特許第6821550号(P6821550)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6821550中空デバイス封止フィルム用熱硬化性エポキシ樹脂組成物及び中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6821550
(24)【登録日】2021年1月8日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】中空デバイス封止フィルム用熱硬化性エポキシ樹脂組成物及び中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/62 20060101AFI20210114BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20210114BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20210114BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20210114BHJP
   H01L 23/08 20060101ALI20210114BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   C08G59/62
   C08L63/00 C
   H01L23/30 R
   H01L23/08 A
   C08J5/18CFC
【請求項の数】11
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-243146(P2017-243146)
(22)【出願日】2017年12月19日
(65)【公開番号】特開2019-108491(P2019-108491A)
(43)【公開日】2019年7月4日
【審査請求日】2019年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】堤 吉弘
(72)【発明者】
【氏名】隅田 和昌
(72)【発明者】
【氏名】青木 貴之
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−246920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/62
C08J 5/18
C08L 63/00
H01L 23/08
H01L 23/29
H01L 23/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空デバイスを封止するためのフィルム形成用の熱硬化性エポキシ樹脂組成物であって、
(A)1分子内に2個以上のエポキシ基を有し、25℃で液状であるエポキシ樹脂、
(B)1分子内に1個以上のフェノール性水酸基を有し、さらに1分子内に1個以上のポリイミド骨格を有するフェノール系硬化剤、
(C)1分子内に2個以上のフェノール性水酸基を有し、ポリイミド骨格を有さない、25℃で固体であるフェノール樹脂系硬化剤、
(D)無機充填材、
(E)硬化促進剤、
(F)接着助剤、及び
(G)有機溶剤
を含有するものであることを特徴とする中空デバイス封止フィルム用熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)成分が、下記一般式(1)
【化1】
[式中、Zは4価の芳香族基であり、Yは下記一般式(2)
【化2】
(式中、R、R及びRは、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、−COOR(Rは炭素数1〜6のアルキル基を示す)で示されるアルコキシカルボニル基、または水素原子であり、相互に異なっていても同一でもよく;R、R、R、Rは炭素数1〜9のアルキル基または水素原子であり、相互に異なっていても同一でもよく;Xは−O−、−S−、−SO−、−C(CH−、−CH−、−C(CH)(C)−、または−C(CF−を示し;nは1以上の整数である。)で表される芳香族ジアミン残基である]
で表される繰り返し単位を1種以上含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の中空デバイス封止フィルム用熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)成分を構成する繰り返し単位は、前記一般式(1)で表される繰り返し単位1種以上と、下記一般式(3)
【化3】
(式中、Zは前記と同じであり、Yはシロキサンジアミン残基または非フェノール性芳香族ジアミン残基を示す。)
で表される繰り返し単位1種以上とからなるものであることを特徴とする請求項2に記載の中空デバイス封止フィルム用熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)成分を構成する全繰り返し単位のうち、前記一般式(1)で表される繰り返し単位が10〜90モル%、前記一般式(3)で表される繰り返し単位が90〜10モル%であることを特徴とする請求項3に記載の中空デバイス封止フィルム用熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)成分と前記(C)成分の質量比(B)/(C)が90/10〜30/70であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の中空デバイス封止フィルム用熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
中空デバイスを封止するための熱硬化性エポキシ樹脂フィルムであって、
(A)1分子内に2個以上のエポキシ基を有し、25℃で液状であるエポキシ樹脂、
(B)1分子内に1個以上のフェノール性水酸基を有し、さらに1分子内に1個以上のポリイミド骨格を有するフェノール系硬化剤、
(C)1分子内に2個以上のフェノール性水酸基を有し、ポリイミド骨格を有さない25℃で固体であるフェノール樹脂系硬化剤、
(D)無機充填材、
(E)硬化促進剤、及び
(F)接着助剤
を含有し、有機溶剤の残存量が前記フィルム中の0.5質量%以下のものであることを特徴とする中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルム。
【請求項7】
前記(B)成分が、下記一般式(1)
【化4】
[式中、Zは4価の芳香族基であり、Yは下記一般式(2)
【化5】
(式中、R、R及びRは、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、−COOR(Rは炭素数1〜6のアルキル基を示す)で示されるアルコキシカルボニル基、または水素原子であり、相互に異なっていても同一でもよく;R、R、R、Rは炭素数1〜9のアルキル基または水素原子であり、相互に異なっていても同一でもよく;Xは−O−、−S−、−SO−、−C(CH−、−CH−、−C(CH)(C)−、または−C(CF−を示し;nは1以上の整数である。)で表される芳香族ジアミン残基である]
で表される繰り返し単位を1種以上含有するものであることを特徴とする請求項6に記載の中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルム。
【請求項8】
前記(B)成分を構成する繰り返し単位は、前記一般式(1)で表される繰り返し単位1種以上と、下記一般式(3)
【化6】
(式中、Zは前記と同じであり、Yはシロキサンジアミン残基または非フェノール性芳香族ジアミン残基を示す。)
で表される繰り返し単位1種以上とからなるものであることを特徴とする請求項7に記載の中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルム。
【請求項9】
前記(B)成分を構成する全繰り返し単位のうち、前記一般式(1)で表される繰り返し単位が10〜90モル%であり、前記一般式(3)で表される繰り返し単位が90〜10モル%であることを特徴とする請求項8に記載の中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルム。
【請求項10】
前記(B)成分と前記(C)成分の質量比(B)/(C)が90/10〜30/70であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか一項に記載の中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルム。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか一項に記載の中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルムによって封止されたものであることを特徴とする中空デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空デバイス封止フィルム用熱硬化性エポキシ樹脂組成物及び中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスパッケージの作製には、代表的に、バンプ等を介して基板などに固定された1又は複数の電子デバイスを封止樹脂にて封止し、必要に応じて封止体を電子デバイス単位のパッケージとなるようにダイシングするという手順が採用されている。このような封止樹脂として、トランスファー成形により封止する材料としてタブレット型の材料やコンプレッション成形により封止する材料として液状や顆粒状の材料が用いられる。他には、ラミネート等で封止することもあり、これらの方法にはフィルムやシート状の材料が用いられることがある。
【0003】
近年、半導体パッケージと並んで、SAW(Surface Acoustic Wave)フィルタや、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサ、加速度センサ等のMEMSと称される微小電子デバイスの開発が進められている。これらの電子デバイスを封止したパッケージは、それぞれ一般的に表面弾性波の伝播や光学系の維持、電子デバイスの可動部材の可動性を確保するための中空構造を有している。この中空構造は、基板と電子デバイス(素子)との間の空隙として設けられることが多い。封止の際には、可動部材の作動信頼性や、素子の接続信頼性を確保するよう中空構造を維持しつつ封止する必要がある。
【0004】
このような、基板等の被着体との間に中空空間を有する中空デバイスを樹脂封止する方法として、例えば、ゲル状の硬化性樹脂シートを用いて、機能素子を中空モールドする技術が検討されているが、条件によっては発泡したり、構造によっては樹脂が流れ込んだりするなど課題がまだ残っている(特許文献1)。また、中空空間を与えるバンプはそのサイズが小さいほどコストが高くなるという事情や、上記可動部材の複雑化や複合化のための中空空間の拡大という要求に鑑み、今後はバンプ径を増加させて、100μm前後の空隙へと拡大するという方策が採られることが予想される。これらに対して、充填する無機充填材の粒度や表面積を調整することにより、ダイラタンシー様作用で流動をコントロールするものや、成形時の溶融粘度を高めることで流動を調節するもの、エラストマーを添加して海島構造を作ることで流動を調整するものなどが検討されているが、実際には詳細な成形条件の調整等が必要で汎用性に乏しいものであったり、満足する特性を有していないものであったりする(特許文献2〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−19714号公報
【特許文献2】特開2014−209565号公報
【特許文献3】特開2014−209566号公報
【特許文献4】特開2014−209567号公報
【特許文献5】特開2014−209568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、中空デバイスの封止時に、高い中空空間保持性を有する中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルム、及びこのフィルムを形成可能な中空デバイス封止フィルム用熱硬化性エポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明によれば、中空デバイスを封止するためのフィルム形成用の熱硬化性エポキシ樹脂組成物であって、
(A)1分子内に2個以上のエポキシ基を有し、25℃で液状であるエポキシ樹脂、
(B)1分子内に1個以上のフェノール性水酸基を有し、さらに1分子内に1個以上のポリイミド骨格を有するフェノール系硬化剤、
(C)1分子内に2個以上のフェノール性水酸基を有し、ポリイミド骨格を有さない、25℃で固体であるフェノール樹脂系硬化剤、
(D)無機充填材、
(E)硬化促進剤、
(F)接着助剤、及び
(G)有機溶剤
を含有するものであることを特徴とする中空デバイス封止フィルム用熱硬化性エポキシ樹脂組成物を提供する。
【0008】
このような熱硬化性エポキシ樹脂組成物であれば、中空デバイスの封止時に高い中空空間保持性を有するフィルムを得ることができる。
【0009】
この場合、前記(B)成分が、下記一般式(1)
【化1】
[式中、Zは4価の芳香族基であり、Yは下記一般式(2)
【化2】
(式中、R、R及びRは、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、−COOR(Rは炭素数1〜6のアルキル基を示す)で示されるアルコキシカルボニル基、または水素原子であり、相互に異なっていても同一でもよく;R、R、R、Rは炭素数1〜9のアルキル基または水素原子であり、相互に異なっていても同一でもよく;Xは−O−、−S−、−SO−、−C(CH−、−CH−、−C(CH)(C)−、または−C(CF−を示し;nは1以上の整数である。)で表される芳香族ジアミン残基である]
で表される繰り返し単位を1種以上含有するものであることが好ましい。
【0010】
このように、前記(B)成分が、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を1種以上含有するものであることにより、硬化物が十分な架橋密度を有するものとなるために好ましい。
【0011】
更に、前記(B)成分を構成する繰り返し単位は、前記一般式(1)で表される繰り返し単位1種以上と、下記一般式(3)
【化3】
(式中、Zは前記と同じであり、Yはシロキサンジアミン残基または非フェノール性芳香族ジアミン残基を示す。)
で表される繰り返し単位1種以上とからなるものであることが好ましい。
【0012】
このように、上記一般式(1)で表される繰り返し単位と、上記一般式(3)で表される繰り返し単位とから構成される(B)成分であれば、組成物のフィルム性を高めるだけでなく、高温で溶融しながらも封止時に中空デバイスの中空空間を保持しながら封止することができるフィルムとなる。また、このような(B)成分であれば、容易に有機溶剤で希釈でき、エポキシ樹脂と混合することができるために好ましい。
【0013】
また、前記(B)成分を構成する全繰り返し単位のうち、前記一般式(1)で表される繰り返し単位が10〜90モル%、前記一般式(3)で表される繰り返し単位が90〜10モル%であることが好ましい。
【0014】
このような(B)成分であれば、上記一般式(1)で表される繰り返し単位が10モル%以上であることにより、硬化物が十分な架橋密度を有し、耐溶剤性、接着性、機械強度に優れた硬化物を得ることができる。また、上記一般式(1)で表される繰り返し単位が90モル%以下であることにより、基板等の基材への接着性向上や硬化物の低応力化といった改質を十分に行うことができる。
【0015】
また、前記(B)成分と前記(C)成分の質量比(B)/(C)が90/10〜30/70であることが好ましい。
【0016】
この範囲を満たす熱硬化性エポキシ樹脂組成物であれば、硬化前のフィルムのハンドリング性が向上するだけでなく、保存安定性と硬化性にも優れるフィルムを得ることができる。
【0017】
また、本発明では、中空デバイスを封止するための熱硬化性エポキシ樹脂フィルムであって、
(A)1分子内に2個以上のエポキシ基を有し、25℃で液状であるエポキシ樹脂、
(B)1分子内に1個以上のフェノール性水酸基を有し、さらに1分子内に1個以上のポリイミド骨格を有するフェノール系硬化剤、
(C)1分子内に2個以上のフェノール性水酸基を有し、ポリイミド骨格を有さない25℃で固体であるフェノール樹脂系硬化剤、
(D)無機充填材、
(E)硬化促進剤、及び
(F)接着助剤
を含有し、有機溶剤を含まないものであることを特徴とする中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルムを提供する。
【0018】
このような本発明の中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルムであれば、中空空間への樹脂の進入を抑制することができ、中空デバイスの封止時に高い中空空間保持性を有するものとなる。
【0019】
この場合、前記(B)成分が、下記一般式(1)
【化4】
[式中、Zは4価の芳香族基であり、Yは下記一般式(2)
【化5】
(式中、R、R及びRは、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、−COOR(Rは炭素数1〜6のアルキル基を示す)で示されるアルコキシカルボニル基、または水素原子であり、相互に異なっていても同一でもよく;R、R、R、Rは炭素数1〜9のアルキル基または水素原子であり、相互に異なっていても同一でもよく;Xは−O−、−S−、−SO−、−C(CH−、−CH−、−C(CH)(C)−、または−C(CF−を示し;nは1以上の整数である。)で表される芳香族ジアミン残基である]
で表される繰り返し単位を1種以上含有するものであることが好ましい。
【0020】
このように、前記(B)成分が、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を1種以上含有するものであることにより、硬化物が十分な架橋密度を有するものとなるために好ましい。
【0021】
更に、前記(B)成分を構成する繰り返し単位は、前記一般式(1)で表される繰り返し単位1種以上と、下記一般式(3)
【化6】
(式中、Zは前記と同じであり、Yはシロキサンジアミン残基または非フェノール性芳香族ジアミン残基を示す。)
で表される繰り返し単位1種以上とからなるものであることが好ましい。
【0022】
このように、上記一般式(1)で表される繰り返し単位と、上記一般式(3)で表される繰り返し単位とから構成される(B)成分であれば、高温で溶融しながらも封止時に中空デバイスの中空空間を保持しながら封止することができるフィルムとなる。
【0023】
また、前記(B)成分を構成する全繰り返し単位のうち、前記一般式(1)で表される繰り返し単位が10〜90モル%であり、前記一般式(3)で表される繰り返し単位が90〜10モル%であることが好ましい。
【0024】
このような(B)成分であれば、上記一般式(1)で表される繰り返し単位が10モル%以上であることにより、硬化物が十分な架橋密度を有し、耐溶剤性、接着性、機械強度に優れた硬化物を得ることができる。また、上記一般式(1)で表される繰り返し単位が90モル%以下であることにより、基板等の基材への接着性向上や硬化物の低応力化といった改質を十分に行うことができる。
【0025】
また、前記(B)成分と前記(C)成分の質量比(B)/(C)が90/10〜30/70であることが好ましい。
【0026】
この範囲を満たすものであれば、硬化前のフィルムのハンドリング性が向上するだけでなく、保存安定性と硬化性にも優れるフィルムとなる。
【0027】
また、本発明では、前記中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルムによって封止されたものである中空デバイスを提供する。
【0028】
このような、本発明の中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルムによって封止された中空デバイスであれば、中空空間への樹脂の進入が抑制された封止体となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の中空デバイス封止フィルム用熱硬化性エポキシ樹脂組成物及び中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルムであれば、中空空間への樹脂の進入を抑制することができ、中空空間を高い精度で保持したまま中空デバイスを封止することが可能なため、可動部材の作動信頼性や素子の接続信頼性を確保することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、下記中空デバイス封止フィルム用熱硬化性エポキシ樹脂組成物から製造された中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルムが、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。以下、本発明の中空デバイス封止フィルム用熱硬化性エポキシ樹脂組成物及び中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルムについて詳細に説明する。
【0031】
本発明の中空デバイス封止フィルム用熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、下記(A)〜(G)を含有するものである。
(A)1分子内に2個以上のエポキシ基を有し、25℃で液状であるエポキシ樹脂、
(B)1分子内に1個以上のフェノール性水酸基を有し、さらに1分子内に1個以上のポリイミド骨格を有する硬化剤、
(C)1分子内に2個以上のフェノール性水酸基を有し、ポリイミド骨格を有さない25℃で固体であるフェノール樹脂系硬化剤、
(D)無機充填材、
(E)硬化促進剤、
(F)接着助剤、及び
(G)有機溶剤。
以下、各成分について詳述する。
【0032】
(A)1分子内に2個以上のエポキシ基を有し、25℃で液状であるエポキシ樹脂
本発明に用いる(A)成分として、1分子内に2個以上のエポキシ基を有し、25℃で液状であるエポキシ樹脂を使用する。25℃で液状であることで、本発明のフィルムに柔軟性を付与させたり、もろさを改善したりすることができる。
【0033】
このような(A)成分としては、1分子内に2個以上のエポキシ基を有し25℃で液状のものであれば、エポキシ樹脂として公知のものを使用することができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリスフェノール型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エステル骨格を有する脂環式エポキシ樹脂、tert−ブチル−カテコール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、鎖状脂肪族エポキシ樹脂、ブタジエン構造を有するエポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、スピロ環含有エポキシ樹脂、シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、トリメチロール型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0034】
前記(A)成分は、25℃で液状であり、好ましくはJIS K 7117−1:1999に記載された回転粘度計により測定された粘度が、4.0〜30Pa・sであり、より好ましくは、10〜20Pa・sである。
【0035】
(A)成分の液状エポキシ樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、(A)成分の液状エポキシ樹脂は、耐熱性や接着性の観点から、グリシジルアミン型エポキシ樹脂やビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂が好ましい。
【0036】
また、本発明の中空デバイス封止フィルム用熱硬化性エポキシ樹脂組成物には、必要に応じて、固形のエポキシ樹脂を併用しても構わない。
【0037】
(B)1分子内に1個以上のフェノール性水酸基を有し、さらに1分子内に1個以上のポリイミド骨格を有するフェノール系硬化剤
本発明では、(B)成分として1分子内に1個以上のフェノール性水酸基を有し、さらに1分子内に1個以上のポリイミド骨格を有するフェノール系硬化剤を使用する。
【0038】
具体的には、(B)成分は下記一般式(1)
【化7】
[式中、Zは4価の芳香族基、Yは下記一般式(2)
【化8】
(式中、R、R及びRは、炭素数1〜9のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、−COOR(Rは炭素数1〜6のアルキル基を示す)で示されるアルコキシカルボニル基、または水素原子であり、相互に異なっていても同一でもよく;R、R、R、Rは炭素数1〜9のアルキル基または水素原子であり、相互に異なっていても同一でもよく;Xは−O−、−S−、−SO−、−C(CH−、−CH−、−C(CH)(C)−、または−C(CF−を示し;nは1以上の整数である。)で表される芳香族ジアミン残基]で表される繰り返し単位を1種以上含有するものであることが好ましい。
【0039】
更には、(B)成分を構成する繰り返し単位は、前記一般式(1)で表される繰り返し単位1種以上と、下記一般式(3)
【化9】
(式中、Zは前記と同じであり、Yはシロキサンジアミン残基または非フェノール性芳香族ジアミン残基を示す。)
で表される繰り返し単位1種以上とからなるものであることが好ましい。
【0040】
上記一般式(1)及び上記一般式(3)におけるZは、4価の芳香族基であり、具体的には、芳香族テトラカルボン酸二無水物残基である、4価の芳香族基である。尚、本発明において、4価の芳香族基とは、芳香環を有する芳香族化合物から水素原子を4個除いた基をいう。このような4価の芳香族基を導く芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)パーフルオロプロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1’−(3,4−ジカルボキシフェニル)テトラメチルジシロキサン二無水物等が挙げられる。
【0041】
中でも、Zがピロメリット酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)パーフルオロプロパン二無水物又はビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物に由来する骨格を有するものである場合は、完全閉環型構造を有しているポリイミドであるものの、溶剤に対する未硬化物の溶解性に優れる点で好ましい。Zがシロキサン結合を含有する場合は、基材への接着性に優れる点で好ましい。また、Zがビフェニル骨格を有する場合は、硬化物の硬度が向上するので好ましい。
【0042】
上記一般式(1)中のYは、上記一般式(2)で示されるフェノール性水酸基を有する2価の芳香族ジアミン残基である。上記一般式(2)におけるR、R、Rは、炭素数1〜9、好ましくは1〜4の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数1〜10、好ましくは1〜4のアルコキシ基、−COOR(Rは炭素数1〜6のアルキル基を示す)で示されるアルコキシカルボニル基、または水素原子である。このアルコキシ基におけるアルキル基は直鎖又は分岐鎖状のいずれでもよい。R、R、Rは相互に異なっていても同一でもよい。このうち、R、R、Rがアルキル基の場合は、ポリイミドの耐水性が向上する。アルコキシ基又はアルコキシカルボニル基の場合は、組成物を封止用のフィルムとしたときに、基材との密着性が向上する。特に、R、R、Rのうち、1つ又は2つが水素原子で、残りがメチル基であることが好ましい。
【0043】
上記一般式(2)において、R、R、R、Rは炭素数1〜9、好ましくは1〜4の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基又は水素原子であり、相互に異なっていても同一でもよい。R、R、R、Rにアルキル基を導入することにより耐水性を向上させることができる。なお、アミノ基の反応性を高く保つ観点から、このアルキル基はメチル基であることが好ましい。
一般式(2)において、Xは−O−、−S−、−SO−、−C(CH−、−CH−、−C(CH)(C)−、または−C(CF−であり、同一でも異なっていても良い。中でも、Xが−CH−であると、この芳香族ジアミン残基を導くためのジアミンの合成プロセスが容易になるので好ましい。
【0044】
上記一般式(3)において、Yはシロキサンジアミン残基または非フェノール性芳香族ジアミン残基である。Yが非フェノール性芳香族ジアミン残基である場合、このYを導くための芳香族ジアミンは非フェノール性であれば特に限定されるものではない。例えば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミンなどのフェニレンジアミン類、4,4’−ジフェニレンジアミン、3,3’−ジフェニレンジアミン、3,4’−ジフェニレンジアミンなどのジフェニレンジアミン類、各種ビス(アミノフェニル)エーテル、各種ビス(アミノフェニルオキシ)ベンゼン、各種2,2−ビス(アミノフェニルオキシフェニル)プロパンを例示できる。
【0045】
がシロキサンジアミン残基である場合、下記一般式(4)で示されるシロキサンジアミン残基を例示することができる。
【化10】
【0046】
上記一般式(4)において、Wは炭素数1〜6,好ましくは炭素数3のアルキレン基であり、Wは炭素数1〜10、好ましくは1〜8の非置換又は水素原子がハロゲン原子で置換された1価の炭化水素基である。Wの具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基;これらの炭化水素基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素などのハロゲン原子で置換したハロゲン置換炭化水素基を例示できるが、中でもメチル基が好ましい。uは1〜120の整数であり、特に、1〜80の整数であることが好ましい。uが120以下であれば、未硬化物中のポリイミド樹脂が溶剤に十分に溶解することができる。
【0047】
このような前記一般式(1)で表される繰り返し単位1種以上と、上記一般式(3)で表される繰り返し単位1種以上を有する、ポリイミド骨格を有するフェノール系硬化剤を用いることで、組成物のフィルム性を高めるだけでなく、高温で溶融しながらも封止時に中空デバイスの中空空間を保持しながら封止することができるようになる。さらに言うと、この構造を有することでポリイミドでありながら、N−メチルピロリドンなど高沸点の含窒素極性溶媒を使用しなくても、容易に有機溶剤で希釈でき、エポキシ樹脂と混合することができるようになる。
【0048】
本発明で使用するポリイミド骨格含有フェノール系硬化剤は、上記一般式(1)で表される繰り返し単位が10〜90モル%であり、上記一般式(3)で表される繰り返し単位が90〜10モル%であることが好ましい。上記一般式(1)で表される繰り返し単位が10モル%以上であると、硬化物が十分な架橋密度を有し、耐溶剤性、接着性、機械強度に優れた硬化物を得ることができる。上記一般式(1)で表される繰り返し単位が90モル%以下であれば、基材への接着性や硬化物の低応力化といった改質を十分に行うことができる。
【0049】
また、本発明におけるポリイミド骨格含有フェノール系硬化剤(ポリイミド樹脂)の重量平均分子量(GPC法、標準ポリスチレンによる検量線を用いて算出)は、5,000〜150,000であることが好ましく、20,000〜100,000であることがより好ましい。重量平均分子量が5,000以上であれば、硬化物が機械強度を得ることができ、150,000以下であれば、ポリイミド樹脂の末端の酸無水物が加水分解して生成するカルボキシ基や、末端のアミノ基の量が必要十分な量を有するため、(A)成分として使用するエポキシ樹脂との架橋密度が上がり、ポリイミド骨格を有する硬化剤の耐溶剤性が向上する。
【0050】
また、上記ポリイミド骨格含有フェノール系硬化剤のフェノール性水酸基の水酸基当量は、300〜3,000が好ましく、500〜2,500がより好ましい。
【0051】
(B)成分としては、例えば、下記式で示されるフェノールイミド骨格を有するGPIシリーズ(群栄化学(株)製)などの市販品を使用することができる。
【化11】
(式中、mは水酸基当量が300〜3,000を満たす数)
【0052】
また、(B)成分のポリイミド骨格含有フェノール系硬化剤は、溶剤で希釈して溶液として用いることが好ましい。この溶液に用いられる溶剤は相溶性に優れる溶剤を用いることが好ましく、テトラヒドロフラン、アニソール、ジグライム、トリグライム等のエーテル系溶剤、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、2−オクタノン、アセトフェノン等のケトン系溶剤、酢酸ブチル、安息香酸メチル、γ−ブチロラクトン、2−ヒドロキシプロパン酸メチル等のエステル系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤等が挙げられる。これらの中では、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが、より好ましく用いられる。(B)成分を溶液として用いる場合、その固形分濃度としては、該(B)成分の性状によって適宜最適化されるが、10〜60質量%が好ましい。
【0053】
(C)1分子内に2個以上のフェノール性水酸基を有し、ポリイミド骨格を有さない、25℃で固体であるフェノール樹脂系硬化剤
(C)成分のフェノール樹脂系硬化剤としては、1分子内に2個以上のフェノール性水酸基を有し、ポリイミド骨格を有さない25℃で固体であるものであれば、エポキシ樹脂の硬化剤として用いられる公知のものを使用することができる。
【0054】
このようなフェノール樹脂系硬化剤としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等が挙げられる。
【0055】
前記フェノール樹脂系硬化剤は、25℃で固体であることが必須であり、JIS K 6910:2007記載の方法で測定した軟化点が55〜125℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは60〜120℃である。この範囲内であれば、フィルム状に成形した際のハンドリング性が向上し、フィルム化した際に脆くなることもなく、ガラス転移点などの硬化後物性も向上するため好ましい。
【0056】
なお、これらの硬化剤は種類によらず単独で使用しても、併用しても構わない。
【0057】
(B)及び(C)成分の配合量としては、(A)成分中のエポキシ基に対し、(B)成分中のフェノール性水酸基と(C)成分中のフェノール性水酸基の当量比が、0.5〜2.0となる量が好ましく、より好ましくは0.7〜1.5となる量である。当量比がこの範囲を満たすと、硬化性、機械特性、信頼性等が低下する恐れがないため好ましい。
【0058】
(B)成分と(C)成分の割合としては、質量比で(B)/(C)が90/10〜30/70であることが好ましく、より好ましくは(B)/(C)=85/15〜40/60である。この範囲を満たすと硬化前のフィルムのハンドリング性が向上するだけでなく、保存安定性と硬化性にも優れるフィルムを得ることができる。
【0059】
(D)無機充填材
(D)成分である無機充填材は、本発明の中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルムの硬化前後の強度を高めたり、中空デバイスを封止する際の中空空間保持性を高めたりするために配合される。(D)成分の無機充填材としては、通常エポキシ樹脂組成物やシリコーン樹脂組成物に配合されるものを使用することができる。例えば、球状シリカ、溶融シリカ及び結晶性シリカ等のシリカ類、アルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド、ガラス繊維及びガラス粒子等が挙げられるが、特に球状シリカが好ましい。
【0060】
(D)成分の無機充填材の平均粒径及び形状は特に限定されないが、平均粒径は通常0.5〜40μmであり、特に平均粒径が0.5〜40μmの球状シリカが好適に用いられる。なお、平均粒径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における質量平均値D50(又はメジアン径)として求めた値である。
【0061】
また、得られる組成物の高流動化の観点から、複数の粒径範囲の無機充填材を組み合わせてもよく、このような場合では、0.1〜3μmの微細領域、3〜7μmの中粒径領域、及び10〜40μmの粗領域の球状シリカを組み合わせて使用することが好ましい。さらなる高流動化のためには、平均粒径がさらに大きい球状シリカを用いることが好ましい。
【0062】
しかしながら、フィルムは一般的に150μm以下の厚みである。厚みに対して無機充填材の最大粒径は1/3ほどの大きさであることが好ましい。また、平均粒径10μm以下のシリカであれば、溶剤を含む本発明の組成物をワニス状にし、フィルム化する際に沈降する恐れがないため、フィルムとしては平均粒径0.1〜10μmの微細〜中粒径領域のシリカを用いることが好ましい。
【0063】
上記(D)成分の無機充填材は、(A)、(B)及び(C)成分の樹脂成分との結合強度を強くするため、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等のカップリング剤で予め表面処理したものを配合してもよい。
【0064】
このようなカップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ官能性アルコキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ官能性アルコキシシランなどを用いることが好ましい。表面処理に用いるカップリング剤の配合量及び表面処理方法については特に制限されるものではなく、常法に従って行えばよい。
【0065】
(D)成分の無機充填材の充填量は、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の総和100質量部に対し、100〜800質量部、特に200〜700質量部が好ましい。100質量部以上であれば、十分な強度を得ることができ、800質量部以下であれば、フィルムの柔軟性に優れるので、ハンドリング時に破れる恐れがない。なお、この無機充填材は、組成物全体の30〜85質量%、特に50〜80質量%の範囲で含有することが好ましい。
【0066】
(E)硬化促進剤
本発明で用いる(E)成分の硬化促進剤としては、エポキシ樹脂と硬化剤との硬化反応を促進するものであれば良く、例えば、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン等のアミン系化合物、トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスフォニウム・テトラボレート塩等の有機リン系化合物、2−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの硬化促進剤は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0067】
硬化促進剤の使用量は、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の総和に対して0.05〜5質量%、特に0.1〜3質量%の範囲内で配合することが好ましい。上記範囲内であれば、エポキシ樹脂組成物の硬化物の耐熱性及び耐湿性のバランスに優れ、封止時に硬化が非常に遅くなったり速くなりすぎたりすることもない。
【0068】
(F)接着助剤
本発明の中空デバイス封止フィルム用熱硬化性エポキシ樹脂組成物には、(F)成分として接着助剤を配合する。(A)〜(C)の樹脂成分と(D)無機充填材との結合強度を強くしたり、BT基板のような有機基板や金属リードフレームとの接着性を高くしたりすることができる。このような接着助剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などが挙げられる。中でもシランカップリング剤が好ましく、具体的には、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ官能性アルコキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト官能性アルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミン官能性アルコキシシランなどが挙げられる。
【0069】
(F)成分の配合量は、(A)、(B)及び(C)成分の総和に対して、0.1〜8.0質量%とすることが好ましく、特に0.5〜6.0質量%とすることが好ましい。0.1質量%以上であると、基材への接着性に優れ、また8.0質量%以下であれば、低粘度化によるボイドの発生も生じない。
【0070】
(G)有機溶剤
本発明における(G)成分である有機溶剤は、後述する中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルムを製造する際に、前記エポキシ樹脂組成物の粘度を適切な範囲に調整するために配合するものである。有機溶剤の例としては、前記(B)成分を希釈する際に用いた溶剤と同様のものが例示される。具体的には、テトラヒドロフラン、アニソール、ジグライム、トリグライム等のエーテル系溶剤、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、2−オクタノン、アセトフェノン等のケトン系溶剤、酢酸ブチル、安息香酸メチル、γ−ブチロラクトン、2−ヒドロキシプロパン酸メチル等のエステル系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤等が挙げられる。これらの中では、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが、より好ましく用いられる。
【0071】
また、本発明の中空デバイス封止フィルム用熱硬化性エポキシ樹脂組成物における固形分濃度は10〜60質量%であることが好ましく、より好ましくは20〜40質量%である。
【0072】
<その他の添加剤>
本発明の中空デバイス封止フィルム用熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、更に必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。例えば、樹脂の性質を改善する目的でオルガノポリシロキサン、シリコーンオイル、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、有機合成ゴム、又は光安定剤等の添加剤、電気特性を改善する目的でイオントラップ材、塗工時の作業性、被膜の特性を改善する目的で消泡剤、レベリング剤等の界面活性剤、その他、染料、顔料等の着色剤、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、滑剤などを添加配合することができる。
【0073】
熱硬化性エポキシ樹脂フィルム及びその製造方法
本発明では、中空デバイスを封止するための熱硬化性エポキシ樹脂フィルムであって、
(A)1分子内に2個以上のエポキシ基を有し、25℃で液状であるエポキシ樹脂、
(B)1分子内に1個以上のフェノール性水酸基を有し、さらに1分子内に1個以上のポリイミド骨格を有するフェノール系硬化剤、
(C)1分子内に2個以上のフェノール性水酸基を有し、ポリイミド骨格を有さない25℃で固体であるフェノール樹脂系硬化剤、
(D)無機充填材、
(E)硬化促進剤、及び
(F)接着助剤
を含有し、有機溶剤を含まないものであることを特徴とする中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルムを提供する。
【0074】
本発明の中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルムの製造方法としては、前記(A)〜(G)成分、及びその他の任意成分を所定の組成比で配合し、ワニス状にした後、コーター等を用いて適当なベース基材上に塗布し、溶剤を除去することで、ベース基材上にフィルムを得る方法を採用することができる。ベース基材としては、例えば離型性に優れるシリコーン樹脂やフッ素樹脂が塗工されたポリエステルフィルム、又はエンボス加工などの離型処理を施したポリエステルフィルム等を用いることができる。溶剤除去は、例えば、ホットプレート、熱風ヒーター、赤外線ヒーター等を用いて所定の温度・時間で加熱することにより行うことができる。ここで必要に応じてベース基材を除去して、本発明の中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルムのみを中空デバイスの封止に用いても良いし、ベース基材との積層体で、中空デバイスの封止に用いても良い。
【0075】
フィルムへの加工において、溶剤を除去する際に加熱が十分でないとフィルム中に溶剤が残存し、ボイドが生じ、これが剥離・クラックの原因になる等のおそれがある。逆に加熱が過度であるとエポキシ樹脂と硬化剤の反応が進行してしまい、フィルムの柔軟性又は接着性に支障をきたすおそれがある。また、一気に溶剤の沸点以上に加熱すると、フィルム中やフィルムの表面にボイドが残存したり、フィルムの厚みが不均一になったりする等の問題が発生するおそれがある。したがって、溶剤の除去にあたっては、溶剤の沸点未満の温度より段階的に昇温させ、除去することが望ましい。
【0076】
このようにして得られたフィルムは有機溶剤を含まないことを特徴とする。ここで、「有機溶剤を含まない」とは、有機溶剤を実質的に含まない、即ち、製造後のフィルムを有機溶剤に含浸させるなどの方法で意図的に添加していないという意味であり、フィルム製造工程を経てわずかに残存する前記組成物中の有機溶剤の存在を許容するものである。残存量としては、前記フィルム中の0.5質量%以下であることが好ましく、硬化時に発生する溶剤揮発分が2,000ppm以下であることがより好ましい。
【0077】
中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルムによって封止された中空デバイス
本発明の中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルムによれば、中空デバイスを中空空間を保持しながら封止することができる。本発明の中空デバイスとしては、例えば、SAWチップなどが挙げられるが、被着体との間に中空空間を有する電子デバイスであれば、特に限定されない。被着体と電子デバイスとの間の距離(中空空間の幅)は、適宜設定できるが、一般的には10〜100μmである。
【0078】
中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルムの使用方法
本発明の中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルムは、コンプレッション成形やラミネート成形により、中空デバイスを封止することができる。
【0079】
例えば、コンプレッション成形機を用い、成形温度110〜190℃で成形時間30〜900秒、好ましくは成形温度120〜160℃で成形時間120〜600秒で行うことによって、本発明の中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルムを貼り付けることで、中空デバイスを中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルムに埋め込み、封止することができる。更に、いずれの成形法においても、後硬化を140〜185℃で0.5〜20時間行ってもよい。
【0080】
他にも、中空デバイスが実装された基板上に本発明の中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルムを乗せ、80〜150℃の熱板上で30〜240分かけてシートを溶かしながら、基板に追随するようにして、中空デバイスを封止することもできる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0082】
(実施例1〜5,比較例1〜5)
表1に示す配合(質量部)で、25℃に調整したゲートミキサー内にて30分間混合し、目的とするフィルム用組成物を得た。なお、(B)成分に関しては有効成分量を質量部として記載した。(G)成分として記載している有機溶剤の配合量は、(B)成分の硬化剤をあらかじめ溶解するのに使用されていたシクロヘキサノンの量と組成物全体を溶解するために添加した有機溶剤量の合計量である。
【0083】
実施例、比較例で使用した原料を以下に示す。
(A−1)1分子内に2個以上のエポキシ基を有し、25℃で液状であるエポキシ樹脂
(A−1−1):液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、商品名:jER−828、エポキシ当量190(下記式)、粘度:15Pa・s)
【化12】
(式中、n1は上記エポキシ当量を満たす数)
(A−1−2):液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、商品名:jER−806、エポキシ当量165(下記式)、粘度:2.5Pa・s)
【化13】
(式中、n2は上記エポキシ当量を満たす数)
【0084】
(A−2)1分子内に2個以上のエポキシ基を有し、25℃で固形であるエポキシ樹脂
(A−2−1):固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、商品名:jER−1001、エポキシ当量475、軟化点64℃(乾球法))
【化14】
(式中、n3は上記エポキシ当量を満たす数)
【0085】
(B)1分子内に1個以上のフェノール性水酸基を有し、さらに1分子内に1個以上のポリイミド骨格を有するフェノール系硬化剤
(B−1):下記式で示されるフェノールイミド骨格を有するポリイミド骨格含有フェノール系硬化剤―1(群栄化学(株)製、商品名:GPI−HT、水酸基当量545、有効成分30重量%、シクロヘキサノン溶液)
(B−2):下記式で示されるフェノールイミド骨格を有するポリイミド骨格含有フェノール系硬化剤―2(群栄化学(株)製、商品名:GPI−LT、水酸基当量870、有効成分35重量%、シクロヘキサノン溶液)
【化15】
(式中、n4は上記水酸基当量を満たす数)
【0086】
(C−1)1分子内に2個以上のフェノール性水酸基を有し、ポリイミド骨格を有さない、25℃で固体であるフェノール樹脂系硬化剤
(C−1−1):フェノールノボラック樹脂(DIC(株)製、商品名:TD−2131、水酸基当量110、軟化点78〜82℃)
【0087】
(C−2)1分子内に2個以上のフェノール性水酸基を有し、ポリイミド骨格を有さない、25℃で液状であるフェノール樹脂系硬化剤
(C−2−1):フェノール樹脂(明和化成(株)製、商品名:MEH−8000H、水酸基当量141、25℃で液状、2.5Pa.s)
【0088】
(D)無機充填材
(D−1):溶融球状シリカ(平均粒径0.5μm、(株)アドマテックス製、商品名:SO−25R)
【0089】
(E)硬化促進剤
(E−1):2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成(株)製、商品名:2PHZ)
【0090】
(F)接着助剤
(F−1):シランカップリング剤:3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、商品名:KBM−803)
【0091】
(G)有機溶剤
(G−1):シクロヘキサノン
【0092】
(H)着色剤
(H−1):カーボンブラック(三菱化学(株)製、商品名:三菱カーボンブラック#3230MJ)
【0093】
続いて、離型用シリコーンで表面処理したポリエチレンテレフタレートフィルムに上記の熱硬化性樹脂組成物をそれぞれ塗布し、100℃で、10分乾燥して溶剤を除去して厚さ80μmの未硬化状態(B−stage状態)フィルムとした。
【0094】
[室温でのハンドリング性]
得られたB−stage状態の各フィルムを180度折り曲げた際、クラックや破れが全く発生せず、さらに元の状態に容易に戻すことができるものを「○」、クラックや破れが少しでも発生したものは「×」、そもそも離形フィルム上でフィルム化できなかったものを「××」とした。
【0095】
[ずり最低粘度]
得られたB−stage状態の各フィルムを10mm角に切り出し、動的粘弾性測定装置(ユーピーエム製、レオメータMR−300)を用いて測定を行った。なお、測定条件は、測定周波数1.0Hz、測定子径8.0mm、測定温度80℃〜180℃、昇温速度5℃/分とし、最低粘度の数値を読み取った。さらに25℃×336時間放置した各フィルムにおいても同様の測定を行った。
【0096】
[ガラス転移温度・熱膨張係数]
得られたB−stage状態の各フィルムを180℃2時間の条件で硬化させ、熱機械分析装置(TAインスツルメンツ製、TMA Q400)を用いて、毎分5℃の昇温速度で試料の伸びを測定し、ガラス転移温度および50〜100℃の線膨張係数を求めた。
【0097】
[実パッケージ中空部への進入性評価]
アルミニウム櫛形電極が形成された以下の仕様のSAWチップを下記ボンディング条件にてガラス基板に実装したSAWチップ実装基板を作製した。SAWチップとガラス基板との間のギャップ幅は、80μmであった。
【0098】
<SAWチップ>
チップサイズ:1.2mm□(厚さ150μm)
バンプ材質 :鉛フリーはんだ(高さ80μm)
バンプ数:6バンプ
チップ数:100個(10個×10個)
【0099】
<ボンディング条件>
装置:パナソニック電工(株)製
ボンディング条件:200℃、3N、1sec、超音波出力2W
【0100】
得られたSAWチップ実装基板上に、以下に示す加熱加圧条件下、各中空封止シートを真空プレスにより貼付けた。
<貼り付け条件>
温度:120℃、圧力:5MPa、真空度:1.6kPa、プレス時間:2分
【0101】
180℃、2時間の条件で中空封止用樹脂フィルムを熱硬化させ、封止体を得た。ガラス基板側から電子顕微鏡(KEYENCE社製、商品名「デジタルマイクロスコープ」、200倍)により、SAWチップとガラス基板との間の中空部への樹脂の進入量を測定した。樹脂進入量は、封止後にSAWチップの端部から中空部へ進入した樹脂の最大到達距離を測定し、これを樹脂進入量とした。樹脂進入量が20μm以下であった場合を「○」、20μmを超えていた場合を「×」、全面に樹脂が進入している場合を「××」として評価した。
【表1】
【0102】
表1で示すように、比較例1、2の熱硬化性エポキシ樹脂フィルムは、中空部への樹脂の進入量を抑えることができず、また、比較例3の熱硬化性エポキシ樹脂フィルムは、成形後に剥離が発生しており、比較例4の熱硬化性エポキシ樹脂フィルムは、硬化後もタック性があった。比較例5では、組成物をフィルム化することができなかった。一方、本発明の中空デバイス封止用熱硬化性エポキシ樹脂フィルムは、中空デバイスの封止時に、高い中空空間保持性を有し、中空デバイスの封止材として有用であることが示された(実施例1〜5)。
【0103】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に含有される。