特許第6834756号(P6834756)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6834756
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】ビスフェノール化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 37/84 20060101AFI20210215BHJP
   C07C 39/16 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
   C07C37/84
   C07C39/16
【請求項の数】4
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2017-89506(P2017-89506)
(22)【出願日】2017年4月28日
(65)【公開番号】特開2017-200913(P2017-200913A)
(43)【公開日】2017年11月9日
【審査請求日】2019年11月13日
(31)【優先権主張番号】特願2016-91048(P2016-91048)
(32)【優先日】2016年4月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】中村 健史
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見 芳恵
(72)【発明者】
【氏名】前田 智子
(72)【発明者】
【氏名】住谷 直子
【審査官】 神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−131623(JP,A)
【文献】 特開平06−128371(JP,A)
【文献】 特開平05−194295(JP,A)
【文献】 特開昭62−178534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族アルコール溶媒を少なくとも一種含む溶媒の溶液から、下記式(1)で表されるビスフェノール化合物を析出させる工程を含むビスフェノール化合物の製造方法であって、
前記脂肪族アルコール溶媒が炭素数3〜5の分岐状アルコール溶媒であることを特徴とするビスフェノール化合物の製造方法。
【化1】
[式(1)中、Rは、炭素数7〜19のアルキル基を表し、Rは、水素原子もしくは炭素数1〜19のアルキル基を表し、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表す。]
【請求項2】
前記脂肪族アルコール溶媒を少なくとも一種含む溶媒が、前記脂肪族アルコール溶媒と炭化水素溶媒とをそれぞれ少なくとも一種ずつ含む溶媒であることを特徴とする、請求項1に記載のビスフェノール化合物の製造方法。
【請求項3】
前記式(1)におけるRが水素原子であることを特徴とする、請求項1または2に記載のビスフェノール化合物の製造方法。
【請求項4】
前記式(1)におけるR〜Rが水素原子であることを特徴とする、請求項に記載のビスフェノール化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビスフェノール化合物の製造方法に関する。詳しくは、精製効率に優れたビスフェノール化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノール化合物は、ポリカーボネート樹脂などの熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂などの原料として広く用いられている有用な化合物である。特に柔軟な長鎖アルキル基を有するビスフェノール化合物は、低融点かつ流動性に優れることが期待され、また、樹脂としたときに柔軟なアルキル基に由来する弾性の発現が期待されるなど、有用な物性を与えることが予想されることから、特に重要な化合物である。そしてこのようなビスフェノール化合物を原料に用いた樹脂は、自動車、電気電子、住宅・建材をはじめとする様々な分野に応用することができ、特に近年、電気電子機器部品の分野において要求される機器の小型化、高性能化の要求に対し、柔軟性、耐熱性、吸水特性に優れる樹脂を提供し得ることから、非常に期待されている。
【0003】
ところで、このようなビスフェノール化合物の製造は通常、ビスフェノール化合物を含む混合物を溶媒に溶解させた後にビスフェノール化合物を析出させ、副生物を分離する晶析工程を経ることを特徴とする。例えば、長鎖アルキル基を有するビスフェノール化合物の製造方法として、特許文献1には、含塩素溶媒である塩化メチレンからの晶析により、長鎖アルキル基を有するビスフェノール化合物である1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカンや1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタデカンを製造する方法が開示されている。また、特許文献2には、芳香族炭化水素溶媒であるトルエンからの晶析により長鎖アルキル基を有するビスフェノール化合物である1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサンを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−131623号公報
【特許文献2】中国特許出願公開第1557797号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が鋭意検討した結果、特許文献1や2の方法では副生物が残留する傾向があり、ビスフェノール化合物の精製効果は必ずしも高くなく、高純度なビスフェノール化合物を得るためには複数回の精製を必要とする傾向が見出された。さらに、特許文献1や2の方法では、ビスフェノール化合物の精製過程における溶媒へのビスフェノール化合物の溶解によるロスが多く、単離収率が低下する傾向があることが明らかとなった。このことから、従来法では、簡便かつ高収率でビスフェノール化合物を精製することができないという課題が見出された。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、精製効率に優れたビスフェノール化合物の製造方法、即ち、高純度のビスフェノール化合物を、取り扱い性に優れた結晶形で簡便にかつ高収率に得ることができるビスフェノール化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、特定のビスフェノール化合物を特定の溶媒を含む溶媒から析出させる工程を経ることで、高純度なビスフェノール化合物を容易に製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の要旨は、以下の[1]〜[6]に存する。
【0008】
[1] 脂肪族アルコール溶媒を少なくとも一種含む溶媒の溶液から、下記式(1)で表されるビスフェノール化合物を析出させる工程を含むことを特徴とするビスフェノール化合物の製造方法。
【0009】
【化1】
【0010】
[式(1)中、Rは、炭素数7〜19のアルキル基を表し、Rは、水素原子もしくは炭素数1〜19のアルキル基を表し、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表す。]
【0011】
[2] 前記脂肪族アルコール溶媒が炭素数3〜10の分岐状アルコール溶媒であることを特徴とする、[1]に記載のビスフェノール化合物の製造方法。
【0012】
[3] 前記脂肪族アルコール溶媒を少なくとも一種含む溶媒が、前記脂肪族アルコール溶媒と炭化水素溶媒とをそれぞれ少なくとも一種ずつ含む溶媒であることを特徴とする、[1]または[2]に記載のビスフェノール化合物の製造方法。
【0013】
[4] 前記式(1)におけるRが水素原子であることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載のビスフェノール化合物の製造方法。
【0014】
[5] 前記式(1)におけるR〜Rが水素原子であることを特徴とする、[4]に記載のビスフェノール化合物の製造方法。
【0015】
[6] CuKα線による粉末X線回折法における回折角2θ=4.25±0.15°および2θ=8.45±0.20°の範囲内にそれぞれ少なくとも一つのX線回折ピークを有することを特徴とする、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカンの結晶体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、精製効率に優れたビスフェノール化合物の製造方法が提供される。即ち、本発明によれば、高純度のビスフェノール化合物を、取り扱い性に優れた結晶形で簡便にかつ高収率に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1で得られた化合物(P−1)のXRD結晶回折パターンである。
図2】実施例2で得られた化合物(P−1)のXRD結晶回折パターンである。
図3】実施例3で得られた化合物(P−1)のXRD結晶回折パターンである。
図4】実施例4で得られた化合物(P−1)のXRD結晶回折パターンである。
図5】比較例1で得られた化合物(P−1)のXRD結晶回折パターンである。
図6】比較例2で得られた化合物(P−1)のXRD結晶回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」という表現を用いる場合、その前後の数値または物性値を含む表現として用いるものとする。
【0019】
[メカニズム]
本発明のビスフェノール化合物の製造方法は、以下に説明する特定のビスフェノール化合物を、脂肪族アルコール溶媒を少なくとも一種含む溶媒の溶液から析出させる工程を含む。
このように、脂肪族アルコール溶媒を少なくとも一種含む溶媒の溶液から目的のビスフェノール化合物を析出させる本発明のビスフェノール化合物の製造方法が、当該ビスフェノール化合物の精製効率に優れるメカニズムについては、以下の通り考えられる。
【0020】
以下に示す式(1)で表されるビスフェノール化合物は、極性のフェノール構造と、非極性の長鎖アルキル部位を有している。そのため、フェノール構造と脂肪族アルコール溶媒とが相互作用しやすく、さらに相互作用した部分と非極性の長鎖アルキル部位が反発してそれぞれで集合し粉体として析出することで、他の溶媒で析出させた場合とは異なる特異な結晶体を作りやすいと考えられる。そのため、他の副生物に対し当該ビスフェノール化合物のみ特異的に脂肪族アルコール溶媒への溶解性を低下させることができることから、精製効率が向上したと考えられる。
【0021】
[フェノール化合物]
<構造>
本発明のビスフェノール化合物の製造方法で製造されるビスフェノール化合物(以下、本発明のフェノール化合物と呼称)は、下記式(1)で表されることを特徴とする。
【0022】
【化2】
【0023】
[式(1)中、Rは、炭素数7〜19のアルキル基を表し、Rは、水素原子もしくは炭素数1〜19のアルキル基を表し、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子もしくはメチル基を表す。]
【0024】
上記式中、Rは炭素数7〜19のアルキル基を表す。Rの炭素数が前記下限値以上であることで、本発明のフェノール化合物を樹脂原料として用いた場合、得られた樹脂が柔軟性や低吸水性などの優れた特性を発現しやすい点で好ましく、前記上限値以下であることで、本発明のフェノール化合物を樹脂原料として用いた場合、得られた樹脂が機械強度や耐熱性などの面で優れた特性を発現しやすい点で好ましい。また、Rの炭素数が前記下限値および上限値の範囲内であることで、本発明のフェノール化合物が低融点性を発現しやすくなり特定の顕色剤としても好適に用いることができるようになる。
【0025】
の炭素数7〜19のアルキル基としては、好ましくは直鎖状又は分岐状のアルキル基、一部環状構造を有するアルキル基などが挙げられるが、なかでも原料が入手しやすく本発明のフェノール化合物が入手容易となる点、および本発明のフェノール化合物を樹脂原料として用いた場合、得られた樹脂が柔軟性などの優れた特性をより発現しやすい点で、直鎖状又は分岐状アルキル基であることが好ましく、直鎖状アルキル基であることがさらに好ましい。
【0026】
の直鎖状アルキル基の具体例としては、n−へプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基などが挙げられるが、n−へプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基などの炭素数7〜18の直鎖状アルキル基が好ましく、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基の炭素数8〜11の直鎖状アルキル基がより好ましく、n−ウンデシル基が特に好ましい。
【0027】
の分岐状アルキル基の具体例としては、メチルヘキシル基、メチルへプチル基、メチルオクチル基、メチルノニル基、メチルデシル基、メチルウンデシル基、メチルドデシル基、メチルトリデシル基、メチルテトラデシル基、メチルペンタデシル基、メチルヘキサデシル基、メチルヘプタデシル基、メチルオクタデシル基;
ジメチルペンチル基、ジメチルヘキシル基、ジメチルへプチル基、ジメチルオクチル基、ジメチルノニル基、ジメチルデシル基、ジメチルウンデシル基、ジメチルドデシル基、ジメチルトリデシル基、ジメチルテトラデシル基、ジメチルペンタデシル基、ジメチルヘキサデシル基、ジメチルヘプタデシル基;
トリメチルヘキシル基、トリメチルへプチル基、トリメチルオクチル基、トリメチルノニル基、トリメチルデシル基、トリメチルウンデシル基、トリメチルドデシル基、トリメチルトリデシル基、トリメチルテトラデシル基、トリメチルペンタデシル基、トリメチルヘキサデシル基;
エチルペンチル基、エチルヘキシル基、エチルへプチル基、エチルオクチル基、エチルノニル基、エチルデシル基、エチルウンデシル基、エチルドデシル基、エチルトリデシル基、エチルテトラデシル基、エチルペンタデシル基、エチルヘキサデシル基、エチルヘプタデシル基;
プロピルヘキシル基、プロピルへプチル基、プロピルオクチル基、プロピルノニル基、プロピルデシル基、プロピルウンデシル基、プロピルドデシル基、プロピルトリデシル基、プロピルテトラデシル基、プロピルペンタデシル基、プロピルヘキサデシル基、;
ブチルヘキシル基、ブチルへプチル基、ブチルオクチル基、ブチルノニル基、ブチルデシル基、ブチルウンデシル基、ブチルドデシル基、ブチルトリデシル基、ブチルテトラデシル基、ブチルペンタデシル基;
などが挙げられる。
【0028】
これらのうち、エチルペンチル基、エチルヘキシル基、エチルへプチル基、エチルオクチル基、エチルウンデシル基、エチルペンタデシル基等の炭素数7〜18の分岐アルキル基が好ましく、エチルペンチル基、エチルヘキシル基がより好ましく、エチルペンチル基が特に好ましい。
【0029】
なお、上記分岐アルキル基の例において、分岐の位置は任意である。
【0030】
の一部環状構造を有するアルキル基の具体例としては、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロウンデシル基、シクロドデシル基;
シクロヘキシルメチル基、シクロヘプチルメチル基、シクロオクチルメチル基、シクロノニルメチル基、シクロデシルメチル基、シクロウンデシルメチル基、シクロドデシルメチル基;
シクロヘキシルエチル基、シクロヘプチルエチル基、シクロオクチルエチル基、シクロノニルエチル基、シクロデシルエチル基、シクロウンデシルエチル基、シクロドデシルエチル基;
シクロヘキシルプロピル基、シクロヘプチルプロピル基、シクロオクチルプロピル基、シクロノニルプロピル基、シクロデシルプロピル基、シクロウンデシルプロピル基、シクロドデシルプロピル基;
メチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、メチルシクロオクチル基、メチルシクロノニル基、メチルシクロデシル基、メチルシクロウンデシル基、メチルシクロドデシル基;
ジメチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロオクチル基、ジメチルシクロノニル基、ジメチルシクロデシル基、ジメチルシクロウンデシル基、ジメチルシクロドデシル基;
エチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘプチル基、エチルシクロオクチル基、エチルシクロノニル基、エチルシクロデシル基、エチルシクロウンデシル基、エチルシクロドデシル基;
プロピルシクロヘキシル基、プロピルシクロヘプチル基、プロピルシクロオクチル基、プロピルシクロノニル基、プロピルシクロデシル基、プロピルシクロウンデシル基、プロピルシクロドデシル基;
ヘキシルシクロヘキシル基、ヘキシルシクロヘプチル基、ヘキシルシクロオクチル基、ヘキシルシクロノニル基、ヘキシルシクロデシル基、ヘキシルシクロウンデシル基、ヘキシルシクロドデシル基;
メチルシクロヘキシルメチル基、メチルシクロヘプチルメチル基、メチルシクロオクチルメチル基、メチルシクロノニルメチル基、メチルシクロデシルメチル基、メチルシクロウンデシルメチル基、メチルシクロドデシルメチル基;
メチルシクロヘキシルエチル基、メチルシクロヘプチルエチル基、メチルシクロオクチルエチル基、メチルシクロノニルエチル基、メチルシクロデシルエチル基、メチルシクロウンデシルエチル基、メチルシクロドデシルエチル基;
メチルシクロヘキシルプロピル基、メチルシクロヘプチルプロピル基、メチルシクロオクチルプロピル基、メチルシクロノニルプロピル基、メチルシクロデシルプロピル基、メチルシクロウンデシルプロピル基、メチルシクロドデシルプロピル基;
ジメチルシクロヘキシルメチル基、ジメチルシクロヘプチルメチル基、ジメチルシクロオクチルメチル基、ジメチルシクロノニルメチル基、ジメチルシクロデシルメチル基、ジメチルシクロウンデシルメチル基、ジメチルシクロドデシルメチル基;
ジメチルシクロヘキシルエチル基、ジメチルシクロヘプチルエチル基、ジメチルシクロオクチルエチル基、ジメチルシクロノニルエチル基、ジメチルシクロデシルエチル基、ジメチルシクロウンデシルエチル基、ジメチルシクロドデシルエチル基;
ジメチルシクロヘキシルプロピル基、ジメチルシクロヘプチルプロピル基、ジメチルシクロオクチルプロピル基、ジメチルシクロノニルプロピル基、ジメチルシクロデシルプロピル基、ジメチルシクロウンデシルプロピル基、ジメチルシクロドデシルプロピル基、シクロヘキシルシクロヘキシル基;
などが挙げられる。
【0031】
これらのうち、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘプチルメチル基、シクロオクチルメチル基、シクロノニルメチル基、シクロヘキシルエチル基、シクロヘプチルエチル基、シクロオクチルエチル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘプチルメチル基、シクロオクチルメチル基等の炭素数7〜10の一部環状構造を有するアルキル基が好ましく、シクロヘプチル基、シクロオクチル基がより好ましい。
【0032】
なお、上記一部環状構造を有するアルキル基において、置換基の置換位置は任意である。
【0033】
前記式中、Rは水素原子もしくは炭素数1〜19のアルキル基を表す。Rがアルキル基の場合、その炭素数が前記上限値以下であることで、本発明のフェノール化合物を樹脂原料として用いた場合、得られた樹脂が機械強度や耐熱性などの面で優れた特性を発現しやすい点で好ましい。さらに、炭素数が前記上限値以下であることで、低融点性を発現しやすくなり特定の顕色剤としても好適に用いることができるようになる。Rは、原料が入手容易であり本発明のフェノール化合物を入手しやすい点、および本発明のフェノール化合物を樹脂原料として用いた場合、得られた樹脂が機械強度や耐熱性などの面で優れた特性を発現しやすい点で、水素原子もしくは炭素数12以下のアルキル基であることが好ましく、水素原子もしくは炭素数6以下のアルキル基であることが特に好ましく、水素原子もしくはメチル基であることがさらに好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0034】
の炭素数1〜19のアルキル基としては、好ましくは直鎖状又は分岐状のアルキル基、一部環状構造を有するアルキル基などが挙げられるが、なかでも原料が入手しやすく本発明のフェノール化合物が入手容易となる点、および本発明のフェノール化合物を樹脂原料として用いた場合、得られた樹脂が柔軟性などの優れた特性をより発現しやすい点で、直鎖状又は分岐状アルキル基であることが好ましく、直鎖状アルキル基がさらに好ましい。
【0035】
の直鎖状アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−へプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基などが挙げられるが、メチル基、エチル基、ブチル基、ウンデシル基などの炭素数1〜12の直鎖状アルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0036】
の分岐状アルキル基の具体例としては、イソプロピル基、メチルプロピル基、メチルブチル基、メチルペンチル基、メチルヘキシル基、メチルへプチル基、メチルオクチル基、メチルノニル基、メチルデシル基、メチルウンデシル基、メチルドデシル基、メチルトリデシル基、メチルテトラデシル基、メチルペンタデシル基、メチルヘキサデシル基、メチルヘプタデシル基、メチルオクタデシル基;
t−ブチル基、ジメチルエチル基、メチルプロピル基、ジメチルブチル基、ジメチルペンチル基、ジメチルヘキシル基、ジメチルへプチル基、ジメチルオクチル基、ジメチルノニル基、ジメチルデシル基、ジメチルウンデシル基、ジメチルドデシル基、ジメチルトリデシル基、ジメチルテトラデシル基、ジメチルペンタデシル基、ジメチルヘキサデシル基、ジメチルヘプタデシル基;
トリメチルプロピル基、トリメチルブチル基、トリメチルペンチル基、トリメチルヘキシル基、トリメチルへプチル基、トリメチルオクチル基、トリメチルノニル基、トリメチルデシル基、トリメチルウンデシル基、トリメチルドデシル基、トリメチルトリデシル基、トリメチルテトラデシル基、トリメチルペンタデシル基、トリメチルヘキサデシル基;
エチルプロピル基、エチルブチル基、エチルペンチル基、エチルヘキシル基、エチルへプチル基、エチルオクチル基、エチルノニル基、エチルデシル基、エチルウンデシル基、エチルドデシル基、エチルトリデシル基、エチルテトラデシル基、エチルペンタデシル基、エチルヘキサデシル基、エチルヘプタデシル基;
プロピルブチル基、プロピルペンチル基、プロピルヘキシル基、プロピルへプチル基、プロピルオクチル基、プロピルノニル基、プロピルデシル基、プロピルウンデシル基、プロピルドデシル基、プロピルトリデシル基、プロピルテトラデシル基、プロピルペンタデシル基、プロピルヘキサデシル基、;
ブチルペンチル基、ブチルヘキシル基、ブチルへプチル基、ブチルオクチル基、ブチルノニル基、ブチルデシル基、ブチルウンデシル基、ブチルドデシル基、ブチルトリデシル基、ブチルテトラデシル基、ブチルペンタデシル基;
などが挙げられる。
【0037】
これらのうち、エチルペンチル基、エチルヘキシル基、エチルへプチル基、エチルオクチル基、エチルウンデシル基、エチルペンタデシル基等の炭素数7〜18の分岐アルキル基が好ましく、エチルペンチル基、エチルヘキシル基がより好ましく、エチルペンチル基が特に好ましい。なお、上記分岐アルキル基の例において、分岐の位置は任意である。
【0038】
の一部環状構造を有するアルキル基の具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロウンデシル基、シクロドデシル基;
シクロプロピルメチル基、シクロブチルメチル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘプチルメチル基、シクロオクチルメチル基、シクロノニルメチル基、シクロデシルメチル基、シクロウンデシルメチル基、シクロドデシルメチル基;
シクロプロピルエチル基、シクロブチルエチル基、シクロペンチルエチル基、シクロヘキシルエチル基、シクロヘプチルエチル基、シクロオクチルエチル基、シクロノニルエチル基、シクロデシルエチル基、シクロウンデシルエチル基、シクロドデシルエチル基;
シクロプロピルプロピル基、シクロブチルプロピル基、シクロペンチルプロピル基、シクロヘキシルプロピル基、シクロヘプチルプロピル基、シクロオクチルプロピル基、シクロノニルプロピル基、シクロデシルプロピル基、シクロウンデシルプロピル基、シクロドデシルプロピル基;
メチルシクロプロピル基、メチルシクロブチル基、メチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、メチルシクロオクチル基、メチルシクロノニル基、メチルシクロデシル基、メチルシクロウンデシル基、メチルシクロドデシル基;
ジメチルシクロプロピル基、ジメチルシクロブチル基、ジメチルシクロペンチル基、ジメチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロオクチル基、ジメチルシクロノニル基、ジメチルシクロデシル基、ジメチルシクロウンデシル基、ジメチルシクロドデシル基;
エチルシクロプロピル基、エチルシクロブチル基、エチルシクロペンチル基、エチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘプチル基、エチルシクロオクチル基、エチルシクロノニル基、エチルシクロデシル基、エチルシクロウンデシル基、エチルシクロドデシル基;
プロピルシクロプロピル基、プロピルシクロブチル基、プロピルシクロペンチル基、プロピルシクロプロピル基、プロピルシクロブチル基、プロピルシクロペンチル基、プロピルシクロヘキシル基、プロピルシクロヘプチル基、プロピルシクロオクチル基、プロピルシクロノニル基、プロピルシクロデシル基、プロピルシクロウンデシル基、プロピルシクロドデシル基;
ヘキシルシクロヘキシル基、ヘキシルシクロヘプチル基、ヘキシルシクロオクチル基、ヘキシルシクロノニル基、ヘキシルシクロデシル基、ヘキシルシクロウンデシル基、ヘキシルシクロドデシル基;
メチルシクロヘキシルメチル基、メチルシクロヘプチルメチル基、メチルシクロオクチルメチル基、メチルシクロノニルメチル基、メチルシクロデシルメチル基、メチルシクロウンデシルメチル基、メチルシクロドデシルメチル基;
メチルシクロヘキシルエチル基、メチルシクロヘプチルエチル基、メチルシクロオクチルエチル基、メチルシクロノニルエチル基、メチルシクロデシルエチル基、メチルシクロウンデシルエチル基、メチルシクロドデシルエチル基;
メチルシクロヘキシルプロピル基、メチルシクロヘプチルプロピル基、メチルシクロオクチルプロピル基、メチルシクロノニルプロピル基、メチルシクロデシルプロピル基、メチルシクロウンデシルプロピル基、メチルシクロドデシルプロピル基;
ジメチルシクロヘキシルメチル基、ジメチルシクロヘプチルメチル基、ジメチルシクロオクチルメチル基、ジメチルシクロノニルメチル基、ジメチルシクロデシルメチル基、ジメチルシクロウンデシルメチル基、ジメチルシクロドデシルメチル基;
ジメチルシクロヘキシルエチル基、ジメチルシクロヘプチルエチル基、ジメチルシクロオクチルエチル基、ジメチルシクロノニルエチル基、ジメチルシクロデシルエチル基、ジメチルシクロウンデシルエチル基、ジメチルシクロドデシルエチル基;
ジメチルシクロヘキシルプロピル基、ジメチルシクロヘプチルプロピル基、ジメチルシクロオクチルプロピル基、ジメチルシクロノニルプロピル基、ジメチルシクロデシルプロピル基、ジメチルシクロウンデシルプロピル基、ジメチルシクロドデシルプロピル基、シクロヘキシルシクロヘキシル基;
などが挙げられる。
【0039】
これらのうち、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘプチルメチル基、シクロオクチルメチル基、シクロノニルメチル基、シクロヘキシルエチル基、シクロヘプチルエチル基、シクロオクチルエチル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘプチルメチル基、シクロオクチルメチル基等の炭素数6〜10の一部環状構造を有するアルキル基が好ましく、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基がより好ましい。
【0040】
なお、上記一部環状構造を有するアルキル基において、置換基の置換位置は任意である。
【0041】
前記式中、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表す。R〜Rがこれらの置換基であることで、本発明のフェノール化合物を樹脂原料とした場合に、得られた樹脂が機械強度や耐熱性などの優れた特性を発現しやすい点で好ましい。これらのうち、RとR、およびRとRがそれぞれ同一であることが、原料が入手しやすく本発明のフェノール化合物が入手容易となる点、および本発明のフェノール化合物を精製する際に精製効率をより高められる点で好ましく、RとRが水素原子であることがより好ましく、R〜Rは全て水素原子であることが特に好ましい。
【0042】
<融点>
本発明のフェノール化合物は通常室温で固体となる。その融点は特に規定されないが、通常30℃以上、好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上、特に好ましくは60℃以上である。一方、通常180℃以下、好ましくは170℃以下、さらに好ましくは160℃以下、特に好ましくは150℃以下である。融点が前記下限値以上であることで、本発明のフェノール化合物を室温で粉体としての取り扱うことが容易となり、好ましい。一方融点が前記上限値以下であることで、本発明のフェノール化合物を樹脂原料として取り扱う場合に、溶融処理が容易となるなど取り扱いが容易となる傾向にあり、好ましい。ここで、融点とは融点測定器を用い、2℃/分の割合で昇温する測定において、本発明のフェノール化合物の融解開始が観測される温度を表す。
【0043】
<含水率>
本発明のフェノール化合物は水を含んでいても良い。その含水率は、通常0.001質量%以上であり、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることが特に好ましい。一方、通常10質量%以下であり、5質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることが特に好ましい。含水率が前記下限値以上であることで、本発明のフェノール化合物をポリカーボネート樹脂やエポキシ樹脂などの樹脂原料として用いる場合に、静電気発生を抑止するなど取り扱い面で安全に扱える傾向にあり、好ましい。一方、含水率が前記上限値以下であることで、本発明のフェノール化合物をポリカーボネート樹脂やエポキシ樹脂などの樹脂原料として用いる場合に、水蒸気発生に由来する樹脂原料の発泡や突沸などを抑止するなど取り扱い面で安全に扱える傾向にあり、好ましい。
【0044】
<含溶媒率>
本発明のフェノール化合物は有機溶媒を含んでいても良い。その含溶媒率は、通常25質量%以下であり、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることが特に好ましく、とりわけ1質量%以下であることが好ましい。含溶媒率が前記上限値以下であることで、本発明のフェノール化合物をポリカーボネート樹脂やエポキシ樹脂などの樹脂原料として用いる場合に、有機溶媒の揮発による中毒や発火リスクを抑止するなど取り扱い面で安全に扱える傾向にあり、好ましい。なお、含溶媒率の下限は特に規定されないが、本発明のフェノール化合物が入手容易となる点においては、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.0005質量%以上であることがより好ましい。
【0045】
<例示>
以下に、式(1)で表されるビスフェノール化合物の構造を、式(1)における各置換基R〜Rの組み合わせを示すことにより例示する。なお、本発明のフェノール化合物は、以下の例示物に何ら制限されるものではない。
【0046】
【表1】
【0047】
なかでも、本発明のフェノール化合物としては、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカン(化合物(P−1))
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ウンデカン(化合物(P−2))
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン(化合物(P−3))
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノナン(化合物(P−4))
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)テトラデカン(化合物(P−5))
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタデカン(化合物(P−6))
1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ドデカン(化合物(P−7))
1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ウンデカン(化合物(P−9))
1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)デカン(化合物(P−11))
1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ノナン(化合物(P−13))
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−エチルヘキサン(化合物(P−15))
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノナン(化合物(P−19))
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ウンデカン(化合物(P−23))
12,12−ビス(4−ヒドロキシフェニル)トリコサン(化合物(P−29))
が好ましく、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカン
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ウンデカン
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノナン
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタデカン
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−エチルヘキサン
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ウンデカン
12,12−ビス(4−ヒドロキシフェニル)トリコサン
がより好ましく、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカン
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ウンデカン
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノナン
が特に好ましい。このようなビスフェノール化合物は、樹脂原料や顕色剤の原料として特に好適に用いることができる。
【0048】
[フェノール化合物の製造]
本発明のフェノール化合物は、公知の方法、例えば対応するアルデヒド、ケトン、アセタール、チオアセタール、トリオキサンなどのアルデヒド類もしくはケトン類をモノフェノール類と酸触媒下で縮合するなどして容易に製造することができる。一例として、例えば下記式(2)で表されるアルデヒドまたはケトン化合物と、下記式(3)で表されるモノフェノール化合物とを反応させる方法が挙げられる。
【0049】
【化3】
【0050】
[式(2)中、RおよびRは前記式(1)におけるRおよびRと同義である。]
【0051】
【化4】
【0052】
[式(3)中、RおよびRは前記式(1)におけるR及びRと同義である。]
【0053】
<アルデヒドまたはケトン類>
本発明のフェノール化合物の製造に用いるアルデヒド類、ケトン類は、アルデヒド化合物もしくはケトン化合物、及びそれに対応するアセタール化合物、チオアセタール化合物、トリオキサン化合物などからなる群より選ばれる少なくとも1種を表すが、なかでも、副生物の生成量が少なく、さらには主の副生物が水であることより精製工程が簡略化でき廃棄物も少ないという点より、アルデヒド化合物もしくはケトン化合物であることが好ましく、本発明のフェノール化合物を樹脂原料として用いた場合に、得られた樹脂の機械強度などの特性を発現しやすい点でアルデヒド化合物であることが特に好ましい。
【0054】
上記アルデヒド化合物とは、前記式(2)においてRが水素原子である化合物を指す。その具体例としては、直鎖状アルキルアルデヒド、分岐状アルキルアルデヒド、一部環状構造を有するアルキルアルデヒド等が挙げられる。これらのうち、本発明のフェノール化合物を樹脂原料として用いた場合に、得られた樹脂の機械強度などの特性を発現しやすい点で直鎖状アルキルアルデヒドもしくは分岐状アルキルアルデヒドであることが好ましく、直鎖状アルキルアルデヒドであることが特に好ましい。
【0055】
直鎖状アルキルアルデヒドの具体例としては、n−オクタナール、n−ノナナール、n−デカナール、n−ウンデカナール、n−ドデカナール、n−トリデカナール、n−テトラデカナール、n−ペンタデカナール、n−ヘキサデカナール、n−ヘプタデカナール、n−オクタデカナール、n−ノナデカナール、n−ノナデシルアルデヒド、n−イコシルアルデヒドなどが挙げられるが、n−オクタナール、n−ノナナール、n−デカナール、n−ウンデカナール、n−ドデカナール、n−トリデカナール、n−ヘプタデカナール、n−オクタデカナール、n−ノナデカナールなどの炭素数8〜19の直鎖状アルキルアルデヒドが好ましく、n−ノナナール、n−デカナール、n−ウンデカナール、n−ドデカナールがより好ましく、n−ドデカナールが特に好ましい。
【0056】
分岐状アルキルアルデヒドの具体例としては、メチルヘキシルアルデヒド、メチルへプチルアルデヒド、メチルオクチルアルデヒド、メチルノニルアルデヒド、メチルデシルアルデヒド、メチルウンデシルアルデヒド、メチルドデシルアルデヒド、メチルトリデシルアルデヒド、メチルテトラデシルアルデヒド、メチルペンタデシルアルデヒド、メチルヘキサデシルアルデヒド、メチルヘプタデシルアルデヒド、メチルオクタデシルアルデヒド、メチルノナデシルアルデヒド;
ジメチルペンチルアルデヒド、ジメチルヘキシルアルデヒド、ジメチルへプチルアルデヒド、ジメチルオクチルアルデヒド、ジメチルノニルアルデヒド、ジメチルデシルアルデヒド、ジメチルウンデシルアルデヒド、ジメチルドデシルアルデヒド、ジメチルトリデシルアルデヒド、ジメチルテトラデシルアルデヒド、ジメチルペンタデシルアルデヒド、ジメチルヘキサデシルアルデヒド、ジメチルヘプタデシルアルデヒド、ジメチルオクタデシルアルデヒド;
トリメチルヘキシルアルデヒド、トリメチルへプチルアルデヒド、トリメチルオクチルアルデヒド、トリメチルノニルアルデヒド、トリメチルデシルアルデヒド、トリメチルウンデシルアルデヒド、トリメチルドデシルアルデヒド、トリメチルトリデシルアルデヒド、トリメチルテトラデシルアルデヒド、トリメチルペンタデシルアルデヒド、トリメチルヘキサデシルアルデヒド、トリメチルヘプタデシルアルデヒド;
エチルペンチルアルデヒド、エチルヘキシルアルデヒド、エチルへプチルアルデヒド、エチルオクチルアルデヒド、エチルノニルアルデヒド、エチルデシルアルデヒド、エチルウンデシルアルデヒド、エチルドデシルアルデヒド、エチルトリデシルアルデヒド、エチルテトラデシルアルデヒド、エチルペンタデシルアルデヒド、エチルヘキサデシルアルデヒド、エチルヘプタデシルアルデヒド、エチルオクタデシルアルデヒド;
プロピルヘキシルアルデヒド、プロピルへプチルアルデヒド、プロピルオクチルアルデヒド、プロピルノニルアルデヒド、プロピルデシルアルデヒド、プロピルウンデシルアルデヒド、プロピルドデシルアルデヒド、プロピルトリデシルアルデヒド、プロピルテトラデシルアルデヒド、プロピルペンタデシルアルデヒド、プロピルヘキサデシルアルデヒド、プロピルヘプタデシルアルデヒド;
ブチルヘキシルアルデヒド、ブチルへプチルアルデヒド、ブチルオクチルアルデヒド、ブチルノニルアルデヒド、ブチルデシルアルデヒド、ブチルウンデシルアルデヒド、ブチルドデシルアルデヒド、ブチルトリデシルアルデヒド、ブチルテトラデシルアルデヒド、ブチルペンタデシルアルデヒド、ブチルヘキサデシルアルデヒド;
等が挙げられる。
【0057】
これらのうち、エチルヘキシルアルデヒド、エチルへプチルアルデヒド、エチルオクチルアルデヒド、エチルウンデシルアルデヒド、エチルペンタデシルアルデヒド等の炭素数8〜19の分岐状アルキルアルデヒドが好ましく、エチルペンチルアルデヒド、エチルヘキシルアルデヒドがより好ましく、エチルヘキシルアルデヒドが特に好ましい。
【0058】
なお、上記分岐状アルキルアルデヒドの例において、分岐の位置は任意である。
【0059】
一部環状構造を有するアルキルアルデヒドの具体例としては、ホルミルシクロヘプタン、ホルミルシクロオクタン、ホルミルシクロノナン、ホルミルシクロデカン、ホルミルシクロウンデカン、ホルミルシクロドデカン;
ホルミルメチルシクロヘキサン、ホルミルメチルシクロヘプタン、ホルミルメチルシクロオクタン、ホルミルメチルシクロノナン、ホルミルメチルシクロデカン、ホルミルメチルシクロウンデカン、ホルミルメチルシクロドデカン;
ホルミルジメチルシクロヘキサン、ホルミルジメチルシクロヘプタン、ホルミルジメチルシクロオクタン、ホルミルジメチルシクロノナン、ホルミルジメチルシクロデカン、ホルミルジメチルシクロウンデカン、ホルミルジメチルシクロドデカン;
ホルミルエチルシクロヘキサン、ホルミルエチルシクロヘプタン、ホルミルエチルシクロオクタン、ホルミルエチルシクロノナン、ホルミルエチルシクロデカン、ホルミルエチルシクロウンデカン、ホルミルエチルシクロドデカン;
ホルミルジエチルシクロヘキサン、ホルミルジエチルシクロヘプタン、ホルミルジエチルシクロオクタン、ホルミルジエチルシクロノナン、ホルミルジエチルシクロデカン、ホルミルジエチルシクロウンデカン、ホルミルジエチルシクロドデカン;
ホルミルプロピルシクロヘキサン、ホルミルプロピルシクロヘプタン、ホルミルプロピルシクロオクタン、ホルミルプロピルシクロノナン、ホルミルプロピルシクロデカン、ホルミルプロピルシクロウンデカン、ホルミルプロピルシクロドデカン、ホルミルシクロヘキシルシクロヘキサン;
等が挙げられる。
【0060】
これらのうち、ホルミルシクロヘプタン、ホルミルシクロオクタン、ホルミルシクロノナン、ホルミルシクロデカン、ホルミルメチルシクロヘキサン、ホルミルメチルシクロヘプタン、ホルミルメチルシクロオクタン、ホルミルジメチルシクロヘキサン、ホルミルジメチルシクロヘプタン、ホルミルエチルシクロヘキサン、ホルミルエチルシクロヘプタン等の炭素数8〜11の一部環状構造を有するアルキルアルデヒドが好ましく、ホルミルシクロヘプタン、ホルミルシクロオクタンがより好ましい。
【0061】
なお、一部環状構造を有するアルキルアルデヒドの例において、ホルミル基の置換位置は任意である。
【0062】
上記ケトン化合物とは、前記式(2)においてRが炭素数1〜19のアルキル基である化合物を指す。その具体例としては、2−ノナノン、2−デカノン、3−デカノン、2−ウンデカノン、3−ウンデカノン、4−ウンデカノン、2−ドデカノン、5−ドデカノン、2−トリデカノン、2−メチル−4−ウンデカノン、2−テトラデカノン、3−テトラデカノン、2−ペンタデカノン、6−ペンタデカノン、3−ヘキサデカノン、9−ヘプタデカノン、10−ノナデカノン、11−ヘンエイコサノン、12−トリコサノン、14−ヘプタコサノン、16−ヘントリアコンタノン、18−ペンタトリアコンタノンなどが挙げられる。これらのうち、2−ノナノン、2−デカノン、2−ウンデカノン、2−ドデカノン、2−トリデカノン、2−テトラデカノン、2−ペンタデカノンなどのRがメチル基であるもの、もしくは、9−ヘプタデカノン、11−ヘンエイコサノン、10−ノナデカノン、12−トリコサノン、16−ヘントリアコンタノン、18−ペンタトリアコンタノンなどのRおよびRが同一であるものが好ましく、2−ノナノン、2−デカノン、2−ウンデカノン、2−ドデカノン、2−トリデカノン、12−トリコサノンがさらに好ましく、2−ウンデカノン、2−ドデカノン、2−トリデカノン、12−トリコサノンが特に好ましく、2−ウンデカノン、2−ドデカノン、2−トリデカノンがより好ましい。
【0063】
これらアルデヒド類もしくはケトン類は、単独で用いても良いし、二種以上を混合して用いても良い。なお、本発明のフェノール化合物の製造工程において、本発明のフェノール化合物の精製効率を向上させる観点からは、これらアルデヒド類もしくはケトン類を単独で用いることが好ましい。
【0064】
<モノフェノール類>
本発明のフェノール化合物の製造に用いる前記式(3)で表されるモノフェノール類の具体例としては、フェノール、o−クレゾール、2,6−ジメチルフェノールが挙げられる。これらのうち、本発明のフェノール化合物を樹脂原料として用いた場合に、得られた樹脂の機械強度など優れた特性を発現しやすい点で、フェノールもしくはo−クレゾールを用いることが好ましく、フェノールを用いることが特に好ましい。これらモノフェノール類は、単独で用いても良いし、二種以上を混合して用いても良い。なお、本発明のフェノール化合物の製造工程において、本発明のフェノール化合物の精製効率を向上させる観点からは、これらのフェノール類を単独で用いることが好ましい。
【0065】
<モノフェノール類/アルデヒド類もしくはケトン類の比>
本発明のフェノール化合物を製造する際のアルデヒド類もしくはケトン類とモノフェノール類の比は、本発明のフェノール化合物が生成する条件であれば特に規定されないが、アルデヒド類もしくはケトン類に対してモノフェノール類が、通常1モル倍以上であり、2モル倍以上であることが好ましく、3モル倍以上であることが特に好ましい。モノフェノール類の量が前記下限値以上であることで、本発明のフェノール化合物を効率良く製造できる傾向にあり、好ましい。一方、アルデヒド類もしくはケトン類に対するモノフェノール類の割合は、通常20モル倍以下、好ましくは15モル倍以下、特に好ましくは10モル倍以下である。モノフェノール類の量が前記上限値以下であることで、本発明のフェノール化合物の製造の際、未反応のモノフェノール類を分離する工程の負荷が低減する傾向にあり、好ましい。
【0066】
<酸触媒>
本発明のフェノール化合物を製造するのに用いられる酸触媒としては、リン酸、シュウ酸、塩酸、硫酸などの無機酸触媒;酢酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの有機酸触媒;固体酸、カチオン交換樹脂などの不均一系酸触媒などが挙げられる。これらの酸触媒の種類および量は、本発明のフェノール化合物を製造する際の取り扱いの容易さや、製造時の反応選択性、コストなど種々の点を勘案して選択される。なお、これら酸触媒は、単独で用いても良いし、二種以上を混合して用いても良い。
【0067】
<第三成分>
本発明のフェノール化合物を製造する際には、反応時間を短縮するなどの目的で反応系が第三成分を含んでいても良い。この第三成分としては、具体的には、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムハイドロサルフェート、テトラブチルアンモニウムクロリドなどの四級アンモニウム塩;メタンチオール、エタンチオール、ブタンチオール、オクタンチオール、ドデカンチオール、メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸、2−メルカプトエタノール、2−アミノエタンチオール、チオ乳酸エチル、チオ酪酸、ペンタエリスリトールテトラキス(メルカプト酢酸)、1,4−ブタンジオールビス(チオグリコール酸)、2−エチルヘキシル(チオグリコール酸)などの含硫黄化合物などが挙げられる。これらのうち、含硫黄化合物を第三成分として用いることが本発明のフェノール化合物の製造が容易となる点で好ましい。一方、これら第三成分を含まないことが、本発明のフェノール化合物と第三成分との分離が不要となり本発明のフェノール化合物の精製工程を簡略化できる点で好ましい。なお、これら第三成分は、樹脂などに担持させた状態で用いても良い。
【0068】
本発明のフェノール化合物を製造する際に用いる第三成分の量は、本発明のフェノール化合物を効率良く製造できれば特に規定されないが、反応に供するアルデヒド類もしくはケトン類に対して第三成分の量が、通常0.001モル倍以上であり、好ましくは0.005モル倍以上であり、特に好ましくは0.01モル倍以上である。第三成分の量が前記下限値以上であることで、本発明のフェノール化合物を効率良く製造できる傾向にあり、好ましい。また、反応に供するアルデヒド類もしくはケトン類に対して第三成分の量が、通常1モル倍以下であり、好ましくは0.5モル倍以下であり、特に好ましくは0.2モル倍以下である。第三成分の量が前記上限値以下であることで、本発明のフェノール化合物の製造の際、反応後に第三成分を分離する工程の負荷が低減する傾向にあり、好ましい。なお、これら第三成分は、単独で用いても良いし、二種以上を混合して用いても良い。
【0069】
<溶媒>
本発明のフェノール化合物を製造する際は、溶媒を用いても良い。溶媒の具体例としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、石油エーテルなどの炭素数5〜18の直鎖状炭化水素溶媒;イソオクタンなどの炭素数5〜18の分岐鎖状炭化水素溶媒;シクロヘキサン、シクロオクタン、メチルシクロヘキサンなどの炭素数5〜18の環状炭化水素溶媒;水;エタノール、n−ブタノールなどの直鎖状アルコール溶媒;イソプロパノール、2−ブタノール、イソブタノールなどの分岐鎖状アルコール溶媒;アセトニトリルなどのニトリル溶媒;ジブチルエーテルなどのエーテル溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫黄溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタンなどの含塩素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒などが挙げられる。なお、これらの溶媒を用いることが、反応時における原料の固化抑止や内部発熱による予期せぬ副反応を抑止するなど、反応の操作性を向上できる点で好ましく、溶媒と原料との予期せぬ副反応を防止し、本発明のフェノール化合物の製造時の副生物の除去が容易となる点で、水または炭化水素溶媒の少なくとも一種を含む溶媒を用いることが好ましい。一方、これら溶媒を用いないことが、本発明のフェノール化合物と溶媒との分離が不要となり本発明のフェノール化合物の精製工程を簡略化できる点で好ましい。
【0070】
本発明のフェノール化合物を製造する際に用いる溶媒の量は、本発明のフェノール化合物を効率良く製造できれば特に規定されないが、アルデヒド類もしくはケトン類に対して溶媒の量が、通常0.1質量倍以上であり、好ましくは0.2質量倍以上であり、特に好ましくは0.5質量倍以上である。溶媒の量が前記下限値以上であることで、本発明のフェノール化合物製造時に溶媒の効果をより効率的に発揮できる傾向にあり、好ましい。また、アルデヒド類もしくはケトン類に対して溶媒の量が、通常20質量倍以下であり、好ましくは10質量倍以下であり、特に好ましくは5質量倍以下である。溶媒の量が前記上限値以下であることで、本発明のフェノール化合物を効率良く製造できる傾向にあり、好ましい。
【0071】
<反応温度>
本発明のフェノール化合物を製造する際の反応温度は通常0℃以上であり、好ましくは15℃以上であり、特に好ましくは30℃以上である。反応温度が前記下限値以上であることで反応混合物の固化を防止しやすくなる傾向にあり、好ましい。一方、反応温度は通常150℃以下、好ましくは120℃以下、特に好ましくは90℃以下である。反応温度が前記上限値以下であることで本発明のフェノール化合物を効率的に製造できる傾向にあり、好ましい。
【0072】
<酸触媒の除去工程>
本発明のフェノール化合物を製造する工程は、反応後、用いた酸触媒を除去する工程を含んでいることが好ましい。酸触媒の除去工程の具体例としては、塩基による中和工程、溶媒に溶解させることによる除去工程、ろ過による除去工程等が挙げられる。これらのうち、酸触媒に無機酸触媒や有機酸触媒を用いる場合は塩基による中和工程を含むことが、不均一系酸触媒を用いる場合はろ過による除去工程を含むことが、それぞれ効率良く酸触媒を除去することができる傾向にあり、好ましい。なお、これら酸触媒除去工程は単独でも、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0073】
また、これら除去工程を実施する場合は、本発明のフェノール化合物を含む混合物を溶媒に溶解もしくは懸濁させた状態で実施することが好ましい。その具体例としては、本発明のフェノール化合物を製造する際に用いることができる溶媒が挙げられる。なお、これらの溶媒のうち、炭化水素溶媒のうち少なくとも一つから選ばれる溶媒を用いることが本発明のフェノール化合物の精製処理が容易となり、かつ製造時のコストを低減できる点で好ましく、芳香族炭化水素溶媒を含む溶媒を用いることが特に好ましい。なお、これら溶媒は、単独で用いても良いし、二種以上を混合して用いても良い。また、本発明のフェノール化合物の反応工程に溶媒を用いる場合、その溶媒をそのまま上記除去工程の溶媒として用いても良い。
【0074】
塩基による中和工程に用いられる塩基の具体例としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸一水素カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水素化ナトリウム、ナトリウムアミド等のアルカリ金属原子もしくはアルカリ土類金属原子を有する無機塩基;クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム、コハク酸カルシウム、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、カリウム−tert−ブトキシド等のアルカリ金属原子もしくはアルカリ土類金属原子を有する有機塩基;ピリジン、アニリン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、モルホリン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、ジアザビシクロウンデセンなどの含窒素化合物等が挙げられる。これらのうち、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸一水素カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水素化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム等のアルカリ金属原子もしくはアルカリ土類金属原子を有する塩基を用いることが中和塩の除去が容易となる点で好ましい。また、これら塩基は単独でも、二種以上を組み合わせて用いても良い。
【0075】
中和工程では、反応混合物の酸性度を調整する目的およびで第二成分を添加しても良い。その具体例としては、酢酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸などの有機酸;リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、塩化アンモニウム、クエン酸一ナトリウムなどの酸素以外のヘテロ原子を含む酸などが挙げられる。第二成分の種類および量は、反応工程に用いられる酸触媒および中和工程に用いられる塩基の種類および量、および中和後の反応混合物の酸性度の目標値に応じて種々選択される。
【0076】
中和工程後の反応混合物は弱酸性ないしは弱塩基性であることが本発明のフェノール化合物の安定性が向上する傾向にあり、好ましい。なお、反応混合物が弱酸性ないしは弱塩基性であるとは、混合物中に水を加えて水とそれ以外の成分の重量比を1:3に調整した際に、水層のpHが通常2以上、好ましくは3以上、特に好ましくは4以上で、通常11以下であり、好ましくは10以下であり、特に好ましくは9以下であることを言う。水層のpHが上記範囲内であることで、本発明のフェノール化合物の安定性が向上する傾向にあり、好ましい。
【0077】
溶媒に溶解させることによる酸触媒除去工程に用いられる溶媒の具体例としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、N−メチルピロリドンなどの有機溶媒等が挙げられる。これらのうち、水を用いることが精製工程を簡略化できる点で好ましい。
上記工程では、除去効率を上げるために第二成分を添加しても良い。その具体例としては、メタンスルホン酸ナトリウムなどの有機塩;塩化ナトリウム、硫酸ナトリウムなどの無機塩などが挙げられる。第二成分の種類および量は、酸触媒の除去効率に応じて種々選択される。
【0078】
ろ過による酸触媒除去工程で用いられるろ過剤としては、活性炭、シリカゲル、活性白土、珪藻土などの粉状、破砕状もしくは球状等のろ過剤;ろ紙、ろ布、糸巻きフィルタ等の繊維状もしくは布状等に成形されたろ過剤等が挙げられる。これらろ過剤は、使用する酸触媒の性状や、酸触媒の再利用の可能性の有無等を踏まえて、種々選択される。
なお、これらの除去工程は、未反応の原料、副生物、反応時もしくは酸触媒の除去工程で用いた第二、第三成分等の本発明のフェノール化合物および酸触媒以外の成分の一部もしくは全部を除去する工程を兼ねていても良い。
【0079】
<濃縮工程>
本発明のフェノール化合物の製造方法は、本発明のフェノール化合物を含む混合物から、溶媒や未反応の原料などの低沸点成分を濃縮により除去する工程(以下、濃縮工程と呼称する場合がある)を含むことが好ましい。本工程を実施することで、後述の析出工程における本発明のフェノール化合物の取り出し効率が向上する傾向にある。濃縮工程は通常加熱減圧条件で実施する。加熱温度は40℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがさらに好ましく、80℃以上で実施することが特に好ましい。また、通常200℃以下であり、180℃以下であることが好ましく、160℃以下であることが特に好ましい。加熱温度が上記温度の範囲内であることで、効率良く濃縮工程を実施でき、かつ本発明のフェノール化合物の分解を抑制できる傾向にある。なお、本濃縮工程における加熱温度とは、加熱に用いる熱媒の温度を指す。減圧度は通常760Torr未満であり、200Torr以下であることが好ましく、100Torr以下であることがさらに好ましく、50Torr以下であることが特に好ましい。減圧度が上記上限値以下であることで、効率良く濃縮工程を実施できる傾向にある。一方、減圧度の下限値は特に規定されないが、広く一般的に使用されている減圧機器を使用できる観点から通常0.1Torr以上であり、好ましくは1Torr以上であり、さらに好ましくは10Torr以上であり、特に好ましくは20Torr以上である。
【0080】
<粗精製工程>
本発明のフェノール化合物を製造する際、通常、前述のアルデヒド類又はケトン類とモノフェノール類との反応、その後の酸触媒の除去工程、或いは酸触媒の除去工程及び濃縮工程を経て得られる反応混合物は、本発明のフェノール化合物を主成分とする混合物となる。本発明のビスフェノール化合物の製造方法は、本発明のフェノール化合物を主成分とする混合物を脂肪族アルコール溶媒を含む溶媒(以下、「晶析溶媒」と呼称する場合がある。)に溶解させて溶液とした後に、本発明のフェノール化合物を析出させる工程(以下、「析出工程」と呼称する場合がある。)を含むものであるが、この析出工程に先立ち、該反応混合物から本発明のフェノール化合物以外の成分を粗取りする粗精製工程を含むことが好ましい。
この粗精製工程は、好ましくは、反応混合物から抽出溶媒で本発明のフェノール化合物を抽出した後、本発明のフェノール化合物を含む抽剤層を水で洗浄し、その後、この抽剤層から減圧下で抽出溶媒を除去することにより行われる。
【0081】
この抽出に用いる抽出溶媒としては、本発明のフェノール化合物の良溶媒であればよく、特に制限はないが、その具体例としては、本発明のフェノール化合物を製造する際に用いることができる溶媒のうち、水を除いたもの等が挙げられる。これらのうち、エーテル溶媒、ケトン溶媒、エステル溶媒、含塩素溶媒、芳香族炭化水素溶媒から選ばれる溶媒のいずれかを少なくとも含むことが、本発明のフェノール化合物の抽出が容易となる点で好ましく、エーテル溶媒、ケトン溶媒、エステル溶媒、含塩素溶媒、芳香族炭化水素溶媒のいずれかから選ばれる溶媒を少なくとも含むことがさらに好ましく、芳香族炭化水素溶媒から選ばれる溶媒を少なくとも含むことが特に好ましく、その中でもトルエンもしくはキシレンを含むことが好ましく、トルエンを含むことが最も好ましい。
これらの抽出は、単独で用いても良いし、二種以上を混合して用いても良い。
【0082】
抽出溶媒は、反応混合物に対して0.1質量倍以上用いることが好ましく、0.5質量倍以上用いることがさらに好ましく、1質量倍以上用いることが特に好ましい。抽出溶媒の量が前記下限値以上であることで、効率良く本発明のフェノール化合物を抽出できる傾向にある。また、20質量倍以下であることが好ましく、10質量倍以下であることがさらに好ましく、5質量倍以下であることが特に好ましい。抽出溶媒の量が前記上限値以下であることで、本発明のフェノール化合物の製造効率が向上する傾向にある。
【0083】
また、抽出により得られる本発明のフェノール化合物を含む抽剤層の水洗の際に用いる水の量は、抽剤層の全量に対して通常0.1質量倍以上であり、0.5質量倍以上であることが好ましく、1質量倍以上であることが特に好ましい。水量が前記下限値以上であることで粗精製工程における精製効率が向上する傾向にある。また、この水量は、抽剤層の全量に対して通常10質量倍以下であり、5質量倍以下であることが好ましく、3質量倍以下であることが特に好ましい。水量が前記上限値以下であることで、本発明のフェノール化合物の製造効率が向上する傾向にある。
抽剤層の水洗回数は、通常1〜20回程度であり、2〜10回であることが好ましく、3〜6回であることが特に好ましい。水洗回数が前記下限値以上であることで、粗精製工程における精製効率が向上する傾向にあり、前記上限値以下であることで、本発明のフェノール化合物の製造効率が向上する傾向にある。
【0084】
上記水洗後に抽出溶媒を除去する際は、通常40〜200℃の温度で、760〜1Torrの減圧下に実施される。なお、前述の温度は使用する熱媒の温度を表す。
【0085】
このような粗精製工程を経て得られる本発明のフェノール化合物の粗精製品の純度は、液体クロマトグラフィー(LC)分析による254nm吸収面積比にて、通常10〜95%程度である。
なお、本粗精製工程は、前述の酸触媒の除去工程や濃縮工程を兼ねて実施しても良い。
【0086】
<析出工程>
本発明のビスフェノール化合物の製造方法では、前述の反応混合物、好ましくは上記粗精製工程を経た本発明のフェノール化合物の粗精製品(以下、「本発明のフェノール化合物を含む混合物」と呼称する場合がある。)を脂肪族アルコール溶媒を含む晶析溶媒に溶解させて溶液とした後に、本発明のフェノール化合物を析出させる。ここで、本発明における脂肪族アルコール溶媒とは、融点が30℃以下、好ましくは15℃以下であって、分子内に炭素−炭素二重結合を有さず、かつ少なくとも一つのヒドロキシ基が炭素原子に結合した構造を有する化合物を表し、ヒドロキシ基以外にヘテロ原子を有する溶媒も含む。
【0087】
上述の脂肪族アルコール溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、n−オクタノールなどのヒドロキシ基を1つ含む炭素数1〜10の直鎖状アルコール溶媒;イソプロパノール、イソブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、アミルアルコールなどのヒドロキシ基を1つ含む炭素数3〜10の分岐状アルコール溶媒;シクロペンタノール、シクロヘキサノールなどのヒドロキシ基を1つ含む炭素数3〜10の脂環式アルコール溶媒;エチレングリコール、プロピレングリコール、イソプレングリコール、ヘキシレングリコールなどのヒドロキシ基を2つ以上含む炭素数2〜10のアルコール溶媒;2,2,2−トリフルオロエタノール、2−メトキシエタノール、アセチルメタノール、2−アセトキシエタノールなどのヘテロ原子を含む炭素数2〜10のアルコール溶媒などが挙げられる。これらのうち、1つのヒドロキシ基を含むアルコール溶媒を用いることが本発明のフェノール化合物の製造が容易となる点で好ましく、ヒドロキシ基以外にヘテロ原子を含まないアルコール溶媒であることが特に好ましく、上記の炭素数3〜10の分岐状アルコール溶媒であることがより好ましく、イソプロパノール、イソブタノール、2−ブタノールなどの炭素数3〜5の分岐状アルコール溶媒を用いることが特に好ましい。なお、これら脂肪族アルコール溶媒は、単独でも、二種以上を混合して用いても良い。
【0088】
上述の晶析溶媒には、第二溶媒として脂肪族アルコール溶媒以外の溶媒を含んでいても良い。第二溶媒の具体例としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、石油エーテルなどの炭素数5〜18の直鎖状炭化水素溶媒;イソオクタンなどの炭素数5〜18の分岐鎖状炭化水素溶媒;シクロヘキサン、シクロオクタン、メチルシクロヘキサンなどの炭素数5〜18の環状炭化水素溶媒;水;アセトニトリルなどのニトリル溶媒;ジブチルエーテルなどのエーテル溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫黄溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタンなどの含塩素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒などが挙げられる。これら溶媒は、単独で用いても良いし、二種以上混合して用いても良い。なお、これらのうち、水もしくは炭化水素溶媒を第二溶媒として用いることが、本発明のフェノール化合物の精製効率が向上し、製造が容易となる点で好ましく、炭化水素溶媒を第二溶媒として用いることが特に好ましく、中でも上記の炭素数5〜18の直鎖状炭化水素溶媒、炭素数5〜18の分岐鎖状炭化水素溶媒等の飽和鎖状炭化水素溶媒を用いることが好ましい。なお、これらの第二溶媒は、単独でも、二種以上を混合して用いても良い。
【0089】
第二溶媒と、脂肪族アルコール溶媒の混合比は特に規定されず、適宜設定し用いれば良いが、通常全晶析溶媒中の脂肪族アルコール溶媒の構成比が2〜98重量質量%であり、2.5〜90質量%であることが好ましく、3〜30重量質量%であることが特に好ましい。全晶析溶媒中の脂肪族アルコール溶媒の構成比が上記下限値以上であることで本発明のフェノール化合物を高純度で得やすくなり、また上記上限値以下であることで本発明のフェノール化合物が溶媒中に除去されてしまうことを抑止できる傾向、すなわち収率を向上できる傾向にあるため、好ましい。
【0090】
晶析溶媒の融点は通常30℃以下であるが、本発明のフェノール化合物の製造が容易となる点では15℃以下であることが好ましく、5℃以下であることがさらに好ましく、−10℃以下であることが特に好ましい。なお、融点の下限値は、該溶媒の沸点が後述の範囲内であれば特に規定されない。ここで、晶析溶媒の融点とは、溶媒を二種以上混合して用いる場合は、混合後の溶媒の融点を表す。
【0091】
また、晶析溶媒の沸点は通常40℃以上、好ましくは50℃以上、さらに好ましくは60℃以上である。一方、通常150℃以下であり、好ましくは135℃以下であり、さらに好ましくは120℃以下である。沸点が上記下限値以上であることで本発明のフェノール化合物を優先的に析出させやすくなる傾向にあり、上記上限値以下であることで、本発明のフェノール化合物から溶媒を効率良く除去し、本発明のフェノール化合物の製造が容易となる傾向にあるため、好ましい。ここで、晶析溶媒の沸点とは、溶媒を二種以上混合して用いる場合、混合後の溶媒の沸点を表す。
【0092】
析出工程は、通常、本発明のフェノール化合物を含む混合物と上述の晶析溶媒とを混合して溶液とし、その後、この溶液から本発明のフェノール化合物を析出させることで実施される。
本発明のフェノール化合物を含む混合物と、上述の晶析溶媒との混合比は、効率良く本発明のフェノール化合物を析出させることができれば特に規定されないが、通常本発明のフェノール化合物を含む混合物に対して全晶析溶媒の質量比が好ましくは0.2倍以上であり、さらに好ましくは0.5倍以上であり、特に好ましくは1倍以上である。一方、好ましくは100倍以下であり、さらに好ましくは50倍以下であり、特に好ましくは10倍以下である。全晶析溶媒の質量比が上記下限値以上であることで、本発明のフェノール化合物を優先的に析出させやすくなる傾向にあり、一方上記上限値以下であることで本発明のフェノール化合物の製造効率が向上する傾向にあり、好ましい。
【0093】
本発明のフェノール化合物を含む混合物と、晶析溶媒を混合する際、晶析溶媒として前述の第二溶媒を併用する場合、脂肪族アルコール溶媒と第二溶媒はそれぞれ別々に添加しても、予め混合した状態で本発明のフェノール化合物を含む混合物と混合しても良い。なお、本発明のフェノール化合物の製造効率を向上させる観点から、脂肪族アルコール溶媒と第二溶媒とは予め混合しておくことが好ましい。ここで、本発明のフェノール化合物を含む混合物と晶析溶媒を混合する際の温度は通常0℃以上、好ましくは20℃以上、特に好ましくは40℃以上であり、通常晶析溶媒の沸点以下、好ましくは(晶析溶媒の沸点−5)℃以下、さらに好ましくは(晶析溶媒の沸点−10)℃以下、特に好ましくは(晶析溶媒の沸点−20)℃以下である。混合時の温度が上記下限値以上であることで本発明のフェノール化合物の溶媒溶解性を向上させ、効率良く溶解させることが可能となり、好ましい。一方、混合時の温度が上記上限値以下であることで、溶媒の沸騰や揮発を抑止し本発明のフェノール化合物を効率良く溶解させることが可能となり、好ましい。ここで、晶析溶媒として前述の溶媒を二種以上混合して用いる場合、上記の溶媒の沸点は、混合後の溶媒の沸点を表す。
【0094】
本発明のフェノール化合物を含む混合物を晶析溶媒に溶解させた溶液から本発明のフェノール化合物を析出させる工程では、冷却により析出させる、本発明のフェノール化合物の貧溶媒を加える、溶媒を蒸発させるなどの、一般に溶液からの結晶化に用いられる種々の方法を適用することができる。これらのうち、冷却により析出させる工程を含むことが、本発明のフェノール化合物の製造が容易となる点で好ましい。本発明のフェノール化合物を析出させる際の温度は、本発明のフェノール化合物の特性を損なわない限り特に制限はなく、適宜設定することが可能であるが、通常−20℃以上、好ましくは−10℃以上、さらに好ましくは0℃以上である。一方、通常上記の混合温度より低く、70℃以下であり、65℃以下であることが好ましく、より好ましくは60℃以下であり、特に好ましくは55℃以下であり、さらに好ましくは50℃以下である。析出させる際の温度が上記範囲内であることで、本発明のフェノール化合物の製造効率が向上する傾向にあり、好ましい。
【0095】
本発明のフェノール化合物を含む混合物を晶析溶媒に溶解させた溶液から本発明のフェノール化合物を析出させる工程では、析出効率を向上させるために本発明のフェノール化合物の種晶を添加しても良い。種晶の量は、本発明のフェノール化合物の製造効率を向上させる点から、本発明のフェノール化合物を含む混合物に対して質量比で通常0.0001〜10%であり、0.0005〜5%であることが好ましく、0.001〜1%であることが特に好ましい。
【0096】
上記析出工程で本発明のフェノール化合物を析出させた後は、ろ過、遠心分離、デカンテーション等により固液分離することで、用いた晶析溶媒から本発明のフェノール化合物の粉体を回収する。
【0097】
上記析出工程の回数は本発明のフェノール化合物の精製度合いに応じて種々選択されるが、精製処理を簡略化できる点から、通常3回以下であることが好ましく、2回以下であることがより好ましく、1回であることが特に好ましい。
【0098】
<洗浄工程>
上記析出工程で得られた本発明のフェノール化合物の粉体を、さらに表面洗浄の目的で溶媒を用いて洗浄しても良い。この洗浄工程に使用される溶媒の具体例は、上記脂肪族アルコール溶媒および第二溶媒として例示した溶媒が挙げられる。本洗浄処理の温度は、通常−20℃以上、好ましくは−10℃以上、特に好ましくは0℃以上であり、通常70℃以下、好ましくは60℃以下、特に好ましくは50℃以下である。洗浄温度が上記範囲内であることで、洗浄用の溶媒に本発明のフェノール化合物を過剰に溶解させることを抑制できる傾向にあり、好ましい。
【0099】
<乾燥工程>
上記析出工程又は析出工程と洗浄工程を経て得られた本発明のフェノール化合物を、さらに加熱、減圧、風乾などにより脱溶媒処理を行い、実質的に溶媒を含まない本発明のフェノール化合物を得ても良い。この乾燥工程における脱溶媒処理の際の温度は、脱溶媒処理を円滑に進行させるために通常20℃以上であり、40℃以上であることが好ましい。なお、温度の上限は通常本発明のフェノール化合物の融点以下であり、100℃以下であることが好ましく、75℃以下であることがさらに好ましく、72℃以下であることが特に好ましい。
【0100】
[結晶形]
本発明のビスフェノール化合物の製造方法により、前述の析出工程を経て得られる本発明のフェノール化合物は、複数(例えば2〜3)の結晶形を取り得る(結晶多形)。本発明のビスフェノール化合物の製造方法により得られる本発明のフェノール化合物のうち、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカンは、CuKα線による粉末X線回折法における回折角2θ=4.25°±0.15°および2θ=8.45°±0.20°の範囲内にそれぞれ少なくとも一つずつピークを有する結晶体であることが好ましい。即ち、このような結晶体であれば、本発明のフェノール化合物と本発明における脂肪族アルコール溶媒が相互作用した結果得られる結晶体であり好ましい。ここで、「±0.15°」および「±0.20°」は結晶体を作成する際の溶媒即ち、晶析溶媒による差、および測定誤差を考慮した値である。具体的には、結晶体の作成にイソプロパノールを晶析溶媒の一成分として用いた場合は2θ=4.30°±0.05°および2θ=8.58°±0.05°に、2−ブタノールを晶析溶媒の一成分として用いた場合は2θ=4.22°±0.05°および2θ=8.45°±0.05°に、イソブタノールを溶媒の一成分として用いた場合には2θ=4.15°±0.05°および2θ=8.30°±0.05°に、それぞれ少なくとも一つずつX線結晶回折ピークを有することが好ましい。
【0101】
本発明における結晶体は、一つの結晶形のみから成っていても、複数の結晶形の混合体となっていてもよい。上記X線回折ピーク挙動を示す結晶体であれば、本発明のフェノール化合物を製造する際に、精製効率に優れるという本発明の効果を十分に発揮することができる。
【0102】
[用途]
本発明のフェノール化合物は、光学材料、記録材料、絶縁材料、透明材料、電子材料、接着材料、耐熱材料など種々の用途に用いられるポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂など種々の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリベンゾオキサジン樹脂、シアネート樹脂など種々の熱硬化性樹脂などの構成成分、添加剤もしくはそれらの前駆体などに用いることができる。また、本発明のフェノール化合物は、pH調整剤、界面活性剤、顕色剤等にも使用することができる。
【実施例】
【0103】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例における各種分析方法は以下の通りである。また、各化合物の記号は式(1)で表されるビスフェノール化合物の前述した例示の表1に従ったものである。
【0104】
[液体クロマトグラフィー(LC)分析]
サンプル50mgを10mlのアセトニトリルに溶解させた。得られた溶液をHPLC分析装置(島津製作所製LC−2010)にて分析した。条件は以下の通りとした。
(測定条件)
コントローラ:島津製作所社製SCL−10AVP
カラム:ジーエルサイエンス社製inertsil ODS3V(4.6×150mm、5μm)
カラムオーブン:島津製作所社製CTO−10AVP、40℃
ポンプ:島津製作所社製LC−10ADVP、流速1.0ml/分
注入量:5μl
溶離条件:K1−アセトニトリル、K2−0.1質量%酢酸アンモニウム水溶液
K1/K2=60/40(0−5分)
K1/K2=60/40→95/5(線形に濃度変化、5−30分)
K1/K2=95/5(30−80分)
(比率は体積比)
検出器:島津製作所社製SPD−10AVP UV254nm
(解析条件)
ソフトウェア:島津製作所社製LC−solution ver.1.22SP1
設定:Width=5、Slope=200、Drift=0、T.DBL=1000、Min.Area=500
LC純度は、254nmにおける面積%から求めた。反応選択率および収率は、予め目的化合物の検量線を作成し、絶対検量線法で求めた。
【0105】
[粉末X線回折(XRD)測定]
XRD回折装置(PANalytical社製X’pert Pro MPD)を用い、以下の条件で測定し、2θ=3.00〜10.00°の範囲内にある回折ピークを比較した。
X線出力(CuKα):40kV、30mA
走査範囲(2θ):3.00〜70.00°
測定モード:Continuous
【0106】
[実施例1]
<化合物(P−1)の製造>
フェノール(220g、2.3mol)を40℃に加温して融解させた後、35%濃塩酸(2.9g、0.028mol)を加えた。そこへ、n−ドデカナール(86g、0.47mol)およびトルエン(51g)の混合液を内温45℃以下で4時間かけて滴下した。滴下後、40℃で1時間熟成した後、炭酸水素ナトリウム水溶液で反応を停止させた。反応混合物における化合物(P−1)の選択率は50.2%であった。反応混合物からフェノールを160℃、20Torrで減圧留去した後、残渣(181g)をトルエン(340g)で抽出し、水(215g)で3回洗浄した。減圧下(20Torr)、90℃で溶媒を留去して粗精製品(170g)を得た。
【0107】
<化合物(P−1)の精製>
得られた粗精製品にイソプロパノール(77g)およびヘプタン(430g)を加え、60℃に加温して溶解させた。10℃/時間で内温15℃まで降温したのち1時間熟成させた。得られたスラリーをろ過し、15℃にて、イソプロパノール(15g)およびヘプタン(86g)の混合液でふりかけ洗浄した。得られた固体を40℃で減圧乾燥することで、化合物(P−1)の白色固体を得た。LC分析により得られた化合物(P−1)の純度は99.6%、収率は43.2%であった。得られた固体のX線結晶回折ピーク(2θ)は4.02°、4.30°、8.61°であった。
【0108】
[実施例2]
実施例1と同様に化合物(P−1)の粗精製品を得た後、イソプロパノール(30g)およびヘプタン(430g)を加え、60℃に加温して溶解させた。10℃/時間で内温15℃まで降温したのち1時間熟成させた。得られたスラリーをろ過し、15℃にて、イソプロパノール(6.0g)およびヘプタン(86g)の混合液でふりかけ洗浄した。得られた固体を40℃で減圧乾燥することで、化合物(P−1)の白色固体を得た。LC分析により得られた化合物(P−1)の純度は99.0%、収率43.4%であった。得られた固体のX線結晶回折ピーク(2θ)は4.30°、4.87°、8.60°であった。
【0109】
[実施例3]
実施例1と同様に化合物(P−1)の粗精製品を得た後、2−ブタノール(77g)およびヘプタン(430g)を加え、60℃に加温して溶解させた。10℃/時間で内温15℃まで降温したのち1時間熟成させた。得られたスラリーをろ過し、15℃にて、2−ブタノール(15g)およびヘプタン(86g)の混合液でふりかけ洗浄した。得られた固体を40℃で減圧乾燥することで、化合物(P−1)の白色固体を得た。LC分析により得られた化合物(P−1)の純度は99.3%、収率は42.1%であった。得られた固体のX線結晶回折ピーク(2θ)は4.22°、4.86°、8.45°であった。
【0110】
[実施例4]
実施例1と同様に化合物(P−1)の粗精製品を得た後、イソブタノール(77g)およびヘプタン(430g)を加え、60℃に加温して溶解させた。10℃/時間で内温15℃まで降温したのち1時間熟成させた。得られたスラリーをろ過し、15℃にて、2−ブタノール(15g)およびヘプタン(86g)の混合液でふりかけ洗浄した。得られた固体を40℃で減圧乾燥することで、化合物(P−1)の白色固体を得た。LC分析により得られた化合物(P−1)の純度は99.2%、収率は40.3%であった。得られた固体のX線結晶回折ピーク(2θ)は4.15°、4.86°、8.32°であった。
【0111】
[実施例5]
<化合物(P−1)の製造>
フェノール(220g、2.3mol)を40℃に加温して融解させた後、35%濃塩酸(2.9g、0.028mol)を加えた。そこへ、n−ドデカナール(86g、0.47mol)を内温45℃以下で4時間かけて滴下した。滴下後、40℃で1時間熟成した後、炭酸水素ナトリウム水溶液で反応を停止させた。反応混合物における化合物(P−1)の選択率は49.8%であった。反応混合物から160℃、20Torrでフェノールを減圧留去した後、残渣(180g)をトルエン(340g)で抽出し、水(215g)で3回洗浄した。減圧下(20Torr)、90℃で溶媒を留去して粗精製品(169g)を得た。
【0112】
<化合物(P−1)の精製>
得られた粗精製品にイソプロパノール(57g)およびヘプタン(260g)を加え、60℃に加温して溶解させた。55℃に降温、保持の後、種晶(化合物(P−1)、52mg)を加えて1時間保持した。その後、10℃/時間で内温15℃まで降温したのち1時間熟成させた。得られたスラリーをろ過し、15℃にて、イソプロパノール(4g)およびヘプタン(96g)の混合液でふりかけ洗浄した。得られた固体を40℃で減圧乾燥することで、化合物(P−1)の白色固体を得た。LC分析により得られた化合物(P−1)の純度は99.5%、収率は43.8%であった。得られた固体のX線結晶回折ピーク(2θ)は4.27°、8.51°であった。
【0113】
[実施例6]
<化合物(P−6)の製造>
フェノール(220g、2.3mol)を40℃に加温し融解させた後、35%濃塩酸(2.9g、0.028mol)を加えた。そこへ、n−オクタデカナール(125g、0.47mol)を内温45℃以下で4時間かけて分割添加した。滴下後、40℃で1時間熟成した後、炭酸水素ナトリウム水溶液で反応を停止させた。反応混合物における化合物(P−6)の選択率は47.6%であった。反応混合物からフェノールを160℃、20Torrにて減圧留去した後、残渣(220g)をトルエン(340g)で抽出し、水(215g)で3回洗浄した。減圧下(20Torr)、90℃で溶媒を留去して粗精製品(209g)を得た。
【0114】
<化合物(P−6)の精製>
得られた粗精製品にイソプロパノール(72g)およびヘプタン(590g)を加え、60℃に加温して溶解させた。10℃/時間で内温15℃まで降温したのち1時間熟成させた。得られたスラリーをろ過し、15℃にて、イソプロパノール(4g)およびヘプタン(96g)の混合液でふりかけ洗浄した。得られた固体を40℃で減圧乾燥することで、化合物(P−6)の白色固体を得た。LC分析により得られた化合物(P−6)の純度は96.7%、収率は40.6%であった。
【0115】
[実施例7]
<化合物(P−19)の製造>
フェノール(18.8g、0.200mol)を40℃に加温し融解させた後、p−トルエンスルホン酸一水和物(0.76g、4.0mmol)を加えた。そこへ、2−トリデカノン(4.00g、20.2mmol)および3−メルカプトプロピオン酸(0.053g、0.50mmol)を加えた後、60℃にて24時間加熱撹拌した。得られた反応液に炭酸水素ナトリウム水溶液を加え反応を停止させた。反応混合物における化合物(P−19)の選択率は62.6%であった。反応混合物から160℃、20Torrでフェノールを減圧留去した後、残渣(8.8g)をトルエン(15g)で抽出し、水(10g)で3回洗浄した。減圧下(20Torr)、90℃で溶媒を留去して粗精製品(7.4g)を得た。
【0116】
<化合物(P−19)の精製>
得られた粗精製品にイソプロパノール(1.6g)およびヘプタン(16g)を加え、70℃に加温して溶解させた。42℃に降温、保持の後、種晶(化合物(P−19)、2.4mgg)を加えて1時間保持した。その後、10℃/時間で内温15℃まで降温したのち1時間熟成させた。得られたスラリーをろ過し、15℃にて、イソプロパノール(0.080g)およびヘプタン(7.9g)の混合液でふりかけ洗浄した。得られた固体を30℃で減圧乾燥することで、化合物(P−19)の白色固体を得た。LC分析により得られた化合物(P−19)の純度は90.1%、収率は54.5%であった。
【0117】
[比較例1]
実施例1と同様に化合物(P−1)の粗精製品を得た後、塩化メチレン(310g)を加え、40℃に加温して溶解させた。10℃/時間で内温15℃まで降温したのち1時間熟成させた。得られたスラリーをろ過し、15℃にて、塩化メチレン(62g)でふりかけ洗浄した。得られた固体を40℃で減圧乾燥することで、化合物(P−1)の白色固体を得た。LC分析により得られた化合物(P−1)の純度は82.9%であり、純度が不十分であることが判明した。また、LC収率分析により得られた化合物(P−1)の収率は27.2%であった。さらに同様の方法を繰り返して純度99.5%の固体を得た。得られた固体のX線結晶回折ピーク(2θ)は4.43°、4.71°、4.93°、8.30°、8.78°、9.39°であった。
【0118】
[比較例2]
実施例1と同様に化合物(P−1)の粗精製品を得た後、トルエン(258g)およびヘプタン(258g)を加え、60℃に加温して溶解させた。10℃/時間で内温15℃まで降温したのち1時間熟成させた。得られたスラリーをろ過し、15℃にて、トルエン(52g)およびヘプタン(52g)の混合液を加えてふりかけ洗浄した。得られた固体を40℃で減圧乾燥することで、化合物(P−1)の白色固体を得た。LC分析により得られた化合物(P−1)の純度は86.7%であり、純度が不十分であることが判明した。また、LC収率分析により得られた化合物(P−1)の収率は35.1%であった。さらに同様の方法を繰り返して純度99.2%の固体を得た。得られた固体のX線結晶回折ピーク(2θ)は4.94°、8.26°、8.71°であった。
【0119】
[比較例3]
実施例7と同様にして化合物(P−19)の粗精製品を得た。得られた粗精製品を種々の濃度のトルエン/ヘプタン、酢酸エチル/ヘプタン、および塩化メチレン/ヘプタン混合液にて析出工程を試みたが、いずれも固体として化合物(P−19)を得ることができなかった。
【0120】
[比較例4]
実施例7と同様にして化合物(P−19)の粗精製品を得た。得られた粗精製品をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン溶離液)にて精製し、LC純度にて93.3%の化合物(P−19)の酢酸エチル/ヘプタン溶液を得、該溶液を減圧条件にて濃縮乾固し溶媒を除去したが、得られた化合物(P−19)は油状であった。
【0121】
上記実施例1〜7および比較例1〜4の結果を下記表2にまとめる。
また、実施例1〜4および比較例1,2で得られた化合物(P−1)のXRD結晶回折パターンを図1〜6にそれぞれ示す。
【0122】
【表2】
【0123】
実施例1〜7のように脂肪族アルコール溶媒を含む溶媒で晶析した場合、1回の析出工程で十分な純度のビスフェノール化合物が得られ、また収率も高いことが明らかである。比較例1や2のように他の溶媒を晶析溶媒として用いた場合は、単離収率が低く純度も不十分で、高純度品取得のためにはさらなる精製を必要とした。また、実施例7と比較例3および4とを比較すると、他の溶媒を用いた場合や、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで十分な純度のビスフェノール化合物を得ても、得られるビスフェノール化合物が油状となる場合においても、本発明の方法による析出工程を経ることで、粉体として取得できることが判る。
本発明の方法により、このような効率的な精製を行えるのは、脂肪族アルコール溶媒が本発明のフェノール化合物のみと相互作用して特異的な結晶体を作りやすく、副生物の除去効果が高まったり結晶性が向上したりしたためと考えられる。本発明の方法による析出工程を経ることで得られるビスフェノール化合物の結晶体が特異な結晶構造を有しているという事実は、X線結晶回折ピークの結果が実施例1〜4と比較例1および2を比較して大きく異なることからも裏付けられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6