特許第6832059号(P6832059)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6832059-乳化組成物 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6832059
(24)【登録日】2021年2月3日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】乳化組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/41 20060101AFI20210215BHJP
   A61K 8/72 20060101ALI20210215BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 47/30 20060101ALI20210215BHJP
   A61K 31/222 20060101ALI20210215BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20210215BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   A61K8/41
   A61K8/72
   A61Q19/00
   A61K9/107
   A61K47/18
   A61K47/30
   A61K31/222
   A61P17/00
   A61P29/00
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-217256(P2015-217256)
(22)【出願日】2015年11月5日
(65)【公開番号】特開2017-88512(P2017-88512A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】今井 こずえ
【審査官】 辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−031116(JP,A)
【文献】 特開2011−256292(JP,A)
【文献】 特開2010−270029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
A61K 9/00− 9/72
A61K47/00−47/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルフェナム酸ブチル及び分子内に2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位として含む重合体を含有し、
フルフェナム酸ブチル1重量部当たりの2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位として含む重合体の比率が0.6〜3重量部である、乳化組成物(但し、高級アルコール、ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、アニオン界面活性剤及びグリセリン脂肪酸エステルの全てを含む場合を除く)。
【請求項2】
皮膚外用剤である請求項1記載の乳化組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルフェナム酸ブチルを含有していながら、安定かつ使用感に優れた乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フルフェナム酸ブチルは、非ステロイド系抗炎症剤として広く知られているが、水難溶性であり、製剤中に安定して配合するのが難しいという問題があった。例えば、水難溶性薬剤を含有する組成物として、水難溶性薬剤と、経皮吸収促進剤と、乳化剤とを含み、油滴の平均粒子径が0.1μm以下であることを特徴とする水難溶性薬剤含有水中油型エマルジョンが知られている(特許文献1)。しかしながら、この方法では、乳化粒子を微細化しなければならないなど製造が煩雑であるとともに、フルフェナム酸ブチルを多く配合した場合には、やはり十分な安定性を得ることが難しかった。また、仮に安定化できたとしても、微細化された乳化粒子は壊れにくく、べたつくなど、使用感が悪く、また、クリーム剤などの場合、その組成によっては白残りするなどの問題もあった。
【0003】
また、ベタイン型界面活性剤やリン脂質などの分子内にカチオン中心とアニオン中心を持つ化合物は、乳化組成物において一般的に使用されているが、これがフルフェナム酸ブチルを含有する乳化系を安定化させることは知られていなかった。
【0004】
このように、従来、フルフェナム酸ブチルを含有していながら、より簡便に調製でき、安定かつ使用感に優れた乳化組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−193790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、フルフェナム酸ブチルを含有していながら、安定かつ使用感に優れた乳化組成物に関する。特に使用感について、塗布時にべたつくことなく、しっかりとした被膜感(満足のいく塗布感)を与えることができ、かつ、白残りしない乳化組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべき鋭意検討を重ねていたところ、フルフェナム酸ブチルと、分子内にカチオン中心とアニオン中心を持つ化合物の両者を配合することで、安定性及び使用感に優れた乳化組成物とすることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を有するものである。
【0008】
(1)乳化組成物
(1-1)フルフェナム酸ブチル及び分子内にカチオン中心とアニオン中心を持つ化合物を含有する乳化組成物。
(1-2)分子内にカチオン中心とアニオン中心を持つ化合物がベタイン型界面活性剤、トリメチルグリシン及びリン脂質からなる群から選択される少なくとも1種である(1−1)記載の乳化組成物。
(1-3)フルフェナム酸ブチルの含有量が1〜10重量%であり、分子内にカチオン中心とアニオン中心を持つ化合物の含有量が0.01〜3重量%である(1−1)又は(1−2)記載の乳化組成物。
(1-4)皮膚外用剤である(1−1)〜(1−3)のいずれかに記載の乳化組成物。
【0009】
(2)乳化組成物の安定化方法
(2-1)フルフェナム酸ブチルを含有する乳化組成物の安定化方法であって、フルフェナム酸ブチルを含有する油性組成物に、分子内にカチオン中心とアニオン中心を持つ化合物を含有する水性組成物を混合し、乳化することを特徴とする乳化組成物の安定化方法。
(2-2)分子内にカチオン中心とアニオン中心を持つ化合物がベタイン型界面活性剤、トリメチルグリシン及びリン脂質からなる群から選択される少なくとも1種である(2−1)記載の安定化方法。
(2-3)フルフェナム酸ブチルの含有量が1〜10重量%であり、分子内にカチオン中心とアニオン中心を持つ化合物の含有量が0.01〜3重量%である(2−1)又は(2−2)記載の安定化方法。
(2-3)乳化組成物が皮膚外用剤である(2−1)〜(2−3)のいずれかに記載の安定化方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、乳化粒子を微細化しなくても、フルフェナム酸ブチルを安定に配合した乳化組成物とすることができる。また、塗布時にべたつくことなく、しっかりとした被膜感(満足のいく塗布感)を与えることができ、かつ、白残りしない乳化組成物を得ることができる。さらに、乳化粒子の微細化工程を必ずしも必要としないことから、製造設備を簡略化でき、簡便かつ短時間での製造を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】フルフェナム酸ブチルのHPLC分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1)乳化組成物
本発明の乳化組成物は、フルフェナム酸ブチル及び分子内にカチオン中心とアニオン中心を持つ化合物を含有する乳化組成物である。以下、各成分について説明する。
【0013】
(A)フルフェナム酸ブチル
本発明の乳化組成物は、フルフェナム酸ブチル(以下、「(A)成分」ということもある。)を含有する。フルフェナム酸ブチルは、商業的に入手可能であり、非ステロイド系抗炎症剤として知られている。また、別名を「ウフェナマート」ともいう。
【0014】
本発明の乳化組成物における当該フルフェナム酸ブチルの含有量は、とくに制限されないが、組成物100重量%中1重量%以上含有することが好ましく、1〜10重量%含有することがより好ましく、3〜8重量%含有することがさらに好ましい。この範囲内であれば、後述する分子内にカチオン中心とアニオン中心を持つ化合物を含有する乳化組成物において、さらに優れた安定性と使用感を得ることが可能となる。
【0015】
市販のフルフェナム酸ブチルを使用する場合、以下の分析条件の高速液体クロマトグラフ(HPLC)法において保持時間35〜45分付近に見られるピークが実質的に存在しない製品を使用することが好ましく、そのような製品を使用することで、得られる乳化組成物の皮膚感作性を抑制させることができる。
【0016】
(試料調製)
標準溶液:フルフェナム酸ブチル1gにエタノール(95)を加えて100mlにした。当該溶液5mlに、ラウリル硫酸ナトリウム溶液(0.1%リン酸水溶液500mlに、ラウリル硫酸ナトリウムを2.9g加えて混和したもの)を5ml加え、さらにエタノール(95)を加えて50mlとした。これを標準溶液とした。
試料溶液:市販のフルフェナム酸ブチル1gに、ラウリル硫酸ナトリウム溶液(0.1%リン酸水溶液500mlに、ラウリル硫酸ナトリウムを2.9g加えて混和したもの)を5ml加え、さらにエタノール(95)を加えて50mlとした。これを15分間超音波照射し、メンブレンフィルターでろ過した。これを試料溶液とした。
【0017】
(試験条件)
分析装置:Prominence LC−20AT(株式会社島津製作所製)
検出器:紫外線吸光光度計(測定波長:254nm)
カラム:L−column ODS(4.6mm×150mm,5μm、ジーエルサイエンス株式会社製)
カラム温度:30℃付近の一定温度
移動相:メタノール/リン酸/水(90/0.01/9.99)
流量:標準溶液を用いてフルフェナム酸ブチルの保持時間が約19分になるように調整(約0.5ml/min)
試料溶液注入量:10μL
分析時間:60分
【0018】
(B)分子内にカチオン中心とアニオン中心を持つ化合物
本発明の乳化組成物には、上記(A)成分に加えて、分子内にカチオン中心とアニオン中心を持つ化合物(以下、「双性イオン化合物」といい、「(B)成分」ということもある。)が配合される。
【0019】
双性イオン化合物は、医薬品、医薬部外品、及び化粧品などの人体に適用される製品に通常使用されるものであれば特に限定されず、例えば、ラウリルベタイン(ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン)等のN−アルキル−N,N−ジメチルアミノ酸ベタイン;コカミドプロピルベタイン、ラウラミドプロピルベタイン等の脂肪酸アミドアルキル−N,N−ジメチルアミノ酸ベタイン;ココアンホ酢酸ナトリウム、ラウロアンホ酢酸ナトリウム等のイミダゾリン型ベタイン;アルキルジメチルタウリン等のアルキルスルホベタイン;ラウリルヒドロキシスルホベタイン等のアルキルヒドロキシスルホベタイン;アルキルジメチルアミノエタノール硫酸エステル等の硫酸型ベタイン;アルキルジメチルアミノエタノールリン酸エステル等のリン酸型ベタイン;ポリメタクリロイルエチルジメチルベタイン、N−メタクリロイルオキシエチルN,N−ジメチルアンモニウム−α−メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキル共重合体等のメタクリル酸誘導体;ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン等のスフィンゴリン脂質、レシチン、リゾレシチン、大豆リン脂質、水素添加大豆リン脂質、部分水素添加大豆リン脂質、卵黄リン脂質、水素添加卵黄リン脂質、部分水素添加卵黄リン脂質、水酸化レシチン等のリン脂質類(分子内にリン脂質もしくはその類似構造を含む化合物であれば、特に制限はない);トリメチルグリシン;両性化デンプン;シリコーン系両性界面活性剤等が挙げられる。なかでも、外用組成物、特に皮膚外用組成物において使用する場合、製剤安定性及び使用感を考慮し、好ましくは、ベタイン型界面活性剤、トリメチルグリシン、リン脂質等が挙げられ、特には、リン脂質として、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを構成単位とする重合体が好ましく、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとメタクリル酸エステル(例えば、メタクリル酸ブチル)の共重合体がより好ましい。なお、これらの双性イオン化合物は、1種単独で使用してもよいが、2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
【0020】
本発明の乳化組成物における当該双性イオン化合物の含有量は、とくに制限されないが、組成物100重量%中0.01重量%以上含有することが好ましく、0.01〜3重量%含有することがより好ましく、0.05〜2重量%含有することがさらに好ましく、0.1〜2重量%含有することが特に好ましい。双性イオン化合物をこの範囲に調整することで、フルフェナム酸ブチルを含有する乳化組成物の安定性がより一層高まり、かつ使用感により優れた組成物とすることが可能となる。
【0021】
また、本発明の乳化組成物におけるフルフェナム酸ブチルと双性イオン化合物との含有割合は、とくに制限されないが、製剤安定性と使用感の点から、フルフェナム酸ブチル1重量部に対して、双性イオン化合物0.01〜3重量部であることが好ましく、0.02〜2重量部であることがより好ましく、0.02〜1重量部であることがさらに好ましく、0.02〜0.5重量部であることが特に好ましい。
【0022】
(C)水性成分
本発明の乳化組成物は、特に制限されないが、例えば、水中油型乳化組成物、油中水型乳化組成物などが挙げられる。なかでも、安定性及び使用感の点から、水中油型乳化組成物であることが好ましい。本発明の乳化組成物の水相を形成する水性成分としては、水、一価アルコール、多価アルコール等を挙げることができる。
【0023】
水の種類は、特に制限されないが、例えば、精製水、蒸留水、イオン交換水などを使用することができる。本発明の乳化組成物における水の含有量は、通常10〜90重量%程度の範囲から選択調整されるが、好ましくは20〜80重量%程度であり、より好ましくは30〜70重量%程度がより好ましい。
【0024】
一価アルコールとしては、例えば、炭素数1〜4の一価アルコールを挙げることができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等を例示することができる。一価アルコールは1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0025】
多価アルコールとしては、例えば、炭素数2〜6で酸素数2〜3の多価アルコールを挙げることができる。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、グリセリン、及びソルビトール等を例示することができる。中でも好ましくはプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,2−ペンタンジオールであり、より好ましくは1,3−ブチレングリコールである。多価アルコールは1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0026】
乳化組成物における一価アルコール又は多価アルコールの含有量(合計量)は、通常1〜20重量%程度の範囲から選択調整されるが、好ましくは1〜15重量%程度であり、より好ましくは2〜10重量%程度である。
【0027】
(D)油性成分
本発明の乳化組成物の油相を形成する油性成分としては、常温(25℃)で液体の油性成分を挙げることができる。
【0028】
常温で液体の油性成分として、医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品等の分野において許容されるものであれば特に制限されず、例えば、シリコーン油、鉱物油、植物油、流動パラフィン、液状ロウ類、及びエステル油を用いることもできる。これらの油性成分は1種単独で使用してもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0029】
乳化組成物中の常温で液体の油性成分の含有量は1〜30重量%程度の範囲から適宜選択調整される。好ましくは5〜20重量%程度であり、より好ましくは7〜15重量%程度である。乳化組成物中に常温で液体の油性成分がこの含有量で含まれることで、その乳化状態がより安定化され、さらに長期間、良好な乳化状態を維持することができる。
【0030】
また本発明の乳化組成物は、更に常温(25℃)で固体の油性成分を含むことができる。常温で固体の油性成分は、乳化組成物をコンシーラー様の医薬品やファンデーション等の化粧料として用いた場合に、基剤として機能する。
【0031】
常温で固体の油性成分としては、医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品等の分野において許容されるものであれば特に制限されない。具体的には、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸等の脂肪酸;ミツロウ、カルバナロウ、ラノリン、ラノリンエステル、キャンデリラワックス等のロウ類;セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、セタノール(セチルアルコール)、ミリスチルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、及びラノリンアルコール等の固体アルコールを挙げることができる。好ましくはセトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、セタノール(セチルアルコール)、ベヘニルアルコール等の固体アルコールである。
【0032】
そのほか、常温で固体の油性成分として、マイクロクリスタリンワックス、コレステロール、フィトステロール、α−オレフィンオリゴマー、ゲル化炭化水素、セレシンワックス、固形パラフィン、ワセリン等の炭化水素油を用いることもできる。中でもマイクロクリスタリンワックス、コレステロール又はフィトステロールを用いることが好ましい。常温で固体の油性成分は1種単独で使用してもよく、2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0033】
本発明の乳化組成物中の常温で固体の油性成分の含有量は、通常0.01〜30重量%程度の範囲から適宜選択調整することができる。好ましくは0.05〜20重量%程度であり、より好ましくは0.05〜15重量%程度である。乳化組成物中の常温で固体の油性成分がこの含有量で含まれることで、その乳化状態がより安定化され、さらに長期間、良好な乳化状態を維持することができる。また、乳化組成物中の使用感をより向上させることができる。
【0034】
本発明の乳化組成物中の油性成分(常温で液体、固体)の含有量(合計量)は、上記同様の理由から1〜60重量%程度が好ましく、5〜40重量%程度がより好ましく、5〜35重量%程度が更に好ましい。
【0035】
(E)任意成分
本発明の乳化組成物には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、他の成分を適宜選択し配合することができる。例えば、追加の薬効成分、双性イオン化合物以外の界面活性剤並びに医薬製剤の調製に一般的に使用される希釈剤、pH調整剤(緩衝剤)、増粘剤、安定化剤、防腐剤、矯味剤(甘味料を含む)、矯臭剤(香料を含む)、着色料等の各種添加剤を挙げることができる。
【0036】
追加の薬効成分としては、フルフェナム酸ブチルの作用効果を損なわないものを挙げることができ、例えば、保湿成分、美白成分、抗炎症成分、殺菌成分、ビタミン薬、生薬成分等を挙げることができる。
【0037】
双性イオン化合物以外の界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤等が挙げられる(両性界面活性剤は双性イオン化合物に含まれる)が、乳化組成物の安定性及び使用感の観点から、ノニオン性の親水性界面活性剤が好ましい。ノニオン性の親水性界面活性剤としては、ポリオキシエチレン(以下、「POE」と略称する場合がある)付加タイプの界面活性剤、ならびに、C12−C24脂肪酸グリセリル及びソルビタンエステルが好適である。
【0038】
POE付加タイプの界面活性剤としては、例えば、POE(10〜50モル)フィトステロールエーテル、POE(10〜50モル)ジヒドロコレステロールエーテル、POE(10〜50モル)2−オクチルドデシルエーテル、POE(10〜50モル)デシルテトラデシルエーテル、POE(10〜50モル)オレイルエーテル、POE(10〜50モル)セチルエーテル、POE(5〜30モル)ポリオキシプロピレン(5〜30モル)2−デシルテトラデシルエーテル、POE(10〜50モル)ポリオキシプロピレン(2〜30モル)セチルエーテルなどのポリオキシアルキレンアルキルエーテル、POE(3〜200モル)ポリオキシプロピレン(15〜70モル)グリコールなどのポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール;これらのリン酸・リン酸塩(POEセチルエーテルリン酸ナトリウムなど);POE硬化ヒマシ油;POE(20〜60モル)モノステアレート、POE(20〜60モル)ソルビタンモノオレート、POE(10〜60モル)ソルビタンモノイソステアレート、POE(10〜80モル)グリセリルモノイソステアレート、POE(10〜30モル)グリセリルモノステアレート、POE(20〜100)ポリオキシプロピレン変性シリコーン、POE・アルキル変性シリコーン、モノラウリン酸ポリエチレングリコール、モノパルミチン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ジラウリン酸ポリエチレングリコール、ジパルミチン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール、ジリシノレイン酸ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0039】
また、C12−C24脂肪酸グリセリル及びソルビタンエステルとしては、オレイン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル、パルミチン酸グリセリル、オレイン酸ソルビタン、ステアリン酸ソルビタン、パルミチン酸ソルビタンなどが挙げられる。これらの界面活性剤は1種単独で使用してもよく、2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0040】
(F)乳化組成物の調製方法及び適用対象
本発明の乳化組成物は、当業界の通常の乳化方法に従って製造することができる。
【0041】
乳化組成物の調製方法で使用される各種成分(必須成分、界面活性剤、その他任意成分)の種類、含有量、配合比等については前述のとおりである。乳化組成物の調製では、水相を構成する成分又は油相を構成する成分をそれぞれ混合し、これにより、水相のみからなる水性組成物及び油相のみからなる油性組成物を調製することができる(ここで、(A)成分であるフルフェナム酸ブチルは油性組成物に、(B)成分である双性イオン化合物は水性組成物に含有されることが好ましい。)。次いで、水性組成物及び油性組成物を混合して乳化することで乳化組成物を調製することができる。なお、調製時には、必要に応じて、50〜90℃程度の温度になるように加熱し、また、混合は、ホモジナイザー、ホモミキサー、又は攪拌機等の混合機を用いて所定条件で行うことが好ましい。
【0042】
本発明の乳化組成物の適用対象は、好適には外用、つまり皮膚(頭皮を含む。)である。乳化組成物が皮膚に塗布等して用いられることを目的とする場合、例えば化粧品、皮膚外用医薬部外品、皮膚外用医薬品等の皮膚に塗布等して適用される形態である限り制限されない。例えば軟膏状、クリーム状、ペースト状、ムース状、ゲル状、ゼリー状、懸濁液状、乳液状等の各種所望の外用剤に適する形態とすることが好ましい。
【0043】
本発明の乳化組成物が例えばヒトの皮膚に適用することによって使用される場合、乳化組成物を皮膚に適用する量、回数は特に制限されない。例えば含有されるフルフェナム酸ブチルの濃度、使用者の年齢、性別、症状の程度、適用形態、期待される程度等に応じて、1日に1回〜数回の頻度で適当量を皮膚(特に症状が生じている部位)に適用することが好ましい。
【0044】
(2)乳化組成物の安定化方法
本発明は、フルフェナム酸ブチルを含有する乳化組成物の安定化方法であって、フルフェナム酸ブチルを含有する油性組成物に、分子内にカチオン中心とアニオン中心を持つ化合物を含有する水性組成物を混合し、乳化することを特徴とする乳化組成物の安定化方法を提供する。
【0045】
本発明の方法で使用する(A)フルフェナム酸ブチル、(B)双性イオン化合物、(C)水性成分、(D)油性成分及び(E)任意成分の種類、並びにその配合割合は、上記(1)で説明した通りである。従って、当該発明において、上記(1)における(A)〜(E)の記載を援用することができる。
【0046】
本発明の安定化方法において、対象とする乳化組成物の調製方法も上記(1)の(F)で説明した通りである。従って、当該発明において、上記(1)における(F)の記載を援用することができる。
【0047】
本発明の安定化方法によれば、後述する実験例に示すように、フルフェナム酸ブチルを含有する乳化組成物の安定性を向上させることができることから、乳化組成物の外観及びその品質を安定させることが可能になる。
【実施例】
【0048】
以下、実験例及び実施例に基づいて、本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0049】
(1)乳化組成物(実施例1〜4、比較例1〜2)の調製
表1に記載する処方に従って、以下(i)〜(iii)のとおり、乳化組成物を調製した。
(i)油性組成物の調製
Aに記載する成分を全て混合し、油性組成物を調製した。
(ii)水性組成物の調製
Bに記載する成分のうち、1,3−ブチレングリコール及びグリセリンを精製水に溶解した後、キサンタンガムを加え、膨潤させた。最後に、双性イオン化合物を加えて、水性組成物を調製した。
(iii)乳化
油性組成物を80℃に加熱、撹拌しながら、水性組成物を10分程度かけて少しずつ加えた。その後、5分間撹拌し、室温まで冷却させて乳化組成物を得た。製剤直後は、いずれの乳化組成物も分離していないことを確認した。
【0050】
(2)乳化組成物の分離安定性評価
上記で調製した乳化組成物(実施例1〜4、比較例1〜2)を、バイアル瓶(株式会社マルエム製「スクリュー管No.5」(容量:20.0ml、高さ:55mm、外径:27.0mm))に底から45mmの高さまで入れ、60℃条件で静置した。48時間静置した後に目視(外観観察)で分離の状態を確認した。分離している場合、バイアル瓶の底から分離境界面までの高さを測定し、初期高さ(45mm)に対する分離境界面の高さの割合を分離度(=分離境界面の高さ(mm)/初期高さ(45mm)×100)として算出した。得られた結果を以下の基準に基づき、評価した。60℃条件での結果が優れていた実施例1〜4については、さらに、50℃条件で1ヶ月静置した後の分離状態も評価した。結果を表1に示す。
(評価基準)
☆:分離度が5%未満である。
◎:分離度が5%以上10%未満である。
○:分離度が10%以上15%未満である。
△:分離度が15%以上20%未満である。
×:分離度が20%以上である。
【0051】
(3)乳化組成物の使用感
上記で調製した、製剤直後の乳化組成物(実施例1〜4、比較例1〜2)について、評価モニター10名によって、各乳化組成物約0.5gを腕に塗布し、塗布時の使用感(べたつき感のなさ)及び塗布後の使用感(被膜感、白残りのなさ)について評価した。評価は、以下に示す基準で1点〜10点の間で評点化したVisual Analogue Scale(以下、VASと記載する)によるアンケートを実施することにより行った。アンケート結果を平均し、小数点第一位を四捨五入することにより、評価点とした。結果を表1に示す。
<べたつき感のなさ>
1点:塗布時にべたつき感がある。
10点:塗布時にべたつき感がない。
<被膜感>
1点:塗布後に被膜感がない。
10点:塗布後に被膜感がある。
<白残りのなさ>
1点:塗布後に白残りする。
10点:塗布後に白残りしない。
【0052】
【表1】
【0053】
比較例1のとおり、フルフェナム酸ブチルを含有し、双性イオン化合物を含有しない場合、乳化組成物の安定性が悪く、60℃で48時間後には分離した。また、比較例2のとおり、双性イオン化合物を含有していながら、フルフェナム酸ブチルを含有しない場合でも同様に安定性が悪く、分離した。一方、フルフェナム酸ブチル及び双性イオン化合物の両方を含有する場合は、60℃48時間という過酷な条件下でも、分離を抑制することができ、かつ50℃1ヶ月では一切の分離が認められなかった。特に、フルフェナム酸ブチル1重量部に対して、双性イオン化合物を0.02〜0.15重量部の範囲内とすることで安定性をより向上させることができた。
【0054】
また、使用感について、フルフェナム酸ブチルを含有しない場合には(比較例2)、ある程度良好な使用感が認められたが、フルフェナム酸ブチルを含有する比較例1では、べたつき感のなさ、被膜感、白残りのなさの全てで低評価となった。一方で、フルフェナム酸ブチルを含有していても、双性イオン化合物を含有した場合、いずれの使用感も満足のいくものとなった。特に、フルフェナム酸ブチル1重量部に対して、双性イオン化合物を0.02〜0.15重量部の範囲とした実施例2〜4については、いずれも、べたつき感を抑えながらも、十分な被膜感(しっかりとした塗布感)を与えることができ、また、塗布後の白残りを抑制できることから、手や顔など、目立つ箇所への使用についても満足のいく乳化組成物とすることができた。
【0055】
(4)フルフェナム酸ブチルの分析
乳化組成物に使用するフルフェナム酸ブチルを、以下の条件のHPLC法により分析した。フルフェナム酸ブチルとしては2種類(A、B)を使用した。分析結果を図1に示す。
【0056】
(試料調製)
標準溶液:フルフェナム酸ブチル1gにエタノール(95)を加えて100mlにした。当該溶液5mlに、ラウリル硫酸ナトリウム溶液(0.1%リン酸水溶液500mlに、ラウリル硫酸ナトリウムを2.9g加えて混和したもの)5ml加え、さらにエタノール(95)を加えて50mlとした。これを標準溶液とした。
試料溶液:フルフェナム酸ブチル1gに、ラウリル硫酸ナトリウム溶液(0.1%リン酸水溶液500mlに、ラウリル硫酸ナトリウムを2.9g加えて混和したもの)5mlを加え、さらにエタノール(95)を加えて50mlとした。これを15分間超音波照射し、メンブレンフィルターでろ過した。これを試料溶液とした。
【0057】
(試験条件)
分析装置:Prominence LC−20AT(株式会社島津製作所製)
検出器:紫外線吸光光度計(測定波長:254nm)
カラム:L−column ODS(4.6mm×150mm,5μm、ジーエルサイエンス株式会社製)
カラム温度:30℃付近の一定温度
移動相:メタノール/リン酸/水(90/0.01/9.99)
流量:標準溶液を用いてフルフェナム酸ブチルの保持時間が約19分になるように調整(約0.5ml/min)
試料溶液注入量:10μL
分析時間:60分
【0058】
図1より、フルフェナム酸ブチルAについては、保持時間35〜45分付近にピークが検出されたが、フルフェナム酸ブチルBについては、そのようなピークは検出されなかった。
【0059】
(5)皮膚感作性試験
フルフェナム酸ブチルA及びBを用いて、皮膚感作性試験を行った。試験は、「TG 442C, OECD Guidel ine for the Test ing of Chemicals, In Chemico Skin Sensitization, Direct Peptide Reactivity Assay(DPRA)」(2015年2 月5 日、OECD)に記載のペプチド結合性試験(DPRA法)によって行った。
【0060】
その結果、保持時間35〜45分付近にピークが検出されたフルフェナム酸ブチルAでは、ペプチドとの結合(皮膚感作性)が認められたが、そのようなピークが検出されなかったフルフェナム酸ブチルBでは、ペプチドとの結合が抑制されており、皮膚感作性が顕著に抑えられていた。フルフェナム酸ブチルAもBもともに、乳化組成物の安定性や使用感には影響を及ぼさなかったが、安全性の点からフルフェナム酸ブチルBの方が本発明の乳化組成物として好適であることが分かった。
【0061】
処方例1〜20
【0062】
表2及び3に示す処方にしたがって、実施例1と同様に乳化組成物を調製した。いずれも、比較例1に比べて、安定性及び使用感に優れた乳化組成物であった。
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
図1