特許第6825577号(P6825577)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6825577複合タングステン酸化物超微粒子およびその分散液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6825577
(24)【登録日】2021年1月18日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】複合タングステン酸化物超微粒子およびその分散液
(51)【国際特許分類】
   C01G 41/00 20060101AFI20210121BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20210121BHJP
   G02B 1/02 20060101ALI20210121BHJP
【FI】
   C01G41/00 A
   C09K3/00 105
   G02B1/02
【請求項の数】5
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2017-556492(P2017-556492)
(86)(22)【出願日】2016年12月19日
(86)【国際出願番号】JP2016087795
(87)【国際公開番号】WO2017104853
(87)【国際公開日】20170622
【審査請求日】2019年8月2日
(31)【優先権主張番号】特願2015-247928(P2015-247928)
(32)【優先日】2015年12月18日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-73837(P2016-73837)
(32)【優先日】2016年4月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】常松 裕史
(72)【発明者】
【氏名】中山 博貴
(72)【発明者】
【氏名】長南 武
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−170239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 41/00
C09K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外線遮蔽特性を有する複合タングステン酸化物超微粒子であって、
一般式MxWyOz(但し、Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、Cu、Ag、In、Tl、Si、Sn、Ybの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0<z/y≦3.0)で標記され、
前記複合タングステン酸化物超微粒子が、六方晶、正方晶、立方晶、斜方晶、単斜晶から選択される1種以上の結晶構造を含み、
前記複合タングステン酸化物超微粒子の結晶子径が1nm以上であり、
シリコン粉末標準試料(NIST製、640c)の(220)面に係るXRDピーク強度を1としたときの、前記複合タングステン酸化物超微粒子のXRDピークトップ強度の比の値が0.13以上であり、
前記複合タングステン酸化物超微粒子における(結晶子径/平均粒子径)の値が0.98以上1.13以下であり、
前記複合タングステン酸化物超微粒子の平均粒子径が16nm以上38nm以下であることを特徴とする複合タングステン酸化物超微粒子。
【請求項2】
前記複合タングステン酸化物超微粒子における揮発成分の含有率が、2.5質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の複合タングステン酸化物超微粒子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の複合タングステン酸化物超微粒子が、液状媒体中に分散して含有されている分散液であって、前記液状媒体は、水、有機溶媒、油脂、液状樹脂、液状プラスチック用可塑剤、高分子単量体から選択される1種以上であることを特徴とする複合タングステン酸化物超微粒子分散液。
【請求項4】
前記複合タングステン酸化物超微粒子分散液に含有されている複合タングステン酸化物超微粒子の分散粒子径が、1nm以上200nm以下であることを特徴とする請求項3に記載の複合タングステン酸化物超微粒子分散液。
【請求項5】
前記複合タングステン酸化物超微粒子分散液に含有されている複合タングステン酸化物超微粒子の含有量が、0.01質量%以上80質量%以下であることを特徴とする請求項3または4に記載の複合タングステン酸化物超微粒子分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光透過性が良好で、且つ近赤外線領域の光を遮蔽する特性を有しながら、分散液を高い生産性をもって製造可能な汎用性のある複合タングステン酸化物超微粒子およびその分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
良好な可視光透過率を有し透明性を保ちながら日射透過率を低下させる近赤外線遮蔽技術として、これまでさまざまな技術が提案されてきた。なかでも、無機物である導電性微粒子を用いた近赤外線遮蔽技術は、その他の技術と比較して近赤外線遮蔽特性に優れ、低コストである上、電波透過性が有り、さらに耐候性が高い等のメリットがある。
【0003】
例えば特許文献1には、酸化錫微粉末の近赤外線遮蔽特性を応用した技術が記載され、酸化錫微粉末を分散状態で含有させた透明樹脂や、酸化錫微粉末を分散状態で含有させた透明合成樹脂をシートまたはフィルムに成形したものを、透明合成樹脂基材に積層してなる近赤外線遮蔽性合成樹脂成形品が提案されている。
【0004】
特許文献2には、Sn、Ti、Si、Zn、Zr、Fe、Al、Cr、Co、Ce、In、Ni、Ag、Cu、Pt、Mn、Ta、W、V、Moといった金属、当該金属の酸化物、当該金属の窒化物、当該金属の硫化物、当該金属へのSbやFのドープ物、または、これらの混合物の近赤外線遮蔽特性を応用した技術が記載され、これらが媒体中に分散させた中間層を挟み込んだ合わせガラスが提案されている。
【0005】
また、出願人は特許文献3にて、窒化チタン微粒子やホウ化ランタン微粒子の近赤外線遮蔽特性を応用した技術を提案しており、これらのうちの少なくとも1種を、溶媒中や媒体中に分散させた選択透過膜用塗布液や選択透過膜を開示している。
【0006】
しかしながら出願人の検討によると、特許文献1〜3に開示されている近赤外線遮蔽性合成樹脂成形品等の近赤外線遮蔽構造体は、いずれも高い可視光透過率が求められたときの近赤外線遮蔽特性が十分でなく、近赤外線遮蔽構造体としての機能が十分でないという問題点が存在した。例えば、特許文献1〜3に開示されている近赤外線遮蔽構造体の持つ近赤外線遮蔽特性の具体的な数値の例として、JIS R 3106に基づいて算出される可視光透過率(本発明において、単に「可視光透過率」と記載する場合がある。)が70%のとき、同じくJIS R 3106に基づいて算出される日射透過率(本発明において、単に「日射透過率」と記載する場合がある。)は、50%を超えてしまっていた。
【0007】
そこで、出願人は特許文献4にて、一般式M(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子を近赤外線遮蔽微粒子として応用した技術を提案し、当該複合タングステン酸化物微粒子の製造方法と、当該複合タングステン酸化物が六方晶、正方晶、または立方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子のいずれか1種類以上を含み、前記近赤外線遮蔽材料微粒子の粒子径が1nm以上800nm以下であることを特徴とする近赤外線遮蔽分散体を開示した。
【0008】
特許文献4に開示したように、前記一般式Mで表される複合タングステン酸化物微粒子を含む近赤外線遮蔽微粒子分散体は高い近赤外線遮蔽特性を示し、可視光透過率が70%のときの日射透過率は50%を下回るまでに改善された。とりわけM元素としてCsやRb、Tlなど特定の元素から選択される少なくとも1種類を採用し、結晶構造を六方晶とした複合タングステン酸化物微粒子を用いた近赤外線遮蔽微粒子分散体は卓越した近赤外線遮蔽特性を示し、可視光透過率が70%のときの日射透過率は37%を下回るまでに改善された。この成果を得て、当該近赤外線遮蔽微粒子分散体へハードコート処理等を加え、窓ガラスやプラズマディスプレイパネル、等の用途へ適用することが検討された。
【0009】
一方、これらの用途においては、近赤外線遮蔽特性と共に高い透明性(低いヘイズ値)が要求されているため、ヘイズ値を低下させることを目的として前記複合タングステン酸化物微粒子の粒子径を更に微細化する試みがなされ、これらの微粒子の微細化によりヘイズ値を低下させることが出来た。
【0010】
しかし、前記複合タングステン酸化物微粒子が分散された近赤外線遮蔽微粒子分散体においては、太陽光やスポットライト光、等が照射されたときに青白色に変色する現象(所謂、ブルーヘイズ現象)が確認された。この現象の為、複合タングステン酸化物微粒子を用いた近赤外線遮蔽微粒子分散体を車両等のフロントガラス等に用いた場合、太陽光を受けると青白く変色して視界不良となるため安全上問題となることが懸念された。また、建材用の窓ガラス等に用いた場合では当該ブルーヘイズ現象の発生により美観を損ねてしまい、プラズマディスプレイパネル等に用いた場合では当該ブルーヘイズ現象の発生によりコントラストが大きく低下し、鮮やかさや見易さを損ねてしまうという問題の発生が懸念された。
【0011】
さらに、出願人は特許文献5にて、特許文献4で開示した製造方法と同様の方法で製造した前記複合タングステン酸化物の粉末と溶媒と分散剤とを混合したスラリーを、イットリア安定化ジルコニアビーズと共に媒体攪拌ミルに投入し、所定粒度になるまで粉砕分散処理を行うことで、ブルーヘイズ現象を抑制した近赤外線遮蔽微粒子分散液および近赤外線遮蔽分散体等を開示した。
【0012】
しかしながら、特許文献5で製造される前記複合タングステン酸化物の粒子径は1〜5μmと大きい。従って、ブルーヘイズ現象を抑制できる近赤外線遮蔽微粒子分散液を得る為には、媒体攪拌ミルを用いて前記複合タングステン酸化物を長時間粉砕し、粒子を微細化する必要があった。この長時間の粉砕工程は、前記近赤外線遮蔽微粒子分散液の生産性を著しく低下させていた。
【0013】
ここで、出願人は特許文献6にて、プラズマ反応を用いて製造される粒径100nm以下の複合タングステン酸化物超微粒子を提案した。この結果、初期粒径が小さな複合タングステン酸化物超微粒子を原料とすることで、長時間の粉砕処理を施す必要がなくなり、高い生産性をもって近赤外線遮蔽微粒子分散液が製造可能となった。
一方、特許文献7にもプラズマ反応を用いた複合タングステン酸化物超微粒子の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平2−136230号公報
【特許文献2】特開平8−259279号公報
【特許文献3】特開平11−181336号公報
【特許文献4】国際公開番号WO2005/037932公報
【特許文献5】特開2009−215487号公報
【特許文献6】特開2010−265144号公報
【特許文献7】特表2012−506463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら出願人のさらなる検討によると、特許文献6にて開示された方法で製造した複合タングステン酸化物超微粒子は、その結晶性が低い為、当該複合タングステン酸化物超微粒子を用いた分散液の近赤外線遮蔽特性は、十分なものではなかった。
【0016】
また、特許文献7に記載されているプラズマ反応を用いて製造された複合タングステン酸化物微粒子は、複合タングステン酸化物微粒子以外に、二元酸化タングステン(すなわち、実質的に元素WおよびOからなる相。)およびタングステン金属を含むものであった。この為、近赤外線遮蔽特性は十分なものではなかった。
【0017】
本発明は、上述の状況の下で成されたものであり、その解決しようとする課題は、可視光領域で透明性があり、結晶性が高いことによって優れた近赤外線遮蔽特性を有しながら、分散液を高い生産性をもって製造可能な汎用性のある複合タングステン酸化物超微粒子、およびそれを用いた複合タングステン酸化物超微粒子分散液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を行った。
そして、複合タングステン酸化物超微粒子のX線回折(本発明において「XRD」と記載する場合がある。)パターンにおいて、ピークトップ強度の比の値が所定の値である複合タングステン酸化物超微粒子を知見した。具体的には、シリコン粉末標準試料(NIST製、640c)の(220)面に係るXRDピーク強度の値を1としたときの、前記複合タングステン酸化物超微粒子のXRDピークトップ強度の比の値が0.13以上である複合タングステン酸化物超微粒子である。
当該複合タングステン酸化物超微粒子は、可視光領域で透明性があり優れた近赤外線遮蔽特性を有しながら、分散液を高い生産性をもって製造可能な汎用性のある複合タングステン酸化物超微粒子であった。
さらに、当該複合タングステン酸化物超微粒子を用いた分散液において、複合タングステン酸化物超微粒子の分散粒子径が200nm以下であれば、ブルーヘイズ現象を抑制できることも知見し本発明を完成した。
【0019】
すなわち、上述の課題を解決する第1の発明は、
近赤外線遮蔽特性を有する複合タングステン酸化物超微粒子であって、
一般式MxWyOz(但し、Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、Cu、Ag、In、Tl、Si、Sn、Ybの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0<z/y≦3.0)で標記され、
前記複合タングステン酸化物超微粒子が、六方晶、正方晶、立方晶、斜方晶、単斜晶から選択される1種以上の結晶構造を含み、
前記複合タングステン酸化物超微粒子の結晶子径が1nm以上であり、
シリコン粉末標準試料(NIST製、640c)の(220)面に係るXRDピーク強度を1としたときの、前記複合タングステン酸化物超微粒子のXRDピークトップ強度の比の値が0.13以上であり、
前記複合タングステン酸化物超微粒子における(結晶子径/平均粒子径)の値が0.98以上1.13以下であり、
前記複合タングステン酸化物超微粒子の平均粒子径が16nm以上38nm以下であることを特徴とする複合タングステン酸化物超微粒子である。
第2の発明は、
前記複合タングステン酸化物超微粒子における揮発成分の含有率が、2.5質量%以下であることを特徴とする第1の発明に記載の複合タングステン酸化物超微粒子である。
第3の発明は、
第1または第2の発明に記載の複合タングステン酸化物超微粒子が、液状媒体中に分散して含有されている分散液であって、前記液状媒体は、水、有機溶媒、油脂、液状樹脂、液状プラスチック用可塑剤、高分子単量体から選択される1種以上であることを特徴とする複合タングステン酸化物超微粒子分散液である。
第4の発明は、
前記複合タングステン酸化物超微粒子分散液に含有されている複合タングステン酸化物超微粒子の分散粒子径が、1nm以上200nm以下であることを特徴とする第3の発明に記載の複合タングステン酸化物超微粒子分散液である。
第5の発明は、
前記複合タングステン酸化物超微粒子分散液に含有されている複合タングステン酸化物超微粒子の含有量が、0.01質量%以上80質量%以下であることを特徴とする第3または第4の発明に記載の複合タングステン酸化物超微粒子分散液である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子を用いることで、可視光領域で透明性があり、優れた近赤外線遮蔽特性を有し、汎用性のある近赤外線遮蔽分散液を高い生産性をもって製造出来る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に用いられる高周波プラズマ反応装置の概念図である。
図2】実施例1に係る超微粒子のX線回折パターンである。
図3】実施例2に係る硬化膜の透過率のプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、[a]複合タングステン酸化物超微粒子、[b]複合タングステン酸化物超微粒子の合成方法、[c]複合タングステン酸化物超微粒子の揮発成分とその乾燥処理方法、[d]複合タングステン酸化物超微粒子分散液、の順で説明する。
【0023】
[a]複合タングステン酸化物超微粒子
本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子は近赤外線遮蔽特性を有し、シリコン粉末標準試料(NIST製、640c)の(220)面に係るXRDピーク強度の値を1としたときの、前記複合タングステン酸化物超微粒子のXRDピークトップ強度の比の値が0.13以上のものである。
以下、本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子について、(1)XRDピークトップ強度の比、(2)組成、(3)結晶構造、(4)BET比表面積、(5)分散粒子径、(6)揮発成分、(7)まとめ、の順に説明する。
【0024】
(1)XRDピークトップ強度の比
上述した複合タングステン酸化物超微粒子のXRDピークトップ強度の測定には、粉末X線回折法を用いる。このとき、複合タングステン酸化物超微粒子の試料間において、測定結果に客観的な定量性を持たせるため、標準試料を定めて、当該標準試料のピーク強度を測定し、当該標準試料のピーク強度に対する当該超微粒子試料のXRDピークトップ強度の比の値をもって、各超微粒子試料のXRDピークトップ強度を表記することとした。
【0025】
ここで標準試料は、当業界にて普遍性のあるシリコン粉末標準試料(NIST製、640c)を使用することとし、複合タングステン酸化物超微粒子のXRDピークと重なり合わない、前記シリコン粉末標準試料における(220)面を基準とすることとした。
【0026】
さらに客観的な定量性を担保するため、その他の測定条件も常に一定にすることとした。
具体的には、深さ1.0mmの試料ホルダーへ、X線回折測定の際における公知の操作によって超微粒子試料を充填する。具体的には、超微粒子試料において優先方位(結晶の配向)が生じるのを回避する為、ランダム且つ徐々に充填し、尚且つムラなく出来るだけ密に充填することが好ましい。
X線源として、陽極のターゲット材質がCuであるX線管球を45kV/40mAの出力設定で使用し、ステップスキャンモード(ステップサイズ:0.0165°(2θ)および計数時間:0.022m秒/ステップ)のθ−2θの粉末X線回折法で測定することとしたものである。
このとき、X線管球の使用時間によってXRDピーク強度は変化するので、X線管球の使用時間は試料間で殆ど同じであることが望ましい。客観的な定量性を確保するため、X線管球使用時間の試料間の差は、最大でもX線管球の予測寿命の20分の1以下に収めることが必要である。より望ましい測定方法として、複合タングステン酸化物超微粒子のX線回折パターンの測定毎に、シリコン粉末標準試料の測定を実施して、前記XRDピークトップ強度の比を算出する方法が挙げられる。本発明ではこの測定方法を用いた。市販のX線装置のX線管球予測寿命は数千時間以上で且つ1試料当たりの測定時間は数時間以下のものが殆どであるため、上述の望ましい測定方法を実施することで、X線管球使用時間によるXRDピークトップ強度の比への影響を無視できるほど小さくすることが出来る。
また、X線管球の温度を一定とするため、X線管球用の冷却水温度も一定とすることが望ましい。
【0027】
なお、複合タングステン酸化物超微粒子のX線回折パターンは、複合タングステン酸化物の粉体試料を構成する多数の複合タングステン酸化物超微粒子のX線回折パターンである。また、複合タングステン酸化物超微粒子分散液を得る為に、後述する解砕、粉砕または分散された後の複合タングステン酸化物超微粒子のX線回折パターンである。そして、本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子やその分散液に含まれる複合タングステン酸化物超微粒子のX線回折パターンは、本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子分散体のX線回折パターンにおいても維持されている。
【0028】
尚、XRDピークトップ強度とは、X線回折パターンにおいて最もピークカウントが高い2θにおけるピーク強度である。そして、六方晶のCs複合タングステン酸化物やRb複合タングステン酸化物では、X線回折パターンにおけるピークカウントの2θは、25°〜31°の範囲に出現する。
【0029】
上述した複合タングステン酸化物超微粒子のXRDピークトップ強度は、当該超微粒子の結晶性と密接な関係があり、さらには当該超微粒子における自由電子密度と密接な関係がある。本発明者らは、当該XRDピークトップ強度が、当該複合タングステン酸化物超微粒子の近赤外線遮蔽特性に大きく影響を及ぼすことを知見したものである。具体的には、当該XRDピークトップ強度比の値が0.13以上をとることにより、当該超微粒子における自由電子密度が担保され、所望の近赤外線遮蔽特性が得られることを知見したものである。尚、当該XRDピークトップ強度比の値は0.13以上であれば良く、0.7以下であることが好ましい。
【0030】
前記複合タングステン酸化物超微粒子のXRDピークトップ強度について、異なる観点からも説明する。
前記複合タングステン酸化物超微粒子のXRDピークトップ比の値が0.13以上であることは、異相が殆ど含まれていない結晶性の良い複合タングステン酸化物超微粒子が得られていることを表す。即ち、得られる複合タングステン酸化物超微粒子がアモルファス(非晶質)化していないと考えられる。この結果、可視光を透過する有機溶媒などの液体媒体や、可視光を透過する樹脂などの固体媒体へ、当該異相が殆ど含まれていない複合タングステン酸化物超微粒子を分散させることにより、近赤外線遮蔽特性が十分得られると考えられる。
尚、本発明において「異相」とは、複合タングステン酸化物以外の化合物の相をいう。また、XRDピークトップ強度を測定する際に得られるX線回折パターンを解析することで、複合タングステン酸化物微粒子の結晶構造や結晶子径を求めることが出来る。
【0031】
(2)組成
そして、本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子は、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybの内から選択される1種以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.0<z/y≦3.0)で表記される、複合タングステン酸化物超微粒子であることが好ましい。
【0032】
当該一般式MxWyOzで示される複合タングステン酸化物超微粒子について説明する。
一般式MxWyOz中のM元素、x、y、zおよびその結晶構造は、複合タングステン酸化物超微粒子の自由電子密度と密接な関係があり、近赤外線遮蔽特性に大きな影響を及ぼす。
【0033】
一般に、三酸化タングステン(WO)中には有効な自由電子が存在しないため近赤外線遮蔽特性が低い。
ここで本発明者らは、当該タングステン酸化物へ、M元素(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、I、Ybの内から選択される1種以上の元素を添加して複合タングステン酸化物とすることで、当該複合タングステン酸化物中に自由電子が生成され、近赤外線領域に自由電子由来の遮蔽特性が発現し、波長1000nm付近の近赤外線遮蔽材料として有効なものとなり、且つ、当該複合タングステン酸化物は化学的に安定な状態を保ち、耐候性に優れた近赤外線遮蔽材料として有効なものとなることを知見したものである。さらに、M元素は、Cs、Rb、K、Tl,Ba、Cu、Al、Mn、Inが好ましいこと、なかでも、M元素がCs、Rbであると、当該複合タングステン酸化物が六方晶構造を取り易くなる。この結果、可視光線を透過し、近赤外線を吸収し遮蔽することから、後述する理由により特に好ましいことも知見したものである。
【0034】
ここで、M元素の添加量を示すxの値についての本発明者らの知見を説明する。
x/yの値が0.001以上であれば、十分な量の自由電子が生成され目的とする近赤外線遮蔽特性を得ることが出来る。そして、M元素の添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、近赤外線遮蔽特性も上昇するが、x/yの値が1程度で当該効果も飽和する。また、x/yの値が1以下であれば、複合タングステン超微粒子に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。
【0035】
次に、酸素量の制御を示すzの値についての本発明者らの知見を説明する。
一般式MxWyOzで示される複合タングステン酸化物超微粒子において、z/yの値は、2.0<z/y≦3.0であることが好ましく、より好ましくは2.2≦z/y≦3.0であり、さらに好ましくは2.6≦z/y≦3.0、最も好ましくは2.7≦z/y≦3.0である。このz/yの値が2.0以上であれば、当該複合タングステン酸化物中に目的以外であるWOの結晶相が現れるのを回避することが出来ると伴に、材料としての化学的安定性を得ることが出来るので、有効な赤外線遮蔽材料として適用できるためである。一方、このz/yの値が3.0以下であれば、当該タングステン酸化物中に必要とされる量の自由電子が生成され、効率よい赤外線遮蔽材料となる。
【0036】
(3)結晶構造
複合タングステン酸化物超微粒子は、六方晶以外に、正方晶、立方晶のタングステンブロンズの構造をとるが、いずれの構造をとるときも近赤外線遮蔽材料として有効である。しかしながら、当該複合タングステン酸化物微超粒子がとる結晶構造によって、近赤外線領域の遮蔽位置が変化する傾向がある。即ち、近赤外線領域の遮蔽位置は、立方晶よりも正方晶のときが長波長側に移動し、六方晶のときは正方晶のときよりも、さらに長波長側へ移動する傾向がある。また、当該遮蔽位置の変動に付随して、可視光線領域の遮蔽は六方晶が最も少なく、次に正方晶であり、立方晶はこの中では最も大きい。
以上の知見から、可視光領域の光をより透過させ、近赤外線領域の光をより遮蔽する用途には、六方晶のタングステンブロンズを用いることが最も好ましい。複合タングステン酸化物超微粒子が六方晶の結晶構造を有する場合、当該微粒子の可視光領域の透過が向上し、近赤外領域の遮蔽が向上する。
【0037】
即ち、複合タングステン酸化物において、XRDピークトップ強度比の値が上述した所定値を満たし、六方晶のタングステンブロンズであれば、優れた光学的特性が発揮される。また、複合タングステン酸化物超微粒子が、斜方晶の結晶構造をとっている場合や、マグネリ相と呼ばれるWO2.72と同様の単斜晶の結晶構造をとっている場合も、赤外線吸収に優れ、近外線遮蔽材料として有効なことがある。
【0038】
以上の知見より、六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物超微粒子が均一な結晶構造を有するとき、添加M元素の添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、更に好ましくは0.29≦x/y≦0.39である。理論的にはz/y=3の時、x/yの値が0.33となることで、添加M元素が六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0039】
さらに、複合タングステン酸化物超微粒子においては、体積比率が50%以上である単結晶であることが望ましく、別な言い方をすればアモルファス相の体積比率が50%未満である単結晶であることが好ましい。
複合タングステン酸化物超微粒子が、アモルファス相の体積比率50%未満である単結晶であると、XRDピークトップ強度を維持しながら結晶子径を200nm以下にすることが出来る。複合タングステン酸化物超微粒子の結晶子径を200nm以下とすることで、その分散粒子径を1nm以上200nm以下とすることが出来る。
これに対し、複合タングステン超微粒子において、分散粒子径が1nm以上200nm以下ではあるが、アモルファス相が体積比率で50%以上存在する場合や、多結晶の場合、当該複合タングステン超微粒子のXRDピークトップ強度比の値が0.13未満となり、結果的に、近赤外線吸収特性が不十分で近赤外線遮蔽特性を発現が不十分となる場合がある。
そして、複合タングステン酸化物超微粒子の結晶子径が200nm以下10nm以上であることが、より好ましい。結晶子径が200nm以下10nm以上の範囲であれば、XRDピークトップ強度比の値が0.13を超え、さらに優れた赤外線遮蔽特性が発揮されるからである。
尚、後述する解砕、粉砕または分散された後の複合タングステン酸化物超微粒子分散液中の複合タングステン酸化物超微粒子のX線回折パターンは、本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子分散液中の揮発成分を除去して得られた複合タングステン酸化物超微粒子のX線回折パターンや、前記分散液から得られる分散体中に含まれる複合タングステン酸化物超微粒子のX線回折パターンにおいても維持される。
結果的に、複合タングステン酸化物超微粒子分散液や該分散液から得られる複合タングステン超微粒子分散体中の複合タングステン酸化物超微粒子のXRDパターン、XRDピークトップ強度、結晶子径など結晶の状態が、本発明で用いることができる複合タングステン酸化物超微粒子の結晶の状態であれば、本発明の効果は発揮される。
【0040】
尚、複合タングステン酸化物超微粒子が単結晶であることは、透過型電子顕微鏡等の電子顕微鏡像において、各微粒子内部に結晶粒界が観察されず、一様な格子縞のみが観察されることから確認することができる。また、複合タングステン酸化物超微粒子においてアモルファス相の体積比率が50%未満であることは、同じく透過型電子顕微鏡像において、粒子全体に一様な格子縞が観察され、格子縞が不明瞭な箇所が殆ど観察されないことから確認することができる。アモルファス相は粒子外周部に存在する場合が多いので、粒子外周部に着目することで、アモルファス相の体積比率を算出可能な場合が多い。例えば、真球状の複合タングステン酸化物超微粒子において、格子縞が不明瞭なアモルファス相が当該粒子外周部に層状に存在する場合、その粒子径の20%以下の厚さであれば、当該複合タングステン酸化物超微粒子におけるアモルファス相の体積比率は、50%未満である。
一方、複合タングステン酸化物超微粒子が、複合タングステン酸化物超微粒子分散体を構成する塗布膜、塗布膜に所定の操作を施して当該塗布膜の樹脂を硬化させた膜(本発明において「硬化膜」と記載する場合がある。)、樹脂等の内部で分散している場合、当該分散している複合タングステン酸化物超微粒子の平均粒子径から結晶子径を引いた差の値が当該平均粒子径の20%以下であれば、当該複合タングステン酸化物超微粒子は、アモルファス相の体積比率50%未満の単結晶であると言える。
ここで、複合タングステン酸化物超微粒子の平均粒子径は、複合タングステン酸化物超微粒子分散体の透過型電子顕微鏡像から画像処理装置を用いて複合タングステン酸化物超微粒子100個の粒子径を測定し、その平均値を算出することで求めることが出来る。そして、複合タングステン酸化物超微粒子分散体に分散された複合タングステン酸化物超微粒子の平均粒子径と結晶子径との差が20%以下になるように、複合タングステン酸化物超微粒子の合成工程、粉砕工程、分散工程を、製造設備に応じて適宜調整すればよい。
【0041】
(4)BET比表面積
上述した複合タングステン酸化物超微粒子のBET比表面積は、当該超微粒子の粒度分布に密接な関係があるが、それと共に、当該超微粒子を原料とする近赤外線遮蔽分散液の生産性や、当該超微粒子自体の近赤外線遮蔽特性や光着色を抑制する耐光性に大きく影響する。
【0042】
当該超微粒子のBET比表面積が小さいことは、該超微粒子の結晶子径が大きいことを表している。よって、当該超微粒子のBET比表面積が所定値以上であれば、可視光領域で透明性があり、上述のブルーヘイズ現象を抑制できる近赤外線遮蔽分散液を製造するために、媒体攪拌ミルで長時間超微粒子を粉砕して微細化する必要が無く、前記近赤外線遮蔽分散液の生産性向上を実現できる。
【0043】
一方、当該超微粒子のBET比表面積が所定値以下、例えば、200m/g以下であることは、粒子形状が真球状と仮定したときのBET粒径が2nm以上になることを示しており、近赤外線遮蔽特性に寄与しない結晶子径1nm以下の超微粒子が殆ど存在していないことを意味している。よって、超微粒子のBET比表面積が所定値以下である場合は、その超微粒子の近赤外線遮蔽特性や耐光性が担保される。
【0044】
尤も、超微粒子のBET比表面積が200m/g以下であることに加え、上述したXRDピークトップ強度の値が所定値以上である場合に、近赤外線遮蔽特性に寄与しない結晶子径1nm以下の超微粒子が殆ど存在せず、結晶性の良い超微粒子が存在することになるので、超微粒子の近赤外線遮蔽特性や耐光性が担保されると考えられる。
【0045】
上述した複合タングステン酸化物超微粒子のBET比表面積の測定には、吸着に用いるガスとして、窒素ガス、アルゴンガス、クリプトンガス、キセノンガスなどが使用される。尤も、本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子のように、測定試料が粉体で、比表面積が0.1m/g以上の場合は、比較的取扱いが容易で低コストな窒素ガスを使用することが望ましい。複合タングステン酸化物超微粒子のBET比表面積は、30.0m/g以上120.0m/g以下とするのが良く、より好ましくは、30.0m/g以上90.0m/g以下、さらに好ましくは35.0m/g以上70.0m/g以下とするのが良い。複合タングステン酸化物超微粒子のBET比表面積は、複合タングステン酸化物超微粒子分散液を得る際の粉砕分散前後においても、上述の値であることが望ましい。
【0046】
(5)分散粒子径
複合タングステン酸化物超微粒子の分散粒子径は、200nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは、分散粒子径は、200nm以下10nm以上である。複合タングステン酸化物超微粒子の分散粒子径が、200nm以下であることが好ましいことは、複合タングステン酸化物超微粒子分散液中の複合タングステン酸化物超微粒子においても同様である。これは、当該複合タングステン酸化物超微粒子の結晶子径が、最大でも200nm以下であることが好ましいことに拠る。一方、当該複合タングステン酸化物超微粒子の近赤外線吸収特性の観点から、結晶粒径は1nm以上であることが好ましく、より好ましくは10nm以上である。
【0047】
(6)揮発成分
上述した複合タングステン酸化物超微粒子は、加熱により揮発する成分(本発明において「揮発成分」と記載する場合がある。)を含む場合がある。当該揮発成分とは、複合タングステン酸化物超微粒子が、保管雰囲気や大気中に暴露された際や、合成工程途中において吸着する成分のことである。ここで、当該揮発成分の具体例としては、水である場合や、後述する分散液の溶媒である場合があり、例えば150℃、またはそれ以下の加熱により、当該複合タングステン酸化物超微粒子から揮発する成分である。
【0048】
複合タングステン酸化物超微粒子における揮発成分とその含有率とは、当該超微粒子を大気等に暴露した際に吸着される水分量や、当該超微粒子の乾燥工程における溶媒残存量と関係している。そして、当該揮発成分とその含有率は、当該超微粒子を樹脂等に分散させる際の分散性に対して、大きく影響する場合がある。
例えば、後述する近赤外線吸収分散体に使用する樹脂と、当該超微粒子に吸着されている揮発成分との相溶性が悪い場合であって、さらに当該超微粒子において当該揮発成分含有量が多い場合、製造される近赤外線吸収分散体のヘイズ発生(透明性悪化)の原因となる可能性がある。また、製造される当該近赤外線吸収分散体が、長期間室外に設置され太陽光や風雨に暴露されたときに、複合タングステン酸化物超微粒子が近赤外線吸収分散体外へと脱離したり、膜の剥がれが生じたりする可能性がある。即ち、当該超微粒子と樹脂との相溶性悪化は、製造される当該近赤外線吸収分散体の劣化の原因となる。つまり、揮発成分を大量に含む複合タングステン酸化物超微粒子は、分散系に用いられる分散媒との相性によって、当該超微粒子の分散が良好であるか否かが、左右される可能性が有るということを意味する。従って、本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子において揮発成分含有率が所定量以下であれば、広い汎用性が発揮される。
【0049】
本発明者らの検討によれば、複合タングステン酸化物超微粒子において、揮発成分の含有率が2.5質量%以下であれば、当該超微粒子は殆どの分散系に用いられる分散媒に対して分散可能であり、汎用性のある複合タングステン酸化物超微粒子となることを知見した。
一方、当該揮発成分の含有率の下限には、特に制限はないことも知見した。
この結果、揮発成分の含有率が2.5質量%以下である超微粒子が過度に二次凝集していない場合であれば、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサーなどの混合機、及びバンバリーミキサー、ニーダー、ロール、一軸押出機、二軸押出機などの混練機で均一に混合(溶融混合も含む)する方法を用いて、当該超微粒子を樹脂等に分散可能となる。
【0050】
複合タングステン酸化物超微粒子における揮発成分の含有率は、熱分析により測定できる。具体的には、複合タングステン酸化物超微粒子が熱分解する温度より低く、且つ、揮発成分が揮発するよりも高い温度に、複合タングステン酸化物超微粒子試料を保持して重量減少を測定すればよい。また、揮発成分を特定する場合は、ガス質量分析を併用すればよい。
【0051】
(7)まとめ
以上、詳細に説明した、複合タングステン酸化物超微粒子のXRDピークトップ強度の値やBET比表面積は、所定の製造条件によって制御可能である。具体的には、熱プラズマ法や固相反応法などで該超微粒子が生成される際の温度(焼成温度)、生成時間(焼成時間)、生成雰囲気(焼成雰囲気)、前駆体原料の形態、生成後のアニール処理、不純物元素のドープなどの製造条件の適宜な設定によって制御可能である。一方、複合タングステン酸化物超微粒子の揮発成分の含有率は、当該超微粒子の保存方法や保存雰囲気、当該超微粒子分散液を乾燥させる際の温度、乾燥時間、乾燥方法などの製造条件の適宜な設定によって制御可能である。尚、複合タングステン酸化物超微粒子の揮発成分の含有率は、複合タングステン酸化物超微粒子の結晶構造や、後述する熱プラズマ法や固相反応等の合成方法に依存しない。
【0052】
[b]複合タングステン酸化物超微粒子の合成方法
本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子の合成方法について説明する。
本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子の合成方法としては、熱プラズマ中にタングステン化合物出発原料を投入する熱プラズマ法や、タングステン化合物出発原料を還元性ガス雰囲気中で熱処理する固相反応法が挙げられる。熱プラズマ法や固相反応法で合成された複合タングステン酸化物微粒子は、分散処理または粉砕・分散処理される。
以下、(1)熱プラズマ法、(2)固相反応法、(3)合成された複合タングステン酸化物超微粒子、の順に説明する。
【0053】
(1)熱プラズマ法
熱プラズマ法について(i)熱プラズマ法に用いる原料、(ii)熱プラズマ法とその条件、の順に説明する。
【0054】
(i)熱プラズマ法に用いる原料
本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子を熱プラズマ法で合成する際には、タングステン化合物と、M元素化合物との混合粉体を原料として用いることができる。
タングステン化合物としては、タングステン酸(HWO)、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、アルコールに溶解した六塩化タングステンに水を添加して加水分解した後溶媒を蒸発させたタングステンの水和物、から選ばれる1種以上であることが好ましい。
また、M元素化合物としては、M元素の酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩、から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
【0055】
上述したタングステン化合物と上述したM元素化合物とを含む水溶液とを、M元素とW元素の比が、MxWyOz(但し、Mは前記M元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1.0、2.0<z/y≦3.0)のM元素とW元素の比となるように湿式混合する。そして、得られた混合液を乾燥することによって、M元素化合物とタングステン化合物との混合粉体が得られる、そして、当該混合粉体は、熱プラズマ法の原料とすることが出来る。
【0056】
また、当該混合粉体を、不活性ガス単独または不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下にて、1段階目の焼成によって得られる複合タングステン酸化物を、熱プラズマ法の原料とすることもできる。他にも、1段階目で不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下で焼成し、当該1段階目の焼成物を、2段階目にて不活性ガス雰囲気下で焼成する、という2段階の焼成によって得られる複合タングステン酸化物を、熱プラズマ法の原料とすることも出来る。
【0057】
(ii)熱プラズマ法とその条件
本発明で用いる熱プラズマとして、例えば、直流アークプラズマ、高周波プラズマ、マイクロ波プラズマ、低周波交流プラズマ、のいずれか、または、これらのプラズマの重畳したもの、または、直流プラズマに磁場を印加した電気的な方法により生成するプラズマ、大出力レーザーの照射により生成するプラズマ、大出力電子ビームやイオンビームにより生成するプラズマ、が適用出来る。尤も、いずれの熱プラズマを用いるにしても、10000〜15000Kの高温部を有する熱プラズマであり、特に、超微粒子の生成時間を制御できるプラズマであることが好ましい。
【0058】
当該高温部を有する熱プラズマ中に供給された原料は、当該高温部において瞬時に蒸発する。そして、当該蒸発した原料は、プラズマ尾炎部に至る過程で凝縮し、プラズマ火炎外で急冷凝固されて、複合タングステン酸化物超微粒子を生成する。
【0059】
高周波プラズマ反応装置を用いる場合を例として、図1を参照しながら合成方法について説明する。
【0060】
先ず、真空排気装置により、水冷石英二重管内と反応容器6内とで構成される反応系内を、約0.1Pa(約0.001Torr)まで真空引きする。反応系内を真空引きした後、今度は、当該反応系内をアルゴンガスで満たし、1気圧のアルゴンガス流通系とする。
その後、反応容器内にプラズマガスとして、アルゴンガス、アルゴンとヘリウムの混合ガス(Ar−He混合ガス)、またはアルゴンと窒素の混合ガス(Ar−N混合ガス)から選択されるいずれかのガスを30〜45L/minの流量で導入する。一方、プラズマ領域のすぐ外側に流すシースガスとして、Ar−He混合ガスを60〜70L/minの流量で導入する。
そして、高周波コイル2に交流電流をかけて、高周波電磁場(周波数4MHz)により熱プラズマを発生させる。このとき、プレート電力は30〜40kWとする。
【0061】
さらに、粉末供給ノズル5より、上記合成方法で得たM元素化合物とタングステン化合物との混合粉体、または、複合タングステン酸化物を、ガス供給装置から供給する6〜98L/minのアルゴンガスをキャリアガスとして、供給速度25〜50g/minの割合で,熱プラズマ中に導入して所定時間反応を行う。反応後、生成した複合タングステン酸化物超微粒子は,フィルター8に堆積するので、これを回収する。
【0062】
キャリアガス流量と原料供給速度は、超微粒子の生成時間に大きく影響する。そこで、キャリアガス流量を6L/min以上9L/min以下とし、原料供給速度を25〜50g/minとするのが好ましい。
また、プラズマガス流量を30L/min以上45L/min以下、シースガス流量を60L/min以上70L/min以下とすることが好ましい。プラズマガスは10000〜15000Kの高温部を有する熱プラズマ領域を保つ機能があり、シースガスは反応容器内における石英トーチの内壁面を冷やし、石英トーチの溶融を防止する機能がある。それと同時に、プラズマガスとシースガスはプラズマ領域の形状に影響を及ぼすため、それらのガスの流量はプラズマ領域の形状制御に重要なパラメータとなる。プラズマガスとシースガス流量を上げるほどプラズマ領域の形状がガスの流れ方向に延び、プラズマ尾炎部の温度勾配が緩やかなるので、生成される超微粒子の生成時間を長くし、結晶性の良い超微粒子を生成できるようになる。これにより、本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子のXRDピークトップ強度比の値を所望の値とすることが出来る。逆に、プラズマガスとシースガス流量を下げるほどプラズマ領域の形状がガスの流れ方向に縮み、プラズマ尾炎部の温度勾配が急になるので、生成される超微粒子の生成時間を短くし、BET比表面積の大きい超微粒子を生成できるようになる。これにより本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子のXRDピークトップ強度の比の値を所定の値に設定することが出来る。
熱プラズマ法で合成し得られる複合タングステン酸化物が、その結晶子径が200nmを超える場合や、熱プラズマ法で合成し得られる複合タングステン酸化物から得られる複合タングステン酸化物超微粒子分散液中の複合タングステン酸化物の分散粒子径が200nmを超える場合は、後述する、粉砕・分散処理を行うことができる。熱プラズマ法で複合タングステン酸化物を合成する場合は、そのプラズマ条件や、その後の粉砕・分散処理条件を適宜選択して、XRDピークトップ強度比の値が0.13以上となるようして、複合タングステン酸化物超微粒子分散液の被膜の複合タングステン酸化物超微粒子分散体の複合タングステン酸化物超微粒子の平均粒子径と結晶子径の差が20%以下となるようにすれば、本発明の効果が発揮される。
【0063】
(2)固相反応法
固相反応法について(i)固相反応法に用いる原料、(ii)固相反応法における焼成とその条件、の順に説明する。
【0064】
(i)固相反応法に用いる原料
本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子を固相反応法で合成する際には、原料としてタングステン化合物およびM元素化合物を用いる。
タングステン化合物は、タングステン酸(HWO)、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、アルコールに溶解した六塩化タングステンに水を添加して加水分解した後、溶媒を蒸発させたタングステンの水和物、から選ばれる1種以上であることが好ましい。
また、より好ましい実施形態である一般式MxWyOz(但し、Mは、Cs、Rb、K、Tl、Baから選択される1種類以上の元素、0.001≦x/y≦1、2.0<z/y≦3.0)で示される複合タングステン酸化物超微粒子の原料の製造に用いるM元素化合物には、M元素の酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩、から選ばれる1種以上であることが好ましい。
また、Si、Al、Zrから選ばれる1種以上の不純物元素を含有する化合物(本発明において「不純物元素化合物」と記載する場合がある。)を、原料として含んでもよい。当該不純物元素化合物は、後の焼成工程において複合タングステン化合物と反応せず、複合タングステン酸化物の結晶成長を抑制して、結晶の粗大化を防ぐ働きをするものである。不純物元素を含む化合物は、酸化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、炭酸塩、から選ばれる1種以上であることが好ましく、粒径が500nm以下のコロイダルシリカやコロイダルアルミナが特に好ましい。
【0065】
上記タングステン化合物と、上記M元素化合物を含む水溶液とを、M元素とW元素の比が、MxWyOz(但し、Mは前記M元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1.0、2.0<z/y≦3.0)のM元素とW元素の比となるように湿式混合する。不純物元素化合物を原料として含有させる場合は、不純物元素化合物が0.5質量%以下になるように湿式混合する。そして、得られた混合液を乾燥することによって、M元素化合物とタングステン化合物との混合粉体、もしくは不純物元素化合物を含むM元素化合物とタングステン化合物との混合粉体が得られる。
【0066】
(ii)固相反応法における焼成とその条件
当該湿式混合で製造したM元素化合物とタングステン化合物との混合粉体、もしくは不純物元素化合物を含むM元素化合物とタングステン化合物との混合粉体を、不活性ガス単独または不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下、1段階で焼成する。このとき、焼成温度は複合タングステン酸化物超微粒子が結晶化し始める温度に近いことが好ましく、具体的には焼成温度が1000℃以下であることが好ましく、800℃以下であることがより好ましく、800℃以下500℃以上の温度範囲がさらに好ましい。この焼成温度の制御により、本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子のXRDピークトップ強度の比の値を所定の値に設定することが出来る。
尤も、当該複合タングステン酸化物超微粒子の合成において、前記タングステン化合物に替えて、三酸化タングステンを用いても良い。
【0067】
(3)合成された複合タングステン酸化物超微粒子
熱プラズマ法や固相反応法による合成法で得られた複合タングステン酸化物超微粒子を用いて、後述する複合タングステン酸化物超微粒子分散液を作製した場合、当該分散液に含有されている超微粒子の分散粒子径が、200nmを超える場合は、後述する複合タングステン酸化物微粒子分散液を製造する工程において、粉砕・分散処理すればよい。そして、粉砕・分散処理を経て得られた複合タングステン酸化物超微粒子のXRDピークトップ強度の比の値が、本発明の範囲を実現できていれば、本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子やその分散液から得られる複合タングステン酸化物超微粒子分散体は、優れた近赤外線遮蔽特性を実現できるのである。
【0068】
[c]複合タングステン酸化物超微粒子の揮発成分とその乾燥処理方法
上述したように、本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子は、揮発成分を含む場合があるが、当該揮発成分の含有率は2.5質量%以下であることが好ましい。しかし、複合タングステン酸化物超微粒子が大気中に暴露されるなどして、揮発成分の含有率が2.5質量%を超えた場合は、乾燥処理により当該揮発成分の含有率を低減させることが出来る。
具体的には、上述の方法で合成された複合タングステン酸化物を、粉砕・分散処理して微粒化し、複合タングステン酸化物超微粒子分散液を製造する工程(粉砕・分散処理工程)と、製造された複合タングステン酸化物超微粒子分散液を乾燥処理して溶媒を除去する工程(乾燥工程)とを経ることで、本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子を製造することができる。
【0069】
粉砕分散工程に関しては、後述する「[d]複合タングステン酸化物超微粒子分散液」の項目で詳細に記述するため、ここでは乾燥処理の工程について説明する。
当該乾燥処理の工程は、後述する粉砕分散工程で得られる複合タングステン酸化物超微粒子分散液を、乾燥処理して当該分散液中の揮発成分を除去し、本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子を得るものである。
【0070】
乾燥処理の設備としては、加熱および/または減圧が可能で、当該超微粒子の混合や回収がし易いという観点から、大気乾燥機、万能混合機、リボン式混合機、真空流動乾燥機、振動流動乾燥機、凍結乾燥機、リボコーン、ロータリーキルン、噴霧乾燥機、パルコン乾燥機、等が好ましいが、これらに限定されない。
以下、その一例として、(1)大気乾燥機による乾燥処理、(2)真空流動乾燥機による乾燥処理、(3)噴霧乾燥機による乾燥処理、について説明する。以下、それぞれの乾燥処理について順に説明する。
【0071】
(1)大気乾燥機による乾燥処理
後述する方法で得られた複合タングステン酸化物超微粒子分散液を、大気乾燥機によって乾燥処理して当該分散液中の揮発成分を除去する処理方法である。この場合、複合タングステン酸化物超微粒子から当該揮発成分が揮発するよりも高い温度であって、元素Mが脱離しない温度で乾燥処理することが望ましく、150℃以下であることが望ましい。
当該大気乾燥機により、乾燥処理して製造した複合タングステン酸化物超微粒子は、弱い二次凝集体となっている。この状態でも、当該複合タングステン酸化物超微粒子を樹脂等に分散させることは可能であるが、より分散し易くするために、当該超微粒子を擂潰機等によって解砕することも好ましい一例である。
【0072】
(2)真空流動乾燥機による乾燥処理
真空流動乾燥機による乾燥処理を行うことで、複合タングステン酸化物超微粒子分散液中の揮発成分を除去する処理方法である。当該真空流動乾燥機では、減圧雰囲気下で乾燥と解砕の処理を同時に行うため、乾燥速度が速い上に、上述した大気乾燥機での乾燥処理品に見られるような凝集体を形成しない。また、減圧雰囲気下での乾燥のため、比較的低温でも揮発成分を除去することができ、残存する揮発成分量も限りなく少なくすることができる。
乾燥温度は複合タングステン酸化物超微粒子から元素Mが脱離しない温度で乾燥処理することが望ましく、当該揮発成分が揮発するよりも高い温度であって、150℃以下であることが望ましい。
【0073】
(3)噴霧乾燥機による乾燥処理
噴霧乾燥機による乾燥処理を行うことで、複合タングステン酸化物超微粒子分散液の揮発成分を除去する処理方法である。当該噴霧乾燥機では、乾燥処理における揮発成分除去の際に、揮発成分の表面力に起因する二次凝集が発生しにくく、解砕処理を施さずとも比較的二次凝集していない複合タングステン酸化物超微粒子が得られる。
【0074】
上述した(1)〜(3)に係る乾燥処理を施した複合タングステン酸化物超微粒子を、適宜な方法で樹脂等に分散させることで、高い可視光透過率と、近赤外線吸収機能の発現による低い日射透過率を有しながら、ヘイズ値が低いという光学特性を有する近赤外線遮蔽材料微粒子分散体である複合タングステン酸化物超微粒子分散体を形成することができる。
【0075】
[d]複合タングステン酸化物超微粒子分散液
本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子分散液は、上述した合成製造方法で得られた複合タングステン酸化物超微粒子と、水、有機溶媒、油脂、液状樹脂、プラスチック用の液状可塑剤、高分子単量体またはこれらの混合物から選択される混合スラリーの液状媒体、および適量の分散剤、カップリング剤、界面活性剤等を、媒体攪拌ミルで粉砕、分散させたものである。
そして、当該溶媒中における複合タングステン酸化物超微粒子の分散状態が良好で、その分散粒子径が1〜200nmであることが好ましい。また、当該複合タングステン酸化物超微粒子分散液に含有されている複合タングステン酸化物超微粒子の含有量が、0.01質量%以上80質量%以下であることが好ましい。
以下、本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子分散液について(1)溶媒、(2)分散剤、(3)分散方法、(4)バインダー、(5)添加剤、(6)コーティング膜、(7)塗布方法、(8)基材樹脂への混合方法、の順に説明する。
【0076】
(1)溶媒
複合タングステン酸化物超微粒子分散液に用いられる液状溶媒は特に限定されるものではなく、複合タングステン酸化物超微粒子分散液の塗布条件、塗布環境、および、適宜添加される無機バインダーや樹脂バインダーなどに合わせて適宜選択すればよい。例えば、液状溶媒は、水、有機溶媒、油脂、液状樹脂、プラスチック用の液状可塑剤、高分子単量体または、これらの混合物などである。
【0077】
ここで、有機溶媒としては、アルコール系、ケトン系、炭化水素系、グリコール系、水系など、種々のものを選択することが可能である。具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコールなどのアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン系溶剤;3−メチル−メトキシ−プロピオネートなどのエステル系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテートなどのグリコール誘導体;フォルムアミド、N−メチルフォルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;エチレンクロライド、クロルベンゼンなどが使用可能である。そして、これらの有機溶媒中でも、特に、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸n−ブチルなどが好ましい。
以上、説明した溶媒は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。さらに、必要に応じて、これらの溶媒へ酸やアルカリを添加してpH調整してもよい。
【0078】
油脂としては、植物油脂または植物由来油脂が好ましい。植物油としては、アマニ油、ヒマワリ油、桐油、エノ油等の乾性油、ゴマ油、綿実油、菜種油、大豆油、米糠油、ケシ油等の半乾性油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、脱水ヒマシ油等の不乾性油が好ましく用いられる。植物油由来の化合物としては、植物油の脂肪酸とモノアルコールを直接エステル反応させた脂肪酸モノエステル、エーテル類などが好ましく用いられる。また、市販の石油系溶剤も油脂として用いることができ、好ましい例として、アイソパーE、エクソールHexane、エクソールHeptane、エクソールE、エクソールD30、エクソールD40、エクソールD60、エクソールD80、エクソールD95、エクソールD110、エクソールD130(以上、エクソンモービル製)等を挙げることができる。
プラスチック用の液状可塑剤としては、カルボン酸エステル系やリン酸エステル系等に代表される公知の液状可塑剤を用いることができる。
高分子単量体としては、重合等により高分子を形成する。本発明で用いることがメチルメタクリレート単量体、アクレリート単量体やスチレン樹脂単量体などが挙げられる。
【0079】
(2)分散剤
さらに、当該複合タングステン酸化物超微粒子分散液中における複合タングステン酸化物超微粒子の分散安定性を一層向上させ、再凝集による分散粒子径の粗大化を回避するために、各種の分散剤、界面活性剤、カップリング剤などを添加することも好ましい。当該分散剤、カップリング剤、界面活性剤は用途に合わせて選定可能であるが、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、または、エポキシ基を官能基として有するものであることが好ましい。これらの官能基のいずれかを分子中にもつ高分子系分散剤は、さらに望ましい。
これらの官能基は、複合タングステン酸化物超微粒子の表面に吸着して凝集を防ぎ、近赤外線遮蔽膜中においても本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子を均一に分散させる効果を持つ。
【0080】
(3)分散方法
当該複合タングステン酸化物超微粒子分散液を、適宜な方法で透明基材上に塗布、または、基材に練り込むことで、高い可視光透過率と、低い日射透過率を有しながら、ヘイズ値が低いという近赤外線遮蔽特性を有する複合タングステン酸化物超微粒子分散体を形成することができる。
【0081】
複合タングステン酸化物超微粒子の分散液への分散方法は、当該微粒子を分散液中において、凝集させることなく均一に分散できる方法であれば特に限定されない。当該分散方法として、例えば、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェイカー、超音波ホモジナイザーなどの装置を用いた分散処理方法が挙げられる。その中でも、媒体メディア(ビーズ、ボール、オタワサンド)を用いるビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェイカー等の媒体攪拌ミルで粉砕、分散させることが所望とする分散粒子径に要する時間が短いことから好ましい。媒体攪拌ミルを用いた粉砕・分散処理によって、複合タングステン酸化物超微粒子の分散液中への分散と同時に、複合タングステン酸化物超微粒子同士の衝突や媒体メディアの該超微粒子への衝突などによる微粒子化も進行し、複合タングステン酸化物超微粒子をより微粒子化して分散させることができる(即ち、粉砕・分散処理される。)。
【0082】
複合タングステン酸化物超微粒子の分散粒子径が、1〜200nmであれば、幾何学散乱またはミー散乱によって波長380nm〜780nmの可視光線領域の光を散乱することがないので、後述する複合タングステン酸化物超微粒子分散体において、曇り(ヘイズ)が減少し、可視光透過率の増加を図ることが出来るので好ましい。さらに、レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に反比例して低減するため、分散粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上する。そこで、分散粒子径が200nm以下となると、散乱光は非常に少なくなり、ブルーヘイズ現象を抑制できるため、より透明性が増すことになり好ましい。
【0083】
ここで、複合タングステン酸化物超微粒子分散液中における、当該複合タングステン酸化物超微粒子の分散粒子径について簡単に説明する。複合タングステン酸化物超微粒子の分散粒子径とは、溶媒中に分散している複合タングステン酸化物超微粒子の単体粒子や、当該複合タングステン酸化物超微粒子が凝集した凝集粒子の粒子径を意味するものであり、市販されている種々の粒度分布計で測定することができる。例えば、当該複合タングステン酸化物超微粒子分散液のサンプルを採取し、当該サンプルを、動的光散乱法に基づく粒径測定装置(大塚電子株式会社製ELS−8000)を用いて測定することができる。
【0084】
また、上記の合成製造方法で得られる複合タングステン酸化物超微粒子の含有量が0.01質量%以上80質量%以下である複合タングステン酸化物超微粒子分散液は、液安定性に優れる。適切な液状媒体や、分散剤、カップリング剤、界面活性剤を選択した場合は、温度40℃の恒温槽に入れたときでも6ヶ月以上分散液のゲル化や粒子の沈降が発生せず、分散粒子径を1〜200nmの範囲に維持できる。
【0085】
(4)バインダー
当該複合タングステン酸化物超微粒子分散液を透明基材上に塗布し固着させて被膜形成した複合タングステン酸化物超微粒子分散体は、基材上に複合タングステン酸化物超微粒子のみが堆積した膜の構造になる。この膜は、このままでも近赤外線遮蔽効果を示すが、上述した複合タングステン酸化物超微粒子分散液の製造工程において、複合タングステン酸化物超微粒子の分散時に無機バインダー、樹脂バインダーから選ばれる1種以上を添加するのも好ましい構成である。複合タングステン酸化物超微粒子分散液へ当該バインダーを添加することで、製造される複合タングステン酸化物超微粒子分散体において、当該バインダーの添加量の加減による可視光透過率などの光学特性制御が可能になると伴に、基材上へ塗布、硬化後における複合タングステン酸化物超微粒子の基材への密着性が向上し、さらに膜の硬度を向上させる効果があるからである。
【0086】
当該複合タングステン酸化物超微粒子分散液には、適宜、無機バインダー、樹脂バインダーから選ばれる1種以上を含有させることができる。当該複合タングステン酸化物超微粒子分散液に含有させる無機バインダーや樹脂バインダーの種類は特に限定されるものではない。無機バインダーとしては、珪素、ジルコニウム、チタン、若しくは、アルミニウムの金属アルコキシドやこれらの部分加水分解縮重合物、または、オルガノシラザンが、適用できる。樹脂バインダーとしては、UV硬化樹脂、熱硬化樹脂、電子線硬化樹脂、常温硬化樹脂、熱可塑樹脂等が目的に応じて選定可能である。具体的には、アクリル樹脂などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、フッ素樹脂、アイオノマー樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、PET樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、オレフィン樹脂などが適用できる。
【0087】
(5)添加剤
また、本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子分散体の近赤外線遮蔽特性を向上させるために、本発明に係る分散液へ一般式XBm(但し、Xはアルカリ土類元素、またはイットリウムを含む希土類元素から選ばれた金属元素、4≦m≦6.3)で表されるホウ化物超微粒子を、所望に応じて適宜添加することも好ましい構成である。尚、このときの添加割合は、所望とする近赤外線遮蔽特性に応じて適宜選択すればよい。
また、複合タングステン酸化物超微粒子分散体の色調を調整する為に、カーボンブラックや弁柄等の、公知の無機顔料や公知の有機顔料も添加できる。
複合タングステン酸化物超微粒子分散液には、公知の紫外線吸収剤や有機物の公知の近赤外線遮蔽材やリン系の着色防止剤を添加してもよい。
【0088】
(6)コーティング膜
基材上に複合タングステン酸化物超微粒子分散液が被膜形成した膜上へ、珪素、ジルコニウム、チタン、アルミニウムのいずれか1種以上を含むアルコキシド、および/または、当該アルコキシドの部分加水分解縮重合物、を含有する塗布液を塗布した後、加熱することで、当該膜上へ、珪素、ジルコニウム、チタン、アルミニウムのいずれか1種以上を含む酸化物のコーティング膜を形成し、多層膜とするのも好ましい構成である。当該構成を採ることにより、コーティングされた成分が、第1層である複合タングステン酸化物超微粒子の堆積した間隙を埋めて成膜され、可視光の屈折を抑制するために、膜のヘイズ値がより低減して可視光透過率が向上し、また複合タングステン酸化物超微粒子の基材への結着性が向上するからである。ここで、複合タングステン酸化物超微粒子単体あるいは複合タングステン酸化物超微粒子を主成分とする膜上に、珪素、ジルコニウム、チタン、アルミニウムのいずれか1種以上を含むアルコキシドや、これらの部分加水分解縮重合物からなるコーティング膜を形成する方法としては、成膜操作の容易さやコストの観点から塗布法が便宜である。
【0089】
上記塗布法に用いるコーティング液としては、水やアルコールなどの溶媒中に、珪素、ジルコニウム、チタン、アルミニウムのいずれか1種以上を含むアルコキシドや、当該アルコキシドの部分加水分解縮重合物を1種以上含むものである。その含有量は、加熱後に得られるコーティング中の酸化物換算で40質量%以下が好ましい。また、必要に応じて酸やアルカリを添加してpH調整することも好ましい。当該コーティング液を、複合タングステン酸化物超微粒子を主成分とする膜上に、第2層として塗布し加熱することで、珪素、ジルコニウム、チタン、アルミニウムなどの酸化物被膜を容易に形成することが可能である。さらに加えて、本発明に係る塗布液に使用するバインダー成分またはコーティング液の成分として、オルガノシラザン溶液を用いるのも好ましい。
【0090】
(7)塗布方法
無機バインダーやコーティング膜として、珪素、ジルコニウム、チタン、もしくはアルミニウムの金属アルコキシドおよびその加水分解重合物を含む複合タングステン酸化物超微粒子分散液の塗布後の基材加熱温度は、100℃以上が好ましく、さらに好ましくは塗布液中の溶媒の沸点以上で加熱を行う。これは、基材加熱温度が100℃以上であると、塗膜中に含まれる金属アルコキシドまたは当該金属アルコキシドの加水分解重合物の重合反応が完結出来るからである。また、基材加熱温度が100℃以上であると、溶媒である水や有機溶媒が膜中に残留することがないので、加熱後の膜において、これら溶媒が可視光透過率低減の原因とならないからである。
【0091】
複合タングステン酸化物超微粒子分散液に樹脂バインダーを添加した場合は、それぞれの樹脂の硬化方法に従って硬化させればよい。例えば、樹脂バインダーが紫外線硬化樹脂であれば、適宜、紫外線を照射すればよく、また、常温硬化樹脂であれば塗布後そのまま放置しておけばよい。この構成を採ると、既存の窓ガラスなどへの現場での塗布が可能である。
【0092】
本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子分散液、および前記コーティング液の塗布方法は特に限定されない。例えば、スピンコート法、バーコート法、スプレーコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、ロールコート法、流し塗りなど、処理液を平坦かつ薄く均一に塗布する方法が好ましく適用できる。
【0093】
(8)基材樹脂への混合方法
また、上述した基材への塗布とは別に、本発明に係る複合タングステン酸化物超微粒子や複合タングステン酸化物超微粒子分散液を、基材樹脂へ混合して練り込むことも出来る。
基材の樹脂へ、上述した複合タングステン酸化物超微粒子または複合タングステン酸化物超微粒子分散液を練り込むときは、当該複合タングステン酸化物超微粒子が樹脂中に均一に分散する方法であれば公知の方法を適宜選択すればよい。さらに、当該樹脂の融点付近の温度で溶融混合した後ペレット化し、公知の各方式で板状、シート状、またはフィルム状、等、種々の形状に成形することが可能である。
当該樹脂としては、例えばPET樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例を参照しながら本発明を具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
尚、実施例および比較例中の分散液、塗布膜および硬化膜の光学特性は、分光光度計(日立製作所株式会社製U−4100)を用いて測定し、可視光透過率と日射透過率は、JISR3106に従って算出した。また、分散粒子径は、動的光散乱法に基づく粒径測定装置(大塚電子株式会社製ELS−8000)により測定した平均値をもって示した。複合タングステン酸化物超微粒子分散体である硬化膜中に分散された複合タングステン酸化物超微粒子の平均粒子径は、当該硬化膜の断面の透過型電子顕微鏡像を観察することによって測定した。透過型電子顕微鏡像は、透過型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 HF−2200)を用いて観察した。当該透過型電子顕微鏡像を画像処理装置にて処理し、複合タングステン酸化物超微粒子100個の粒子径を測定して、その平均値を平均粒子径とした。X線回折パターンは、粉末X線回折装置(スペクトリス株式会社PANalytical製X‘Pert−PRO/MPD)を用いて粉末X線回折法(θ―2θ法)により測定した。また、客観的な定量性を確保するため、複合タングステン酸化物超微粒子のX線回折パターンの測定毎に、シリコン粉末標準試料のX線回折パターンの測定を実施して、都度ピーク強度の比を算出した。
【0095】
[実施例1]
水0.330kgにCsCO0.216kgを溶解し、これをHWO1.000kgに添加して十分攪拌した後、乾燥し、狙いの組成であるCs0.33WO混合粉体を得た。
【0096】
次に、上記図1にて説明した高周波プラズマ反応装置を用い、真空排気装置により反応系内を約0.1Pa(約0.001Torr)まで真空引きした後、アルゴンガスで完全に置換して1気圧の流通系とした。その後、反応容器内にプラズマガスとしてアルゴンガスを30L/minの流量で導入し、シースガスとしてシースガス供給口より螺旋状にアルゴンガス55L/minとヘリウムガス5L/minの流量で導入した。そして、高周波プラズマ発生用の水冷銅コイルに高周波電力を印加し、高周波プラズマを発生させた。このとき、10000〜15000Kの高温部を有している熱プラズマを発生させるため、高周波電力は40KWとした。
【0097】
こうして、高周波プラズマを発生させた後、キャリアガスとして、アルゴンガスをガス供給装置から9L/minの流量で供給しながら、上記混合粉体を50g/minの割合で熱プラズマ中に供給した。
その結果、混合粉体は熱プラズマ中にて瞬時に蒸発し、プラズマ尾炎部に至る過程で急冷凝固して超微粒化した。当該生成した超微粒子は、回収フィルターに堆積した。
【0098】
当該堆積した超微粒子を回収し、粉末X線回折装置(スペクトリス株式会社PANalytical製X‘Pert−PRO/MPD)を用いて粉末X線回折法(θ―2θ法)によりX線回折パターンを測定した。
【0099】
得られた超微粒子のX線回折パターンを図2に示す。相の同定を行った結果、得られた超微粒子は六方晶Cs0.33WO単相と同定された。さらに当該X線回折パターンを用いて、リートベルト解析法による結晶構造解析を行ったところ、得られた超微粒子の結晶子径は18.8nmであった。さらに得られた超微粒子のX線回折パターンのピークトップ強度の値は、4200カウントであった。
【0100】
得られた超微粒子の組成を、ICP発光分析法により調べた。その結果、Cs濃度が13.6質量%、W濃度が65.3質量%であり、Cs/Wのモル比は0.29であった。CsとW以外の残部は酸素であり、1質量%以上含有されるその他不純物元素は存在していないことを確認した。
【0101】
得られた超微粒子のBET比表面積を、BET比表面積測定装置(Mountech製HMmodel−1208)を用いて測定したところ、60.0m/gであった。尚、BET比表面積の測定には純度99.9%の窒素ガスを使用した。
【0102】
また、実施例1に係る複合タングステン酸化物超微粒子の揮発成分の含有率を、水分計(島津製作所株式会社製MOC63u)を用いて測定したところ1.6質量%であった。尚、測定開始1分間で室温から温度125℃まで昇温させ、温度125℃で9分間キープし、測定開始から10分間後の重量減少率を揮発成分の含有率とした。
【0103】
得られた複合タングステン酸化物超微粒子を20重量部と、メチルイソブチルケトン64重量部と、官能基としてアミンを含有する基を有するアクリル系高分子分散剤(アミン価48mgKOH/g、分解温度250℃のアクリル系分散剤)(以下、「分散剤a」と記載する。)16重量部を混合し、3kgのスラリーを調製した。このスラリーをビーズと共に媒体攪拌ミルに投入し、1時間粉砕分散処理を行った。尚、媒体攪拌ミルは横型円筒形のアニュラータイプ(アシザワ株式会社製)を使用し、ベッセル内壁とローター(回転攪拌部)の材質はジルコニアとした。また、ビーズには、直径0.1mmのYSZ(Yttria-Stabilized Zirconia:イットリア安定化ジルコニア)製のビーズを使用した。ローターの回転速度は14rpm/秒とし、スラリー流量0.5kg/minにて粉砕分散処理を行い、実施例1に係る複合タングステン酸化物超微粒子分散液を得た。
【0104】
実施例1に係る複合タングステン酸化物超微粒子分散液に含まれる複合タングステン酸化物超微粒子、すなわち粉砕分散処理後の複合タングステン酸化物超微粒子のX線回折パターンにおけるピークトップ強度の値は3000カウント、ピーク位置は2θ=27.8°であった。
一方、シリコン粉末標準試料(NIST製、640c)を準備し、当該シリコン粉末標準試料における(220)面を基準としたピーク強度の値を測定したところ、19800カウントであった。従って、当該標準試料のピーク強度の値を1としたときの、実施例1に係る粉砕分散処理後の複合タングステン酸化物超微粒子のXRDピーク強度の比の値は0.15であることが判明した。
また、実施例1に係る粉砕分散処理後の複合タングステン酸化物超微粒子の結晶子径は16.9nmであった。
【0105】
さらに、実施例1に係る複合タングステン酸化物超微粒子分散液の分散粒子径を、動的光散乱法に基づく粒径測定装置(大塚電子株式会社製ELS−8000)を用いて測定したところ、70nmであった。尚、粒径測定の設定として、粒子屈折率は1.81とし、粒子形状は非球形とした。また、バックグラウンドは、メチルイソブチルケトンを用いて測定し、溶媒屈折率は1.40とした。
【0106】
次に、得られた複合タングステン酸化物超微粒子分散液をメチルイソブチルケトンで分光光度計の測定用ガラスセルにて可視光透過率が70%となるように希釈し、分光光度計(日立製作所製U−4100)により波長200nm〜2600nmの範囲において5nmの間隔で測定して日射透過率を算出したところ、34.8%であった。尚、可視光透過率、日射透過率はJISR3106に基づき算出した。また、当該測定において、分光光度計の光の入射方向は測定用ガラスセルに垂直な方向とした。また、当該測定用ガラスセルに溶媒のメチルイソブチルケトンのみを入れたブランク液を、光の透過率のベースラインとしている。
【0107】
[実施例2]
実施例1で得られた複合タングステン酸化物超微粒子分散液に紫外線硬化樹脂および溶媒のメチルイソブチルケトンと混合し、厚さ3mmのガラス基板上にバーコーター(井元製作所製IMC−700)で塗布して塗布膜を形成し、この塗布膜から溶媒を蒸発させた後、紫外線照射して、塗布膜を硬化させた複合タングステン酸化物超微粒子分散体である硬化膜を得た。このとき、硬化膜の可視光透過率が70%になるように予め溶媒のメチルイソブチルケトンによる希釈で分散液の濃度を調整した。
【0108】
得られた実施例2に係る硬化膜の中に分散された複合タングステン酸化物超微粒子の平均粒子径を、透過型電子顕微鏡像を用いた画像処理装置によって算出したところ17nmであり、上述した結晶子径16.9nmとほぼ同値であった。
実施例2に係る硬化膜のヘイズを、ヘイズメーター(村上色彩技術研究所製HM−150)を用いて、JISK7105に基づき測定したところ、0.4%であった。また、得られた実施例2に係る硬化膜の透過率を、分光光度計(日立製作所製U−4100)により波長200nm〜2600nmの範囲において5nmの間隔で測定した結果、図3に示す透過プロファイルが得られた。得られた透過プロファイルから日射透過率を求めたところ、36.5%であった。また、人工太陽照明灯(セリック株式会社製XC−100)を用いて疑似太陽光を実施例2に係る硬化膜に照射して、ブルーヘイズ現象の有無を目視で確認し、ブルーヘイズ現象がないことを確認した。
【0109】
[実施例3〜7]
キャリアガス流量、プラズマガス流量、シースガス流量、原料供給速度を変更したこと以外は、実施例1〜2と同様の操作をすることで、実施例3〜7に係る複合タングステン酸化物超微粒子と複合タングステン酸化物超微粒子分散液を製造した。変更したキャリアガス流量条件と原料供給速度条件、およびその他の条件を表1に記載する。実施例3〜7に係る複合タングステン酸化物超微粒子と複合タングステン酸化物超微粒子分散液とその塗布膜とその硬化膜とに対して、実施例1および2と同様の評価を実施した。当該評価結果を表2に示す。
【0110】
[実施例8]
実施例1に記載のCsCOとHWOとの混合粉体を、窒素ガスと水素ガスとの混合ガス雰囲気下、800℃で焼成したCs0.33WOで表される複合タングステン酸化物に変更して、高周波プラズマ反応装置に投入する原料として用いた。それ以外は実施例1〜2と同様の方法で実施例8に係る複合タングステン酸化物超微粒子と複合タングステン酸化物超微粒子分散液を製造した。得られた超微粒子とその分散液に対して、実施例1〜7と同様の評価を実施した。当該製造条件と評価結果を表1、2に示す。
【0111】
[実施例9]
キャリアガス流量と原料供給速度を変更したこと以外は、実施例8と同様の操作をすることで、実施例9に係る複合タングステン酸化物超微粒子と複合タングステン酸化物超微粒子分散液を製造した。得られた超微粒子とその分散液とその塗布膜とその硬化膜とに対して、実施例1〜8と同様の評価を実施した。当該評価結果を表1、2に示す。
【0112】
[実施例10]
水0.330kgにRbCO0.148kgを溶解し、これをHWO1.000kgに添加して十分攪拌した後、乾燥し、狙いの組成であるRb0.32WO混合粉体を得た。
【0113】
前記混合粉体を高周波熱プラズマ反応装置に投入する原料として用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で実施例10に係る複合タングステン酸化物超微粒子と複合タングステン酸化物超微粒子分散液を製造した。得られた超微粒子とその分散液とその塗布膜とその硬化膜とに対して、実施例1〜9と同様の評価を実施した。当該製造条件と評価結果を表1、2に示す。
【0114】
[実施例11]
水0.330kgにKCO0.375kgを溶解し、これをHWO1.000kgに添加して十分攪拌した後、乾燥し、狙いの組成であるK0.27WO混合粉体を得た。
【0115】
前記混合粉体を高周波熱プラズマ反応装置に投入する原料として用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で実施例11に係る複合タングステン酸化物超微粒子と複合タングステン酸化物超微粒子分散液を製造した。また、得られた超微粒子とその分散液とその塗布膜とその硬化膜とに対して、実施例1〜10と同様の評価を実施した。当該製造条件と評価結果を表1、2に示す。
【0116】
[実施例12]
水0.330kgにTlNO0.320kgを溶解し、これをHWO1.000kgに添加して十分攪拌した後、乾燥し、狙いの組成であるTl0.19WO混合粉体を得た。
【0117】
前記混合粉体を高周波熱プラズマ反応装置に投入する原料として用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で実施例12に係る複合タングステン酸化物超微粒子と複合タングステン酸化物超微粒子分散液を製造した。得られた超微粒子とその分散液とその塗布膜とその硬化膜とに対して、実施例1〜11と同様の評価を実施した。当該製造条件と評価結果を表1、2に示す。
【0118】
[実施例13]
水0.330kgにBaCO0.111kgを溶解し、これをHWO1.000kgに添加して十分攪拌した後、乾燥し、狙いの組成であるBa0.14WO混合粉体を得た。
【0119】
前記混合粉体を高周波熱プラズマ反応装置に投入する原料として用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で実施例13に係る複合タングステン酸化物超微粒子と複合タングステン酸化物超微粒子分散液を製造した。得られた超微粒子とその分散液とその塗布膜とその硬化膜とに対して、実施例1〜12と同様の評価を実施した。当該製造条件と評価結果を表1、2に示す。
【0120】
[実施例14]
水0.330kgにKCO0.0663kgとCsCO0.0978kgを溶解し、これをHWO1.000kgに添加して十分攪拌した後、乾燥し、狙いの組成であるK0.24Cs0.15WO混合粉体を得た。
【0121】
前記混合粉体を高周波熱プラズマ反応装置に投入する原料として用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で実施例14に係る複合タングステン酸化物超微粒子と複合タングステン酸化物超微粒子分散液を製造した。得られた超微粒子とその分散液とその塗布膜とその硬化膜とに対して、実施例1〜13と同様の評価を実施した。当該製造条件と評価結果を表1、2に示す。
【0122】
[実施例15]
水16.5gにCsCO10.8gを溶解し、当該溶液をHWO50gに添加して十分攪拌した後、乾燥した。当該乾燥物へNガスをキャリアーとした2%Hガスを供給しながら加熱し、800℃の温度で30分間焼成した。その後、Nガス雰囲気下800℃で90分間焼成する固相法にて実施例15に係る複合タングステン酸化物超微粒子を得た。
これ以外は実施例1と同様にして、実施例15に係る複合タングステン酸化物超微粒子分散液を製造した。但し、媒体攪拌ミルによる粉砕・分散処理時間は4時間とした。得られた超微粒子とその分散液とその塗布膜とその硬化膜とに対して、実施例1〜14と同様の評価を実施した。当該製造条件と評価結果を表1、2に示す。尚、BET比表面積は、粉砕・分散処理前の値である。
【0123】
[実施例16〜25]
水0.330kgにLiCO0.044kgを溶解し、これをHWO1.000kgに添加して十分攪拌した後、乾燥し、狙いの組成であるLi0.3WOの実施例16に係る混合粉体を得た。
【0124】
水0.330kgにNaCO0.021kgを溶解し、これをHWO1.000kgに添加して十分攪拌した後、乾燥し、狙いの組成であるNa0.1WOの実施例17に係る混合粉体を得た。
【0125】
水0.330kgにCu(NO・3HO0.251kgを溶解し、これをHWO1.000kgに添加して十分攪拌した後、乾燥し、狙いの組成であるCu0.26WO2.72の実施例18に係る混合粉体を得た。
【0126】
水0.330kgにAgCO0.005kgを溶解し、これをHWO1.000kgに添加して十分攪拌した後、乾燥し、狙いの組成であるAg0.01WOの実施例19に係る混合粉体を得た。
【0127】
水0.330kgにCaCO0.040kgを溶解し、これをHWO1.000kgに添加して十分攪拌した後、乾燥し、狙いの組成であるCa0.1WOの実施例20に係る混合粉体を得た。
【0128】
水0.330kgにSrCO0.047kgを溶解し、これをHWO1.000kgに添加して十分攪拌した後、乾燥し、狙いの組成であるSr0.08WOの実施例21に係る混合粉体を得た。
【0129】
In0.011kgとHWO1.000kgを擂潰機で十分混合し、狙いの組成であるIn0.02WOの実施例22に係る混合粉体を得た。
【0130】
SnO0.115kgとHWO1.000kgを擂潰機で十分混合し、狙いの組成であるSn0.19WOの実施例23に係る混合粉体を得た。
【0131】
Yb0.150kgとHWO1.000kgを擂潰機で十分混合し、狙いの組成であるYb0.19WOの実施例24に係る混合粉体を得た。
【0132】
日産化学社製スノーテックスS、0.115kgとHWO1.000kgを擂潰機で十分混合し、狙いの組成であるSi0.043WO2.839の実施例25に係る混合粉体を得た。尚、スノーテックSとは超微細シリカ粉末である。
【0133】
前記実施例16〜25に係る混合粉体を高周波熱プラズマ反応装置に投入する原料として用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で実施例16〜25に係る複合タングステン酸化物超微粒子と複合タングステン酸化物超微粒子分散液を製造した。得られた超微粒子とその分散液とその塗布膜とその硬化膜とに対して、実施例1〜15と同様の評価を実施した。当該製造条件と評価結果を表1、2に示す。
【0134】
[実施例26]
水0.330kgにCsCO0.216kgを溶解し、得られた溶液をHWO1.000kgに添加して十分攪拌した後、乾燥して乾燥物を得た。Nガスをキャリアーとした5%Hガスを供給しながら当該乾燥物を加熱し、800℃の温度で1時間焼成した。その後、さらにNガス雰囲気下800℃で2時間焼成する固相反応法を実施して、複合タングステン酸化物を得た。
【0135】
得られた複合タングステン酸化物20重量部と、水80重量部とを混合し、約3kgのスラリーを調製した。尚、このスラリーには、分散剤を添加していない。このスラリーをビーズと共に媒体攪拌ミルに投入し、4時間粉砕分散処理を行った。尚、媒体攪拌ミルは横型円筒形のアニュラータイプ(アシザワ株式会社製)を使用し、ベッセル内壁とローター(回転攪拌部)の材質はジルコニアとした。また、ビーズには、直径0.1mmのYSZ(Yttria-Stabilized Zirconia:イットリア安定化ジルコニア)製のビーズを使用した。ローターの回転速度は14rpm/秒とし、スラリー流量0.5kg/minにて粉砕分散処理を行い、複合タングステン酸化物超微粒子水分散液を得た。
実施例26に係る複合タングステン酸化物超微粒子水分散液の分散粒子径を測定したところ、70nmであった。尚、分散粒子径測定の設定として、粒子屈折率は1.81とし、粒子形状は非球形とした。また、バックグラウンドは水で測定し、溶媒屈折率は1.33とした。
【0136】
次に、得られた複合タングステン酸化物超微粒子水分散液約3kgを大気乾燥機で乾燥処理して、実施例26に係る複合タングステン酸化物超微粒子を得た。尚、大気乾燥機には、恒温オーブンSPH−201型(エスペック株式会社製)を使用し、乾燥温度は70℃、乾燥時間は96時間とした。
【0137】
実施例26に係る複合タングステン酸化物超微粒子のX線回折パターンを測定し、相の同定を行った結果、得られた超微粒子は、六方晶Cs0.33WO単相と同定された。また、得られた超微粒子のX線回折パターンのピークトップ強度の値は4200カウント、ピーク位置は2θ=27.8°であり、結晶子径は23.7nmであった。一方、シリコン粉末標準試料(NIST製、640c)を準備し、当該シリコン粉末標準試料における(220)面を基準としたピーク強度の値を測定したところ、19800カウントであった。従って、当該標準試料のピーク強度の値を1としたときの、実施例1に係る粉砕分散処理後の複合タングステン酸化物超微粒子のXRDピーク強度の比の値は0.21であることが判明した。
得られた超微粒子の組成を、ICP発光分析法により調べた。その結果、Cs濃度が15.2質量%、W濃度が64.6質量%であり、Cs/Wのモル比は0.33であった。CsとW以外の残部は酸素であり、1質量%以上含有されるその他不純物元素は存在していないことを確認した。
【0138】
粉砕して得られた実施例26に係る複合タングステン酸化物超微粒子のBET比表面積を測定したところ、42.6m/gであった。
【0139】
また、実施例26に係る複合タングステン酸化物超微粒子の揮発成分の含有率を測定したところ2.2質量%であった。
【0140】
さらに、得られた複合タングステン酸化物超微粒子20重量部を、溶媒のメチルイソブチルケトン64重量部と分散剤a16重量部とに分散させて、実施例26に係る50gの複合タングステン酸化物超微粒子分散液を得た。
【0141】
実施例26に係る複合タングステン酸化物超微粒子分散液の分散粒子径を測定したところ、80nmであった。尚、分散粒子径測定の設定として、粒子屈折率は1.81とし、粒子形状は非球形とした。また、バックグラウンドはメチルイソブチルケトンで測定し、溶媒屈折率は1.40とした。
次に、得られた複合タングステン酸化物超微粒子分散液をメチルイソブチルケトンで分光光度計の測定用ガラスセルにて可視光透過率が70%となるように希釈し、分光光度計(日立製作所製U−4100)により波長200nm〜2600nmの範囲において5nmの間隔で測定して日射透過率を算出したところ、34.1%であった。尚、可視光透過率、日射透過率はJISR3106に基づき算出した。また、当該測定において、分光光度計の光の入射方向は測定用ガラスセルに垂直な方向とした。また、当該測定用ガラスセルに溶媒のメチルイソブチルケトンのみを入れたブランク液を、光の透過率のベースラインとしている。
【0142】
得られた複合タングステン酸化物超微粒子分散液を、紫外線硬化樹脂および溶媒であるメチルイソブチルケトンと混合して塗布液を調製した。当該塗布液を、厚さ3mmのガラス基板上へ、バーコーターを用いて塗布し塗布膜を形成した。この塗布膜から溶媒を蒸発させた後、紫外線を照射して塗布膜を硬化させ硬化膜を得た。このとき、硬化膜の可視光透過率が70%になるように、予め溶媒のメチルイソブチルケトンによる希釈によって、分散液の濃度を調整した。
【0143】
得られた実施例26に係る硬化膜の中に分散された複合タングステン酸化物超微粒子の平均粒子径を、透過型電子顕微鏡像を用いた画像処理装置によって算出したところ23nmであり、上述した結晶子径23.7nmとほぼ同値であった。
得られた実施例26に係る硬化膜のヘイズを測定したところ、0.3%であった。また、得られた実施例1に係る硬化膜の透過率を、波長200nm〜2600nmの範囲において5nmの間隔で測定し、図3に示す透過プロファイルが得られた。得られた透過プロファイルから日射透過率を求めたところ、35.7%であった。また、実施例26に係る硬化膜のブルーヘイズ現象の有無を、実施例2と同様に目視で確認し、ブルーヘイズ現象がないことを確認した。
実施例26に係る複合タングステン酸化物超微粒子の製造条件と分散液と塗布膜と硬化膜との評価結果とを、表1および表2に示す。
【0144】
[実施例27]
大気乾燥機による乾燥処理を、真空攪拌擂潰機による真空乾燥処理に変更した以外は、実施例26と同様の方法で実施例27に係る複合タングステン酸化物超微粒子と、複合タングステン酸化物超微粒子分散液とを製造した。真空攪拌擂潰機は石川式攪拌擂潰機24P型(田島化学機械株式会社製)を使用し、真空乾燥処理における乾燥温度は80℃、乾燥時間は32時間、混練ミキサーの回転周波数は40Hz、真空容器内の圧力は0.001MPa以下とした。得られた超微粒子とその分散液とその塗布膜とその硬化膜とに対して、実施例1〜2と同様の評価を実施した。当該製造条件と評価結果とを表1、2に示す。
【0145】
[実施例28]
大気乾燥機による乾燥処理を、噴霧乾燥機による噴霧乾燥処理に変更した以外は、実施例26と同様の方法で実施例28に係る複合タングステン酸化物超微粒子と、複合タングステン酸化物超微粒子分散液とを製造した。噴霧乾燥機は噴霧乾燥機ODL−20型(大川原化工機株式会社製)を使用した。得られた超微粒子とその分散液とその塗布膜とその硬化膜とその硬化膜とに対して、実施例1〜2と同様の評価を実施した。当該製造条件と評価結果とを表1、2に示す。
【0146】
[実施例29〜31]
媒体攪拌ミルによる粉砕分散処理時間を2時間に変更した以外は、実施例26〜28と同様の方法で実施例29〜31に係る複合タングステン酸化物超微粒子と、複合タングステン酸化物超微粒子分散液とを製造した。但し、媒体攪拌ミルによる粉砕分散処理時間は2時間とした。得られた超微粒子とその分散液とその塗布膜とその硬化膜とに対して、実施例1〜2と同様の評価を実施した。当該製造条件と評価結果とを表1、2に示す。
【0147】
[実施例32〜34]
スラリーの調製の際、複合タングステン酸化物20重量部と、プロピレングリコールモノエチルエーテル80重量部とを混合したこと以外は、上述した実施例29〜31と同様の合成製造方法により、実施例32〜34に係る複合タングステン酸化物超微粒子と複合タングステン酸化物超微粒子分散液とを製造した。得られた実施例32〜34に係る超微粒子とその分散液とその塗布膜とその硬化膜とに対して、実施例1〜2と同様の評価を実施した。尚、分散粒子径を測定する際に、バックグラウンドはプロピレングリコールモノエチルエーテルで測定し、溶媒屈折率は1.40とした。当該製造条件と評価結果とを表1、2に示す。
【0148】
[実施例35]
実施例1に係る方法と同様にして複合タングステン酸化物超微粒子を得た。その後、得られた超微粒子20重量と、メチルイソブチルケトン64重量部と、分散剤a16重量部とを混合し、50gのスラリーを調製した。このスラリーへ、超音波ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製US−600TCVP)によって1時間分散処理を行い、実施例35に係る複合タングステン酸化物超微粒子分散液を得た。実施例35に係る複合タングステン酸化物超微粒子分散液とその塗布膜とその硬化膜とに対して、実施例1〜2と同様の評価を実施した。当該評価結果を表2に示す。
【0149】
[比較例1および2]
キャリアガス流量、プラズマガス流量、シースガス流量、原料供給速度を変更したこと以外は、実施例1と同様の操作をすることで、比較例1、2に係る複合タングステン酸化物超微粒子と複合タングステン酸化物超微粒子分散液を製造した。変更したキャリアガス流量条件と原料供給速度条件、およびその他の条件を表1に記載する。得られた超微粒子とその分散液とその塗布膜とその硬化膜とに対して、実施例1〜2と同様の評価を実施した。当該評価結果を表2に示す。
【0150】
[比較例3]
5000〜10000Kの高温部を有している熱プラズマを発生させるために、高周波電力を15KWとした以外は、実施例1と同様の操作をすることで、比較例3に係る複合タングステン酸化物超微粒子と複合タングステン酸化物超微粒子分散液を製造した。得られた超微粒子とその分散液とその塗布膜とその硬化膜とに対して、実施例1〜2と同様の評価を実施した。当該製造条件と評価結果を表1、2に示す。
【0151】
[比較例4]
実施例26に係る複合タングステン酸化物超微粒子水分散液を4時間の粉砕分散処理時間で得るところを、40時間の粉砕分散処理とした以外は、実施例26と同様の操作を行って、比較例4に係る複合タングステン酸化物超微粒子水分散液を得た。比較例4に係る複合タングステン酸化物超微粒子水分散液の分散粒子径を測定したところ、120nmであった。尚、分散粒子径測定の設定として、粒子屈折率は1.81とし、粒子形状は非球形とした。また、バックグラウンドは水で測定し、溶媒屈折率は1.33とした。
比較例4に係る複合タングステン酸化物超微粒子のX線回折パターンを測定し、相の同定を行った結果、得られた超微粒子は、六方晶Cs0.33WO単相と同定された。また、得られた超微粒子のX線回折パターンのピークトップ強度の値は1300カウント、ピーク位置は2θ=27.8°であり、結晶子径は8.1nmであった。一方、シリコン粉末標準試料(NIST製、640c)を準備し、当該シリコン粉末標準試料における(220)面を基準としたピーク強度の値を測定したところ、19800カウントであった。従って、当該標準試料のピーク強度の値を1としたときの、比較例4に係る粉砕分散処理後の複合タングステン酸化物超微粒子のXRDピーク強度の比の値は0.07であることが判明した。
【0152】
粉砕して得られた比較例4に係る複合タングステン酸化物超微粒子のBET比表面積を測定したところ、102.8m/gであった。
また、比較例4に係る複合タングステン酸化物超微粒子の揮発成分の含有率を測定したところ2.2質量%であった。
【0153】
得られた複合タングステン酸化物超微粒子20重量部を、メチルイソブチルケトン64重量部と分散剤a16重量部に分散させて、比較例4に係る50gの複合タングステン酸化物超微粒子分散液を得た。そして当該複合タングステン酸化物超微粒子分散液の分散粒子径を測定したところ、120nmであった。尚、分散粒子径測定の設定として、粒子屈折率は1.81とし、粒子形状は非球形とした。尚、バックグラウンドはメチルイソブチルケトンで測定し、溶媒屈折率は1.40とした。
次に、比較例4に係る複合タングステン酸化物超微粒子分散液をメチルイソブチルケトンで分光光度計の測定用ガラスセルにて可視光透過率が70%となるように希釈し、分光光度計(日立製作所製U−4100)により波長200nm〜2600nmの範囲において5nmの間隔で測定して日射透過率を算出したところ、47.2%であった。尚、可視光透過率、日射透過率はJISR3106に基づき算出した。また、当該測定において、分光光度計の光の入射方向は測定用ガラスセルに垂直な方向とした。また、当該測定用ガラスセルに溶媒のメチルイソブチルケトンのみを入れたブランク液を、光の透過率のベースラインとしている。
【0154】
また、比較例4に係る複合タングステン酸化物超微粒子分散液を、紫外線硬化樹脂および溶媒であるメチルイソブチルケトンと混合して塗布液を調製した。当該塗布液を、厚さ3mmのガラス基板上へ、バーコーターを用いて塗布し塗布膜を形成した。この塗布膜から溶媒を蒸発させた後、紫外線を照射して塗布膜を硬化させ硬化膜を得た。このとき、硬化膜の可視光透過率が70%になるように、予め溶媒のメチルイソブチルケトンによる希釈によって、分散液の濃度を調整した。
【0155】
得られた比較例4に係る硬化膜の中に分散された複合タングステン酸化物超微粒子の平均粒子径を、透過型電子顕微鏡像を用いた画像処理装置によって算出したところ120nmであった。
得られた比較例4に係る硬化膜のヘイズを測定したところ、1.8%であった。また、得られた比較例4に係る硬化膜の透過率を、波長200nm〜2600nmの範囲において5nmの間隔で測定し、得られた透過プロファイルから日射透過率を求めたところ、48.3%であった。また、比較例4に係る硬化膜のブルーヘイズ現象の有無を、実施例2と同様に目視で確認し、ブルーヘイズ現象があることを確認した。
比較例4に係る複合タングステン酸化物超微粒子の製造条件と分散液と塗布膜と硬化膜との評価結果とを、表1および表2に示す。
【0156】
[まとめ]
表2から明らかなように、実施例1〜35に係る複合タングステン酸化物超微粒子は、比較例1〜4の複合タングステン酸化物超微粒子と比べて、日射透過率が47%以下の優れた近赤外線遮蔽特性を発揮した。
そして、実施例2〜35に係る分散液に含まれる複合タングステン酸化物超微粒子は、シリコン粉末標準試料(NIST製、640c)(220)面のXRDピーク強度に対する前期複合タングステン酸化物超微粒子のXRDピークトップ強度の比が0.13以上であり、結晶子径が1nm以上であり、異相の無い複合タングステン酸化物超微粒子であった。また、実施例においては硬化膜中の複合タングステン酸化物超微粒子の平均粒子径と結晶子径とがほぼ同値であることから、アモルファス相の体積比率が50%未満である単結晶の複合タングステン酸化物超微粒子であると考えられる。一方、比較例1、2、4においては、硬化膜中の複合タングステン酸化物超微粒子の平均粒子径が結晶子径よりも大きいことから、これらの複合タングステン酸化物超微粒子は、単結晶ではないと考えられる。また、比較例3においては異相(WOとW)が発生していた。
【0157】
【表1】
【表2】
【符号の説明】
【0158】
1 熱プラズマ
2 高周波コイル
3 シースガス供給ノズル
4 プラズマガス供給ノズル
5 原料粉末供給ノズル
6 反応容器
7 吸引管
8 フィルター
図1
図2
図3