(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エポキシ樹脂と、硬化剤と、炭素材料と異なる無機充填材と、炭素材料と、を含み、前記炭素材料は、アスペクト比(長軸の長さ/短軸の長さ)が10〜100である炭素材料を含むエポキシ樹脂組成物であり、前記炭素材料の含有率が、前記エポキシ樹脂組成物全量の0.1質量%以上0.5質量%以下である、電子部品装置の素子を封止するための、エポキシ樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0010】
本明細書において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲には、「〜」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率を意味する。
本明細書において組成物中の各成分の粒子径は、組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
【0011】
<エポキシ樹脂組成物>
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、無機充填材と、炭素材料と、を含み、前記炭素材料は、アスペクト比(長軸の長さ/短軸の長さ)が10〜100である炭素材料を含む。
【0012】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、アスペクト比が10未満の炭素材料を含むエポキシ樹脂組成物に比べ、硬化前の流動性と硬化後の熱伝導性に優れている。その理由は明らかではないが、アスペクト比の小さい(球状形に近い)炭素材料に比べて比表面積が低下することで、エポキシ樹脂組成物の粘度が低下して流動性が向上すること、及びフィラーと炭素材料又は炭素材料同士の接触点が点ではなく面になるため、伝導経路が拡大して熱伝導率が向上することが考えられる。また、本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、アスペクト比が100を超える炭素材料を含むエポキシ樹脂組成物に比べ、硬化前の流動性に優れている。その理由は明らかではないが、上記と同じく炭素材料の単位質量あたりの比表面積が低下するためと考えられる。
【0013】
[炭素材料]
エポキシ樹脂組成物は炭素材料を含み、前記炭素材料はアスペクト比(長軸の長さ/短軸の長さ)が10〜100である炭素材料(以下、特定炭素材料ともいう)を含む。エポキシ樹脂組成物が特定炭素材料を含むことで、エポキシ樹脂組成物の硬化前の流動性と硬化後の熱伝導性の向上を図ることができる。また、エポキシ樹脂組成物に着色剤として一般的に添加されるカーボンブラック等の粒子状の炭素材料を特定炭素材料に置き換えることで、エポキシ樹脂組成物の大幅な設計変更を要せずに上記の効果を得ることができる。特定炭素材料は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
炭素材料のアスペクト比は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて炭素材料を観察したときに測定される長軸と短軸の長さから算出できる。
本明細書において炭素材料の長軸及びその長さは、炭素材料の撮影像を観察したときに、撮影像の輪郭線上の任意の2つの点(点Aと点B)の間の距離が最長となるときの点Aと点Bの間の線分及びその長さとする。
炭素材料の短軸及びその長さは、炭素材料の長軸に垂直であって撮影像の輪郭線上の任意の2つの点を結ぶ線分(線分の長さが一定でない場合は、長さが最大となる線分)及びその長さとする。
【0015】
特定炭素材料の形状は、アスペクト比が10〜100となる形状であれば特に制限されない。例えば、繊維状、棒状、板状、鱗状等が挙げられる。エポキシ樹脂組成物の流動性の観点からは、特定炭素材料の形状は繊維状であることが好ましい。
【0016】
特定炭素材料のアスペクト比は、10以上であり、20以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましい。また、特定炭素材料のアスペクト比は、100以下であり、90以下であることが好ましく、80以下であることがより好ましい。
【0017】
特定炭素材料のアスペクト比が10以上であると、熱伝導性が向上する傾向にある。特定炭素材料のアスペクト比が100以下であると、作製したパッケージのワイヤ間を接続して生じる短絡の発生が減少する傾向にある。
【0018】
特定炭素材料の長軸の長さは、0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることが更に好ましい。また、特定炭素材料の長軸の長さは、4μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましく、2μm以下であることが更に好ましい。
【0019】
特定炭素材料の長軸の長さが0.1μm以上であると、熱伝導率が向上する傾向にある。特定炭素材料の長軸の長さが4μm以下であると、作製したパッケージのワイヤ間を接続して生じる短絡の発生が減少する傾向にある。
【0020】
特定炭素材料の短軸の長さは、10nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましい。また、特定炭素材料の短軸の長さは、500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましい。
【0021】
特定炭素材料の短軸の長さが10nm以上であると、エポキシ樹脂組成物が溶融した状態での粘度上昇が抑制されて良好な流動性が維持される傾向にある。特定炭素材料の短軸の長さが500nm以下であると、特定炭素材料の凝集物がパッケージのワイヤ間を接続して生じる短絡の発生が抑制される傾向にある。また、特定炭素材料の質量あたりの表面積が充分に確保されて、特定炭素材料によるエポキシ樹脂組成物の着色効果が充分に得られる傾向にある。
【0022】
特定炭素材料は、一般に市販されているものから選択して使用してもよい。例えば、繊維状の炭素材料としては、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノロッド、カーボンナノホーン等の名称で市販されているものが挙げられる。また、帯状に破砕したグラフェン等も使用できる。
【0023】
エポキシ樹脂組成物は、特定炭素材料以外に、アスペクト比が10〜100であるという条件を満たさない炭素材料を含んでもよい。このような炭素材料としては、例えば、球状のカーボンブラックが挙げられる。
【0024】
エポキシ樹脂組成物が、特定炭素材料とその他の炭素材料を含む場合、特定炭素材料を含有させることによる効果を充分に得る観点から、炭素材料全体に占める特定炭素材料の割合は、60質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
【0025】
エポキシ樹脂組成物に含まれる炭素材料(炭素材料が特定炭素材料とその他の炭素材料を含む場合は、その合計)の含有率は、特に制限されない。例えば、エポキシ樹脂組成物の全量中に0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましい。また、エポキシ樹脂組成物の全量中に3質量%未満であることが好ましく、2.8質量%未満であることがより好ましい。
【0026】
エポキシ樹脂組成物に含まれる炭素材料の含有率が、エポキシ樹脂組成物の全量中に0.1質量%以上であると、充分な着色効果が得られ、レーザーマーキング時の加工性に優れる傾向にある。
エポキシ樹脂組成物に含まれる炭素材料の含有率が、エポキシ樹脂組成物の全量中に3質量%以下であると、特定炭素材料の凝集物がパッケージのワイヤ間を接続して生じる短絡の発生が抑制される傾向にある。
【0027】
[エポキシ樹脂]
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂を含む。エポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物であれば特に制限されない。エポキシ樹脂としては、ビフェニレン型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、硫黄原子含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒド型エポキシ樹脂、ナフトール類とフェノール類との共重合型エポキシ樹脂、アラルキル型エポキシ樹脂、ジフェニルメタン型エポキシ樹脂及びトリフェニルメタン型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種(以下、特定エポキシ樹脂ともいう)が挙げられ、ジフェニルメタン型エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
エポキシ樹脂組成物がエポキシ樹脂として特定エポキシ樹脂を含む場合、特定エポキシ樹脂以外のその他のエポキシ樹脂をエポキシ樹脂としてさらに含んでもよい。その他のエポキシ樹脂としては、当該分野で通常用いられるエポキシ樹脂を挙げることができる。具体的には、例えば、柔軟性又は接着性を向上させるために官能基又は骨格を変性したエポキシ−シリカハイブリット樹脂、及び柔軟強靭性液状エポキシ樹脂を挙げることができる。その他のエポキシ樹脂は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
エポキシ樹脂組成物がエポキシ樹脂として特定エポキシ樹脂を含む場合、エポキシ樹脂全量中の特定エポキシ樹脂の総含有率は、特定エポキシ樹脂の性能を充分に発揮する観点から、60質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
【0030】
エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂のエポキシ当量は、90g/eq〜500g/eqであることが好ましく、140g/eq〜450g/eqであることがより好ましく、190g/eq〜400g/eqであることが更に好ましい。
【0031】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、JIS K 7236:2009に準じた方法で測定される値とする。
【0032】
エポキシ樹脂の融点又は軟化点は、50℃〜250℃であることが好ましく、65℃〜200℃であることがより好ましく、80℃〜170℃であることが更に好ましい。
【0033】
エポキシ樹脂の融点又は軟化点は、JIS K 7234:1986及びJIS K 7233:1986に記載の単一円筒回転粘度計法により測定される値とする。
【0034】
[硬化剤]
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、硬化剤を含む。硬化剤は、エポキシ樹脂と反応しうるものであれば特に制限されない。耐熱性向上の観点からは、1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物(以下、フェノール硬化剤ともいう)が好ましい。フェノール硬化剤は、低分子のフェノール化合物であっても、低分子のフェノール化合物を高分子化したフェノール樹脂であってもよい。熱伝導性の観点からは、フェノール硬化剤はフェノール樹脂であることが好ましい。
【0035】
フェノール樹脂としては、ビフェニレン型フェノール樹脂、アラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、ベンズアルデヒド型フェノール樹脂とアラルキル型フェノール樹脂との共重合樹脂及びトリフェニルメタン型フェノール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種(以下、特定フェノール硬化剤ともいう)が挙げられ、トリフェニルメタン型フェノール樹脂が好ましい。硬化剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
エポキシ樹脂組成物が硬化剤として特定フェノール硬化剤を含む場合、特定フェノール硬化剤以外のその他の硬化剤をさらに含んでもよい。その他の硬化剤としては、当該分野で通常用いられる、特定フェノール硬化剤以外のフェノール樹脂を挙げることができる。その他の硬化剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
エポキシ樹脂組成物が硬化剤として特定フェノール硬化剤を含む場合、特定フェノール硬化剤の性能を充分に発揮する観点から、硬化剤全量中の特定フェノール硬化剤の総含有率は、60質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
【0038】
エポキシ樹脂組成物に含まれる硬化剤の水酸基当量は、70g/eq〜500g/eqであることが好ましく、140g/eq〜450g/eqであることがより好ましく、190g/eq〜400g/eqであることが更に好ましい。
【0039】
硬化剤の水酸基当量は、JIS K 0070:1992に準じた方法により測定される値とする。
【0040】
エポキシ樹脂組成物に含まれる硬化剤の融点又は軟化点は、50℃〜250℃であることが好ましく、65℃〜200℃であることがより好ましく、80℃〜170℃であることが更に好ましい。
【0041】
硬化剤の融点又は軟化点は、JIS K 7234:1986及びJIS K 7233:1986に記載の単一円筒回転粘度計法により測定される値とする。
【0042】
エポキシ樹脂組成物における、エポキシ樹脂と硬化剤との含有比率は、エポキシ樹脂のエポキシ当量に対する硬化剤の水酸基当量の比率(水酸基当量/エポキシ当量)が0.5〜2の範囲となるように設定されることが好ましく、0.7〜1.5となるように設定されることがより好ましく、0.8〜1.3となるように設定されることが更に好ましい。前記比率が0.5以上であると、エポキシ樹脂の硬化が充分となり、硬化物の耐熱性、耐湿性、及び電気特性に優れる傾向にある。また、前記比率が2以下であると、硬化樹脂中に残存するフェノール性水酸基の量が抑えられ、電気特性及び耐湿性に優れる傾向にある。
【0043】
エポキシ樹脂組成物における、エポキシ樹脂と硬化剤との組み合わせの例としては、以下のものが挙げられる。
(1)エポキシ樹脂が特定エポキシ樹脂から選択される少なくとも1種を含み、硬化剤が特定フェノール硬化剤から選択される少なくとも1種を含む組み合わせ
(2)エポキシ樹脂がビフェニル型エポキシ樹脂を含み、硬化剤が特定フェノール硬化剤から選択される少なくとも1種を含む組み合わせ
(3)エポキシ樹脂がジフェニルメタン型エポキシ樹脂を含み、硬化剤がトリフェニルメタン型フェノール樹脂を含む組み合わせ
【0044】
[無機充填材]
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、無機充填材を含む。エポキシ樹脂組成物が無機充填材を含むことで、エポキシ樹脂組成物の硬化物の熱膨張係数(線膨張係数)、熱伝導率、弾性率等の向上を図ることができる。
【0045】
無機充填材は特に制限されず、封止用エポキシ樹脂組成物に一般に用いられているものを適宜選択して使用することができる。無機充填材としては、溶融シリカ、結晶シリカ、ガラス、アルミナ、炭酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、工業用ダイヤモンド、ベリリア、ジルコニア、ジルコン、フォステライト、ステアタイト、スピネル、ムライト、チタニア、タルク、クレー、マイカ等の無機物の粒子、これらの粒子を球形化したビーズなどが挙げられる。その他、難燃効果のある無機充填材も使用できる。難燃効果のある無機充填材としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムと亜鉛との複合水酸化物等の複合金属水酸化物、ホウ酸亜鉛などの粒子が挙げられる。無機充填材は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
無機充填材のなかでも、エポキシ樹脂組成物の硬化物の線膨張係数を低減する観点からは溶融シリカ等のシリカ粒子が好ましく、エポキシ樹脂組成物の硬化物の熱伝導性を向上する観点からはアルミナ粒子が好ましい。
【0047】
エポキシ樹脂組成物中の無機充填材の含有率は、特に制限されない。例えば、エポキシ樹脂組成物の全質量の70質量%〜95質量%の範囲であることが好ましい。無機充填材の含有率が70質量%以上であると、エポキシ樹脂組成物の硬化物の熱膨張係数(線膨張係数、熱伝導率、弾性率等に優れる傾向にある。無機充填材の含有率が95質量%以下であると、エポキシ樹脂組成物の粘度の上昇が抑えられて流動性に優れ、パッケージの成形が容易になる傾向にある。
【0048】
無機充填材の平均粒子径は、特に制限されない。例えば、0.1μm〜80μmであることが好ましく、0.3μm〜50μmであることがより好ましい。無機充填材の平均粒子径が0.1μm以上であると、エポキシ樹脂組成物の粘度の上昇を抑えやすい傾向にある。無機充填材の平均粒子径が80μm以下であると、エポキシ樹脂組成物と無機充填材との混合性が向上し、硬化によって得られるパッケージの状態がより均質化して特性のばらつきが抑えられる傾向にあり、さらに狭い領域への充填性が向上する傾向にある。
【0049】
本明細書において無機充填材の平均粒子径は、乾式の粒度分布計を使用して、又は、水若しくは有機溶媒中に無機充填材を分散したスラリーを湿式の粒度分布測定装置を使用して測定できる。特に1μm以下の粒子を含む場合は、湿式の粒度分布計を使用して測定することが好ましい。具体的には、無機充填材の濃度を約0.01質量%に調整した水スラリーをバス式超音波洗浄機で5分間処理し、レーザー回折式粒度測定装置(LA−960、株式会社堀場製作所)を用いて検出された全粒子の平均値より求めることができる。
【0050】
エポキシ樹脂組成物の流動性の観点からは、無機充填材の粒子の形状は角形より球形が好ましく、無機充填材の粒度分布は広範囲に分布したものが好ましい。例えば、無機充填材を75体積%以上含有する場合、その70質量%以上を球状粒子とし、この球状粒子の粒径は0.1μm〜80μmという広範囲に分布したものが好ましい。このような無機充填材は、大きさが異なる粒子が混在することで最密充填構造を形成しやすいため、無機充填材の含有率を増加させてもエポキシ樹脂組成物の粘度上昇が抑えられ、流動性に優れるエポキシ樹脂組成物が得られる傾向にある。
【0051】
[硬化促進剤]
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて硬化促進剤を含んでもよい。硬化促進剤としては、当該技術分野で通常用いられているものから選択できる。例えば、トリフェニルホスフィン等の有機リン化合物、イミダゾール化合物、第3級アミン、及び第4級アンモニウム塩が挙げられる。硬化促進剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
エポキシ樹脂組成物が硬化促進剤を含む場合、その含有量は特に制限されない。例えば、エポキシ樹脂100質量部に対して0.1質量部〜10質量部であることが好ましく、1質量部〜5質量部であることがより好ましい。
【0053】
[陰イオン交換体]
エポキシ樹脂組成物は、必要に応じて陰イオン交換体を含んでもよい。特に、エポキシ樹脂組成物を封止用成形材料として用いる場合には、封止される素子を備える電子部品装置の耐湿性及び高温放置特性を向上させる観点から、陰イオン交換体を含むことが好ましい。
【0054】
陰イオン交換体は特に制限されず、従来から当該技術分野において一般的に使用されるものから選択できる。例えば、Mg
1−xAl
x(OH)
2(CO
3)
x/2・mH
2O(式中、0<X≦0.5であり、mは正の数である)の式で示される組成のハイドロタルサイト化合物、並びにマグネシウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及びビスマスから選ばれる元素の含水酸化物が挙げられる。陰イオン交換体は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
ハイドロタルサイト化合物は、ハロゲンイオン等の陰イオンを構造中のCO
3と置換することで捕捉し、結晶構造の中に取り込まれたハロゲンイオンは約350℃以上で結晶構造が破壊するまで脱離しない性質を持つ化合物である。このような性質を持つハイドロタルサイトとしては、天然物として産出されるMg
6Al
2(OH)
16CO
3・4H
2O、合成品としてMg
4.3Al
2(OH)
12.6CO
3・mH
2O等が挙げられる。
【0056】
特に、エポキシ樹脂組成物が硬化剤としてフェノール硬化剤を含む場合、フェノール硬化剤の影響でエポキシ樹脂組成物は酸性を示す(例えば、純水を使用した硬化物の抽出液がpH3〜5となる)。この場合、両性金属であるアルミニウムは、エポキシ樹脂組成物によって腐食されやすい環境となるが、酸を吸着する作用も持つハイドロタルサイト化合物をエポキシ樹脂組成物が含むことで、アルミニウムの腐食が効果的に抑制されると推察される。
【0057】
また、マグネシウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ビスマス及びアンチモンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の含水酸化物も、ハロゲンイオンを水酸化物イオンと置換することで捕捉でき、さらにこれらのイオン交換体は酸性側で優れたイオン交換能を示す。従って、これらのイオン交換体をエポキシ樹脂組成物が含むことで、ハイドロタルサイト化合物を含む場合と同様に、・アルミニウムの腐食が効果的に抑制されると推察される。含水酸化物としては、MgO・nH
2O、Al
2O
3・nH
2O、ZrO
2・H
2O、Bi
2O
3・H
2O、Sb
2O
5・nH
2O等が挙げられる。
【0058】
エポキシ樹脂組成物が陰イオン交換体を含む場合、その含有量は、ハロゲンイオン等の陰イオンを捕捉するのに充分な量であれば特に制限されない。例えば、エポキシ樹脂100質量部に対して0.1質量部〜30質量部であることが好ましく、1質量部〜5質量部であることがより好ましい。
【0059】
[離型剤]
エポキシ樹脂組成物は、成形工程において金型に対する良好な離型性を発揮させる観点から、離型剤を含有してもよい。離型剤の種類は特に制限されず、当該技術分野において公知の離型剤が挙げられる。具体的に、離型剤としては、カルナバワックス、モンタン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、モンタン酸エステル等のエステル系ワックス、酸化ポリエチレン、非酸化ポリエチレン等のポリオレフィン系ワックスなどが挙げられる。離型剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
エポキシ樹脂組成物が離型剤を含む場合、その含有量は特に制限されない。例えば、エポキシ樹脂100質量部に対して0.01質量部〜10質量部であることが好ましく、0.1質量部〜5質量部であることがより好ましい。離型剤の含有率がエポキシ樹脂100質量部に対して0.01質量部以上であると充分な離型性が得られる傾向にあり、10質量部以下であると充分な接着性が得られる傾向にある。
【0061】
[難燃剤]
エポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、難燃性を付与するために難燃剤を含んでもよい。難燃剤の種類は特に制限されない。例えば、ハロゲン原子、アンチモン原子、窒素原子又はリン原子を含む公知の有機化合物又は無機化合物、金属水酸化物、及びアセナフチレンが挙げられる。難燃剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
エポキシ樹脂組成物が難燃剤を含む場合、その含有量は特に制限されない。例えば、エポキシ樹脂100質量部に対して、1質量部〜30質量部であることが好ましく、2質量部〜15質量部であることがより好ましい。
【0063】
[カップリング剤]
エポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、樹脂成分と無機充填材との接着性を高めるためにカップリング剤を含んでもよい。カップリング剤の種類は、特に限定されない。カップリング剤としては、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン等のシラン化合物、チタン化合物、アルミニウムキレート化合物、アルミニウム含有化合物、ジルコニウム含有化合物などが挙げられる。カップリング剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
エポキシ樹脂組成物がカップリング剤を含有する場合、カップリング剤の含有率はエポキシ樹脂組成物全量の0.03質量%〜5質量%であることが好ましく、0.5質量%〜2.5質量%であることがより好ましい。カップリング剤の含有率が0.03質量%以上であると、フレームとの接着性が向上する傾向にあり、5質量%以下であるとパッケージの成形性に優れる傾向にある。
【0065】
[応力緩和剤]
エポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、シリコーンオイル、シリコーンゴム粒子等の応力緩和剤を含んでもよい。応力緩和剤を含有させることによって、パッケージの反り変形量が低減し、パッケージクラックが低減する傾向にある。応力緩和剤としては、当該技術分野で一般に用いられる公知の可とう剤(応力緩和剤)を適宜選択して使用することができる。
【0066】
応力緩和剤として具体的には、シリコーン、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリブタジエン等の熱可塑性エラストマー;NR(天然ゴム)、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンパウダー等のゴム粒子;メタクリル酸メチル−スチレン−ブタジエン共重合体(MBS)、メタクリル酸メチル−シリコーン共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸ブチル共重合体等のコア−シェル構造を有するゴム粒子;などが挙げられる。応力緩和剤は、1種を単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、シリコーン系応力緩和剤が好ましい。シリコーン系応力緩和剤としては、エポキシ基を有するもの、アミノ基を有するもの、これらをポリエーテル変性したもの等が挙げられる。
【0067】
[着色剤等]
エポキシ樹脂組成物は、炭素材料以外の他の着色剤を含んでもよい。他の着色剤としては、有機染料、有機着色剤、酸化チタン、鉛丹、ベンガラ等が挙げられる。その他、必要に応じて、本発明による効果を低下させない範囲において種々の添加剤を含有してもよい。
【0068】
[エポキシ樹脂組成物の調製方法]
エポキシ樹脂組成物の調製には、各種成分を均一に分散混合できるのであれば、いずれの手法を用いてもよい。一般的な手法として、所定の配合量の成分をミキサー等によって充分混合した後、ミキシングロール、押出機等によって溶融混練し、冷却し、粉砕する方法を挙げることができる。より具体的には、エポキシ樹脂組成物は、例えば、上述した成分の所定量を混合して撹拌し、予め70℃〜140℃に加熱してあるニーダー、ロール、エクストルーダー等で混練した後、冷却し、粉砕する等の方法によって得ることができる。エポキシ樹脂組成物は、パッケージの成形条件に合うような寸法及び質量でタブレット化してもよい。エポキシ樹脂組成物をタブレット化することで、取り扱いが容易になる。
【0069】
<エポキシ樹脂硬化物>
本実施形態のエポキシ樹脂硬化物は、上述したエポキシ樹脂組成物の硬化物である。本実施形態のエポキシ樹脂硬化物は、上述したエポキシ樹脂組成物を硬化して得られることから、熱伝導性に優れている。
【0070】
<電子部品装置>
本実施形態の電子部品装置は、素子と、前記素子を封止している上述したエポキシ樹脂組成物の硬化物と、を有する。電子部品装置としては、例えば、支持部材に、能動素子、受動素子等の素子が搭載され、この素子が上述したエポキシ樹脂組成物を用いて封止されたものが挙げられる。支持部材としては、リードフレーム、配線済みのテープキャリア、配線板、ガラス、シリコンウエハ等が挙げられる。能動素子としては、半導体チップ、トランジスタ、ダイオード、サイリスタ等が挙げられる。受動素子としては、コンデンサ、抵抗体、コイル等が挙げられる。
【0071】
より具体的には、例えば、リードフレーム上に半導体素子を固定し、ボンディングパッド等の素子の端子部とリード部とをワイヤボンディング又はバンプで接続した後、上述した実施形態のエポキシ樹脂組成物を用いてトランスファー成形等によって封止した、DIP(Dual Inline Package)、PLCC(Plastic Leaded Chip Carrier)、QFP(Quad Flat Package)、SOP(Small Outline Package)、SOJ(Small Outline J−lead package)、TSOP(Thin Small Outline Package)、TQFP(Thin Quad Flat Pacakage)等の一般的な樹脂封止型IC;テープキャリアにバンプで接続した半導体チップを、上述した実施形態のエポキシ樹脂組成物で封止したTCP(Tape Carrier Package);配線板又はガラス上に形成した配線に、ワイヤボンディング、フリップチップボンディング、はんだ等で接続した半導体チップ、トランジスタ、ダイオード、サイリスタ等の能動素子及び/又はコンデンサ、抵抗体、コイル等の受動素子を、上述した実施形態のエポキシ樹脂組成物で封止したCOB(Chip On Board)モジュール、ハイブリッドIC、マルチチップモジュール;裏面に配線板接続用の端子を形成した有機基板の表面に素子を搭載し、バンプ又はワイヤボンディングにより素子と有機基板に形成された配線を接続した後、上述した実施形態のエポキシ樹脂組成物で素子を封止したBGA(Ball Grid Array)、CSP(Chip Size Package);などが挙げられる。また、プリント回路板にも上述した実施形態のエポキシ樹脂組成物は有効に使用できる。
【0072】
本実施形態の電子部品装置において、素子をエポキシ樹脂硬化物で封止する方法は、特に限定されず、当技術分野において公知の方法を適用することが可能である。例えば、低圧トランスファー成形法が一般的であるが、インジェクション成形法、圧縮成形法等を用いてもよい。
【0073】
本実施形態によれば、素子を封止するエポキシ樹脂硬化物が熱伝導性に優れているため、熱伝導性に優れる電子部品装置を提供することが可能となり、その工業的価値は高い。
【実施例】
【0074】
以下、本実施形態を実施例により具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
(エポキシ樹脂組成物の調製)
表1に示す各種原材料をそれぞれ表1に示す量(質量部)で配合し、混練温度80℃、混練時間15分の条件下でロール混練を行うことによって、実施例1〜4及び比較例1、2のエポキシ樹脂組成物を調製した。表1において「−」は、該当する成分が含まれないことを示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1に示す原材料の詳細は、下記のとおりである。
・エポキシ樹脂:192g/eq、融点79℃のジフェニルメタン型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学株式会社、商品名:YSLV−80XY)
・硬化剤:水酸基当量102g/eq、軟化点70℃のトリフェニルメタン型フェノール樹脂(エアーウォータ社、商品名:HE910−09)
・硬化促進剤:トリフェニルホスフィン
・無機充填材:平均粒径10μmのアルミナフィラー(DENKA株式会社、商品名:DOWシリーズ混合)
・カップリング剤:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
・離型剤:カルナバワックス(株式会社セラリカNODA)
・炭素材料1:カーボンナノチューブ(昭和電工株式会社、商品名:VGCF−H)
・炭素材料2:カーボンナノファイバー(昭和電工株式会社、商品名:VGCF−S)
・炭素材料3:カーボンブラック(三菱化学株式会社、商品名:MA−100)
・炭素材料4:カーボンナノチューブ(Convestro社、商品名:Baytubes C150)
【0078】
[エポキシ樹脂組成物の硬化後の熱伝導率の評価]
(エポキシ樹脂硬化物の作製)
実施例1〜4及び比較例1、2で作製した得られたエポキシ樹脂組成物を用いて、熱伝導率測定用のエポキシ樹脂硬化物を作製した。エポキシ樹脂組成物の成形と硬化は、真空ハンドプレス成形機を用い、金型温度180℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間10分の条件下で行った。また、後硬化は175℃で6時間行った。成形は、厚さが1mm、1cm×1cmとなるように行った。
【0079】
(熱伝導率の測定)
上記方法で作製した、エポキシ樹脂硬化物の厚さ方向の熱拡散率をXe−Flash法(Netzsch社製:LFA447/2)にて測定した。パルス光照射は、パルス幅0.1(ms)、印加電圧 247Vの条件で行った。測定は、雰囲気温度25℃±1℃で行った。エポキシ樹脂硬化物の比熱は、JIS K 7123:2012に準じた方法により、DSCの測定データより算出し、密度を電子比重計(アルファーミラージュ株式会社、SD−200L)によって測定した。
得られたエポキシ樹脂硬化物の比熱、密度及び熱拡散率の測定値から、下記式(1)によって熱伝導率の値を算出した。
比較例1の熱伝導率を規準とし、熱伝導率が向上したものを○、比較例1と同等であるか比較例1より熱伝導率が低いものを×とした。結果を表2に示す。
λ = α・Cp・ρ ・・・式(1)
式(1)中、λは熱伝導率(W/(m・K))、αは熱拡散率(m
2/s)、Cpは比熱(J/(kg・K))、ρは密度(g/cm
3)をそれぞれ示す。
【0080】
(アスペクト比の測定)
上記方法で作製したエポキシ樹脂硬化物を折り曲げ、破断した。露出した破断面の画像を、SEMを用いて撮影した。得られた画像における、無作為に選択した50個の炭素材料について測定した短軸の長さの平均値とアスペクト比(長軸の長さ/短軸の長さ)の平均値を表2に示す。
【0081】
[エポキシ樹脂組成物の流動性の評価]
実施例1〜4及び比較例1、2によって作製したエポキシ樹脂組成物の流動性を、下記に示すスパイラルフロー試験によって評価した。評価結果を表1に示す。尚、エポキシ樹脂組成物の成形は、トランスファー成形機を用い、金型温度180℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間90秒の条件下で行った。また、後硬化は175℃で6時間行った。
【0082】
スパイラルフロー試験は、EMMI−1−66に準じたスパイラルフロー測定用金型を用いて、上記条件でエポキシ樹脂組成物を成形して流動距離(cm)を測定することにより実施した。比較例1の流動距離を規準とし、流動性が向上したものを○、比較例1と同等であるか比較例1より流動性が低いものを×とした。
【0083】
[エポキシ樹脂組成物の色味の評価]
色味の評価
上記手法で作製した成型物を目視で観察し、比較例1を基準として同等の黒色を呈したものを○、黒色が低下したものを×とした。
【0084】
【表2】
【0085】
表2に示されるように、炭素材料のアスペクト比が10〜100の範囲内である本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、炭素材料のアスペクト比が10未満である比較例1のエポキシ樹脂組成物に比べ、硬化前の流動性と硬化後の熱伝導率とにおいて優れていた。また、色味も比較例1と同等の黒色を呈した。
炭素材料のアスペクト比が100を超える比較例2のエポキシ樹脂組成物は、硬化後の熱伝導率は比較例1よりも優れ、比較例1と同等の黒色を呈したが、硬化前の流動性の評価が比較例1よりも劣っていた。