特許第6823483号(P6823483)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ミツトヨの特許一覧

<>
  • 特許6823483-変位検出器 図000002
  • 特許6823483-変位検出器 図000003
  • 特許6823483-変位検出器 図000004
  • 特許6823483-変位検出器 図000005
  • 特許6823483-変位検出器 図000006
  • 特許6823483-変位検出器 図000007
  • 特許6823483-変位検出器 図000008
  • 特許6823483-変位検出器 図000009
  • 特許6823483-変位検出器 図000010
  • 特許6823483-変位検出器 図000011
  • 特許6823483-変位検出器 図000012
  • 特許6823483-変位検出器 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6823483
(24)【登録日】2021年1月13日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】変位検出器
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/245 20060101AFI20210121BHJP
   G01D 5/244 20060101ALI20210121BHJP
【FI】
   G01D5/245 C
   G01D5/244 F
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-17378(P2017-17378)
(22)【出願日】2017年2月2日
(65)【公開番号】特開2018-124193(P2018-124193A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2020年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】川床 修
(72)【発明者】
【氏名】松下 昌輝
【審査官】 清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−269908(JP,A)
【文献】 特開2004−309419(JP,A)
【文献】 特開2010−249800(JP,A)
【文献】 特開2004−037280(JP,A)
【文献】 特開2010−185795(JP,A)
【文献】 特開平11−326409(JP,A)
【文献】 特開2010−101729(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0300808(US,A1)
【文献】 特開2017−040566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/00 − 5/62
G01B 7/00 − 7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号出力部が出力する送信信号を、検出ヘッドに設けられた送信電極からスケールに設けられた結合電極を介して、前記検出ヘッドに設けられた受信電極で受信し、受信信号に基づいて前記検出ヘッドと前記スケールとの間の変位量を検出する静電容量式の変位検出器であって、
前記送信信号出力部より出力される前記送信信号から位相が調整された信号を生成する位相調整部と、
前記位相調整部で位相が調整された信号の振幅を調整してクロストーク補正信号を生成する振幅調整部と、
前記クロストーク補正信号と前記受信信号とを合成した信号をサンプリングして復調する復調部と、を備える、
変位検出器。
【請求項2】
前記位相調整部は、予め設定された条件に基づいて前記送信信号の電圧を容量分圧により調整して合成することで、前記受信信号に含まれるクロストークに対して逆位相となる信号を生成し、
前記振幅調整部は、予め設定された条件に基づいて、前記位相調整部で生成された信号の振幅を前記クロストークの振幅に一致させることで、前記クロストーク補正信号を生成する、
請求項1に記載に記載の変位検出器。
【請求項3】
前記位相調整部は、一端が前記振幅調整部の入力と接続される複数の第1のコンデンサを備え、
複数の第1のコンデンサのうちで、他端に前記送信信号が入力されるものの数は、第1の制御信号により制御される、
請求項1又は2に記載の変位検出器。
【請求項4】
前記複数の第1のコンデンサは、互いに容量値が異なる、
請求項3に記載の変位検出器。
【請求項5】
前記振幅調整部は、複数の第2のコンデンサを備え、
前記複数の第2のコンデンサのうちで、前記復調部と前記振幅調整部との間に接続されるものの数が変更可能に構成される、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の変位検出器。
【請求項6】
前記位相調整部と前記複数の第2のコンデンサとの間、又は、前記復調部と前記複数の第2のコンデンサとの間に挿入され、第2の制御信号によって開閉される複数の第1のスイッチを備え、
前記複数の第1のスイッチのうちで閉じられるものの数は、前記第2の制御信号によって制御される、
請求項5に記載の変位検出器。
【請求項7】
前記復調部は、サンプリング信号に応じて前記受信信号と前記クロストーク補正信号とを合成した信号で充電された信号検出コンデンサの電圧をサンプリングし、ディスチャージ信号に応じて前記信号検出コンデンサに充電された電荷を放電する、
請求項6に記載の変位検出器。
【請求項8】
前記複数の第2のコンデンサの前記復調部側のそれぞれの端部とグランドとの間に接続される複数の第2のスイッチを備え、
前記第2のスイッチが前記ディスチャージ信号に応じて一斉に開放され、又は、前記第2のスイッチのうちで閉じられるものの数が前記第2の制御信号に基づいて変更可能に構成される、
請求項7に記載の変位検出器。
【請求項9】
一方の入力に前記第2の制御信号が入力され、他方の入力に前記サンプリング信号が入力され、出力信号によって前記複数の第1のスイッチのそれぞれの開閉が制御される、複数の第2のAND回路と、
一方の入力に前記ディスチャージ信号が入力され、他方の入力に前記第2の制御信号の反転信号が入力され、出力信号によって前記第2のスイッチの開閉が制御される、複数のOR回路と、を備える、
請求項8に記載の変位検出器。
【請求項10】
前記振幅調整部は、
一端が前記位相調整部の出力と接続され、第3の制御信号によって開閉される複数の第2のスイッチと、
一端が前記複数の第3のスイッチのそれぞれの他端と接続され、他端がグランドと接続される複数の第3のコンデンサと、を備え、
前記複数の第3のスイッチのうちで閉じられるものの数が前記第3の制御信号により制御される、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の変位検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変位検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、移動量を測定する装置の一つとして、変位検出器(エンコーダ)が広く用いられている。変位検出器では、静電容量式、光学式など、種々の検出方式が用いられる。例えば、変位検出器の一例であるリニアエンコーダでは、スケールと、スケールに沿って移動する検出ヘッドとが設けられ、スケールとヘッドとの間の移動量が検出される。
【0003】
一般的な静電容量式の変位検出器では、変位検出のときに、望まれない送信信号が受信信号に入り込むクロストークが生じることが知られている。これにより、変位検出の精度が悪化してしまう。これに対し、クロストークを補正する手法が提案されている(特許文献1)。この手法では、不要経路の容量を介した信号に対して、逆位相を有する信号の振幅を調整し、補正用の信号として受信電極に入力することで受信電極でのクロストークを相殺している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−269908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1では、インバータにより、送信電極に入力される信号に対して逆位相を有する補正用の信号を生成している。しかし、クロストークを高精度に補正するには、補正用の信号の位相を精細に調整することが必要である。よって、相殺用容量の容量値をより細やかに調整するためには、相殺用容量の並列数が増大することとなる。すなわち、補正用の信号の位相調整機能を向上させるためには、回路規模の増大が避けられない。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みて成されたものであり、本発明の目的は、静電容量式の変位検出器のクロストークを簡易な構成により抑制ないしは除去することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様である変位検出器は、
送信信号出力部が出力する送信信号を、検出ヘッドに設けられた送信電極からスケールに設けられた結合電極を介して、前記検出ヘッドに設けられた受信電極で受信し、受信信号に基づいて前記検出ヘッドと前記スケールとの間の変位量を検出する静電容量式の変位検出器であって、
前記送信信号出力部より出力される前記送信信号から位相が調整された信号を生成する位相調整部と、
前記位相調整部で位相が調整された信号の振幅を調整してクロストーク補正信号を生成する振幅調整部と、
前記クロストーク補正信号と前記受信信号とを合成した信号をサンプリングして復調する復調部と、を有するものである。
【0008】
本発明の第2の態様である変位検出器は、上記の変位検出器であって、
前記位相調整部は、予め設定された条件に基づいて前記送信信号の電圧を容量分圧により調整して合成することで、前記受信信号に含まれるクロストークに対して逆位相となる信号を生成し、
前記振幅調整部は、予め設定された条件に基づいて、前記位相調整部で生成された信号の振幅を前記クロストークの振幅に一致させることで、前記クロストーク補正信号を生成する、ことが望ましい。
【0009】
本発明の第3の態様である変位検出器は、上記の変位検出器であって、
前記位相調整部は、一端が前記振幅調整部の入力と接続される複数の第1のコンデンサを備え、
複数の第1のコンデンサのうちで、他端に前記送信信号が入力されるものの数は、第1の制御信号により制御されることが望ましい。
【0010】
本発明の第4の態様である変位検出器は、上記の変位検出器であって、
前記複数の第1のコンデンサは、互いに容量値が異なる、ことが望ましい。
【0011】
本発明の第5の態様である変位検出器は、上記の変位検出器であって、
前記振幅調整部は、複数の第2のコンデンサを有し、
前記複数の第2のコンデンサのうちで、前記復調部と前記振幅調整部との間に接続されるものの個数が変更可能に構成される、ことが望ましい。
【0012】
本発明の第6の態様である変位検出器は、上記の変位検出器であって、
前記位相調整部と前記複数の第2のコンデンサとの間、又は、前記復調部と前記複数の第2のコンデンサとの間に挿入され、第2の制御信号によって開閉される複数の第1のスイッチを有し、
前記複数の第1のスイッチのうちで閉じられるものの数は、前記第2の制御信号によって制御される、ことが望ましい。
【0013】
本発明の第7の態様である変位検出器は、上記の変位検出器であって、
前記復調部は、サンプリング信号に応じて前記受信信号と前記クロストーク補正信号とを合成した信号で充電された信号検出コンデンサの電圧をサンプリングし、ディスチャージ信号に応じて前記信号検出コンデンサに充電された電荷を放電する、ことが望ましい。
【0014】
本発明の第8の態様である変位検出器は、上記の変位検出器であって、
前記第2のコンデンサの前記復調部側のそれぞれの端部とグランドとの間に接続される複数の第2のスイッチを有し、
前記複数の第2のスイッチが前記ディスチャージ信号に応じて一斉に開放され、又は、前記第2のスイッチのうちで閉じられるものの数が前記第2の制御信号に基づいて変更可能に構成される、ことが望ましい。
【0015】
本発明の第9の態様である変位検出器は、上記の変位検出器であって、
一方の入力に前記第2の制御信号が入力され、他方の入力に前記サンプリング信号が入力され、出力信号によって前記第1のスイッチの開閉が制御される、複数の第2のAND回路と、
一方の入力に前記ディスチャージ信号が入力され、他方の入力に前記第2の制御信号の反転信号が入力され、出力信号によって前記複数の第1のスイッチのそれぞれの開閉が制御される、複数のOR回路と、を有する、ことが望ましい。
【0016】
本発明の第10の態様である変位検出器は、上記の変位検出器であって、
前記振幅調整部は、
一端が前記位相調整部の出力と接続され、第3の制御信号によって開閉される複数の第2のスイッチと、
一端が前記複数の第3のスイッチのそれぞれの他端と接続され、他端がグランドと接続される複数の第3のコンデンサと、を有し、
前記複数の第3のスイッチのうちで閉じられるものの数が前記第3の制御信号により制御される、ことが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、静電容量式の変位検出器のクロストークを簡易な構成により抑制ないしは除去することができる。
【0018】
本発明の上述及び他の目的、特徴、及び長所は以下の詳細な説明及び付随する図面からより完全に理解されるだろう。付随する図面は図解のためだけに示されたものであり、本発明を制限するためのものではない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施の形態1にかかる変位検出器の構成を模式的に示す図である。
図2】スケール及び検出ヘッドの電極配置を示す図である。
図3】検出ヘッドの電極配置を示す図である。
図4】クロストークと受信信号との関係をベクトル表示した図である。
図5】クロストーク及び受信信号の波形を示す図である。
図6】実施の形態1にかかる変位検出器の信号処理部の構成を模式的に示す図である。
図7】位相調整用可変容量部の構成の一例を示す図である。
図8】振幅調整用可変容量部及びサンプリング回路の構成を模式的に示す図である。
図9】信号処理回路の動作例を表したタイミングチャートである。
図10】実施の形態1にかかる信号処理部でのクロストーク、クロストーク補正信号及び受信信号との関係をベクトル表示した図である。
図11】実施の形態1にかかる信号処理部でのクロストーク、クロストーク補正信号及び受信信号の波形を示す図である。
図12】実施の形態2にかかる振幅調整用可変容量部の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。各図面においては、同一要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略される。
【0021】
実施の形態1
実施の形態1にかかる変位検出器100について説明する。図1に、実施の形態1にかかる変位検出器100の構成を模式的に示す。変位検出器100は、スケール1、検出ヘッド2、信号処理部3、送信信号出力部4を有する。スケール1と検出ヘッド2とは、変位の測定方向に相対的に移動可能に構成される。以下では、測定方向をX方向として説明する。スケール1及び検出ヘッド2は、X方向と、X方向に垂直な方向と、に平行なX−Y平面を主面とし、かつ、スケール1と検出ヘッド2とは、X方向及びY方向に垂直なZ方向に離隔して配置される。
【0022】
図2に、スケール1及び検出ヘッド2の電極配置を示す。スケール1は、X−Y平面を主面とし、X方向を長手方向とする板状部材1Aを有する。板状部材1Aの上には、X方向に配列された結合電極とアース電極とが設けられる。この例では、結合電極ECとアース電極EEとがX方向に沿って、周期Pで交互に配列されている。結合電極ECとアース電極EEとは電気的に絶縁されており、かつ、アース電極は接地されている。
【0023】
検出ヘッド2は、X−Y平面を主面とする板状部材2Aを有する。板状部材2A上には、送信電極ET及び受信電極ERが設けられる。送信電極ET及び受信電極ERは、スケール1の結合電極EC及びアース電極EEと対向するように設けられている。すなわち、図2においては、スケール1の結合電極EC及びアース電極EEは、板状部材1AのZ(+)方向を向いている面に設けられ、検出ヘッド2の送信電極ET及び受信電極ERは、板状部材2AのZ(−)方向を向いている面に設けられる。なお、図2では、板状部材2AのZ(−)方向を向いている面に設けられた送信電極ET及び受信電極ERを、破線で表示している。
【0024】
図3に、検出ヘッドの電極配置を示す。送信電極ETは、X方向に複数個配列されている。この例では、4相信号を送信するため、4枚の送信電極ET1〜ET4が1つの組となっており、この組が周期Pで繰り返し配列されている。このとき、送信電極ET1〜ET4のそれぞれは、P/4ピッチで順に配列されることとなる。
【0025】
送信電極ET1〜ET4には、送信信号出力部4から、それぞれ位相が異なる信号が送信信号として入力される。ここでは、送信電極ET1〜ET4のそれぞれには、位相が90°ずつ異なる4相信号である、送信信号TA(0°)、TB(90°)、TC(180°)、TD(270°)が入力される。
【0026】
受信電極ERは、板状部材2A上の送信電極ET1〜ET4からY方向に離隔した位置に、X方向を長手方向とする電極として設けられる。この例では、受信電極ERのX方向、すなわち測定方向の長さを2Pとしている。
【0027】
送信電極ET1〜ET4に送信信号TA〜TDが入力されると、受信電極ERには、結合電極ECを介して、送信信号TA〜TDに対応する電圧が誘起される。この状態で、スケール1が検出ヘッド2に対してX方向に相対的に変位すると、送信電極ET1〜ET4と受信電極ERとの間の静電容量が繰り返して変化し、変位量に応じた位相の信号が受信電極ERで受信されることとなる。この誘起された電圧が、受信信号RSとして信号処理部3に出力される。その後、受信信号RSを処理して位相成分を取り出すことで、スケール1と検出ヘッド2との間の変位量を検出することができる。
【0028】
信号処理部3は、受信信号RSを所定の周波数でサンプリングし、受信信号の振幅を示すロジック信号を生成する。そして、このロジック信号の位相を検出することで、スケール1と検出ヘッド2との間の変位を検出することができる。
【0029】
上記の通り、送信信号TA〜TDの伝達経路は、送信電極ET1〜ET4から結合電極ECを経て受信電極ERに至る経路である。しかし、本構成では、図3に破線で示すように、送信電極ET1〜ET4と受信電極ERとの間の結合容量CCに起因する、望ましくない伝達経路を介したクロストークCTKが生じる。よって、受信信号RSにはクロストークが混在しているため、信号処理部3での受信信号RSのサンプリングは、クロストークの影響を受けてしまう。
【0030】
図4にクロストークと受信信号との関係をベクトル表示し、図5にクロストーク及び受信信号の波形を示す。図4では、横軸の正方向が送信信号TA(0°)の振幅、縦軸の正方向が送信信号TB(90°)の振幅、横軸の負方向が送信信号TC(180°)の振幅、縦軸の負方向が送信信号TD(270°)の振幅を示す。
【0031】
例えば、検出ヘッド2に対するスケール1の位置を示す位相がθである場合、クロストークCTKによる歪みが混入した信号OS2が、受信信号RSとして出力されてしまう。これに対し、本来受信すべき、クロストークCTKによる歪みがない受信信号は、信号OS2からクロストークCTKを除去した信号OS1である。
【0032】
そのため、本実施の形態にかかる変位検出器100の信号処理部3は、受信信号RSのクロストークを抑制、望ましくはクロストークが除去された後の信号をサンプリングするように構成される。
【0033】
以下、信号処理部3について詳細に説明する。図6に、実施の形態1にかかる変位検出器100の信号処理部3の構成を模式的に示す。信号処理部3は、位相調整部として位相調整用可変容量部31〜34、振幅調整部として振幅調整用可変容量部35及び復調部として復調回路36を有する。
【0034】
位相調整用可変容量部31〜34には、送信信号出力部4から送信信号TA〜TDがそれぞれ入力される。位相調整用可変容量部31〜34のそれぞれは、与えられる制御信号CON1〜CON4に応じて容量が調整可能である。以下では、制御信号CON1〜CON4を第1の制御信号とも称する。これにより、位相調整用可変容量部31〜34のそれぞれは、送信信号TA〜TDの電圧を容量分圧により調整し、調整後の信号を合成して、受信信号RSに含まれるクロストーク成分と逆位相の信号SIG1を生成し、振幅調整用可変容量部35へ出力する。
【0035】
位相調整用可変容量部31〜34について具体的に説明する。位相調整用可変容量部31〜34は、それぞれ同じ構成を有してもよい。ここでは、代表として位相調整用可変容量部31の構成の一例について説明する。図7に、位相調整用可変容量部31の構成の一例を示す。位相調整用可変容量部31は、第1のコンデンサ(コンデンサC1〜C4)及び第1のAND回路(AND回路41〜44)を有する。コンデンサC1〜C4は、互いに容量値が異なるコンデンサである。
【0036】
AND回路41〜44の入力の一方には、送信信号、この例では送信信号TAが入力される。AND回路41〜44の入力の他方には、それぞれ制御信号が入力される。ここではAND回路41〜44のそれぞれに、制御信号CON11〜CON14が入力される。換言すれば、AND回路41〜44は、それぞれ制御信号CON11〜CON14によって活性化、非活性化が制御される。なお、制御信号CON11〜CON14は、簡略化のため、図2では制御信号CON1と表記している。AND回路41〜44の出力は、それぞれコンデンサC1〜C4と接続される。上述の通り、コンデンサC1〜C4の容量値は相互に異なるので、位相調整用可変容量部31の出力値、すなわち送信信号TAの電圧を容量分圧により16段階(4ビット)に切り替えることができる。
【0037】
位相調整用可変容量部32〜34についても、位相調整用可変容量部31と同様であるので、説明を省略する。
【0038】
位相調整用可変容量部31〜34で容量分圧により電圧が調整された送信信号TA〜TDは合成され、位相が調整された信号SIG1が出力される。
【0039】
振幅調整用可変容量部35は、位相調整用可変容量部31〜34からの信号SIG1の振幅を調整した信号を、クロストーク補正信号CORとして出力する。図8に、振幅調整用可変容量部35及びサンプリング回路37の構成を模式的に示す。
【0040】
振幅調整用可変容量部35は、減衰用コンデンサCATT、コンデンサCT1〜CT4、AND回路51〜54、OR回路61〜64、インバータ71〜74及びスイッチS1〜S8を有する。コンデンサCT1〜CT4は、互いに容量が異なるコンデンサである。以下では、コンデンサCT1〜CT4を第2のコンデンサとも称する。AND回路51〜54を第2のAND回路とも称する。スイッチS1〜S4を第1のスイッチとも称し、スイッチS5〜S8を第2のスイッチとも称する。
【0041】
AND回路51〜54の入力の一方には、サンプリング信号SMPが入力される。AND回路51〜54の入力の他方には、それぞれ制御信号CTL1〜CTL4が入力される。以下では、制御信号CTL1〜CTL4を第2の制御信号とも称する。OR回路61〜64の入力の一方には、ディスチャージ信号DISが入力される。インバータ71〜74の入力には、それぞれ制御信号CTL1〜CTL4が入力される。インバータ71〜74の出力は、それぞれOR回路61〜64の他方の入力と接続される。
【0042】
減衰用コンデンサCATTの一端は、信号SIG1の入力、すなわち位相調整用可変容量部31〜34とコンデンサCT1〜CT4の一端との間のノードと、グランドとの間に接続される。これにより、コンデンサCT1〜CT4には、減衰用コンデンサCATTで減衰した信号SIG1が入力される。スイッチS1〜S4は、コンデンサCT1〜CT4の他端と復調回路36との間に挿入される。スイッチS1〜S4は、それぞれAND回路51〜54からの出力信号に応じて開閉する。スイッチS5〜S6は、コンデンサCT1〜CT4の他端、すなわちスイッチS1〜S4が接続されている側の端部とグランドとの間に挿入される。スイッチS5〜S8は、それぞれOR回路61〜64からの出力信号に応じて開閉する。
【0043】
復調回路36は、受信信号RSを復調し、復調信号DMを出力する回路として構成される。復調回路36は、サンプリング回路37を含む回路として構成される。サンプリング回路37は、サンプリング信号SMPに応じて、受信信号RSにクロストーク補正信号CORを合成した信号をサンプリングする回路として構成される。以下、サンプリング回路37の構成の一例について説明する。
【0044】
なお、この例では、受信信号RSは、電圧VINが印加された回路38から出力されるものとして説明する。回路38は、送信信号を受信した受信電極ERを示す等価回路であり、電圧VINは、送信電極ETに入力される電圧である。この回路38は、電圧VINが印加される端子と出力端子との間にコンデンサC5が挿入され、コンデンサC5と出力端子との間のノードとグランドとの間には、コンデンサC6が挿入される回路として表される。
【0045】
サンプリング回路37は、信号検出コンデンサCS1、スイッチS9及びS10及び増幅器AMPを有する。スイッチS9の一端には受信信号RSが入力され、他端は増幅器AMPの非反転入力と接続される。スイッチS9は、サンプリング信号SMPに応じて開閉する。スイッチS10は、スイッチS9の受信信号RSの入力側端とグランドとの間に接続される。スイッチS10は、ディスチャージ信号DISに応じて開閉する。
【0046】
増幅器AMPの非反転入力とスイッチS9との間のノードN1には、振幅調整用可変容量部35からのクロストーク補正信号CORが入力される。また、ノードN1とグランドとの間には、信号検出コンデンサCS1が挿入される。増幅器AMPの反転入力は、増幅器AMPの出力と接続される。換言すれば、増幅器AMPはボルテージフォロワ接続されている。増幅器AMPの出力端子からは、サンプリング結果を示す信号OUTが出力される。図示しないが、信号OUTは復調され、復調された信号が復調信号DMとして出力される。
【0047】
例えば、サンプリング信号がHIGHのときには、振幅調整用可変容量部35では、制御信号CTL1〜CTL4に応じて閉じられたスイッチの数に応じて、振幅調整用可変容量部35の容量値が決定される。また、サンプリング回路37では、サンプリング信号SMPに応じて、信号検出コンデンサCS1が受信信号RSとクロストーク補正信号とを合成した信号によって充電され、その充電電圧がサンプリングされる。ディスチャージ信号DISがHIGHのときには、振幅調整用可変容量部35のコンデンサCT1〜CT4が一斉に短絡され、かつ、サンプリング回路37の信号検出コンデンサCS1に充電された電荷が放電される。
【0048】
図9は、信号処理部3の動作例を表したタイミングチャートを示す。図9では、電圧VINがHIGHに遷移した時の電圧値をV1としている。例えば、電圧VINがHIGHに遷移するよりも前の時点において、ディスチャージ信号DISがLOWからHIGHに遷移して、スイッチS10が開き(図9のタイミングT1)、サンプリング信号SMPがLOWからHIGHに遷移してスイッチS9が開き(図9のタイミングT2)、信号検出コンデンサCS1に充電された電荷が放電される。次いで、ディスチャージ信号DISがHIGHからLOWに遷移してスイッチS10が閉じ(図9のタイミングT3)、信号検出コンデンサCS1の充電が可能な状態になる。その後、電圧VINがLOWからV1に遷移すると、ノードN1の電圧がLOWからV2に遷移する(図9のタイミングT4)。このときの電圧V2の値は、以下の式で表される。

V2=C5/(C5+C6+CS1)×V1

その後、サンプリング信号SMPがHIGHからLOWに遷移してスイッチS10が閉じる(図9のタイミングT5)ことで、ノードN1の電圧値V2がサンプリングされ、サンプリング結果を示す信号OUTとして出力される。
【0049】
次いで、信号処理部3によるクロストークの補正について説明する。図10に実施の形態1にかかる信号処理部3でのクロストーク、クロストーク補正信号及び受信信号との関係をベクトル表示し、図11に実施の形態1にかかる信号処理部3でのクロストーク、クロストーク補正信号及び受信信号の波形を示す。図10では、図4と同様に、横軸の正方向が送信信号TA(0°)の振幅、縦軸の正方向が送信信号TB(90°)の振幅、横軸の負方向が送信信号TC(180°)の振幅、縦軸の負方向が送信信号TD(270°)の振幅を示す。
【0050】
この例では、図4の場合と同様に、クロストークCTKの影響により、信号OS1の位相及び振幅が影響を受けて歪みが生じる。このため、図4の場合と同様に、歪みの影響で信号OS2が受信信号RSとして出力されてしまう。しかし、本構成では、位相調整用可変容量部31〜34及び振幅調整用可変容量部35によって、クロストークCTKに対して逆位相かつ同振幅のクロストーク補正信号CORが生成される。そして、サンプリング回路37は、受信信号RSとクロストーク補正信号CORとが合成された信号をサンプリングする。よって、図10に示すように、クロストークCTKは、クロストークCTKと逆位相かつ同振幅のクロストーク補正信号CORによってキャンセルされる。これにより、図10及び図11に示すように、クロストークの影響を受けていない信号OS1がサンプリングされる。
【0051】
以上、本構成によれば、静電容量式の変位検出器のクロストークを抑制ないしは除去することができる変位検出器を実現することが可能となる。
【0052】
本実施の形態にかかる変位検出器100では、位相調整用可変容量部31〜34における位相の調整量と、振幅調整用可変容量部35における振幅調整量とは、予め決定されている。例えば、スケールを外した検出ヘッドのみで、サンプリング回路37でサンプリングされた信号の振幅をモニタして、振幅が最小となるように位相調整用可変容量部31〜34及び振幅調整用可変容量部35での容量値を調整、すなわちキャリブレーションすればよい。これにより、調整後の変位測定の際に、安定してクロストークを補正することが可能となる。
【0053】
また、本構成では、送信信号の位相調整は位相調整用可変容量部31〜34が担い、送信信号の振幅調整は振幅調整用可変容量部35が担っている。換言すれば、送信信号の位相調整と、送信信号の振幅調整とは、分離されて行われている。これは、特許文献1で開示されるような手法と比べて、回路規模の縮小を実現できる点で有利である。以下、その理由について説明する。
【0054】
特許文献1では、送信電極に入力される各交流電圧の振幅を、容量値が異なる4つのコンデンサを用いて16段階(4ビット)に変化させている。この場合、相殺用容量の容量比、すなわち最大の容量値を最小の容量値で除した値は16となる。このような構成にて、実施の形態1にかかる変位検出器100と同様に256段階(8ビット)に変化するクロストーク補正信号を生成しようとすれば、4ビットのときと比べて16倍もの容量比を実現しなければならない。そのため、コンデンサの専有面積が大幅に増加し、回路規模の増大を招いてしまう。
【0055】
これに対し、実施の形態1にかかる変位検出器100では、送信信号の位相調整を4ビット、送信信号の振幅調整を4ビットで、分離して行っているため、容量比の合計は16+16=32となる。つまり、本構成では、コンデンサの専有面積が特許文献1に対して1/8とすることができるので、回路面積の縮小及びこれによる低コスト化の点で有利であることが理解できる。
【0056】
以上、本構成によれば、低コストで実現可能な簡易な構成でクロストーク補正信号の位相及び振幅を精細に調整することで、クロストークを高精度に除去することができる。
【0057】
実施の形態2
次いで、実施の形態2にかかる変位検出器について説明する。本実施の形態にかかる変位検出器は、実施の形態1にかかる変位検出器100と比較して、信号処理部の振幅調整用可変容量部の構成が異なる。以下、実施の形態2にかかる振幅調整用可変容量部39について説明する。
【0058】
図12に、実施の形態2にかかる振幅調整用可変容量部39の構成を模式的に示す。振幅調整用可変容量部39は、コンデンサC11〜C14及びスイッチS11〜S14により構成される。この例では、コンデンサC11〜C14の容量値は、相互に異なる。スイッチS11〜S14の一端には、位相調整用可変容量部31〜34からの信号SIG1が入力される。スイッチS11〜S14のそれぞれの他端とグランドとの間には、コンデンサC11〜C14が挿入される。スイッチS11〜S14の開閉は、それぞれ制御信号CTL1〜CTL4により制御される。以下では、コンデンサC11〜C14を第3のコンデンサとも称する。スイッチS11〜S14は第3のスイッチとも称する。実施の形態2における制御信号CTL1〜CTL4を第3の制御信号とも称する。
【0059】
本構成によれば、スイッチS11〜S14の開閉を制御することで、信号SIG1を減衰させるコンデンサの容量値を16段階に変化させることが可能となる。これにより、信号SIG1を減衰させた信号を、クロストーク補正信号CORとして復調回路36に供給することができる。
【0060】
以上、本構成によれば、実施の形態1と同様に、静電容量式の変位検出器のクロストークを抑制ないしは除去することができる変位検出器を実現することが可能となる。
【0061】
なお、振幅調整用可変容量部39においては、コンデンサC11〜C14の一部を、実施の形態1にかかる復調回路36の減衰用コンデンサCATTとして用いてもよい。また、コンデンサC11〜C14とは別に、減衰用コンデンサCATTを設けてもよい。
【0062】
その他の実施の形態
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、位相調整用可変容量部31〜34は同様の構成を有するものとして説明したが、位相調整用可変容量部31〜34の全部又は一部は、互いに異なる構成を有していてもよい。
【0063】
例えば、位相調整用可変容量部31〜34は、図7を参照して説明した構成に限定されるものではなく、送信信号の位相を調整できる他の構成を適宜用いてもよい。例えば、上述では、送信信号の位相を16段階に変化させる例について説明したが、AND回路の数とコンデンサの数とを適宜変更し、送信信号の位相を16段階以外の多段階に調整する構成としてもよい。また、送信信号の位相を段階的にではなく、連続的に変化させる構成としてもよい。
【0064】
例えば、振幅調整用可変容量部35及び振幅調整用可変容量部39は、上記で説明した構成に限定されるものではなく、信号の振幅を調整できる他の構成を適宜用いてもよい。例えば、上述では、信号の振幅を16段階に変化させる例について説明したが、AND回路の数、OR回路の数、スイッチの数、又はコンデンサの数を適宜変更し、信号に振幅を16段階以外の多段階に調整する構成としてもよい。また、信号の振幅を段階的にではなく、連続的に変化させる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 スケール
1A 板状部材
2 検出ヘッド
2A 板状部材
3 信号処理部
4 送信信号出力部
31〜34 位相調整用可変容量部
35、39 振幅調整用可変容量部
36 復調回路
37 サンプリング回路
38 回路
41〜44、51〜54 AND回路
61〜64 OR回路
71〜74 インバータ
100 変位検出器
AMP 増幅器
CC 結合容量
CS1、C1〜C6、C11〜C14、CT1〜CT4 コンデンサ
ATT 減衰用コンデンサ
CON1〜CON4、CON11〜CON14、CTL1〜CTL4 制御信号
COR クロストーク補正信号
CTK クロストーク
DIS ディスチャージ信号
DM 復調信号
EC 結合電極
EE アース電極
ER 受信電極
ET1〜ET4 送信電極
RS 受信信号
S1〜S14 スイッチ
SMP サンプリング信号
TA〜TD 送信信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12