(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0015】
[有機エレクトロニクス材料]
本発明の実施形態である有機エレクトロニクス材料は、正孔輸送性を有する構造単位を有し、かつ、炭素数6〜20のアルキル鎖を有するポリマー又はオリゴマー(以下、これを「ポリマー(A)」と記す場合がある。)を含む。
有機エレクトロニクス材料は、必要に応じ、開始剤、溶媒等の他の成分を含有していてもよい。また、有機エレクトロニクス材料は、ポリマー(A)を、1種のみ含有していても、又は、2種以上含有していてもよい。開始剤、溶媒等の任意で含んでいてもよい成分についても、それぞれ1種のみ含んでいても、又は、それぞれ複数種含んでいてもよい。
【0016】
一般に、架橋反応を起こす重合性官能基を有するポリマー又はオリゴマー用いることで耐溶剤性を向上させ得ると考えられる。また、ポリマー又はオリゴマー内の重合性官能基の量が多いほど、耐溶剤性は向上する傾向がある。
しかし、重合性官能基を有するポリマー又はオリゴマー用いた場合、有機EL素子が駆動する際に、未架橋の重合性官能基、又は、架橋により結合した構造が有機EL素子特性を劣化させる要因の1つとなり得る場合があった。
【0017】
本実施形態によれば、驚くべきことに、有機層の形成に炭素数6〜20のアルキル鎖を有するポリマー(A)を用いるとき、有機層の耐溶剤性を向上させる効果があることが判明した。ポリマー(A)が、炭素数6〜20のアルキル鎖を有することで、ポリマー内の重合性官能基の含有量が少なくても、硬化性を向上させることができ、耐溶剤性に優れた有機層を形成することができる。したがって、本実施形態の有機エレクトロニクス材料は、塗布式プロセス用のインク組成物への適用に適している。
推論ではあるが、有機エレクトロニクス材料を薄膜として塗布した後、高温で加温し溶媒が揮発してポリマー(A)の分子が隣接する際に、長鎖アルキル鎖が互いに絡まりあうことで硬化後の耐溶剤性を高めることができると考察する。
【0018】
また、有機EL素子の劣化要因の1つである重合性官能基の含有量を減らすことが可能となることで、この有機層を用いた有機EL素子においては発光特性を向上させ、発光効率の向上、及び発光寿命の向上といった効果が得られることが判明した。
また、炭素数6〜20のアルキル鎖を有するポリマー(A)を用いるとき、発光効率及び発光寿命を向上させることもできる。
【0019】
[ポリマー(A)]
ポリマー(A)は、正孔輸送性を有する構造単位を有し、かつ、炭素数6〜20のアルキル鎖を有する。
ポリマー(A)は、直鎖状のポリマーであっても、又は、分子中に分岐構造を有し、かつ、末端を3つ以上有するポリマーであってもよい。分岐構造とは、ポリマー鎖が分岐部を有し、分岐部から3方向以上に向かって構造単位を有する構造をいう。分岐構造を有し、かつ、末端が3つ以上あるポリマー(A)は、主鎖と側鎖とから構成されている。
【0020】
以下の構造単位の説明において、アリール基は、芳香族炭化水素から水素原子1個を除いた原子団である。ヘテロアリール基は、芳香族複素環から水素原子1個を除いた原子団である。アリーレン基は、芳香族炭化水素から水素原子2個を除いた原子団である。ヘテロアリーレン基は、芳香族複素環から水素原子2個を除いた原子団である。アレーントリイル基は、芳香族炭化水素から水素原子3個を除いた原子団である。ヘテロアレーントリイル基は、芳香族複素環から水素原子3個を除いた原子団である。芳香族炭化水素としては、単環、縮合環、又は、単環及び縮合環から選択される2個以上が単結合を介して結合した多環が挙げられる。芳香族複素環としては、単環、縮合環、又は、単環及び縮合環から選択される2個以上が単結合を介して結合した多環が挙げられる。
芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、ビフェニル、ターフェニル、トリフェニルベンゼン、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、フルオレン、フェナントレン等が挙げられる。
芳香族複素環としては、例えば、ピリジン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、アクリジン、フェナントロリン、フラン、ピロール、チオフェン、カルバゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、トリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾオキサジアゾール、ベンゾチアジアゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾチオフェン等が挙げられる。
【0021】
正孔輸送性を有する構造単位としては、正孔を輸送する能力を有していればよく、例えば、芳香族アミン構造を含む構造単位、カルバゾール構造を含む構造単位、チオフェン構造を含む構造単位、フルオレン構造を含む構造単位、及びフラン構造を含む構造単位等が挙げられる。好ましくは芳香族アミン構造を含む構造単位及びカルバゾール構造を含む構造単位である。芳香族アミン構造としては、第三級芳香族アミン構造が好ましく、トリアリールアミン構造(第三級芳香族炭化水素構造)がより好ましい。アリール基の炭素数は、好ましくは6〜14であり、より好ましくは6〜10であり、さらに好ましくは6である。芳香族アミン構造としては、優れた電荷輸送性を得る観点から、トリフェニルアミン構造が特に好ましい。芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フルオレン構造、及びフラン構造は、非置換でもよく置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、後述する式(1a)〜(84a)におけるEと同様の基が挙げられる。置換基の例として、炭素数6〜20のアルキル鎖が挙げられる。
ポリマー(A)は、これらの正孔輸送性を有する構造単位を2種以上有していてもよい。
ポリマー(A)は、正孔輸送性を有する構造単位の少なくとも1つに、炭素数6〜20のアルキル鎖を有することが好ましい。
【0022】
ポリマー(A)は、正孔輸送性を有する構造単位を含むモノマーの重合体であってもよく、正孔輸送性を有する構造単位を複数種含む、及び/又は他の構造単位を1種以上含む共重合体であってもよい。
共重合体は、交互、ランダム、ブロック又はグラフト共重合体であってもよいし、それらの中間的な構造を有する共重合体、例えばブロック性を帯びたランダム共重合体であってもよい。
【0023】
正孔輸送性を有する構造単位の例である式(1a)〜(93a)を以下に列挙する。式(85a)〜(93a)で表される構造単位は、分岐部を有している。
<式(1a)〜(84a)>
【0035】
式(1a)〜(84a)において、Eは、それぞれ独立に、−R
1、−OR
2、−SR
3、−OCOR
4、−COOR
5、−SiR
6R
7R
8、及び下記式(a)〜(c)のいずれかを表す。
【化13】
上記R
1〜R
11は、水素原子、炭素数1〜22個の直鎖、環状もしくは分岐アルキル基、又は炭素数2〜30個のアリール基もしくはヘテロアリール基を表し、a、b及びcは、1以上の整数を表す。ここで、アリール基は、置換基を有していてもよく、ヘテロアリール基は、置換基を有していてもよい。上記置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキルチオ基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、シリルオキシ基、置換シリルオキシ基、ハロゲン原子、アシル基、アシルオキシ基、イミノ基、アミド基(−(NH)−COR)、イミド基(−N(COR)
2)、カルボキシル基、置換カルボキシル基、シアノ基、一価の複素環基等が挙げられる。また、a、b及びcは、好ましくは1〜4の整数を表す。
【0036】
上記において、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、2−エチルヘキシル基、3,7−ジメチルオクチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。
アリール基としては、フェニル、ビフェニル−イル、ターフェニル−イル、ナフタレン−イル、アントラセン−イル、テトラセン−イル、フルオレン−イル、フェナントレン−イル等が挙げられる。
ヘテロアリール基としては、ピリジン−イル、ピラジン−イル、キノリン−イル、イソキノリン−イル、アクリジン−イル、フェナントロリン−イル、フラン−イル、ピロール−イル、チオフェン−イル、カルバゾール−イル、オキサゾール−イル、オキサジアゾール−イル、チアジアゾール−イル、トリアゾール−イル、ベンゾオキサゾール−イル、ベンゾオキサジアゾール−イル、ベンゾチアジアゾール−イル、ベンゾトリアゾール−イル、ベンゾチオフェン−イル等が挙げられる。なお、以下においても、アルキル基、並びに、アリール基及びヘテロアリール基として、これらと同様の例を用いることができる。
【0037】
Arは、それぞれ独立に、炭素数2〜30個のアリーレン基もしくはヘテロアリーレン基を表すか、あるいは、炭素数2〜30個のアリール基もしくはヘテロアリール基を表す。アリーレン基、ヘテロアリーレン基、アリール基及びヘテロアリール基は、それぞれ置換基を有していてもよい。ここでの置換基としては、上記Eと同様の基が挙げられる。
【0038】
アリーレン基としては、フェニレン、ビフェニル−ジイル、ターフェニル−ジイル、ナフタレン−ジイル、アントラセン−ジイル、テトラセン−ジイル、フルオレン−ジイル、フェナントレン−ジイル等が挙げられる。ヘテロアリーレン基としては、例えば、ピリジン−ジイル、ピラジン−ジイル、キノリン−ジイル、イソキノリン−ジイル、アクリジン−ジイル、フェナントロリン−ジイル、フラン−ジイル、ピロール−ジイル、チオフェン−ジイル、カルバゾール−ジイル、オキサゾール−ジイル、オキサジアゾール−ジイル、チアジアゾール−ジイル、トリアゾール−ジイル、ベンゾオキサゾール−ジイル、ベンゾオキサジアゾール−ジイル、ベンゾチアジアゾール−ジイル、ベンゾトリアゾール−ジイル、ベンゾチオフェン−ジイル等が挙げられる。なお、以下においても、アリーレン基(アレーンジイル基)及びヘテロアリーレン基(ヘテロアレーンジイル基)として、これらと同様の例を用いることができる。
【0039】
X及びZは、それぞれ独立に二価の連結基であり、特に制限はないが、前記Eのうち水素原子を1つ以上有する基から、さらに1つの水素原子を除去した基、又は、下記連結基群(A)で例示される基が好ましい。xは0〜2の整数を表す。Yは三価の連結基であり、特に制限はないが、前記Eのうち水素原子を2つ以上有する基から、さらに2つの水素原子を除去した基が好ましい。
【0041】
式中、Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜22個の直鎖、環状もしくは分岐アルキル基、又は置換基を有していてもよい炭素数2〜30個のアリール基もしくはヘテロアリール基を表す。Arは、三価又は四価の連結基を表し、炭素数2〜30個のアリーレン基又はヘテロアリーレン基からさらに水素原子1個又は2個を除いた原子団であることが好ましい。
【0042】
<式(85a)〜(93a)>
【化15】
【化16】
【0043】
式(85a)〜(93a)において、Arは、それぞれ独立に、炭素数2〜30個のアリーレン基又はヘテロアリーレン基を表すか、あるいは、炭素数2〜30個のアリール基又はヘテロアリール基を表し、Yは、二価の連結基を表す。式(85a)〜(93a)で表される単位は置換基を有していてもよく、置換基としては式(1a)〜(84a)におけるEと同様の基が挙げられる。
【0044】
前記式(89a)及び(93a)におけるYは、以下の式で表される二価の連結基であることが好ましい。
【0046】
式中、Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜22個の直鎖、環状もしくは分岐アルキル基、又は置換基を有していてもよい炭素数2〜30個のアリール基もしくはヘテロアリール基を表す。
【0047】
式(85a)及び(86a)の一例として、以下の式(85a−1)及び(86a−1)が挙げられる。以下には、式(85a)及び(86a)の例のみ示すが、式(87a)〜(89a)及び(91a)〜(93a)の一例としても、同様に、Arが置換基を有していてもよいベンゼン環である単位が挙げられる。
【0049】
(85a−1)又は(86a−1)において、Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の有機基を表す。Rが表す一価の有機基としては、例えば、炭素数1〜22個の直鎖、環状もしくは分岐アルキル基、又は炭素数2〜30個のアリール基もしくはヘテロアリール基が挙げられ、これらの基がエーテル結合を介して結合した基を有していてもよい。
【0050】
ポリマー(A)は、溶解度、耐熱性、又は電気的特性の調整のため、上記構造単位の他に、上述したアリーレン基もしくはヘテロアリーレン基、又は下記式(1)〜(32)で表される構造を、共重合構造単位として有する共重合体であってもよい。式(30)〜(32)で表される構造単位は、分岐部を有している。
【0052】
式(1)〜(28)において、Rとしては、式(1a)〜(84a)におけるEと同様の基が挙げられる。
【0054】
式(29)において、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、水素、並びに、C、H及び/又はX(Xはヘテロ原子である)からなる置換基からなる群より選択され、Ar
1及びAr
2は、それぞれ独立に、C及びHからなる二価の芳香環、並びに、C、H及びX(Xはヘテロ原子である)からなる二価の芳香環からなる群から選択される基である。なお、R
1及びR
2が同時に水素となることはない。また、Cは炭素原子であり、Hは水素原子である。Xとしては、O(酸素原子)、N(窒素原子)、S(硫黄原子)、Si(珪素原子)、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0055】
R
1及びR
2が有するC、H及び/又はXからなる置換基としては、C及びHからなる脂肪族置換基、C及びHからなる芳香族置換基、C、H及びXからなる芳香族置換基、これら以外のC、H及び/又はXからなる置換基(脂肪族置換基を含む)等を挙げることができる。Ar
1及びAr
2が有するC及びHからなる二価の芳香環としては、単環、又は、2個以上、好ましくは2〜5個の環が縮合してなる縮合環等の二価の芳香族炭化水素環が挙げられる。C、H及びX(Xはヘテロ原子である)からなる二価の芳香環としては、複素単環、又は、2個以上、好ましくは2〜5個の環が縮合してなる縮合環等の二価の複素芳香環が挙げられる。Ar
1及びAr
2の基は置換基を有していてもよい。
【0056】
R
1及びR
2として、具体的には、式(1a)〜(84a)におけるEと同様の基が挙げられる。Ar
1及びAr
2として、具体的には、式(1a)〜(84a)におけるArと同様の基が挙げられる。
【0057】
<式(30)〜(32)>
【化21】
【0058】
式(30)〜(32)において、Wは、三価の連結基を表し、炭素数2〜30個のアリーレン基又はヘテロアリーレン基からさらに水素原子1個を除いた原子団であることが好ましい。Arは、それぞれ独立に、炭素数2〜30個のアリーレン基又はヘテロアリーレン基を表し、Zは、炭素原子、ケイ素原子、又はリン原子のいずれかを表す。式(30)〜(32)で表される単位は置換基を有していてもよく、置換基としては式(1a)〜(84a)におけるEと同様の基が挙げられる。
【0059】
ポリマー(A)は、炭素数6〜20のアルキル鎖を有することが好ましい。ポリマー(A)は、炭素数6〜20のアルキル鎖を、主鎖又は側鎖を構成する構造単位の置換基として有していてもよい。主鎖又は側鎖を構成する構造単位は、例えば、上述の式(1a)〜(93a)及び式(1)〜(32)で表される構造単位であってよい。
【0060】
炭素数6〜20のアルキル鎖は、炭素数6〜20の直鎖アルキル基である。炭素数6〜20のアルキル鎖の炭素数は、7〜18がより好ましく、7〜16がさらに好ましく、8〜12がさらに好ましい。
炭素数6〜20のアルキル鎖の例としては、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n-トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−イコシル基が挙げられる。
【0061】
ポリマー(A)としては、例えば、炭素数6〜20のアルキル鎖を置換基として有する、アリール基、ヘテロアリール基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、アレーントリイル基、又はヘテロアレーントリイル基からなる群から選択される少なくとも1種を有するポリマーが挙げられる。炭素数6〜20のアルキル鎖を置換基として有する、アリール基、ヘテロアリール基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、アレーントリイル基、及びヘテロアレーントリイル基は、炭素数6〜20のアルキル鎖以外の置換基をさらに有していてもよい。
【0062】
アレーントリイル基としては、ベンゼン−トリイル、ビフェニル−トリイル、ターフェニル−トリイル、ナフタレン−トリイル、アントラセン−トリイル、テトラセン−トリイル、フルオレン−トリイル、フェナントレン−トリイル等が挙げられる。ヘテロアレーントリイル基としては、例えば、ピリジン−トリイル、ピラジン−トリイル、キノリン−トリイル、イソキノリン−トリイル、アクリジン−トリイル、フェナントロリン−トリイル、フラン−トリイル、ピロール−トリイル、チオフェン−トリイル、カルバゾール−トリイル、オキサゾール−トリイル、オキサジアゾール−トリイル、チアジアゾール−トリイル、トリアゾール−トリイル、ベンゾオキサゾール−トリイル、ベンゾオキサジアゾール−トリイル、ベンゾチアジアゾール−トリイル、ベンゾトリアゾール−トリイル、ベンゾチオフェン−トリイル等が挙げられる。以下においても、アレーントリイル基及びヘテロアレーントリイル基として、これらと同様の例を用いることができる。
【0063】
ポリマー(A)としては、例えば、下記式(Ia)で表される構造を有するポリマーが挙げられる。
【0065】
式(Ia)中のR
1〜R
5は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。R
1〜R
5のアルキル基としては、炭素数6〜20(より好ましくは炭素数7〜18、さらに好ましくは炭素数7〜16、さらに好ましくは炭素数8〜12)の直鎖アルキル基が好ましい。R
1〜R
5の少なくとも1つは炭素数6〜20(好ましくは炭素数7〜18、より好ましくは炭素数7〜16、さらに好ましくは炭素数8〜12)の直鎖アルキル基である。*またはは、他の構造との結合部位を示す。
【0066】
式(Ia)は、他の構造との結合部位*で、例えば、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、アレーントリイル、ヘテロアレーントリイル基、窒素原子等と結合していてもよい。例えば、式(Ia)の構造は、結合部位*で窒素原子に結合し、その窒素原子に結合した他の構造とともに、トリアリールアミン構造などの芳香族アミン構造を形成していてもよい。
【0067】
ポリマー(A)としては、例えば、下記式(IIa)〜(IIIa)で表される構造を有するポリマーが挙げられる。
【0069】
式(IIa)中のR
1〜R
5は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。R
1〜R
5のアルキル基としては、炭素数6〜20(より好ましくは炭素数7〜18、さらに好ましくは炭素数7〜16、さらに好ましくは炭素数8〜12)の直鎖アルキル基が好ましい。R
1〜R
5の少なくとも1つは炭素数6〜20(より好ましくは炭素数7〜18、さらに好ましくは炭素数7〜16、さらに好ましくは炭素数8〜12)の直鎖アルキル基であり、Ar
aは、アリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。「*」は、他の構造との結合部位を表す。
【0071】
式(IIIa)中のR
1〜R
5は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。R
1〜R
5のアルキル基としては、炭素数6〜20(より好ましくは炭素数7〜18、さらに好ましくは炭素数7〜16、さらに好ましくは炭素数8〜12)の直鎖アルキル基が好ましい。R
1〜R
5の少なくとも1つは炭素数6〜20(より好ましくは炭素数7〜18、さらに好ましくは炭素数7〜16、さらに好ましくは炭素数8〜12)の直鎖アルキル基であり、Ar
bは、アレーントリイル基又はヘテロアレーントリイル基を表す。「*」は、他の構造との結合部位を表す。
【0072】
ここで、Ar
aとしては、例えば、炭素数2〜30個のアリーレン基、もしくはヘテロアリーレン基を表す。アリーレン基は、置換基を有していてもよく、ヘテロアリーレンは、置換基を有していてもよい。置換基としては、式(1a)〜(84a)におけるEと同様の基が挙げられる。
【0073】
また、Ar
bとしては、例えば、炭素数2〜30個のアレーントリイル基、もしくはヘテロアレーントリイル基を表す。アレーントリイル基は置換基を有していてもよく、ヘテロアレーントリイル基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、式(1a)〜(84a)におけるEと同様の基が挙げられる。
【0074】
Ar
a及びAr
bは、具体的には、例えば、式(1a)〜(93a)中のAr、カルバゾール構造、チオフェン構造;式(85a−1)及び(86a−1)中のベンゼン環;式(1)〜(28)中のアリーレン基、ヘテロアリーレン基;式(29)中のAr
1、Ar
2;式(30)中のW;式(31)中のフルオレン構造;式(32)中のAr等でもよい。
【0075】
ポリマー(A)に含まれる、炭素数6〜20のアルキル鎖を有する具体的な構造の例を以下に列挙する。式(IV−1)〜(IV−8)中のR
1〜R
6は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。R
1〜R
8のアルキル基としては、炭素数6〜20(より好ましくは炭素数7〜18、さらに好ましくは炭素数7〜16、さらに好ましくは炭素数8〜12)の直鎖アルキル基が好ましい。式(IV−4)の及び(IV−5)のR
1〜R
6の少なくとも1つ、式(IV−1)及び(IV−2)のR
1〜R
5の少なくとも1つ、式(IV−6)〜(IV−8)のR
1〜R
4の少なくとも1つ、及び式(IV−3)のR
1及びR
2の少なくとも1つは、炭素数6〜20(好ましくは炭素数7〜18、より好ましくは炭素数7〜16、さらに好ましくは炭素数8〜12)の直鎖アルキル基である。「*」は、他の構造との結合部位を表す。
【0077】
炭素数6〜20のアルキル鎖を置換基として有する場合、例えば、ポリマー(A)が、炭素数6〜20のアルキル鎖を置換基として有する構造単位を含んでいればよい。炭素数6〜20のアルキル鎖を置換基として有する構造単位として、具体的には、例えば、Arのいずれか1つ以上が、炭素数6〜20のアルキル鎖又は式(Ia)で表される基を置換基として有する式(1a)〜(93a)で表される単位;Eのいずれか1つ以上が炭素数6〜20のアルキル鎖又は式(Ia)で表される基である式(15a)〜(84a)で表される単位;Rのいずれか1つ以上が炭素数6〜20のアルキル鎖又は式(Ia)で表される構造である式(1)〜(28)で表される単位;Ar
1及び/又はAr
2が炭素数6〜20のアルキル鎖又は式(Ia)で表される基を置換基として有する式(29)で表される単位;炭素数6〜20のアルキル鎖又は式(Ia)で表される基を置換基として有する式(30)〜(32)で表される単位等が挙げられる。
【0078】
ポリマー(A)は、特性向上、また、耐溶剤性を高めるなどの観点から、炭素数6〜20のアルキル鎖を、末端以外の構造単位に有していることが好ましい。
【0079】
ポリマー(A)は、炭素数6〜20のアルキル鎖を、後述する2価の構造単位に有していることが好ましい。ポリマー(A)は、正孔輸送性を有する構造単位として、炭素数6〜20のアルキル鎖を有する2価の構造単位を含むことが好ましい。
【0080】
さらに、ポリマー(A)は、分岐構造を有し、末端を3つ以上有することが好ましい。ポリマー(A)が分岐構造を有するということは、重量平均分子量を大きくすることができ、ガラス転移温度を高くすることができ、耐熱性向上に寄与するなどの観点からも好ましい。
好ましいポリマー(A)の例として、2価の構造単位と、後述する、分岐部を構成する3価以上の構造単位(例えば式(85a)〜(93a)及び式(30)〜(32)のいずれかで表される構造単位)とを有し、かつ、2価の構造単位に炭素数6〜20のアルキル鎖を有するものが挙げられる。2価の構造単位に炭素数6〜20のアルキル鎖を有するポリマー(A)は、例えば、合成に用いるモノマーとして上記の具体的な構造例に対応するモノマーを用いることにより得ることができる。
【0081】
(ポリマー(A)の構造)
ポリマー(A)は、上述の通り、直鎖状であっても、又は、分岐構造を有していてもよい。ポリマー(A)は、好ましくは、電荷輸送性を有する2価の構造単位Lと末端部を構成する1価の構造単位Tとを少なくとも含み、分岐部を構成する3価以上の構造単位Bをさらに含んでもよい。ポリマー(A)は、各構造単位を、それぞれ1種のみ含んでいても、又は、それぞれ複数種含んでいてもよい。ポリマー(A)において、各構造単位は、「1価」〜「3価以上」の結合部位において互いに結合している。以下、1価の構造単位を「構造単位T」と、2価の構造単位を「構造単位L」と、3価以上の構造単位を「構造単位B」という場合がある。
【0082】
ポリマー(A)において、構造単位L及び/又は構造単位Bは、正孔輸送性を有する構造単位であることが好ましく、芳香族アミン構造を含む構造単位、カルバゾール構造を含む構造単位、チオフェン構造を含む構造単位、フルオレン構造を含む構造単位、及びフラン構造を含む構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、芳香族アミン構造を含む構造単位及びカルバゾール構造を含む構造単位からなる群から選択される少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フルオレン構造、及びフラン構造は、非置換でもよく置換基を有していてもよい。
炭素数6〜20のアルキル鎖は、構造単位L、B及びTのいずれに含まれていてもよいが、構造単位L及び/又はBのいずれか1つ以上に含まれていることがより好ましく、少なくとも構造単位Lに含まれることがより好ましい。炭素数6〜20のアルキル鎖は、正孔輸送性を有する構造単位L及び/又はBのいずれか1つ以上に含まれていることがより好ましく、少なくとも、正孔輸送性を有する構造単位Lに含まれることがより好ましい。
【0083】
ポリマー(A)は、例えば、末端に、非置換又は炭素数1〜8のアルキル基で置換されたチエニル基を有さないものであってよく、末端に、非置換又は炭素数1〜10のアルキル基で置換されたチエニル基を有さないものであってよく、末端に、非置換又は炭素数1〜22のアルキル基で置換されたチエニル基を有さないものであってよく、又は、末端に、置換基を有していてもよいチエニル基を有さないものであってもよい。ポリマー(A)は、例えば、置換基(例えば、炭素数1〜8、1〜10又は1〜22のアルキル基)を有していてもよいチエニル基を有さないであってもよい。
【0084】
ポリマー(A)に含まれる部分構造の例として、以下が挙げられる。ポリマーは、以下の部分構造を有するものに限定されない。部分構造中、「L」は構造単位Lを、「B」は構造単位Bを、「T」は構造単位Tを表す。式中の「*」は、他の構造単位との結合部位を表す。以下の部分構造中、複数のLは、互いに同一の構造単位であっても、互いに異なる構造単位であってもよい。B及びTについても、同様である。
【0086】
分岐構造を有するポリマー(A)
【化27】
【0087】
(構造単位L)
構造単位Lは、電荷輸送性を有する2価の構造単位である。例えば、構造単位Lは、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フルオレン構造、ベンゼン構造、ビフェニル構造、ターフェニル構造、ナフタレン構造、アントラセン構造、テトラセン構造、フェナントレン構造、ジヒドロフェナントレン構造、ピリジン構造、ピラジン構造、キノリン構造、イソキノリン構造、キノキサリン構造、アクリジン構造、ジアザフェナントレン構造、フラン構造、ピロール構造、オキサゾール構造、オキサジアゾール構造、チアゾール構造、チアジアゾール構造、トリアゾール構造、ベンゾチオフェン構造、ベンゾオキサゾール構造、ベンゾオキサジアゾール構造、ベンゾチアゾール構造、ベンゾチアジアゾール構造、ベンゾトリアゾール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択される。芳香族アミン構造は、好ましくはトリアリールアミン構造であり、より好ましくはトリフェニルアミン構造である。
【0088】
一実施形態において、構造単位Lは、優れた正孔輸送性を得る観点から、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フルオレン構造、フラン構造、ベンゼン構造、ピロール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることが好ましく、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることがより好ましい。他の実施形態において、構造単位Lは、優れた電子輸送性を得る観点から、置換又は非置換の、フルオレン構造、ベンゼン構造、フェナントレン構造、ピリジン構造、キノリン構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることが好ましい。構造単位Lは正孔輸送性を有することが好ましい。
【0089】
構造単位Lの具体例として、以下が挙げられる。構造単位Lは、以下に限定されない。
【化28】
【0091】
Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。好ましくは、Rは、それぞれ独立に、−R
1、−OR
2、−SR
3、−OCOR
4、−COOR
5、−SiR
6R
7R
8、ハロゲン原子、及び、後述する重合性官能基を含む基からなる群から選択される。R
1〜R
8は、それぞれ独立に、水素原子;炭素数1〜22個の直鎖、環状又は分岐アルキル基;又は、炭素数2〜30個のアリール基又はヘテロアリール基を表す。アルキル基は、さらに、炭素数2〜20個のアリール基又はヘテロアリール基により置換されていてもよく、アリール基又はヘテロアリール基は、さらに、炭素数1〜22個の直鎖、環状又は分岐アルキル基により置換されていてもよい。Rは、好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基である。Arは、炭素数2〜30個のアリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。Arは、好ましくはアリーレン基であり、より好ましくはフェニレン基である。
上記具体例のうち、炭素数6〜20のアルキル鎖を有する構造単位Lの例として、上記のうち、Rの少なくとも1つが炭素数6〜20のアルキル鎖又は式(Ia)で表される構造であるものが挙げられる。
また、構造単位Lの例として、上述の、上記の式(1a)〜(84a)及び(1)〜(29)で表されるものも挙げられる。
【0092】
(構造単位T)
構造単位Tは、ポリマー(A)の末端部を構成する1価の構造単位である。
構造単位Tは、特に限定されず、例えば、置換又は非置換の、芳香族炭化水素構造、芳香族複素環構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択される。芳香族複素環構造としては、チオフェン構造以外の構造が好ましい。
一実施形態において、構造単位Tは、電荷の輸送性を低下させずに耐久性を付与するという観点から、置換又は非置換の芳香族炭化水素構造であることが好ましく、置換又は非置換のベンゼン構造であることがより好ましい。また、他の実施形態において、後述するように、ポリマー(A)が末端部に重合性官能基を有する場合、構造単位Tは重合可能な構造(例えば、ピロール−イル基等の重合性官能基)であってもよい。
構造単位Tは、構造単位Lと同じ構造を有していても、又は、異なる構造を有していてもよい。
【0093】
構造単位Tの具体例として、以下が挙げられる。構造単位Tは、以下に限定されない。
【化30】
【0094】
Rは、構造単位LにおけるRと同様である。構造単位Tが炭素数6〜20のアルキル鎖を有する場合の構造単位Tの例として、Rの少なくとも1つが炭素数6〜20のアルキル鎖であるものが挙げられる。ポリマー(A)が末端部に、後述する重合性官能基を有する場合、好ましくは、Rのいずれか少なくとも1つが、重合性官能基を含む基である。
【0095】
(構造単位B)
構造単位Bは、ポリマー(A)が分岐構造を有する場合に、分岐部を構成する3価以上の構造単位である。構造単位Bは、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、好ましくは6価以下であり、より好ましくは3価又は4価である。構造単位Bは、電荷輸送性を有する単位であることが好ましく、正孔輸送性を有することがより好ましい。構造単位Bは、例えば、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フルオレン構造、フラン構造及び、これらの1種又は2種以上を含有する構造から選択されてもよい。例えば、構造単位Bは、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、縮合多環式芳香族炭化水素構造、及び、これらの1種又は2種以上を含有する構造から選択される。構造単位Bは、構造単位Lと同じ構造を有していても、又は、異なる構造を有していてもよく、また、構造単位Tと同じ構造を有していても、又は、異なる構造を有していてもよい。
【0096】
構造単位Bの具体例として、以下が挙げられる。構造単位Bは、以下に限定されない。
【化31】
【0097】
Wは、3価の連結基を表し、例えば、炭素数2〜30個のアレーントリイル基又はヘテロアレーントリイル基を表す。上述のとおり、アレーントリイル基は、芳香族炭化水素から水素原子3個を除いた原子団である。ヘテロアレーントリイル基は、芳香族複素環から水素原子3個を除いた原子団である。Arは、それぞれ独立に2価の連結基を表し、例えば、それぞれ独立に、炭素数2〜30個のアリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。Arは、好ましくはアリーレン基、より好ましくはフェニレン基である。Yは、2価の連結基を表し、例えば、構造単位LにおけるR(ただし、重合性官能基を含む基を除く。)のうち水素原子を1個以上有する基から、さらに1個の水素原子を除いた2価の基が挙げられる。Zは、炭素原子、ケイ素原子、又はリン原子のいずれかを表す。構造単位中、W、ベンゼン環及びArは、置換基を有していてもよく、置換基の例として、構造単位LにおけるRが挙げられる。
炭素数6〜20のアルキル鎖を有する場合の構造単位Bの例として、上記のうち、W、ベンゼン環又はArのいずれかが、置換基として炭素数6〜20のアルキル鎖又は式(Ia)で表される構造を有するものが挙げられる。
構造単位Bの例として、上述の、上記の式(85a)〜(93a)及び(1)〜(32)で表されるものも挙げられる。
【0098】
(重合性官能基)
一実施形態においてポリマー(A)は、重合反応により硬化させ、溶剤への溶解度を変化させる観点から、重合性官能基(「重合可能な置換基」とも記す。)を少なくとも1つ有することが好ましい。「重合性官能基」とは、熱及び/又は光を加えることにより、互いに結合を形成し得る官能基をいう。
【0099】
重合性官能基としては、炭素−炭素多重結合を有する基(例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、エチニル基、アクリロイル基、アクリロイルオキシ基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイル基、メタクリロイルオキシ基、メタクリロイルアミノ基、ビニルオキシ基、ビニルアミノ基等)、小員環を有する基(例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基等の環状アルキル基;エポキシ基(オキシラニル基)、オキセタン基(オキセタニル基)等の環状エーテル基;ジケテン基;エピスルフィド基;ラクトン基;ラクタム基等)、複素環基(例えば、フラン−イル基、ピロール−イル基、チオフェン−イル基、シロール−イル基)などが挙げられる。重合性官能基としては、特に、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基、及びオキセタン基が好ましく、反応性及び有機エレクトロニクス素子の特性の観点から、ビニル基、オキセタン基、又はエポキシ基がより好ましく、オキセタン基が最も好ましい。これらの基は置換されていてもよく、置換されている場合の置換基は特に限定されないが、例えば、炭素数1〜22個(より好ましくは炭素数1〜10個)の直鎖、環状又は分岐アルキル基が挙げられる。
【0100】
重合性官能基の自由度を上げ、重合反応を生じさせやすくする観点からは、ポリマー(A)の主骨格と重合性官能基とが、例えば炭素数1〜8の直鎖状のアルキレン鎖で連結されていることが好ましい。また、例えば、電極上に有機層を形成する場合、ITO等の親水性電極との親和性を向上させる観点からは、エチレングリコール鎖、ジエチレングリコール鎖等の親水性の鎖で連結されていることが好ましい。さらに、重合性官能基を導入するために用いられるモノマーの調製が容易になる観点からは、ポリマー(A)は、アルキレン鎖及び/又は親水性の鎖の末端部、すなわち、これらの鎖と重合性官能基との連結部、及び/又は、これらの鎖とポリマー(A)の骨格との連結部に、エーテル結合又はエステル結合を有していてもよい。前述の「重合性官能基を含む基」とは、重合性官能基それ自体、又は、重合性官能基とアルキレン鎖等とを合わせた基を意味する。重合性官能基を含む基として、例えば、国際公開第WO2010/140553号に例示された基を好適に用いることができる。
【0101】
重合性官能基は、ポリマー(A)の末端部(すなわち、構造単位T)に導入されていても、末端部以外の部分(すなわち、構造単位L又はB)に導入されていても、末端部と末端以外の部分の両方に導入されていてもよい。硬化性の観点からは、少なくとも末端部に導入されていることが好ましく、硬化性及び電荷輸送性の両立を図る観点からは、末端部のみに導入されていることが好ましい。また、ポリマー(A)が分岐構造を有する場合、重合性官能基は、ポリマー(A)の主鎖に導入されていても、側鎖に導入されていてもよく、主鎖と側鎖の両方に導入されていてもよい。
【0102】
重合性官能基は、溶解度の変化に寄与する観点からは、ポリマー(A)中に多く含まれる方が好ましい。一方、電荷輸送性を妨げない観点からは、ポリマー(A)中に含まれる量が少ない方が好ましい。重合性官能基の含有量は、これらを考慮し、適宜設定できる。
【0103】
例えば、ポリマー(A)分子あたりの重合性官能基数は、十分な溶解度の変化を得る観点から、2個以上が好ましく、3個以上がより好ましい。また、重合性官能基数は、電荷輸送性を保つ観点から、1,000個以下が好ましく、500個以下がより好ましい。
【0104】
ポリマー(A)分子あたりの重合性官能基数は、ポリマー(A)を合成するために使用した、重合性官能基の仕込み量(例えば、重合性官能基を有するモノマーの仕込み量)、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量、ポリマー(A)の重量平均分子量等を用い、平均値として求めることができる。また、重合性官能基の数は、ポリマー(A)の
1H NMR(核磁気共鳴)スペクトルにおける重合性官能基に由来するシグナルの積分値と全スペクトルの積分値との比、ポリマー(A)の重量平均分子量等を利用し、平均値として算出できる。簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、好ましくは、仕込み量を用いて求めた値を採用する。
【0105】
ポリマー(A)の重量平均分子量は、結晶化を抑え、良好な製膜性を得るという観点から、1,000以上であることが好ましく、2,000以上であることがより好ましく、3,000以上であることがさらに好ましい。また、ポリマー(A)の重量平均分子量は、溶媒への溶解度が向上し、後述する溶媒を含有する組成物を容易に作製することができるという観点から、1,000,000以下であることが好ましく、900,000以下であることがより好ましく、800,000以下であることがさらに好ましい。なお、「重量平均分子量」とは、ゲルバーミエーションクロマトグラフィ(GPC)による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量をいう。
【0106】
より具体的には、ポリマーの重量平均分子量は、1,000〜1,000,000であることが好ましい。より好ましくは2,000〜900,000、さらに好ましくは3,000〜800,000である。
【0107】
ポリマー(A)が有する構造単位の単位数の平均値は、良好な製膜安定性を得るという観点から、2以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましい。また、単位数の平均値は、有機エレクトロニクス材料の溶解度が十分に変化し、容易に有機層を積層できるという観点から、1,000以下が好ましく、500以下がより好ましく、200以下がさらに好ましい。なお、「構造単位の単位数の平均値」は、ポリマー(A)の重量平均分子量、個々の構造単位の分子量、ポリマー(A)中の構造単位の割合から求めることができる。また、「構造単位の割合」とは、ポリマー(A)を合成するために使用した、構造単位に対応するモノマーの仕込み量比(モル比)により求めることができる。
【0108】
より具体的には、ポリマー(A)が有する構造単位の単位数の平均値は、2〜1,000が好ましく、5〜500がより好ましく、10〜200がさらに好ましい。
【0109】
また、ポリマー又(A)中の全構造単位に対する、正孔輸送性を有する構造単位L及び正孔輸送性を有する構造単位B(例えば、式(1a)〜(93a)で表される構造単位)の割合は、優れた正孔輸送性を得るという観点から、10モル%以上が好ましく、25モル%以上がより好ましく、50モル%以上がさらに好ましい。また、正孔輸送性を有する構造単位L及び正孔輸送性を有する構造単位B(例えば、式(1a)〜(93a)で表される構造単位)の割合は、95モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましく、80モル%以下がさらに好ましい。
より具体的には、ポリマー(A)中の全構造単位に対する、正孔輸送性を有する構造単位L及び正孔輸送性を有する構造単位B(例えば、式(1a)〜(93a)で表される構造単位)の割合は、10〜95%が好ましく、25〜90%がより好ましく、50〜80%がさらに好ましい。
【0110】
ポリマー(A)の全構成単位に対する構造単位Lの割合は、十分な電荷輸送性を得る観点から、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Lの割合は、構造単位T及び必要に応じて導入される構造単位Bを考慮すると、95モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましく、85モル%以下が更に好ましく、80モル%以下が更に好ましく、75モル%以下が更に好ましい。
ポリマー(A)に含まれる構造単位Tの割合は、有機エレクトロニクス素子の特性向上の観点、又は、粘度の上昇を抑え、電荷輸送性ポリマーの合成を良好に行う観点から、全構造単位を基準として、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、15モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Tの割合は、十分な電荷輸送性を得る観点から、60モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。
【0111】
ポリマー(A)が分岐構造を有する場合、ポリマー(A)中の全構造単位に対する構造単位B(例えば、式(85a)〜(93a)及び式(30)〜(32)で表される構造単位)の割合は、末端数を増やし、溶解度の変化を大きくするという観点から、1モル%以上が好ましく、3モル%以上がより好ましく、10モル%以上がさらに好ましい。また、構造単位B(例えば、式(85a)〜(93a)及び式(30)〜(32)のいずれかで表される構造単位)の割合は、ポリマー(A)の合成時のゲル化による合成不良を防止するという観点から、50モル%以下が好ましく、30モル%以下がより好ましく、25モル%以下がさらに好ましい。
より具体的には、ポリマー(A)中の全構造単位に対する構造単位B(例えば、式(85a)〜(93a)及び式(30)〜(32)のいずれかで表される構造単位)の割合は、1〜50モル%が好ましく、3〜30モル%がより好ましく、10〜25モル%がさらに好ましい。
【0112】
ポリマー(A)の構造単位Tが重合性官能基を有する構造単位を含む場合、ポリマー(A)の構造単位T中の、重合性官能基を有する構造単位Tの割合は、発光効率の向上、及び発光寿命の向上の観点から、50モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましく、30モル%以下がさらに好ましく、25モル%以下がさらに好ましく、20モル%以下がさらに好ましい。ポリマー(A)の構造単位T中の、重合性官能基を有する構造単位Tの割合は、例えば、1モル%以上であってよく、3モル%以上であってよく、5モル%以上であってよく、又は、10モル%以上であってよい。
【0113】
ポリマー(A)中の全構造単位に対する炭素数6〜20のアルキル鎖の割合は、耐溶剤性の観点から、20モル%以上が好ましく、30モル%がより好ましく、40モル%以上がさらに好ましく、50モル%以上がさらに好ましい。ポリマー(A)中の全構造単位に対する炭素数6〜20のアルキル鎖の割合は、例えば、90モル%以下であってよい。なお、ここでの「炭素数6〜20のアルキル鎖の割合」とは、炭素数6〜20のアルキル鎖を有する構造単位の割合である。
ポリマー(A)の構造単位Lが炭素数6〜20のアルキル鎖の有する構造単位を含む場合、ポリマー(A)の構造単位L中の、炭素数6〜20のアルキル鎖の有する構造単位Lの割合は、例えば、20モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、60モル%以上がさらに好ましい。ポリマー(A)の構造単位L中の、炭素数6〜20のアルキル鎖の有する構造単位Lの割合は、例えば、100モル%であってよく、95モル%以下であってよく、90モル%以下であってよい。
【0114】
構造単位の割合は、ポリマー(A)を合成するために使用した、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量を用いて求めることができる。また、構造単位の割合は、ポリマー(A)の
1H NMRスペクトルにおける各構造単位に由来するスペクトルの積分値を利用し、平均値として算出することができる。簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、好ましくは、仕込み量を用いて求めた値を採用する。
【0115】
ポリマー(A)は、種々の当業者公知の合成法により製造できる。例えば、ポリマー(A)の合成に用いる各モノマー単位が芳香族環を有し、芳香族環同士を結合させたポリマー(A)を製造する場合には、ヤマモト(T. Yamamoto)らのBull. Chem. Soc. Jpn., 51巻, 7号, 2091頁 (1978)、ゼンバヤシ(M. Zembayashi)らのTet. Lett., 47巻, 4089頁 (1977)、また、スズキ(A. Suzuki)のSynthetic Communications, Vol.11, No.7, p.513 (1981)に記載されている方法を用いることができる。特に、スズキ(A. Suzuki)に記載されている方法がポリマー(A)の製造には一般的である。各モノマー単位としては、例えば、上記に例示した構造単位に対応するモノマー単位を用いることができる。
【0116】
スズキ(A. Suzuki)に記載されている方法は、芳香族ボロン酸(boronic acid)誘導体と芳香族ハロゲン化物の間で、Pd触媒を用いたクロスカップリング反応(通常、「鈴木反応」と呼ばれる)を起こさしめるものである。所望とする芳香族環同士を結合反応に用いることにより、ポリマー(A)を製造することができる。
また、鈴木反応では、Pd触媒として、一般的にPd(II)塩又はPd(0)錯体の形態の可溶性Pd化合物が用いられる。例えば、芳香族反応体を基準として0.01〜5mol%のPd(Ph
3P)
4、3級ホスフィンリガンドとのPd(OAc)
2錯体、Pd
2(dba)
3錯体及びPdCl
2(dppf)錯体が好ましいPd源である。
【0117】
この反応では、一般的に塩基も用いられ、塩基としては水性アルカリカーボネートもしくはバイカーボネート、又は、テトラアルキルアンモニウムの水酸化物が好ましい。また、相間移動触媒を用いて、非極性溶媒中で反応を促進することもできる。溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、トルエン、アニソール、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等が用いられる。
【0118】
[開始剤]
有機エレクトロニクス材料は、有機エレクトロニクス材料の溶解度変化の観点から、開始剤をさらに含むことが好ましい。開始剤としては、有機エレクトロニクス材料中で酸化剤として作用し得る物質を用いることが可能である。ポリマー(A)に対して酸化剤として作用し得る物質を用いることは、正孔輸送性向上の観点から好ましい。開始剤としてはカチオンとアニオンからなるオニウム塩が組成物の溶解度の変化の観点から好ましく、以下その詳細について述べる。
【0119】
(カチオン)
カチオンとしては、例えば、H
+、カルベニウムイオン、アンモニウムイオン、アニリニウムイオン、ピリジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、キノリニウムイオン、イモニウムイオン、アミニウムイオン、オキソニウムイオン、ピリリウムイオン、クロメニリウム、キサンチリウムイオン、ヨードニウムイオン、スルホニウムイオン、ホスホニウムイオン、トロピリウムイオン、遷移金属を有するカチオンなどが挙げられ、カルベニウムイオン、アンモニムイオン、アニリニウムイオン、アミニウムイオン、ヨードニウムイオン、スルホニウムイオン、トロピリウムイオンが好ましい。耐溶剤性及び保存安定性との両立の観点から、アンモニウムイオン、アニリニウムイオン、ヨードニウムイオン、スルホニウムイオンがより好ましい。
【0120】
(アニオン)
アニオンとしては、例えば、F
−、Cl
−、Br
−、I
−などのハロゲンイオン;OH
−;ClO
4−;FSO
3−、ClSO
3−、CH
3SO
3−、C
6H
5SO
3−、CF
3SO
3−などのスルホン酸イオン類;HSO
4−、SO
42−などの硫酸イオン類;HCO
3−、CO
32−などの炭酸イオン類;H
2PO
4−、HPO
42−、PO
43−などのリン酸イオン類;PF
6−、PF
5OH
−などのフルオロリン酸イオン類;[(CF
3CF
2)
3PF
3]
−、[(CF
3CF
2CF
2)
3PF
3]
−、[((CF
3)
2CF)
3PF
3]
−、[((CF
3)
2CF)
2PF
4]
−、[((CF
3)
2CFCF
2)
3PF
3]
−、[((CF
3)
2CFCF
2)
2PF
4]
−などのフッ素化アルキルフルオロリン酸イオン類;(CF
3SO
2)
3C
−、(CF
3SO
2)
2N
−などのフルオロアルカンスルホニルメチド、イミドイオン類;BF
4−、B(C
6F
5)
4−、B(C
6H
4CF
3)
4−などのホウ酸イオン類;SbF
6−、SbF
5OH
−などのフルオロアンチモン酸イオン類;AsF
6−、AsF
5OH
−などのフルオロヒ素酸イオン類;AlCl
4−、BiF
6−等が挙げられる。前述のカチオンと組み合わせて用いたときの耐溶剤性の観点から、PF
6−、PF
5OH
−などのフルオロリン酸イオン類;[(CF
3CF
2)
3PF
3]
−、[(CF
3CF
2CF
2)
3PF
3]
−、[((CF
3)
2CF)
3PF
3]
−、[((CF
3)
2CF)
2PF
4]
−、[((CF
3)
2CFCF
2)
3PF
3]
−、[((CF
3)
2CFCF
2)
2PF
4]
−などのフッ素化アルキルフルオロリン酸イオン類;(CF
3SO
2)
3C
−、(CF
3SO
2)
2N
−などのフルオロアルカンスルホニルメチド、イミドイオン類;BF
4−、B(C
6F
5)
4−、B(C
6H
4CF
3)
4−などのホウ酸イオン類;SbF
6−、SbF
5OH
−などのフルオロアンチモン酸イオン類が好ましく、なかでもホウ酸イオン類が特に好ましい。
【0121】
より具体的には、アンモニウムイオン、アニリニウムイオン、ヨードニウムイオン、及びスルホニウムイオンから選択される1種と、フルオロリン酸イオン類、フッ素化アルキルフルオロリン酸イオン類、フルオロアルカンスルホニルメチド、イミドイオン類、ホウ酸イオン類、及びフルオロアンチモン酸イオン類から選択される1種とを含む開始剤が好ましい。この好ましい開始剤に含まれるアニオン及びカチオンの具体例は上記に限定されず、公知のアニオン及びカチオンを使用することができる。
【0122】
開始剤の含有量は、有機エレクトロニクス材料の溶解度を変化させ、積層化を容易に行うという観点から、ポリマー(A)の質量に対し、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。また、開始剤の含有量は、有機層中に残存する開始剤に由来する物質による素子特性の低下を防止するという観点から、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。開始剤に由来する物質としては、開始剤そのもの、開始剤の分解物、反応物などがある。
【0123】
より具体的には、開始剤の含有量は、ポリマー(A)の質量に対し、0.1〜30質量%の範囲であることが好ましく、0.2〜25質量%の範囲であることがより好ましく、0.5〜20質量%の範囲であることが特に好ましい。
【0124】
有機エレクトロニクス材料は、光照射及び/又は加熱によって、溶解度を変化させることができ、このため同種の溶媒により塗布による積層が可能となる。光照射には、例えば、200〜800nmの波長の光を使用することが可能である。また、加熱温度は60〜300℃であることが好ましく、80〜250℃であることがより好ましく、100〜220℃であることがさらに好ましい。加熱時間は、10秒間〜2時間であることが好ましく、1分間〜1時間であることがより好ましく、1〜10分間であることがさらに好ましい。
【0125】
[溶媒(C)]
有機エレクトロニクス材料は、さらに溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、有機エレクトロニクス材料を用いて塗布層を形成することが可能な溶媒を用いることができ、好ましくはポリマー(A)及び開始剤を溶解しうる溶媒を用いることができる。
溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール;ペンタン、ヘキサン、オクタン等のアルカン;シクロヘキサン等の環状アルカン;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン等の芳香族炭化水素;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、クロロホルム、塩化メチレンなどが挙げられる。好ましくは芳香族炭化水素、脂肪族エステル、芳香族エステル、脂肪族エーテル、及び芳香族エーテルである。
【0126】
有機エレクトロニクス材料における溶媒の含有量は、種々の塗布方法へ適用することを考慮して定めることができる。例えば、溶媒の含有量は、溶媒に対するポリマー(A)の割合が、0.1質量%以上となる量が好ましく、0.2質量%以上となる量がより好ましく、0.5質量%以上となる量がさらに好ましい。また、溶媒の含有量は、溶媒に対するポリマー(A)の割合が、10質量%以下となる量が好ましく、5質量%以下となる量がより好ましく、3質量%以下となる量がさらに好ましい。
【0127】
より具体的には、有機エレクトロニクス材料における溶媒の含有量は、溶媒に対するポリマー(A)の割合が、0.1〜10質量%となる量であることが好ましく、0.2〜5質量%となる量であることがより好ましく、0.5〜3質量%となる量であることがさらに好ましい。
【0128】
有機エレクトロニクス材料の溶解度が変化するメカニズムは明らかではないが、メカニズムの一例においては、炭素数6〜20のアルキル鎖同士が絡みあう、例えば、光及び/又は熱、並びに開始剤の作用によってアルキル鎖同士が絡み合った構造を形成し、溶解度が変化すると推定される。ポリマー(A)は、炭素−炭素二重結合基、小員環を有する基などの結合を形成する基を有していてもよい。一実施形態として、有機エレクトロニクス材料を硬化性樹脂組成物として用いることができる。
【0129】
有機層を多層化するうえでは、溶媒に対する有機エレクトロニクス材料の溶解度の変化の程度が大きいほうが好ましい。「有機エレクトロニクス材料の溶解度が変化する」ことは、有機エレクトロニクス材料を用いて形成された有機層の溶媒に対する溶解度が、光及び/又は熱を加える前後で変化するか否かにより確認することができる。具体的には、まず、ポリマー(A)及び開始剤(B)並びに溶媒(1)を含有する組成物を用いて塗布法により有機層(1)を形成する。任意の乾燥工程を経た後、有機層(1)に光及び/又は熱を加え有機層(2)を得る。続いて、有機層(2)を溶媒(2)に接触させ、有機層(3)を得る。得られた有機層(3)の膜厚が大きいほど、その組成物は溶解度の変化の程度が大きいといえる。つまり、有機層(2)の膜厚に対する有機層(3)の膜厚の比率(すなわち、有機層の残存率)が大きいことが好ましい。具体的には、残存率が、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。残存率は、有機層(2)及び有機層(3)の膜厚測定値の比、又は、有機層(2)及び有機層(3)の吸光度測定値の比により求めることができる。
【0130】
このとき、有機層(2)の厚さは、後述する本発明の実施形態である有機層の厚さと同様の範囲内とすればよい。また、溶媒(2)には、溶媒(1)と同じ溶媒、溶媒(1)が混合溶媒である場合は溶媒(1)に含まれる最も重量比が大きい溶媒、又は、トルエンを使用することができる。溶媒(1)、溶媒(1)に含まれる最も重量比が大きい溶媒、又は、トルエンを用いた確認のいずれかにおいて、有機層(3)の膜厚が前記以上であることが好ましい。溶媒(1)に含まれる最も重量比が大きい溶媒、又は、トルエンを用いた確認が簡便であり、特にトルエンを用いた確認が容易である。
【0131】
有機エレクトロニクス材料は、上述のとおり正孔輸送性を有する構造単位を有するポリマー(A)を含有しているため、有機EL素子、有機光電変換素子等の有機エレクトロニクス素子の形成に用いられる正孔輸送材料組成物として、好ましく用いることができる。
【0132】
<インク組成物>
また、本発明の実施形態は、前記有機エレクトロニクス材料を含むインク組成物に関する。
インク組成物とは、ポリマー(A)と、一般的には、これを溶解あるいは分散しうる溶媒とを含んでいればよい。好ましくは、ポリマー(A)と、開始剤と、これらを溶解あるいは分散しうる溶媒を含むことが好ましい。溶媒の例は上述のとおりである。
【0133】
[添加剤]
インク組成物は、さらに、任意成分として添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、重合禁止剤、安定剤、増粘剤、ゲル化剤、難燃剤、酸化防止剤、還元防止剤、酸化剤、還元剤、表面改質剤、乳化剤、消泡剤、分散剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0134】
[含有量]
インク組成物における溶媒の含有量は、種々の塗布方法へ適用することを考慮して定めることができる。例えば、溶媒の含有量は、溶媒に対しポリマー(A)の割合が、0.1質量%以上となる量が好ましく、0.2質量%以上となる量がより好ましく、0.5質量%以上となる量がさらに好ましい。また、溶媒の含有量は、溶媒に対しポリマー(A)の割合が、20質量%以下となる量が好ましく、15質量%以下となる量がより好ましく、10質量%以下となる量がさらに好ましい。
【0135】
<有機層>
また、本発明の実施形態は、前記有機エレクトロニクス材料、又はインク組成物から形成した有機層に関する。有機層は、例えば、これらの組成物を塗布することにより形成した層に、熱、光、又は熱と光の両方を加えることにより、加える前とは異なる溶解度を有する有機層を得ることができる。
塗布の方法としては、例えば、インクジェット法、キャスト法、浸漬法、凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平板印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の印刷法、スピンコーティング法などの公知の方法が挙げられる。塗布は、通常、−20〜+300℃の温度範囲、好ましくは10〜100℃、特に好ましくは15〜50℃で実施することができる。また、塗布後、得られた有機層を、ホットプレート又はオーブンによって、通常、+30〜+300℃の温度範囲、好ましくは60〜250℃、特に好ましくは80〜220℃で乾燥させ、溶媒を除去してもよい。乾燥時間は、通常、10秒間〜2時間、好ましくは1分間〜1時間、特に好ましくは1〜10分間である。
塗布により形成した有機層に、熱、光、又は熱と光の両方を加えることにより、加える前とは異なる溶解度を有する有機層を得ることができる。光及び/又は熱を加える条件(光照射及び/又は加熱の条件)は、前述のとおりである。有機層は溶媒に対する溶解性が低いために、有機層の上に別の有機層を塗布溶液を用いて容易に形成することができる。別の有機層を形成する際の塗布溶液に含まれる溶媒は、上述の溶媒(2)に限定されない。
【0136】
光照射には、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、蛍光灯、発光ダイオード、太陽光等の光源を用いることができ、加熱は、ホットプレート上又はオーブン内で行うことができる。
【0137】
有機層の厚さは、用途により適宜設定することが可能である。例えば、5nm〜10μmとすることができる。特に、有機層を有機EL素子の正孔注入層及び/又は正孔輸送層に使用する場合、有機層の厚さは、陽極の表面粗さを緩和し短絡を低減させる観点から、溶解度が変化する前後共に、5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、20nm以上がさらに好ましい。また、有機層の厚さは、有機EL素子の駆動電圧を低減させる観点から、500nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましい。具体的には、5〜500nmが好ましく、10〜200nmがより好ましく、20〜100nmがさらに好ましい。
【0138】
[有機エレクトロニクス素子、表示素子、照明装置]
また、本発明の実施形態は、上述の有機層を有する有機EL素子、有機光電変換素子等の有機エレクトロニクス素子に関する。有機エレクトロニクス素子は、少なくとも2つの電極、及び、電極の間に位置する有機層を有する。さらに、本発明の実施形態は、有機EL素子を用いた表示素子及び照明装置に関する。
【0139】
[有機エレクトロルミネセンス素子(有機EL素子)]
本発明の実施形態の有機EL素子は、前記有機層を含む。有機EL素子は、通常、発光層、陽極、陰極、及び基板を備えており、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、電子輸送層などの他の層を有していてもよい。有機EL素子は、少なくとも上述の有機層を有しており、例えば、有機層を発光層及び他の層として使用することができ、好ましくは正孔注入層及び/又は正孔輸送層として使用することができる。したがって、有機EL素子の例は、陽極、正孔注入層及び/又は正孔輸送層としての有機層、発光層、及び陰極をこの順に有し、さらにこれらの層の間に任意の層を有していてもよい。
図1は、有機EL素子の一実施形態を示す断面模式図である。
図1の有機EL素子は、多層構造の素子であり、基板8、陽極2、正孔注入層3、正孔輸送層6、発光層1、電子輸送層7、電子注入層5、及び陰極4をこの順に有している。
以下、各層について詳細に説明する。
【0140】
[発光層]
発光層に用いる材料としては、低分子化合物であっても、ポリマー又はオリゴマーであってもよく、デンドリマー等も使用可能である。蛍光発光を利用する低分子化合物としては、ペリレン、クマリン、ルブレン、キナクリドン、色素レーザー用色素(例えば、ローダミン、DCM1等)、アルミニウム錯体(例えば、Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminum(III)(Alq
3))、スチルベン、これらの誘導体などが挙げられる。蛍光発光を利用するポリマー又はオリゴマーとしては、ポリフルオレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン(PPV)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、フルオレン−ベンゾチアジアゾール共重合体、フルオレン−トリフェニルアミン共重合体、これらの誘導体及び混合物などが好適に利用できる。
【0141】
一方、近年、有機EL素子の高効率化のため、燐光有機EL素子の開発も活発に行われている。燐光有機EL素子では、一重項状態のエネルギーのみならず三重項状態のエネルギーも利用することが可能であり、内部量子収率を原理的には100%まで上げることが可能となる。燐光有機EL素子では、燐光を発するドーパントとして、白金、イリジウムなどの重金属を含む金属錯体系燐光材料を、ホスト材料にドーピングすることで燐光発光を取り出す(M. A. Baldo et al., Nature, vol. 395, p. 151 (1998)、M. A. Baldo et al., Applied Physics Letters, vol. 75, p. 4 (1999)、M. A. Baldo et al., Nature, vol. 403, p. 750 (2000)参照)。
【0142】
本発明の実施形態である有機EL素子においても、高効率化の観点から、発光層に燐光材料を用いることが可能である。燐光材料としては、Ir、Ptなどの中心金属を含む金属錯体などが好適に使用できる。具体的には、Ir錯体としては、例えば、青色発光を行うFIr(pic)〔イリジウム(III)ビス[(4,6−ジフルオロフェニル)−ピリジネート−N,C
2]ピコリネート〕、緑色発光を行うIr(ppy)
3〔ファク トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム〕(前記M. A. Baldo etal., Nature, vol. 403, p. 750 (2000)参照)、又は赤色発光を行う(btp)
2Ir(acac){ビス〔2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジナート−N,C
3〕イリジウム(アセチル−アセトネート)}(Adachi et al., Appl. Phys. Lett., 78 no. 11, 2001, 1622参照)、Ir(piq)
3〔トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム〕等が挙げられる。Pt錯体としては、例えば、赤色発光を行う2、3、7、8、12、13、17、18−オクタエチル−21H、23H−フォルフィンプラチナ(PtOEP)等が挙げられる。燐光材料は、低分子化合物又はデンドライド種、例えば、イリジウム核デンドリマーが使用され得る。またこれらの誘導体も好適に使用できる。
【0143】
また、発光層に燐光材料が含まれる場合、燐光材料の他に、ホスト材料を含むことが好ましい。ホスト材料としては、低分子化合物であっても、ポリマーであってもよく、デンドリマーなども使用できる。低分子化合物としては、例えば、CBP(4,4’−ビス(9H−カルバゾール−9−イル)ビフェニル)、mCP(1,3−ビス(9−カルバゾリル)ベンゼン)、CDBP(4,4’−ビス(カルバゾール−9−イル)−2,2’−ジメチルビフェニル)、これらの誘導体等が挙げられ、ポリマーとしては、例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレン、ポリフルオレン、これらの誘導体等が挙げられる。
【0144】
発光層は、蒸着法により形成してもよく、塗布法により形成してもよい。
【0145】
塗布法により形成する場合、有機EL素子を安価に製造することができ、より好ましい。発光層を塗布法によって形成するには、燐光材料と、必要に応じてホスト材料を含む溶液を、公知の塗布法で所望の基体上に塗布することで行うことができる。塗布法としては、例えば、インクジェット法、キャスト法、浸漬法、凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平板印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の印刷法、スピンコーティング法などが挙げられる。
【0146】
[陰極]
陰極材料としては、例えば、Li、Ca、Mg、Al、In、Cs、Ba、Mg/Ag、LiF、CsF等の金属又は金属合金であることが好ましい。
【0147】
[陽極]
陽極としては、金属(例えば、Au)又は金属導電率を有する他の材料を使用することができる。他の材料としては、例えば、酸化物(例えば、ITO:酸化インジウム/酸化錫)、導電性高分子(例えば、ポリチオフェン−ポリスチレンスルホン酸混合物(PEDOT:PSS))が挙げられる。
【0148】
[正孔注入層、正孔輸送層]
上記の組成物を用いて形成された有機層を、正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方として使用することが好ましい。有機EL素子が、上記の組成物を用いて形成された有機層を正孔注入層として有し、更に正孔輸送層を有する場合、正孔輸送層には公知の材料を使用できる。また、有機EL素子が、上記の組成物を用いて形成された有機層を正孔輸送層として有し、更に正孔注入層を有する場合、正孔注入層には公知の材料を使用できる。さらに、有機EL素子が、有機層を正孔注入輸送層として有してもよいし、2つの有機層を正孔注入層及び正孔輸送層として有してもよい。
【0149】
[電子輸送層、電子注入層]
電子輸送層及び電子注入層としては、例えば、フェナントロリン誘導体(例えば、2,9-Dimethyl-4,7-diphenyl-1,10-phenanthroline(BCP))、ビピリジン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレン、ペリレンなどの縮合環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体(例えば、2-(4-Biphenylyl)-5-(4-tert-butylphenyl-1,3,4-oxadiazole)(PBD))、アルミニウム錯体(例えば、Tris(8-hydroxyquinolinato)aluminum(III)(Alq
3)、Bis(2-methyl-8-quninolinato)-4-phenylphenolate aluminum (III) (BAlq))などが挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も用いることができる。
【0150】
[基板]
有機EL素子に用いることができる基板として、ガラス、プラスチック等の種類は特に限定されることはない。また、透明の基板が好ましく、ガラス、石英、光透過性樹脂フィルム等が好ましく用いられる。樹脂フィルムを用いた場合には、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能であり(つまり、フレキシブル基板)、特に好ましい。
樹脂フィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等からなるフィルムが挙げられる。
また、樹脂フィルムを用いる場合、水蒸気、酸素等の透過を抑制するために、樹脂フィルムへ酸化珪素、窒化珪素等の無機物をコーティングして用いてもよい。
【0151】
[封止]
本発明の実施形態である有機EL素子は、外気の影響を低減させて長寿命化させるため、後述する光電変換素子と同様の方法により封止されていてもよい。
【0152】
[発光色]
有機EL素子における発光色は特に限定されるものではないが、白色発光素子は家庭用照明、車内照明、時計又は液晶のバックライト等の各種照明器具に用いることができるため好ましい。
【0153】
白色発光素子を形成する方法としては、現在のところ単一の材料で白色発光を示すことが困難であることから、複数の発光材料を用いて複数の発光色を同時に発光させて混色させることで白色発光を得ている。複数の発光色の組み合わせとしては、特に限定されるものではないが、青色、緑色、及び赤色の3つの発光極大波長を含有するもの、青色と黄色、黄緑色と橙色等の補色の関係を利用した2つの発光極大波長を含有するものが挙げられる。また発光色の制御は、燐光材料の種類と量を調整することによって行うことができる。
【0154】
[表示素子、照明装置、表示装置]
本発明の実施形態である表示素子は、既述の有機EL素子を備えている。
例えば、赤・緑・青(RGB)の各画素に対応する素子として、前記有機EL素子を用いることで、カラーの表示素子が得られる。
【0155】
画像の形成には、マトリックス状に配置した電極でパネルに配列された個々の有機EL素子を直接駆動する単純マトリックス型と、各素子に薄膜トランジスタを配置して駆動するアクティブマトリックス型とがある。前者は、構造は単純ではあるが垂直画素数に限界があるため、文字などの表示に用いられる。後者は、駆動電圧は低く電流が少なくてすみ、明るい高精細画像が得られるので、高品位のディスプレイ用として用いられる。
【0156】
また、本発明の実施形態である照明装置は、既述の有機EL素子を備えている。さらに、本発明の実施形態である表示装置は、照明装置と、表示手段として液晶素子と、を備えている。バックライト(白色発光光源)として前記照明装置を用い、表示手段として液晶素子を用いた表示装置、すなわち液晶表示装置としてもよい。この構成は、公知の液晶表示装置において、バックライトのみを前記照明装置に置き換えた構成であり、液晶素子部分は公知技術を転用することができる。
【0157】
[有機光電変換素子]
有機光電変換素子には、有機太陽電池及び有機光センサーが含まれ、通常、光電変換層、電極、及び基板を備えている。さらに、変換効率又は空気中の安定性を向上させる目的で、バッファ層、電子輸送層などの他の層を1種以上有していてもよい。有機光電変換素子は、少なくとも上述の有機層を有しており、有機層を光電変換層及びバッファ層として使用することができ、バッファ層として使用することが好ましい。したがって、有機光電変換素子の例は、陽極、バッファ層としての有機層、光電変換層、及び陰極をこの順に有し、さらにこれらの層の間に任意の層を有していてもよい。以下に有機光電変換素子の構成について記載する。
【0158】
[光電変換層]
光電変換層には、光を吸収して電荷分離を起こし、起電力を発生するものであれば任意の材料を用いることができる。特に、変換効率の観点から、p型有機半導体と、n型有機半導体とをブレンドした混合物が好ましい。
p型有機半導体としては、例えば、オリゴチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)、ポリフェニレンビニレン(PPV)等のポリマー又はオリゴマー;ポルフィリン、フタロシアニン、銅フタロシアニン;これらの誘導体等が好適に使用できる。
n型有機半導体としては、例えば、CN−ポリ(フェニレン−ビニレン)(CN−PPV)、MEH−CN−PPV、それらの−CF
3置換ポリマー等の−CN基又はCF
3基含有ポリマー又はオリゴマー;ポリ(フルオレン)誘導体、フルオレン−ベンゾチアジアゾール共重合体等のポリマー又はオリゴマー;フラーレン(C
60)、[6,6]-Phenyl-C
61-butyric acid methyl ester(PCBM)、[6,6]-Phenyl-C
71-butyric acid methyl ester(PCBM)、ナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)、ペリレンテトラカルボン酸無水物(PTCDA)、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド、キナクドリン;これらの誘導体等が好適に使用できる。
【0159】
光電変換層の形成方法としては、特に限定されず、蒸着法により形成しても、塗布法により形成してもよい。塗布法により形成する場合、有機光電変換素子を安価に製造することができ、より好ましい。塗布法により形成する方法としては、発光層の形成方法で述べた方法を用いることができる。
【0160】
[その他の層]
また、有機光電変換素子は、光電変換層以外に上述のバッファ層を有し、さらに電子輸送層などの層を有していてもよい。バッファ層としては、上述の有機層を用いることができ、電子輸送層としては、LiF、TiOx、ZnOx等が一般的に用いられる。
【0161】
[電極]
電極は、導電性を有するものであれば任意の材料を用いることが可能である。電極としては、例えば、白金、金、銀、アルミニウム、クロム、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム、フッ化リチウム等の金属あるいはそれらの合金又は塩;酸化インジウム、酸化錫等の金属酸化物、あるいはその合金(ITO);ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン等の導電性高分子;塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、FeCl
3等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン原子、ナトリウム、カリウム等の金属原子などのドーパントを添加した前記導電性高分子;金属粒子、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ等の導電性粒子をポリマーバインダー等のマトリクスに分散した導電性の複合材料などが挙げられる。また、これらを組み合わせて用いてもよい。
また、電極は少なくとも一対(2個)設けられるが、少なくとも一方は透明電極である。透明電極としては、例えば、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)等の酸化物;金属薄膜;PEDOT:PSS等の導電性高分子などが挙げられる。
【0162】
電極は、光電変換層内に生じた正孔及び電子を捕集する機能を有するものであり、正孔及び電子の捕集に適した電極材料を対にして用いることが好ましい。正孔の捕集に適した電極材料としては、例えば、Au、ITO等の高い仕事関数を有する材料が挙げられる。一方、電子の捕集に適した電極としては、例えば、Alのような低い仕事関数を有する材料が挙げられる。
【0163】
電極の形成方法は、特に制限はないが、例えば、真空蒸着、スパッタ、塗布法等を用いることができる。
【0164】
[基板]
基板は、各層を支持できるものであれば任意の材料を用いることが可能である。基板としては、例えば、ガラス等の無機材料;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ナイロン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、塩化ビニル、セルロース、ポリ塩化ビニリデン、アラミド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリノルボルネン、ポリ乳酸等の有機材料;絶縁性を付与するために表面をコートあるいはラミネートしたステンレス、チタン、アルミニウム等の金属等の複合材料などが挙げられる。また、ガスバリア性の付与のために、酸化珪素、窒化珪素等の無機物を積層した基板を用いてもよい。
【0165】
特に、PET、PEN、PES、PI、PEI、COP、PPS等の有機材料からなるフィルムは、透明性、フレキシブル性を付与でき、好ましい。
【0166】
[封止]
本発明の実施形態である有機光電変換素子は、外気の影響を低減させて長寿命化させるため、封止されていてもよい。封止に用いる材料としては、ガラス、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、PET、PEN等のプラスチックフィルム、酸化珪素、窒化珪素等の無機物等を用いることができる。
封止の方法としては、特に限定されないが、たとえば、真空蒸着、スパッタ、塗布法等により有機光電変換素子上に直接形成する方法、ガラス又はプラスチックフィルムを接着剤により有機光電変換素子に張り合わせる方法等が使用可能である。
【0167】
本発明の実施形態は下記のものを含む。本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
<1> 正孔輸送性を有する構造単位を有し、かつ、炭素数6〜20のアルキル鎖を有するポリマー又はオリゴマーを含む、有機エレクトロニクス材料。
<2> 前記正孔輸送性を有する構造単位が、芳香族アミン構造を含む構造単位、カルバゾール構造を含む構造単位、チオフェン構造を含む構造単位、フルオレン構造を含む構造単位、及びフラン構造を含む構造単位からなる群から選択される少なくとも1種の構造単位を含む、<1>に記載の有機エレクトロニクス材料。
<3> 前記ポリマー又はオリゴマーが、下記の式(Ia)で表される構造を有する、<1>又は<2>に記載の有機エレクトロニクス材料。
【化32】
(式(Ia)中のR
1〜R
5は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表し、R
1〜R
5の少なくとも1つは炭素数6〜20の直鎖アルキル基である。)
<4> 前記正孔輸送性を有する構造単位が、炭素数6〜20のアルキル鎖を有する2価の構造単位を含む、<1>〜<3>のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。
<5> 前記ポリマー又はオリゴマーが、炭素数8〜12のアルキル鎖を有する、<1>〜<4>のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。
<6> 前記ポリマー又はオリゴマーが分岐構造を有する、<1>〜<5>のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。
<7> 前記ポリマー又はオリゴマーが、分岐構造を形成する基点となる単位として下記一般式(1)〜(10)の構造からなる群から選択される少なくとも1種を含む構造単位を含む、<6>に記載の有機エレクトロニクス材料。
【化33】
(式中、Arは、それぞれ独立に2価の連結基を表し、Wは3価の連結基を表し、Yは、2価の連結基を表す。W、ベンゼン環及びArは、それぞれ置換基を有していてもよい。Zは、炭素原子、ケイ素原子、又はリン原子を表す。)
<8> 前記ポリマー又はオリゴマーが少なくとも1つの重合性官能基を含む、<1>〜<7>のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。
<9> 開始剤をさらに含む、<1>〜<8>のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料。
<10> <1>〜<9>のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料と、溶媒とを含む、インク組成物。
<11> <1>〜<9>のいずれか1項に記載の有機エレクトロニクス材料、又は<10>に記載のインク組成物を用いて形成された、有機層。
<12> <11>に記載の有機層を少なくとも一つ備える、有機エレクトロニクス素子。
<13> <11>に記載の有機層を少なくとも一つ備える、有機エレクトロルミネセンス素子。
<14> フレキシブル基板をさらに備える、<13>に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
<15> 樹脂フィルム基板を更に備える、<13>に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
<16> <13>〜<15>のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、表示素子。
<17> <13>〜<15>のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、照明装置。
<18> <17>に記載の照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えた、表示装置。
【0168】
実施形態の例を、さらに以下に示す。有機エレクトロニクス材料の例として、炭素数6〜20のアルキル鎖を、2価の構造単位に有する、有機エレクトロニクス材料;開始剤をさらに含み、開始剤が酸化剤を含む、有機エレクトロニクス材料;開始剤をさらに含み、開始剤がオニウム塩を含む、有機エレクトロニクス材料;及び、ポリマー(A)の重量平均分子量が、1,000〜1000,000である、有機レクトロニクス材料、が挙げられる。また、上記有機エレクトロニクス素子の例として、少なくとも2つの電極、及び、前記電極の間に位置する有機層を有する素子が挙げられ;有機エレクトロルミネセンス素子の例として、陽極、有機層、発光層、及び陰極を有する素子が挙げられ;さらに、上記有機光電変換素子の例として、陽極、有機層、光電変換層、及び陰極を有する素子、が挙げられる。
【実施例】
【0169】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
<Pd触媒の調製>
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、室温下、サンプル管にトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(73.2mg、80μmol)を秤取り、アニソール又はトルエン(15ml)を加え、30分間攪拌した。同様に、サンプル管にトリス(t−ブチル)ホスフィン(129.6mg、640μmol)を秤取り、アニソール(5mL)を加え、5分間攪拌した。これらの溶液を混合し、室温で30分間攪拌して、触媒の溶液(以下、「調製したPd触媒アニソール溶液」ともいう)を得た。なお、触媒の調製において、すべての溶媒は、30分以上窒素バブルにより脱気した後に使用した。
【0170】
<電荷輸送性ポリマー1の合成>
三口丸底フラスコに、下記(L)モノマー:モノマー1(5.0mmol)、下記(B)モノマー:モノマー2(2.0mmol)、下記(T1)モノマー:モノマー3(1.4mmol)、下記(T2)モノマー:モノマー4(2.6mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、さらに、前記調製したPd触媒アニソール溶液(7.5mL)を加えた。30分撹拌した後、10%テトラエチルアンモニウム水酸化物水溶液(20mL)を追加した。この混合物を2時間、加熱還流した。なお、ここまでの全ての操作は、窒素気流下で行った。また、すべての溶媒は、30分以上窒素バブルにより脱気した後に使用した。下記モノマー1の式において、−C
8H
17は、n−オクチル基(炭素数8の直鎖アルキル基)である。
【0171】
【化34】
【0172】
反応終了後、有機層を水洗し、有機層をメタノール−水(9:1)に注いだ。生じた沈殿をろ過により回収し、メタノール−水(9:1)で洗浄した。生じた沈殿をろ過により回収して真空乾燥したのち、酢酸ブチル―トルエン(1:1)混合溶液(沈殿物1.5gに対し50mL使用)中、60℃で30分攪拌し、熱ろ過して、ポリマーから低分子量成分を除去した。同様の操作を3回繰り返した後、ポリマーを十分に乾燥させ、トルエンに溶解し、10%のポリマー溶液とした。この溶液に、ポリマーと同質量のスカベンジャ(Strem Chemicals社製「Triphenylphosphine, polymer-bound on styrene-divinylbenzene copolymer」)を加え、還流して1時間以上攪拌した。この後、孔径0.2μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルタ(ディスミック25JP020AN)によりスカベンジャをろ別し、メタノールと混合して再沈殿した。ポリマーをろ過回収し、デシケータ中で真空乾燥して電荷輸送性ポリマー1を得た。
【0173】
合成に用いたモノマーの配合比率を下記表1に記載される比率に変更した以外は、上記電荷輸送性ポリマー1と同様に、電荷輸送性ポリマー2、電荷輸送性ポリマー3、電荷輸送性ポリマー4を合成した。
【0174】
【表1】
【0175】
<電荷輸送性ポリマー5の合成>
三口丸底フラスコに、(L1)モノマー:モノマー1(2.5mmol)、下記(L2)モノマー:モノマー5(2.5mmol)(B)モノマー:モノマー2(2.0mmol)、下記(T1)モノマー:モノマー3(1.4mmol)、下記(T2)モノマー:モノマー4(2.6mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、さらに、前記調製したPd触媒アニソール溶液(7.5mL)を加えた。30分撹拌した後、10%テトラエチルアンモニウム水酸化物水溶液(20mL)を追加した。この混合物を2時間、加熱還流した。なお、ここまでの全ての操作は、窒素気流下で行った。また、すべての溶媒は、30分以上窒素バブルにより脱気した後に使用した。以降は上記電荷輸送性ポリマー1と同様に精製処理を行い、電荷輸送性ポリマー5を得た。下記モノマー5の式において、−C
4H
9は、n−ブチル基(炭素数4の直鎖アルキル基)である。
【0176】
【化35】
【0177】
合成に用いたモノマー及びモノマーの配合比率を下記表2に記載される比率に変更した以外は上記電荷輸送性ポリマー5と同様に、電荷輸送性ポリマー6、電荷輸送性ポリマー7、電荷輸送性ポリマー8、電荷輸送性ポリマー9、電荷輸送性ポリマー10を合成した。
【0178】
【表2】
【0179】
<電荷輸送性ポリマー11の合成>
三口丸底フラスコに、下記(L)モノマー:モノマー5(5.0mmol)、下記(B)モノマー:モノマー2(2.0mmol)、下記(T1)モノマー:モノマー3(2.0mmol)、下記(T2)モノマー:モノマー4(2.0mmol)、及びアニソール(20mL)を加え、さらに、前記調製したPd触媒アニソール溶液(7.5mL)を加えた。30分撹拌した後、10%テトラエチルアンモニウム水酸化物水溶液(20mL)を追加した。この混合物を2時間、加熱還流した。なお、ここまでの全ての操作は、窒素気流下で行った。また、すべての溶媒は、30分以上窒素バブルにより脱気した後に使用した。以降は上記電荷輸送性ポリマー1と同様に精製処理を行い、電荷輸送性ポリマー13を得た。
【0180】
合成に用いたモノマーの配合比率を下記表3に記載される比率に変更した以外は上記電荷輸送性ポリマー11と同様に、電荷輸送性ポリマー12、電荷輸送性ポリマー13を合成した。
【表3】
【0181】
<電荷輸送性ポリマー14の合成>
三口丸底フラスコに、下記(L)モノマー:モノマー5(5.0mmol)、下記(B)モノマー:モノマー7(2.0mmol)、下記(T)モノマー:モノマー8(4.0mmol)、及びトルエン(20mL)を加え、さらに、前記調製したPd触媒トルエン溶液(7.5mL)を加えた。30分撹拌した後、3M水酸化カリウム水溶液(10mL)を追加した。この混合物を2時間、加熱還流した。なお、ここまでの全ての操作は、窒素気流下で行った。また、すべての溶媒は、30分以上窒素バブルにより脱気した後に使用した。以降は上記電荷輸送性ポリマー1と同様に精製処理を行い、電荷輸送性ポリマー13を得た。合成に用いたモノマ及びその配合比率は異なるため下記表4に示す。
【0182】
【化36】
【0183】
【表4】
【0184】
GPCの測定条件は以下のとおりである。
装置:高速液体クロマトグラフ Prominence(株)島津製作所
送液ポンプ(LC−20AD)
脱気ユニット(DGU−20A)
オートサンプラ(SIL−20AHT)
カラムオーブン(CTO−20A)
PDA検出器(SPD−M20A)
示差屈折率検出器(RID−20A)
カラム:Gelpack(登録商標)
GL−A160S(製造番号:686-1J27)
GL−A150S(製造番号:685-1J27)日立化成(株)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)(HPLC用、安定剤含有)和光純薬工業(株)
流速:1mL/min
カラム温度:40℃
検出波長:254nm
分子量標準物質:PStQuick A/B/C 東ソー(株)
【0185】
分子量20,000のポリマーの溶出時間は、分子量既知のポリスチレン標準サンプルの溶出時間から算出した校正曲線を用いて、求めることができる。
【0186】
得られたポリマーの重量平均分子量、数平均分子量、及び低分子量成分の比率(GPCチャート面積比)を、GPCにより測定して求めた。GPCの測定条件は、上述のとおりである。得られた値を、表5に示す。
<低分子量成分>
はじめに、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)を用いて規定される、電荷輸送性ポリマーの低分子量成分の成分比率の求め方について説明する。「GPCにより測定される分子量分布チャートにおいて、分子量20,000未満の成分(すなわち低分子量成分)」を低分子比率とし、後述するポリスチレン換算分子量で規定することができる。なお、全チャート面積は、溶媒及び不純物ピークを除いたピーク全体の面積である。
【0187】
【表5】
【0188】
<有機層の形成と残膜率の評価>
[実施例1]
電荷輸送性ポリマー1(10mg)を1100μLのトルエンに溶解させた溶液と、開始剤として、下記化学式で表されるイオン性化合物1(1mg)を50μLのトルエンに溶解させた溶液を混合した塗布溶液を、3000rpmで石英板上にスピンコートした。ついで、ホットプレート上で、200℃で10分間加熱して重合反応を行った。加熱後にトルエン溶媒に石英板を10秒間浸漬し、洗浄を行った。
【0189】
【化37】
【0190】
トルエン溶媒への浸漬洗浄前後のUV−VIS(紫外・可視)スペクトルを測定し、得られたスペクトルにおける吸収極大(λmax)の吸光度(Abs)の比から、残膜率を測定した。
洗浄前:λmax=358nm 、 Abs=0.429
洗浄後:λmax=358nm 、 Abs=0.445
残膜率(%)=洗浄後Abs/洗浄前Abs×100
=(0.445/0.429)×100=103.7
【0191】
UV−VISスペクトルの測定は、下記の条件で行った。
装置:U−3900H形分光光度計(日立ハイテクノロジーズ)
スリット:2nm
スキャンスピード:600nm/min
開始波長:500nm
終了波長:250nm
リファレンス:石英基板
【0192】
[実施例2〜10、比較例1〜3]
電荷輸送性ポリマー1に代えて、下記表2に示すいずれかの電荷輸送性ポリマーを用いた以外は、上記実施例1と同様にして有機層を形成し、その残膜率を測定した。結果を表6に示す。
【0193】
【表6】
【0194】
表6から、実施例1及び5のそれぞれと比較例2との比較、及び、実施例2及び6のそれぞれと比較例3との比較から、(T)モノマー中の、重合性官能基を有するモノマー3の割合が同一であるにも関わらず、(L)モノマー中に、炭素数8のアルキル鎖を有するモノマー1が配合されている実施例1及び5、並びに、実施例2及び6は、残膜率の値が高いことがわかる。また実施例2と実施例6との比較、及び、実施例3と実施例7との比較から、(L)モノマー中のモノマー1の割合が多いほど、耐溶剤性が高いことがわかる。
このように実施例では、重合性官能基の配合量が同一にも関わらず、炭素数6〜20のアルキル鎖を有するとき、耐溶剤性の向上を達成できた。
【0195】
[実施例11]
電荷輸送性ポリマー1(10mg)を1100μLのトルエンに溶解させた溶液と、上記イオン性化合物1(1mg)を50μLのトルエンに溶解させた溶液を混合した塗布溶液を、3000rpmで石英板上にスピンコートした。ついで、ホットプレート上で、230℃で30分間加熱して重合反応を行った。加熱後にトルエン溶媒に石英板を10秒間浸漬し、洗浄を行った。
【0196】
トルエン溶媒への浸漬洗浄前後のUV−VIS(紫外・可視)スペクトルを測定し、得られたスペクトルにおける吸収極大(λmax)の吸光度(Abs)の比から、残膜率を測定した。
洗浄前:λmax=357nm 、 Abs=0.313
洗浄後:λmax=355nm 、 Abs=0.316
残膜率(%)=洗浄後Abs/洗浄前Abs×100
=(0.316/0.313)×100=101.0
【0197】
UV−VISスペクトルの測定は、下記の条件で行った。
装置:U−3900H形分光光度計(日立ハイテクノロジーズ)
スリット:2nm
スキャンスピード:600nm/min
開始波長:500nm
終了波長:250nm
リファレンス:石英基板
【0198】
[実施例12〜20、比較例4〜6]
電荷輸送性ポリマー1に代えて、下記表3に示すいずれかの電荷輸送性ポリマーを用いた以外は、上記実施例11と同様にして有機層を形成し、その残膜率を測定した。結果を表7に示す。
【0199】
【表7】
【0200】
表7から、比較例4〜6の結果に示されるように、モノマー1を用いていない比較例では、残膜率を96.2%以上の値で達成するのに、(T)モノマー中の、重合性官能基を有するモノマー3の配合量は35モル%必要であった。実施例14は、(T)モノマー中の、重合性官能基を有するモノマー3の割合が5モル%と少ないにも関わらず、94.1%の残膜率を達成している。このように実施例では、重合性官能基の配合量を低減しても、高い耐溶剤性が得られることが示された。
【0201】
<有機EL素子の作製>
[実施例3−1]
ITOを1.6mm幅にパターンニングしたガラス基板上に、電荷輸送ポリマー14を、回転速度3000min
−1でスピン塗布し、ホットプレート上で空気中、200℃/10分加熱乾燥して、正孔注入層(40nm)を形成した。以後の実験は乾燥窒素環境下で行った。
【0202】
電荷輸送性ポリマー1(4.5mg)、上記イオン性化合物1(0.13mg)、及びトルエン(1.2mL)を混合し、正孔輸送層形成用のインク組成物を調製した。このインク組成物を、上記得られた正孔注入層上に、回転速度3000min
−1でスピンコートした後、ホットプレート上で230℃、30分間加熱して硬化させ、正孔輸送層(40nm)を形成した。
【0203】
上記で得たガラス基板を、真空蒸着機中に移し、正孔輸送層上に、CBP:Ir(ppy)
3(94:6、30nm)、BAlq(10nm)、Alq
3(30nm)、LiF(0.8nm)、及びAl(100nm)をこの順に蒸着して成膜し、発光層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層、及び陰極を積層した。
【0204】
電極形成後、大気開放することなく、乾燥窒素環境中に上記積層ガラス基板を移し、これを、0.7mmの無アルカリガラスに0.4mmのザグリ加工を施した封止用ガラスと、光硬化性エポキシ樹脂を用いて貼り合わせることにより封止し、多層構造の高分子型有機EL素子を作製した。
【0205】
[実施例3−2〜3−9、比較例3−1]
電荷輸送性ポリマー1の代わりに表8に示すいずれかのポリマーを用いて正孔輸送層を形成した以外は、実施例3−1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0206】
【表8】
【0207】
実施例3−1〜3−9及び比較例3−1で得た有機EL素子に電圧を印加して、発光性能を評価した。その結果、いずれも緑色の発光が確認された。それぞれの素子について、発光輝度5000cd/m
2時の駆動電圧と発光効率、及び初期輝度1000cd/m
2又は5000cd/m
2における発光寿命(輝度半減時間)を測定した。測定結果を表9に示す。
【0208】
【表9】
【0209】
表9に示したとおり、実施例3−1〜3−4の有機EL素子は、比較例3−1と同程度又はそれより低い駆動電圧を示し、比較例3−1のものよりも、発光効率に優れ、長い発光寿命を示した。
また実施例3−5と実施例3−6との比較、及び、実施例3−7と実施例3−8との比較では、(T)モノマー中の重合性官能基を有するモノマー3の割合が少ないほど長い発光寿命を示すことがわかる。すなわち、モノマー1を用いて、十分な耐溶剤性を保持したまま、(T)モノマー中のモノマー3の割合を低減することに成功し、その電荷輸送性ポリマーを用いることによって、発光効率及び発光寿命の向上という格別の効果が得られた。