(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記配置工程では、前記III族金属を介して前記保持板上に前記基板を配置する際、前記貫通孔内に前記III族金属が侵入することがないように、前記保持板上に塗布する前記III族金属の量を調整する請求項1に記載のIII族窒化物基板の製造方法。
前記準備工程では、前記基板として、前記基板の表面側から見たときの前記貫通孔の最小幅が300μmより大きい基板を用意する請求項1〜4のいずれかに記載のIII族窒化物基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。
【0010】
(1)GaN基板の製造方法
本実施形態では、一例として、
GaNの結晶(以下、GaN結晶とも称する)からなり、表裏を貫通する貫通孔10hを有する基板10(以下、基板10とも称する)を用意する準備ステップと、
基板10を、ガリウム(Ga)11を介して保持板12上に配置する配置ステップと、
貫通孔10hを塞ぐGaの窒化物多結晶(GaN多結晶)14を、貫通孔10h内の少なくとも一部に成長させる埋込ステップと、
を行うことで、III族窒化物基板としてのGaN基板を作製する場合について説明する。以下、各ステップの詳細について説明する。
【0011】
(準備ステップ)
図1(a)、(b)に、処理対象として用意した基板10の平面、断面構成をそれぞれ例示する。ここに示した基板10は、例えば、下地基板(種結晶基板)の表面上にGaN結晶を厚くエピタキシャル成長させ、その後、成長させた結晶インゴットをスライスして自立化させることにより作製できる。本実施形態では、一例として、表面(成長面)が(0001)面、すなわち、Ga極性面(+c面)となるように成長させたGaN結晶のインゴットをスライスし、これにより得られたアズグロウン状態の自立基板を基板10として用いる例について説明する。
【0012】
基板10としては、例えば、直径が2〜6インチ程度の大きさであって、厚さが0.2〜1.0mmの大きさである円板状の基板を用いることができる。基板10の表面は、GaN結晶の(0001)面に対して平行であるか、±5°以内、好ましくは±1°以内の傾斜を有する面として構成されている。基板10は、シリコン(Si)や鉄(Fe)、ゲルマニウム(Ge)等の添加物を、所定の割合で含有していてもよい。
【0013】
基板10は、上述したように、基板10の表裏を貫通する(基板10を厚さ方向に貫く)貫通ピットや貫通クラック等の貫通孔10hを1つ以上有している。貫通孔10hの大きさは、特に限定されるものではなく、基板10は、例えばアズグロウン状態の基板10が有し得る最大の大きさの貫通孔10hを有していてもよい。
【0014】
(配置ステップ)
準備ステップを実施したら、配置ステップを実施する。本ステップでは、貫通孔10hを有する基板10を、Ga11を介して保持板(支持板)12上に配置する。言い換えると、基板10と保持板12との間には、Ga11からなる層が設けられている。
【0015】
後述する埋込ステップにおける取り扱いを容易とするため、基板10は、例えば平板として構成された保持板12上に配置する。基板10は、裏面(N極性面、−c面)がGa11と接するように保持板12上に配置する。
図1(b)に、Ga11を介して基板10を保持板12上に配置した様子を示す模式図を例示する。
【0016】
Ga(融点約30℃)は、一度加熱して融解した後は、室温(常温、20〜30℃の範囲内の所定の温度、例えば300K(ケルビン)、約27℃)において、過冷却状態で液状を維持することができる。本ステップでは、基板10は、室温下で、融解させたGa11(以下、液状Ga11ともいう)を介して保持板12上に配置する。液状Ga11は、後述する埋込ステップにおいて、貫通孔10h内に成長させるGaN多結晶14を形成する材料すなわち埋込材のうちの1つとして機能する。また、液状Ga11は、保持板12と基板10とを一時的に接着する接着剤としても機能する。すなわち、液状Ga11は、埋込ステップにおいて、反応室201内へ基板10(保持板12上に配置した基板10)を搬入し、貫通孔10h内へのGaN多結晶14の成長が開始されるまでの間、保持板12上における基板10の位置ずれを防止するように機能する。
【0017】
本ステップでは、
図1(b)に例示するように、液状Ga11を介して保持板12上に基板10を配置する際、貫通孔10h内に液状Ga11が侵入する(入り込む)ことがないように、保持板12上に塗布する液状Ga11の量を調整する。上述のようにGaは室温において過冷却状態で液状を維持することができることから、室温下で、所定量の液状Ga11を、保持板12上の所定位置に塗布することができる。液状Ga11の塗布量が多すぎると、液状Ga11を介して保持板12上に基板10を配置する際、
図1(d)に例示するように貫通孔10h内に液状Ga11が侵入することがある。
【0018】
また、本ステップでは、貫通孔10h内に液状Ga11が侵入することがないように、保持板12上に塗布する液状Ga11の塗布位置を調整してもよい。例えば、
図1(c)に示すように、液状Ga11を介して保持板12上に基板10を配置する際、貫通孔10hが位置することとなる保持板12上の箇所に液状Ga11が存在しないように、液状Ga11の塗布位置を調整してもよい。
【0019】
なお、ここでいう「貫通孔10h内に液状Ga11が侵入することがない」とは、液状Ga11が貫通孔10h内に全く侵入しない場合だけでなく、液状Ga11が貫通孔10h内にわずかに侵入する場合を含むものとする。但し、液状Ga11が貫通孔10h内に侵入した場合であっても、その量は、後述する埋込ステップを実施した際、貫通孔10h内に窒化不充分なGaがそのまま残ることがない量、すなわち窒化不充分なGaを内包しない量とする。本明細書で用いる「窒化不充分なGa」という用語は、窒化が不充分なGaだけでなく、窒化されていないGaも含み得る。
【0020】
また、液状Ga11の塗布量は、上述の要件を満たす範囲内で、貫通孔10hの平面積(貫通孔10hが複数存在する場合は、貫通孔10hの総平面積)等によって適宜設定することが好ましい。というのも、液状Ga11の塗布量に応じて、後述する埋込ステップにおいて生成されるGa蒸気の量が変わり、このGa蒸気の生成量が少なすぎると、貫通孔10hをGaN多結晶14で塞ぐ(埋め込む)ことができない場合があるためである。
【0021】
保持板12の材料としては、後述する埋込ステップでの処理温度、処理雰囲気に耐えられる耐熱性、耐蝕性を有する材料を用いる必要がある。但し、保持板12上に塗布する液状Ga11は、埋込ステップを実施することで自然と消滅する。このため、本実施形態で用いる保持板12の材料はその線膨張係数を不問とすることができる。また、保持板12を、基板10よりも表層が剥離しやすい材料で形成する必要もない。保持板12の材料として、等方性黒鉛、異方性黒鉛(パイロリティックグラファイト(PG))、パイロリティックボロンナイトライド(PBN)、シリコン(Si)、石英、炭化ケイ素(SiC)、サファイア等を用いることができる。また、保持板12の材料として、等方性黒鉛、Si、石英、SiC等の平板基材の表面を、PG等の耐蝕性に優れた材料により被覆(コーティング)してなる複合材料を用いてもよい。
【0022】
(埋込ステップ)
配置ステップを実施したら、貫通孔10h内の少なくとも一部に、貫通孔10hを塞ぐGaN多結晶14を成長させる処理を実施する。
【0023】
この処理は、例えば、
図2に示す加熱装置200を用いて行うことができる。加熱装置200は、石英等の耐熱性材料からなり、反応室(結晶成長室)201が内部に構成された気密容器203を備えている。反応室201内には、1つまたは複数の基板10を保持する保持具208が設けられている。保持具208は、1つまたは複数の基板10を、それぞれの基板10が液状Ga11を介して保持板12上に配置された状態で、垂直方向に多段に保持するように構成されている。気密容器203の一端には、反応室201内へ窒素源としてのアンモニア(NH
3)ガス、窒素(N
2)ガスを供給するガス供給管232a,232bが接続されている。ガス供給管232a,232bには、上流側から順に、流量制御器241a,241b、バルブ243a,243bがそれぞれ設けられている。ガス供給管232a,232bの下流側には、これらのガス供給管から供給された各種ガスを保持具208上に保持した基板10に向けて供給するノズル249a,249bが、それぞれ接続されている。気密容器203の他端には、反応室201内を排気する排気管230が設けられている。排気管230にはポンプ231が設けられている。気密容器203の外周には、保持具208に保持した基板10を所望の温度に加熱するヒータ207が設けられている。気密容器203内には、反応室201内の温度を測定する温度センサ209が設けられている。加熱装置200が備える各部材は、コンピュータとして構成されたコントローラ280に接続されており、コントローラ280上で実行されるプログラムによって、後述する処理手順や処理条件が制御されるように構成されている。
【0024】
埋込ステップでは、上述の加熱装置200により、例えば以下の処理手順が実施される。まず、液状Ga11を介して保持板12上に配置した基板10を保持具208上に保持(載置)する。そして、反応室201内の加熱および排気を実施しながら、反応室201内へ、NH
3ガス、或いはNH
3ガスとN
2ガスとの混合ガスを供給する。
【0025】
このように、液状Ga11を介して保持板12上に配置した基板10を、少なくともNH
3ガスを含む雰囲気中で加熱することで、まず、液状Ga11が、反応室201内の昇温に伴って徐々に気化してGa蒸気となる。そして、このGa蒸気が基板10の裏面側から表面側に向かって貫通孔10h内を流れる(通過する)際、貫通孔10h内で、Ga蒸気と、基板10の表面側から供給したNH
3ガスと、を反応させてGaを窒化させ、貫通孔10h内にGaN多結晶14を成長させる。これにより、貫通孔10hがGaN多結晶14で埋め込まれて気密に塞がれる。
図3(a)に貫通孔10hがGaN多結晶14で塞がれた基板10の平面構成図を示し、
図3(b)にその断面構成図を示す。なお、液状Ga11は、埋込ステップを実施することで、例えば埋込ステップの昇温中に、その殆ど、或いは、全てが蒸発し、自然と消滅する。
【0026】
GaN多結晶14の成長は、液状Ga11の気化の開始(Ga蒸気の生成の開始)とほぼ同時に開始する。したがって、本ステップでは、貫通孔10hの埋め込みに寄与せずに、反応室201内から排出されるGa蒸気の量を減らすため、液状Ga11の気化が始まる前から反応室201内(雰囲気中)へNH
3ガスを供給するのが好ましい。また、本ステップでは、基板10を構成する結晶の分解を防止するため、例えば反応室201内の加熱前から反応室201内へNH
3ガスを供給するのがより好ましい。
【0027】
本ステップでは、基板10の温度が例えば550℃以上1200℃以下、好ましくは900℃以上1000℃以下の温度となるように、ヒータ207により調整することが望ましい。
【0028】
基板10の温度が550℃未満では、Gaの窒化が進行しにくく、貫通孔10h内にGaN多結晶14を成長させることができないことがある。基板10の温度を550℃以上とすることでGaの窒化を進行させることができ、900℃以上とすることで、Gaの窒化を確実に進行させることができる。基板10の温度が1200℃を超えると、基板10の表面がサーマルエッチングされたり、基板10を構成する結晶の分解が促進されたりして、基板10の表面から窒素(N)原子が抜けて(飛んで)しまう、すなわちN原子が脱落することがある。その結果、基板10の表面が荒れたり、欠陥が増加したりすることがある。基板10の温度を1200℃以下とすることでこれらの問題を解決でき、1000℃以下とすることで、これらの問題を確実に解決することができる。
【0029】
埋込ステップの処理条件としては、以下が例示される。
処理温度(基板10の温度):550〜1200℃、好ましくは、900〜1000℃
処理圧力(反応室201内の圧力):90〜105kPa、好ましくは、90〜95kPa
NH
3ガスの分圧:9〜20kPa
【0030】
本ステップでは、
図3(b)に例示するように、貫通孔10h内の全てをGaN多結晶14で埋め込む必要はない。本ステップでは、後述の研磨ステップを行うことから、
図3(b)(d)に例示するように、基板10の表面とGaN多結晶の表面とが非面一の面であってもよく、また、貫通孔10hをGaN多結晶14で気密に塞ぐことができれば、
図3(c)(d)に例示するように、貫通孔10h内の少なくとも一部にのみGaN多結晶14を成長させてもよい。
【0031】
貫通孔10hがGaN多結晶14で塞がれたら、反応室201内へNH
3ガス、或いはNH
3ガスとN
2ガスとの混合ガスを供給しつつ、反応室201内を排気した状態で、ヒータ207による加熱を停止する。そして、反応室201内の温度が500℃以下となったらNH
3ガスの供給を停止し、その後、反応室201内の雰囲気をN
2ガスへ置換して大気圧に復帰させるとともに、反応室201内を搬出可能な温度にまで降温させた後、反応室201内から基板10を搬出する。
【0032】
(研磨ステップ)
埋込ステップを実施したら、スラリー等を用いて基板10の表裏面を研磨する処理を実施する。本ステップを行うことで、
図3(b)〜(d)に例示するように貫通孔10hがGaN多結晶14で塞がれた基板10は、
図4に断面構成図を示すように、基板10の表面とGaN多結晶14の表面とが面一の面となるとともに、基板10の裏面とGaN多結晶14の裏面とが面一の面となる。なお、本ステップでは、必ずしも基板10の表裏面を研磨する必要はなく、少なくとも基板10の表面を研磨する処理を実施すればよい。
【0033】
(2)本実施形態で得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0034】
(a)本実施形態では、貫通孔10hを有する基板10を、液状Ga11を介して保持板12上に配置し、この状態で、反応室201内に少なくともNH
3ガスを供給しながら基板10を加熱することで、貫通孔10h内の少なくとも一部にGaN多結晶14を成長させ、貫通孔10hを塞ぐことができる。
図5は、上述の配置ステップ、埋込ステップの実施後であって研磨ステップの実施前の貫通孔をGaN多結晶で塞いだGaN基板の貫通孔近傍を撮影した写真である。このように、配置ステップ、埋込ステップを実施することで、貫通孔を気密に塞ぐことができることを、本発明者は確認済みである。
【0035】
(b)GaN多結晶14で貫通孔10hを塞ぐことで、例えば、真空ピンセット等の搬送冶具を使用する際、貫通孔10hから空気が漏れて上記搬送冶具への基板10の真空吸着が阻害されることを防ぐことができる。また例えば、基板10の表面上にスピンコート法等によりレジスト膜を設ける際、レジスト液が貫通孔10hを介して基板10に吸い込まれたり、真空吸着用のポンプが貫通孔10hを介して基板10に吸い込まれたレジスト液を吸い込んでポンプが故障したりすることを回避できる。
【0036】
このように、本実施形態では、貫通孔10hを有するために上述のような基板10上にデバイスを作製する後工程を実施することができず、従来では不良品となっていた基板10を再生させることができる。
【0037】
なお、貫通孔10hをGaN多結晶14で塞いだ基板10上に例えばGaN結晶膜を成長させると、基板10の主面(すなわちGaNの単結晶)上にはGaN単結晶がエピタキシャル成長し、GaN多結晶14上にはGaN多結晶がさらに成長する。この場合、GaN多結晶上にはデバイスを作製することはできないが、GaN単結晶上にはデバイスを問題なく作製することができる。
【0038】
(c)本実施形態によれば、基板10の裏面側から表面側に向かってGa蒸気が貫通孔10h内を流れる際、Ga蒸気と、基板10の表面側から供給したNH
3ガスと、を貫通孔10h内で反応させて、貫通孔10h内にGaN多結晶14を成長させることが可能となる。これにより、貫通孔10h内をGaN多結晶14のみで塞ぐことができる。
【0039】
この手法に対し、貫通孔内にあらかじめGa(液状Ga)を注入した基板を、窒素源を含む雰囲気中で加熱してGaと窒素源とを反応させ、貫通孔内に窒化物多結晶を成長させる手法も考えられる。しかしながら、この代替手法では、貫通孔内がGaで埋め込まれた状態となっている。このため、このような基板に対してGaの窒化処理を行っても、窒素源を含む雰囲気中に露出しているGa(基板の表面側付近に位置するGa)しか窒化せず、貫通孔の内部に位置するGaを窒化させることが困難となる。この代替手法で貫通孔が塞がれた基板は、一見すると、貫通孔がGaN多結晶で塞がれているが、貫通孔の内部には窒化不充分なGaがそのまま残ることを本発明者は確認済みである。このような基板に対して例えば塩化水素(HCl)を用いた洗浄処理を行い、GaN多結晶をエッチングすると、貫通孔内の窒化不充分なGaが流れ出て、その結果、GaN基板に貫通孔が再度出現することがある。また、このような基板を用いて上述の後工程が行われた際、窒化不充分なGaがコンタミネーションの発生源になる場合もある。例えば、このような基板上にGaN結晶膜をエピタキシャル成長させると、貫通孔内から窒化不充分なGaが出てきてGaN結晶膜の品質が低下することがある。さらにまた、このような基板に対してワックス等を用いた研磨処理が施された際、貫通孔内にワックス等が残りやすくなる。
【0040】
これに対し、本実施形態では、GaN多結晶14の成長を、貫通孔10h内にGa蒸気を流すことで行っていることから、上述の課題を回避することが可能となる。
【0041】
また例えば、塩化ガリウム(GaCl)ガスとNH
3ガスとを反応させることで、貫通孔10h内にGaN多結晶14を成長させる手法も考えられる。しかしながら、この代替手法では、ハイドライド気相成長(HVPE)装置等の気相成長装置を用いて埋込ステップを実施する必要がある。また、この代替手法では、GaN多結晶14を成長させる際、気相成長装置の反応炉(成長室)内にもGaN等が付着することから、反応炉内のクリーニングを頻繁に行う必要があり、メンテナンス頻度が高くなるという課題もある。
【0042】
これに対し、本実施形態では、上述のように気相成長装置よりも簡易かつ低価な加熱装置200で埋込ステップを実施することができる。また、加熱装置200を用いることで、複数の基板10の貫通孔10hの穴埋めを同時に実施できる。これらの結果、気相成長装置を用いて埋込ステップを行う場合よりも処理コストを低減することができる。また、本実施形態では、基板10の裏面側に液状Ga11を配置した状態で、GaClガスを流すことなく、NH
3ガスを流すことで、GaN多結晶14を成長させている。このため、GaClガスを流す場合よりも、反応室201内(気密容器203の内壁等)に付着するGaN等の量を少なくすることができ、反応室201内のクリーニングの頻度を低くする、すなわち、加熱装置200のメンテナンス頻度を低くすることができる。その結果、基板10の穴埋め処理のスループットを高めることができる。
【0043】
(d)本実施形態によれば、貫通孔10h内に液状Ga11が侵入することがないので、貫通孔10hがGaN多結晶14で塞がれた基板10は、窒化不充分なGaを内包しない。すなわち、本実施形態によれば、貫通孔10h内をGaN多結晶14のみで確実に塞ぐことができる。
【0044】
(e)本実施形態の手法によれば、アズグロウン状態の基板10が有し得る最大サイズの貫通孔10hを塞ぐことができる。例えば、
図6に光学顕微鏡像で示すような、GaN単結晶では埋め込むことができないような大きな貫通孔10h(例えば基板10の表面側から見たときの最小幅(差し渡し最小幅)が300μmより大きい貫通孔10h)であっても塞ぐことができる。なお、基板10の表面側から見たときの貫通孔10hの最大幅(差し渡し最大幅)については特に限定されないが、アズグロウン状態の基板10が有し得る貫通孔10hの最大幅は通常3mm程度である。本実施形態によれば、最大幅が3mmの貫通孔10hであっても、GaN多結晶14で塞ぐことができる。
【0045】
(f)基板10の表面(主面)がc面であって、基板10と、貫通孔10h内に成長させたIII族金属の多結晶と、が同じ窒化物結晶で構成されている場合(例えばともにGaN結晶で構成されている場合)、これらは殆ど同等の線膨張係数、同等の熱伝導率、同等の耐加工性(研磨耐性)を有する。
【0046】
このように基板10と貫通孔10h内の多結晶とが殆ど同等の線膨張係数を有することで、基板10に温度変化が生じた際、基板10と貫通孔10h内の多結晶との膨張量を揃えることができ、基板10と貫通孔10h内の多結晶との界面から基板10にクラックが入ることを抑制できる。また、これらが殆ど同等の熱伝導率を有することで、加熱による基板10等の昇降温時において、基板10の表面温度を面内均一にしやすくなる。さらにまた、これらが殆ど同等の耐加工性を有することで、上述の研磨ステップを実施することが容易となり、基板10等の表裏面を、それぞれの領域区分(単結晶領域、多結晶領域)によらず連続した平滑な表面とすることが容易となる。
【0047】
(g)本実施形態によれば、保持板12上に塗布した液状Ga11上に基板10を配置し、この状態で窒素源を含む雰囲気中で基板10を加熱するという簡便な手法で貫通孔10hを塞ぐことができることから、基板10の穴埋めの処理コストを抑えることができる。
【0048】
(h)本実施形態によれば、上述のように、液状Ga11が基板10と保持板12とを一時的に接着する接着剤として機能することから、基板10と保持板12との接着が、加熱装置200内への搬入(投入)前に行われる。このため、基板10を例えば加熱装置200内へ搬送(移送)する際、保持板12上における基板10の位置ずれや、貫通孔10h内への液状Ga11の侵入を抑制できる。また基板10の位置ずれを抑制できることから、貫通孔10hを有する基板10が複数得られるまで、液状Ga11を介して保持板12上に配置した状態で基板10を保管することが容易になる。また、Gaは一度融解した後であっても、室温未満の所定温度となると過冷却状態を維持できず、再び固化する。このため、液状Ga11を介して保持板12上に配置した基板10を所定温度以下まで冷却して液状Ga11を固化させることで、基板10と保持板12との接着強度を高めることができ、その結果、上述の基板10の搬送時における位置ずれ等を確実に抑制することができる。また、液状Ga11を固化させることで、保持板12上に配置した基板10を傾けたり、基板10の主面が垂直となるように立てたりすることも可能となる。その結果、保持板12上に配置した基板10を保管する際、基板10の主面が水平になるように保管する必要がなく、基板10の保管がさらに容易となるとともに、保管場所の制限も少なくすることができる。
【0049】
(i)また、貫通孔10h内を単結晶で埋め込む場合には、埋込ステップを実施する前に、貫通孔10hの内面をエッチングし、貫通孔10hの内面に付着した異物および貫通孔10hの内面に形成されたダメージ層のうち少なくともいずれかを除去する洗浄工程が必要である。これに対し、本実施形態では、貫通孔10hを多結晶(GaN多結晶14)で埋め込むため、上述の洗浄工程は不要である。
【0050】
(j)基板10として、基板10の主面のうち貫通孔10hを含まない連続する領域の面積が100mm
2以上である基板を用意するとより好ましい。これにより、貫通孔10hがGaN多結晶14で塞がれた基板10上にデバイスを作製する際における、有効面積が減少しにくくなる。
【0051】
(3)変形例
本実施形態は、上述の態様に限定されず、以下に示す変形例のように変更することが可能である。
【0052】
(変形例1)
準備ステップでは、基板10として、自然に発生した貫通孔を有する基板だけでなく、故意に貫通孔を形成した基板を用意してもよい。例えば、基板10として、結晶の母相に比べて酸素濃度が局所的に大きくなっている領域や、極性反転領域や転位密集領域等がレーザ等により打ち抜かれて形成された貫通孔を有する基板を用意してもよい。この場合、基板10の表面、裏面については、それぞれ、アズグロウン状態であってもよく、また、所定の表面処理(研磨処理やエッチング処理)が施されていてもよい。本変形例によっても、上述の実施形態と同様の効果が得られる。
【0053】
(変形例2)
配置ステップでは、III族金属であるインジウム(In)を介して保持板12上に基板10を配置するようにしてもよい。In(融点約150℃)は室温において固体であるため、本変形例では、平坦な基板支持(保持)面を有するホットプレート等の加熱装置を用いて保持板12を所定温度に加熱することでInを融解して液状Inとし、この液状In上に基板10を配置する。本変形例では、埋込ステップを実施することで、貫通孔10hがInの窒化物多結晶(InN多結晶)で埋め込まれて塞がれる。本変形例によっても、上述の実施形態と同様の効果が得られる。また本変形例によれば、Gaを用いる場合よりも埋込ステップを低温条件で行うことができることから、上述のN原子の脱落を確実に抑制できる。
【0054】
(変形例3)
準備ステップでは、窒化アルミニウム(AlN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウム(InN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlInGaN)等のIII族窒化物結晶、すなわち、Al
xIn
yGa
1−x―yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)の組成式で表されるIII族窒化物の単結晶からなり、その表面が(0001)面である基板を用意してもよい。これらの基板であっても、GaN基板と同様、表裏を貫通する貫通孔を有する場合があるからである。これらの場合においても、準備ステップ〜埋込ステップに至る一連のステップを実施することで、GaN多結晶又はInN多結晶で貫通孔を塞ぐことができ、上述の実施形態と同様の効果が得られる。
【0055】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。しかしながら、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0056】
(a)上述の実施形態では、準備ステップ〜埋込ステップに至る一連のステップを実施することで1枚のGaN基板を取得する手法について説明した。しかしながら、本発明はこのような態様に限定されない。例えば、準備ステップ〜埋込ステップに至る一連のステップを実施した後、
図7(a)に示すように、貫通孔10hがGaN多結晶14で塞がれた基板10の表面上にハイドライド気相成長法(HVPE法)等の気相成長法によりGaN結晶膜21を厚くエピタキシャル成長させる本格成長ステップを実施し、その後、このGaN結晶膜21をスライスすることにより、
図7(b)に示すように、1枚以上のIII族窒化物基板(GaN基板)20を取得するようにしてもよい。この場合であっても、上述の実施形態と同様の効果が得られる。
【0057】
本格成長ステップは、
図8に示すハイドライド気相成長(HVPE)装置を用いて行うことができる。HVPE装置300は、石英等の耐熱性材料からなり、成膜室301が内部に構成された気密容器303を備えている。成膜室301内には、基板10を保持するサセプタ308が設けられている。サセプタ308は、回転機構316が有する回転軸315に接続されており、回転自在に構成されている。気密容器303の一端には、成膜室301内へHClガス、NH
3ガス、N
2ガスを供給するガス供給管332a〜332cが接続されている。ガス供給管332cにはH
2ガスを供給するガス供給管332dが接続されている。ガス供給管332a〜332dには、上流側から順に、流量制御器341a〜341d、バルブ343a〜343dがそれぞれ設けられている。ガス供給管332aの下流には、原料としてのGa融液を収容するガス生成器333aが設けられている。ガス生成器333aには、HClガスとGa融液との反応により生成された原料ガス(原料のハロゲン化物)であるGaClガスを、サセプタ308上に保持された基板10に向けて供給するノズル349aが接続されている。ガス供給管332b,332cの下流側には、これらのガス供給管から供給された各種ガスをサセプタ308上に保持された基板10に向けて供給するノズル349b,349cがそれぞれ接続されている。気密容器303の他端には、成膜室301内を排気する排気管330が設けられている。排気管330にはポンプ331が設けられている。気密容器303の外周にはガス生成器333a内やサセプタ308上に保持された基板10を所望の温度に加熱するゾーンヒータ307が、気密容器303内には成膜室301内の温度を測定する温度センサ309が、それぞれ設けられている。HVPE装置300が備える各部材は、コンピュータとして構成されたコントローラ380に接続されており、コントローラ380上で実行されるプログラムによって、後述する処理手順や処理条件が制御されるように構成されている。
【0058】
上述の本格成長ステップをこのHVPE装置300を用いて行う場合、例えば以下の処理手順で実施することができる。まず、ガス生成器333a内に原料としてGa融液を収容し、また、貫通孔10hがGaN多結晶14で塞がれた基板10を、気密容器303内へ投入(搬入)し、サセプタ308上に保持する。そして、成膜室301内の加熱および排気を実施しながら、成膜室301内へ、H
2ガス(或いは、H
2ガスとN
2ガスとの混合ガス)を供給する。そして、成膜室301内が所望の成膜温度、成膜圧力に到達し、また、成膜室301内の雰囲気が所望の雰囲気となった状態で、ガス供給管332a,332bからガス供給を行い、基板10の主面に対し、成膜ガスとしてGaClガスとNH
3ガスとを供給する。これにより、
図7(a)に示すように、基板10の主面上にGaN結晶膜21が成長する。このとき、基板10の表面(すなわちGaNの単結晶)上にはGaN単結晶がエピタキシャル成長し、GaN多結晶14上にはGaN多結晶がさらに成長する。GaN結晶膜21の成長が完了したら、成膜室301内へNH
3ガス、N
2ガスを供給し、成膜室301内を排気した状態で、ガス生成器333a内へのHClガス、成膜室301内へのH
2ガスの供給、ヒータ307による加熱をそれぞれ停止する。そして、成膜室301内の温度が500℃以下となったらNH
3ガスの供給を停止し、その後、成膜室301内の雰囲気をN
2ガスへ置換して大気圧に復帰させるとともに、成膜室301内を搬出可能な温度にまで低下させた後、成膜室301内からGaN結晶膜21が成長された基板10を搬出する。
【0059】
なお、上述と同様の理由から、本格成長ステップでは、HClガスよりも先行して(例えば成膜室301内の加熱前から)NH
3ガスを供給するのが好ましい。また、基板10上に成長させるGaN結晶膜21の面内膜厚均一性を高めるため、本格成長ステップは、サセプタ308を回転させた状態で行うことが好ましい。
【0060】
本格成長ステップを実施する際の処理条件としては、以下が例示される。
処理温度(基板10の温度):980〜1100℃
処理圧力(成膜室301内の圧力):90〜105kPa、好ましくは、90〜95kPa
GaClガスの分圧:1.5〜15kPa
NH
3ガスの分圧/GaClガスの分圧:4〜20
N
2ガスの分圧/H
2ガスの分圧:0〜1
【0061】
なお、本格成長ステップで基板10上に成長させる結晶膜は、GaN結晶膜に限定されず、Al
xIn
yGa
1−x―yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)の組成式で表されるIII族窒化物の結晶膜を成長させることができる。
【0062】
(b)また例えば、埋込ステップを、上述のHVPE装置300を用いて行ってもよい。これによっても、貫通孔10hをGaN多結晶14で塞ぐことができ、上述の実施形態と同様の効果が得られる。但し、埋込ステップを、上述の加熱装置200を用いて実施する方が、HVPE装置300を用いて実施する場合よりも、装置コストを低減できる点、一度に複数の基板10の貫通孔10hの埋め込みを行うことができる点、基板10の穴埋め処理のスループットを高めることができる点等で好ましいことは上述の通りである。
【0063】
HVPE装置300を用いて埋込ステップを行う場合、基板10の温度が所定温度になったら、成膜室301内へのNH
3ガスの供給を維持した状態で、ガス供給管332aからガス供給を行い、基板10の主面に対しGaClガスを供給してもよい。これにより、貫通孔10hがGaN多結晶14で塞がれる前に液状Ga11が全て気化してしまった場合であっても、貫通孔10h内にGaN多結晶14を成長させることができ、貫通孔10hをGaN多結晶14で塞ぐことができる。
【0064】
また、この場合、埋込ステップと本格成長ステップとを同一のHVPE装置300を用い連続して行うことが好ましい。これにより、これらのステップ間に、基板10を成膜室301外へ搬出する必要がなくなるため、基板10の表面への不純物の付着が抑制され、その結果、基板10上に成膜されるGaN結晶膜21の品質を高めることができる。
【0065】
(c)また例えば、本実施形態では、本格成長ステップ、埋込ステップにおいて気相成長法としてHVPE法を用いる場合について説明したが、本発明はこのような態様に限定されない。例えば、本格成長ステップ等において、有機金属気相成長法(MOCVD法)や酸化物気相成長法(OVPE法)等のHVPE法以外の気相成長法を用いるようにしてもよい。また例えば、本格成長ステップにおいて、フラックスとしてナトリウム(Na)等を用いるフラックス法、高圧高温化で行う融液成長法、アモノサーマル法等の手法を用いて液相成長を行うようにしてもよい。
【0066】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0067】
(付記1)
本発明の一態様によれば、
III族窒化物の結晶からなり、表裏を貫通する貫通孔を(1つ以上)有する基板を用意する準備工程と、
前記基板を、GaまたはInのうち少なくともいずれかのIII族金属を介して保持板上に配置する配置工程と、
前記保持板上に配置した前記基板を、少なくとも窒素源を含む雰囲気中で加熱して前記III族金属を気化させ、前記基板の裏面側から表面側に向かって前記貫通孔内を流れる前記III族金属の蒸気と、前記窒素源と、を前記貫通孔内で反応させることで、前記貫通孔を塞ぐ前記III族金属の窒化物多結晶を前記貫通孔内の少なくとも一部に成長させる埋込工程と、
を有するIII族窒化物基板の製造方法が提供される。
【0068】
(付記2)
付記1の方法であって、好ましくは、
前記配置工程では、前記III族金属を介して前記保持板上に前記基板を配置する際、前記貫通孔内に前記III族金属が侵入することがないように、前記保持板上に塗布する前記III族金属の量を調整する。
【0069】
(付記3)
付記1または2の方法であって、好ましくは、
前記配置工程では、前記III族金属を介して前記保持板上に前記基板を配置する際、前記貫通孔内に前記III族金属が侵入することがないように、前記保持板上に塗布する前記III族金属の位置を調整する。
【0070】
(付記4)
付記1〜3のいずれかの方法であって、好ましくは、
前記埋込工程では、前記III族金属の気化が始まる前から前記雰囲気中に前記窒素源を供給する。
【0071】
(付記5)
付記1〜4のいずれかの方法であって、好ましくは、
前記埋込工程では、前記基板の温度を550℃以上1200℃以下、好ましくは900℃以上1000℃以下の範囲内の所定温度にする。
【0072】
(付記6)
付記1〜5のいずれかの方法であって、好ましくは、
前記準備工程では、前記基板として、前記基板の表面側から見たときの前記貫通孔の最小幅が300μmより大きい基板を用意する。好ましくは、前記貫通孔の最大幅が3mm以下である。
【0073】
(付記7)
付記1〜6のいずれかの方法であって、好ましくは、
前記準備工程では、前記基板として、Al
xIn
yGa
1−x―yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)の単結晶からなり、その表面が(0001)面である基板を用意する。
【0074】
(付記8)
付記1〜7のいずれかの方法であって、好ましくは、
前記埋込工程を実施することで得られたIII族窒化物基板上に、III族金属の窒化物結晶からなる結晶膜を成長させる本格成長工程と、
前記結晶膜から1枚以上のIII族窒化物基板を切り出すスライス工程と、をさらに備える。
【0075】
(付記9)
本発明の他の態様によれば、
III族窒化物の結晶からなり、
表裏を貫通する貫通孔を(1つ以上)有し、
前記貫通孔内の少なくとも一部が、GaまたはInのうち少なくともいずれかのIII族金属の窒化物多結晶によって塞がれてなるIII族窒化物基板が提供される。
【0076】
(付記10)
本発明のさらに他の態様によれば、
III族窒化物の結晶からなる基板であって、
前記基板は、表裏を貫通する貫通孔を(1つ以上)有し、
前記貫通孔内の少なくとも一部には、GaまたはInのうち少なくともいずれかのIII族金属を加熱することで気化して生成されて前記基板の裏面側から表面側に向かって前記貫通孔内を流れる前記III族金属の蒸気と、窒素源と、が前記貫通孔内で反応することで、前記貫通孔を塞ぐ前記III族金属の窒化物多結晶が成長されているIII族窒化物基板が提供される。
【0077】
(付記11)
付記9または10の基板であって、好ましくは、
前記貫通孔は、前記III族金属の窒化物多結晶のみで塞がれている。
【0078】
(付記12)
付記9〜11のいずれかの基板であって、好ましくは、
前記貫通孔内には、窒化不充分な前記III族金属が存在しない。
【0079】
(付記13)
付記9〜12のいずれかの基板であって、好ましくは、
前記基板の表面側から見たときの前記貫通孔の最小幅が300μmより大きい。
【0080】
(付記14)
付記9〜13のいずれかの基板であって、好ましくは、
前記基板は、Al
xIn
yGa
1−x―yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)の単結晶からなる。