【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)「環境中病原性微生物の迅速定量装置の実用化開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Anal Chem., 2001 May 1, vol. 73, no. 9, pp. 2018-2021
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記サーマルサイクル領域は、試料に熱変性を生じさせる高温部と、アニーリングおよび伸長を生じさせる中温部とを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のPCR反応容器。
前記サーマルサイクル領域は、試料に熱変性を生じさせる高温部と、アニーリングおよび伸長を生じさせる中温部とを含むことを特徴とする請求項12に記載のPCR方法。
前記サーマルサイクル領域は、試料に熱変性を生じさせる高温部と、アニーリングを生じさせる中温部と、伸長を生じさせる低温部とを含むことを特徴とする請求項12に記載のPCR方法。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態に係るPCR反応容器およびPCR装置について説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0029】
[第1実施形態]
図1(a)および(b)は、本発明の第1実施形態に係るPCR反応容器10を説明するための図である。
図1(a)は、PCR反応容器10の平面図であり、
図1(b)は、PCR反応容器10の正面図である。
図2は、
図1(a)に示すPCR反応容器10のA−A断面図である。
図3は、
図1(a)に示すPCR反応容器10のB−B断面図である。
図4は、PCR反応容器10が備える基板14の平面図である。
図5は、PCR反応容器10の構成を説明するための概念図である。
【0030】
PCR反応容器10は、下面14aに溝状の流路12が形成された樹脂性の基板14と、基板14の下面14a上に貼られた、流路12を封止するための流路封止フィルム16と、基板14の上面14b上に貼られた3枚の封止フィルム(第1封止フィルム18、第2封止フィルム20および第3封止フィルム22)とから成る。
【0031】
基板14は、熱伝導性がよく、温度変化に対しても安定で、使用される試料溶液に対して侵されにくい材質から形成されることが好ましい。さらに、基板14は、成形性がよく、透明性やバリア性が良好で、且つ、低い自己蛍光性を有する材質から形成されることが好ましい。このような材質としては、ガラス、シリコン等の無機材料をはじめ、アクリル、ポリエステル、シリコーンなどの樹脂、中でもシクロオレフィンが好適である。基板14の寸法の一例は、長辺70mm、短辺42mm、厚み3mmである。基板14の下面14aに形成される流路12の寸法の一例は、幅0.5mm、深さ0.5mmである。
【0032】
上述したように、基板14の下面14aには溝状の流路12が形成されており、この流路12は、流路封止フィルム16により封止されている(
図2参照)。基板14における流路12の一端12aの位置には、第1空気連通口24が形成されている。基板14における流路12の他端12bの位置には、第2空気連通口26が形成されている。一対の第1空気連通口24および第2空気連通口26は、基板14の上面14bに露出するように形成されている。このような基板は射出成形やNC加工機などによる切削加工によって作製することができる。
【0033】
基板14中における第1空気連通口24と流路12の一端12aとの間には、第1フィルタ28が設けられている(
図2参照)。基板14中における第2空気連通口26と流路12の他端12bとの間には、第2フィルタ30が設けられている。流路12の両端に設けられた一対の第1フィルタ28および第2フィルタ30は、低不純物特性が良好であるほか、空気のみを通し、PCRによって増幅されたDNAの品質が劣化しないようにコンタミネーションを防止する。フィルタ材料としては、ポリエチレンやPTFEなどが好適であり、多孔質または疎水性を備えていてもよい。第1フィルタ28および第2フィルタ30の寸法は、基板14に形成されたフィルタ設置スペースに隙間なく収まるような寸法に形成される。
【0034】
基板14には、第1フィルタ28と第2フィルタ30との間の分岐点112cにおいて、流路12から分岐した分岐流路131が形成されている。基板14における分岐流路131の末端31aの位置には、試料導入口133が形成されている(
図3参照)。試料導入口133は、基板14の上面14bに露出するように形成されている。
【0035】
流路12における第1フィルタ28と分岐点112cとの間の部分は、試料にサーマルサイクルを与えるために、高温領域と中温領域が予定されているサーマルサイクル領域12eを形成する。流路12のサーマルサイクル領域12eは、蛇行流路を含んでいる。これは、PCR工程でPCR装置から与えられる熱量を効率的に試料に与えるためと、PCRに供することのできる試料の体積を一定量以上にするためである。本第1実施形態においては、サーマルサイクル領域12eと第2フィルタ30との間に分岐点112cを設けたが、分岐点112cはそれに接続する分岐流路131と試料導入口133を通じて、PCRに供する試料を流路内に導入するためのものであるので、第1フィルタ28と第2フィルタ30の間に形成されれば機能上問題はない。PCR反応容器10はPCR装置に設置し、試料にサーマルサイクルを与え、かつ、試料から発せられる蛍光等の光学物性値を計測することを予定しているので、後述の温度調節部や蛍光検出用プローブの配置なども考慮に入れて、流路や分岐点をはじめとした各要素の配置を任意に選択すればよい。本第1実施形態においては、分岐点112cを第2フィルタ30により近い側に配置し、サーマルサイクル領域は分岐点112cから第1フィルタ28との間に設けた。このため、分岐点112cと第1フィルタ28との流路上の距離を比較的大きくとることができ、サーマルサイクル領域や、またPCR装置に設置したときに、温度調節部を効率よく配置するスペースも生まれる。逆に分岐点112cを第1フィルタ28に近い側に配置した場合は、分岐点112cと第2フィルタ30との間にサーマルサイクル領域12eを形成したほうが合理的といえる。
【0036】
本第1実施形態に係るPCR反応容器10において、流路12の大部分は基板14の下面14aに露出した溝状に形成されている。金型等を用いた射出成形により容易に成形できるようにするためである。この溝を流路として活用するために、基板14の下面14a上に流路封止フィルム16が貼られる。流路封止フィルム16は、一方の主面が粘着性を備えていてもよいし、押圧により粘着性や接着性を発揮する機能層が一方の主面に形成されていてもよく、容易に基板14の下面14aと密着して一体化できる機能を備える。流路封止フィルム16は、粘着剤も含めて低い自己蛍光性を有する材質から形成されることが望ましい。この点でシクロオレフィンポリマー、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはアクリルなどの樹脂からなる透明フィルムが適しているが、これらに限定されない。また、流路封止フィルム16は、板状のガラスや樹脂から形成されてもよい。この場合はリジッド性が期待できることから、PCR反応容器10の反りや変形防止に役立つ。
【0037】
また、本第1実施形態に係るPCR反応容器10において、第1空気連通口24、第2空気連通口26、第1フィルタ28、第2フィルタ30および試料導入口133は、基板14の上面14bに露出している。そこで、第1空気連通口24および第1フィルタ28を封止するために第1封止フィルム18を基板14の上面14bに貼り付ける。また、第2空気連通口26および第2フィルタ30を封止するために第2封止フィルム20を基板14の上面14bに貼り付ける。また、試料導入口133を封止するために第3封止フィルム22を基板14の上面14bに貼り付ける。
【0038】
第1封止フィルム18は第1空気連通口24と第1フィルタ28とを、第2封止フィルム20は第2空気連通口26と第2フィルタ30とを同時に封止可能なサイズのものが用いられる。第1空気連通口24、第2空気連通口26への加圧式ポンプ(後述する)の接続は、ポンプ先端に備わった中空のニードル(先端がとがった注射針)で第1空気連通口24、第2空気連通口26に穿孔することにより行う。そのため、第1封止フィルム18、第2封止フィルム20は、ニードルによる穿孔が容易な材質や厚みから成るフィルムが好ましい。本第1実施形態では該当する空気連通口とフィルタとを同時に封止するサイズの封止フィルムについて記載したが、これらを別個に封止する態様でもよい。また、第1空気連通口24、第1フィルタ28、第2空気連通口26及び第2フィルタ30を一括(一枚)で封止することのできる封止フィルムであってもよい。
【0039】
第3封止フィルム22は、試料導入口133を封止可能なサイズのものが用いられる。試料導入口133を通じての試料の流路12内への導入は、第3封止フィルム22を一旦、基板14から剥がして行い、所定量の試料の導入後には第3封止フィルム22を再び基板14の上面14bに戻し貼り付ける。そのため、第3封止フィルム22としては、数サイクルの貼り付け/剥がしに耐久するような粘着性を備えるフィルムが望ましい。また第3封止フィルム22は、試料導入後には新しいフィルムを貼り付ける態様であってもよく、この場合は貼り付け/剥がしに関する特性の重要性は緩和されうる。
【0040】
また試料導入時には、第1封止フィルム18又は第2封止フィルム20のいずれかを第3封止フィルム22と同様に一旦剥がす必要がある。空気の出口を作ってやらないと試料が流路内に入っていかないからである。そのため第1封止フィルム18と第2封止フィルム20は、同じく数サイクルの貼り付け/剥がしに耐久するような粘着性を備えるフィルムが望ましい。また、試料導入後には新しいフィルムを貼りつける態様であってもよい。
【0041】
第1封止フィルム18、第2封止フィルム20及び第3封止フィルム22は、流路封止フィルム16と同様に、一方の主面に粘着剤層が形成され、または押圧により粘着性や接着性を発揮する機能層が形成されていてもよい。第1封止フィルム18、第2封止フィルム20及び第3封止フィルム22は、粘着剤も含めて低い自己蛍光性を有する材質から形成されることが望ましい。この点でシクロオレフィン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン又はアクリルなどの樹脂からなる透明フィルムが適しているが、これらに限定されない。また上述したように複数回の貼り付け/剥離によっても、その粘着性等の特性が使用に影響をきたす程度に劣化しないことが望ましいが、剥離して試料等の導入後に、新たなフィルムを貼り付ける態様である場合は、この貼り付け/剥がしに関する特性の重要性は緩和されうる。
【0042】
次に、以上のように構成されたPCR反応容器10の使用方法について説明する。まず、サーマルサイクルにより増幅すべき試料を準備する。試料としては、二以上の種類のDNAを含む混合物に、PCR試薬として複数種類のプライマー、耐熱性酵素及び4種類のデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)を添加したものがあげられる。次に、第1封止フィルム18と第3封止フィルム22を基板14から剥がし、第1空気連通口24と試料導入口133を開放する。第1封止フィルム18が第1空気連通口24と第1フィルタ28を同時に封止できるサイズのものであった場合、第1封止フィルム18を完全に基板14から剥がして、第1空気連通口24と第1フィルタ28を大気中に開放してもよいが、第1封止フィルム18を完全に基板14から剥がさずに、第1空気連通口24のみを開放することによって、第1フィルタ28が大気中に晒されることがなく、コンタミネーション防止には効果がある。また第1空気連通口24と第1フィルタ28を別個に封止できる封止フィルムを用いた場合にも同様に第1フィルタ28が大気中に晒されることがなく、コンタミネーション防止には効果がある。
【0043】
次に、試料導入口133に試料をスポイトやシリンジ等で導入する。
図6は、試料70がPCR反応容器10内に導入された様子を模式的に示す。なお、
図6では、試料70の位置を強調するために、試料70を流路12よりも太い実線で表している。試料70が流路からはみ出している状態を表すものではない点に留意されたい。
【0044】
図6に示すように、試料導入口133に導入された試料70は、スポイトやシリンジ等により押し込まれるか、毛細管現象により流路を満たしていく。試料70は、流路12における分岐点112cを超えてサーマルサイクル領域12eの方向(第1空気連通口24の方向)に充填される。しかしながら、試料70は、分岐点112cを超えて、第2空気連通口26の方向には充填されない。第2空気連通口26は封止されており、空気に逃げ口がないためである。
【0045】
次に、
図7に示すように、第1封止フィルム18と第3封止フィルム22を再び基板14に貼り戻し、第1空気連通口24と試料導入口133を封止する。上述したように、新たな第1封止フィルム18と第3封止フィルム22を貼ってもよい。以上でPCR反応容器10への試料70の導入は完了である。
【0046】
図8は、PCR反応容器10を用いたPCR装置100を説明するための図である。
図9は、PCR反応容器10をPCR装置100の所定の位置にセットした状態を説明するための図である。
【0047】
PCR装置100は、蛍光検出用光学プローブ122と、第1ヒータ134と、第2ヒータ135とを備える。
図9に示すように、PCR反応容器10は、流路12のサーマルサイクル領域12eの二つの反応領域が、それぞれ第1ヒータ134および第2ヒータ135上に配置され、且つ、蛍光検出用光学プローブ122が、二つの反応領域の間の接続領域に配置されるように、PCR装置100に設置されている。
【0048】
PCR装置100は、さらに、試料70をサーマルサイクル領域12e内で往復運動させるためのポンプシステム110を備える。このポンプシステム110は、第1ノズル101、第2ノズル102、第1ポンプ103、第2ポンプ104、第1ドライバ105、第2ドライバ106、および制御部107を備える。ポンプシステム110の第1ノズル101がPCR反応容器10の第1空気連通口24に接続され、ポンプシステム110の第2ノズル102がPCR反応容器10の第2空気連通口26に接続される。ノズルと空気連通口の具体的な接続方法は後述する。ポンプシステム110は、第1空気連通口24および第2空気連通口26を介して流路12内の圧力を制御することで、サーマルサイクル領域12e内で試料を移動させる。
【0049】
本第1実施形態に係るPCR装置100において、第1ヒータ134と第2ヒータ135は異なる温度に設定される。各ヒータはサーマルサイクル領域12eのうち二つのの反応領域の温度を個別に制御するために熱量を与えるものであり、また、各反応領域の面積をカバーするような面積を有している。またそれぞれのヒータは、抵抗加熱やペルチェ素子などの手段や構成であってもよい。例えば、第1ヒータ134は、流路12のサーマルサイクル領域12eのうち、紙面右側の反応領域の温度を一定の94℃に維持するように、第1ヒータドライバ130によって制御される。また、第2ヒータ135は、紙面左側の反応領域の温度を一定の60℃に維持するように、第2ヒータドライバ132によって制御される。各反応領域の温度は、熱電対などの温度センサ(図示せず)によって計測され、その電気信号に基づいて各ヒータへの出力を各ドライバによって制御されるものであってもよい。このように、第1ヒータ134、第2ヒータ135、第1ヒータドライバ130、第2ヒータドライバ132および温度センサは、サーマルサイクル領域12eの温度を調節するための温度調節部を構成し、温度の制御性が向上するその他の要素を含んでいてもよい。以下では、流路12における雰囲気温度94℃の反応領域を「高温部111」と称し、流路12における雰囲気温度60℃の反応領域を「中温部112」と称する。また本実施形態では二つの反応領域として2水準の温度領域を設定するようなサーマルサイクル領域を備えるPCR反応容器と温度制御部とを備えるPCR装置について詳細に説明するが、3水準以上の温度領域を設定することができるようなサーマルサイクル領域を備えるPCR反応容器と温度制御部とを備えるPCR装置であってもよい。この場合は(図示しないが)、一例として、紙面の左側から低温部、中温部、高温部と配列される反応領域を備えるようなPCR反応容器と温度制御部を備えるPCR装置であってもよい。このような場合、例えば、低温部を50〜70℃、中温部を72℃、高温部を94℃に維持されるように制御される。
【0050】
ポンプシステム110は、上述したように、試料70を流路12のサーマルサイクル領域12e内で往復運動させるために配置される。制御部107により第1ドライバ105、第2ドライバ106を通じて第1ポンプ103、第2ポンプ104を一定の条件のもと、交互に動作させることによって、試料70を流路12の高温部111と中温部112との間で往復運動させることができ、試料70に一定条件のもとサーマルサイクルを与えることができる。本第1実施形態に係るPCR装置100では、第1ポンプ103、第2ポンプ104は、いずれも停止した場合は瞬時に一次側と二次側の気圧が等しくなり、また、いずれも停止しているときは、一次側と二次側の気圧が等しくなるタイプのエアポンプ若しくはブロアポンプである。このようなタイプのポンプを用いない、すなわち停止しても直前の圧力を維持するようなポンプを用いた場合には、ポンプが停止しても、わずかながら試料が移動し続ける現象が起こり、所定の反応領域に試料が停止せず、適正に試料の温度を制御することができない可能性がある。一方で本第1実施形態に係るPCR装置100においては、停止時(開放時)に、外部空気とPCR反応容器の流路とが気圧的に連通し、大気圧に等しくなるが、空気連通口と流路との間にフィルタが備わっているために、流路内へのコンタミネーションを防止することができる。
【0051】
試料70は、上述のサーマルサイクルによってPCRを実施することができるが、流路内の試料70からの蛍光を検出し、その値をPCRの進捗や反応の終端の判定材料としての指標とすることができる。蛍光検出用光学プローブ122とドライバ121としては、非常にコンパクトな光学系で、迅速に測定でき、かつ明暗雰囲気にかかわらず、蛍光を検出することができる日本板硝子株式会社製の光ファイバ型蛍光検出器FLE−510を使用することができる。この光ファイバ型蛍光検出器は、サーマルサイクル領域内の2つの反応領域の間の狭小なスペースにも容易に配置することができる。この光ファイバ型蛍光検出器は、その励起光/蛍光の波長特性を試料70の蛍光特性に適するようにチューニングしておくことができ、様々な特性を有する試料について最適な光学・検出系を提供することが可能である。またサーマルサイクル領域12e内に渡って複数個所設置された蛍光検出用光学プローブ122とドライバ121を備えていてもよい。例えば高温部111や中温部112にある流路内の試料70からの蛍光を検出するために設置してもよい。PCRの進捗や終了の判断材料の取得といった機能以外に、試料70が高温部111または中温部112にあるか、ないかということを確実に検出する位置センサとしても機能させることができる。
【0052】
以上のように構成されたPCR装置100において、ポンプシステム110の制御部107、蛍光検出用光学プローブ122のドライバ121、第1ヒータドライバ130および第2ヒータドライバ132は、CPU141によって最適に動作するように制御される。また、先述にように3水準の温度が設定される反応領域を備えるような場合には、上記に加えて第3のヒータドライバ(図示せず)もCPUによって制御される。
【0053】
図10は、ポンプシステムのノズルとPCR反応容器の空気連通口とを接続した様子を示す図である。
図11は、
図10に示すPCR反応容器10のC−C断面図である。上述したように、第1ノズル101が第1空気連通口24に接続され、第2ノズル102が第2空気連通口26に接続される。
【0054】
図11に示すように、第1ノズル101の先端には中空のニードル150が設けられている。このニードル150で第1封止フィルム18を穿孔することにより、第1ノズル101が第1空気連通口24に接続される。第2ノズル102と第2空気連通口26の接続も同様である。
【0055】
ニードル150には、接続部周辺の気密性を確保するために、封止フィルムの表面と密着する軟性樹脂からなるパッキン151が設けられている。PCR反応容器10がPCR装置100にセットされた直後は、ポンプシステム110は動作しておらず大気に解放されているために、圧力的には流路内は大気圧に等しい状態にある。
【0056】
図12は、ポンプシステム110を作動させて試料70を移動させている様子を示す。第1ポンプ103および第2ポンプ104のいずれか一方を作動させ、試料70をサーマルサイクル領域12eの高温部111または中温部112に移動させる。
図12では、第2ノズル102が接続された第2ポンプ104を作動させ、第1ノズル101が接続された第1ポンプ103は停止している。すなわち、第1ポンプ103から延びる第1ノズル101が接続された第1空気連通口24は、大気圧に開放されている。第2ポンプ104を作動させて第2ノズル102から第2空気連通口26に空気を送り込むと、試料70が動き、中温部112を通過して高温部111に移動する。この状態を初期状態とする。
【0057】
より具体的には、第2ポンプ104の動作の開始とともに、あるいはその直前に、蛍光検出用光学プローブ122を用いて、流路中の試料から発せられる蛍光のモニタを開始する。蛍光検出用光学プローブ122の測定ポイントに何もないときは検出される蛍光はゼロかバックグラウンドレベルにあるが、測定ポイントに試料70が存在するときは蛍光が検出される。従って、第2ポンプ104の動作開始前から蛍光のモニタを開始し、蛍光値がバックグラウンドレベルから上昇し、再びバックグラウンドレベルに下降したことで、試料70が高温部111に移動が完了したことを認知し、この時点で第2ポンプ104の動作を停止することで初期状態のセッティングが完了する。また蛍光検出用光学プローブがさらに高温部111にある場合はより確実に試料70を高温部111に停止させることもできる。
【0058】
ここで、分岐流路131内に位置している試料70は、第2ポンプ104を動作させても、殆どその場所に留まることに留意されたい。これは、試料導入口133は第3封止フィルム22で封止されているためである。この分岐流路131内に位置している試料70は、PCRに供されない。
【0059】
初期状態にセッティング後、試料70にサーマルサイクルを与えPCRを進行させる。蛍光検出用光学プローブ122による蛍光の測定は継続する。
【0060】
(A)まず、試料70を高温部111(約94℃雰囲気)に1〜30秒間待機させる(Deneturation:熱変性工程)。この工程により2本鎖のDNAが1本鎖に変性される。
【0061】
(B)次に、第1ノズル101が接続された第1ポンプ103を動作させ、試料70を中温部112(約60℃雰囲気)に移動させる。具体的には、試料70は、第1ポンプ103の作用により、高温部111から中温部112の方向に押される。蛍光検出用光学プローブ122による蛍光測定は継続しているので、蛍光検出用光学プローブ122の測定ポイントを試料70が通過することによって、蛍光量がバックグラウンドのレベルから上昇し、再び下降した時点(あるいは蛍光量が下降して一定時間経過後)に第1ポンプ103の動作を停止させる。また蛍光検出用光学プローブ122が中温部112にある場合はより確実に試料70を中温部112に停止させることもできる。
【0062】
(C)中温部112では、試料70を3〜60秒間待機させる(Annealing+Elongation:アニーリング工程+伸長工程)。この工程によってあらかじめ試料70に含有されていたプライマーが結合し更に伸長したDNAになる。
【0063】
(D)次に、第2ノズル102が接続された第2ポンプ104を作動させ、試料70を中温部112から高温部111に移動させる。ポンプ動作停止のタイミングは、上記と同様に、蛍光検出用光学プローブ122で測定された蛍光量の変動から判断する。試料70を高温部111に移動後、1〜30秒間待機させ熱変性させる。
【0064】
(E)上記の(B)〜(D)を所定のサイクル数繰り返し、試料70にサーマルサイクルを与え、試料70に含まれるDNAに複数サイクルの熱変性−アニーリング−伸長工程を経らせることによって、DNAの増幅を行う。サイクル数は、対象のDNAやプライマー、酵素等の組合せにより適宜決定される。
【0065】
所定のサイクル数のサーマルサイクルが終了後、第1ポンプ103および第2ポンプ104を停止し、PCRを終了させる。所定のサイクル数のサーマルサイクルが与えられているときでも、蛍光検出用光学プローブ122により蛍光が測定されており、試料70に含まれるDNAが増幅するにつれ、試料70から検出される蛍光が増大する。これにより、試料70の濃度を正確に知ることができる。
【0066】
第1実施形態に係るPCR反応容器10によれば、第1空気連通口24と流路12との間に第1フィルタ28を設け、第2空気連通口26と流路12との間に第2フィルタ30を設けたことにより、流路12内のコンタミネーションを防止できる。ポンプシステム110側にコンタミネーション防止の対策を施すことはコストが高くなりがちであるが、本第1実施形態のPCR反応容器10では、PCR反応容器10側のみでコンタミネーションを防止でき、経済的である。またPCR反応容器はディスポーザブルとして使用する場合は、フィルタが常に新しいものであるので、低コストでコンタミネーションの防止がさらに図られる。さらにPCR反応容器の廃棄処分についても、試料はPCR反応容器に略封止された状態にあるので安全面や環境面でも有意義である。
【0067】
本第1実施形態に係るPCR装置100では、停止時には一次側と二次側の圧力が等しくなる第1ポンプ103および第2ポンプ104を交互に動作させることでPCR反応容器10の流路12内で試料を往復移動させることができる。この場合、送液(流路中の試料に圧力をかける)中の試料に過剰な圧力がかからず、さらに流路内の減圧をしないため、高温部111の作用による試料を含む液の蒸発や沸騰(発泡)を防止することができる。
【0068】
また、本第1実施形態に係るPCR装置100では、サーマルサイクル領域において、PCR中も試料からの蛍光が常時モニタされている(リアルタイムPCR)。これにより、測定された蛍光量に基づいて、PCRの終了タイミングを判定できる。また、蛍光検出用光学プローブ122によって蛍光の変化をモニタすることで試料の通過を知ることができ、その通過に伴う蛍光量の変化に基づいて、第1ポンプ103および第2ポンプ104の交互動作を制御することができるため、PCRに供する試料を正確にサーマルサイクル領域の高温部111または中温部112に位置決めすることができる。
【0069】
一方で先述の高温部、中温部及び低温部の3水準の温度が制御された反応領域を備えるPCR反応容器とPCR装置に場合は、高温部で熱変性、中温部でアニーリングそして低温部で伸長の各工程を担わせることが可能となり、それらの制御についても上記の詳細な説明に基づいて当業者が容易に発展、改良できる事項である。また反応領域を2水準とするか3水準とするかについては、試料の特性に応じて当業者が適宜選択できる。
【0070】
[第2実施形態]
図13(a)および(b)は、本発明の第2実施形態に係るPCR反応容器210を説明するための図である。
図13(a)は、PCR反応容器210の平面図であり、
図13(b)は、PCR反応容器210の正面図である。
図14は、
図13(a)に示すPCR反応容器210のA−A断面図である。
図15は、
図13(a)に示すPCR反応容器210のB−B断面図である。
図16は、PCR反応容器210が備える基板214の平面図である。
図17は、PCR反応容器210の構成を説明するための概念図である。第2実施形態におけるPCR反応容器210は、分岐点を2個(第1分岐点212cと第2分岐点212d)とそこから延長される分岐流路と試料導入口を2個(第1分岐流路231と第1試料導入口233、第2分岐流路232と第2試料導入口234)を備え、第1分岐点212cと第2分岐点212dとの間に緩衝流路領域212fを備える点などが第1実施形態と異なる。
【0071】
PCR反応容器210は、下面214aに溝状の流路212が形成された樹脂性の基板214と、基板214の下面214a上に貼られた、流路212を封止するための流路封止フィルム216と、基板214の上面214b上に貼られた3枚の封止フィルム(第1封止フィルム218、第2封止フィルム220および第3封止フィルム222)とから成る。
【0072】
基板214は、熱伝導性がよく、温度変化に対しても安定で、使用される試料溶液に対して侵されにくい材質から形成されることが好ましい。さらに、基板214は、成形性がよく、透明性やバリア性が良好で、且つ、低い自己蛍光性を有する材質から形成されることが好ましい。このような材質としては、ガラス、シリコン等の無機材料をはじめ、アクリル、ポリエステル、シリコーン等の樹脂、中でもシクロオレフィンが好適である。基板214の寸法の一例は、長辺70mm、短辺42mm、厚み3mmである。基板214の下面214aに形成される流路212の寸法の一例は、幅0.5mm、深さ0.5mmである。
【0073】
上述したように、基板214の下面214aには溝状の流路212が形成されており、この流路212は、流路封止フィルム216により封止されている(
図14参照)。基板214における流路212の一端212aの位置には、第1空気連通口224が形成されている。基板214における流路212の他端212bの位置には、第2空気連通口226が形成されている。一対の第1空気連通口224および第2空気連通口226は、基板214の上面214bに露出するように形成されている。このような基板は射出成形やNC加工機などによる切削加工によって作製することができる。
【0074】
基板214中における第1空気連通口224と流路212の一端212aとの間には、第1フィルタ228が設けられている(
図14参照)。基板214中における第2空気連通口226と流路212の他端212bとの間には、第2フィルタ230が設けられている。この流路212の両端に設けられた一対の第1フィルタ228および第2フィルタ230は、低不純物特性が良好であるほか、空気のみを通し、PCRによって増幅されたDNAの品質が劣化しないようにコンタミネーションを防止する。フィルタ材料としては、ポリエチレンやPTFEなどが好適であり、多孔質又は疎水性を備えていてもよい。第1フィルタ228および第2フィルタ230の寸法は、基板214に形成されたフィルタ設置スペースに隙間なく収まるような寸法に形成される。
【0075】
基板214には、第1フィルタ228と第2フィルタ230との間の第1分岐点212cにおいて、流路212から分岐した第1分岐流路231が形成されている。基板214における第1分岐流路231の末端231aの位置には、第1試料導入口233が形成されている(
図15参照)。基板214にはさらに、第1分岐点212cと第2フィルタ230との間の第2分岐点212dにおいて、流路212から分岐した第2分岐流路232が形成されている。基板214における第2分岐流路232の末端232aの位置には、第2試料導入口234が設けられている。第1試料導入口233および第2試料導入口234は、基板214の上面214bに露出するように形成されている。
【0076】
流路212における第1フィルタ228と第1分岐点212cとの間の部分は、試料にサーマルサイクルを与えるために、高温領域と中温領域が予定されているサーマルサイクル領域212eを形成する。流路212のサーマルサイクル領域212eは、蛇行流路を含んでいる。これは、PCR工程でPCR装置から与えられる熱量を効率的に試料に与えるためと、PCRに供することのできる試料の体積を一定量以上にするためである。サーマルサイクル領域212eは、それぞれ蛇行流路を含む一対の反応領域と、一対の反応領域を接続する接続領域とを備える。
【0077】
流路212における第1分岐点212cと第2分岐点212dとの間の部分は、緩衝流路領域212fを形成する。流路212の緩衝流路領域212fは、蛇行流路を含んでいる。流路212の緩衝流路領域212fの体積は、PCR処理を施したい試料の量に応じた所定の体積に設定される。緩衝流路領域の機能については後述する。
【0078】
本第2実施形態に係るPCR反応容器210において、流路212の大部分は基板214の下面214aに露出した溝状に形成されている。金型等を用いた射出成形により容易に成形できるようにするためである。この溝を流路として活用するために、基板214の下面214a上に流路封止フィルム216が貼られる。流路封止フィルム216は、一方の主面が粘着性を備えていてもよいし、押圧により粘着性や接着性を発揮する機能層が一方の主面に形成されていてもよく、容易に基板214の下面214aと密着して一体化できる機能を備える。流路封止フィルム216は、粘着剤も含めて低い自己蛍光性を有する材質から形成されることが望ましい。この点でシクロオレフィンポリマー、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンまたはアクリルなどの樹脂からなる透明フィルムが適しているが、これらに限定されない。また、流路封止フィルム216は、板状のガラスや樹脂から形成されてもよい。この場合はリジッド性が期待できることから、PCR反応容器210の反りや変形防止に役立つ。
【0079】
また、本第2実施形態に係るPCR反応容器210において、第1空気連通口224、第2空気連通口226、第1試料導入口233、第2試料導入口234、第1フィルタ228および第2フィルタ230は、基板214の上面214bに露出している。そこで、第1空気連通口224および第1フィルタ228を封止するために第1封止フィルム218を基板214の上面214bに貼り付ける。また、第2空気連通口226および第2フィルタ230を封止するために第2封止フィルム220を基板214の上面214bに貼り付ける。また、第1試料導入口233および第2試料導入口234を封止するために第3封止フィルム222を基板14の上面214bに貼り付ける。
【0080】
第1封止フィルム218は第1空気連通口224と第1フィルタ228とを、第2封止フィルム220は第2空気連通口226と第2フィルタ230とを同時に封止可能なサイズのものが用いられる。第1空気連通口224、第2空気連通口226への加圧式ポンプ(後述する)の接続は、ポンプ先端に備わった中空のニードル(先端がとがった注射針)で第1空気連通口224、第2空気連通口226に穿孔することにより行う。そのため、第1封止フィルム218、第2封止フィルム220は、ニードルによる穿孔が容易な材質や厚みから成るフィルムが好ましい。本第2実施形態では該当する空気連通口とフィルタとを同時に封止するサイズの封止フィルムについて記載したが、これらを別個に封止する態様でもよい。また、第1空気連通口224、第1フィルタ228、第2空気連通口226及び第2フィルタ230を一括(一枚)で封止することのできる封止フィルムであってもよい。
【0081】
第3封止フィルム222は、第1試料導入口233および第2試料導入口234を同時に封止可能なサイズのものが用いられる。第1試料導入口233、第2試料導入口234を通じての試料の流路212内への導入は、第3封止フィルム222を一旦、基板214から剥がして行い、所定量の試料の導入後には第3封止フィルム222を再び基板214の上面214bに戻し貼り付ける。そのため、第3封止フィルム222としては、数サイクルの貼り付け/剥がしに耐久するような粘着性を備えるフィルムが望ましい。また第3封止フィルム222は、試料導入後には新しいフィルムを貼りつける態様であってもよく、この場合は貼り付け/剥がしに関する特性の重要性は緩和されうる。また本第2実施形態では、第1試料導入口233および第2試料導入口234を同時に封止するサイズの封止フィルムについて記載したが、これらを別個に封止する態様でもよい。
【0082】
第1封止フィルム218、第2封止フィルム220及び第3封止フィルム222は、流路封止フィルム216と同様に、一方の主面に粘着剤層が形成され、または押圧により粘着性や接着性を発揮する機能層が形成されていてもよい。第1封止フィルム218、第2封止フィルム220及び第3封止フィルム222は、粘着剤も含めて低い自己蛍光性を有する材質から形成されることが望ましい。この点でシクロオレフィン(COP)、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン又はアクリルなどの樹脂からなる透明フィルムが適しているが、これらに限定されない。また上述したように複数回の貼り付け/剥離によっても、その粘着性等の特性が使用に影響をきたす程度に劣化しないことが望ましいが、剥離して試料等の導入後に、新たなフィルムを貼り付ける態様である場合は、この貼り付け/剥がしに関する特性の重要性は緩和されうる。
【0083】
次に、以上のように構成されたPCR反応容器210の使用方法について説明する。まず、サーマルサイクルにより増幅すべき試料を準備する。試料としては、二以上の種類のDNAを含む混合物に、PCR試薬として複数種類のプライマー、耐熱性酵素及び4種類のデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)を添加したものがあげられる。次に、第3封止フィルム222を基板214から剥がし、第1試料導入口233および第2試料導入口234を開放する。
【0084】
次に、第1試料導入口233および第2試料導入口234のいずれか一方に、試料をスポイトやシリンジ等で導入する。
図18は、試料270がPCR反応容器210内に導入された様子を模式的に示す。なお、
図18では、試料270の位置を強調するために、試料270を流路212よりも太い実線で表している。試料270が流路からはみ出している状態を表すものではない点に留意されたい。
【0085】
図18に示すように、第1試料導入口233および第2試料導入口234のいずれか一方に導入された試料270は、スポイトやシリンジにより押し込まれるか、毛細管現象により流路を満たしていく。試料270は、流路212における第1分岐点212cと第2分岐点212dとの間の緩衝流路領域212fに充填される。しかしながら、試料270は、緩衝流路領域の両端にある第1分岐点212c、第2分岐点212dを超えて、流路212のサーマルサイクル領域212eや第2空気連通口26の方面には侵入しない。当該流路の両端(すなわち第1空気連通口224および第2空気連通口226)はこの時点では封止されており、空気に逃げ口がないためである。
【0086】
次に、
図19に示すように、第3封止フィルム222を再び基板214に貼り戻し、第1試料導入口233および第2試料導入口234を封止する。上述したように新たな第3封止フィルム222を貼ってもよい。以上でPCR反応容器210への試料270の導入は完了である。
【0087】
図20は、PCR反応容器210を用いたPCR装置300を説明するための図である。
図21は、PCR反応容器210をPCR装置300の所定の位置にセットした状態を説明するための図である。
【0088】
PCR装置300は、蛍光検出用光学プローブ2122と、第1ヒータ2134と、第2ヒータ2135とを備える。
図21に示すように、PCR反応容器210は、流路212のサーマルサイクル領域212eの一対の反応領域が、第1ヒータ2134および第2ヒータ2135上に配置され、且つ、蛍光検出用光学プローブ2122が、一対の反応領域の間の接続領域に配置されるように、PCR装置300に設置される。PCR装置300は、第1実施形態に係るPCR用反応容器において適用したPCR装置を援用可能である。
【0089】
PCR装置300は、さらに、試料270をサーマルサイクル領域212e内で往復運動させるためのポンプシステム2110を備える。このポンプシステム2110は、第1ノズル2101、第2ノズル2102、第1ポンプ2103、第2ポンプ2104、第1ドライバ2105、第2ドライバ2106、および制御部2107を備える。ポンプシステム2110の第1ノズル2101がPCR反応容器210の第1空気連通口224に接続され、PCR反応容器210の第2ノズル2102がPCR反応容器210の第2空気連通口226に接続される。ノズルと空気連通口の具体的な接続方法は後述する。ポンプシステム2110は、第1空気連通口224および第2空気連通口226を介して流路212内の圧力を制御することで、サーマルサイクル領域212e内で試料を移動させる。
【0090】
本第2実施形態に係るPCR装置300において、第1ヒータ2134と第2ヒータ2135は異なる温度に設定される。各ヒータはサーマルサイクル領域212eのうち一対の反応領域の温度を個別に制御するために熱量を与えるものであり、抵抗加熱やペルチェ素子などの手段や構成であってもよい。例えば、第1ヒータ2134は、流路212のサーマルサイクル領域212eのうち、紙面右側の反応領域の温度を一定の94℃に維持するように、第1ヒータドライバ2130によって制御される。また、第2ヒータ2135は、紙面左側の反応領域の温度を一定の60℃に維持するように、第2ヒータドライバ2132によって制御される。各反応領域の温度は、熱電対などの温度センサ(図示せず)によって計測され、その電気信号に基づいて各ヒータへの出力を各ドライバによって制御されるものであってもよい。このように、第1ヒータ2134、第2ヒータ2135、第1ヒータドライバ2130、第2ヒータドライバ2132および温度センサは、サーマルサイクル領域212eの温度を調節するための温度調節部を構成し、温度の制御性が向上するその他の要素を含んでいてもよい。この温度調節部により、流路212のサーマルサイクル領域212eを雰囲気温度が異なる2つの領域に分割することができる。各ヒータ近傍には該当箇所の温度を計測する熱電対のような温度センサ(図示なし)が含まれていてもよく、温度の制御性が向上するその他の構成を含んでいてもよい。以下では、流路212における雰囲気温度94℃の反応領域を「高温部2111」と称し、流路212における雰囲気温度60℃の反応領域を「中温部2112」と称する。また本実施形態では二つの反応領域として2水準の温度領域を設定するようなサーマルサイクル領域を備えるPCR反応容器と温度制御部とを備えるPCR装置について詳細に説明するが、3水準以上の温度領域を設定することができるようなサーマルサイクル領域を備えるPCR反応容器と温度制御部とを備えるPCR装置であってもよい。この場合は(図示しないが)、一例として、紙面の左側から低温部、中温部、高温部と配列される反応領域を備えるようなPCR反応容器と温度制御部を備えるPCR装置であってもよい。このような場合、例えば、低温部を50〜70℃、中温部を72℃、高温部を94℃に維持されるように制御される。
【0091】
ポンプシステム2110は、上述したように、試料270を流路212のサーマルサイクル領域212e内で往復運動させるために配置される。制御部2107により第1ドライバ2105、第2ドライバ2106を通じて第1ポンプ2103、第2ポンプ2104を一定の条件のもと、交互に動作させることによって、試料270を流路212の高温部2111と中温部2112との間で往復運動させることができ、試料270に一定条件のもとサーマルサイクルを与えることができる。本第2実施形態に係るPCR装置300では、第1ポンプ2103、第2ポンプ2104は、いずれも停止した場合は瞬時に一次側と二次側の気圧が等しくなり、また、いずれも停止しているときは、一次側と二次側の気圧が等しくなるタイプのエアポンプ若しくはブロアポンプである。このようなタイプのポンプを用いない、すなわち停止しても直前の圧力を維持するようなポンプを用いた場合には、ポンプを停止した場合であっても、わずかながら試料が移動し続ける現象が起こり、所定の反応領域に試料が停止せず、適正に試料の温度を制御することができない可能性がある。一方で停止時(開放時)には、外部空気とPCR反応容器の流路とが気圧的に連通し、大気圧に等しくなるが、空気連通口と流路との間にフィルタが備わっているために、流路内へのコンタミネーションを防止することができる。
【0092】
試料270は、上述のサーマルサイクルによってPCRを実施することができるが、流路内の試料270からの蛍光を検出し、その値をPCRの進捗や反応の終端の判定材料としての指標とすることができる。蛍光検出用光学プローブ2122とドライバ2121としては、非常にコンパクトな光学系で、迅速に測定でき、かつ明暗雰囲気にかかわらず、蛍光を検出することができる日本板硝子株式会社製の光ファイバ型蛍光検出器FLE−510を使用することができる。この光ファイバ型蛍光検出器は、サーマルサイクル領域内の2つの温度領域の間の狭小なスペースにも容易に配置することができる。この光ファイバ型蛍光検出器は、その励起光/蛍光の波長特性を試料270の蛍光特性に適するようにチューニングしておくことができ、様々な特性を有する試料について最適な光学・検出系を提供することが可能である。またサーマルサイクル領域212eに渡って複数個所設置された蛍光検出用光学プローブ2122とドライバ2121を備えていてもよい。例えば高温部2111や中温部2112にある流路内の試料270からの蛍光を検出するために設置してもよい。PCRの進捗や終了の判断材料の取得といった機能以外に、試料270が高温部2111または中温部2112にあるか、ないかということを確実に検出する位置センサとしても機能させることができる。
【0093】
以上のように構成されたPCR装置300において、ポンプシステム2110の制御部2107、蛍光検出用光学プローブ2122のドライバ2121、第1ヒータドライバ2130および第2ヒータドライバ2132は、CPU2141によって最適に動作するように制御される。また、先述にように3水準の温度が設定される反応領域を備えるような場合には、上記に加えて第3のヒータドライバ(図示なし)もCPUによって制御される。
【0094】
図22は、ポンプシステムのノズルとPCR反応容器の空気連通口とを接続した様子を示す図である。
図23は、
図23に示すPCR反応容器210のC−C断面図である。上述したように、第1ノズル2101が第1空気連通口224に接続され、第2ノズル2102が第2空気連通口226に接続される。
【0095】
図23に示すように、第1ノズル2101の先端にはニードル2150が設けられている。このニードル2150で第1封止フィルム218を穿孔することにより、第1ノズル2101が第1空気連通口224に接続される。第2ノズル2102と第2空気連通口226の接続も同様である。
【0096】
ニードル2150には、接続部周辺の気密性を確保するために、封止フィルムの表面と密着する軟性樹脂からなるパッキン2151が設けられている。PCR反応容器210がPCR装置300にセットされた直後は、ポンプシステム2110は動作しておらず大気に解放されているために、圧力的には流路内は大気圧に等しい状態にある。
【0097】
図24は、ポンプシステム2110を作動させて試料270を移動させている様子を示す。第1ポンプ2103および第2ポンプ2104のいずれか一方を作動させ、試料270を流路212の緩衝流路領域212fから、サーマルサイクル領域212eの高温部2111または中温部2112に移動させる。
図24では、第2ノズル2102が接続された第2ポンプ2104を作動させ、第1ノズル2101が接続された第1ポンプ2103は停止している。すなわち、第1ポンプ2103から延びる第1ノズル2101が接続された第1空気連通口224は、大気圧に開放されている。第2ポンプ2104を作動させて第2ノズル2102から第2空気連通口226に空気を送り込むと、試料270が流路212の緩衝流路領域212fから動き、中温部2112を通過して高温部2111に移動する。この状態を初期状態とする。
【0098】
より具体的には、第2ポンプ2104の動作の開始とともに、あるいはその直前に、蛍光検出用光学プローブ2122を用いて、流路中から発せられる蛍光のモニタを開始する。蛍光検出用光学プローブ2122の測定ポイントに何もないときは検出される蛍光はゼロかバックグラウンドレベルにあるが、測定ポイントに試料270が存在するときは蛍光が検出される。従って、第2ポンプ2104の動作開始から蛍光のモニタを開始し、蛍光値がバックグラウンドレベルから上昇し、再びバックグラウンドレベルに下降したことで、試料270が高温部2111に移動が完了したことを認知し、この時点で第2ポンプ2104の動作を停止することで初期状態のセッティングが完了する。また蛍光検出用光学プローブ2122がさらに高温部2111にある場合はより確実に試料270を高温部2111に停止させることもできる。
【0099】
ここで、第1分岐流路231および第2分岐流路232内に位置している試料270は、第2ポンプ2104を動作させても、その場所に留まることに留意されたい。これは、第1試料導入口233および第2試料導入口234は第3封止フィルム222で封止されているためである。この第1分岐流路231および第2分岐流路232内に位置している試料270は、PCRに供されない。従って、PCR反応容器210に最初に導入した試料の量にばらつきがあったとしても、PCR反応容器210に形成されている流路212の緩衝流路領域212fの体積を、PCR処理を施したい試料の量に応じた所定の体積に設定することで、常に所望の一定量の試料を流路212のサーマルサイクル領域212eに送り込むことができ、PCRの進捗や終端の判断に影響を及ぼす蛍光量を略一定にすることができる。すなわち、流路212の緩衝流路領域212fは、所望の一定量の試料を抽出できる分注機能を備える。
【0100】
初期状態にセッティング後、試料270にサーマルサイクルを与えPCRを進行させる。蛍光検出用光学プローブ2122による蛍光の測定は継続する。
【0101】
(A)まず、試料270を高温部2111(約94℃雰囲気)に1〜30秒間待機させる(Deneturation:熱変性工程)。この工程により2本鎖のDNAが1本鎖に変性される。
【0102】
(B)次に、第1ノズル2101が接続された第1ポンプ2103を動作させ、試料270を中温部2112(約60℃雰囲気)に移動させる。具体的には、試料270は、第1ポンプ2103の作用により、高温部2111から中温部2112の方向に押される。蛍光検出用光学プローブ2122による蛍光測定は継続しているので、蛍光検出用光学プローブ2122の測定ポイントを試料270が通過することによって、蛍光量がバックグラウンドのレベルから上昇し、再び下降した時点(あるいは蛍光量が下降して一定時間経過後)に第1ポンプ2103の動作を停止させる。また蛍光検出用光学プローブ2122が中温部2112にある場合はより確実に試料270を中温部2112に停止させることもできる。
【0103】
(C)中温部2112では、試料270を3〜60秒間待機させる(Annealing+Elongation:アニーリング工程+伸長工程)。この工程によってあらかじめ試料270に含有されていたプライマーが結合し更に伸長したDNAになる。
【0104】
(D)次に、第2ノズル2102が接続された第2ポンプ2104を作動させ、試料270を中温部2112から高温部2111に移動させる。ポンプ動作停止のタイミングは、上記と同様に、蛍光検出用光学プローブ2122で測定された蛍光量の変動から判断する。試料270を高温部2111に移動後、1〜30秒間待機させ熱変性させる。
【0105】
(E)上記の(B)〜(D)を所定のサイクル数繰り返し、試料270にサーマルサイクルを与え、試料270に含まれるDNAに複数サイクルの熱変性−アニーリング−伸長工程を経らせることによって、DNAの増幅を行う。サイクル数は、対象のDNAやプライマー、酵素等の組合せにより適宜決定される。
【0106】
所定のサイクル数のサーマルサイクルが終了後、第1ポンプ2103および第2ポンプ2104を停止し、PCRを終了させる。所定のサイクル数のサーマルサイクルが与えられているときでも、蛍光検出用光学プローブ122により蛍光が測定されており、試料270に含まれるDNAが増幅するにつれ、試料270から検出される蛍光が増大する。これにより、試料270の濃度を正確に知ることができる。
【0107】
本第2実施形態に係るPCR反応容器210によれば、第1空気連通口224と流路212との間に第1フィルタ228を設け、第2空気連通口226と流路212との間に第2フィルタ230を設けたことにより、流路212内のコンタミネーションを防止できる。ポンプシステム2110側にコンタミネーション防止の対策を施すことはコストが高くなりがちであるが、本第2実施形態のPCR反応容器210では、PCR反応容器210側のみでコンタミネーションを防止でき、経済的である。またPCR反応容器はディスポーザブルとして使用する場合は、フィルタが常に新しいものであるので、低コストでコンタミネーションの防止がさらに図られる。さらにPCR反応容器の廃棄処分についても、試料はPCR反応容器に略封止された状態にあるので安全面や環境面でも有意義である。
【0108】
また、本第2実施形態に係るPCR反応容器210によれば、流路212に緩衝流路領域を設けたことにより、PCRに供する試料の分注を行い、常に必要量の試料のみを流路212のサーマルサイクル領域に試料を送り込むことができる。
【0109】
本第2実施形態に係るPCR装置300では、停止時には一次側と二次側の圧力が等しくなる第1ポンプ2103および第2ポンプ2104を交互に動作させることでPCR反応容器210の流路212内で試料を往復移動させることができる。この場合、送液(流路中の試料に圧力をかける)中の試料に過剰な圧力がかからず、さらに流路内の減圧をしないため、高温部2111の作用による試料を含む液の蒸発や沸騰(発泡)を防止することができる。
【0110】
また、本第2実施形態に係るPCR装置300では、サーマルサイクル領域において、PCR中も試料からの蛍光が常時モニタされている(リアルタイムPCR)。これにより、測定された蛍光量に基づいて、PCRの終了タイミングを判定できる。また、蛍光検出用光学プローブ2122によって蛍光の変化をモニタすることで試料の通過を知ることができ、その通過に伴う蛍光量の変化に基づいて、第1ポンプ2103および第2ポンプ2104の交互動作を制御することができるため、PCRに供する試料を正確にサーマルサイクル領域の高温部2111または中温部2112に位置決めすることができる。
【0111】
一方で先述の高温部、中温部及び低温部の3水準の温度が制御された反応領域を備えるPCR反応容器とPCR装置に場合は、高温部で熱変性、中温部でアニーリングそして低温部で伸長の各工程を担わせることが可能となり、それらの制御についても上記の詳細な説明に基づいて当業者が容易に発展、改良できる事項である。また反応領域を2水準とするか3水準とするかについては、試料の特性に応じて当業者が適宜選択できるものである。
【0112】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0113】
上述の実施形態では、流路の両端に停止時には一次側と二次側の圧力が等しくなる一対のポンプを配置したが、流路のいずれか一方の端のみに、加圧と吸引が可能なポンプを設け、他方の端は大気圧に開放されていてもよい。すなわち、第1空気連通口または第2空気連通口を介して流路内の圧力を制御することで、サーマルサイクル領域内で試料を移動させる。この場合、1対のポンプの動作を一定のタイミングで切り替える処理が不要となるため、ポンプの制御が容易となる。
【0114】
また、上述の実施形態では、高温部と中温部の中間に蛍光検出用光学プローブの測定ポイントを配置したが、高温部および中温部にそれぞれ蛍光検出用光学プローブの測定ポイントを配置してもよい。この場合、試料の位置決め精度を向上することができる。