【文献】
F-7000形分光蛍光光度計を用いた蛍光指紋による食品分析技術,THE HITACHI SCIENTIFIC INSTRUMENT NEWS,2015年,Vol.58, No.1,pp. 4982-4988
【文献】
INSTRUCTION MANUAL,HITACHI FLUORESCENCE SPECTROPHOTOMETER FL SOLUTIONS PROGRAM (OPERATION MANUAL),Hitachi High-Technologies Corporation,2001年11月
【文献】
Non-invasive sensing of freshness indices of frozen fish and fillets using pretreated excitation-emission matrices,Sensors and Actuators B: Chemical,2016年 1月12日,vol. 228,pp. 237-250,doi: 10.1016/j.snb.2016.01.032
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
PLS回帰分析は目的物質の定量値を得る解析手法である。特許文献1のように測定対象の蛍光を発する化合物の蛍光波長が既知であれば3次元蛍光スペクトルにおけるピークの同定が可能である。しかしながら、食品や化学材料、環境物質などの測定対象物は複数の蛍光物質を有していることが多く、定量値を得るための目的の化合物以外からも蛍光を発する。そのため、3次元蛍光スペクトルを用いた多変量解析では、複数の蛍光物質の励起波長・蛍光波長の特性を抽出することで、最終的な目的値が得られる。未知の蛍光波長がモデルに寄与していることもあり、その場合、モデルにおける3次元蛍光スペクトルデータがどのような蛍光物質に由来しているかまでは判断できない。モデルとは、波長と係数との組合せとする。
【0009】
3次元蛍光スペクトルによるPLS回帰式における算出値と化学分析の実測値から相関性が得られているが、3次元蛍光スペクトルデータのどの波長が解析に寄与し、それらの波長がどのような蛍光物質であるかまでは言及されていない。
【0010】
統計的な見地では、3次元蛍光スペクトルデータを数値列のデータマトリックスとして扱うため、解析に用いた波長がどの蛍光物質からの蛍光であるかということは重要とされていない。また、特許文献1に記載されている判別分析のように産地や合否などの教師データを目的値とする場合であれば、測定対象物から発している蛍光の起因蛍光物質が特定されなくても、多変量解析を持ちて未知試料の目的値を得ることができる。このことは、蛍光スペクトル(または分析)に関する知識が無くても解を得ることができるという利点でもある。しかしながら、化学的な見地から、蛍光特性から蛍光物質を同定したうえで定量値を求めることは重要である。
【0011】
現在、蛍光スペクトルの起因物質同定のために、論文などの文献データやWebページで公開されているスペクトルから調査する手法が用いられている。この場合、励起スペクトルまたは、蛍光スペクトルの2次元のスペクトルデータが主であるため、本目的である3次元蛍光スペクトルとしての活用ができない。
【0012】
また、推定のためのモデルを作成する際に行うデータの前処理では、特許文献1及び特許文献2に記載の通り、散乱光及び2次光、3次光などのノイズを除外することで解析精度を向上させる。この時、特許文献1に記載のアフラトキシンのように蛍光特性が既知の試料の場合には測定対象物に含まれるアフラトキシンの特徴を表す3次元蛍光スペクトルの励起・蛍光波長範囲を中心にデータを抽出する。つまり、解析に不要な波長範囲の3次元蛍光スペクトルのデータは除外し、解析に必要な波長範囲の3次元蛍光スペクトルのデータのみを抽出することが解析時間の短縮、精度の向上に重要である。この点についても、蛍光波長が既知であれば特徴的な3次元蛍光スペクトル内のデータの抽出が容易であるが、実際には夾雑物も存在する。そのため、未知のピークを除外するかどうかの判断については、蛍光物質を同定することが重要となる。
【0013】
3次元蛍光スペクトルデータのどの波長が判定に寄与し、それらがどのような蛍光物質に起因しているかの解析には、3次元蛍光スペクトルに現れているピークそれぞれの起因蛍光物質が同定されていることが必要となる。蛍光物質の同定は、ある程度測定対象物質の物理的あるいは材料的な素性の情報を把握していることが必須となり、全く測定対象試料の素性の情報が得られていない場合は、困難となる。
【0014】
素性情報のない測定試料に対して蛍光特性を示す蛍光スペクトルピークそれぞれの起因蛍光物質を順次同定することで、試料を判定することが可能となる。測定で得られた3次元蛍光スペクトルの着目ピークを基に、蛍光特性を示すスペクトル範囲及びサブピークを同定し、着目ピークの励起波長及び蛍光波長と同定したスペクトル範囲とサブピークを蛍光物質の既知のライブラリデータと比較して、起因蛍光物質を同定することが必要となる。その上で、有効なスペクトル範囲を設定して多変量解析を行うことが必要となる。また、一連の操作で3次元蛍光スペクトルの取得から、結果の判定までを行うことにより、試料データの管理、多変量解析ソフトを用いてのモデルの作成および未知試料の多変量解の算出などの工程が煩雑な解析の効率化を図ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の未知試料判定方法は、スタンダードの3次元蛍光スペクトルを測定した結果から蛍光特性を抽出してモデル係数を算出し、未知試料を判別する方法において、スタンダードを測定するスタンダード工程として、スタンダードの3次元蛍光スペクトルを測定する条件を設定する測定条件設定工程と、測定するスタンダードを試料名と判別情報及び濃度情報等との組合せでスタンダードテーブルに登録するスタンダードテーブル登録工程と、スタンダードテーブルに登録したスタンダードの3次元蛍光スペクトルを測定条件設定工程で設定した条件に従って測定する3次元蛍光スペクトル測定工程と、得られた各前記スタンダードの3次元蛍光スペクトルから蛍光特性を抽出して蛍光物質候補ライブラリの蛍光特性と対比してスタンダードに含まれる候補蛍光物質を判定する候補蛍光物質判定工程と、候補蛍光物質判定工程で判定した候補蛍光物質の3次元蛍光スペクトルから蛍光特性を表す第一ピークを抽出して規格化するピーク設定工程と、蛍光強度等高線判定値を基準とした波長範囲を設定するスペクトル範囲選択工程と、選択したスペクトル範囲でサブピークを選択するサブピーク選択工程と、第一ピーク、波長範囲及びサブピークから多変量解析によりモデル係数を算出するモデル係数出力工程と、を有し、次に未知試料を測定するサンプル工程として、スタンダード工程で出力したモデル係数を読込むモデル係数読込工程と、未知試料の3次元蛍光スペクトルを測定する条件を設定する測定条件設定工程と、測定条件設定工程で設定した測定条件がスタンダード工程の測定条件設定工程で設定した条件と同等あるいは蛍光特性を示すスペクトル範囲を含むことを判定する測定条件の判定工程と、3次元蛍光スペクトルを測定する未知試料の試料名および判定条件をサンプルテーブルとして設定するサンプルテーブル設定工程と、サンプルテーブルに設定した未知試料を測定条件設定工程で設定した条件で測定する3次元蛍光スペクトル測定工程と、3次元蛍光スペクトル測定工程で測定して得られた3次元蛍光スペクトルの蛍光特性から読込んだモデル係数に合致する候補蛍光物質を判定する候補蛍光物質判定工程と、候補物質判定工程で判定した候補蛍光物質の組合せから候補試料ライブラリと照合して候補試料を抽出する未知試料抽出工程とを有し、抽出した候補蛍光物質名を判定に用いた蛍光特性と共に一覧表形式で表示する候補蛍光物質表示工程と、候補蛍光物質の組合せから抽出した未知試料名を候補蛍光物質の蛍光特性一覧と共に表示する候補試料表示工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
上述したスタンダード工程及びサンプル工程における候補蛍光物質判定工程は、スタンダード工程及びサンプル工程の3次元蛍光スペクトル測定工程で測定した3次元蛍光スペクトルにおける最大蛍光強度を示すあるいは蛍光特性を示す蛍光波長領域にあるピークを第一ピークとして選択して規格化し、第一ピークの許容波長範囲を設定するピーク選択工程と、等高線判定値から励起波長範囲及び蛍光波長範囲からなるスペクトル範囲を選択して、散乱光及び多次光等の蛍光特性判別に不要な波長範囲を除外して、設定した複数のスペクトル範囲が重ならないように近接ピークの判定処理を行うスペクトル範囲選択工程と、等高線判定値から設定した波長範囲内にあるサブピークのピーク数、ピーク波長及び第一ピークに対する強度比であるピーク比等を設定するサブピーク設定工程と、第一ピーク、スペクトル範囲、及びサブピーク情報について、スタンダード工程においては、蛍光物質候補ライブラリの候補蛍光物質と一致するかの判定工程を有し、サンプル工程においてはスタンダード工程で判定した候補蛍光物質と一致するかの判定工程を有し、判定工程で一致した候補蛍光物質を候補蛍光物質名および第一ピーク、スペクトル範囲及びサブピークの情報と共に一覧表示することを特徴とする。
【0017】
さらに、スペクトル範囲選択工程における近接ピークの判定処理は、複数の蛍光物質由来のピークが近接し、等高線判定値から選択する励起波長範囲及び蛍光波長範囲が重なる場合において、蛍光強度等高線が重ならない蛍光波長範囲を選択し、選択した蛍光波長範囲に基づいて励起波長範囲を設定し、複数の蛍光物質の蛍光特性が相互に影響することを防止するスペクトル範囲選択工程を有することを特徴とする。
【0018】
また、候補試料抽出工程は、サンプル工程の候補物質検索工程で検索された蛍光物質が含まれる試料を抽出する工程で、複数の蛍光物質が含まれている場合は、ピーク選択工程、スペクトル範囲選択工程及びサブピーク選択工程において1つ目の候補蛍光物質を抽出し、次に同様にピーク選択工程、スペクトル範囲選択工程及びサブピーク選択工程において次の候補蛍光物質を抽出する工程を複数の蛍光物質の数だけ繰り返すことにより複数の蛍光物質を順次判定する工程を含み、
判定した複数の蛍光物質の組合せを候補試料ライブラリと参照し、候補試料を抽出することを特徴とする。
候補蛍光物質表示工程は、抽出した候補蛍光物質名と共に、蛍光特性を判定した前記第一ピーク波長、スペクトル範囲、サブピーク情報及びモデル係数等を一覧表示することを特徴とする。
【0019】
また、候補試料表示工程は、抽出した候補試料名と共に、登録したスタンダードテーブルを表示するエリアと、抽出した候補蛍光物質名と共に蛍光特性を判定した前記第一ピーク波長、スペクトル範囲、サブピーク情報及びモデル係数等を一覧表示するエリアと、一覧表に記載の候補物質名及び前記第一ピークと対比できるようにマークを付けた3次元蛍光スペクトルを表示するエリアを選択的に表示させることができることを特徴とする。
【0020】
本発明の未知試料判定装置は、上述の未知試料判定方法を実現することが可能な装置で、光度計部、コンピュータ部及びインターフェイス部から構成され、光度計部は固定波長に設定された励起分光器からの励起光を測定試料に照射し、蛍光側分光器を波長走査することで蛍光スペクトルを測定し、蛍光スペクトル測定が終了したら、蛍光波長を開始波長に戻し、励起波長を所定の間隔だけ駆動し、次の励起波長における蛍光スペクトルを測定し、測定して得られた蛍光スペクトルを励起波長、蛍光波長及び蛍光強度の3次元で記憶し、励起波長が設定された最終波長に対する蛍光スペクトルを得るまで動作を繰り返すことで蛍光強度の等高線図として3次元蛍光スペクトルを取得し、コンピュータ部は光度計部を制御する制御部とデータ処理部を含み、インターフェイス部はモニタと操作パネルを含む、分光蛍光光度計において、データ処理部は、未知試料判定の機能としてスタンダードを測定するスタンダード工程と未知試料を測定するサンプル工程を有し、スタンダード工程で設定された測定条件に従ってスタンダードテーブルに登録された試料の3次元蛍光スペクトルの測定を行い、測定して得られた3次元蛍光スペクトルの蛍光特性から候補蛍光物質の判別処理を行い、判別処理の過程では、得られた蛍光強度を等高線表示した3次元蛍光スペクトル図から蛍光強度が高い第一ピーク、等高線判定値からスペクトル範囲及び同一蛍光波長にある第一ピーク以外のサブピークを設定し、スペクトル範囲以外の3次元蛍光スペクトルデータを多変量解析の対象から除き、スペクトル範囲内の3次元蛍光スペクトルデータのみを多変量解析の対象に選抜し、多変量解析を行いモデル係数を取得して、保存し、サンプル工程では、モデル係数を読込み、入力された未知試料の測定条件に対して、モデル係数取得時の励起波長及び蛍光波長が波長範囲に含まれていること、及び波長走査速度、励起側スリット幅及び蛍光側スリット幅、レスポンス設定値及び検知器電圧等の測定条件がスタンダードの測定条件と同一であることを判定し、同一であることが判定できた場合には、入力された測定条件に従ってサンプルテーブルに登録された試料の3次元蛍光スペクトル測定結果を用いて、未知試料の候補蛍光物質の判定処理を行い、候補蛍光物質の判定処理では、得られた蛍光強度を等高線表示した3次元蛍光スペクトルから第一ピーク、スペクトル範囲及びサブピークを設定し、読込んだモデル係数を基に判定処理を行い、判定処理の結果抽出された候補蛍光物質及び候補試料を試料名、前記第一ピーク、スペクトル範囲及びサブピーク情報等の蛍光特性情報と共に、前記第一ピーク、スペクトル範囲等をプロットした3次元蛍光スペクトルをモニタの同一画面に視覚的に判定結果を確認できるよう表示する機能を有するデータ処理部を有する。
【0021】
本発明の未知試料判定プログラムは、上述した未知試料判定方法を実行するプログラムであり、未知試料判定装置を制御し、未知試料を判定するプログラムで以下の機能を有する。制御部からの指令に基づいて光度計部には測定対象試料に励起光を照射し、蛍光スペクトルを測定させ、データ処理部には励起波長、蛍光波長及び蛍光強度を3次元で記憶させ、記憶したデータを基に候補蛍光特性判定工程を実行し、蛍光物質及び試料を判定する判定処理を行うプログラムであり、未知試料判定のために、3次元蛍光スペクトルの多変量解析を実行し、予め目的変数となる判別情報及び濃度情報等蛍光特性の判明しているスタンダードを測定し、それぞれの励起波長と蛍光波長に対するモデル係数を得るスタンダード工程と、スタンダード工程で取得したモデル係数から未知試料の同定、合否及び濃度等の目的値を得る機能を有することを特徴とする。
【0022】
上述のスタンダード工程では、制御部にスタンダードの候補蛍光試料判定のために測定するスタンダードの測定条件を設定させ、データ処理部に測定する複数のスタンダード情報をスタンダードテーブルとして登録させ、3次元蛍光スペクトルの測定結果を保存させた後、保存させた3次元蛍光スペクトルからピーク波長、スペクトル範囲及びサブピーク等の蛍光特性を抽出し、蛍光特性判別に有効な励起波長範囲及び蛍光波長範囲を選択し、多変量解析を行い、モデル係数を算出し、サンプル工程では、データ処理部にスタンダード工程で算出したモデル係数を読込ませ、制御部に測定するスタンダードの測定条件を設定させ、データ処理部に測定する複数のサンプル情報をサンプルテーブルとして登録させ、3次元蛍光スペクトルの測定結果を保存させた後、保存させた3次元蛍光スペクトルからピーク波長、スペクトル範囲及びサブピーク等の蛍光特性を抽出し、読込ませたモデル係数を基に候補蛍光物質を判定し、モニタ部にサンプルの3次元蛍光スペクトルと候補蛍光物質判定に係る蛍光特性とを表示させる機能を有する。
【0023】
また、候補蛍光物質判定工程では、ピーク選択工程として、測定後保存されている3次元蛍光スペクトルに対し、着目するピークを第一ピークとして選択させ、選択したピーク並びに同一の蛍光波長に現れるピークを用いて蛍光物質判定を行うために、第一ピークの励起波長及び蛍光波長を選択させ、励起波長及び蛍光波長の許容範囲を設定させ、設定した励起波長及び蛍光波長が、測定条件設定時に設定した3次元蛍光スペクトル測定波長範囲に含まれるかの判定を行い、含まれない場合には再設定させ、第一ピークに対しては、データ比較を容易にするためにピーク強度を規格化し、規格化係数を算出し、全ての波長における蛍光強度に規格化係数を掛け算し、スペクトル範囲選択工程として、等高線判定値ごとにスペクトル範囲を設定し、設定したスペクトル範囲が測定条件設定時に設定した3次元蛍光スペクトル測定波長範囲に含まれるかの判定を行い、含まれない場合には再設定させ、判定波長範囲を設定させ、前記第一ピークに近接ピークがある場合は第一ピークの蛍光強度等高線が他のピークに重ならない範囲をスペクトル範囲として設定する近接ピークの判定処理を行い、サブピーク選択工程において、スペクトル範囲設定工程で設定されたスペクトル範囲内の第一ピーク以外のピークをサブピークとし、サブピーク数、サブピーク比、サブピーク波長等のサブピーク情報を入力させ、ピーク設定工程、スペクトル範囲選択工程及びサブピーク設定工程で設定した条件を基に蛍光物質候補ライブラリと照合し、候補蛍光物質を判定する機能を有する。
【0024】
さらに、サンプル工程の未知試料判定では、候補物質判定工程により候補蛍光物質を判定し、判定した蛍光物質を含む候補試料を候補試料ライブラリから抽出し、複数の蛍光物質を含む場合は、さらに2番目に判定した蛍光物質を含む候補試料を候補試料ライブラリから抽出し、含まれる蛍光物質の数この抽出工程を繰り返して、候補試料を絞り、最終的に抽出した試料の試料名と蛍光特性情報を測定により取得した3次元蛍光スペクトル情報と共に表示する機能を有する。
【発明の効果】
【0025】
3次元蛍光スペクトルデータを多変量解析する分析手法において、解析に寄与するピークの蛍光物質を同定してリスト表示し、更には、複数ピークに対する蛍光物質の同定結果を元に試料そのものの判別及び異同識別にも応用することができる未知試料判定方法、未知試料判定装置および未知試料判定プログラムを提供する。更にこの手法及び装置を用いることで、多変量解析の精度向上及び時間短縮の効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る分光蛍光光度計の実施形態を図を参照しながら説明する。
以下の図面の記載において、同一の部分には同一の符号を付している。図面は模式的なものであり以下に示す実施例は本発明の技術的思想を例示しており、下記のものに特定するものではない。
実施例1
【0028】
分光蛍光光度計は、
図1に示すように、光度計部100、コンピュータ部200、インターフェイス部300から構成される。分析者はインターフェイス部300の操作パネル32より測定条件を入力する。入力された測定条件に基づき、光源1からの連続光を励起側分光器2で励起光として分光し、ビームスプリッタ3を経て試料設置部5に設置された測定試料6に照射される。励起側のスリットは励起側分光器2に含まれ、スリット幅を設定することで白色光から取り出される単色光の分解能が決定される。この時、ビームスプリッタ3で一部の分割された励起光は、モニタ検知器4で光量を測定し光源の変動の補正がなされている。試料から放出された蛍光は、蛍光側分光器7で単色光に分光され、検知器8で光を検出する。蛍光側のスリットは蛍光側分光器7に含まれ、スリット幅を設定することで蛍光から単色光に分光される分解能が決定される。検知器8で検出された信号は、A/D変換機21を経てデータ処理部23に信号強度として取り込まれ、モニタ31で測定結果が表示される。
【0029】
波長駆動系について説明する。制御部22の指令によって、励起側パルスモータ12が駆動することで、目的の波長位置に励起側分光器2がセットされる。また、蛍光側分光器7は、制御部22の指令によって蛍光側パルスモータ11が駆動することで、目的の波長位置にセットされる。励起側分光器2及び蛍光側分光器7については、回折格子やプリズムなどの光学素子が用いられており、励起側パルスモータ12及び蛍光側パルスモータ11を動力とし、ギヤとカムによって、それらを回転運動させることでスペクトルスキャンされている。励起側分光器2と測定試料6の間に励起側フィルタ15が配置される。励起側フィルタ15は複数のカットフィルタが備えられており、励起側フィルタパルスモータ13により単一のカットフィルタが挿入される。測定試料6と蛍光側分光器7の間に蛍光側フィルタ16が配置される。蛍光側フィルタ16は複数のカットフィルタが備えられており、蛍光側フィルタパルスモータ14により単一のカットフィルタが挿入される。
【0030】
3次元蛍光スペクトルは、固定波長に設定された励起側分光器2からの励起光を測定試料6に照射し、蛍光側分光器7を波長走査することで蛍光スペクトルを測定し、蛍光スペクトル測定が終了したら、蛍光波長を開始波長に戻し、励起波長を所定の波長間隔だけ駆動し、次の励起波長における蛍光スペクトルを測定する。得られた蛍光スペクトルを励起波長、蛍光波長、蛍光強度の3次元で記憶し、励起波長が所定の範囲の最終の波長に対する蛍光スペクトルを得るまで前述の動作を繰り返すことにより、
図2に示すような等高線図として3次元蛍光スペクトルを表示する。ここで、蛍光側パルスモータ11により蛍光側分光器7を波長走査し、単色光を光電子増倍管などの検知器8で検出するモノクロメータでの実施例を記載しているが、蛍光側パルスモータ11を含まず検知器8にCCDなどの面検出器を用いたポリクロメータでの実施も可能である。3次元蛍光スペクトルは縦軸が励起波長(EX)、横軸が蛍光波長(EM)、等高線で蛍光強度を示す。縦軸が蛍光波長、横軸を励起波長としても表示可能である。同一蛍光物質であれば、ピークが現れる蛍光波長は照射する励起波長に関わらず、一定の蛍光波長となるため、蛍光物質からの蛍光は蛍光強度を反映した縞模様の等高線となる。ここでの蛍光物質とは、蛍光を発する化合物の総称として取り扱う。例えば、蛍光性の化合物としては、L−チロシンやL−トリプトファン、ビタミンE、クロロフィルなどの有機の化合物、ユーロピウムやテルビウムなどを含む無機の化合物がある。また、フミン酸やフルボ酸など無定形の蛍光を発する有機物も蛍光物質として扱う。一方、励起光の散乱光は照射する励起光と同一の波長に出現し、2次光などの多次光は散乱光の波長のN倍の位置に出現する。(Nは整数)
次に
図3を用いて本発明に関わる3次元蛍光スペクトルの候補蛍光物質判定フローを説明する。
【0031】
まず、ピーク選択工程S11では、測定した3次元蛍光スペクトルに対し、着目するピークの励起波長及び蛍光波長を選択し、第一ピークとする。
図4に例として3次元蛍光スペクトル上に選択した第一ピークを示す。このピークならびに同一の蛍光波長に現れるピークを用いて蛍光物質同定を行う。ピーク選択工程S11では、単一のピークを選択してもよいし、励起波長範囲および蛍光波長範囲を設定し、その波長範囲で最大の強度となる励起波長及び蛍光波長をピーク波長としてもよい。併せて蛍光物質候補ライブラリと照合する際の検索許容値として、励起波長と蛍光波長のピーク波長に対する波長範囲を入力する。例えば、ピーク波長に対して±5nmなど。ここで後述する測定波長範囲内に入力したピークの波長範囲があるかの判定を行いピーク波長範囲が入力波長範囲外であれば、ピーク波長を選択し直して再度入力させる。その後、選択した第一ピークは、データ比較を容易にするためピーク強度を一定の値に規格化する。規格化処理は、規格化後のピーク強度をF
n、測定したピーク強度をF
oとした場合、規格化係数C=F
n/F
oを得て、全ての波長における蛍光強度に規格化係数Cを掛け算する。この処理を行うことでスペクトル形状を崩すことなく物質相互のピーク強度を比較することができる。なお、
図4(a)及び
図4(b)に示すように同一の蛍光波長(EM)において複数のピークが存在する場合は、励起波長ごとの強度を探索し、最も蛍光強度が高い励起波長のピークを第一ピークとして規格化に用いる。ここでは、規格化値を100とした場合を例に実施例を記す。ここで、
図4(a)に記載のb1−b2を結ぶ線上の蛍光波長における蛍光強度曲線が
図4(b)となり、c1−c2を結ぶ線上の励起波長における蛍光強度曲線が
図4(c)となる。以降
図5ないし
図8も同様の記載となる。
【0032】
スペクトル範囲選択工程S12では、
図5(a)の破線で囲んだ部分に相当するスペクトル範囲を得る。スペクトル範囲は、励起波長範囲と蛍光波長範囲であり、等高線判定値ごとに設定される。ここで等高線判定値とは、3次元蛍光スペクトルから抽出する強度データ閾値で測定者が指定するパラメータを指す。例えば、等高線判定値10の場合、ピーク選択工程で設定した第一ピークの規格化後の強度100に対して、10となるピーク強度のスペクトル範囲を検索し、励起波長の短波長側から長波長まで、蛍光波長の短波長側から長波長までの波長範囲から対象エリアを設定する。設定に際しては等しい蛍光強度値を結んだ等高線に相当する縞が一つながりとなっている最も広い波長範囲をスペクトル範囲とする。ここでは、測定波長の範囲内にスペクトル範囲が含まれているかを判定し、スペクトル範囲が測定波長の範囲外であれば再度スペクトル範囲を設定させる。
【0033】
図6(a)に示すように、2つの蛍光物質のピークが近接している場合、等高線の強度に相当する縞が重なり、別の蛍光物質の波長範囲まで拡張されてしまう。この時には、近接ピーク判定処理として蛍光強度が最大となる励起波長ではなく、励起波長を短波長側または長波長側に設定し、別の蛍光物質と重複していない単一の蛍光スペクトルとなるスペクトル範囲を設定する。例えば、
図6(c)に示すように、励起波長を370nmとすることで蛍光波長400nm付近の蛍光物質の影響の無い蛍光スペクトルが得られる。このスペクトル形状より、蛍光短波長側の範囲を規定する。この近接ピークの判定処理によるスペクトル範囲の設定をしない場合のスペクトル範囲は励起波長255〜390nm、蛍光波長290〜600nmとなるが、この近接ピークの判定を用いることで、スペクトル範囲は励起波長280〜390nm、蛍光波長410〜600nmとなり目的のピークに特化したスペクトル範囲を選択することができる。励起波長において短波長側のピークと重複している場合には、目的ピークの励起波長を長波長側に、長波長側のピークと重複している場合には、目的ピークの励起波長を短波長側にすることでスペクトル範囲を探索する。なお、等高線判定値の検索の際、蛍光以外の領域として、散乱光の波長範囲、フィルタを用いない装置で取得した際に生じる多次光の波長範囲、励起波長よりも短波長側の波長範囲は、検索対象から除外する。
図5(a)に示す等高線判定値10の場合、スペクトル範囲は
図5(a)の破線で示す励起波長300〜680nm、蛍光波長650〜780nmとなる。等高線判定値50の時、スペクトル範囲は、
図5(a)の一点鎖線で示す励起波長340〜670nm、蛍光波長680〜730nmとなる。ここでは、等高線判定値に対する検索許容値として波長範囲に対する誤差を判定波長範囲として入力する。例えば±10nm等。等高線判定値におけるスペクトル範囲を得ることで3次元ピークがブロードであるかシャープであるか等からスペクトルの一致性を判断して特徴分けがなされる。
【0034】
サブピーク設定工程S13では、スペクトル範囲選択工程S12で設定したスペクトル範囲内において、ピーク選択工程S11で選択した第一ピーク以外に観測されたピークとして判定する。
図7(a)の破線範囲と
図7(b)及び
図7(c)に示すようにサブピークの波長を設定する
図7(a)及び
図7(b)に記載の太い矢印は第一ピークを指し、細い矢印はサブピークを指している。サブピークは強度に対して閾値を設けて閾値以上をピークとして抽出する自動設定としてもよいし、測定者が設定してもよい。なお、サブピークは、蛍光以外の領域として、散乱光の波長範囲、フィルタを用いない装置で取得した際に生じる多次光の波長範囲、励起波長よりも短波長側の波長範囲は、設定の対象から除外する。ここでは、サブピークを検索する際の許容値として、サブピーク数、サブピーク比、サブピーク波長(EX)、サブピーク波長(EM)に対して以下のような範囲を入力する。例えば、サブピーク数(±1)サブピークの強度比(±5)、励起サブピーク波長(±10nm)、蛍光サブピーク波長(±10nm)の値を入力する。サブピークはサブピーク数、サブピーク波長、サブピークの強度比で特徴分けされる。ここで測定波長の範囲内にサプピークの波長の入力値が含まれるか判定し、測定範囲外であればサブピークを再度入力させる。サブピーク比とは、規格化した第一ピークに対するサブピークの蛍光強度比を指す。
【0035】
蛍光物質の候補は、
図3に示すように予め用意した蛍光物質候補ライブラリと照合して抽出する。蛍光物質候補ライブラリは、候補となる蛍光物質を予め測定し、ピーク設定工程による励起波長と蛍光波長のピーク波長に対する波長範囲とスペクトル範囲選択工程による等高線判定値ごとに設定されたスペクトル範囲とサブピーク選定工程によるサブピーク数、サブピーク比、サブピーク励起波長とサブピーク蛍光波長から構成される蛍光物質のライブラリである。それぞれの工程ごとに蛍光物質候補ライブラリと測定データを比較し、蛍光物質候補ライブラリに含まれる候補蛍光物質を絞り込む。
【0036】
候補蛍光物質を絞り込んだ結果として表1aに示すようにピーク選択工程、スペクトル範囲選択工程及びサブピーク設定工程の結果を一覧表示する。一覧表は、ピーク選択工程で指定した第一ピークに対して、ピーク波長、スペクトル範囲選択工程で得られた等高線判定値50におけるスペクトル範囲(スペクトル範囲50)、等高線判定値10におけるスペクトル範囲(スペクトル範囲10)、サブピーク設定工程で得られたサブピーク情報として、サブピーク数、サブピーク比、サブピーク波長、(EX)、サブピーク波長(EM)からなる。この条件に基づいて蛍光物質候補ライブラリから合致する蛍光物質として絞り込まれた結果を表1bに示すように候補蛍光物質リストとして表示する。
【0037】
前述のように、食品や化学材料、環境物質などの測定対象物は複数の蛍光物質を有していることが多い。
図8に示すように同一試料に複数の蛍光物質に相当するピークが存在する場合は、一つの蛍光物質の候補蛍光物質の絞り込み後、ピーク選択工程から再度次の蛍光物質由来の第一ピークを選択し、スペクトル選択工程およびサブピーク設定工程で順次選択した第一ピークに対する候補蛍光物質の絞り込みを行うことで蛍光物質同定を行う。
【0038】
各ピークの候補蛍光物質の同定結果の表示例を表2に示す。結果表示は、各ピークに対して候補蛍光物質名を表示するとよい。また、同定のために用いた情報として、候補蛍光物質ごとにピーク波長、等高線判定値50におけるスペクトル範囲、等高線判定値10におけるスペクトル範囲、サブピーク数、サブピーク比、サブピーク波長(EX)およびサブピーク波長(EM)を併記するとよい。
実施例2
図3に記載する候補蛍光物質の判定フローは、3次元蛍光スペクトルの多変量解析を行う測定フローに組み込むことで、多変量解析の精度向上、時間短縮につなげることができる。以下、実施例を示す。
【0039】
図9に示すとおり、3次元蛍光スペクトルの多変量解析を行う際の手順は、予め目的変数となる判別情報(産地判別の場合であれば産地情報、合否判別の場合であれば合否情報)や濃度情報(PLSなど回帰分析の場合)など蛍光特性の判明している既知試料をスタンダードとして測定し、それぞれの励起波長と蛍光波長に対するモデル係数を得るスタンダード工程と、スタンダード工程で得たモデル係数から未知試料における目的値を得るサンプル工程に分けて説明する。
【0040】
スタンダード工程では、スタンダードの3次元蛍光スペクトルの測定条件を設定するS21。波長範囲の条件として、励起開始波長、励起終了波長、励起データ間隔、蛍光開始波長、蛍光終了波長、蛍光データ間隔を設定する。測定速度を左右する条件として波長走査速度がある。分解能を左右する条件として、励起側スリット幅、蛍光側スリット幅がある。データの応答速度としてノイズや分解能に関わるレスポンスの設定値がある。感度を左右する条件として、検知器電圧がある。波長範囲及び測定速度の条件によって1試料の測定時間が決まる。広い励起波長範囲及び蛍光波長範囲を条件として定めればデータ数は増え、測定時間が増す。通常、試料測定を行う際、蛍光が出現する励起波長及び蛍光波長か不明であるため、一般的には広い励起波長範囲及び蛍光波長範囲を測定し、測定後の解析に使用するデータの前処理として散乱光や2次光などの不要なデータを取り除き、有効な蛍光領域のデータを解析に用いる。
【0041】
多変量解析を行うためには複数のスタンダードの測定データが必要である。そのため、測定を予定しているスタンダードを予めスタンダードテーブルに登録するS22。スタンダードテーブルには、試料名と共に、多変量解析の目的変数となる判別情報(産地判別の場合であれば産地情報、合否判別の場合であれば合否情報)及び濃度情報(PLSなど回帰分析の場合)を入力する。
【0042】
次に、スタンダードテーブルS22に基づき、スタンダードの3次元蛍光スペクトルを測定するS23。ここで測定された3次元蛍光スペクトルに対し、
図3に記載する候補蛍光物質の判定フローに従いスタンダード工程における候補蛍光物質の判定を行うS24。
【0043】
3次元蛍光スペクトルと候補蛍光物質の判定結果を
図10に示す。3次元蛍光スペクトルと指定したピーク波長を基に抽出した候補蛍光物質の判定結果を同時表示させる。
図10の○印で示すように候補蛍光物質におけるピーク波長を3次元蛍光スペクトル上に識別できるようにプロット表示する。また、サブピーク波長も識別できるようにプロットしてもよい。併せて等高線判定値50におけるスペクトル範囲および等高線判定値10におけるスペクトル範囲を点線などで表示する。このように、候補蛍光物質のリストと3次元蛍光スペクトルを同時表示することで、該当ピークの候補蛍光物質を視覚的に捉えることが可能になる。識別のために、候補蛍光物質のリストを選択することで、該当ピーク波長とスペクトル範囲を強調表示してもよい。
【0044】
設定した等高線判定値においてスペクトル範囲を設定して、それぞれの成分に由来するデータに特化して多変量解析に使用する波長を設定することで、有効な蛍光領域以外の不要なデータの除外が可能となる。スペクトル範囲の等高線判定値は任意に設定してよい。多変量解析に不要なデータが含まれている場合、解析精度の低下が生じる。併せて、多変量解析のデータ点数が過大の場合、データ処理部のパフォーマンスや解析アルゴリズムにもよるが、解析時間を多大に所用することがある。これらの理由から、指定した候補蛍光物質において、等高線判定値におけるスペクトル範囲として多変量解析に用いるデータ数を絞り込むことは解析精度向上及び解析時間の短縮化に有用である。そこで、等高線判定値ににより設定したスペクトル範囲以外のデータを多変量解析の対象から除き、スペクトル範囲内のデータのみを多変量解析の対象に選択するS25。
【0045】
次に、多変量解析の対象として設定したデータを用い、PLS回帰分析や判別分析などの多変量解析を行い、モデルを得るS26。ここで得るモデル係数は、基本的にスペクトル範囲内のデータであることから、どの波長におけるモデル係数がどの候補蛍光物質に起因するのか関連付けがなされる。各候補蛍光物質におけるモデル係数の平均値は、候補蛍光物質が目的値を得るために寄与しているかどうかの判断指標となる。最終的には個々の波長におけるモデル係数が重要であるが、複数の蛍光物質を含有している際に生じる成分間の相互作用の影響評価にモデル係数の平均値は役立つ。例えば、PLS回帰分析の際、モデル係数の平均値が負の値の成分は、目的値とは相関性が無いこととなる。一方、モデル係数の平均値が正の値の成分は、目的値と相関性があることとなる。
引き続き、サンプル工程について
図9を用いて説明する。サンプル工程では、サンプルの測定結果に対して計算をさせるために、多変量解析の工程S26で得たモデル係数を読み込むS31。
【0046】
次に、サンプルの測定条件を設定するS32。基本的にはスタンダードの測定条件と同一とするが、測定時間の短縮のために、励起開始波長、励起終了波長、励起データ間隔、蛍光開始波長、蛍光終了波長、蛍光データ間隔等の測定波長範囲はスタンダード工程の波長範囲選択S25に合わせて変更してもよい。この時、S31で読み込んだモデルの励起波長および蛍光波長が測定波長範囲に含まれていること、波長走査速度、励起側スリット幅及び蛍光側スリット幅、レスポンスの設定値、検知器電圧がスタンダードの測定条件と同一であることを判定するS33。判定処理はこれらの測定条件により分解能や感度が変わり、蛍光強度値に影響するので励起波長範囲及び蛍光波長範囲以外の測定条件は変更してはならないため測定エラーを回避するためにサンプルの測定条件がスタンダードの測定条件と同等とするためである。
【0047】
次に、測定を予定するサンプルについて予めサンプルテーブルを設定するS34。サンプルテーブルには、合否判定の条件及び判定値名称を定めておいてもよい。合否判定の条件としては、多変量解析で得られる目的値における判定のための閾値、閾値よりも目的値が上回った場合の判定値名称(上)、下回った場合の判定値名称(下)、閾値と目的値が同じ値であった場合の含み先(上または下)などがある。
【0048】
次の工程において、S34で設定したサンプルテーブルに基づき、サンプルの3次元蛍光スペクトルを測定するS35。サンプルの3次元蛍光スペクトルについても、
図3による候補蛍光物質の判定フローに従いサンプル工程における候補蛍光物質の判定を行いS36、合否判定・結果出力S37を行う。候補蛍光物質の検索結果は、
図10に示すように、3次元蛍光スペクトルと候補蛍光物質の検索結果を表示する。
【0049】
スタンダード工程とサンプル工程を含む全ての測定結果は、最終的に
図11に示す画面に結果表示する。画面左上にはスタンダード工程で設定したスタンダードテーブルの情報、画面左下にはサンプル工程で設定したサンプルテーブルの情報にS31で読み込んだモデル係数により算出された算出値、サンプルテーブルS34で設定された合否判定条件に基づく合否判定結果を表示する。画面右上には、画面左上のスタンダード情報または画面左下のサンプル情報で選択した項目の3次元蛍光スペクトルを表示する。
【0050】
画面右下には、画面左上のスタンダード情報または画面左下のサンプル情報で選択した項目について、スタンダード情報の場合は候補蛍光物質の判定S24で得られた候補蛍光物質のリスト、サンプル情報の場合は候補蛍光物質の判定S36で得られた候補蛍光物質のリストを表示する。さらに、多変量解析結果S26として、スタンダード工程で算出したそれぞれの候補蛍光物質のモデル係数の平均値を表示する。サンプル工程でスタンダード工程で探索した候補蛍光物質以外の蛍光物質がリストアップされた場合は、候補蛍光物質以外の蛍光物質に対するモデル係数の平均値は非表示とする。画面右下に表示された候補蛍光物質のリストについては、
図10と同じく、候補蛍光物質におけるピーク波長を3次元蛍光スペクトル上に識別できるようにプロット表示してもよい。また、サブピーク波長も識別できるようにプロットしてもよい。併せて等高線判定値50におけるスペクトル範囲および等高線判定値10におけるスペクトル範囲の範囲を表示しても良い。このように、候補蛍光物質のリストと3次元蛍光スペクトルを同一画面内に表示することで、該当ピークの候補蛍光物質を視覚的に捉えることが可能になる。識別のために、候補蛍光物質のリストを選択することで、該当ピーク波長とスペクトル範囲を強調表示してもよい。
実施例3
【0051】
実施例1では、スタンダード工程で測定したスタンダードの3次元蛍光スペクトルの蛍光特性から蛍光物質を同定したが、測定対象試料の情報、例えば、有機物か無機物か、あるいは食品か医薬品か等の試料の分類や係累等の判別情報が無い未知の試料の場合は、
図3に示す候補蛍光物質の判定フローにより、試料を判別することになる。
【0052】
未知の試料の場合、
図9に示すスタンダード工程を行わず、サンプル工程のサンプルの測定条件設定S32の後、サンプルテーブル設定工程S34でサンプル情報を入力後、測定条件設定工程S32で設定した条件に従ってサンプルの3次元蛍光スペクトル測定を行うS35。得られた3次元蛍光スペクトルから、
図3の候補物質判定フローに従って、ピーク選択工程S11、スペクト理範囲選択工程S12,サブピーク設定工程S13を行い、蛍光特性情報を取得する。取得したピーク波長、スペクトル範囲、サブピーク情報を蛍光物質候補ライブラリと照合して、候補蛍光物質を判定する。判定した候補蛍光物質が含まれる試料を候補試料ライブラリから抽出する。
【0053】
食品や化学材料、環境物質等の測定対象試料は複数の未知の蛍光物質を含有していることが多く、3次元蛍光スペクトルで取得される蛍光特性も複数含まれている場合がある。複数の蛍光特性が含まれている場合は、前述の未知試料の場合の候補蛍光物質の判定と候補試料の抽出を繰返し、
図12に示すように候補試料を絞り込んでいく。最終的に抽出した有効な蛍光特性が起因する蛍光物質を含む候補試料を候補試料ライブラリから抽出する。
【0054】
本発明の未知試料判定装置の構成について、図を参照して説明する。なお、本発明の実施形態における未知試料判定装置は、前述の未知試料判別方法に好適に使用できるものであるが、測定装置は以下の記載に限定されるものではない。
【0055】
図1は光度計部100、コンピュータ部200、インターフェイス部300から構成される分光蛍光光度計である。分析者はインターフェイス部300の操作パネル32より測定条件を入力する。光源1からの連続光を励起側分光器2で励起光として分光し、ビームスプリッタ3を経て試料設置部5に設置された測定試料6に照射される。励起側のスリットは励起側分光器2に含まれ、スリット幅を設定することで白色光から取り出される単色光の分解能が決定される。この時、ビームスプリッタ3で一部の分割された励起光は、モニタ検知器4で光量を測定し光源の変動の補正がなされている。試料から放出された蛍光は、蛍光側分光器7により単色光に分光され、検知器8で光を検出する。蛍光側のスリットは蛍光側分光器7に含まれ、スリット幅を設定することで蛍光から単色光に分光される分解能が決定される。検知器8で検出された信号は、A/D変換機21を経てデータ処理部23に信号強度として取り込まれ、モニタ31に測定結果が表示される。
【0056】
波長駆動系について説明する。制御部22の指令によって、励起側パルスモータ12が駆動することで、目的の波長位置に励起側分光器2がセットされる。また、蛍光側分光器7は、制御部22の指令によって蛍光側パルスモータ11が駆動することで、目的の波長位置にセットされる。励起側分光器2及び蛍光側分光器7については、回折格子やプリズムなどの光学素子が用いられており、励起側パルスモータ12及び蛍光側パルスモータ11を動力とし、ギヤとカムによって、それらを回転運動させることでスペクトルスキャンされている。励起側分光器2と測定試料6の間に励起側フィルタ15が配置される。励起側フィルタ15は複数のカットフィルタが備えられており、励起側フィルタパルスモータ13により単一のカットフィルタが挿入される。測定試料6と蛍光側分光器7の間に蛍光側フィルタ16が配置される。蛍光側フィルタ16は複数のカットフィルタが備えられており、蛍光側フィルタパルスモータ14により単一のカットフィルタが挿入される。
【0057】
3次元蛍光スペクトルは、固定波長に設定された励起側分光器2からの励起光を測定試料6に照射し、蛍光側分光器7を波長走査することで蛍光スペクトルを測定し、蛍光スペクトル測定が終了したら、蛍光波長を開始波長に戻し、励起波長を所定の波長間隔だけ駆動し、次の励起波長における蛍光スペクトルを測定する。得られた蛍光スペクトルを励起波長、蛍光波長、蛍光強度の3次元で記憶し、励起波長が設定した範囲の最終の波長に対する蛍光スペクトルを得るまで前述の動作を繰り返すことにより、
図2に示すような等高線図として3次元蛍光スペクトルを表示する。ここで、蛍光側パルスモータ11により蛍光側分光器7を波長走査し、単色光を光電子増倍管などの検知器8で検出するモノクロメータでの実施例を記載しているが、蛍光側パルスモータ11を含まず検知器8にCCDなどの面検出器を用いたポリクロメータでの実施も可能である。3次元蛍光スペクトルは縦軸が励起波長(EX)、横軸が蛍光波長(EM)、等高線で蛍光強度を示す。縦軸が蛍光波長、横軸を励起波長としても表示可能である。
【0058】
ここで、データ処理部23は、
図9に示すスタンタード工程において、操作パネル32から入力された測定条件でスタンダードテーブルに登録された試料の3次元蛍光スペクトル測定を行い、結果を用いて候補蛍光物質の判定処理をする。データ処理部23は、3次元蛍光スペクトルの測定結果として、
図4(a)に示される等高線図をモニタ32に表示する。
図3のピーク選択工程S11で選択されたピークの波長に対し、識別しやすいように○印等でプロット表示をしてもよい。また、選択したピークに対し、
図4(a)のb1−b2、c1−c2のようなトレース線を表示しても良い。このトレース線
図4(a)のb1−b2は、蛍光波長を固定し励起波長を変化させた励起スペクトルに相当し、励起スペクトルは
図4(b)に表示される。
図4(a)のb1−b2のトレース線は、励起波長を固定し蛍光波長を変化させた蛍光スペクトルに相当し、蛍光スペクトルは
図4cに表示される。
図3のスペクトル範囲設定工程S12でスペクトル範囲を選択した際、
図5(a)に示す点線でスペクトル範囲を表示する。
【0059】
図3のサブピーク設定工程S13で選択したサブピークの波長に対して、
図7(a)に示すように識別しやすいように○印等でプロット表示をしてもよい。また、
図7(b)に示すように
図7(a)の○印に対応する励起波長に矢印等を表示する。同様に
図7(c)に示すように
図7(a)の○印に対応する蛍光波長に矢印等を表示してもよい。
【0060】
図8に示すように同一試料に複数の蛍光物質に相当するピークが存在する場合は、それぞれに対してピーク波長およびサブピーク波長のプロット、スペクトル範囲の表示を行う。データ処理部23は、
図3に示すフローに従って、候補蛍光物質を検索し、表1に示す試料のピーク選択工程、スペクトル範囲選択工程及びサブピーク設定工程の結果一覧と候補蛍光物質のリストをモニタ31に表示する。最終的に得られた候補蛍光物質の結果として表2をモニタ31に表示する。
【0061】
次に、データ処理部23は、等高線判定値ににより設定したスペクトル範囲以外のデータを多変量解析の対象から除き、有効な3次元蛍光スペクトル範囲内のデータのみを多変量解析の対象に選抜する。このデータを用い、PLS回帰分析や判別分析などの多変量解析を行い、モデル係数を取得し、データ処理部23に保存する。
【0062】
サンプル工程では、入力されたサンプル測定の測定条件がモデル係数算出時の励起波長および蛍光波長が測定波長範囲に含まれていること、波長走査速度、励起側スリット幅及び蛍光側スリット幅、レスポンスの設定値、検知器電圧がスタンダード工程の条件設定工程で設定された測定条件と同一であることを判定する。
【0063】
次に、設定された条件に従って制御部22の指定に従い、サンプルテーブルに登録された試料の3次元蛍光スペクトルの測定を行う。データ処理部23は、サンプルの3次元蛍光スペクトルの測定結果を用いて
図3に示す候補蛍光物質判定フローに従って候補蛍光物質の判定処理を行う。測定結果は
図11に示す3次元蛍光スペクトルと判定した候補蛍光物質の情報をモニタ31の同一画面上に表示する。
実施例3に示す未知の測定対象物に対する候補試料の抽出に関してデータ処理部の動作を説明する。
【0064】
データ処理部23は、未知の測定対象試料に対して測定した3次元蛍光スペクトルに対して、蛍光物質判定フロー
図3のピーク選択工程による励起波長と蛍光波長のピーク波長に対する波長範囲とスペクトル範囲選択工程による等高線判定値ごとに設定されたスペクトル範囲とサブピーク設定工程によるサブピーク数、サブピーク比、サブピーク励起波長とサブピーク蛍光波長を蛍光物質候補ライブラリと照合し、候補蛍光物質を抽出する。
【0065】
第一ピーク数が複数の場合、順次、ピーク波長範囲、スペクトル波長範囲、サブピーク情報について候補試料ライブラリと照合し、各ピークの情報を満たす蛍光物質を抽出する。抽出した候補蛍光物質を含む試料を候補試料ライブラリから抽出し、蛍光特性判定に用いたサンプルの3次元蛍光スペクトル、サンプルテーブル及び候補試料をモニタ32に表示する。
【0066】
本発明の未知試料判定プログラムについて説明する。本発明に係る未知試料判定プログラムはは、本発明の未知試料判定装置のコンピュータ部に記憶されており、本発明の実施形態の一連の手順を実行することができるプログラムである。
【0067】
本プログラムは、制御部からの指令に基づいて光度計部には測定対象試料に励起光を照射し、蛍光スペクトルを測定させ、データ処理部に測定結果を励起波長、蛍光波長と蛍光強度を3次元で記憶させ、記憶したデータを基に蛍光特性を判定し、蛍光物質及び試料の判定処理を行うプログラムである。
【0068】
本プログラムは、制御部からの指令に基づいて分光器部において、予め目的変数となる判別情報及び濃度情報等蛍光特性の判っているスタンダードを測定し、測定したデータを基にデータ処理部において未知試料判定のために、3次元蛍光スペクトルの多変量解析を実行し、それぞれの励起波長と蛍光波長に対するモデル係数を得るスタンダード工程と、スタンタード工程で取得したモデル係数から未知試料における目的値を得るサンプル工程を実行させる。
【0069】
本プログラムは、スタンダード工程において制御部から光度計部に指令を出し、スタンダードの蛍光スペクトル測定を実行させるための測定条件として、波長範囲の条件として、励起開始波長、励起終了波長、励起データ間隔、蛍光開始波長、蛍光終了波長、蛍光データ間隔と、測定速度を左右する条件として波長走査速度と、分解能を左右する条件として、励起側スリット幅、蛍光側スリット幅と、データの応答速度としてノイズや分解能に関わるレスポンスの設定値と、感度を左右する条件として、検知器電圧を操作パネルから設定させる。
【0070】
多変量解析を行うためには複数のスタンダードの測定データが必要となるため、測定を予定しているスタンダードを予めスタンダードテーブルに試料名、多変量解析の目的変数となる判別情報及び濃度情報を操作パネルから入力させ、データ処理部に記憶させる。
【0071】
次にスタンダードテーブルに基づく、スタンダードの3次元蛍光スペクトル測定を制御部からの指令に基づいて光度計部に実行させる。取得したスタンダードの3次元蛍光スペクトルはデータ処理部に、励起波長、蛍光波長及び蛍光強度の3次元データとして保存させ、保存した3次元蛍光スペクトルに対し、候補物質判定フローに従ってスタンダード工程における候補蛍光物質の判定をデータ処理部で実行する。候補蛍光物質の判定は、保存した3次元蛍光スペクトルの蛍光特性と蛍光物質候補ライブラリとを比較対照して行う。
【0072】
次に3次元蛍光スペクトルと候補蛍光物質の判定結果として、3次元蛍光スペクトルと設定されたピーク波長を基に抽出した候補蛍光物質の判定結果をモニタに同時表示させる。
図10の○印で示すように候補蛍光物質におけるピーク波長を3次元蛍光スペクトル上に識別できるようにプロット表示し、サブピーク波長も識別できるようにプロットしてもよい。併せて等高線判定値50におけるスペクトル範囲および等高線判定値10におけるスペクトル範囲を点線などで表示させてもよい。このように、候補蛍光物質のリストと3次元蛍光スペクトルを同時表示することで、該当ピークの候補蛍光物質を視覚的に捉えることを可能とする。識別のために、候補蛍光物質のリストを選択させることで、該当ピーク波長とスペクトル範囲を強調表示させてもよい。
【0073】
次に、設定した等高線判定値においてスペクトル範囲を設定して、それぞれの成分に由来するデータに特化して多変量解析に使用する波長を設定させデータ処理部に保存し、有効な蛍光領域以外の不要なデータの除外を可能とする。
【0074】
次に、データ処理部において多変量解析の対象として設定させたデータを用い、PLS回帰分析や判別分析などの多変量解析を行い、モデル係数を算出するS26。ここで得るモデル係数は、基本的にスペクトル範囲内のデータであることから、どの波長におけるモデル係数がどの候補蛍光物質に関わっているのか関連付けが可能となる。
【0075】
サンプル工程では、サンプルの測定結果に対して判定するために、多変量解析の工程S26で得たモデル係数をデータ処理部に読み込ませるS31。次に、サンプルの測定条件を操作パネルからまたは、予めデータ処理部に保存されている測定条件の選択により設定させるS32。基本的にはスタンダードの測定条件と同一とするが、測定時間の短縮のために、励起開始波長、励起終了波長、励起データ間隔、蛍光開始波長、蛍光終了波長、蛍光データ間隔等の測定波長範囲はスタンダード工程の波長範囲選択S25に合わせて変更させてもよい。この時、S32で読み込んだモデル係数の励起波長および蛍光波長が測定波長範囲に含まれていること、波長走査速度、励起側スリット幅及び蛍光側スリット幅、レスポンスの設定値、検知器電圧がスタンダードの測定条件と同一であることを判定するS33。ここで設定した測定条件により分解能や感度が変わり、蛍光強度値に影響するので励起波長範囲及び蛍光波長範囲以外の測定条件は変更してはならないため測定エラーを回避するためにサンプルの測定条件がスタンタードの測定条件と同等であるかの判定処理S33を実行する。
次に、測定を予定するサンプルについて予めサンプルテーブルを操作パネルから設定させるS34。サンプルテーブルには、合否判定の条件及び判定値名称を定めさせてもよい。
【0076】
次に、設定された測定条件に基づいた制御部の指令に従って、光度計部にS34で設定されたサンプルテーブルに基づき、サンプルの3次元蛍光スペクトルを測定させるS35。測定した3次元蛍光スペクトルは、励起波長、蛍光波長及び蛍光強度の3次元データとしてデータ処理部に保存させ、保存された3次元蛍光スペクトルについても、
図3による候補蛍光物質の判定フローに従いサンプル工程における候補蛍光物質の判定を行うS36。候補蛍光物質の検索結果は、
図10に示すように、3次元蛍光スペクトルと候補蛍光物質の検索結果をモニタに表示させる。
【0077】
スタンダード工程とサンプル工程を含む全ての測定結果は、最終的に
図11に示す画面をモニタに結果表示させる。画面左上にはスタンタード工程で設定したスタンダードテーブルの情報、画面左下にはサンプル工程で設定したサンプルテーブルの情報としてS31で読み込ませたモデル係数から算出した算出値、サンプルテーブルS34で設定された合否判定条件に基づく合否判定結果を表示させる。画面右上には、画面左上のスタンダード情報または画面左下のサンプル情報で選択した項目の3次元蛍光スペクトルを表示させる。
【0078】
画面右下には、画面左上のスタンダード情報または画面左下のサンプル情報で選択させた項目について、スタンダード情報の場合は候補蛍光物質の判定S24で得られた候補蛍光物質のリスト、サンプル情報の場合は候補蛍光物質の判定S36で得た候補蛍光物質のリストを表示させる。さらに、多変量解析結果S26として、スタンダード工程で算出したそれぞれの候補蛍光物質のモデル係数の平均値を表示させる。サンプル工程においてスタンダード工程で探索した候補蛍光物質以外の蛍光物質がリストアップされた場合は、候補蛍光物質以外の蛍光物質に対するモデル係数の平均値は非表示とする。画面右下に表示させた候補蛍光物質のリストについては、
図10と同じく、候補蛍光物質におけるピーク波長及びサブピーク波長を3次元蛍光スペクトル上に識別できるようにプロット表示させてもよい。併せて等高線判定値50におけるスペクトル範囲および等高線判定値10におけるスペクトル範囲の範囲を点線などで表示させても良い。このように、候補蛍光物質のリストと3次元蛍光スペクトルを同一画面内に表示させることで、該当ピークの候補蛍光物質を視覚的に捉えさせることを可能とする。識別のために、候補蛍光物質のリストを選択することで、該当ピーク波長とスペクトル範囲を強調表示させてもよい。
【0079】
本発明の未知試料判定プログラムは、
図3の候補蛍光物質判定フローをデータ処理部に実行させるにあたり、ピーク選択工程S11として、例えば
図4に示すように測定した3次元蛍光スペクトルに対し、着目するピークの励起波長及び蛍光波長を選択させる。このピークならびに同一の蛍光波長に現れるピークを用いて蛍光物質同定をデータ処理部で実行する。ピーク選択工程S11では、単一のピークを選択させてもよいし、励起波長範囲および蛍光波長範囲を設定させ、その波長範囲で最大の強度となる励起波長及び蛍光波長をピーク波長としてもよい。併せて蛍光物質候補ライブラリと照合する際の検索許容値として、励起波長と蛍光波長のピーク波長に対する波長範囲を操作パネルから入力させる。例えば、ピーク波長に対して±5nmなど。ここで測定波長範囲内に入力したピークの波長範囲が含まれるかの判定を実行させ、ピーク波長範囲が入力波長範囲外であれば、ピーク波長を再度入力させる。その後、データ処理部で選択したピークをデータ比較を容易にするためにピーク強度を一定の値に規格化する。規格化処理は、規格化後のピーク強度をF
n、測定したピーク強度をF
oとした場合、規格化係数C=F
n/F
oを得て、全ての波長における蛍光強度に規格化係数Cを掛け算する。この処理を行うことでスペクトル形状を崩すことなく物質相互のピーク強度を比較することができる。なお、
図4(a)及び
図4(b)に示すように同一の蛍光波長(EM)に複数のピークが存在する場合は、励起波長ごとの強度を探索し、最も蛍光強度が高い励起波長のピークを第一ピークとして規格化に用いる。次に、スペクトル範囲選択工程S12として、
図5(a)の破線で囲んだ部分に相当するスペクトル範囲を選択させる。スペクトル範囲は、励起波長範囲と蛍光波長範囲であり、等高線判定値ごとに設定されデータ処理部に保存される。ここで等高線判定値とは、3次元蛍光スペクトルから抽出する強度データ閾値で測定者が指定するパラメータを指す。例えば、等高線判定値10の場合、ピーク選択工程で設定した第一ピークの規格化後の強度100に対して、10となるピーク強度のスペクトル範囲を検索し、励起波長の短波長側から長波長まで、蛍光波長の短波長側から長波長までの波長範囲から対象エリアを設定させる。設定に際しては等しい蛍光強度値を結んだ等高線に相当する縞が一つながりとなっている最も広い波長範囲をスペクトル範囲とする。ここでは、測定波長の範囲内にスペクトル範囲が含まれているかを判定し、スペクトル範囲が測定波長の範囲外であれば再度スペクトル範囲を設定させる。
図6(a)に示すように、2つの蛍光物質のピークが近接している場合はデータ処理部において近接ピーク判定処理を実行する。
【0080】
次にサブピーク設定工程S13として、
図7(a)の破線範囲と
図7(b)及び
図7(c)に示すようにサブピークの波長を設定させデータ処理部に保存する。サブピークは強度に対して閾値を設けて閾値以上をピークとして抽出する自動設定してもよいし、測定者に設定させてもよい。
【0081】
蛍光物質の候補は、データ処理部において
図3に示すように予め用意した蛍光物質候補ライブラリと照合して抽出する。蛍光物質候補ライブラリは、候補となる蛍光物質を予め測定し、ピーク設定工程S11による励起波長と蛍光波長のピーク波長に対する波長範囲とスペクトル範囲選択工程S12による等高線判定値ごとに設定されたスペクトル範囲とサブピーク選定工程S13によるサブピーク数、サブピーク比、サブピーク波長(EX)とサブピーク波長(EM)から構成される蛍光物質のライブラリである。それぞれの工程ごとに蛍光物質候補物質ライブラリと測定データを比較し、蛍光物質候補物質ライブラリに含まれる候補蛍光物質の絞り込みを実行する。
【0082】
候補蛍光物質を絞り込んだ結果として表1に示すようにピーク選択工程S11、スペクトル範囲選択工程S12及びサブピーク選択工程S13の結果をモニタに一覧表示させる。一覧表は、ピーク選択工程で指定したピークに対して、ピーク波長、スペクトル範囲選択工程で得られた等高線判定値50におけるスペクトル範囲(スペクトル範囲50)、等高線判定値10におけるスペクトル範囲(スペクトル範囲10)、サブピーク設定工程で得られたサブピーク情報として、サブピーク数、ピークの比、ピーク波長、(EX)、サブピーク波長(EM)からなる。この条件に基づいて蛍光物質候補ライブラリから合致する蛍光物質として絞り込まれた結果を候補蛍光物質リストとしてモニタに表示させる。
【0083】
同一試料に複数の蛍光物質に相当するピークが存在する場合は、一つの蛍光物質の候補蛍光物質の絞り込み後、ピーク選択工程S11から再度ピークを選択し、スペクトル選択工程S12およびサブピーク設定工程S13で順次選択したピークに対する候補蛍光物質の絞り込みを実行させることで蛍光物質同定を繰返し実行する。
【0084】
各ピークの候補蛍光物質の同定結果の表示は、各ピークに対して候補蛍光物質名を表示させるとよい。また、同定のために用いた情報として、候補蛍光物質ごとにピーク波長、等高線判定値50におけるスペクトル範囲、等高線判定値10におけるスペクトル範囲、サブピーク数、サブピーク比、サブピーク波長(EX)および(EM)を併記させるとよい。
【0085】
上述のように、スタンダード工程で測定したスタンダードの3次元蛍光スペクトルの蛍光特性から蛍光物質の同定を実行したが、測定対象試料の情報、例えば、有機物か無機物か、あるいは食品化医薬品か等の試料の分類や係累等の判別情報が無い未知の試料の場合は、
図3に示す候補蛍光物質の判定フローから、試料を判別することになる。
【0086】
未知の試料の場合、
図9に示すスタンダード工程を行わず、サンプル工程としてサンプル条件設定S32の後、サンプルテーブル設定S34でサンプル情報を入力させた後、測定条件設定S32で設定させた条件に従ってサンプルの3次元蛍光スペクトル測定を実行するS35。得られた3次元蛍光スペクトルから、
図3の候補物質判定フローとして、ピーク選択工程S11、スペクト理範囲選択工程S12、サブピーク設定工程S13を実行し、蛍光特性情報を取得させる。取得したピーク波長、スペクトル範囲、サブピーク情報を蛍光物質候補ライブラリと照合して、候補蛍光物質を判定する。判定した候補蛍光物質が含まれる試料を候補試料ライブラリから抽出する。
【0087】
食品や化学材料、環境物質等の測定対象試料は複数の未知の蛍光物質を含有していることが多く、3次元蛍光スペクトルで取得される蛍光特性も複数含まれている場合がある。複数の蛍光特性が含まれている場合は、前述の未知試料の場合の候補蛍光物質の判定と候補試料の抽出を繰返し、候補試料を絞り込みを実行する。最終的に抽出した有効な蛍光特性が起因する。