【実施例1】
【0018】
図1Aは、実施例1のパターン計測装置の構成例を示す図であり、装置本体は電子光学系であるカラム1、ならびに試料室2からなる。カラム1は、電子銃3、コンデンサレンズ4、対物レンズ8、ディフレクタ7、アライナ5、2次電子検出器9、E×Bフィルタ6、反射電子検出器10を含む。電子銃3によって発生された一次電子線(照射電子)は、コンデンサレンズ4と対物レンズ8によってウェハ11に対して収束させて照射する。アライナ5は一次電子線が対物レンズ8に入射する位置をアライメントする。一次電子線は、ディフレクタ7によってウェハ11に対して走査される。ディフレクタ7は、ビーム走査コントローラ17からの信号に従って一次電子線をウェハ11に対して走査させる。一次電子線の照射によってウェハ11から得られる2次電子はE×Bフィルタ6で2次電子検出器9の方向に向けられ、2次電子検出器9で検出される。また、ウェハ11からの反射電子は反射電子検出器10によって検出される。2次電子や反射電子を総称して電子線照射により試料から得られる信号を信号電子と呼ぶこととする。荷電粒子光学系には、これ以外に他のレンズや電極、検出器を含んでもよいし、一部が上記と異なっていてもよく、荷電粒子光学系の構成はこれに限られない。試料室2に設置されるXYステージ13は、ステージコントローラ18からの信号に従ってカラム1に対してウェハ11を移動する。XYステージ13上には、ビーム校正のための標準試料12が取り付けられている。また、本装置はウェハアライメントのための光学顕微鏡14を有している。2次電子検出器9および反射電子検出器10からの信号はアンプ15ならびにアンプ16により信号変換され、画像処理ボード19に送られ画像化される。また、本実施例の重ねパターン寸法計測装置は制御PC20により装置全体の動作が制御される。なお、制御PCには、マウスやキーボードなどユーザが指示入力するための入力部と、画面を表示するモニタ等の表示部、ハードディスクやメモリ等の記憶部が含まれている。また、以下に説明する演算を行う演算装置20aをここに設けても良い。
【0019】
荷電粒子線装置には、この他にも各部分の動作を制御する制御部や、検出器から出力される信号に基づいて画像を生成する画像生成部が含まれている(図示省略)。制御部や画像生成部は、専用の回路基板によってハードウェアとして構成されていてもよいし、荷電粒子線装置に接続されたコンピュータで実行されるソフトウェアによって構成されてもよい。ハードウェアにより構成する場合には、処理を実行する複数の演算器を配線基板上、または半導体チップまたはパッケージ内に集積することにより実現できる。ソフトウェアにより構成する場合には、コンピュータに高速な汎用CPUを搭載して、所望の演算処理を実行するプログラムを実行することで実現できる。このプログラムが記録された記録媒体により、既存の装置をアップグレードすることも可能である。また、これらの装置や回路、コンピュータ間は有線又は無線のネットワークで接続され、適宜データが送受信される。
【0020】
図1Bは、以下に示す演算を行う演算装置の一構成例を示す機能ブロック図である。
【0021】
図1Bに示すように、演算装置は、位置ずれ
量算出部20a−1と、パターン傾斜量算出部20a−2と、ビームチルト制御量算出部20a−3とを有する。
【0022】
位置ずれ
量算出部20a−1は、任意のビームチルト角で取得した画像から、異なる高さの2つのパターンの間の、ウェハ表面と並行方向の位置ずれ量を算出する。
【0023】
パターン傾斜量算出部20a−2は、予め求めておいた前記位置ずれ量と前記パターンの傾斜量(パターン傾斜量)との関係式により前記位置ずれ量から前記パターンの傾斜量を算出する。
【0024】
ビームチルト制御量算出部20a−3は、パターン傾斜に一致するようにビームチルト制御量を算出する。
【0025】
そして、算出したビームチルト制御量に設定して、再度画像を取得してパターンの計測を行う。
【0026】
アライナ5は、上段の偏向器によって電子ビームを理想光軸から離軸させ、下段の偏向器によって、所望の傾斜角となるように電子ビームを偏向する。
図1Aでは、2段の偏向器を有する傾斜ビーム用偏向器を例示しているが、目的や要求精度に応じて多段を装備してもよい。また、XYステージを傾斜させることによって、試料に傾斜ビームを照射するようにしても良い。
【0027】
電子ビームの入射角は、XYステージあるいは試料に対して校正することができる。例えば、標準試料12としてピラミッド形状にエッチングされたパターンを備え、画像に現れるピラミッドの4つの面が同じ形状となるように、偏向器によって電子ビームを偏向することによって、電子ビーム軌道を理想光軸と一致させることができる。また、ピラミッドの各面の幾何学的演算に基づいて、所望の傾斜角となるように、電子ビームの軌道を調整することもできる。このような演算に基づいて、偏向器の偏向条件(制御値)を決定する。複数の角度毎に、電子ビームが正確な傾斜角となるようにビームの軌道を校正し、その際の偏向器の制御値を記憶することで、後述する複数の照射角度でのビーム照射を適正に行うことができる。予め校正された偏向条件にて、ビーム照射を行うことによって、傾斜ビームを用いた測定を自動的に実行することが可能となる。
【0028】
本実施例では、試料と電子ビームの相対角度をビーム入射角度とするが、理想光軸と電子ビームの相対角度をビーム入射角度と定義するようにしても良い。通常の電子線計測装置(SEM)では基本的に、電子ビーム軌道は、XYステージの移動軌道(X方向とY方向)に対して垂直に設定されている。Z方向をゼロ度と定義し、X方向、Y方向共に傾斜角をプラス、マイナスの数字で示す。XとYを組み合わせてあらゆる方向の角度の設定が可能である。
【0029】
次に、ビーム走査によって得られる波形信号(プロファイル波形)を用いたパターン表面とボトム間のずれ量測定の概要について、
図2を用いて説明する。
図2(a)は、溝形状パターンGの断面図である。溝の上部に対して下部の寸法が小さく形成されており、側壁は試料の垂線(Z軸)に対し、0.1度から0.2度の相対角を持っている。
図2(b)と(c)は、
図2(a)に例示したパターンに対するビーム走査に基づいて、それぞれ、検出器9ならびに検出器10により得られる画像の一例を示す図である。これらの画像には、Y方向を長手方向とする溝状のパターンが表示されている。ビーム走査を行う場合には、X方向にライン状に走査すると共に、走査位置をY方向に移動させることによって、2次元走査を行う。画像の中心部が溝底に相当し、通常は上部よりも暗く見える。
【0030】
図2(b)は、主に2次電子の信号を検出している検出器9による画像であり、溝の両端エッチ部が明るく見えている。また、
図2(c)は、主に反射電子の信号を検出している検出器10による画像であり、溝が深くなるにつれて輝度が減少している。
図2(d)は、A−A’の位置での1ラインの信号強度波形例を示す図である。溝の両端エッチ部は、2次電子が試料面から出てきやすいため、輝度のピークを有している。本実施例1では、閾値設定に基づいて、パターン寸法を測定する。閾値として最大輝度の50%を設定し、閾値と信号波形の交点a
1とa
2とから、溝上部の中点a
3を、式(a
1+a
2)/2により算出した。同様に、
図2(e)は、B−B’の位置での1ラインの信号強度波形を示しており、溝の深い部分ほど輝度が低くなっている。閾値として最大輝度の10%を設定し、閾値と信号波形の交点b
1とb
2とから、溝上部の中点b
3を、式(b
1+b
2)/2により算出した。次に、溝の表面
の中心位置に対する、溝の底部の中心位置のずれを、(b
3−a
3)として算出した。
【0031】
以下、パターン形状の傾斜に一致するようにビームをチルトさせてのボトム観察の必要性を
図3A,Bにより説明する。
図3A(a)は、溝形状パターンの断面図であり、溝上パターンは試料の垂線(Z軸)に対し、-α°傾いてエッチングされている。
図3A(b)-
図3A(e)までは、
図2(a)に例示したパターンに対するビーム走査に基づいて、検出器9ならびに検出器10により得られる画像の一例を示す図である。ここで、検出器9による2次電子画像は、異なる3つの入射角(−2α°、−α°、0°)に対して、
図3A(b)に示されるように、常に画像の中心と表面部での溝の中心が一致するようにして取得されるものとする。
図3A(c)−(e)は、ぞれぞれ、入射角−2α°、−α°、0°の時の、検出器10による反射電子画像を表している。
図3A(c)は、入射角度がー2α°の時の反射電子像であり、溝のボトム部の中心が画像中心よりも左(−X)方向にシフトするため、ずれ量(b
13)は負の値となる。また、ボトム部の左側が側壁に隠れることにより、ボトム寸法(
b11−b12)が実際よりも小さく計測される。
図3A(d)は、入射角度がーα°の時の反射電子像であり、溝のボトム部の中心が画像中心と一致するため、ずれ量(b
23)は0となり、このときは側壁の陰になることなく溝底全体が観察されるため、ボトム寸法(
b21−b22)を正しく計測することができる。
図3A(e)は、入射角度が0°の時の反射電子像であり、溝のボトム部の中心が画像中心よりも右(+X)方向にシフトするため、ずれ量(b
33)は正の値となる。また、ボトム部の右側が側壁に隠れることにより、ボトム寸法(
b31−b32)が実際よりも小さく計測される。ビーム入射角と、ボトム寸法ならびに位置ずれ量との関係は、
図3B(f)にまとめられており、ボトム寸法は位置ずれ量が0となるビーム入射角で最大値となり、位置ずれ量の絶対値が大きくなるにつれてボトム寸法が小さく計測される。すなわち、ボトム寸法を正確に計測しようとすると、パターンの上下部間の位置ずれ量が0となるようにビーム入射角を設定する必要がある。また、パターン傾斜量の測定においても、ボトムの一部が側壁の影に隠れた状態では、実際よりも位置ずれ量が小さく計測されることによる誤差が発生するため、位置ずれ量が小さい状態での計測が望ましい。
【0032】
位置ずれ量が0となるように入射角を制御しようとする場合、ビーム入射角と位置ずれ量の変化の関係をあらかじめ測定して関係式を求めておき、この関係式を用いて、測定された位置ずれ量に相当する分だけビーム入射角を変更するが、
図4を用いて関係式を求める手順を説明する。
【0033】
図4(a)は、パターンと入射ビームの相対角度と表面−ボトム間のずれ量との関係式を算出するプロセスを示すフローチャート図である。本関係式算出処理(ステップ31)は、ビームチルト設定(ステップ32)と位置ずれ量計測(ステップ33)を、予め設定した条件がすべて完了するまで繰り返す(No)。最後の条件であるか否かの判断プロセス(ステップ34)で、最後の条件まで完了したと判定されると(yes)、一連の計測結果から関係式算出(ステップ35)の処理を実行する。
図4(b)は、計測結果を、横軸をビームチルト角、縦軸を計測された位置ずれ量としてプロットした図であるが、測定結果に対して、例えば最小2乗法により近似式を求めることで関係式を算出する。本実施例においては、近似式として1次関数(Y=AX+B)を用いたが、近似式のフォーマットはこれに限定されるものではなく、より高次の関数(例えば3次式)としてもよい。一次式で近似した場合、1次の係数(A)は、ビームチルトの変化に対する位置ずれの変化量(nm/deg)であり、0次の係数(B)は、関係式の算出に使われた溝パターンが垂直でない場合、パターン傾斜に応じた値を示す。後述するエッチングパターン傾斜に合わせたビームチルト制御では、計測されたずれ量からエッチングパターンの傾斜を算出するのに1次の係数(A)を使用する。すなわち、0度の入射ビームにより計測された位置ずれ量がΔYのとき、パターンの傾斜に一致するビームチルト角(ΔX)は以下の式で算出される。
ΔX = −ΔY/A
【0034】
式にマイナスが付いているのは、位置ずれ量をキャンセルする方向にビームシフトを行うことによる。本実施例1においては、関係式を算出するために、入射ビームの角度を変えてデータを取得しているが、入射ビームの角度を固定した状態で試料の傾きを変化させてデータを取得してもよい。
【0035】
次に、
図5のフローチャート図により、本実施例におけるレシピ処理(ステップ41)のシーケンスを説明する。レシピが開始されると、ウェハロード(ステップ42)とアライメント(ステップ43)が実行される。以下、レシピに設定した各測定点に対しては、まずビームチルトが初期値に設定(ステップ44)された後、パターン上下部の寸法値と上下間の位置ずれ量が計測され(ステップ45)、予め求めておいた関係式の1次係数を用いて、パターンの傾斜角が算出される(ステップ46)。算出された傾斜量が閾値以内であるかの判定(ステップ47)を行い、閾値以内であれば(ステップ45)で計測された寸法値と(ステップ46)で算出されたパターン傾斜量を確定値として次の測定点へ移動する。もし閾値外であれば、パターン傾斜に合うようにビームチルト角を設定し(ステップ48)、寸法と位置ずれ量の再測定を行う。レシピに設定された全ての測定点が終了したと判断されると(ステップ49)、ウェハがアンロードされ(ステップ50)、レシピが終了する(ステップ51)。
【実施例2】
【0036】
以下、本発明の実施例2のパターン計測装置によるホールパターン計測技術について説明する。実施例1に示した溝パターンの場合は一方向にのみ入射ビームを制御すればよいが、本実施例2に示すホールパターンの場合は、XとYの両方向にビーム傾斜を制御する必要がある。本実施例2では、X方向とY方向の補正式を求めておき、それぞれの方向に補正を行う。
【0037】
図6A(a)は、ホール形状パターンの断面図であり、ホールHは試料の垂線(Z軸)に対してエッチングされている。
図6A(b)は、ホールパターンのトップ部の中心が画像の中心となるようにして撮像した場合の、ボトム部の形状と中心位置を、X方向が異なる3つのビーム入射角に対して図示している。入射角がパターンのエッチング
方向と一致している場合(入射角0°)ではトップとボトムの中心が一致している。一方、入射ビームが−X側に傾斜した場合(入射角―α
x°)では、トップに対してボトムが−X方向にずれている。同様にして入射ビームが+X側に傾斜した場合(入射角+α
x°)では、トップに対してボトムが+X方向にずれている。このように、入射ビーム角に対するずれ量を計測することで、
図6A(c)に示すような、X方向のビーム入射角とX方向の位置ずれ量の関係式を算出する。関係式を以下に示す。
OVL
x = A
x * T
x
【0038】
また、
図6B(d)は、ホールパターンのトップ部の中心が画像の中心となるようにして撮像した場合の、ボトム部の形状と中心位置を、Y方向が異なる3つのビーム入射角に対して図示している。入射角がパターンのエッチング
方向と一致している場合(入射角0°)ではトップとボトムの中心が一致している。入射ビームが−Y側に傾斜した場合(入射角-α
y°)では、トップに対してボトムが−Y方向にずれている。同様にして入射ビームが+Y側に傾斜した場合(入射角+α
y°)では、トップに対してボトムが+Y方向にずれている。このように、入射ビーム角に対するずれ量を計測することで、
図6B(e)に示すような、Y方向のビーム入射角とX方向の位置ずれ量の関係式を算出する。
【0039】
関係式を以下に示す。
OVL
y = A
y * T
y
【0040】
例えば、
図7に示すように、ホールパターンのボトムの中心が、X方向とY方向にそれぞれ
OVLxとOVLyだけ位置ずれしていた場合は、入射ビームを
X方向に −(
OVLx / A
x)
Y方向に −(
OVLy / A
y)
だけ、それぞれチルトさせることにより、ホールパターンのエッチング方向に並行にビームを照射させることができる。
【0041】
ここで、本実施例2のレシピシーケンスは、入射ビームの補正方向がXとYの2方向になる点を除いては、実施例1と同じである。
【0042】
本実施例2における、計測結果出力の例を
図8に示す。各測定点に対して、
チップX座標(列61)、チップのY座標(列62)、チップ内のX座標(列63)、チップ内のY座標(列64)、ホールのトップ径(列65)、ホールのボトム径(列66)、X方向のパターン傾斜(列67)、Y方向のパターン傾斜(列68)、パターン傾斜方向(列69)、パターンの絶対傾斜量(列70)
を表示している。
【0043】
ここで、パターン傾斜方向とパターンの絶対傾斜量はそれぞれ以下の式により算出される。
(パターン傾斜方向)= atan{(Y方向のパターン傾斜)/(X方向のパターン傾斜)}
(パターン絶対傾斜量)= √{(X方向のパターン傾斜)
2+(Y方向のパターン傾斜)
2}