【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)平成28年10月1日に発行された、平成28年度第50回日本芳香族工業会大会(函館大会)の技術・研究発表要旨
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
スチレンモノマーの製造プロセスから得られるスチレンタール、及びポリスチレンの製造プロセスから得られるスチレンタールの少なくとも一方のスチレンタールと、ナフサの熱分解プロセスから得られる熱分解重質油とを含み、
該スチレンタールの15℃の密度が1.0g/cm3以上1.1g/cm3以下、数平均分子量が70以上500以下、硫黄分が0.5質量%以下、50℃の動粘度が250mm2/s以上400mm2/s以下、及び引火点が45℃以上であり、
該熱分解重質油の15℃の密度が1.02g/cm3以上1.10g/cm3以下であり、硫黄分が0.8質量%以下であり、50℃の動粘度が15mm2/s以上45mm2/s以下であり、引火点が70℃以上であり、
該スチレンタールの組成物全量基準の含有量が1容量%以上30容量%以下であり、
引火点が70℃以上であり、15℃の密度が1.0g/cm3以上1.1g/cm3以下であり、硫黄分が0.5質量%以下であり、50℃の動粘度が35mm2/s以上65mm2/s以下である燃料油組成物。
前記スチレンモノマーの製造プロセスから得られるスチレンタールが、粗スチレンモノマーを蒸留し、塔頂からスチレンモノマーを留出するスチレン搭の塔底残渣である請求項1に記載の燃料油組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、スチレンタールは、もともと高粘度の留分である上、重合反応が進行することによる粘度変化、スラッジの発生等が生じやすいといった、性状安定性に欠ける性質を有するため、内燃装置を汚し、閉塞させることがあり、内燃用燃料油基材としての利用は難しい。また、ボイラー燃料等の外燃機用燃料として用いる場合も、引火点が低いために、第2石油類に属し、消防法で規定されるより厳しい制限が課されるので、取扱い容易性の点で優れているとはいえない。
【0005】
そこで、本発明は、スチレンタールの性状安定性、取扱い容易性を向上させて、スチレンタールを有効活用し得る燃料油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、下記の発明により解決できることを見出した。すなわち本発明は、下記の構成を有する燃料油組成物を提供するものである。
【0007】
[1]スチレンモノマーの製造プロセスから得られるスチレンタール、及びポリスチレンの製造プロセスから得られるスチレンタールの少なくとも一方のスチレンタールと、ナフサの熱分解プロセスから得られる重質油とを含み、該スチレンタールの組成物全量基準の含有量が0容量%超30容量%以下である燃料油組成物。
[2]前記スチレンモノマーの製造プロセスから得られるスチレンタールが、粗スチレンモノマーを蒸留し、塔頂からスチレンモノマーを留出するスチレン搭の塔底残渣である上記[1]に記載の燃料油組成物。
[3]前記ポリスチレンの製造プロセスから得られるスチレンタールが、脱揮発装置から排出されるスチレンオリゴマーである上記[1]又は[2]に記載の燃料油組成物。
[4]前記スチレンタールが、スチレンの二量体を含む上記[1]〜[3]のいずれか1に記載の燃料油組成物。
[5]前記スチレンタールの15℃の密度が、1.0g/cm
3以上1.1g/cm
3以下である上記[1]〜[4]のいずれか1に記載の燃料油組成物。
[6]前記スチレンタールの数平均分子量が、70以上500以下である上記[1]〜[5]のいずれか1に記載の燃料油組成物。
[7]前記スチレンタールに含まれる硫黄分が、0.5質量%以下である上記[1]〜[6]のいずれか1に記載の燃料油組成物。
[8]前記重質油が、エチレン製造装置から得られる残渣油である上記[1]〜[7]のいずれか1に記載の燃料油組成物。
[9]引火点が70℃以上である上記[1]〜[8]のいずれか1に記載の燃料油組成物。
[10]15℃の密度が、1.0g/cm
3以上1.1g/cm
3以下である上記[1]〜[9]のいずれか1に記載の燃料油組成物。
[11]硫黄分の組成物全量基準の含有量が、0.5質量%以下である上記[1]〜[10]のいずれか1に記載の燃料油組成物。
[12]50℃の動粘度が、35mm
2/s以上65mm
2/s以下である上記[1]〜[11]のいずれか1に記載の燃料油組成物。
[13]ボイラー用である上記[1]〜[12]のいずれか1に記載の燃料油組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スチレンタールを有効活用し得る、優れた性状安定性及び取扱い容易性を有する燃料油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明における実施形態(以後、単に本実施形態と称する場合がある。)に係る燃料油組成物は、スチレンモノマーの製造プロセスから得られるスチレンタール、及びポリスチレンの製造プロセスから得られるスチレンタールの少なくとも一方のスチレンタールと、ナフサの熱分解プロセスから得られる重質油とを含み、該スチレンタールの組成物全量基準の含有量が0容量%超25容量%以下であることを特徴とするものである。
【0011】
(スチレンタール)
本実施形態で用いられるスチレンタールは、スチレンモノマーの製造プロセスから得られるスチレンタール、及びポリスチレンの製造プロセスから得られるスチレンタールの少なくとも一方である。すなわち、スチレンモノマーの製造プロセスから得られるスチレンタールを単独で用いてもよいし、ポリスチレンの製造プロセスから得られるスチレンタールを単独で用いてもよいし、これらを併用することもできる。
【0012】
スチレンモノマーの製造プロセスから得られるスチレンタールとしては、スチレンモノマーの製造プロセスから得られるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、粗スチレンモノマーを蒸留し塔頂からスチレンモノマーを留出するスチレン塔の塔底残油が挙げられる。より具体的には、エチルベンゼンの脱水素反応によってスチレンモノマーを製造する製造プロセスで、エチルベンゼンの脱水素反応によって得られた粗スチレンモノマーを分留して得られる重質留分である。
この重質留分はスチレンの二量体を含む。
【0013】
ポリスチレンの製造プロセスから得られるスチレンタールは、ポリスチレンの製造プロセスから得られるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、ポリスチレン(PS)製造プロセス、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)製造プロセス等の製造プロセスから得られるスチレンオリゴマーが挙げられる。より具体的には、これらの製造プロセスにおける脱揮発装置から排出されるスチレンオリゴマーである。
【0014】
スチレンタールの引火点は、好ましくは65℃以下、より好ましくは60℃以下、更に好ましくは55℃以下である。また下限としては、45℃以上が好ましい。スチレンタールの引火点が上記範囲内であると、性状安定性及び取扱い容易性が得られやすくなる。本明細書において、引火点は、JIS K2265−4(引火点の求め方−第4部:クリーブランド開放法)に準拠して測定される値である。
【0015】
スチレンタールの留出温度としては、10容量%留出温度(T10)が好ましくは190℃以上230℃以下、50容量%留出温度(T50)が好ましくは210℃以上300℃以下、90容量%留出温度(T90)が好ましくは480℃以上540℃以下である。留出温度が上記範囲内であると、性状安定性及び取扱い容易性が得られやすくなり、またより高い発熱量を有する燃料油組成物が得られる。本明細書において、10容量%留出温度、50容量%留出温度、及び90容量%留出温度は、JIS K2254(石油製品−蒸留試験方法)に準拠する蒸留試験により測定される留出温度である。
【0016】
スチレンタールの50℃の動粘度は、250mm
2/s以上が好ましく、300mm
2/s以上がより好ましく、350mm
2/s以上が更に好ましい。また、上限としては、400mm
2/s以下が好ましく、390mm
2/s以下がより好ましく、380mm
2/s以下が更に好ましい。スチレンタールの50℃の動粘度が上記範囲内であると、取扱い容易性が向上する。本明細書において、50℃の動粘度は、JIS K2283(原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法)に準拠して測定される値である。
【0017】
スチレンタールの15℃の密度は、好ましくは1.00g/cm
3以上、より好ましくは1.02g/cm
3以上、更に好ましくは1.03g/cm
3以上である。また上限としては、1.10g/cm
3以下が好ましく、1.08g/cm
3以下がより好ましく、1.06g/cm
3以下が更に好ましい。スチレンタールの15℃の密度が上記範囲内であると、性状安定性及び取扱い容易性が得られやすくなり、またより高い発熱量を有する燃料油組成物が得られる。本明細書において、15℃の密度は、JIS K2249(原油及び石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表)に準拠して測定される値である。
【0018】
スチレンタールに含まれる硫黄分は、好ましくは0.5質量%以下であり、より好ましくは0.3質量%以下であり、更に好ましくは0.1質量%以下であり、より更に好ましくは0.05質量%である。また、下限としては通常0.001質量%以上である。スチレンタールに含まれる硫黄分が上記範囲内であると、後述する熱分解重質油と組み合わせても、燃料油組成物全体としての硫黄分を抑制しやすくなり、環境負荷の低減を図ることができる。本明細書において、硫黄分は、JIS K 2541(原油及び石油製品−硫黄分試験方法)に準拠して測定される値である。
【0019】
スチレンタールの数平均分子量は、好ましくは70以上、より好ましくは90以上、更に好ましくは100以上である。また上限としては、500以下が好ましく、350以下がより好ましく、300以下が更に好ましい。スチレンタールの数平均分子量が上記範囲内であると、性状安定性及び取扱い容易性が得られやすくなり、またより高い発熱量を有する燃料油組成物が得られる。本明細書において、数平均分子量は、後述する実施例において記載される方法により測定される値である。
【0020】
また、スチレンタールに含まれる水分は、好ましくは0.5容量%以下であり、0.3容量%以下がより好ましく、0.2容量%以下が更に好ましい。また、下限としては少ない方が好ましいが、通常0.01容量%以上である。本明細書において、水分の含有量は、JIS K2275−3に準拠して測定される値である。
【0021】
(ナフサの熱分解プロセスから得られる熱分解重質油)
本実施形態で用いられるナフサの熱分解プロセスから得られる熱分解重質油(以下、単に「熱分解重質油」と称することがある。)は、ナフサの熱分解によるエチレン分解炉プロセス等を採用するエチレン製造装置から得られる残渣油である。
熱分解重質油は、一般に、高密度で高発熱量であり、また粘度が低く引火点が高いという利点を有しているものの、硫黄含有量が多いという性質を有するものである。本実施形態においては、スチレンタールの粘度が高く引火点が低いという性質と、熱分解重質油の粘度が低く引火点が高いという性質との相乗効果により、高発熱量という両者の利点を維持しつつ、粘度と引火点とのバランスにより優れた取扱い容易性を得ることに加えて、スチレンタールが有していた重合反応が進行することによる粘度変化、スラッジの発生等が生じやすいといった性質を改善し、優れた性状安定性を得ることを可能とし、スチレンタールだけでなく、熱分解重質油の有効活用も可能とした。
【0022】
熱分解重質油の引火点は、好ましくは70℃以上、より好ましくは75℃以上、更に好ましくは80℃以上である。また上限としては、高いほど好ましいが、通常95℃以下である。熱分解重質油の引火点が上記範囲内であると、性状安定性及び取扱い容易性が得られやすくなる。
【0023】
熱分解重質油の50℃の動粘度は、15mm
2/s以上が好ましく、20mm
2/s以上がより好ましく、25mm
2/s以上が更に好ましい。また、上限としては、45mm
2/s以下が好ましく、40mm
2/s以下がより好ましく、35mm
2/s以下が更に好ましい。熱分解重質油の50℃の動粘度が上記範囲内であると、取扱い容易性が向上する。
【0024】
熱分解重質油の15℃の密度は、好ましくは1.02g/cm
3以上、より好ましくは1.03g/cm
3以上、更に好ましくは1.05g/cm
3以上である。また上限としては、1.10g/cm
3以下が好ましく、1.09g/cm
3以下がより好ましく、1.08g/cm
3以下が更に好ましい。熱分解重質油の15℃の密度が上記範囲内であると、性状安定性及び取扱い容易性が得られやすくなり、またより高い発熱量を有する燃料油組成物が得られる。
【0025】
熱分解重質油に含まれる硫黄分は、好ましくは0.8質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下であり、更に好ましくは0.3質量%以下である。また、下限としては、少ない方が好ましく、通常0.1質量%以上である。熱分解重質油に含まれる硫黄分が上記範囲内であると、燃料油組成物全体としての硫黄分を抑制しやすくなり、環境負荷の低減を図ることができる。
【0026】
熱分解重質油に含まれる芳香族系化合物及び脂環式化合物の合計含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上含む。熱分解重質油に含まれる芳香族系化合物及び脂環式化合物の合計含有量が上記範囲内であると、性状安定性及び取扱い容易性が得られやすくなり、またより高い発熱量を有する燃料油組成物が得られる。ここで、芳香族系化合物、脂環式化合物としては、例えば、スチレン、プロピルベンゼン、メチルエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、インデン、ジシクロペンタジエン及びナフタリン等が挙げられる。
【0027】
熱分解重質油に含まれる水分は、好ましくは0.5容量%以下であり、0.3容量%以下がより好ましく、0.2容量%以下が更に好ましい。また、下限としては少ない方が好ましく、通常0.01容量%以上である。
【0028】
また熱分解重質油の留出温度としては、10容量%留出温度(T10)が好ましくは190℃以上230℃以下、50容量%留出温度(T50)が好ましくは210℃以上300℃以下、90容量%留出温度(T90)が好ましくは480℃以上540℃以下である。留出温度が上記範囲内であると、性状安定性及び取扱い容易性が得られやすくなり、またより高い発熱量を有する燃料油組成物が得られる。
【0029】
(含有量)
本実施形態の燃料油組成物の、スチレンタールの組成物全量基準の含有量は、0容量%超30容量%以下であることを要する。スチレンタールの含有量が30容量%を超えると、引火点が70℃未満と低くなり、本実施形態の燃料油組成物が第2石油類に属することとなるため、取扱い容易性が著しく悪化する。
スチレンタールの組成物全量基準の含有量は、0.1容量%以上が好ましく、1容量%以上がより好ましく、3容量%以上が更に好ましく、5容量%以上が特に好ましい。また、上限としては、25容量%以下が好ましく、23容量%以下がより好ましく、20容量%以下が更に好ましく、17容量%以下が特に好ましい。スチレンタールの組成物全量基準の含有量が上記範囲内であると、性状安定性及び取扱い容易性が得られやすくなる。
【0030】
(燃料油組成物の性状)
本実施形態の燃料油組成物の引火点は、好ましくは70℃以上であり、より好ましくは71℃以上であり、更に好ましくは73℃以上である。また上限としては、高いほど好ましいが、通常85℃以下である。本実施形態の燃料油組成物は、スチレンタールよりも高い引火点を有し、好ましくは70℃以上の引火点を有することから、第3石油類に属することとなり、より優れた取扱い容易性が得られる。
【0031】
本実施形態の燃料油組成物の50℃の動粘度は、30mm
2/s以上が好ましく、35mm
2/s以上がより好ましく、40mm
2/s以上が更に好ましい。また、上限としては、70mm
2/s以下が好ましく、65mm
2/s以下がより好ましく、60mm
2/s以下が更に好ましい。燃料油組成物の50℃の動粘度が上記範囲内であると、取扱い容易性が向上する。
【0032】
本実施形態の燃料油組成物の15℃の密度は、好ましくは1.02g/cm
3以上、より好ましくは1.03g/cm
3以上、更に好ましくは1.05g/cm
3以上である。また上限としては、1.10g/cm
3以下が好ましく、1.09g/cm
3以下がより好ましく、1.08g/cm
3以下が更に好ましい。燃料油組成物の15℃の密度が上記範囲内であると、性状安定性及び取扱い容易性が得られやすくなる。
【0033】
本実施形態の燃料油組成物に含まれる硫黄分は、好ましくは0.5質量%以下であり、より好ましくは0.4質量%以下であり、更に好ましくは0.2質量%以下である。また、下限としては、少ない方が好ましく、通常0.1質量%以上である。燃料油組成物に含まれる硫黄分が上記範囲内であると、環境負荷の低減を図ることができる。
【0034】
本実施形態の燃料油組成物に含まれる水分は、好ましくは0.5容量%以下であり、0.3容量%以下がより好ましく、0.2容量%以下が更に好ましい。また、下限としては少ない方が好ましく、通常0.01容量%以上である。
【0035】
(用途)
本実施形態の燃料油組成物は、優れた性状安定性、取扱い容易性を有するものである。また、高密度で高発熱量を有するものである。そのため、内燃用燃料、ボイラー燃料及び温風暖房機等の外燃機用燃料として好適に用いられ、外燃機用としてより好適に用いられ、特にボイラー燃料として好適に用いられる。
【実施例】
【0036】
本発明を、実施例を参照してさらに詳細に説明する。本発明は、これらの例に限定されない。
【0037】
[評価方法]
(加熱試験による動粘度変化の評価)
実施例及び比較例で得られた油組成物について、50℃の温度条件下で15日放置する加熱試験を行った。加熱試験後の50℃の動粘度(V
1)、加熱試験前の50℃の動粘度(V
0)を用いて、以下の式(1)により動粘度変化率を算出し、動粘度の変化に基づく性状安定性の評価の指標とした。変化率が小さいほど、動粘度変化は少なく、性状安定性が高いことを示す。
動粘度変化率(%)=(V
1−V
0)×100/V
0 (1)
【0038】
(加熱試験によるスラッジ発生量の評価)
実施例及び比較例で得られた油組成物について、50℃の温度条件下で4日、15日放置する加熱試験、及び70℃の温度条件下で4日放置する加熱試験を行った。加熱試験後の試料について、予め質量を測定した3種類のふるい(30メッシュ(目開き:500μm)、60メッシュ(目開き:250μm)、及び100メッシュ(目開き:150μm))を、
図1に示されるように、筒状の容器に30メッシュ、60メッシュ、100メッシュの順に設置した。
30メッシュのふるいの上から、実施例及び比較例で得られた油組成物100gを、1〜10mL程度ずつ徐々に流し入れ、30メッシュのふるいに油組成物がなくなってから、再び1〜10mL程度ずつ徐々に流し入れて、5分かけて全ての油組成物をふるいに通油して、油組成物は300mLのビーカーに回収した。30mLのジクロロメタンを300mLのビーカーに入れて、30メッシュのふるいの上から流し入れた。更に、30mLのジクロロメタンを、30メッシュのふるいの上から流し入れ、各ふるいに付着した油組成物を洗い流す操作を3回行った。次いで、各ふるいを乾燥させて、各ふるいの質量を測定し、通油前後のふるいの質量変化を測定した。通油前のふるいの質量(M
0)、通油後のふるいの質量(M
1)を用いて、式(2)より質量変化率を算出し、スラッジ発生量に基づく性状安定性の評価の指標とした。質量変化が小さいほど、スラッジ発生量は少なく、性状安定性が高いことを示す。
質量変化率(%)=(M
1−M
0)×100/M
0 (2)
【0039】
実施例1、2、比較例1〜3
以下の性状を有するスチレンタールと、熱分解重質油とを、表1に示される割合で配合し、燃料油組成物を得た。得られた燃料油組成物について、引火点、50℃の動粘度、15℃の密度、硫黄分含有量、水分含有量を測定した。その結果を表1に示す。
また、上記の(加熱試験による動粘度変化の評価)、(加熱試験によるスラッジ発生量の評価)に基づき、性状安定性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0040】
(スチレンタール)
引火点:51.5℃
50℃の動粘度:374.4mm
2/s
15℃の密度:1.04g/cm
3
数平均分子量:257
硫黄分含有量:0.008質量%
水分含有量;0.1容量%
(熱分解重質油)
引火点:89.0℃
50℃の動粘度:33.8mm
2/s
15℃の密度:1.07g/cm
3
硫黄分含有量:0.183質量%
水分含有量;0.1容量%
10容量%留出温度(T10):205℃
50容量%留出温度(T50):238℃
90容量%留出温度(T90):524℃
【0041】
(数平均分子量の測定方法)
スチレンタールの数平均分子量は、下記の装置及び条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法にて測定した値である。
GPC測定装置
カラム:東ソー(株)製 TSKguardcolumn HXL−H、TSKgel GMH−XL:2本、G2000H−XL:1本
検出器:示差屈折率(RI)検出器、UV検出器
測定条件
溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
カラム温度:40℃
流速:1.0ミリリットル/分
試料濃度:0.1mg/ミリリットル
注入量:100マイクロリットル
検量線用標準試料:東ソー(株)製TSK標準ポリスチレン
解析ソフト:GPC−8020model2
【0042】
【表1】
【0043】
実施例1及び2より、本実施形態の燃料油組成物は、動粘度変化、スラッジ発生量の変化が小さく、優れた性状安定性を有していることが確認された。また、引火点は70℃以上であり、取扱い容易性にも優れていることが確認された。一方、スチレンタールの含有量が多い比較例2及び3の油組成物は、引火点が70℃未満と低く、取扱い容易性に劣るものであり、本実施形態の燃料油組成物により、スチレンタールを有効活用できることが確認された。また、比較例1の油組成物は熱分解重質油単体であり、単体では硫黄分が高く、動粘度変化も若干高めではあるが、スチレンタールと併用することで、熱分解重質油も燃料油組成物として有効活用ができるようになることが確認された。