特許第6828973号(P6828973)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6828973
(24)【登録日】2021年1月25日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】バルク弾性波共振器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 3/02 20060101AFI20210128BHJP
【FI】
   H03H3/02 B
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-3090(P2017-3090)
(22)【出願日】2017年1月12日
(65)【公開番号】特開2018-113601(P2018-113601A)
(43)【公開日】2018年7月19日
【審査請求日】2019年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山崎 王義
【審査官】 橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−117669(JP,A)
【文献】 特開2002−198758(JP,A)
【文献】 特開2009−212620(JP,A)
【文献】 特開平08−213449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H9/00−9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルク弾性波共振器の製造方法であって、
支持基板となるシリコン基板を用意する工程と、
前記バルク弾性波共振器のキャビティ部形成予定領域の前記シリコン基板表面を被覆するように、シリコン窒化膜をパターニングする工程と、
該シリコン窒化膜をマスクとして使用し、露出する前記シリコン基板表面を選択的に熱酸化して熱酸化膜を形成し、前記シリコン窒化膜と前記熱酸化膜表面を平坦化する工程と、
該平坦化されたシリコン窒化膜および前記熱酸化膜表面に、下部電極膜、圧電膜および上部電極膜を積層形成する工程と、
前記キャビティ部形成予定領域の前記上部電極膜、前記圧電膜および前記下部電極膜の一部を除去して開口部を形成し、該開口部の底面に前記シリコン窒化膜表面の一部を露出させる工程と、
前記開口部を通して、前記シリコン窒化膜をドライエッチング法により除去し、前記キャビティ部を形成する工程と、を含むことを特徴とするバルク弾性波共振器の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のバルク弾性波共振器の製造方法において、
前記シリコン窒化膜は、側面が傾斜した形状にパターニングされていることを特徴とするバルク弾性波共振器の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2いずれか記載のバルク弾性波共振器の製造方法において、
前記熱酸化膜形成予定領域の前記シリコン基板表面の一部をエッチング除去した後、前記熱酸化膜を形成する工程を含むことを特徴とするバルク弾性波共振器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルク弾性波共振器の製造方法に関し、特に量産に適した製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンの世界的な普及や、ウェアラブルやIoT(Internet of Things)と通称されるマイクロ波を用いた無線通信サービスの留まることのない旺盛な需要の拡大に伴い、限られた資源である電波(マイクロ波)を有効に利用するため、空間にあふれるマイクロ波の中から必要な周波数の電波を選択的に抽出することが求められている。例えば、現在、2.5GHz帯以下の周波数帯だけでなく、3GHz以上の高周波帯を利用するサービスも拡大しており、所定の周波数帯域の電波を選択的に抽出するため高周波フィルタが使用されている。この種の高周波フィルタでは、温度ドリフトがなく、急峻なスカート特性を有する等、高性能化が要求されている。
【0003】
また、世界各地で使用されている周波数帯域に対応できるようにするため、1台のスマートフォンに10個を超える高周波フィルタが搭載されるようになり、小型でフィルタ特性に優れていることから、高周波フィルタとしてSAW(表面弾性波)共振器が多用されている。
【0004】
一方、SAW共振器では3GHz以上の高周波帯域や広い通過帯域を実現するには限界があり、高性能を要求されるフィルタにはバルク弾性波(BAW)共振器が使われるようになってきている。今後、3GHz帯以上の高周波帯でも、使用される周波数帯域が込み合ってくるとの予測を踏まえると、バルク弾性波共振器の需要はさらに拡大することが期待される。
【0005】
従来のバルク弾性波共振器は次のように形成される。まず、支持基板となるシリコン基板1を用意し、シリコン基板1表面の一部をエッチング除去して凹部2を形成する。その後、凹部2内に犠牲層3を充填する。この凹部2への犠牲層3の充填は、例えば犠牲層3としてリン酸シリケートガラス(PSG)を使用する場合には、凹部2内にPSGが十分に充填され、表面を平坦化した状態でエッチバックすることで、図5に示すように表面が平坦化された犠牲層3が形成できる。ここで、後述する圧電膜5を形成する際、圧電膜が所望の結晶構造となるように成長させるため、表面を平坦化することが重要となる。そのため、凹部2以外のシリコン基板1表面にも厚くリン酸シリケートガラスを積層してエッチバックする必要があり、エッチバック工程に長い時間を要していた。
【0006】
次に、シリコン基板1表面に下部電極膜4、圧電膜5および上部電極膜6を積層し、それぞれ所望のパターニングを行う。その後、後述するキャビティ部を形成するために上部電極膜6、圧電膜5および下部電極膜4の一部をエッチング除去し、開口部7を形成し、開口部7の底面に犠牲層3の表面の一部を露出させる(図6)。この開口部7の数、配置位置等は、次の工程で犠牲層3を除去できるように適宜設定されている。
【0007】
開口部7を通してエッチング液を供給し犠牲層3を選択的に除去する。犠牲層3が除去された空間がキャビティ部8となり、バルク弾性波共振器が完成する(図7)。(特許文献1、2)
【0008】
ところで従来の製造方法では、犠牲層3を除去する際ウエットエッチング法が採用されており、量産には適していなかった。また、温度補償型のバルク弾性波共振器を形成する場合には、図8に示すように温度補償膜9を付加することが必要である。この温度補償膜9は、犠牲層3を除去する工程の前に積層形成されるため、犠牲層3をエッチング除去する際にエッチングされない材料を使用しなければならない。例えば、犠牲層3のエッチング除去の際、フッ酸系のエッチング液を使用する場合、温度補償膜として汎用的に使用されているシリコン酸化膜を使用することができず、特殊な材料を用意しなければならないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3878032号公報
【特許文献2】特許第5047594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のバルク弾性波共振器の製造方法は、犠牲層を除去する際、量産に適さないウエットエッチング法が採用されていた。また犠牲層のエッチングの際、温度補償膜がエッチングされてしまうことがないように犠牲層と温度補償膜の材料を選定する必要があり、制約の多い製造方法であった。本発明はこれらの問題点を解消し、量産性に優れ、一般的に使用されているシリコン酸化膜を温度補償膜として使用することができるバルク弾性波共振器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係るバルク弾性波共振器の製造方法は、バルク弾性波共振器の製造方法であって、支持基板となるシリコン基板を用意する工程と、前記バルク弾性波共振器のキャビティ部形成予定領域の前記シリコン基板表面を被覆するように、シリコン窒化膜をパターニングする工程と、該シリコン窒化膜をマスクとして使用し、露出する前記シリコン基板表面を選択的に熱酸化して熱酸化膜を形成し、前記シリコ
ン窒化膜と前記熱酸化膜表面を平坦化する工程と、該平坦化されたシリコン窒化膜および前記熱酸化膜表面に、下部電極膜、圧電膜および上部電極膜を積層形成する工程と、前記キャビティ部形成予定領域の前記上部電極膜、前記圧電膜および前記下部電極膜の一部を除去して開口部を形成し、該開口部の底面に前記シリコン窒化膜表面の一部を露出させる工程と、前記開口部を通して、前記シリコン窒化膜をドライエッチング法により除去し、前記キャビティ部を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
本願請求項2に係る発明は、請求項1記載のバルク弾性波共振器の製造方法において、前記シリコン窒化膜は、側面が傾斜した形状にパターニングされていることを特徴とする。
【0013】
本願請求項3に係る発明は、請求項1または2いずれか記載のバルク弾性波共振器の製造方法において、前記熱酸化膜形成予定領域の前記シリコン基板表面の一部をエッチング除去した後、前記熱酸化膜を形成する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、犠牲層としてシリコン窒化膜を選択することで、量産性に優れたドライエッチング方法により簡便に除去することが可能となる。特にシリコン窒化膜は、温度補償膜として汎用的に使用されているシリコン酸化膜に対して選択除去可能であり、温度補償型バルク弾性波共振器の製造方法として利点がある。
【0015】
また、犠牲層となるシリコン窒化膜は、熱酸化膜のマスク膜として使用することで、エッチバック工程がなく、あるいはエッチバックを必要とする場合でもわずかな段差が残る表面を平坦化すればよく、非常に簡便な製造方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施例のバルク弾性波共振器の製造方法の説明図である。
図2】本発明の実施例のバルク弾性波共振器の製造方法の説明図である。
図3】本発明の実施例のバルク弾性波共振器の製造方法の説明図である。
図4】本発明の実施例のバルク弾性波共振器の製造方法の説明図である。
図5】従来のバルク弾性波共振器の製造方法の説明図である。
図6】従来のバルク弾性波共振器の製造方法の説明図である。
図7】従来のバルク弾性波共振器の製造方法の説明図である。
図8】従来のバルク弾性波共振器の製造方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、バルク弾性波共振器を簡便に形成することができる製造方法であり、特に、キャビティ部を簡便に形成することができる製造方法である。以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
本発明の第1の実施例について、その製造工程に従い詳細に説明する。まず、シリコン基板1上にシリコン窒化膜10を堆積させる。その後、バルク弾性波共振器の振動部を形成するためのキャビティ部形成予定領域を残してシリコン窒化膜10をエッチング除去する。シリコン窒化膜10の厚さは1ミクロン程度とする。ここで、シリコン窒化膜10の側壁は、垂直形状ではなく、図1に示すように、傾斜した形状、例えば逆テーパー形状とするのが好ましい。側壁が傾斜した形状のシリコン窒化膜は、堆積条件を適宜設定することで、エッチングレートの異なる膜を積層することが可能となり、簡便に形成することができる。また、露出するシリコン基板1表面を0.5ミクロン程度エッチング除去しておく(図1)。
【0019】
次に、シリコン窒化膜10をマスクとして使用して熱酸化することにより、約4ミクロンの膜厚の熱酸化膜11を形成する。なお、シリコン窒化膜10は、熱酸化膜のマスクとして使用するため、シリコン基板1上に別のシリコン酸化膜を形成し、このシリコン酸化膜上に形成しても問題ない。
【0020】
熱酸化膜11を形成した後のシリコン基板1表面は、図2に示すようにシリコン酸化膜とシリコン窒化膜10の表面が平坦化される。これは、シリコン基板1表面のシリコンが熱酸化されることでその体積が膨張し、エッチングされたシリコン基板1表面を充填するためである。なお、図2に示すシリコン窒化膜10の側壁は、逆テーパー形状に傾斜した形状となっているが、順テーパー形状とした場合でも同様に平坦化される。順テーパー形状とした場合、熱酸化膜11がわずかに内側に入り込むことになる。熱酸化膜の形成条件等は、表面が平坦化するように適宜設定すればよい。
【0021】
なお、熱酸化膜の形成条件等により、表面の平坦化が難しい場合は、通常のエッチバック法により平坦化しても問題ない。この場合、従来例で説明した凹部2の深さに相当する段差に比べて小さい凹凸を平坦化すればよく、平坦化の工程は短縮することが可能となる。
【0022】
次に、バルク弾性波共振器を構成する多層膜を形成する。この多層膜は、キャビティ部形成予定領域となるシリコン窒化膜10上を覆い、熱酸化膜11に達するように形成する。多層膜は一例として、モリブデン(Mo)からなる下部電極膜4、窒化アルミニウム(AlN)からなる圧電膜5、ついてシリコン酸化膜からなる温度補償層9、最後にモリブデンなどからなる上部電極膜6をそれぞれ、例えばスパッタ堆積法とドライエッチング工程を組み合わせて積層形成する。なお、シリコン酸化膜9は温度補償が必要な場合に形成すれば良く、必須な構成要素ではない。また、これら多層膜を構成する各膜の厚さは、バルク弾性波共振器として所望の特性が得られるように適宜設定される。その後、ドライエッチング法により、多層膜の一部をエッチング除去し、シリコン窒化膜10表面の一部を露出する開口部7を形成する(図3)。開口部7の数、配置位置は適宜設定すればよい。
【0023】
その後、フッ素系のガスを用いた等方的なドライエッチング法であるプラズマエッチング法により、開口部7を介してシリコン窒化膜10をエッチング除去する。その結果、キャビティ部8が形成される(図4)。
【0024】
以上説明したように本発明によれば、熱酸化膜を形成する工程により平坦な表面を形成することができ、簡便な製造方法である。また、ドライエッチング法により犠牲層に相当するシリコン窒化膜10を選択除去する構成とすることで、量産性に優れた製造方法となる。
【0025】
まお、本発明は上記実施例に限定されるものでないことは言うまでもない。具体的には、圧電膜として窒化アルミニウムに限定されるものでなく、窒化スカンジウムアルミニウム(Al1-xScxN)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)も利用することが可能である。また、上部電極膜あるいは下部電極膜は、モリブデン(Mo)の代わりに、プラチナ(Pt)、チタン(Ti)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)等の金属薄膜で形成することができる。同様に、温度補償膜として使用する金属膜についても、モリブデン(Mo)の代わりに、プラチナ(Pt)、チタン(Ti)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)等の金属薄膜で形成することができる。
【0026】
また、温度補償膜は、上部電極膜6の直下に配置する場合に限らず、さらに多層膜で構成しても良い。
【符号の説明】
【0027】
1:シリコン基板、2:凹部、3:犠牲層、4:下部電極膜、5:圧電膜、6:上部電極膜、7:開口部、8:キャビティ部、9:温度補償膜、10:シリコン窒化膜、11:熱酸化膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8