(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
クロム(Cr)およびニッケル(Ni)の少なくとも一種を含有する鉄基合金からなる条材に、プレス加工またはエッチング加工を施すことによって、両面および端面を有するリードフレーム材用基材を形成する成形工程と、
前記基材の両面のうちの少なくとも片面に、NiまたはNi合金からなり、厚さが0.05〜1.00μmの範囲である第1のNi系層を形成する下地層形成工程と、
前記第1のNi系層上に、銅(Cu)またはCu合金からなり、厚さが0.01〜0.30μmの範囲である第1のCu系層を形成する中間層形成工程と、
前記第1のCu系層上に、銀(Ag)またはAg合金からなり、厚さが0.30〜2.00μmの範囲である第1のAg系層を形成する表層形成工程と
を有し、
前記下地層形成工程では、前記第1のNi系層の形成だけではなく、前記基材の端面に、NiまたはNi合金からなる第2のNi系層も形成する、リードフレーム材の製造方法。
【背景技術】
【0002】
電気電子部品、例えば半導体デバイスに用いられるリードフレームは、性能、形状および加工方法による要求から、導電性を持った条材(以下導電性条材)が基材として使用されていることが多く、通常は、電気伝導性に優れた銅または銅合金を使用するのが一般的である。
【0003】
しかしながら、近年では、デバイスの低背化や小型化が進んできており、これに伴って、リードフレームに対しても薄肉化が要求されるようになり、例えば0.10mm以下の極薄板厚のリードフレームを作製するには、基材として、高強度を有するステンレス鋼を用いるのが有用である。
【0004】
例えば、特許文献1には、ステンレス鋼の基材上にNiめっきを施したリードフレームが開示されている。また、低背化に関わらず、リード部分が細長く形成されるような形状では、従来の銅合金では強度が足りずに変形してしまう恐れがあり、そのような用途においても、ステンレス鋼製のリードフレームを使用するのが好ましい。
【0005】
さらに、コネクターやスイッチ、端子などの電気接点などの用途では、銅合金やステンレス鋼などの耐食性や機械的強度に優れる基材に、電気特性とはんだ付け性に優れる銀を被覆した複合接点材料が多用されている。このうち、基材にステンレス鋼を用いて表面に通電性を持たせる目的でAgめっきを施した可動接点部品は、基材に銅合金を用いたものに比べて、機械的特性や疲労寿命に優れるため、接点の小型化が可能になり、長寿命のタクティルプッシュスイッチや検出スイッチなどに適用可能であることを、例えば本出願人は、特許文献2において提案した。
【0006】
表面にAgめっき等を形成しためっき付きステンレス鋼製基材を、電気接点などの用途に使用される場合、通常は、ステンレス鋼からなる条材上に、Agめっき等を形成した後に、プレス加工により所望の形状に打ち抜くのが一般的である。
【0007】
一方、表面にAgめっき等を形成しためっき付きステンレス鋼製基材を、リードフレームなどの用途に使用される場合、ステンレス鋼からなる条材上に、Agめっき等を形成した後に、プレス加工により所望の形状に打ち抜く例もなくはないが、多くは、スタンピング法またはエッチング法にて、所望の形状に加工した後に、基材の表面にAgめっき等を形成する、いわゆる、後めっき法で行われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載のリードフレームのように、ステンレス鋼製の基材上に、例えば耐食性を有するNiめっきのみを形成した構成だと、ダイパッドに支持された半導体部品とインナーリードの接続に用いられるワイヤボンディング性が悪いといった問題がある。
【0010】
そのため、リードフレームの表面に、Niめっきを形成した後に、ワイヤボンディング性が良いAgめっきを積層形成することも考えられるが、この場合、半導体デバイス製造時に樹脂封止を行うモールド工程で加熱を受け、表面から結晶粒界を通じて酸素が侵入し、Ag/Ni界面が酸化され、界面から剥離するといった問題が新たに生じるおそれがある。
【0011】
また、ステンレス鋼製の条材を、スタンピング加工やエッチング加工を施した後に、いったんロールに巻き取り、その後、ロールから巻き出した条材(基材)に対して連続的にめっきが施される場合、搬送時における条材(基材)の反りによって、密着性が低下しやすく、また、基材の端面を十分に被覆していなかったため、基材の端面で、基材中のFe成分の拡散により腐食変色が生じるといった問題もある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、クロム(Cr)およびニッケル(Ni)の少なくとも一種を含有する鉄基合金からなる板状のリードフレームの両面と端面のそれぞれに、適正な被膜を形成することにより、基材に対する被膜の密着性および加熱密着性に優れるとともに、ワイヤボンディング性および半田濡れ性にも優れ、さらに、端面での腐食変色も有効に抑制することができるリードフレーム材およびその製造方法ならびにリードフレームおよび電気電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は、以下の通りである。
(1)クロム(Cr)およびニッケル(Ni)の少なくとも一種を含有する鉄基合金からなる板状の基材が、両面および端面を有し、前記基材の両面のうちの少なくとも片面に、NiまたはNi合金からなり、厚さが0.05〜1.00μmの範囲である第1のNi系層と、銅(Cu)またはCu合金からなり、厚さが0.01〜0.30μmの範囲である第1のCu系層と、銀(Ag)またはAg合金からなり、厚さが0.30〜2.00μmの範囲である第1のAg系層とを順に積層形成してなる表面被膜を備え、前記基材の端面に、NiまたはNi合金からなる第2のNi系層、CuまたはCu合金からなる第2のCu系層、および銀(Ag)またはAg合金からなる第2のAg系層のうち、少なくとも第2のNi系層を形成してなる端面被膜を備える、リードフレーム材。
(2)前記端面被膜が、前記第2のNi系層と、前記第2のCu系層と、前記第2のAg系層とを順に積層形成してなる、上記(1)に記載のリードフレーム材。
(3)前記端面被膜の結晶粒径が、前記表面被膜の結晶粒径よりも大きい、上記(1)または(2)に記載のリードフレーム材。
(4)前記端面被膜の結晶粒径が、前記表面被膜の結晶粒径に対する比が、1.1〜2.0の範囲である、上記(3)に記載のリードフレーム材。
(5)前記基材の厚さが0.02〜0.10mmである、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のリードフレーム材。
(6)上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載のリードフレーム材からなるリードフレーム。
(7)上記(6)に記載のリードフレームを有する電気電子部品。
(8)クロム(Cr)およびニッケル(Ni)の少なくとも一種を含有する鉄基合金からなる条材に、プレス加工またはエッチング加工を施すことによって、両面および端面を有するリードフレーム材用基材を形成する成形工程と、前記基材の両面のうちの少なくとも片面に、NiまたはNi合金からなり、厚さが0.05〜1.00μmの範囲である第1のNi系層を形成する下地層形成工程と、前記第1のNi系層上に、銅(Cu)またはCu合金からなり、厚さが0.01〜0.30μmの範囲である第1のCu系層を形成する中間層形成工程と、前記第1のCu系層上に、銀(Ag)またはAg合金からなり、厚さが0.30〜2.00μmの範囲である第1のAg系層を形成する表層形成工程とを有し、前記下地層形成工程では、前記第1のNi系層の形成だけではなく、前記基材の端面に、NiまたはNi合金からなる第2のNi系層も形成する、リードフレーム材の製造方法。
(9)前記中間層形成工程では、前記第1のCu系層の形成だけではなく、前記第2のNi系層上に、CuまたはCu合金からなる第2のCu系層も形成し、かつ、前記表層形成工程では、前記第1のAg系層の形成だけではなく、前記第2のCu系層上に、AgまたはAg合金からなる第2のAg系層も形成する、上記(8)に記載のリードフレーム材の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のリードフレーム材は、クロム(Cr)およびニッケル(Ni)の少なくとも一種を含有する鉄基合金からなる板状の基材が、両面および端面を有し、前記基材の両面のうちの少なくとも片面に、NiまたはNi合金からなり、厚さが0.05〜1.00μmの範囲である第1のNi系層と、銅(Cu)またはCu合金からなり、厚さが0.01〜0.30μmの範囲である第1のCu系層と、銀(Ag)またはAg合金からなり、厚さが0.30〜2.00μmの範囲である第1のAg系層とを順に積層形成してなる表面被膜を備え、前記基材の端面に、NiまたはNi合金からなる第2のNi系層、CuまたはCu合金からなる第2のCu系層、および銀(Ag)またはAg合金からなる第2のAg系層のうち、少なくとも第2のNi系層を形成してなる端面被膜を備えることにより、基材に対する被膜の密着性および加熱密着性に優れるとともに、ワイヤボンディング性および半田濡れ性にも優れ、さらに、端面での腐食変色も有効に抑制することができる。
【0015】
また、本発明のリードフレーム材の製造方法は、クロム(Cr)およびニッケル(Ni)の少なくとも一種を含有する鉄基合金からなる条材に、プレス加工またはエッチング加工を施すことによって、両面および端面を有するリードフレーム材用基材を形成する成形工程と、前記基材の両面のうちの少なくとも片面に、NiまたはNi合金からなり、厚さが0.05〜1.00μmの範囲である第1のNi系層を形成する下地層形成工程と、前記第1のNi系層上に、銅(Cu)またはCu合金からなり、厚さが0.01〜0.30μmの範囲である第1のCu系層を形成する中間層形成工程と、前記第1のCu系層上に、銀(Ag)またはAg合金からなり、厚さが0.30〜2.00μmの範囲である第1のAg系層を形成する表層形成工程とを有し、前記下地層形成工程では、前記第1のNi系層の形成だけではなく、前記基材の端面に、NiまたはNi合金からなる第2のNi系層も形成することにより、上述した顕著な効果を奏するリードフレーム材を製造することができる。
【0016】
さらに、本発明の電気電子部品は、上述したリードフレーム材を用いて作製したリードフレームを有することにより、例えば半導体デバイス製造時に樹脂封止を行うモールド工程で加熱を受けたとしても、リードフレームを構成する、基材に対する被膜の加熱密着性に優れており、また、ワイヤボンディング性および半田濡れ性にも優れ、さらに、端面での腐食変色も有効に抑制することができるため、信頼性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のリードフレーム材の好ましい実施形態について、詳細に説明する。
<リードフレーム材>
本発明に従うリードフレーム材は、クロム(Cr)およびニッケル(Ni)の少なくとも一種を含有する鉄基合金からなる板状の基材が、両面および端面を有し、前記基材の両面のうちの少なくとも片面に、NiまたはNi合金からなり、厚さが0.05〜1.00μmの範囲である第1のNi系層と、銅(Cu)またはCu合金からなり、厚さが0.01〜0.30μmの範囲である第1のCu系層と、銀(Ag)またはAg合金からなり、厚さが0.30〜2.00μmの範囲である第1のAg系層とを順に積層形成してなる表面被膜を備え、前記基材の端面に、NiまたはNi合金からなる第2のNi系層、CuまたはCu合金からなる第2のCu系層、および銀(Ag)またはAg合金からなる第2のAg系層のうち、少なくとも第2のNi系層を形成してなる端面被膜を備える、リードフレーム材である。
【0019】
図1は、本発明の一の実施形態であるリードフレーム材を示した概略平面図、
図2は、
図1のI−I線上の断面図、
図3は、
図2に示す四角枠で囲ったX断面領域のリードフレーム材の表面部分を拡大し、表面被膜の構成(積層構造)を模式的に示す断面図、そして、
図4は、
図2に示す四角枠で囲ったY断面領域のリードフレーム材の端面部分を拡大し、端面被膜の構成(積層構造)を模式的に示す断面図である。
図示するリードフレーム材10は、半導体チップ(図示せず)を搭載するダイパッド1の周囲に、複数本のインナーリード2が互いに離隔して配置され、このインナーリード2はダムバー部3を介してアウターリード4と連結して構成されたものである。
リードフレーム材10は、基材5と表面被膜6と端面被膜7とを主として備えている。
【0020】
(基材)
基材5は、
図3に示すように、表面8と裏面(図示せず)の2つの面である両面と、両面同士を連結する端面9とを有し、板状をなしている。基材5は、クロム(Cr)およびニッケル(Ni)の少なくとも一種を含有する鉄基合金からなっている。Niを含有する鉄基合金としては、例えば、42アロイ(Fe−42質量%Ni)等が挙げられ、また、Cr(およびNi)を含有する鉄基合金としては、例えば、SUS301、SUS304等のステンレス鋼が挙げられる。
【0021】
鉄基合金は、例えば0.10mm以下の板厚まで薄肉化したリードフレームに使用される場合であっても、リードフレームとして十分な強度を有することが必要であることから、鉄基合金の引張強度としては、銅系合金の引張強度よりも高いことが好ましく、具体的には520MPa以上であることが好ましい。
【0022】
なお、基材5の厚さは、特に限定はしないが、デバイスの低背化や小型化に伴うリードフレームの薄肉化を図る観点から、0.02〜0.10mmとすることが好ましく、好ましくは、0.03mm〜0.05mmである。基材5の厚さが0.02mm未満だと、リードフレームとして十分な強度が得られなくなるからである。
【0023】
(表面被膜)
表面被膜6は、基材5の両面のうちの少なくとも片面に形成され、基材5の両面のうちの少なくとも片面(
図3では表面8)に、下地層である第1のNi系層11と、中間層である第1のCu系層12と、表層である第1のAg系層13とを順に積層することによって形成したものである。
【0024】
ところで、従来のリードフレーム材では、ステンレス鋼製の基材5の表面に、耐食性を有するNi系層を形成しただけだと、ダイパッドに支持された半導体部品とインナーリードの接続に用いられるワイヤボンディング性が悪いといった欠点があった。そのため、ステンレス鋼製の基材5の表面に、Ni系層と、ワイヤボンディング性が良いAg系層との2層で表面被膜を構成することが考えられるが、かかる構成を有する表面被膜を形成した場合には、半導体デバイス製造時に樹脂封止を行うモールド工程で加熱を受け、表面から結晶粒界を通じて酸素が侵入し、Ag系層/Ni系層の界面が酸化され、界面から剥離する、いわゆる加熱剥離の問題があり、加えて、スタンピング加工やエッチング加工後にフープによって連続的にめっき加工がされる場合に搬送時の基材の反りによって密着性が低下するといった問題もあった。上記問題のうち、加熱剥離の問題は、表面側から侵入した酸素によってNiが酸化されることが直接の原因であると考えられる。
【0025】
このため、本発明のリードフレーム材は、表面被膜を、第1のNi系層11と、第1のCu系層12と、第1のAg系層13とを順に積層して3層構造で形成することによって、第1のAg系層13/第1のNi系層11の界面にAgおよびNiとなじみのよい第1のCu系層12をバリア層(中間層)として設けることで、表面から侵入した酸素を、第1のCu系層12中のCu原子でトラップして、第1のNi系層11の界面での酸化を有効に防止することができる結果として、加熱剥離が生じにくくなるとともに、搬送時の基材の反り等による密着性の低下も抑制することができる。
【0026】
第1のNi系層11は、NiまたはNi合金からなっている。第1のNi系層11は、基材5から中間層12への元素の熱拡散を防止し、優れた耐食性を付与するとともに、基材5と中間層12との間の密着性を向上させることができる。Ni合金としては、特に限定されないが、例えばNi−P系、Ni−Fe系などが挙げられる。
【0027】
第1のNi系層11の厚さとしては、厚さが0.05〜1.00μmの範囲であることが必要である。厚さが0.05μm未満だと、上述したように、耐食性や密着性の向上効果が十分に得られないからであり、また、厚さが1.00μm超えだと、チップ実装後にリード部分を曲げ加工して所望の形状に加工する際に、めっき割れの起点になるとともに、Niが、中間層である第1のCu系層12と、表層である第1のAg系層13中を拡散して、はんだ付け性を悪化させるからである。
【0028】
第1のCu系層12は、銅(Cu)またはCu合金からなっている。第1のCu系層12は、第1のNi系層11と第1のAg系層13との間の密着性を向上させるために形成したものである。Ni系層11とCu系層12との間、Cu系層12とAg系層13との間で固溶体を形成することでNi系層11に直接Ag系層13を成膜した場合に比べて密着力を向上できる。Cu合金としては、特に限定されないが、例えばCu−Zn系などが挙げられる。
【0029】
第1のCu系層12の厚さとしては、厚さが0.01〜0.30μmの範囲であることが必要である。厚さが0.01μm未満だと、密着性の向上効果が十分に得られないからであり、また、厚さが0.30μm超えだと、第1のCu系層12から第1のAg系層13へのCu拡散が顕著になり、第1のAg系層13の変色などを引き起こすためである。
【0030】
第1のAg系層13は、銀(Ag)またはAg合金からなっている。第1のAg系層13は、電気特性やはんだ付け性、ワイヤボンディング性を向上させるために形成したものである。Ag合金としては、特に限定されないが、例えばAg−Sn系などが挙げられる。
【0031】
第1のAg系層13の厚さとしては、厚さが0.30〜2.00μmの範囲であることが必要である。厚さが0.30μm未満だと、電気特性やはんだ付け性の向上効果が十分に得られないからであり、また、厚さが2.00μm超えだと、めっき密着性が低下するためだからである。
【0032】
(端面被覆)
端面被膜7は、基材5の端面9に、NiまたはNi合金からなる第2のNi系層、CuまたはCu合金からなる第2のCu系層(図示せず)、および銀(Ag)またはAg合金からなる第2のAg系層(図示せず)のうち、少なくとも第2のNi系層14、
図4では第2のNi系層14のみを形成したものである。従来のリードフレーム材では、基材の端面を十分に被覆していなかったため、基材中のFe成分が、基材の端面まで拡散して腐食変色が生じるといった問題もあった。このため、本発明のリードフレーム材は、端面被膜7の形成により、また、基材5中のFe成分が、基材5の端面9まで拡散しても、基材5の端面9が端面被膜7で完全に覆われているため、腐食変色を有効に抑制することが可能になる。
【0033】
また、端面被膜7は、第2のNi系層14と、第2のCu系層と、第2のAg系層とを順に積層形成してなることが好ましい。このように端面被膜7を、第2のNi系層14と、第2のCu系層と、第2のAg系層とを順に積層形成して3層で構成することによって、腐食変色の抑制だけではなく、半田付け性をより一層向上させることができる。
【0034】
また、端面被膜7の結晶粒径D
Eは、表面被膜6の結晶粒径D
Sと同等以上にすることが好ましく、特に、表面被膜6の結晶粒径D
Sよりも大きくすることがより好ましい。端面被膜7の結晶粒径D
Eを、表面被膜6の結晶粒径D
Sと同等以上にすることによって、めっき密着性が向上するとともに、表面へのFe成分拡散を防止し、耐食性の向上が達成できる。端面被膜7の結晶粒径D
Eは、具体的には表面被膜6の結晶粒径D
Sに対する比(D
E/D
S比)が、1.1〜2.0の範囲であることが好適である。
【0035】
<リードフレーム材の製造方法>
次に、本発明のリードフレーム材の製造方法の一例を以下で説明する。
本発明のリードフレーム材の製造方法は、成形工程、脱脂工程、活性化工程、下地層形成工程、中間層形成工程および表層形成工程を少なくとも有する。なお、上述したいずれか一の工程と次の工程の間は、必要に応じて水洗工程を有するのが好ましい。
【0036】
(成形工程)
成形工程は、クロム(Cr)およびニッケル(Ni)の少なくとも一種を含有する鉄基合金からなる条材に、プレス加工またはエッチング加工を施すことによって、両面および端面を有するリードフレーム材用基材を形成する。
【0037】
(脱脂工程)
脱脂工程は、
一例として、カソード電解脱脂工程で用いる液組成および処理条件を以下に示す。
[電解脱脂処理の液組成および処理条件]
処理液:オルソケイ酸ソーダ100g/リットル
処理温度:60℃
陰極電流密度:2.5A/dm
2
処理時間:10秒
【0038】
(活性化工程)
活性化工程は、
一例として、活性化工程で用いる液組成及び処理条件を以下に示す。
[活性化処理の液組成および処理条件]
処理液:10%塩酸
処理温度:30℃
浸漬処理時間:10秒
【0039】
(下地層形成工程)
下地層形成工程は、前記基材の両面のうちの少なくとも片面に、NiまたはNi合金からなり、厚さが0.05〜1.00μmの範囲である第1のNi系層を形成する。
また、下地層形成工程では、前記第1のNi系層の形成だけではなく、前記基材の端面に、NiまたはNi合金からなる第2のNi系層も形成する。
一例として、下地層形成工程で用いる液組成および処理条件を以下に示す。
【0040】
[下地層形成処理の液組成および処理条件]
処理液:塩化ニッケル250g/リットル、
遊離塩酸50g/リットル
処理温度:40℃
電流密度:5A/dm
2
めっき厚:0.01〜0.2μm
処理時間:めっき厚毎に時間を調整
【0041】
(中間層形成工程)
中間層形成工程は、前記第1のNi系層上に、銅(Cu)またはCu合金からなり、厚さが0.01〜0.30μmの範囲である第1のCu系層を形成する。
【0042】
また、中間層形成工程では、前記第1のCu系層の形成だけではなく、前記第2のNi系層上に、CuまたはCu合金からなる第2のCu系層も形成することができる。
一例として、中間層形成工程で用いる液組成および処理条件を以下に示す。
【0043】
[中間層形成処理の液組成および処理条件]
処理液:硫酸銅150g/リットル、
遊離硫酸100g/リットル、
遊離塩酸50g/リットル
処理温度:30℃
電流密度:5A/dm
2
めっき厚:0.05〜0.3μm
処理時間:めっき厚毎に時間を調整
【0044】
(表層形成工程)
表層形成工程は、前記第1のCu系層上に、銀(Ag)またはAg合金からなり、厚さが0.30〜2.00μmの範囲である第1のAg系層を形成する。
また、表層形成工程では、第1のAg系層の形成だけではなく、第2のCu系層上に、AgまたはAg合金からなる第2のAg系層も形成することができる。
一例として、表層形成工程で用いる液組成および処理条件を以下に示す。
【0045】
[表層形成処理の液組成および処理条件]
処理液:シアン化銀50g/リットル、
シアン化カリウム50g/リットル、
炭酸カリウム30g/リットル、
添加剤(ここではチオ硫酸ナトリウム 0.5g/リットル)
処理温度:40℃
電流密度:0.05〜15A/dm
2の範囲で変化させて結晶粒径を調整
めっき厚:0.5〜2.0μm
処理時間:めっき厚毎に時間を調整
【0046】
[その他の工程]
ところで、リードフレームに半導体チップを接続するダイボンディング用樹脂は、低弾性化に伴って、リードフレームに樹脂が染み出す、いわゆるエポキシブリードアウト(EBO)と呼ばれる現象が生じやすく、EBOの発生により樹脂密着性が低下し、パッケージの信頼性低下の原因となる。
このため、このような場合には、表層形成工程後に、必要に応じて、エポキシブリードアウト防止処理(EBO処理)工程を行ってもよい。
【0047】
<リードフレーム材の用途>
本発明のリードフレーム材の用途としては、例えば、上述したリードフレーム材からなるリードフレームを有し、例えばワイヤなどによって半導体素子(半導体チップ)に電気的に接続され、モールド樹脂によって封止して形成される樹脂封止型半導体デバイス(半導体パッケージ)のような電気電子部品が挙げられる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例】
【0049】
以下に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0050】
(実施例1〜8)
実施例1〜8は、幅が100mmおよび厚さが表1に示す厚さであり、SUS301からなる基材を、下記に示す製造方法Aを行うことによって、表1に示すNi/Cu/Agの3層めっきからなる表面被膜、およびNiめっきのみからなる端面被膜を形成したリードフレーム材を作製した。表面被膜は、基材の両面に形成した。
【0051】
[製造方法A]
基材にスタンピング加工を施すことにより、所望のリードフレーム形状の基材に成形した後、電解脱脂工程、水洗工程、活性化工程、水洗工程、Niめっき(下地層)形成工程、水洗、Cuめっき(中間層)形成工程、水洗工程、Agめっき(表層)形成工程、水洗工程、水洗工程および乾燥工程を施す。
【0052】
(実施例9〜16)
実施例9〜16は、幅が100mmおよび厚さが表1に示す厚さであり、表1に示す材質(種類)からなる基材を、下記に示す製造方法Bを行うことによって、表1に示すNi/Cu/Agの3層めっきからなる表面被膜、およびNi/Cu/Agの3層めっきからなる端面被膜を有するリードフレーム材を作製した。表面被膜は、基材の両面に形成した。
【0053】
[製造方法B]
基材にスタンピング加工を施すことにより、所望のリードフレーム形状の基材に成形した後、電解脱脂工程、水洗工程、活性化工程、水洗工程、Niめっき(下地層)形成工程、水洗、Cuめっき(中間層)形成工程、水洗工程、Agめっき(表層)形成工程、水洗工程、エポキシブリードアウト防止処理(EBO処理)工程、水洗工程および乾燥工程を施す。
【0054】
(実施例17〜24)
実施例17〜24は、幅が100mmおよび厚さが表1に示す厚さであり、表1に示す材質(種類)からなる基材を、下記に示す製造方法Cを行うことによって、表1に示すNi/Cu/Agの3層めっきからなる表面被膜、およびNiめっきのみまたはNi/Cu/Agの3層めっきからなる端面被膜を有するリードフレーム材を作製した。表面被膜は基材の両面に形成した。
【0055】
[製造方法C]
基材にエッチング加工を施すことにより、所望のリードフレーム形状の基材に成形した後、電解脱脂工程、水洗工程、活性化工程、水洗工程、Niめっき(下地層)形成工程、水洗、Cuめっき(中間層)形成工程、水洗工程、Agめっき(表層)形成工程、水洗工程を施す。なお、必要に応じてエポキシブリードアウト防止処理(EBO処理)工程と水洗工程を乾燥工程の前に行う。
【0056】
(比較例1)
比較例1は、幅が100mmおよび厚さが0.05mmであり、SUS301からなる基材にスタンピング加工を施すことにより、所望のリードフレーム形状の基材に成形してリードフレーム材を作製した。このリードフレーム材は、表面被膜および端面被膜を有していない。
【0057】
(比較例2および3)
比較例2および比較例3は、幅が100mmおよび厚さが0.05mmであり、SUS301からなる基材を、上記に示す製造方法Aを行うことによって、表1に示すNi単層めっきからなる表面被膜、およびNi単層めっきからなる端面被膜を有するリードフレーム材を作製した。表面被膜は基材の両面に形成した。
【0058】
(比較例4〜11)
比較例4〜11は、幅が100mmおよび厚さが0.05mmであり、SUS301からなる基材を、上記に示す製造方法Bを行い、比較例4〜7が、表1に示す表面被膜および端面被膜を有するリードフレーム材、比較例8〜11が、表1に示す表面被膜を有し、端面被膜は形成しないリードフレーム材を作製した。表面被膜は基材の両面に形成した。
【0059】
(比較例12および13)
比較例12および13は、幅が100mmおよび厚さが0.05mmであり、SUS301からなる基材を、上記に示す製造方法Cを行うことによって、表1に示すNi/Cu/Agの3層めっきからなる表面被膜を有するリードフレーム材を作製した。このリードフレーム材は、端面被膜を有していない。表面被膜は基材の両面に形成した。
【0060】
(比較例14〜19)
比較例14〜19は、幅が100mmおよび厚さが0.05mmであり、SUS301からなる基材を、上記に示す製造方法Bを行うことによって、表1に示す表面被膜および端面被膜を有するリードフレーム材を作製した。表面被膜は基材の両面に形成した。
【0061】
作製した上記各供試材(リードフレーム材)について下記の性能評価を行った。
【0062】
<評価方法>
(各被膜の結晶粒径の算出方法)
めっき皮膜の結晶粒径の測定は、断面試料作製装置(クロスセクションポリッシャ:日本電子株式会社製)にてリードフレームに対して垂直断面試料を作製し、電子線後方散乱回折法(EBSD:Electron Backscatter Diffraction)にて観察し、面積法にて求める。具体的には視野範囲内に20個以上の結晶粒が入るような矩形測定領域を設定し、矩形測定領域を区画する縦横の線分から、矩形測定領域の面積を求める。次に、矩形測定領域内にある結晶粒は、矩形測定領域を区画する縦横の線分で分断されていない結晶粒を1個と数え、矩形測定領域を区画する線分で分断された結晶粒を1/2個と数え、矩形測定領域の面積を、矩形測定領域内で数えた結晶粒の個数の総和で除することにより、結晶粒1個当たりの平均(断)面積を算出する。そして、平均(断)面積から、結晶粒が真円形状であるとしたときの直径を結晶粒径(μm)として算出した。各被膜の結晶粒径を表1に示す。
【0063】
(各(めっき)層の厚さの測定方法)
各供試材に形成した、表面被膜を構成する各層(下地層、中間層、表層)の厚さは、
蛍光X線膜厚計(日立ハイテクサイエンス:FT9400)で測定する他に、断面試料作製装置(クロスセクションポリッシャ:日本電子株式会社製)にてリードフレームに対して垂直断面試料を作製し、電子線後方散乱回折法(EBSD:Electron Backscatter Diffraction)にて観察し、直接間接法により測定した。また、端面被膜は、表面被膜の各層の厚さと同様の測定方法で、合計厚さとして測定した。
【0064】
(性能評価)
[密着性]
密着性は、乾燥工程後のサンプルに対してJIS H 8504:1999で規定する引き剥がし試験を行い、基材に対する表面被膜の剥離が認められない場合を「〇」、基材に対する表面被膜の剥離が認められる場合を「×」として評価した。密着性の評価結果を表1に示す。
【0065】
[加熱密着性]
加熱密着性は、300℃に設定した大気加熱炉中で5分の条件で加熱を行い、そののちにJIS H 8504:1999で規定する引き剥がし試験を行い、基材に対する表面被膜の剥離が認められない場合を「〇」、基材に対する表面被膜の剥離が認められる場合を「×」として評価した。また、加熱密着性の評価で「〇」であったサンプルについては、さらに、350℃に設定した大気加熱炉中で5分の条件で加熱を行い、基材に対する表面被膜の剥離が認められない場合を「◎」として評価した。加熱密着性の評価結果を表1に示す。
【0066】
[ワイヤボンディング(WB)性]
ワイヤボンディング(WB)性は、樹脂モールド工程における熱履歴を模擬して150℃に設定したエアバス中で3時間の大気加熱を行った後、下記の条件にてワイヤボンディングを10点実施する。10点テスト後に接合強度測定を行い、その(強度−3σ)の値が29.4mN以上のものを「優」と判定して、表1中に「◎」印を付し、29.4mN未満であるがエラー無く接合可能なものを「良」と判定して、表1中に「○」印を付し、そして、1点でもエラーが発生するかもしくはまったく接合しないものを「不可」と判定して、表1中に「×」印を付した。
<ワイヤボンディング性の測定条件>
ワイヤボンダ:SWB−FA−CUB−10、(株)新川製
ワイヤ:25μm 金ワイヤボンディング温度:150℃
キャピラリ:1570−15−437GM
1st条件:10msec.、45Bit、45g
2nd条件:10msec.、100Bit、130g
ワイヤボンディング(WB)性は、「○」以上である場合を、実用レベルであるとして評価した。
【0067】
[はんだ濡れ性]
はんだ濡れ性は、樹脂モールド工程における熱履歴を模擬して、大気加熱炉中で3時間の加熱を行った後、ソルダーチェッカー(SAT−5100(商品名、(株)レスカ製))を用いてはんだ濡れ時間を評価した。測定条件の詳細は、以下の条件とし、はんだ濡れ時間が3秒未満である場合を「優」であると判定し、「◎」印を付し、3秒以上10秒未満であるものを「良」であると判定し、「○」印を付し、そして、10秒以上浸漬してもはんだが濡れ上がらず接合しなかったものをなかったものを「不可」と判定し、「×」印を付した。
<半田濡れ性の測定条件>
はんだ種類:Sn−3Ag−0.5Cu
温度:250℃
フラックス:イソプロピルアルコール−25%ロジン
浸漬速度:25mm/sec.
浸漬時間:10秒
浸漬深さ:10mm
はんだ濡れ性は、「○」以上である場合を、実用レベルであるとして評価した。
【0068】
[端面での耐食性(端面変色)]
端面での耐食性(端面変色)は、めっき後もしくはチップ実装後のリードフレームに対して、105℃で100%RHのプレッシャクッカー試験を96時間実施し、端面をデジタルマイクロスコープで拡大して観察する。端面での変色がなかった場合を「〇」、端面での変色があった場合を「×」として評価した。表1に端面変色を評価した結果を示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示す結果から、基材に、第1のNi系層、第1のCu系層および第1のAg系層の3層からなる表面被膜と、第2のNi系層の1層、または第2のNi系層、第2のCu系層および第2のAg系層の3層からなる端面被膜とを形成した実施例1〜24はいずれも、密着性、加熱密着性、ワイヤボンディング性(WB性)、半田濡れ性および端面変色が合格レベルであることがわかる。
一方、基材(SUS301)のみからなり、表面被膜および端面被膜を形成しない比較例1のリードフレーム材は、ワイヤボンディング性(WB性)、半田濡れ性および端面変色がいずれも劣っていた。
基材(SUS301)に、第1のNi系層の1層のみからなる表面被膜と、第2のNi系層の1層のみからなる端面被膜とを形成した比較例2および3のリードフレーム材は、いずれもWB性および半田濡れ性が劣っていた。
基材(SUS301)に、第1のNi系層および第1のAg系層の2層からなる表面被膜と、第2のNi系層および第2のAg系層の2層からなる端面被膜とを形成した比較例4〜7のリードフレーム材は、いずれも加熱密着性が劣っていた。
基材(SUS301)に、第1のNi系層および第1のCu系層を形成せずに、第1のAg系層のみからなる表面被膜を形成し、端面被膜は形成しない比較例8および9のリードフレーム材、および、基材(SUS301)に、第1のNi系層を形成せずに、第1のCu系層および第1のAg系層の2層からなる表面被膜を形成し、端面被膜は形成しない比較例10および11のリードフレーム材は、いずれも密着性、加熱密着性およびワイヤボンディング性(WB性)が劣り、加えて、端面変色が生じていた。
基材(SUS301)に、第1のNi系層、第1のCu系層および第1のAg系層の3層からなる表面被膜を形成し、端面被膜は形成しない比較例12および13のリードフレーム材は、いずれも端面変色が生じていた。
基材(SUS301)に、第1のNi系層、第1のCu系層および第1のAg系層の3層からなる表面被膜と、第2のNi系層、第2のCu系層および第2のAg系層の3層からなる端面被膜を形成したものの、表面被膜を構成する、第1のNi系層、第1のCu系層および第1のAg系層のいずれかの層の厚さが適正範囲外である比較例14〜19のリードフレーム材は、密着性、加熱密着性、ワイヤボンディング性(WB性)、半田濡れ性および端面変色の少なくとも一つの特性が劣っていた。
本発明のリードフレーム材10は、CrおよびNiの少なくとも一種を含有する鉄基合金からなる板状の基材5が、両面および端面を有し、基材5の両面のうちの少なくとも片面に、厚さが0.05〜1.00μmの範囲である第1のNi系層11と、厚さが0.01〜0.30μmの範囲である第1のCu系層12と、厚さが0.30〜2.00μmの範囲である第1のAg系層13とを順に積層形成してなる表面被膜7を備え、基材5の端面に、第2のNi系層14、第2のCu系層、および第2のAg系層のうち、少なくとも第2のNi系層14を形成してなる端面被膜7を備え、基材5に対する被膜の密着性および加熱密着性に優れ、ワイヤボンディング性および半田濡れ性にも優れ、さらに端面での腐食変色も有効に抑制することができる。