(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6828908
(24)【登録日】2021年1月25日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】超音波治療システム
(51)【国際特許分類】
A61B 17/00 20060101AFI20210128BHJP
【FI】
A61B17/00 700
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-552974(P2018-552974)
(86)(22)【出願日】2017年11月24日
(86)【国際出願番号】JP2017042207
(87)【国際公開番号】WO2018097245
(87)【国際公開日】20180531
【審査請求日】2019年9月18日
(31)【優先権主張番号】特願2016-227678(P2016-227678)
(32)【優先日】2016年11月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 明
(72)【発明者】
【氏名】葭中 潔
【審査官】
菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−284648(JP,A)
【文献】
特開2008−272504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/00
A61N 7/00− 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患部としての骨表面へその近傍の皮膚上から集束超音波を与えて該患部の治療を行うための超音波治療システムであって、
前記皮膚上に与えられて前記集束超音波を前記患部に向けて照射する集束超音波付与部と、前記患部の温度計測を与える温度計測部と、を含み、
前記温度計測部は、前記集束超音波の照射部である前記患部から放射される電磁波の強度を計測する電磁波計測部と、前記電磁波計測部の前記電磁波の変化を解析し前記患部の温度を与える解析部と、を含み、
前記解析部は、前記集束超音波付与部から与えられる前記集束超音波の打ち出し波とこの前記骨表面からの反射波との一対に対応し、時間遅れを有して前記電磁波計測部で計測される一対の電磁変化の参照波の間にある電磁変化から前記患部の温度を与えることを特徴とする超音波治療システム。
【請求項2】
前記集束超音波付与部は、前記打ち出し波をバースト波として与えることを特徴とする請求項1記載の超音波治療システム。
【請求項3】
前記集束超音波付与部は、前記バースト波に続いて、前記患部の焼灼を与える連続波を与えることを特徴とする請求項2記載の超音波治療システム。
【請求項4】
前記解析部は、前記電磁変化を温度にあらかじめ対応付けて得ておき、前記電磁波計測部から与えられる前記電磁変化から前記患部の温度を与えることを特徴とする請求項1記載の超音波治療システム。
【請求項5】
前記解析部は、前記電磁変化を既知の骨組織の変性温度にあらかじめ対応付けておき、前記患部の温度として前記変性温度を与えることを特徴とする請求項4記載の超音波治療システム。
【請求項6】
前記変性温度は、前記骨組織の一部のコラーゲン組織の変性によることを特徴とする請求項5記載の超音波治療システム。
【請求項7】
前記集束超音波付与部は、前記患部の温度に対応して前記集束超音波を制御して照射することを特徴とする請求項6記載の超音波治療システム。
【請求項8】
前記電磁波計測部はコイルを含み、前記集束超音波付与部は前記コイル内部を通過させて前記集束超音波を前記患部に与えるトランスデューサー部を含むことを特徴とする請求項1記載の超音波治療システム。
【請求項9】
前記コイルが前記患部の近傍の皮膚表面に押し付けられるようになっていることを特徴とする請求項8記載の超音波治療システム。
【請求項10】
前記コイルはこの中を前記集束超音波のビーム軸線を通過させるように配置されていることを特徴とする請求項9記載の超音波治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集束超音波を患部に与えて治療を行うための超音波治療システムに関し、特に、患部としての骨表面への集束超音波の照射強度制御を行うための温度モニタリング機能を備えた超音波治療システムに関する。
【0002】
強力集束超音波(HIFU:High Intensity Focused Ultrasound)を用いて非侵襲で患部の治療を行うことのできる集束超音波治療法(FUS:Focused Ultrasound Surgery)が知られている
【0003】
例えば、特許文献1では、HIFUの照射位置である焦点の位置を順次移動させることで、治療対象領域(ターゲット)の全域にHIFUを照射するようにした集束超音波治療システムを開示している。ここでは、複数の治療用振動子を半球状の凹面に分散して配置したマルチエレメント形のトランスデューサーに、超音波画像を撮像するための撮像振動子を備えた撮像プローブを組込んだアプリケータを用いている。一般的に、アプリケータの位置又は押し当てる体表面の形状によって体表面に対する集束超音波の入射角度が異なってしまうが、撮像プローブでの超音波画像からこの入射角度を計算しフィードバック制御できるので、生体内部及び焦点へのエネルギ伝達効率を変化させ得るとしている。
【0004】
上記したように、体内における超音波の照射制御のためには、被照射位置を直接、目視できないため、何らかのモニタリング手段が必要とされる。
【0005】
例えば、特許文献2では、治療しようとする腫瘍部位に焦点を合わせてHIFUを照射し腫瘍組織の局所的破壊又は壊死を引き起こさせて腫瘍を除去及び治療するための治療用装置において、治療用の超音波を利用して温度をモニタリングする方法を開示している。超音波を利用して温度をモニタリングするための温度検出方式として、後方散乱エネルギ変化法(CBE:change in backscattered energy)や音響変位法(ES:echo-shift)などが知られていることを述べた上で、これらを組み合わせることで精度の高い温度モニタリングを与えるとしている。
【0006】
ところで、特許文献1において、超音波画像の撮像を超音波照射と同時に行うと画像にノイズが現れてしまうため、超音波を照射するトランスデューサーと超音波画像を撮像する撮像プローブとを交互に動作させてノイズがない明瞭な診断画像を取得するとしている。そこで、超音波以外のモニタリング手段が考慮される。
【0007】
例えば、特許文献3では、超音波を照射した部分から放射される電磁波の強度変化から当該部分の荷電粒子の特性値の変化を測定できること(音波誘起電磁波による物体の特性測定方法)を利用し、人体内部のような目視できないような部分の超音波照射による変化を検知する方法が開示されている。ここでは、脳のニューロンの活動部位や、筋組織の活動部位の検知などを行い得るとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015−217247号公報
【特許文献2】特開2013−43082号公報
【特許文献3】特開2012−47751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高齢人口の増加などとともに、関節症の患者数が急激に増え、生活に支障をきたす有痛性の関節症、特に、膝関節症について、人体への負担の小さい方法としてHIFUによる患部の焼灼による治療や疼痛緩和(骨疼痛緩和)が期待されている。例えば、皮質骨(緻密骨)の表面にHIFUによって焼灼を行い、骨膜と皮質骨の間にある神経組織を破壊することで骨の疼痛緩和が可能となるのである。また、皮膚を介して皮質骨へ超音波を照射することで、骨表面を熱的に焼灼させて治療を施すこともでき得る。
【0010】
ここでもHIFUの照射制御のためのモニタリングが求められるが、磁気共鳴画像(MRI)装置と組み合わせるような大規模なモニタリングシステムを導入することは操作性の観点や、コスト等で多くの問題があり、より簡便な方法を求められている。
【0011】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、患部としての骨表面へ集束超音波を与えて骨や関節の疼痛緩和や治療を行う治療システムであって、その照射強度制御を行うためのモニタリング機能を備えた超音波治療システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者は、膝関節症のような関節症のHIFUによる患部の焼灼による治療や疼痛緩和(骨疼痛緩和)では、該患部の温度変化のモニタリングを少なくともできれば良いことを考慮した。鋭意その研究を進める中で、患部からの電磁波の変化で温度をモニタリングできるとともに、この電磁変化が患部の焼灼による変性によっても生じることを見いだしてなされたものである。
【0013】
すなわち、本発明による集束超音波を患部に与えて治療を行うための超音波治療システムは、患部としての骨表面へその近傍の皮膚上から集束超音波を与えて該患部の治療を行うための超音波治療システムであって、前記皮膚上に与えられて前記集束超音波を前記患部に向けて照射する集束超音波付与部と、前記患部の温度計測を与える温度計測部と、を含み、前記温度計測部は、前記集束超音波の照射部から放射される電磁波の強度を計測する電磁波計測部と、前記電磁波計測部の前記電磁波の変化を解析し前記患部の温度を与える解析部と、を含み、前記解析部は、前記集束超音波付与部から与えられる前記集束超音波の打ち出し波とこの前記骨表面からの反射波との一対に対応し、時間遅れを有して前記電磁波計測部で計測される一対の電磁変化の参照波の間にある電磁変化から前記患部の温度を与えることを特徴とする。
【0014】
かかる発明によれば、患部としての骨表面へその近傍の皮膚上から集束超音波を与えての治療において、大規模な計測手段を用いずとも、電磁変化、例えば、電磁波強度変化から患部の温度をモニタリングでき、該患部への集束超音波の正確な照射強度の制御を可能とするのである。
【0015】
上記した発明において、前記集束超音波付与部は、前記打ち出し波をバースト波として与えられることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、参照波を明瞭にできてこの間にある電磁変化を正確に分離できて、より確度の高い温度モニタリングをできるのである。
【0016】
上記した発明において、前記集束超音波付与部は、前記バースト波に続いて、前記患部の焼灼を与える連続波を与えることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、参照波を明瞭にしこの間の電磁変化を正確に分離できて、より確度の高い温度モニタリングをできるとともに、患部の焼灼される程度を幅広く制御出来るのである。
【0017】
上記した発明において、前記解析部は、前記電磁変化を温度にあらかじめ対応付けて得ておき、前記電磁波計測部から与えられる前記電磁変化から前記患部の温度を与えることを特徴としてもよい。また、前記解析部は、前記電磁変化を既知の骨組織の変性温度にあらかじめ対応付けておき、前記患部の温度として前記変性温度を与えることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、骨組織であるコラーゲン組織からゼラチン質への変性における電磁波強度変化から、特に、皮質骨、関節治療に適した患部の温度モニタリングをできるとともに、少なくとも変性の完了が電磁変化に現れるため、焼灼の完了を明確に得られ、該患部への集束超音波の正確な照射強度の制御を可能とするのである。
【0018】
上記した発明において、前記変性温度は、前記骨組織の一部のコラーゲン組織の変性によることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、特に、骨の変性温度である約50〜60℃の温度範囲の温度モニタリングをできるのである。
【0019】
上記した発明において、前記集束超音波付与部は、前記患部の温度に対応して前記集束超音波を制御して照射することを特徴としてもよい。かかる発明によれば、患部の状態を反映した集束超音波の正確な照射強度の制御を可能とするのである。
【0020】
上記した発明において、前記電磁波計測部はコイルを含み、前記集束超音波付与部は前記コイル内部を通過させて前記集束超音波を前記患部に与えるトランスデューサー部を含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、超音波治療システムに大規模な計測手段を設けずとも、患部への集束超音波の照射強度制御を行うための該患部の温度モニタリングを可能とするのである。
【0021】
上記した発明において、前記コイルが前記患部の近傍の皮膚表面に押し付けられるようになっていることを特徴としてもよい。また、前記コイルはこの中を前記集束超音波のビーム軸線を通過させるように配置されていることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、骨組織であるコラーゲン組織からゼラチン質への変性における電磁波強度が非常に小さくとも、発生する電磁波を効率良く受信することが可能であり、参照電磁波の変化及び計測電磁波の変化を正確に分離、計測できて、より確度の高い温度モニタリングをできるのである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明による超音波治療システムを示すブロック図である。
【
図2】本発明に用いられるアプリケータを示す図である。
【
図3】本発明によりアプリケータで計測される電圧信号の例を示すチャートである。
【
図4】患部とセンサコイルとの距離に対する計測される電圧値の変化を示すグラフである。
【
図5】集束超音波の軸線に対するセンサコイルの傾き角度と計測される電磁波の変化についての関係を示すグラフである。
【
図6】電磁波の変化と温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の1つの実施例としての温度モニタリング機能を備えた超音波治療システムについて、その詳細を説明するが、まず、原理について説明する。
【0024】
骨組織(皮質骨や軟骨など)は超音波照射によって電磁波を発生することが知られている。一方、骨組織のうちの皮質骨はコラーゲン組織であるオステンからなり、螺旋状のコラーゲン組織は、人間の場合、42℃を変性の開始温度としてゼラチン質(膠質)へと変化し、60℃付近で完全にゼラチン質に変性する。つまり、超音波照射の焦点における温度上昇とともに、骨組織からの電磁波の発生強度もコラーゲン組織の減少につれて連続的に低下し、60℃付近で結晶組織が溶解して電磁波の発生も消滅する。かかる温度上昇と電磁波の発生強度との関係を利用することで、電磁波強度を計測して超音波照射の焦点(照射部)における温度を計測でき、少なくともゼラチン質への変性完了を明確に計測できるのである。つまり、超音波治療において、必要以上に患部の温度を上昇させずに、必要な一定温度まで当該患部を温度上昇させることが可能となるのである。
【0025】
続いて、
図1乃至
図3を参照しつつ、本発明の1つの実施例としての温度モニタリング機能を備えた超音波治療システムについて説明する。
【0026】
図1に示すように、超音波治療システム1は、患部20へ向けて集束超音波を照射するための超音波アプリケータ10内に設置されたトランスデューサー14と、このトランスデューサー14から出力される集束超音波を制御するための入力制御部40と、からなる集束超音波付与部、及び、患部20からの電磁波の検出を行うセンサコイル16と、センサコイル16からの信号を処理する温度検出部50と、からなる温度計測部を含む。ここで、センサコイル16は、アプリケータ10の内部、あるいは外部に設けられる。
【0027】
図1のアプリケータ10の詳細図である
図2を併せて参照すると、アプリケータ10は、水を内部に閉じ込めた水袋となっており、そのケース11の内部にピエゾ素子からなる半球状のトランスデューサー14を収容し、ケース11の凸部11aを皮膚21に密着させ、骨表面22の近傍の患部20に集束超音波Eを与えるようにして用いられる。
【0028】
なお、アプリケータ10内のトランスデューサー14から出力される集束超音波Eを制御するための入力制御部40は公知の各種制御形態のものを用い得る。例えば、トランスデューサー14の駆動回路41と、所望とする出力波形を入力する入力部43と、この入力部43の入力に対応して駆動回路41に信号を送出する制御回路42とを含むものである。
【0029】
また、適宜、診断用超音波プローブ12を与えて超音波診断部45によって患部20の周囲の生体内画像を得られるようにしてもよい。
【0030】
温度検出部50は、患部20からの電磁波の検出を行うセンサコイル16と、この出力電圧をA/D変換して信号波形を得る変換回路部51と、信号波形をフィルタリング処理し、後述するように、この信号を温度に変換する信号処理部判定部52とからなる。
【0031】
また、センサコイル16は、その内部をトランスデューサー14からの集束超音波を通過させるようにアプリケータ10のケース11内又はその外部に与えられる。典型的には、センサコイル16は、アプリケータ10のケース11の凸部11aに与えられ、患部20の近傍の皮膚21に押し付けられるようになっている。これにより、センサコイル16を集束超音波の照射部位の患部近傍に位置させ得るとともに、その主面を集束超音波の進行方向(軸線方向)に垂直に設置できて、後述するセンサコイル16による電磁波の捕捉を確実にできるのである。
【0032】
図3には、トランスデューサー14から集束超音波を患部20に照射したときにセンサコイル16で計測される電圧変化のグラフの一例を示した。なお、(b)は、(a)の波形の一部を拡大したものである。ここで、波形61は入力制御部40からトランスデューサー14に与えた電圧変化を、波形62はセンサコイル16で計測された電磁波に基づく電圧変化を示した。波形61及び62のピーク65は集束超音波の打ち出し波によるもの、ピーク66は患部(照射部)で反射して戻ってきた反射波によるものであり、この打ち出し波及び反射波は時間遅れを有して計測されることになる。なお、波形62のピーク65及び66は明確に観察されなくとも、波形61におけるピーク65及び66の時間によって捕捉することが可能である。
【0033】
特に、
図3(b)に示すように、波形62において、電磁波の変化に対応して参照波とされる波形ピーク65と波形ピーク66との間であって、その時間軸における中間部近傍には、微弱な電磁波の変化(計測電磁波変化)63が観測される。つまり、打ち出し波と反射波が行路を往復するとき、時間軸上で、波形ピーク65と波形ピーク66に対応する時間のほぼ中間時間位置において、集束超音波が患部(照射部)に到達していることになる。このとき発生した電磁波は超音波よりも速度が速いため、直ちに、センサコイル16で捕捉でき、これが電磁波の変化63である。かかる電磁波の変化は患部(照射部)の状態に対応した電磁波強度を有するから、特に、コラーゲン組織の減少を反映するため、コラーゲンの変性による温度情報を得られるのである。
【0034】
このように、まず、波形62の時間軸上で波形ピーク65と波形ピーク66に対応する時間位置を定め、この中間部で参照波をベースラインから分離する。これにより、微少な電磁波の変化(計測電磁波変化)63を分離できて、これを増幅して変化を観察することで患部(照射部)の温度計測をできるようになるのである。
【0035】
ここで、トランスデューサー14に断続的に発振させるバースト波の如きを入力することで、参照電磁波変化としての波形ピーク65及び66とがより明瞭に得られる。また、バースト波と連続波をインターリーブに不連続に繰り返して与えてもよい。バースト波に続いて連続波を与えることで、連続波が患部の焼灼を与える一方、バースト波が温度計測を与えることとなり、焼灼の制御を分離できて、患部の治療の制御性を高め得るのである。
【0036】
上記したように、患部20の骨組織の変性温度、例えば、これが42℃と60℃であれば少なくともこの温度に対する電磁変化が明確に計測される。また、電磁変化に対する温度の検量線を得ておくことで、変性温度の間の温度についても、つまり、患部20の温度を連続的にモニタリングできるのである。かかる骨組織であるコラーゲン組織からゼラチン質への変性に対応する電磁波強度変化からの温度モニタリングは、このような変性に基づく治療、特に、骨や関節の痛み緩和治療に適しているのである。
【0037】
以上述べたシステム及び方法によれば、皮質骨だけでなく、軟骨や腱など、集束超音波照射によって電磁波を発生する物質であれば、温度モニタリングを与えながら集束超音波照射が可能となる。例えば、骨と骨膜の間にある神経を熱破壊するモニタリングが可能となるため、骨転移ガンの痛み緩和、局所的な骨治療において温度管理下の無侵襲痛み緩和治療を可能とするのである。
【0038】
なお、1つのトランスデューサー14に対応してセンサコイル16を設置した例を述べたが、複数のトランジューサで1箇所を焼灼するマルチエレメントトランスデューサー型のアプリケータに複数のセンサコイルを組み込んで同様の温度計測を行うこともでき得る。
【0039】
[実施例]
上記した超音波治療システム1により、集束超音波として1MHzで断続的に発振させたバースト波をブタ大腿骨(皮質骨)の骨片に照射して、電磁波測定による温度測定を行った例を述べる。なお、センサコイル16は、内部を通過する集束超音波の進行を妨げない程度の大きさで線材を巻回して得ている。
【0040】
まず、センサコイル16と患部(骨片)との間の距離の変化に対して測定される電磁波強度に関する予備試験を行った。
【0041】
図4に示すように、センサコイル16から出力される電圧は、センサコイル16と骨片との間の距離の増加によって急激に減少し、電磁波強度が大きく低下することがわかった。すなわち、センサコイル16が患部に近い位置にあることが好ましく、少なくとも、患部からの距離が数mm程度内にあることが好ましい。
【0042】
図5には、トランスデューサー14からの超音波ビームを患部20に照射するとともに、超音波ビームの軸線Aに対するセンサコイル16の角度を変化させたときにセンサコイル16から出力される電圧変化のグラフを表した。電磁波検出感度の比率、すなわち、電圧値は、超音波ビームの軸線Aに対してセンサコイル16の主面を直角に配置したとき(
図5(a)のSP3参照)が最大となる。これを回転させていくと(
図5(a)のSP2参照)、センサコイル16の巻き線が超音波ビームの軸線Aを一時的に横切るため、電圧値は一旦下がるが(
図5(b)のD参照)、センサコイル16の主面を平行となるまで(
図5(a)のSP1参照)連続的に電圧値は下がっていく。つまり、電磁波検出感度を高めるためには、センサコイル16は、集束超音波のビーム軸線方向Aをその主面とするように配置されていることが好ましいのである。
【0043】
次に、
図6には、電磁波強度と患部温度との関係の試験結果を示した。
【0044】
ここでは、55℃から60℃にかけて電磁波強度は急激に低下するが、これがコラーゲン組織の変性による電磁波強度の変化であり、60℃でゼロとなった。患部の焼灼が完全に進行したことをこの電磁波強度の変化で検出できるとともに、逆に、この温度がコラーゲン組織の特性から逆に60℃であることを判定でき得るのである。このような電磁波強度に対する温度の検定線を得ておけば、例えば、500μV/divが観察されたとき、患部温度は約55℃、また、700μV/divが観察されたときは約45℃と判るのである。
【0045】
ここまで本発明による代表的実施例及びこれに基づく改変例について説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例を見出すことができるだろう。
【符号の説明】
【0046】
1 超音波治療システム
10 アプリケータ
11 ケース
14 トランスデューサー
16 センサコイル
20 患部
40 入力制御部
41 駆動回路
43 入力部
45 超音波診断部
50 温度検出部
51 変換回路部
52 信号処理判定部