特許第6827553号(P6827553)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大陽日酸株式会社の特許一覧

特許6827553金属造形物の製造装置、金属造形物の製造方法、及び金属粉末回収方法
<>
  • 特許6827553-金属造形物の製造装置、金属造形物の製造方法、及び金属粉末回収方法 図000002
  • 特許6827553-金属造形物の製造装置、金属造形物の製造方法、及び金属粉末回収方法 図000003
  • 特許6827553-金属造形物の製造装置、金属造形物の製造方法、及び金属粉末回収方法 図000004
  • 特許6827553-金属造形物の製造装置、金属造形物の製造方法、及び金属粉末回収方法 図000005
  • 特許6827553-金属造形物の製造装置、金属造形物の製造方法、及び金属粉末回収方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6827553
(24)【登録日】2021年1月21日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】金属造形物の製造装置、金属造形物の製造方法、及び金属粉末回収方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/105 20060101AFI20210128BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20210128BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20210128BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20210128BHJP
   B33Y 40/20 20200101ALI20210128BHJP
【FI】
   B22F3/105
   B22F3/16
   B33Y10/00
   B33Y30/00
   B33Y40/20
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-545111(P2019-545111)
(86)(22)【出願日】2018年9月25日
(86)【国際出願番号】JP2018035352
(87)【国際公開番号】WO2019065591
(87)【国際公開日】20190404
【審査請求日】2019年11月15日
(31)【優先権主張番号】特願2017-188393(P2017-188393)
(32)【優先日】2017年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 祐典
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 豊幸
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智章
(72)【発明者】
【氏名】天野 宏紀
【審査官】 山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−056417(JP,A)
【文献】 特開2002−249805(JP,A)
【文献】 特開2015−193866(JP,A)
【文献】 特開2009−001900(JP,A)
【文献】 特開2015−175013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/105
B22F 3/16
B29C 64/00−64/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形ステージが有する造形槽に充填された金属粉末の表層にエネルギー線を照射して金属の層を造形し、前記層を積層して金属造形物を製造する装置であって、
前記エネルギー線が照射される第1の領域の周囲の領域であり、かつ、未焼結の金属粉末であって前記エネルギー線の熱影響を受けて変性した金属粉末が充填されている領域である第2の領域を、前記金属粉末の材質、前記金属粉末の金属粒子の粒子径、前記層の厚さ、前記エネルギー線の出力値及び前記エネルギー線のスポット径からなる群から選ばれる少なくとも一つ以上の情報に基づいて算出する算出機構と、
前記算出機構が算出する前記第2の領域に含まれる変性した金属粉末を前記造形槽から除去する除去機構とを備えることを特徴とする、金属造形物の製造装置。
【請求項2】
前記除去機構が、前記第2の領域に含まれる金属粉末を前記造形槽の上方から吸引して除去する吸引部を備える、請求項1に記載の金属造形物の製造装置。
【請求項3】
前記造形槽に金属粉末を供給する供給機構を備える、請求項1又は2に記載の金属造形物の製造装置。
【請求項4】
造形ステージが有する造形槽に充填された金属粉末の表層にエネルギー線を照射して金属の層を造形し、前記層を積層して金属造形物を製造する方法であって、
前記エネルギー線が照射される第1の領域の周囲の領域であり、かつ、未焼結の金属粉末であって前記エネルギー線の熱影響を受けて変性した金属粉末が充填されている領域である第2の領域を、前記金属粉末の材質、前記金属粉末の金属粒子の粒子径、前記層の厚さ、前記エネルギー線の出力値及び前記エネルギー線のスポット径からなる群から選ばれる少なくとも一つ以上の情報に基づいて算出し、
算出した前記第2の領域に含まれる変性した金属粉末を前記造形槽から除去することを特徴とする、金属造形物の製造方法。
【請求項5】
前記第2の領域に含まれる金属粉末を前記造形槽の上方から吸引して除去する、請求項4に記載の金属造形物の製造方法。
【請求項6】
金属粉末を除去した後に、前記造形槽に金属粉末を供給する、請求項4又は5に記載の金属造形物の製造方法。
【請求項7】
造形ステージが有する造形槽に充填された金属粉末の表層にエネルギー線を照射して金属の層を造形し、前記層を積層して金属造形物を製造する際に前記金属造形物の造形に用いられなかった金属粉末を、回収する方法であって、
前記エネルギー線が照射される第1の領域の周囲の領域であり、かつ、未焼結の金属粉末であって前記エネルギー線の熱影響を受けて変性した金属粉末が充填されている領域である第2の領域を、前記金属粉末の材質、前記金属粉末の金属粒子の粒子径、前記層の厚さ、前記エネルギー線の出力値及び前記エネルギー線のスポット径からなる群から選ばれる少なくとも一つ以上の情報に基づいて算出し、
算出した前記第2の領域に含まれる変性した金属粉末を前記造形槽から除去することを特徴とする、金属粉末回収方法。
【請求項8】
前記第2の領域に含まれる金属粉末を前記造形槽の上方から吸引して除去する、請求項7に記載の金属粉末回収方法。
【請求項9】
金属粉末を除去した後に、前記造形槽に金属粉末を供給する、請求項7又は8に記載の金属粉末回収方法。
【請求項10】
金属造形物が完成した後に、前記第2の領域に含まれる金属粉末を除去し、前記造形槽に残留する金属粉末を回収する、請求項7〜9のいずれか一項に記載の金属粉末回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属造形物の製造装置、金属造形物の製造方法、及び金属粉末回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Additive Manufacturingと称される付加製造技術がある。付加製造技術は任意の形状の構造物を短時間で製造できるため、航空機産業及び医療等の先端技術分野で有望な技術として注目されている。
【0003】
付加製造技術を利用する製造装置の一例として、造形ステージが有する造形槽に充填された金属粉末にレーザー等のエネルギー線を照射する3D金属プリンターが知られている。3D金属プリンターは、エネルギー線の照射による金属の層の造形と、造形した金属の層の積層とを繰り返し、任意の形状の金属造形物を製造する。完成した金属造形物は、金属造形物の周囲にある未焼結の金属粉末が除去された後に、造形槽から取り出される。
【0004】
完成した金属造形物の周囲にある金属粉末は、エネルギー線の照射にともなう熱影響を受けて変性している。金属粉末がエネルギー線による熱影響を受けると、ヒューム及びスパッタ等の不純物、金属粒子の凝集物が生じることが知られている。そこで、3D金属プリンターに関する技術分野では、熱影響を受けた金属粉末を回収する技術、回収した金属粉末を再利用するために、熱影響を受ける前の状態に金属粉末を再生する技術が開発されている(特許文献1,2)。
【0005】
特許文献1は複数の開口を含むふるいを用いて、良好な粉末を収納チャンバの中にふるいわける付加製造装置を開示している。
特許文献2は粉末の母材料の化学組成を決定し、粉末を乾燥した保護遮蔽ガス雰囲気下のみで保管及びアトマイズし、特定の元素の含有量を調整する技術を開示している。特許文献2に記載の技術によれば、回収した金属粉末から熱影響を受けた金属粉末を選別し、熱影響を受ける前の状態に金属粉末を再生できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017−30353号公報
【特許文献2】特開2017−82324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般の3D金属プリンターでは、金属粉末及び金属造形物中に金属粒子の酸化物が生成しないように、シールドガスと呼ばれる不活性ガスの存在下で金属粉末が焼結される。
ところが、本発明の発明者らは、エネルギー線の照射にともなう熱影響によって、金属粉末がわずかに酸化され、ヒューム及びスパッタ等のほか、金属粒子の酸化物が未焼結の金属粉末に混入していることを知見した。より具体的には、大気中の僅かな水分が金属粒子に付着したままエネルギー線を照射することで、金属粉末が熱影響を受けて酸化している可能性が示唆された。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の装置のように従来の3D金属プリンターは、金属造形物が完成した後に熱影響を受けた金属粉末を回収している。そのため、従来の3D金属プリンターでは、エネルギー線の照射の度に不純物並びに金属粒子の凝集物及び酸化物が生じ、造形途中の金属造形物の周囲の金属粉末に生じた不純物等が混入したまま金属造形物が製造される。このように、不純物並びに金属粒子の凝集物及び酸化物が金属粉末中に蓄積し、混入したまま金属造形物を製造すると、完成する金属造形物の靱性、割れにくさ(すなわち耐割れ性)等の機械的物性が低下するとともに、金属造形物の表面のなめらかさが損なわれ、外観の意匠性が低下する。
【0009】
さらに、特許文献2に記載の技術のように特殊な技術を利用して金属粉末を再生するには、回収した金属粉末を特殊な技術を保有する業者又は工場に委託して再生してもらう必要がある。また、従来の3D金属プリンターでは、熱影響を受けた金属粉末とともに熱影響を受けていない金属粉末を回収しているため、金属粉末の回収量が多い。このように、従来の方法で回収した金属粉末の再生は、時間とコスとを必要とし、経済的でなく、簡便でない。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、機械的物性及び外観の意匠性に優れる金属造形物を製造できる製造装置及び製造方法;熱影響を受けていない粉末の再利用を簡便に行うことができる金属粉末回収方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を備える。
[1] 造形ステージが有する造形槽に充填された金属粉末の表層にエネルギー線を照射して金属の層を造形し、前記層を積層して金属造形物を製造する装置であって、
前記エネルギー線が照射される第1の領域の周囲の領域である第2の領域を算出する算出機構と、前記算出機構が算出する前記第2の領域に含まれる金属粉末を前記造形槽から除去する除去機構とを備えることを特徴とする、金属造形物の製造装置。
[2] 前記除去機構が、前記第2の領域に含まれる金属粉末を前記造形槽の上方から吸引して除去する吸引部を備える、[1]の金属造形物の製造装置。
[3] 前記造形槽に金属粉末を供給する供給機構を備える、[1]又は[2]の金属造形物の製造装置。
[4] 造形ステージが有する造形槽に充填された金属粉末の表層にエネルギー線を照射して金属の層を造形し、前記層を積層して金属造形物を製造する方法であって、前記エネルギー線が照射される第1の領域の周囲の領域である第2の領域を算出し、算出した前記第2の領域に含まれる金属粉末を前記造形槽から除去することを特徴とする、金属造形物の製造方法。
[5] 前記第2の領域に含まれる金属粉末を前記造形槽の上方から吸引して除去する、[4]の金属造形物の製造方法。
[6] 金属粉末を除去した後に、前記造形槽に金属粉末を供給する、[4]又は[5]の金属造形物の製造方法。
[7] 造形ステージが有する造形槽に充填された金属粉末の表層にエネルギー線を照射して金属の層を造形し、前記層を積層して金属造形物を製造する際に前記金属造形物の造形に用いられなかった金属粉末を、回収する方法であって、前記エネルギー線が照射される第1の領域の周囲の領域である第2の領域を算出し、算出した前記第2の領域に含まれる金属粉末を前記造形槽から除去することを特徴とする、金属粉末回収方法。
[8] 前記第2の領域に含まれる金属粉末を前記造形槽の上方から吸引して除去する、[7]の金属粉末回収方法。
[9] 金属粉末を除去した後に、前記造形槽に金属粉末を供給する、[7]又は[8]の金属粉末回収方法。
[10] 金属造形物が完成した後に、前記第2の領域に含まれる金属粉末を除去し、前記造形槽に残留する金属粉末を回収する、[7]〜[9]のいずれかの金属粉末回収方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の金属造形物の製造装置及び金属造形物の製造方法によれば、機械的物性及び外観の意匠性に優れる金属造形物を製造できる。
本発明の金属粉末回収方法によれば、熱影響を受けていない粉末の再利用を簡便に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明を適用した一実施形態の金属造形物の製造装置の構成の一例を示す模式図である。
図2図1の金属造形物の製造装置が備える吸引部の動作の一例を説明するための模式図である。
図3】本発明を適用した一実施形態の金属造形物の製造方法を説明するための模式図である。
図4】本発明を適用した一実施形態の金属造形物の製造方法を説明するための断面図である。
図5】実施例における金属粉末中の酸素含有量の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、金属造形物の製造装置とは、金属粉末にエネルギー線を照射して金属の層を造形し、造形された金属の層を積層して金属造形物を製造する装置を意味する。本明細書において、金属造形物の製造装置を「製造装置」と省略して記すこともある。
金属造形物の製造装置は、エネルギー線を照射することにより、金属粉末を焼結して又は溶融固化させて、金属の層を造形し、造形された層を積層する。
【0015】
本明細書において、「金属粉末を焼結等する」と記載した場合、金属粉末を焼結すること又は金属粉末を溶融固化させることを意味する。なお、金属粉末を焼結等して造形される金属の層を単に、「焼結層」とも記すことがある。
【0016】
本明細書において、金属粉末の「変性」とは、エネルギー線の照射の前後における金属粉末の物理的性質及び化学的性質の変化を意味する。金属粉末の物理的性質及び化学的性質の変化としては、ヒューム及びスパッタ等の不純物が金属粉末に混入していること、金属粉末の金属粒子同士が凝集して凝集物が発生していること、金属粒子の酸化物が生成していること等が例示される。
【0017】
本明細書において、シールドガスとは、金属粉末を焼結等する際に、金属粉末の周囲の酸素ガス濃度を低減すること等を目的として金属粉末の周囲に供給されるガスを意味する。
【0018】
以下、本発明を適用した一実施形態に係る金属造形物の製造装置、金属造形物の製造方法及び金属粉末回収方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0019】
[金属造形物の製造装置]
まず、本実施形態の金属造形物の製造装置20の構成について説明する。
図1は、製造装置20の構成の一例を示す模式図である。図1に示すように製造装置20は、レーザー発振器1と、光学系2と、造形部3と、演算部(算出機構)4とを備える。
以下に金属造形物の製造装置20の各構成要素に関して詳しく説明を行う。
【0020】
レーザー発振器1は、造形部3内の金属粉末Mにエネルギー線の一例であるレーザーLを照射できる形態であれば特に限定されない。レーザー発振器1は光学系2を経由させて、レーザーLを造形部3内の金属粉末Mに照射する。また、レーザー発振器1は、演算部4にあらかじめ入力されたデータに従って、レーザーの照射と停止とを切り替える。これにより製造装置20は金属粉末Mを焼結等でき、レーザーLの描画線に沿って任意の形状に金属の層を造形できる。
【0021】
光学系2はレーザー発振器1から照射されるレーザーLを反射できる形態であれば特に限定されない。光学系2は、例えば一以上の反射鏡で構成できる。
【0022】
造形部3は金属粉末Mを焼結等して金属粉末Mの焼結層を造形し、焼結層を積層するための筐体である。製造装置20は、演算部4にあらかじめ入力されたデータにしたがって造形部3を制御することで、金属粉末Mに照射されるレーザーLの位置を制御し、任意の形状の金属の層を造形できる。
図1に示すように造形部3は、造形ステージ10と、除去機構5とを収容している。
【0023】
造形ステージ10は、焼結層の造形と造形した焼結層の積層とを繰り返すための場である。造形ステージ10は、供給槽11と、造形槽12と、リコーター15と、凹部16とを有している。
【0024】
供給槽11は未変性の金属粉末Mを貯蔵するとともに、未変性の金属粉末Mを造形槽12に供給するための槽である。供給槽11には図示略の金属粉末の供給源から供給される金属粉末Mが敷き詰められている。
供給槽11の底面は、第1の昇降台13に支持されている。第1の昇降台13は、図中上方向に移動可能である。これにより、供給槽11の底面は図中上方向に移動できる。
【0025】
造形槽12は造形用の金属粉末Mが充填されるとともに、金属造形物Xの造形を行うための槽である。造形槽12には供給槽11から供給された未変性の金属粉末Mが敷き詰められている。また、造形槽12に充填された金属粉末Mの表層では造形途中の金属造形物Xが形成されている。
造形槽12の底面は、第2の昇降台14に支持されている。第2の昇降台14は、図中下方向に移動可能である。これにより、造形槽12の底面は図中下方向に移動できる。
【0026】
リコーター15は、供給槽11に貯蔵された金属粉末Mを造形槽12に供給するとともに、供給槽11及び造形槽12の上面を造形ステージ10の上面と均一にする。
リコーター15は造形ステージ10の上面に沿って、図1中の水平方向に移動可能である。リコーター15の先端15aは、造形ステージ10の上面と接している。そのため、リコーター15が図1中の左方向に移動すると、造形ステージ10の上面にある金属粉末が図1中の左方向に搬送されるとともに、供給槽11及び造形槽12の上面が造形ステージ10の上面と均一になる。
【0027】
このように製造装置20では、造形槽12に未変性の金属粉末Mを供給する供給機構が、図示略の金属粉末の供給源と、供給槽11と、第1の昇降台13と、リコーター15とを備えて構成されている。これにより、製造装置20は、造形槽12に未変性の金属粉末Mを充填できる。
【0028】
凹部16は、造形ステージ10の上面に設けられている。凹部16には、造形槽12に供給されなかった金属粉末Mの残りが貯留される。
【0029】
造形部3は、図示略のシールドガス供給部と接続されている。シールドガス供給部は、造形部3内にシールドガスを供給して、造形部3内から残留している酸素ガスを当該シールドガスでパージできる形態であれば特に限定されない。造形部3がシールドガス供給部と接続されていることにより、金属粉末Mが酸化しにくくなり、金属粉末Mの変性を防止しやすくなる。そのため、金属構造物Xの機械的物性がさらに向上し、金属造形物Xの形状の劣化がさらに低減される。
【0030】
金属粉末Mとしては、カーボン、ホウ素、マグネシウム、カルシウム、クロム、銅、鉄、マンガン、モリブテン、コバルト、ニッケル、ハフニウム、ニオブ、チタン、アルミニウム等の各種の金属及びこれらの合金の粉末が例示される。
金属粉末Mの金属粒子の粒径としては、10〜200μm程度とすることができる。
【0031】
除去機構5は、演算部4が算出する領域S(図2参照)に含まれる金属粉末Mを造形槽12から除去する。領域Sについては後述する。図1に示すように除去機構5は、演算部4と電気的に接続される制御部6と、制御部6の上面に設けられた第1の可動部7と、第1の可動部7に接続される第2の可動部8と、第2の可動部8に接続されるとともに、金属粉末Mを吸引する吸引部9とを備える。
【0032】
制御部6は、第1の可動部7の動作と、第2の可動部8の動作と、吸引部9の動作とをそれぞれ制御する。制御部6は、第1の可動部7と、第2の可動部8と、吸引部9とそれぞれ電気的に接続されている。これにより制御部6は、第1の可動部7と、第2の可動部8と、吸引部9とにそれぞれ電気的に指示信号を送信できる。
【0033】
第1の可動部7は、第1の端部が制御部6の上面と接続され、第2の端部が、第2の可動部8の第1の端部と接続されている。第1の可動部7は、制御部6から電気的に送信される指示信号に従って、動作できる。第1の可動部7の動作は、吸引部9が造形槽12に充填されている金属粉末Mの上方を移動できる態様であれば特に限定されない。
【0034】
第2の可動部8は、第1の端部が第1の可動部7の第2の端部と接続され、第2の端部が吸引部9と接続されている。第2の可動部8は、制御部6から電気的に送信される指示信号に従って、動作できる。第2の可動部8の動作は、吸引部9が造形槽12に充填されている金属粉末Mの上方を移動できる態様であれば特に限定されない。
【0035】
吸引部9は、金属粉末を吸引できる形態であれば特に限定されない。
図2は、吸引部9の動作の一例を説明するための模式図である。図2に示すように、吸引部9は、図2中の両矢印で示す向きに沿って、領域Sの上方の空間を移動する。吸引部9は、領域Sに含まれる金属粉末Mを造形ステージ10の上方から吸引して除去する。これにより除去機構5が金属造形物Xと接触せずに領域Sに含まれる金属粉末Mを造形槽12から除去できるため、金属造形物Xの破損及びキズの発生が低減される。
【0036】
図2に示すように、領域Sは、レーザーLが照射される第1の領域の周囲の領域(第2の領域)である。焼結層Wは、レーザーLの照射によって金属粉末Mが焼結等している金属の層である。焼結層Wは、第1の領域に含まれている。ここで、レーザーLの照射による金属粉末Mの焼結は、焼結層Wの周囲の金属粉末Mに熱影響を与えてしまう。そのため焼結層Wの周囲の領域S、すなわち第2の領域には、未焼結の金属粉末MであってレーザーLの熱影響を受けて変性した金属粉末Mが充填されている。
本実施形態の金属造形物の製造装置20によれば、除去機構5が領域Sから金属粉末Mを除去することにより、造形槽12に充填されている金属粉末Mから変性した金属粉末Mを排除できる。
【0037】
演算部4(図1参照)は、レーザー発振器1と電気的に接続されている。これにより、レーザーLの出力値、レーザーLのスポット径等の情報が演算部4に送信される。
演算部4は、レーザーLが照射される第1の領域の周囲の領域である第2の領域、すなわち領域Sを算出する。演算部4は、金属粉末Mの材質、金属粉末Mの金属粒子の粒子径、金属粉末Mの焼結層の厚さ、レーザーLの出力値、レーザーLのスポット径等の情報に基づいて、領域Sを算出する。領域SはレーザーLが照射された後に、レーザーLの熱に起因して変性している金属粉末が存在すると演算部4によって予測される領域である。
演算部4としてはシーケンサー、CPU、入力機器、出力機器等が例示される。
【0038】
演算部4は、制御部6と電気的に接続されている。これにより、演算部4は領域Sに関する位置情報を制御部6に送信できる。制御部6は、前記位置情報に基づいて、第1の可動部7及び第2の可動部8の少なくとも一方に指示信号を与える。これにより、吸引部9が、領域Sに充填されている金属粉末の上方を移動できる。
【0039】
以上の構成を備える製造装置20は、造形槽12に充填された金属粉末MにレーザーLを照射して金属の層を造形する。また、製造装置20は造形部3内で造形した金属の層を、造形部3内で積層する。製造装置20は、金属粉末Mを焼結等して造形ステージ10上に焼結層を任意の形状に造形する操作と、造形した焼結層を積層する操作とを、造形部3で繰り返すことで、任意の形状の三次元構造を有する金属造形物Xを製造する。
【0040】
以上説明した本実施形態の金属造形物の製造装置によれば、エネルギー線が照射される第1の領域の周囲の領域である第2の領域を算出する算出機構と、算出機構が算出する第2の領域に含まれる金属粉末を造形槽から除去する除去機構とを備えるため、造形槽に充填された金属粉末に、変性した金属粉末が混入しにくい。よって、本実施形態の金属造形物の製造装置は、変性した金属粉末の量が低減された金属粉末に、エネルギー線を照射して金属の層を造形し、金属の層を積層して金属造形物を製造するため、機械的物性及び外観の意匠性に優れる金属造形物を製造できる。
【0041】
[金属造形物の製造方法]
以下、本実施形態の金属造形物の製造方法について説明する。
本実施形態の金属造形物の製造方法は、上述した構成を備える金属造形物の製造装置20を用いた金属造形物の製造方法である。以下図3を参照して、本実施形態の金属造形物の製造方法について具体的に説明する。
【0042】
図3は本実施形態の金属造形物の製造方法を説明するための模式図である。なお、簡略化のため、図3では演算部4の図示を省略する。
まず、図3中(i)で示す状態では製造装置20が演算部4にあらかじめ入力されたデータにしたがい、造形槽12に充填された金属粉末MにレーザーLを照射している。レーザーLが照射されると、レーザーLが照射された部分の金属粉末Mが焼結等され、焼結層がレーザーLの描画線に沿って任意の形状に造形される。
【0043】
図3中(i)に示す状態では、製造装置20は、造形槽12に充填されている金属粉末Mであって、造形途中の金属造形物Xより上部に敷き詰められている金属粉末Mを焼結等して焼結層を造形する。製造装置20は、前記焼結層をレーザーLの熱を利用し、焼結層を造形するとともに、造形途中の金属造形物Xの上に積層する。
【0044】
レーザーLの照射に際しては、造形部3内にシールドガスを供給して、造形部3内に残留している酸素ガスをシールドガスでパージすることが好ましい。これにより、金属構造物Xの機械的物性をさらに高め、形状の劣化をさらに防止できる。造形部3内の酸素ガスの濃度が0.8%以下になるまでパージを行うことが好ましい。造形部3内の酸素ガスの濃度が0.8%以下であると、金属粉末Mが酸化しにくく、金属粉末Mの変質を防止しやすい。
【0045】
次に、図3中(ii)で示す状態では、製造装置20がレーザーの熱によって変性した金属粉末を除去している。
本実施形態の金属造形物の製造方法では、レーザーLが照射される第1の領域の周囲の領域である第2の領域、すなわち変性した金属粉末が充填されている造形槽12上の領域を演算部4(図1参照)が算出する。前記領域の算出は、金属粉末Mの材質、金属粉末Mの金属粒子の粒子径、金属粉末Mの焼結層の厚さ、レーザーLの出力値、レーザーLのスポット径等の情報に基づいて行うことができる。
【0046】
本実施形態の金属造形物の製造方法では、演算部4が算出した第2の領域に含まれる金属粉末を除去する。前記領域に含まれる金属粉末は、レーザーの熱によって変性している。そのため、前記領域に含まれる金属粉末を造形槽12から除去することにより、造形槽12に充填されている金属粉末Mから変性した金属粉末を排除できる。
変性した金属粉末を除去するに際しては、吸引部9によって、造形ステージの上方から金属粉末を吸引して除去する。このように、吸引を金属造形物Xと非接触的に行うことにより金属造形物Xの破損及びキズの発生が低減される。
【0047】
次に、図3中(iii)で示す状態では、製造装置20は第1の昇降台13を上方向に移動させるとともに、第2の昇降台14を下方向に移動させている。これにより、供給槽11に貯蔵されている金属粉末Mの上面が造形ステージ10の上面より上方に移動し、造形槽12に充填されている金属粉末Mの上面が造形ステージ10の上面より下方に移動する。
ここで、造形槽12への金属粉末Mの供給量は、第1の昇降台13の上方への移動距離によって決定される。そのため造形槽12の金属粉末Mの充填量に応じて、前記上昇距離を調節することが好ましい。
【0048】
次に、図3中(iv)で示す状態では、製造装置20がリコーター15を図1に示す位置から、凹部16の付近の位置まで移動させている。
供給槽11に貯蔵されている金属粉末Mは、未変性の金属粉末である。造形ステージ10の上面より上方に位置する金属粉末Mは、造形ステージ10上でリコーター15の先端15aによって、造形槽12に搬送されて供給される。この際、金属粉末Mの上面が造形ステージ10の上面と一致するように、金属粉末Mの上面がリコーター15の先端15aによって平坦化され、金属粉末Mが造形槽12に敷き詰められる。
このようにして本実施形態の金属造形物の製造方法では、演算部4が算出した造形槽12の領域に含まれる金属粉末を造形槽12から除去した後に、造形槽12に未変性の金属粉末を供給する。
【0049】
図3中(iv)で示す状態では、未変性の金属粉末Mがリコーター15によって凹部16に向かって搬送されている。その結果、凹部16には、供給槽11から造形槽12に敷き詰めることができなかった未変性の金属粉末のみが貯留される。
【0050】
製造装置20は、図3中(iv)で示す状態から(i)で示す状態に戻り、造形途中の金属造形物Xの上方に敷き詰められている金属粉末MをレーザーLの照射によって焼結等して金属の層を積層する。そのため、金属粉末Mの焼結層の厚さは、すでに造形した焼結層の上方にある未焼結の金属粉末Mの層の厚さ、すなわち第2の昇降台14の下方への移動距離によって決定される。そのため、所望する焼結層の厚さに応じて、第2の昇降台14の下方への移動距離を調節することが好ましい。
以上説明した(i)〜(iv)の状態を繰り返すことで、製造装置20は、金属造形物Xを製造できる。
【0051】
図4は、本実施形態の金属造形物の製造方法を説明するための断面図である。図4中、「i」〜「iv」の各文字は、図3中(i)〜(iv)で示す各状態と対応している。
【0052】
図4中(i−1)に示す状態は、製造装置20がレーザーLを造形槽12に照射して、金属の層、すなわち造形途中の金属造形物Xを造形した後の状態である(図3(i)参照)。金属造形物Xの周囲の金属粉末Mの領域Sの部分には、レーザーの照射によって変性した金属粉末が含まれている。厚みHは領域Sの鉛直方向の高さ、すなわち領域Sの層の厚さを示している。厚みHは、レーザーの出力値、レーザーのスポット径等の要因によって決定される。
【0053】
図4中(ii−1)に示す状態は、演算部4が領域Sを算出して特定し、除去機構5が領域Sに含まれる金属粉末を除去した後の状態である(図3(ii)参照)。そのため、造形槽12に残る金属粉末Mは未変性の金属粉末である。変性した金属粉末が除去された造形槽12上の領域Sには、凹部が形成されている。
【0054】
図4中(iii−1)に示す状態は、製造装置20が第2の昇降台14を下方向に移動させた後の状態である(図3(iii)参照)。厚みHは第2の昇降台14の下方への移動距離を示している。そのため金属粉末Mの層及び金属造形物Xが、厚みHの分、下方に移動している。
【0055】
図4中(iv−1)に示す状態では、製造装置20が造形槽12に未変性の金属粉末Mを供給した後の状態を示す(図3(iv)参照)。図4中(iv−1)に示すように、造形途中の金属造形物Xの上方には、厚みH分の金属粉末Mが敷き詰められている。また、金属粉末Mの上面は、平坦化されている。
【0056】
図4中(i−2)に示す状態は、図4中(iv−1)に示す状態の後に、再び製造装置20がレーザーLを造形槽12に照射した後の状態である(図3(i)参照)。造形途中の金属造形物Xの上方には、図4中(iv−1)に示した状態から、厚みHの焼結層が積層されている。領域Sには、レーザーLの照射によって変性した金属粉末が含まれている。厚みHは領域Sの鉛直方向の高さ、すなわち領域Sの層の厚さを示している。
【0057】
図4中(ii−2)に示す状態は、製造装置20が領域Sを算出して特定し、除去機構5が領域Sに含まれる金属粉末を除去した後の状態である(図3(ii)参照)。そのため、造形槽12に残る金属粉末M及び金属粉末Mは未変性の金属粉末である。変性した金属粉末が除去された造形槽12上の領域Sには、凹部が形成されている。
【0058】
図4中(iii−2)に示す状態は、製造装置20が第2の昇降台14を下方向に再び移動させた後の状態である(図3(iii)参照)。厚みHは第2の昇降台14の下方への移動距離を示している。そのため、金属粉末Mの層、金属粉末Mの層及び金属造形物Xが、厚みHの分、さらに下方に移動している。
【0059】
図4中(iv−2)に示す状態は、製造装置20が造形槽12に未変性の金属粉末Mをさらに供給した後の状態を示す(図3(iv)参照)。図4中(iv−2)に示すように、造形途中の金属造形物Xの上方には、厚みH分の金属粉末Mが敷き詰められている。また、金属粉末Mの上面は、平坦化されている。
【0060】
図4中(i−3)に示す状態は、図4中(iv−2)に示す状態の後に、再び製造装置20がレーザーLを造形槽12に照射した後の状態である(図3(i)参照)。造形途中の金属造形物Xの上方には、図4中(iv−2)に示した状態から、厚みHの焼結層が積層されている。領域Sには、レーザーLの照射によって変性した金属粉末が含まれている。厚みHは領域Sの鉛直方向の高さ、すなわち領域Sの層の厚さを示している。
【0061】
このように造形槽12では、レーザーLの照射と、未変性の金属粉末M〜Mの供給と、焼結層の積層とを繰り返して金属造形物Xが造形される。
あらかじめデータが入力されたすべての焼結層の造形と、積層とが完了すると、金属造形物Xが完成する。完成した金属造形物は、造形槽12から取り出される。
【0062】
以上、図3及び図4を用いて説明したように、本実施形態の金属造形物の製造方法では、変性した金属粉末を造形槽12から除去した後に、造形槽12に未変性の金属粉末を供給している。これにより金属造形物Xの造形途中において、金属造形物Xの周囲の金属粉末には変性した金属粉末が混入せず、金属造形物Xの周囲の金属粉末を未変性の状態に維持できる。
【0063】
以上説明した本実施形態の金属造形物の製造方法によれば、エネルギー線が照射される第1の領域の周囲の領域である第2の領域を算出し、算出した第2の領域に含まれる金属粉末を造形槽から除去するため、造形槽に充填された金属粉末に、変性した金属粉末が混入しにくい。よって、本実施形態の金属造形物の製造方法では、変性した金属粉末の量が低減された金属粉末に、エネルギー線を照射して金属の層を造形し、金属の層を積層して金属造形物を製造するため、機械的物性及び外観の意匠性に優れる金属造形物を製造できる。
【0064】
また、図4を用いて説明したように、レーザーLを照射する度に変性した金属粉末を除去することで、金属造形物Xの造形途中において、金属造形物Xの周囲の金属粉末には変性した金属粉末がさらに混入しにくくなる。これにより、レーザーLを照射して焼結層を積層する操作を繰り返しても、変性した金属粉末が造形槽12に蓄積しにくくなる。そのため、レーザーLを照射する度に変性した金属粉末を除去すると、未変性の金属粉末を使用して金属の層を造形できるため、レーザーの照射と金属の層の積層とを繰り返しても、金属造形物Xの機械的強度及び外観の意匠性がさらに優れる。
【0065】
[金属粉末回収方法]
以下、本実施形態の金属粉末回収方法について説明する。
本実施形態の金属粉末回収方法は、上述した構成を備える金属造形物の製造装置20を用いて金属造形物Xを製造する際に、金属造形物Xの造形に用いられなかった金属粉末Mを回収する金属粉末回収方法である。以下、図4を参照して本実施形態の金属造形物の製造方法について、具体的に説明する。以下、図4中(i−3)に示す状態で金属造形物Xが完成した場合を一実施形態例として説明する。
【0066】
金属造形物Xが完成すると、金属造形物Xは造形槽12から取り出される。本実施形態の金属粉末回収方法では、金属造形物Xが完成した後に、第2の領域であるSに含まれる金属粉末を除去し、造形槽12に残留する金属粉末を回収する。このようにして造形槽12から金属造形物Xの造形に用いられなかった金属粉末を回収する。
【0067】
図4に示すように、本実施形態の金属粉末回収方法では、金属造形物Xを製造する際に、レーザーLが照射される第1の領域の周囲の領域である第2の領域を算出し、算出した第2の領域に含まれる金属粉末を造形槽12から除去している。また、変性した金属粉末を除去した後に、造形槽12に未変性の金属粉末を供給している。そのため、金属造形物Xが取り出された後の造形槽12には、金属造形物Xの造形に用いられなかった大量の未変性の金属粉末が残される。
よって、造形槽12に残された未変性の金属粉末を回収すれば、金属粉末の量が大量であっても、業者又は工場に委託して再生してもらう必要がなく、そのまま再利用できる。このように、本実施形態の金属粉末回収方法によれば、従来の方法と比べて、熱影響を受けていない金属粉末の再利用は、時間とコスとを必要とせず、経済的であり、簡便である。
【0068】
なお、本実施形態の金属粉末回収方法では、除去機構5が除去する変性した金属粉末を回収してもよい。この場合、除去機構5によって除去される金属粉末は、変性した金属粉末であるため、回収したすべての金属粉末を変性の有無で選別する必要がない。そのため、除去機構5によって除去される金属粉末を回収すれば、回収した金属粉末の再利用は、従来の方法と比べて、金属粉末を未変性の状態に再生をする際に時間とコスとを必要とせず、経済的であり、簡便である。
【0069】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されない。また、本発明は特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が加えられてよい。
【0070】
例えば、以上説明した実施形態に係る製造装置では、金属粉末をレーザーの照射によって焼結していたが、上述した製造装置は金属粉末をレーザー又は電子ビームの照射によって、溶融固化させる形態であってもよい。
【0071】
その他にも、上述した金属粉末回収方法では、金属造形物Xの完成後に、造形槽12から金属粉末を回収したが、金属造形物Xの製造途中に造形槽12から未変性の金属粉末の一部を回収してもよい。
【0072】
<実施例>
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0073】
(実施例1)
金属造形物の製造装置20で金属造形物の製造を行った。レーザー発振機1として、SPI Lasers社製のRed Powerを使用した。また、光学系2はガルバノミラーを用いて構成した。ベースプレート7は、純チタン製のものを使用し、金属粉末としてチタン合金Ti6Al4V(LPW Thechnology社製、Φ10〜45μm)を使用した。また、レーザーの出力値を200W、レーザーの走査幅を0.05mm、レーザーの走査速度を800mm/sとした。ベースプレート7上には、厚さ30μmの金属粉末の層を載置した。
実施例1ではシールドガスとして100体積%のアルゴンガスを30L/minの流量でチャンバ3内に供給した。
以上の条件で、10mm×10mmの正方形の金属溶融物を製造した。
なお、10mm×10mmの正方形の金属溶融物は、金属層の一層分の金属造形物に相当する。金属溶融物の周囲には未溶融の金属粉末Sが残留する。残留した金属粉末は下記測定方法によって酸素含有量を測定した。本実施例では、金属溶融物の端部から7.5mm以内の残留金属粉末Mの酸素含有量の測定を行った。
【0074】
(測定方法)
「酸素含有量[wt%]」は、レーザー照射によって得られた金属溶融物周囲(第2の領域)に残留する未溶融の金属粉末Sまたは未使用の金属粉末について、LECO社製酸素分析計TC−600を用いて測定した。
【0075】
(実施例2)
実施例2では、金属溶融物の端部から5.0mm以内の残留金属粉末Sを用いた以外は、実施例1と同条件で金属粉末の酸素含有量測定を行った。
(実施例3)
実施例3では、金属溶融物の端部から2.5mm範囲の残留金属粉末Sを用いた以外は、実施例1と同条件で金属粉末の酸素含有量測定を行った。
(参考例1)
参考例1では、未使用の金属粉末について、酸素含有量測定を行った。
【0076】
上記実施例1〜3及び参考例1の測定結果を、図5に示す。図5に示す結果より、残留金属粉末は、未使用粉末に比べて酸素含有量が高いことを確認した。また、金属溶融物の端部に近い残留金属粉末ほど、酸素含有量が高いことを確認した。本実施例1の条件では、金属溶融物の端部から5.0mm以内の残留金属粉末が酸化されており、当該範囲の金属粉末を一層ごとに分別することで、造形物への品質に一定の効果が見込める。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の金属造形物の製造装置及び金属造形物の製造方法によれば、機械的物性及び外観の意匠性に優れる金属造形物を製造できる。
本発明の金属粉末回収方法によれば、熱影響を受けていない粉末の再利用を簡便に行うことができる。
【符号の説明】
【0078】
1…レーザー発振器、2…光学系、3…造形部、4…算出機構、5…除去機構、6…制御部、7…第1の可動部、8…第2の可動部、9…吸引部、10…造形ステージ、11…供給槽、12…造形槽、13…第1の昇降台、14…第2の昇降台、15…リコーター、16…凹部、20…金属造形物の製造装置、L…レーザー、M…金属粉末、S…第2の領域、W…焼結層(第1の領域)、X…金属造形物
図1
図2
図3
図4
図5