特許第6822145号(P6822145)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6822145
(24)【登録日】2021年1月12日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】反応混合物中のスズ化合物の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/58 20060101AFI20210114BHJP
【FI】
   C07D307/58
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-569485(P2016-569485)
(86)(22)【出願日】2016年1月13日
(86)【国際出願番号】JP2016050854
(87)【国際公開番号】WO2016114312
(87)【国際公開日】20160721
【審査請求日】2018年12月17日
(31)【優先権主張番号】特願2015-4367(P2015-4367)
(32)【優先日】2015年1月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【弁理士】
【氏名又は名称】泉名 謙治
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(72)【発明者】
【氏名】長尾 将人
(72)【発明者】
【氏名】後藤 裕一
【審査官】 西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−275857(JP,A)
【文献】 特表2010−518060(JP,A)
【文献】 特表2002−506466(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/208609(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/002511(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/002513(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/114308(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の反応式(3)に従って、式4で表されるアセタール化合物と式5で表されるエステル化合物の混合物を原料にして、塩化第一スズを用いて反応させ、α−メチレン−γ−ブチロラクトン化合物を製造する方法において、
上記反応させた反応液を、ベンゼン環を含む化合物と水酸化カリウム水溶液との混合液に接触させるか、又はベンゼン環を含む化合物と水酸化カリウム水溶液とに同時若しくは経時的に接触させて分液し、得られる有機層からα−メチレン−γ−ブチロラクトン化合物を得る精製工程を含むことを特徴とするα−メチレン−γ−ブチロラクトン化合物を製造する方法。
【化1】
(式中、Xは有機基を表す。X及びXは、それぞれ独立に、炭素数1乃至4のアルキル基を表すか、XとXとが一緒になってCHCH又はCHCHCHを形成してもよい。Xは炭素数1乃至4のアルキル基を表す。YはCl又はBrを表す。)
【請求項2】
式4で表される化合物が、式7で表されるアセタール化合物である請求項1に記載の方法。
【化2】
(式中、X及びXは、それぞれ独立に、炭素数1乃至4のアルキル基を表すか、XとXとが一緒になってCHCH又はCHCHCHを形成してもよい。X及びXは、それぞれ独立に、エーテル結合又は単結合を介してベンゼン環に結合した炭素数1乃至10のアルキレンを表す。Z及びZは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基、ハロアルキル基、アルコキシ基及びハロアルコキシ基から選ばれる置換基を表し、m及びnは、それぞれ独立に、0乃至4の整数を表し、mとnの少なくとも一方が2以上である場合は、2個以上となるZ及び/又はZは、互いに同一でも異なっていてもよい。)
【請求項3】
前記反応液を、ベンゼン環を含む化合物と水酸化カリウム水溶液との混合液に接触させる方法が、前記反応液を、ベンゼン環を含む化合物と水酸化カリウム水溶液との混合液中に添加する方法である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
水酸化カリウム水溶液の濃度が1〜50質量%である請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
水酸化カリウムの量が、スズ原子1モルに対して、3モル倍量以上である請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
分液する温度が10〜80℃である請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
水酸化カリウム水溶液とベンゼン環を含む化合物の使用量比が、質量比で50:1〜1:50である請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ベンゼン環を含む化合物が沸点80〜170℃を有する請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ベンゼン環を含む化合物がトルエンである請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
更に、反応溶媒を用いる請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
反応溶媒がテトラヒドロフランである請求項10に記載の方法。
【請求項12】
反応溶媒が水である請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応混合物中のスズ化合物の簡便、かつ効率的な処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ニトロ化合物を原料にして、SnCl(塩化第一スズ)を用いて還元し、芳香族アミン化合物を製造する際に、触媒として用いたSn化合物の残渣の除去方法として、以下の方法が既に知られている。
【0003】
特許文献1及び非特許文献1には、反応後の反応混合物に炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて中和し、Sn由来の析出物をろ過する方法が記載されている。
特許文献2では、反応後に溶媒を留去し、残渣に水酸化ナトリウム水溶液を加え、pHを約12〜14にした後、酢酸エチルで生成物を抽出する方法が記載されている。
特許文献3では、反応液に水酸化ナトリウムを強塩基性になるまで加えた後、ジエチルエーテルで生成物を抽出する方法が記載されている。
特許文献4では、酢酸エチル溶液である反応液に、水酸化カリウム水溶液を加え、酢酸エチルで生成物を抽出した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製する方法が記載されている。
【0004】
また、アセタールとα−ブロモエステルとを反応させるレホマトスキー反応において、SnClを反応剤として用いる方法が知られている。
【0005】
反応後の精製方法として、特許文献5では、反応後の溶液から有機溶媒により目的物を抽出し、再結晶を行う方法が記載されているが、この方法では結晶中に大量のSnが残存することが、著者の検討により明らかとなった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2013/099804号パンフレット
【特許文献2】日本特表2012−526061
【特許文献3】日本特表2010−530405
【特許文献4】日本特表2008−526910
【特許文献5】国際公開WO2012/002513号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Org.Chem.2005年、Vol.70、63−78頁.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、SnCl(塩化第一スズ)を用いた反応において、反応液中のSn化合物を簡便、かつ、効率的に除去する新規な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、下記する本発明を完成するに至った。
1.下記の反応式(1)に従って、化合物Aを原料にして、塩化第一スズを用いて反応させ、化合物Bを製造する方法において、上記反応させた反応液を、ベンゼン環を含む化合物と水酸化カリウム水溶液との混合液に接触させて分液し、得られる有機層から化合物Bを得る精製工程を含むことを特徴とする化合物Bを製造する方法。
【化1】
(化合物Aは単一化合物でも、複数の化合物の混合物でもよい。)
2.前記反応液を、ベンゼン環を含む化合物と水酸化カリウム水溶液との混合液に接触させる方法が、反応液をベンゼン環を含む化合物と水酸化カリウム水溶液との混合液中に添加する方法である上記1に記載の方法。
3.上記反応式(1)で表される反応が、塩化第一スズを用いる還元反応、又はラクトン環生成反応である上記1に記載の方法。
4.化合物Aが式1で表される芳香族ジニトロ化合物であり、化合物Bが式2で表される芳香族ジアミン化合物である上記3に記載の方法。
【化2】
(式中、Arは芳香族基を表す。)
【0010】
5.式1で表される化合物が式3で表される芳香族ジニトロ化合物である上記4に記載の方法。
【化3】
6.化合物Aが式4で表されるアセタール化合物と式5で表されるエステル化合物の混合物であり、化合物Bが式6で表されるα−メチレン−γ−ブチロラクトン化合物である上記3に記載の方法。
【化4】
(式中、Xは有機基を表し、X及びXは、それぞれ独立に、炭素数1乃至4のアルキル基を表すか、XとXとが一緒になってCHCH又はCHCHCHを形成してもよい。Xは炭素数1乃至4のアルキル基を表す。YはCl又はBrである。)
【0011】
7.式4で表される化合物が式7で表されるアセタール化合物である上記6に記載の方法。
【化5】
(式中、X及びXは、それぞれ独立に、炭素数1乃至4のアルキル基を表すか、XとXとが一緒になってCHCH又はCHCHCHを形成してもよい。X及びXは、それぞれ独立に、エーテル結合又は単結合を介してベンゼン環に結合した炭素数1乃至10のアルキレンを表す。Z及びZは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基、ハロアルキル基、アルコキシ基及びハロアルコキシ基から選ばれる置換基を表し、m及びnは、それぞれ独立に、0乃至4の整数を表し、mとnの少なくとも一方が2以上である場合は、2個以上となるZ及び/又はZは、互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0012】
8.水酸化カリウム水溶液の濃度が1〜50質量%である上記1〜7のいずれかに記載の方法。
9.水酸化カリウムの量が、スズ原子1モルに対して、3モル倍量以上である上記1〜8のいずれかに記載の方法。
10.分液する温度が10〜80℃である上記1〜9のいずれかに記載の方法。
11.水酸化カリウム水溶液とベンゼン環を含む化合物の使用量比が、質量比で50:1〜1:50である上記1〜10のいずれかに記載の方法。
12.ベンゼン環を含む化合物が沸点80〜170℃を有する上記1〜11のいずれか一項に記載の方法。
13.ベンゼン環を含む化合物がトルエンである上記1〜12のいずれかに記載の方法
14.更に、反応溶媒を用いる上記1〜13のいずれかに記載の方法。
15.反応溶媒がテトラヒドロフランである上記14に記載の方法。
16.反応溶媒が水である上記14に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、SnCl(塩化第一スズ)を用いた反応において、反応液中のスズ化合物を簡便、かつ、効率的に除去する新規な方法が提供され、高純度な目的物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、下記の反応式(1)に従う。すなわち、化合物Aを原料にして、塩化第一スズを用いて反応させ、化合物Bを製造する方法において、上記反応させた反応液を、ベンゼン環を含む化合物と水酸化カリウム水溶液との混合液に接触させて分液する精製工程を含む、化合物Bを製造する方法である。
【化6】
【0015】
ここで、化合物Aは単一化合物でも、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0016】
化合物Aが芳香族ニトロ化合物、又は芳香族ジニトロ化合物である場合、下記の反応式(4)又は(2)に従って、式8で表わされる芳香族ニトロ化合物又は式1で表される芳香族ジニトロ化合物(Ar、Arは芳香族基である。)が、塩化第一スズの存在下で還元され、式9で表わされる芳香族アミン化合物又は式2で表される芳香族ジアミン化合物が生成する。
【化7】
【0017】
【化8】
上記ジニトロ化合物の2つのNO基は、オルト位、メタ位又はパラ位に存在していてもよいが、メタ位が好ましい。
【0018】
本発明において、式1又は式8で表される芳香族ニトロ化合物又は芳香族ジニトロ化合物の例としては、下記式1−1から1−53が挙げられる。
【化9】
【0019】
【化10】
【0020】
【化11】
【0021】
【化12】
【0022】
【化13】
【0023】
【化14】
【0024】
【化15】
【0025】
【化16】
【0026】
また、本発明において、式1又は式8で表される芳香族ニトロ化合物又は芳香族ジニトロ化合物の他の例としては、国際特許出願公開WO2007-071091のP81に記載のジニトロ化合物、国際特許出願公開WO2007-071091のP82からP88に記載の化合物(但し、ジアミノはジニトロに読み替えるものとする)、国際特許出願公開WO2007-071091のP88に記載のジニトロ化合物、国際特許出願公開WO2007-071091のP89からP92に記載の化合物(但し、ジアミノはジニトロに読み替えるものとする)、国際特許出願公開WO2007-071091のP93に記載のジニトロ化合物、国際特許出願公開WO2007-071091のP94からP99に記載の化合物(但し、ジアミノはジニトロに読み替えるものとする)、国際特許出願公開WO2007-071091のP101に記載のジニトロ化合物、国際特許出願公開WO2007-071091のP102からP104に記載の化合物(但し、アミノはニトロに読み替えるものとする)、国際特許出願公開WO2007-071091のP104に記載のジニトロ化合物、国際特許出願公開WO2007-071091のP107に記載のジニトロ化合物国際特許出願公開WO2007-071091のP109からP110に記載の化合物(但し、ジアミノはジニトロに読み替えるものとする)、国際特許出願公開WO2007-071091のP111に記載のジニトロ化合物、国際特許出願公開WO2007-071091のP112からP115に記載の化合物(但し、ジアミノはジニトロに読み替えるものとする)、国際特許出願公開WO2008-145225のP87に及びP88に記載のジニトロ化合物、国際特許出願公開WO2008-145225のP89からP93に記載の化合物(但し、ジアミノはジニトロに読み替えるものとする)、国際特許出願公開WO2008-145225のP93に記載のジニトロ化合物、国際特許出願公開WO2008-145225のP95からP106に記載の化合物(但し、ジアミノはジニトロに読み替えるものとする)、国際特許出願公開WO2008-145225のP106に記載のジニトロ化合物、国際特許出願公開WO2008-145225のP108からP135に記載の化合物(但し、ジアミノはジニトロに読み替えるものとする)、国際特許出願公開WO2008-145225のP137に記載のジニトロ化合物、国際特許出願公開WO2008-145225のP139からP141に記載の化合物(但し、アミノはニトロに読み替えるものとする)、国際特許出願公開WO2008-145225のP143に記載のジニトロ化合物、国際特許出願公開WO2008-145225のP145に記載のジニトロ化合物、国際特許出願公開WO2008-145225のP146からP153に記載の化合物(但し、アミノはニトロに読み替えるものとする)、及び国際特許出願公開WO2013099804公報のP51、P55、P58、P60、P63、P65、P68、P71及びP74記載のジニトロ化合物が挙げられる。
【0027】
なかでも、式1で表される化合物としては、好ましくは下記式3で表されるジニトロ化合物が挙げられる。
【化17】
【0028】
上記還元反応は、反応溶媒を用いても、用いなくても実施することが可能であるが、反応溶媒を用いて行うことが好ましい。反応溶媒としては、反応に不活性なものであれば特に限定はない。
例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素類;四塩化炭素、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系炭化水素類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;酢酸エチル、プロピオン酸エチル等のカルボン酸エステル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の含窒素非プロトン性極性溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄非プロトン性極性溶媒;ピリジン、ピコリン等のピリジン類等;水;等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いても、これらのうちの2種類以上を混合して用いてもよい。好ましくはテトラヒドロフラン及び1,4−ジオキサンから選ばれる溶媒と水との混合溶媒であり、更に好ましくはテトラヒドロフランと水との混合溶媒である。
水と有機溶媒の混合溶媒を使用する場合、有機溶媒と水との混合比率は、質量比で1:50〜50:1、好ましくは1:10〜10:1である。
【0029】
反応溶媒の使用量(反応濃度)は特に限定されないが、芳香族ニトロ化合物又は芳香族ジニトロ化合物1質量部に対し、1〜100質量倍の反応溶媒を用いることができる。好ましくは1.5〜50質量倍であり、更に好ましくは2.5〜10質量倍である。
反応温度は特に限定されないが、例えば、−90〜200℃、好ましくは0〜150℃で、更に好ましくは10〜120℃である。反応時間は、通常、0.05〜200時間、好ましくは0.5〜100時間である。
【0030】
上記の還元反応における塩化第一スズの使用量は特に制限はないが、式8で表される芳香族ニトロ化合物のニトロ基1モルに対して、好ましくは1〜10モル倍量であり、更に好ましくは2〜5倍モル量である。また、式1で表される芳香族ジニトロ化合物のように、2つのニトロ基がある場合には、芳香族ジニトロ化合物1モルに対して、好ましくは2〜20モル倍量であり、更に好ましくは4〜10モル倍量である。
【0031】
具体的な還元反応は、好ましくは下記のようにして実施される。すなわち、反応器中に、出発原料である芳香族ニトロ化合物、塩化第一スズ、及び反応溶媒、例えば、テトラヒドロフランを仕込み、好ましくは10〜120℃にて、好ましくは1〜20時間撹拌する。
出発原料の仕込み順は、反応中間体の副反応を避けるため、塩化第一スズ、及び反応溶媒の混合物中に、芳香族ニトロ化合物を分割添加、又は、反応溶媒に芳香族ニトロ化合物を溶かして添加する方法が好ましい。反応の終点は、薄層クロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーなどによっても確認できる。
【0032】
上記のようにして、式8で表される芳香族ニトロ化合物又は式1で表される芳香族ジニトロ化合物は還元され、式9で表される芳香族アミン化合物又は式2で表される芳香族ジアミン化合物が生成し、芳香族アミン、未反応の原料、及びSn化合物を含む反応液が得られる。
【0033】
次に、化合物Bが式6で表されるα−メチレン−γ−ブチロラクトン化合物である場合について述べる(ラクトン環生成反応)。
下記に示すように、化合物Aの式4で表されるアセタール又はケタール化合物と、式5で表されるハロゲン化アクリル酸エステルとの混合物は、塩化第一スズ存在下で反応させることにより、化合物Bの一種である式6で表されるα−メチレン−γ−ブチロラクトン化合物を生成する。
【0034】
【化18】
(式中、Xは有機基を表し、X及びXは、それぞれ独立に、炭素数1乃至4のアルキル基を表すか、XとXとが一緒になってCHCH又はCHCHCHを形成してもよい。Xは炭素数1乃至4のアルキル基を表す。YはCl又はBrである。)
【0035】
上記ラクトン環生成に用いられる式4で表される化合物としては、例えば、式7で表される化合物が挙げられる。
【化19】
(式中、X及びXは、それぞれ独立に、炭素数1乃至4のアルキル基を表すか、XとXとが一緒になってCHCH又はCHCHCHを形成してもよい。X及びXは、それぞれ独立に、エーテル結合又は単結合を介してベンゼン環に結合した炭素数1乃至10のアルキレンを表す。Z及びZは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基、ハロアルキル基、アルコキシ基及びハロアルコキシ基から選ばれる置換基を表し、m及びnは、それぞれ独立に、0乃至4の整数を表し、mとnの少なくとも一方が2以上である場合は、2個以上となるZ及び/又はZは、互いに同一でも異なっていてもよい。)



【0036】
上記ラクトン環生成反応で用いられる式5で表されるアクリル酸誘導体としては、2-(クロロメチル)アクリル酸、2-(クロロメチル)アクリル酸メチル、2-(クロロメチル)アクリル酸エチル、2-(ブロモメチル)アクリル酸、2-(ブロモメチル)アクリル酸メチル、2-(ブロモメチル)アクリル酸エチルなどを使用することができる。
【0037】
式5で表されるアクリル酸誘導体の使用量は特に限定されないが、式4で表される化合物のアセタール基1モルに対して、1.0〜1.5モル倍量使用することが好ましく、より好ましくは1.0〜1.2モル倍量である。
例えば、式4で表される化合物に2つのアセタール基がある場合には、式4で表されるアセタール化合物1モルに対して、2.0〜3.0モル倍量使用することが好ましく、より好ましくは2.0〜2.5モル倍量である。
上記ラクトン環生成反応に用いられるスズ系化合物としては、塩化第一スズが一般的であるが、他のスズ化合物として、錫粉末、無水塩化錫、塩化錫二水和物、塩化錫五水和物などの錫系化合物などが使用できる。
【0038】
反応を行う際には、酸を添加してもよい。酸としては、塩酸、硫酸、リン酸、塩化アンモニウムなどの無機酸又はその塩、Amberlyst 15などの酸性樹脂、p-トルエンスルホン酸、酢酸、蟻酸などの有機酸又はその塩等が使用できる。
【0039】
上記ラクトン環生成反応は、反応溶媒を用いても、用いなくても実施することが可能であるが、反応溶媒を用いて行うことが好ましい。反応溶媒としては、反応に不活性なものであれば特に限定はない。例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素類;四塩化炭素、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系炭化水素類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;酢酸エチル、プロピオン酸エチル等のカルボン酸エステル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の含窒素非プロトン性極性溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄非プロトン性極性溶媒;ピリジン、ピコリン等のピリジン類等、及び水が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いても、これらのうちの2種類以上を混合して用いても良い。好ましくはテトラヒドロフラン及び1,4−ジオキサンから選ばれる溶媒と水との混合溶媒であり、更に好ましくはテトラヒドロフランと水との混合溶媒である。水と有機溶媒の混合溶媒を使用する場合、有機溶媒と水との混合比率は、質量比で1:50〜50:1、好ましくは1:10〜10:1である。
【0040】
反応溶媒の使用量(反応濃度)は特に限定されないが、式4で表されるアセタール又はケタール化合物1質量部に対し、1〜100質量倍の反応溶媒を用いることができる。好ましくは1.5〜50質量倍であり、更に好ましくは2.5〜50質量倍である。
【0041】
反応温度は、特に限定されないが、通常、−90〜200℃、好ましくは20〜100℃である。反応時間は、通常、0.05〜200時間、好ましくは0.5〜60時間である。
【0042】
上記のようにして、式4で表されるアセタール又はケタール化合物と、式5で表されるハロゲン化アクリル酸エステルとの反応混合物から、式6で表されるα−メチレン−γ−ブチロラクトン化合物が生成し、α−メチレン−γ−ブチロラクトン化合物、未反応の原料、及びSn化合物を含む反応液が得られる。
本発明は、化合物Aを、塩化第一スズを用いて反応させて得られる反応液を、トルエンと水酸化カリウム水溶液の混合溶液に接触させて分液させ、反応液中に生成したスズ化合物を効率よく分離し、有機層から化合物Bを高純度、高収率で得る方法である。
【0043】
次に、得られた化合物Bを含む反応液を、ベンゼン環を含む化合物と水酸化カリウム水溶液の混合溶液に接触させて分液する精製工程に供する。ベンゼン環を含む化合物は、分液後に濃縮が容易であるため、沸点が好ましくは80〜170℃、より好ましくは80〜150℃を有する。かかるベンゼン環を含む化合物としては、ベンゼン、トルエン、m−キシレン、o−キシレン、p−キシレン、メシチレン、アニソール、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼンなどが挙げられるが、比較的毒性が低く、留去及び乾燥がしやすいことから、トルエンが特に好ましい。
【0044】
本発明において、化合物Bを含む反応液からSn化合物を分離し、目的物である化合物Bを得る精製工程は、ベンゼン環を含む化合物が例えばトルエンである場合には、以下の4方法が挙げられる。
反応液に水酸化カリウム水溶液を添加した後にトルエンを加えて分液し、有機層から目的物を得る方法(方法1)、反応液にトルエンを添加し、水酸化カリウム水溶液で洗浄し、分液して、有機層から目的物を得る方法(方法2)、トルエンと水酸化カリウム水溶液の入った容器に反応液を添加して分液し、有機層から目的物を得る方法(方法3)、及び、反応液にトルエンと水酸化カリウム水溶液を一度に加え、分液して有機層から目的物を回収する方法(方法4)である。
【0045】
本発明では、これらの方法のいずれも使用できるが、水酸化カリウム水溶液と混合する際に、温度を一定に制御でき、且つ、混合中に目的物やSn化合物の析出による撹拌不良が起こらず、且つ、混合後にSn化合物の析出がおこらず、2層の界面が判別しやすいという点で、上記の(方法3)が特に好ましい。
【0046】
分液で使用される水酸化カリウム水溶液の中の水酸化カリウムの量は、反応液中のSn化合物を、水溶性の高いヘキサヒドロスズ酸カリウムにするための量が好ましく、スズ原子1モルに対して3モル倍以上が好ましく、より好ましくは3〜10モル倍、特に好ましくは3〜6モル倍である。
【0047】
使用される水酸化カリウム水溶液の濃度には、特に制限はない。ただし、目的物が分解しなければ、濃度が濃いほど、少ない使用量の水酸化カリウム水溶液で、処理を行えるという点で好ましい。目的物が分解する場合には、水酸化カリウムの濃度を低くすることで、実施できる。そのため、水酸化カリウム水溶液の濃度は1〜50質量%であることが好ましく、10〜50質量%がより好ましい。
ベンゼン環を含む化合物と水酸化カリウム水溶液の使用量の比率は、分液時の界面が分離しやすく、且つ、容積効率をよくするという点から、質量比で好ましくは100:1〜1:100、より好ましくは75:1〜1:75、特に好ましくは50:1〜1:50である。
分液する温度は、目的物が分解せず、溶解する温度であれば特に制限はなく、10〜80℃が好ましく、温度制御が容易であるという点で、10〜60℃が好ましい。
分液に要する時間は、目的物が分解せず、界面が分離する時間であれば特に制限はないが、作業時間を短縮するという点から、0.01〜4時間、好ましくは0.02〜1時間である。
【0048】
上記の分液により得られるトルエン層には、塩化第一スズを用いて得られた目的物が含まれるが、この有機層はそのまま濃縮して、目的物を分離回収してもよい。また、当該有機層に、目的物を晶析するために貧溶媒を添加し、晶析により目的物を回収することもできる。この場合の貧溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の炭化水素、エタノール、メタノール、i−プロピルアルコール等のアルコールなどが好ましく使用される。また、目的物の純度をより高めるために、再結晶等の精製処理を行ってもよい。
一方、上記の分液による水層には、還元反応などに用いられた塩化第一スズから生じる溶性の高いヘキサヒドロスズ酸カリウム等が含有されるが、かかる水層はそのまま廃棄してもよいが、必要に応じ、これらのスズ化合物は回収することもできる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、これらの実施例によって本発明の解釈が限定されるものではない。
【0050】
実施例1
【化20】
THF(テトラヒドロフラン)(45.0g)、及び水(75.0g)の混合溶媒に、塩化第一スズ(43.2g、228mmol)を溶解し、(E)−4−(6―(メタクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ)桂皮酸(2−(2,4−ジニトロフェニル)エチル)エステル(15.0g、28.5mmol)をTHF(27.0g)に溶解した溶液を、18〜25℃で1時間かけて滴下した。その後、25時間撹拌して、(E)−4−(6―(メタクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ)桂皮酸(2−(2,4−ジアミノフェニル)エチル)エステルを含む反応混合物を得た。
次に、トルエン(75.0g)と40質量%水酸化カリウム水溶液(105g)の混合溶液に、上記反応混合物を滴下した。この際、滴下中に析出物はなく、良好に撹拌できた。その後、10分間撹拌し、水層を廃棄し、得られた有機層を6質量%水酸化カリウム水溶液(75g)に加え、10分撹拌後、水層を廃棄した。その後、水(75g)を加えて10分撹拌し、水層を廃棄する、という操作を5回繰り返した。次いで、有機層を濃縮し、全量が90.6gとなるようにトルエンを加え、50℃で析出物を溶解した。その後、0℃に冷却して、析出した固体をろ過した。得られた固体を乾燥(40℃)し、(E)−4−(6―(メタクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ)桂皮酸(2−(2,4−ジニトロフェニル)エチル)エステルを得た(薄茶色固体、収量:11.0g、収率:83%、Sn含量:70ppm)。
更に、得られた化合物(1.00g)をトルエン(7.00g)に50℃で溶解し、活性炭0.1g(特製白鷺)日本エンバイロケミカル社製)を加えて、30分間撹拌した。その後、活性炭をろ過で除き、ろ液を濃縮した結果、目的物中のSn含量は1ppm未満となった。
【0051】
得られた目的物のHPLC分析は、下記の分析装置及び分析条件で行った。
装置:LC−20Aシステム(島津製作所社製)
カラム:Inertsil ODS−3(4.6mmΦ×250mm、ジーエルサイエンス社製)
検出器:UV検出(波長254nm)
溶離液:アセトニトリル/0.1質量%酢酸水溶液(70/30、v/v)。
【0052】
比較例1
実施例1の(E)−4−(6―(メタクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ)桂皮酸(2−(2,4−ジニトロフェニル)エチル)エステルの量を1.0gとし、その他の原料を実施例1と同様の比率にして調製した、(E)−4−(6―(メタクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ)桂皮酸(2−(2,4−ジアミノフェニル)エチル)エステルを含む反応混合物に、酢酸エチル5gを加えた後、炭酸水素ナトリウム(2.4g)を加えた結果、白色の析出物が大量に生成し、撹拌不能となった。
【0053】
比較例2
比較例1と同様にして調製した(E)−4−(6―(メタクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ)桂皮酸(2−(2,4−ジアミノフェニル)エチル)エステルを含む反応混合物の3分の1の量である7.2gを採取し、酢酸エチル3.3gを加え、40質量%水酸化ナトリウム水溶液を滴下したところ、1.3gを滴下したところで、白色の析出物が大量に生成し、撹拌不能となった。更に、1.9gの40質量%水酸化ナトリウム水溶液を滴下したところ、析出物は溶解したが、その後3日静置したところ、析出物が発生した。
【0054】
比較例3
比較例1と同様にして調製した(E)−4−(6―(メタクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ)桂皮酸(2−(2,4−ジアミノフェニル)エチル)エステルを含む反応混合物に、酢酸エチル5.0gを加え、40質量%水酸化カリウム水溶液(7.0g)を滴下した。滴下中、白色の析出物が生成し、撹拌性が悪化したが、全量滴下終了後に、析出物は溶解した。その後、数日静置したところ、析出物が発生した。
【0055】
実施例2
【化21】
THF(700.0g)、4,4‘−ビス(4−(1、3−ジオキソラン−2−イル)ブトキシ)1,1’−ビフェニル(70.0g、158mmol)及びブロモメタクリル酸エチルエステル(67.18g、348mmol)の混合溶液に、塩化第一スズ二水和物(78.52g、348mmol)を溶解し、0.1N塩酸水溶液(249.9g)を、64℃で30分かけて滴下した。その後、24時間撹拌して、4,4‘−ビス(4−(3−メチレンテトラヒドロフラン−2(3H)−オン−5−イル)ブトキシ)ビフェニルを含む反応混合物を得た。
次に、トルエン(875.0g)とTHF(175.0g)混合溶液を反応混合物に加え、50℃にて攪拌した後、塩酸層を廃棄した。次いで、得られた有機層を12.9wt%水酸化カリウム水溶液(525.0g)へ、50℃で30分かけて滴下した。その後、さらに、トルエン(70.0g)を加え、50℃にて10分間撹拌した後、水層を廃棄した。得られた有機層へ、さらに5.2wt%水酸化カリウム水溶液(525.0g)を加え、50℃にて10分撹拌した後、水層を廃棄した。次いで、水(525.0g)を加えて、50℃にて10分撹拌し、水層を廃棄する、という操作を3回繰り返し、有機層を得た。
さらに、得られた有機層に活性炭(7g)(特製白鷺;日本エンバイロケミカル社製)を加えて、50℃にて30分間撹拌した後、活性炭をろ過で除いた。その後、ろ液を5℃まで冷却して結晶を析出させ、ろ過した。得られた結晶を乾燥(40℃)し、4,4‘−ビス(4−(3−メチレンテトラヒドロフラン−2(3H)−オン−5−イル)ブトキシ)ビフェニルを得た(白色固体、収量:64.59g、収率:83%)。Sn含量は1ppm未満であった。
【0056】
得られた目的物のHPLC分析は、下記の分析装置及び分析条件で行った。
装置:LC−2010システム(島津製作所社製)
カラム:Inertsil ODS−3(4.6mmΦ×250mm、ジーエルサイエンス社製)
検出器:UV検出(波長265nm)
溶離液:アセトニトリル/0.2質量%酢酸アンモニウム水溶液(70/30(0−5min)→85/15(10−30min))[v/v]
【0057】
実施例3
【化22】
THF(500.0g)、4,4‘−ビス(4,4−ジメトキシブトキシ)−3−フルオロ−1,1’−ビフェニル(100.0g、229mmol)、ブロモメタクリル酸エチルエステル(97.29g、504mmol)及びジブチルヒドロキシトルエン(0.56g、2.5mmol)の混合溶液に塩化第一スズ二水和物(124g、550mmol)を溶解し、0.1N塩酸水溶液(175.0g)を、64℃で30分かけて滴下した。その後、24時間撹拌して、4,4‘−ビス(3−(3−メチレンテトラヒドロフラン−2(3H)−オン−5−イル)プロパノキシ)−3−フルオロビフェニルを含む反応混合物を得た。
次に、トルエン(750.0g)を反応混合物に加え、50℃にて攪拌した後、塩酸層を廃棄した。次いで、得られた有機層を、12.9質量%水酸化カリウム水溶液(750.0g)に、50℃で30分かけて滴下した。その後、50℃にて10分間撹拌し、水層を廃棄した。さらに、有機層に5.2wt%水酸化カリウム水溶液(750.0g)を加え、50℃にて10分撹拌した後、水層を廃棄した。その後、水(750.0g)を加え、50℃にて10分撹拌し、水層を廃棄する、という操作を3回繰り返し、有機層を得た。
【0058】
さらに、得られた有機層に活性炭(10g)(特製白鷺;日本エンバイロケミカル社製)を加えて50℃にて30分間撹拌した後、活性炭をろ過で除いた。次いで、ろ液にヘプタン(100.0g)を、50℃で30分かけて滴下した。その後、5℃まで冷却して結晶を析出させ、ろ過した。得られた結晶を乾燥(40℃)し、4,4‘−ビス(3−(3−メチレンテトラヒドロフラン−2(3H)−オン−5−イル)プロパノキシ)−3−フルオロビフェニルを得た(白色固体、収量:87.36g、収率:79%)。Sn含量は1ppm未満であった。
得られた目的物のHPLC分析は、溶離液を、アセトニトリル/0.2質量%酢酸アンモニウム水溶液(70/30)[v/v]に換えた以外は、実施例2と同様の条件で行った。
【0059】
実施例4
【化23】
THF(600.0g)、4,4‘−ビス(4−(1、3−ジオキソラン−2−イル)ブトキシ)−3−フルオロ−1,1’−ビフェニル(120.0g、260mmol)及びブロモメタクリル酸エチルエステル(110.7g、573mmol)の混合溶液に、塩化第一スズ二水和物(129.35g、573mmol)を溶解し、0.1N塩酸水溶液(428.4g)を、64℃で30分かけて滴下した。その後、24時間撹拌して、4,4‘−ビス(4−(3−メチレンテトラヒドロフラン−2(3H)−オン−5−イル)ブトキシ)−3−フルオロ−ビフェニルを含む反応混合物を得た。
更に、50℃にて、10分攪拌した後、塩酸層を廃棄した。次いで、得られた有機層をトルエン(600.0g)と12.9質量%水酸化カリウム水溶液(900.0g)の混合溶液中に、50℃で30分かけて滴下した。その後、更に、50℃にて10分間撹拌し、水層を廃棄した。次いで、有機層に5.2質量%水酸化カリウム水溶液(900.0g)を加え、50℃にて10分撹拌した後、水層を廃棄し、有機層を得た。
【0060】
更に、得られた有機層に活性炭(12g)(特製白鷺;日本エンバイロケミカル社製)を加えて、50℃にて30分間撹拌した後、活性炭をろ過で除いた。次いで、ろ液にヘプタン(360.0g)を50℃で30分かけて滴下した。その後、5℃まで冷却して結晶を析出させ、ろ過した。得られた結晶を乾燥(40℃)し、4,4‘−ビス(4−(3−メチレンテトラヒドロフラン−2(3H)−オン−5−イル)ブトキシ)−3−フルオロ−ビフェニルを得た(白色固体、収量:106.11g、収率:80%)。Sn含量は1ppm未満であった。
得られた目的物のHPLC分析は、下記の分析装置及び分析条件で行った。
装置:LC−2010システム(島津製作所社製)
カラム:Inertsil ODS−3(4.6mmΦ×250mm、ジーエルサイエンス社製)
検出器:UV検出(波長265nm)
溶離液:アセトニトリル/0.2質量%酢酸アンモニウム水溶液(70/30(0−5min)→85/15(10−30min))[v/v](5min〜10minは一定な組成変化を示す。)
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の方法は、SnCl(塩化第一スズ)を用いた反応において、Sn化合物を簡便、かつ、効率的に除去が可能であり、目的とする化合物を高純度で得ることができ、工業的に有用である。
なお、2015年1月13日に出願された日本特許出願2015−004367号の明細書、特許請求の範囲、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。