【文献】
鈴木啓太郎他、「発芽玄米中の抗酸化物質について」,日本食品科学工学会大会講演集、 2000.03.28, vol. 47th, p. 66 (2Bp1)
【文献】
Biotechnol. Prog., 2005 Mar-Apr, vol. 21, no. 2, pp. 405-410
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
発芽力を有する未発芽穀物種子を溶存酸素量が2mg/L以上の水又は水溶液からなる動的液体中に配置し、0.7気圧〜1.3気圧下で25〜35℃の温度下にて24時間〜144時間処理して得られる、100g中20mg以上のγ-アミノ酪酸、200mg以上のコリン、及び5g以上の食物繊維を含有する穀物種子。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.増強された栄養素を含有する穀物種子の製造方法
1-1.概要
本発明の第1の態様は増強された栄養素を含有する穀物種子の製造方法である。
【0017】
1−2.用語の定義
本明細書で使用する以下の用語について定義する。
「栄養素」とは、生物が代謝目的で外界から摂取し、エネルギー生産、成長、繁殖、及び健康の維持のために生体内で利用する物質のうち、水、酸素、及び植物における二酸化炭素を除いたものをいう。栄養素には、有機物を含む又は有機物からなる有機栄養素、及び無機塩類等の無機物からなる無機栄養素が知られるが、本発明ではいずれの栄養素も含み得る。栄養素の具体的な例として、炭水化物、脂肪及びタンパク質の三大栄養素や、それらを構成する糖、脂肪酸、グリセリン及びアミノ酸、さらに、ビタミン及び無機塩類(ミネラル)等の低分子化合物を含み得るが、これらに限定はされない。また、前記生物は、限定はしないが、従属栄養生物である動物が好ましい。本明細書における動物は、分類上の様々な種を含み得るが、哺乳類又は鳥類が好ましく、さらにヒト、家畜(ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ウサギ、トナカイ、ラクダ、ラマ、アルパカ、ニワトリ等を含む)、愛玩動物(イヌ、ネコ等を含む)、又は実験動物(マウス、ラット、モルモット、サル等を含む)がより好ましい。
【0018】
本明細書において「増強された栄養素」とは、被験物に対して所定の処理を行うことによって、その被験物に含まれる特定の栄養素の量が前記被験物における通常状態時の量と比較して有意に増加していることをいう。ここでいう「通常状態」とは、前記所定の処理を行っていない状態をいう。また、「有意」とは、統計学的に有意なことをいう。本明細書の場合には、所定の処理を行った処理済みの被験物と未処理の被験物とを測定して得られる測定値の差異、つまり特定の栄養素の量差を統計学的に処理したときに、両者の間に有意差があることをいう。例えば、得られた値の危険率(有意水準)が小さい場合、具体的には5%より小さい場合(p<0.05)、1%より小さい場合(p<0.01)、又は0.1%より小さい場合(p<0.001)が該当する。ここで示す「p(値)」は、統計学的検定において、統計量が仮定した分布の中で、仮定が偶然正しくなる確率を示す。したがって「p」が小さいほど、統計学的に有意であり、仮定が真に近いことを意味する。統計学的処理の検定方法は、有意性の有無を判断可能な公知の検定方法を適宜使用すればよく、特に限定しない。例えば、スチューデントt検定法等を用いることができる。
【0019】
本明細書において増強され得る栄養素として、限定はしないが、例えば、γ-アミノ酪酸(gamma-aminobutyric acid:本明細書ではしばしば「GABA」と略称する)、コリン、フェルラ酸、コリン、γ-オリザノール、ベタイン、リジン、及び食物繊維が挙げられる。
【0020】
「穀物」とは、種子を主に食糧用として得るために栽培される植物種、又はその種子をいう。本明細書では、植物種とその種子を明確に区別するために、穀物植物種を「穀物」、そしてその種子を「穀物種子」と表記する。穀物種子はデンプン質に富むものが多く、世界各地で主食用として栽培されている。一般的にはイネ科植物の栽培種であるイネ科作物の種子(本明細書では、しばしば「禾穀類(かこくるい:Cereals)」と表記する)が該当するが、マメ科植物の栽培種であるマメ科作物の種子(本明細書では、しばしば菽穀類(しゅこくるい:Pulses)」と表記する)、タデ科植物の栽培種であるタデ科作物の種子、及びアカザ科植物の栽培種であるアカザ科作物の種子等も含まれる。限定はしないが、禾穀類の具体例としてはコメ(穀物の場合、イネ)、オオムギ、コムギ、ライムギ、エンバク、トウモロコシ、コウリャン/モロコシ、アワ、ヒエ、キビ等が挙げられる。また、菽穀類の具体例としてはダイズ、エンドウマメ、インゲンマメ、アズキ、リョクトウ、ソラマメ、レンズマメ、ヒヨコマメ、ラッカセイ等が挙げられる。さらに、タデ科作物の種子の具体例としてはソバが、そしてアカザ科作物の種子の具体例としてはキヌアが挙げられる。
【0021】
本明細書において「発芽」とは、発根を包含する用語であり、種子から幼芽又は幼根の先端が出現すること、又は出現した時点をいう。「発芽力を有する」とは、発芽に適切な条件下に置くことで種子が発芽し得ることをいう。
【0022】
また、本明細書において「未発芽穀物種子」とは、発芽していない穀物種子をいう。原則として生存状態にある種子が該当し、生命活動を停止した休眠状態にある穀物種子だけでなく、吸水により休眠から解除された穀物種子であっても発芽していない限り包含される。また、コメ、コムギ、オオムギ等の禾穀類は、最外部が籾殻に代表されるような硬い外皮に覆われている。禾穀類の未発芽穀物種子は、この外皮が付いた未脱穀状態であっても、又は外皮を除去した脱穀状態であってもよい。好ましくは脱穀状態である。
【0023】
「溶存酸素量」とは、水中に溶解している酸素の量で、通常、mg/Lの単位で表記する。溶存酸素量は、水温、気圧、溶存塩分濃度等の条件によって変化し、一般に水温が低いほど、圧力が大きいほど、そして溶存塩分濃度が低いほど、その量は多くなる。
【0024】
「水溶液」とは、1種又は複数種の溶質が溶解している水をいう。原則は溶質が水に完全に溶け込んでいる状態の液体のため透明な液体を意味するが、本明細書では、微細粒子が不溶の状態で水中を浮遊している「懸濁液」も広義に包含するものとする。
【0025】
1-3.方法
本発明の製造方法のフローを
図1に示す。この図で示すように本発明の製造方法は、配置工程(S0102)、及び処理工程(S0103)を必須の工程として含み、殺菌工程(S0101)、代謝停止工程(S0104)、及び乾燥工程(S0105)を選択工程として含む。以下、各工程について、具体的に説明をする。
【0026】
1−3−1.殺菌工程
「殺菌工程」(S0101)は、配置工程前に未発芽穀物種子を表面殺菌する工程である。「表面殺菌」とは、未発芽穀物種子の表面を消毒により殺菌することをいう。ここでいう表面とは、処理する穀物種子が外界に接している面をいう。例えば、脱穀した禾穀類であれば種皮表面(コメの場合は、玄米の表面)が該当する。殺菌に用いる方法は、未発芽穀物種子の発芽力を低下又は喪失させず、残留性のない又は少ない方法であれば、特に限定はしない。当該分野で公知の方法を使用することができる。例えば未発芽穀物種子を、殺菌液に浸漬する方法、又は殺菌液を塗布又は噴霧する方法が挙げられる。殺菌液には、例えば、エタノール水溶液、及び/又は次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いることができる。エタノール水溶液中のエタノール濃度は、限定はしないが、例えば、65%〜75%、68〜72%、又は70%であればよい。また次亜塩素酸ナトリウム水溶液中の次亜塩素酸ナトリウム濃度は、限定はしないが、例えば、0.05%〜2%、0.75%〜1.5%、又は0.1%〜1%であればよい。殺菌処理時間は、消毒液の濃度や穀物種子の種によって適宜定めればよい。例えば、消毒液に70%エタノールを用いる場合には、20秒〜50秒、25秒〜45秒、又は30秒〜40秒処理すればよい。また0.1%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液であれば30分〜1時間30分、40分〜1時間20分、50分〜1時間10分、又は1時間処理すればよい。1%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液であれば1分〜5分、2分〜4分、又は3分処理すればよい。その他、紫外線照射による殺菌方法を利用することもできる。
【0027】
殺菌処理後は、穀物種子を洗浄してもよい。特に、殺菌液を使用した場合には、穀物種子表面に残存する殺菌液を以降の工程に持ち込まないようにするために洗浄を行うことが好ましい。洗浄に使用する洗浄液は、限定はしないが、水、又は配置工程で使用する水溶液でよい。
【0028】
1−3−2.配置工程
「配置工程」(S0102)は、発芽力を有する未発芽穀物種子を動的液体中に配置することを特徴とする工程であって、本発明の製造方法における必須の工程である。
【0029】
本工程で処理する未発芽穀物種子は、栄養素の増強を目的とする所望の穀物種子であればよく限定はしない。好ましい穀物種子は禾穀類であり、コメ、オオムギ、コムギ及びトウモロコシはさらに好ましい。
【0030】
本工程に供する未発芽穀物種子の穀粒数は限定しないが、通常は大量処理のために複数を一度に供する。複数の穀粒を処理する場合、各穀粒は同一種であっても、異なる種類であってもよい。
【0031】
本工程において「配置する」とは、動的液体と接触する位置に発芽力を有する未発芽穀物種子を置くことをいう。例えば、容器内に貯留する液体中に前記未発芽穀物種子の全部又は一部を浸漬する方法が挙げられる。未発芽穀物種子の全部を液体中に浸漬し、穀粒周囲が液相とすることが好ましい。配置方法は、限定しない。液体を貯留する容器内に、未発芽穀物種子を液体中にそのまま投入して浸してもよいし、別容器に収納し、その容器ごと液体中に浸漬してもよい。この場合に使用する容器の形状は限定しないが、液体が内部に容易に侵入し得る容器、例えば、複数の孔を有する容器や網籠等は好適である。
【0032】
本工程において「動的液体」とは、動的状態にある液体、換言すれば流動性を有する液体をいう。液体を動的状態にする目的として、液体中に溶存する各種成分、例えば、穀物種子から排出される代謝物等の均質化や、溶存する酸素の穀物種子への供給等が挙げられる。液体の流動性は、液体の全部又は一部が動きを生じ得るあらゆる流動を含み得る。例えば、限定はしないが、撹拌子、撹拌板(プロペラ)、回転槽等による回転流動、振盪等の往復運動によって生じる流動、エアレーションよる気泡に伴い生じる流動、流路を介した流動、液体中の温度差によって生じる対流等が挙げられる。穀物種子を液体中に配置している限り、その液体は原則として動的状態にあることが好ましい。ただし、例えば数秒〜1時間程度の短期間であれば、一時的に静止状態であっても構わない。
【0033】
本工程で使用する液体は、所定の溶存酸素量を有する水又は水溶液である。水溶液の場合、溶解している溶質又は懸濁している微細粒子の種類や濃度は、未発芽穀物種子の発芽力を低下又は喪失させない限り、特に問わない。前記「所定の溶存酸素量」とは、2 mg/L以上、2.5 mg/L以上、3.0 mg/L以上、3.5 mg/L以上、4.0 mg/L以上、4.5 mg/L以上、又は5.0 mg/L以上をいう。液体中の溶存酸素量の上限は、本工程及び次の処理工程の温度(水温)、気圧、及び溶存塩濃度の各条件に基づく飽和溶存酸素量であればよい。本発明は、未発芽穀物種子を動的液体中で所定の濃度の酸素に晒すことで、その効果を奏し得る。したがって、この溶存酸素量は、穀物種子が液体中に配置されている限り、本工程のみならず次に説明をする処理工程等を通して、原則として維持することが好ましい。ただし、工程間等で一時的に前記所定の溶存酸素量の範囲を外れても構わない。
【0034】
液体中の溶存酸素量は、前述のように水温、気圧、溶存塩濃度等によって変動し得る他、未発芽穀物種子を液体中に配置することで穀物種子の呼吸等によっても時間経過と共に減少する。そこで、穀物種子を液体中に配置している全工程で、又は工程中のいずれかの時点で、液体の交換、又はエアレーション等の能動的操作により、液体中の溶存酸素量を上記数値以上に維持することが好ましい。
【0035】
1−3−3.処理工程
「処理工程」(S0103)は、配置工程で液体中に配置された未発芽穀物種子を処理する工程であって、本発明の製造方法における必須の工程である。
【0036】
本工程における「処理」とは、発芽力のある未発芽穀物種子を前記配置工程の条件下に曝露し続けることをいう。したがって、本製造方法に供される前記穀物種子は、本工程を通して所定の溶存酸素量を有する動的液体中に曝露され続ける。本工程では、その曝露期間中の気圧条件、温度条件、及び処理時間を特定することを特徴とする。
【0037】
本工程における気圧は、大気圧±0.3気圧、又は大気圧±0.2気圧である。例えば、大気圧が1気圧の場合であれば0.7気圧〜1.3気圧の範囲、又は0.8気圧〜1.2気圧の範囲が該当する。好ましくは1.0気圧〜1.2気圧の範囲である。
【0038】
本工程における温度は、液体の温度、すなわち水温である。また、本工程における前記所定の温度は、25〜35℃、27〜33℃、28〜32℃、又は29〜31℃の範囲をいう。好ましくは30℃である。本工程中は、液体の全てが前記温度範囲内にあることが好ましい。
【0039】
本工程における処理時間は、24時間以上、25時間以上、26時間以上、27時間以上、28時間以上、29時間以上、30時間以上あればよい。処理工程時間が長いほど目的の栄養素の含有量は増加することから、上限の限定はしない。ただし、本工程が長期に及ぶ場合、本発明の費用対効果を鑑みれば、実施上は24時間〜144時間、30時間〜135時間、36時間〜130時間、40時間〜125時間、又は48時間〜120時間の範囲内にあることが好ましい。
【0040】
本工程は、前記配置工程直後から開始され、上記処理工程時間の完了時まで継続される。ただし、本工程の気圧及び温度条件は配置工程時前から開始していてもよい。また、前述のように、本工程でも液体、すなわち水又は水溶液中の溶存酸素量は、前記配置工程における溶存酸素量の範囲を維持する。
【0041】
さらに、使用する液体は、本工程中に新たな液体と交換することができる。ここでいう、新たな液体とは、未使用の液体の他、再生した液体であってもよい。「再生した液体」とは、本工程で使用した液体を濾過するなどの再生処理を行うことによって、使用済みの液体中に含まれる穀物種子の代謝物等を除去し、未使用の液体と同程度の純度にまで精製した液体をいう。本工程中に液体を交換する回数は限定しない。1回又は複数回であってもよい。また、交換は全部交換であってもよいし、液体の一部を交換する部分交換であってもよい。さらに、交換する液体は水又は水溶液であるが、交換前の液体と同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、本工程開始時に使用している液体が水溶液であった場合、交換後の液体を水にすることができる。
【0042】
なお、未発芽穀物種子のほとんどは、本工程における処理過程中に発芽する。したがって、本工程開始時に未発芽状態であった穀物種子は、本工程完了後には発芽状態(発芽穀物種子)となっている。
【0043】
1−3−4.代謝停止工程
「代謝停止工程」(S0104)は、処理工程後の穀物種子の代謝を停止する工程で、本発明の製造方法における選択工程である。
【0044】
本発明の製造方法では、前記処理工程(S0103)完了時には穀物種子中に含まれる栄養素が増強している。しかし、処理工程完了時までは穀物種子は生存状態にあるため、その後の時間経過と共に増強された栄養素が穀物種子自身の代謝によって低下し得る。また、発芽穀物種子が新芽(スプラウト)状態にまで発生が進行してしまう可能性もある。本工程は、穀物種子の代謝を停止することによって、穀物種子中に含まれる増強された栄養素の量を維持することを目的として行われる。
【0045】
穀物種子の代謝を停止する方法は限定しない。代謝の停止は可逆的停止であっても又は不可逆的停止であってもよい。
【0046】
穀物種子の代謝を可逆的に停止する方法の例として、低温保存法が挙げられる。低温保存法における温度は、穀物種子が代謝をほとんど又は完全に停止し、かつ凍結しない温度であればよい。例えば、0±1℃の範囲が挙げられる。ただし、代謝を可逆的に停止する場合、停止の解除によって前記問題が再浮上し得る。
【0047】
穀物種子の代謝を不可逆的に停止するとは、穀物種子の生命活動を細胞レベルで停止することを意味する。穀物種子の代謝を不可逆的に停止する方法は、その方法で処理した穀物種子がそれを利用する生物に対して有害とならない限り、特に限定はしない。穀物種子中に含まれる増強された栄養素が破壊若しくは低減されない方法であれば好ましい。例えば、加熱処理方法、凍結(乾燥)方法、低温乾燥処理方法、γ線照射方法等の方法が挙げられる。特に加熱処理方法は、容易かつ確実な方法であり、比較的低コストで実施できるため好適である。前記各種方法はいずれも当該分野で公知の方法に準じて行うことができる。
【0048】
例えば、加熱処理方法の場合、処理工程後の穀物種子を細胞が死滅する温度まで加熱すればよい。加熱温度は50℃〜120℃、55℃〜110℃、60℃〜100℃、65℃〜95℃、又は70℃〜90℃の範囲で行えばよい。加熱時間は加熱温度に依存し、50℃〜70℃であれば、例えば30分〜1時間、70℃〜90℃であれば、例えば10分〜40分、そして90℃〜120℃であれば、例えば1分〜15分処理すればよいが、この時間に限定はされない。
【0049】
また、穀物種子を加熱する方法は、例えば、穀物種子を容器に入れ、その容器をヒーター等の熱源によって加熱する方法、上記加熱温度の雰囲気下もしくは通風装置により循環させた雰囲気下に穀物種子を配置する方法、マイクロウェーブを照射する方法等が挙げられる。
【0050】
なお、前記処理工程後に得られた穀物種子は、次の工程前に脱液処理を行ってもよい。処理工程後の穀物粒子表面には多量の液体(水又は水溶液)が付着しているが、その液体を次の工程へ持ち込んだ場合、それぞれの工程の効率を減じてしまう。そこで、処理工程後、次の工程(代謝停止工程、又は乾燥工程)前に、穀物粒子表面に付着した余分な液体を除去することで、本発明の製造効率を上げること可能となる。ただし、穀物種子に含まれる水分等の液体成分まで除去する必要はない。この処理が必要な場合は、次の乾燥工程で処理すればよい。液体を除去する方法は、当該分野で公知の脱水方法を利用すればよい。例えば、遠心力を利用した脱水方法は、最も一般的で、かつシンプル上に低コストなので便利である。
【0051】
1−3−5.乾燥工程
「乾燥工程」(S0105)は、処理工程後、又は加熱工程後の穀物種子を乾燥させる工程で、本発明の製造方法における選択工程である。
【0052】
本発明の製造方法は、その性質上、処理工程後の穀物種子に多量の水分が包含される。しかし、穀物種子の含水率が高いと、穀物種子の呼吸作用が活性化して増強した栄養素の分解速度が高まる上に、細菌による腐敗やカビを発生し易くなる等、保存性が悪くなり、また品質の劣化も早まる。さらに加工時に、例えば、十分な製粉ができない等の問題を伴う。本工程は、栄養素が増強された穀物種子の保存性を高め、品質を維持することを目的として行われる。
【0053】
本明細書において「乾燥」とは、処理工程後の穀物種子(その多くは発芽穀物種子)中に含まれる水分を減ずることを言う。
【0054】
乾燥の方法は、穀物種子中に含まれる水分を減じることができれば特に限定はしない。例えば、外気に晒す自然乾燥法、日光曝露による太陽熱で乾燥する天日干し法、密閉容器内に除湿剤と共に封入し乾燥する除湿乾燥法、熱風を送風し乾燥する通風乾燥法、加熱による水分蒸発で乾燥する加熱乾燥法、遠赤外線を照射する遠赤外線乾燥法、概ね15℃以下の低温下で通風、除湿処理をする低温乾燥処理方法、脱気により乾燥する真空乾燥法、凍結状態で乾燥する凍結乾燥(フリーズドライ)法、又はそれらの組み合わせが挙げられる。その他にも、穀物種子の動きに基づき、堆積したまま乾燥する静置法と穀物種子を動かしながら乾燥する循環方法が知られているが、いずれの方法も利用できる。
【0055】
本工程における乾燥時間は、前記乾燥方法や、雰囲気中の温度や湿度、及び本工程完了後の穀物種子に求める含水率等によって異なる。そのため、特に限定はされず、それぞれの条件に応じて適宜定めればよい。本工程中でも、穀物種子の乾燥状態に応じて、乾燥時間を短縮又は延長してもよい。
【0056】
本工程完了後の穀物種子における含水率は、限定はしないが、通常、乾量基準(Dry-Base:d.b.)含水率で50%d.b.以下、45%d.b.以下、40%d.b.以下、35%d.b.以下、30%d.b.以下、25%d.b.以下、20%d.b.以下、又は20%d.b.以下となるまで、それぞれの乾燥方法で乾燥させればよい。ただし、含水率が10%d.b.以下になると、過乾燥により胴割粒の発生が増加し、食味も低下するため、限定はしないが、含水率の下限は10%d.b.、9%d.b.、又は8%d.b.であればよい。
【0057】
なお、本発明の製造方法では、全工程、又は一部工程、特に処理工程を暗所で行うことができる。各工程の全期間又は一部期間を暗所で行ってもよい。本明細書で「暗所」とは、光を完全に遮断した遮光環境、又は数lx以下の極めて弱い光が放射されている弱光環境をいう。暗所に置いている期間、すなわち暗期は、全工程中、又は各工程の期間中、連続していてもよいし、数秒〜数分の間欠的明期を含んでいてもよい。
【0058】
2.増強されたGABAを含有する穀物種子
2−1.概要
本発明の第2の態様は、増強されたGABAを含有する穀物種子である。本発明の穀物種子は、発芽力を有する未発芽穀物種子に所定の処理を施すことによって得られ、100g中20mg以上のGABAを含有している。本発明の穀物種子によれば、通常の穀物種子の一度の食事量からは摂取できない有効量のGABAを一度の食事量で摂取可能となる。
【0059】
2−2.構成
本発明の穀物種子は、第1態様の製造方法により得られる。すなわち、発芽力を有する未発芽穀物種子を溶存酸素量が2.0 mg/L以上の水又は水溶液からなる動的液体中に配置し、0.7〜1.3気圧下で25〜35℃の温度下にて24時間〜144時間処理することによって得られる。処理後の穀物種子は100g中に少なくとも20mg以上、30mg以上、又は100mg以上のGABAを含有する。未処理の穀物粒子におけるGABA含有量は、例えば、在来品種では一般的にコメやコムギであれば100g中4mg未満、オオムギでも100g中7mg未満である。したがって、本発明の穀物粒子は、未処理の穀物粒子と比較して5倍以上、多くは10倍以上のGABAを含有している。
【0060】
また、本発明の穀物種子は、前記所定の処理によりGABA以外の微量栄養素も単位重量あたりの含有量が増加している特徴を有する。例えば、コリンであれば100g中200mg以上、また食物繊維であれば100g中5g以上を含有する。これらは未処理の穀物粒子と比較して、コリンは約2倍以上、また食物繊維は4倍以上増加している。さらに、γ-オリザノールやフェルラ酸等の微量栄養素の含有量も未処理の穀物粒子のそれと比較して増加している。
【0061】
3.穀物粉
3−1.概要
本発明の第3の態様は、穀物粉である。本発明の穀物粉は、第1態様の製造方法により得られる第2態様の増強されたGABAを含有する穀物種子を挽いて粉砕し、粉状にしたものをいう。
【0062】
3−2.構成
穀物粉を構成する粒子の粒度(粒子径)は、限定はしない。通常は粒度分布1μm〜300μm(平均粒度100μm以下)の範囲であればよい。
【0063】
第2態様の穀物種子を穀物粉に加工する方法は、限定しない。当該分野で公知の製粉方法を用いればよい。穀物種子全粒を粉砕後、必要に応じて篩にかけて、穀物粉の粒度を選別、調整してもよい。粉砕方法は、石臼、ロール式粉砕法、ピン式粉砕法、乾式または湿式気流式粉砕法、及び胴搗き式粉砕等のいずれの商用製造ラインで導入されている方法でも前記平均粒度の粒子を得ることができる。
【0064】
穀物種子がコメの場合の、穀物粉(白米粉)の一製造例として、水浸漬による湿式気流粉砕法について説明をする。まず、白米を2時間水に浸漬して吸水させた後、遠心による脱水機で表面の水分を取り除く。続いて、渦流式微粉粉砕機(例えば、株式会社西村機械製作所:SPM-R290製粉機スーパーパウダーミル)等の粉砕機を用いて気流粉砕処理を行えばよい。穀物種子を粉砕後、必要に応じて篩にかけて、穀物粉の粒度を選別してもよい。
【0065】
4.増強栄養素含有穀物種子の製造装置
4−1.概要
本発明の第4の態様は、増強栄養素含有穀物種子の製造装置である。本発明の装置は、第1態様の製造方法を実施可能なように構成されている。本発明の製造装置を用いることで増強された栄養素を含む穀物種子を容易に製造することができる。
【0066】
4−2.構成
本発明の製造装置の構成例を
図2に示す。この図で示すように、本発明の製造装置(0200)は、構成要素として水槽(0201)、穀物種子収納部(0202)、エアレーション部(0203)、流動部(0204)、及び水温制御部(0205)を備える。以下、各構成要素について具体的に説明をする。
【0067】
(1)水槽
「水槽」(0201)は、本発明の製造装置における主要かつ必須の構成要素であって、水又は水溶液(以下、「水等」と表記する)を内部に貯留可能なように構成された容器である。
【0068】
水槽の全体形状は、内部に水等を収容でき、かつ次述する穀物種子収納部(0202)を収納可能な形状であれば特に限定はされない。例えば、多角柱形状(正多角柱形状、略多角柱形状を含む)、楕円柱形状(円柱液状、略楕円柱形状を含む)、球体形状(略球体形状を含む)等の形状のいずれであってもよい。
【0069】
水槽の大きさは、特に限定はされず、本発明の製造装置によって一度に処理する穀物種子の量に応じて適宜定めればよい。水槽の最長軸は、例えば、製造装置を研究室規模で用いる場合には5cm〜30cm程度で足りるが、工場的規模で用いる場合には数m以上、又は十数m以上必要となってもよい。
【0070】
水槽を構成する素材は特に限定はしないが、内部に水等と複数の穀物種子を収容することを鑑みれば、それらを収容可能な強度と収容時に形状を保持できる剛性を有し、また内壁は少なくとも不透水性の材質を有する素材であることが好ましい。例えば、金属、合成樹脂(プラスチック)、ガラス、磁器等が挙げられるが、これに限定はされない。
【0071】
水槽は、必要に応じて入水口(0206)及び排水口(0207)を備えることができる。以下、それぞれの構成について説明をする。
【0072】
(1-A)入水口
「入水口」(0207)は、本発明の製造装置における選択的構成要件で、水槽内に水等を導入可能なように構成された孔である。入水口は、水槽内に1個、又は複数個備えることができる。
【0073】
水槽内における入水口の設置位置は、限定しないが、水槽上部又は水槽壁面上部のような水槽内の高位置への設置が好適である。導入される水等が水槽内に注がれる際に空気を取り込み易くなり、また水槽内に貯留されている水等に対流を生じさせやすいためである。
【0074】
入水口の形状は、限定しない。水槽内に水等を導入可能であれば、あらゆる形状を採用することができる。例えば、円形、楕円形、多角形、不定形等が挙げられる。また、入水口の口径も限定しない。通常は、水槽の大きさ、入水口の数、導入する水等の量に応じて適宜決定すればよい。例えば、水槽上面の開口部から容器内に水を注ぎこむ場合、水槽上面開口部が入水口となり得る。
【0075】
(1-B)排水口
「排水口」(0208)は、本発明の製造装置における選択的構成要件で、水槽内の水等を外部に排出可能なように構成された孔である。排水口は、水槽内に1個、又は複数個備えることができる。
【0076】
水槽内における排水口の設置位置は、限定しないが、排水という目的上、水槽底面又は水槽壁下部のような水槽内の低位置への設置が好適である。
【0077】
排水口の形状は、限定しない。水槽内の水等を排水可能な形状であれば、あらゆる形状を採用することができる。例えば、円形、楕円形、多角形、不定形等が挙げられる。また、入水口の口径も限定しない。通常は、水槽の大きさ、入水口の数、導入する水等の量に応じて適宜決定すればよい。例えば、排水口が後述する排水弁を備えている場合、水槽底面全体を排水口とすることもできる。
【0078】
(2)穀物種子収納部
「穀物種子収納部」(0202)は、本発明の製造装置における必須の構成要素であって、穀物種子をその内部に収納し、前記水槽内の水又は水溶液に前記穀物種子を浸漬可能なように構成された容器である。
【0079】
穀物種子収納部の全体形状は、内部に穀物種子を収納でき、かつ前述の水槽(0201)内に全部又は一部が格納できる形状であれば特に限定はされない。水槽内格納時に、内部に収納している穀物種子を水槽内の水等に浸漬できる形状であれば、いかなる形状であってもよい。水槽の形状と同一又は類似の形状であってもよいが、異なった形状でもよい。また、穀物種子を収納できる強度を有していればよく、水槽のように形状を維持する剛性は必ずしも必要ではない。例えば、袋状でもよい。
【0080】
穀物種子収納部の大きさは、水槽内に格納可能であり、かつ本発明の製造装置で処理すべき量の穀物種子を収納可能な大きさであれば、特に限定はされない。
【0081】
穀物種子収納部の機能は、内部に収納した穀物種子を水槽内の水等に浸漬したり、その後、必要に応じて水切りすることである。そのような機能を有するために穀物種子収納部の構造は、水等が内部に容易に流入又は流出し得るように構成されている。そのような構造を限定はしないが、具体的構造の例として、側面や底面に複数の孔を有する容器や網籠、メッシュの袋等が挙げられる。
【0082】
穀物種子収納部を構成する素材は、耐水性を有し、複数の穀物種子を保持できる強度を有する素材であれば特に限定はしない。例えば、金属、合成樹脂、合成繊維、セルロース、天然繊維(綿、絹、毛等)が挙げられるが、これに限定はされない。
【0083】
なお、穀物種子収納部に収納される穀物種子は、含有する栄養素を増強する目的で本発明の製造装置に供される穀物種子であり、第1態様に記載の発芽力を有する未発芽穀物種子である。
【0084】
(3)エアレーション部
「エアレーション部」(0203)は、本発明の製造装置における必須の構成要素であって、水槽内に貯留された水等の溶存酸素量を所定の値以上に維持するように構成された部である。
【0085】
第1態様で記載したように、増強された栄養素を含有する穀物種子を製造する上で、水等の溶存酸素量が所定の値、すなわち2mg/L以上あることは重要な条件である。エアレーション部では、水槽内に貯留された水等の溶存酸素量が前記値以上となるように、水等中に空気を送り込み、酸素を供給にしている。
【0086】
エアレーション部の具体例として、限定はしないが、エアーポンプが挙げられる。この他にも、エアレーション部は、水槽内の構造に基づく自然エアレーションを利用した構成であってもよい。例えば、水槽に入水口を設置し、水槽内に水等を導入する場合には、入水口の位置を水槽内の高位置に設置することで、流入した水等が水槽内に落水する際に、手中に酸素を取り込むことができる。
エアレーション部は、必要に応じて溶存酸素量制御手段を備えることができる。
【0087】
(3-A)溶存酸素量制御手段
「溶存酸素量制御手段」(0209)は、本発明の製造装置における選択的構成要素であって、水槽内に貯留された水等の溶存酸素量をモニターし、溶存酸素量が所定の値、すなわち2mg/Lを下回った時に、速やかに所定の値以上となるようにエアレーション部を作動させるように構成されている。
【0088】
(4)流動部
「流動部」(0204)は、本発明の製造装置における必須の構成要素であって、水槽内の水等に流動性(動的状態)を付与するように構成された部である。
【0089】
流動部は、水槽内に貯留された水等に動的状態を付与し、その液体中に溶存する各種成分の均質化、水温の均一化、及び溶存する酸素の穀物種子への供給等が可能なように構成されている。流動部は、水槽内に貯留された水等に流動性を付与し得る構成であれば、その構造は限定しない。例えば、流路とポンプからなり、水槽内の水等を循環させる構成、撹拌子や撹拌板で回転流動させる構成、水槽自体を振盪させる構成等であればよい。
図2では、撹拌板で構成された流動部を例示している。
【0090】
(5)水温制御部
「水温制御部」(0205)は水槽内の水等の水温を制御可能なように構成された部である。
【0091】
第1態様で記載したように、増強された栄養素を含有する穀物種子を製造する上で、水等の水温が所定の温度範囲、すなわち0.7〜1.3気圧下で25〜35℃の温度範囲にあることは重要な条件である。水温制御部では、水槽内に貯留された水等の水温が前記温度範囲となるように制御している。具体的には、例えば、水温制御部の全部又は一部(水温検出器)を水槽内の水等に接触させて、水温が予め設定された所定の温度範囲を外れた場合に、それを検知する。続いて、加熱器又は冷却器を起動して、水温が所定の温度範囲となるまで動作制御をする。
【0092】
水温制御部の具体例として、限定はしないが、サーモスタットが挙げられる。また、サーモスタットによって制御される加熱器の具体例としては、
図2では図示していないが、水槽用ヒーターが、冷却器の具体例としては水槽用クーラーが、挙げられる。
【0093】
(6)入水路
「入水路」(0210)は、本発明の製造装置における選択的構成要件で、水槽外部から水槽内に水等を流入できるように構成された管状又は溝状の流路である。入水路は、1本、又は複数本備えることができる。
図2では2本の入水路を備えた装置を例示している。入水路は、その一端を入水口(0207)に連結するように構成できる。この場合、入水路と入水口との間に後述する入水弁(0212)を備えるように構成することもできる。
【0094】
(7)排水路
「排水路」(0211)は、本発明の製造装置における選択的構成要件で、水槽内から水槽外部に水等を排出できるように構成された管状又は溝状の流路である。排水路は、1本、又は複数本備えることができる。
図2では2本の排水路を備えた装置を例示している。排水路は、その一端を排水口(0208)に連結するように構成できる。この場合、排水路と排水口との間に後述する排水弁(0213)を備えるように構成することもできる。
【0095】
(8)入水弁
「入水弁」(0212)は、本発明の製造装置における選択的構成要件で、弁構造を有し、水槽内へ水等を導入する入水口や入水路を開閉できるように構成されている。入水弁は、限定はしないが、通常は入水口、入水路、又はそれらの間に設置される。1本の入水路に複数の入水弁を設置することもできる。入水弁の開閉により、水槽内への水等の導入量を調節することができる。
【0096】
(9)排水弁
「排水弁」(0213)は、本発明の製造装置における選択的構成要件で、弁構造を有し、水槽外に水等を排出する排出口や排出路を開閉できるように構成されている。排出弁は、限定はしないが、通常は排出口、排出路、又はそれらの間に設置される。1本の排出路に複数の排出弁を設置することもできる。排水弁の開閉により、水槽外への水等の排出量を調節することができる。
【0097】
(10)入排水制御部
「入排水制御部」(0214)は、本発明の製造装置における選択的構成要件で、入水弁(0212)と排水弁(0213)の開閉を制御して、水槽内の水等の流入及び/又は排出を調整可能なように構成されている。この入排水制御部を介した入水弁及び/又は排水弁の開閉により、水槽内の水等を所定量で貯留したり、完全排水したりして制御することができる。
【0098】
入排水制御部は、ハードウェア手段、又はハードウェア手段とソフトウェア手段によって構成され、ハードウェア手段はその構成要件として、CPU、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、インターフェース、これらを接続するシステムバス、及び周辺装置等で構成されている。周辺装置は、限定はしないが、例えば、時計、水量センサ等が挙げられる。ソフトウェア手段は、ハードウェアのメモリ上で実行可能なプログラム等で構成されている。
【0099】
入排水制御部では、例えば、ハードウェア手段の不揮発性メモリ内等に格納された各種プログラム(例えば、水量制御プラグラム)を揮発性メモリ上に展開させて、そのプログラムを順次実行することで、メモリ上のデータや、インターフェースを介して入力されるデータの加工、保存、出力などにより各部の機能が実現される。例えば、プログラムされた所定の時間に達したときに、入水弁及び排水弁を開放し、その後、一定時間が経過後に再び両弁を閉鎖することで水槽内の水等を交換することができる。また、水槽内の水量が所定の水量以下となったという情報が水量センサからインターフェースを介して入力された場合、揮発性メモリ上に展開された水量制御プログラムを実行し、入水弁をのみを開放し、水槽内の水量が所定の水量に達したという情報が水量センサから入力されたときに入水弁を閉鎖することができる。
【0100】
入水制御部は、さらに選択的構成要件として、濁度測定手段を備えていてもよい。濁度測定手段は、水槽内の水等の濁度を測定できるように構成されている。具体的には、例えば、水槽内の水等の吸光度を測定して、その測定値を濁度として得ることができる。入水制御部では、濁度測定手段で得た情報(濁度)を、インターフェースを介して入力して、ハードウェア手段の不揮発性メモリ内等に格納された水質制御プラグラム等を揮発性メモリ上に展開させて、入力した濁度の情報がプログラムされた値を超えている場合には、入水弁及び排水弁を開放し、水槽内の水等を交換して、一定時間が経過後に再び両弁を閉鎖することで、水槽内の水質を一定基準以上に保持することができる。
【0101】
(11)貯水槽
「貯水槽」(0215)は、本発明の製造装置における選択的構成要件で、水槽(0201)に供給する新しい水等を貯留できるように構成されている。貯水槽は、入水路(0210)を介して水槽と連結されている。
【0102】
(12)廃液槽
「廃液槽」(0216)は、本発明の製造装置における選択的構成要件で、水槽(0201)から排出される水等を廃液として貯留できるように構成されている。廃液槽は、排水路(0211)を介して水槽と連結されている。
【0103】
(13)濾過部
「濾過部」(0217)は、本発明の製造装置における選択的構成要件で、液体中に含まれる有機物等を除去できるように構成されている。具体的には、水槽の排水口から排出された水等の廃液を、排水路(0211)を介して濾過部入水口(0218)から内部に取り込む。その後、その廃液を濾過部内部に配置された濾材に通して濾過し、包含する各種成分、例えば、穀物種子から排出された代謝物等を吸着、分解、及び除去する。その後、処理された水等は濾過部排出口(0219)から排出され、入水路(0210)を介して水槽の入水口(0207)から水素内に再度流入できるように構成されている。つまり、濾過部は水槽内の水等を再利用可能なように処理をする部である。濾過部内部に設置される濾材は限定しない。一般的な濾過器を構成する濾材を利用できる。例えば、繊維状濾材(不織布、綿、シュロ皮等)、砂、小石、砂利、多孔材等が挙げられる。多孔材には、セラミックス、プラスチック、炭等が例示される。
【0104】
濾過部は、水槽と直接的に連結されていてもよいし、又は間接的に連結されていてもよい。直接的に連結とは、濾過部と水槽が他の部や手段を介することなく、入水路及び/又は排水路によって直接連結されていることをいう。間接的に連結とは、濾過部と水槽が入水路及び/又は排水路によって連結される途中で、他の部や手段を経由していることをいう。例えば、濾過部と水槽を連結する途中で、入水路の途中に入水弁(0212)を設置する場合が該当する。
【実施例】
【0105】
以下の本発明の実施例を示すが、本実施例は、本発明の実施形態の一具体例に過ぎず、本発明は、本実施例に記載の範囲に何ら限定されるものではない。
【0106】
<実施例1>
(目的)
本発明の製造方法による玄米中の機能性栄養素の増加を検証する。
【0107】
(方法)
玄米(品種:コシヒカリ及びあゆのひかり)を0.1%次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に室温で1時間、表面殺菌した後、水で2回洗浄した。続いて、各玄米1000gをステンレス製の網籠(縦30cm×横25cm×高さ9cm)の中に積層して、往復振とう装置に懸架して、水槽内の水温30℃の水中に網籠が完全に浸水するように設置した。エアーポンプにより水槽内の水には常時エアレーションを行い、24時間ごとに全量を新たな水と交換した。
【0108】
水槽内に投入して72時間後に玄米(発芽玄米)を回収し、水で2回洗浄後、恒温恒湿室内の乾燥棚に敷き詰めて、含水率15%以下になるまで15℃の温度条件下で通風除湿乾燥後、試験用気流式粉砕機により粉末化した。
【0109】
調製した玄米粉末を用いて、GABA、コリン、γ‐オリザノール、フェルラ酸、及び食物繊維の各含有量を測定し、粉末100gあたりの含有量を求めた。陰性対照には、上記処理前の各玄米を用いた。
【0110】
GABA含有量は、スルフォサリチル酸溶液で抽出し、遠心分離機により固液分離後、上澄液を045μmのシリンジフィルターでろ過し、ろ液を分析試料とした。HPLC法の適用されたアミノ酸分析装置により、定性・定量した。
【0111】
コリン含有量は、硝酸溶液で加水分解後、吸光光度法(コリン・ライネッケ塩沈殿法)により測定した。
【0112】
γ‐オリザノール含有量は、メタノール・クロロホルム溶液で抽出し、遠心分離機により固液分離後、上澄液を045μmのシリンジフィルターでろ過し、ろ液を分析試料とした。HPLC法により定性・定量した。
【0113】
フェルラ酸含有量は、温水水酸化ナトリウム溶液で抽出後、抽出液を塩酸で中和した。遠心分離機により固液分離後、上澄液を045μmのシリンジフィルターでろ過し、ろ液を分析試料とした。HPLC法により測定した。
食物繊維含有量は、プロスキー変法(酵素−重量法)に基づいて測定した。
水分は、常圧加熱乾燥法に基づいて測定した。
【0114】
(結果)
図3に結果を示す。この図が示すように、測定した機能性栄養素は、いずれも本発明の製造方法で処理した玄米では品種に限らず、陰性対照と比較して有意に増加していた。
【0115】
<実施例2>
(目的)
実施例1では、処理開始から72時間後の発芽玄米の各機能性栄養素を測定した。本実施例では、本発明の製造方法による玄米中の機能性栄養素の経時的増加を検証する。
【0116】
(方法)
基本操作は実施例1に準じた。サンプリングは、処理開始から24時間後、48時間後、72時間後、96時間後、及び120時間後に行い、粉末100g中のGABAと食物繊維の含有量を測定した。
【0117】
(結果)
図4に結果を示す。この図が示すように、GABAと食物繊維は、いずれも本発明の製造方法における処理工程の時間が長くなるほど増加することが明らかとなった。
【0118】
<実施例3>
(目的)
実施例1及び2では、穀物種子としてコメ(玄米)を用いた。本実施例では、コメ以外の穀物種子について、本発明の製造方法による機能性栄養素の増加を検証する。
【0119】
(方法)
穀物種子に脱穀済みのオオムギ(品種:イチバンボシ)と脱穀済みのコムギ(品種:あやひかり)を用いた。基本操作は実施例1に準じた。サンプリングは、処理開始から72時間後に行い、粉末100g中のGABA、フェルラ酸、食物繊維の含有量を測定した。
【0120】
(結果)
図5に結果を示す。この図が示すように、オオムギやコムギであっても機能性栄養素は処理前の陰性対照と比較して有意に増加していた。この結果から、本発明の製造方法は、穀物の種類を問わず、効果があることが明らかとなった。
【0121】
<実施例4>
(目的)
本発明の製造方法における液相中の溶存酸素量と未発芽穀物種子中の機能性栄養素量について検証する。
【0122】
(方法)
未発芽穀物種子には玄米(コシヒカリ)を、また対照用にコメ(コシヒカリ)胚芽を用いた。また、機能性栄養素として、GABAを対象にその含有量を測定した。
【0123】
玄米は、玄米1kg×2群を0.1%次亜塩素酸ナトリウム水溶液中に室温で1時間浸漬し、表面殺菌した後、水で2回洗浄して、ステンレス製の網籠(縦30cm×横25cm×高さ9cm)の中に積層した。その後、網籠を往復振とう装置に懸架して、水槽内の水温30℃の水中に完全浸漬するように設置した。続いて、一方の群(A群)を浸漬した水槽内の液相には、振盪による受動的エアレーションのみを行い、他方の群(B群)を浸漬した水槽内の液相には、振盪による受動的エアレーションの他に、エアーポンプを用いた能動的エアレーションを実施した。
【0124】
一方、コメ胚芽は、玄米を精米機で搗精後の米ぬか画分をメッシュ32の篩いを通して調製した。コメ胚芽30gに300mLの水を加え、これをC群とし、30℃で100ストローク/分で振盪した。液相には振盪による受動的エアレーションのみを行った。
【0125】
各液相の溶存酸素量(酸素濃度)は、酸素計測器HQ30d (HACH)によりプローブを設置して測定した。GABA含有量は、胚芽100gあたりの含有量とした。玄米一粒に対する胚芽の重量比を3.2%とした。
【0126】
(結果)
図6に結果を示す。
図6aは、玄米(A群及びB群)又はコメ胚芽(C群)を浸漬した液相中の溶存酸素量の時間的変化を、また
図6bは
図6aに記載の各時間での玄米又はコメ胚芽GABA100gあたりのGABA含有量を示す。図中、プロットで示した測定時間は、
図6a及び
図6bで対応し、浸漬0時間、4時間後、8時間後、24時間後、及び28時間後である。
【0127】
能動的エアレーションを行った玄米B群では、浸漬4時間後も液相は4mg/L以上の溶存酸素量を維持していた(
図6a)。この時、玄米中のGABAは、浸漬時間の経過と共にその量を増大させ、浸漬開始から24時間後には、開始時の16倍に達していた。
【0128】
一方、受動的エアレーションのみの玄米A群及びコメ胚芽C群では、共に浸漬4時間後に溶存酸素量が著しく低下し、その後も緩やかに低下し続けて、24時間以降は約1.0mg/L以下となった。この時、A群及びC群中のGABAは、浸漬4時間後までは増加したものの、溶存酸素量が1.0mg/L未満となった浸漬8時間以降、A群は約500mg/100gで、またC群は300mg/100g前後でほぼ頭打ちとなった。
【0129】
これらの結果から、本発明の製造方法により穀物種子中の栄養素増強の効果を得るためには、使用する穀物種子が玄米のような未発芽穀物種子であること、及び穀物種子を浸漬する液相中の溶存酸素量が2mg/L以上なければならないことが示された。