(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
樹脂をフィルム化して光学特性を有するフィルムを製造する方法の一つに、溶融押出法がある。溶融押出法では、例えば、溶融した樹脂をダイから押出して得られた溶融フィルムを、冷却ロール上で冷却し、原反フィルムを得る。そして、得られた原反フィルムを延伸することで、長尺の延伸フィルムを得ることができる。(以下、「原反フィルム」および「延伸フィルム」をまとめて、「光学フィルム」という。)
【0003】
従来から、溶融押出法を用いて、諸性能に優れる光学フィルムを効率的に製造する方法の検討が行われている。例えば、溶融フィルムに電荷を供給してフィルム表面を帯電させることで、溶融フィルムと冷却ロールを密着させて冷却効率を高める方法(静電密着法)が知られている。しかしながら、従来の静電密着法では、溶融フィルムと冷却ロールの密着性を確保できない場合があった。
【0004】
このような問題に対し、例えば特許文献1では、溶融した熱可塑性樹脂を口金から回転冷却ドラム上にシート状に押出し、該回転冷却ドラム上で急冷固化してシート状物を成形するに際し、回転冷却ドラム上で成形中のシート状物に帯電した空気を吹き付ける方法が提案されている。そして、特許文献1によれば、成形中のシート状物に帯電した空気を吹き付けることで、回転冷却ドラム上へのシート状物の密着力が大幅に向上すると共に、シート状物の透明性を高めることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の方法では、溶融フィルムと冷却ロールの密着性に更なる改善の余地があった。例えば、光学フィルムの製造には、製造ラインの一層の高速化が求められているところ、上記従来の方法を用いてライン速度を上昇させると、溶融フィルムと冷却ロールの密着性が低下し、得られる光学フィルムの厚み精度の悪化や、搬送時の蛇行などの問題が生じていた。
【0007】
そこで、本発明は、溶融フィルムと冷却ロールを十分に密着させて、光学フィルムの搬送時の蛇行を抑制すると共に、光学フィルムの厚み精度を高めることが可能な光学フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した。そして、本発明者は、溶融フィルムを静電密着法により冷却ロール上で冷却して原反フィルムを得る光学フィルムの製造方法を改良すべく、電荷が供給され冷却ロール上で冷却される際の溶融フィルムの断面形状(幅方向断面の厚みプロファイル)に着目した。そして、本発明者は、冷却ロール上での溶融フィルムの断面形状は、冷却後に得られる原反フィルムの断面形状と概ね等しい(以下、これら2つの断面形状をまとめて、単に「断面形状」と言う場合がある。)との知見の下、所定の断面形状を採用することで、溶融フィルムと冷却ロールの密着性を高めることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の光学フィルムの製造方法は、樹脂を含む樹脂組成物をダイから溶融押出しして、溶融フィルムを得る工程と、前記溶融フィルムの幅方向両端部への電荷供給により前記溶融フィルムを冷却ロールに密着させて冷却し、原反フィルムを得る工程と、を含み、前記原反フィルムは、幅方向中央部の平均厚みが40μm未満であり、且つ幅方向両端部に厚みが50μm以上の肉厚領域を有する、ことを特徴とする。上述した所定の断面形状を採用すれば、溶融フィルムと冷却ロールを十分に静電密着させることが可能となる。そして、溶融フィルムを冷却した後の工程において、得られる原反フィルムおよび延伸フィルムの蛇行を抑制すると共に、厚み精度を高めることができる。
なお、本発明において、フィルムの「幅方向中央部」とは、フィルムの長手方向中心線からの距離が、フィルムの幅の35%以内の領域をいい、フィルムの「幅方向両端部」とは、「幅方向中央部」の幅方向外側の領域をいう。
また、本発明において、「幅方向中央部の平均厚み」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
そして、本発明において、「厚みが50μm以上の肉厚領域」の有無は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて特定することができる。
【0010】
ここで、本発明の光学フィルムの製造方法において、前記樹脂組成物の比誘電率を2.5以下とすることができる。比誘電率が低い樹脂組成物からなる溶融フィルムは、一般的に、冷却ロールと静電密着し難い。しかしながら、上述した所定の断面形状を採用する本発明の光学フィルムの製造方法を用いれば、比誘電率が2.5以下の樹脂組成物を用いた場合であっても、溶融フィルムと冷却ロールを十分に密着させることができる。
なお、本発明において、「比誘電率」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0011】
そして、本発明の光学フィルムの製造方法において、前記原反フィルムの幅方向両端部が、前記肉厚領域よりも前記原反フィルムの幅方向内側に、前記肉厚領域よりも薄く前記幅方向中央部よりも厚い平坦領域を有することが好ましい。上述した平坦領域を有する断面形状を採用すると、溶融フィルムと冷却ロールの密着性を更に向上させることができる。
なお、本発明において、「平坦領域」とは、原反フィルム幅方向の厚み変化率(幅方向距離に対する厚みの変化の度合い)が1μm/0.96mm以下である、幅10mm以上の領域をいい、「平坦領域」の有無は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて特定することができる。
【0012】
また、本発明の光学フィルムの製造方法において、前記樹脂が脂環式ポリオレフィン樹脂であることが好ましい。脂環式ポリオレフィン樹脂を用いれば、得られる光学フィルムの機械特性、耐熱性、透明度といった品質をバランス良く向上させることができる。
【0013】
なお、本発明の光学フィルムの製造方法は、前記原反フィルムを得る工程の後、さらに、前記肉厚領域に由来する部分を除去して、肉厚領域を製品として巻き取らないことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光学フィルムの製造方法によれば、溶融フィルムと冷却ロールを十分に密着させて、光学フィルムの搬送時の蛇行を抑制すると共に、光学フィルムの厚み精度を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の光学フィルムの製造方法は、樹脂を含む樹脂組成物をダイから溶融押出しして、溶融フィルムを得る工程(押出工程)と、溶融フィルムの幅方向両端部への電荷供給により溶融フィルムを冷却ロールに密着させて冷却し、原反フィルムを得る工程(静電密着工程)を含み、任意に、その他の工程を含む。そして、本発明の光学フィルムの製造方法においては、原反フィルムの断面形状として所定の形状を採用する。すなわち、原反フィルムは、幅方向中央部の平均厚みが40μm未満であり、且つ、幅方向両端部に厚みが50μm以上の肉厚領域を有することを特徴とする。
【0017】
本発明者らの検討によれば、冷却後の原反フィルムの幅方向中央部の平均厚みが40μm未満となるような比較的薄い溶融フィルムを用いると、溶融フィルム表面に供給された電荷が何らかの理由でクーロン引力の発生に十分に寄与しないためと推察されるが、静電密着法による溶融フィルムと冷却ロール間の密着性向上効果が十分に得られないことがわかった。しかしながら、本発明の光学フィルムの製造方法では、原反フィルムが、その幅方向両端部に厚みが50μm以上の肉厚領域を有している。そして、このような原反フィルムの冷却前段階である溶融フィルムも、冷却ロール上で、その幅方向両端部に比較的厚みが大きい領域(すなわち、原反フィルムの肉厚領域に相当する領域)を有することとなる。本発明の光学フィルムの製造方法では、この比較的厚みが大きい領域を有する幅方向両端部に電荷を供給しているため、供給された電荷がクーロン引力の発生に十分に寄与しうるためと推察されるが、溶融フィルムと冷却ロールを良好に密着させることができる。そして、このように溶融フィルムと冷却ロールを十分に密着させることで、冷却ロール上での冷却むらを抑えて、得られる光学フィルムの厚み精度を向上させると共に、光学フィルムの搬送時の蛇行を抑制することが可能となる。
【0018】
(原反フィルムの断面形状)
ここで、上述した通り、冷却ロール上での溶融フィルムの断面形状は、冷却後に得られる原反フィルムの断面形状と概ね一致する。そのため、本発明においては、精密に把握しうる原反フィルムを所定の断面形状を制御することで、実質的に冷却ロール上での溶融フィルムの断面形状も制御して、所望の効果を得ることができる。以下、本発明で採用する原反フィルムの断面形状について説明する。
【0019】
<幅方向中央部>
まず、原反フィルムの幅方向中央部の平均厚みは、40μm未満であることが必要であり、30μm以下とすることができる。また、原反フィルムの幅方向中央部の平均厚みの下限は、特に限定されないが、通常5μm以上である。
【0020】
<幅方向両端部>
[肉厚領域]
原反フィルムの幅方向両端部内には、厚みが50μm以上の肉厚領域が存在する必要がある。
図1に、原反フィルムの幅方向断面図の一例を模式的に示す。
図1中、原反フィルム1は、幅方向中央部2と幅方向両端部3とで構成され、幅方向両端部3内に、肉厚領域4aを有する。
【0021】
肉厚領域の厚みは、50μm以上であることが必要である。幅方向両端部内に厚みが50μm以上の肉厚領域が存在しない場合、溶融フィルムと冷却ロール間の密着性を確保することができない。そして、光学フィルム搬送時の蛇行を抑制することができず、光学フィルムの厚み精度も低下する。なお、肉厚領域の厚みの上限は、特に限定されないが、通常300μm以下である。
【0022】
ここで、肉厚領域は、原反フィルム長手方向に延在していることが好ましい。また、肉厚領域の幅(原反フィルム幅方向)は、10mm以上であることが好ましく、20mm以上であることがより好ましく、100mm以下であることが好ましく、90mm以下であることがより好ましい。肉厚領域の幅が10mm以上であれば、溶融フィルムと冷却ロールの密着性を更に高めることができ、100mm以下であれば、製品歩留まりが過度に損なわれることもない。
【0023】
[平坦領域]
原反フィルムの幅方向両端部内には、肉厚領域よりも原反フィルム幅方向内側に、肉厚領域よりも薄く幅方向中央部よりも厚い平坦領域が存在することが好ましい。原反フィルムの幅方向両端部に上述した平坦領域が存在すると、溶融フィルムの幅方向両端部にも、原反フィルムの平坦領域に相当する領域が存在することとなる。そのため、溶融フィルムの幅方向両端部に存在する比較的厚みが大きい領域が、上述した平坦領域に相当する領域に支持されることで直立し易くなるためと推察されるが、溶融フィルムと冷却ロールの密着性を更に向上させることができる。
【0024】
図2に、原反フィルムの幅方向断面図の一例を模式的に示す。
図2中、原反フィルム1は、幅方向中央部2と幅方向両端部3とで構成され、幅方向両端部3内に、肉厚領域4aおよび平坦領域4bを有する。
【0025】
ここで、平坦領域は、原反フィルム長手方向に延在していることが好ましい。また、平坦領域の幅(原反フィルム幅方向)は、10mm以上であり、11mm以上であることが好ましく、20mm以下であることが好ましく、16mm以下であることがより好ましい。平坦領域の幅が10mm以上であれば、溶融フィルムと冷却ロールの密着性を更に高めることができ、20mm以下であれば、製品歩留まりが過度に損なわれることもない。
【0026】
なお、幅方向中央部の平均厚み、並びに幅方向両端部(肉厚領域および平端領域)形状等の原反フィルムの断面形状は、例えば、溶融押出に用いるダイリップ(樹脂吐出部)のクリアランスおよび形状、並びに原反フィルムの押出レートを変更することで調整することができる。
また原反フィルムの幅は、特に限定されないが、1000mm以上であることが好ましく、1200mm以上であることがより好ましく、3000mm以下であることが好ましく、2500mm以下であることがより好ましい。
【0027】
次いで、樹脂組成物から上述した原反フィルムを得るまでの、押出工程、および静電密着工程について詳述する。
【0028】
(押出工程)
押出工程では、樹脂を含む樹脂組成物をダイから溶融押出しして、溶融フィルムを作製する。
【0029】
<樹脂組成物>
樹脂組成物は、樹脂を主成分として含む組成物である。ここで、樹脂としては、通常、熱可塑性樹脂を用いる。具体的な熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、脂環式ポリオレフィン樹脂等)、ポリカーボネート樹脂(芳香族ポリカーボネート等)、セルロースエステル樹脂、アクリル樹脂(ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリシクロヘキシルアクリレート等)、およびその他の樹脂(ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等)が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせてもよい。これらの中でも、光学フィルムに求められる機械特性、耐熱性、透明度といった品質をバランス良く向上させることができる観点から、ポリオレフィン樹脂が好ましく、脂環式ポリオレフィン樹脂がより好ましい。
【0030】
また、樹脂組成物は、ピニング剤(高誘電率化剤)等の添加剤を含んでいてもよい。しかしながら、ピニング剤等の添加剤は、得られる光学フィルムにおいて、透明度等の光学特性の低下を引き起こす虞がある。よって、ピニング剤等の添加剤の配合量は、樹脂100質量部当たり、3質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以下であることが更に好ましく、0.1質量部以下であることが特に好ましく、0質量部であることが最も好ましい。
本発明の光学フィルムの製造方法を用いれば、ピニング剤により樹脂組成物の比誘電率を高めずとも、溶融フィルムと冷却ロールの間の十分な密着性を確保することができる。そして、樹脂組成物の比誘電率は、例えば、2.5以下とすることができ、2.3以下とすることができる。また、樹脂組成物の比誘電率の下限は特に限定されないが、通常1.5以上である。このような低い比誘電率の樹脂組成物を構成しうる樹脂としては、例えば、上述したポリオレフィン樹脂が挙げられる。
【0031】
<溶融押出条件>
上述した樹脂組成物を、ダイから溶融押出しして溶融フィルムを作製する際の溶融押出条件は、特に限定されず、用いる樹脂の種類等に応じて適宜決定することができる。
なお、冷却ロール上での溶融フィルムの幅は、特に限定されないが、1000mm以上であることが好ましく、1200mm以上であることがより好ましく、3000mm以下であることが好ましく、2500mm以下であることがより好ましい。
【0032】
(静電密着工程)
静電密着工程では、溶融フィルムの幅方向両端部に電荷を供給して、溶融フィルムを冷却ロールに密着させて、冷却する。この際、溶融フィルムの幅方向両端部には、上述した通り比較的厚みが大きい領域が存在するため、当該領域を有する幅方向両端部に電荷が供給されることで、溶融フィルムと冷却ロールの間の良好な密着性を確保することができる。そして、溶融フィルムを冷却ロール上で冷却することで、光学フィルムである原反フィルムが得られる。
【0033】
ここで、幅方向両端部に電荷を供給する方法は特に限定されず、静電密着法で用いられる既知の電荷供給手段を採用することができる。例えば、幅方向両端部に近接させた電極に電圧を印加して放電させる方法や、幅方向両端部に帯電した空気を吹き付ける方法が挙げられるが、前者の方法が好ましい。
例えば
図3の例では、ダイ5のダイリップ6から押出された溶融フィルム1の幅方向両端部に、電極としてのエッジピニング7からの放電により電荷が供給され、溶融フィルム1が冷却ロール8に密着する。なお、
図3では、溶融フィルムの両端側に各2本(合計4本)のエッジピニング7が設けられているが、エッジピニングの数は特に限定されず、適宜変更することができる。
【0034】
(その他の工程)
本発明の光学フィルムの製造方法は、上述した押出工程および静電密着工程以外の工程を含むことができる。例えば、本発明の光学フィルムの製造方法は、溶融フィルムが、静電密着工程で冷却ロールと密着することで冷却して得られる原反フィルムを、さらに延伸して延伸フィルムを得る工程(延伸工程)を含んでいてもよい。
また、本発明の光学フィルムの製造方法は、原反フィルムおよび延伸フィルムの少なくとも何れかの光学フィルムの肉厚領域に由来する部分を除去する工程(トリミング工程)を含むことが好ましい。なお、トリミング工程においては、肉厚領域に由来する部分に加え、平坦領域に由来する部分を除去してもよい。
上記延伸工程およびトリミング工程は、何れも既知の手法により実施することができる。また、得られた光学フィルムは、必要に応じて巻き取ってもよい(巻き取り工程)。
【0035】
なお、本発明の光学フィルムの製造方法において、ライン速度は、生産効率向上の観点から、30m/分以上であることが好ましく、40m/分以上であることがより好ましい。本発明の光学フィルムの製造方法は、ライン速度を30m/分以上の高速とした場合であっても、溶融フィルムと冷却ロールとの密着性を十分に確保することができ、光学フィルムの蛇行を抑制しつつ厚み精度を高めることができる。なお、ライン速度の上限は特に限定されないが、通常80m/分以下である。
ここで、本発明において、「ライン速度」とは、原反フィルムの搬送速度を意味する。
【実施例】
【0036】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例および比較例において、樹脂組成物の比誘電率、原反フィルムの厚み、溶融フィルムと冷却ロールの密着性、原反フィルムの蛇行量、並びに光学フィルムの全光線透過率およびヘイズは、以下の方法で測定および評価した。結果は何れも表1に示す。
【0037】
<樹脂組成物の比誘電率>
原反フィルムの任意の場所からφ40mmでサンプリングし、「プレジョンLCRメーター HP4284A」(HEWLETT PACKARD社製)を用いて、周波数1MHz、電圧1Vにて比誘電率を測定した。この測定を合計5回行い、それらの算術平均値を、原反フィルムの調製に用いた樹脂組成物の比誘電率とした。
<原反フィルムの厚み>
原反フィルム全幅について、「接触式ウェブ厚さ計 RC−101」(明産社製)を用いて、原反フィルムのTD方向に0.48mm毎に厚みを測定した。得られた膜厚プロファイルを元に、幅方向両末端部内の最大厚みから双方の端部の肉厚領域の有無をそれぞれ特定し、幅方向両末端部内の厚み変化率から双方の端部の平坦領域の有無をそれぞれ特定した。さらには、得られた膜厚プロファイルを元に、双方の端部の肉厚領域の幅および平坦領域の幅をそれぞれ決定し、また幅方向中央部の平均厚み(算術平均値)および厚み標準偏差を算出した。
<溶融フィルムと冷却ロールの密着性>
溶融フィルムと冷却ロールの接触後に得られる原反フィルムについて、エッジピニング下を通過した任意の部分を、双方の端部から幅方向20mm×長手方向50mmのサイズでそれぞれ切り出し、エアマーク(空気溜まり)の個数を目視で数えた。このエアマークの数が多いほど、エッジピニングにより溶融フィルムが冷却ロール側に強く押されていることを表し、すなわち、溶融フィルムと冷却ロールの密着性に優れることを示す。
<原反フィルムの蛇行量>
原反フィルムを水平方向に搬送する際、搬送中の原反フィルム両端の変位を、「LS−9120M」(キーエンス社製)を用いてサンプリングレート1秒にて10分間測定した。この測定値の中での最大値から同最小値を差し引いた値を蛇行量(mm)とした。
<光学フィルムの全光線透過率およびヘイズ>
トリミング工程後、巻き取った光学フィルム(原反フィルム)の任意の場所から30mm角でサンプリングし、「濁度計NDH−300A」(日本電色工業社製)を用いて測定した。この測定を合計5回行い、それらの算術平均値を、光学フィルムの全光線透過率およびヘイズとした。
【0038】
(実施例1)
脂環式ポリオレフィン樹脂(製品名「ZEONOR(登録商標)1420」:日本ゼオン(株)製)のペレットを100℃で5時間乾燥した。乾燥後のペレットを押出機に供給し、押出機内で溶融させ、ポリマーパイプおよびポリマーフィルターを経て、Tダイから押出した(押出工程)。溶融フィルムを冷却ロール上に吐出し、
図3に示した要領で、溶融フィルムの幅方向両端部に対してエッジピニングで電荷を供給して、静電密着法により両端20mmを拘束しながら冷却を行い、原反フィルムを得た(静電密着工程)。なお、Tダイのリップのクリアランスは事前に調整されており、幅方向両末端部に肉厚領域および平坦領域を有する原反フィルムが得られた。この際の押出レートは(1時間あたりの押出重量)75kg/時、ライン速度は50m/分とした。
得られた原反フィルム(幅1790mm)の両端を150mmずつトリミングして(トリミング工程)、巻取り速度:50m/分、巻取り張力:100N/m、タッチ圧:150N/mで巻き取った。なお、巻取り張力は、巻き終わり時の巻取り張力を巻き始め時の巻取り張力の85%となるように漸減させる設定(15%ダウンテーパ)とし、タッチ圧は、巻き終わり時のタッチ圧を巻き始め時のタッチ圧の90%となるように漸減させる設定(10%ダウンテーパ)とした。
【0039】
(実施例2〜4)
Tダイのリップのクリアランスを調整して原反フィルムの断面形状を表1のように変更し、押出レートを調整してフィルム厚みを変更した以外は、実施例1と同様にして各工程を実施した。
【0040】
(比較例1〜2)
Tダイのリップのクリアランスを調整して原反フィルムの断面形状を表1のように変更し、押出レートを調整してフィルム厚みを変更した以外は、実施例1と同様にして各工程を実施した。
【0041】
【表1】
【0042】
表1より、溶融フィルムを静電密着法により冷却ロールと密着させて、幅方向中央部の平均厚みが40μm未満であり、かつ幅方向両端部に厚みが50μm以上の肉厚領域を有する原反フィルムを得た実施例1〜4では、溶融フィルムと冷却ロールの密着性に優れ、そして原反フィルム搬送時の蛇行が抑制されると共に、得られる原反フィルムは厚み精度に優れることがわかる。
一方、溶融フィルムを静電密着法により冷却ロールと密着させて、幅方向中央部の平均厚みが40μm未満であり、かつ幅方向両端部に厚みが50μm以上の肉厚領域を有さない原反フィルムを得た比較例1および2では、溶融フィルムと冷却ロールの密着性を確保できず、原反フィルム搬送時に大きな蛇行が確認され、また得られる原反フィルムは厚み精度に劣ることがわかる。