特許第6821986号(P6821986)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6821986
(24)【登録日】2021年1月12日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】コンクリート建造物検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/38 20060101AFI20210114BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   G01N33/38
   E04G23/02 Z
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-142859(P2016-142859)
(22)【出願日】2016年7月20日
(65)【公開番号】特開2018-13404(P2018-13404A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2019年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100193976
【弁理士】
【氏名又は名称】澤山 要介
(74)【代理人】
【識別番号】100154461
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 由布
(72)【発明者】
【氏名】東内 智子
(72)【発明者】
【氏名】津田 義博
(72)【発明者】
【氏名】小島 靖
(72)【発明者】
【氏名】田崎 耕司
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−237090(JP,A)
【文献】 特開2009−210588(JP,A)
【文献】 特開2015−055574(JP,A)
【文献】 特開2016−040669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/38
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の壁面に形成された検査孔に、コンクリート構造物の状態を検出するモニタリング用のセンサを挿入するセンサ挿入工程と、該センサを検査孔に挿入した状態でセンサの情報を読み取る情報読み取り工程を有し、
前記センサとして、基材に、アンテナ回路とICチップを搭載してなるRFIDタグと、コンクリート構造物の特性に影響を及ぼす特定の刺激に応答して前記ICチップのメモリ情報を変化させる刺激応答部位を有し、かつ、可撓性を有するシート状のセンサを用い、
前記センサ挿入工程の後、検査孔に挿入した刺激応答部位の少なくとも一部を、検査孔の内面と接する位置に導くセンサ位置調整工程を有し、
前記センサ挿入工程では、前記シート状のセンサを筒状に丸めて、前記センサの挿入を行い、
前記センサ位置調整工程では、前記基材の形状回復力によって、前記センサを前記位置に導く、コンクリート構造物検査方法。
【請求項2】
前記センサが、前記RFIDタグに接続するタンパー検知用回路を含み、前記刺激応答部位を該タンパー検知用回路に設けた、請求項に記載のコンクリート構造物検査方法。
【請求項3】
前記センサ挿入工程に先立って、検査孔として、コンクリート構造物の壁面に孔径2mmφ〜220mmφのドリル孔を形成する検査孔形成工程を有する、請求項1又は2に記載のコンクリート構造物検査方法。
【請求項4】
前記センサ位置調整工程では、検査孔内のセンサよりも内周に充填剤を充填させて、前記センサを前記位置に導く、請求項1〜3の何れか1項に記載のコンクリート構造物検査方法。
【請求項5】
前記充填として、硬化収縮が1%以下の充填を用いる、請求項に記載のコンクリート構造物検査方法。
【請求項6】
前記センサ位置調整工程では、検査孔内のセンサよりも内周で発泡型樹脂を発泡させて、前記センサを前記位置に導く、請求項1〜3の何れか1項に記載のコンクリート構造物検査方法。
【請求項7】
前記発泡型樹脂として、2液混合発泡型ポリウレタン樹脂を用い、該2液混合発泡型ポリウレタン樹脂の主剤成分と硬化剤成分を、それぞれ封入フィルムで仕切られた空間に挿入後、封入フィルムを引き抜いて混合し、2〜100倍に膨張させる、請求項に記載のコンクリート構造物検査方法。
【請求項8】
前記センサ位置調整工程の後、前記検査孔を塞ぐ塞止工程を有する、請求項1〜7の何れか1項に記載のコンクリート構造物検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート建造物の検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート建造物を安全に維持管理し、長寿命化を図るためには、コンクリート構造物の内部品質を正確に把握して、適切な処置を講じていくことが求められる。
【0003】
近年、コンクリート建造物の検査方法に関し、建設時に予めコンクリート建造物に配筋される鉄筋にセンサを取り付ける技術(特許文献1)や、未硬化のコンクリート内にセンサを投入して打設を行う技術(特許文献2)が開示されている。これらは何れもコンクリート建造物の建設時にセンサの埋め込みを行うことを前提とするものである。
【0004】
一方、建設時にセンサの埋め込みが行われていない既設のコンクリート建造物に対しては、検査対象となるコンクリート構造物からサンプルを切り出して分析を行う破壊検査が広く行われている。
【0005】
しかし、上記の破壊検査では、サンプルの切り出しおよびサンプルの分析の各作業を行う必要があり、手間がかかるという問題があった。特に、既設のコンクリート建造物の内部品質の経時変化を追跡したい場合には、サンプルの切り出しとそれらの分析を繰り返し行う必要があり、手間がかかるという問題が顕著になる。
【0006】
サンプルの切り出しを行わない非破壊検査の方法として、モルタルのパネルをコンクリート構造物に貼り付け、それを一定期間後に回収して分析を行う方法(非特許文献1)も提案されている。
【0007】
しかし、上記の非破壊検査でも、コンクリート構造物に貼り付けておいたパネルを所定期間ごとに回収して分析を行う必要があり、破壊検査同様に、手間がかかるという問題があった。また、こちらも上記破壊検査同様に、既設のコンクリート建造物の内部品質の経時変化を追跡したい場合には、パネルの回収とそれらの分析を繰り返し行う必要があり、手間がかかるという問題が顕著になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−348538号公報
【特許文献2】特開2007−33238号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】佐伯 竜彦、能勢 陽祐、菊池 道生:薄板モルタル供試体を用いたミクロ塩害環境評価手法に関する基礎的検討、コンクリート工学年次論文集、Vol.33、No.1、2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は上記した従来技術の問題を解決し、建設時にセンサの埋め込みが行われていない既設のコンクリート建造物についても、サンプルの切り出しもしくはパネルの回収及び、それらの分析といった手間をかけることなく、内部品質の検査をすることができるコンクリート建造物の検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような問題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、コンクリート構造物の検査方法として、コンクリート構造物の壁面に形成された検査孔に、コンクリート構造物の状態を検出するモニタリング用のセンサを挿入するセンサ挿入工程と、このセンサを検査孔に挿入した状態でセンサの情報を読み取る情報読み取り工程を有する構成を採用することによって、上記問題を解決することができることを見出し、本発明を完成させた。本発明は、以下の[1]〜[11]を提供する。
[1]コンクリート構造物の壁面に形成された検査孔に、コンクリート構造物の状態を検出するモニタリング用のセンサを挿入するセンサ挿入工程と、該センサを検査孔に挿入した状態でセンサの情報を読み取る情報読み取り工程を有する、コンクリート構造物検査方法。
[2]前記センサとして、基材に、アンテナ回路とICチップを搭載してなるRFIDタグと、コンクリート構造物の特性に影響を及ぼす特定の刺激に応答して前記ICチップのメモリ情報を変化させる刺激応答部位を有するセンサを用いる、[1]に記載のコンクリート構造物検査方法。
[3]前記センサが、前記RFIDタグに接続するタンパー検知用回路を含み、前記刺激応答部位を該タンパー検知用回路に設けた、[2]に記載のコンクリート構造物検査方法。
[4]前記センサ挿入工程に先立って、検査孔として、コンクリート構造物の壁面に孔径2mmφ〜220mmφのドリル孔を形成する検査孔形成工程を有する、[1]〜[3]の何れかに記載のコンクリート構造物検査方法。
[5]前記センサ挿入工程の後、検査孔に挿入した刺激応答部位の少なくとも一部を、検査孔の内面と接する位置に導くセンサ位置調整工程を有する、[2]〜[4]の何れかに記載のコンクリート構造物検査方法。
[6]前記センサとして、可撓性を有するシート状のセンサを使用し、前記センサ挿入工程では、前記シート状のセンサを筒状に丸めて、前記センサの挿入を行い、前記センサ位置調整工程では、前記基材の形状回復力によって、前記センサを前記位置に導く、[5]に記載のコンクリート構造物検査方法。
[7]前記センサ位置調整工程では、検査孔内のセンサよりも内周に充填剤を充填させて、前記センサを前記位置に導く、[5]に記載のコンクリート構造物検査方法。
[8]前記充填材として、硬化収縮が1%以下の充填材を用いる、[7]に記載のコンクリート構造物検査方法。
[9]前記センサ位置調整工程では、検査孔内のセンサよりも内周で発泡型樹脂を発泡させて、前記センサを前記位置に導く、[5]に記載のコンクリート構造物検査方法。
[10]前記発泡型樹脂として、2液混合発泡型ポリウレタン樹脂を用い、該2液混合発泡型ポリウレタン樹脂の主剤成分と硬化剤成分を、それぞれ封入フィルムで仕切られた空間に挿入後、封入フィルムを引き抜いて混合し、2〜100倍に膨張させる、[9]に記載のコンクリート構造物検査方法。
[11]
前記センサ位置調整工程の後、前記検査孔を塞ぐ塞止工程を有する、[5]〜[8]の何れかに記載のコンクリート構造物検査方法。
【発明の効果】
【0012】
上記構成からなる本発明によれば、建設時にセンサの埋め込みが行われていない既設のコンクリート建造物についても、サンプルの切り出しもしくはパネルの回収及び、それらの分析といった手間をかけることなく、内部品質の検査をすることができるコンクリート建造物の検査方法を実現することができる。
また、既設のコンクリート建造物の内部品質の経時変化を追跡したい場合に、上記の破壊検査では、所定期間ごとにサンプルの切り出しを行う必要があり、サンプルの切り出しを繰り返し行うことによるコンクリート構造物へのダメージも懸念されたが、本発明によれば、検査ごとのサンプル切り出し作業は不要となり、コンクリート構造物へのダメージも回避することができる。
その他、上記の非破壊検査の場合、パネルの分析により得られるデータは、コンクリート建造物の表面に貼り付けたパネルに関する分析データであり、コンクリート建造物の内部品質に関する情報は、このパネルの分析データと所定の関数を用いた演算処理を経て間接的に得られる情報に留まるのに対し、本発明によれば、コンクリート建造物の内部に挿入したセンサを介してコンクリート建造物の内部品質に関する情報を直接入手することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】シート状のセンサの概略図である。
図2】モニタリングタグと読取端末の回路構成例を示すブロック図である。
図3】センサ内の回路構成の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態におけるコンクリート建造物検査方法を詳述する。
【0015】
(センサ挿入工程)
センサ挿入工程では、コンクリート構造物の壁面に形成された検査孔に、コンクリート構造物の状態を検出するモニタリング用のセンサを挿入する。検査孔は、センサの挿入時に形成したものでも、他の用途で壁面に形成されていた既存の孔を利用したものでもよい。
【0016】
検査孔の形成によるコンクリート建造物の強度低下を回避するため、検査孔は、孔径2mmφ〜220mmφであることが好ましく、8mmφ〜180mmφであることがより好ましく、10mmφ〜100mmφであることが更に好ましい。
検査孔の形成には、例えば、超硬ドリル或いはダイヤモンドコアドリル等で、最適な口径を有するものを使用することができる。
【0017】
コンクリート建造物の状態をより正確に検出するために、センサは、検査孔内で内壁と接した状態に配置することが好ましい。
【0018】
本実施形態では、センサとして、可撓性を有するシート状のセンサ1を用いている。
図1図2に示すように、センサ1は、アンテナ部2とセンサ部3からなり、センサ部3を筒状に丸めて検査孔に挿入して使用される。
【0019】
図2に示すように、アンテナ部2は、RFIDタグ5と送受信アンテナ10を備えている。本実施形態では、RFIDタグ5と送受信アンテナ10を封止材で封止してアンテナ部2を構成している。
図2に示すように、送受信アンテナ10は、RFIDタグ5のICチップ7と接続して、リーダライタ等と通信を行うアンテナ回路6を構成している。
図2に示すように、センサ部3は、RFIDタグ5のICチップ7と接続したループ回路11と、後述する刺激応答部位12を備えている。本実施形態では、ループ回路11と、後述する刺激応答部位12を封止材で封止してセンサ部3構成している。
封止材としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、EVA樹脂からなる群から構成される少なくとも何れかを用いることが好ましい。
封止材で封止後、さらに、カバーフィルムを積層することが好ましい。
カバーフィルムは、センサが設置される環境に応じて、適宜最適なものを選択することが好ましく、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、塩化ビニルフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムからなる群から構成される少なくとも何れかを用いることが好ましい。
カバーフィルムは、耐候性(耐湿、耐熱、耐塩害等)、水蒸気バリア性、電気絶縁性、機械的特性(引張強度、伸び、引裂き強度等)、耐薬品性、封止材との接着性等の要求に応じて、様々な性能をもつフィルム(PVF、PET等)を積層させた構造とすることもできる。
【0020】
<アンテナ部>
RFIDタグ5は、内蔵するICチップ7に固体識別情報(Identification)を埋め込んだ無線用(Radio Frequency)タグである。図2に示す実施形態では、ICチップ7内に内蔵アンテナを備えるRFIDタグ5を示しているが、RFIDタグ5の構成は、本実施形態に限定されず、例えば、ICチップ内に内蔵アンテナを備えないタイプのものを使用することもできる。
送受信アンテナ10は、リーダライタから発信された電波を受信する機能、及び、ICチップ7内のメモリ情報を、ICチップ7の内蔵回路を経て、リーダライタに送信する機能を有する。
【0021】
本実施形態で用いたRFIDタグ5は、電池を内蔵しないパッシブタイプのRFIDタグである。
RFIDタグ5の形状は、ラベル型、カード型、コイン型、スティック型等の形状から、用途に応じて最適なものを選択することができる。RFIDタグの通信距離は、数mm〜数mの中から、用途に応じて最適なものを選択することができる。
【0022】
ICチップ7は、例えば、0.4mmから1mm角程度の小さな半導体チップである。
ICチップ7には、簡単なマイクロコンピュータとEEPROM、RAM等が搭載され、特定のID等を格納する媒体としてのメモリ機能を備えている。データ改ざん等を防ぐための暗号化処理を行うためのプログラムを備えることもできる。
【0023】
送受信アンテナ10は、リーダライタ等との通信距離の観点から、コンクリート建造物の表面あるいは表面近傍に位置させることが好ましい。
【0024】
<センサ部>
本実施形態では、センサ部3を筒状に丸めた状態で仮固定して、検査孔に挿入する。
図1に示すように、センサ部3の側端には、センサ部3を巻きつけて筒状に丸める際に使用される芯4として、樹脂製の棒部材を接着して設けることが好ましい。棒部材は、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、EVA樹脂の少なくとも何れかであることが好ましい。
センサ部3の検査孔への挿入は、挿入後の芯4が検査孔の中心軸と平行になるように行うことが好ましい。具体的には、検査孔が壁面に対して略垂直に形成されている場合には、芯4をコンクリート構造物の壁面に対して略垂直に保持しながら、センサ部3の挿入を行い、検査孔が壁面に対して所定の角度を持って形成されている場合には、芯4を、壁面に対して前記所定の角度を持つように保持しながら、センサ部3の挿入を行うことが好ましい。挿入後に前記の仮固定の状態を解除すると、可撓性を有するセンサ部の形状回復力によって、検査孔で内壁に沿った位置に配置される。
芯4をセンサ部3として用いることもできる。具体的には、例えば、芯4をシリコーンチューブで構成し、このシリコーンチューブ上にループ回路11を直接形成することもできる。
【0025】
ループ回路11は、その回路の開裂によって、タンパーの発生を検知することを目的として敷設されたタンパー検知用回路である。
【0026】
通常、タンパー検知用回路とは、RFIDタグが取り付けられた対象物から、RFIDタグが故意に(盗難等の目的のために)引き剥がされた場合に、機械的に破壊されるように設けられた回路、すなわち、その回路の開裂によって、その要因となった行為(すなわち、タンパー行為)を検知することを目的として敷設された回路を意味するが、本明細書において、タンパー検知用回路とは、RFIDタグが取り付けられたコンクリート建造物が、その特性に影響を及ぼす特定の刺激に晒された場合に、その刺激に起因した物理的あるいは化学的反応によって開裂するように、もしくは抵抗が変化するように設けられた回路(すなわち、その回路の開裂もしくは抵抗の変化によってRFIDタグが取り付けられたコンクリート建造物がそれらの要因となった特定の刺激に晒されたことを検知することを目的として敷設された回路)をも含むものとする。
【0027】
このタンパー検知用回路であるループ回路11には、上記の物理的あるいは化学的反応を生じる刺激応答部位12を備えている。
本明細書において、刺激応答部位とは、コンクリート建造物が、その特性に影響を及ぼす特定の刺激に晒された場合に「応答する」機能、具体的には、回路を開裂させる物理的反応あるいは化学的反応、もしくは回路の抵抗を変化させる物理的反応あるいは化学的反応を生じさせて、ICチップへのメモリ情報を変化させる機能、すなわち、外部環境の変化を検知するセンサ機能を有する部位を意味する。
【0028】
ループ回路11の両端は、RFIDタグ52内のICチップ75の所定のピンに有線接続されている。ICチップ7は、ループ回路11の抵抗状態の高低を区別して検知可能なもの(例えば、NXP Semiconductors社製UCODE G2iL+)を使用することが好ましい。
【0029】
ループ回路11は、通電可能なループとしてつながっていればよく、形状は特に限定されない。使用環境及び使用目的等に応じて、平面、湾曲、ロッド状等、適宜最適な形状に設計することができる。ループ回路11の大きさも同様に、適宜最適な大きさとすることができる。
【0030】
ループ回路11に刺激応答部位12を設けた本発明によれば、ループ回路11を自在に配線して刺激応答部位12を所望の位置に配置することができるため、送受信アンテナ10をコンクリート建造物の表面あるいは表面近傍に配置してリーダライタ等との通信距離を維持しつつ、所望の箇所のモニタリングを高い精度で行うことができる。
【0031】
なお、ループ回路11とアンテナ回路6の干渉によるノイズを回避するためには、通信波長をλとして、ループ回路11とアンテナ回路6のそれぞれの開始位置間の距離(図3にLとして示す距離)が、L≧λ/256であることが好ましい。
【0032】
前記のように刺激応答部位12が特定の刺激に応答してループ回路11が開裂、もしくは、ループ回路11の抵抗が変化した場合には、ICチップ7内のメモリ情報が変化する。
例えば、ループ回路11が開裂して、もしくは抵抗が変化して、高抵抗状態となった場合、メモリの所定アドレスの「フラグ」がOFFからON、もしくはONからOFFに変化するようにして、これをリーダライタ等で読み取ることにより、RFIDタグ5が取り付けられたコンクリート建造物が特定の刺激に晒されたことを検知するシステムを構築することができる。
図2、3に示すように、本実施形態で用いるセンサ1は、ICチップ7に、ループ回路11とアンテナ回路6の2つの回路をそれぞれ接続している。
図1に示すように、ループ回路11の刺激応答部位12をセンサ部3に配置し、アンテナ回路6をアンテナ部2に配置し、ループ回路11に設けた刺激応答部位12が特定の刺激に応答してループ回路11が開裂、もしくは、ループ回路11の抵抗が変化したことをICチップ7内のメモリ情報に記憶させるものであるため、簡単な回路構成からなるコンパクトなセンサとすることができる。
例えば、センサ部の構成として、複数の刺激応答部位を並列に接続して並列回路を構成し、各刺激応答部位とそれぞれ直列に抵抗器を配置して、合成抵抗値の変化に基づいて腐食箇所を特定する等、何らかの演算処理を必要とする構成を採用する場合には、センサ部で検出される情報を演算処理して測定値とするコンピュータチップをRFIDタグ内に設ける必要があり、センサ部をコンピュータチップに接続する端子も必要となるため、RFIDタグを大型化せざるを得ず、演算処理用の電力も必要となるが、上記のように、ICチップ7に接続したループ回路11に刺激応答部位12を設ける構造とすることにより、上記のコンピュータチップが不要となる他、センサをコンピュータチップに接続する端子も不要となり、省電力で、コンパクトかつ簡易な構造で、配置の自由度が高いシステムを構築することができる。
【0033】
前記のように、センサ部3は、ループ回路11を封止材で封止して構成されているが、図1に示すように、刺激応答部位12の少なくとも一部は封止材から露出させている。
【0034】
なお、刺激応答部位12を、RFIDタグ5又はアンテナ回路6の少なくとも何れかに設け、刺激応答部位12が刺激に応答した際に、刺激応答部位12の設置箇所で断線もしくは短絡を生じさせ、その結果、センサがリーダライタ等に対して応答しなくなることを指標としてコンクリート建造物が特定の刺激に晒されたことを検知するシステムを構築することはできる。
ただし、この場合には、リーダライタ等に対して応答がなくなった原因が、刺激応答部位12が刺激に応答したことに起因するものなのか、もしくは、センサの破損に起因するものなのかは区別することができない。
このため、正確な判断のためには、例えば、複数のセンサを使用して、全てのセンサがリーダライタ等に対して応答しなくなった場合には、刺激応答部位12が刺激に応答したものと判断し、何れかのセンサのみがリーダライタ等に対して応答しなくなった場合には、そのセンサの故障と判断する、等の手段が必要となる。
【0035】
これに対し、ループ回路11に刺激応答部位12を備えた場合、刺激応答部位12が刺激に応答した状態でも、RFIDタグ5自体及びアンテナ回路6は影響を受けず、センサとリーダライタ等と間の通信は行われるため、上記のような手段によらず、刺激応答部位12が刺激に応答した状態と、センサ1の故障とを区別することができる。
【0036】
刺激応答部位12の構造は特に限定されないが、例えば、ループ回路11の少なくとも一部を刺激性応答性樹脂で被覆して構成することができる。あるいは、ループ回路11の少なくとも一部を刺激性応答性金属に置き換えて構成することができる。ループ回路11の全てを刺激性応答性樹脂で被覆したり、ループ回路11の全てを刺激性応答性金属で構成することもできる。
上記の刺激性応答性樹脂及び刺激性応答性金属は、検出対象とする刺激に応じて、適宜選択することができる。
【0037】
具体的には、刺激性応答性樹脂としては、例えば、熱応答性樹脂材料、pH応答性樹脂材料、応力応答性樹脂材料、光応答性樹脂材料、特定の物質に応答する樹脂材料、またこれら複数を組み合わせた樹脂材料等を例示することができる。
【0038】
刺激性応答性金属としては、例えば、検出対象とする刺激によって変質(腐食等)して断線する金属或いは不導体となる金属を例示することができる。
また、ループ回路11を形成する金属の一部の厚み或いは幅を変更して刺激応答性を向上させて刺激性応答性金属とすることもできる。
具体的には、亜鉛、アルミニウム、カドミニウム、鉄、錫、鉛、銅、ニッケル、銀、チタン及びジルコニウムからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。コンクリート中の鉄筋腐食環境をモニタリングする場合は、アルミニウム、鉄、銅からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0039】
刺激応答部位12が特定の刺激に応答してICチップ7のメモリ情報を変化させる態様も、特に限定されず、例えば、特定の刺激に応答した場合に、この刺激応答部位12で、ループ回路11を開裂させる物理的反応あるいは化学的反応、もしくはループ回路11の抵抗を変化させる物理的反応あるいは化学的反応を生じさせて、ICチップ7のメモリ情報を変化させることができる。
【0040】
刺激応答部位12は、検出精度の観点から、コンクリート建造物の表面もしくは表層付近に限定されることなく、任意の箇所に自由に配置できることが好ましい。
【0041】
(センサ位置調整工程)
センサ位置調整工程は、センサ挿入工程の後、検査孔に挿入したセンサ1の刺激応答部位12の少なくとも一部を、検査孔の内面と接する位置に導く工程である。
【0042】
本実施形態では、センサとして、可撓性を有するシート状のセンサ1を筒状に丸めて検査孔に挿入後、この可撓性を有するシート状のセンサの形状回復力によって、刺激応答部位12の少なくとも一部が検査孔の内面と接する位置に導く。
本実施形態では、前記のように、検査孔の孔径を2mmφ〜220mmφに小さく抑えているため、可撓性を有するセンサ部3を筒状に丸めた状態で仮固定して、検査孔に挿入した後に仮固定を解くことによって、容易に、検査孔に挿入したセンサの少なくとも一部を、好ましくは刺激応答部位12を、検査孔の内面と接する位置に導くことができる。
【0043】
その他、検査孔内に挿入されたセンサ1の内周側に生じる空間に充填剤を充填させて、検査孔に挿入したセンサの刺激応答部位12の少なくとも一部を、検査孔の内面と接する位置に導くこともできる。
充填剤としては、硬化収縮が1%以下の充填剤を用いることが好ましく、具体的には、セメント、モルタル、コンクリート、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル、PET、PEEK、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、塩化ビニル、PMMAからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0044】
その他、検査孔内に挿入されたセンサ1の内周側に生じる空間で、発泡型樹脂を発泡させて、或いは、膨張可能な部材を膨張させて、検査孔に挿入したセンサの刺激応答部位12の少なくとも一部を、検査孔の内面と接する位置に導くこともできる。
【0045】
例えば、円筒状の孔開きパイプ(素材:ウレタン、シリコーン、PP、PC、PE、塩化ビニル等、厚み:0.2mm以上、外形:φ8mm〜φ10mm、中心孔:外形の1/4以下)であって、その中心孔に、それぞれ封入フィルムで仕切られた2つの空間を形成し、各空間に、ポリオール成分とイソシアネート成分の2液をそれぞれ封入したものを利用することができる。
この孔開きパイプを、検査孔内に挿入されたセンサ1の内周側に生じる空間に配置した後、封入フィルムを引き抜いて、前記の2液を混合して発泡させることができる。
【0046】
また、例えば、円筒状のウレタンフォーム(セル数0.1mm以上)であって、その中心孔部分に、封入フィルムを介してイソシアネート成分を封入したものを利用することができる。
このウレタンフォームを、検査孔内に挿入されたセンサ1の内周側に生じる空間に配置した後、封入フィルムを引き抜いて、ウレタンフォームを構成する発泡ウレタン樹脂とイソシアネート成分を反応させて発泡させることができる。
【0047】
その他、芯4をセンサ部3として用いる場合、(例えば、芯4をシリコーンチューブで構成し、このシリコーンチューブ上にループ回路11を直接形成する場合)、シリコーンチューブ上でループ回路11が形成されていない箇所に切り込みをいれておき、芯4を検査孔内に挿入後、膨張させて切り込みから分割させて刺激応答部位12の少なくとも一部を、検査孔の内面と接する位置に導くこともできる。
【0048】
(塞止工程)
塞止工程は、センサ位置調整工程の後、前記検査孔を塞ぐ工程である。
センサ1を検査孔に挿入して、位置を調整した後に、検査孔をキャップ等で塞ぐことにより、センサ1の検出精度向上を図ることができる。
例えば、キャップとして、セラミックス製或いはポリカーボネート製のキャップに、両面強接着材を貼り付けたものを利用することができる。両面強接着材の片面には離型フィルムを設けておくことが好ましい。この場合、離型フィルムを剥がすだけで、簡単にキャップの貼り付けを行うことができる。
【0049】
検査孔には、センサ部3のみを挿入し、キャップで塞いだ後に、アンテナ部2をキャップに重ねて貼り付けることもできる。この場合、アンテナ部2の裏面には、予め両面強接着材を貼り付けておくことが好ましい。両面強接着材の片面には離型フィルムを設けておくことが好ましい。この場合、離型フィルムを剥がすだけで、簡単にアンテナ部2の貼り付けを行うことができる。
【0050】
(情報読み取り工程)
リーダライタ等を用いて、ICチップ7のメモリ情報を読み取ることができる。
所定の日時が経過する毎に、この読み取りを行うことで、コンクリート建造物の内部品質の経時変化を、非破壊で、かつ分析等の煩雑な作業を伴わず、簡単に追跡することができる。
具体的には、例えば、刺激応答部位を、水素イオン指数(pH)に応答するものとしておくことで、その鉄筋コンクリート構造物における中性化進行を、非破壊で短時間に検知することができ、刺激応答部位を、鉄筋コンクリート構造物の劣化因子である塩素イオン濃度に応答するものとしておくことで、その鉄筋コンクリート構造物における塩害の進行を、非破壊で短時間に検知することができる。
【0051】
前記のメモリ情報から、「刺激応答部位が所定の刺激に応答した、もしくは、タンパー行為が行われた状態」「刺激応答部位が所定の刺激に応答していない、かつ、タンパー行為も行われていない正常状態」「センサが故障した状態」の何れかの状態にあることを判定することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 センサ
2 アンテナ部
3 センサ部
4 芯
5 RFIDタグ
6 アンテナ回路
7 ICチップ
10 送受信アンテナ
11 ループ回路
12 刺激応答部位
図1
図2
図3