004)して第2の画像を取得する(ステップ3005)。第2の偏向条件は例えば横ライン(下層パターン)が強調された画像を取得するのに適した偏向条件とする。
【0030】
次に、図示しない記憶媒体等から基準画像を読み出し、第1の画像と第2の画像のそれぞれと位置合わせ処理を実行する(ステップ3006)。基準画像は例えば半導体デバイスの設計データ(レイアウトデータ)から生成されるパターン画像であり、理想的な配置条件で多層パターンが配置されている。第1の画像と位置合わせ処理を行う基準画像は、上層のパターンのエッジを通常の基準画像と比較して強調するような画像処理を行い、第2の画像と位置合わせ処理を行う基準画像は、下層のパターンのエッジを通常の基準画像と比較して相対的に強調するような画像処理を行うようにしても良い。以上のようなレイヤ単位の位置合わせに基づいて、第1の画像と基準画像との間の位置合わせ処理に基づいて求められる相対位置ずれ(δx1,δy1)と、第2の画像と基準画像との間の位置合わせ処理に基づいて求められる相対位置ずれ(δx2,δy2)を求め、例えば(δx2−δx1,δy2−δy1)を解くことによって、オーバーレイ誤差計測を実行する(ステップ3007)。
【0031】
上述のような手法によれば、同じ視野を走査している状態で、下層のパターンが強調された状態の画像と上層のパターンが強調された画像の双方を取得でき、高精度なオーバーレイ誤差計測を行うことが可能となる。また、二次電子偏向器の調整を行うことなく、通常のSEM像でも上層のパターンに関して、十分なコントラストが得られているのであれば、当該通常画像と、下層パターンを相対的に強調するための偏向条件で取得された画像の2枚の画像を用いて、オーバーレイ誤差計測を行うようにしても良い。
【0032】
上述のような処理は予め設定された動作プログラム(レシピ)に基づいて電子顕微鏡を自動的に制御することによって行われる。上記演算式等も所定の記憶媒体に記憶され、所定の指示に応じて自動的に演算、及び計測結果の出力が行われる。
図2に例示する制御装置201(演算処理装置)は、動作プログラムに従って上記処理を実行する。なお、上述の処理は上層パターンのエッジを強調する偏向条件と、下層パターンのエッジを強調する偏向条件が予め判っている場合の処理であるが、エッジを強調できる偏向条件が不明である場合には、例えば複数の偏向条件毎に、強調したいレイヤのパターンのエッジのコントラストを評価し、コントラストが最も高くなる、或いは所定値以上となる偏向条件を見出すようにしても良い。
【0033】
なお、上述の実施例では、第1の偏向条件と第2の偏向条件における視野位置が同じものとして説明したが、視野位置を変えて(第1の視野位置と第2の視野位置)第1の偏向条件と第2の偏向条件による画像を取得し、オーバーレイ誤差計測を行うようにしても良い。例えば広い範囲で上層パターンと下層パターンが同じ状態で配列されている場合、視野位置を変えても実質的に同じものが画像化されることになる。上層と下層の相対的な位置関係が広い範囲に亘って不変であれば、視野位置を変えても上述の手法によって、高精度なオーバーレイ誤差計測を行うことが可能となる。また、このような手法によれば、単位面積当たりのビーム照射量を抑制することができるため、チャージアップ等の影響を緩和することが可能となる。
【0034】
なお、
図4、8ではφ=0またはπ/2の方位角方向に、試料から放出された電子の軌道を偏向する例について説明したが、円環開口部29の任意の位置への信号電子軌道の偏向制御が可能である。よって、パターン形状等に応じた種々の軌道弁別を行うことができる。また反射板15の開口部形状の一例として円環開口部29を示したが、信号電子の広がりに対して長手方向を有する開口部形状であれば同様の機能を有するといえる。以下に円環開口以外の開口部形状を有する反射板を使用する場合の実施例を示す。
【実施例2】
【0035】
本実施例では、長方形開口部を有する反射板を用いた信号電子の方位弁別について説明する。
図11は長方形開口部を有する反射板15である。φ=0及びφ=π/2方向に平行に長辺を持つ長方形開口部33を備える。このような反射板を用いた信号軌道弁別の効果の説明のため、
図12に例示するように、φ=0、π及びφ=π/2、3π/2方向に傾斜する面(斜面35および斜面36)を有する観察試料34を用いる。
【0036】
まず長方形開口部33に対して
図13に示す位置へ二次電子偏向器13を制御して、信号電子中心軌道到達位置37を調整制御する。この場合に取得されるSEM像を
図13右図に示す。図示の通り方位角φ=π/2、3π/2方向の電子が開口部33を通過可能なため、左右(LR)双方の斜面35のコントラストが強調される。次に
図14に例示するように、信号電子到達位置37を長方形開口部33の右側端面付近へ制御する。この場合φ=π/2、3π/2方向発生した電子のうちπ/2方向へ発生した電子が長方形開口部33にてカットされる。よって通過可能な3π/2方向電子にて構成されるSEM像は
図14右図に例示するように、斜面35のうち左(L)のみ強調されることとなる。なお、
図14等では平坦面を除き、斜線領域は斜線がない領域と比較して相対的に暗い領域を示している。
【0037】
図15は、は長方形開口部33の左端面に信号電子到達位置37を位置付けた例を示す図である。
図14と同様の原理にて今度は斜面35のうち右(R)方向のみ強調することが可能である。このように長方形開口部33を有する反射板を用いる場合は開口部長手(長辺)方向に平行な方位φ‖、φ‖+π方向へ弁別が可能であることに加え、長手方向終端部を用いると方位φ‖、φ‖+πのうち片側を更にカットすることができる。長方形の長手方向の辺だけではなく、短い辺も利用したフィルタリングを行うことによって、方位角弁別の方位角のバリエーションを増やすことが可能である。ここで複数の方位に対して長方形開口部を作製すれば円環開口部形状と同等に弁別方位を確保することは可能である。
【0038】
実施例1或いは実施例2に例示した弧状、或いは複数の方向に長手方向を持つ溝を開口とした反射板を採用することによって、パターンの形成方向に応じたエッジコントラストの最適化が可能となる。
【実施例3】
【0039】
本実施例では実施例2と同構成にて傾斜角度測定する例を説明する。
図16〜20は斜面35の左(L)側の傾斜角を計測する例を示す図である。まず、
図16に例示する位置に信号電子到達位置37を位置付ける。
図16左図に例示する偏向条件にて得られた画像は、
図16右図に例示するように斜面35の左(L)側が強調された画像となる。ここから
図16→
図17→
図18→
図19の順に信号電子到達位置をx方向へ順次移動させつつ画像を取得すると、通過可能な電子数が減少するため斜面35左(L)位置の輝度が徐々に低下する。
【0040】
図20は、信号電子到達位置xにと左斜面の輝度との関係を示すグラフである。信号電子到達位置xの変化に応じてL斜面輝度も変化するが、その変化は一様ではなく、急峻に変化する領域が存在する。これは斜面にて発生する二次/反射電子の仰角方向分布が斜面の傾斜角に依存するためである。特に反射電子は斜面に対し垂直方向に出射し易い。そのため傾斜面に対して垂直な仰角成分を持つ電子が、長方形開口部33端でカットされる位置まで信号電子到達位置37を偏向すると、検出される電子数が急減する。
【0041】
つまり、傾斜角の角度に応じて、輝度が急変する信号電子到達位置が変化する。よって
図20の下図に示すように信号到達位置xと、斜面の傾斜角との関係を予め把握しておき、輝度が急変する電子到達位置x(∝偏向信号)を求めることによって、斜面の傾斜角θを算出することが可能となる。信号電子到達位置xと、弁別仰角(或いは斜面の傾斜角)との関係は、例えば斜面の傾斜角をAFM(Atomic Force Microscope)やTEM(Transmission Electron Microscope)などで事前に測定し、当該斜面の輝度の最大変化位置xを検出することによって見出すことができる。上記傾斜角と最大変化位置x(或いはその際の偏向信号情報)を関連付けて記憶しておくことによって、最大変化位置xの検出に基づいて、傾斜角を求めることができる。また、両者の関係を関数化し、この関数を記憶しておくようにしても良い。また、信号電子傾斜時の軌道シミュレーション結果から、上記関係を見出すことも可能である。また
図16に例示するSEM像の斜面幅Wと本実施例により求めた傾斜角θがあれば傾斜面の高さ寸法Hを、H=W×tanθを解くことによって求めることができる。このような演算式等を記憶媒体に登録しておくことによって、電子顕微鏡の出力に基づいて、傾斜角θやパターン高さHを求めることが可能となる。
【実施例4】
【0042】
本実施例では、測定の目的に応じた適切な信号到達位置(二次電子偏向器の偏向条件)を特定することが可能な走査電子顕微鏡を説明する。本実施例は、対物レンズの集束条件が強く、試料から放出される電子の軌道が大きく回転するような場合に特に有効である。
図21は縦ラインパターンのコントラストが最も強調されるように、最適方位角を決定する例を説明する図である。
図21(a)に例示するように、本実施例では反射板開口部形状として円環開口部29を用いる。
図21(b)は観察対象の縦ラインパターンである。
【0043】
まず、対物レンズ磁場による回転作用が無い場合に、最も縦ラインパターンのコントラストが強調されると考えられるφ=0方向(
図21(c)の位置)へ信号電子到達位置37を位置付ける。そして取得されるSEM像からX方向の輝度分布を求める。次にφ=π/4方向(
図21(d)位置)に信号電子到達位置37を位置付け、取得されるSEM像のX方向プロファイルを求める。更にφ=π/2(
図21(e))、3π/4方向(
図21(f))へ信号電子を位置付け、同様にX方向プロファイルを順次取得する。
【0044】
図22は、これら複数の方位角と、エッジ位置Aの平均輝度値との関係を示すグラフである。他の方位角に対しφ=π/4方向(
図21(d))での輝度平均値が最も高いことが分かる。よって縦ラインを強調する際、φ=π/4方向(
図21(d))が弁別する際最適な方位角であると決定できる。ここで本実施例ではφ=0〜3π/4間で、π/4ずつ方位を変化しながら輝度平均値を測定したが勿論より細かく方位角を変化して最適点を決定する、もしくは計測点を結ぶ近似曲線から最適点を推測してもよい。また、上述のようにプロファイルのピーク位置の絶対値ではなく、ピークとベースラインとの輝度差分値が最も大きくなる条件を選択するようにしても良い。エッジ部分のピーク位置が高くても、それ以外の部分も高輝度であると、高精度なエッジ位置抽出ができない場合があるので、コントラストが最大となる条件を選択するようにしても良い。
【0045】
更に、上述のような装置条件を選択するための動作プログラムを記憶しておき、当該動作プログラムの指示に基づいて、電子顕微鏡の制御や画像処理を行うことによって、半導体デバイスの自動計測を行うことが可能となる。
【実施例5】
【0046】
本実施例では反射板に電圧を印加することで方位角方向の弁別性能を向上する例を説明する。
図23は、反射板15の内側環状部材41と、外側部材42のそれぞれに電圧供給ライン39、40を接続した例を示す図である。内側環状部材41の内側開口は、1次ビーム25の通過開口であるため、ビームに電界を及ぼさないように、内側環状部材41を接地する。外側部材42には、電圧供給ライン40を介して電源43より電圧を印加する。
【0047】
図24、25は、外側部材42に電圧を印加したときの電子の軌道の変化を説明する図である。二次電子偏向器13により円環開口部29に信号電子26を偏向したとき、外側部材42への印加電圧が低い場合は外側部材42側に近い軌道の信号電子が選択的に外側部材42に引き寄せられて反射板に衝突する。一方、外側部材42への印加電圧が高い場合には内側環状部材41に近い軌道の電子まで印加電圧の静電力により引き寄せられ衝突するようになる。つまり印加電圧により円環開口部29のスリット幅を可変できることが分かる。これにより反射板の開口部29形状に制限されること無く弁別性能を調整することが可能である。
【0048】
なお、本実施例では光軸を包囲するように上に反射板15を設置したため内側環状部材41を接地した。しかし反射板15を1次ビームの軌道外に設置する場合、内側環状部材41にも任意の電圧を印加することが可能である。また、
図23に例示するような環状の開口を備えた反射板だけではなく、長方形の開口を備えた反射板へ電圧印加することも可能である。
【実施例6】
【0049】
本実施例では、種々の形状の開口を有する反射板について説明する。
図26は、種々の反射板を説明する図である。開口部形状3は、多数方向に長方形開口部33が設けられており、円環開口形状と同等の方位角弁別が可能な反射板である。開口部形状4は円環開口部29を3分割し、その円環開口部の一部44を1次ビーム通過孔28へ該当の開口部を近づけた形状である。近づけることにより二次電子偏向器にて信号電子を所望の開口部へ偏向する際の駆動電圧、電流を最小化することが可能である。開口部形状5は開口部形状3に対して1次ビーム通過孔を取り除いた構造である。開口部形状6は円環開口部29と長方形開口部33の組み合わせたものである。開口部形状7は複数の開口部形状例を組み合わせた反射板となる。
【0050】
上述の反射板の開口形状は、試料から放出される電子の軌道範囲の一部を制限することによって、長方形(或いは長方形に近似できる形)状の放出電子軌道を生成するためのものである。このような長方形状の放出電子が生成できれば、開口部形状は
図26の例に限定されない。
図26に例示するような弧状の開口、或いは放射状に配列された長方形状の開口を設けておき、開口の任意の位置(指定位置)に二次電子等の軌道を位置付けることができる偏向器を備えることによって、パターンの形成方向や電子顕微鏡の光学条件に応じて溝状パターンのような一定方向に長いパターンのコントラストを最適化する装置条件の設定が可能となる。放出電子の軌道を長方形状に成型可能な長手方向を持つ開口を有する反射板によって、溝状パターンのような長いパターンのコントラストを向上させることが可能となる。
【実施例7】
【0051】
図27は、電子顕微鏡の光学系の一例を示す図である。
図27に例示する光学系では、2段の二次電子偏向器を用いて、信号電子軌道26を反射板15に対して垂直に入射している。このように偏向することで傾斜による反射板上での信号電子広がり(楕円形状への広がり)を低減することができ、方位角弁別の分解能を向上することができる。
【0052】
図28は光軸外に反射板15を設置した光学系を例示する図である。この例では1次ビーム24を、偏向器46を用いて光軸外へ偏向し、その1次ビーム24を、偏向器47、48、49を用いて再度光軸に戻している。また、偏向器49は、軸外から入射する1次ビーム24を光軸に沿わせるように偏向するだけではなく、試料から放出された電子を1次ビーム24の軸外軌道とは逆の方向に偏向する作用も担っている。偏向器49によって偏向された放出電子は、二次電子偏向器13によって更に偏向され、反射板15の方位角弁別用開口部に入射する。これにより反射板15には1次ビーム通過孔28を形成する必要が無くなる。このような構成によれば、試料から放出された電子が、反射板に設けられた1次ビーム通過開口を通過することによる軌道弁別性能の低下を抑制することが可能となる。また本例は1次ビームを軸外へ偏向することで1次ビームの軌道と、試料から放出される電子の軌道を分離しているが、ウィーンフィルタを用いて、1次ビーム通過孔の無い反射板15を設置可能な領域まで信号電子を偏向することができるのであれば、
図27のような光学系でも良い。
【0053】
図29は、反射板15通過後の信号電子26を検出器18へ直接入射する光学系を例示する図である。反射板15を通過した信号電子26は、検出器18に直接入射するように、二次電子偏向器16によって偏向される。検出器18の前にエネルギーフィルタ19を設置することで、軌道弁別後の信号電子26を、更にエネルギー弁別することができる。高エネルギーである反射電子はその散乱特性から試料の立体形状を観察するのに適している。