特許第6834128号(P6834128)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6834128
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】分離材及びカラム
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/281 20060101AFI20210215BHJP
   B01J 20/285 20060101ALI20210215BHJP
   B01D 15/08 20060101ALI20210215BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20210215BHJP
   B01J 20/24 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   B01J20/281 X
   B01J20/281 G
   B01J20/285 M
   B01D15/08
   B01J20/28 Z
   B01J20/24 C
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-1576(P2016-1576)
(22)【出願日】2016年1月7日
(65)【公開番号】特開2017-122638(P2017-122638A)
(43)【公開日】2017年7月13日
【審査請求日】2018年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 優
(72)【発明者】
【氏名】東内 智子
(72)【発明者】
【氏名】河内 史彦
(72)【発明者】
【氏名】後藤 泰史
(72)【発明者】
【氏名】佛願 道男
【審査官】 高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/125674(WO,A1)
【文献】 特開2003−093801(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104558350(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0283792(US,A1)
【文献】 特開平08−320321(JP,A)
【文献】 特開2003−080063(JP,A)
【文献】 特開昭51−095989(JP,A)
【文献】 特表2009−509724(JP,A)
【文献】 特開2006−192420(JP,A)
【文献】 QU Jian-Bo, et al.,An Effective Way To Hydrophilize Gigaporous Polystyrene Microspheres as Rapid Chromatographic Separa,Langmuir,2008年,24,p.13646-13652,ISSN 0743-7463
【文献】 QU Jian-Bo, et al.,A novel stationary phase derivatized from hydrophilic gigaporous polystyrene-based microspheres for high-speed protein chromatography,Journal of Chromatography A,2009年,1216,p.6511-6516,ISSN 0021-9673
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00 −20/34
G01N 30/00 −30/96
B01D 15/00 −15/42
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジビニルベンゼンに由来する構造単位を有するポリマを含む多孔質ポリマ粒子と、該多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部を被覆する、糖残基を有するポリマを含む被覆層と、を備え、
比表面積が30m/g以上であり、
前記糖残基を有するポリマが、糖類に基づく構成単位を有するビニル又は(メタ)アクリルモノマの重合物である、分離材。
【請求項2】
前記糖残基が、単糖、二糖、三糖、四糖及びオリゴ糖からなる群より選ばれる少なくとも一種の糖類に基づく基である、請求項1に記載の分離材。
【請求項3】
前記多孔質ポリマ粒子の平均粒径が10〜300μmであり、粒径の変動係数が5〜15%である、請求項1又は2に記載の分離材。
【請求項4】
前記多孔質ポリマ粒子1g当たり、30〜400mgの前記被覆層を備える、請求項1〜3のいずれか一項に記載の分離材。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項に記載の分離材を備えるカラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離材及びカラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タンパク質に代表される生体高分子を分離精製する場合、一般的には多孔質型の合成高分子を母体とするイオン交換体、親水性天然高分子の架橋ゲルを母体とするイオン交換体等が用いられている。多孔質型の合成高分子を母体とするイオン交換体の場合、塩濃度による体積変化が小さいため、カラムに充填してクロマトグラフィーで用いると、通液時の耐圧性に優れる傾向にある。しかし、このイオン交換体を、タンパク質等の分離に用いると、疎水的相互作用に基づく不可逆吸着等の非特異吸着が起きるため、ピークの非対称化が発生する、又は該疎水的相互作用でイオン交換体に吸着されたタンパク質が吸着されたまま回収できないという問題点がある。
【0003】
一方、デキストラン、アガロース等の多糖に代表される親水性天然高分子の架橋ゲルを母体とするイオン交換体の場合、タンパク質の非特異吸着がほとんどないという利点がある。ところが、このイオン交換体は、水溶液中で著しく膨潤したり、溶液のイオン強度による体積変化、及び、遊離酸形と負荷形との体積変化が大きく、機械的強度も十分ではないという欠点を有する。特に、架橋ゲルをクロマトグラフィーで使用する場合、通液時の圧力損失が大きく、通液によりゲルが圧密化するといった欠点がある。
【0004】
親水性天然高分子の架橋ゲルの欠点を克服するため、多孔性高分子の細孔内に天然高分子ゲル等のゲルを保持した複合体が、ペプチド合成の分野で知られている(例えば、特許文献1参照)。また、セライト等の無機多孔質体にデキストラン、セルロースといった多糖等のキセロゲルを保持させた分離材が知られている(例えば、特許文献2及び3参照)。
【0005】
また、マクロネットワーク構造のコポリマの細孔を、モノマから合成した架橋共重合体ゲルで埋めた、ハイブリッドコポリマのイオン交換体が知られている(例えば、特許文献4参照)。有機合成ポリマ基体の細孔内に巨大網目構造を有する親水性天然高分子の架橋ゲルを充填した複合化充填材が提案されている(例えば、特許文献5及び6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4965289号明細書
【特許文献2】米国特許第4335017号明細書
【特許文献3】米国特許第4336161号明細書
【特許文献4】米国特許第3966489号明細書
【特許文献5】特開平1−254247号公報
【特許文献6】米国特許第5114577号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の分離材では、タンパク質の非特異吸着を低減すること、カラムとして用いたときの通液性等のカラム特性に優れることが求められている。
【0008】
そこで、本発明は、タンパク質の非特異吸着を低減し、かつ、カラムとして用いたときの通液性等のカラム特性に優れる分離材、及び、該分離材を用いたカラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記[1]〜[7]に記載の分離材を提供する。
[1] 多孔質ポリマ粒子と、該多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部を被覆する、糖残基を有するポリマを含む被覆層と、を備える分離材。
[2] 糖残基が、単糖、二糖、三糖、四糖及びオリゴ糖からなる群より選ばれる少なくとも一種の糖類に基づく基である、[1]に記載の分離材。
[3] 比表面積が30m/g以上である、[1]又は[2]に記載の分離材。
[4] 多孔質ポリマ粒子が、ジビニルベンゼンに由来する構造単位を有するポリマを含む、[1]〜[3]のいずれかに記載の分離材。
[5] 多孔質ポリマ粒子の平均粒径が10〜300μmであり、粒径の変動係数が5〜15%である、[1]〜[4]のいずれかに記載の分離材。
[6] 多孔質ポリマ粒子1g当たり30〜400mgの被覆層を備える、[1]〜[5]のいずれかに記載の分離材。
[7] カラムに充填した場合、カラム圧が0.3MPaのときに通液速度が1500cm/h以上である、[1]〜[6]のいずれかに記載の分離材。
[8][1]〜[7]のいずれかに記載の分離材を備えるカラム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、タンパク質の非特異吸着を低減し、かつ、カラムとして用いたときの通液性等のカラム特性に優れる分離材、及び、該分離材を備えるカラムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について説明をするが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。
【0012】
<分離材>
本実施形態の分離材は、多孔質ポリマ粒子と、該多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部を被覆する、糖残基を有するポリマを含む被覆層と、を備えるものである。なお、本明細書中、「多孔質ポリマ粒子の表面」とは、多孔質ポリマ粒子の外側の表面のみでなく、多孔質ポリマ粒子の内部における細孔の表面を含むものとする。また、本明細書中、(メタ)アクリル酸とはアクリル酸又はメタクリル酸を意味し、(メタ)アクリレート等の他の類似の表現においても同様である。
【0013】
(多孔質ポリマ粒子)
本実施形態に係る多孔質ポリマ粒子は、多孔質化剤の存在下で、モノマを硬化させた粒子であり、例えば、従来の懸濁重合、乳化重合等によって合成することができる。モノマとしては、特に限定されないが、例えば、スチレン系モノマ、(メタ)アクリル系モノマ等を使用することができる。具体的なモノマとしては、以下のような多官能性モノマ、単官能性モノマ等が挙げられる。
【0014】
多官能性モノマとしては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン、ジビニルフェナントレン等のジビニル化合物;(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコール系ジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリアクリレート等の3官能以上の(メタ)アクリレート;エトキシ化ビスフェノールA系ジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールA系ジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレート、エトキシ化シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート;ジアリルフタレート及びその異性体;トリアリルイソシアヌレート及びその誘導体が挙げられる。これらモノマの中で、例えば、新中村化学工業株式会社製のNKエステル(A−TMPT−6P0、A−TMPT−3E0、A−TMM−3LMN、A−GLYシリーズ、A−9300、AD−TMP、AD−TMP−4CL、ATM−4E、A−DPH)等が、商業的に入手可能である。これらの多官能性モノマは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。上記の中でも、弾性率の観点より、モノマがジビニルベンゼンを含有することが好ましい。すなわち、多孔質ポリマ粒子は、ジビニルベンゼンに由来する構造単位を有するポリマを含むことが好ましい。
【0015】
上記多孔質ポリマ粒子は、モノマ単位としてジビニルベンゼンを含む場合、ジビニルベンゼンをモノマ全質量基準で50質量%以上含むことが好ましく、60質量%以上含むことがより好ましく、70質量%以上含むことが更に好ましい。ジビニルベンゼンをモノマ全質量基準で50質量%以上含むことにより、耐アルカリ性及び耐圧性に優れる傾向にある。
【0016】
単官能性モノマとしては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、o−エチルスチレン、m−エチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン等のスチレン及びその誘導体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−クロロエチル、アクリル酸フェニル、α−クロロアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸エステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル;N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドン等のN−ビニル化合物;フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、アクリル酸トリフルオロエチル、アクリル酸テトラフルオロプロピル等の含フッ素化モノマ;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエンが挙げられる。これらの単官能性モノマは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。上記の中でも耐酸性及び耐アルカリ性に優れるという観点から、スチレンを使用することが好ましい。また、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、アルデヒド基等の官能基を有するスチレン誘導体も使用することができる。
【0017】
多孔質化剤としては、重合時に相分離を促し、粒子の多孔質化を促進する有機溶媒である脂肪族又は芳香族の炭化水素類、エステル類、ケトン類、エーテル類、アルコール類等が挙げられる。多孔質化剤として、具体的には、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、オクタン、酢酸ブチル、フタル酸ジブチル、メチルエチルケトン、ジブチルエーテル、1−ヘキサノール、2−オクタノール、デカノール、ラウリルアルコール、シクロヘキサノール等が挙げられる。これらの多孔質化剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
上記多孔質化剤は、モノマ全質量に対して0〜200質量%使用できる。多孔質化剤の量によって、多孔質ポリマ粒子の空隙率をコントロールできる。さらに、多孔質化剤の種類によって、多孔質ポリマ粒子の細孔の大きさ及び形状をコントロールすることができる。
【0019】
溶媒として使用する水を多孔質化剤とすることもできる。水を多孔質化剤とする場合は、モノマに油溶性界面活性剤を溶解させ、水を吸収することによって、粒子を多孔質化することが可能である。
【0020】
多孔質化に使用される油溶性界面活性剤としては、分岐C16〜C24脂肪酸、鎖状不飽和C16〜C22脂肪酸又は鎖状飽和C12〜C14脂肪酸のソルビタンモノエステル、例えば、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレテート、ソルビタンモノミリステート又はヤシ脂肪酸から誘導されるソルビタンモノエステル;分岐C16〜C24脂肪酸、鎖状不飽和C16〜C22脂肪酸又は鎖状飽和C12〜C14脂肪酸のジグリセロールモノエステル、例えば、ジグリセロールモノオレエート(例えば、C18:1(炭素数18個、二重結合数1個)脂肪酸のジグリセロールモノエステル)、ジグリセロールモノミリステート、ジグリセロールモノイソステアレート又はヤシ脂肪酸のジグリセロールモノエステル;分岐C16〜C24アルコール(例えば、ゲルベアルコール)、鎖状不飽和C16〜C22アルコール又は鎖状飽和C12〜C14アルコール(例えば、ヤシ脂肪アルコール)のジグリセロールモノ脂肪族エーテル;及びこれらの混合物が挙げられる。
【0021】
これらのうち、ソルビタンモノラウレート(例えば、SPAN(スパン、登録商標)20、純度が好ましくは約40%を超える、より好ましくは約50%を超える、更に好ましくは約70%を超えるソルビタンモノラウレート)、ソルビタンモノオレエート(例えば、SPAN(スパン、登録商標)80、純度が好ましくは約40%を超える、より好ましくは約50%を超える、更に好ましくは約70%を超えるソルビタンモノオレエート)、ジグリセロールモノオレエート(例えば、純度が好ましくは約40%を超える、より好ましくは約50%を超える、更に好ましくは約70%を超えるジグリセロールモノオレエート)、ジグリセロールモノイソステアレート(例えば、純度が好ましくは約40%を超える、より好ましくは約50%を超える、更に好ましくは約70%を超えるジグリセロールモノイソステアレート)、ジグリセロールモノミリステート(純度が好ましくは約40%を超える、より好ましくは約50%を超える、更に好ましくは約70%を超えるソルビタンモノミリステート)、ジグリセロールのココイル(例えば、ラウリル基、ミリストイル基等)エーテル、又は、これらの混合物が好ましい。
【0022】
これらの油溶性界面活性剤は、モノマ全質量に対して5〜80質量%の範囲で用いることが好ましい。油溶性界面活性剤の含有量が5質量%以上であると、水滴の安定性が充分となることから、大きな単一孔を形成し易くなる。また、油溶性界面活性剤の含有量が80質量%以下であると、重合後に多孔質ポリマ粒子が形状をより保持し易くなる。
【0023】
重合反応に用いられる水性媒体としては、水、水と水溶性溶媒(例えば、低級アルコール)との混合媒体等が挙げられる。水性媒体には、界面活性剤が含まれていてもよい。界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系及び両性イオン系の界面活性剤のうち、いずれも用いることができる。
【0024】
アニオン系界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム、ヒマシ油カリ等の脂肪酸油、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩、アルケルニルコハク酸塩(ジカリウム塩)、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩及びポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩が挙げられる。
【0025】
カチオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩が挙げられる。
【0026】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコールアルキルエーテル類、ポリエチレングリコールアルキルアリールエーテル類、ポリエチレングリコールエステル類、ポリエチレングリコールソルビタンエステル類、ポリアルキレングリコールアルキルアミン又はアミド類等の炭化水素系ノニオン界面活性剤、シリコンのポリエチレンオキサイド付加物類、ポリプロピレンオキサイド付加物類等のポリエーテル変性シリコン系ノニオン界面活性剤、パーフルオロアルキルグリコール類等のフッ素系ノニオン界面活性剤が挙げられる。
【0027】
両性イオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミンオキサイド等の炭化水素界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤及び亜リン酸エステル系界面活性剤が挙げられる。
【0028】
界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記界面活性剤の中でも、モノマ重合時の分散安定性の観点から、アニオン系界面活性剤が好ましい。
【0029】
必要に応じて添加される重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物が挙げられる。重合開始剤は、モノマ100質量部に対して、0.1〜7.0質量部の範囲で使用することができる。
【0030】
重合温度は、モノマ及び重合開始剤の種類に応じて、適宜選択することができる。重合温度は、25〜110℃が好ましく、50〜100℃がより好ましい。
【0031】
多孔質ポリマ粒子の合成において、粒子の分散安定性を向上させるために、高分子分散安定剤を添加してもよい。
【0032】
高分子分散安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸、セルロース類(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等)、ポリビニルピロリドンが挙げられ、トリポリリン酸ナトリウム等の無機系水溶性高分子化合物も併用することができる。これらのうち、ポリビニルアルコール又はポリビニルピロリドンが好ましい。高分子分散安定剤の添加量は、モノマ100質量部に対して1〜10質量部が好ましい。
【0033】
モノマが単独で重合することを抑えるために、亜硝酸塩類、亜硫酸塩類、ハイドロキノン類、アスコルビン酸類、水溶性ビタミンB類、クエン酸、ポリフェノール類等の水溶性の重合禁止剤を用いてもよい。
【0034】
多孔質ポリマ粒子の平均粒径は、好ましくは300μm以下、より好ましくは150μm以下、更に好ましくは100μm以下である。また、多孔質ポリマ粒子の平均粒径は、通液性の向上の観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上であり、更に好ましくは50μm以上である。
【0035】
多孔質ポリマ粒子の粒径の変動係数(C.V.)は、通液性の向上の観点から、3〜15%であることが好ましく、5〜15%であることがより好ましく、5〜10%であることが更に好ましい。C.V.を低減する方法としては、マイクロプロセスサーバー(日立製作所)等の乳化装置により単分散化することが挙げられる。
【0036】
多孔質ポリマ粒子又は分離材の平均粒径及び粒径のC.V.は、以下の測定法により求めることができる。
1)粒子を、超音波分散装置を使用して水(界面活性剤等の分散剤を含む)に分散させ、1質量%の多孔質ポリマ粒子を含む分散液を調製する。
2)粒度分布計(シスメックスフロー、シスメックス株式会社製)を用いて、上記分散液中の粒子約1万個の画像により平均粒径及び粒径のC.V.を測定する。
【0037】
多孔質ポリマ粒子の細孔容積は、多孔質ポリマ粒子の全体積基準で30体積%以上70体積%以下であることが好ましく、40体積%以上70体積%以下であることがより好ましい。多孔質ポリマ粒子は、細孔径が0.05μm以上0.6μm未満である細孔、すなわちマクロポアー(マクロ孔)を有することが好ましい。多孔質ポリマ粒子の細孔径として、より好ましくは、0.1μm以上0.5μm未満である。細孔径が0.05μm以上であると、細孔内に物質が入り易くなる傾向にあり、細孔径が0.6μm未満であると、比表面積が充分なものになる。これらは上述の多孔質化剤により調整可能である。
【0038】
多孔質ポリマ粒子の比表面積は、30m/g以上であることが好ましい。より高い実用性の観点から、比表面積は35m/g以上であることがより好ましく、40m/g以上であることが更に好ましい。比表面積が30m/g以上であると、分離する物質の吸着量が大きくなる傾向にある。
【0039】
(被覆層)
本実施形態に係る被覆層は、糖残基を有するポリマを含む。糖残基を有するポリマで多孔質ポリマ粒子を被覆することにより、カラム圧の向上を抑制することができるとともに、タンパク質の非特異吸着を抑制することが可能となる上、分離材のタンパク質吸着量を、天然高分子を用いた場合と同等又はそれ以上にすることが可能となる。被覆層は、例えば、多孔質ポリマ粒子の表面に、糖残基を有するモノマを吸着させた後、モノマを重合することによって、多孔質ポリマ粒子の表面に形成することができる。
【0040】
糖残基を有するポリマで多孔質ポリマ粒子を被覆することによって、タンパク質の非特異吸着を低減し、通液性等のカラム特性に優れる分離材を作製することができる。本実施形態の分離材は、カラム流速が早い場合においても高い動的吸着量を達成することができる。
【0041】
糖残基を有するモノマとは、糖類に基づく構成単位を有するビニル又は(メタ)アクリルモノマである。糖としては、単糖、二糖、三糖、四糖及びオリゴ糖からなる群より選ばれる少なくとも一種の糖類を使用することが好ましい。このような糖類の残基を有するモノマの場合、立体障害が大きくなりすぎないため、重合の進行が抑制されにくく、ポリマの主鎖の柔軟性が良好となる傾向にある。
【0042】
単糖としては、糖を構成する炭素の数が6である六炭糖を用いることが好ましい。六炭糖としては、例えば、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、ブシコース、フルクトース、ソルボース及びタガトースが挙げられる。
【0043】
二糖としては、例えば、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ツラノース及びセロビオースが挙げられる。三糖としては、例えば、ラフィノース、メレジトース及びマルトトリオースが挙げられる。四糖としては、例えば、アカルボース及びスタキオースが挙げられる。
【0044】
オリゴ糖は、単糖がグリコシド結合により複数個結合した糖類であるが、本明細書では、単糖5分子〜20分子が結合したものをオリゴ糖と定義する。オリゴ糖の分子量は、1000〜3000であることが好ましい。オリゴ糖としては、例えば、アガロース、デキストラン等が挙げられる。
【0045】
糖残基を有するモノマの合成方法は特に限定されないが、例えば、以下のようにして合成することができる。還元末端を有する糖を使用する場合、還元末端に炭酸水素アンモニウム等でアミノ基を導入した後、アミノ基と反応する官能基を有するビニルモノマ又は(メタ)アクリルモノマと反応させることによって、糖残基を有するモノマを合成することができる。また、アミノ基又はアジド基を有するビニルモノマ又は(メタ)アクリルモノマと、還元末端を有する糖とを反応させることによって、糖残基を有するモノマを合成することができる。アミノ基又はカルボキシル基を有する糖を使用する場合は、アミノ基又はカルボキシル基と反応する官能基を有するビニルモノマ又は(メタ)アクリルモノマを反応させることによって、糖残基を有するモノマを合成することができる。
【0046】
糖残基を有するモノマを用いて多孔質ポリマ粒子に被覆層を形成する方法は特に限定されないが、例えば、以下のようにして行うことができる。
【0047】
多孔質ポリマ粒子の表面又は細孔内部に、糖残基を有するモノマをグラフト重合するにより、被覆層を形成することができる。グラフト重合法としては、原子移動ラジカル重合(ATRP)、可逆的付加開裂連鎖移動重合(RAFT)等のリビングラジカル重合法、放射線グラフト重合法、開始剤を導入して溶液中で重合を行う方法等を用いることができる。中でも、被覆量及び密度の調整の観点から、リビングラジカル重合を使用することが好ましい。
【0048】
溶媒を用いてグラフト重合を行う場合は、溶媒1mLに対して、糖残基を有するモノマが5〜500mgとなるように濃度を調整するとよい。使用できる溶媒としては、グラフト重合を阻害せず、糖残基を有するモノマを均一に溶解できる溶媒であれば、特に限定されない。
【0049】
被覆層の量は、多孔質ポリマ粒子1gに対して30〜400mgであることが好ましく、50〜400mgであることがより好ましく、100〜400mgであることが更に好ましい。被覆層の割合が多孔質ポリマ粒子1gに対して400mg以下であると、被覆層を薄膜とすることができ、カラムとして用いたときの通液性がより向上する傾向にある。また、被覆層の割合が多孔質ポリマ粒子1gに対して30mg以上であると、タンパク質吸着量がより高まる傾向にある。
【0050】
(イオン交換基の導入)
被覆層を備える分離材は、イオン交換基、リガンド(プロテインA)等を表面上の水酸基等を介して導入することによりイオン交換精製、アフィニティ精製等に使用することができる。イオン交換基の導入方法として、例えば、ハロゲン化アルキル化合物を用いる方法が挙げられる。
【0051】
ハロゲン化アルキル化合物としては、モノハロゲノカルボン酸及びそのナトリウム塩、ハロゲン化アルキル基を少なくとも1つ有する1級、2級又は3級アミン及びその塩酸塩、ハロゲン化アルキル基を少なくとも1つ有する4級アンモニウム塩等が挙げられる。モノハロゲノカルボン酸としては、例えば、モノハロゲノ酢酸及びモノハロゲノプロピオン酸が挙げられる。ハロゲン化アルキル基を少なくとも1つ有する3級アミンとしては、例えば、ジエチルアミノエチルクロライドが挙げられる。これらのハロゲン化アルキル化合物は、臭化物又は塩化物であることが好ましい。ハロゲン化アルキル化合物の使用量としては、イオン交換基を付与する分離材の全質量に対して0.2質量%以上であることが好ましい。
【0052】
イオン交換基の導入には、反応を促進させるために、有機溶媒を用いるのが有効である。有機溶媒としては、例えば、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、1−ペンタノール、イソペンタノール等のアルコール類が挙げられる。
【0053】
通常、イオン交換基の導入は、分離材表面の水酸基に行われるので、湿潤状態の粒子を、ろ過等により水切りした後、所定濃度のアルカリ性水溶液に浸漬し、一定時間放置した後、水−有機溶媒混合系で、上記ハロゲン化アルキル化合物を添加して反応させる。この反応は温度40〜90℃で、還流下、0.5〜12時間行うことが好ましい。上記の反応で使用されるハロゲン化アルキル化合物の種類により、付与されたイオン交換基が決定される。
【0054】
イオン交換基として、弱塩基性基であるアミノ基を導入する方法としては、上記ハロゲン化アルキル化合物のうち、アルキル基のうちの少なくとも1つがハロゲン化アルキル基で置換されている、モノ−、ジ−又はトリ−アルキルアミン、モノ−アルキル−モノ−アルカノールアミン、ジ−アルキル−モノ−アルカノールアミン、モノ−アルキル−ジ−アルカノールアミン等を反応させる方法、又はアルカノール基のうちの少なくとも1つがハロゲン化アルカノール基で置換されている、モノ−、ジ−又はトリ−アルカノールアミン、モノ−アルキル−モノ−アルカノールアミン、ジ−アルキル−モノ−アルカノールアミン、モノ−アルキル−ジ−アルカノールアミンを反応させる方法等が挙げられる。これらのハロゲン化アルキル化合物の使用量としては、分離材の全質量に対して0.2質量%以上であることが好ましい。反応条件としては、40〜90℃で、0.5〜12時間であることが好ましい。
【0055】
イオン交換基として、強塩基性基の4級アンモニウム基を導入する方法としては、まず3級アミノ基を導入し、該3級アミノ基にエピクロルヒドリン等のハロゲン化アルキル基含有化合物を反応させ、4級アンモニウム基に変換させる方法が挙げられる。また、4級アンモニウムクロライド等の4級アンモニウムハロゲナイドなどを分離材に反応させてもよい。
【0056】
イオン交換基として、弱酸性基であるカルボキシ基を導入する方法としては、上記ハロゲン化アルキル化合物として、モノハロゲノ酢酸、モノハロゲノプロピオン酸等のモノハロゲノカルボン酸又はそのナトリウム塩を反応させる方法が挙げられる。これらハロゲン化アルキル化合物の使用量は、イオン交換基を導入する分離材の全質量に対して0.2質量%以上であることが好ましい。
【0057】
イオン交換基として、強酸性基であるスルホン酸基の導入方法としては、分離材に対してエピクロロヒドリン等のグリシジル化合物を反応させ、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩又は重亜硫酸塩の飽和水溶液に分離材を添加する方法が挙げられる。反応条件は、30〜90℃で1〜10時間であることが好ましい。
【0058】
一方、イオン交換基の導入方法として、アルカリ性雰囲気下で、分離材に1,3−プロパンスルトンを反応させる方法も挙げられる。1,3−プロパンスルトンは、分離材の全質量に対して0.4質量%以上使用することが好ましい。反応条件は、0〜90℃で0.5〜12時間であることが好ましい。
【0059】
本実施形態に係る分離材又は多孔質ポリマ粒子の平均細孔径、比表面積及び空隙率は、水銀圧入測定装置(オートポア:株式会社島津製作所製)にて測定した値であり、以下のようにして測定する。試料約0.05gを、標準5mL粉体用セル(ステム容積0.4mL)に加え、初期圧21kPa(約3psia、細孔直径約60μm相当)の条件で測定する。水銀パラメータは、装置デフォルトの水銀接触角130°、水銀表面張力485dynes/cmに設定する。また、細孔径0.1〜3μmの範囲に限定してそれぞれの値を算出する。
【0060】
本実施形態の分離材は、タンパク質を静電的相互作用による分離、アフィニティ精製に用いるのに好適である。例えば、タンパク質を含む混合溶液の中に本実施形態の分離材を添加し、静電的相互作用によりタンパク質だけを分離材に吸着させた後、該分離材を溶液からろ別し、塩濃度の高い水溶液中に添加すれば、分離材に吸着しているタンパク質を容易に脱離、回収できる。また、本実施形態の分離材は、カラムクロマトグラフィーにおいて、使用することも可能である。
【0061】
本実施形態の分離材を用いて分離できる生体高分子としては、水溶性物質が好ましい。具体的には、血清アルブミン、免疫グロブリン等の血液タンパク質などのタンパク質、生体中に存在する酵素、バイオテクノロジーにより生産されるタンパク質生理活性物質、DNA、生理活性をするペプチド等の生体高分子などであり、好ましくは分子量が200万以下、より好ましくは50万以下である。また、公知の方法に従い、タンパク質の等電点、イオン化状態等によって、分離材の性質、条件等を選ぶ必要がある。公知の方法としては、例えば、特開昭60−169427号公報等に記載の方法が挙げられる。
【0062】
本実施形態の分離材は、分離材の表面にイオン交換基、プロテインAを導入することにより、タンパク質等の生体高分子の分離において、天然高分子からなる粒子又は合成ポリマからなる粒子のそれぞれの利点を有する。特に本実施形態の分離材における多孔質ポリマ粒子は、糖残基を有するポリマを含む被覆層を有しているため、本実施形態の分離材は、タンパク質の非特異吸着を低減し、タンパク質の吸脱着が起こり易い傾向にある。さらに、本実施形態の分離材は、同一流速下でのタンパク質等の吸着量(動的吸着量)が大きい傾向にある。
【0063】
本明細書における通液速度とは、φ7.8×300mmのステンレスカラムに本実施形態の分離材を充填し、液を通した際の通液速度を表す。本実施形態の分離材は、カラムに充填した場合、カラム圧0.3MPaのときに通液速度が800cm/h以上であることが好ましく、1500cm/h以上であることがより好ましい。カラムクロマトグラフィーでタンパク質の分離を行う場合、タンパク質溶液等の通液速度としては、一般に400cm/h以下の範囲であるが、本実施形態の分離材を使用した場合は、通常のタンパク質分離用の分離材よりも速い通液速度800cm/h以上で使用することができる。
【0064】
本実施形態の分離材の平均粒径は、10〜300μmであることが好ましく、分取用又は工業用のクロマトグラフィーでの使用には、カラム内圧の極端な増加を避けるために、10〜100μmであることがより好ましく、50〜100μmであることが更に好ましい。
【0065】
本実施形態の分離材は、カラムクロマトグラフィーでカラム充填材として使用した場合、使用する溶出液の性質に依らず、カラム内での体積変化がほとんどないため、操作性に優れる。
【0066】
本実施形態の分離材の5%圧縮変形弾性率は、以下のようにして算出することができる。
微小圧縮試験機(Fisher製)を用いて、室温(25℃)条件にて荷重負荷速度1mN/秒で、四角柱の平滑な端面(50μm×50μm)により粒子を50mNまで圧縮したときの荷重及び圧縮変位を測定する。得られた測定値から、粒子が5%圧縮変形したときの圧縮弾性率(5%K値)を下記式により求めることができる。また、上記測定中の変位量が最も大きく変化する点の荷重を破壊強度(mN)とする。
5%K値(MPa)=(3/21/2)・F・S−3/2・R−1/2
5%K値(MPa)=(3/21/2)・F・S−3/2・R−1/2
F:多孔質ポリマ粒子が5%圧縮変形したときの荷重(mN)
S:多孔質ポリマ粒子が5%圧縮変形したときの圧縮変位(mm)
R:多孔質ポリマ粒子の半径(mm)
【0067】
分離材を5%圧縮変形したときの圧縮弾性率(5%K値)は、100〜1000MPaであることが好ましく、150〜1000MPaであることがより好ましく、170〜1000MPaであることが更に好ましい。
【0068】
圧縮弾性率が小さすぎると、多孔質ポリマ粒子の柔軟性が高くなり、カラム内で液を流した際に変形し易くなり、カラム圧が高くなり易くなる。
【0069】
分離材の細孔容積は、分離材の全体積基準で30体積%以上70体積%以下であることが好ましく、40体積%以上70体積%以下であることがより好ましい。分離材は、平均細孔径が0.05〜0.6μmである細孔、すなわちマクロポアー(マクロ孔)を有する。平均細孔径は、好ましくは、0.1〜0.5μmである。細孔径が0.05μm以上であると、細孔内に物質が入り易くなる傾向にあり、細孔径が0.6μm以下であると、比表面積が充分なものになる。
【0070】
分離材の比表面積は、30m/g以上であることが好ましい。より高い実用性の観点から、比表面積は35m/g以上であることがより好ましく、40m/g以上であることが更に好ましい。比表面積が30m/g以上であると、分離する物質の吸着量が大きくなる傾向にある。
【0071】
分離材の圧縮弾性率、平均細孔径、比表面積等は、多孔質ポリマ粒子の原料、多孔質化剤、糖残基を有するポリマ等を適宜選択することによって、調整することができる。
【0072】
本実施形態の分離材は、カラムに用いることができる。すなわち、本実施形態のカラムは、上記分離材を備える。なお、本実施形態では、イオン交換基を導入する形態の分離材について説明したが、イオン交換基を導入しなくても分離材として用いることができる。このような分離材は、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィーに利用することができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0074】
(糖残基を有するモノマの合成)
グルコース(東京化成工業株式会社製)10g(55mmol)を300mLビーカーに入れ、30gの炭酸水素アンモニウムを含む水溶液を24時間毎に5回加えて溶かした後、開放したまま、37℃で96時間かき混ぜた。次いで、蒸留水200mLを加えて20mLまで水を留去した後、150mLの水を加えて10mLまで濃縮した。この操作をアンモニア臭が消失するまで繰り返し、凍結乾燥後、アミノ基が導入されたグルコースを得た。
【0075】
アミノ基が導入されたグルコース5.75gを、1MのKOH水溶液50mLに溶解し、2−イソシアナトエチルメタクリレート(昭和電工株式会社、商品名「カレンズMOI」)10.49g(67.0mmol)を加えて、3℃に保ったまま12時間激しくかき混ぜた。その後、析出した白色固体をろ過して固液分離し、固相を凍結乾燥して白色物(a)を得た。また、未反応の2−イソシアナトエチルメタクリレートを除去するため、上記白色物(a)を20mLのジエチルエーテルを用いて4回洗浄した後、水及びメタノールの混合液(体積比2:1)l0mLに溶解し、ジエチルエーテル80mL及びアセトン20mLの混合液に滴下して冷却した。析出した固体をG3ガラスフィルターでろ過し、グルコースに基づく糖残基を有する単糖メタクリレートを得た。
【0076】
同様の方法で、セロビオース(東京化成工業株式会社製)に基づく糖残基を有する二糖メタクリレート、セロテトラオース(東京化成工業株式会社製)に基づく糖残基を有する四糖メタクリレート及びアガロオリゴ糖(伊那食品、分子量2300)に基づく糖残基を有するオリゴ糖メタクリレートをそれぞれ合成した。
【0077】
(多孔質ポリマ粒子1の合成)
500mLの三口フラスコに、純度96%のジビニルベンゼン(新日鉄住金化学株式会社、商品名「DVB960」)を16g、Span80を9.6g、過酸化ベンゾイルを0.64g加え、分散相とした。ポリビニルアルコール水溶液(0.5質量%)を連続相として使用した。この水溶液をマイクロプロセスサーバーを使用して乳化後(25体積%)、得られた乳化液をフラスコに移し、80℃のウォーターバスで加熱しながら、攪拌機を用いて約8時間撹拌した。得られた粒子をろ過後、アセトンで洗浄を行い、多孔質ポリマ粒子1を得た。多孔質ポリマ粒子1の粒径をフロー型粒径測定装置で測定し、平均粒径及び粒径のC.V.値を算出した。結果を表1に示す。
【0078】
(多孔質ポリマ粒子2の合成)
Span80の使用量を8.0gに変更した以外は多孔質ポリマ粒子1の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子2を合成した。
【0079】
(多孔質ポリマ粒子3の合成)
Span80の使用量を6.4gに変更した以外は多孔質ポリマ粒子1の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子3を合成した。
【0080】
(多孔質ポリマ粒子4の合成)
Span80の使用量を6.0gに変更した以外は多孔質ポリマ粒子1の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子4を合成した。
【0081】
(多孔質ポリマ粒子5の合成)
Span80を9.6gと共に、オクタノールを2g用いた以外は多孔質ポリマ粒子1の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子5を合成した。
【0082】
【表1】
【0083】
(実施例1)
<被覆層の形成>
0.2gのドーパミン塩酸塩、2−ブロモイソブチルブロマイド0.49g、トリエチルアミン0.21gを10mL溶液中で3時間攪拌した後、多孔質ポリマ粒子を1g添加後、10mMのTris−HCl緩衝液(pH8.5)を90mL添加し、室温で24時間攪拌した後、水で洗浄して、多孔質ポリマ粒子1にリビング開始基を導入した粒子を得た。
【0084】
得られた粒子1g、単糖メタクリレート1.3g、臭化銅(II)67mg、トリスジメチルアミノエチルアミン及び水80gを混合し、窒素バブリングを行った後、119mgのアスコルビン酸を溶解した水20gを添加して5時間重合を行った。重合後の粒子をろ過洗浄し、糖残基を有するポリマで被覆された粒子を得た。糖残基を有するポリマの被覆量は、得られた粒子の熱重量分析により測定した。結果を表2に示す。
【0085】
<タンパク質の非特異吸着能評価>
得られた粒子0.5gをBSA(Bovine Serum Albumin)濃度20mg/mLのリン酸緩衝液(pH7.4)50mLに投入し、24時間室温で攪拌を行った後、遠心分離で上澄みをとり、分光光度計でろ液のBSA濃度より、粒子に吸着したBSA量を算出した。BSAの濃度は、分光光度計により280nmの吸光度から確認した。結果を表2に示す。
【0086】
<イオン交換基の導入>
得られた粒子2gから遠心分離により水を除去した後、3.5Mのジエチルアミノエチルクロライド塩酸塩水溶液16mLに分散し、温度を70℃まで上げた後、5MのNaOH水溶液16mLを添加し、攪拌しながら2時間反応させた。反応終了後、ろ過、水洗し、ジエチルアミノエチル(DEAE)基をイオン交換基として有する分離材を得た。得られた分離材の平均孔径及び比表面積を水銀圧入法にて測定した。結果を表2に示す。
【0087】
<カラム特性評価>
得られた分離材を濃度30質量%のスラリー(溶媒:メタノール)としてφ7.8×300mmのステンレスカラムにて15分充填した。その後、カラムに流速を変えながら水を通し、流速とカラム圧との関係を測定し、0.3MPa時の通液速度(線流速)を測定した。
また、動的吸着量は以下のようにして測定した。20mmol/LのTris−塩酸緩衝液(pH8.0)をカラムに10カラム容量通した。その後、BSA濃度2mg/mLの20mmol/LのTris−塩酸緩衝液を通し、UV測定によってカラム出口でのBSA濃度を測定した。カラム入口と出口のBSA濃度が一致するまで緩衝液を通し、5カラム容量分の1M NaCl Tris−塩酸緩衝液で希釈した。10%breakthroughにおける動的吸着量を以下の式を用いて算出した。結果を表2に示す。
10=cF(t10−t)/V
10:10%breakthroughにおける動的吸着量(mg/mL wet resin)
cf:注入しているBSA濃度
F:流速(mL/min)
:ベッド体積(mL)
10:10%breakthroughにおける時間(min)
:BSA注入開始時間(min)
【0088】
<5%圧縮変形弾性率>
分離材の5%圧縮変形弾性率を上述の方法で測定した。結果を表2に示す。
【0089】
(実施例2)
単糖メタクリレートを二糖メタクリレートに変更した以外は実施例1と同様にして分離材を作製し、実施例1と同様に評価した。
【0090】
(実施例3)
単糖メタクリレートを四糖メタクリレートに変更した以外は実施例1と同様にして分離材を作製し、実施例1と同様に評価した。
【0091】
(実施例4)
単糖メタクリレートをオリゴ糖メタクリレートに変更した以外は実施例1と同様にして分離材を作製し、実施例1と同様に評価した。
【0092】
(実施例5)
単糖メタクリレートの使用量を1.0gに変更した以外は実施例1と同様にして分離材を作製し、実施例1と同様に評価した。
【0093】
(実施例6)
単糖メタクリレートの使用量を0.7gに変更した以外は実施例1と同様にして分離材を作製し、実施例1と同様に評価した。
【0094】
(実施例7)
多孔質ポリマ粒子1を多孔質ポリマ粒子2に変更した以外は実施例1と同様にして分離材を作製し、実施例1と同様に評価した。
【0095】
(実施例8)
多孔質ポリマ粒子1を多孔質ポリマ粒子3に変更した以外は実施例1と同様にして分離材を作製し、実施例1と同様に評価した。
【0096】
(実施例9)
多孔質ポリマ粒子1を多孔質ポリマ粒子4に変更した以外は実施例1と同様にして分離材を作製し、実施例1と同様に評価した。
【0097】
(比較例1)
単糖メタクリレートをヒドロキシエチルメタクリレートに変更した以外は実施例1と同様にして分離材を作製し、実施例1と同様に評価した。
【0098】
(比較例2)
単糖メタクリレートをグリセリンモノメタクリレートに変更した以外は実施例1と同様にして分離材を作製し、実施例1と同様に評価した。
【0099】
(比較例3)
20mg/mLのポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社、商品名「GH−17」)水溶液に多孔質ポリマ粒子1を70mL/粒子gの濃度で投入し、55℃で24時間攪拌した後、ろ過のより粒子を回収し、熱水で洗浄して、ポリビニルアルコールを吸着した粒子を得た。
【0100】
次いで、上記粒子に吸着したポリビニルアルコールを次のようにして架橋した。エチレングリコールジグリシジルエーテルの濃度が0.64M及び水酸化ナトリウムの濃度が0.4Mである水溶液に、水溶液35mLに対して、ポリビニルアルコールを吸着した粒子を1gの割合で投入し、24時間室温にて攪拌した。その後、2質量%の熱ドデシル硫酸ナトリウム水溶液で洗浄後、純水で洗浄した。得られた粒子を用いて、実施例1と同様に操作して、DEAE基をイオン交換基として有する分離材を作製し、実施例1と同様に評価した。
【0101】
(比較例4)
ポリビニルアルコールをメチルセルロース50(和光純薬工業株式会社)に変更した以外は比較例3と同様にして分離材を作製し、実施例1と同様に評価した。
【0102】
(比較例6)
市販のアガロース粒子(GEヘルスケアジャパン株式会社、商品名「Capto DEAE」)をそのまま分離材として用い、実施例1と同様に評価した。
【0103】
【表2】
【0104】
糖残基を有するポリマを含む被覆層を備える分離材は、0.3MPa時の通液速度が非常に速く、動的吸着量が1500cm/h以上でも高い値を保つことがわかった。また、糖残基を有するポリマで被覆することで、非特異吸着を低減できることが確認できた。