(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定はされない。
本発明のアルコール飲料中のアルコール含有量の低減化方法は、旨み成分、アルコール及び水を含有するアルコール飲料中のアルコール含有量の低減化方法であって、アルコール飲料をゼオライトを含む膜に供給し、旨み成分及び水を供給側に残して、アルコールを該膜から選択的に透過させることにより、アルコールの一部を分離除去して、該アルコール飲料中のアルコール含有量を減らすことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の低アルコール飲料の製造方法は、日本酒、ビール、ワインからなる群から選ばれるアルコール飲料のアルコール含有量を低減化させた低アルコール飲料を製造する方法であって、該アルコール飲料をゼオライトを含む膜に供給し、旨み成分及び水を供給側に残して、アルコールを該膜から選択的に透過させることにより、アルコールの一部を分離除去して、該アルコール飲料中のアルコール含有量を減らすことを特徴とする。
【0011】
本発明におけるアルコール飲料とは、飲用アルコールを含有する酒類であり、通常はアルコールを1重量%以上含有するものである。本発明は、アルコールを好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは12重量%以上含有するアルコール飲料を低減化させるために好適である。
【0012】
アルコール飲料としては、ウイスキー、ラム、ウォッカ、ジン、テキーラ、ブランデー、焼酎などの蒸留酒、ビール、発泡酒などのビール系飲料、ワイン、シードルなどの果実酒、日本酒、紹興酒、みりんなどの醸造酒、リキュール、カクテル等のアルコール飲料などが挙げられ、中でも、日本酒、ビール、ワインなどに本発明を適用することが好ましい。
具体的には、ゼオライトを含む膜へ原料となるアルコール飲料を供給して、アルコールを分離除去する。
【0013】
(分離膜)
本発明におけるゼオライトを含む膜は分離膜であり、分離膜は、分子の大きさによって対象となる物質を分離する性質および、分子と膜との親和性の違いによって分離する性質をもった膜であって、ゼオライトを含むものであればよい。
【0014】
具体的には、透析膜、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜、正浸透膜、をはじめとする高分子膜にゼオライトを添加したmixed matrix membrane(以下MMM)、ゼオライト膜などが挙げられる。
ゼオライトを含む膜中のゼオライトの含有量は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.4重量%以上、特に好ましくは1重量%以上、通常100重量%以下である。ゼオライトを含む膜中のゼオライトの含有量がこの範囲にあるとき、ゼオライトの分子篩による分離、親和性の違いによる分離が可能になる。
【0015】
ゼオライトのSiO
2/Al
2O
3モル比は、通常50以上、好ましくは100以上、より好ましくは200以上、さらに好ましくは300以上であり、通常10000以下である。ゼオライトのSiO
2/Al
2O
3モル比がこの範囲にあるとき、疎水性に優れかつ耐酸性、耐水性も優れ、エタノールを選択的に透過させることによる低アルコール飲料の製造に好適に用いられる。
【0016】
また、ゼオライトの構造等については、下記詳述するゼオライト膜におけるものと同様であり、好ましいものもまた同様である。
本発明では、分離性能の点から、ナノろ過膜、逆浸透膜、ゼオライト膜、MMMを使用することが好ましく、さらに耐久性の点からゼオライト膜を使用することが好ましい。
本発明において、ゼオライト膜は、ゼオライトが単独で膜となったものでも、ゼオライトの粉末をポリマーなどのバインダー中に分散させて膜の形状にしたものでも、各種支持体上にゼオライトを膜状に固着させたゼオライト膜複合体でもよい。それらの中で、多孔質支持体上にゼオライトを膜状に固着させたゼオライト膜複合体が特に好ましく、中でも膜が実質的にゼオライトのみからなるものであることが好ましい。
【0017】
尚、本発明において、実質的にゼオライトのみからなる膜とは、通常、膜中の90重量%以上がゼオライトである膜であり、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上、特に好ましくは99重量%以上である。
即ち、ゼオライト膜複合体は支持体を有することによって機械的強度が増し、取り扱いが容易になり、種々の装置設計が可能となる上に、特に無機多孔質支持体を用いた場合、ゼオライト膜複合体は全て無機物で構成されるものとなるため、耐熱性、耐薬品性、耐久性に優れ、長期に亘り安定に使用することが可能となる。
【0018】
ゼオライト膜複合体を構成する多孔質支持体としては、その表面などにゼオライトを膜状に結晶化できるような化学的安定性があり、無機の多孔質よりなる支持体(無機多孔質支持体)が好ましく、例えば、シリカ、α−アルミナ、γ−アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス焼結体(セラッミクス支持体)、鉄、ブロンズ、ステンレス等の焼結金属や、ガラス、カーボン成型体などが挙げられるが、これらのうち、セラミックス支持体が好ましい。
【0019】
セラミックス支持体としては、上記の通り、具体的には、例えば、シリカ、α−アルミナ、γ−アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などを含むセラミックス焼結体(セラミックス支持体)が挙げられるが、それらの中で、アルミナ、シリカ、ムライトのうち少なくとも1種を含むセラミックス支持体が好ましい。
【0020】
多孔質支持体の形状は、アルコール飲料から効率的にアルコールを分離できるものであれば特に制限されず、例えば、平板状、管状(例えば、円筒管状、角筒管状)、ハニカム状(例えば円筒状、円柱状や角柱状の孔が多数存在するハニカム状)、モノリスなどが挙げられる。中でも、特に管状支持体が好ましく、特に円筒管状支持体が好ましい。
多孔質支持体の平均厚さ(肉厚)は、通常0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上、特に好ましくは0.7mm以上であり、通常7mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下である。
【0021】
多孔質支持体の気孔率は、通常20%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上であり、通常70%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下である。
多孔質支持体が円筒管である場合、円筒管の外径は通常3mm以上、好ましくは5.5mm以上、より好ましくは9.5mm以上、特に好ましくは11mm以上であり、通常51mm以下、好ましくは31mm以下、より好ましくは21mm以下、さらに好ましくは17mm以下、特に好ましくは15mm以下である。
このような多孔質支持体上にゼオライト膜を形成させて、ゼオライト膜複合体を得る。
ゼオライト膜を構成する成分としては、ゼオライト以外にシリカ、アルミナなどの無機バインダー、ポリマーなどの有機化合物、あるいは下記詳述するようなゼオライト表面を修飾するSi原子を含む材料(シリル化剤)またはその反応物などを必要に応じ含んでいてもよい。また、本発明におけるゼオライト膜は、一部アモルファス成分などを含んでいてもよい。尚、ゼオライトとしては、アルミノリン酸塩、シリコアルモノフォスフェイト、アルミノ珪酸塩、ケイ酸塩であるものが好ましく、アルミノ珪酸塩、ケイ酸塩が特に好ましい。
【0022】
ゼオライト膜の厚さは特に制限されないが、通常0.1μm以上、好ましくは0.6μm以上、より好ましくは1.0μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは60μm以下、より好ましくは20μm以下の範囲である。膜厚が大きすぎると透過量が低下する傾向があり、小さすぎると選択性が低下したり、膜強度が低下したりする傾向がある。
ゼオライトの粒子径は特に限定されないが、小さすぎると粒界が大きくなるなどして透過選択性などを低下させる傾向がある。それゆえ、通常30nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、上限は膜の厚さ以下である。さらに、ゼオライトの粒子径が膜の厚さと同じである場合が特に好ましい。
【0023】
粒子径の測定方法については特に限定されないが、一例をあげれば、SEMによるゼオライト膜表面の観察やSEMによるゼオライト膜断面の観察、TEMによるゼオライト膜の観察などによって測定することができる。
ゼオライト膜自体のSiO
2/Al
2O
3モル比は、通常50以上、好ましくは100
以上、より好ましくは200以上、さらに好ましくは300以上であり、通常10000以下である。ゼオライト膜のSiO
2/Al
2O
3モル比がこの範囲にあるとき、ゼオライト膜は疎水性に優れかつ耐酸性、耐水性も優れた膜となり、エタノールを選択的に透過させることによる低アルコール飲料の製造に好適に用いられる。
【0024】
ゼオライト膜自体のSiO
2/Al
2O
3モル比は、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法(SEM−EDX)により得られた数値である。SEM−EDXにおいて、X線の加速電圧を10kV程度として測定することにより、数ミクロンの膜のみの情報を得ることができる。ゼオライト膜は均一に形成されているので、この測定により、膜自体のSiO
2/Al
2O
3モル比を求めることができる。
【0025】
ゼオライト膜を構成する主たるゼオライトは、酸素12員環以下、酸素6員環以上の細孔構造を有するゼオライトを含むものが好ましく、酸素12員環以下、8員環以上の細孔構造を有するゼオライトを含むものがより好ましく、酸素12員環以下、酸素10員環以上の細孔構造を有するゼオライトを含むものが特に好ましい。
ここでいう酸素n員環を有するゼオライトのnの値は、ゼオライト骨格を形成する酸素とT元素(骨格を構成する酸素以外の元素)で構成される細孔の中で最も酸素の数が大きいものを示す。例えば、MOR型ゼオライトのように酸素12員環と8員環の細孔が存在する場合は、酸素12員環のゼオライトとみなす。
【0026】
酸素12員環以下、酸素6員環以上の細孔構造を有するゼオライトとしては、例えば、AEI、AEL、AFI、AFG、ANA、ATO、BEA、BRE、CAS、CDO、CHA、CON、DDR、DOH、EAB、EPI、ERI、ESV、EUO、FAR、
FAU、FER、FRA、HEU、GIS、GIU、GME、GOO、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTA、LTL、LTN、MAR、MEP、MER、MEL、MFI、MON、MOR、MSO、MTF、MTN、MTW、MWW、NON、NES、OFF、PAU、PHI、RHO、RTE、RTH、RUT、SGT、SOD、STI、STT、TOL、TON、TSC、UFI、VNI、WEI、YUGなどが挙げられる。
【0027】
これらのうち、酸素12員環以下、酸素8員環以上の細孔構造を有するゼオライトとしては、例えば、AEI、AEL、AFI、ANA、ATO、BEA、BRE、CAS、CDO、CHA、CON、DDR、EAB、EPI、ERI、ESV、EUO、FER、FAU、HEU、GIS、GME、GOO、ITE、KFI、LEV、LTA、LTL、MER、MEL、MOR、MTW、MFI、MON、MTF、MWW、NES、OFF、PAU、PHI、RHO、RTE、RTH、STI、STT、TON、TSC、UFI、VNI、WEI、YUGなどが挙げられる。
【0028】
さらに、酸素12員環以下、酸素10員環以上の細孔構造を有するゼオライトとしては、例えば、AEL、AFI、ATO、BEA、EPI、EUO、FER、FAU、HEU、GME、LTL、MOR、MTW、MEL、MFI、MWW、NES、OFF、STI、TON、WEIなどが挙げられる。
なお、本明細書において、ゼオライトの構造は、上記のとおり、International Zeolite Association(IZA)が定めるゼオライトの構造を規定するコードで示す。
【0029】
酸素n員環構造はゼオライトの細孔のサイズを決定するものであり、酸素6員環よりも小さいゼオライトではエタノール分子のKinetic直径よりも細孔径が小さいため、エタノールの透過度が小さくなり実用的でない場合がある。また、酸素12員環構造よりも大きい場合は細孔径が大きくなり、エタノールおよび水以外の糖、アミノ酸、有機酸などの旨み成分や芳香成分などが透過してエタノールと共に除去され、本発明の目的を達成
し得ない場合がある。
【0030】
また、ゼオライト膜を構成する主たるゼオライトのフレームワーク密度(T/1000Å
3)は特に制限されないが、通常25以下、好ましくは20以下、より好ましくは18以下であり、通常10以上、好ましくは11以上、より好ましくは12以上である。
フレームワーク密度とは、ゼオライトの1000Å
3あたりの、骨格を構成する酸素以外の元素(T元素)の数を意味し、この値はゼオライトの構造により決まる。なおフレームワーク密度とゼオライトとの構造の関係はATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES Sixth Revised Edition 2007 ELSEVIERに示されている。
【0031】
フレームワーク密度が、上記下限以上であることにより、ゼオライトの構造が脆弱となることを避け、ゼオライト膜の耐久性が高くなり、種々の用途に適用しやすくなる。また、フレームワーク密度が上記上限以下であることにより、ゼオライト中の物質の拡散が妨げられることなく、ゼオライト膜の透過流束が高くなる傾向にあり、経済的に有利である。
【0032】
本発明において、ゼオライト膜を構成する主たるゼオライトの好ましい構造は、AEL、AFI、ATO、BEA、EPI、EUO、FER、FAU、HEU、GME、LTL、MOR、MTW、MEL、MFI、MWW、NES、OFF、STI、TON、WEIであり、より好ましい構造は、BEA、EUO,FER、FAU、MOR、MTW、MEL、MFI、MWW、NESであり、さらに好ましい構造は、BEA、FAU、MOR、MEL、MFIであり、最も好ましい構造はMFIである。これらの構造の中でも、ほとんどアルミが含まれていない、いわゆるシリカライトが特に望ましい。シリカライトは一般的にはMFI型である。
【0033】
(分離)
以下に、ゼオライトを含む膜として、特にゼオライト膜複合体を用いてアルコールを分離除去する方法について説明する。
具体的には、ゼオライト膜複合体の多孔質支持体側又はゼオライト膜側に、原料となるアルコール飲料を接触させ、その反対側をアルコール飲料が接触している側よりも低い圧力とすることによって、アルコール飲料からアルコール(エタノール)を選択的に透過させる。
【0034】
ここで、アルコール飲料を選択的に透過させるとは、主成分をアルコールとすることである。
本発明では水と旨み成分は供給側に残すが、水の一部はアルコールに同伴して透過してしまう場合がある。本発明では出来る限り水は供給側に残すが、アルコールよりも少ない重量であれば水を含んでいても構わない。
透過液中のアルコール濃度は通常50重量%以上、好ましくは55重量%以上、より好ましくは60重量%以上、特に好ましくは65重量%以上であり、通常100重量%以下である。この範囲の下限を下回るとき、水がアルコールよりも多く透過するので、アルコール濃度を低下させることができず、本目的を果たせない場合がある。
【0035】
また、透過液中の水の濃度は、通常49重量%未満、好ましくは45重量%未満、より好ましくは40重量%未満、さらに好ましくは35重量%未満、特に好ましくは20重量%未満、最も好ましくは10重量%未満である。
また、アルコールおよび水以外の旨み成分については実質的に透過しないことが望ましい。ここで実質的に透過しないとは、透過側で回収された液中に含まれる旨み成分の濃度が通常5重量%以下、好ましくは3重量%以下、より好ましくは1重量%以下であること
を言う。同様に芳香成分についても実質的に透過しないことが望ましい。さらには、機能性成分についても実質的に透過しないことが望ましい。
【0036】
分離方法として、パーベーパレーション法(浸透気化法、PV法)、ベーパーパーミエーション法(蒸気透過法、VP法)と呼ばれる方法はひとつの実施形態である。
PV法ではゼオライト膜にアルコール飲料を接触させてアルコールを透過させる。すなわち、この方式は、透過気化法または浸透気化法とも呼ばれ、アルコール飲料(供給液)を、ゼオライト膜を介して蒸発させ、その際、アルコールを透過させることにより、アルコール飲料のアルコールを低減化する。供給液は気化熱で冷却されるため、必要に応じてそれを補うための加熱手段が必要となる。
【0037】
以下、
図1を参照してPV法によるアルコール飲料のアルコールの低減化方法を説明する。
図1に示すプロセスでは、ゼオライト膜(ゼオライト膜複合体)(1M),(2M)により内部が供給室と透過室とに仕切られた脱エタノール装置(1),(2)が2基直列に配置され、供給液であるアルコール飲料は、供給ポンプ(51)により、加熱器(11)を経由して第1脱エタノール装置(1)に供給される。ゼオライト膜(ゼオライト膜複合体)(1M)を透過したエタノール(気体)は冷却器(3)に導入されて冷却、液化された後にタンク(4)に貯蔵される。ゼオライト膜(ゼオライト膜複合体)(1M)を透過せずに脱エタノールされたアルコール飲料は加熱器(11)を経由して第1脱エタノール装置(1)の供給室に循環されて脱エタノール処理される。
【0038】
第1脱エタノール装置(1)の循環路から取り出された低アルコール飲料は、中間加熱器(21)を経由して第2脱エタノール装置(2)に供給される。そして、上記と同様に、ゼオライト膜(ゼオライト膜複合体)(2M)を透過したエタノール(気体)は冷却器(3)に導入されて冷却、液化された後にタンク(4)に貯蔵され、ゼオライト膜(ゼオライト膜複合体)(2M)を透過せずに脱エタノールされたアルコール飲料は中間加熱器(21)を経由して第2脱エタノール装置(2)の濃縮室に循環されて濃縮処理される。
【0039】
そして、最終的に脱エタノールされたアルコール飲料は、排出弁(63)を開として第2脱エタノール装置(2)の循環路から取り出される。
第1脱エタノール装置(1)及び第2脱エタノール装置(2)における液の循環は循環ポンプ(52)及び(53)によって行われる。脱エタノール装置(1),(2)の駆動に必要な真空は、真空ポンプ(54)によって与えられ、各装置(1),(2)の透過室の真空度は配管途中に設けられた圧力制御弁(61)及び(62)によって制御される。タンク(4)に貯蔵された水の排出は、排出用ポンプ(55)によって行われる。
【0040】
なお、
図1に示すPV法は循環方式を採用しているが非循環方式を採用してもよい。また、装置の駆動は、
図1に示す真空方式に代え、窒素、乾燥空気等を透過室に供給するスイープガス方式を採用してもよい。また、装置の設置個数は、条件により適宜選択され、1基の場合もあれば、図示したように2基以上使用されることもある。さらに、アルコール飲料を装置に供給する前に、アルコール飲料中の固形物を除去するためのフィルターを設けてもよい。
【0041】
次に、
図2を参照してPV法によるアルコール飲料のアルコール低減化方法の別の一形態を説明する。
図2に示す装置では、被分離液72であるアルコール飲料は湯浴71によって加熱され一定温度に保たれる。加熱された被分離液72はゼオライト膜複合体73の外側に接触している。ゼオライト膜複合体73は真空ポンプ77によって内側が減圧され、被分離液72が接触している外側と圧力差が約1気圧になっている。この圧力差によって被分離液7
2中、透過物質のアルコールがゼオライト膜複合体73に浸透気化して透過する。透過した物質はトラップ75で捕集される。一方、被分離液72中の透過しなかった成分は、ゼオライト膜複合体73の外側に滞留する。これにより被分離液72のアルコール成分は一部が除かれ、アルコール濃度が低減した被分離液が得られる。
【0042】
次に、
図3を参照してVP法によるアルコール飲料のアルコール低減化方法を説明する。
図3はVP法に用いた装置の概略図である。
図3において、被分離液86は撹拌子83によって撹拌された状態で、湯浴84によって加熱され、該温度での気液平衡に達し、被分離液の上部に被分離ガスを生じる。被分離ガスはゼオライト膜複合体87の外側に接触している。ゼオライト膜複合体87は真空ポンプ92によって内側が減圧され、被分離ガスとの圧力差が約1気圧になっている。内側の圧力は、圧力ゲージ82で測定することができる。この圧力差によって被分離ガス中、透過物質のアルコールがゼオライト膜複合体87を透過する。透過した物質は透過液捕集用トラップ90で捕集される。一方、被分離ガス中の透過しなかった成分は、ゼオライト膜複合体87の外側に滞留する。これにより二口フラスコ85内のアルコール量は低減化される。低減化されたアルコール飲料を得るには必要に応じて、一定時間経過し、所定量のアルコール二口フラスコ内から除かれたのちに、二口フラスコを冷却し、被分離ガスを液化させて被分離液として回収する。
【0043】
次に、装置の運転条件について説明する。
装置の運転条件の最適範囲は、装置に供給されるアルコール飲料の種類により異なるため一概に決定し得ないが、温度、操作圧力等の条件は以下のような範囲が挙げられる。
例えば、PV法において装置に供給されるアルコール飲料の温度は、通常70℃以下、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下である。アルコール飲料の温度は、高温すぎると、アルコール飲料中の成分が分解されることも懸念されるため、できるだけ低温の方が好ましい。ただし、アルコール飲料の温度が過度に低いとアルコール飲料が液状を維持し得なくなる恐れがあるため、アルコール飲料の温度は、通常−10℃以上、好ましくは0℃以上であり、より好ましくは20℃以上、特に好ましくは32℃以上である。
【0044】
また、VP法において装置に供給されるアルコール飲料の温度は、通常100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、特に好ましくは60℃以下、通常10℃以上、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上、さらに好ましくは35℃以上、特に好ましくは40℃以上である。VP法では、被分離液のアルコール飲料を加熱することで生じた蒸気が膜に接触し、蒸気中のアルコールがゼオライト膜を透過するため、被分離液が、アルコールを含有する蒸気が生じる温度にあることが必要である。上述の好ましい温度範囲のときに被分離液からアルコールを含有する蒸気が生じうる。
前述の通り、PV法では、エタノールおよび水が透過する際の気化熱でアルコール飲料が冷却されるため、気化熱を補うために、
図1のプロセスでは、加熱器(11),(21)でアルコール飲料を加熱している。
【0045】
操作圧力(装置の透過室の真空度)は、通常0.1〜1.5KPa、好ましくは0.2〜0.8KPaである。
脱エタノール時の雰囲気については特に制限はないが、芳香成分、旨み成分、機能性成分などの濃縮対象物質は酸化されやすい成分である場合もあるので、適宜窒素、二酸化炭素等の不活性ガス雰囲気下とすることが好ましい。
尚、ゼオライト膜複合体を用いてアルコールを分離除去する前に必要に応じてアルコール飲料の前処理を行ってもよい。
【0046】
前処理としては、ろ過膜にアルコール飲料を通すことで、繊維や澱、浮遊物といった不溶物や高分子量の化合物を取り除く処理が挙げられる。前処理によって除かれた、繊維や
澱、浮遊物などの不溶物や高分子量の化合物は、アルコールが除去された飲料に戻しても、戻さなくてもよい。
例えば、アルコール飲料を精密ろ過膜(MF膜)、限外ろ過膜(UF膜)、ナノろ過膜(NF膜)および逆浸透膜(RO膜)の1種又は2種以上を用いて膜分離処理する方法などが挙げられる。
【0047】
これらの前処理を行うことによって、後段の処理やエタノールの分離除去に用いる膜のファウリングを低減したり、目詰まりを抑制することができ、後段の処理や膜の透過量を向上させて処理効率を高めたり、膜の寿命を延長させるなどの効果が得られる場合がある。
また、前処理に限らず、エタノールの分離除去を終えた後に、後処理として精密ろ過膜(MF膜)、限外ろ過膜(UF膜)、ナノろ過膜(NF膜)および逆浸透膜(RO膜)などの膜分離処理を行ってもよい。
【0048】
(低アルコール飲料)
本発明では上記のようにしてアルコールを低減化させたアルコール飲料(低アルコール飲料)を得ることができる。
アルコールの低減化の割合としては、原料となるアルコール飲料中のアルコールに対し、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上、特に好ましくは3重量%以上であり、好ましくは80重量%以下、より好ましくは50重量%以下、特に好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは20重量%以下である。すなわち、本発明ではこの範囲にアルコールが低減化された低アルコール飲料を製造することができる。
【0049】
本発明ではアルコールを低減化しつつ、原料となるアルコール飲料から、芳香成分、旨み成分または機能性成分は実質的に除去されず得られる低アルコール飲料中にほぼ含まれる。従って、風味を損なうことなく低アルコール飲料を製造することが出来る。
芳香成分とは嗅覚あるいは味覚を刺激することによって特徴的なにおいを有すると感知される任意の化合物であり、香味成分と称される場合もあり、果実芳香成分、コーヒー芳香成分、酒類芳香成分などが挙げられる。
【0050】
より具体的には、イソチオシアネート類、インドール類、エーテル類、エステル類、アルデヒド類、ケトン類、アルコール類、脂肪酸類、脂肪族高級炭化水素類、テルペン類、チオエーテル類、チオール類、フェノール類、フェノールエーテル類、フルフラールおよびその誘導体類、ラクトン類が挙げられる。
旨み成分としては、主にアミノ酸であるグルタミン酸や、核酸構成物質のヌクレオチドであるイノシン酸、グアニル酸、キサンチル酸等の呈味性ヌクレオチド、その他の有機酸であるコハク酸やその塩類等が挙げられる。
【0051】
機能性成分とは、疾病リスク低減や血圧降下作用や脂質代謝改善、抗酸化作用等の生理活性機能を有する成分であり、ミネラル類、ビタミン類、イリドイド類、カテキン類、ポリフェノール類、ケルセチン類、アミノ酸類、没食子酸誘導体、フラボン誘導体、イソフラボン誘導体、カフェイン、γ−アミノ酪酸、γ−オリザノール、トコフェノール、葉酸、コラーゲン、コエンザイム、ノビレチンなどが挙げられる。
【0052】
本発明により得られる低アルコール飲料は、上記アルコール飲料として例示された飲料中のアルコールを好ましくは1〜2重量%程度低減化させた飲料であり、アルコール濃度が低いため飲みやすく、芳香成分、旨み成分、機能性成分は実質的に残ったままであるため、アルコール低減化前のアルコール飲料と同様の風味を得ることができる。特に、ワイン、日本酒、ビールなどに適用することが好ましく、ワイン、日本酒のアルコール飲料の低減化に最適である。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
<分離性能の測定>
PV法、VP法
PV法、VP法は
図2、3に示した装置を用いて行った。いずれの方法においても、一定時間ごとに、トラップ7あるいはトラップ90に捕集した透過液の質量測定および組成分析、被分離液72の組成分析を行い、それらの値を用いて各時間の分離係数、透過流束、水のパーミエンスなどを算出した。なお、組成分析はガスクロマトグラフにより行った。
【0054】
ここで、分離係数とは膜分離で一般的に用いられる、分離の選択性を表す以下の指標である。
分離係数=(P
α/P
β)/(F
α/F
β)
[P
αは透過液中の主成分の質量パーセント濃度、P
βは透過液中の副成分の質量パーセ
ント濃度、F
αは透過液において主成分となる成分の被分離混合物中の質量パーセント濃度、F
βは透過液において副成分となる成分の被分離混合物中の質量パーセント濃度である。]
また、パーミエンスとは、透過する物質量を膜面積と時間と透過する物質の分圧差の積で割ったものである。
【0055】
(実施例1)
MFI型ゼオライトを無機多孔質支持体上に直接水熱合成することで、無機多孔質支持体とMFI型ゼオライト膜とのゼオライト膜複合体を作製した。
水熱合成用の反応混合物として、以下のものを調製した。
水113gに有機テンプレートとして、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(以下これを「TPAOH」という。)水溶液(TPAOH 40質量%含有、セイケム社製)4.0gを加え、さらにテトラエトキシシラン(以下これを「TEOS」という。)9.5gを加えて2時間撹拌し、反応混合物とした。
【0056】
この反応混合物の組成(モル比)は、SiO
2/Al
2O
3/H
2O/TPAOH=1/0/140/0.17である。
無機多孔質支持体として円筒管状の多孔質アルミナチューブ(外径12mm、内径9mm、気孔率40%)を80mmの長さに切断し、超音波洗浄機で洗浄したのち乾燥させたものを用いた。
【0057】
種結晶として、SiO
2/Al
2O
3/H
2O/TPAOH=1/0.00085/20/0.4のゲル組成(モル比)で140℃、2日間水熱合成して結晶化させたMFI型ゼオライトを用いた。この種結晶の粒径は0.5μm〜1μm程度であった。
この種結晶を1質量%水中に分散させた分散液に、上記支持体を所定時間浸漬した後、100℃で4時間乾燥させて、種結晶を付着させた。
【0058】
この種結晶を付着させた支持体を、上記反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、静置状態で、175℃48時間、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後に支持体−ゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後100℃で4時間乾燥させた。
テンプレート焼成前のゼオライトの膜複合体を電気炉で500℃、5時間焼成した。焼成後の膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したMFI型ゼオライトの質量は95g/m
2であった。
【0059】
焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は526L/(m
2・h)であった。
得られた無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を用いてPV法により、エタノールを選択的に透過させる分離を行った。エタノール/水混合溶液の温度は60℃とした。被分離液(供給液)は、5%アルコール飲料に代えてエタノール/水混合溶液(5/95質量%)を使用した。
尚、分離実験中、供給液のエタノール濃度を維持するため、適宜供給液にエタノールを添加した。
2.5時間後の透過成績は、透過流束:1.3kg/(m
2・h)、分離係数:54、透過液中のエタノール濃度:74.32質量%であった。エタノールのパーミエンスであらわすと、1.32×10
−6mol/(m
2・s・Pa)であった。
【0060】
(実施例2)
実施例1で得られた無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を用いて、実施例1と同様にしてPV法により30℃のエタノール/水混合溶液(5/95質量%)からエタノールを選択的に透過させる分離を行った。
3時間後の透過成績は、透過流束:0.34kg/(m
2・h)、分離係数:55、透過液中のエタノール濃度:74.53質量%であった。
【0061】
(実施例3)
実施例1で得られた無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を用いて実施例1と同様にしてPV法により30℃のエタノール/水混合溶液(15/85質量%)からエタノールを選択的に透過させる分離を行った。
3時間後の透過成績は、透過流束:0.37kg/(m
2・h)、分離係数:47、透過液中のEtOH濃度:89.37質量%であった。
【0062】
(実施例4)
シリカ源としてコロイダルシリカ(アルドリッチ社製 HS−40)を用いた以外は実施例1と同様に無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を作製した。用いた反応混合物の組成(モル比)は、SiO
2/Al
2O
3/H
2O/TPAOH=1/0/140/0.17であった。焼成後の膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したMFI型ゼオライトの質量は94g/m
2であった。焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は481L/(m
2・h)であった。
【0063】
得られた無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を用いて実施例1と同様にしてPV法により60℃のエタノール/水混合溶液(5/95質量%)からエタノールを選択的に透過させる分離を行った。
2.5時間後の透過成績は、透過流束:0.65kg/(m
2・h)、分離係数:50、透過液中のエタノール濃度:72.79質量%であった。EtOHのパーミエンスであらわすと、6.53×10
−7mol/(m
2・s・Pa)であった。
【0064】
(実施例5)
無機多孔質支持体としてムライトチューブ(ムライトチューブPM、ニッカトー社製、外径12mm、内径9mm)を80mmの長さに切断し、超音波洗浄機で洗浄したのち乾燥させたものを用いた以外は実施例1と同様に無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を作製した。焼成後の複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したMFI型ゼオライトの質量は43g/m
2であった。焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は1740L/(m
2・h)であった。
【0065】
得られた無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を用いてPV法により60℃のエタノ
ール/水混合溶液(5/95質量%)からエタノールを選択的に透過させる分離を行った。
3.4時間後の透過成績は、透過流束:1.24kg/(m
2・h)、分離係数:84、透過液中のEtOH濃度:81.34質量%であった。EtOHのパーミエンスであらわすと、1.43×10
−6mol/(m
2・s・Pa)であった。
【0066】
(実施例6)
無機多孔質支持体としてムライトチューブ(ムライトチューブPM、ニッカトー社製、外径12mm、内径9mm)を80mmの長さに切断し、超音波洗浄機で洗浄したのち乾燥させたものを用いた以外は実施例4と同様に無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を作製した。焼成後の複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したMFI型ゼオライトの質量は107g/m
2であった。焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は745L/(m
2・h)であった。
【0067】
得られた無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を用いてPV法により60℃のエタノール/水混合溶液(5/95質量%)からエタノールを選択的に透過させる分離を行った。
3時間後の透過成績は、透過流束:0.70kg/(m
2・h)、分離係数:66、透過液中のEtOH濃度:77.21質量%であった。エタノールのパーミエンスであらわすと、7.73×10
−7mol/(m
2・s・Pa)であった。
【0068】
(実施例7)
MFI型ゼオライトを無機多孔質支持体上に直接水熱合成することで、無機多孔質支持体とMFI型ゼオライト膜とのゼオライト膜複合体を作製した。
水熱合成用の反応混合物として、以下のものを調製した。
水561.61gに有機テンプレートとして、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(以下これを「TPAOH」という。)水溶液(TPAOH 40質量%含有、セイケム社製)14.02gを加え、さらにコロイダルシリカ(スノーテックス40、日産化学社製)24.37gを加えて1時間撹拌し、反応混合物とした。
この反応混合物の組成(モル比)は、SiO
2/Al
2O
3/H
2O/TPAOH=1/0/200/0.17である。
無機多孔質支持体として円筒管状の多孔質ムライトチューブ(外径12mm、内径9mm、)を400mmの長さに切断し、エアーブローしたものを用いた。
【0069】
実施例1に記載したものと同じ種結晶を0.5質量%水中に分散させた分散液に、上記支持体を所定時間浸漬した後、120℃で2時間乾燥させて、種結晶を付着させた。
この種結晶を付着させた支持体を、上記反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(800ml)に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、静置状態で、160℃、24時間、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後に支持体−ゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後120℃で2時間乾燥させた。
テンプレート焼成前のゼオライトの膜複合体を電気炉で500℃、5時間焼成した。焼成後の膜複合体の質量と支持体の質量の差から求めた、支持体上に結晶化したMFI型ゼオライトの質量は30g/m
2であった。
【0070】
焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は1480L/(m
2・h)であった。
得られた無機多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を80mmの長さに切断し実施例1と同様にしてPV法により50℃のエタノール/水混合溶液(11/89質量%)からエタノールを選択的に透過させる分離実験を行った。
4時間後の透過流束は、0.53kg/(m
2・h)、分離係数:46、透過液中のエタノール濃度は85.55質量%であった。エタノールのパーミエンスであらわすと、5
.32×10
−7mol/(m
2・s・Pa)であった。
【0071】
(実施例8)
実施例7と同様にして製造されたゼオライト膜複合体を用いて、50℃に加熱した、ギ酸0.17質量%、エタノール11.78質量%、水88.05質量%の混合液を用いたほかは、実施例7と同様にしてPV法によりエタノールを選択的に透過させる分離実験を行った。
実際のアルコール飲料には、水やアルコール以外の成分が含有されているため、それら成分に代わりギ酸を添加することで、実際のアルコール飲料を想定した実験を行った。
【0072】
透過開始2時間後の透過流束は0.27kg/(m
2・h)、分離係数は35、透過液中のエタノール濃度は82.43質量%であった。エタノールのパーミエンスであらわすと、2.59 ×10
−7mol/(m
2・s・Pa)であった。
5時間後の透過成績は、0.23kg/(m
2・h)、分離係数:24、透過液中のエタノール濃度:76.49質量%であった。エタノールのパーミエンスであらわすと、1.97×10
−7mol/(m
2・s・Pa)であった。
分離実験後(5時間後)、非透過側に残った供給液(混合液)をイオンクロマトグラフ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、DX500i)で検量線法により分析した。その結果、ギ酸の濃度は0.16質量%であり分離実験前とほぼ変わらなかった。
上記ギ酸が供給側に残ったことからも分かる通り、使用したゼオライト膜複合体は、アルコールを選択的に透過させ、その他の成分(例えば旨み成分など)は非透過側(供給液側)に残ることがわかった。
【0073】
(実施例9)
実施例7と同様にして製造されたゼオライト膜複合体を80mmの長さに切断し、VP法により50℃に加熱したエタノール/水混合溶液(11/89質量%)から生じた蒸気から、エタノールを選択的に透過させる分離実験を行った。
4.5時間後の透過流束0.42kg/(m
2・h)、透過液中のエタノール濃度:83.93質量%であった。透過開始6.5時間後の混合液中のエタノール濃度は10質量%であった。
【0074】
(実施例10)
実施例7と同様にして製造されたゼオライト膜複合体を80mmの長さに切断し、50℃に加熱した、ギ酸0.17質量%、エタノール12.03質量%、水87.80質量%の混合液の蒸気にゼオライト膜複合体を接触させた以外は、実施例9と同様にしてVP法によりギ酸を添加したエタノール/水混合溶液の蒸気からエタノールを選択的に透過させる分離実験を行った。
2時間後の透過流束は0.27kg/(m
2・h)、透過液中のエタノール濃度は81.66質量%であった。
5時間後の透過流束は0.35kg/(m
2・h)、透過液中のエタノール濃度は82.56質量%であった。
【0075】
透過開始6時間後の混合液中のエタノール濃度は11質量%であった。
透過開始後5時間後の透過流束は2時間後の透過流束の1.3倍であり、透過流束の低下は見られなかった。一方で、実施例8では透過開始後5時間後の透過流束が2時間後の透過流束の0.85倍に減少しており、ギ酸を添加した場合は、実施例8(PV法)よりも実施例10(VP法)の実施態様の方がより分離における透過性能に優れることが分かった。