特許第6829462号(P6829462)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6829462
(24)【登録日】2021年1月26日
(45)【発行日】2021年2月10日
(54)【発明の名称】液状エポキシ樹脂封止材
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20210128BHJP
   C08G 59/50 20060101ALI20210128BHJP
   C08K 5/134 20060101ALI20210128BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20210128BHJP
   C09K 15/08 20060101ALI20210128BHJP
   H01L 21/56 20060101ALI20210128BHJP
【FI】
   C08L63/00 C
   C08G59/50
   C08K5/134
   C09K3/10 L
   C09K3/10 Q
   C09K15/08
   H01L21/56 E
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-29912(P2017-29912)
(22)【出願日】2017年2月21日
(65)【公開番号】特開2018-135429(P2018-135429A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2019年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(72)【発明者】
【氏名】捧 望
(72)【発明者】
【氏名】細野 洋平
【審査官】 岸 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−113565(JP,A)
【文献】 特開2006−169395(JP,A)
【文献】 特開2009−124126(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/065365(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00
C08G 59/50
C08K 5/134
C09K 3/10
C09K 15/08
H01L 21/56
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)液状エポキシ樹脂、(B)アミン硬化剤、(C)無機充填剤、および、(D)下記式で示される酸化防止剤を含有し、(A)液状エポキシ樹脂と(B)アミン硬化剤の合計を100質量部とした時、前記(D)酸化防止剤を0.5〜10質量部含むことを特徴とする液状エポキシ樹脂封止材。
【化1】
【請求項2】
前記(B)アミン硬化剤が、3,5−ジエチルトルエン−2,4−ジアミン、および3,5−ジエチルトルエン−2,6−ジアミンを含む、請求項1に記載の液状エポキシ樹脂封止材。
【請求項3】
前記(C)無機充填剤の添加量が、液状エポキシ樹脂封止材の全量に対して55〜70質量部である、請求項1または2に記載の液状エポキシ樹脂封止材。
【請求項4】
(A)液状エポキシ樹脂と、(B)アミン硬化剤との当量比が、0.7〜1.2である、請求項1〜3のいずれかに記載の液状エポキシ樹脂封止材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の液状エポキシ樹脂封止材を用いて封止されたフリップチップ型半導体素子を有する半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンダーフィルとして用いられる液状エポキシ樹脂封止材に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、軽量化、高性能化に伴い半導体の実装形態がワイヤーボンド型からフリップチップ型へと変化してきている。
フリップチップ型の半導体装置は、バンプ電極を介して基板上の電極部と半導体素子とが接続された構造を持っている。この構造の半導体装置は、温度サイクル等の熱付加が加わった際に、エポキシ樹脂等の有機材料製の基板と、半導体素子と、の熱膨張係数の差によってバンプ電極に応力がかかり、バンプ電極にクラック等の不良が発生することが問題となっている。この不良発生を抑制するためにアンダーフィルと呼ばれる半導体封止材を用いて、半導体素子と基板との間のギャップを封止し、両者を互いに固定することによって、耐サーマルサイクル性を向上させることが広く行われている。
【0003】
アンダーフィル材の供給方法としては、半導体素子と、基板上の電極部と、を接続させた後、半導体素子の外周に沿ってアンダーフィル材を塗布(ディスペンス)し、毛細管現象を利用して、両者の間隙にアンダーフィル材を注入するキャピラリーフローが一般的である。アンダーフィル材の注入後、該アンダーフィル材を加熱硬化させることで両者の接続部位を補強する。
【0004】
アンダーフィル材は、注入性、接着性、硬化性、保存安定性等に優れることが求められる。また、アンダーフィル材で封止した部位が、耐湿性、耐サーマルサイクル性等に優れることが求められる。
【0005】
上記の要求を満足するため、アンダーフィルとして用いられる液状封止材としては、エポキシ樹脂を主剤とするものが広く用いられている。
液状封止材によって封止した部位の耐湿性および耐サーマルサイクル性、特に耐サーマルサイクル性を向上させるためには、シリカフィラーのような無機物質からなる充填材(以下、「フィラー」という。)を液状封止材に添加することにより、エポキシ樹脂等の有機材料製の基板と、半導体素子と、の熱膨張係数差のコントロールを行うことや、バンプ電極を補強することが有効であることが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−130374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、液状封止材によって封止した部位については、耐サーマルサイクル性の向上が課題であった。耐サーマルサイクル性が不十分であると、半導体素子と、基板上の電極部と、の界面でのクラックの発生が問題となる。
本願出願人は、耐サーマルサイクル性の向上させた場合でも、100℃以上の高温有酸素下でアンダーフィル硬化物を放置した場合に、耐サーマルサイクル試験時とは異なる特異なフィレットクラックが観察される場合があることを見出した。このフィレットクラックは、アンダーフィル硬化物の表面から厚み方向に進行する。このようなクラックが発生すると、アンダーフィルとしての機能が損なわれるため問題となる。
【0008】
本発明は、上記した従来技術における問題点を解決するため、高温有酸素下でアンダーフィル硬化物を放置した際のフィレットクラックの発生を抑制することができる液状エポキシ樹脂封止材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のフィレットクラックは高温有酸素下で発生するが、同程度の温度に保持しても窒素下では発生しない。そのため、有酸素熱劣化がフィレットクラック発生の原因と推察される。
本願発明者らは、有酸素熱劣化によるフィレットクラックの発生を抑制するため、ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加を試みた。ヒンダードフェノール系酸化防止剤を選択した理由は以下に記載する通り。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤は一次酸化防止剤に分類され、自動酸化で生成したラジカルに優れた酸化防止能を有し直接的に作用する。一次酸化防止剤にはヒンダードアミン系酸化防止剤もあるが着色が問題となる。一方、リン系酸化防止剤とイオウ系酸化防止剤は二次酸化防止剤に区分され過酸化物分解能を有する。これは一次酸化防止剤によってラジカルから変換された過酸化物に対して作用するため一次酸化防止剤と併用されることが多い。
【0010】
有酸素熱劣化反応では、初期段階のラジカルR・発生から反応活性なペルオキシラジカルROO・が生成しラジカル連鎖反応が進行していく。ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、下記式に示すように、このペルオキシラジカルを捕捉し準安定なヒドロペルオキシドROOHに変換する作用がある。
【化1】
【0011】
本願発明者らは、鋭意検討した結果、有酸素熱劣化によるフィレットクラックの発生を抑制するためには、特定の構造のヒンダードフェノール系酸化防止剤を添加する必要があることを見出した。
本願発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、(A)液状エポキシ樹脂、(B)アミン硬化剤、(C)無機充填剤、および、(D)下記式で示される酸化防止剤を含有し、(A)液状エポキシ樹脂と(B)アミン硬化剤の合計を100質量部とした時、前記(D)酸化防止剤を0.5〜10質量部含むことを特徴とする液状エポキシ樹脂封止材を提供する。
【化2】
【0012】
本発明の液状エポキシ樹脂封止材において、(B)アミン硬化剤が、3,5−ジエチルトルエン−2,4−ジアミン、および3,5−ジエチルトルエン−2,6−ジアミンを含むことが好ましい。
【0013】
本発明の液状エポキシ樹脂封止材において、(C)無機充填剤の添加量が、液状エポキシ樹脂封止材の全量に対して55〜70質量部であることが好ましい。
(A)液状エポキシ樹脂と、(B)アミン硬化剤との当量比が、0.7〜1.2であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、本発明の液状エポキシ樹脂封止材を用いて封止されたフリップチップ型半導体素子を有する半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の液状エポキシ樹脂封止材では、有酸素熱劣化によるフィレットクラックの発生が抑制されている。
また、本発明の液状エポキシ樹脂封止材は、室温での保存安定性が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の液状エポキシ樹脂封止材は、以下に示す(A)〜(D)成分を必須成分として含有する。
【0017】
(A)液状エポキシ樹脂
(A)成分の液状エポキシ樹脂は、本発明の液状エポキシ樹脂封止材の主剤をなす成分である。
本発明において、液状エポキシ樹脂とは常温で液状のエポキシ樹脂を意味する。
本発明における液状エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の平均分子量が約400以下のもの;p−グリシジルオキシフェニルジメチルトリスビスフェノールAジグリシジルエーテルのような分岐状多官能ビスフェノールA型エポキシ樹脂;ビスフェノールF型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂の平均分子量が約570以下のもの;ビニル(3,4−シクロヘキセン)ジオキシド、3,4−エポキシシクロヘキシルカルボン酸(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル、アジピン酸ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)5,1−スピロ(3,4−エポキシシクロヘキシル)−m−ジオキサンのような脂環式エポキシ樹脂;3,3´,5,5´−テトラメチル−4,4´−ジグリシジルオキシビフェニルのようなビフェニル型エポキシ樹脂;ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジル、3−メチルヘキサヒドロフタル酸ジグリシジル、ヘキサヒドロテレフタル酸ジグリシジルのようなグリシジルエステル型エポキシ樹脂;ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、テトラグリシジルビス(アミノメチル)シクロヘキサンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂;ならびに1,3−ジグリシジル−5−メチル−5−エチルヒダントインのようなヒダントイン型エポキシ樹脂;ナフタレン環含有エポキシ樹脂が例示される。また、1,3−ビス(3−グリシドキシプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンのようなシリコーン骨格をもつエポキシ樹脂も使用することができる。さらに、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールジグルシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルのようなジエポキシド化合物;トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテルのようなトリエポキシド化合物等も例示される。
中でも好ましくは、液状ビスフェノール型エポキシ樹脂、液状アミノフェノール型エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂である。さらに好ましくは液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂、p−アミノフェノール型液状エポキシ樹脂、1,3−ビス(3−グリシドキシプロピル)テトラメチルジシロキサンである。
(A)成分としての液状エポキシ樹脂は、単独でも、2種以上併用してもよい。
また、常温で固体のエポキシ樹脂であっても、液状のエポキシ樹脂と併用することにより、混合物として液状を示す場合は用いることができる。
【0018】
(B)アミン硬化剤
本発明の液状エポキシ樹脂封止材では、エポキシ樹脂の硬化剤として、アミン硬化剤を使用する。その理由は耐湿性および耐サーマルサイクル性に優れるからである。
アミン硬化剤としては、特に限定されず、公知のアミン硬化剤から幅広く選択することができる。
アミン硬化剤の具体例としては、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタミン、m−キシレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミンなどの脂肪族ポリアミン、イソフォロンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2−ジアミノシクロヘキサンなどの脂環式ポリアミン、N−アミノエチルピペラジン、1,4−ビス(2−アミノ−2−メチルプロピル)ピペラジンなどのピペラジン型のポリアミン、3,5−ジエチルトルエン−2,4−ジアミン、3,5−ジエチルトルエン−2,6−ジアミン等のジエチルトルエンジアミン、ジメチルチオトルエンジアミン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチルジフェニルメタン、ビス(メチルチオ)トルエンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ジエチルトルエンジアミン、トリメチレンビス(4−アミノベンゾエート)、ポリテトラメチレンオキシド−ジ−p−アミノベンゾエートなどの芳香族ポリアミン類が挙げられる。また、市販品として、T−12(商品名、三洋化成工業製)(アミン当量116)が挙げられる。
【0019】
これらの中でも、3,5−ジエチルトルエン−2,4−ジアミン、3,5−ジエチルトルエン−2,6−ジアミンを含むことが、添加した液状樹脂封止材のガラス転移点(Tg)を高く設定でき、液状樹脂封止材を低粘度化することができるため好ましい。
【0020】
(B)成分のアミン硬化剤は、単独でも、2種以上併用してもよい。
【0021】
本発明の液状エポキシ樹脂封止材において、(B)成分のアミン硬化剤の配合割合は特に限定されないが、(A)成分のエポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して、0.7〜1.2当量であることが好ましく、0.7〜1.1当量であることがより好ましい。
【0022】
(C):無機充填剤
(C)成分の無機充填剤は、封止した部位の耐湿性および耐サーマルサイクル性、特に耐サーマルサイクル性を向上させる目的で液状エポキシ樹脂封止材に添加される。無機充填剤の添加により耐サーマルサイクル性が向上するのは、線膨張係数を下げることにより、サーマルサイクルによる、液状エポキシ樹脂封止材の硬化物の膨張・収縮を抑制できるからである。
【0023】
(C)成分の無機充填剤は、添加により線膨張係数を下げる効果を有するものである限り特に限定されず、各種無機充填剤を使用することができる。具体的には非晶質シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、チッ化ホウ素、チッ化アルミニウム、チッ化珪素等が挙げられる。
これらの中でも、シリカ、特に、非晶質の球状シリカが、本発明の液状エポキシ樹脂封止材をアンダーフィルとして使用した際に流動性に優れ、硬化物の線膨張係数を低減できることから望ましい。
なお、ここで言うシリカは、製造原料に由来する有機基、例えば、メチル基、エチル基等のアルキル基を有するものであってもよい。
非晶質の球状シリカは、溶融法、燃焼法、ゾルゲル法など、公知の製造方法によって得られるが、所望の粒度や不純物含有量、表面状態などの特性に応じて、その製造方法を適宜選択することができる。
また、無機充填剤として用いるシリカとしては、特開2007−197655号公報に記載の製造方法によって得られたシリカ含有組成物を用いてもよい。
【0024】
また、無機充填剤は、シランカップリング剤等で表面処理が施されたものであってもよい。表面処理が施された無機充填剤を使用した場合、無機充填剤の凝集を防止する効果が期待される。これにより、本発明の液状エポキシ樹脂封止材の保存安定性の向上が期待される。
【0025】
(C)成分としての無機充填剤は、平均粒径が0.1〜10μmであることが好ましく、0.2〜2μmであることがより好ましい。
ここで、無機充填剤の形状は特に限定されず、球状、不定形、りん片状等のいずれの形態であってもよい。なお、無機充填剤の形状が球状以外の場合、無機充填剤の平均粒径とは該無機充填剤の平均最大径を意味する。
【0026】
(C)成分の無機充填剤の含有量は、エポキシ樹脂封止材の全量、すなわち、全成分の合計100質量部に対して、55〜70質量部であることが好ましい。55〜70質量部であると、液状エポキシ樹脂封止材をアンダーフィルとして使用する場合に、液状エポキシ樹脂封止材の線膨張係数を下げることができ、かつ注入性の悪化をさけることができる。より好ましくは60〜70質量部である。
【0027】
(D):下記式で示される酸化防止剤
【化3】

上述したように、有酸素熱劣化反応では、初期段階のラジカルR・発生から反応活性なペルオキシラジカルROO・が生成しラジカル連鎖反応が進行していく。ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、このペルオキシラジカルを捕捉し準安定なヒドロペルオキシドROOHに変換する作用がある。
本願発明者らは、ヒンダードフェノール系酸化防止剤の中でも、上記式で示される酸化防止剤を添加することにより、有酸素熱劣化によるフィレットクラックの発生が抑制されることを見出した。この点については、後述する実施例において、他の構造のヒンダードフェノール系酸化防止剤を添加した場合との比較により確認されている。
上記式で示される酸化防止剤を添加することにより、有酸素熱劣化によるフィレットクラックの発生が抑制される理由は明らかではないが、以下の理由が推測される。
上記式で示される酸化防止剤は、炭素原子に対し4つのヒンダードフェノール基が結合しているため、ペルオキシラジカルを捕捉し準安定なヒドロペルオキシドROOHに変換する作用が高いと推測する。そのため、有酸素熱劣化の進行を抑制する効果が高く、それによりフィレットクラックの発生を抑制することができると推測する。
【0028】
本発明の液状エポキシ樹脂封止材は、(A)液状エポキシ樹脂と(B)アミン硬化剤の合計を100質量部とした時、(D)酸化防止剤を0.5〜10質量部含む。
(D)酸化防止剤が0.5質量部未満だと、有酸素熱劣化によるフィレットクラックの発生を抑制することができない。(D)酸化防止剤が10質量部超だと、常温での保存安定性が低下し、ポットライフが短くなる。
(D)酸化防止剤を0.5〜5質量部含むことが好ましい。
【0029】
(その他の配合剤)
本発明の液状エポキシ樹脂封止材は、上記(A)〜(D)成分以外の成分を必要に応じてさらに含有してもよい。
このような成分の具体例としては、カップリング剤、レベリング剤、硬化促進剤、表面改質剤、消泡剤、イオントラップ剤、エラストマー、カーボン等の着色剤などを配合することができる。各配合剤の種類、配合量は常法通りである。
【0030】
(液状エポキシ樹脂封止材の調製)
本発明の液状エポキシ樹脂封止材は、上記(A)〜(D)成分、必要に応じて配合するその他の配合剤を混合し、攪拌して調製される。混合攪拌は、ロールミルを用いて行うことができるが、勿論、これに限定されない。(A)成分のエポキシ樹脂が固形の場合には、加熱などにより液状化ないし流動化し混合することが好ましい。
各成分を同時に混合しても、一部成分を先に混合し、残り成分を後から混合するなど、適宜変更しても差支えない。
【0031】
次に本発明の液状エポキシ樹脂封止材の特性について述べる。
【0032】
本発明の液状エポキシ樹脂封止材は、有酸素熱劣化によるフィレットクラックの発生が抑制されている。後述する手順で測定される高温放置試験時のクラック発生数が20本以下であることが好ましく、15本以下であることがより好ましい。
【0033】
本発明の液状エポキシ樹脂封止材は、室温での保存安定性が良好であり、ポットライフに優れている。後述する実施例に記載の手順で測定される増粘率が2倍未満であることが好ましく、1.8倍以下であることがより好ましい。
【0034】
これらの特性により、本発明の液状エポキシ樹脂封止材は、アンダーフィルとして用いるのに好適である。本発明の液状エポキシ樹脂封止材は、キャピラリータイプのアンダーフィル(以下、「キャピラリーアンダーフィル」という。)と、先塗布型のアンダーフィルのいずれにも用いることができる。
また、本発明の液状エポキシ樹脂封止材は、半導体装置の製造時に使用する接着剤にも用いることができる。
【0035】
次に本発明の液状エポキシ樹脂封止材の使用方法を、キャピラリーアンダーフィルとしての使用を挙げて説明する。
本発明の液状エポキシ樹脂封止材をキャピラリーアンダーフィルとして使用する場合、以下の手順で基板と半導体素子との間のギャップに本発明の液状エポキシ樹脂封止材を充填する。
基板をたとえば70〜130℃に加熱しながら、半導体素子の一端に本発明の液状エポキシ樹脂封止材を塗布すると、毛細管現象によって、基板と半導体素子との間のギャップに本発明の液状エポキシ樹脂封止材が充填される。この際、本発明の液状エポキシ樹脂封止材の充填に要する時間を短くするため、基板を傾斜させたり、該ギャップ内外に圧力差を生じさせてもよい。
該ギャップに本発明の液状エポキシ樹脂封止材を充填させた後、該基板を所定温度で所定時間、具体的には、80〜200℃で0.2〜6時間加熱して、液状エポキシ樹脂封止材を加熱硬化させることによって、該ギャップを封止する。
【0036】
本発明の半導体装置は、本発明の液状エポキシ樹脂封止材をアンダーフィルとして使用し、上記の手順で封止部位、すなわち、基板と半導体素子との間のギャップを封止したものである。ここで封止を行う半導体素子としては、集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタおよびダイオードおよびコンデンサ等で特に限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
(実施例1〜12、比較例1〜4)
下記表に示す配合割合となるように、ロールミルを用いて原料を混練して実施例1〜12、比較例1〜4の液状エポキシ樹脂封止材を調製した。なお、表中の各組成に関する数値は質量部を表している。
【0039】
(A)液状エポキシ樹脂
エポキシ樹脂A−1:ビスフェノールF型液状エポキシ樹脂、製品名YDF8170、新日鐵化学株式会社製、エポキシ当量158g/eq
エポキシ樹脂A−2:アミノフェノール型液状エポキシ樹脂、製品名jER630D、三菱化学株式会社製、エポキシ当量94g/eq
(B)アミン硬化剤
アミン硬化剤B−1:3,5−ジエチルトルエン−2,4−ジアミン、および3,5−ジエチルトルエン−2,6−ジアミンを含有、製品名エタキュア100、ALBEMARLE Co.,Ltd.製
アミン硬化剤B−2:4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチルジフェニルメタン、製品名カヤハードA−A(HDAA)、日本化薬株式会社製
アミン硬化剤B−3:ジメチルチオトルエンジアミン(変性芳香族アミンを含む)、製品名EH105L、株式会社ADEKA製
(C)無機充填剤
無機充填剤C−1:シランカップリング剤(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)表面処理シリカフィラー(平均粒径0.5μm)、製品名SE2200−SEE、株式会社アドマテックス製
無機充填剤C−2:シリカカップリング剤(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)表面処理シリカフィラー(平均粒径1.5μm)、製品名SE5200−SEE、株式会社アドマテックス製
(D)酸化防止剤
酸化防止剤D−1:ヒンダードフェノール系酸化防止剤、製品名IRGANOX1010(下記式)、BASF社製
【化4】

酸化防止剤D−2:ヒンダードフェノール系酸化防止剤、製品名IRGANOX1035(下記式)、BASF社製
【化5】

酸化防止剤D−3:ヒンダードフェノール系酸化防止剤、製品名IRGANOX1076(下記式)、BASF社製
【化6】
【0040】
(初期粘度、1日保管後増粘率)
上記の手順で調製した液状エポキシ樹脂封止材について、ブルックフィールド社製回転粘度計HBDV−1(スピンドルSC4−14使用)用いて、50rpmで25℃における粘度(Pa・s)を測定して初期粘度とした。次に、樹脂組成物を密閉容器に入れて25℃、湿度50%の環境にて1日保管した時点における粘度を同様の手順で測定し、調製直後の粘度に対する倍率を算出して、ポットライフの指標となる増粘率(1日保管後増粘率)を求めた。
【0041】
(高温放置試験)
ソルダレジスト(PSR−4000 AUS703)を塗布した高耐熱(High−Tg)FR−4基板(基板サイズ30mm×30mm×厚さ0.8mm)上に、PIパッシベーションダイ(ダイサイズ10mm×10mm×厚さ0.725mm)、Sn/3Ag/0.5Cuバンプ(バンプピッチ150μm、バンプ数3721)を形成させたテストエレメントグループ(TEG)を使用し、上記の手順で得られた液状エポキシ樹脂封止材をダイ部分に注入し、150℃で120分間加熱し液状エポキシ樹脂封止材を硬化させた。大気下、190℃に保持した乾燥機内に1000時間放置した後、フィレットに発生したクラック数を計数した。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
実施例1〜12の液状エポキシ樹脂封止材は、高温放置試験後のクラック発生数が20本以下であり、有酸素熱劣化によるフィレットクラックの発生が抑制されていた。また、1日保管後増粘率が2.0倍未満であり、室温での保存安定性が良好であった。なお、実施例2〜5は、実施例1に対し酸化防止剤D−1の配合割合を変えた実施例である。酸化防止剤D−1の配合割合が多くなると高温放置試験後のクラック発生数が減少するが、1日保管後増粘率が上昇した。酸化防止剤D−1を配合しなかった比較例1は高温放置試験後のクラック発生数が高く29本であった。一方、酸化防止剤D−1を10質量部超配合した比較例2は1日保管後増粘率が2.0と高かった。
酸化防止剤D−1とは異なる構造のヒンダードフェノール系酸化防止剤D−2,D−3を使用した比較例3,4は、酸化防止剤D−1を配合しなかった比較例1よりも高温放置試験後のクラック発生数が高かった。これは、有酸素熱劣化によるフィレットクラックの発生を抑制する効果が低いことに加えて、高温放置試験中に発生した酸化防止剤D−2,D−3の熱分解生成物が悪影響したものと推測する。
実施例6,7は、実施例3に対しアミン硬化剤B−1のエポキシ当量を変えた実施例である。アミン硬化剤B−1のエポキシ当量による高温放置試験後のクラック発生数、および、1日保管後増粘率への影響は認められなかった。
実施例8,9は、実施例3に対し無機充填剤C−1の配合割合を変えた実施例である。実施例1に対し無機充填剤C−1の配合割合を減らした実施例8は高温放置試験後のクラック発生数が増加した。これは、高温放置時における樹脂硬化物の収縮による影響と推測する。
実施例10,11は、実施例4に対し、アミン硬化剤の種類を変えた実施例である。アミン硬化剤B−1を使用した実施例4に対し、実施例10はアミン硬化剤B−1,B−2を併用した実施例であり、実施例11はアミン硬化剤B−1,B−3を併用した実施例である。アミン硬化剤の違いによる高温放置試験後のクラック発生数、および、1日保管後増粘率への影響は認められなかった。
実施例12は、実施例4に対し無機充填剤を変えた実施例である。平均粒径が0.5μmのシリカフィラー(無機充填剤C−1)を使用した実施例4に対し、実施例12は平均粒径が1.5μmのシリカフィラー(無機充填剤C−2)を使用した実施例である。無機充填剤の平均粒径の違いによる高温放置試験後のクラック発生数、および、1日保管後増粘率への影響は認められなかった。