【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らは、特許文献1のオープンベルト型の軸方向移動装置を、座標測定機、画像測定機および形状測定機における軸方向移動装置に適用させるべく、開発を進めてきた。
【0007】
図11には、測定子を備えた測定ヘッドを上下方向に移動させるためのZ軸移動装置として、オープンベルト型の軸方向移動装置を適用した場合の構成を模式的に示す。本書では、Z軸移動装置において上下方向に案内される長尺状のスライダを、特に「スピンドル」と呼び、
図11の該スピンドル2の下端に測定ヘッドが設けられる。
【0008】
図11の例では、測定機のY軸移動装置が、Yビーム3に設けられたYガイド3A(ガイドレールおよび直動ベアリングユニット)と、該Yガイド3AによってY軸方向に案内支持されるYスライダ4とで構成される。このYスライダ4にZ軸移動装置1が搭載されている。このZ軸移動装置1は、Yスライダ4に設けられたZガイド5と、Zガイド5によってZ軸方向に案内されるスピンドル2と、Yスライダ4に設けられてスピンドル2を上下動させるベルト駆動部6と、を備える。スピンドル2の上下方向の寸法は、Zガイド5が有する案内機構の上下方向の寸法よりも長い。ベルト駆動部6は、スピンドル2の移動方向に沿って配置されたオープンベルト7と、オープンベルト7に駆動力を伝達する駆動プーリー8と、駆動プーリー8に対するオープンベルト7の巻き角を大きくするための補助プーリー8Aと、を有しており、オープンベルト7の両端部は、スピンドル2にそれぞれ保持されている。
【0009】
また、オープンベルト7の両オープンエンドが、スピンドル2上のZ軸方向に離れた2箇所に設けられたベルト保持部2A,2Bにそれぞれ保持されており、更に、オープンベルト7が、ベルト駆動部6の駆動プーリー8に掛けられた状態になっている。ベルト保持部2A,2Bの間隔は、少なくともスピンドル2の移動距離よりも大きい。
【0010】
このように構成されたZ軸移動装置1では、駆動プーリー8の回転駆動力によってオープンベルト7が上下方向に送られると、その回転方向に応じてスピンドル2が、上昇または下降する。
【0011】
オープンベルト型のメリットは、装置を簡素化できることである。オープンベルト型のZ軸移動装置の具体的としては、同出願人が既に出願している特願2016‐222755号の明細書に記載したZ軸移動装置の構成を参照することができる。
【0012】
しかしながら、発明者らは、測定機の軸方向移動装置を
図11の構成にしただけでは満足せず、更に、測定機の測定精度の向上のために検討を続けた。
【0013】
まず、
図11の構成では、オープンベルト7は、歯とびを防止する目的で、テンションが作用した状態でスピンドル2に固定されている。これを初期テンションと呼ぶ。
【0014】
スピンドル2上の2箇所のベルト保持部2A、2Bは、その初期テンションをそれぞれ受けるが、スピンドル2の中間部分は、Zガイド5の案内機構によってX軸方向への移動を規制されている。従って、スピンドル2の上側のベルト保持部2Aが、Zガイド5の案内機構よりも上に出ている場合、上側のベルト保持部2AをX軸正方向へ変位させるような曲げモーメントがスピンドル2に作用する。同様に、スピンドル2の下側のベルト保持部2Bが、Zガイド5の案内機構よりも下に出ている場合、下側のベルト保持部2BをX軸正方向へ変位させるような曲げモーメントがスピンドル2に作用する。スピンドル2は曲げモーメントが作用すると、
図11上で左側に膨らむように曲がる。以下、この曲がり方をX軸正方向に曲がると呼ぶ。
【0015】
Z軸移動装置1のZガイド5はスピンドル2を上下方向に案内するとは言え、Zガイド5がスピンドル2の自重を支えている訳ではない。スピンドル2の自重は、オープンベルト7を介して、ベルト駆動部6の駆動プーリー8の負荷になる。そのため、駆動プーリー8は、その下方にあるベルトを引き上げる方向にトルクを出力し続けて、下側のベルト保持部2Bを引っ張る力を大きくする。これにより、スピンドル2の自重が打ち消されてスピンドル2のZ軸方向の位置を維持するが、ベルト保持部2Bが受ける力が増すことで、スピンドル2の曲げ変形量も大きくなる。スピンドル2の自重を保持するために、ベルト保持部2Bに加えられる力をF
ZGで表す。
【0016】
次に、スピンドル2を昇降させる際について、
図12,13を用いて説明する。スピンドル2のガイドレールとZガイド5との摩擦抵抗を無視すれば、スピンドル2をZ軸正方向へ移動(上昇)させる際は、
図12のように、駆動プーリーの出力トルクを増やして、下側のベルト保持部2Bに、スピンドル2をZ軸正方向へ加速させる力F
ZACCと、スピンドル2の自重を保持する力F
ZGとの和の力(F
ZACC+F
ZG)が加わるようにする。これにより、スピンドル2は加速して上昇速度を得るが、ベルト保持部2Bが受ける力が増すことで、スピンドル2の曲げ変形量は更に大きくなる。
【0017】
一方、スピンドル2をZ軸負方向へ移動(下降)させる際は、
図13のように、駆動プーリーの出力トルクを減らして、下端のベルト保持部2Bに、スピンドル2をZ軸負方向へ加速させる力F
ZACCと、上記のスピンドル2の自重を保持する力F
ZGとの差の力(F
ZG−F
ZACC)が加わるようにする。これにより、スピンドル2は加速して下降速度を得るが、ベルト保持部2Bが受ける力が減ることで、スピンドル2の曲げ変形量はその分だけ小さくなる。
【0018】
このように、スピンドル2の移動方向によって、スピンドル2の下端のベルト保持部2Bに作用する力が異なる。そして、ベルト保持部2Bは、Zガイド5の案内機構よりも常に下に位置している状態なので、スピンドル2の移動方向によって、スピンドル2のベルト保持部2Bに作用する曲げモーメントの大きさも異なる。その結果、スピンドル2の上下方向の位置が同じであっても、スピンドル2を上昇させる場合と下降させる場合とで、スピンドル2の曲げ変形量が異なり、スピンドル2の下端のX軸方向の位置が相違してしまうことになる。
【0019】
測定機の測定精度をより向上させるには、上記のような相違を無くしたい。
測定機が、スピンドル2を上昇させながら測定ヘッドの測定子でワークを測定した場合(
図12)と、下降させながら測定した場合(
図13)とで、測定ヘッド自体のX軸方向の位置が異なれば、ワークの同一点の測定結果に差が生じて、測定結果が悪化する。
図11〜13を用いた上記の説明では、スピンドルを昇降させる軸方向移動装置の構成についての課題を説明したが、傾斜方向や水平方向に移動させる軸方向移動装置の構成においても、ガイドと長尺状スライドとによる機構が共通する限り、同様の課題が生じる。
【0020】
また、測定機が設置されている環境温度が上昇すると、スピンドルとオープンベルトとは共に膨張する。スピンドルは一般的に金属製であるが、オープンベルトは一般的に産業用品として使われているグラスファイバー入りのゴム製である場合が多い。このような素材の相違で、スピンドルの膨張量に対してオープンベルトの膨張量は小さくなる。この結果、
図14に示すように、環境温度が高くなると、バイメタル効果によってスピンドルがX軸正方向に曲がってしまう。その結果、測定機の測定結果に影響を及ぼしてしまう。
【0021】
従って、本発明の目的は、ベルト駆動による軸方向移動装置において、ガイドに対してスピンドルを一方に移動させる場合と、反対方向に移動させる場合とで、その移動方向に直交する方向へのスピンドルの端部の変位量の差を小さくすることである。
或いは、ベルト駆動による軸方向移動装置において、長尺状スライダとオープンベルトとの間に上記のバイメタル効果を発生させないことで、環境温度が変化しても、移動方向に直交する方向への長尺状スライダの端部の位置が動かないようにすることである。
更に、長尺状スライダの先端に測定ヘッドを設けて測定機の軸方向移動装置として用いることで、測定機の測定精度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の課題を解決するため、本発明に係る軸方向移動装置は、
ガイド部と、該ガイド部によって案内される長尺状スライダ部と、前記ガイド部に対して前記長尺状スライダ部を移動させるベルト駆動部とを備える軸方向移動装置であって、
前記長尺状スライダ部の形状は、前記ガイド部の案内機構よりも移動方向に長く、
前記ベルト駆動部は、
前記長尺状スライダ部の移動方向に沿って配置されたオープンベルトと、
前記オープンベルトに駆動力を伝達する駆動プーリーと、
前記長尺状スライダ部の移動方向に沿って配置されたテンションバーと、を有し、
前記テンションバーは、前記オープンベルトの各端部をそれぞれ保持するベルト保持部を有し、該各端部をそれぞれ保持するベルト保持部の中間位置において、該テンションバーが前記長尺状スライダ部に接続されていることを特徴とする。
【0023】
この構成では、ベルト保持部を長尺状スライダ部にではなく、その移動方向に沿って配置したテンションバーに設けている。このテンションバーは、長尺状スライダ部に接続されている。このように、オープンベルトの両端部は、長尺状スライダ部に直接的に保持されないので、オープンベルトが伝達する駆動力は、テンションバーを介在して、長尺状スライダ部に伝わり、長尺状スライダがテンションバーと一体となって移動する。
【0024】
テンションバーにおいて、ベルト保持部を移動方向に離して配置し、これらベルト保持部の中間位置において、テンションバーと長尺状スライダ部とを連結した。従って、テンションバーの各ベルト保持部には、オープンベルトの初期テンションに起因する曲げモーメントが作用して、テンションバーが変形し、テンションバーの両端付近(各ベルト保持部の位置)が移動方向に直交する方向へ変位することになる。一方、長尺状スライダ部は、ガイド部によって移動方向に直交する方向への変位の規制を受けており、テンションバーとの接続部分がテンションバーの中間部分になっているため、テンションバーのようには変形しない。
【0025】
なお、テンションバーと長尺状スライダ部との接続部分は、できる限りテンションバー上の1箇所に集中させた方がよい。より好ましくは、この接続部分は1箇所である。また、接続部分をテンションバーの長手方向の略中央に設ければ、テンションバーの熱膨張による移動方向への変位も抑えられて、好ましい。
【0026】
以上のように、テンションバーが曲げモーメントによって変形しても、長尺状スライダ部はほとんど変形しない。よって、長尺状スライダ部の上昇時と下降時とで異なる大きさのテンションがベルト保持部に作用しても、テンションバーの変形量が変わるだけで済み、長尺状スライダ部はほとんどその影響を受けない。
【0027】
また、軸方向移動装置が設置されている環境温度が上昇すると、長尺状スライダ部、テンションバーおよびオープンベルトがそれぞれ膨張する。ここで、オープンベルトは、通常は、ゴム製であり、テンションバーは、通常は金属製になる。両者はベルト保持部で接続されているから、
図14の従来型と同様に、環境温度が上昇すると、金属とゴムの膨張係数の差によるバイメタル効果によってテンションバーが曲がる。しかし、テンションバーと長尺状スライダ部とはテンションバーの中間部分で連結しているので、テンションバーが変形しても、長尺状スライダ部にはほとんど影響を及ぼさない。なお、テンションバーと長尺状スライダ部の材質が相違する場合もあるが、テンションバーと長尺状スライダ部との接続部分がテンションバーの中間部分であるので、熱膨張量の差があっても、互いに影響し合うことはない。
【0028】
このような理由で、長尺状スライダの移動方向に応じて、ベルト保持部に作用するテンションが異なるとしても、その差が長尺状スライダ部の端部の位置に与える影響は非常に小さくなり、同様に、環境温度の変化による上記のバイメタル効果が長尺状スライダ部の端部の位置に与える影響も非常に小さくなる。
【0029】
また、前記長尺状スライダ部の移動方向が昇降方向であることが好ましい。
また、前記テンションバーが、移動方向に直交する平面での断面において、前記オープンベルトから受けるテンションに対して座屈変形しない程度の剛性を持つような形状を有することが好ましい。この構成によれば、テンションバーが、例えばコ字状のような断面形状を有することで、テンションバーの断面二次モーメントが大きくなり、座屈方向の剛性が高まるとともに、テンションバーを肉厚にするよりもコ字状断面にする方がテンションバー自体を軽量にすることができる。
【0030】
また、前記テンションバーおよび前記長尺状スライダの接続部分が、移動方向に直交する平面上において、前記長尺状スライダの重心に近い位置に配置されていることが好ましい。この構成によれば、長尺状スライダの重心に近い点に、駆動プーリーからの駆動力が伝達されて、長尺状スライダの移動中の振動抑制効果が得られる。例えば、テンションバーとスライダの接続部分が、スライダの外周面よりも重心に近い位置に配置されるように、スライダの外周面の一部にテンションバーが丸ごと収容できる程度の凹部を設けるなどするとよい。
【0031】
本発明に係る測定機は、上記の軸方向移動装置を測定子の軸方向移動装置として搭載しており、前記長尺状スライダの先端に前記測定子が取り付けられていることを特徴とする。この構成によれば、長尺状スライダの先端に測定プローブなどの測定子を取り付けて往復移動させるような動作において、前進の際と後退の際とで、測定子の位置に差が生じることを抑制することができる。また、環境温度が変化しても、測定子の位置が変化することを抑制することができる。その結果、移動方向が異なっても、また、環境温度が変化しても、良好な測定値が得られる。