【文献】
ITOH,Takahito et al.,Journal of Power Sources,2003年,119-121,403-408
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
正極活物質層を有する正極と、負極活物質層を有する負極と、これらの正負極活物質層間に固体電解質層とを有する全固体二次電池であって、粒子構造を有するポリマーと水溶性ポリマーとを含有するバインダーを用いてなり、
前記水溶性ポリマーは、ポリエチレンオキサイドであり、
前記粒子構造を有するポリマーは、アクリレート系ポリマーである全固体二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(全固体二次電池)
以下、本発明の全固体二次電池について説明する。本発明の全固体二次電池は正極活物質層を有する正極と、負極活物質層を有する負極と、これらの正負極活物質層間に固体電解質層とを有する全固体二次電池であって、粒子構造を有するポリマーと水溶性ポリマーとを含有するバインダーを用いてなる。即ち、本発明の全固体二次電池においては、正極活物質層、負極活物質層または固体電解質層の少なくとも1つに、粒子構造を有するポリマーと水溶性ポリマーとを含有するバインダーが用いられる。なお、正極は集電体上に正極活物質層を有し、負極は集電体上に負極活物質層を有する。
以下において、まず、粒子構造を有するポリマーと水溶性ポリマーとを含有するバインダーについて説明し、その後、(1)固体電解質層、(2)正極活物質層、及び(3)負極活物質層について説明する。
【0013】
(バインダー)
バインダーは、例えば、固体電解質粒子同士を結着して固体電解質層を形成するために用いられる。本発明に用いられるバインダーは、粒子構造を有するポリマーと水溶性ポリマーとを含有する。バインダーとしては、アクリレート系ポリマーが好適であることが特許文献5などで知られている。アクリレート系ポリマーをバインダーとして用いることが、耐電圧を高くでき、かつ全固体二次電池のエネルギー密度を高くすることができる点で好ましいが、より高性能化することが求められている。
【0014】
アクリレート系ポリマーは溶液重合法あるいは乳化重合法などにより得ることができ、得られるポリマーは通常は直鎖状のポリマーであり、有機溶媒に可溶である。このようなポリマーをバインダーとして用いる場合は、従来は有機溶媒に溶解させて用いている。
【0015】
(粒子構造を有するポリマー)
本発明に用いられる粒子構造を有するポリマーとしては、アクリレート系ポリマーを用いることが好ましく、アクリレート系ポリマーに粒子構造を持たせて用いることが好ましい。
【0016】
アクリレート系ポリマーは、アクリレートまたはメタクリレート(以降、「(メタ)アクリレート」と略記することがある)およびこれらの誘導体を重合して得られる繰り返し単位(重合単位)を含むポリマーであり、具体的には、(メタ) アクリレートのホモポリマー、(メタ) アクリレートのコポリマー、並びに(メタ) アクリレートと該(メタ) アクリレートと共重合可能な他の単量体とのコポリマーなどが挙げられる。
【0017】
(メタ)アクリレートとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、ベンジルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸−2−メトキシエチル、アクリル酸−2−エトキシエチルなどのアクリル酸アルコキシアルキルエステル;アクリル酸2−(パーフルオロブチル)エチル、アクリル酸2−(パーフルオロペンチル)エチルなどのアクリル酸2−(パーフルオロアルキル)エチル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、およびメタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、ベンジルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸2−(パーフルオロブチル)エチル、メタクリル酸2−(パーフルオロペンチル)エチルなどのメタクリル酸2−(パーフルオロアルキル)エチル;が挙げられる。これらの中でも、本発明においては固体電解質との密着性の高さからアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、ベンジルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸−2−メトキシエチル、アクリル酸−2−エトキシエチルなどのアクリル酸アルコキシアルキルエステルが好ましい。
【0018】
アクリレート系ポリマーにおける(メタ)アクリレートから導かれるモノマー単位の含有割合は、通常40質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。なお、アクリレート系ポリマーにおける(メタ)アクリレートから導かれるモノマー単位の含有割合の上限は、通常100質量%以下、好ましくは99質量%以下である。
【0019】
また、アクリレート系ポリマーとしては、(メタ)アクリレートと、該(メタ)アクリレートと共重合可能なモノマーとのコポリマーとする事も可能である。前記共重合可能なモノマーとしては、スチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、ヒドロキシメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系モノマー; アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのアミド系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのα,β−不飽和ニトリル化合物;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリメチルシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジメチルシラン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、トリビニルメチルシラン、テトラビニルシラン、アリルジメチルメトキシシラン、アリルトリメチルシラン、ジアリルジメトキシシラン、ジアリルジメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等のシラン類が挙げられる。
【0020】
その中でも、有機溶媒への親和性の観点から、スチレン系モノマー、アミド系モノマー、α,β−不飽和ニトリル化合物、シラン類が好ましい。また、結着力が良好なためバインダーの使用量を減らすことが可能で、かつ、金属との密着が良いため集電体との密着が良好となる観点から、シラン類がより好ましい。アクリレート系ポリマーにおける、前記共重合可能なモノマーの含有割合は、通常50質量%以下、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
【0021】
本発明に用いられるバインダーは、粒子構造を有するポリマーを含むものである。粒子構造を有していることの指標はゲル分率である。ゲル分率は、ポリマー鎖同志が結合していたり、絡みあったり等しているために有機溶媒に不溶な成分の全体に対する重量比を示す値であり、本発明における粒子構造を有するポリマーのゲル分率は70%以上であり、好ましくは90%以上である。ゲル分率が上記範囲であると、ゲル分率が小さ過ぎるために粒子構造を維持できない結果、電池性能が低下しやすい、という現象、及び、高温時に流動しやすい、という現象を抑えることができる。
【0022】
本発明において、バインダーに含まれるポリマーに粒子構造を持たせるためには、一般的に架橋剤として機能し得る化合物や自己架橋構造を形成し得るモノマーを、ポリマーの重合の際に共重合する方法が挙げられる。
【0023】
ゲル分率を所定の範囲に調整するためには、前記のように架橋剤を共重合させることが好ましい。架橋剤としては、二重結合を2以上有するモノマーが挙げられる。たとえば、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エチレングリコールジメタクリレートなどの多官能アクリレート化合物、ジビニルベンゼンなどの多官能芳香族化合物があげられる。好ましくはエチレングリコールジメタクリレートなどの多官能アクリレート化合物である。
【0024】
架橋剤の使用量は、その種類によって異なるが、モノマーの合計量100質量部に対して、好ましくは0.01〜5質量部、より好ましくは0.05〜1質量部である。
【0025】
自己架橋構造を形成しやすいモノマーとしては、ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体や、アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル化合物がある。好ましくは、アクリロニトリルを共重合する方法である。
【0026】
(粒子構造を有するポリマーの製造方法)
上述した粒子構造を有するポリマーの製造方法としては、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などの分散系で重合する方法のいずれの方法も用いることができる。重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの方法も用いることができる。
【0027】
これらの中でも、粒子構造を有するポリマーがそのまま水系の溶媒に分散した状態で得られることから、乳化重合法が好ましい。ここで、水系の溶媒とは水を含む溶媒であり、可燃性がなく、上記粒子構造を有するポリマーの分散液が容易に得られることから、水が好ましい。
【0028】
なお、本発明の効果を損なわず、さらに上記共重合体の分散状態が確保可能な範囲において、主溶媒として水を使用し、水以外の水系の溶媒を混合して用いても良い。水以外の水系の溶媒としては、ケトン類、アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類、エーテル類が挙げられる。
【0029】
なお、乳化重合は、常法に従い行うことができる。また、乳化重合するに際しては、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤又は連鎖移動剤等の通常用いられる重合副資材を使用することができる。
【0030】
乳化剤としては、所望のポリマーが得られる限り任意のものを用いることができ、たとえば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。これらのなかでも、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、高級アルコールの硫酸エステル塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤が好ましく使用できる。
【0031】
乳化剤の量は、所望のポリマーが得られる限り任意であり、モノマー組成物100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。
【0032】
重合に用いる重合開始剤としては、たとえば過酸化ラウロイル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどの有機過酸化物、α,α’−アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物、または過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどがあげられる。
【0033】
本発明に用いられる粒子構造を有するポリマーは、水系の溶媒に分散した状態(水分散液)で用いられる。
【0034】
(水溶性ポリマー)
本発明に用いられるバインダーは、水溶性ポリマーを含む。本発明に用いられる水溶性ポリマーとしては、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等が挙げられ、ポリエチレンオキサイドが好ましい。
【0035】
本発明に用いられる水溶性ポリマーの分子量は、通常500〜5,000,000であり、好ましくは5,000〜3,000,000である。
【0036】
また、本発明に用いられる水溶性ポリマーの粘度は、通常1%水溶液としたときに100mPa・s以上100,000mPa・s以下である。
【0037】
本発明に用いられるバインダーは、粒子構造を有するポリマーと水溶性ポリマーとを含有し、バインダーにおける粒子構造を有するポリマーの含有割合は、好ましくは80〜99.1wt%、より好ましくは85〜99wt%、さらに好ましくは90〜98wt%である。粒子構造を有するポリマーの含有割合が上記範囲であると、粒子構造を有するポリマーの含有割合が多すぎるためにイオン伝導度が低下する、という現象を抑えることができる。また、粒子構造を有するポリマーの含有割合が少なすぎるために、電極が硬くなり、電池を組み立てる際の電極の切断または巻回時に、電極に割れや欠けが発生しやすくなる、という現象を抑えることができる。
また、バインダーにおける水溶性ポリマーの含有割合は、好ましくは0.1〜10wt%、より好ましくは0.5〜5wt%である。水溶性ポリマーの含有割合が上記範囲であると、水溶性ポリマーの含有割合が多すぎるために電極が硬くなる、という現象を抑えることができ、また、水溶性ポリマーの含有割合が少なすぎるために本発明の効果を発揮しにくい、という現象を抑えることができる。
【0038】
(バインダー組成物)
本発明に用いられるバインダーは、粒子構造を有するポリマーの水分散液と水溶性ポリマー溶液の混合物の溶媒を、有機溶媒に交換してなるバインダー組成物によるものであることが好ましい。
【0039】
(混合物)
本発明に用いられるバインダー組成物を得る際に用いる混合物は、上記にて得られた粒子構造を有するポリマーの水分散液と、上記した水溶性ポリマーの水溶液(水溶性ポリマー溶液)とを混合することにより得られる。即ち、混合物の溶媒は、水などの水系の溶媒である。
【0040】
(バインダー組成物の製造方法)
本発明に用いられるバインダー組成物は、混合物の溶媒を有機溶媒に溶媒交換することにより得られる。ここで、溶媒交換は、公知の方法により行うことができる。例えば、ロータリーエバポレーターに混合物及び有機溶媒を入れ、減圧して所定の温度にて溶媒交換及び脱水操作を行うことができる。
【0041】
なお、本発明に用いられるバインダー組成物の固形分濃度は、好ましくは1〜20wt%である。また、本発明に用いられるバインダー組成物に含まれる水分量は、好ましくは1000ppm未満であり、より好ましくは500ppm未満であり、さらに好ましくは100ppm未満である。
【0042】
(有機溶媒)
溶媒交換に用いることのできる有機溶媒としては、沸点が100℃以上の有機溶媒が挙げられる。沸点が100℃以上の有機溶媒としては、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;シクロペンチルメチルエーテルなどのエーテル類;酢酸ブチルなどのエステル類が好ましく、キシレンがより好ましい。なお、これらの溶媒は、単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0043】
上記した水溶性ポリマーは、トルエン、キシレンなどの極性の低い有機溶媒には溶解せず、また、均一分散もしないため、水溶性ポリマー単独では全固体二次電池用のバインダーとしては用いることができなかった。
しかし、本発明においては、粒子構造を有するポリマーの水分散液と水溶性ポリマー溶液とを混合して混合物とした後に、混合物の溶媒を有機溶媒に溶媒交換することにより、有機溶媒中に均一に分散させることができるため、水溶性ポリマーを全固体二次電池用のバインダーとして使用することができる。
【0044】
バインダーのガラス転移温度(Tg)は、優れた強度と柔軟性を有し、高い出力特性の全固体二次電池を得ることができる観点から、好ましくは−50〜25℃、より好ましくは−45〜15℃、特に好ましくは−40〜5℃である。なお、バインダーのガラス転移温度は、様々なモノマーを組み合わせることによって調整可能である。
【0045】
(1)固体電解質層
本発明に用いる固体電解質層は、固体電解質粒子と、固体電解質層用バインダーとを含有し、固体電解質層用バインダーは、上記粒子構造を有するポリマーと水溶性ポリマーとを含むバインダーであることが好ましい。
また、固体電解質層は、固体電解質粒子及び固体電解質層用バインダーを含む固体電解質層用スラリー組成物を、後述する正極活物質層または負極活物質層の上に塗布し、乾燥することにより形成される。固体電解質層用スラリー組成物は、固体電解質粒子、固体電解質層用バインダー、有機溶媒、及び必要に応じて添加される他の成分を混合することにより製造される。
【0046】
(固体電解質粒子)
固体電解質は、粒子状で用いる。固体電解質粒子は、粉砕工程を経たものを用いるため、完全な球形ではなく、不定形である。一般に微粒子の大きさは、レーザー光を粒子に照射し散乱光を測定する方法などにより測定されるが、この場合の粒子径は1個の粒子としては形状を球形と仮定した値である。複数の粒子をまとめて測定した場合、相当する粒子径の粒子の存在割合を粒度分布としてあらわすことができる。固体電解質層を形成する固体電解質粒子は、この方法で測定した値で、平均粒子径として示されることが多い。
【0047】
固体電解質層において、イオン伝導の抵抗を小さくすることが、電池性能の向上に有効である。固体電解質層のイオン伝導抵抗は固体電解質粒子の粒子径に大きく影響される。一般に固体電解質粒子内部のイオン移動抵抗は粒子間の移動抵抗よりも小さい。そのため、固体電解質粒子の平均粒子径が所定値以下であると、電解質層内部の空隙が大きくなる結果、イオンの移動抵抗値が大きくなる、という現象を抑えることができる。また、平均粒子径が所定値以上であると、粒子間抵抗が大きくなりすぎたり、固体電解質層用スラリー組成物の粘度が高くなる結果、固体電解質層の厚さ制御が難しくなる、という課題を回避することができる。そこで、平均粒子径を適切な範囲にすることが必要であるが、平均粒子径だけでなく、粒子径の分布状態も特定の範囲に制御することで電池性能が向上する。
【0048】
固体電解質粒子の平均粒子径は、好ましくは0.1〜10μmである。固体電解質粒子の平均粒子径が上記範囲にあることで、分散性及び塗工性の良好な固体電解質層用スラリー組成物を得ることができる。
【0049】
固体電解質粒子は、リチウムイオンの伝導性を有していれば特に限定されないが、結晶性の無機リチウムイオン伝導体、又は非晶性の無機リチウムイオン伝導体を含むことが好ましい。
【0050】
結晶性の無機リチウムイオン伝導体としては、Li
3N、LISICON(Li
14Zn(GeO
4)
4)、ペロブスカイト型Li
0.5La
0.5TiO
3、LIPON(Li
3+yPO
4-xN
x)、Thio−LISICON(Li
3.25Ge
0.25P
0.75S
4)などが挙げられる。
【0051】
非晶性の無機リチウムイオン伝導体としては、S(硫黄原子)を含有し、かつ、イオン伝導性を有するもの(硫化物固体電解粒子)であれば特に限定されるものではない。ここで、本発明における全固体二次電池が、全固体リチウム二次電池である場合、用いられる硫化物固体電解質材料として、Li
2Sと、第13族〜第15族の元素の硫化物とを含有する原料組成物を用いてなるものを挙げることができる。このような原料組成物を用いて硫化物固体電解質材料を合成する方法としては、例えば非晶質化法を挙げることができる。非晶質化法としては、例えば、メカニカルミリング法および溶融急冷法を挙げることができ、中でもメカニカルミリング法が好ましい。メカニカルミリング法によれば、常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
【0052】
上記第13族〜第15族の元素としては、例えばAl、Si、Ge、P、As、Sb等を挙げることができる。また、第13族〜第15族の元素の硫化物としては、具体的には、Al
2S
3、SiS
2、GeS
2、P
2S
3、P
2S
5、As
2S
3、Sb
2S
3等を挙げることができる。中でも、本発明においては、第14族または第15族の硫化物を用いることが好ましい。特に、本発明においては、Li
2Sと、第13族〜第15族の元素の硫化物とを含有する原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質材料は、Li
2S−P
2S
5材料、Li
2S−SiS
2材料、Li
2S−GeS
2材料またはLi
2S−Al
2S
3材料であることが好ましく、Li
2S−P
2S
5材料であることがより好ましい。これらは、Liイオン伝導性が優れているからである。
【0053】
また、本発明における硫化物固体電解質材料は、架橋硫黄を有することが好ましい。架橋硫黄を有することで、イオン伝導性が高くなるからである。さらに、硫化物固体電解質材料が架橋硫黄を有する場合、通常正極活物質との反応性が高く、高抵抗層が生じやすい。なお、「架橋硫黄を有する」ことは、例えば、ラマン分光スペクトルによる測定結果、原料組成比、NMRによる測定結果等を考慮することでも判断することができる。
【0054】
Li
2S−P
2S
5材料またはLi
2S−Al
2S
3材料におけるLi
2Sのモル分率は、より確実に架橋硫黄を有する硫化物固体電解質材料を得ることができる観点から、例えば50〜74%の範囲内、中でも60〜74%の範囲内であることが好ましい。
【0055】
また、本発明における硫化物固体電解質材料は、硫化物ガラスであっても良く、その硫化物ガラスを熱処理して得られる結晶化硫化物ガラスであっても良い。硫化物ガラスは、例えば、上述した非晶質化法により得ることができる。結晶化硫化物ガラスは、例えば、硫化物ガラスを熱処理することにより得ることができる。
【0056】
特に、本発明においては、硫化物固体電解質材料が、Li
2SおよびP
2S
5とからなるLi
7P
3S
11で表される結晶化硫化物ガラスであることが好ましい。Liイオン伝導度が特に優れているからである。Li
7P
3S
11を合成する方法としては、例えば、Li
2SおよびP
2S
5を、モル比70:30で混合し、ボールミルで非晶質化することで、硫化物ガラスを合成し、得られた硫化物ガラスを150℃〜360℃で熱処理することにより、Li
7P
3S
11を合成することができる。
【0057】
固体電解質層用スラリー組成物中のバインダーの含有量は、固体電解質粒子同士の結着性を維持しながら、リチウムの移動を阻害して固体電解質層の抵抗が増大することを抑制できる観点から、固体電解質粒子100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.5〜7質量部、特に好ましくは0.5〜5質量部である。
【0058】
(有機溶媒)
固体電解質層用スラリー組成物を製造するための有機溶媒としては、上記した溶媒交換に用いることのできる有機溶媒として例示したものと同じものを用いることができる。
【0059】
固体電解質層用スラリー組成物中の有機溶媒の含有量は、固体電解質層用スラリー組成物中の固体電解質粒子の分散性を保持しながら、良好な塗料特性を得ることができる観点から、固体電解質粒子100質量部に対して、好ましくは10〜700質量部、より好ましくは30〜500質量部である。
【0060】
固体電解質層用スラリー組成物は、上記成分の他に、必要に応じて添加される他の成分として、分散剤、レベリング剤及び消泡剤の機能を有する成分を含んでいてもよい。これらの成分は、電池反応に影響を及ぼさないものであれば、特に制限されない。
【0061】
(分散剤)
分散剤としてはアニオン性化合物、カチオン性化合物、非イオン性化合物、高分子化合物が例示される。分散剤は、用いる固体電解質粒子に応じて選択される。固体電解質層用スラリー組成物中の分散剤の含有量は、電池特性に影響が及ばない範囲が好ましく、具体的には、固体電解質粒子100質量部に対して10質量部以下である。
【0062】
(レベリング剤)
レベリング剤としてはアルキル系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属系界面活性剤などの界面活性剤が挙げられる。上記界面活性剤を混合することにより、固体電解質層用スラリー組成物を後述する正極活物質層又は負極活物質層の表面に塗工する際に発生するはじきを防止でき、正負極の平滑性を向上させることができる。固体電解質層用スラリー組成物中のレベリング剤の含有量は、電池特性に影響が及ばない範囲が好ましく、具体的には、固体電解質粒子100質量部に対して10質量部以下である。
【0063】
(消泡剤)
消泡剤としてはミネラルオイル系消泡剤、シリコーン系消泡剤、ポリマー系消泡剤が例示される。消泡剤は、用いる固体電解質粒子に応じて選択される。固体電解質層用スラリー組成物中の消泡剤の含有量は、電池特性に影響が及ばない範囲が好ましく、具体的には、固体電解質粒子100質量部に対して10質量部以下である。
【0064】
(2)正極活物質層
正極活物質層は、正極活物質、固体電解質粒子及び正極用バインダーを含む正極活物質層用スラリー組成物を、後述する集電体表面に塗布し、乾燥することにより形成される。正極活物質層用スラリー組成物は、正極活物質、固体電解質粒子、正極用バインダー、有機溶媒及び必要に応じて添加される他の成分を混合することにより製造される。
【0065】
(正極活物質)
正極活物質は、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な化合物である。正極活物質は、無機化合物からなるものと有機化合物からなるものとに大別される。
【0066】
無機化合物からなる正極活物質としては、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物、遷移金属硫化物などが挙げられる。上記の遷移金属としては、Fe、Co、Ni、Mn等が使用される。正極活物質に使用される無機化合物の具体例としては、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、LiMn
2O
4、LiFePO
4、LiFeVO
4などのリチウム含有複合金属酸化物;TiS
2、TiS
3、非晶質MoS
2等の遷移金属硫化物;Cu
2V
2O
3、非晶質V
2O−P
2O
5、MoO
3、V
2O
5、V
6O
13などの遷移金属酸化物が挙げられる。これらの化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。
【0067】
有機化合物からなる正極活物質としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセン、ジスルフィド系化合物、ポリスルフィド系化合物、N−フルオロピリジニウム塩などが挙げられる。正極活物質は、上記の無機化合物と有機化合物の混合物であってもよい。
【0068】
本発明で用いる正極活物質の平均粒子径は、負荷特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点、また、充放電容量が大きい全固体二次電池を得ることができ、かつ正極活物質層用スラリー組成物の取扱い、および正極を製造する際の取扱いが容易である観点から、通常0.1〜50μm、好ましくは1〜20μmである。平均粒子径は、レーザー回折で粒度分布を測定することにより求めることができる。
【0069】
(固体電解質粒子)
固体電解質粒子は、固体電解質層において例示したものと同じものを用いることができる。
【0070】
正極活物質と固体電解質粒子との重量比率は、好ましくは正極活物質:固体電解質粒子=90:10〜50:50、より好ましくは正極活物質:固体電解質粒子=60:40〜80:20である。正極活物質の重量比率がこの範囲であると、正極活物質の重量比率が少なすぎるために、電池内の正極活物質量が低減する結果、電池としての容量低下につながる、という現象を抑えることができる。また、固体電解質粒子の重量比率がこの範囲であると、固体電解質粒子の重量比率が少なすぎるために、導電性が十分に得られず正極活物質を有効に利用することができない結果、電池としての容量低下につながる、という現象を抑えることができる。
【0071】
(正極用バインダー)
正極用バインダーとしては、特に制限はないが、上記粒子構造を有するポリマーと水溶性ポリマーとを含むバインダーを用いることが好ましい。
【0072】
正極活物質層用スラリー組成物中の正極用バインダーの含有量は、電池反応を阻害せずに、電極から正極活物質が脱落するのを防ぐことができる観点から、正極活物質100質量部に対して、好ましくは0.1〜5質量部、より好ましくは0.2〜4質量部である。
【0073】
正極活物質層用スラリー組成物中の有機溶媒及び必要に応じて添加される他の成分は、上記の固体電解質層で例示するものと同様のものを用いることができる。正極活物質層用スラリー組成物中の有機溶媒の含有量は、固体電解質の分散性を保持しながら、良好な塗料特性を得ることができる観点から、正極活物質100質量部に対して、好ましくは20〜80質量部、より好ましくは30〜70質量部である。
【0074】
正極活物質層用スラリー組成物は、上記成分の他に、必要に応じて添加される他の成分として、導電剤、補強材などの各種の機能を発現する添加剤を含んでいてもよい。これらは電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られない。
【0075】
(導電剤)
導電剤は、導電性を付与できるものであれば特に制限されないが、通常、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛などの炭素粉末、各種金属のファイバーや箔などが挙げられる。
【0076】
(補強材)
補強材としては、各種の無機および有機の球状、板状、棒状または繊維状のフィラーが使用できる。
【0077】
(3)負極活物質層
負極活物質層は、負極活物質を含む。
【0078】
(負極活物質)
負極活物質としては、グラファイトやコークス等の炭素の同素体が挙げられる。前記炭素の同素体からなる負極活物質は、金属、金属塩、酸化物などとの混合体や被覆体の形態で利用することも出来る。また、負極活物質としては、ケイ素、錫、亜鉛、マンガン、鉄、ニッケル等の酸化物や硫酸塩、金属リチウム、Li−Al、Li−Bi−Cd、Li−Sn−Cd等のリチウム合金、リチウム遷移金属窒化物、シリコン等を使用できる。金属材料の場合は金属箔または金属板をそのまま電極として用いることができるが、粒子状でも良い。
【0079】
この場合、負極活物質層は、負極活物質、固体電解質粒子及び負極用バインダーを含む負極活物質層用スラリー組成物を、後述する集電体表面に塗布し、乾燥することにより形成される。負極活物質層用スラリー組成物は、負極活物質、固体電解質粒子、負極用バインダー、有機溶媒及び必要に応じて添加される他の成分を混合することにより製造される。なお、負極活物質層用スラリー組成物中の固体電解質粒子、有機溶媒及び必要に応じて添加される他の成分は、上記の正極活物質層で例示するものと同様のものを用いることができる。
【0080】
負極活物質が粒子状の場合、負極活物質の平均粒子径は、初期効率、負荷特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、通常1〜50μm、好ましくは15〜30μmである。
【0081】
負極活物質と固体電解質粒子との重量比率は、好ましくは負極活物質:固体電解質粒子=90:10〜50:50、より好ましくは負極活物質:固体電解質粒子=60:40〜80:20である。負極活物質の重量比率がこの範囲であると、負極活物質の重量比率が少なすぎるために、電池内の負極活物質量が低減する結果、電池としての容量低下につながる、という現象を抑えることができる。また、固体電解質粒子の重量比率がこの範囲であると、固体電解質粒子の重量比率が少なすぎるために、導電性が十分に得られず負極活物質を有効に利用することができない結果、電池としての容量低下につながる、という現象を抑えることができる。
【0082】
(負極用バインダー)
負極用バインダーとしては、特に制限はないが、上記粒子構造を有するポリマーと水溶性ポリマーとを含むバインダーを用いることが好ましい。
【0083】
負極活物質が粒子状の場合、負極活物質層用スラリー組成物中の負極用バインダーの含有量は、電池反応を阻害せずに、電極から電極活物質が脱落するのを防ぐことができる観点から、負極活物質100質量部に対して、好ましくは0.1〜5質量部、より好ましくは0.2〜4質量部である。
【0084】
(集電体)
正極活物質層および負極活物質層の形成に用いる集電体は、電気導電性を有しかつ電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されないが、耐熱性を有する観点から、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などの金属材料が好ましい。中でも、正極用としてはアルミニウムが特に好ましく、負極用としては銅が特に好ましい。集電体の形状は特に制限されないが、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものが好ましい。集電体は、上述した正・負極活物質層との接着強度を高めるため、予め粗面化処理して使用するのが好ましい。粗面化方法としては、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシ等が使用される。また、集電体と正・負極活物質層との接着強度や導電性を高めるために、集電体表面に中間層を形成してもよい。
【0085】
(固体電解質層用スラリー組成物の製造)
固体電解質層用スラリー組成物は、上述した固体電解質粒子、固体電解質層用バインダー、有機溶媒及び必要に応じて添加される他の成分を混合して得られる。ここで、固体電解質層用バインダーとして、粒子構造を有するポリマーと水溶性ポリマーとを含有するバインダーを用いることが好ましく、固体電解質層用バインダーとして上記のバインダー組成物を添加することが好ましい。
【0086】
(正極活物質層用スラリー組成物の製造)
正極活物質層用スラリー組成物は、上述した正極活物質、固体電解質粒子、正極用バインダー、有機溶媒及び必要に応じて添加される他の成分を混合して得られる。ここで、正極用バインダーとして、粒子構造を有するポリマーと水溶性ポリマーとを含有するバインダーを用いることが好ましく、正極用バインダーとして上記のバインダー組成物を添加することが好ましい。
【0087】
(負極活物質層用スラリー組成物の製造)
負極活物質層用スラリー組成物は、上述した負極活物質、固体電解質粒子、負極用バインダー、有機溶媒及び必要に応じて添加される他の成分を混合して得られる。ここで、負極用バインダーとして、粒子構造を有するポリマーと水溶性ポリマーとを含有するバインダーを用いることが好ましく、負極用バインダーとして上記のバインダー組成物を添加することが好ましい。
【0088】
上記のスラリー組成物の混合法は特に限定はされないが、例えば、撹拌式、振とう式、および回転式などの混合装置を使用した方法が挙げられる。また、ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、サンドミル、ロールミル、および遊星式混練機などの分散混練装置を使用した方法が挙げられ、固体電解質粒子の凝集を抑制できるという観点からプラネタリーミキサー、ボールミル又はビーズミルを使用した方法が好ましい。
【0089】
(全固体二次電池の製造)
全固体二次電池における正極は、上記の正極活物質層用スラリー組成物を集電体上に塗布、乾燥して正極活物質層を形成して製造される。全固体二次電池における負極は、金属箔を用いる場合はそのまま用いることができる。負極活物質が粒子状である場合は、上記の負極活物質層用スラリー組成物を、正極の集電体とは別の集電体上に塗布、乾燥して負極活物質層を形成して製造される。次いで、形成した正極活物質層または負極活物質層の上に、固体電解質層用スラリー組成物を塗布し、乾燥して固体電解質層を形成する。そして、固体電解質層を形成しなかった電極と、上記の固体電解質層を形成した電極とを貼り合わせることで、全固体二次電池素子を製造する。
【0090】
正極活物質層用スラリー組成物および負極活物質層用スラリー組成物の集電体への塗布方法は特に限定されず、例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗りなどによって塗布される。塗布する量も特に制限されないが、有機溶媒を除去した後に形成される活物質層の厚さが通常5〜300μm、好ましくは10〜250μmになる程度の量である。乾燥方法も特に制限されず、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥が挙げられる。乾燥条件は、通常は応力集中が起こって活物質層に亀裂が入ったり、活物質層が集電体から剥離しない程度の速度範囲の中で、できるだけ早く有機溶媒が揮発するように調整する。更に、乾燥後の電極をプレスすることにより電極を安定させてもよい。プレス方法は、金型プレスやカレンダープレスなどの方法が挙げられるが、限定されるものではない。
【0091】
乾燥温度は、有機溶媒が十分に揮発する温度で行う。具体的には正・負極用バインダーの熱分解なく良好な活物質層を形成することが可能となる観点から、50〜250℃が好ましく、さらには80〜200℃が好ましい。乾燥時間については、特に限定されることはないが、通常10〜60分の範囲で行われる。
【0092】
固体電解質層用スラリー組成物を、正極活物質層又は負極活物質層へ塗布する方法は特に限定されず、上述した正極活物質層用スラリー組成物および負極活物質層用スラリー組成物の集電体への塗布方法と同様の方法により行われるが、薄膜の固体電解質層を形成できるという観点からグラビア法が好ましい。塗布する量も特に制限されないが、有機溶媒を除去した後に形成される固体電解質層の厚さが2〜20μm、好ましくは3〜15μmになる程度の量である。乾燥方法、乾燥条件及び乾燥温度も、上述の正極活物質層用スラリー組成物および負極活物質層用スラリー組成物と同様である。
【0093】
更に、上記の固体電解質層を形成した電極と固体電解質層を形成しなかった電極とを貼り合わせた積層体を、加圧してもよい。加圧方法としては特に限定されず、例えば、平板プレス、ロールプレス、CIP(Cold Isostatic Press)などが挙げられる。加圧プレスする圧力としては、電極と固体電解質層との各界面における抵抗、更には各層内の粒子間の接触抵抗が低くなり良好な電池特性を示す観点から、好ましくは5〜700MPa、より好ましくは7〜500MPaである。なお、プレスにより固体電解質層および活物質層は圧縮され、プレス前よりも厚みが薄くなることがある。プレスを行う場合、本発明における固体電解質層および活物質層の厚みは、プレス後の厚みが前記範囲にあればよい。
【0094】
正極活物質層または負極活物質層のどちらに固体電解質層用スラリー組成物を塗布するかは特に限定されないが、使用する電極活物質の粒子径が大きい方の活物質層に固体電解質層用スラリー組成物を塗布することが好ましい。電極活物質の粒子径が大きいと、活物質層表面に凹凸が形成されるため、スラリー組成物を塗布することで、活物質層表面の凹凸を緩和することができる。そのため、固体電解質層を形成した電極と固体電解質層を形成しなかった電極とを貼り合わせて積層する際に、固体電解質層と電極との接触面積が大きくなり、界面抵抗を抑制することができる。
【0095】
得られた全固体二次電池素子を、電池形状に応じてそのままの状態又は巻く、折るなどして電池容器に入れ、封口して全固体二次電池が得られる。また、必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを電池容器に入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をする事もできる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など何れであってもよい。
【実施例】
【0096】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。各特性は、以下の方法により評価する。なお、本実施例における「部」および「%」は、特に断りのない限り、それぞれ、「質量部」および「質量%」である。
【0097】
<固体電解質層の厚さ測定>
全固体二次電池を所定圧でプレス後、マイクロメーターを用いて電解質層膜厚をランダムに5点計測し、その平均値から算出した。
【0098】
<ゲル分率>
得られた粒子構造を有するポリマーの水分散液を、PTFE製シャーレを用いて乾燥させて、ポリマーのフィルムを作製した。得られたフィルムをTHFに24時間浸漬したのち、200メッシュのSUS金網で濾過した。濾過後の金網を100℃で1時間乾燥し、金網の重量増加分をフィルムの重量で除した値(金網の重量増加/フィルム重量)をゲル分率とした。
【0099】
<粒子径測定>
JIS Z8825−1:2001に準じて、レーザー解析装置(島津製作所社製 レーザー回折式粒度分布測定装置 SALD−3100)により粒子径を測定した。
【0100】
<バインダー水分量の測定>
カールフィッシャー水分計を用いて容量法で測定した。3回繰り返し測定を行いその平均値を測定値とした。
【0101】
<バインダー組成物の保存安定性>
得られたバインダー組成物を500mLのガラス容器に密閉し、23℃で1か月間静置し、沈殿の有無を確認した。目視で沈殿あるいは分離が見られなかったものを「無」、沈殿あるいは分離が見られたものを「有」とした。
【0102】
<電池特性:出力特性>
25℃の恒温槽中で、5セルの全固体二次電池を0.1Cの定電流法によって4.3Vまで充電しその後0.1Cにて3.0Vまで放電し、0.1C放電容量aを求めた。その後0.1Cにて4.3Vまで充電しその後5Cにて3.0Vまで放電し5C放電容量bを求めた。5セルの平均値を測定値とし、5C放電容量bと0.1C放電容量aの電気容量の比(b/a(%))で表される容量保持率を求めた。
【0103】
<電池特性:充放電サイクル特性>
得られた全固体二次電池を用いて、それぞれ25℃ で0.5Cの定電流定電圧充電法という方式で、4.2Vになるまで定電流で充電、その後定電圧で充電し、また0.5Cの定電流で3.0Vまで放電する充放電サイクルを行った。充放電サイクルは100サイクルまで行い、初期放電容量に対する100サイクル目の放電容量の比を容量維持率として求めた。この値が大きいほど繰り返し充放電による容量減が少なく、充放電サイクル特性に優れることを示す。
【0104】
(実施例1)
<粒子構造を有するポリマーの製造>
攪拌機付きガラス容器に、エチルアクリレート47部、ブチルアクリレート47部、ビニルトリメチルシラン5部、架橋剤としてのエチレングリコールジメタクリレート1部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部、イオン交換水150部、および、重合開始剤としての過硫酸カリウム0.5部を添加し、十分に攪拌した後、70℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却を開始し反応を停止して、粒子構造を有するポリマーの水分散液を得た。
そして、得られた水分散液に10wt%のNaOH水溶液を用いてpHを7に調整した。得られたポリマー粒子の体積平均粒子径は199nmであった。得られた粒子構造を有するポリマーの水分散液のゲル分率は97wt%であった。
【0105】
重合反応終了後、pHを7に調整した上記粒子構造を有するポリマーの水分散液の未反応単量体を除去するため、80℃で加熱減圧蒸留を行った。
【0106】
<複合粒子バインダーの製造>
固形分濃度を30wt%に調整した粒子構造を有するポリマーの水分散液に、ポリマーの固形分100部に対し、水溶性ポリマーとしてのポリエチレングリコール(アルドリッチ社製、平均分子量100000)の5%水溶液を固形分相当で0.7部添加し十分に混合した。その後、溶媒を水から有機溶媒に交換するため、キシレンを、粒子構造を有するポリマーの水分散液100gに対して500g添加して加熱減圧蒸留を行なった。
【0107】
溶媒交換するため、粒子構造を有するポリマーの水分散液およびポリエチレングリコール水溶液の混合物にキシレンを添加した段階では、透明な液体と白色の固体が存在する状態であった。この系を脱水し、溶媒交換を行った後は、全体が半透明な液状であり、ポリマー粒子は、水溶性ポリマーと複合した状態で複合粒子を形成し、キシレンに分散した状態となった。なお、得られた複合粒子の数平均粒子径は、400nmであった。また、得られた複合粒子バインダーのキシレン分散液の水分量は25ppmであり、固形分濃度は8.7wt%であった。保存安定性試験で沈殿あるいは分離は見られなかった。
【0108】
<正極活物質層用スラリー組成物の製造>
正極活物質としてコバルト酸リチウム(平均粒子径:11.5μm)100部と、固体電解質粒子としてLi
2SとP
2S
5とからなる硫化物ガラス(Li
2S/P
2S
5=70 mol%/30mol%、平均粒子径が2.2μm)150部と、導電剤としてアセチレンブラック13部と、正極用バインダーとして上述の複合粒子バインダーのキシレン分散液を固形分相当で2部加え、さらに有機溶媒としてキシレンを加えて固形分濃度78%に調整した後にプラネタリーミキサーで60分間混合した。さらにキシレンで固形分濃度74%に調整した後に10分間混合して、正極活物質層用スラリー組成物を調製した。
【0109】
<負極活物質層用スラリー組成物の製造>
負極活物質としてグラファイト(平均粒子径:20μm)100部と、固体電解質粒子としてLi
2SとP
2S
5とからなる硫化物ガラス(Li
2S/P
2S
5=70mol%/30mol%、平均粒子径が2.2μm)50部と、負極用バインダーとして上述の複合粒子バインダーのキシレン分散液を固形分相当で2部加え、さらに有機溶媒としてキシレンを加えて固形分濃度60%に調整した後にプラネタリーミキサーで混合して負極活物質層用スラリー組成物を調製した。
【0110】
<固体電解質層用スラリー組成物の製造>
固体電解質粒子として、Li
2SとP
2S
5とからなる硫化物ガラス(Li
2S/P
2S
5=70mol%/30mol%、平均粒子径が2.2μm)100部と、バインダーとして上述の複合粒子バインダーのキシレン分散液を固形分相当で2部加え、さらに有機溶媒としてキシレンを加えて固形分濃度30%に調整した後にプラネタリーミキサーで混合して固体電解質層用スラリー組成物を調製した。
【0111】
<全固体二次電池の製造>
集電体表面に上記正極活物質層用スラリー組成物を塗布し、乾燥(110℃、20分)させて厚さが50μmの正極活物質層を形成して正極を製造した。また、別の集電体表面に上記負極活物質層用スラリー組成物を塗布し、乾燥(110℃、20分)させて厚さが30μmの負極活物質層を形成して負極を製造した。
【0112】
次いで、上記正極活物質層の表面に、上記固体電解質層用スラリー組成物を塗布し、乾燥(110℃、10分)させて厚さが26μmの固体電解質層を形成した。
【0113】
正極活物質層の表面に積層された固体電解質層と、上記負極の負極活物質層とを貼り合わせ、プレスして全固体二次電池を得た。プレス後の全固体二次電池の厚さは65μmであった。この電池を用いて出力特性及び充放電サイクル特性を評価した。結果を表1に示す。
【0114】
(実施例2)
<粒子構造を有するポリマーの製造>
攪拌機付きガラス容器に、エチルアクリレート45部、ブチルアクリレート45部、ビニルトリメチルシラン10部、架橋剤としてのエチレングリコールジメタクリレート1部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部、イオン交換水150部、および、重合開始剤としての過硫酸カリウム0.5部を添加し、十分に攪拌した後、70℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却を開始し反応を停止して、粒子構造を有するポリマーの水分散液を得た。
そして、得られた水分散液に10wt%のNaOH水溶液を用いてpHを7に調整した。得られたポリマー粒子の体積平均粒子径は230nmであった。得られた粒子構造を有するポリマーの水分散液のゲル分率は98wt%であった。
【0115】
重合反応終了後、pHを7に調整した上記粒子構造を有するポリマーの水分散液の未反応単量体を除去するため、80℃で加熱減圧蒸留を行った。
【0116】
<複合粒子バインダーの製造>
固形分濃度を30wt%に調整した上記粒子構造を有するポリマーの水分散液に、ポリマーの固形分100部に対し、水溶性ポリマーとしてのポリエチレンオキサイド(アルドリッチ社製、平均分子量4000000)の5%水溶液を固形分相当で1部添加し十分に混合した。その後、溶媒を水から有機溶媒に交換するため、キシレンを、粒子構造を有するポリマーの水分散液100gに対して500g添加して加熱減圧蒸留を行なった。得られた複合粒子の数平均粒子径は、280nmであった。また、得られた複合粒子バインダーのキシレン分散液の水分量は38ppmであり、固形分濃度は9.6wt%であった。保存安定性試験で沈殿あるいは分離は見られなかった。
【0117】
上記で得られた複合粒子バインダーのキシレン分散液を用いたこと以外は、実施例1と同様に正極活物質層用スラリー組成物の製造、負極活物質層用スラリー組成物の製造、固体電解質層用スラリー組成物の製造、全固体二次電池の製造を行い、得られた電池を用いて出力特性及び充放電サイクル特性を評価した。結果を表1に示す。
【0118】
(実施例3)
<粒子構造を有するポリマーの製造>
攪拌機付きガラス容器に、エチルアクリレート55部、ブチルアクリレート45部、アクリロニトリル5部、架橋剤としてのエチレングリコールジメタクリレート1部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部、イオン交換水150部、および、重合開始剤としての過硫酸カリウム0.5部を添加し、十分に攪拌した後、70℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却を開始し反応を停止して、粒子構造を有するポリマーの水分散液を得た。
そして、得られた水分散液に10wt%のNaOH水溶液を用いてpHを7に調整した。得られたポリマー粒子の体積平均粒子径は255nmであった。得られた粒子構造を有するポリマーの水分散液のゲル分率は95wt%であった。
【0119】
重合反応終了後、pHを7に調整した上記粒子構造を有するポリマーの水分散液の未反応単量体を除去するため、80℃で加熱減圧蒸留を行った。
【0120】
<複合粒子バインダーの製造>
上記で得られた粒子構造を有するポリマーを用いたこと、および水溶性ポリマーとしてポリエチレンオキサイド(アルドリッチ社製、平均分子量4000000)の5%水溶液を固形分相当で1部用いたこと以外は、実施例1と同様に、複合粒子バインダーの製造を行った。得られた複合粒子の数平均粒子径は、340nmであった。また、得られた複合粒子バインダーのキシレン分散液の水分量は43ppmであり、固形分濃度は7.9wt%であった。保存安定性試験で沈殿あるいは分離は見られなかった。
【0121】
上記で得られた複合粒子バインダーを用いたこと以外は、実施例1と同様に正極活物質層用スラリー組成物の製造、負極活物質層用スラリー組成物の製造、固体電解質層用スラリー組成物の製造、全固体二次電池の製造を行い、得られた電池を用いて出力特性及び充放電サイクル特性を評価した。結果を表1に示す。
【0122】
(実施例4)
<粒子構造を有するポリマーの製造>
攪拌機付きガラス容器に、2−エチルヘキシルアクリレート70部、ブチルアクリレート10部、ビニルトリメチルシラン5部、アクリロニトリル15部、架橋剤としてのエチレングリコールジメタクリレート1部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部、イオン交換水150部、および、重合開始剤としての過硫酸カリウム0.5部を添加し、十分に攪拌した後、70℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却を開始し反応を停止して、粒子構造を有するポリマーの水分散液を得た。
そして、得られた水分散液に10wt%のNaOH水溶液を用いてpHを7に調整した。得られたポリマー粒子の体積平均粒子径は265nmであった。得られた粒子構造を有するポリマーの水分散液のゲル分率は95wt%であった。
【0123】
重合反応終了後、pHを7に調整した上記粒子構造を有するポリマーの水分散液の未反応単量体を除去するため、80℃で加熱減圧蒸留を行った。
【0124】
<複合粒子バインダーの製造>
上記で得られた粒子構造を有するポリマーを用いたこと、および水溶性ポリマーとしてポリエチレンオキサイド(アルドリッチ社製、平均分子量4000000)の5%水溶液を固形分相当で2部用いたこと以外は、実施例1と同様に、複合粒子バインダーの製造を行った。得られた複合粒子の数平均粒子径は、285nmであった。また、得られた複合粒子バインダーのキシレン分散液の水分量は25ppmであり、固形分濃度は8.8wt%であった。保存安定性試験で沈殿あるいは分離は見られなかった。
【0125】
上記で得られた複合粒子バインダーを用いたこと以外は、実施例1と同様に正極活物質層用スラリー組成物の製造、負極活物質層用スラリー組成物の製造、固体電解質層用スラリー組成物の製造、全固体二次電池の製造を行い、得られた電池を用いて出力特性及び充放電サイクル特性を評価した。結果を表1に示す。
【0126】
(比較例1)
実施例3で得られた粒子構造を有するポリマーを用いたこと、および、水溶性ポリマーを用いず複合粒子化しなかったこと以外は、実施例1と同様に粒子状バインダーの製造を行った。得られた粒子状バインダーの数平均粒子径は、255nmであった。また、得られた粒子状バインダーのキシレン分散液の水分量は18ppmであり、固形分濃度は7.9wt%であった。保存安定性試験で沈殿あるいは分離は見られなかった。
【0127】
上記で得られた粒子状バインダーを用いたこと以外は、実施例1と同様に正極活物質層用スラリー組成物の製造、負極活物質層用スラリー組成物の製造、固体電解質層用スラリー組成物の製造、全固体二次電池の製造を行い、得られた電池を用いて出力特性及び充放電サイクル特性を評価した。結果を表1に示す。
【0128】
(比較例2)
実施例3で得られた粒子構造を有するポリマーを固形分で100部と、水溶性ポリマーであるポリエチレンオキサイド(アルドリッチ社製、平均分子量4000000)の粉末1部とをビーズミルを用いて混合し、バインダー混合物の製造を行った。また、得られたバインダー混合物のキシレン分散液の水分量は33ppmであり、固形分濃度は8.0wt%であった。保存安定性試験で沈殿が見られた。
【0129】
上記で得られたバインダー混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様に正極活物質層用スラリー組成物の製造、負極活物質層用スラリー組成物の製造、固体電解質層用スラリー組成物の製造、全固体二次電池の製造を行い、得られた電池を用いて出力特性及び充放電サイクル特性を評価した。結果を表1に示す。
【0130】
【表1】
【0131】
表1に示すように、正極活物質層を有する正極と、負極活物質層を有する負極と、これらの正負極活物質層間に固体電解質層とを有する全固体二次電池であって、粒子構造を有するポリマーと水溶性ポリマーとを含有するバインダーを用いてなる全固体二次電池の出力特性および充放電サイクルは良好であった。