【文献】
DOU, Jian et al.,Journal of the American Chemical Society,2012年10月 3日,Vol.134, No.39,pp.16235-16246
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0023】
<製造方法>
本実施形態に係る製造方法は、塩基性溶液中でカルボキシル基を有するポリマーとモリブデン源とを混合する混合工程と、塩基性溶液に還元剤を添加して、モリブデン源からモリブデン酸化物ナノ粒子を形成させる還元工程と、塩基性溶液にシリカ源を添加して、ポリマー及びモリブデン酸化物ナノ粒子を内包するシリカシェルを形成させるシェル形成工程と、シリカシェル内からポリマーを除去して、モリブデン酸化物ナノ粒子を内包する中空シリカ粒子を得る除去工程と、を備える。
【0024】
この製造方法によれば、モリブデン酸化物ナノ粒子を内包する中空シリカ粒子(以下、「中空シリカ粒子」)を容易に形成することができる。この製造方法で得られる中空シリカ粒子は、エポキシ化反応等の各種反応の触媒として好適に利用できる。また、この中空シリカ粒子は、モリブデン酸化物がナノ粒子としてシリカシェル中に内包されているため、触媒として用いた際に、活性種が系外に漏出することが避けられ、安定な触媒性能を維持できる。また、この中空シリカ粒子は、活性種の凝集による触媒劣化が十分に抑制されるため、触媒として繰り返し使用することができる。
【0025】
以下、本実施形態に係る製造方法の各工程について詳述する。
【0026】
(混合工程)
混合工程では、塩基性溶液中でカルボキシル基を有するポリマーとモリブデン源とを混合する。混合後の塩基性溶液では、ポリマーがコロイド凝集体を形成していてよい。
【0027】
塩基性溶液の溶媒は特に限定されないが、モリブデン源が溶解可能な溶媒であり、且つ、ポリマーがコロイド凝集体を形成し得る溶媒であることが望ましい。このような溶媒は、例えば、水−アルコール混合溶媒であってよい。水−アルコール混合溶媒の具体例としては、水−エタノール混合溶媒が挙げられる。
【0028】
塩基性溶液のpHは、例えば9〜12であってよく、好ましくは10〜11である。pHを上記範囲とすることで、後述のシリカシェルの形成を効率良く進行させることができる。塩基性溶液のpHは、例えばアンモニアで調整されていてよい。
【0029】
本実施形態では、ポリマーが有するカルボキシル基がモリブデン源と相互作用することで、コロイド凝集体中にモリブデン源が内包されると考えられる。モリブデン源との相互作用が顕著に得られる観点から、ポリマーは、分子鎖内に複数のカルボキシル基を有するポリマーであることが好ましい。このようなポリマーとしては、ポリアクリル酸を好適に用いることができる。
【0030】
ポリマーとしてポリアクリル酸を用いる場合、ポリアクリル酸の重量平均分子量は500以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましい。これにより、ポリアクリル酸がコロイド凝集体を形成しやすくなる傾向がある。また、ポリアクリル酸の重量平均分子量は、10000以下であることが好ましく、6000以下であることがより好ましい。これにより、後述の工程でシリカシェルが形成しやすくなる傾向がある。なお、ポリアクリル酸の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)でポリアクリ酸を標準物質として測定される値を示す。
【0031】
モリブデン源は、塩基性溶液に可溶であり、且つ、還元によりモリブデン酸化物(MoO
X)を形成可能なモリブデン化合物であればよい。モリブデン源としては、例えば、パラモリブデン酸、リンモリブデン酸、12ケイモリブデン酸、これらのアンモニウム塩、ハロゲン化物(例えば、塩化物、臭化物等)、鉱酸塩(例えば、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等)、カルボン酸塩(例えば、炭酸塩、蓚酸塩等)などが挙げられる。また、モリブデン源としては、モリブデンカーバイトを用いてもよい。モリブデン源は、上記モリブデン化合物の水和物として混合工程に供されてもよい。
【0032】
モリブデン源としては、水溶性に優れること、後述の工程でモリブデン酸化物ナノ粒子を形成しやすいこと等の理由で、ヘキサアンモニウムヘプタモリブデート(Mo
7O
24(NH
4)
6)を特に好適に用いることができる。ヘキサアンモニウムヘプタモリブデートは、例えば水和物(Mo
7O
24(NH
4)
6・4H
2O)として混合工程に供されてよく、水溶液として混合工程に供されてもよい。
【0033】
混合工程に供されるモリブデン源の量は、ポリマー100質量部に対して5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましい。ポリマーに対するモリブデン源の量を多くすることで、中空シリカ粒子に内包されるモリブデン酸化物ナノ粒子の量が増加する傾向がある。また、モリブデン源の量は、ポリマー100質量部に対して100質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましい。ポリマーに対するモリブデン源の量を少なくすることで、モリブデン酸化物ナノ粒子を効率良くシリカシェルに内包させることができる。
【0034】
混合工程では、例えば、ポリマーを溶解させた第一の溶液と、モリブデン源を溶解させた第二の溶液とを混合して実施してよい。具体的には、例えば、ポリマーをアンモニア水に溶解させたポリマー溶液に、モリブデン源の水溶液とアルコールとを加えて混合することにより、混合工程を実施してよい。また、モリブデン源を含むアンモニア水溶液にポリマーを添加し、次いでエタノールを添加することにより、混合工程を実施してもよい。
【0035】
(還元工程)
還元工程では、混合工程後の塩基性溶液に還元剤を添加する。本実施形態では、還元剤の添加によりモリブデン源が還元され、モリブデン酸化物ナノ粒子が形成される。
【0036】
還元剤は、塩基性溶液中でモリブデン源を還元できる還元剤であればよい。還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)、水素化ホウ素カリウム(KBH
4)、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH
4)、ヒドラジン(N
2H
4)、アンモニアボラン(H
3NBH
3)、ギ酸ナトリウム(HCOONa)等が利用できる。
【0037】
還元剤の添加量は、モリブデン源に含まれるモリブデン原子に対して、100〜400モル%であることが好ましい。還元剤の添加量をモリブデン原子に対して100モル%以上とすることで、モリブデンが十分に還元され、効率よくモリブデン酸化物ナノ粒子を形成できる。また、還元剤の添加量をモリブデン原子に対して400モル%以下とすることで、モリブデン酸化物がナノサイズ以上の凝集体を形成することを抑制し、効率よくモリブデン酸化物ナノ粒子を形成できる。
【0038】
還元工程後の塩基性溶液中では、ポリマーのコロイド凝集体中にモリブデン酸化物ナノ粒子が内包された、ポリマー−モリブデン酸化物ナノ粒子凝集体が形成されると考えられる。
【0039】
(シェル形成工程)
シェル形成工程では、還元工程後の塩基性溶液にシリカ源を添加して、ポリマー及びモリブデン酸化物ナノ粒子を内包するシリカシェルを形成させる。本実施形態において、還元工程後の塩基性溶液中には、ポリマー−モリブデン酸化物ナノ粒子凝集体が形成されており、この凝集体の外周面上でシリカ源が加水分解・重縮合して、シリカシェルが形成される。
【0040】
シリカ源は、テトラアルコキシシランが好適に用いられる。テトラアルコキシシランとしては、例えば、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトライソプロポキシシラン(TPOS)、テトラブトキシシラン(TBOS)等が挙げられる。これらのうち、入手容易性の観点からは、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)を用いるのが好ましい。
【0041】
シリカ源としては、テトラアルコキシシランとともに他のシリカ源を更に用いてもよい。他のシリカ源としては、有機シランカップリング剤として利用される公知のシリカ源が挙げられる。他のシリカ源としては、メチルトリメトキシシラン(MTMS)、メチルトリエトキシシラン(MTES)、エチルトリメトキシシラン(ETMS)、フェニルトリエトキシシラン(PhTES)、トリエトキシクロロシラン(TECS)、トリエトキシフルオロシラン(TEFS)、オクチルトリエトキシシラン(C8TES)、ドデシルトリメトキシシラン(C12TMS)等のトリアルコキシシラン、ジメチルジエトキシシラン(DMDES)、ジフェニルジメトキシシラン(DPhDMS)等のジアルコキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン(BTEE)、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン(BTEB)などが例示できる。
【0042】
本実施形態では、シリカ源として、テトラアルコキシシランとともにアルキルトリアルコキシシランを用いることが好ましい。これによりシリカシェルを多孔質とすることができる。また、本実施形態では、アルキルトリアルコキシシランのアルキル基の炭素原子数を変更することで、シリカシェルの細孔径を調整することができる。
【0043】
アルキルトリアルコキシシランが有するアルキル基の炭素原子数は、所望の細孔径に応じて適宜変更してよく、例えば1〜30であってよく、8〜18であることが好ましい。
【0044】
アルキルトリアルコキシシランの使用量は特に限定されない。アルキルトリアルコキシシランの使用量を変更することで、シリカシェルの気孔率を調整することができる。テトラアルコキシシランに対するアルキルトリアルコキシシランのモル比は、例えば、40モル%以下であってよく、20モル%以下であることが好ましい。過剰量のアルキルトリアルコキシシランを添加するとシリカ塊が形成されやすくなるが、上記モル比であればこのシリカ塊の形成が十分抑制され、所望の中空シリカ粒子を効率良く得ることができる。また、テトラアルコキシシランに対するアルキルトリアルコキシシランのモル比は、例えば、0モル%であってよく、1モル%以上であってもよく、5モル%以上であることが好ましい。
【0045】
シリカ源の添加量は、混合工程で配合したポリマーの総量を100質量部として、500質量部以上であることが好ましく、1000質量部以上であることがより好ましい。シリカ源の添加量を500質量部以上とすることで、ポリマー−モリブデン酸化物ナノ粒子凝集体の外周面を十分にシリカシェルで被覆できる。また、シリカ源の添加量は、混合工程で配合したポリマーの総量を100質量部として、2500質量部以下であることが好ましく、2000質量部以下であることがより好ましい。シリカ源の添加量が多すぎると、シリカシェルが厚くなり、触媒としての効果が発揮されにくくなる傾向がある。シリカ源の添加量を2000質量部以下とすることで、エポキシ化反応等の触媒として一層好適な中空シリカ粒子が得られる。
【0046】
シェル形成工程は、例えば、シリカ源を希釈せずに塩基性溶液に滴下することで実施してよい。また、シェル形成工程は、例えば、シリカ源を溶解させた溶液(シリカ源溶液)を準備し、塩基性溶液にシリカ源溶液を滴下することで実施してもよい。
【0047】
シリカ源溶液の溶媒は、親水性溶媒であればよく、特に限定されない。シリカ源溶液の溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン、アセトニトリルなどが好適に用いられる。シリカ源溶液の濃度は特に限定されず、例えば1〜99.9質量%であってよく、好ましくは10〜99.9質量%である。
【0048】
シリカ源(又はシリカ源溶液)の滴下時間は、例えば5〜60分であってよい。滴下時間を5分以上とすることでポリマー−モリブデン酸化物ナノ粒子凝集体がシリカシェルで被覆されやすくなる傾向がある。また、滴下時間を60分以内とすることで、シリカ凝集体の形成を抑え、シリカ凝集体による触媒反応の阻害を避けることができる。
【0049】
本実施形態では、シェル形成工程により、ポリマー−モリブデン酸化物ナノ粒子凝集体と、この凝集体を被覆するシリカシェルとを備える、有機無機複合粒子が形成される。
【0050】
(除去工程)
除去工程では、シリカシェル内からポリマーを除去する。シェル形成工程で形成された有機無機複合粒子からコア中のポリマーを除去することで、モリブデン酸化物ナノ粒子を内包する中空シリカ粒子が得られる。
【0051】
ポリマーの除去は、塩基性溶液から有機無機複合粒子を分離し、焼成することで行うことができる。
【0052】
塩基性溶液から有機無機複合粒子を分離する方法は特に限定されず、例えば、ろ過、遠心分離等の分離手段であってよい。分離された有機無機複合粒子は、通常、乾燥後に焼成される。
【0053】
有機無機複合粒子を焼成する際の焼成温度は、ポリマーを除去できる温度であればよい。焼成温度は、300℃以上であることが好ましく、400℃以上であることがより好ましい。これによりポリマーが十分に除去され、シリカシェル内を容易に中空にすることができる。また、焼成温度は、700℃以下であることが好ましく、600℃以下であることがより好ましい。これにより、モリブデン酸化物ナノ粒子の熱分解や凝集が避けられ、触媒活性のより高い中空シリカ粒子を得ることができる。
【0054】
有機無機複合粒子の焼成は、酸素を含む雰囲気下で行ってよい。焼成は、例えば空気中で行ってよく、酸素をHe、Ne、Ar、Kr等の不活性ガスで希釈した雰囲気中で行ってもよい。
【0055】
本実施形態では、上記の方法により、モリブデン酸化物ナノ粒子を内包する中空シリカ粒子が得られる。この中空シリカ粒子は、エポキシ化反応等の触媒として好適に利用できる。また、この中空シリカ粒子は、減圧雰囲気下又は乾燥空気中で保存することで、触媒性能を維持したまま長期間保管できる。
【0056】
本実施形態に係る製造方法により製造される中空シリカ粒子について、以下に詳述する。
【0057】
<中空シリカ粒子>
本実施形態に係る中空シリカ粒子は、シリカシェルと、シリカシェルに内包されたモリブデン酸化物ナノ粒子と、を備えている。
【0058】
この中空シリカ粒子は、エポキシ化反応等の各種反応の触媒として好適に利用できる。中空シリカ粒子を触媒として用いた場合、活性種であるモリブデン酸化物がシリカシェルに内包されているため、活性種の系外への漏出が抑制され、安定な触媒性能を長期間維持できる。また、複数の中空シリカ粒子のそれぞれにモリブデン酸化物ナノ粒子が内包されているため、ナノ粒子の過度な凝集による触媒劣化が十分に抑制される。このため、本実施形態に係る中空シリカ粒子は繰り返し触媒として使用することもできる。
【0059】
シリカシェルは多孔質であってよい。シリカシェルの平均細孔径は特に限定されず、中空シリカ粒子を適用する反応の反応基質又は生成物のサイズ等に応じて適宜変更してよい。また、シリカシェルの平均細孔径を調整することで、反応の選択性の向上を図ることもできる。例えば、中空シリカ粒子をオレフィンのエポキシ化反応に適用する場合、シリカシェルの平均細孔径は、2〜7nmであることが好ましい。
【0060】
本実施形態に係る中空シリカ粒子では、シリカシェル中に複数のモリブデン酸化物ナノ粒子が内包されていてよい。中空シリカ粒子におけるモリブデン原子の含有量は特に限定されず、所望の触媒性能に応じて適宜変更してよい。
【0061】
中空シリカ粒子におけるモリブデン含有量は、例えば、MoO
3換算で1〜30質量%であってよく、5〜20質量%であることが好ましい。これにより、中空シリカ粒子がエポキシ化反応の触媒として、特に好適な触媒活性を有するものとなる。中空シリカ粒子におけるMoO
3換算のモリブデン含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)により測定できる。
【0062】
中空シリカ粒子の表面積は特に限定されず、好ましくは20〜300m
2/gである。このような表面積を有することで触媒反応使用時に反応基質を効率的に吸着し、触媒反応を促進するという効果が奏される。なお、本明細書中、中空シリカ粒子の表面積は、窒素吸着等温線からBET(Brunauer−Emmett−Teller)法により算出した値を示す。
【0063】
中空シリカ粒子の平均粒子径は特に限定されず、例えば50〜1000nmであってよく、好ましくは100〜300nmである。このような平均粒子径を有することで、一つの中空シリカ粒子内に含まれるモリブデン酸化物ナノ粒子の数が限定されるため、モリブデン酸化物ナノ粒子の凝集が抑制され、触媒活性が一層向上する傾向がある。なお、本明細書中、中空シリカ粒子の平均粒子径は、SEMにより観察された中空シリカ粒子のうち無作為に選んだ100粒子の平均粒子径を示す。
【0064】
<触媒>
本実施形態に係る触媒は、上記中空シリカ粒子を含む。この触媒は、モリブデン酸化物が触媒能を有する各種反応に好適に用いることができる。
【0065】
本実施形態に係る触媒では、モリブデン酸化物がナノ粒子としてシリカシェルに内包されているため、活性種の系外への漏出が抑制され、安定な触媒性能を長期間維持できる。また、複数の中空シリカ粒子のそれぞれにモリブデン酸化物ナノ粒子が内包されているため、ナノ粒子の過度な凝集による触媒劣化が十分に抑制される。このため、本実施形態に係る触媒は、各種反応に繰り返し使用することができる。
【0066】
本実施形態に係る触媒は、中空シリカ粒子をそのまま用いたものであってよく、中空シリカ粒子と他の触媒成分とを組み合わせたものであってもよい。また、本実施形態に係る触媒は、中空シリカ粒子を反応器に充填したものであってよく、中空シリカ粒子同士をバインダー等で結合したものであってもよい。
【0067】
本実施形態に係る触媒を適用可能な反応としては、例えば、オレフィンを原料とするエポキシ化反応、ケトン化合物又はアルデヒド化合物のアセタール化反応、カルボン酸化合物とアルコールとのエステル化反応等が挙げられる。
【0068】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0069】
例えば、本発明の一側面は、上記中空シリカ粒子を含む触媒を用いてオレフィンを酸化し、エポキシ化合物を得る工程を備える、エポキシ化合物の製造方法であってよい。この製造方法では、上記中空シリカ粒子を含む触媒を用いることで、安定な触媒性能が長期間維持され、効率良くエポキシ化合物を製造できる。
【0070】
また、本発明の他の一側面は、上記中空シリカ粒子を含む触媒を充填した反応器を備える、反応装置に関するものであってよい。このような反応装置では、反応器からの触媒活性種の漏出が抑制されるため、触媒交換の頻度を低減でき、効率良く反応を実施することができる。
【0071】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0073】
[実施例1:触媒a−1の調製]
ポリアクリル酸水溶液(PAA;分子量5,000、50質量%、Acros Organics社製)0.24g及び28%アンモニア水4.5mLを、200mLナスフラスコに入れ、ポリアクリル酸が完全に溶けるまで室温で撹拌した。ここに調製した20mg/mLヘキサアンモニウムヘプタモリブデート水溶液(Mo
7O
24(NH
4)
6・4H
2O、和光純薬)2mL、エタノール90mLを順次加え、室温で10分間撹拌した。その後、20mg/mLに調製した水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4、ナカライテスク)水溶液0.9mLを投入し、室温で30分間撹拌した。
【0074】
次いで、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS;95%、ナカライテスク)1.6mL、ドデシルトリメトキシシラン(C
12TMS;93%、東京化成工業)0.2mLを混合させた溶液を10分間かけて滴下し、室温で6時間撹拌した。生成した沈殿物を遠心分離により溶液から分離後、エタノール50mL、蒸留水50mLで洗浄し、70℃で一晩乾燥させた。乾燥後、メノウ乳鉢で粉砕した後、電気炉を用いて大気中500℃で6時間焼成を行い、白色粉末(触媒a−1)を得た。
【0075】
[実施例2:触媒a−2の調製]
シリカ源(TEOSとC
12TMSの混合溶液)の滴下時間を1時間に変更したこと以外は、実施例1と同様の手順で調製し、触媒a−2を得た。
【0076】
[実施例3:触媒a−3の調製]
シリカ源であるTEOSとC
12TMSの混合比を1.2mL:0.6mL(体積比)に変更したこと以外は、実施例1と同様の手順で調製し、触媒a−3を得た。
【0077】
[実施例4:触媒a−4の調製]
シリカ源をTEOS1.8mLのみに変更したこと以外は、実施例1と同様の手順で調製し、触媒a−4を得た。
【0078】
[比較例1:触媒b−1の調製]
ヘキサアンモニウムヘプタモリブデートの代わりに、MoO
3粉末(99.9%以上、平均粒子径13−80nm、USリサーチナノマテリアルズ社製)を使用したこと以外は、実施例1と同様の手順で調製し、触媒b−1を得た。
【0079】
[比較例2:触媒b−2の調製]
ポリアクリル酸の代わりに、ポリエチレンイミン(PEI;分子量1,800、100重量%、Alfa Aesar社)0.12gを使用したこと以外は、実施例1と同様の手順で調製し、触媒b−2を得た。
【0080】
[比較例3:触媒b−3の調製]
ポリアクリル酸の代わりに、ポリビニルピロリドン(PVP;分子量40,000、100重量%、ナカライテスク社)0.12gを使用したこと以外は、実施例1と同様の手順で調製し、触媒b−3を得た。
【0081】
<SEM観察>
実施例1〜4及び比較例1〜3で調製した各触媒について、走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行い、一次粒子の形状を観察した。
図1は、実施例1で調製した触媒a−1の観察像を示す図である。
図1に示すとおり、触媒a−1の観察像からは、単分散した球状シリカ粒子が観察された。同様に、触媒a−2〜a−4の観察像からも、単分散した球状シリカ粒子が観察された。一方、比較例1〜3の触媒b−1〜b−3の観察像では、球状シリカ粒子は観察できず、球状のシリカシェルが形成できていなかった。
【0082】
また、SEM観察の結果から、実施例1〜4の触媒a−1〜a−4の平均粒子径を求めた。結果は表1に示すとおりとなった。
【0083】
<表面積の測定>
実施例1〜4及び比較例1〜3で調製した各触媒について、窒素吸着等温線からBET(Brunauer−Emmett−Teller)法により表面積を算出した。結果を表1に示す。なお、具体的な測定条件は以下のとおりとした。
試料は測定前に真空(1×10
−4Pa以下)下、300℃にて3時間処理を行い、物理吸着した水分子を取り除いた。窒素吸脱着測定にはマイクロトラック・ベル株式会社製BELSORP−maxIIを用い、液体窒素温度(−196℃)にて測定を行った。
【0084】
<TEM観察>
実施例1〜4及び比較例1〜3で調製した各触媒について、透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行った。
図2は、実施例1で調製した触媒a−1の観察像を示す図である。
図1に示すとおり、触媒a−1の観察像からは、中空構造を有する球状シリカ粒子が確認され、また、シリカ粒子内にモリブデン酸化物ナノ粒子が内包されていることが確認された。同様に、触媒a−2〜a−4の観察像からも、中空構造を有する球状シリカ粒子、及び、シリカ粒子に内包されたモリブデン酸化物ナノ粒子が確認された。
【0085】
一方、比較例1〜3の触媒b−1〜b−3では、中空構造を有する球状シリカ粒子が確認できなかった。
図3は、比較例2の触媒b−2の観察像を示す図である。
図3に示すとおり、触媒b−2では、中空構造を有する球状シリカ粒子が確認されず、また、モリブデン酸化物ナノ粒子がシリカ塊から遊離して存在していることが確認された。
【0086】
【表1】
【0087】
[比較例4:触媒b−4の調製]
ヘキサアンモニウムヘプタモリブデート(Mo
7O
24(NH
4)
6・4H
2O、和光純薬)0.139gが溶解した蒸留水50mLを含む200mLナスフラスコに、ヒュームドシリカ(和光純薬)1.0gを加え、室温で2時間撹拌した。撹拌後、エバポレーターにより水を蒸発、乾燥させ、100℃で一晩乾燥させた。乾燥後、得られた粉末をメノウ乳鉢で粉砕した後、大気中500℃で6時間焼成を行い、アモルファスシリカに酸化モリブデンが担持された触媒b−4を得た。
【0088】
<エポキシ化反応>
実施例1〜4及び比較例1〜4で調製した各触媒を用いて、以下の手順でエポキシ化反応を実施した。
容量50mLのパイレックス(登録商標)製反応器に触媒75mg、1,2−ジクロロエタン5mL、シクロオクテン116mg、t−ブチルハイドロパーオキサイド(TBHP;5.5mol/L in decane、Aldrich)176mgを入れた後、オイルバスを用いて温度を80℃に保持し、撹拌させながら8時間反応を行った。反応中、随時サンプリングし、生成物をガスクロマトグラフィーを用いて定量した。シクロオクテンの転化率、及び、反応によって得られたシクロオクテンオキシド(エポキシ化合物)の選択率を表2に示す。
【0089】
【表2】
【0090】
<エポキシ化反応の繰り返し試験>
上述のエポキシ化反応終了後、遠心分離により触媒を回収した。この回収した触媒を用いて、再度、オレフィンのエポキシ化反応を行った。この繰り返し反応を5回まで実施し、各反応におけるシクロオクテンの転化率及びエポキシド化合物の選択率を求めた。結果を表3に示す。なお、表3中、シクロオクテンの転化率は、1回目の反応における転化率を100とした相対値で示した。
【0091】
【表3】
【0092】
以上の結果より、実施例1〜4の触媒a−1〜a−4がオレフィンのエポキシ化反応に高い反応性及び選択性を示し、それを長期間維持できることが確認された。