(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6826470
(24)【登録日】2021年1月19日
(45)【発行日】2021年2月3日
(54)【発明の名称】アノード電極部材、監視装置、及び電気防食システム
(51)【国際特許分類】
C23F 13/10 20060101AFI20210121BHJP
C23F 13/02 20060101ALI20210121BHJP
C23F 13/22 20060101ALI20210121BHJP
【FI】
C23F13/10 B
C23F13/02 J
C23F13/02 B
C23F13/22
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-54236(P2017-54236)
(22)【出願日】2017年3月21日
(65)【公開番号】特開2018-154892(P2018-154892A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2019年12月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100189326
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 崇暢
(72)【発明者】
【氏名】辻村 学
(72)【発明者】
【氏名】小澤 照彦
【審査官】
大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭48−059714(JP,U)
【文献】
特開平02−159392(JP,A)
【文献】
実公昭50−009628(JP,Y1)
【文献】
実開昭58−028194(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 13/10
C23F 13/02
C23F 13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管フランジに取り付けられるアノード電極部材であって、
隙間を介して互いに隣り合う第1端領域及び第2端領域を有し、略C型形状に形成された電極本体と、
前記第1端領域に巻かれた第1コイルと、
前記第2端領域に巻かれた第2コイルと、
を備え、
前記第1コイル及び前記第2コイルは、前記電極本体に一体化されているアノード電極部材。
【請求項2】
アノード電極部材を監視する監視装置であって、
隙間を介して互いに隣り合う第1端領域及び第2端領域を有するとともに略C型形状に形成された電極本体を有し、前記電極本体の内面が配管の内部に露出するように配置されるアノード電極部材と、
前記第1端領域に巻かれた第1コイルと、
前記第2端領域に巻かれた第2コイルと、
前記第1コイルに電気的に接続された信号送信部と、
前記第2コイルに電気的に接続された信号検出部と、
前記信号送信部及び前記信号検出部に電気的に接続された監視部と、を備える監視装置。
【請求項3】
配管フランジを備えた配管と、
隙間を介して互いに隣り合う第1端領域及び第2端領域を有するとともに略C型形状に形成された電極本体を有し、前記電極本体の内面が前記配管の内部に露出するように配置されるアノード電極部材と、
前記配管の外部に接続されたカソード電極と、
前記アノード電極部材及び前記カソード電極に配線を介して接続された直流電源と、
請求項2に記載の監視装置と、を備える電気防食システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アノード電極部材、監視装置、及び電気防食システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アノード電極の消耗具合を知る方法が知られている(特許文献1を参照)。この方法は、断面形状が三角形状であるアノード電極を用意し、アノード電極の防食時間の増加に伴うアノード電流の経時変化を測定(モニタリング)する。具体的に、アノード反応により電極材料が溶出し、三角形状であるアノード電極は減肉する。アノード電極の三角形状断面においては、底面から頂点に向かって、アノード電極は減肉していくので、三角形の底面が徐々に減少することになり、節水面積も暫時減少する。これにより、アノード電流が変化するため、アノード電流の変化からアノード電極の消耗具合をモニタすることが可能となる。
【0003】
また、カソード防食管理用プローブの腐食状態監視方法及び監視システムが知られている(特許文献2を参照)。このシステムは、埋設金属構造物の近傍に設置されたプローブを埋設した状態で、プローブの腐食状態を監視することで、腐食状況に埋設金属構造物が曝されることによる影響を頻繁且つ経時的に把握する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−129346号公報
【特許文献2】特許第5470191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示された方法においては、アノード電極の形状(三角形状)が制限される問題があった。また、特許文献2に開示されたシステムは、アノード電極の消耗具合をモニタするための方法や構造を開示していない。
【0006】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、電極本体の減肉を監視するのに適したアノード電極部材と、このアノード電極部材の減肉を監視する監視装置と、アノード電極部材及び監視装置を用いた電気防食システムとを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第一態様に係るアノード電極部材は、配管フランジに取り付けられるアノード電極部材であって、隙間を介して互いに隣り合う第1端領域及び第2端領域を有し、略C型形状に形成された電極本体を有する。
上記態様に係るアノード電極部材によれば、配管フランジに取り付けた状態で、電極本体の減肉を監視するのに適したアノード電極部材を実現することができる。
【0008】
上記態様に係るアノード電極部材は、前記第1端領域に巻かれた第1コイルと、前記第2端領域に巻かれた第2コイルとを備え、前記第1コイル及び前記第2コイルは、前記電極本体に一体化されてもよい。
【0009】
上記態様に係るアノード電極部材によれば、第1コイル及び第2コイルが電極本体に一体化されたアノード電極部材を実現することができる。また、第1コイル及び第2コイルを用いて電極本体の減肉を監視するのに適したアノード電極部材を実現することができる。第1コイル及び第2コイルが電極本体に一体化されているので、アノード電極部材を交換する際に、第1コイル及び第2コイルが電極本体に取り付けられた状態で、交換を行うことができる。
【0010】
本発明の第二態様に係る監視装置は、アノード電極部材を監視する監視装置であって、隙間を介して互いに隣り合う第1端領域及び第2端領域を有するとともに略C型形状に形成された電極本体を有し、前記電極本体の内面が配管の内部に露出するように配置されるアノード電極部材と、前記第1端領域に巻かれた第1コイルと、前記第2端領域に巻かれた第2コイルと、前記第1コイルに電気的に接続された信号送信部と、前記第2コイルに電気的に接続された信号検出部と、前記信号送信部及び前記信号検出部に電気的に接続された監視部と、を備える。
【0011】
上記態様に係る監視装置によれば、信号送信部が交流信号を第1コイルに送信する。このとき、第1端領域における磁場が変化し、磁気歪み効果によって、第2端領域にガイド波信号が伝搬される。第2端領域の第2コイルは、ガイド波信号によって発生した交流信号を出力する。信号検出部は、第2コイルから発生した信号を検出する。監視部は、信号送信部が送信した信号と信号検出部が検出した信号を比較し、その減衰比等に基づき、アノード電極部材の電極本体の減肉量を推定することができる。
【0012】
本発明の第三態様に係る電気防食システムは、配管フランジを備えた配管と、隙間を介して互いに隣り合う第1端領域及び第2端領域を有するとともに略C型形状に形成された電極本体を有し、前記電極本体の内面が前記配管の内部に露出するように配置されるアノード電極部材と、前記配管の外部に接続されたカソード電極と、前記アノード電極部材及び前記カソード電極に配線を介して接続された直流電源と、第二態様に係る監視装置と、を備える。
【0013】
上記態様に係る電気防食システムによれば、直流電源からアノード電極部材に電流が供給される。このため、カソード電極が接続されている配管の内面、即ち、流体と接する配管の内面には電子が供給される。流体中のカチオン(正イオン)は、配管に引き寄せられ、腐食反応によって配管の金属カチオンが放出することが抑制される。この結果、配管の腐食を抑制することができる。更に、上述した監視装置を備えるので、アノード電極部材の電極本体の減肉量を推定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の上記態様によれば、電極本体の減肉を監視するのに適したアノード電極部材と、このアノード電極部材の減肉を監視する監視装置と、アノード電極部材及び監視装置を用いた電気防食システムとを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係るアノード電極部材を備えた電気防食システムの概略構成を示す部分断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るアノード電極部材を監視する監視装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施形態に係るアノード電極部材を備えた電気防食システムの構成を、
図1を参照しながら説明する。
本実施形態の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
本実施形態において、「流体」としては、例えば、配管材料の腐食を招く恐れがある海水等が挙げられる。
【0017】
(電気防食システム)
電気防食システム100は、配管フランジ71A(第1フランジ)を備えた配管70A(第1配管)と、配管フランジ71B(第2フランジ)を備えた配管70B(第2配管)と、アノード電極部材1と、配管70Aの外部に接続されたカソード電極20と、アノード電極部材1及びカソード電極20に配線を介して接続された直流電源30と、監視装置50を備える。アノード電極部材1は、配管フランジ71A、71Bの間に固定されている。アノード電極部材1の電極本体10の内面1Aは、配管70A、70Bの内部に露出している。カソード電極20は、配管70Bの外部に接続されている。
【0018】
配管フランジ71A、71Bの間には、絶縁シール部材15が設けられている。絶縁シール部材15は、アノード電極部材1を被覆固定し、配管フランジ71A、71Bの間の接続部を密閉している。
配管フランジ71A、71Bは、公知のボルト及びナット等を用いた締結部材(不図示)により、互いに固定されている。
【0019】
アノード電極部材1及びカソード電極20の各々から延出する配線は、直流電源30に接続されている。アノード電極部材1は、配線を介して、直流電源30のプラス側に接続されている。カソード電極20は、配線を介して、直流電源30のマイナス側に接続されている。直流電源30は、商用電源(交流)を直流に変換するAC−DC変換器を備え、直流電圧をアノード電極部材1とカソード電極20との間に印加することが可能である。また、直流電源30として、例えば、一次電池、二次電池、又は太陽電池等を用いてもよい。アノード電極部材1とカソード電極20との間に印加される電圧は、1V〜2V程度である。
【0020】
(アノード電極部材)
次に、本実施形態に係るアノード電極部材の概略構成を、
図2を参照しながら説明する。
アノード電極部材1は、配管フランジ71A、71Bに取り付けられる部材である。アノード電極部材1は、隙間Gを介して互いに隣り合う第1端領域11及び第2端領域12を有し、略C型形状に形成された電極本体10を有する。アノード電極部材1を構成する材料としては、カーボン、グラファイト、フェライト等が挙げられる。アノード電極部材1は、監視装置50の一部を構成する。
【0021】
(監視装置)
次に、本実施形態に係るアノード電極部材を監視する監視装置の概略構成を、
図2を参照しながら説明する。
監視装置50は、アノード電極部材1と、アノード電極部材1の第1端領域11(発信部)に巻かれた第1コイル11Aと、アノード電極部材1の第2端領域12(受信部)に巻かれた第2コイル12Aと、第1信号線L11を介して第1コイル11Aに電気的に接続された信号送信部21と、第2信号線L12を介して第2コイル12Aに電気的に接続された信号検出部22と、信号送信部21及び信号検出部22に電気的に接続された監視部23と、を有する。
【0022】
第1コイル11Aが巻かれた第1端領域11は、磁場を形成する第1磁極部11B(第1磁石)として機能する。第2コイル12Aが巻かれた第2端領域12は、磁場を形成する第2磁極部12B(第2磁石)として機能する。このような監視装置50は、信号送信部21が交流信号を送信し、信号検出部22が交流信号を受信し、監視部23において減衰比を測定するよう構成されている。
また、監視装置50においては、アノード電極部材1の電極本体10の内面1Aが配管70A、70Bの内部に露出するように配置されている。
【0023】
上記構成において、コイルの巻き数は、適宜調整される。電極本体10に巻かれる第1コイル11A及び第2コイル12Aは、電極本体10と一体化されてもよい。この場合、アノード電極部材1を交換する際に、第1コイル11A及び第2コイル12Aが電極本体10に取り付けられた状態で、交換が行われる。第1コイル11A及び第2コイル12Aが電極本体10に一体化された構造としては、例えば、樹脂材料等の塗布により、第1コイル11A及び第2コイル12Aを電極本体10に取り付ける構造が挙げられる。
【0024】
一方、アノード電極部材1を交換する際に、使用済みの電極本体から第1コイル11A及び第2コイル12Aを取り外し、新しい電極本体に第1コイル11A及び第2コイル12Aを取り付けて使用してもよい。
【0025】
次に、以上のように構成されたアノード電極部材1及び監視装置50を備える電気防食システム100の作用について説明する。
【0026】
図1に示すように、アノード電極部材1が配管フランジ71A、71Bの間に挟持され、かつ、アノード電極部材1の電極本体10の内面1Aが配管70A、70Bの内部に露出した状態で、符号Fに示す方向にて、配管70A、70B内を流体が流動する。
【0027】
直流電源30からアノード電極部材1に電流が供給される。電流は、アノード電極部材1から、配管70B内の流体を介して、配管70Bの内面に流れる。このため、カソード電極20が接続されている配管70Bの内面、即ち、流体と接する配管70Bの内面には電子が供給される。流体中のカチオン(正イオン)は、配管70Bに引き寄せられ、腐食反応によって配管70Bの金属カチオンが放出することが抑制される。
【0028】
ここで、アノード電極部材1は、アノードとして働き、配管70Bの防食機能を継続するため、流体に接触しているアノード電極部材1の電極本体10の材料は、アノード反応により内面1Aから溶出する。時間経過とともに内面1Aの溶出が進むにつれて、電極本体10は、減肉する。このような電極本体10の減肉は、監視装置50によって監視される。
【0029】
以下、監視装置50の機能について、具体的に説明する。
信号送信部21は、ガイド波信号を発生させる信号として、第1信号線L11を介して第1コイル11Aに交流信号を送信する。このとき、第1端領域11(発信部)における磁場が変化し、磁気歪み効果によって、アノード電極部材1の反対側、即ち、第2端領域12(受信部)にガイド波信号が伝搬される。
第2端領域12の第2コイル12Aは、ガイド波信号によって発生した交流信号を出力する。信号検出部22は、第2コイル12Aから発生した信号を検出する。
【0030】
監視部23は、信号送信部21が送信した信号と信号検出部22が検出した信号を比較し、その減衰比等に基づき、アノード電極部材1の電極本体10の減肉量を推定する。電極本体10の減肉量は信号の減衰比と略比例関係にあり、減衰比(dB/m)が大きいほど減肉量(mm)が大きく腐食が進行していると推定することができる。
【0031】
信号送信部21が送信する信号の周波数を変えることで、減衰比を減肉量に変換する際の感度を調整することができる。比較的低い周波数(10kHz程度)に設定する場合、減衰比との高い相関で、広い範囲の減肉量を計測することができる。また、比較的高い周波数(50〜130kHz)に設定する場合、僅かな減肉量を高感度で計測することができる。計測現場の状況に応じて周波数を変えて減肉量を計測するように、監視装置50が構成されていることが好ましい。
【0032】
以上説明したように、電気防食システム100によれば、アノード電極部材1の電極本体10の減肉量を推定することができるとともに、配管70Bの腐食を抑制することができる。
【0033】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明し、上記で説明してきたが、これらは本発明の例示的なものであり、限定するものとして考慮されるべきではないことを理解すべきである。追加、省略、置換、およびその他の変更は、本発明の範囲から逸脱することなく行うことができる。従って、本発明は、前述の説明によって限定されていると見なされるべきではなく、請求の範囲によって制限されている。
【符号の説明】
【0034】
1 アノード電極部材
1A 内面
10 電極本体
11 第1端領域
11A 第1コイル
11B 第1磁極部
12 第2端領域
12A 第2コイル
12B 第2磁極部
15 絶縁シール部材
20 カソード電極
21 信号送信部
22 信号検出部
23 監視部
30 直流電源
50 監視装置
70A、70B 配管
71A、71B 配管フランジ
100 電気防食システム
G 隙間
L11 第1信号線
L12 第2信号線