特許第6830731号(P6830731)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ディスコの特許一覧

<>
  • 特許6830731-切削装置 図000002
  • 特許6830731-切削装置 図000003
  • 特許6830731-切削装置 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6830731
(24)【登録日】2021年1月29日
(45)【発行日】2021年2月17日
(54)【発明の名称】切削装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 49/12 20060101AFI20210208BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20210208BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20210208BHJP
   B23Q 17/24 20060101ALI20210208BHJP
【FI】
   B24B49/12
   B24B27/06 M
   H01L21/78 F
   B23Q17/24 B
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-11192(P2017-11192)
(22)【出願日】2017年1月25日
(65)【公開番号】特開2018-118344(P2018-118344A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2019年11月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(72)【発明者】
【氏名】笠井 剛史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 聡
【審査官】 須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−110321(JP,A)
【文献】 特開2010−137309(JP,A)
【文献】 特開2004−261934(JP,A)
【文献】 特開2011−009652(JP,A)
【文献】 米国特許第07495759(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B3/00−3/60
B24B21/00−51/00
B23Q11/00−15/28
B23Q17/00−23/00
B28D1/00−7/04
H01L21/301;21/304;21/463;21/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持面で保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物をスピンドルに装着された切削ブレードで切削する切削ユニットと、該チャックテーブルと該切削ブレードとを該保持面に垂直な切り込み送り方向及び該保持面に平行な加工送り方向に相対移動させる移動ユニットと、該チャックテーブルに保持された被加工物を撮像する撮像ユニットと、各構成要素を制御する制御ユニットと、を備える切削装置であって、
該制御ユニットは、
該切削ユニット及び該移動ユニットを駆動させるアイドリング運転の実施を指示するアイドリング運転指示部と、
該アイドリング運転の前と後とに、該被加工物に対し該切削ブレードを該切り込み送り方向に所定の位置まで移動させ、該被加工物の表面に切削溝を形成させる切削溝形成指示部と、
該撮像ユニットで該被加工物の表面を撮像し、該切削溝の長さを検出する長さ検出を該アイドリング運転の前と後とに実施させる長さ検出指示部と、
該アイドリング運転の前に検出される該切削溝の長さと、該アイドリング運転の後に検出される該切削溝の長さと、の差の閾値を登録する閾値登録部と、
該差が該閾値以上である場合、アイドリング運転が完了したことを確認できないと判定し、該差が該閾値以下である場合、さらなるアイドリング運転が不要と判定する判定部と、を備えることを特徴とする切削装置。
【請求項2】
被加工物を保持面で保持できる第1のチャックテーブルと、検出用の切削溝を形成するための検出用被加工物を保持できる第2のチャックテーブルと、該第1のチャックテーブルに保持された被加工物及び該第2のチャックテーブルに保持された該検出用被加工物をスピンドルに装着された切削ブレードで切削する切削ユニットと、該1のチャックテーブル及び第2のチャックテーブルと該切削ブレードとを該保持面に垂直な切り込み送り方向及び該保持面に平行な加工送り方向に相対移動させる移動ユニットと、該第1のチャックテーブルに保持された被加工物及び該第2のチャックテーブルに保持された検出用被加工物を撮像する撮像ユニットと、各構成要素を制御する制御ユニットと、を備える切削装置であって、
該制御ユニットは、
該切削ユニット及び該移動ユニットを駆動させるアイドリング運転の実施を指示するアイドリング運転指示部と
該アイドリング運転の前と後とに、該検出用被加工物に対し該切削ブレードを該切り込み送り方向に所定の位置まで移動させ、該検出用被加工物の表面に切削溝を形成させる切削溝形成指示部と、
該撮像ユニットで該検出用被加工物の表面を撮像し、該切削溝の長さを検出する長さ検出を該アイドリング運転の前と後とに実施させる長さ検出指示部と、
該アイドリング運転の前に検出される該切削溝の長さと、該アイドリング運転の後に検出される該切削溝の長さと、の差の閾値を登録する閾値登録部と、
該差が該閾値以上である場合、アイドリング運転が完了したことを確認できないと判定し、該差が該閾値以下である場合、さらなるアイドリング運転が不要と判定する判定部と、を備えることを特徴とする切削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハやパッケージ基板、ガラス基板やセラミックス基板等の板状の被加工物を切削加工する切削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デバイスチップの製造プロセスにおいては、シリコンや化合物半導体からなるウェーハの表面にストリートと呼ばれる格子状の分割予定ラインが設定され、該分割予定ラインによって区画される各領域にIC、LSI等のデバイスが形成される。これらのウェーハは分割予定ラインに沿って切削され、個々のデバイスチップに分割される。
【0003】
切削は、例えば、切削ブレードを備える切削装置により実施される。切削ブレードは、中央に孔を有する円環形状であり、被加工物の種別や加工内容によって適切なものが選択され切削装置の切削ユニットに装着される。切削ユニットは、回転の軸となる円柱状のスピンドルを有し、切削ブレードは、該孔に該スピンドルを挿入されて該切削ユニットに装着される。
【0004】
切削装置を使用する際には、まず、該切削装置に電源を投入する。しかし、該切削装置に電源を投入した直後は、該切削装置の各構成要素の温度等の状態が通常の稼働時の温度等の状態にはなっていないため、各構成要素を通常通りに作動させようとしても該切削装置の本来の精度では切削加工を実施できない。そこで、被加工物に対する切削加工を実施する前に、スピンドルを回転させ、切削ブレードに切削液を供給し、切削装置が備えるチャックテーブルや該切削ユニットを移動等させることでアイドリング運転を実施する。
【0005】
被加工物に切削加工を実施する前にアイドリング運転を実施すると、切削装置の各構成要素の温度等が通常の稼働時の状態となり、該切削装置が切削加工を本来の精度で安定的に実施できる状態となる。すると、最初の被加工物に対する切削加工から高い精度で切削加工を実施できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−259961号公報
【特許文献2】特開2002−59365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アイドリング運転が十分に実施されたか否か、切削装置の外観から判断するのは容易ではなく、外観から得られる情報だけでアイドリング運転の終了を決定するのは困難である。そのため、アイドリング運転に要する時間について、一般的には切削装置の製造者が大きく余裕を持たせて推奨時間を設定し、該製造者は該推奨時間を切削装置の使用者に伝達する。そして、切削装置の使用者は該推奨時間に従ってアイドリング運転を実施する。
【0008】
このような事情から、アイドリング運転の該推奨時間が経過する前に必要なアイドリング運転が完了し切削装置が十分な精度で加工可能な状態となる場合がある。しかし、装置の外観からは必要なアイドリング運転の完了を判断できないため、該推奨時間が経過するまではそのままアイドリング運転が過剰に継続されてしまう。
【0009】
また、設定された該推奨時間が、切削装置が設置された環境や切削装置の使用態様に適応しておらず、アイドリング運転を該推奨時間で実施しても必要なアイドリング運転が完了せず、切削装置が十分な精度で加工可能な状態にならないおそれがある。その場合、さらなるアイドリング運転が必要であるにも関わらず、アイドリング運転が終了される。
【0010】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、アイドリング運転の完了を適切に判定でき、アイドリング運転を過不足なく実施できる切削装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、被加工物を保持面で保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物をスピンドルに装着された切削ブレードで切削する切削ユニットと、該チャックテーブルと該切削ブレードとを該保持面に垂直な切り込み送り方向及び該保持面に平行な加工送り方向に相対移動させる移動ユニットと、該チャックテーブルに保持された被加工物を撮像する撮像ユニットと、各構成要素を制御する制御ユニットと、を備える切削装置であって、該制御ユニットは、該切削ユニット及び該移動ユニットを駆動させるアイドリング運転の実施を指示するアイドリング運転指示部と、該アイドリング運転の前と後とに、該被加工物に対し該切削ブレードを該切り込み送り方向に所定の位置まで移動させ、該被加工物の表面に切削溝を形成させる切削溝形成指示部と、該撮像ユニットで該被加工物の表面を撮像し、該切削溝の長さを検出する長さ検出を該アイドリング運転の前と後とに実施させる長さ検出指示部と、該アイドリング運転の前に検出される該切削溝の長さと、該アイドリング運転の後に検出される該切削溝の長さと、の差の閾値を登録する閾値登録部と、該差が該閾値以上である場合、アイドリング運転が完了したことを確認できないと判定し、該差が該閾値以下である場合、さらなるアイドリング運転が不要と判定する判定部と、を備えることを特徴とする切削装置が提供される。
【0012】
また、本発明の他の一態様によれば、被加工物を保持面で保持できる第1のチャックテーブルと、検出用の切削溝を形成するための検出用被加工物を保持できる第2のチャックテーブルと、該第1のチャックテーブルに保持された被加工物及び該第2のチャックテーブルに保持された該検出用被加工物をスピンドルに装着された切削ブレードで切削する切削ユニットと、該1のチャックテーブル及び第2のチャックテーブルと該切削ブレードとを該保持面に垂直な切り込み送り方向及び該保持面に平行な加工送り方向に相対移動させる移動ユニットと、該第1のチャックテーブルに保持された被加工物及び該第2のチャックテーブルに保持された検出用被加工物を撮像する撮像ユニットと、各構成要素を制御する制御ユニットと、を備える切削装置であって、該制御ユニットは、該切削ユニット及び該移動ユニットを駆動させるアイドリング運転の実施を指示するアイドリング運転指示部と該アイドリング運転の前と後とに、該検出用被加工物に対し該切削ブレードを該切り込み送り方向に所定の位置まで移動させ、該検出用被加工物の表面に切削溝を形成させる切削溝形成指示部と、該撮像ユニットで該検出用被加工物の表面を撮像し、該切削溝の長さを検出する長さ検出を該アイドリング運転の前と後とに実施させる長さ検出指示部と、該アイドリング運転の前に検出される該切削溝の長さと、該アイドリング運転の後に検出される該切削溝の長さと、の差の閾値を登録する閾値登録部と、該差が該閾値以上である場合、アイドリング運転が完了したことを確認できないと判定し、該差が該閾値以下である場合、さらなるアイドリング運転が不要と判定する判定部と、を備えることを特徴とする切削装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様に係る切削装置では、アイドリング運転を実施する前、及び、実施した後に、切削ブレードを切り込み送り方向に移動させて切削装置の被加工物(ワーク)、または、ドレッサーボードや疑似被加工物(ダミーワーク)に対して切削溝を形成する。
【0014】
すると、アイドリング運転の前に形成された切削溝の長さと、後に形成された切削溝の長さと、を比較でき、その長さの差が所定の閾値以下であれば、切り込み方向への切削ブレードの移動の精度が十分に安定していると判断できる。この場合、判定部はそれ以上のアイドリング運転が不要であると判定する。そのため、切削装置の使用者はアイドリング運転を終了でき切削加工を開始できる。
【0015】
また、該長さの差が所定の閾値よりも大きければ、切り込み方向への切削ブレードの移動の精度が十分に安定しているとは判断できない。この場合、判定部はアイドリング運転が完了したことを確認できないと判定する。すると、さらにアイドリング運転が実施されて切削装置がより安定化される。
【0016】
十分な精度で加工可能な状態となる前に被加工物の切削加工を開始すると、所定の加工が実施されず被加工物を廃棄しなければならない場合があり問題となる。また、必要以上にアイドリング運転が実施されると、時間や電力等が無駄となり、切削装置の加工効率が低下し問題となる。しかし、本発明の一態様に係る切削装置では、アイドリング運転の完了を確認できるため、そのような問題を回避できる。
【0017】
以上のように、本発明により、アイドリング運転の完了を適切に判定でき、アイドリング運転を過不足なく実施できる切削装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】切削装置を模式的に示す説明図である。
図2図2(A)は、アイドリング運転前の切削溝の形成を模式的に説明する断面図であり、図2(B)は、アイドリング運転後の切削溝の形成を模式的に説明する断面図であり、図3(C)は、撮像ユニットによる切削溝の撮像を模式的に説明する断面図である。
図3】撮像ユニットにより撮像された撮像画像を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
添付図面を参照して、本発明の一態様に係る実施形態について説明する。まず、本実施形態に係る切削装置について図1を用いて説明する。図1は、切削装置2を模式的に示す説明図である。
【0020】
図1に示すように、該切削装置2は、各構造を支持する基台4を備えている。基台4の中央部上には、X軸移動テーブル6、X軸移動テーブル6をX軸方向に移動させるX軸移動機構(移動ユニット)8が設けられている。
【0021】
X軸移動機構8は、X軸方向に平行な一対のX軸ガイドレール10を備えており、X軸ガイドレール10には、X軸移動テーブル6がスライド可能に取り付けられている。X軸移動テーブル6の下面側には、ナット部(不図示)が設けられており、このナット部には、X軸ガイドレール10に平行なX軸ボールネジ12が螺合されている。
【0022】
X軸ボールネジ12の一端部には、X軸パルスモータ14が連結されている。X軸パルスモータ14でX軸ボールネジ12を回転させることで、X軸移動テーブル6は、X軸ガイドレール10に沿ってX軸方向に移動する。
【0023】
X軸移動テーブル6の上方には、被加工物を保持するためのチャックテーブル16が設けられている。チャックテーブル16の周囲には、被加工物を支持する環状のフレームを四方から固定するための4個のクランプ18が配置されている。
【0024】
チャックテーブル16は、モータ等の回転駆動源(不図示)に連結されており、Z軸方向(鉛直方向)に概ね平行な回転軸の周りに回転する。また、チャックテーブル16は、上述のX軸移動機構8でX軸方向に加工送りされる。
【0025】
チャックテーブル16の上面は、被加工物を保持する保持面16aになっている。この保持面16aは、チャックテーブル16の内部に形成された吸引路等を通じて吸引源(不図示)に接続されている。
【0026】
チャックテーブル16に近接する位置には、被加工物をチャックテーブル16へと搬送する搬送ユニット(不図示)が設けられている。搬送ユニットで搬送された被加工物は、例えば、表面側が上方に露出するようにチャックテーブル16の保持面16aに載せられる。
【0027】
基台4の上面には、2組の切削ユニット20(第1切削ユニット20a、第2切削ユニット20b)を支持するための門型の支持構造22が、X軸ガイドレール10を跨ぐように配置されている。支持構造22の前面上部には、各切削ユニット20をY軸方向(左右方向、割り出し送り方向)及びZ軸方向に移動させる2組の切削ユニット移動機構(移動ユニット)24が設けられている。
【0028】
各切削ユニット移動機構24は、支持構造22の前面に配置されY軸方向に平行な一対のY軸ガイドレール26を共通に備えている。Y軸ガイドレール26には、各切削ユニット移動機構24を構成するY軸移動プレート28がスライド可能に取り付けられている。
【0029】
各Y軸移動プレート28の裏面側(後面側)には、ナット部(不図示)が設けられており、このナット部には、Y軸ガイドレール26に平行なY軸ボールネジ30がそれぞれ螺合されている。各Y軸ボールネジ30の一端部には、Y軸パルスモータ32が連結されている。Y軸パルスモータ32でY軸ボールネジ30を回転させれば、Y軸移動プレート28は、Y軸ガイドレール26に沿ってY軸方向に移動する。
【0030】
各Y軸移動プレート28の表面(前面)には、Z軸方向に平行な一対のZ軸ガイドレール34が設けられている。Z軸ガイドレール34には、Z軸移動プレート36がスライド可能に取り付けられている。
【0031】
各Z軸移動プレート36の裏面側(後面側)には、ナット部(不図示)が設けられており、このナット部には、Z軸ガイドレール34に平行なZ軸ボールネジ38がそれぞれ螺合されている。各Z軸ボールネジ38の一端部には、Z軸パルスモータ40が連結されている。Z軸パルスモータ40でZ軸ボールネジ38を回転させれば、Z軸移動プレート36は、Z軸ガイドレール34に沿ってZ軸方向に移動する。
【0032】
各Z軸移動プレート36の下部には、切削ユニット20が設けられている。この切削ユニット20は、回転軸となるスピンドルの一端側に装着された円環状の切削ブレードを備えている。また、切削ユニット20に隣接する位置には、被加工物等を撮像する撮像ユニット(撮像カメラ)42が設けられている。
【0033】
各切削ユニット移動機構24でY軸移動プレート28をY軸方向に移動させれば、切削ユニット20及び撮像ユニット42は、Y軸方向に割り出し送りされる。また、各切削ユニット移動機構24でZ軸移動プレート36をZ軸方向に移動させれば、切削ユニット20及び撮像ユニット42は、切り込み送り方向に昇降する。
【0034】
X軸移動機構8、チャックテーブル16、切削ユニット20、切削ユニット移動機構24、撮像ユニット42等の切削装置2の構成要素には、制御ユニット(制御手段)44が接続されている。各構成要素は、該制御ユニット(制御手段)44によって制御される。
【0035】
また、本実施形態に係る切削装置2のチャックテーブル16の近傍には、ドレッサーボード用チャックテーブル46が設けられている。ドレッサーボード用チャックテーブル46の上面は、ドレッサーボードを保持する保持面46aである。保持面46aには、例えば、平面視で十字型(クロス型)の吸引溝が形成されており、十字(クロス)の中心には吸引孔が形成されている。該吸引孔は、ドレッサーボード用チャックテーブル46の内部の吸引路(不図示)を経て、図示しない吸引源に通じている。
【0036】
ドレッサーボード用チャックテーブル46の保持面46aにドレッサーボードが載置されると、該吸引源から負圧を作用させて、ドレッサーボードを保持面46a上に吸引保持する。ドレッサーボード用チャックテーブル46が無い場合には、切削ブレードのドレッシングを実施するとき、チャックテーブル16にドレッサーボードを保持させる。
【0037】
制御ユニット(制御手段)44は、切削装置2の各構成要素を制御して、チャックテーブル16に保持された被加工物に対する切削加工を実施する機能を有する。さらに、制御ユニット44は、アイドリング運転指示部44aと、切削溝形成指示部44bと、長さ検出指示部44cと、閾値登録部44dと、判定部44eと、を有する。そして、切削装置2の各構成要素を制御してアイドリング運転を実施し、該切削装置2を十分な精度で切削加工を実施できる状態とする機能を有する。
【0038】
アイドリング運転指示部44aは、切削ユニット20及び移動ユニット(切削ユニット移動機構24)に対してアイドリング運転の実施を指示する機能を有する。アイドリング運転指示部44aは、それぞれのユニットに指示し切削加工中にする動作を模したアイドリング運転を実施させる。
【0039】
切削溝形成指示部44bは、アイドリング運転の前及び後にチャックテーブル16またはドレッサーボード用チャックテーブル46に保持された被加工物1等に切削ブレード20を切り込ませて切削溝を形成させる機能を有する。切削溝形成指示部44bは、例えば、切削ユニット20を被加工物1のデバイス等が形成されていない余剰領域の直上に移動させ、該余剰領域に該切削溝を形成するよう指示する。
【0040】
ここで、該切削溝が形成される被加工物1等は、被加工物(ワーク)でなくてもよく、疑似被加工物(ダミーワーク)またはドレッサーボード等でもよい。
【0041】
長さ検出指示部44cは、該撮像ユニット42に被加工物1等の表面を撮像させ、得られた撮像画像から切削溝の長さを検出する機能を有する。そして、アイドリング運転の前に形成された切削溝の長さと、アイドリング運転の後に形成された切削溝の長さと、を検出して、その長さの差に関する情報等を判定部44eに送る。
【0042】
閾値登録部44dには、該アイドリング運転の前に検出される該切削溝の長さと、該アイドリング運転の後に検出される該切削溝の長さと、の差の閾値が登録されている。該閾値は、必要なアイドリング運転が完了したと判断できる切削溝の長さの差である。該閾値は、切削装置2、切削ユニット20に装着された切削ブレード、及び、被加工物等の種別によって決定される。また、実施される切削加工の条件によって決定されてもよい。
【0043】
切削溝形成指示部44bの指示により形成される切削溝の長さには、切削装置2の各構成要素の温度等の状態に依存しない誤差等が生じる場合がある。すなわち、時間を隔てて該切削ブレードに2つの切削溝を被加工物1等の表面の異なる位置に形成させるとき、それぞれの切削溝を形成する際の切削装置2の各構成要素の温度等の状態が略同一でも、軸等の精度の影響により2つの切削溝の長さが変化する場合がある。該閾値は、該誤差等が考慮されて決定される値である。
【0044】
判定部44eは、該長さ検出指示部44cから送られた切削溝の長さの差と、該閾値登録部44dに登録された切削溝の長さの差の閾値と、を読み出す。該切削溝の長さの差が該閾値以上である場合、アイドリング運転が完了したとは確認できないと判定し、該差が該閾値以下である場合、さらなるアイドリング運転は不要と判定する機能を有する。
【0045】
さらなるアイドリング運転が不要と判定されれば、被加工物の切削加工を開始できる。アイドリング運転が完了したとは確認できないと判定された場合、切削加工を開始できない。その場合、判定部44eはアイドリング運転指示部44aに判定結果を伝達し、アイドリング運転指示部44aにさらなるアイドリング運転を実施させる。
【0046】
なお、制御ユニット(制御手段)44は、例えば、装置制御用PCであり、制御ユニット44の各構成要素は、該装置制御用PC上にソフトウェアとして実現されてもよい。また、判定部44eによる判定結果は、該装置制御用PCのディスプレイに表示され切削装置2の使用者(オペレータ)に報知されてもよい。
【0047】
切削装置の各構成要素は、内部の温度等に応じて動作に微差が生じる。そのため、アイドリング運転が実施され温度等の状態が定常的な状態とならなければ、所望の加工結果が得られない場合がある。そこで、被加工物の切削加工を実施する前にアイドリング運転を実施し、各構成要素を定常的な状態とする。しかし、アイドリング運転が実施されている間、切削装置は切削加工を実施できないため、アイドリング運転は可能な限り短時間で終了されるのが好ましい。
【0048】
本実施形態に係る切削装置2では、制御ユニット44の各構成要素の働きにより、アイドリング運転の完了を適切に判定でき、アイドリング運転の推奨時間に関わらず、アイドリング運転を過不足なく実施できる。
【0049】
次に、本実施形態に係る切削装置2に電源が投入されてから、アイドリング運転が完了するまでの過程について説明する。まず、切削装置2に電源が投入された後、アイドリング運転を実施する前に、被加工物等に切削溝を形成する。図2(A)は、該切削溝3aの形成について模式的に説明する断面図である。制御ユニット44の切削溝形成指示部44bは、該切削装置2の各構成要素に該切削溝3aを形成させる。
【0050】
切削溝3aが形成される被加工物1等は、チャックテーブル16、または、ドレッサーボード用チャックテーブル46に保持されている。切削ブレード20cの回転が開始され切削液が切削ブレード20cに供給され、移動ユニット(切削ユニット移動機構24)を作動させて、切削ブレード20cを切り込み送り方向(Z軸方向)に移動させる。切削ブレード20cが所定の高さ位置にまで移動されると、被加工物1等が切削されて切削溝3aが形成される。
【0051】
次に、切削装置2の各構成要素にアイドリング運転を所定の時間実施させる。制御ユニット44のアイドリング運転指示部44aが切削装置2の各構成要素にアイドリング運転を実施させる。アイドリング運転指示部44aが指示するアイドリング運転は、例えば、切削装置2の通常の稼働時の動作を模した動作である。例えば、スピンドルを回転させつつ切削ブレードに切削液を供給する動作であり、稼働時の状態を現出させる。また、切削装置2の各構成要素の温度等の状態をいち早く定常的な状態とするために、通常の稼働時の動作よりも高い強度の動作が実施されてもよい。
【0052】
切削装置2で実施される該アイドリング運転の実施時間は、例えば、切削装置2の製造者が設定するアイドリング運転の推奨時間よりも短い。該推奨時間が30分間である場合、切削装置2で実施される該アイドリング運転の実施時間は、例えば、5分間である。
【0053】
アイドリング運転が実施された後、制御ユニット44の切削溝形成指示部44bは切削装置2の各構成要素に切削溝3bを形成させる。図2(B)は、切削溝3bの形成を模式的に説明する断面図である。切削溝3bは、アイドリング運転が実施される前に切削溝3aを形成したブレードによって切削溝3aとは異なる位置に形成される。
【0054】
次に、制御ユニット44の長さ検出指示部44cの指示により、図2(C)に示す通り、被加工物1等の表面が該撮像ユニット42で撮像され、得られた撮像画像から各切削溝の長さLが検出される。そして、切削溝3aの長さと、切削溝3bの長さと、が判定部44eにより比較される。判定部44eは、閾値となる値を閾値登録部44dから読み出して、切削溝3aの長さと、切削溝3bの長さと、の差を該閾値と比較する。
【0055】
切削装置2の各構成要素の温度等の状態が定常的な状態とは異なる場合、切削ブレード20cを所定の高さ位置に移動させようとしても、切削ブレード20cが該所定の高さ位置からずれて位置付けられる。そのため、切削溝は、該各構成要素の温度等の状態が定常的な状態であるときに形成される切削溝とは異なる長さに形成される。
【0056】
アイドリング運転の前後で形成される切削溝の長さの値が異なる場合、切削装置2の各構成要素の温度等の状態がアイドリング運転の前後で変化したといえる。そのため、各構成要素の温度等の状態が定常的な状態であるとは確認できない。その一方で、該切削溝の長さの値が略同一である場合に、各構成要素の温度等の状態がアイドリング運転の前後でほぼ変化していないといえる。すなわち、各構成要素の温度等の状態が定常的な状態となっていると確認できる。
【0057】
アイドリング運転の前後にそれぞれ形成された切削溝の長さの差の値が、該閾値以下である場合、判定部44eは、切削装置2の各構成要素の温度等の状態が定常的な状態となっていると判定する。すなわち、判定部44eは、それ以上のアイドリング運転が不要であり切削装置2が通常の切削加工を本来の精度で安定的に実施できる状態にあると判定する。
【0058】
その一方で、切削溝の長さの差が該閾値以上である場合、判定部44eは切削装置2の各構成要素の温度等の状態が定常的な状態となっていることを確認できず、アイドリング運転の完了が確認できないと判定する。そして、判定部44eは、判定結果をアイドリング運転指示部44aに伝達して、さらなるアイドリング運転をアイドリング運転指示部44aに指示させる。その後、同様に新たな切削溝が形成され、その長さが検出され、再度判定部44eはそれ以上のアイドリング運転が必要か否かについて判定する。
【0059】
判定部44eによる判定の一例について、図3を用いて説明する。図3は、撮像ユニット42により撮像された撮像画像5を示す模式図である。図3に示す撮像画像5の一例には、被加工物1に形成された切削溝3a、切削溝3b、及び、切削溝3cが捉えられている。
【0060】
例えば、切削溝3aは、切削装置2の電源が投入された直後に、アイドリング運転が実施される前に被加工物1に形成された切削溝である。切削溝3bは、アイドリング運転が実施された後に被加工物1に形成された切削溝である。切削溝3cは、切削溝3bが形成された後に更にアイドリング運転が実施され、その後に被加工物1に形成された切削溝である。
【0061】
判定部44eによる最初の判定は、切削溝3a及び切削溝3bが形成された後に実施される。切削溝3a及び切削溝3bが写る撮像画像から切削溝3aの長さL1と、切削溝3bの長さL2と、が得られる。判定部44eでは、切削溝3aの長さL1と、切削溝3bの長さL2と、の差の値を閾値登録部44dに登録された閾値と比較する。
【0062】
その結果、該差が閾値を上回る場合、判定部44eは切削装置2のアイドリング運転が完了していることを確認できないと判定する。更にアイドリング運転が実施され、切削溝3cが形成され、長さ検出指示部44cが撮像ユニット42に被加工物1を撮像させると、図3に例示する撮像画像5が得られる。
【0063】
図3に示す撮像画像5からは、切削溝3bの長さL2と、切削溝3cの長さL3と、が得られる。判定部44eは、切削溝3bの長さL2と、切削溝3cの長さL3と、の差の値を閾値登録部44dに登録された閾値と比較する。その結果、該差が該閾値を下回ると、判定部44eは切削装置2のさらなるアイドリング運転が不要であると判定する。すると、アイドリング運転が十分に実施され、切削装置2の各構成要素の温度等の状態が定常的な状態となり、被加工物1の切削加工を開始できる状態となったことが確認される。
【0064】
以上のように、本実施形態に係る切削装置2によると、制御ユニット44の判定部44eによる判定が実施されることで、アイドリング運転の完了を確認できるため、切削装置2のアイドリング運転を過不足なく実施できる。切削装置2のアイドリング運転推奨時間よりも短時間でアイドリング運転を完了できれば、切削装置2による切削加工を早期に開始できるため、切削加工の効率を上げることができる。
【0065】
また、該アイドリング運転推奨時間を超えてもアイドリング運転の完了が確認できない場合、必要なアイドリング運転をさらに実施した後で切削装置2による切削加工を開始できる。そのため、アイドリング運転が十分に実施されていない状態で切削加工を実施することがない。すると、所定の水準に達しない切削加工を実施して被加工物を無駄にすることがないため、切削加工の効率を上げることができる。
【0066】
なお、本発明は、上記の実施形態の記載に限定されず、種々変更して実施可能である。例えば、上記の実施形態においては、切削装置2に電源を投入した後、アイドリング運転を実施する前に切削溝を形成し、その後アイドリング運転を実施した後に次の切削溝を形成して判定を実施するが、本願はこれに限らない。
【0067】
アイドリング運転を一度も実施していないとき、切削装置2の各構成要素の温度等の状態が明らかに定常的な状態とは異なる場合、最初のアイドリング運転を実施する前には切削溝を形成しなくてもよい。最初のアイドリング運転の前後で切削装置2の各構成要素の温度等の状態が大きく変化する場合、最初のアイドリング運転の前後のそれぞれで切削溝を形成して切削溝の長さを比較するまでもなく、アイドリング運転が完了したことを確認できない。
【0068】
その場合、最初のアイドリング運転を実施する前には切削溝を形成せず、最初のアイドリング運転を実施した後に最初の切削溝を形成し、さらに2回目のアイドリング運転を実施して、その後に2番目の切削溝を形成する。そして、最初の切削溝の長さと、2番目の切削溝の長さと、を比較して判定部44eによる判定を実施する。この場合、最初のアイドリング運転を実施する前に切削溝を形成しないため、該切削溝を形成する時間を省略できる。
【0069】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0070】
1 被加工物
3,3a,3b,3c 切削溝
5 撮像画像
2 切削装置
4 基台
6 X軸移動テーブル
8 X軸移動機構
10 X軸ガイドレール
12 X軸ボールネジ
14 X軸パルスモータ
16 チャックテーブル
16a 保持面
18 クランプ
20 切削ユニット
20a 第1切削ユニット
20b 第2切削ユニット
20c 切削ブレード
22 支持構造
24 切削ユニット移動機構
26 Y軸ガイドレール
28 Y軸移動プレート
30 Y軸ボールネジ
32 Y軸パルスモータ
34 Z軸ガイドレール
36 Z軸移動プレート
38 Z軸ボールネジ
40 Z軸パルスモータ
42 撮像カメラ(撮像ユニット)
44 制御ユニット(制御手段)
44a アイドリング運転指示部
44b 切削溝形成指示部
44c 長さ検出指示部
44d 閾値登録部
44e 判定部
46 ドレッシングボード用チャックテーブル
46a 保持面
図1
図2
図3