(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記非磁性ガーネット単結晶基板は、格子定数が1.25800nm以上、1.25850nm以下である、請求項3または請求項4に記載のビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜の製造方法。
前記非磁性ガーネット単結晶基板は、格子定数が1.25830nmである、請求項3から請求項5のいずれか一項に記載のビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について図面を参照しながら説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。また、図面においては実施形態を説明するため、一部分を大きくまたは強調して記載するなど適宜縮尺を変更して表現している。また、以下の各図において、XYZ座標系を用いて図中の方向を説明する。このXYZ座標系においては、鉛直方向をZ方向とし、水平方向をX方向、Y方向とする。また、X方向、Y方向、及びZ方向のそれぞれについて、適宜、矢印の先の側を+側(例、+X側)と称し、その反対側を−側(例、−X側)と称する。
【0023】
まず、上記したように、RIGにおいてさらに光吸収を低減させられる方法としては、RIGの格子定数を従来より大きくする方法がある。この場合は、それに用いる単結晶基板も大きな格子定数である必要がある。しかしながら、格子定数がGSGG単結晶の1.2564nmより大きくSSGG単結晶の1.264nmより小さい単結晶基板を使用するのが好ましいと考えられるが、現状、それに該当するような単結晶基板は市場で販売されていないため、入手が困難である。
【0024】
(1)GSGGの格子定数とSc含有量の調査
そこで、上記基板の課題を解決するため、本発明者等は、まず、以下のような技術的分析を行った。まず、GSGG単結晶(化学式:Gd
3Sc
xGa
5−xO
12、0<x<5)の組成と格子定数との関係を調査した。チョクラルスキー(CZ)法により、種々の組成のGSGG単結晶を製造し、製造したGSGG単結晶の格子定数を評価した。続いて、GSGG単結晶中のSc含有量を調査し、格子定数に及ぼす影響を検討した。なお、Gd
、Sc
、Gaの元素以外に、第4の元素を添加することも考えらえる。例えば、Lu(ルテチウム)、Nd(ネオジウム)、Eu(ユーロピウム)等である。しかしながら、これら元素を添加することで、これら物質の偏析が異なるため構成元素が多くなるほど格子定数の制御が困難となり、安定した格子定数の単結晶及び単結晶基板を得ることはできない。例えば、Euを添加した場合、Euは2価(2+)の原子価を持つ為、空孔ができやすく結晶性が悪化する。加えて、Gdとイオン半径が近い為、格子定数を大きくする効果は小さい。Gd、Sc、Gaは3価(3+)であり安定しやすい。そこで、容易に製造することができ、安定した格子定数を有する単結晶及び単結晶基板を開発することを目的として、上記Gd
、Sc
、Gaの3元素で検討した。
【0025】
表1と
図1は、製造したGSGG単結晶をGSGG基板に加工した後、X線回折装置(Xpert PRO PANalytical社製)を使い格子定数を測定し、次いで、格子定数を測定した基板をEPMA定量分析によりScの化学式量を求め、それら結果をまとめたものである。
【0026】
格子定数とSc化学式量の調査
【表1】
なお、表1に示したサンプル1〜6は、後に説明する参考例12〜参考例17である。
【0027】
表1と
図1に示すように、本発明者は、GSGG単結晶を構成する元素の比率を、従来と変えることで、格子定数を1.2564nmより大きくすることを見出した。また、この結果から、GSGG単結晶において、Sc化学式量が増加することで格子定数が大きくなることが判る。詳しくは、少なくとも、Sc化学式量が2.00〜2.15において、格子定数はSc化学式量に依存して1.2573〜1.25877まで変化することが判った。以上の結果から、本発明者は、GSGG単結晶を構成する元素の比率を制御することで、格子定数を1.2564nmより大きくし、且つ容易に制御できることを見出した。本実施形態のGSGG単結晶及びGSGG単結晶基板は、これらの技術的発見に基づき完成されている。これにより、格子定数が1.2564nmより大きく、1.264nmより小さいRIGの製造に用いることができるGSGG単結晶基板を確保することができる。
【0028】
(2)GSGG単結晶
本実施形態に係るGSGG単結晶について説明する。本実施形態に係るGSGG単結晶Cは、下記化学式(2)で表される。
Gd
3Sc
x2Ga
5−x2O
12 ・・・(2)
(化学式(2)中、x2は2.00≦x2≦2.15である。)
ここで、「GSGG単結晶は、化学式(2)で表される」とは、GSGG単結晶Cが、実質的に化学式(2)の組成を有することを意味する。すなわち、GSGG単結晶Cは、Gd、Sc、Ga、O以外の元素を、不可避不純物、ドーパント等として、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において微量に含有してもよい。なお、化学式(2)におけるScの化学式量(化学式(2)中のx2の値)は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いて測定した化学式量である。
【0029】
GSGG単結晶Cの格子定数は、
図1に示したように、化学式(2)中のx2と正の相関の関係を有するので、上記x2を制御することにより、容易に制御することができる。上記x2は、原料の組成により制御することができる。
図2は、Scの化学式量と格子定数の関係を示すグラフである。GSGG単結晶Cは、上記x2を制御することにより、格子定数を所定の範囲に容易に制御することができる。GSGG単結晶Cは、例えば、格子定数を「a」(nm)とすると、上記x2と結晶の格子定数aとの関係が、下記数式(1)を満たすのが好ましい。
0.010314x2+1.236446≦a≦0.010314x2+1.236846・・・(1)
x2及び格子定数aが、上記数式(1)の関係である場合、GSGG単結晶Cを良質にすることができる。なお、
図2に示す各点のデータは、後に説明する参考例1〜参考例17のデータである。なお、本明細書において、「格子定数」はX線回折装置による測定値である。
【0030】
GSGG単結晶Cは、上記x2が2.00≦x2≦2.15である場合、格子定数を1.25737nm以上1.25877nm以下の範囲に、容易に制御することができる。GSGG単結晶Cの格子定数が、この範囲の場合、GSGG単結晶Cを良質にすることができ、この範囲を含む範囲の格子定数のビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜(RIG)の製造に好適に用いることができる。
【0031】
さらに、GSGG単結晶Cは、上記x2を2.065≦x2≦2.117とする場合、その格子定数を1.25800nm以上1.25850以下の範囲に、容易に制御することができる。GSGG単結晶Cの格子定数がこの範囲の場合、後に説明する本実施形態のRIGの製造に好適に用いることができ、中でも、格子定数が1.25830nmである場合、より好適に本実施形態のRIGの製造に好適に用いることができる。本実施形態のRIGについては、後に説明する。
【0032】
なお、GSGG単結晶Cの大きさ及び形状は、それぞれ、限定されず、任意である。GSGG単結晶Cの大きさ及び形状の例については、次に説明するGSGG単結晶Cの製造方法において説明する。
【0033】
以上のように、本実施形態に係るGSGG単結晶Cは、1.2564nmより大きい格子定数を有するので、1.2564nmよりも大きい格子定数のRIGの製造に好適に用いることができる。また、本実施形態に係るGSGG単結晶Cは、構成する金属元素が3種類であるため単純な組成であり、さらに、化学式中の1つの変数(x2)を制御することにより格子定数を制御することができるので、所望の格子定数の単結晶を容易に製造することができる。
【0034】
(3)GSGG単結晶の製造方法
次に、実施形態に係るGSGG単結晶の製造方法を説明する。
図3(A)及び(B)は、実施形態に係るGSGG単結晶の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図4は、実施形態に係るGSGG単結晶の一例を示す概念図である。
図5は、実施形態に係るGSGG単結晶の製造方法に用いられる製造装置の概略構成を示す図である。なお、以下に説明するGSGG単結晶の製造方法は、一例であって、GSGG単結晶の製造方法を限定するものではない。また、
図3のフローチャートを説明する際、適宜、
図1、
図2、
図4及び
図5を参照する。
【0035】
実施形態に係るGSGG単結晶の製造方法は、
図3(A)のステップS1において、チョクラルスキー法(回転引き上げ法)により、Gd、Sc及びGaを含む原料を融解させた原料融液9(
図5参照)に、種結晶SCを接触させて回転させながら引き上げることにより、下記化学式(2)で表されるGSGG単結晶Cを製造する。
Gd
3Sc
x2Ga
5−x2O
12 ・・・(2)
(式(2)中、x2は2.00≦x2≦2.15である。
【0036】
GSGG単結晶Cは、ステップS1において、
図4に示すように、肩部SH及び直胴部SBを備える単結晶として育成される。ステップS1は、チョクラルスキー法を実施可能な公知の装置により実施される。
【0037】
まず、チョクラルスキー法を実施可能な装置の一例を、
図5を参照して説明する。なお、以下に説明する装置は、一例であって、本実施形態に係るGSGG単結晶の製造方法に用いる装置を限定するものではない。この製造装置は、公知のチョクラルスキー法によりGSGG単結晶Cを製造する育成炉1を備えている。育成炉1の構造を簡単に説明すると、育成炉1は、筒状のチャンバー2と、このチャンバー2の内側に設置された高周波コイル10と、この高周波コイル10の内側に配置された断熱材3とイリジウム製のルツボ8等を有している。尚、上記育成炉1の寸法は、製造するGSGG単結晶Cの大きさに依存するが、一例として直径0.6m、高さ1m程度である。
【0038】
また、上記育成炉1には開口部(図示せず)が2箇所設けられており、これ等開口部を介して不活性ガス、好適にはアルゴンガスが給排され、結晶育成時のチャンバー2内は不活性ガスで満たされる。尚、育成炉1内には、上記ルツボ8底部の下側に温度を計測する温度計(熱電対、図示せず)が設置されている。この温度計の計測結果は、制御部CONTに出力される。
【0039】
また、上記高周波コイル10は銅管で構成され、制御部CONTを通じ投入電力が制御されてルツボ8が高周波加熱されると共に温度調節がなされる。また、上記高周波コイル10の内側(引き上げ軸4側)には、複数の断熱材3が配置されており、複数の断熱材3により囲まれた雰囲気によりホットゾーン5が形成されている。
【0040】
上記ホットゾーン5の温度勾配は、断熱材3の形状と構成(材質)によって広範囲に変化させることができ、育成する単結晶の種類に合わせ断熱材3の形状と構成を設計して適正なホットゾーン5の温度勾配を形成する。更に、高周波コイル10のルツボ8に対する相対位置を調整することによりホットゾーン5の温度勾配を微調整することができる。尚、上記断熱材3は、高融点の耐火物により構成されている。
【0041】
また、上記ルツボ8はカップ状に形成され、その底部が断熱材3上に配置されかつ断熱材3により保持されている。また、ルツボ8の上方側には、種結晶SCと成長したGSGG単結晶Cを保持しかつ回転させながら引き上げるための引き上げ軸4が設置されている。引き上げ軸4は、駆動部(図示せず)により、鉛直方向に移動することができ、且つ、軸線を中心に回転させることができる。この駆動部は制御部CONTに接続され、引き上げ軸4の回転数及び引き上げ速度は、それぞれ、制御される。
【0042】
そして、ルツボ8内に原料を充填し、育成炉1のチャンバー2内に上記ルツボ8を配置しかつ高周波コイル10により加熱して原料を融解させ、その後、原料融液9に種結晶SCを接触させて徐々に温度を降下させ、同時に引き上げ軸4を回転させながら徐々に引き上げることにより種結晶SCの下部側において原料融液9を順次結晶化させる。そして、従来の育成条件に従い高周波コイル10への投入電力、引き上げ軸4の回転数及び引き上げ速度を調整し、所望とする直径、全長のGSGG単結晶Cを育成することが可能となる。
【0043】
図3の説明に戻り、
図3(A)のステップS1について詳細に説明する。
図3(A)のステップS1は、例えば、
図3(B)に示すステップS2〜ステップS8により行う。なお、以下の説明は、一例であって、ステップS1を限定するものではない。
【0044】
まず、
図3(B)のステップS2において、Gd、Sc及びGaを含む原料を調整する。例えば、GSGG単結晶の原料には、酸化ガドリニウム(Gd
2O
3)粉末、酸化スカンジウム(Sc
2O
3)粉末および酸化ガリウム(Ga
2O
3)粉末等が適用される。これ等各原料の配合比は、育成するGSGG単結晶Cの組成によって、適宜決定される。各原料の配合比は、育成するGSGG単結晶Cの組成が、上記した化学式(2)になるように設定される。各原料の配合比は、各元素の結晶への取り込み率、育成条件等に基づいて決定されるものであり、本分野の公知の方法、あるいは予備実験により設定可能である。なお、上記の原料は、一例であって、他の原料を用いてもよい。
【0045】
また、ステップS2の原料の調整は、育成するGSGG単結晶Cの格子定数を所定の範囲する場合、ステップS3において、原料中のGdの原子数に対するScの原子数及びGaの原子数を調整して、格子定数を所定の範囲に制御する。上記したようにGSGG単結晶Cは、上記x2及び格子定数が正の相関の関係を有するので、原料中のGdの原子数に対するScの原子数及びGaの原子数を調整して、格子定数を所定の範囲に制御することができる。原料中のGdの原子数に対するScの原子数及びGaの原子数は、例えば、上記した数式(1)に基づいて、目的とする格子定数aに対応するScの化学式量を示すx2を求め、育成するGSGG単結晶CのScの化学式量が求めたx2になるように、原料中のGdの原子数に対するScの原子数及びGaの原子数を調整する。本実施形態では、化学式(2)中のx2が2.00≦x2≦2.15の範囲において、製造するGSGG単結晶Cの格子定数を、1.25737nm以上1.25877nm以下の所定の範囲とすることができる。
【0046】
続いて、
図3(B)のステップS4において、ステップS2で調整した原料をルツボ8に充填する。
【0047】
続いて、
図3(B)のステップS5において、原料を融解させる。例えば、
図5に示すように、原料を充填したルツボ8をチャンバー2内に配置し、高周波コイル10により加熱することにより、原料を融解させる。原料を融解させる際の温度は、原料の融解温度、GSGG単結晶Cを育成する温度等の条件に応じて、適宜設定される。
【0048】
続いて、
図3(B)のステップS6において、肩部SH(
図4参照)を育成する。例えば、肩部SHの育成は、
図5に示すように、原料融液9に種結晶SCを接触させて徐々に引き上げ軸4を徐々に引き上げることで、同時に温度が降下することにより種結晶SCの下部側において原料融液9を順次結晶化させることにより行う。なお、育成するGSGG単結晶Cの育成方向における結晶方位は、特に限定されないが、結晶方位が(111)であるGSGG単結晶基板S(
図4参照)が広く用いられているため、(111)であることが好ましい。肩部SHの育成においては、育成条件に従い、高周波コイル10への投入電力を調整することによる温度調整(例、ホットゾーン5の温度勾配の調整)、引き上げ軸4の引き上げ速度および回転速度の調整等を行うことにより、所望とする直径の肩部SHを育成することができる。上記の温度調整、引き上げ軸4の引き上げ速度および回転速度は、それぞれ、本分野の公知の方法、あるいは予備実験により設定可能である。肩部SHの大きさは、限定されないが、例えば、長さ(
図4の種結晶SCの下端から界面反転位置までの長さ)が60mm程度、その直径が60mm程度に設定される。
【0049】
続いて、肩部SHの結晶直径が所望の大きさとなったら、
図3(B)のステップS7において、界面反転操作を行う。界面反転操作により、ファセット成長に伴う歪の発生を抑制するため、界面形状を凸から平坦にする。具体的には、結晶の引き上げを停止し結晶の回転を増速させることで界面を平坦化させる。
【0050】
続いて、界面反転終了後に、
図3(B)のステップS8において、種結晶SC(
図4参照)の引き上げを再開して直胴部SB(
図4参照)を育成する。直胴部SBの育成においては、育成条件に従い、高周波コイル10への投入電力を調整することによる温度調整(例、ホットゾーン5の温度勾配の調整)、引き上げ軸4の引き上げ速度および回転速度の調整等を行うことにより、所望とする直径の直胴部SBを育成することができる。上記の温度調整、引き上げ軸4の引き上げ速度および回転速度は、それぞれ、本分野の公知の方法、あるいは予備実験により設定可能である。直胴部SBの育成の最終段階は、例えば、直胴部SBの下端部SBaが円錐形状になるように育成する(
図4参照)。これは、原料融液9から直胴部SBを切り離して冷却することにより発生する転位の発生を抑制するためである。直胴部SBの大きさは、限定されないが、例えば、長さが70mm〜150mm程度、その直径が60mm程度に設定される。以上の工程により、所望とする直径及び長さのGSGG単結晶Cが製造される。本実施形態に係るGSGG単結晶の製造方法は、良質なGSGG単結晶Cを効率よく製造することができる。
【0051】
そして、育成されたGSGG単結晶Cは育成炉1から取出し、熱歪を除去するアニール処理を行なってから、規格に合わせた厚さのGSGG単結晶基板Sに加工される。
【0052】
(4)GSGG単結晶基板
次に、本実施形態に係るGSGG単結晶基板について説明する。本実施形態に係るGSGG基板Sは、上記したGSGG単結晶Cを用いてなる基板である。例えば、GSGG基板Sは、
図4に示すように、GSGG単結晶Cを分割(スライス)して、表面処理(表面加工)が施されたものである。処理GSGG単結晶基板Sの厚さは、限定されず、任意である。例えば、GSGG単結晶基板Sの厚さは、600μm程度である。GSGG単結晶基板Sに施す表面処理は、限定されず、任意である。例えば、GSGG単結晶基板Sは、その表面が、化学的エッチングあるいは物理的エッチングなどのエッチング処理、及び/又は、鏡面処理(鏡面加工)等の処理が施されたものでもよい。なお、GSGG単結晶基板Sは、上記したGSGG単結晶Cと同様あるいはほぼ同様の組成であり、また、上記したGSGG単結晶Cと同様の格子定数を有する。したがって、GSGG単結晶基板Sは、例えば、格子定数が1.25737nm以上、1.25877nm以下であり、この範囲を少なくとも含む格子定数を有するRIGの製造に好適に用いることができる。
【0053】
(5)GSGG単結晶基板の製造方法
次に、実施形態に係るGSGG単結晶基板の製造方法を説明する。
図6は、実施形態に係るGSGG単結晶基板の製造方法の一例を示すフローチャートである。なお、以下に説明するGSGG単結晶基板Sの製造方法は、一例であって、GSGG単結晶基板Sの製造方法を限定するものではない。
【0054】
本実施形態に係るGSGG単結晶基板Sの製造方法は、まず、
図6のステップS9において、上記した実施形態に係るGSGG単結晶の製造方法により製造したGSGG単結晶CからGSGG単結晶基板Sを製造する方法である。ステップS9は、例えば、ステップS10〜ステップS12により実施される。
【0055】
まず、ステップS10において、GSGG単結晶Cを所定の厚さで分割(スライス)する。例えば、ステップS10において、GSGG単結晶Cの有効部EPを所定の厚さで分割する。ステップS10において用いる有効部EPは、例えば、内周刃を有する切断装置などにより、直胴部SBから切り離され、円筒研削盤により外形が整えられたものである。また、有効部EPは、結晶方位が(111)に面出しされたものが好ましい。GSGG単結晶Cの有効部EPの分割は、例えば、ワイヤーソー等の切断装置により行われる。この厚みは、特に限定されないが、例えば、600μm程度である。
【0056】
続いて、
図6のステップS11において、分割したGSGG単結晶基板Sをエッチング加工する。エッチング加工は、例えば、基板端面のカケや表面のキズなどを防止するため、基板表面及び側面の全面をエッチング加工する。エッチング加工は、例えば、酸などによる化学的エッチング、あるいはシリカなどによる物理的エッチングにより行われる。なお、ステップS11を行うか否かは任意である。
【0057】
続いて、
図6のステップS12において、鏡面加工を行う。鏡面加工は、例えば、コロイダルシリカなどを用いた機械的研磨によるポリッシュ加工を施し、基板表面を鏡面状態する。以上の工程で、GSGG単結晶基板Sは完成する。本実施形態に係るGSGG単結晶基板Sの製造方法は、良質なGSGG単結晶基板Sを効率よく製造することができる。なお、GSGG単結晶基板Sの鏡面加工の方法は、上記方法に限定されず、任意である。例えば、鏡面加工は、化学物理的研磨により行ってもよい。
【0058】
(6)RIG
本実施形態のRIG(図示せず)について説明する。本実施形態のRIGは、下記化学式(1)で表される。
Nd
3−x1−y1Gd
x1Bi
y1Fe
5O
12 ・・・(1)
(化学式(1)中、x1は0.65≦x1≦0.84であり、y1は1.00≦y1≦1.15である。)
図7に、本実施形態のRIGにおけるNd−Gd−Bi三元系組成図を示す。
【0059】
(7)希土類の選択
上記RIGを構成する希土類元素の種類については、NdとGdであることを必要とする。
【0060】
液相エピタキシャル成長法により基板上に結晶を育成する場合、基板と結晶膜の格子定数を整合させなければならない。上記のような格子定数を1.25737〜1.25877nm、よりとしたGSGG単結晶基板Sでは、格子定数が従来よりも大きいので、この大きな格子定数から選択できる希土類元素は複数ある。
【0061】
しかし、RIGにイオン半径の大きなBiを入れないとRIGのファラデー回転性能が低下し、ファラデー回転角が45°となるのに必要なRIGの厚みが増加して光吸収による挿入損失が大きくなってしまう。従って、イオン半径の大きな元素(例えばLa等)を選択することは、RIGにBiを含有させることが難しくなるため好ましくない。
【0062】
RIGは、一般的に、下記化学式(3)で表される。
R
3−x3−y3Gd
x3Bi
y3Fe
5O
12 ・・・(3)
(化学式(3)中、Rは、Gd以外の希土類元素である。)
ここで、Bi量が増加すると、Bi量の増加と共にRIGの熱膨張係数が大きくなることから、基板との格子定数差が大きくなり、成長中にRIGが割れたり、RIGに転位が発生する等、生産性の低下並びに性能劣化が起こるという問題がある。そして、過去の経験からBi量(y3)が1.3を超えた場合、良質なRIGを育成することが困難であることが判っており、Bi量が1.3を超えるようなRIGが得られるイオン半径の小さな希土類元素(例えばTm、Yb、Lu等)を用いることも好ましくない。
【0063】
一方、イオン半径の大きな希土類の中でも、Ce、Prのように、経験則上、偏析係数の小さなものは非磁性基板との格子不整合が起こり易く、良質なRIGを量産性に富みながら育成することが困難となるため好ましくなかった。
【0064】
このような理由とこれまでの研究実績から、RIGにおいて、構成する希土類元素の種類は上述したようにNdとGdが選択された。そこで、RIGを構成する希土類元素として、NdとGdを選択したところ、良好な挿入損失と高い収率を得ることが確認できた。
【0065】
(8)挿入損失と良品率評価
ところで、RIGが適用されたファラデー回転子の温度上昇は、鉄イオンによる1μm付近の光吸収が原因であり、その吸収係数は温度上昇に伴い増加するため、更なる温度上昇をもたらすことになる。このため、RIGを10W級の加工用レーザーに適用する場合、挿入損失は0.35dB以下であることが必要とされている。
【0066】
実施例の表3は、上記化学式(1)で示される種々の組成のRIGを液相エピタキシャル成長法により育成し、EPMA定量分析により各々の化学式量を求め、次いで、成長させた各RIGをダイシングソーで11mm角に切断し、更に波長1.06μmの光に対しファラデー回転角が45°となるようにRIGの厚みを研磨により調整し、波長1.06μmの光に対する反射防止膜を両面に形成した後、波長1.06μmのYVO
4レーザー光を入射して挿入損失を測定し、それ等の結果をまとめたものである。
【0067】
図8は、RIGにおけるBi化学式量と挿入損失との関係を示すグラフである。表3及び
図7から判るように、RIGの挿入損失は、Bi化学式量が大きくなるに従い、小さくなる傾向にある。RIGを10W級の加工用レーザーに適用する場合、挿入損失は0.35dB未満であることが必要とされていることより、RIGは、少なくとも、Bi化学式量が1.0以上が良好であることが確認される。
【0068】
また、RIGの作製時の良品率は、経験則上良品率が90%以上を高収率と判断する。表3から判るように、Bi化学式量が大きくなるにつれて、良品率が低下する傾向にある。Bi量が増加すると、Bi量の増加と共にRIGの熱膨張係数が大きくなることから、基板との格子定数差が大きくなり、成長中にRIGが割れたり、RIGに転位が発生する等が起こり良品率を低下させていると考えられる。表3の結果から、RIGは、Bi化学式量が1.15以下が良好であることが確認される。なお、Gd化学式量(x1)は、化学式(1)より3−x1−y1>0であればよい。但し、表3に示すように、Gd化学式量(x1)は、Biの化学式量(y1)により限定される。Gd化学式量(x1)は、Biの化学式量(y1)が大きくなるに従い、大きくなる傾向にある。Gd化学式量(x1)は、好ましくは、0.65以上0.84以下である。Gd化学式量(x1)が、少なくともこの範囲である場合、表3に示すように、Biの化学式量(y1)を上記した良好な範囲である1.00≦y1≦1.15の範囲に設定することができるので、良質な上記RIGを製造することができる。
【0069】
また、表3に示す結果から、本実施形態のRIGは、GSGG単結晶基板Sの格子定数が1.25800nm以上1.25850nm以下の範囲である場合、良好に製造でき、格子定数が1.25830nmである場合、より良好に製造できることが確認される。また、格子定数が1.25800nm未満では、挿入損失が0.35dBを超えてしまう。1.25850nmを超える場合、Bi化学量を大きくしなければならなく、良品率を低下させてしまう。また、この時のSc化学式量を示す上記化学式(2)中のx2は、2.065≦x2≦2.117である。ところで、上記したように、従来は、格子定数がGSGGの1.2564nmより大きく、SSGGの1.264nmより小さい単結晶基板は、市場で販売されていないため、上記RIGを製造することは困難であったが、本実施形態に係るGSGG単結晶基板Sは、従来より大きい格子係数を有するため、このようなRIGの製造に好適に適用できることを示している。
【0070】
以上の結果から、上記化学式(1)において、Gdの化学式量を示すx1は、0.65≦x1≦0.84の範囲、そして、Biの化学式量を示すy1は、1.00≦y1≦1.15の範囲が望ましいことが確認される。
【0071】
以上のような本実施形態のRIGは、ファラデー回転子として適用した場合に挿入損失で0.35dB以下の特性を有する。これにより、本実施形態のRIGは、ファラデー回転子として好適に用いることができる。また、本実施形態のRIGは、本実施形態のRIGをファラデー回転子として用いる光アイソレータとして、好適に用いることができる。例えば、本実施形態のRIGを加工用レーザーなどに用いる光アイソレータに適用した場合、より高パワーのレーザー光に対しても、温度上昇を大幅に抑制できることから、特性の劣化を抑制することができる。
【0072】
(9)RIGの製造方法
次に、実施形態に係るRIGの製造方法について説明する。
図9は、実施形態に係るRIGの製造方法の一例を示すフローチャートである。なお、以下に説明するRIGの製造方法は、一例であって、RIGの製造方法を限定するものではない。
【0073】
実施形態に係るRIGの製造方法は、
図9(A)のステップS20において、液層エピタキシャル成長により、下記化学式(1)で表されるRIGを製造する。
Nd
3−x1−y1Gd
x1Bi
y1Fe
5O
12 ・・・(1)
(化学式(1)中、x1は0.65≦x1≦0.84であり、y1は1.00≦y1≦1.15である。)
【0074】
図9(A)のステップS20は、例えば、
図9(B)に示すステップS21〜ステップS24により行う。なお、以下の説明は、一例であって、ステップS20を限定するものではない。
【0075】
まず、
図9(B)のステップS21において、Nd、Gd、Bi及びFeを含む原料を調整する。例えば、RIGの原料には、酸化ネオジム(Nd
2O
3)粉末、酸化ガリウム(Ga
2O
3)粉末、酸化ガドリニウム(Gd
2O
3)粉末、酸化ビスマス(Bi
2O
3)粉末、一酸化鉛(PbO)粉末、酸化鉄(Fe
2O
3)粉末、酸化ホウ素(B
2O
3)粉末等が適用される。これら各原料の配合比は、育成するRIGの組成によって、適宜決定される。各原料の配合比は、育成するRIGの組成の組成が、上記した化学式(1)になるように設定される。なお、各原料の配合比は、育成するRIGの組成の組成、各元素のRIGへの取り込み率、使用する基板の格子定数、育成温度等の条件に基づいて決定されるものであり、本分野の公知の方法、あるいは予備実験により設定可能である。なお、上記の原料は、一例であって、他の原料を用いてもよい。
【0076】
次に、
図9(B)のステップS22において、原料を融解する。ステップS22では、例えば、ステップS21で調整した原料粉末を白金ルツボに充填し、液層エピタキシャル成長による結晶が育成可能な公知の装置により加熱し、白金ルツボの原料粉末を融解させる。融解した原料融液は、撹拌により均一にされる。
【0077】
次に、
図9(B)のステップS23において、原料融液を過飽和状態にする。ステップS23では、原料融液の温度を徐々に若干降下させることにより、原料融液を過飽和状態にする。この温度が、RIGの育成温度として設定される。RIGの育成温度は、育成するRIGの組成、格子定数、原料の組成等の条件に基づいて決定され、これらが互いに影響する。例えば、一般的には、育成するRIGのBi化学式量(y1)は、同一組成の原料融液によりRIGを育成した場合、育成温度が高いほど、少なくすることができる。また、格子定数は、一般的に、同一組成の原料融液によりRIGを育成した場合、育成温度が高いほど高くなる傾向にある。RIGの育成温度は、予備実験により設定可能である。RIGの育成温度は、例えば、770℃〜790℃程度に設定される。
【0078】
次に、
図9(B)のステップS24において、基板を原料融液に浸漬してRIGを育成する。ステップS24により、基板上にRIGが育成される。
図9(B)のステップS24で用いる基板は、例えば、上記した実施形態に係るGSGG単結晶基板Sが用いられる。GSGG単結晶基板Sは、
図6のステップS9(ステップS10〜ステップS12)において、予め、製造したものを用いることができる。すなわち、本実施形態に係るRIGの製造方法は、上記したGSGG単結晶基板Sの製造方法を含んでもよい。また、GSGG単結晶基板Sは、上記したように格子定数が1.25800nm以上、1.25850nm以下であるのが好ましく、1.25830nmであるのがより好ましい。また、GSGG単結晶基板Sの格子定数が1.25800nm未満の場合、挿入損失が0.35dBを超えてしまう。また、GSGG単結晶基板Sの格子定数が、1.25850nmを超える場合、Bi化学式量を大きくしなければならなく、育成するRIGの良品率を低下させてしまう。基板の原料融液への浸漬は、例えば、片面のみを原料融液に浸漬させる。基板は、原料融液に浸漬させた後、所定の回転数で回転させる。基板の回転速度は、特に限定されないが、例えば、40〜100rpm程度に設定される。また、育成するRIGの厚さは、特に限定されないが、例えば、600μm程度に設定される。
【0079】
次に、
図9(B)のステップS25において、基板上に育成したRIGから、基板を除去する。ステップS25では、例えば、研削研磨することにより、基板上に育成したRIGから、基板を除去する。以上の工程により、本実施形態に係るRIGが完成する。本実施形態に係るRIGの製造方法は、上記した本実施形態に係るRIGを高い収率で製造することができる。
【0080】
(10)光アイソレータ
実施形態に係る光アイソレータは、本実施形態に係るRIGがファラデー回転子として用いられる。例えば、光アイソレータは、ファラデー素子である本実施形態に係るRIG及びRIGに磁界を印加する磁石体を有するファラデー回転子と、偏光子と、検光子と、で構成され、一方向に光を通し、戻り光を遮断する。本実施形態に係るRIGは、上記したように挿入損失で0.35dBを下回り、RIGにおける発熱量そのものの低減が図れるため、本実施形態に係るRIGがファラデー回転子として用いられる光アイソレータとして、好適に用いることができる。
【実施例】
【0081】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0082】
以下、本発明の実施例について比較例を挙げて具体的に説明する。参考例1〜17は、GSGG単結晶基板の製造についての参考例である。参考例1〜17は、各々、組成設計段階で、上記化学式(2)のSc化学式量x2が2.00≦x2≦2.15を満たす組成としている。尚、格子定数はX線回折装置を使用して測定した値で、Sc化学式量はEPMA定量分析から求めた化学式量である。
【0083】
[参考例1]
直径150mm、高さ150mmのイリジウム製坩堝に、予め混合したGd
2O
3、Sc
2O
3、Ga
2O
3の粉末を所定量仕込み、
図4に示す育成炉1を用いて、高周波コイル10により加熱溶融し、原料融液9を得てから、GSGG単結晶Cの育成を、通常の育成条件下で試み、GSGG単結晶Cを得た。得たGSGG単結晶Cを内周刃でウエハー状に切り出し、コロイダルシリカ等の研磨液を用いて鏡面に仕上げたGSGG単結晶基板Sの格子定数をX線回折装置で測定したところ1.25800nmと良好であった。次に、Scの含有量をEPMA定量分析で測定し化学式量を求めたところ、2.068at.fuと良好であった。
【0084】
[参考例2]
異なる原料を使用した以外は参考例1と同様に、GSGG単結晶Cを育成し、基板状に加工を施しGSGG単結晶基板Sを得た。そのGSGG単結晶基板Sの格子定数をX線回折装置で測定したところ1.25850nmと良好であった。次に、Scの含有量をEPMA定量分析で測定し化学式量を求めたところ、2.117at.fuと良好であった。
【0085】
[参考例3]
異なる原料を使用した以外は参考例1と同様に、GSGG単結晶Cを育成し、基板状に加工を施しGSGG単結晶基板Sを得た。そのGSGG単結晶基板Sの格子定数をX線回折装置で測定したところ1.25825nmと良好であった。次に、Scの含有量をEPMA定量分析で測定し化学式量を求めたところ、2.093at.fuと良好であった。
【0086】
[参考例4]
異なる原料を使用した以外は参考例1と同様に、GSGG単結晶Cを育成し、基板状に加工を施しGSGG単結晶基板Sを得た。そのGSGG単結晶基板Sの格子定数をX線回折装置で測定したところ1.25830nmと良好であった。次に、Scの含有量をEPMA定量分析で測定し化学式量を求めたところ、2.098at.fuと良好であった。
【0087】
[参考例5]
異なる原料を使用した以外は参考例1と同様に、GSGG単結晶Cを育成し、基板状に加工を施しGSGG単結晶基板Sを得た。そのGSGG単結晶基板Sの格子定数をX線回折装置で測定したところ1.25800nmと良好であった。次に、Scの含有量をEPMA定量分析で測定し化学式量を求めたところ、2.066at.fuと良好であった。
【0088】
[参考例6]
異なる原料を使用した以外は参考例1と同様に、GSGG単結晶Cを育成し、基板状に加工を施しGSGG単結晶基板Sを得た。そのGSGG単結晶基板Sの格子定数をX線回折装置で測定したところ1.25850nmと良好であった。次に、Scの含有量をEPMA定量分析で測定し化学式量を求めたところ、2.115at.fuと良好であった。
【0089】
[参考例7]
異なる原料を使用した以外は参考例1と同様に、GSGG単結晶Cを育成し、基板状に加工を施しGSGG単結晶基板Sを得た。そのGSGG単結晶基板Sの格子定数をX線回折装置で測定したところ1.25835nmと良好であった。次に、Scの含有量をEPMA定量分析で測定し化学式量を求めたところ、2.100at.fuと良好であった。
【0090】
[参考例8]
異なる原料を使用した以外は参考例1と同様に、GSGG単結晶Cを育成し、基板状に加工を施しGSGG単結晶基板Sを得た。そのGSGG単結晶基板Sの格子定数をX線回折装置で測定したところ1.25797nmと良好であった。次に、Scの含有量をEPMA定量分析で測定し化学式量を求めたところ、2.064at.fuであった。
【0091】
[参考例9]
異なる原料を使用した以外は参考例1と同様に、GSGG単結晶Cを育成し、基板状に加工を施しGSGG単結晶基板Sを得た。そのGSGG単結晶基板Sの格子定数をX線回折装置で測定したところ1.25795nmと良好であった。次に、Scの含有量をEPMA定量分析で測定し化学式量を求めたところ、2.061at.fuであった。
【0092】
[参考例10]
異なる原料を使用した以外は参考例1と同様に、GSGG単結晶Cを育成し、基板状に加工を施しGSGG単結晶基板Sを得た。そのGSGG単結晶基板Sの格子定数をX線回折装置で測定したところ1.25853nmと良好であった。次に、Scの含有量をEPMA定量分析で測定し化学式量を求めたところ、2.118at.fuであった。
【0093】
[参考例11]
異なる原料を使用した以外は参考例1と同様に、GSGG単結晶Cを育成し、基板状に加工を施しGSGG単結晶基板Sを得た。そのGSGG単結晶基板Sの格子定数をX線回折装置で測定したところ1.25855nmと良好であった。次に、Scの含有量をEPMA定量分析で測定し化学式量を求めたところ、2.119at.fuであった。
【0094】
[参考例12]
異なる原料を使用した以外は参考例1と同様に、GSGG単結晶Cを育成し、基板状に加工を施しGSGG単結晶基板Sを得た。そのGSGG単結晶基板Sの格子定数をX線回折装置で測定したところ1.25737nmと良好であった。次に、Scの含有量をEPMA定量分析で測定し化学式量を求めたところ、2.00at.fuであった。
【0095】
[参考例13]
異なる原料を使用した以外は参考例1と同様に、GSGG単結晶Cを育成し、基板状に加工を施しGSGG単結晶基板Sを得た。そのGSGG単結晶基板Sの格子定数をX線回折装置で測定したところ1.25741nmと良好であった。次に、Scの含有量をEPMA定量分析で測定し化学式量を求めたところ、2.03at.fuであった。
【0096】
[参考例14]
異なる原料を使用した以外は参考例1と同様に、GSGG単結晶Cを育成し、基板状に加工を施しGSGG単結晶基板Sを得た。そのGSGG単結晶基板Sの格子定数をX線回折装置で測定したところ1.25797nmと良好であった。次に、Scの含有量をEPMA定量分析で測定し化学式量を求めたところ、2.06at.fuであった。
【0097】
[参考例15]
異なる原料を使用した以外は参考例1と同様に、GSGG単結晶Cを育成し、基板状に加工を施しGSGG単結晶基板Sを得た。そのGSGG単結晶基板Sの格子定数をX線回折装置で測定したところ1.25814nmと良好であった。次に、Scの含有量をEPMA定量分析で測定し化学式量を求めたところ、2.09at.fuであった。
【0098】
[参考例16]
異なる原料を使用した以外は参考例1と同様に、GSGG単結晶Cを育成し、基板状に加工を施しGSGG単結晶基板Sを得た。そのGSGG単結晶基板Sの格子定数をX線回折装置で測定したところ1.25863nmと良好であった。次に、Scの含有量をEPMA定量分析で測定し化学式量を求めたところ、2.12at.fuであった。
【0099】
[参考例17]
異なる原料を使用した以外は参考例1と同様に、GSGG単結晶Cを育成し、基板状に加工を施しGSGG単結晶基板Sを得た。そのGSGG単結晶基板Sの格子定数をX線回折装置で測定したところ1.25877nmと良好であった。次に、Scの含有量をEPMA定量分析で測定し化学式量を求めたところ、2.15at.fuであった。
【0100】
これら結果を表2にまとめて示す。
【表2】
【0101】
次に、実施形態に係るGSGG単結晶基板Sを用いて製造した実施形態に係るRIGの実施例について具体的に説明する。実施例1〜10は、実施形態に係るGSGG単結晶基板Sを用いて、下記化学式(1)で表されるRIGを製造した例である。
Nd
3−x1−y1Gd
x1Bi
y1Fe
5O
12 ・・・(1)
(化学式(1)中、x1は0.65≦x1≦0.84であり、y1は1.00≦y1≦1.15である。)なお、実施例1〜6と比較例1〜4では、全てのGSGG単結晶基板Sについて、直径が1インチ、格子定数1.25830nmの参考例4のGSGG単結晶基板Sを用いた。また、実施例7は参考例1のGSGG単結晶基板Sを、実施例8は参考例2のGSGG単結晶基板Sを使用した。
【0102】
尚、Bi量とGd量はEPMA定量分析から求めた化学式量の値である。また、不良率、良品率は、各々RIGから11mm角を切断し、更にその11mm角から1mm角を100枚切断、次いでその1mm角から、その形状あるいは面内のピット数量によって、不良品、良品を選別して得られた結果である。尚、不良品についてはRIG中に発生したクラック起因による角欠け変形のあるもの、あるいは角欠けは無いものの金属顕微鏡、赤外顕微鏡の観察による1mm角面内のピット数量が5個以上のものとし、同様に良品は角欠けもなく、面内のピット数量も5個以下のものとして選別し、その結果を元とした各々の発生率も合わせて示した。表3では、実施例と比較例に係わるRIGの不良率、良品率と挿入損失とを比較している。
【0103】
なお、合格基準は、光吸収量を表す挿入損失は≦0.35とし、その時の良品率は90%以上とした。
【0104】
[実施例1]
まず、原料として、Nd
2O
3を2.20g、Gd
2O
3を2.37g、Fe
2O
3を29.27g、Bi
2O
3を254.97g、PbOを201.52g、B
2O
3を9.67gそれぞれ秤量し、白金坩堝中において1000℃で溶解し、融液が均一な組成になるように十分に撹拌混合した。
【0105】
次に、RIGをエピタキシャル成長させるため、融液の温度を780℃の育成温度まで降下させた。その後、上記GSGG基板を片面のみが融液に浸漬するように設置し、GSGG基板を回転させながらRIGをエピタキシャル成長させた。得られたRIGをEPMA定量分析するとBi量は1.15、Gd量は0.78であった。
【0106】
このような条件で育成したRIGから11mm角、更には1mm角を切断し、観察したところ、不良品は10個、良品は90個と良好であった。また、波長1.06μmの光に対してファラデー回転角が45°となるようにRIGの厚みを研磨により調整した後、波長1.06μmの光に対する反射防止膜を両面に形成した後、波長1.06μmのYVO
4レーザー光を入射し、挿入損失(IL)を測定したところ0.31dBと極めて良好な結果であった。
【0107】
[実施例2]
原料として、Nd
2O
3を2.26g、Gd
2O
3を2.31g、Fe
2O
3を29.27g、Bi
2O
3を254.97g、PbOを201.52g、B
2O
3を9.67gそれぞれ秤量して原料組成を変えたこと、および、育成温度を781℃とした以外は実施例1と同様にしてRIGを育成した。得られたRIGのBi量は1.13、Gd量は0.75であった。
【0108】
そして、実施例1と同様にRIGを観察したところ、不良品は8個、良品は92個と良好であった。また、波長1.06μmの光に対してファラデー回転角が45°となるようにRIGの厚みを研磨により調整した後、波長1.06μmの光に対する反射防止膜を両面に形成した後、波長1.06μmのYVO
4レーザー光を入射し、挿入損失(IL)を測定したところ0.32dBと極めて良好な結果であった。
【0109】
[実施例3]
原料として、Nd
2O
3を2.48g、Gd
2O
3を2.40g、Fe
2O
3を29.11g、Bi
2O
3を254.88g、PbOを201.45g、B
2O
3を9.67gそれぞれ秤量して原料組成を変えたこと、および、育成温度を786℃とした以外は実施例1と同様にしてRIGを育成した。得られたRIGのBi量は1.08、Gd量は0.73であった。
【0110】
そして、実施例1と同様にRIGを観察したところ、不良品は5個、良品は95個と極めて良好であった。また、波長1.06μmの光に対してファラデー回転角が45°となるようにRIGの厚みを研磨により調整した後、波長1.06μmの光に対する反射防止膜を両面に形成した後、波長1.06μmのYVO
4レーザー光を入射し、挿入損失(IL)を測定したところ0.34dBと良好な結果であった。
【0111】
[実施例4]
原料として、Nd
2O
3を2.40g、Gd
2O
3を2.33g、Fe
2O
3を29.19g、Bi
2O
3を254.93g、PbOを201.49g、B
2O
3を9.67gそれぞれ秤量して原料組成を変えたこと、および、育成温度を784℃とした以外は実施例1と同様にしてRIGを育成した。得られたRIGのBi量は1.05、Gd量は0.73であった。
【0112】
そして、実施例1と同様にRIGを観察したところ、不良品は4個、良品は96個と極めて良好であった。また、波長1.06μmの光に対してファラデー回転角が45°となるようにRIGの厚みを研磨により調整した後、波長1.06μmの光に対する反射防止膜を両面に形成した後、波長1.06μmのYVO
4レーザー光を入射し、挿入損失(IL)を測定したところ0.34dBと良好な結果であった。
【0113】
[実施例5]
原料として、Nd
2O
3を2.36g、Gd
2O
3を2.37g、Fe
2O
3を29.19g、Bi
2O
3を254.93g、PbOを201.49g、B
2O
3を9.67gそれぞれ秤量して原料組成を変えたこと、および、育成温度を784℃とした以外は実施例1と同様にしてRIGを育成した。得られたRIGのBi量は1.00、Gd量は0.69であった。
【0114】
そして、実施例1と同様にRIGを観察したところ、不良品は2個、良品は98個と極めて良好であった。また、波長1.06μmの光に対してファラデー回転角が45°となるようにRIGの厚みを研磨により調整した後、波長1.06μmの光に対する反射防止膜を両面に形成した後、波長1.06μmのYVO
4レーザー光を入射し、挿入損失(IL)を測定したところ0.35dBと良好な結果であった。
【0115】
[実施例6]
原料として、Nd
2O
3を2.51g、Gd
2O
3を2.57g、Fe
2O
3を29.02g、Bi
2O
3を254.83g、PbOを201.41g、B
2O
3を9.67gそれぞれ秤量して原料組成を変えたこと、および、育成温度を787℃とした以外は実施例1と同様にしてRIGを育成した。得られたRIGのBi量は1.10、Gd量は0.74であった。
【0116】
そして、実施例1と同様にRIGを観察したところ、不良品は4個、良品は96個と極めて良好であった。また、波長1.06μmの光に対してファラデー回転角が45°となるようにRIGの厚みを研磨により調整した後、波長1.06μmの光に対する反射防止膜を両面に形成した後、波長1.06μmのYVO
4レーザー光を入射し、挿入損失(IL)を測定したところ0.33dBと良好な結果であった。
【0117】
[実施例7]
原料として、Nd
2O
3を2.29g、Gd
2O
3を2.34g、Fe
2O
3を29.24g、Bi
2O
3を254.95g、PbOを201.51g、B
2O
3を9.67gそれぞれ秤量して原料組成を変えたこと、および、育成温度を786℃とした以外は実施例1と同様にしてRIGを育成した。得られたRIGのBi量は1.15、Gd量は0.84であった。
【0118】
そして、実施例1と同様にRIGを観察したところ、不良品は10個、良品は90個と良好であった。また、波長1.06μmの光に対してファラデー回転角が45°となるようにRIGの厚みを研磨により調整した後、波長1.06μmの光に対する反射防止膜を両面に形成した後、波長1.06μmのYVO
4レーザー光を入射し、挿入損失(IL)を測定したところ0.31dBと極めて良好な結果であった。
【0119】
[実施例8]
原料として、Nd
2O
3を2.36g、Gd
2O
3を2.37g、Fe
2O
3を29.19g、Bi
2O
3を254.93g、PbOを201.49g、B
2O
3を9.67gそれぞれ秤量して原料組成を変えたこと、および、育成温度を782℃とした以外は実施例1と同様にしてRIGを育成した。得られたRIGのBi量は1.00、Gd量は0.65であった。
【0120】
そして、実施例1と同様にRIGを観察したところ、不良品は4個、良品は96個と極めて良好であった。また、波長1.06μmの光に対してファラデー回転角が45°となるようにRIGの厚みを研磨により調整した後、波長1.06μmの光に対する反射防止膜を両面に形成した後、波長1.06μmのYVO
4レーザー光を入射し、挿入損失(IL)を測定したところ0.34dBと良好な結果であった。
【0121】
[比較例1]
原料として、Nd
2O
3を2.30g、Gd
2O
3を2.60g、Fe
2O
3を29.11g、Bi
2O
3を254.87g、PbOを201.44g、B
2O
3を9.67gそれぞれ秤量して原料組成を変えたこと、および、育成温度を784℃とした以外は実施例1と同様にしてRIGを育成した。得られたRIGのBi量は1.16、Gd量は0.78であった。
【0122】
そして、実施例1と同様にRIGを観察したところ、不良品は12個、良品は88個と不良であった。また、波長1.06μmの光に対してファラデー回転角が45°となるようにRIGの厚みを研磨により調整した後、波長1.06μmの光に対する反射防止膜を両面に形成した後、波長1.06μmのYVO
4レーザー光を入射し、挿入損失(IL)を測定したところ0.32dBと極めて良好な結果であった。しかし、不良品は12個、良品は88個と良品率は90%以下であった。
【0123】
[比較例2]
原料として、Nd
2O
3を2.36g、Gd
2O
3を2.37g、Fe
2O
3を29.19g、Bi
2O
3を254.93g、PbOを201.48g、B
2O
3を9.67gそれぞれ秤量して原料組成を変えたこと、および、育成温度を783℃とした以外は実施例1と同様にしてRIGを育成した。得られたRIGのBi量は0.99、Gd量は0.71であった。
【0124】
そして、実施例1と同様にRIGを観察したところ、不良品は1個、良品は99個と極めて良好であった。また、波長1.06μmの光に対してファラデー回転角が45°となるようにRIGの厚みを研磨により調整した後、波長1.06μmの光に対する反射防止膜を両面に形成した後、波長1.06μmのYVO
4レーザー光を入射し、挿入損失(IL)を測定したところ0.36dBと不良であった。
【0125】
[比較例3]
原料として、Nd
2O
3を2.31g、Gd
2O
3を2.44g、Fe
2O
3を29.28g、Bi
2O
3を254.61g、PbOを201.24g、B
2O
3を10.12gそれぞれ秤量して原料組成を変えたこと、および、育成温度を782℃とした以外は実施例1と同様にしてRIGを育成した。得られたRIGのBi量は1.17、Gd量は0.78であった。
【0126】
そして、実施例1と同様にRIGを観察したところ、不良品は13個、良品は87個と不良であった。また、波長1.06μmの光に対してファラデー回転角が45°となるようにRIGの厚みを研磨により調整した後、波長1.06μmの光に対する反射防止膜を両面に形成した後、波長1.06μmのYVO
4レーザー光を入射し、挿入損失(IL)を測定したところ0.31dBと極めて良好であったが、不良品は13個、良品は87個と良品率は90%以下であった。
【0127】
[比較例4]
原料として、Nd
2O
3を2.27g、Gd
2O
3を2.45g、Fe
2O
3を29.11g、Bi
2O
3を255.21g、PbOを201.71g、B
2O
3を9.25gそれぞれ秤量して原料組成を変えたこと、および、育成温度を783℃とした以外は実施例1と同様にしてRIGを育成した。得られたRIGのBi量は0.98、Gd量は0.71であった。
【0128】
そして、実施例1と同様にRIGを観察したところ、不良品は1個、良品は99個と極めて良好であった。また、波長1.06μmの光に対してファラデー回転角が45°となるようにRIGの厚みを研磨により調整した後、波長1.06μmの光に対する反射防止膜を両面に形成した後、波長1.06μmのYVO
4レーザー光を入射し、挿入損失(IL)を測定したところ0.37dBと不良であった。
【0129】
これ等結果を表3にまとめて示す。
【表3】
【0130】
以上のように、本発明に係るビスマス置換型希土類鉄ガーネット結晶膜(RIG)は、特許文献1等に記載された従来のRIGと比較して、挿入損失で0.35dB以下であり、かつ、高い収率で製造することができる。そして、挿入損失で0.35dB以下である本発明のRIGを適用することにより、RIGにおける発熱量そのものの低減が図れるため、本発明のRIGを加工用レーザーの光アイソレータに適用した場合、より高パワーのレーザー光に対し温度上昇を大幅に抑制できることから、特性の劣化を抑制する効果を有する。また、本発明に係るRIGの製造方法は、良質なRIGを高い収率で製造することができる。また、本発明に係る光アイソレータは、上記したRIGを備えるので、より高パワーのレーザー光に対し温度上昇を大幅に抑制でき、特性の劣化を抑制する効果を有する。
【0131】
なお、本発明の技術範囲は、上述の実施形態などで説明した態様に限定されるものではない。上述の実施形態などで説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上述の実施形態などで説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、法令で許容される限りにおいて、上述の実施形態などで引用した全ての文献の開示を援用して本文の記載の一部とする。