(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6823287
(24)【登録日】2021年1月13日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】ガルバニック置換反応による錫を含む金属合金の低抵抗化あるいはポーラス化した構造体を形成する方法及び形成された構造体
(51)【国際特許分類】
B22F 7/08 20060101AFI20210121BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20210121BHJP
H05K 3/10 20060101ALI20210121BHJP
B22F 1/00 20060101ALI20210121BHJP
C22C 13/02 20060101ALI20210121BHJP
C23C 18/38 20060101ALI20210121BHJP
C23C 24/08 20060101ALI20210121BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20210121BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20210121BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20210121BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20210121BHJP
B23K 26/34 20140101ALI20210121BHJP
【FI】
B22F7/08 Z
B22F3/105
H05K3/10 C
B22F1/00 J
C22C13/02
C23C18/38
C23C24/08 B
H01B13/00 503Z
H01B5/14 Z
H05K1/09 A
B23K26/21 Z
B23K26/34
【請求項の数】18
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-21816(P2017-21816)
(22)【出願日】2017年2月9日
(65)【公開番号】特開2018-127678(P2018-127678A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2019年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】303066596
【氏名又は名称】村田 聡
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳久 英雄
(72)【発明者】
【氏名】白川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】村田 聡
【審査官】
池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−186881(JP,A)
【文献】
特開2016−089191(JP,A)
【文献】
特開2007−335120(JP,A)
【文献】
特開平06−017263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00−8/00
B33Y 10/00−99/00
C23C 24/00−30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
錫を含有する低融点金属粉末と高融点金属粉末との混合形成材料を用い、レーザ光照射により低融点金属を融解させ基材上に密着化した金属粉末固定化層を形成し、固定化された錫をガルバニック置換反応により金属交換し、錫を含む金属合金の低抵抗化あるいはポーラス化した構造体を形成する方法。
【請求項2】
前記レーザ光照射を、基材背面からのレーザ光照射により基材上の低融点金属粉末を融解させることを特徴とする請求項1に記載の構造体を形成する方法。
【請求項3】
前記基材が非耐熱性基材であることを特徴とする請求項1又は2に記載の構造体を形成する方法。
【請求項4】
前記基材がプラスチック、紙、木材、植物のいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の構造体を形成する方法。
【請求項5】
前記高融点金属が500〜1100℃に融点を有する導電性金属であり、前記低融点金属が100〜300℃に融点を有する導電性金属であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の構造体を形成する方法。
【請求項6】
前記高融点金属粉末として、銅、ロジウム、銀、パラジウム、白金、金のうち少なくとも1種の金属を含有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の構造体を形成する方法。
【請求項7】
前記固定化された錫をガルバニック置換反応により金属交換するのに、金属として、銅、銀、パラジウム、白金、金のうち少なくとも1種の金属を用いることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の構造体を形成する方法。
【請求項8】
前記構造体がパターン配線回路であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の構造体を形成する方法。
【請求項9】
前記構造体がリチウムイオン2次電池の負極電極であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の構造体を形成する方法。
【請求項10】
基材上に、錫を含有する低融点金属が融解固化したことで結合された高融点金属粉末を含む金属粉末固定化層を有し、金属粉末固定化層の融解した錫を含む低融点金属部分は錫の溶出によりポーラス化されており、かつ、金属粉末固定化層には錫よりもイオン化傾向の小さい金属の析出層が形成されて低抵抗化されていることを特徴とする構造体。
【請求項11】
前記基材が非耐熱性基材であることを特徴とする請求項10に記載の構造体。
【請求項12】
前記基材がプラスチック、紙、木材、植物のいずれかであることを特徴とする請求項10または11に記載の構造体。
【請求項13】
前記高融点金属が500〜1100℃に融点を有する導電性金属であり、前記低融点金属が100〜300℃に融点を有する導電性金属であることを特徴とする、請求項10〜12のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項14】
前記高融点金属粉末として、銅、ロジウム、銀、パラジウム、白金、金のうち少なくとも1種の金属を含有することを特徴とする、請求項10〜13のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項15】
前記錫よりもイオン化傾向の小さい金属として、銅、銀、パラジウム、白金、金のうち少なくとも1種の金属を用いることを特徴とする、請求項10〜14のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項16】
前記構造体がパターン配線回路であることを特徴とする、請求項10〜15のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項17】
前記構造体がリチウムイオン2次電池の負極電極であることを特徴とする、請求項10〜15のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項18】
前記金属粉末固定化層は複数の金属粉末固定化層を積層した立体構造体であって、前記立体構造体表面の融解した錫を含む低融点金属部分は錫の溶出によりポーラス化されており、かつ、前記立体構造体には錫よりもイオン化傾向の小さい金属の析出層が形成されて低抵抗化されていることを特徴とする、請求項10〜15のいずれかに記載の構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガルバニック置換反応による錫を含む金属合金の低抵抗化あるいはポーラス化した構造体を形成する方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、錫を含有する低融点金属粉末と高融点金属粉末との混合形成材料を用い、レーザ光照射により低融点金属を融解させ金属粉末固定化層を形成し、ガルバニック置換反応により錫を含む金属合金の低抵抗化あるいはポーラス化した構造体を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製品を造形するコンテナに粉末をリコータにより均一に敷き、次にCADデータに基づきガルバノメーターミラーを通してレーザを照射し、照射部分のみを固化し、この操作を繰り返して積層し三次元製品を作製するレーザ積層造形法が開発されている。これによれば、切削法などの他の加工法では不可能な三次元複雑形状品を迅速、低コストで作製できるとされている。
【0003】
レーザ積層造形法では、樹脂粉末、金属粉末、セラミックス粉末、及び複合材料粉末を用い選択的に焼結し造形するものである。なかでも金属パターン形成法として、金属微粒子と有機溶媒の混合物からなるペースト材料を用い、絶縁性樹脂の表面に金属微粒子層を形成し、金属微粒子層の表面の所望領域にレーザを照射して、該所望領域にある金属微粒子層を溶融し、レーザの照射により溶融しなかった金属微粒子層を除去することからなる絶縁性樹脂表面に配線を選択的に形成する方法(特許文献1)が提案されている。
【0004】
この方法では、従来の配線金属パターンの形成法であるリフト・オフ法による配線金属層の不溶部分の無駄が防止され配線形成が簡略化できるが、ペースト材料を用いるので、金属微粒子層の形成に塗布、乾燥工程が必要であり、かつ絶縁性樹脂表面上の不用な金属微粒子層の除去工程も必要であり、工程数が多く、かつ作製時間、コストがかかるという問題がある。
【0005】
また、レーザ光線照射による電気回路形成方法として、耐熱絶縁基板上に散布堆積した金属粉末をレーザ光線の照射により溶融付着させて、主に強電分野において利用する大電流を扱う電気回路を焼成生成して形成する方法(特許文献2)が提案されている。しかし、高出力レーザにより直接金属溶融を促して電気回路を作製する方法であり、高出力レーザが必要となり、作製時間、費用がかかるという問題がある。
【0006】
導電パターンの形成方法として、下地層を有する基板上に、20℃における比抵抗が20μΩ・cm以下である金属または複合金属からなり、かつ平均粒子サイズが1〜100nmであるコロイド粒子を含有する微粒子層を有する導電パターン描画用基板にレーザ光を照射する工程からなる形成方法(特許文献3)が提案されている。この方法では、コロイド粒子を準備しこれを含有する微粒子層を基板に形成するのに、作製に時間を要するなどの問題がある。
【0007】
一方、複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーを含む層を、基板表面が電子供与性を備える基板表面に形成した後、当該層を相分離させる工程と、前記層のうち、前記ブロックコポリマーを構成する複数種類のポリマーのうちの少なくとも一種類のポリマーからなる相を選択的に除去し、前記基板表面の一部を露出させる工程と、露出された基板表面に金属イオンを接触させ、基板表面と金属イオンとの間に起こる電気化学反応により、当該基板表面に金属を析出させる工程とを有する金属ナノ構造体を表面に備える基板の製造方法(特許文献4)が提案されている。
【0008】
しかし、ブロックコポリマーの相分離とガルバニック置換反応を利用して、基板表面に、形状・サイズがより自在にデザインされた金属ナノ構造体を備える基板を製造し得るとするものの、型となる複数種類のポリマーのうちの少なくとも一種類のポリマーからなる相を選択的に除去し、基板表面の一部を露出させる工程などを要し、作製時間、費用がかかるという問題がある。
【0009】
以上のとおり、従来のレーザを用いた金属パターン形成法では、金属微粒子と有機溶媒の混合物からなるペースト材料を原料として用いる必要があったり、コロイド粒子を用いたり、又金属粉をレーザ融解し、細線を形成するためには、レーザ焦点距離を一定にして走査する都合上、表面が平らで均質な金属粉層を作製する必要があった。さらに、表面接着性をよくするために、底部まで十分に融解できるよう金属粉層を薄くする、又高出力レーザが必要であったり、作製時間、コストがかかるという問題があった。一方、ガルバニック置換反応を利用して基板表面に、金属ナノ構造体を備える基板を製造するのには、選択的に除去、基板表面の一部を露出させる工程などを要し、作製時間、費用がかかるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−321444号公報
【特許文献2】特開平5−335725号公報
【特許文献3】特開2004−143571号公報
【特許文献4】特開2012−51060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであって、原料調整工程、作製工程など多工程を必要とすることなく、1造形物当たり低エネルギーコストで、簡単な方法であるレーザ光照射による金属粉末を用いて金属粉末固定化層を形成し、その後ガルバニック置換反応を用いることで錫を含む金属合金の低抵抗化あるいはポーラス化した構造体を形成する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、レーザ光照射により金属粉末を焼結するに際し、錫を含有する低融点金属粉末と高融点金属粉末を含む金属粉末固定化層を用い、ガルバニック置換反応により固定化された錫と金属を交換し、錫を含む金属合金の低抵抗化あるいはポーラス化した構造体を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明はこれらの知見に基づいて完成したものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0014】
[1]錫を含有する低融点金属粉末と高融点金属粉末との混合形成材料を用い、レーザ光照射により低融点金属を融解させ基材上に密着化した金属粉末固定化層を形成し、固定化された錫をガルバニック置換反応により金属交換し、錫を含む金属合金の低抵抗化あるいはポーラス化した構造体を形成する方法。
【0015】
[2]前記レーザ光照射を、基材背面からのレーザ光照射により基材上の低融点金属粉末を融解させることを特徴とする項1に記載の構造体を形成する方法。
【0016】
[3]前記基材が非耐熱性基材であることを特徴とする項1又は2に記載の構造体を形成する方法。
【0017】
[4]前記基材がプラスチック、紙、木材、植物のいずれかであることを特徴とする項1〜3のいずれか1項に記載の構造体を形成する方法。
【0018】
[5]前記高融点金属が500〜1100℃に融点を有する導電性金属であり、前記低融点金属が100〜300℃に融点を有する導電性金属であることを特徴とする、項1〜4のいずれか1項に記載の構造体を形成する方法。
【0019】
[6]前記高融点金属粉末として、銅、ロジウム、銀、パラジウム、白金、金のうち少なくとも1種の金属を含有することを特徴とする、項1〜5のいずれか1項に記載の構造体を形成する方法。
【0020】
[7]前記固定化された錫をガルバニック置換反応により金属交換するのに、金属として、銅、銀、パラジウム、白金、金のうち少なくとも1種の金属を用いることを特徴とする、項1〜6のいずれか1項に記載の構造体を形成する方法。
【0021】
[8]前記構造体がパターン配線回路であることを特徴とする、項1〜7のいずれか1項に記載の構造体を形成する方法。
【0022】
[9]前記体構造体がリチウムイオン2次電池の負極電極であることを特徴とする、項1〜8のいずれか1項に記載の構造体を形成する方法。
【0023】
[10]項1〜9のいずれか1項に記載の形成する方法により形成された構造体。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、錫を含有する低融点金属粉末と高融点金属粉末との混合形成材料を用い、レーザ光照射により低融点金属粉末を融解させ金属粉末固定化層を形成するレーザ焼結法、金属粉末固定化層中の錫に対してガルバニック置換反応を用いるので、耐熱性が低い基材や凹凸がある基材であっても、低出力レーザ、1造形物当たり低エネルギーコストで効率よく形成できる。また、当該形成する方法により形成された構造体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明のガルバニック置換反応による高密度化、低抵抗化メカニズム図。
【
図2】本発明のガルバニック置換反応によるポーラス化メカニズム図。
【
図3】本発明の金属粉末固定化層の断面SEM写真。
【
図4】実施例のガルバニック置換反応によるポーラス化した構造体の断面SEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、錫を含有する低融点金属粉末と高融点金属粉末との混合形成材料を用い、レーザ光照射により、基材上で低融点金属粉末を融解させ高融点金属粉末とを基材上に固定化した金属粉末固定化層を用い、ガルバニック置換反応により固定化された錫と金属を交換し、より導電性の高い金属を高密度化することで低抵抗化あるいは残存するポーラス化した錫含有構造体を形成する方法、及び当該形成する方法により形成された構造体に関する。
【0027】
本発明において、形成材料とは、構造物を形成するレーザ焼結法に用いる原料材料である。基本的には錫を含有する低融点金属粉末と高融点金属粉末との混合粉を含有する形成材料であり、それぞれ少なくとも1種の金属粉末を用いることができ、それぞれ複数種の金属粉末を混合して用いてもよい。高融点金属粉末としては、例えば、アルミニウム粉末と、銅粉末を混合してもよく、低融点金属粉末としては錫を含有する各種スズはんだを複数種混合して用いてもよい。
【0028】
高融点金属粉末と錫を含有する低融点金属粉末の混合比は、錫を含有する低融点金属粉末が融解し高融点金属粉末とが基材上に固定化した金属粉末固定化層を形成できる範囲ならば、いかなる混合比でも構わない。高融点金属粉末1に対して低融点金属粉末0.1〜10が例示できる。好ましくは、高融点金属粉末1に対して低融点金属粉末0.5〜10の範囲がより好ましい。錫を含有する低融点金属粉末としては、錫を含有している低融点金属粉末であればよく、錫、錫合金単独、又は錫合金、錫と他の低融点金属粉との混合物でもよい。
【0029】
本発明において、混合形成材料としての高融点金属粉末、低融点金属粉末は配線回路を形成するためには導電性であることが好ましい。高融点金属としては、500〜1100℃に融点を有する導電性金属、低融点金属としては、100〜300℃に融点を有する導電性金属からなるのが好ましい。
【0030】
高融点金属としては、銅、ロジウム、銀、パラジウム、白金、金、及びこれらの合金が例示でき、なかでも銅、銅合金、銀、銀合金、金、金合金を用いるのがより好ましい。錫以外の低融点金属としては、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、インジウム、ガリウム、ビスマス、鉛など、及びこれらを主にした合金が例示できる。錫としてはスズ基の合金であるはんだを用いるのがより好ましく、スズ-銀-銅系、スズ-銀-ビスマス-インジウム系、スズ-銀系、スズ-亜鉛系、スズ-亜鉛-ビスマス系、スズ-ビスマス系、スズ-インジウム系の鉛フリーのはんだ合金を例示できる。
【0031】
混合形成材料としての高融点金属粉末、低融点金属粉末の粒子径は、1nm〜100μmの範囲から選ばれるのが低融点金属粉末を融解させ高融点金属粉末とが固定化し、構造物を形成するのに好ましい。好ましくは、100nm〜50μm、より好ましくは500nm〜10μmである。なお、本明細書における平均粒径とは、50%粒径(D50)を指し、レーザ回折、散乱式の粒度分布測定装置により測定することができる。例えば、レーザドップラー法を応用した粒度分布測定装置(日機装(株)製、マイクロトラック(登録商標)粒度分布測定装置)等により測定することができる。
【0032】
混合形成材料としての高融点金属粉末、低融点金属粉末の形状は、球形、楕円形、フレーク状などいかなる形状でもよい。また、金属粉末の製法上からしてガスアトマイズ法、水アトマイズ法、遠心力アトマイズ法、メルトスピニング法などの溶解プロセス、スタンプミル法、ボールミル法、メカニカルアロイング法などの機械的プロセス、酸化物還元法、塩化物還元法、湿式冶金法、電解法などの化学的プロセスなどいずれの製法によるものでもよい。
【0033】
高融点金属粉末、錫を含有する低融点金属粉末を混合して混合形成材料とする。混合には、従来から用いられている混合装置を用い十分混合する。例えば、市販の高融点金属粉末、低融点金属粉末を用いV型混合器、Wコーンミキサーなどの容器回転型混合器、ジュリアミキサー、フラッシュブレンダーなどを用いて均一に混合すればよい。形成材料としての高融点金属粉末、低融点金属粉末のみを混合してもよいので、容易に混合することができる。
【0034】
金属粉末に対して必要に応じて防錆剤、フラックスなどの添加剤を添加してもよい。銅粉末と低融点金属粉末との混合形成材料として用いる際には、銅粉末表面の酸化を抑えて低融点金属粉末と混合するのが更によい。そのために、銅粉末表面にあらかじめ耐酸化性の保護膜を設けておくか、混合粉の形成時に、焼成時に酸化膜を除去できるフラックスを添加しておくことがより好ましい。銅粉末表面にあらかじめ設ける耐酸化性の保護膜とは、アルカンチオールに代表される、金属吸着官能基として、カルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基、チオール基、ジスルフィド基、リン酸基等を少なくとも1つ有する有機基を有する保護膜が例示できる。また、銅金属の酸化膜除去に使用できるはんだ付け用フラックスを用いることができる。
【0035】
本発明において、レーザ焼結法とは、基材上の混合形成材料としての金属粉末に対して、レーザ光を照射して、基材上の低融点金属粉末を融解し高融点金属粉末とを基材上に密着化した金属粉末固定化層を形成する方法をいう。具体的には、基材に混合形成材料をリコータにより敷き、次にCADデータに基づきレーザ光を照射し、照射部分のみの低融点金属粉末を融解し、高融点金属粉末とを固定化し、敷きつめられた混合形成材料層の照射部分のみを基材に固着させ、構造物を得るレーザ成形法である。最後に、レーザ光照射の照射部分以外の混合形成材料を除去し構造物とする。レーザ光の照射は、基材背面から基材を通して照射するのが好ましい。
【0036】
本レーザ焼結法によれば、形成したい二次元、三次元データ(二次元、三次元CADデータ)、X線CTの輪切りデータ等に基づき必要な部分のみの混合形成材料を融解させ、固定化させて構造物とするので、工程が簡略化でき、かつ除去された混合形成材料は、再度製品作製に使用することができるので原料金属粉末の無駄が回避できる。
【0037】
レーザ焼結法に用いるレーザ焼結装置としては、造形部、レーザ光発光装置、ミラー、レーザ制御部を備えた装置であればよい。基材上に堆積させた混合形成材料層に対して、レーザ光を照射して、低融点金属粉末を融解し高融点金属粉末とが固定化し、構造物を形成できる装置であれば使用できる。具体的には、用いる基材表面に混合形成材料を略均一に敷き、次にCADデータに基づきレーザ発光装置、ミラーを介してレーザ光を混合形成材料の堆積した基材に照射し、照射部分のみの低融点金属粉末を融解し高融点金属粉末とを固定化し、敷きつめられた混合形成材料層を照射部分のみ基材上で固化させ、構造物を得て、更に、この操作後レーザ光照射の照射部分以外の混合形成材料を除去できる装置であるならばいかなるものでもよい。
【0038】
レーザ光照射は、通常の空気中、不活性ガス雰囲気、真空中のいずれの雰囲気で照射されるものでも構わない。好ましくは、酸化防止のため窒素、アルゴン、又はこれらの混合物からなる不活性ガス雰囲気中で行うのがよい。用いるレーザ光は、波長0.75−1.4μm 、光エネルギー0.9−1.7eVの近赤外レーザ、Arレーザなどの気体レーザ、ルビーレーザ、Nd:YAGレーザなどの固体レーザ、半導体レーザ、色素レーザなど、いずれのレーザ発振器によるものでも良い。また、基材の劣化防止の観点から吸収帯から外れている波長が望ましい。なかでも、波長0.70−1.1μmの近赤外領域の波長の光は透過性が高く使用することができる。
【0039】
レーザ光の出力は、高融点金属粉末と錫を含有する低融点金属粉末との混合形成材料の低融点金属粉末を融解でき、基材上に密着できる範囲内の出力でよい。好ましくは、レーザ光の出力は、50W以下の低出力で操作される。より好ましくは、10W以下の出力である。低出力で連続モードまたはパルスモードで作動することができる。レーザ光照射の走査ピッチ、走査速度、積層ピッチなど操作条件は形成しようとする構造物に応じて決めることができる。レーザ光照射のエネルギー密度としては、20J/cm
2以内で選択することができる。
【0040】
本発明ではガルバニック置換反応を用い金属析出による表面高密度化、低抵抗化、あるいは金属のポーラス化を図ることができる。ガルバニック置換反応とは、イオン化傾向の大きい金属をイオン化傾向の小さな金属イオンを含む水溶液に浸漬したとき、イオン化傾向の大きい金属がイオン化し、イオン化傾向の小さい金属が析出する反応をいう。本発明では、基材上に固定化した金属粉末固定化層を用い、固定化された錫を銅、銀などの錫よりイオン化傾向の小さな金属イオンを含む水溶液に浸漬処理して金属交換し、より導電性の高い金属を高密度化することで低抵抗化あるいは残存するポーラス化した錫の構造体を形成するものである。
【0041】
錫よりイオン化傾向の小さな金属としては、銅、ロジウム、銀、パラジウム、白金、金などがあり、これらのいずれの金属イオンを含む溶液を用いることができる。好ましくは、銅、銀、パラジウム、金の金属イオンを用いることができる。金属イオンを含む溶液としては、塩酸塩溶液、硝酸塩溶液、硫酸塩溶液を用いるのが好ましい。
【0042】
ガルバニック置換反応を用いるには、基材上の金属粉末固定化層の金属析出による低抵抗化、金属のポーラス化に応じて、固定化層の錫の含有量、溶液濃度、反応時間、反応温度などを調整することで、それぞれの目的とする金属析出による低抵抗化、金属のポーラス化などが得られる。例えば、基材上の錫リッチ含有金属粉末固定化層を金属イオン含有溶液に短時間浸漬すれば、イオン化しやすい錫の部分の侵食が優先されポーラス化が生じ、基材上の錫少量含有金属粉末固定化層を金属イオン含有溶液に長時間浸漬すれば、表面錫金属の溶解だけでなく置換反応が主になり、表面高密度化、低抵抗化が生じる。置換反応条件を変えることにより、基材上の金属粉末固定化層の状態を変えることができる。金属粉末固定化層は、導電性のよい高融点金属粉末と導電性の良い低融点金属粉末から形成されているのが、構造物として強度がありガルバニック置換反応による低抵抗化がより進行させることができる。
【0043】
本発明のレーザ光により形成した基材上の金属粉末固定化層のガルバニック置換反応メカニズムを
図1に示す。高融点金属粉末として銅粉末を用い低融点金属粉末として錫を用いた混合金属粉末を基材上に堆積し、レーザ光照射により低融点金属粉末を融解させ基材上に密着形成した金属粉末固定化層を形成する。次いで、錫よりもイオン化傾向の小さな銅イオンを有する水溶液に浸漬処理し、錫イオンと銅イオンとの間で起こる電気化学的反応により、錫イオンが溶出し、高融点金属粉としての銅に溶液中の銅イオンが置換し、銅の高密度化、低抵抗化が起こる。メカニズム図によれば、錫/銅からなる金属粉末固定化層のイオン化した錫イオンが銅イオンと置き換わり、銅のみになっていることが理解できる。
【0044】
本発明のレーザ光により形成した基材上の金属粉末固定化層の別のガルバニック置換反応メカニズムを
図2に示す。高融点金属粉末として銀粉末を用い、低融点金属粉末として錫を多く用いた混合金属粉末を基材上に堆積し、レーザ光照射により低融点金属粉末を融解させ基材上に錫リッチ金属粉末固定化層を形成した。次いで、錫よりもイオン化傾向の小さな銅イオンを有する水溶液に浸漬処理し、錫イオンと銅イオンとの間で起こる電気化学的反応により、錫イオンが溶出し、高融点金属粉としての銀に一部溶液中の銅イオンが析出し、錫のポーラス化が起こる。メカニズム図によれば、錫/銀からなる金属粉末固定化層のイオン化した錫が一部銅イオンと置き換わり、錫のポーラス化が生じていることが理解できる。イオン化する錫部位は結晶面の違いあるいは欠陥部とそうでないところで、イオン化する速度が異なり、それに応じて局所的にイオン化が速く優先化されることでポーラス化が生じる。
【0045】
本発明の背面レーザ光照射により作製された金属粉末固定化層の断面SEM顕微鏡写真を
図3に示す。高融点金属粉末としての銀粉末と低融点金属粉末としての錫粉末を均一に混合した形成材料をPET基材上に厚さ約100μm〜50mmに一面に堆積形成し、次に基材の背面から低出力レーザ光を照射する。本発明においては、基材上の金属混合粉が背面レーザ光照射により、金属混合粉中の低融点金属粉末が融解し、高融点金属粉末とで金属粉末固定化層が形成される。好ましくは、基材背面より低出力レーザ光照射により金属の拡散条件に応じて低融点金属粉末が融解し、金属粉末固定化層が基材上に一体化されて固定化される。
【0046】
本発明の背面レーザ光照射により作製された金属粉末固定化層をガルバニック置換反応させた断面SEM顕微鏡写真を
図4に示す。高融点金属粉末としての銀粉末と低融点金属粉末としての錫粉末を均一に混合した形成材料をPET基材に一面に堆積形成し、次に基材の背面から低出力レーザ光を照射する。基材上の金属混合粉がレーザ光照射により、金属混合粉中の低融点金属粉末が融解し、高融点金属粉末とで金属粉末固定化層が形成される。形成された金属粉末固定化層のガルバニック置換反応として、錫よりもイオン化傾向の小さな銅イオン含有水溶液に浸漬処理し、錫がポーラス化し、銅イオンが析出していることが理解できる。
【0047】
基材としては、絶縁性基材、導電性基材のいずれでもよく、用途に応じて用いることができる。低出力レーザ照射によって、分解、損傷などが生じない、有機物からなる基材、例えば、プラスチックス、薄紙、厚紙などの紙質材、葉っぱ、植物、箔、薄板など木質材などを用いることができる。本発明において、非耐熱性基材とは、上記した耐熱性が低い、一般的に非耐熱性基材と称される基材をいい、これには耐熱性の良い金属、ガラス、セラミックスなどは含まない。
【0048】
プラスチックス基材としては、アクリル酸エステル、メチルメタアクリレート(PMMA)樹脂等のアクリル系樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂等各種汎用プラスチック、機能性プラスチックが例示できる。また、フレキシブル基材として、ポリイミド基材、ポリエステル基材、ポリオレフィン基材などを用いることもできる。
【0049】
非耐熱性基材のなかでもプラスチックフィルム、フレキシブルプラスチック基材などを基材として用いるのが好ましい。又有機物からなる基材では、基材が一部状態変化を起こすことで密着性が良くなる。プラスチック基材の場合でレーザ背面照射を用いると、プラスチック基材上の金属粉を融解できるだけでなく、基材表面の一部が融解することで金属粉との密着性がより増すことにもなる。又基材の表面に凹凸があってもよく、これらの基材の表面状態に関係なく金属粉末を融解固着させ、構造物を形成することができる。基材の厚みは、低出力レーザ照射によって基材上の低融点金属粉末を融解することができる厚みならば使用できる。例えば、1μm〜50mm程度の厚みである。
【0050】
本発明は、レーザ光照射による金属粉末を用いた金属粉末固定化層をガルバニック置換反応により形成するので、複雑な形状の構造体を寸法精度よく製作することができる。また、従来の方法によっては作製できなかった形状の構造体をも工程数少なく、短時間で、CADデータを基に作製できる。更に、めっき法、スパッタリング、真空蒸着などにより全面に金属層形成し、フォトリソグラフィーにより所望のパターンにエッチングする方法、マスクを用いてパターンを形成する方法、はんだや導電ペーストを用いて基板上に描画する方法、転写、圧着の方法とは異なり、作成が簡便で、小ロット生産や従来の方法では作成できないような複雑、微細な形状の構造体を製造するのに有益である。
【0051】
本発明は、構造体を形成する方法により形成された構造体にも関する。構造体としては、金属粉末を用いた金属粉末固定化層の形成を繰り返して形成された立体構造体であっても良い。又構造体は、基材とその上に形成された構造物を備えたものをいう。又構造体としては、微細なパターン配線回路や、電極、特にリチウムイオン二次電池の負極電極であることが有用である。錫は現行のカーボン電極より高容量化できる材料として注目されているが、充電・放電を繰り返すことで大きな体積変化を生じることから耐久性について課題が残されていた。その中で錫をポーラス化することにより体積変化による構造の劣化を吸収することができる。本発明によれば、錫のポーラス化した構造物を簡便に提供できる。
【0052】
従来は、金属粉末をレーザ融解し、微細線を形成するためには、レーザ焦点距離を一定にして走査する都合上、表面が平らで均質な金属粉層を作製する必要があった。また、表面接着性をよくするために、底部まで十分に融解できるよう金属粉末層を薄くする必要があった。本発明では、基材背面からレーザ光照射を行う場合には、形成材料の均しは不要で、基材の平滑性により均一な融解が可能で、低出力レーザにより融解が可能となる。また底部から融解が生じるため、基材との接着性が良好となる。
【0053】
本発明は、従来のレーザ光照射法で用いている装置をそのままで、基材上の形成材料に対して、レーザ光を基材を通して基材の背面から照射すればよりよく、高融点金属粉末と錫を含有する低融点金属粉末の混合形成材料を均一にする必要がなく、例えば、凹凸のある基材上にもパターン配線回路を作製することができる。しかも、低出力レーザを用いることで耐熱性の低い基材上に密着した配線回路を形成することができる。
【実施例】
【0054】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例などによって何ら限定されるものではない。以下の実施例では、基材背面から基材を通して照射するレーザ光背面照射を用いた例を示す。
【0055】
[実施例1]
高融点金属粉末として銀粉末(三井金属鉱業社製SL-3、平均粒径3μm)、低融点金属粉末としてスズ72質量%、ビスマス28質量%からなるスズ合金粉末(三井金属鉱業社製ST-3、平均粒径3μm)を3:1の重量比で混合し金属粉末形成材料を調整した。ポリエチレンテレフタレート(PET:厚み100μm)基板上に混合金属粉末形成材料を薄く(30〜60μmの厚さで)一面に堆積させた。1075nm波長のレーザ光をPET基板背面より6J/cm
2照射することにより、PET基材表面に混合金属粉末を2cm×1mmの矩形状に固定化した。膜厚は2〜3粒子層となった。PET基材表面に混合金属粉末を固定化したサンプルを硫酸銅溶液に10分間浸漬処理した。その結果、錫と銅とが置換し、表面が銅色に変色した。抵抗は、硫酸銅浸漬前は65Ωだった立体構造体(導体)が1.7Ωに低下した。
【0056】
[実施例2]
高融点金属粉末として銀粉末(三井金属鉱業社製SL-3、平均粒径3μm)、低融点金属粉末としてスズ72質量%、ビスマス28質量%からなるスズ合金粉末(三井金属鉱業社製ST-3、平均粒径3μm)を3:1の重量比で混合し金属粉末形成材料を調整した。ポリエチレンテレフタレート(PET:厚み100μm)基板上に混合金属粉末形成材料を薄く(30〜60μmの厚さで)一面に堆積させた。1075nm波長のレーザ光をPET基板背面より6J/cm
2照射することにより、PET基材表面に混合金属粉末を固定化した。膜厚は2〜3粒子層となった。PET基材表面に混合金属粉末を固定化したサンプルを硫酸銅溶液に1分間浸漬処理した。その結果、錫と銅とが置換し、残存する錫はポーラス化した立体構造体が形成できた。
【0057】
実施例1において形成された構造体は、PET基板に強固に密着しているが、硫酸銅浸漬前は65Ωと抵抗値が大きかった。次いで硫酸銅浸漬後に形成された構造体は、PET基板に強固に密着しており、比抵抗は1μΩm以下であった。レーザ出力、照射法、混合粉末の混合比を最適化すればより微細で低抵抗なパターン配線回路が形成できる。実施例2においては、錫と銅とが置換し、残存する錫はポーラス化した構造体が形成できた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、原料調整工程、作製工程、後処理工程など多工程を必要とすることなく、低出力レーザを用い1造形物当たり低エネルギーコストで、簡単な方法として背面レーザ光照射による混合金属粉末を用いた構造物をガルバニック置換反応により錫の低抵抗化、あるいはポーラス化した構造体を提供できる。低抵抗化した微細なパターン配線回路として耐熱性が低いPETなどのプラスチックフィルム上に形成でき、又錫のポーラス化によりリチウムイオン2次電池の負極電極などに用いることができる。