特許第6835819号(P6835819)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6835819ポリアニオンとエトキシル化カチオン性ポリマーとフィロケイ酸塩とを含有する、酸素バリア性の向上を示すコーティング用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6835819
(24)【登録日】2021年2月8日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】ポリアニオンとエトキシル化カチオン性ポリマーとフィロケイ酸塩とを含有する、酸素バリア性の向上を示すコーティング用組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/02 20060101AFI20210215BHJP
   C08L 33/02 20060101ALI20210215BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20210215BHJP
   C09D 201/02 20060101ALI20210215BHJP
   C09D 133/02 20060101ALI20210215BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20210215BHJP
【FI】
   C08L101/02
   C08L33/02
   C08K3/34
   C09D201/02
   C09D133/02
   C09D7/62
【請求項の数】15
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2018-504723(P2018-504723)
(86)(22)【出願日】2016年7月27日
(65)【公表番号】特表2018-522987(P2018-522987A)
(43)【公表日】2018年8月16日
(86)【国際出願番号】EP2016067918
(87)【国際公開番号】WO2017017146
(87)【国際公開日】20170202
【審査請求日】2019年7月26日
(31)【優先権主張番号】62/198,705
(32)【優先日】2015年7月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエイエスエフ・ソシエタス・エウロパエア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】イーネス ピーチュ
(72)【発明者】
【氏名】コンラート ロシュマン
(72)【発明者】
【氏名】ゲアリー ディーター
(72)【発明者】
【氏名】ミーガン マクガイア
(72)【発明者】
【氏名】ラッセル ケネス フェラー
(72)【発明者】
【氏名】ヨーゼフ ブロイ
(72)【発明者】
【氏名】フセイン カロ
【審査官】 幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−059930(JP,A)
【文献】 特表2008−534727(JP,A)
【文献】 特表2013−517215(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/028191(WO,A1)
【文献】 特表2011−503280(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/00
C09D 133/00
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)アクリル酸のホモポリマー、メタクリル酸のホモポリマー、アクリル酸とマレイン酸とのコポリマー、アクリル酸とメタクリル酸とのコポリマー、メタクリル酸とマレイン酸とのコポリマーとのコポリマー、アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とのコポリマーから選択される少なくとも1種のポリアニオンと、
(b)エトキシル化ビニルイミダゾリウムポリマー、エトキシル化ジアリルジメチルアンモニウムハライドポリマー、エトキシル化ビニルアミンポリマー、エトキシル化エチレンイミンポリマー、エトキシル化ジアルキルアミノアルキルアクリレートポリマー、エトキシル化ジアルキルアミノアルキルメタクリレートポリマー、エトキシル化ジアルキルアミノアルキルアクリルアミドポリマーおよびエトキシル化ジアルキルアミノアルキルメタクリルアミドポリマーから選択される少なくとも1種のエトキシル化カチオン性ポリマーと、
(c)少なくとも1種のフィロケイ酸塩、ここで、前記フィロケイ酸塩は、剥離した有機修飾スメクタイトであり、かつアミノ基およびアンモニウム基から選択される基を少なくとも1つ有する少なくとも1種の有機化合物で表面修飾されている
を含有する水性組成物。
【請求項2】
(a)固形分ベースで10〜80重量%の前記ポリアニオンと、
(b)固形分ベースで10〜80重量%の前記エトキシル化カチオン性ポリマーと、
(c)固形分ベースで5〜75重量%の前記フィロケイ酸塩と
を含む、請求項1記載の水性組成物。
【請求項3】
前記ポリアニオン(a)および前記エトキシル化カチオン性ポリマー(b)は、前記水性組成物に溶解しており、前記ポリアニオン(a)は、無機塩基と1価の有機塩基とからなる群から選択される少なくとも1種の塩基で中和された酸基を含むポリマーであり、前記酸基を含むポリマーは、中和前に少なくとも10000g/モルの重量平均分子量を有し、前記エトキシル化カチオン性ポリマー(b)は、少なくとも2500g/モルの重量平均分子量を有する、請求項1または2記載の水性組成物。
【請求項4】
中和剤を含めずに算出した前記ポリアニオン(a)と前記エトキシル化カチオン性ポリマー(b)との重量比は、10:1〜10:5であり、前記ポリアニオン(a)および前記エトキシル化カチオン性ポリマー(b)の合計と前記フィロケイ酸塩(c)との重量比は、95:5〜50:50である、請求項1から3までのいずれか1項記載の水性組成物。
【請求項5】
前記ポリアニオン(a)は、アクリル酸のホモポリマーを中和したものであるか、またはアクリル酸とマレイン酸とのコポリマーを中和したものであり、前記アニオン性ポリマー(a)の重量平均分子量は、10000〜200000g/モルである、請求項1から4までのいずれか1項記載の水性組成物。
【請求項6】
前記エトキシル化カチオン性ポリマー(b)のエトキシル化度は、CHCHO−単位対それ以外のポリマー成分の重量に基づいて、40:1〜1:10であり、前記エトキシル化カチオン性ポリマー(b)の重量平均分子量は、2500〜3百万g/モルである、請求項1から5までのいずれか1項記載の水性組成物。
【請求項7】
前記フィロケイ酸塩は、400超のアスペクト比を有する天然または合成のフィロケイ酸塩である、請求項1から6までのいずれか1項記載の水性組成物。
【請求項8】
前記フィロケイ酸塩は、式
[Mn/価数inter[MΜIIoct[Sitet10
[式中、
Mは、酸化数1〜3の金属カチオンであるか、またはHであり、
は、酸化数2または3の金属カチオンであり、
IIは、酸化数1または2の金属カチオンであり、
Yは、モノアニオンであり、
酸化数3の金属原子Mのmは、2.0以下であり、かつ
酸化数2の金属原子Mのmは、3.0以下であり、
oは、1.0以下であり、かつ
層電荷nは、0.01以上2.0以下である]の合成スメクタイトであり、かつアミノ基およびアンモニウム基から選択される基を少なくとも1つ有する少なくとも1種の有機化合物で表面修飾されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の水性組成物。
【請求項9】
前記エトキシル化カチオン性ポリマー(b)は、エトキシル化エチレンイミンポリマーである、請求項1からまでのいずれか1項記載の水性組成物。
【請求項10】
請求項1からまでのいずれか1項記載の水性組成物で被覆された高分子フィルム。
【請求項11】
25℃、相対湿度75%で測定した場合に、前記被覆されたフィルムの酸素透過度は、未被覆フィルムの酸素透過度の40%未満である、請求項10記載の高分子フィルム。
【請求項12】
前記高分子フィルムの材料を、ポリエチレンテレフタレート、延伸ポリプロピレン、ポリエチレン、無延伸ポリプロピレン、生分解性脂肪族芳香族コポリエステル、メタライズドポリエチレンテレフタレート、メタライズド延伸ポリプロピレンおよびポリアミドから選択し、乾燥後の前記コーティング層の厚さは、0.2〜50μmである、請求項10または11記載の高分子フィルム。
【請求項13】
請求項10から12までのいずれか1項記載の高分子フィルムを含む包装材。
【請求項14】
酸素バリア性が向上した高分子フィルムの形成方法であって、
請求項1からまでのいずれか1項記載の水性組成物を、高分子フィルムの少なくとも片面に塗布すること、および
前記組成物を乾燥させて、前記高分子フィルム上にバリア性コーティングを形成させること
を含む方法。
【請求項15】
酸素バリア性をもたせるための、請求項1からまでのいずれか1項記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
説明
本発明は、(a)少なくとも1種のポリアニオンと、(b)少なくとも1種のエトキシル化カチオン性ポリマーと、(c)少なくとも1種のフィロケイ酸塩とを含有する水性組成物に関する。該組成物を使用することにより、高分子フィルムに酸素バリア性をもたせることができる。
【0002】
酸化し易い製品や酸素に敏感な製品を包装する際には、使用する包装材が酸素バリア性を示すこと、すなわちこうした包装材が最小限の酸素伝導性や最小限の酸素透過性しか示さないことが重要である。包装材として使用される、例えばポリエチレンのようなポリオレフィン製の高分子フィルムや、延伸ポリプロピレン製の高分子フィルムや、例えばポリエチレンテレフタレートのようなポリエステル製の高分子フィルムを未被覆の形態で使用した場合、こうしたフィルムは一般に、比較的高い酸素透過性を示す。したがって、こうした包装材の酸素バリア性を高めるための様々な手段が提案されている。
【0003】
国際公開第07/002322号(WO 07/002322)には、酸素バリア性を示す被覆された高分子フィルムが記載されている。この被覆組成物は、マレイン酸/アクリル酸コポリマーとビニルアルコール/ビニルアミンコポリマーとの溶液である。被覆処理後に、この被覆組成物のこれら2種のコポリマーは、高分子フィルム上で架橋する。国際公開第98/31719号(WO 98/31719)には、バリア性コーティング用の被覆組成物が記載されている。この組成物は、エチレン性不飽和酸モノマーとポリアミンとを含有し、架橋剤が配合されている。被覆処理後に、ラジカル重合反応の開始によって架橋が生じる。国際公開第2011/023587号(WO 2011/023587)には、高分子フィルム製の包装材に酸素バリア性をもたせるための特定の高分子電解質複合体の使用が記載されている。この高分子フィルムを、予め水中水型乳化重合で生成しておいた高分子電解質複合体の分散体を含有する水性分散液で被覆するか、またはこの高分子フィルムを、アニオン性ポリマーとカチオン性界面活性剤とから生成させた高分子電解質複合体を含有する組成物で被覆するか、またはこの高分子フィルムを、交互に存在する少なくとも3つの相で被覆し、その際それぞれ、隣接する2つの相のうちの一方はアニオン性高分子電解質成分を含み、隣接する2つの相のうちのもう一方はカチオン性高分子電解質成分を含み、交互に存在するこれらの相の互いに隣接する界面上に高分子電解質複合体が生じる。国際公開第2013/182444号(WO 2013/182444)には、酸素バリア性を示す高分子フィルムを製造するためのポリアニオン−ポリエチレンイミン水溶液の使用が記載されている。従来知られている酸素バリア性を示す包装用フィルムを特に高湿度雰囲気で使用する場合は、こうしたフィルムは、まだ十分に満足のいくものとはいえない。例えば、国際公開第2011/023587号(WO 2011/023587)に記載のバリア性コーティングは、このバリア体を湿気から防ぐための追加の防湿系を必要とする。
【0004】
高分子マトリクス内の小板状の無機フィラーからなる高分子/クレイナノコンポジット材は、ガス透過性作用を示すことが知られている(G. Choudalakis, A.D. Gotsis, European Polymer Journal 45 (2009) 967−984)。国際公開第2011/089089号(WO 2011/089089)、国際公開第2012/175427号(WO 2012/175427)および国際公開第2012/175431号(WO 2012/175431)には、フィロケイ酸塩をベースとするバリア材が記載されている。例えば国際公開第2009/130200号(WO 2009/130200)、米国特許出願公開第2004/0225066号明細書(US 2004/0225066)または国際公開第03/055792号(WO 03/055792)には、特定の有機ポリマーと、例えばクレイやナノフィラーといった特定の無機材料とを含む酸素バリア性組成物が記載されている。
【0005】
本発明の一目的は、追加の保護コーティングを必要とすることなく、酸素バリア性が良好であり、特に高湿度環境において酸素バリア性が良好である高分子フィルムの製造を可能にする、改良されたさらなる組成物および方法を提供することであった。
【0006】
本発明は、
(a)少なくとも1種のポリアニオンと、
(b)少なくとも1種のエトキシル化カチオン性ポリマーと、
(c)少なくとも1種のフィロケイ酸塩と
を含有する水性組成物を提供する。
【0007】
本発明はさらに、高分子フィルムに酸素バリア性をもたせるための前記水性組成物の使用を提供する。
【0008】
本発明はさらに、本明細書に記載の本発明による使用によって得られる酸素バリア性コーティングを含む被覆された高分子フィルムであって、前記高分子フィルムの少なくとも片面が本発明による水性組成物で被覆されている、被覆された高分子フィルムを提供する。
【0009】
酸素バリア性は、実施例に記載の透過性試験により測定可能である。酸素バリア性という用語は、未被覆基材と比べて酸素透過度(OTR)が低下していることを意味する。本発明により被覆された高分子フィルムの酸素透過度は、23℃、相対湿度0%で測定した場合に、未被覆高分子フィルムの値の好ましくは20%未満であり、特に10%未満または5%未満であり、例えば1〜3%であり、25℃、相対湿度75%で測定した場合に、未被覆高分子フィルムの値の好ましくは40%未満または30%未満または20%未満である。
【0010】
水性組成物中のポリアニオン(a)の量は、固形分ベースで好ましくは10〜90重量%であり、より好ましくは20〜80重量%である。
【0011】
水性組成物中のエトキシル化カチオン性ポリマー(b)の量は、固形分ベースで好ましくは10〜90重量%であり、より好ましくは20〜80重量%である。
【0012】
水性組成物中のフィロケイ酸塩(c)の量は、固形分ベースで好ましくは5〜75重量%であり、より好ましくは5〜50重量%であり、さらにより好ましくは5〜30重量%である。
【0013】
中和剤を含めずに算出したポリアニオンとエトキシル化カチオン性ポリマーとの重量比は、好ましくは10:1〜10:9であり、より好ましくは10:2〜10:5である。ポリアニオン(a)およびエトキシル化カチオン性ポリマー(b)の合計とフィロケイ酸塩(c)との重量比は、好ましくは95:5〜50:50であり、より好ましくは95:5〜70:30であり、さらにより好ましくは90:10〜75:25である。
【0014】
水性組成物中でのポリアニオンとエトキシル化カチオン性ポリマーとの合計の濃度は、好ましくは少なくとも1重量%であり、特に少なくとも5重量%であり、最高で50重量%または最高で60重量%であり、例えば1〜50重量%または5〜40重量%である。
【0015】
好ましくは、ポリアニオン(a)およびエトキシル化カチオン性ポリマー(b)は、水性組成物に溶解している。好ましくは、ポリアニオンは、無機塩基と1価の有機塩基とからなる群から選択される少なくとも1種の塩基で中和された酸基を含むポリマーであり、この酸基を含むポリマーは、中和前に少なくとも10000g/モルの重量平均分子量を有し、エトキシル化カチオン性ポリマーは、好ましくは少なくとも2500g/モルまたは少なくとも10000g/モルの重量平均分子量を有する。
【0016】
平均分子量は、標準物質としてポリメチルメタクリレートを用いたゲル浸透クロマトグラフィーにより測定可能である(DIN 55672−2:2008:06)。
【0017】
ポリアニオンとは、中和された酸基を含むポリマーであり、アニオン性ポリマーとも呼ばれる。アニオン性ポリマーとは、アニオン性または酸性の基を有するポリマーであり、特にカルボキシレート基、ホスフェート基もしくはスルフェート基または対応する酸基を有する有機ポリマーである。酸基を有する対応するポリマーを本発明による水性組成物において使用した場合に、該ポリマーが1価の塩基により少なくとも部分的に中和されるのであれば、そうしたポリマーも「アニオン性ポリマー」という用語に含まれる。
【0018】
適したアニオン性ポリマーの例としては、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和のアニオン性モノマーのラジカル重合により形成されるポリマーが挙げられる。「アニオン性モノマー」という用語には、アニオン性または酸性の基を少なくとも1つ有するモノマーが含まれ、その際、この酸性の基は、塩基で中和されていてもよい。アニオン性ポリマーの群には、少なくとも1種のアニオン性モノマーと、1種または複数種の異なる非イオン性でかつ非酸性の共重合性モノマーとから生成されるコポリマーも含まれる。ポリアニオンは、例えばエチレン性不飽和酸のエステルなどの酸誘導体のような非イオン性モノマーを1種または複数種重合させ、次いでこれを加水分解させてアニオン性ポリマーを得ることによっても合成可能である。適した非イオン性モノマーは、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート(例えばt−ブチルアクリレート、エチルアクリレートなど)またはエチレン性不飽和酸の無水物、例えば無水マレイン酸であってよい。
【0019】
使用可能なエチレン性不飽和のアニオン性モノマーの例としては、モノエチレン性不飽和のC〜C10もしくはC〜Cのカルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、またはモノエチレン性不飽和スルホン酸、例えばビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、またはモノエチレン性不飽和ホスホン酸、例えばビニルホスホン酸、もしくはアルキル基中に炭素原子を最高で10個有する((メタ)アクリロイルオキシ)アルキルホスホン酸(例えば2−(メタクリロイルオキシ)エチルホスホン酸)、またはアルキル基中に炭素原子を最高で10個有するホスホアルキル(メタ)アクリレート(例えばホスホエチルメタクリレート)、およびこれらの酸の塩、例えばこれらの塩のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアンモニウム塩が挙げられる。これらのアニオン性モノマーのうち好ましく使用されるのは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸および2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸である。特に好ましいのは、アクリル酸をベースとするポリマーの水溶液である。アニオン性モノマーを単独で重合させてホモポリマーを生成させてもよいし、アニオン性モノマーをもう1種のモノマーと混合し、これを重合させてコポリマーを生成させてもよい。これらの例としては、アクリル酸のホモポリマー、メタクリル酸のホモポリマー、アクリル酸とマレイン酸とのコポリマー、アクリル酸とメタクリル酸とのコポリマーおよびメタクリル酸とマレイン酸とのコポリマーが挙げられる。好ましくは、ポリアニオンは、モノエチレン性不飽和C〜C10カルボン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、ビニルホスホン酸およびこれらの酸の塩からなる群から選択されるモノマーからの生成が可能なポリマーから選択され、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸からなる群から選択されるモノマーからの生成が可能なポリマーから選択される。最も好ましくは、ポリアニオンは、ポリアクリル酸であるか、またはアクリル酸とマレイン酸とのコポリマーである。
【0020】
しかし、アニオン性モノマーを、少なくとも1種の他のエチレン性不飽和モノマーの存在下で重合させることも可能である。こうしたモノマーは、非イオン性であってもよいし、カチオン電荷を有していてもよい。非イオン性コモノマーの例としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−C〜C−アルキルアクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、スチレン、炭素原子を1〜20個有する1価のアルコールとアクリル酸とのエステル、例えば特にメチルアクリレート、エチルアクリレート、イソブチルアクリレートおよびn−ブチルアクリレート、炭素原子を1〜20個有する1価のアルコールとメタクリル酸とのエステル、例えばメチルメタクリレートおよびエチルメタクリレート、またさらには酢酸ビニルおよびプロピオン酸ビニルが挙げられる。
【0021】
アニオン性モノマーとの共重合が可能な適切なカチオン性モノマーは、ジアルキルアミノエチルアクリレート、ジアルキルアミノエチルメタクリレート、ジアルキルアミノプロピルアクリレート、ジアルキルアミノプロピルメタクリレート、ジアルキルアミノエチルアクリルアミド、ジアルキルアミノエチルメタクリルアミド、ジアルキルアミノプロピルアクリルアミド、ジアルキルアミノプロピルメタクリルアミド、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ビニルイミダゾール、さらには各塩基性モノマーを酸で中和したものおよび/または4級化させたものである。カチオン性モノマーの個々の例としては、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート、ジエチルアミノプロピルアクリレートおよびジエチルアミノプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、ジエチルアミノエチルアクリルアミドおよびジエチルアミノプロピルアクリルアミドが挙げられる。
【0022】
塩基性モノマーを、完全に中和または4級化させてもよいし、若干の程度でのみ中和または4級化させてもよく、例えばいずれの場合にも1〜99%の程度で中和または4級化させることができる。塩基性モノマーに使用される好ましい4級化剤は、硫酸ジメチルである。しかしこうしたモノマーを、硫酸ジエチルや、例えば塩化メチル、塩化エチルまたは塩化ベンジルといったハロゲン化アルキルを用いて4級化させることもできる。カチオン性モノマーの使用量は、せいぜい、得られるポリマーが有する正味電荷が、pH6.0未満、温度20℃でアニオン性であるような量である。得られる両性ポリマーにおけるアニオン性の電荷の余剰分は、例えば少なくとも5モル%であり、好ましくは少なくとも10モル%である。
【0023】
アニオン性ポリマーの製造において使用される非アニオン性でかつ非酸性のコモノマーの量は、得られるポリマーをpH7.0超で温度20℃で水で希釈した場合にこれが好ましくは水溶性であって、かつアニオン性の正味電荷を有するような量である。重合反応におけるモノマーの全使用量を基準とした場合の、非アニオン性でかつ非酸性のコモノマーの量の例としては、0〜99重量%、好ましくは1〜75重量%の量、または1〜25重量%の範囲の量が挙げられる。
【0024】
好ましいコポリマーの例は、アクリル酸25〜90重量%と、アクリルアミド75〜10重量%とから生成されるコポリマーである。少なくとも1種のエチレン性不飽和C〜Cカルボン酸を、他のモノエチレン性不飽和モノマーの非存在下に重合させることが好ましい。特に好ましいのは、アクリル酸を他のモノマーの非存在下にラジカル重合させることにより得られるアクリル酸のホモポリマーか、またはアクリル酸とマレイン酸とのコポリマーである。
【0025】
一実施形態において、アニオン性ポリマーは、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)を含む。アクリル酸とAMPSとを共重合させることが好ましい。ここで、AMPSの量は、全モノマー量に対して例えば0.1〜15モル%または0.5〜10モル%であってよい。
【0026】
アニオン性ポリマーを製造するための重合反応を、少なくとも1種の架橋剤の存在下で行ってもよい。こうすることで、架橋剤の非存在下にアニオン性モノマーを重合させた場合よりもモル質量の高いコポリマーが得られる。使用する架橋剤は、エチレン性不飽和二重結合を分子内に少なくとも2つ有するいずれの化合物を含んでもよい。架橋剤の例としては、トリアリルアミン、ペンタエリトリトールのトリアリルエーテル、ペンタエリトリトールのテトラアリルエーテル、メチレンビスアクリルアミド、N,N’−ジビニルエチレン尿素、アリル基を少なくとも2つ含むアリルエーテル、またはビニル基を少なくとも2つ有するビニルエーテルが挙げられ、ここで、これらのエーテルは、例えばソルビトール、1,2−エタンジオール、1,4−ブタンジオール、トリメチロールプロパン、グリセロール、ジエチレングリコールといった多価アルコールや、例えばスクロース、グルコース、マンノースといった糖類から誘導されたものであり、他の例としては、炭素原子を2〜4個有する2価のアルコールや、2価のアルコールをアクリル酸またはメタクリル酸で完全にエステル化させたものが挙げられ、例えばエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、ブタンジオールジアクリレート、分子量300〜600のポリエチレングリコールのジアクリル酸エステルもしくはジメタクリル酸エステル、エトキシル化トリメチレンプロパントリアクリレートまたはエトキシル化トリメチレンプロパントリメタクリレート、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)ブタノールトリメタクリレート、ペンタエリトリトールトリアクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレートおよびトリアリルメチルアンモニウムクロリドが挙げられる。本発明の溶液の製造において架橋剤を使用する場合には、架橋剤の各使用量の例としては、重合反応に使用する全モノマーに対して、0.0005〜5.0重量%、好ましくは0.001〜1.0重量%が挙げられるが、ただし、pH7超でポリマーが水溶性のままであることを条件とする。好ましく使用される架橋剤は、ペンタエリトリトールのトリアリルエーテル、ペンタエリトリトールのテトラアリルエーテル、N,N’−ジビニルエチレン尿素、例えばスクロース、グルコースまたはマンノースといった糖類のアリルエーテル(ここで、これらのエーテルは、アリル基を少なくとも2つ含むものとする)およびトリアリルアミン、さらにはこれらの化合物の混合物である。
【0027】
少なくとも1種のアニオン性モノマーを少なくとも1種の架橋剤の存在下で重合させる場合には、ペンタエリトリトールのトリアリルエーテル、ペンタエリトリトールのテトラアリルエーテル、N,N’−ジビニルエチレン尿素、例えばスクロース、グルコースまたはマンノースといった糖類のアリルエーテル(ここで、これらのエーテルは、アリル基を少なくとも2つ含むものとする)およびトリアリルアミン、さらにはこれらの化合物の混合物の存在下でアクリル酸および/またはメタクリル酸を重合させることにより、アクリル酸および/またはメタクリル酸の架橋コポリマーを生成させることが好ましい。好ましくは、重合反応における架橋剤の使用量は、得られるアニオン性ポリマーがpH7.0超の水溶液に可溶であるような程度に制限される。
【0028】
中和前の酸基を含むポリマーの重量平均分子量は、好ましくは少なくとも10000g/モルであり、より好ましくは少なくとも30000g/モルであり、例えば10000〜200000g/モルまたは30000〜150000g/モルである。
【0029】
本発明の一実施形態において、ポリアニオン(a)は、ポリアクリル酸を中和したものであるか、またはアクリル酸とマレイン酸とのコポリマーを中和したものであり、アニオン性ポリマー(a)の重量平均分子量は、10000〜200000g/モルまたは30000〜150000g/モルである。
【0030】
ポリアニオンの酸基を、無機塩基と1価の有機塩基とからなる群から選択される少なくとも1種の塩基で部分的または完全に中和させる。1価の有機塩基とは、単一の塩基性基を有する有機化合物であり、例えば単一のアミノ基を有する有機化合物である。塩基は、例えばNaOH、KOH、Ca(OH)、Ba(OH)、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸三ナトリウム、アンモニアまたは第1級、第2級もしくは第3級の有機アミンである。好ましい塩基は、アンモニア、水酸化ナトリウムおよびトリエタノールアミンである。最も好ましいのは、例えばアンモニアのような揮発性塩基である。
【0031】
ポリアニオンの中和度は、アニオン性ポリマーの酸性基の合計モル量に対して、好ましくは30〜100%であり、より好ましくは50〜100%である。
【0032】
水性組成物は、少なくとも1種のエトキシル化カチオン性ポリマー(b)を含む。カチオン性ポリマーは、好ましくは水溶性であり、すなわちカチオン性ポリマーが示す水への溶解度は、20℃で少なくとも1g/lである。カチオン性ポリマーとは、カチオン性基を有するポリマーであり、特に第4級アンモニウム基を有する有機ポリマーである。本明細書に定義するカチオン性ポリマーには、第1級、第2級または第3級のアミン基を有するポリマーも含まれ、こうしたポリマーを、反応媒体に含まれる酸やアニオン性ポリマーの酸基のいずれかによりプロトン化させることで、カチオン性基へと転化させることができる。カチオン性ポリマーのアミン基またはアンモニウム基は、置換基の形態で存在してもよいし、ポリマー鎖の一部として存在してもよい。カチオン性ポリマーのアミン基またはアンモニウム基は、芳香環系の一部であってもよいし、非芳香環系の一部であってもよい。
【0033】
適切なエトキシル化カチオン性ポリマーの例としては、以下の群のポリマーが挙げられる:
(a)ビニルイミダゾリウム単位を含むエトキシル化ポリマー、
(b)エトキシル化ポリジアリルジメチルアンモニウムハライド、
(c)ビニルアミン単位を含むエトキシル化ポリマー、
(d)エチレンイミン単位を含むエトキシル化ポリマー、
(e)ジアルキルアミノアルキルアクリレート単位を含むエトキシル化ポリマーおよび/またはジアルキルアミノアルキルメタクリレート単位を含むエトキシル化ポリマー、ならびに
(f)ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド単位を含むエトキシル化ポリマーおよび/またはジアルキルアミノアルキルメタクリルアミド単位を含むエトキシル化ポリマー、
(g)イミダゾール単位とエピクロロヒドリン単位とを含むエトキシル化ポリマー。
【0034】
エトキシル化カチオン性ポリマーの例としては、
(a)ビニルイミダゾリウムメトスルフェートのエトキシル化ホモポリマーおよび/またはビニルイミダゾリウムメトスルフェートとN−ビニルピロリドンとのエトキシル化コポリマー、
(b)エトキシル化ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、
(c)エトキシル化ポリビニルアミン、
(d)エトキシル化ポリエチレンイミン、
(e)エトキシル化ポリジメチルアミノエチルアクリレート、エトキシル化ポリジメチルアミノエチルメタクリレート、アクリルアミドとジメチルアミノエチルアクリレートとのエトキシル化コポリマー、およびアクリルアミドとジメチルアミノエチルメタクリレートとのエトキシル化コポリマー、ここで、これらの塩基性モノマーは、鉱酸との塩の形態で存在してもよいし、4級化形態で存在してもよいものとする、ならびに
(f)エトキシル化ポリジメチルアミノエチルアクリルアミド、エトキシル化ポリジメチルアミノエチルメタクリルアミド、およびアクリルアミドとジメチルアミノエチルアクリルアミドとのエトキシル化コポリマー
が挙げられる。
【0035】
塩基性モノマーは、鉱酸との塩の形態で存在してもよいし、4級化形態で存在してもよい。エトキシル化カチオン性ポリマーの重量平均分子量Mは、好ましくは、少なくとも500、または少なくとも1000、または少なくとも2000、または少なくとも2500でかつ、好ましくは3百万まで、または百万まで、好ましくは500000まで、または100000までである。
【0036】
エトキシル化カチオン性ポリマーとして、以下のものを使用することが好ましい:
(a)それぞれ重量平均分子量Mが500〜500000である、ビニルイミダゾリウムメトスルフェートのエトキシル化ホモポリマーおよび/またはビニルイミダゾリウムメトスルフェートとN−ビニルピロリドンとのエトキシル化コポリマー、
(b)重量平均分子量Mが1000〜500000であるエトキシル化ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、
(c)重量平均分子量Mが500〜百万であるエトキシル化ポリビニルアミン、および
(d)重量平均分子量Mが500〜百万であるエトキシル化ポリエチレンイミン。
【0037】
(a)に挙げたエトキシル化ビニルイミダゾリウムメトスルフェートとN−ビニルピロリドンとのコポリマーは、共重合したN−ビニルピロリドンを例えば10〜90重量%含む。N−ビニルピロリドンに代えて、コモノマーとして、エチレン性不飽和C〜Cカルボン酸の群の化合物を少なくとも1種使用することができ、特に例えばアクリル酸またはメタクリル酸を使用することができ、またこうしたカルボン酸と、炭素原子を1〜18個含む1価のアルコールとのエステルを使用することもでき、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレートまたはn−ブチルメタクリレートを使用することができる。例えば、適切なコポリマー(a)の合成は、国際公開第2005/049674号(WO 2005/049674)(コポリマー1、2、3)または国際公開第2005/049676号(WO 2005/049676)(コポリマー1)に記載されている。
【0038】
好ましく使用することができる群(b)のポリマーは、エトキシル化ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドである。他の適切なエトキシル化ポリマーは、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドとジメチルアミノエチルアクリレートとのコポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドとジメチルアミノエチルメタクリレートとのコポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドとジエチルアミノエチルアクリレートとのコポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドとジメチルアミノプロピルアクリレートとのコポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドとジメチルアミノエチルアクリルアミドとのコポリマー、およびジアリルジメチルアンモニウムクロリドとジメチルアミノプロピルアクリルアミドとのコポリマーである。エトキシル化ジアリルジメチルアンモニウムクロリドのコポリマーは、共重合した形態で、上述のコモノマーの少なくとも1種を、例えば1〜50モル%含み、通常は2〜30モル%含む。合成プロトコールの一例は、国際公開第2005/049676号(WO 2005/049676)(コポリマー3)に記載されている。
【0039】
ビニルアミン単位を含むエトキシル化ポリマー(c)は、N−ビニルホルムアミドを適宜コモノマーの存在下で重合させ、このビニルホルムアミドポリマーを加水分解させてホルミル基を除いてアミノ基を形成させることによって得られる。このポリマーの加水分解度は、例えば1〜100%であってよく、通常は60〜100%の範囲にあってよい。平均分子量Mは、最高で百万である。欧州特許出願公開第1290071号明細書(EP 1290071)(例2参照)に記載の後続のアルコキシル化によって、本発明のエトキシル化ポリマー(c)が得られる。
【0040】
エチレンイミン単位を含む群(d)のポリマー、例えばポリエチレンイミンは、Sokalan(登録商標)またはLupasol(登録商標)、例えばSokalan(登録商標)HP 20またはLupasol(登録商標)SC−61Bといった商品名で販売されている市販品である。これらのカチオン性ポリマーは、水性媒体中で、少量の酸もしくは酸形成性化合物、例えばハロゲン化炭化水素、例えばクロロホルム、四塩化炭素、テトラクロロエタンもしくは塩化エチルの存在下でエチレンイミンを重合させることにより製造されるエチレンイミンのポリマーであるか、またはエピクロロヒドリンとアミノ基を含む化合物との縮合物であり、例えばエピクロロヒドリンと、モノアミンおよびポリアミン、例えばジメチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンおよびトリエチレンテトラミンもしくはアンモニアとの縮合物である。例えば、これらは、500から3百万までまたは百万までの重量平均分子量Mを有し、好ましくは1000〜500000の重量平均分子量Mを有する。
【0041】
このカチオン性ポリマーの群には、第1級アミノ基または第2級アミノ基を有する化合物にエチレンイミンをグラフトしたグラフトポリマーも含まれ、例えばジカルボン酸とポリアミンとから生成されたポリアミドアミンも含まれる。エチレンイミンをグラフトしたポリアミドアミンを、適宜2官能性架橋剤と反応させてもよく、例えばエピクロロヒドリンと、またはポリアルキレングリコールのビスクロロヒドリンエーテルと反応させることができる。
【0042】
使用可能な群(e)のエトキシル化カチオン性ポリマーは、ジアルキルアミノアルキルアクリレート単位および/またはジアルキルアミノアルキルメタクリレート単位を含むポリマーである。これらのモノマーを重合反応において遊離塩基の形態で使用することができるが、例えば塩酸、硫酸またはリン酸といった鉱酸との塩の形態で使用することが好ましく、また4級化形態で使用することも好ましい。使用可能な4級化剤の一例としては、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、塩化メチル、塩化エチル、塩化セチルまたは塩化ベンジルが挙げられる。こうしたモノマーを、適切なエトキシル化(メタ)アクリレート(例えばBisomer(登録商標)MPEG 350 MA、Bisomer(登録商標)MPEG 550 MA、Bisomer(登録商標)S7W、Bisomer(登録商標)S10WまたはBisomer(登録商標)S20W)または他のビニルモノマー(例えばPluriol(登録商標)A10R、Pluriol(登録商標)A11R、Pluriol(登録商標)A46R)と併用することで、2元または多元のコポリマーが生成される。適切な追加のコモノマーの例としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルピロリドン、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレートおよび前述のモノマーの混合物が挙げられる。
【0043】
群(f)のエトキシル化カチオン性ポリマーは、ジメチルアミノエチルアクリルアミド単位またはジメチルアミノエチルメタクリルアミド単位を含むポリマーであり、このポリマーは好ましくは、塩基性モノマーを、鉱酸との塩の形態かまたは4級化形態で含む。群(e)のカチオン性ポリマーを用いる場合、これらの物質は、適切なアルコキシル化ビニルモノマーを有する2元コポリマーであってもよいし、適切なアルコキシル化ビニルモノマーを有する多元コポリマーであってもよい。例としては、硫酸ジメチルまたは塩化ベンジルで完全に4級化させたジメチルアミノエチルアクリルアミドのコポリマー、硫酸ジメチル、塩化メチル、塩化エチルまたは塩化ベンジルで完全に4級化させたジメチルアミノエチルメタクリルアミドのホモポリマー、およびアクリルアミドと硫酸ジメチルで4級化させたジメチルアミノエチルアクリルアミドとのコポリマーが挙げられる。こうしたコポリマーの製造は、国際公開第2005/049676号(WO 2005/049676)(コポリマー4)に例示されている。
【0044】
本発明の水性組成物の製造に、以下のカチオン性ポリマーを使用することが好ましい:
(a)それぞれ平均分子量Mが1000〜100000である、ビニルイミダゾリウムメトスルフェートのエトキシル化ホモポリマーおよび/またはビニルイミダゾリウムメトスルフェートとN−ビニルピロリドンとのエトキシル化コポリマー、
(b)平均分子量Mが2000〜100000であるエトキシル化ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、および/または
(c)平均分子量Mが1000〜500000であるエトキシル化ポリビニルアミン。このポリビニルアミンを、硫酸または塩酸との塩の形態で使用することが好ましい。および
(d)重量平均分子量Mが500〜百万であるエトキシル化ポリエチレンイミン。
【0045】
エトキシル化カチオン性ポリマーとしては、カチオン性モノマーのみから構成されるポリマーだけでなく、両性ポリマーも使用することができるが、ただし、こうしたポリマーが有する正味電荷がカチオン性であることを条件とする。例えば、両性ポリマーにおけるカチオン性の電荷の余剰分は、少なくとも5モル%であり、好ましくは少なくとも10モル%であり、通常は15〜95モル%の範囲にある。余剰分のカチオン性電荷を有する両性ポリマーの例としては、次のものが挙げられる:
− アクリルアミドとジメチルアミノエチルアクリレートとアクリル酸とのコポリマーであって、コモノマーとして、ジメチルアミノエチルアクリレートをアクリル酸よりも少なくとも5モル%多く含むコポリマー、
− ビニルイミダゾリウムメトスルフェートとN−ビニルピロリドンとアクリル酸とのコポリマーであって、コモノマーとしてビニルイミダゾリウムメトスルフェートをアクリル酸よりも少なくとも5モル%多く含むコポリマー、
− N−ビニルホルムアミドと、エチレン性不飽和C〜Cカルボン酸、好ましくはアクリル酸またはメタクリル酸とのコポリマーを加水分解させたものであって、エチレン性不飽和カルボン酸単位よりもビニルアミン単位の含分の方が少なくとも5モル%多いもの、および
− ビニルイミダゾールとアクリルアミドとアクリル酸とのコポリマーであって、カチオン電荷を有するビニルイミダゾールの量が、共重合させたアクリル酸の量よりも少なくとも5モル%多くなるようにpHが選択されているコポリマー。
【0046】
塩基性ポリマーは、好ましくは鉱酸との塩の形態や、例えばギ酸または酢酸などの有機酸との塩の形態で使用される。
【0047】
本発明の実施形態は、
* アクリル酸のホモポリマーと、
ビニルイミダゾリウム単位を含むエトキシル化ポリマーと
から形成される高分子電解質複合体、
* アクリル酸のホモポリマーと、
ビニルイミダゾリウム単位を有するエトキシル化ホモポリマーと
から形成される高分子電解質複合体、
* アクリル酸のホモポリマーと、
ビニルイミダゾリウム単位を有するモノマーとビニルラクタム、特にビニルピロリドンとのエトキシル化コポリマーと
から形成される高分子電解質複合体、
* アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とのコポリマーと、
ビニルイミダゾリウム単位を含むエトキシル化ポリマーと
から形成される高分子電解質複合体、
* アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とのコポリマーと、
ビニルイミダゾリウム単位を有するエトキシル化ホモポリマーと
から形成される高分子電解質複合体、
* アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とのコポリマーと、
ビニルイミダゾリウム単位を有するモノマーとビニルラクタム、特にビニルピロリドンとのエトキシル化コポリマーと
から形成される高分子電解質複合体、
* アクリル酸のホモポリマーと、
エトキシル化ポリエチレンイミンと
から形成される高分子電解質複合体
の使用である。
【0048】
好ましいエトキシル化カチオン性ポリマーは特に、ビニルイミダゾリウム単位を含むエトキシル化ポリマー、エトキシル化ポリジアリルジメチルアンモニウムハライド、ビニルアミン単位を含むエトキシル化ポリマー、エチレンイミン単位を含むエトキシル化ポリマー、ジアルキルアミノアルキルアクリレート単位を含むエトキシル化ポリマー、ジアルキルアミノアルキルメタクリレート単位を含むエトキシル化ポリマー、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド単位を含むエトキシル化ポリマーおよびジアルキルアミノアルキルメタクリルアミド単位を含むエトキシル化ポリマーからなる群から選択されるカチオン性ポリマーである。
【0049】
カチオン性ポリマーは、例えば適切なモノマーのラジカル重合により製造可能である。非カチオン性モノマーとの共重合が可能な適切なカチオン性モノマーは、ジアルキルアミノエチルアクリレート、ジアルキルアミノエチルメタクリレート、ジアルキルアミノプロピルアクリレート、ジアルキルアミノプロピルメタクリレート、ジアルキルアミノエチルアクリルアミド、ジアルキルアミノエチルメタクリルアミド、ジアルキルアミノプロピルアクリルアミド、ジアルキルアミノプロピルメタクリルアミド、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ビニルイミダゾール、さらには各塩基性モノマーを酸で中和したものおよび/または4級化させたものである。カチオン性モノマーの個々の例としては、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート、ジエチルアミノプロピルアクリレートおよびジエチルアミノプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、ジエチルアミノエチルアクリルアミドおよびジエチルアミノプロピルアクリルアミドが挙げられる。
【0050】
塩基性モノマーに対して、中和および4級化のそれぞれが完全に行われていてもよいし、若干の程度でのみ行われていてもよく、例えばいずれの場合にも中和および4級化のそれぞれが1〜99%の程度で行われていてよい。塩基性モノマーに使用される好ましい4級化剤は、硫酸ジメチルである。しかしこうしたモノマーを、硫酸ジエチルや、例えば塩化メチル、塩化エチルまたは塩化ベンジルといったハロゲン化アルキルを用いて4級化させることもできる。
【0051】
重合反応を、少なくとも1種の架橋剤の存在下で行ってもよい。こうすることで、架橋剤の非存在下にアニオン性モノマーを重合させた場合よりもモル質量の高いコポリマーが得られる。さらに、ポリマーに架橋剤が組み込まれることで、ポリマーが示す水への溶解度が低くなる。共重合させる架橋剤の量に応じてポリマーは水に不溶となるが、しかし水には膨潤しうる。
【0052】
使用する架橋剤は、エチレン性不飽和二重結合を分子内に少なくとも2つ有するいずれの化合物を含んでもよい。架橋剤の例としては、トリアリルアミン、ペンタエリトリトールのトリアリルエーテル、ペンタエリトリトールのテトラアリルエーテル、メチレンビスアクリルアミド、N,N’−ジビニルエチレン尿素、アリル基を少なくとも2つ含むアリルエーテル、またはビニル基を少なくとも2つ有するビニルエーテルが挙げられ、ここで、これらのエーテルは、例えばソルビトール、1,2−エタンジオール、1,4−ブタンジオール、トリメチロールプロパン、グリセロール、ジエチレングリコールといった多価アルコールや、例えばスクロース、グルコース、マンノースといった糖類から誘導されたものであり、他の例としては、炭素原子を2〜4個有する2価のアルコールや、2価のアルコールをアクリル酸またはメタクリル酸で完全にエステル化させたものが挙げられ、例えばエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、ブタンジオールジアクリレート、分子量300〜600のポリエチレングリコールのジアクリル酸エステルもしくはジメタクリル酸エステル、エトキシル化トリメチレンプロパントリアクリレートまたはエトキシル化トリメチレンプロパントリメタクリレート、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)ブタノールトリメタクリレート、ペンタエリトリトールトリアクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレートおよびトリアリルメチルアンモニウムクロリドが挙げられる。本発明の分散液の製造において架橋剤を使用する場合には、架橋剤の各使用量の例としては、重合反応に使用する全モノマーに対して、0.0005〜5.0重量%、好ましくは0.001〜1.0重量%が挙げられる。好ましく使用される架橋剤は、ペンタエリトリトールのトリアリルエーテル、ペンタエリトリトールのテトラアリルエーテル、N,N’−ジビニルエチレン尿素、例えばスクロース、グルコースまたはマンノースといった糖類のアリルエーテル(ここで、これらのエーテルは、アリル基を少なくとも2つ含むものとする)およびトリアリルアミン、さらにはこれらの化合物の混合物である。
【0053】
水性組成物は好ましくは、エトキシル化ポリエチレンイミンを少なくとも1種含む。ポリエチレンイミンとは、エチレンイミン単位を含むポリマーである。こうしたポリマーは、好ましくは分岐状である。ポリエチレンイミンを、適切な酸との塩の形態で中和した状態で使用することもできるが、中和していない形態で使用することが好ましい。
【0054】
本発明の一実施形態において、ポリエチレンイミンは、高分岐状または高デントリティック型のポリエチレンイミンから選択される。高分岐状ポリエチレンイミンは、分岐度(degree of branching、DB)が高いことが特徴である。DBは、13C−NMR分光法により好ましくはDO中で測定可能であって、
DB=D+T/(D+T+L)
と定義され、ここで、D(デントリティック部)は、第3級アミン基の量に相当し、L(直線部)は、第2級アミン基の量に相当し、T(末端部)は、第1級アミン基の量に相当する。本発明による高分岐状ポリエチレンイミンは、好ましくは0.1〜0.95または0.25〜0.9のDBを有し、より好ましくは0.30〜0.80のDBを有し、特に好ましくは少なくとも0.5のDBを有する。デントリティックポリエチレンイミンは、構造的および分子的に均一な構成(DB=1)を有する。
【0055】
エトキシル化ポリエチレンイミンの重量平均分子量は、好ましくは少なくとも2500g/モルであり、より好ましくは少なくとも10000g/モルであり、例えば2500〜3百万g/モル、または10000〜2百万g/モルまたは10000〜500000g/モルである。ポリエチレンイミンの電荷密度は、好ましくは1〜35meq/gであり、より好ましくは5〜25meq/gである。電荷密度は、指示薬としてトルイジンブルーを用いてpH4.5でポリビニル硫酸カリウム(KPVS)でポリエチレンイミンの水溶液を滴定することにより測定可能である。
【0056】
適切なポリエチレンイミンは、水性媒体中で、少量の酸もしくは酸形成性化合物、例えばハロゲン化炭化水素、例えばクロロホルム、四塩化炭素、テトラクロロエタンまたは塩化エチルの存在下でエチレンイミンを重合させることにより製造されるエチレンイミンのポリマーであるか、またはエピクロロヒドリンとアミノ基を含む化合物との縮合物であり、例えばエピクロロヒドリンと、モノアミンおよびポリアミン、例えばジメチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンおよびトリエチレンテトラミンもしくはアンモニアとの縮合物である。
【0057】
このカチオン性ポリマーの群には、第1級アミノ基または第2級アミノ基を有する化合物にエチレンイミンをグラフトしたグラフトポリマーも含まれ、例えばジカルボン酸とポリアミンとから生成されたポリアミドアミンも含まれる。エチレンイミンをグラフトしたポリアミドアミンを、適宜2官能性架橋剤と反応させてもよく、例えばエピクロロヒドリンと、またはポリアルキレングリコールのビスクロロヒドリンエーテルと反応させることができる。
【0058】
一実施形態において、ポリエチレンイミンを架橋させる。架橋には、ポリエチレンイミンのアミン基と共有結合を形成しうる官能基を少なくとも2つ有するいずれの架橋剤を使用してもよい。適切な架橋剤としては例えば、炭素原子を好ましくは3〜20個有するアルキルジアルデヒドが挙げられ、例えばグルタルアルデヒド(1,5−ペンタンジアール)が挙げられる。
【0059】
水性組成物は、水を唯一の溶媒として含んでもよいし、水と水混和性有機溶媒との混合物を含んでもよく、例えば、水と、例えばメタノール、エタノール、アセトンまたはテトラヒドロフランといった水混和性有機溶媒との混合物を含んでもよい。水が唯一の溶媒であることが好ましい。pHは、好ましくは6〜12であり、より好ましくは7〜10である。
【0060】
エトキシル化ポリエチレンイミンは、国際公開第09/060059号(WO 09/060059)、国際公開第06/108856号(WO 06/108856)、国際公開第15/028191号(WO 15/028191)および該刊行物中で引用されている文献に記載されている。
【0061】
エトキシル化カチオン性ポリマー(b)のエトキシル化度は、CHCHO−単位対それ以外のポリマー成分の重量に基づいて、好ましくは40:1〜1:10であり、好ましくは30:1〜2:1である。
【0062】
少なくとも1種のエトキシル化カチオン性ポリマー(b)における「エトキシル化」という用語は、アルコキシル化ポリマー全般を指すものであって、エチレンオキシドと、例えばプロピレンオキシド、ブチレンオキシドまたはスチレンオキシドといった他のエポキシドとの各コポリマーを排除するものではない。こうしたコポリマーは、ランダム状であってもよいし、ブロック状の構造を示してもよい。こうしたコポリマー中のエチレンオキシドの量は、好ましくは70モル%超であり、より好ましくは80モル%超であり、さらにより好ましくは90モル%超である。エチレンオキシドのホモポリマーを使用することが極めて好ましい。
【0063】
エトキシル化カチオン性ポリマーは、従来技術において広く知られている、例えば以下のような方法により製造可能である:
1)カチオン性モノマーと、例えば1種または複数種の以下のPEG官能性モノマーのようなポリエチレングリコール官能性(PEG官能性)モノマーとの共重合:
【化1】
(ここで、nは、エチレンオキシド単位の数であり、好ましくは2〜50である)。
【0064】
2)エチレンオキシドとの反応によるカチオン性ポリマー(例えばポリエチレンイミン)のグラフト化。
【0065】
3)例えば以下のもののような適切なポリエチレンオキシド化合物を用いたエステル交換反応またはアミド基転移反応による、(メタ)アクリル酸エステルコポリマーのグラフト化:
HO−(CHCHO)−R、または
N−(CHCHO)−R
(ここで、Rは、アルキルであり、好ましくはC〜C−アルキルであり、例えばメチル、エチル、プロピル、n−ブチルであり、nは、エチレンオキシド単位の数であり、好ましくは2〜70である)。
【0066】
− 無水マレイン酸コポリマーの開環、および上述のポリエチレンオキシド化合物を用いたエステル化またはアミド化。
【0067】
好ましいエトキシル化ポリアルキレンイミンまたはエトキシル化ポリアミンは、一般式I:
【化2】
で示され、ここで、前記可変部は、それぞれ次のように定義される:
Rは、同一であるかもしくは異なる直鎖状もしくは分岐状のC〜C12−アルキレン基を表すか、または以下の式:
【化3】
[式中、前記可変部は、それぞれ次のように定義される:
10、R11、R12は、同一であるかまたは異なる直鎖状または分岐状のC〜C−アルキレン基を表し、好ましくはエチレンを表し、かつ
dは、0〜50の範囲の値を有する整数であり、好ましくは1〜5の範囲の値を有する整数である]のエーテルアルキル単位を表し、
Bは、分岐による、エトキシル化ポリアルキレンイミンまたはエトキシル化ポリアミンの連結部を表し、
Eは、式II:
【化4】
[式中、前記可変部は、それぞれ次のように定義される:
は、1,2−プロピレン、1,2−ブチレン、1,2−イソブチレンおよび/または1,2−ペンテンを表し、
は、水素および/またはC〜C22−アルキルおよび/またはC〜C22−アラルキルを表し、好ましくはC〜C−アルキルを表し、
mは、5〜50の範囲の値を有する整数であり、
nは、0〜40の範囲の値を有する整数である]のアルキレンオキシ単位であり、ここで、前記アルキレンオキシ単位は、いかなる順序で存在してもよく、
yおよびzはそれぞれ0〜150であり、y+zの合計は少なくとも1であり、
ここで、エチレンオキシ基の数は、全アルキレンオキシ基の50%超であるか、好ましくは70%超であるか、または80%超であるか、または100%である。
【0068】
Rは、好ましくは直鎖状または分岐状のC〜C−アルキレンであり、より好ましくはエチレンである。
【0069】
水性組成物は、少なくとも1種のフィロケイ酸塩を含む。フィロケイ酸塩とは、ケイ酸塩鉱物の下位群の1つである。フィロケイ酸塩とは、Siまたは2:5の比率を有する平行なケイ酸塩4面体シートにより形成されるシート状のケイ酸塩物質(層状ケイ酸塩)である。4面体層と8面体層とが交互に存在する。これらの8面体層には、8面体配位の水酸化物イオンおよび/または酸素で囲まれたカチオンが存在する。実際の層自体は、通常は負の電荷を有しており、これらの電荷は、各層の間隙に存在するさらなるカチオンによって部分的に打ち消される。こうしたさらなるカチオンは、8面体層内に存在する前述のカチオンと区別されるべきである。フィロケイ酸塩の多くは、水膨潤性が良好であることができ、かつ/または分散性であることができる。このプロセスは、剥離(すなわち層間剥離と同義)と呼ばれる。
【0070】
フィロケイ酸塩は、天然のものであってもよいし合成のものであってもよい。フィロケイ酸塩は、好ましくは少なくとも50の、より好ましくは400超の、または1000超の、最も好ましくは10000超の、アスペクト比を有する。フィロケイ酸塩のバリア作用の様式は、フィロケイ酸塩のアスペクト比(厚さに対する幅の比率)が大きいことに起因する。出発クレイ物質は層状構造体であり、これを公知の様式で剥離および層間剥離させることで、理想的なケースでは、厚さが好ましくは10nm以上であり、理想的には約1nmである(これはクレイ単層に相当する)個々の小板状物が生じうる。
【0071】
層電荷は、単位式当たり好ましくは0.01〜2.0であり、好ましくは0.3〜0.95であり、理想的には0.4〜0.6である。
【0072】
フィロケイ酸塩は、修飾されてもよいし修飾されなくてもよい。修飾されたフィロケイ酸塩が好ましい。
【0073】
フィロケイ酸塩は、モンモリロナイト、ベントナイト、カオリナイト、マイカ、ヘクトライト、フルオロヘクトライト、サポナイト、バイデライト、ノントロナイト、ステベンサイト、バーミキュライト、フルオロバーミキュライト、ハロイサイト、ボルコンスコイト、サコナイト、マガディアイト、ソーコナイト、スティブンサイト、スティプルジャイト(stipulgite)、アタパルジャイト、イライト、ケニヤアイト、スメクタイト、レクトライト、白雲母、パリゴルスカイト、セピオライト、シリナイト(silinait)、グルマンタイト、レブダイト(revdite)、ゼオライト、フラー土、天然もしくは合成のタルクおよびマイカ、または例えばパームチットのような合成源から選択されてよい。最も好ましいのは、剥離した有機修飾スメクタイトである。
【0074】
こうしたフィロケイ酸塩は、ケイ酸塩の個々の層やシートの面同士が向かい合った一群の積層体から構成される。こうしたシートの厚さは典型的には約1nmであり、こうしたシートの最大長さは、典型的には50〜1000nmであるかまたさらにはそれよりも長く、その結果、アスペクト比は50〜1000となる。Breuら(Nanoscale 2012, 4, 5633−5639)による記載の通り、合成クレイについては10000超のアスペクト比が実現可能である。
【0075】
モンモリロナイト(ケイ酸マグネシウムアルミニウム)クレイ、ヘクトライト(ケイ酸マグネシウムリチウム)クレイが好ましく、合成フルオロヘクトライトが最も好ましい。剥離したスメクタイト種も好ましい。
【0076】
好ましい合成フィロケイ酸塩は、合成スメクタイトである。好ましい合成スメクタイトは、式
[Mn/価数inter[MΜIIoct[Sitet10
[式中、
Mは、酸化数1〜3の金属カチオンであるか、またはHであり、
は、酸化数2または3の金属カチオンであり、
IIは、酸化数1または2の金属カチオンであり
Yは、モノアニオンであり、
酸化数3の金属原子Mのmは、2.0以下であり、かつ
酸化数2の金属原子Mのmは、3.0以下であり、
oは、1.0以下であり、かつ
層電荷nは、0.01〜2.0であり、好ましくは0.3〜0.95であり、理想的には0.4〜0.6である]で示される。
【0077】
Mは、好ましくは1または2の酸化数を有する。Mは、特に好ましくは、Li、Na、Mg2+またはこれらのイオンの2種以上の混合物である。Mは、最も特に好ましくはNaまたはLiである。Mは、好ましくはMg2+、Al3+、Zn2+、Fe2+、Fe3+またはこれらのイオンの2種以上の混合物である。MIIは、好ましくはLi、Mg2+またはこれらのカチオンの混合物である。Yは、好ましくはOHまたはFであり、特に好ましくはFである。
【0078】
本発明の特に好ましい一実施形態によれば、Mは、Li、Na、Hまたはこれらのイオンの2種以上の混合物であり、Mは、Mg2+であり、MIIは、Liであり、かつYは、Fである。
【0079】
適切な合成層状ケイ酸塩の合成手順は、M. Stoter et al., Langmuir 2013, 29, 1280−1285に記載されている。アスペクト比が高い適切かつ好ましいフィロケイ酸塩の製造方法は、国際公開第2011/089089号(WO 2011/089089)に記載されている。例えば国際公開第2011/089089号(WO 2011/089089)または国際公開第2012/175431号(WO 2012/175431)に記載の通り、合成フィロケイ酸塩は、高温での溶融合成を行い、次いで剥離および/または層間剥離させてアスペクト比の高いフィロケイ酸塩の小板状物を得ることにより製造可能である。この方法を用いた場合、400超の平均アスペクト比を有するフィロケイ酸塩の小板状物を得ることができる。この方法により得られるフィロケイ酸塩の小板状物のもう1つの利点とは、多少なりとも黄褐色である天然のモンモリロナイトやバーミキュライトとは異なり、こうした小板状物は無色であるという点にある。これによって、こうした小板状物から無色の複合材を製造することが可能となる。
【0080】
水熱処理によって適切なフィロケイ酸塩を製造することもでき、例えば水熱処理により製造されたスメクタイトとしては、Optigel(登録商標)SHが挙げられる。水熱処理での合成によりヘクトライトを製造することは、周知である。例えば米国特許第3,954,943号明細書(U.S.Patent Nos.3,954,943)および米国特許第3,586,478号明細書(U.S.Patent Nos.3,586,478)は、水熱法によるフッ素含有ヘクトライトの合成を教示している。国際公開第2014/164632号(WO 2014/164632)は、水熱処理を用いた製造による適切な合成亜鉛ヘクトライトを教示している。
【0081】
フィロケイ酸塩を、アミノ基およびアンモニウム基から選択される基を少なくとも1つ有する少なくとも1種の有機化合物で表面修飾することが好ましい。様々な種類のカチオン修飾を用いて、層間剥離したフィロケイ酸塩の表面の金属カチオン(例えばナトリウムカチオン)を置換することができる。この表面修飾によって、層間剥離または剥離したフィロケイ酸塩を安定化させることができ、またポリマー(a)および(b)との相容性を生じさせることができる。
【0082】
カチオン修飾とは、フィロケイ酸塩をイオン交換法に供してフィロケイ酸塩中に存在する無機カチオンを有機カチオンに置換するという処理を行うことによって、有機部分がフィロケイ酸塩に強度に結合していることを意味し、ここで、前述の有機カチオンは、これらに限定されるものではないが、例えば4級アンモニウム基、ホスホニウム基、ピリジニウム基などのようなカチオン性塩の基に結合した有機基を含むか、またはカチオン性アミン塩を含む有機化合物を含む。
【0083】
フィロケイ酸塩に対して、例えば米国特許第5,578,672号明細書(U.S.Pat.No.5,578,672)に記載の方法にしたがって無機層間での有機分子または高分子のイオン交換を行うことによって、有機親和性をもたせる。例えば、米国特許第6,117,932号明細書(U.S.Pat.No.6,117,932)に記載の有機親和性クレイが挙げられる。こうしたクレイを、好ましくは4個以上の炭素原子を有するオニウムイオンとのイオン結合によって有機物質で修飾することが好ましい。炭素原子数が4未満である場合には、有機オニウムイオンの親水性が過度に高くなり、したがってポリマーマトリクスとの相容性が低下してしまう場合がある。有機オニウムイオンの例としては、ヘキシルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン、2−エチルヘキシルアンモニウムイオン、ドデシルアンモニウムイオン、ラウリルアンモニウムイオン、オクタデシルアンモニウム(ステアリルアンモニウム)イオン、ジオクチルジメチルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオン、ジステアリルジメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオンおよびアンモニウムラウレートイオンが挙げられる。ポリマーとの接触表面積ができる限り大きいクレイを使用することが推奨される。
【0084】
有機オニウムイオンまたはカチオン修飾に使用されるその前駆体の、これ以外の例としては、アミノ酸、例えばグリシン、アラニン、リシン、オルニチンもしくはそれらの誘導体、例えばL−リシン一塩酸塩もしくはN,N,N−トリメチルグリシン塩酸塩(=ベタイン)か、またはアミノアルコール、例えばエタノールアミン、N,N’−ジメチルエタノールアミン、N,N’−ジメチルアミノエトキシエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール(=TRIS)か、またはアルコキシル化アミンもしくはアルコキシル化アミド、例えばエトキシル化エチレンジアミン(例えばMazeen(登録商標)184、Tetronic(登録商標)90R4、Tetronic(登録商標)904またはTetronic(登録商標)1107)、エトキシル化脂肪アミン(例えばLutensol(登録商標)FA 12、Lutensol(登録商標)FA 12K)、エトキシル化脂肪酸アミド(例えばLutensol(登録商標)FSA 10)もしくはポリエーテルアミン、例えばJeffamine(登録商標)MシリーズのJeffamine(登録商標)M−600、Jeffamine(登録商標)M−1000、Jeffamine(登録商標)M−2005もしくはJeffamine(登録商標)M−2070、もしくはBASF社製Polyamine D−230、Polyamine D−400、Polyamine D−2000、Polyamine T−403もしくはPolyamine T−5000から選択できる。好ましい修飾剤は、ベタイン、TRIS、リシン、アルコキシル化エチレンジアミンまたはエトキシル化脂肪アミンである。
【0085】
フィロケイ酸塩のカチオン交換容量は、好ましくは50〜200ミリ当量/100gである。有機オニウムイオンの割合は、クレイのイオン交換容量が有利には0.3〜3当量となり、好ましくは0.3〜2当量となるような割合である。
【0086】
本発明の一実施形態は、上記の水性組成物で被覆された高分子フィルムであって、特に、上記の水性組成物を使用することにより得られる酸素バリア性コーティングを含む高分子フィルムであり、ここで、該高分子フィルムの少なくとも片面は、
(a) 少なくとも1種のポリアニオンと、
(b) 少なくとも1種のエトキシル化ポリエチレンイミンと、
(c) 少なくとも1種のフィロケイ酸塩と
を含有する水性組成物で被覆されているものとする。
【0087】
25℃、相対湿度75%で測定した場合に、被覆されたフィルムの酸素透過度は、未被覆フィルムの酸素透過度の40%未満であることが好ましい。
【0088】
被覆処理に使用する水性組成物は、さらに、例えばレオロジー調整用の増粘剤や湿潤剤やバインダーといった添加剤や補助剤を含有してよい。好ましい高分子フィルム基材は、包装に適した高分子フィルムである。
【0089】
好ましい高分子フィルムは、延伸ポリプロピレン製またはポリエチレン製であり、ここで、このポリエチレンは、エチレンから高圧重合法または低圧重合法により製造可能である。適切な他の高分子フィルムの例としては、例えばポリエチレンテレフタレートのようなポリエステル製の高分子フィルムや、ポリアミド製、ポリスチレン製およびポリ塩化ビニル製のフィルムが挙げられる。一実施形態において、高分子フィルムは、例えば生分解性脂肪族芳香族コポリエステルおよび/またはポリ乳酸製の生分解性高分子フィルムであり、例えばEcoflex(登録商標)フィルムまたはEcovio(登録商標)フィルムである。適切なコポリエステルの例としては、アルカンジオール、特にC〜Cアルカンジオール、例えば1,4−ブタンジオールや、脂肪族ジカルボン酸、特にC〜Cジカルボン酸、例えばアジピン酸や、芳香族ジカルボン酸、例えばテレフタル酸から形成されたコポリエステルが挙げられる。好ましい高分子フィルムの材料は、ポリエチレンテレフタレート、延伸ポリプロピレン、無延伸ポリプロピレン、ポリエチレン、生分解性脂肪族芳香族コポリエステル、メタライズドポリエチレンテレフタレート、メタライズド延伸ポリプロピレンおよびポリアミドから選択される。
【0090】
高分子フィルムの厚さは、50〜200μmの範囲にあってよく、ポリアミド製フィルムの場合には5〜50μmの範囲にあってよく、ポリエチレンテレフタレート製フィルムの場合には10〜100μmの範囲にあってよく、延伸ポリプロピレン製フィルムの場合には10〜100μmの範囲にあってよく、ポリ塩化ビニル製フィルムの場合には約100μmであってよく、ポリスチレン製フィルムの場合には約30〜75μmの範囲にあってよい。
【0091】
好ましくは、高分子フィルム上の酸素バリア性コーティングは、無孔性であり、これは、原子間力顕微鏡法(AFM)または走査型電子顕微鏡(SEM)により解析可能である。
【0092】
本発明の一目的は、酸素バリア性が向上した高分子フィルムの形成方法であって、
− 上記の本発明による水性組成物を、高分子フィルムの少なくとも片面に塗布すること、および
− 前記組成物を乾燥させて、前記高分子フィルム上にバリア性コーティングを形成させること
を含む方法である。
【0093】
この水性組成物を、通常の被覆装置によりプラスチック製支持体フィルムに塗布することができる。ウェブの形態の材料を使用する場合には、この水性組成物を、通常は液槽からアプリケーターロールを用いて塗布し、エアーナイフを用いて均一にする。この被覆材を塗布するための他の適切な方法では、リバースグラビア法や、吹付法や、ロールを用いたスプレッダーシステムや、当業者に知られている他の被覆法が用いられる。この水性組成物をマルチコート法で塗布することも可能であり、その場合、初回の被覆に続いて2回目またはそれを上回る回数の被覆を行う。好ましい被覆法は吹付被覆法であり、例えばエアブラシ被覆法である。
【0094】
他の適切な被覆法は、公知の凹版印刷法および凸版印刷法である。こうした方法では、印刷インキユニットにおいて様々なインキを使用するのではなく、例えばポリマー水溶液を塗布するための印刷法を用いる。印刷法としては、当業者に知られている凸版印刷法としてフレキソ印刷法を挙げることができ、凹版印刷法の一例としてグラビア法を挙げることができ、フラットベッド印刷法の一例としてオフセット印刷法を挙げることができる。近年のデジタル印刷法、インクジェット印刷法、電子写真法およびダイレクトイメージング法を用いることもできる。
【0095】
高分子フィルムへの密着性のさらなる向上を達成するため、支持体フィルムに予めコロナ処理を施しておいてもよい。こうしたシート材へ施与量の例は、好ましくは0.2〜50g(ポリマー、固形)/mであり、好ましくは0.5〜20g/mまたは1〜15g/mである。
【0096】
高分子フィルムへの密着性のさらなる向上を達成するため、基材に酸素バリア体を被覆する前に、高分子フィルムにプレコート材やプライマーを塗布してもよい。こうしたプライマーは、ポリウレタン分散液、ポリウレタン溶液、無溶媒系もしくは溶媒系の反応性ポリウレタン、ポリエチレンイミン、ポリアクリレートまたは当業者に知られているその他のプライマーをベースとするものであってよい。
【0097】
コーティング用水性組成物をシート基材に塗布してから、溶媒を蒸発させる。このために、例えば連続運転の場合には、この材料を、赤外線照射装置を備えてよい乾燥トンネルに通すことができる。被覆して乾燥させたこの材料を、その後に冷却ロールに通し、最後に巻き取る。乾燥したコーティングの厚さは、好ましくは0.2〜50μmであり、特に好ましくは0.5〜20μmであり、最も好ましくは1〜15μmである。
【0098】
このコーティング用水性組成物で被覆された基材は、特に高湿度環境において優れた酸素バリア作用を示す。被覆されたこの基材を、例えば包装手段として使用することができ、好ましくは食品包装に使用することができる。このコーティングは、非常に良好な機械的特性を示すとともに、例えば極めて高い可とう性を示す。
【0099】
この酸素バリア性コーティングを、他の物質に対するバリア性コーティングとして使用することも可能である。こうした物質は、二酸化炭素、窒素、ビスフェノールA(BPA)、鉱油、脂肪、アルデヒド、グリース、可塑剤、光開始剤または芳香物質であることができる。
【0100】
被覆された高分子フィルムの、例えば良好な印刷適性などの特定の付加的な表面特性や特定の被覆特性を得るために、またさらには封止特性や非ブロッキング性をさらに向上させるために、また良好な耐水性を得るために、被覆された基材にトップコート層を上塗りすることが有利である場合があり、これによって、こうした所望の付加的な特性が得られる。本発明によるコーティング用水性組成物で予め被覆された基材に対しては、上塗りを容易に行うことができる。上塗り処理のために、上記の方法のうちの1つを繰り返してもよいし、間に箔の巻取りや巻出しを行わずに連続法で繰り返し被覆を行ってもよい。したがって、酸素バリア層の位置はこの系の内部にある場合があり、その場合、トップコート層によって表面特性が決まる。トップコート層は、酸素バリア層との良好な密着性を示す。耐湿性が優れているため、特に、湿度が比較的高水準であっても、酸素バリア層の有効性を確実なものとするために追加の防湿被覆材を塗布することは、不要である。
【0101】
一実施形態において、本発明の高分子フィルムは、酸素バリア性コーティングの他に、ポリアクリレート、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ワックス、エポキシ樹脂、UV硬化性アクリレートおよびポリウレタンからなる群から選択される材料で作製された追加の層を少なくとも1つ含む。
【0102】
本発明の一実施形態において、上記の本発明の高分子フィルムに少なくとも1種の追加の材料を積層し、その際、これらの少なくとも1種の追加の材料は、ポリエチレンテレフタレート、延伸ポリプロピレン、ポリエチレン、無延伸ポリプロピレン、生分解性脂肪族芳香族コポリエステル、メタライズドポリエチレンテレフタレート、メタライズド延伸ポリプロピレン、ポリアミド、紙および板紙から選択される。
【0103】
本発明のもう1つの目的は、上記の本発明による高分子フィルムを含む包装材である。
【0104】
本発明のもう1つの目的は、酸素バリア性をもたせるための、上記の本発明による水性組成物の使用である。
【0105】

酸素バリア作用の測定:
酸素透過度(OTR)を、相対湿度(RH)水準75%、温度25℃で、高分子フィルム上のコーティングについて測定する。
【0106】
測定を、合成空気(酸素21%)を用いて行い、結果を酸素100%に外挿する。
【0107】
担体材料:厚さ50μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)製高分子フィルム。
【0108】
未被覆フィルムのOTR:27.4±0.2cm/(m・d)。
【0109】
本測定方法はASTM D3985−05に基づき、また本測定方法では電量センサを用いる。各試料を2回測定し、結果の平均を算出する。
【0110】
OTRを、Mocon OX−TRAN 2/21 XL機器にて、検出下限0.0005cm・m−2・日−1・bar−1で得る。
【0111】
水蒸気透過度(WVTR)を、25℃、相対湿度75%RHで、Mocon PERMATRAN−W 333型にて測定した。この装置の検出下限は、0.05g・m−2・日−1であった。
【0112】
ポリマー試料:
PEI1 ポリエチレンイミンの33重量%水溶液、M=750000g/モル;電荷密度17meq/g、pH=11。
【0113】
PEIE エトキシル化ポリエチレンイミン、水中で80重量%;M=13000g/モル;エチレンオキシド単位対エチレンイミン単位のモル比=20:1(エトキシル化度=20.5:1)。
【0114】
【化5】
【0115】
PAA ポリアクリル酸、M=100000g/モル;水中で35重量%、
PPE1 重量比70:30のPAAとPEIEとから作製される高分子電解質複合体、pH4.3
PPE2 重量比90:10のPAAとPEIEとから作製される高分子電解質複合体、pH4.2
PPE3 重量比70:30のPAAとPEIEとから作製される高分子電解質複合体、pH3.3。
【0116】
フィロケイ酸塩:
Na−hect 合成ナトリウムフルオロヘクトライト
L−hect L−リシン修飾ヘクトライト
BT−hect ベタイン修飾ヘクトライト
Tris−hect 2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール(TRIS)修飾ヘクトライト。
【0117】
修飾剤:
L−リシン:(S)−2,6−ジアミノヘキサン酸一塩酸塩 C14・HCl、試薬グレード≧98%、ドイツ国Sigma−Aldrich GmbH
【化6】
【0118】
ベタイン:N,N,N−トリメチルグリシン(無水物)、C11NO、ドイツ国Alfa Aesar GmbH
【化7】
【0119】
TRIS:2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、C11NO、試薬グレード≧99.9%、ドイツ国Sigma−Aldrich GmbH。0.5MのTRIS溶液のpHを塩酸で調節し、5.75とした。
【0120】
【化8】
【0121】
例において使用するフィロケイ酸塩種は、単位式当たり(p.f.u.)の層電荷が0.5である剥離したスメクタイト種である。使用するフィロケイ酸塩の合成手順は、M. Stoter, D. A. Kunz, M. Schmidt, D. Hirsemann, H. Kalo, B. Putz, J. Senker, J. Breu, Langmuir 2013, 29, 1280−1285に記載されている。このフィロケイ酸塩は、合成ナトリウムフルオロヘクトライト(Na−hect)であり、127meq/100gのカチオン交換容量を有する。化学式は、[Na0.5・xHO]int[Mg2.5Li0.5oct[Sitet10である。
【0122】
ナトリウムフルオロヘクトライトの修飾:
様々な種類のカチオン修飾剤を用いて、層間剥離した層状ケイ酸塩の表面のナトリウムカチオンを置換する。修飾によって、層間剥離した層状ケイ酸塩が安定化するとともに、懸濁液内で、また乾燥ステップによる塗膜形成の際に、この層状ケイ酸塩とポリマーマトリクスとの相容性が生じる。
【0123】
例1:層間剥離したNa−hectの修飾
50mlの遠心管内で、0.25gのNa−hectを30mlの蒸留水に懸濁させた。Na−hectの表面修飾を行うため、CEC(カチオン交換容量)の125%の修飾剤を(5mlの蒸留水に溶解させた後に)加え、オーバーヘッド式振盪装置内に12時間置いた。その後、この修飾済みのNa−hectを10000rpmで遠心分離し、分離した上澄液を廃棄し、修飾済みのNa−hectを蒸留水に再懸濁させ、再度CECの125%の修飾剤を(5mlの蒸留水に溶解させた後に)加え、オーバーヘッド式振盪装置内に12時間置くことにより、Na−hectの表面修飾を確実に完全に行った。最後に、この修飾済みのNa−hectを10000rpmで遠心分離し、分離した上澄液を廃棄し、そしてこの分離した上澄液の導電率が25μs未満となるまで、この修飾済みのNa−hectを蒸留水で洗浄した。
【0124】
例2:ポリアニオン(PAA)とエトキシル化ポリエチレンイミン(PEIE)とを重量比70:30で混合することによる高分子電解質複合体(PPE1)の形成
固形分35重量%のPAA水溶液8gを3MのNH水溶液2.5mlと混合し、次いで80重量%のPEIE(水溶液)1.5gを加えた。この混合物に蒸留水5mlを加え、磁気撹拌によって4時間混合した。pH:4.3。
【0125】
得られたこのPPE1の混合物で、PET基材を18mm/sのブレード速度で被覆した。この塗膜を80℃で24時間乾燥させ、OTRおよびWVTRを測定した(表1参照)。
【0126】
例3:重量比50:50の、修飾済みのフィロケイ酸塩Na−hectと高分子電解質複合体マトリクス(PPE1)との懸濁液
例3a:ベタインによる修飾(BT−hect50):
例1に示す手順によりBTで修飾した前記量のNa−hectを必要量のPPE1に加えることにより、最終固体マトリクス中にフィロケイ酸塩層状ケイ酸塩を(無機材料に対して、すなわち修飾剤を除いて)50重量%含有する懸濁液を生成させた(修飾剤の量は、ポリマー側に含めるものとして算出した)。すぐに被覆に利用できる最終懸濁液の固形分は、2重量%であった。
【0127】
この懸濁液を、18mm/sのブレード速度でドクターブレード処理によってPET箔上に堆積させた。この塗膜を80℃で24時間乾燥させ、OTRおよびWVTRを測定した(表1参照)。
【0128】
例3b TRISによる修飾(Tris−hect50):
例3aの手順を用いて、Na−hectの修飾剤としてTRISを用いて、ナノコンポジットを製造した。
【0129】
塗膜を80℃で24時間乾燥させ、25℃、75%RHでOTRおよびWVTRを測定した(表1参照)。
【0130】
例3c:L−リシンによる修飾(L−hect)
例3aの手順を用いて、Na−hectの修飾剤としてL−リシンを用いてナノコンポジットを製造し、様々な量のL−hectを得た:
例3c:無機材料50重量%(L−hect50)
例3c1:無機材料10重量%(L−hect10)
例3c2:無機材料20重量%(L−hect20)
例3c3:無機材料30重量%(L−hect30)
例3c4:無機材料40重量%(L−hect40)。
【0131】
塗膜を80℃で24時間乾燥させ、25℃、75%RHでOTRおよびWVTRを測定した(表1参照)。
【0132】
例4:ポリアニオン(PAA)とエトキシル化ポリエチレンイミン(PEIE)とを90:10の重量比で混合することによる、高分子電解質複合体(PPE2)の形成
固形分35重量%のPAA水溶液12.86gを3MのNH水溶液4.2mlと混合し、次いで蒸留水5mlを加え、この混合物を磁気撹拌によって30分間混合した。次いで、PEIEの80重量%水溶液0.63gを加えた。次いで、この混合物全体を磁気撹拌によって4時間均質化させた。pH:4.2。
【0133】
得られたこのPPE2の混合物で、PET基材を18mm/sのブレード速度で被覆した。この塗膜を、80℃で24時間乾燥させた(表1参照)。
【0134】
例4a1:PPE2+BT−hect
例3aの手順を用いて、Na−hectの修飾剤としてのベタインと、ポリマーマトリクスとしてのPPE2(例4)とを用いて、ナノコンポジットを製造した。無機ケイ酸塩材料の量は、最終固体マトリクス中にフィロケイ酸塩が10重量%存在するような量であった。
【0135】
塗膜を80℃で24時間乾燥させ、25℃、75%RHでOTRおよびWVTRを測定した(表1参照)。
【0136】
例4a2:PPE2+L−hect
例3aの手順を用いて、Na−hectの修飾剤としてのL−リシンと、ポリマーマトリクスとしてのPPE2(例4)とを用いて、ナノコンポジットを製造した。無機ケイ酸塩材料の量は、最終固体マトリクス中にフィロケイ酸塩が10重量%存在するような量であった。
【0137】
塗膜を80℃で24時間乾燥させ、25℃、75%RHでOTRおよびWVTRを測定した(表1参照)。
【0138】
例5 PPE3
PAA溶液(水中で固形分35重量%)8gを3MのNH水溶液0.75mlと混合し、次いでPEIEの80重量%水溶液1.5gを加えた。この混合物に蒸留水5mlを加え、これを磁気撹拌によって4時間混合した。pH:3.3。
【0139】
得られたこのPPE3の混合物で、PET基材を18mm/sのブレード速度で被覆した。この塗膜を80℃で24時間乾燥させ、OTRおよびWVTRを測定した(表1参照)。
【0140】
例5a1 PPE3+L−hect
例3aの手順を用いて、Na−hectの修飾剤としてのL−リシンと、ポリマーマトリクスとしてのPPE3(例5)とを用いて、ナノコンポジットを製造した。無機ケイ酸塩材料の量は、最終固体マトリクス中にフィロケイ酸塩が20重量%存在するような量であった。
【0141】
塗膜を80℃で24時間乾燥させ、25℃、75%RHでOTRおよびWVTRを測定した(表1参照)。
【0142】
例6(比較例):
修飾済みのフィロケイ酸塩Na−hectと、PAAおよび非エトキシル化PEI1の高分子電解質複合体マトリクスとの懸濁液
例3aの手順を用い、Na−hectの修飾剤としてL−リシンを用い、かつ100重量部のPAAと、PEIEに代えて40重量部のPEI1とを用いて、ナノコンポジットを製造した。
【0143】
例7(比較例):PAA+L−hect(100:20)
例3aの手順を用い、Na−hectの修飾剤としてL−リシンを用い、かつ100重量部のPAAのみを用いて、つまりPEIEを用いずに、ナノコンポジットを製造した。無機ケイ酸塩材料の量は、最終固体マトリクス中にフィロケイ酸塩が20重量%存在するような量であった。
【0144】
例8(比較例):PAA+L−hect(100:50)
例3aの手順を用い、Na−hectの修飾剤としてL−リシンを用い、かつ100重量部のPAAのみを用いて、つまりPEIEを用いずに、ナノコンポジットを製造した。無機ケイ酸塩材料の量は、最終固体マトリクス中にフィロケイ酸塩が50重量%存在するような量であった。
【0145】
【表1】
【0146】
【表2】
【0147】
例9 吹付被覆のためのL−リシンによる修飾(L−hect50)
例3aの手順を用いて、Na−hectの修飾剤としてのL−リシンとPPE1とを用いて、ナノコンポジットを製造した。最終配合物は、固形物ベースで20重量%の無機材料を含有しており、全固形分は2重量%であった。
【0148】
例10:吹付被覆のためのL−リシンによる修飾(L−hect50)
組成は例9と同一であったが、ただし全固形分を1重量%とした。
【0149】
例9および例10の組成物をPET基材(optimont(登録商標)BOPETフィルム;100μm)に吹付被覆し、OTRおよびWVTRを測定した(表2参照)。
【0150】
吹付被覆のパラメーター:
55回のサイクル(例9);110回のサイクル(例10)
吹付装置:SATAjet(登録商標)4000 LAB HVLP 1.0mm
キャリアガス:空気;入口圧力4バール;出口圧力2〜4バール
キャリアガス流量:2.5バールで約450L/分
懸濁液流量:60ml/分
単軸適用
トレッドミル速度:1m/秒
乾燥:250WのIRランプにて60℃で60秒間。
【0151】
【表3】