特許第6834016号(P6834016)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6834016パターン計測装置およびパターン計測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6834016
(24)【登録日】2021年2月5日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】パターン計測装置およびパターン計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 15/00 20060101AFI20210215BHJP
   H01J 37/22 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   G01B15/00 K
   H01J37/22 502B
【請求項の数】17
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-547877(P2019-547877)
(86)(22)【出願日】2017年10月13日
(86)【国際出願番号】JP2017037172
(87)【国際公開番号】WO2019073592
(87)【国際公開日】20190418
【審査請求日】2020年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】太田 洋也
(72)【発明者】
【氏名】谷本 憲史
(72)【発明者】
【氏名】安部 悠介
(72)【発明者】
【氏名】田盛 友浩
(72)【発明者】
【氏名】野尻 正明
【審査官】 續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−77299(JP,A)
【文献】 特開2014−170751(JP,A)
【文献】 特開2015−158462(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/181577(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0276375(US,A1)
【文献】 特開2005−183369(JP,A)
【文献】 特開2009−110734(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/075246(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/013342(WO,A1)
【文献】 特開2016−126823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 15/00
H01J 37/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線装置により得られた信号に基づいて、試料上に形成されたパターンの寸法を測定する演算装置を備えており、
前記演算装置は、
任意のビームチルト角で取得した画像から、異なる高さの2つのパターンの間の、ウェハ表面と並行方向の位置ずれ量を算出する位置ずれ量算出部と、
予め求めておいた前記位置ずれ量と前記パターンの傾斜量との関係式により前記位置ずれ量から前記パターンの傾斜量を算出するパターン傾斜量算出部と、
前記パターンの傾斜量に一致するようにビームチルト角を制御するビームチルト制御量算出部と、を有し、
算出したビームチルト角に設定して、再度画像を取得してパターンの計測を行うパターン計測装置。
【請求項2】
請求項1のパターン計測装置において、
前記ビームチルト制御量算出部は、
画像に現れる標準試料の形状を基に、電子ビーム軌道の校正量を算出することを特徴とするパターン計測装置。
【請求項3】
請求項1のパターン計測装置において、
前記パターンの傾斜量に一致するようにビームチルト角を設定しての画像の再取得処理を、前記位置ずれ量が閾値よりも大きい場合に実行するパターン計測装置。
【請求項4】
請求項1のパターン計測装置において、
2次電子検出用と反射電子検出用の少なくとも2つ以上の検出器を有しており、2次電子像から算出された表面のパターン位置と、反射電子像から算出されたエッチング形状のボトム近傍パターン位置とから、位置ずれ量を算出するパターン計測装置。
【請求項5】
請求項1のパターン計測装置において、
前記位置ずれ量と前記パターンの傾斜量との関係式は、複数のビームチルト角でビームを照射し、各ビームチルト角での位置ずれ量の計測値から算出するパターン計測装置。
【請求項6】
請求項5のパターン計測装置において、
前記関係式は、異なる2つの方向に対して独立に保持されることを特徴とするパターン計測装置。
【請求項7】
請求項5のパターン計測装置において、
前記関係式をレシピ開始時に計測することを特徴とするパターン計測装置。
【請求項8】
請求項1のパターン計測装置において、
前記演算装置は、
位置ずれ量が規定値以内となるまで、位置ずれ量の算出、関係式によるパターン傾斜量の算出、ならびにパターン傾斜量にビームチルトを合わせての画像取得のプロセスを繰り返し実行する、パターン計測装置。
【請求項9】
請求項8のパターン計測装置において、
各測定点において、補正時のデータから関係式を修正しながらビームチルト量の補正を行うパターン計測装置。
【請求項10】
請求項1のパターン計測装置において、
パターン傾斜にビームチルトを合わせる過程と、その後のパターン計測過程では、異なる画像取得条件を用いることを特徴とするパターン計測装置。
【請求項11】
請求項10のパターン計測装置において、
パターン傾斜にビームチルトを合わせる過程に対しては、その後のパターン計測過程よりも画像取得時間の短い条件を用いるパターン計測装置。
【請求項12】
請求項1のパターン計測装置において、
パターン傾斜にビームチルトを合わせる過程と、その後のパターン計測過程では、異なる計測条件を用いることを特徴とするパターン計測装置。
【請求項13】
請求項12のパターン計測装置において、
パターン傾斜にビームチルトを合わせる過程では、その後のパターン計測過程よりも測定するパターンの数が少ないことを特徴とするパターン計測装置。
【請求項14】
請求項1のパターン計測装置において、
画像取得時のビームチルト角と、位置ずれ量と、関係式とからパターンの傾斜量を算出し、計測値として出力するパターン計測装置。
【請求項15】
請求項14のパターン計測装置において、
前記パターンの傾斜量は、試料面での傾斜方向と、試料と垂直方向からの傾斜角度として出力するパターン計測装置。
【請求項16】
請求項14のパターン計測装置において、
前記パターンの傾斜量は、試料面での異なる2方向に対する傾斜量として出力するパターン計測装置。
【請求項17】
荷電粒子線装置により得られた信号に基づいて、試料上に形成されたパターンの寸法を測定する演算を含むパターン計測方法であって、
前記演算の方法は、
任意のビームチルト角で取得した画像から、異なる高さの2つのパターンの間の、ウェハ表面と並行方向の位置ずれ量を算出する位置ずれ量算出ステップと、
予め求めておいた前記位置ずれ量と前記パターンの傾斜量との関係式により前記位置ずれ量から前記パターンの傾斜量を算出するパターン傾斜量算出ステップと、
前記パターンの傾斜量に一致するようにビームチルト角を制御するビームチルト制御量算出ステップと、を有し、
算出したビームチルト角に設定して、再度画像を取得してパターンの計測を行うパターン計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスの製造工程における計測技術に係り、特に深穴や深溝などのパターン計測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置は、半導体ウェハ上にフォトマスクに形成されたパターンをリソグラフィー処理及びエッチング処理により転写する工程を繰り返すことにより製造される。半導体装置の製造過程において、リソグラフィー処理やエッチング処理その他の良否、異物発生等は、半導体装置の歩留まりに大きく影響を及ぼす。したがって、このような製造過程における異常や不良発生を早期にまたは事前に検知するために、製造過程で半導体ウェハ上のパターンの計測や検査が行われているが、精度の高い計測が求められる場合には、走査型電子顕微鏡(SEM)による計測が広く行われている。
【0003】
近年、微細化の進行が鈍化する一方で、3D−NANDに代表されるように三次元化による高集積化の進行が著しく、異なる工程間でのパターンの重ね合わせずれ、ならびに深い穴や溝のパターン形状の計測ニーズが高まっている。例えば、電子線装置による深穴や深溝の深さ測定(特許文献1)や、複数の検出器信号を活用した異なる工程間での重ね合わせ計測(特許文献2)が報告されている。
【0004】
上記、深穴や深溝はエッチングプロセスにより加工されるが、加工すべきパターンが深くなるに伴い、求められる加工精度が厳しくなってきている。このため、加工されるパターンの垂直度、加工深さ、ならびにボトム寸法などをウェハ面内で計測し、エッチング装置へフィードバックをかけることが重要になってきている。例えば、エッチャーの状態が良くない場合には、ウェハ外周で加工均一性が低下し、パターンが傾斜して加工されるケースがある。
【0005】
また、半導体パターンに限らず、立体形状を走査電子顕微鏡にて観察計測する際には、試料台または電子線を傾け、試料に対する入射角度を変え、上面からの照射とは異なる複数の画像でいわゆるステレオ観察を用いて、パターンの高さ、側壁の角度などの断面形状や、3次元再構成ができることが知られている(特許文献3)。この場合、試料とビームの設定角度精度が得られた断面形状や再構成された3次元形状の精度に大きく影響することが課題であり、このために角度校正を高精度に行うことが実施されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−106530号公報
【特許文献2】特許第5965819号公報(対応米国特許USP9,224,575)
【特許文献3】特許第4689002号公報(対応米国特許USP6,452,175)
【特許文献4】特許第4500653号公報(対応米国特許USP7,164,128)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
デバイスの3次元化により、加工される溝や穴のパターンがより深くなるに従って、エッチングプロセスの管理がより重要となってきている。
【0008】
本発明は、エッチングプロセスにフィードバックを掛けるための情報、すなわち、加工されるパターンのボトム寸法、パターン傾斜、ならびにパターン深さを正しく計測することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための一形態として、本発明では、任意の入射ビーム角で取得した画像から、エッチングされたパターンの表面部とボトム部の間でのウェハ表面と並行方向の位置ずれ量を算出し、予め求めておいた前記入射ビームと前記エッチングパターンとの相対角度と前記位置ずれ量との関係式により、前記位置ずれ量からパターン傾斜量を算出し、エッチングパターン傾斜に一致するように設定した入射ビーム角で再度画像を取得してパターンの計測を行う、電子ビームを用いたパターンの計測装置を提供する。
【0010】
本発明の一観点によれば、荷電粒子線装置により得られた信号に基づいて、試料上に形成されたパターンの寸法を測定する演算装置を備えており、前記演算装置は、任意のビームチルト角で取得した画像から、異なる高さの2つのパターンの間の、ウェハ表面と並行方向の位置ずれ量を算出する位置ずれ量算出部と、予め求めておいた前記位置ずれ量と前記パターンの傾斜量との関係式により前記位置ずれ量から前記パターンの傾斜量を算出するパターン傾斜量算出部と、前記パターンの傾斜量に一致するようにビームチルト角を制御するビームチルト制御量算出部と、を有し、算出したビームチルト角に設定して、再度画像を取得してパターンの計測を行うパターン計測装置が提供される。
【0011】
尚、本発明は、パターンの計測装置、パターンの形成方法及びそれをコンピュータに実行させるためのプログラムであっても良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、入射ビームがエッチングパターンの底まで到達するようになり、ボトム寸法やエッチングパターンの傾斜角の正確な計測が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】実施例1〜5に示す装置の構成例を示す概略図である。
図1B】演算装置の一構成例を示す機能ブロック図である。
図2】位置ずれ計測の原理を示す図である。
図3A】入射ビームチルトの効果を示す図である。
図3B図3Aに続く図である。
図4】入射ビームのチルト量を補正するための補正係数算出プロセスの一例を示す図である。
図5】実施例1のレシピシーケンスの説明図である。
図6A】実施例2のホールパターンに対する入射ビームのチルト補正の原理を示す図である。
図6B図6Aに続く図である。
図7】実施例2のホールパターンに対する入射ビームのチルト補正の一例を示す図である。
図8】実施例2のホールパターンに対する計測結果出力の一例を示す図である。
図9】実施例3におけるプロセス変化による補正係数変化の一例を示す図である。
図10】実施例3の関係式算出処理を追加したレシピシーケンスの一例を示す図である。
図11】実施例4の補正係数のアップデートの効果を示す図である。
図12】実施例5のレシピシーケンス例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態(実施例)について詳細に説明する。
【0015】
以下、荷電粒子線の照射により取得された画像を用いて試料の上層のパターンの位置と下層のパターンの位置とのずれ量に基づいて、パターンの傾斜に一致するように入射ビームを制御するパターン寸法計測装置の一例として走査型電子顕微鏡を用いた例を説明する。これは本発明の単なる一例であって、本発明は以下に説明する実施の形態に限定されるものではない。
【0016】
本発明において荷電粒子線装置とは荷電粒子線を用いて試料の画像を撮像する装置を広く含むものとする。荷電粒子線装置の一例として、走査型電子顕微鏡を用いた検査装置、レビュー装置、パターン計測装置が挙げられる。また、汎用の走査型電子顕微鏡や、走査型電子顕微鏡を備えた試料加工装置や試料解析装置にも適用可能である。また、以下で荷電粒子線装置とは、上記の荷電粒子線装置がネットワークで接続されたシステムや上記の荷電粒子線装置の複合装置も含むものとする。
【0017】
本明細書において、「試料」はパターンが形成された半導体ウェハである例を説明するが、これに限られるものではない。
【実施例1】
【0018】
図1Aは、実施例1のパターン計測装置の構成例を示す図であり、装置本体は電子光学系であるカラム1、ならびに試料室2からなる。カラム1は、電子銃3、コンデンサレンズ4、対物レンズ8、ディフレクタ7、アライナ5、2次電子検出器9、E×Bフィルタ6、反射電子検出器10を含む。電子銃3によって発生された一次電子線(照射電子)は、コンデンサレンズ4と対物レンズ8によってウェハ11に対して収束させて照射する。アライナ5は一次電子線が対物レンズ8に入射する位置をアライメントする。一次電子線は、ディフレクタ7によってウェハ11に対して走査される。ディフレクタ7は、ビーム走査コントローラ17からの信号に従って一次電子線をウェハ11に対して走査させる。一次電子線の照射によってウェハ11から得られる2次電子はE×Bフィルタ6で2次電子検出器9の方向に向けられ、2次電子検出器9で検出される。また、ウェハ11からの反射電子は反射電子検出器10によって検出される。2次電子や反射電子を総称して電子線照射により試料から得られる信号を信号電子と呼ぶこととする。荷電粒子光学系には、これ以外に他のレンズや電極、検出器を含んでもよいし、一部が上記と異なっていてもよく、荷電粒子光学系の構成はこれに限られない。試料室2に設置されるXYステージ13は、ステージコントローラ18からの信号に従ってカラム1に対してウェハ11を移動する。XYステージ13上には、ビーム校正のための標準試料12が取り付けられている。また、本装置はウェハアライメントのための光学顕微鏡14を有している。2次電子検出器9および反射電子検出器10からの信号はアンプ15ならびにアンプ16により信号変換され、画像処理ボード19に送られ画像化される。また、本実施例の重ねパターン寸法計測装置は制御PC20により装置全体の動作が制御される。なお、制御PCには、マウスやキーボードなどユーザが指示入力するための入力部と、画面を表示するモニタ等の表示部、ハードディスクやメモリ等の記憶部が含まれている。また、以下に説明する演算を行う演算装置20aをここに設けても良い。
【0019】
荷電粒子線装置には、この他にも各部分の動作を制御する制御部や、検出器から出力される信号に基づいて画像を生成する画像生成部が含まれている(図示省略)。制御部や画像生成部は、専用の回路基板によってハードウェアとして構成されていてもよいし、荷電粒子線装置に接続されたコンピュータで実行されるソフトウェアによって構成されてもよい。ハードウェアにより構成する場合には、処理を実行する複数の演算器を配線基板上、または半導体チップまたはパッケージ内に集積することにより実現できる。ソフトウェアにより構成する場合には、コンピュータに高速な汎用CPUを搭載して、所望の演算処理を実行するプログラムを実行することで実現できる。このプログラムが記録された記録媒体により、既存の装置をアップグレードすることも可能である。また、これらの装置や回路、コンピュータ間は有線又は無線のネットワークで接続され、適宜データが送受信される。
【0020】
図1Bは、以下に示す演算を行う演算装置の一構成例を示す機能ブロック図である。
【0021】
図1Bに示すように、演算装置は、位置ずれ量算出部20a−1と、パターン傾斜量算出部20a−2と、ビームチルト制御量算出部20a−3とを有する。
【0022】
位置ずれ量算出部20a−1は、任意のビームチルト角で取得した画像から、異なる高さの2つのパターンの間の、ウェハ表面と並行方向の位置ずれ量を算出する。
【0023】
パターン傾斜量算出部20a−2は、予め求めておいた前記位置ずれ量と前記パターンの傾斜量(パターン傾斜量)との関係式により前記位置ずれ量から前記パターンの傾斜量を算出する。
【0024】
ビームチルト制御量算出部20a−3は、パターン傾斜に一致するようにビームチルト制御量を算出する。
【0025】
そして、算出したビームチルト制御量に設定して、再度画像を取得してパターンの計測を行う。
【0026】
アライナ5は、上段の偏向器によって電子ビームを理想光軸から離軸させ、下段の偏向器によって、所望の傾斜角となるように電子ビームを偏向する。図1Aでは、2段の偏向器を有する傾斜ビーム用偏向器を例示しているが、目的や要求精度に応じて多段を装備してもよい。また、XYステージを傾斜させることによって、試料に傾斜ビームを照射するようにしても良い。
【0027】
電子ビームの入射角は、XYステージあるいは試料に対して校正することができる。例えば、標準試料12としてピラミッド形状にエッチングされたパターンを備え、画像に現れるピラミッドの4つの面が同じ形状となるように、偏向器によって電子ビームを偏向することによって、電子ビーム軌道を理想光軸と一致させることができる。また、ピラミッドの各面の幾何学的演算に基づいて、所望の傾斜角となるように、電子ビームの軌道を調整することもできる。このような演算に基づいて、偏向器の偏向条件(制御値)を決定する。複数の角度毎に、電子ビームが正確な傾斜角となるようにビームの軌道を校正し、その際の偏向器の制御値を記憶することで、後述する複数の照射角度でのビーム照射を適正に行うことができる。予め校正された偏向条件にて、ビーム照射を行うことによって、傾斜ビームを用いた測定を自動的に実行することが可能となる。
【0028】
本実施例では、試料と電子ビームの相対角度をビーム入射角度とするが、理想光軸と電子ビームの相対角度をビーム入射角度と定義するようにしても良い。通常の電子線計測装置(SEM)では基本的に、電子ビーム軌道は、XYステージの移動軌道(X方向とY方向)に対して垂直に設定されている。Z方向をゼロ度と定義し、X方向、Y方向共に傾斜角をプラス、マイナスの数字で示す。XとYを組み合わせてあらゆる方向の角度の設定が可能である。
【0029】
次に、ビーム走査によって得られる波形信号(プロファイル波形)を用いたパターン表面とボトム間のずれ量測定の概要について、図2を用いて説明する。図2(a)は、溝形状パターンGの断面図である。溝の上部に対して下部の寸法が小さく形成されており、側壁は試料の垂線(Z軸)に対し、0.1度から0.2度の相対角を持っている。図2(b)と(c)は、図2(a)に例示したパターンに対するビーム走査に基づいて、それぞれ、検出器9ならびに検出器10により得られる画像の一例を示す図である。これらの画像には、Y方向を長手方向とする溝状のパターンが表示されている。ビーム走査を行う場合には、X方向にライン状に走査すると共に、走査位置をY方向に移動させることによって、2次元走査を行う。画像の中心部が溝底に相当し、通常は上部よりも暗く見える。
【0030】
図2(b)は、主に2次電子の信号を検出している検出器9による画像であり、溝の両端エッチ部が明るく見えている。また、図2(c)は、主に反射電子の信号を検出している検出器10による画像であり、溝が深くなるにつれて輝度が減少している。図2(d)は、A−A’の位置での1ラインの信号強度波形例を示す図である。溝の両端エッチ部は、2次電子が試料面から出てきやすいため、輝度のピークを有している。本実施例1では、閾値設定に基づいて、パターン寸法を測定する。閾値として最大輝度の50%を設定し、閾値と信号波形の交点aとaとから、溝上部の中点a3を、式(a+a)/2により算出した。同様に、図2(e)は、B−B’の位置での1ラインの信号強度波形を示しており、溝の深い部分ほど輝度が低くなっている。閾値として最大輝度の10%を設定し、閾値と信号波形の交点bとbとから、溝上部の中点b3を、式(b+b)/2により算出した。次に、溝の表面中心位置に対する、溝の底部の中心位置のずれを、(b3−a3)として算出した。
【0031】
以下、パターン形状の傾斜に一致するようにビームをチルトさせてのボトム観察の必要性を図3A,Bにより説明する。図3A(a)は、溝形状パターンの断面図であり、溝上パターンは試料の垂線(Z軸)に対し、-α°傾いてエッチングされている。図3A(b)-図3A(e)までは、図2(a)に例示したパターンに対するビーム走査に基づいて、検出器9ならびに検出器10により得られる画像の一例を示す図である。ここで、検出器9による2次電子画像は、異なる3つの入射角(−2α°、−α°、0°)に対して、図3A(b)に示されるように、常に画像の中心と表面部での溝の中心が一致するようにして取得されるものとする。図3A(c)−(e)は、ぞれぞれ、入射角−2α°、−α°、0°の時の、検出器10による反射電子画像を表している。図3A(c)は、入射角度がー2α°の時の反射電子像であり、溝のボトム部の中心が画像中心よりも左(−X)方向にシフトするため、ずれ量(b13)は負の値となる。また、ボトム部の左側が側壁に隠れることにより、ボトム寸法(11−b12)が実際よりも小さく計測される。図3A(d)は、入射角度がーα°の時の反射電子像であり、溝のボトム部の中心が画像中心と一致するため、ずれ量(b23)は0となり、このときは側壁の陰になることなく溝底全体が観察されるため、ボトム寸法(21−b22)を正しく計測することができる。図3A(e)は、入射角度が0°の時の反射電子像であり、溝のボトム部の中心が画像中心よりも右(+X)方向にシフトするため、ずれ量(b33)は正の値となる。また、ボトム部の右側が側壁に隠れることにより、ボトム寸法(31−b32)が実際よりも小さく計測される。ビーム入射角と、ボトム寸法ならびに位置ずれ量との関係は、図3B(f)にまとめられており、ボトム寸法は位置ずれ量が0となるビーム入射角で最大値となり、位置ずれ量の絶対値が大きくなるにつれてボトム寸法が小さく計測される。すなわち、ボトム寸法を正確に計測しようとすると、パターンの上下部間の位置ずれ量が0となるようにビーム入射角を設定する必要がある。また、パターン傾斜量の測定においても、ボトムの一部が側壁の影に隠れた状態では、実際よりも位置ずれ量が小さく計測されることによる誤差が発生するため、位置ずれ量が小さい状態での計測が望ましい。
【0032】
位置ずれ量が0となるように入射角を制御しようとする場合、ビーム入射角と位置ずれ量の変化の関係をあらかじめ測定して関係式を求めておき、この関係式を用いて、測定された位置ずれ量に相当する分だけビーム入射角を変更するが、図4を用いて関係式を求める手順を説明する。
【0033】
図4(a)は、パターンと入射ビームの相対角度と表面−ボトム間のずれ量との関係式を算出するプロセスを示すフローチャート図である。本関係式算出処理(ステップ31)は、ビームチルト設定(ステップ32)と位置ずれ量計測(ステップ33)を、予め設定した条件がすべて完了するまで繰り返す(No)。最後の条件であるか否かの判断プロセス(ステップ34)で、最後の条件まで完了したと判定されると(yes)、一連の計測結果から関係式算出(ステップ35)の処理を実行する。図4(b)は、計測結果を、横軸をビームチルト角、縦軸を計測された位置ずれ量としてプロットした図であるが、測定結果に対して、例えば最小2乗法により近似式を求めることで関係式を算出する。本実施例においては、近似式として1次関数(Y=AX+B)を用いたが、近似式のフォーマットはこれに限定されるものではなく、より高次の関数(例えば3次式)としてもよい。一次式で近似した場合、1次の係数(A)は、ビームチルトの変化に対する位置ずれの変化量(nm/deg)であり、0次の係数(B)は、関係式の算出に使われた溝パターンが垂直でない場合、パターン傾斜に応じた値を示す。後述するエッチングパターン傾斜に合わせたビームチルト制御では、計測されたずれ量からエッチングパターンの傾斜を算出するのに1次の係数(A)を使用する。すなわち、0度の入射ビームにより計測された位置ずれ量がΔYのとき、パターンの傾斜に一致するビームチルト角(ΔX)は以下の式で算出される。
ΔX = −ΔY/A
【0034】
式にマイナスが付いているのは、位置ずれ量をキャンセルする方向にビームシフトを行うことによる。本実施例1においては、関係式を算出するために、入射ビームの角度を変えてデータを取得しているが、入射ビームの角度を固定した状態で試料の傾きを変化させてデータを取得してもよい。
【0035】
次に、図5のフローチャート図により、本実施例におけるレシピ処理(ステップ41)のシーケンスを説明する。レシピが開始されると、ウェハロード(ステップ42)とアライメント(ステップ43)が実行される。以下、レシピに設定した各測定点に対しては、まずビームチルトが初期値に設定(ステップ44)された後、パターン上下部の寸法値と上下間の位置ずれ量が計測され(ステップ45)、予め求めておいた関係式の1次係数を用いて、パターンの傾斜角が算出される(ステップ46)。算出された傾斜量が閾値以内であるかの判定(ステップ47)を行い、閾値以内であれば(ステップ45)で計測された寸法値と(ステップ46)で算出されたパターン傾斜量を確定値として次の測定点へ移動する。もし閾値外であれば、パターン傾斜に合うようにビームチルト角を設定し(ステップ48)、寸法と位置ずれ量の再測定を行う。レシピに設定された全ての測定点が終了したと判断されると(ステップ49)、ウェハがアンロードされ(ステップ50)、レシピが終了する(ステップ51)。
【実施例2】
【0036】
以下、本発明の実施例2のパターン計測装置によるホールパターン計測技術について説明する。実施例1に示した溝パターンの場合は一方向にのみ入射ビームを制御すればよいが、本実施例2に示すホールパターンの場合は、XとYの両方向にビーム傾斜を制御する必要がある。本実施例2では、X方向とY方向の補正式を求めておき、それぞれの方向に補正を行う。
【0037】
図6A(a)は、ホール形状パターンの断面図であり、ホールHは試料の垂線(Z軸)に対してエッチングされている。図6A(b)は、ホールパターンのトップ部の中心が画像の中心となるようにして撮像した場合の、ボトム部の形状と中心位置を、X方向が異なる3つのビーム入射角に対して図示している。入射角がパターンのエッチング方向と一致している場合(入射角0°)ではトップとボトムの中心が一致している。一方、入射ビームが−X側に傾斜した場合(入射角―αx°)では、トップに対してボトムが−X方向にずれている。同様にして入射ビームが+X側に傾斜した場合(入射角+αx°)では、トップに対してボトムが+X方向にずれている。このように、入射ビーム角に対するずれ量を計測することで、図6A(c)に示すような、X方向のビーム入射角とX方向の位置ずれ量の関係式を算出する。関係式を以下に示す。
OVL = Ax * Tx
【0038】
また、図6B(d)は、ホールパターンのトップ部の中心が画像の中心となるようにして撮像した場合の、ボトム部の形状と中心位置を、Y方向が異なる3つのビーム入射角に対して図示している。入射角がパターンのエッチング方向と一致している場合(入射角0°)ではトップとボトムの中心が一致している。入射ビームが−Y側に傾斜した場合(入射角-α°)では、トップに対してボトムが−Y方向にずれている。同様にして入射ビームが+Y側に傾斜した場合(入射角+α°)では、トップに対してボトムが+Y方向にずれている。このように、入射ビーム角に対するずれ量を計測することで、図6B(e)に示すような、Y方向のビーム入射角とX方向の位置ずれ量の関係式を算出する。
【0039】
関係式を以下に示す。
OVL = A * T
【0040】
例えば、図7に示すように、ホールパターンのボトムの中心が、X方向とY方向にそれぞれOVLとOVLだけ位置ずれしていた場合は、入射ビームを
X方向に −(OVLx / Ax
Y方向に −(OVL / A
だけ、それぞれチルトさせることにより、ホールパターンのエッチング方向に並行にビームを照射させることができる。
【0041】
ここで、本実施例2のレシピシーケンスは、入射ビームの補正方向がXとYの2方向になる点を除いては、実施例1と同じである。
【0042】
本実施例2における、計測結果出力の例を図8に示す。各測定点に対して、
チップX座標(列61)、チップのY座標(列62)、チップ内のX座標(列63)、チップ内のY座標(列64)、ホールのトップ径(列65)、ホールのボトム径(列66)、X方向のパターン傾斜(列67)、Y方向のパターン傾斜(列68)、パターン傾斜方向(列69)、パターンの絶対傾斜量(列70)
を表示している。
【0043】
ここで、パターン傾斜方向とパターンの絶対傾斜量はそれぞれ以下の式により算出される。
(パターン傾斜方向)= atan{(Y方向のパターン傾斜)/(X方向のパターン傾斜)}
(パターン絶対傾斜量)= √{(X方向のパターン傾斜)+(Y方向のパターン傾斜)
【実施例3】
【0044】
実施例1において、入射ビームとエッチングパターンの相対角度と位置ずれ量との間の関係式をあらかじめ求めておくことで、位置ずれ量の計測結果からパターン傾斜量を算出する手順を説明した。計測対象のエッチングパターンの形状が一定であれば、同一の関係式を用いることができるが、例えばパターンの深さが変化した場合には、関係式を再度求め直す必要がある。
【0045】
例えば、図9(a),(b)に示すように、エッチングされる層の深さがDから+ΔDに変化した場合には、パターンの傾斜角が同じ(-α°)であったとしても、計測される位置ずれ量が大きくなる。すなわち、図9(c)のグラフに示されているように、図9(a)と図9(b)とでは、単位ビームチルト変化あたりの位置ずれの変化量(nm/deg)が異なる。このため、エッチングプロセスが変化するたびに、関係式の再測定とレシピへの再登録が必要となり、装置の運用効率が悪くなる。このため、本実施例3では、エッチングプロセスが変化した場合でも、関係式の再登録を不要とする手段を提供する。
【0046】
図5に対応する図10に示すように、ウェハのアライメント(ステップ43)の後に、関係式算出処理(ステップ31)を追加する。関係式算出の手順は、実施例1において図4を用いて説明したものと同じであるが、関係式算出のための各種パラメータ(ウェハ内での撮像位置、入射ビーム角を変化させる範囲)はレシピに登録しておく。
【実施例4】
【0047】
ビームチルトを補正するときの補正係数に誤差があると、位置ずれ量=0に収束させるために、より多くのリトライが必要となる。例えば、図11(a)は、実際のパターンに対して予め求めた補正係数がずれており、補正量が不足しているケースであるが、同じ補正係数を使い続けた場合には、リトライ2回目でも位置ずれ量許容範囲に収束していない。このため、リトライ2回目では、リトライ1回目の計測結果を補正量に反映するようにする。図11(b)では、リトライ2回目では、補正係数として、
(OVL1−OVL0)/Tilt
を使用することで、リトライ2回目では位置ずれ量=0付近へ収束させることが出来る。
【0048】
本実施例4では、図5のビーチルト角を設定プロセス(ステップ48)において、リトライ2回目以降では、それまでのリトライの結果により補正係数を更新する処理を追加する。
【実施例5】
【0049】
半導体デバイスの製造工程における計測においては、スループットが重要な要素となる。このため、ビームチルトを適正な角度に補正するための測定と、補正させたビームチルト角による最終測定とで、異なる条件を設定する。
【0050】
本実施例5においては、傾斜補正のための位置ずれ量計測プロセス(ステップ52)では、フレーム加算回数の少ない条件により高速で撮像し、ビームチルト角確定後の寸法&パターン傾斜測定時(ステップ53)には、フレーム加算が多くSNの高い画像を取得して高精度に測長と行う。
【0051】
また、本実施例5の別の形態としては、位置ずれ量計測プロセス(ステップ52)では、計算時間短縮のために画像内に複数あるパターンの内の一部のみを計測しておき、位置ずれ量が許容値以内であった場合には、画像再取得することなく同じ画像において、全てのパターンに対して寸法&パターン傾斜測定(ステップ53)を実行する。
【0052】
さらに別の形態としては、位置ずれ量計測(ステップ52)において、画像内の複数のパターンの位置ずれ量を計測し、寸法&パターン傾斜測定(ステップ53)において、個々のパターンに一致する傾斜角で個々のパターンを順次撮像して、個々のパターンの高精度測定を行う。
【0053】
上記の実施の形態において、図示されている構成等については、これらに限定されるものではなく、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0054】
また、本発明の各構成要素は、任意に取捨選択することができ、取捨選択した構成を具備する発明も本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0055】
1:カラム、2:試料室、3:電子銃、4:コンデンサレンズ、5:アライナ、6:E×Bフィルタ、7:ディフレクタ、8:対物レンズ、9:2次電子検出器、10:反射電子検出器、11:ウェハ、12:標準試料、13:XYステージ、14:光学顕微鏡、15、16:アンプ、17:ビーム走査コントローラ、18:ステージコントローラ、19:画像処理ボード、20:制御PC、
31〜35:関係式算出の各ステップ
41〜53:実施例におけるレシピシーケンスの各ステップ
【0056】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12