(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の培養皿の底面には、第1の膜のたわみを防止するためのテーパー構造及びケガキ線を有し、及び/又は、前記第2の培養皿の底面には、第2の膜のたわみを防止するためのテーパー構造及びケガキ線を有する、請求項1又は2に記載の細胞培養装置。
前記第1の膜及び前記第2の膜の少なくとも一方が、液体透過性の多孔質膜、又は、気相中で液密性を有し、液相中で半透性を有する半透膜である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の細胞培養装置。
前記肝代謝物の排泄活性は、前記第1細胞培養物における肝細胞間の毛細胆管様構造、及び肝細胞内に蓄積された肝代謝物を排泄する活性である、請求項16に記載の肝細胞培養装置。
前記肝細胞が、ヒト、ラット、サル、類人猿、ネコ、イヌ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ニワトリおよびカモからなる群から選択された肝正常組織、肝がん組織又は幹細胞に由来する培養肝細胞である、請求項16又は17に記載の肝細胞培養装置。
前記第2細胞培養物が、ヒト、ラット、サル、類人猿、ネコ、イヌ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ニワトリおよびカモからなる群から選択された上皮、間充織又は内皮に由来する細胞の培養物である、請求項16〜19のいずれか一項に記載の肝細胞培養装置。
嫌気性細菌培養物と、底面に滅菌濾過膜を備えた、前記嫌気性細菌培養物を収容する第2の培養皿と、小腸由来細胞培養物と、底面に気相中で液密性を有し、液相中で半透性を有する半透膜を備えた、前記小腸由来細胞培養物を収容する第1の培養皿と、酸素供給機構と、を有し、前記嫌気性細菌培養物を前記小腸由来細胞培養物の上に配置し、前記小腸由来細胞培養物を前記酸素供給機構の上に配置し、前記第1の培養皿と前記第2の培養皿が、高さを調節可能な隙間を有した状態で装着されている、ヒト小腸モデル。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一又は対応する符号を付し、重複する説明は省略する。なお、各図における寸法比は、説明のため誇張している部分があり、必ずしも実際の寸法比とは一致しない。
【0011】
[細胞培養装置]
1実施形態において、本発明は、第1の培養皿と、第2の培養皿を有する細胞培養装置であって、前記第1の培養皿は、底面に第1の膜を備え、前記第2の培養皿は、底面に第2の膜を備え、前記第1の培養皿と前記第2の培養皿が、隙間の高さを調節可能な状態で装着されている、細胞培養装置を提供する。
【0012】
図1(a)〜(b)は、本実施形態の細胞培養装置の一例の構造を説明する模式図である。
図1(a)は、本実施形態の細胞培養装置の斜視図であり、
図1(b)は、
図1(a)の側面図である。
図1(a)〜(b)に示すように、細胞培養装置1において、第1の培養皿11と、第2の培養皿12が、隙間の高さを調節可能な状態で装着されている。
図1(c)は、細胞培養装置1において、第2の培養皿12が、最も下方に位置する状態から、第2の培養皿12が第1の培養皿11から引き上げられた状態へ変化させたときの側面図である。
図1(c)に示すように、第2の培養皿12が第1の培養皿11から引き上げられることにより、隙間13が生じる。隙間13の高さは、第1の培養皿11と第2の培養皿12との距離を調節することにより調節可能であり、例えば0cm〜1cmが好ましく、0cm〜0.5cmがより好ましい。隙間13の高さは、細胞培養装置1の用途に応じて、例えば、封入する細胞の体積に応じて調節可能である。
【0013】
図1(d)は、第1の培養皿11の側面図である。
図1(d)において、第1の培養皿11は、内周面に雌ねじが切られており、雌ねじ構造を有している。
図1(e)は、第1の培養皿11の上面図である。
図1(e)において、第1の培養皿11は、底面に第1の膜111を有している。
【0014】
図1(f)は、第2の培養皿12の側面図である。
図1(f)において、第2の培養皿12は、外周面に雄ねじが切られており、雄ねじ構造を有している。
図1(g)は、第2の培養皿12の上面図である。
図1(g)において、第2の培養皿12は、底面に第2の膜121を有している。
【0015】
第1の培養皿11と第2の培養皿12の間に生じる隙間の高さを調節する手段として、雄ねじ構造の根元にシリコンO-リング、金属ワッシャー、又は環状ナイロン膜等を装着した後に雌ねじと螺着してもよい。
第1の培養皿11と第2の培養皿12の間は、高さを調節可能な隙間を有した状態で装着されていればよく、係合又は嵌合により装着されていることが好ましい。
図1(a)〜(b)では、第1の培養皿11と第2の培養皿12が、螺着により装着されているが、装着機構は問わず、テーパー構造を介して装着されていてもよい。
【0016】
第1の培養皿11及び第2の培養皿12の外径は、略同一が好ましい。外径は、6mm〜100mmが好ましく、10mm〜60mmがより好ましく、14mm〜30mmがさらに好ましい。第1の培養皿11の内径は、2mm〜96mmが好ましく、6mm〜56mmがより好ましく、10mm〜26mmがさらに好ましい。第2の培養皿12の内径は、1mm〜80mmが好ましく、2mm〜40mmがより好ましく、3mm〜25mmがさらに好ましい。
また、細胞培養装置1の高さは、0.5cm〜10cmが好ましく、1cm〜5cmがより好ましい。
【0017】
本実施形態の細胞培養装置1の内部容積は、培養液に懸濁した細胞を注入でき、インビトロ試験系で用いられる多細胞構造体を構築することができる程度のスモールスケールであればよい。具体的には、例えば、10mL以下が好ましく、10μL〜5mLがより好ましく、15μL〜2mLがさらに好ましく、20μL〜1mLが特に好ましい。内部容積が上記上限値以下であることにより、十分に酸素、及び培養液の栄養分が供給され、細胞を効率よく長期間に渡り培養することができる。また、内部容積が上記下限値以上であることにより、インビトロ試験系で用いるのに十分な細胞数及び細胞密度の細胞を得ることができる。
【0018】
本明細書において、「多細胞構造体」とは、複数の細胞が細胞−基質間の結合、及び細胞−細胞間の結合を形成した単層細胞又は多層細胞からなる3次元構造体を意味する。本実施形態における多細胞構造体は、1種類以上の機能細胞と、その足場の役割を果たす基質により構成されている。すなわち、本実施形態における多細胞構造体は、複数の機能細胞と基質とが相互作用することで、より生体内の組織又は器官に類似した形態を構築しているものである。したがって、多細胞構造体には、血管及び/又は胆管等の毛細管網様構造が3次元的に構築されていてもよい。このような毛細管網様構造は、多細胞構造体の内部にのみ形成されていてもよく、少なくともその一部が多細胞構造体の表面又は底面に露出されるように形成されていてもよい。
【0019】
第1の培養皿11は、側面において、細胞を封入する際に必要な隙間の高さに孔112を有することが好ましい(
図1(b)参照。)。第1の培養皿11に細胞懸濁液を添加した後、第2の培養皿12を装着させていく際に、孔112から余計な培養液を放出させることができる。
【0020】
第1の培養皿11及び第2の培養皿12に用いられる膜としては、例えば、多孔質膜が挙げられる。
【0021】
本明細書において、「多孔質膜」とは、細孔を多数有する膜を意味し、空隙を有する膜、細孔と空隙とを有する膜も包含する。
本実施形態の細胞培養装置に用いられる液体透過性の多孔質膜としては、内部に封入された細胞が外部に透過しない程度の孔を有する膜であればよく、特別な限定はない。多孔質膜としては、例えば、濾紙、半透膜(例えば、限外濾過膜等)、不織布、ガーゼ様メッシュ、各種メンブレンフィルター等が挙げられ、これらに限定されない。
【0022】
また、本実施形態における多孔質膜の細孔の大きさとしては、例えば0.01μm〜1,500μmが好ましく、例えば0.01μm〜1.0μmが好ましく、例えば0.01μm〜0.45μmが好ましい。細孔の大きさは、内部に封入する細胞等の大きさに応じて適宜選択すればよい。
【0023】
中でも、本実施形態における多孔質膜は、気相中で液密性を有し、液相中で半透性を有する半透膜であることが好ましい。半透膜は、気相中で液密性を有するため、例えば、本実施形態の細胞培養装置の内部に培養液等の液体を含んでいる場合に、気相中において、液体が漏れず、内部に保つことができる。この液密性は、半透膜上での表面張力によるものである。一方、気体を通すことができるため、内部に液体を含む場合、内部の液体は経時的に蒸発する。
【0024】
本実施形態に用いられる半透膜は、例えば、分子量約1,000,000以下の高分子化合物を透過することができるものであればよく、例えば、分子量約200,000以下の分子化合物を透過することができるものであればよい。
【0025】
本明細書において、「液密性」とは、液体が漏れない状態を意味する。
また、本明細書において、「半透性」とは、一定の分子量以下の分子又はイオンのみを透過可能な性質を意味し、「半透膜」とは、当該性質を有する膜である。
【0026】
多孔質膜の材料としては、細胞毒性の無いものが好ましく、天然高分子化合物であってもよく、合成高分子化合物であってもよい。また、多孔質膜が半透膜である場合、その材料としては、生体適合性を有する材料であることが好ましい。
なお、本明細書において、「生体適合性」とは、生体組織と材料との適合性を示す評価基準を意味する。また、「生体適合性を有する」とは、材料それ自体が毒性を有さず、内毒素等の微生物由来の成分を有さず、生体組織を物理的に刺激することなく、生体組織を構成するタンパク質や細胞等と相互作用しても拒絶されない状態を意味する。
【0027】
天然高分子化合物としては、例えば、ゲル化する細胞外マトリックス由来成分、多糖類(例えば、アルギネート、セルロース、デキストラン、プルラン(pullulane)、ポリヒアルロン酸、及びそれらの誘導体等)、キチン、ポリ(3−ヒドロキシアルカノエート)(特に、ポリ(β−ヒドロキブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシオクタノエート))、ポリ(3−ヒドロキシ脂肪酸)、フィブリン、寒天、アガロース等が挙げられ、これらに限定されない。
セルロースには、合成により改質されたものも含み、例えば、セルロース誘導体(例えば、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、ニトロセルロース、キトサン等)等が挙げられる。より具体的なセルロース誘導体としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、カルボキシメチルセルロース、セルローストリアセテート、セルローススルフェートナトリウム塩等が挙げられる。
【0028】
中でも、前記天然高分子化合物としては、優れた保水性を有することから、ゲル化する細胞外マトリックス由来成分、フィブリン、寒天、又はアガロースが好ましい。
ゲル化する細胞外マトリックス由来成分としては、例えば、コラーゲン(I型、II型、III型、V型、XI型等)、マウスEHS腫瘍抽出物(IV型コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン等を含む)より再構成された基底膜成分(商品名:マトリゲル)、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、プロテオグリカン、ゼラチン等が挙げられ、これらに限定されない。それぞれのゲル化に至適な塩等の成分、その濃度、pH等を選択し多孔質膜(特に、半透膜)を作製することが可能である。また、原料を組み合わせることで、様々な生体内組織を模倣した多孔質膜(特に、半透膜)を得ることができる。
【0029】
本実施形態における多孔質膜の材料が、細胞外マトリックス由来成分である場合に、細胞外マトリックス由来成分を多孔質膜(特に、半透膜)の単位面積1cm
2あたり0.1mg〜10.0mg含有することが好ましく、0.5mg〜5.0mg含有することがより好ましい。特に、細胞外マトリックス由来成分がアテロコラーゲンである場合、アテロコラーゲンを多孔質膜(特に、半透膜)の単位面積1cm
2あたり0.5mg〜10.0mg含有することが好ましく、1cm
2あたり2.5mg〜5.0mg含有することがより好ましい。
多孔質膜(特に、半透膜)における細胞外マトリックス由来成分(特に、アテロコラーゲン)の含有量が上記範囲であることにより、細胞を培養するより好ましい強度とすることができる。
なお、「該膜の単位面積1cm
2あたりの重量」とは、膜の厚さを任意として、該材料片1cm
2あたりに含有される成分の重量を指す。
【0030】
合成高分子化合物としては、例えば、ポリホスファゼン、ポリ(ビニルアルコール)、ポリアミド(例えば、ナイロン等)、ポリエステルアミド、ポリ(アミノ酸)、ポリ無水物、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリアクリレート(アクリル樹脂)、ポリアルキレン(例えば、ポリエチレン等)、ポリアクリルアミド、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール等)、ポリアルキレンオキシド(例えば、ポリエチレンオキシド等)、ポリアルキレンテレフタレート(例えば、ポリエチレンテレフタレート等)、ポリオルトエステル、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリビニルハライド、ポリビニルピロリドン、ポリエステル、ポリシロキサン、ポリウレタン、ポリヒドロキシ酸(例えば、ポリラクチド、ポリグリコリド等)、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、ポリ(ヒドロキシ吉草酸)、ポリ[ラクチド−co−(ε−カプロラクトン)]、ポリ[グリコリド−co−(ε−カプロラクトン)]等)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、及びこれらのコポリマー等が挙げられ、これらに限定されない。
【0031】
ポリアクリレート(アクリル樹脂)としてより具体的には、例えば、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸イソブチル)、ポリ(メタクリル酸ヘキシル)、ポリ(メタクリル酸イソデシル)、ポリ(メタクリル酸ラウリル)、ポリ(メタクリル酸フェニル)、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸イソプロピル)、ポリ(アクリル酸イソブチル)、ポリ(アクリル酸オクタデシル)等が挙げられる。
【0032】
中でも、合成高分子化合物としては、ポリヒドロキシ酸(例えば、ポリラクチド、ポリグリコリド等)、ポリエチレンテレフタレート、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、ポリ(ヒドロキシ吉草酸)、ポリ[ラクチド−co−(ε−カプロラクトン)]、ポリ[グリコリド−co−(ε−カプロラクトン)]等)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、ポリオルトエステル、又はコポリマーが好ましい。
【0033】
本実施形態における多孔質膜の材料は、上記に例示された材料のうち1種類から構成されていてもよく、2種類以上から構成されていてもよい。また、本実施形態における多孔質膜の材料は、天然高分子化合物又は合成高分子化合物のうちいずれかで構成されていてもよく、天然高分子化合物及び合成高分子化合物の両方から構成されていてもよい。
【0034】
中でも、本実施形態における多孔質膜が半透膜である場合、その材料としては、天然高分子化合物が好ましく、ゲル化する細胞外マトリックス由来成分がより好ましく、コラーゲンがさらに好ましい。また、コラーゲンの中でもより好ましい原料としては、ネイティブコラーゲン又はアテロコラーゲンを例示できる。
【0035】
また、多孔質膜の構成材料として、ハイドロゲルが挙げられる。本明細書において、「ハイドロゲル」とは、高分子化合物が化学結合によって網目構造をとり、その網目に多量の水を保有した物質を示す。ハイドロゲルとしてより具体的には、天然物高分子化合物や合成高分子化合物の人工素材に架橋を導入してゲル化させたものを意味する。
【0036】
ハイドロゲルには、例えば、上述のゲル化する細胞外マトリックス由来成分、フィブリン、寒天、アガロース、セルロース等の天然高分子化合物、及びポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、poly(II−hydroxyethylmethacrylate)/polycaprolactone等の合成高分子化合物が含まれる。
【0037】
ハイドロゲルを用いた多孔質膜の製造方法としてより具体的には、まず、鋳型に完全にはゲル化していない状態のハイドロゲル(以下、「ゾル」と称することがある。)を配置し、ゲル化を誘導する。
ゾルがコラーゲンゾルである場合、コラーゲンゾルは至適な塩濃度を有するものとして、生理食塩水、PBS(Phosphate Buffered Saline)、ハンクス平衡塩類溶液(Hank’s Balanced Salt Solution:HBSS)、基礎培養液、無血清培養液、血清含有培養液等を用いて、調製したものを用いればよい。また、ゲル化の際のコラーゲンゾルのpHは、例えば6以上8以下であればよい。
特に無血清培養液を用いる場合、他動物血清成分中に含まれる移植に適さない物質(例えば、抗原、病原因子等)が多孔質膜に含まれることを回避できるため、細胞培養装置で培養した細胞を移植に用いる場合に好適な多細胞構造体を得ることができる。
【0038】
また、コラーゲンゾルの調製は例えば4℃程度で行えばよい。その後、ゲル化する際の保温は、用いるコラーゲンの動物種に依存したコラーゲンの変性温度より低い温度とすればよく、一般的には20℃以上37℃以下の温度で保温することで数分から数時間でゲル化を行うことができる。
【0039】
また、多孔質膜を作製するためのコラーゲンゾルの濃度は、0.1%〜1.0%が好ましく、0.2%〜0.6%がより好ましい。コラーゲンゾルの濃度が上記下限値以上であることにより、ゲル化が弱すぎず、また、コラーゲンゾルの濃度が上記上限値以下であることにより、均一なコラーゲンゲルからなる多孔質膜(特に、半透膜)を得ることができる。
【0040】
さらに、得られたハイドロゲルを乾燥し、ハイドロゲル乾燥体としてもよい。ハイドロゲルを乾燥させることにより、ハイドロゲル内の自由水を完全に除去し、さらに結合水の部分除去を進行させることができる。
【0041】
さらに、得られたハイドロゲル乾燥体をPBSや使用する培養液等で再水和することで、ビトリゲル(登録商標)としてもよい。
このガラス化工程(ハイドロゲル内の自由水を完全に除去した後に、結合水の部分除去を進行させる工程)の期間を長くするほど、再水和した際には透明度、強度に優れたビトリゲル(登録商標)を得ることができる。なお、必要に応じて短期間のガラス化後に再水和して得たビトリゲル(登録商標)をPBS等で洗浄し、再度ガラス化することもできる。
【0042】
乾燥方法としては、例えば、風乾、密閉容器内で乾燥(容器内の空気を循環させ、常に乾燥空気を供給する)、シリカゲルを置いた環境下で乾燥する等、種々の方法を用いることができる。例えば、風乾の方法としては、10℃40%湿度で無菌に保たれたインキュベーターで2日間乾燥させる、若しくは無菌状態のクリーンベンチ内で一昼夜、室温で乾燥する等の方法を例示することができる。
【0043】
なお、本明細書において、「ビトリゲル(登録商標)」とは、従来のハイドロゲルをガラス化(vitrification)した後に再水和して得られる安定した状態にあるゲルのことを指し、本発明者によって、「ビトリゲル(vitrigel)(登録商標)」と命名されている。
また、本明細書においては、ハイドロゲルからなる多孔質膜の製造工程を詳細に説明するにあたり、当該ガラス化工程の直後であり再水和の工程を経ていないハイドロゲルの乾燥体に対しては、単に「ハイドロゲル乾燥体」とした。そして、当該ガラス化工程の後に再水和の工程を経て得られたゲルを「ビトリゲル(登録商標)」として区別して表した。また、そのビトリゲル(登録商標)をガラス化させて得られた乾燥体を「ビトリゲル(登録商標)乾燥体」とした。また、ビトリゲル(登録商標)乾燥体に紫外線照射する工程を施して得られるものを「紫外線照射処理を施したビトリゲル(登録商標)乾燥体」とした。また、「紫外線照射処理を施したビトリゲル(登録商標)乾燥体」に再水和する工程を施して得られるゲルを「ビトリゲル(登録商標)材料」とした。また、ビトリゲル(登録商標)材料をガラス化させて得られた乾燥体を「ビトリゲル(登録商標)材料の乾燥体」とした。従って、「ビトリゲル(登録商標)」及び「ビトリゲル(登録商標)材料」は水和体である。
【0044】
紫外線の照射には、公知の紫外線照射装置を使用することができる。
ビトリゲル(登録商標)乾燥体への紫外線の照射エネルギーは、単位面積あたりの総照射量が、0.1mJ/cm
2〜6000mJ/cm
2以下であることが好ましく、10mJ/cm
2〜4000mJ/cm
2であることがより好ましく、100mJ/cm
2〜3000mJ/cm
2であることがさらに好ましい。総照射量が上記の範囲であることにより、続く再水和工程において得られるビトリゲル(登録商標)材料の透明度及び強度を特に好ましいものとすることができる。
【0045】
本実施形態における多孔質膜の厚さは特に制限されないが、1μm〜1000μmが好ましく、1μm〜500μmがより好ましく、5μm〜300μmがさらに好ましく、10μm〜200μmが特に好ましい。多孔質膜の厚さが上記範囲であることにより、細胞を培養するのより好ましい強度とすることができる。
【0046】
多孔質膜以外の細胞培養装置の材質としては、ソーダ石灰ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、バイコール(登録商標)ガラス、石英ガラス等のガラス材料;ウレタンゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、シリコーン樹脂(例えば、ポリジメチルシロキサン)、フッ素ゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、クロロプレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ポリイソブチレンゴム等のエラストマー材料;ポリ(塩化ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(酢酸ビニル−共−無水マレイン酸)、ポリ(ジメチルシロキサン)モノメタクリレート、環状オレフィンポリマー、フルオロカーボンポリマー、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンイミン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリマーを含むプラスチック;ポリ(酢酸ビニル−共−無水マレイン酸)、ポリ(スチレン−共−無水マレイン酸)、ポリ(エチレン−共−アクリル酸)、又はこれらの誘導体等のコポリマー等が挙げられ、プラスチックが好ましい。また、係るプラスチックはシリコンコートが施されていてもよい。
細胞培養装置の色としては、特に限定されないが、各種顕微鏡を用いて細胞を観察する等の観点から透明色および不透明(遮光)色を適宜選択することが好ましい。また、細胞培養装置には、培養する個々の細胞を識別するための工夫(例
えば、着色、印字等)が施されていてもよい。
【0047】
多孔質膜以外の細胞培養装置の製造方法としては、圧縮成形法、射出成形法、押出成形法等が挙げられ、これらに限定されない。
【0048】
本実施形態の細胞培養装置において、第1の膜及び前記第2の膜の少なくとも一方が、気相中で液密性を有し、液相中で半透性を有する半透膜であることが好ましい。細胞培養装置における膜の組み合わせの一例としては、第1の膜がビトリゲル膜であり、第2の膜がPET等プラスチック膜である組み合わせ、第1の膜がPET等プラスチック膜であり、第2の膜がビトリゲル膜である組み合わせ、第1の膜及び第2の膜ともにビトリゲル膜である組み合わせ、第1の膜が滅菌濾過膜であり、第2の膜がビトリゲル膜である組み合わせ、第1の膜がPET等プラスチック膜であり、第2の膜が滅菌濾過膜である組み合わせ、第1の膜がビトリゲル膜であり、第2の膜が透析膜である組み合わせ、等が挙げられる。滅菌濾過膜としては、0.22μm、0.45μmのものが挙げられる。
また、第1の膜及び第2の膜ともにPET等プラスチック膜である組み合わせも挙げられる。
膜以外の細胞培養装置の材質と膜の材質が同じ場合には、両者が一体化したものとして捉えてもよい。例えば、膜以外の細胞培養装置の材質と膜の材質がPET等プラスチック樹脂である場合、別途PET等プラスチック膜を張らずとも、本発明の範囲内に含まれる。
【0049】
第1の膜111にビトリゲル膜等の半透膜を用いる場合、細胞培養装置1は、第1の膜111を覆う保護部14を有していてもよい(
図2(a)参照。)。保護部14の材質は、上述した膜以外の細胞培養装置の材質と同様のものが挙げられる。保護部14は、第1の膜111との間隙を調節するための雌ねじ構造を有することが好ましい。この間隙には培養液を満たしてもよい。
また、第1の膜111にビトリゲル膜等の半透膜を用いる場合、保護部14を外した状態で、培養液を備えたマルチウエルプレート中に置いてもよい。その際、第1の膜111とマルチウエルプレート中の培養液との接触を促進させる観点から、膜111の外面に、メッシュ等の緩衝部を備えていてもよい。
また、第2の培養皿で細胞を培養する場合には、第2の培養皿を閉塞する蓋部15を有していてもよい(
図2(b)参照。)。蓋部15は、雄ねじ構造を有することが好ましい。雄ねじ構造は、ねじを締める間に、ねじと第2の培養皿の隙間から、圧を逃がすため余計な気体・液体が出ていくような構造であることが好ましい。または、第2の培養皿は、側面において、孔を有していてもよい。
【0050】
また、第1の膜111にビトリゲル膜等の半透膜を用い、細胞培養装置1を培養液を備えたマルチウエルプレート中に置く場合、第1の培養皿は、底面に複数の脚部113を有していてもよい。
図5(a)は、細胞培養装置1を上面側から見た上面図である。脚部113の個数としては、3個以上が好ましく、3個がより好ましい。半透膜を有する培養皿をハンガーを用いてぶら下げる場合、例えば6ウェルプレートの1ウェル中に複数を設置すると、お互いにぶつかり合い、細胞アッセイでは機能しない場合がある。本実施形態においては、例えば6ウェルプレートの1ウェル中に複数安定して設置することができる。
図5(b)は、脚部113の側面図である。
図5(b)に示すように、脚部113との接触面を保護する観点から、脚部113は丸脚であってもよい。
【0051】
また、第1の膜111と第2の膜121に、それぞれビトリゲル膜等の半透膜を用いる場合、
図6に示すように、第1の培養皿11の面11aと第2の培養皿12の面12aは、それぞれテーパー構造を有していることが好ましい(
図6(a)及び(b)参照。)。テーパー構造を有することにより、膜がたわみにくくなり、接着剤がはみ出しにくくなる。さらに、第1の培養皿11の面11aおよび第2の培養皿12の面12aには、第1の膜111および第2の膜121の該膜上に接着剤をはみ出さないように塗布するケガキ線が施されていることが好ましい(
図6(c)及び(d)参照。)。
テーパーの傾斜角度としては、10°以下が好ましく、5°以下がより好ましく、1°以上3°以下が更に好ましく、2°が特に好ましい。ケガキ線は、第1および第2の培養皿の面の内周側と外周側を区別できる位置に施されればよく、内周側と外周側が1:1に区別できる位置が好ましく、内周側と外周側が1:2に区別できる位置がより好ましい。
【0052】
また、本実施形態の細胞培養装置1は、更に、第Nの培養皿(Nは3以上の整数。)を有し、前記第Nの培養皿は、底面に第Nの膜を備え、前記第N−1の培養皿と前記第Nの培養皿が、高さを調節可能な隙間を有した状態で装着されていてもよい。例えば、
図2(c)に示されるように、更に第3の培養皿16を有し、この第3の培養皿16は、底面に第3の膜を備え、第2の培養皿12と第3の培養皿16が高さを調節可能な隙間を有した状態で装着されていてもよい。この場合、例えば、第2の培養皿12は、内周面に雌ねじが切られており、第3の培養皿16は、外周面に雄ねじが切られている。第Nの培養皿(Nは3以上の整数。)と第N−1の培養皿がこのような関係を有することにより、培養皿をタンデムに装着することができる。係る細胞培養装置は、後述する器官型チップ等に好適に用いられる。
【0053】
[培養皿の製造方法]
本実施形態のビトリゲル膜乾燥体が接着された培養皿の製造方法は、1以上の凹部を有し、且つ、前記凹部の底面において、中心部はハイドロゲルに対する吸着性が低い第1の材料で構成され、周縁部はハイドロゲルに対する吸着性が高い第2の材料で構成された台座の凹部にゾルを注入し、ゾルをゲル化させる工程1と、前記工程1で得られたハイドロゲルを台座内に形成された状態で乾燥し、ガラス化させる工程2と、前記工程2で得られたハイドロゲル乾燥体を前記台座内に形成された状態で水和させる工程3と、前記工程3で得られたビトリゲルを前記台座内に形成された状態で乾燥し再度ガラス化させる工程4と、前記工程4で得られたビトリゲル乾燥体のうち前記台座の天面上をわずかに覆う部分を切り離す工程5と、ビトリゲル膜乾燥体と接する側の面の周縁部に接着剤層を有する筒状部材を、台座の凹部に載置した後、台座からビトリゲル膜乾燥体が接着された筒状部材を抜き出す工程6と、をこの順に備える方法である。
【0054】
[台座]
図3は、台座5の斜視図である。台座5は、1以上の凹部5cを有する。この凹部5c内に、ビトリゲル膜乾燥体が製造される。
台座5の凹部5cは、平滑な面を有するビトリゲル膜乾燥体が得られることから、底面が平滑であり、且つ、側面と底面とが互いに垂直になっているものである。
また、凹部5cの横断面の面積としては、所望の大きさのビトリゲル膜乾燥体となるような大きさとすることができ、特別な限定はない。凹部5cの横断面の面積としては、具体的には、例えば4mm
2以上400cm
2以下とすることができ、例えば20mm
2以上40cm
2以下とすることができ、例えば80mm
2以上4cm
2以下とすることができる。
【0055】
また、台座において、凹部5cの深さは、ビトリゲル膜乾燥体の厚さが所望の厚さとなるように適宜調整することができ、1μm以上5mm以下であることが好ましく、5μm以上3mm以下であることがより好ましく、10μm以上2mm以下であることがさらに好ましく、20μm以上1mm以下であることが特に好ましい。
【0056】
また、台座5において、凹部5cの横断面の形状は、ビトリゲル膜乾燥体の形状が所望の形状となるように適宜調整することができ、例えば、三角形、四角形(正方形、長方形、台形含む)、五角形、六角形、七角形、八角形等の多角形;円形、楕円形、略円形、楕円形、略楕円形、半円形、扇形等が挙げられ、これらに限定されない。中でも、凹部5cの横断面の形状は、円形であることが好ましい。
【0057】
また、台座5において、凹部5cの横断面が円形である場合、その径は、ビトリゲル膜乾燥体の径が所望の径となるように適宜調整することができ、例えば2mm以上226mm以下とすることができ、例えば5mm以上72mm以下とすることができ、例えば10mm以上23mm以下とすることができる。
【0058】
また、台座5を構成する材料としては、凹部5cの底面において、中心部5aはハイドロゲルに対する吸着性が低い第1の材料で構成され、周縁部5bはハイドロゲルに対する吸着性が高い第2の材料で構成されている。また、凹部5cの底面の中心部5a以外の部分は全て第2の材料で構成されていてもよい。
ここで、「凹部5cの底面の中心部5a」とは、底面の中心から最短の縁部までの距離のうち、例えば9/10、好ましくは4/5、より好ましくは3/4、さらに好ましくは2/3、特に好ましくは1/2までの位置を意味する。また、「凹部5cの底面の周縁部5b」とは、前記凹部5cの底面の中心部を取り囲む部分を意味する。
【0059】
本明細書において、「ハイドロゲルに対する吸着性が低い材料」とは、ハイドロゲルが全く吸着しない材料又は脱着可能な程度の弱い力で吸着する材料を意味する。
また、本明細書において、「ハイドロゲルに対する吸着性が高い材料」とは、ハイドロゲルが完全に吸着する材料又は脱着できない程度の強い力で吸着する材料を意味する。
【0060】
また、ハイドロゲルがコラーゲン等のタンパク質を含むゲルである場合、ハイドロゲルに対する吸着性が低い材料とは親水性基を表面上に多く有する材料であってもよく、ハイドロゲルに対する吸着性が高い材料とは疎水性基を表面上に多く有する材料であってもよい。前記親水性基及び前記疎水性基の表面上に有する数は、使用するタンパク質を含むハイドロゲルの種類に応じて、適宜調整することができる。
前記親水性基としては、例えば、ホスホリルコリン基、アルキレングリコール基等が挙げられる。
前記疎水性基としては、例えば、直鎖状、分岐鎖状及び環状のアルキル基が挙げられる。アルキル基の炭素数は、例えば1以上20以下であり、例えば4以上20以下である。
【0061】
前記第1の材料として具体的には、例えば、ステンレス鋼、ポリ(塩化ビニル)等が挙げられ、これらに限定されない。
また、第1の材料としては、例えば、シリコン等の剥離剤が積層されたフィルムであってもよい。ビトリゲル膜乾燥体と当該フィルムの剥離剤層が積層された面とが接するように、ビトリゲル膜乾燥体を製造することで、容易にビトリゲル膜乾燥体を引き剥がすことができる。前記フィルムの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリスチレン、ポリプロピレン等が挙げられ、特別な限定はない。
また、第1の材料としては、例えば、シリコン等のオイルを台座の底面上に塗布してなるオイル被膜であってもよい。
【0062】
前記第2の材料として具体的には、例えば、ガラス材料、ポリアクリレート(アクリル樹脂)、ポリスチレン、ナイロン等が挙げられ、これらに限定されない。
前記ガラス材料としてより具体的には、例えば、ソーダ石灰ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、バイコール(登録商標)ガラス、石英ガラス等が挙げられる。
前記ポリアクリレート(アクリル樹脂)としてより具体的には、例えば、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸イソブチル)、ポリ(メタクリル酸ヘキシル)、ポリ(メタクリル酸イソデシル)、ポリ(メタクリル酸ラウリル)、ポリ(メタクリル酸フェニル)、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸イソプロピル)、ポリ(アクリル酸イソブチル)、ポリ(アクリル酸オクタデシル)等が挙げられる。
また、凹部の底面の中心部以外の部分が全て上記例示した第2の材料で構成されていてもよい。
【0063】
また、前記第1の材料は、台座の凹部の底面において、脱着可能に載置されていてもよい。このとき、第1の材料は物理的な引き剥がしによって、簡単に脱着可能な程度の弱い力で、台座の凹部の底面を構成する材料に接着されていることが好ましい。具体的には、第1の材料はPBS等の塩を介して、ピンセット等による物理的な引き剥がしによって簡単に脱着可能な程度の弱い力で、台座の凹部の底面を構成する材料に接着されていてもよい。又は、第1の材料はシリコン等の剥離剤を含有する剥離剤層を介して、ピンセット等による物理的な引き剥がしによって簡単に脱着可能な程度の弱い力で、台座の凹部の底面を構成する材料に接着されていてもよい。
このとき、第1の材料の下に存在する台座の凹部の底面を構成する材料としては、上述の第2の材料と同様のものが挙げられる。
【0064】
<工程1>
まず、台座の凹部にゾルを注入し、ゾルをゲル化させる。
ゾルを保温する温度は、用いるゾルの種類に応じて適宜調整することができる。例えば、ゾルがコラーゲンゾルである場合、ゲル化する際の保温は、用いるコラーゲンの動物種に依存したコラーゲンの変性温度より低い温度とすることができ、一般的には20℃以上37℃以下の温度で保温することで数分から数時間でゲル化を行うことができる。
【0065】
<工程2>
次いで、得られたハイドロゲルを台座内に形成された状態で乾燥し、ガラス化させる。
ハイドロゲルを乾燥させることにより、ハイドロゲル内の自由水を完全に除去し、さらに結合水の部分除去を進行させることができる。
このガラス化工程(ハイドロゲル内の自由水を完全に除去した後に、結合水の部分除去を進行させる工程)の期間を長くするほど、再水和した際には透明度、強度に優れたビトリゲルを得ることができる。なお、必要に応じて短期間のガラス化後に再水和して得たビトリゲルをPBS等で洗浄し、再度ガラス化することもできる。
【0066】
<工程3>
次いで、得られたハイドロゲル乾燥体を台座内に形成された状態で水和させる。このとき、生理食塩水、PBS(Phosphate Buffered Saline)等を用いて、水和させることができる。
【0067】
<工程4>
次いで、得られたビトリゲルを台座内に形成された状態で乾燥し、再度ガラス化させる。
<工程5>
次いで、得られたビトリゲル乾燥体を、例えば筒状のブレード(薄い刃)等を用いて、ビトリゲル乾燥体のうち前記台座の天面上をわずかに覆う部分を切り離す。前記筒状のブレードの横断面は、台座の凹部の横断面より僅かに大きくすることができる。具体的には、筒状のブレードの横断面の面積は、台座の凹部の横断面の面積に対して好ましくは1倍以上1.15倍以下、より好ましくは1倍以上1.1倍以下、さらに好ましくは1倍以上1.07倍以下、特に好ましくは1倍以上1.05倍以下である。
【0068】
また、筒状のブレードの横断面の形状は、台座の凹部の横断面と同一とすることができ、例えば、三角形、四角形(正方形、長方形、台形含む)、五角形、六角形、七角形、八角形等の多角形;円形、楕円形、略円形、楕円形、略楕円形、半円形、扇形等が挙げられ、これらに限定されない。中でも、貫通孔の横断面の形状は、円形であることが好ましい。
【0069】
また、前記筒状のブレードの径は、筒状のブレードの横断面が円形である場合、その径は、台座の凹部の径とほぼ同一とすることができ、例えば2mm以上226mm以下とすることができ、例えば5mm以上72mm以下とすることができ、例えば10mm以上23mm以下とすることができる。
【0070】
<工程6>
次いで、ビトリゲル膜乾燥体と接する側の面の周縁部に接着剤層を有する筒状部材を、台座の凹部に載置した後、台座からビトリゲル膜乾燥体が接着された筒状部材を抜き出す。
接着剤層を構成する接着剤としては、細胞毒性がないものを用いることができ、合成化合物の接着剤であってもよく、天然化合物の接着剤であってもよい。合成化合物の接着剤としては、例えば、ウレタン系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、リン酸カルシウム系接着剤、レジン系セメント等が挙げられる。天然化合物の接着剤としては、例えば、フィブリン糊、ゼラチン糊等が挙げられる。
また、接着剤層は、両面テープからなってもよい。前記両面テープとしては、細胞毒性がないものを用いることができ、医療用途にて用いられているもの等が好適に用いられる。具体的には、例えば、支持体の両面に粘着剤層が積層された構造を有し、前記粘着剤層がゴム系、アクリル系、ウレタン系、シリコン系、ビニルエーテル系の公知の粘着剤からなるもの等が挙げられる。より具体的には、例えば、3Mジャパン社製の皮膚貼付用両面テープ(製品番号:1510、1504XL、1524等)、日東電工社製の皮膚用両面粘着テープ(製品番号:ST502、ST534等)、ニチバンメディカル社製の医療用両面テープ(製品番号:#1088、#1022、#1010、#809SP、#414125、#1010R、#1088R、#8810R、#2110R等)、DIC社製の薄型発泡体基材両面接着テープ(製品番号:#84010、#84015、#84020等)等が挙げられる。
【0071】
工程6で用いる筒状部材とは、[細胞培養装置]における第1の培養皿又は第2の培養皿において、第1の膜又は第2の膜を有しないものである。接着剤層は、第1の培養皿又は第2の培養皿の面に施されたケガキ線の外周側に作製する。
工程1〜6を経て、膜を有する培養皿が製造される。
【0072】
[細胞培養装置の使用方法]
本実施形態の細胞培養装置は後述に示すとおり、細胞の培養以外に、細胞の運搬、組織型チップ、器官型チップ、器官型チップシステム等に使用することができる。
【0073】
本明細書において、「組織」とは、1種類の幹細胞が分化していく一定の系譜に基づいたパターンで集合した構造の単位を示し、全体として一つの役割を有する。例えば、表皮角化細胞は、表皮の基底層に存在する幹細胞が有棘層を経て顆粒層を構成する細胞へと分化し、終末分化して角質層を形成することで、表皮としてのバリア機能を発揮している。よって、本実施形態の組織型チップは、1つの細胞系譜に由来する1種類の細胞を含み多細胞構造体を構築することにより、例えば、上皮組織、結合組織、筋組織、神経組織等を再現することができる。
また、本明細書において、「器官」とは、2種類以上の組織から構成され、全体として一つの機能を担う。よって、本実施形態の器官型チップは、細胞系譜の異なる少なくとも2種類の細胞を含み多細胞構造体を構築することにより、例えば、胃、腸、肝臓、腎臓等を再現することができる。
さらに、本明細書において、「器官系」とは、同じような機能をもった2つ以上の器官や、全体として一連の機能を担う2つ以上の器官のまとまりを示す。よって、本実施形態の器官型チップシステムは、組織型チップ、又は器官型チップを複数組み合わせることにより、例えば、消化器系、循環器系、呼吸器系、泌尿器系、生殖器系、内分泌系、感覚器系、神経系、運動器系、神経系等の器官系を再現することができる。なお、生体はこれらの器官系の相互作用によりホメオスタシスを維持している。本実施形態の器官型チップシステムでは、器官系の異なる器官型チップを複数組み合わせることができるため、器官系の異なる器官の相互作用を解析することも可能となる。例えば、小腸型チップ、肝臓型チップ、神経型チップの順に連結した器官型チップシステムにおいて、小腸型チップに薬剤を添加した場合、小腸型チップで吸収された薬剤が肝臓型チップで代謝され、肝臓型チップで排出された薬剤の肝代謝物が神経型チップに及ぼす毒性等を解析することが可能となる。
【0074】
[細胞の培養方法]
本実施形態の細胞の培養方法は、上述の細胞培養装置を用いる方法である。
本実施形態の培養方法によれば、細胞培養装置の装着機構を利用することにより、例えば、第1の培養皿と第2の培養皿を螺着により装着することにより、容易に細胞を培養し、多細胞構造体を構築することができる。また、細胞を3〜30日程度維持することができ、従来よりも長期間細胞を維持することができる。さらに、本実施形態の培養方法によれば、後述の組織型チップを得ることができる。
【0075】
本実施形態の培養方法において、以下に詳細を説明する。
まず、細胞を懸濁した培養液を準備する。次いで、第1の培養皿にこの懸濁液を注入する。第1の培養皿が、細胞を封入する際に必要な隙間の高さに孔を有している場合には、無菌状態のテープ等で予め孔を塞いでおいてもよい。播種した細胞が、第1の膜と点接着又は面接着したころに、孔を塞いでおいた場合は、テープ等をはがして開孔し、第2の培養皿を装着させ、余分な培養液を孔から排出する。
【0076】
次いで、この細胞培養装置中の細胞を、気相及び/又は液相にて培養し、多細胞構造体を構築させればよい。哺乳動物細胞の培養は、5%CO
2存在下の温度37℃の加湿インキュベータ内で実施する。そのため、気相での培養は、例えば、空のシャーレ等の容器内に細胞を播種した細胞培養装置を設置すればよく、細胞の栄養が枯渇しない程度の時間において細胞培養装置内の培養液を交換すればよい。ビトリゲル等の半透膜を備えた第2の培養皿に細胞を播種する場合には、第2の培養皿を第1の培養皿から引き上げて、隙間を生じさせ、液体を有しない第1の培養皿を気相とすることもできる。
また、液相での培養は、例えば、培養液を含むマルチウエルプレート等の容器を用いて行えばよい。ビトリゲル等の半透膜を備えた第2の培養皿に細胞を播種する場合には、第2の培養皿を第1の培養皿から引き上げて、隙間を生じさせ、培養液で満たされた第1の培養皿を液相とすることもできる。
【0077】
本実施形態の培養方法において用いられる細胞としては、例えば、哺乳動物細胞、鳥類細胞、は虫類細胞、両生類細胞、魚類細胞等の脊椎動物細胞;昆虫細胞、甲殻類細胞、軟体動物細胞、原生動物細胞等の無脊椎動物細胞;グラム陽性細菌(例えば、バチルス種等)、グラム陰性細菌(例えば、大腸菌等)等の細菌:酵母、植物細胞、及びそれらの単一細胞又は複数の細胞から構成される小さな生命個体等が挙げられる。
【0078】
前記小さな生命個体としては、例えば、アメーバ、ゾウリムシ、ミカヅキモ、ハネケイソウ、クロレラ、ミドリムシ、ウチワヒゲムシ等の単細胞生物;ミジンコ、アルテミアの幼生、カイアシ亜網類、貝虫亜綱類、鞘甲亜綱の幼生、コノハエビ亜綱の幼生、フクロエビ上目類の幼生、ホンエビ上目類の幼生等の微小甲殻類動物;プラナリア(細切断後の再生プラナリアも含む)、陸生節足動物の幼生、線形動物、植物の種子(特に、発芽種子)、カルス、プロトプラスト、海洋微生物(例えば、ビブリオ属、シュードモナス属、エロモナス属、アルテロモナス属、フラボバクテリウム属、サイトファーガ属、フレキシバクター属等の海洋細菌、藍藻、クリプト藻、渦鞭毛藻、珪藻、ラフィド藻、黄金色藻、ハプト藻、ユーグレナ藻、プラシノ藻、緑藻等の藻類等)、仔稚魚、仔稚貝等が挙げられ、これらに限定されない。
【0079】
例えば、本実施形態の細胞培養装置を用いて発芽種子を培養する場合において、生分解性材料からなる細胞培養装置を用いて、且つ、その天面の膜は発芽した芽が貫くことができる程度の硬度とすることにより、発芽種子を装置内に入れたものをそのまま土壌に植え込み、植物体を生育することができる。
なお、本明細書において「生分解性材料」とは、土壌中又は水中の微生物等によって無機物に分解される性質を有する材料を意味する。
【0080】
前記脊椎動物細胞(特に、哺乳動物細胞)としては、例えば、生殖細胞(精子、卵子等)、生体を構成する体細胞、幹細胞、前駆細胞、生体から分離されたがん細胞、生体から分離され不死化能を獲得して体外で安定して維持される細胞(細胞株)、生体から分離され人為的に遺伝子改変された細胞、生体から分離され人為的に核が交換された細胞等が挙げられ、これらに限定されない。また、これら細胞の多細胞性球状凝集塊(スフェロイド)を用いてもよい。また、生体の正常組織又はがん組織から分離された小さな組織片を、そのまま細胞塊と同様に用いてもよい。
【0081】
生体を構成する体細胞としては、例えば、皮膚、腎臓、脾臓、副腎、肝臓、肺、卵巣、膵臓、子宮、胃、結腸、小腸、大腸、膀胱、前立腺、精巣、胸腺、筋肉、結合組織、骨、軟骨、血管組織、血液、心臓、眼、脳、神経組織等の任意の組織から採取される細胞等が挙げられ、これらに限定されない。体細胞として、より具体的には、例えば、線維芽細胞、骨髄細胞、免疫細胞(例えば、Bリンパ球、Tリンパ球、好中球、マクロファージ、単球、等)、赤血球、血小板、骨細胞、骨髄細胞、周皮細胞、樹状細胞、表皮角化細胞(ケラチノサイト)、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞、内皮細胞、血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞、肝細胞、膵島細胞(例えば、α細胞、β細胞、δ細胞、ε細胞、PP細胞等)、軟骨細胞、卵丘細胞、グリア細胞、神経細胞(ニューロン)、オリゴデンドロサイト、マイクログリア、星状膠細胞、心筋細胞、食道細胞、筋肉細胞(例えば、平滑筋細胞、骨格筋細胞等)、メラニン細胞、単核細胞等が挙げられ、これらに限定されない。
【0082】
幹細胞とは、自己を複製する能力と他の複数系統の細胞に分化する能力を兼ね備えた細胞である。幹細胞としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞、胚性生殖幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、腸幹細胞、がん幹細胞、毛包幹細胞等が挙げられ、これらに限定されない。
【0083】
前駆細胞とは、前記幹細胞から特定の体細胞又は生殖細胞に分化する途中の段階にある細胞である。
【0084】
がん細胞とは、体細胞から派生して無限の増殖能を獲得した細胞であり、周囲の組織に浸潤し、又は転移を起こす悪性新生物である。がん細胞の由来となる癌としては、例えば、乳癌(例えば、浸潤性乳管癌、非浸潤性乳管癌、炎症性乳癌等)、前立腺癌(例えば、ホルモン依存性前立腺癌、ホルモン非依存性前立腺癌等)、膵癌(例えば、膵管癌等)、胃癌(例えば、乳頭腺癌、粘液性腺癌、腺扁平上皮癌等)、肺癌(例えば、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、悪性中皮腫等)、結腸癌(例えば、消化管間質腫瘍等)、直腸癌(例えば、消化管間質腫瘍等)、大腸癌(例えば、家族性大腸癌、遺伝性非ポリポーシス大腸癌、消化管間質腫瘍等)、小腸癌(例えば、非ホジキンリンパ腫、消化管間質腫瘍等)、食道癌、十二指腸癌、舌癌、咽頭癌(例えば、上咽頭癌、中咽頭癌、下咽頭癌等)、頭頚部癌、唾液腺癌、脳腫瘍(例えば、松果体星細胞腫瘍、毛様細胞性星細胞腫、びまん性星細胞腫、退形成性星細胞腫等)、神経鞘腫、肝臓癌(例えば、原発性肝癌、肝外胆管癌等)、腎臓癌(例えば、腎細胞癌、腎盂と尿管の移行上皮癌等)、胆嚢癌、膵臓癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、卵巣癌(例、上皮性卵巣癌、性腺外胚細胞腫瘍、卵巣性胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍等)、膀胱癌、尿道癌、皮膚癌(例えば、眼内(眼)黒色腫、メルケル細胞癌等)、血管腫、悪性リンパ腫(例えば、細網肉腫、リンパ肉腫、ホジキン病等)、メラノーマ(悪性黒色腫)、甲状腺癌(例えば、甲状腺髄様癌等)、副甲状腺癌、鼻腔癌、副鼻腔癌、骨腫瘍(例えば、骨肉腫、ユーイング腫瘍、子宮肉腫、軟部組織肉腫等)、転移性髄芽腫、血管線維腫、隆起性皮膚線維肉腫、網膜肉腫、陰茎癌、精巣腫瘍、小児固形癌(例えば、ウィルムス腫瘍、小児腎腫瘍等)、カポジ肉腫、AIDSに起因するカポジ肉腫、上顎洞腫瘍、線維性組織球腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、慢性骨髄増殖性疾患、白血病(例えば、急性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病等)等が挙げられ、これらに限定されない。
また、本明細書において、「癌」とは、診断名を表す際に用いられ、「がん」とは、悪性新生物の総称を表す際に用いられる。
【0085】
細胞株とは、生体外での人為的な操作により無限の増殖能を獲得した細胞である。細胞株としては、例えば、HCT116、Huh7、HEK293(ヒト胎児腎細胞)、HeLa(ヒト子宮頸がん細胞株)、HepG2(ヒト肝がん細胞株)、UT7/TPO(ヒト白血病細胞株)、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞株)、MDCK、MDBK、BHK、C−33A、HT−29、AE−1、3D9、Ns0/1、Jurkat、NIH3T3、PC12、S2、Sf9、Sf21、High Five、Vero等が挙げられ、これらに限定されない。
【0086】
本実施形態の培養方法に用いられる動物細胞の培養液は、細胞の生存増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン)等を含む基礎培養液であればよく、細胞の種類により適宜選択することができる。前記培養液としては、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium;DMEM)、Minimum Essential Medium(MEM)、RPMI−1640、Basal Medium Eagle(BME)、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium:Nutrient Mixture F−12(DMEM/F−12)、Glasgow
Minimum Essential Medium(Glasgow MEM)等が挙げられ、これらに限定されない。
また、細菌、酵母、植物細胞、及びそれらの単一細胞又は複数の細胞から構成される小さな生命個体の培養液は、各々の生育に適した組成の培養液を調製すればよい。
【0087】
また、本実施形態の培養方法において、細胞を懸濁する培養液に、細胞外マトリックス由来成分、生理活性物質等を混合し、注入してもよい。
前記細胞マトリックス由来成分としては、上述の「多孔質膜」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
また、前記生理活性物質としては、例えば、細胞増殖因子、分化誘導因子、細胞接着因子等が挙げられ、これらに限定されない。例えば、分化誘導因子を含むことにより、注入する細胞が幹細胞、又は前駆細胞等である場合、該幹細胞、又は前駆細胞を分化誘導し、所望の組織を再現した多細胞構造体を構築させることができる。
【0088】
本実施形態の培養方法において、動物細胞の培養条件としては、培養する細胞の種類により適宜選択することができる。培養温度としては、例えば25℃以上40℃以下であってもよく、例えば30℃以上39℃以下であってもよく、例えば35℃以上39℃以下であってもよい。また、培養環境は、例えば培養液が乾燥しないような加湿インキュベータで約5%のCO
2条件下であってもよい。
培養時間としては、細胞の種類、細胞数等により適宜選択することができ、例えば3日以上30日以下であってもよく、例えば5日以上20日以下であってもよく、例えば7日以上15日以下であってもよい。
また、細菌、酵母、植物細胞、及びそれらの単一細胞又は複数の細胞から構成される小さな生命個体の培養条件は、各々の生育に適した環境や時間を設定すればよい。
【0089】
[細胞の運搬方法]
本実施形態の細胞の運搬方法は、上述の細胞培養装置を用いる方法である。本実施形態の運搬方法によれば、細胞を安全かつ確実に容易に運搬することができ、長期間の運搬にも対応することができる。
本実施形態の運搬方法について、以下に詳細に説明する。
【0090】
まず、細胞を懸濁した培養液を準備する。次いで、上述の第1の培養皿内に細胞を懸濁した培養液を注入する。
このとき、第1の膜、第2の膜ともにPET膜の場合、第1の培養皿を培養液で満たし、第2の培養皿で覆うことが好ましい。
第1の膜がPET膜、第2の膜が滅菌フィルターの場合、第1の培養皿及び第2の培養皿を培養液で満たし、第2の培養皿を蓋部で覆うことが好ましい。
第1の膜がビトリゲル膜、第2の膜が透析膜の場合、第1の培養皿及び第2の培養皿を培養液で満たし、第1の培養皿を保護部で覆い、第2の培養皿を蓋部で覆うことが好ましい(
図2(d)参照。)。また、第1の培養皿と保護部の間隙には培養液を満たしてもよい。係る構造により、細胞培養装置単体で運搬することが可能である。
【0091】
本実施形態の運搬方法において用いられる細胞又は小さな生命個体としては、上述の「細胞の培養方法」において例示されたものと同様のものが挙げられる。また、本実施形態の運搬方法において用いられる培養液としては、上述の「細胞の培養方法」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0092】
細胞培養装置内に封入された細胞は、多細胞構造体が構築される途中の段階であってもよく、多細胞構造体が構築された後であってもよい。中でも、すぐにインビトロ試験系又は生体移植に利用することができることから、本実施形態の運搬方法における細胞培養装置内に封入された細胞は多細胞構造体が構築された後であることが好ましい。
【0093】
運搬する条件としては、運搬する細胞又は小さな生命個体の種類により適宜選択することができる。
運搬時の温度としては、例えば4℃以上40℃以下であってもよく、例えば10℃以上39℃以下であってもよく、例えば18℃以上37℃以下であってもよい。
また、運搬時の環境は、細胞が動物細胞である場合、前記細胞が封入された細胞培養装置が、蓋部および保護部で覆われることなく、培養液が容量一杯まで満たされた密封容器に封入された状態であってもよい。又は、前記細胞が封入された細胞培養装置が、蓋部および保護部で覆われることなく、培養液が容量の一部に満たされた密封容器に封入された状態であって、前記密封容器内の気体部分において、例えば約5%CO
2を含有する空気の条件下であってもよい。
または、第1の培養皿と第2の培養皿で構成される細胞培養装置は、単体で、第1の培養皿に、細胞が培養され、培養液が容量一杯まで満たされ、第1の膜を覆う保護部を有した状態であってもよく、第2の培養皿に、細胞が培養され、培養液が容量一杯まで満たされ、蓋部で、第2の培養皿が閉塞されている状態であってもよく、保護部及び蓋部の両方を有する状態であってもよい。なお、第1の膜を覆う保護部と第1の膜の間隙には培養液を満たすこともできる。
運搬時間としては、細胞の種類、細胞数等により適宜選択することができ、例えば1時間以上30日以下であってもよく、例えば12時間以上7日以下であってもよく、例えば1日以上3日以下であってもよい。
【0094】
[組織型チップ]
本実施形態の組織型チップは、1種類の細胞(特に、動物細胞)を、少なくとも前記第1の培養皿に有する、上述の細胞培養装置を備える。
【0095】
本実施形態の組織型チップは、一から培養モデルを構築する必要がなく、従来の培養モデル、又は動物実験の代替として、各種疾患に対する候補薬剤のスクリーニング、若しくは候補薬剤をはじめとする化学物質の正常な組織に対する動態及び毒性の評価試験系に活用することができる。
さらに、従来の培養モデル又は移植用の再生組織は構築後、即座に使用しなければならず、時間的制約があったのに対し、本実施形態の組織型チップは、長期間培養が可能である。
【0096】
本実施形態の組織型チップに封入された細胞の密度は、構築したい組織の種類により異なるが、2.0×10
3細胞/mL以上1.0×10
9細胞/mL以下であることが好ましく、2.0×10
5細胞/mL以上1.0×10
7細胞/mL以下であることがより好ましい。
細胞密度が上記範囲内であることにより、生体組織により近い細胞密度の組織型チップを得ることができる。
【0097】
本実施形態の組織型チップは、上述の「細胞の培養方法」に記載の方法を用いて、製造することができる。また、製造後の組織型チップの維持条件についても、上述の「細胞の培養方法」に記載の培養条件と同条件とすればよい。また、組織型チップの内部には、培養液や空気等の気体を含んでいてもよく、培養液や空気等の気体を含まなくてもよい。組織型チップ内に培養液や空気等の気体を含まない場合、細胞、又は細胞及び細胞外マトリックス由来成分が密に接着しており、生体内の組織により近しい構成の多細胞構造体を構築している。
【0098】
[器官型チップ]
本実施形態の器官型チップは、種類の異なる細胞を有する培養皿を備えた、細胞培養装置を備える。
【0099】
本実施形態の器官型チップは、一から培養モデルを構築する必要がなく、従来の培養モデル、又は動物実験の代替として、各種疾患に対する候補薬剤のスクーニング、若しくは候補薬剤をはじめとする化学物質の正常な器官に対する動態及び毒性の評価試験系に活用することができる。
さらに、従来の培養モデル又は移植用の再生組織は構築後、即座に使用しなければならず、時間的制約があったのに対し、本実施形態の器官型チップは、長期間培養が可能である。
【0100】
本実施形態の器官型チップに封入された細胞としては、上述の「細胞の培養方法」において例示されたものと同様のものが挙げられる。また、封入された細胞の種類は、少なくとも2種類の細胞が封入されていればよく、構築したい器官の種類に応じて、適宜選択されたものであればよい。
また、本実施形態の器官型チップに封入された細胞は、多細胞構造体が構築される途中の段階であってもよく、多細胞構造体が構築された後であってもよい。本実施形態の器官型チップは、封入された細胞が多細胞構造体を構築した後であっても、3〜21日程度の長期間培養が可能である。
また、例えば、本実施形態の器官型チップにおいて、細胞培養装置の第2の培養皿に上皮系細胞(例えば、表皮角化細胞等)からなる多細胞構造体(すなわち、上皮組織)を封入し、第1の培養皿に間充織細胞(例えば、真皮線維芽細胞等)からなる多細胞構造体(すなわち、間充織組織)を封入することで、細胞培養装置内で組織間での物質の授受を容易に再現することができる。
【0101】
本実施形態の器官型チップに封入される細胞密度、培養方法等は、「組織型チップ」と同様である。
【0102】
本実施形態の器官型チップは、それ自体で、例えば、肝臓、胃、腸等の臓器を再現することができる。さらに、本実施形態の器官型チップを複数組み合わせることにより、例えば、消化器系、循環器系、呼吸器系、泌尿器系、生殖器系、内分泌系、感覚器系、神経系、運動器系、神経系等の器官系を再現することができる。
【0103】
[器官型チップシステム]
本実施形態の器官型チップシステムは、上述の組織型チップ又は上述の器官型チップを少なくとも2つ備え、前記組織型チップ又は前記器官型チップが細胞封入性を保ちながら連結されている。
【0104】
本実施形態の器官型チップシステムは、一から培養モデルを構築する必要がなく、従来の培養モデル、又は動物実験の代替として、各種疾患に対する候補薬剤のスクリーニング、若しくは候補薬剤をはじめとする化学物質の正常な複数の組織や器官に対する動態及び毒性の評価試験等への活用が期待できる。
【0105】
[肝細胞培養装置]
1実施形態において、本発明は、肝代謝物の毛細胆管様構造への蓄積と排泄を促進する肝細胞培養装置であって、複数の肝細胞を含む第1細胞培養物と、前記第1細胞培養物において、肝細胞間に毛細胆管様構造を構築させることができ、底面に生理活性物質を透過可能な膜を備えた、前記第1細胞培養物を収容する第2の培養皿と、前記第1細胞培養物における肝代謝物の排泄活性を上げることができる第2細胞培養物と、前記第2細胞培養物を収容する第1の培養皿と、を有し、前記第1細胞培養物を前記第2細胞培養物の上に配置して共培養し、前記第1の培養皿と前記第2の培養皿が、高さを調節可能な隙間を有した状態で装着されている、肝細胞培養装置を提供する。
【0106】
図4(a)は、本実施形態の肝細胞培養装置2の側面図である。
図4(a)に示すように、肝細胞培養装置2において、第1の培養皿21と、第2の培養皿22が、隙間の高さを調節可能な状態で装着されている。第2の培養皿22は、複数の肝細胞を含む第1細胞培養物221を収容しており、底面に生理活性物質を透過可能な膜222を備えている。第1の培養皿21は、隙間において、第1細胞培養物221における肝代謝物の排泄活性を上げることができる第2細胞培養物211を収容している。
【0107】
本実施形態の肝細胞培養装置において、第一細胞培養物は、複数の肝細胞を含む。前記肝細胞は、ヒト、ラット、サル、類人猿、ネコ、イヌ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ニワトリおよびカモからなる群から選択された肝正常組織、肝がん組織又は幹細胞(ES細胞、iPS細胞、間充織幹細胞等)に由来する培養肝細胞であることが好ましく、ヒトの凍結肝細胞であることがより好ましく、ヒト肝腫瘍由来細胞株であることがさらに好ましく、ヒト肝がん由来細胞株の一つであるHepG2細胞であることが特に好ましく、HepG2−NIAS細胞(RCB4679株)が最も好ましい。
HepG2細胞は、ヒト凍結肝細胞およびヒト肝腫瘍由来細胞株であるHepaRG(登録商標)細胞と比べて安価であり、さらに後述の肝機能迅速賦活化により3日間という短期間でCYP3A4の活性をヒト凍結肝細胞の平均的な活性を発現する分化型HepaRG細胞の2分の1程度まで上げることが可能である。
【0108】
本実施形態の肝細胞培養装置において、生理活性物質を透過可能な膜以外の材質は、[細胞培養装置]のものと同様である。
生理活性物質を透過可能な膜は、[細胞培養装置]で上述したハイドロゲルが好ましく、ビトリゲルがより好ましい。本発明において、「生理活性物質」とは、培養液の成分および培養細胞の生産物質を意味しており、分子量の小さな物質から分子量2万以上の大きな物質まで含まれる。例えば抗生物質をはじめとする各種医薬品、細胞成長因子、分化誘導因子、細胞接着因子、抗体、酵素、サイトカイン、ホルモン、レクチン、またはゲル化しない細胞外マトリックス成分としてファイブロネクチン、エンタクチン、オステオポエチン等が挙げられる。
【0109】
第1細胞培養物において、肝細胞間に毛細胆管様構造を構築させる方法の一例を以下に述べる。使用する第一細胞培養物としては上述した肝細胞であれば構わないが、HepG2細胞を使用した場合について例示する。
【0110】
まず、肝細胞培養装置2において、第2の培養皿22を、最も下方に位置させた後、第2の培養皿22に、第一細胞培養物を培養液に懸濁したものを播種する。生理活性物質を透過可能な膜222は、第1の培養皿21の底面と接しているため、「液相−膜−固相」の状態が形成されている。この状態で細胞がコンフルエントになるまで培養する。用いる細胞によって培養時間は異なるが、例えばHepG2細胞では2日程度培養することが好ましい(
図4(b)参照。)。
本実施形態において、「培養液」とは、通常細胞を培養する際に用いられるものであれば問題なく、例えば、Dulbecco’s Modified Eagle Medium (DMEM)、Minimum Essential Media(MEM)、Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium (IMDM)、Glasgow’s Minimum Essential Medium(GMEM)等が挙げられる。
【0111】
細胞がコンフルエントな状態になった後に、第2の培養皿22を、第1の培養皿21から引き上げ、隙間を形成させる。即ち、「液相−膜−気相」の状態で細胞を更に培養する(
図4(c)参照。)。培養時間は、20時間〜24時間程度が好ましい。
肝機能を賦活化させるために、通常、HepaRG(登録商標)細胞株又はヒトiPS細胞由来肝細胞では10日〜14日時間がかかるのに対し、細胞がコンフルエントな状態、且つ「液相−膜−気相」の状態で細胞を培養することで、例えば、HepG2細胞では3日間という短期間で肝機能が賦活化する。
【0112】
本実施形態において、「肝機能」とは、アルブミン及び尿素の合成能および薬物動態関連の機能、例えば、CYP3A4の活性を示し、アルブミン及び尿素の合成能については、通常のヒト凍結肝細胞と同レベルまで活性化される。さらに、CYP3A4の活性については、ヒト凍結肝細胞の平均的な活性を発現する分化型HepaRG細胞の2分の1程度まで上げられる。
肝機能が賦活化した状態においては、細胞間に毛細胆管様構造およびタイトジャンクションが構築されている。通常、肝細胞は、細胞間がタイトジャンクションにより結合され、細胞間にできた隙間が管状につながり毛細胆管となり、胆管へとつながっている。
肝細胞が賦活化されるプロセスについて、詳細は判明していないが、気相から膜を通して酸素が供給されることにより、高い細胞密度にも関わらず好気的な培養条件下で細胞が良好に成長し、結果的に肝細胞の自己組織化能を培養条件下で十分に引き出すことが可能となったためであると推察される。
【0113】
本実施形態において、第二細胞培養物は、第一細胞培養物における肝代謝物の排泄活性を上げることができるものであれば、通常の培養細胞群、マイトマイシンCで処理したフィーダー細胞群、メタノール等で固定処理した死細胞群、又は通常の培養細胞群の馴化培養液でもよい。例えば、ヒト、ラット、サル、類人猿、ネコ、イヌ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ニワトリおよびカモからなる群から選択された上皮、間充織又は内皮に由来する培養細胞であって、肝内胆管上皮細胞、肝外胆管上皮細胞、血管内皮細胞、線維芽細胞、および、これら細胞の培養上清液などが挙げられる。
前記肝代謝物の排泄活性とは、前記第一細胞培養物における肝細胞間の毛細胆管様構造および肝細胞内に蓄積された肝代謝物を排泄する活性を意味する。
【0114】
第二細胞培養物の一例として、ヒト胆管がん由来細胞株の一つであるTFK−1細胞が挙げられる。例えば、第1の培養皿21にTFK−1細胞を収容し、第2の培養皿22に収容したHepG2細胞と共培養する。
このとき第二細胞培養物であるTFK−1細胞と共培養させていないものと比較して、排泄される肝代謝物の全体量(上側排泄量+下側排泄量)および下側排泄量の割合が増加する。これは、第二細胞培養物を共培養することで、第一細胞培養物において肝細胞間の毛細胆管様構造および肝細胞内に蓄積された肝代謝物の排泄が促進するためである。肝代謝物が胆汁排泄だけでなく尿中排泄されるものである場合には、肝代謝物の排泄は毛細胆管様構造からだけでなく、肝細胞の細胞質からも行われる。
よって、第一細胞培養物を第二細胞培養物とともに共培養することにより、肝細胞の代謝物の排泄量が増加する。
【0115】
本実施形態において、第一細胞培養物を第二細胞培養物とともに共培養する時間は3分以上が好ましく、30分以上がさらに好ましい。また培養物の生育状態の観点から、共培養時間は9日以内が好ましく、2日以内がさらに好ましい。
また、共培養する際の温度条件は、通常細胞培養する際に推奨される温度で問題ないが、下限値は、35℃以上が好ましく、37℃以上がさらに好ましい。上限値は、40℃以下が好ましく、37℃以下がさらに好ましい。
【0116】
本実施形態の肝細胞培養装置によれば、短時間で安価に生体内を反映した環境において肝細胞で代謝された物質を簡便に得ることができる。肝細胞間に構築された毛細胆管様構造へ排泄された肝代謝物についても、肝細胞間のタイトジャンクションを破壊せずに簡便に回収することができる。
【0117】
[ヒト角膜上皮モデル]
1実施形態において、本発明は、複数のヒト角膜上皮細胞を含む第1細胞培養物と、前記第1細胞培養物において、底面に生理活性物質を透過可能な膜を備えた、前記第1細胞培養物を収容する第1の培養皿と、底面に滅菌濾過膜を備えた、第2の培養皿と、を有し、前記第2の培養皿が前記第1の培養皿の上に配置されており、前記第1の培養皿と前記第2の培養皿が、高さを調節可能な隙間を有した状態で装着されている、ヒト角膜上皮モデルを提供する。
【0118】
ヒト角膜上皮細胞としては、特に限定されず、例えば、HCE-T株(RCB2280株)が挙げられる。生理活性物質を透過可能な膜としては、[肝細胞培養装置]と同様のものが挙げられる。
本実施形態のヒト角膜上皮モデルの製造方法としては、まず、培養液を満たした保護部で覆った第1の培養皿に、ヒト角膜上皮細胞を懸濁した培養液を注入し、2日間培養後、第1の培養皿の培養液を除き、第1の培養皿の下側が液相、上側が気相の状態とする。さらに、約4日間培養することでヒト角膜上皮モデルが完成する。
続いて、第1の培養皿に培養液を満たし、第2の培養皿を装着した後、第2の培養皿に培養液を満たし、さらに第2の培養皿に蓋部を装着する。このように細胞培養装置内に構築したヒト角膜上皮モデルは、蓋部と保護部が装着された状態で化粧品会社等へ運搬する。届いたヒト角膜上皮モデルは、蓋部と保護部を外すだけで即座に、評価系に用いることができる。
【0119】
[酸素分圧制御モデル]
1実施形態において、本発明は、底面に第Mの膜を備えた第Mの培養皿(Mは2以上の整数。)と、底面に第M−1の膜を備えた第M−1の培養皿と、酸素発生機構とを有し、前記第Mの培養皿と前記第M−1の培養皿が、高さを調節可能な隙間を有した状態で装着されているか、前記酸素発生機構を介して装着されている、酸素分圧制御モデルを提供する。
【0120】
図7は、本実施形態の酸素分圧制御モデル3の側面図である。酸素分圧制御モデル3において、Mは10であり、10段の培養皿が縦に積み重なっている。本実施形態においては、蓋部31と保護部33を備えており、密封構造をとっている。例えば、酸素分圧制御モデル3が酸素発生機構32を有している場合、酸素分圧は、酸素発生機構32近辺が最も高く、上下方向に進むにしたがって酸素分圧は低くなり、酸素分圧の勾配を形成することができる。
酸素発生機構32としては、酸素を発生するものを有していれば特に限定されず、例えば、化学反応により酸素を発生する試薬を備えた培養皿が挙げられる。
【0121】
[ヒト小腸モデル]
1実施形態において、本発明は、嫌気性細菌培養物と、底面に滅菌濾過膜を備えた、前記嫌気性細菌培養物を収容する第2の培養皿と、小腸由来細胞培養物と、底面に気相中で液密性を有し、液相中で半透性を有する半透膜を備えた、前記小腸由来細胞培養物を収容する第1の培養皿と、酸素供給機構と、を有し、前記嫌気性細菌培養物を前記小腸由来細胞培養物の上に配置し、前記小腸由来細胞培養物を前記酸素供給機構の上に配置し、前記第1の培養皿と前記第2の培養皿が、高さを調節可能な隙間を有した状態で装着されている、ヒト小腸モデルを提供する。
【0122】
図8は、本実施形態のヒト小腸モデル4の側面図である。第2の培養皿42は、底面に滅菌濾過膜を備えており、嫌気性細菌培養物を収容している。滅菌濾過膜としては、例えば、0.22μmの滅菌フィルターが挙げられる。第1の培養皿43は、底面に気相中で液密性を有し、液相中で半透性を有する半透膜を備えており、小腸由来細胞培養物を収容している。
本実施形態において、ヒト小腸モデル4は、蓋部41を備えており、第2の培養皿42は、嫌気条件下にある。嫌気性細菌としては、Staphylococcus(ブドウ球菌、グラム陽性球菌)、Corynebacterium(コリネバクテリウム属、グラム陽性桿菌)、Listeria属(リステリア属、グラム陽性桿菌)、大腸菌(エシェリキア属、グラム陰性桿菌)等が挙げられ、ヒト小腸を再現する観点から大腸菌が好ましい。
第1の培養皿43中の小腸由来細胞としては、特に限定されず、Caco2細胞が挙げられる。小腸由来細胞を培養する点から、第1の培養皿43は好気条件下にある。第1の培養皿43は、その下に酸素供給機構を有している。この酸素供給機構は、空気中の酸素を利用する機構、又は酸素発生機構を備えていることが好ましい。第1の培養皿43が好気条件下にあればよいことから、開放系になっていればよく、底面にビトリゲル膜を有し、開放状態にあるだけでもよい。
近年、腸内細菌叢のバランスが崩れることで、がんや精神疾患が誘発されるとの知見がある。腸の上皮細胞のアピカル側(内腔側)は、細菌叢が存在するため嫌気的であり、上皮細胞の下側は、血管が存在し、赤血球が酸素を運ぶため好気的である。上述のとおり、第2の培養皿42は、嫌気条件下にあり、第1の培養皿43は好気条件下にあり、腸内環境を再現している。
【実施例】
【0123】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0124】
[実施例1]
≪細胞培養装置の製造≫
[ビトリゲル膜の作製法]
ビニール(ユニパック)をφ11mm、φ14mm形に打ち抜き機で打ち抜いた(
図9(a)参照。)。打ち抜いたビニールを70%エタノールが入ったφ60mmペトリディッシュに入れ、10分間浸漬することで殺菌し乾かした(
図9(a)参照。)。
【0125】
70%エタノールをアクリル治具に吹き付けて殺菌し、クリーンベンチ内で乾かした(
図9(b)参照。)。
【0126】
φ11mm、及びφ14mmビニールに両面テープ(はってはがせる両面テープ)を貼り、それをおねじ用めねじ用それぞれの治具A(基材治具)のwell(おねじ用:13.25mm→1.378cm
2,めねじ用:φ16.3mm→2.086cm
2)に貼り付けることで接着させた。6wellすべてにφ11mmビニールとφ14mmビニールを貼り付け、治具A(基材治具)と治具B(貫通治具)を位置決めピンにより合体させネジで固定した(
図10(a)参照。)。しっかり押さえながらパラフィルムで周囲をまいた。
【0127】
(コラーゲンゾルの調製)
氷上でウシ血清含有培養液(10% FBS、20mM HEPES、100units/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシン含有DMEM)3.5mLを50mLコニカルチューブに分注し、次にウシ由来ネイティブコラーゲン溶液(高研、I-AC、コラーゲン濃度0.5%)を3.5mL加えて3回ピペッティングを行い、均一な0.25%のコラーゲンゾルを調製した。おねじ用治具のビニール上にコラーゲンゾル900μLを注いでwell全体に広げてから624μL抜き、well内が276μLになるようにした(
図10(b)参照。)。これを6well全てに行った。
【0128】
氷上でウシ血清含有培養液(10% FBS、20mM HEPES、100units/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシン含有DMEM)3.5mLを50mLコニカルチューブに分注し、次にウシ由来ネイティブコラーゲン溶液(高研、I-AC、コラーゲン濃度0.5%)を3.5mL加えて3回ピペッティングを行い、均一な0.25%のコラーゲンゾルを調製した。めねじ用治具のビニール上にコラーゲンゾル1000μLを注いでwell全体に広げてから583μL抜き、well内が417μLになるようにした(
図11(a)参照。)。これを6well全てに行った。
【0129】
(ゲル化)
作製したサンプルを37℃に設定した5%CO
2インキュベーター内に2時間入れ、ゲル化させた(
図11(b)参照。)。
【0130】
(ガラス化)
ゲル化2時間後、10℃・40%RHに設定した恒温恒湿機庫内の風乾機に入れた(
図12(a)参照。)。
【0131】
(再水和)
ガラス化後、風乾機からサンプルを取り出し、PBSを1mL加えて10分間再水和した(1回目)。10分後PBSを除去し、再びPBSを1mL加えて10分間置いた(2回目)。再度同じ操作(3回目)を繰り返し、PBSを除去し再水和を完了させた(
図12(b)参照。)。
【0132】
(再ガラス化)
再水和後(
図13(a)参照。)、10℃・40%RHに設定した恒温恒湿機庫内の風乾機に入れ再ガラス化した(
図13(b)参照。)。
【0133】
再ガラス化後、風乾機からサンプルを取り出し、打ち抜き刃(φ13.5mm)をおねじ用治具B(貫通治具)から治具A(基材治具) のwell外側上面上へ入れて上からしっかり押して治具Bの貫通内壁面にできたビトリゲルを切り、切れたことを確認したのち、治具Aから治具Bをはずした(
図14(a)参照。)。同様に、打ち抜き刃(φ15.4mm)をめねじ用治具B(貫通治具)から治具A(基材治具) のwell外側上面上に入れ治具Bの貫通内壁面にできたビトリゲルを切り、治具Aから治具Bをはずした(
図14(b)参照。)。
【0134】
(アクリル治具によるねじ式デバイスの作製)
70%エタノール30mlを50mlコニカルチューブに入れ、ねじ式部材(内径 φ7.98mm、外径 φ11mmの環状先端面に2度の傾斜角度とケガキ線を有するおねじ、及び、内径 φ11.3mm、外径 φ14.3mmの環状先端面に2度の傾斜角度とケガキ線を有するめねじ)を入れて何度か振ったのち取り出して乾かした。
【0135】
乾いた各ねじ式部材の環状先端面のケガキ線の外側に接着剤を塗布し、コラーゲンビトリゲル膜乾燥体を作製した治具Aに接着剤を塗布した各ねじ式部材を置き、重石を乗せて貼り付けた(
図15(a)参照。)。
【0136】
乾燥させたのち、治具から各ねじ式部材が接着したコラーゲンビトリゲル膜乾燥体をはがし取った後、周囲にはみ出したコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を切った(
図15(b)参照。)。
【0137】
めねじに脚を取り付けるために、脚3個と脚接着用治具を準備し、両面テープ(薄手発泡体基材防水両面テープ:Nitto Denko Corporation )をφ1mm×3枚に打ち抜いた(
図16(a)参照。)。
【0138】
脚3個にφ1mm両面テープを貼って脚接着用治具に設置し、コラーゲンビトリゲル膜乾燥体を貼っためねじを乗せて脚を貼り付けた(
図16(b)参照。)。
【0139】
おねじと脚を接着しためねじを組み合わせた(
図17(a)参照。)。更に、おねじにシリコンOリングをはめた(
図17(b)参照。)。
以上の工程を経て、底面にコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を貼ったおねじとめねじ構造の培養皿を隙間を有した状態で装着できる細胞培養装置を得た。
【0140】
細胞培養装置、及び細胞培養装置の作製に用いた部材を
図10に示す。
図18(a)は、コラーゲンビトリゲル膜乾燥体を貼る前のおねじのケガキ線付き傾斜角度2度の先端面を示す写真である。
図18(b)は、コラーゲンビトリゲル膜乾燥体を貼る前のめねじのケガキ線付き傾斜角度2度の先端面を示す写真である。
図18(c)は、ケガキ線付き傾斜角度2度の先端面にコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を貼ったおねじとめねじの写真である。
図19(a)は、シリコンOリングを装着したおねじの写真である。
図19(b)は、脚を接着しためねじの写真である。
図19(c)は、シリコンOリングを装着したおねじと、脚を接着しためねじを螺着した細胞培養装置を斜めから見た写真である。
図19(d)は、シリコンOリングを装着したおねじと、脚を接着しためねじを螺着した細胞培養装置を横から見た写真である。
【0141】
[実施例2]
≪細胞培養装置中のコラーゲンビトリゲル膜のたわみ試験≫
傾斜角度なし(0度)および傾斜角度2度の先端面にコラーゲンビトリゲル膜乾燥体を貼った「おねじ」と「めねじ」の撓み試験を行った。具体的には、コラーゲンビトリゲル膜乾燥体をPBSで再水和した後に、おねじ内に0.6mlPBS、めねじ内に0.8mlPBSを注入して側面から観察した。
図20(a)は、傾斜角度なし(0度)のおねじを示し、
図20(b)は、傾斜角度2度のおねじを示す。
図20(c)は、傾斜角度なし(0度)のめねじを示し、
図20(d)は、傾斜角度2度のめねじを示す。
「おねじ」も「めねじ」も傾斜角度なし(0度)の先端面と比較して傾斜角度2度の先端面では、コラーゲンビトリゲル膜のたわみが解消されることが確認された。
第1の培養皿と、第2の培養皿を有する細胞培養装置であって、前記第1の培養皿は、底面に第1の膜を備え、前記第2の培養皿は、底面に第2の膜を備え、前記第1の培養皿と前記第2の培養皿が、高さを調節可能な隙間を有した状態で装着されていることを特徴とする、細胞培養装置。