(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の熱伝導シートは、例えば、発熱体に放熱体を取り付ける際に発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用することができる。即ち、本発明の熱伝導シートは、ヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体と共に放熱装置を構成することができる。そして、本発明の熱伝導シートは、例えば本発明の熱伝導シートの製造方法を用いて製造することができる。
【0017】
(熱伝導シート)
本発明の熱伝導シートは、フッ素樹脂と、膨張化黒鉛とを含み、任意に、繊維状炭素材料、膨張化黒鉛以外の粒子状炭素材料および添加剤などを更に含有する。また、本発明の熱伝導シートは、厚み方向の熱伝導率が20W/m・K以上である。そして、本発明の熱伝導シートは、フッ素樹脂と膨張化黒鉛とを含有しているので、難燃性および耐久性に優れている。また、本発明の熱伝導シートは、厚み方向の熱伝導率が20W/m・K以上であり、厚み方向に熱を効率的に伝えることができるので、例えば発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用される熱伝導シートとして良好に使用することができる。
【0018】
<フッ素樹脂>
フッ素樹脂としては、特に限定されることなく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−クロロフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソール共重合体、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレンのアクリル変性物、ポリテトラフルオロエチレンのエステル変性物、ポリテトラフルオロエチレンのエポキシ変性物およびポリテトラフルオロエチレンのシラン変性物等が挙げられる。これらの中でも、加工性の観点からは、フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレンのアクリル変性物、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体が好ましい。
なお、本発明において、ゴムおよびエラストマーは、「樹脂」に含まれるものとする。
【0019】
ここで、フッ素樹脂は、熱伝導シートのマトリックス樹脂を構成すると共に、熱伝導シート中で膨張化黒鉛等を結着する結着材としても機能する。そして、熱伝導シートは、フッ素樹脂の含有量が35質量%以上50質量%以下であることが好ましい。フッ素樹脂の含有量が35質量%以上であれば、膨張化黒鉛等を良好に結着して熱伝導シートを良好に形成することができると共に、熱伝導シートの難燃性および耐久性を十分に高めることができる。また、フッ素樹脂の含有量が50質量%以下であれば、熱伝導シートの熱伝導性を十分に高めることができると共に、熱伝導シートの硬度が上昇する(即ち、柔軟性が低下する)のを抑制することができる。
【0020】
<膨張化黒鉛>
本発明の熱伝導シートが含有する膨張化黒鉛は、例えば、鱗片状黒鉛などの黒鉛を硫酸などで化学処理して得た膨張性黒鉛を、熱処理して膨張させた後、微細化することにより得ることができる。そして、膨張化黒鉛としては、例えば、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0021】
ここで、熱伝導シートに含有されている膨張化黒鉛の平均粒子径は、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、500μm以下であることが好ましく、250μm以下であることがより好ましい。膨張化黒鉛の平均粒子径が上記範囲内であれば、熱伝導シートの熱伝導性を更に向上させることができるからである。
また、熱伝導シートに含有されている膨張化黒鉛のアスペクト比(長径/短径)は、1以上10以下であることが好ましく、1以上5以下であることがより好ましい。
【0022】
なお、本発明において「平均粒子径」は、熱伝導シートの厚み方向における断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の膨張化黒鉛について最大径(長径)を測定し、測定した長径の個数平均値を算出することにより求めることができる。また、本発明において、「アスペクト比」は、熱伝導シートの厚み方向における断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の膨張化黒鉛について、最大径(長径)と、最大径に直交する方向の粒子径(短径)とを測定し、長径と短径の比(長径/短径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0023】
そして、熱伝導シートは、膨張化黒鉛の含有量が、フッ素樹脂100質量部当たり、110質量部以上であることが好ましく、130質量部以上であることがより好ましく、150質量部以下であることが好ましく、140質量部以下であることがより好ましい。フッ素樹脂100質量部当たりの膨張化黒鉛の含有量が110質量部以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性を十分に高めることができる。また、フッ素樹脂100質量部当たりの膨張化黒鉛の含有量が150質量部以下であれば、熱伝導シートを良好に形成することができると共に、熱伝導シートの耐久性を十分に高めることができる。更に、熱伝導シートの硬度が上昇する(即ち、柔軟性が低下する)のを抑制して、熱伝導性、難燃性、耐久性および柔軟性を十分に高いレベルで並立させた熱伝導シートを得ることができる。
【0024】
<繊維状炭素材料>
本発明の熱伝導シートに任意に配合される繊維状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維、有機繊維を炭化して得られる炭素繊維、および、それらの切断物などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
そして、熱伝導シートに繊維状炭素材料を含有させれば、熱伝導シートの難燃性、耐久性および熱伝導性を十分に高いレベルで並立させることができる。また、熱伝導シートを良好に形成することができると共に、膨張化黒鉛や後述する粒子状炭素材料の粉落ちを防止することもできる。なお、繊維状炭素材料を配合することで熱伝導シートが良好に形成し得るようになると共に膨張化黒鉛や粒子状炭素材料の粉落ちを防止することができる理由は、明らかではないが、繊維状炭素材料が三次元網目構造を形成することにより、熱伝導性や耐久性を高めつつ膨張化黒鉛や粒子状炭素材料の脱離を防止しているためであると推察される。
【0025】
ここで、上述した中でも、繊維状炭素材料としては、カーボンナノチューブなどの繊維状の炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、カーボンナノチューブを含む繊維状の炭素ナノ構造体を用いることがより好ましい。カーボンナノチューブなどの繊維状の炭素ナノ構造体を使用すれば、熱伝導シートの熱伝導性および耐久性を更に向上させることができるからである。
【0026】
[カーボンナノチューブを含む繊維状の炭素ナノ構造体]
ここで、繊維状炭素材料として好適に使用し得る、カーボンナノチューブを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)のみからなるものであってもよいし、CNTと、CNT以外の繊維状の炭素ナノ構造体との混合物であってもよい。
なお、繊維状の炭素ナノ構造体中のCNTとしては、特に限定されることなく、単層カーボンナノチューブおよび/または多層カーボンナノチューブを用いることができるが、CNTは、単層から5層までのカーボンナノチューブであることが好ましく、単層カーボンナノチューブであることがより好ましい。単層カーボンナノチューブを使用すれば、多層カーボンナノチューブを使用した場合と比較し、熱伝導シートの熱伝導性および耐久性を更に向上させることができるからである。
【0027】
また、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体としては、平均直径(Av)に対する、直径の標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)の比(3σ/Av)が0.20超0.60未満の炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、3σ/Avが0.25超の炭素ナノ構造体を用いることがより好ましく、3σ/Avが0.50超の炭素ナノ構造体を用いることが更に好ましい。3σ/Avが0.20超0.60未満のCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体を使用すれば、炭素ナノ構造体の配合量が少量であっても熱伝導シートの熱伝導性および耐久性を十分に高めることができる。従って、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体の配合により熱伝導シートの硬度が上昇する(即ち、柔軟性が低下する)のを抑制して、熱伝導性、難燃性、耐久性および柔軟性を十分に高いレベルで並立させた熱伝導シートを得ることができる。
なお、「繊維状の炭素ナノ構造体の平均直径(Av)」および「繊維状の炭素ナノ構造体の直径の標準偏差(σ:標本標準偏差)」は、それぞれ、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した繊維状の炭素ナノ構造体100本の直径(外径)を測定して求めることができる。そして、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体の平均直径(Av)および標準偏差(σ)は、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体の製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られたCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体を複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
【0028】
そして、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体としては、前述のようにして測定した直径を横軸に、その頻度を縦軸に取ってプロットし、ガウシアンで近似した際に、正規分布を取るものが通常使用される。
【0029】
更に、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、ラマン分光法を用いて評価した際に、Radial Breathing Mode(RBM)のピークを有することが好ましい。なお、三層以上の多層カーボンナノチューブのみからなる繊維状の炭素ナノ構造体のラマンスペクトルには、RBMが存在しない。
【0030】
また、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、ラマンスペクトルにおけるDバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)が1以上20以下であることが好ましい。G/D比が1以上20以下であれば、繊維状の炭素ナノ構造体の配合量が少量であっても熱伝導シートの熱伝導性および耐久性を十分に高めることができる。従って、繊維状の炭素ナノ構造体の配合により熱伝導シートの硬度が上昇する(即ち、柔軟性が低下する)のを抑制して、熱伝導性、難燃性、耐久性および柔軟性を十分に高いレベルで並立させた熱伝導シートを得ることができる。
【0031】
更に、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体の平均直径(Av)は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることが更に好ましく、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。繊維状の炭素ナノ構造体の平均直径(Av)が0.5nm以上であれば、繊維状の炭素ナノ構造体の凝集を抑制して炭素ナノ構造体の分散性を高めることができる。また、繊維状の炭素ナノ構造体の平均直径(Av)が15nm以下であれば、熱伝導シートの熱伝導性および耐久性を十分に高めることができる。
【0032】
また、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、合成時における構造体の平均長さが100μm以上5000μm以下であることが好ましい。なお、合成時の構造体の長さが長いほど、分散時にCNTに破断や切断などの損傷が発生し易いので、合成時の構造体の平均長さは5000μm以下であることが好ましい。
【0033】
更に、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体のBET比表面積は、600m
2/g以上であることが好ましく、800m
2/g以上であることが更に好ましく、2500m
2/g以下であることが好ましく、1200m
2/g以下であることが更に好ましい。更に、繊維状の炭素ナノ構造体中のCNTが主として開口したものにあっては、BET比表面積が1300m
2/g以上であることが好ましい。CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体のBET比表面積が600m
2/g以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性および耐久性を十分に高めることができる。また、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体のBET比表面積が2500m
2/g以下であれば、繊維状の炭素ナノ構造体の凝集を抑制して熱伝導シート中のCNTの分散性を高めることができる。
なお、本発明において、「BET比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
【0034】
更に、CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、後述のスーパーグロース法によれば、カーボンナノチューブ成長用の触媒層を表面に有する基材上に、基材に略垂直な方向に配向した集合体(配向集合体)として得られるが、当該集合体としての、繊維状の炭素ナノ構造体の質量密度は、0.002g/cm
3以上0.2g/cm
3以下であることが好ましい。質量密度が0.2g/cm
3以下であれば、繊維状の炭素ナノ構造体同士の結びつきが弱くなるので、熱伝導シート中で繊維状の炭素ナノ構造体を均質に分散させることができる。また、質量密度が0.002g/cm
3以上であれば、繊維状の炭素ナノ構造体の一体性を向上させ、バラけることを抑制できるため取り扱いが容易になる。
【0035】
そして、上述した性状を有するCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、例えば、カーボンナノチューブ製造用の触媒層を表面に有する基材上に、原料化合物およびキャリアガスを供給して、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)に準じて、効率的に製造することができる。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
ここで、スーパーグロース法により製造したCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体は、SGCNTのみから構成されていてもよいし、SGCNTに加え、例えば、非円筒形状の炭素ナノ構造体等の他の炭素ナノ構造体が含まれていてもよい。
【0036】
[繊維状炭素材料の性状]
そして、熱伝導シートに含まれる繊維状炭素材料の平均繊維径は、1nm以上であることが好ましく、3nm以上であることがより好ましく、2μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。繊維状炭素材料の平均繊維径が上記範囲内であれば、熱伝導シートの熱伝導性、耐久性および柔軟性を十分に高いレベルで並立させることができるからである。ここで、繊維状炭素材料のアスペクト比は、10を超えることが好ましい。
【0037】
なお、本発明において、「平均繊維径」は、熱伝導シートの厚み方向における断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の繊維状炭素材料について繊維径を測定し、測定した繊維径の個数平均値を算出することにより求めることができる。なお、繊維径が小さい場合は、同様の断面をTEM(透過型電子顕微鏡)にて観察し、同様の方法で平均繊維径を求めることができる。
【0038】
[繊維状炭素材料の含有割合]
そして、熱伝導シートは、繊維状炭素材料の含有量が、フッ素樹脂100質量部当たり、0.05質量部以上であることが好ましく、1.0質量部以上であることがより好ましく、5.0質量部以下であることが好ましく、3.0質量部以下であることがより好ましい。フッ素樹脂100質量部当たりの繊維状炭素材料の含有量が0.05質量部以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性および耐久性を十分に高めることができる。また、熱伝導シートを良好に形成することができると共に、膨張化黒鉛や粒子状炭素材料の粉落ちを防止することができる。また、フッ素樹脂100質量部当たりの繊維状炭素材料の含有量が5.0質量部以下であれば、繊維状炭素材料の配合により熱伝導シートの硬度が上昇する(即ち、柔軟性が低下する)のを抑制して、熱伝導性、難燃性、耐久性および柔軟性を十分に高いレベルで並立させた熱伝導シートを得ることができる。
【0039】
<粒子状炭素材料>
本発明の熱伝導シートに任意に配合される粒子状炭素材料としては、膨張化黒鉛以外の粒子状の炭素材料であれば特に限定されることなく、例えば、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、天然黒鉛、酸処理黒鉛、膨張性黒鉛などの、膨張化黒鉛以外の黒鉛;カーボンブラック;などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、熱伝導シート中の粒子状炭素材料の含有量は、膨張化黒鉛の含有量に応じて適宜調整することができる。
【0040】
<添加剤>
熱伝導シートには、必要に応じて、熱伝導シートの形成に使用され得る既知の添加剤を配合することができる。そして、熱伝導シートに配合し得る添加剤としては、特に限定されることなく、例えば、粘着性樹脂;赤りん系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤などの難燃剤;可塑剤;酸化カルシウム、酸化マグネシウムなどの吸湿剤;シランカップリング剤、チタンカップリング剤、酸無水物などの接着力向上剤;ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などの濡れ性向上剤;無機イオン交換体などのイオントラップ剤;等が挙げられる。
【0041】
上述した中でも、熱伝導シートには、粘着性樹脂および/またはリン酸エステル系難燃剤を配合することが好ましい。熱伝導シートに粘着性樹脂を配合すれば、熱伝導シートを良好に形成することができる。また、熱伝導シートにリン酸エステル系難燃剤を配合すれば、熱伝導シートの難燃性を更に向上させつつ、熱伝導シートを良好に形成することができる。
なお、粘着性樹脂やリン酸エステル系難燃剤を配合することで熱伝導シートが良好に形成し得るようになる理由は、明らかではないが、粘着性樹脂やリン酸エステル系難燃剤を配合した場合、熱伝導シートの形成に用いられる組成物に粘着性が付与され、当該組成物のシート化が容易になると共に、形成された熱伝導シートからの膨張化黒鉛や粒子状炭素材料の脱離が防止されるためであると推察される。
【0042】
[粘着性樹脂]
ここで、粘着性樹脂としては、上述したフッ素樹脂以外の樹脂を用いることができる。具体的には、粘着性樹脂としては、溶剤を含まない公知のタッキファイヤーを用いることができる。そして、タッキファイヤーとしては、例えば、ロジン系タッキファイヤー、テルペン系タッキファイヤー、石油樹脂系タッキファイヤーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
なお、ロジン系タッキファイヤーとしては、例えば、松ヤニや松根油中に含まれているロジン酸(主成分:アビエチン酸)と、グリセリンやペンタエリスリトールとのエステル、および、これらの水添物、不均化物が挙げられる。より具体的には、ロジン系タッキファイヤーとしては、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン、水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、変性ロジン、ロジンエステル(ロジンジオール)などが挙げられる。
【0044】
また、テルペン系タッキファイヤーとしては、松に含まれるテルペン油やオレンジの皮などに含まれる天然のテルペンを重合したものを挙げられる。より具体的には、テルペン系タッキファイヤーとしては、テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、水素添加テルペン樹脂などが挙げられる。
【0045】
更に、石油樹脂系タッキファイヤーとしては、石油を原料とした脂肪族、脂環族、芳香族系の樹脂が挙げられる。より具体的には、石油樹脂系タッキファイヤーとしては、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、共重合系石油樹脂、脂環族飽和炭化水素樹脂、スチレン系石油樹脂などが挙げられる。
【0046】
上述した中でも、粘着性樹脂としては、ロジン系タッキファイヤーが好ましく、ロジンエステルがより好ましい。
【0047】
そして、熱伝導シートは、粘着性樹脂の含有量が、フッ素樹脂100質量部当たり、3質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。フッ素樹脂100質量部当たりの粘着性樹脂の含有量が3質量部以上であれば、熱伝導シートの形成に用いられる組成物のシート化が更に容易になり、熱伝導シートを良好に形成することができる。また、フッ素樹脂100質量部当たりの粘着性樹脂の含有量が15質量部以下であれば、熱伝導シートの熱伝導性、難燃性および耐久性を十分に高めることができる。
【0048】
[リン酸エステル系難燃剤]
リン酸エステル系難燃剤としては、特に限定されることなく、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート等の脂肪族リン酸エステル;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジル−2,6−キシレニルホスフェート、トリス(t−ブチル化フェニル)ホスフェート、トリス(イソプロピル化フェニル)ホスフェート、リン酸トリアリールイソプロピル化物等の芳香族リン酸エステル;レゾルシノールビスジフェニルホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビスジキシレニルホスフェート等の芳香族縮合リン酸エステル;等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
中でも、リン酸エステル系難燃剤としては、常温常圧で液状のリン酸エステル系難燃剤、具体的には凝固点が15℃以下で沸点が120℃以上のリン酸エステル系難燃剤が好ましい。凝固点が15℃以下で沸点が120℃以上のリン酸エステル系難燃剤を使用すれば、熱伝導シートの形成に用いられる組成物に粘着性が付与され、当該組成物のシート化が容易になる。また、形成された熱伝導シートの柔軟性が向上する。
なお、凝固点が15℃以下で沸点が120℃以上のリン酸エステル系難燃剤としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、クレジル−2,6−キシレニルホスフェート、レゾルシノールビスジフェニルホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)等が挙げられる。
【0050】
そして、熱伝導シートは、リン酸エステル系難燃剤の含有量が、フッ素樹脂100質量部当たり、3質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、40質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましい。フッ素樹脂100質量部当たりのリン酸エステル系難燃剤の含有量が3質量部以上であれば、熱伝導シートの形成に用いられる組成物のシート化が更に容易になり、熱伝導シートを良好に形成することができる。更に、熱伝導シートの難燃性および柔軟性を十分に高めることができる。また、フッ素樹脂100質量部当たりのリン酸エステル系難燃剤の含有量が40質量部以下であれば、熱伝導シートの熱伝導性および耐久性を十分に高めることができる。更に、熱伝導シートからリン酸エステル系難燃剤がブリーディングするのを抑制することもできる。
【0051】
なお、本発明の熱伝導シートには、上述した成分以外に、熱伝導シートを製造する際に使用した接着剤や接着層が含まれていてもよい。
【0052】
<熱伝導シートの性状>
そして、本発明の熱伝導シートは、特に限定されることなく、以下の性状を有していることが好ましい。
【0053】
[熱伝導率]
熱伝導シートは、厚み方向の熱伝導率が、25℃において、20W/m・K以上であることが必要であり、30W/m・K以上であることが好ましく、40W/m・K以上であることがより好ましく、45W/m・K以上であることが更に好ましく、50W/m・K以上であることが特に好ましい。厚み方向の熱伝導率が20W/m・K以上であれば、例えば発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用した場合に、発熱体から放熱体へと熱を効率的に伝えることができる。
【0054】
[硬度]
また、熱伝導シートは、アスカーC硬度が、90以下であることが好ましく、88以下であることがより好ましい。アスカーC硬度が90以下であれば、例えば発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用した場合に、優れた柔軟性を発揮し、発熱体と放熱体とを良好に密着させることができる。
なお、本発明において、「アスカーC硬度」は、日本ゴム協会規格(SRIS)のアスカーC法に準拠し、硬度計を用いて温度23℃で測定することができる。
【0055】
[厚み]
なお、熱伝導シートの厚みは、好ましくは0.1mm以上10mm以下である。
【0056】
(熱伝導シートの製造方法)
そして、上述した熱伝導シートは、特に限定されることなく、例えば、フッ素樹脂と、膨張化黒鉛とを含む組成物を用いてプレ熱伝導シートを形成する工程(プレ熱伝導シート成形工程)と、得られたプレ熱伝導シートを用いて積層体を形成する工程(積層体形成工程)と、積層体をスライスする工程(スライス工程)とを経て製造することができる。
以下、各工程について具体的に説明する。
【0057】
<プレ熱伝導シート成形工程>
プレ熱伝導シート成形工程では、フッ素樹脂と、膨張化黒鉛とを含み、任意に、繊維状炭素材料と、膨張化黒鉛以外の粒子状炭素材料と、粘着性樹脂やリン酸エステル系難燃剤などの添加剤とを更に含有する組成物を加圧してシート状に成形し、プレ熱伝導シートを得る。
【0058】
[組成物]
ここで、組成物は、フッ素樹脂および膨張化黒鉛と、上述した任意成分(繊維状炭素材料、粒子状炭素材料、添加剤)とを混合して調製することができる。そして、フッ素樹脂、膨張化黒鉛、繊維状炭素材料、粒子状炭素材料および添加剤としては、本発明の熱伝導シートに含まれ得るフッ素樹脂、膨張化黒鉛、繊維状炭素材料、粒子状炭素材料および添加剤として上述したものを用いることができる。
【0059】
また、上述した成分の混合は、特に限定されることなく、ニーダー、ロール、ミキサー等の既知の混合装置を用いて行うことができる。また、混合は、有機溶剤等の溶媒の存在下で行ってもよい。そして、混合時間は、例えば5分以上60分以下とすることができる。また、混合温度は、例えば5℃以上150℃以下とすることができる。
【0060】
なお、上述した成分のうち、特に繊維状炭素材料は、凝集し易く、分散性が低いため、そのままの状態でフッ素樹脂や膨張化黒鉛などの他の成分と混合すると、組成物中で良好に分散し難い。一方、繊維状炭素材料は、溶媒(分散媒)に分散させた分散液の状態でフッ素樹脂や膨張化黒鉛などの他の成分と混合すれば凝集の発生を抑制することはできるものの、分散液の状態で混合した場合には混合後に固形分を凝固させて組成物を得る際などに多量の溶媒を使用するため、組成物の調製に使用する溶媒の量が多くなる虞が生じる。そのため、プレ熱伝導シートの形成に用いる組成物に繊維状炭素材料を配合する場合には、繊維状炭素材料は、溶媒(分散媒)に繊維状炭素材料を分散させて得た分散液から溶媒を除去して得た繊維状炭素材料の集合体(易分散性集合体)の状態で他の成分と混合することが好ましい。繊維状炭素材料の分散液から溶媒を除去して得た繊維状炭素材料の集合体は、一度溶媒に分散させた繊維状炭素材料で構成されており、溶媒に分散させる前の繊維状炭素材料の集合体よりも分散性に優れているので、分散性の高い易分散性集合体となる。従って、易分散性集合体と、フッ素樹脂や膨張化黒鉛などの他の成分とを混合すれば、多量の溶媒を使用することなく効率的に、組成物中で繊維状炭素材料を良好に分散させることができる。
【0061】
ここで、繊維状炭素材料の分散液は、例えば、溶媒に対して繊維状炭素材料を添加してなる粗分散液を、キャビテーション効果が得られる分散処理または解砕効果が得られる分散処理に供して得ることができる。なお、キャビテーション効果が得られる分散処理は、液体に高エネルギーを付与した際、水に生じた真空の気泡が破裂することにより生じる衝撃波を利用した分散方法である。そして、キャビテーション効果が得られる分散処理の具体例としては、超音波ホモジナイザーによる分散処理、ジェットミルによる分散処理および高剪断撹拌装置による分散処理が挙げられる。また、解砕効果が得られる分散処理は、粗分散液にせん断力を与えて繊維状炭素材料の凝集体を解砕・分散させ、さらに粗分散液に背圧を負荷することで、気泡の発生を抑制しつつ、繊維状炭素材料を溶媒中に均一に分散させる分散方法である。そして、解砕効果が得られる分散処理は、市販の分散システム(例えば、製品名「BERYU SYSTEM PRO」(株式会社美粒製)など)を用いて行うことができる。
【0062】
また、分散液からの溶媒の除去は、乾燥やろ過などの既知の溶媒除去方法を用いて行うことができるが、迅速かつ効率的に溶媒を除去する観点からは、減圧ろ過などのろ過を用いて行うことが好ましい。
【0063】
[組成物の成形]
そして、上述のようにして調製した組成物は、任意に脱泡および解砕した後に、加圧してシート状に成形することができる。なお、混合時に溶媒を用いている場合には、溶媒を除去してからシート状に成形することが好ましく、例えば真空脱泡を用いて脱泡を行えば、脱泡時に溶媒の除去も同時に行うことができる。
【0064】
ここで、組成物は、圧力が負荷される成形方法であれば特に限定されることなく、プレス成形、圧延成形または押し出し成形などの既知の成形方法を用いてシート状に成形することができる。中でも、組成物は、圧延成形によりシート状に形成することが好ましく、保護フィルムに挟んだ状態でロール間を通過させてシート状に成形することがより好ましい。なお、保護フィルムとしては、特に限定されることなく、サンドブラスト処理を施したポリエチレンテレフタレートフィルム等を用いることができる。また、ロール温度は5℃以上150℃とすることができる。
【0065】
[プレ熱伝導シート]
そして、組成物を加圧してシート状に成形してなるプレ熱伝導シートでは、膨張化黒鉛や、任意に配合される粒子状炭素材料および繊維状炭素材料が主として面内方向に配列し、特に面内方向の熱伝導性が向上すると推察される。
なお、プレ熱伝導シートの厚みは、特に限定されることなく、例えば0.05mm以上2mm以下とすることができる。また、熱伝導シートの熱伝導性を更に向上させる観点からは、プレ熱伝導シートの厚みは、膨張化黒鉛の平均粒子径の20倍超5000倍以下であることが好ましい。
【0066】
<積層体形成工程>
積層体形成工程では、プレ熱伝導シート成形工程で得られたプレ熱伝導シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、プレ熱伝導シートを折畳または捲回して、積層体を得る。ここで、プレ熱伝導シートの折畳による積層体の形成は、特に限定されることなく、折畳機を用いてプレ熱伝導シートを一定幅で折り畳むことにより行うことができる。また、プレ熱伝導シートの捲回による積層体の形成は、特に限定されることなく、プレ熱伝導シートの短手方向または長手方向に平行な軸の回りにプレ熱伝導シートを捲き回すことにより行うことができる。
【0067】
ここで、通常、積層体形成工程で得られる積層体において、プレ熱伝導シートの表面同士の接着力は、プレ熱伝導シートを積層する際の圧力や折畳または捲回する際の引っ張り力により充分に得られる。しかし、接着力が不足する場合や、積層体の層間剥離を十分に抑制する必要がある場合には、プレ熱伝導シートの表面を溶剤で若干溶解させた状態で積層体形成工程を行ってもよいし、プレ熱伝導シートの表面に接着剤を塗布した状態またはプレ熱伝導シートの表面に接着層を設けた状態で積層体形成工程を行ってもよい。
【0068】
なお、プレ熱伝導シートの表面を溶解させる際に用いる溶剤としては、特に限定されることなく、プレ熱伝導シート中に含まれているフッ素樹脂などの樹脂成分を溶解可能な既知の溶剤を用いることができる。中でも、溶解性と揮発性の観点からはアセトンを用いることが好ましい。
【0069】
また、プレ熱伝導シートの表面に塗布する接着剤としては、特に限定されることなく、市販の接着剤や粘着性の樹脂を用いることができる。中でも、接着剤としては、プレ熱伝導シート中に含まれているフッ素樹脂などの樹脂成分と同じ組成の樹脂を用いることが好ましい。そして、プレ熱伝導シートの表面に塗布する接着剤の厚さは、例えば、10μm以上1000μm以下とすることができる。
更に、プレ熱伝導シートの表面に設ける接着層としては、特に限定されることなく、両面テープなどを用いることができる。
ここで、接着剤や接着層には、得られる熱伝導シートが硬くなりすぎない範囲で熱伝導性フィラーが配合されていてもよい。
【0070】
なお、層間剥離を抑制する観点からは、得られた積層体は、積層方向に0.1MPa以上0.5MPa以下の圧力で押し付けながら、120℃以上170℃以下で2〜8時間加熱してもよい。
【0071】
そして、プレ熱伝導シートを積層、折畳または捲回して得られる積層体では、膨張化黒鉛や、任意に配合される粒子状炭素材料および繊維状炭素材料が積層方向に略直交する方向に配列していると推察される。
【0072】
<スライス工程>
スライス工程では、積層体形成工程で得られた積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、積層体のスライス片よりなる熱伝導シートを得る。ここで、積層体をスライスする方法としては、特に限定されることなく、例えば、マルチブレード法、レーザー加工法、ウォータージェット法、ナイフ加工法等が挙げられる。中でも、熱伝導シートの厚みを均一にし易い点で、ナイフ加工法が好ましい。また、積層体をスライスする際の切断具としては、特に限定されることなく、スリットを有する平滑な盤面と、このスリット部より突出した刃部とを有するスライス部材(例えば、鋭利な刃を備えたカンナやスライサー)を用いることができる。
そして、スライス工程を経て得られた熱伝導シートは、通常、フッ素樹脂および膨張化黒鉛と、上述した任意成分(繊維状炭素材料、粒子状炭素材料、添加剤)とを含む条片(積層体を構成していたプレ熱伝導シートのスライス片)が並列接合されてなる構成を有する。
【0073】
なお、熱伝導シートの熱伝導性を高める観点からは、積層体をスライスする角度は、積層方向に対して30°以下であることが好ましく、積層方向に対して15°以下であることがより好ましく、積層方向に対して略0°である(即ち、積層方向に沿う方向である)ことが好ましい。
【0074】
また、積層体を容易にスライスする観点からは、スライスする際の積層体の温度は−20℃以上20℃以下とすることが好ましく、−10℃以上0℃以下とすることがより好ましい。更に、同様の理由により、スライスする積層体は、積層方向とは垂直な方向に圧力を負荷しながらスライスすることが好ましく、積層方向とは垂直な方向に0.1MPa以上0.5MPa以下の圧力を負荷しながらスライスすることがより好ましい。
【実施例】
【0075】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例および比較例において、熱伝導シートの熱伝導率、アスカーC硬度、シート成形性、難燃性および耐久性は、それぞれ以下の方法を使用して測定または評価した。
【0076】
<熱伝導率>
熱伝導シートについて、厚み方向の熱拡散率α(m
2/s)、定圧比熱Cp(J/g・K)および比重ρ(g/m
3)を以下の方法で測定した。
[熱拡散率]
熱物性測定装置(株式会社ベテル製、製品名「サーモウェーブアナライザTA35」)を使用して温度25℃における熱拡散率を測定した。
[定圧比熱]
示差走査熱量計(Rigaku製、製品名「DSC8230」)を使用し、10℃/分の昇温条件下、温度25℃における比熱を測定した。
[比重]
自動比重計(東洋精機社製、商品名「DENSIMETER−H」)を用いて測定した。
そして、得られた測定値を用いて下記式(I):
λ=α×Cp×ρ ・・・(I)
より温度25℃における熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率λ(W/m・K)を求めた。
<アスカーC硬度>
日本ゴム協会規格(SRIS)のアスカーC法に準拠し、硬度計(高分子計器社製、商品名「ASKER CL−150LJ」を使用して温度23℃で測定した。
具体的には、幅30mm×長さ60mm×厚さ1.0mmの大きさに調製した熱伝導シートの試験片を6枚重ね合わせ、23℃で保たれた恒温室に48時間以上静置したものを試料としてアスカーC硬度を測定した。そして、指針が95〜98となるようにダンパー高さを調整し、試料とダンパーとが衝突してから20秒後の硬度を5回測定して、その平均値を試料のアスカーC硬度とした。
<シート成形性>
プレ熱伝導シートの状態を目視で確認し、以下の基準に従ってシート成形性を評価した。プレ熱伝導シート中の穴や破断部位が小さく且つ少ないほど、組成物のシート化が容易であり、プレ熱伝導シートを用いて熱伝導シートを良好に形成し得ることを示す。
○:プレ熱伝導シートに1mm以上の穴や1mm以上の破断部位がない
×:プレ熱伝導シートに1mm以上の穴や1mm以上の破断部位がある
<難燃性>
熱伝導シートを幅10mm×長さ150mmの大きさに裁断した試験片を5枚用意した。ブンゼンバーナーの空気およびガスの流量を調整して高さ20mm程度の青色炎をつくり、垂直に支持した試験片の下端にブンゼンバーナーの炎をあてて(炎と試験片とが約10mm交わるように)10秒間保った後、試験片とブンゼンバーナーの炎とを離した。その後、試験片の炎が消えれば直ちにブンゼンバーナーの炎を試験片に再びあて、更に10秒間保持した後、試験片とブンゼンバーナーの炎とを離した。1回目と2回目の接炎終了後の有炎および無炎燃焼持続時間や燃焼滴下物(ドリップ)の有無を評価し、UL−94(難燃性規格)に従って難燃性を評価した。
即ち、1回目と2回目の接炎終了後の有炎燃焼持続時間、2回目の接炎終了後の有炎燃焼持続時間および無炎燃焼持続時間の合計、5枚の試験片の有炎および無炎燃焼持続時間の合計、並びに、燃焼滴下物(ドリップ)の有無で、UL−94(難燃性規格)のV−0およびV−2のどちらに相当するのかを判定した。1回目、2回目ともに接炎終了後10秒以内に有炎燃焼を終え、2回目の有炎燃焼持続時間と無炎燃焼持続時間との合計が30秒以内であって、更に5枚の試験片の有炎および無炎燃焼持続時間の合計が50秒以内であり、燃焼滴下物がないものをV−0とした。また、1回目、2回目ともに接炎終了後30秒以内に有炎燃焼を終え、2回目の有炎燃焼持続時間と無炎燃焼持続時間との合計が60秒以内であって、更に5枚の試験片の有炎および無炎燃焼持続時間の合計が250秒以内であり、燃焼滴下物があったものをV−2とした。さらに、すべて燃えたものは、規格外とした。この評価によってV−0の条件を満たしていれば、難燃性に優れていると言える。
<耐久性>
熱伝導シートを100mm×20mm×0.5mmの短冊状に成形したものを試験体Aとした。そして、試験体Aを恒温槽にて200℃で3時間加熱した。恒温槽から取り出した試験体Aを25℃雰囲気下で常温になるまで冷却したものを試験体Bとした。
そして、試験体Aと試験体Bについて、引張試験機(日本電産シンポ製、小型卓上試験機:FGS-TV)を用い、試験体の両末端から0.5cmの箇所をつまみ、温度25℃において30mm/分の引張速度で試験体を引っ張り、最も荷重がかかった時の値を破断強度(引張強度)として測定した。そして、試験体Bの破断強度を試験体Aの破断強度で除したものを変化率(=試験体Bの破断強度/試験体Aの破断強度)とし、以下の基準で評価した。なお、変化率が1.0に近いほど、加熱の前後で破断強度の変化が小さく、耐久性に優れていることを示す。
○:変化率が0.5以上2.0以下
×:変化率が0.5未満または2.0超
【0077】
(フッ素樹脂溶液の調製)
フッ素樹脂としてのフッ素ゴム(ダイキン工業社製、Daiel−G912、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなる三元系フッ素ゴム)60gをハサミで米粒サイズに切り刻み、60gのメチルエチルケトン(和光純薬製)に投入し、3時間撹拌して目視でゴム片が見えなくなったものをフッ素樹脂溶液とした。
【0078】
(CNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体Aの調製)
国際公開第2006/011655号の記載に従って、スーパーグロース法によってSGCNTを含む繊維状の炭素ナノ構造体Aを得た。
得られた繊維状の炭素ナノ構造体Aは、G/D比が3.0、BET比表面積が800m
2/g、質量密度が0.03g/cm
3であった。また、透過型電子顕微鏡を用い、無作為に選択した100本の繊維状の炭素ナノ構造体Aの直径を測定した結果、平均直径(Av)が3.3nm、直径の標本標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)が1.9nm、それらの比(3σ/Av)が0.58、平均長さが100μmであった。また、得られた繊維状の炭素ナノ構造体Aは、主に単層CNTにより構成されていた。
【0079】
(易分散性集合体の調製)
<分散液の調製>
繊維状炭素材料としての繊維状の炭素ナノ構造体Aを400mg量り取り、溶媒としてのメチルエチルケトン2L中に混ぜ、ホモジナイザーにより2分間撹拌し、粗分散液を得た。湿式ジェットミル(株式会社常光製、JN−20)を使用し、得られた粗分散液を湿式ジェットミルの0.5mmの流路に100MPaの圧力で2サイクル通過させて、繊維状炭素ナノ構造体Aをメチルエチルケトンに分散させた。そして、固形分濃度0.20質量%の分散液Aを得た。
<溶媒の除去>
その後、得られた分散液Aをキリヤマろ紙(No.5A)を用いて減圧ろ過し、シート状の易分散性集合体を得た。
【0080】
(アクリル樹脂溶液の調整)
反応器に、アクリル酸2−エチルヘキシル94部とアクリル酸6部とからなる単量体混合物100部、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.03部および酢酸エチル700部を入れて均一に溶解し、窒素置換した後、80℃で6時間重合反応を行った。なお、重合転化率は97%であった。そして、得られた重合体を減圧乾燥して酢酸エチルを蒸発させ、粘性のある固体状のアクリル樹脂を得た。アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は270000であり、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は3.1であった。なお、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、テトラヒドロフランを溶離液とするゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、標準ポリスチレン換算で求めた。
得られたアクリル樹脂100部に対してメチルエチルケトンを100部加え、均一になるまで撹拌したものをアクリル樹脂溶液とした。
【0081】
(実施例1)
<組成物の調製>
繊維状炭素材料としての繊維状の炭素ナノ構造体Aの易分散性集合体を1部と、膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC−50」、平均粒子径:250μm)を130部と、フッ素樹脂溶液を190部(固形分(フッ素樹脂)は95部)と、粘着性樹脂としてのタッキファイヤー(荒川化学工業株式会社製、商品名「KE−359」、超淡色ロジンエステル)を5部とをホバートミキサー(株式会社小平製作所製、商品名「ACM−5LVT型」)を用いて1時間攪拌混合した。そして、得られた混合物を1時間真空脱泡し、脱泡と同時にメチルエチルケトンの除去を行って、繊維状の炭素ナノ構造体Aと、膨張化黒鉛と、フッ素樹脂と、粘着性樹脂とを含有する組成物を得た。そして、得られた組成物を解砕機に投入し、10秒間解砕した。
<プレ熱伝導シートの作製>
次いで、解砕した組成物5gを、サンドブラスト処理を施した厚さ50μmのPETフィルム(保護フィルム)で挟み、ロール間隙330μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形し、厚さ0.3mmのプレ熱伝導シートを得た。
そして、得られたプレ熱伝導シートを用いてシート成形性を評価した。
<円柱体の作製>
そして、保護フィルムを剥がした後、得られたプレ熱伝導シートの片面に厚さ12μmの両面テープ(ニチバン製、商品名「ナイスタック」)を貼りつけ、直径1cmの金属棒の周辺にプレ熱伝導シートをロール状に巻きつけ、円柱体(積層体)を得た。
<熱伝導シートの作製>
その後、プレ熱伝導シートの円柱体から金属棒を抜き取り、プレ熱伝導シートの表面方向から圧力10MPaでプレスし、円柱体を楕円柱体とした。そして、得られた楕円柱体(積層体)を、楕円柱体の楕円面に対して0度の角度で(即ち、楕円面に平行に)スライス木工用スライサー(株式会社丸仲鐵工所製、商品名「超仕上げかんな盤スーパーメカ」、スリット部からの刀部の突出長さ:0.11mm)でスライスし、厚さ0.5mmの楕円状熱伝導シートを得た。
そして、得られた熱伝導シートについて、熱伝導率、アスカーC硬度、難燃性および耐久性を測定または評価した。結果を表1に示す。
【0082】
(実施例2)
プレ熱伝導シートを用いて円柱体を作製する際に、両面テープを使用することなく、得られたプレ熱伝導シートの片面にアセトン(和光純薬製)を塗布し、プレ熱伝導シートの表面に存在する樹脂成分を溶解させた状態で直径1cmの金属棒の周辺にプレ熱伝導シートをロール状に巻きつけて円柱体を得た以外は実施例1と同様にして、楕円状熱伝導シートを得た。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
(実施例3)
組成物を調製する際に、膨張化黒鉛の配合量を120部に変更し、フッ素樹脂溶液の配合量を160部(固形分(フッ素樹脂)は80部)に変更し、タッキファイヤーに替えてリン酸エステル系難燃剤(商品名「PX−110」)を20部配合した以外は実施例1と同様にして、楕円状熱伝導シートを得た。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
(実施例4)
組成物を調製する際に、膨張化黒鉛の配合量を110部に変更し、フッ素樹脂溶液の配合量を200部(固形分(フッ素樹脂)は100部)に変更し、タッキファイヤーを配合しなかった以外は実施例1と同様にして、楕円状熱伝導シートを得た。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
(実施例5)
組成物を調製する際に、膨張化黒鉛の配合量を110部に変更し、フッ素樹脂溶液の配合量を200部(固形分(フッ素樹脂)は100部)に変更し、繊維状の炭素ナノ構造体Aの易分散性集合体およびタッキファイヤーを配合しなかった以外は実施例1と同様にして、楕円状熱伝導シートを得た。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
(比較例1)
組成物を調製する際に、フッ素樹脂溶液に替えてアクリル樹脂溶液を200部(固形分は100部)使用し、繊維状の炭素ナノ構造体Aの易分散性集合体およびタッキファイヤーを配合しなかった以外は実施例1と同様にして、楕円状熱伝導シートを得た。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
(比較例2)
組成物を調製する際に、フッ素樹脂溶液に替えてアクリル樹脂溶液を100部(固形分は50部)使用し、繊維状の炭素ナノ構造体Aの易分散性集合体およびタッキファイヤーを配合せず、リン酸エステル系難燃剤(商品名「PX−110」)を50部配合した以外は実施例1と同様にして楕円状熱伝導シートを作製しようとしたが、組成物を良好にシート化することができず、楕円状熱伝導シートを作製することができなかった。
【0088】
【表1】
【0089】
表1より、フッ素樹脂と膨張化黒鉛とを含む実施例1〜5の熱伝導シートはアクリル樹脂を用いた比較例1の熱伝導シートと比較して難燃性および耐久性に優れていることが分かる。また、比較例2では熱伝導シートを作製することができなかった。