(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836148
(24)【登録日】2021年2月9日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】ダイオキシン類含有排ガスの処理方法
(51)【国際特許分類】
F23J 15/04 20060101AFI20210215BHJP
C22B 19/02 20060101ALI20210215BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20210215BHJP
F27D 17/00 20060101ALI20210215BHJP
B01D 53/70 20060101ALI20210215BHJP
B01D 53/83 20060101ALI20210215BHJP
F23J 15/06 20060101ALI20210215BHJP
F23J 15/00 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
F23J15/04
C22B19/02ZAB
C22B1/02
F27D17/00 104G
B01D53/70
B01D53/83
F23J15/06
F23J15/00 J
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-1658(P2017-1658)
(22)【出願日】2017年1月10日
(65)【公開番号】特開2018-112330(P2018-112330A)
(43)【公開日】2018年7月19日
【審査請求日】2019年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】越野 哲也
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 弘志
【審査官】
藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−084509(JP,A)
【文献】
特開2005−068535(JP,A)
【文献】
特開2015−202474(JP,A)
【文献】
特開2002−326814(JP,A)
【文献】
特開2012−201901(JP,A)
【文献】
特開2002−005580(JP,A)
【文献】
特開2015−227749(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0198819(US,A1)
【文献】
特開昭47−23366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23J 13/00−99/00
B01D 53/00
C22B 7/02
C22B 19/00
F27D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3重量%以上の塩素を含有する粗酸化亜鉛から、酸化亜鉛鉱を得る酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいて行う排ガス処理方法であって、
亜鉛成分を含む粗酸化亜鉛ケーキを乾燥加熱炉において加熱することにより、酸化亜鉛鉱を得る乾燥加熱工程を含んでなり、
前記乾燥加熱炉から排出される燃焼排ガスを捕集して下流設備まで移送する排ガス煙道内において、該燃焼排ガスの温度を水冷処理により80℃以下に冷却する排ガス冷却処理を行い、
前記排ガス煙道が、前記乾燥加熱炉の排ガス排出口近傍から垂直上方に向けて延伸する垂直煙道と、該垂直煙道の頂部において排ガス煙道の向きを斜め下方に向けて屈曲させる屈曲部と、該屈曲部から斜め下方に向けて延伸する傾斜煙道と、からなる管状の排ガス煙道であって、
前記水冷処理を、前記垂直煙道の上方から該垂直煙道内に供給される洗浄水と、前記傾斜煙道の外側面の上方から該傾斜煙道内に供給される洗浄水とで行う、
ダイオキシン類含有排ガスの処理方法。
【請求項2】
前記水冷処理を、前記燃焼排ガスからダストを分離するための洗浄水で行う請求項1に記載のダイオキシン類含有排ガスの処理方法。
【請求項3】
前記排ガス煙道内を流れるガスの平均流速が1m/秒以上3m/秒以下である請求項1又は2に記載のダイオキシン類含有排ガスの処理方法。
【請求項4】
前記排ガス煙道内を流れる水の流量(m3/h)に対する前記排ガス煙道内を流れるガス流量(Nm3/h)の比である液ガス比が、16以上18以下である請求項1から3のいずれかに記載のダイオキシン類含有排ガスの処理方法。
【請求項5】
前記酸化亜鉛鉱の製造プラントが、
前記粗酸化亜鉛を還元焙焼炉にて還元焙焼することにより前記粗酸化亜鉛に含有される亜鉛を還元揮発させる還元焙焼工程と、
前記還元焙焼工程から排出される亜鉛を含有する燃焼排ガスを、乾式の電気集塵機及びバグフィルターを順次通過させて、粗酸化亜鉛ダストを回収する粗酸化亜鉛ダスト回収工程と、
粗酸化亜鉛ダスト回収工程において回収された前記粗酸化亜鉛ダストを湿式処理することにより粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程と、
前記乾燥加熱工程と、を行う製造プラントであって、
前記バグフィルターの上流側において前記乾式の電気集塵機から排出される排ガスに活性炭を吹込む請求項1から4のいずれかに記載のダイオキシン類含有排ガスの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイオキシン類含有排ガスの処理方法に関する。より詳しくは、本発明は、酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいて行う排ガス処理方法であって、3重量%以上の塩素を含有する粗酸化亜鉛から酸化亜鉛鉱を得る、酸化亜鉛鉱の製造プラントにおける、排ガスからのダイオキシン類の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛製錬所における亜鉛地金の原料として、粗酸化亜鉛等の亜鉛含有鉱から、不純物を分離除去して得た酸化亜鉛鉱が広く用いられている。原料となる粗酸化亜鉛として、例えば、鉄鋼業における高炉や電気炉等の製鋼炉から発生する副産物であり、鉄成分以外に比較的多くの亜鉛が含まれている鉄鋼ダストがある。この鉄鋼ダストを還元焙焼することにより前記鉄鋼ダストに含有される亜鉛を回収して酸化亜鉛鉱を製造する、酸化亜鉛鉱の製造プラントが稼働している。
【0003】
鉄鋼ダストの還元焙焼処理は、一般に、還元焙焼用ロータリーキルン(RRK)による還元焙焼(ウェルツ法)により行われる。この方法により、還元焙焼された鉄鋼ダスト中に含まれる亜鉛が、還元焙焼用のロータリーキルン内において還元揮発されて、粗酸化亜鉛ダストとして回収される。
【0004】
還元焙焼処理によって得られた粗酸化亜鉛ダストには、塩素、フッ素等の水溶性不純物が含有されているので、続く湿式工程において水溶性不純物が除去される。湿式工程では、粗酸化亜鉛ダストを処理液でレパルプ水洗することにより、塩素、フッ素等を処理液中に分離抽出する。更に固液分離処理によって、粗酸化亜鉛ダストから塩素、フッ素等を除去して、粗酸化亜鉛ケーキが得られる。
【0005】
次いで、湿式工程で得られた粗酸化亜鉛ケーキは、乾燥加熱工程において、乾燥加熱用のロータリーキルン(DRK)に装入されて焼成されることにより、酸化亜鉛鉱が製造される。
【0006】
ところで、鉄鋼ダストには比較的多くの塩素が含まれ、その含有量は、一般的に、3重量%以上4.5重量%以下である。この鉄鋼ダストを還元焙焼する際に、比較的多くの塩素が含まれる原料が、不完全燃焼、即ち、酸素が不足した状態で燃焼されるため、ダイオキシン類が発生することがある。又、鉄鋼ダストを還元焙焼する際に、鉄鋼ダストそのものにダイオキシン類が含まれているため、そのダイオキシン類が排ガスに随伴することや、一旦燃焼により分解したダイオキシン類が排ガス処理の過程で再合成されることがある。ダイオキシン類とは、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン、ポリ塩化ジベンゾフラン、ダイオキシン様ポリ塩化ビフェニルの総称であり、該当する化学物質の異性体は計419種類が存在する。
【0007】
酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいては、RRKから排出される燃焼排ガスに活性炭を噴霧することにより、排ガス中に含有されるダイオキシン類を活性炭に吸着除去している。ダイオキシン類が吸着された活性炭は、粗酸化亜鉛ダストと共に回収され、湿式工程を経て、粗酸化亜鉛ケーキと共に、DRKに装入される。そして、このDRKにて、装入物が1000〜1150℃の高温で完全燃焼されることにより、ダイオキシン類が分解する。
【0008】
しかしながら、分解されたダイオキシン類は、300℃程度の温度で再合成されることから、DRKの燃焼排ガスが200〜400℃程度である場合には再合成されたダイオキシン類が含まれていた。その場合、DRKにおけるダイオキシン類が吸着された活性炭の処理を制限せざるを得ず、ダイオキシン類が吸着された活性炭を一時保管し、RRKのダイオキシン負荷を確認しながらRRKに装入することもあった。更には、DRK排ガスへの活性炭の添加を行うこともあった。それ故、酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいては、ダイオキシン類の再合成を防止し、効率的かつ確実に排ガス中のダイオキシン類を低減することができる、排ガスの処理方法が必要とされていた。
【0009】
特許文献1には、1000℃以上の高温炉内で被処理材を高温処理すると供に、排ガス出口とダクトとの間に隙間を形成してダクト内に排ガスと併せて炉外の大気を吸入させることにより高温炉からの排ガスを急速冷却する、高温炉の操業方法が開示されている。
【0010】
しかしながら、特許文献1の方法は、高温炉出口において排ガスに多量の大気を混入させることによって急速冷却するものであり、排ガス量が増加して、排ガス処理設備が大きなものとなるため、その設置コスト、運転コストも多大なものとなる。したがって、既に十分に大きな排ガス処理設備を有する酸化亜鉛鉱の製造プラントに適用することは現実的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−061232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて考案されたものであり、鉄鋼ダスト等塩素を多く含有する粗酸化亜鉛を原料として用いる酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいて、ダイオキシン類の再合成を防止し、効率的かつ確実に排ガス中のダイオキシン類を低減することができる、ダイオキシン類含有排ガスの処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいて、DRKから排出される燃焼排ガスを下流設備に移送する排ガス煙道内において洗浄水で急冷することにより上記課題を解決できることに想到し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
(1) 3重量%以上の塩素を含有する粗酸化亜鉛から、酸化亜鉛鉱を得る酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいて行う排ガス処理方法であって、亜鉛成分を含む粗酸化亜鉛ケーキを乾燥加熱炉において加熱することにより、酸化亜鉛鉱を得る乾燥加熱工程を含んでなり、前記乾燥加熱炉から排出される燃焼排ガスを捕集して下流設備まで移送する排ガス煙道内において、該燃焼排ガスの温度を水冷処理により80℃以下に冷却する排ガス冷却処理を行う、ダイオキシン類含有排ガスの処理方法。
【0015】
(2) 前記水冷処理を、前記燃焼排ガスからダストを分離するための洗浄水で行う(1)に記載のダイオキシン類含有排ガスの処理方法。
【0016】
(3) 前記排ガス煙道が、前記乾燥加熱炉の排ガス排出口近傍から垂直上方に向けて延伸する垂直煙道と、該垂直煙道の頂部において排ガス煙道の向きを斜め下方に向けて屈曲させる屈曲部と、該屈曲部から斜め下方に向けて延伸する傾斜煙道と、からなる管状の排ガス煙道であって、前記水冷処理を、前記垂直煙道の上方から該垂直煙道内に供給される洗浄水と、前記傾斜煙道の外側面の上方から該傾斜煙道内に供給される洗浄水とで行う、(1)又は(2)に記載のダイオキシン類含有排ガスの処理方法。
【0017】
(4) 前記排ガス煙道内を流れるガスの平均流速が1m/秒以上3m/秒以下である(1)から(3)のいずれかに記載のダイオキシン類含有排ガスの処理方法。
【0018】
(5) 前記排ガス煙道内を流れる水の流量(m
3/h)に対する前記排ガス煙道内を流れるガス流量(Nm
3/h)の比である液ガス比が、16以上18以下である(1)から(4)のいずれかに記載のダイオキシン類含有排ガスの処理方法。
【0019】
(6) 前記酸化亜鉛鉱の製造プラントが、前記粗酸化亜鉛を還元焙焼炉にて還元焙焼することにより前記粗酸化亜鉛に含有される亜鉛を還元揮発させる還元焙焼工程と、前記還元焙焼工程から排出される亜鉛を含有する燃焼排ガスを、乾式の電気集塵機及びバグフィルターを順次通過させて、粗酸化亜鉛ダストを回収する粗酸化亜鉛ダスト回収工程と、粗酸化亜鉛ダスト回収工程において回収された前記粗酸化亜鉛ダストを湿式処理することにより粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程と、前記乾燥加熱工程と、を行う製造プラントであって、前記バグフィルターの上流側において前記乾式の電気集塵機から排出される排ガスに活性炭を吹込む(1)から(5)のいずれかに記載のダイオキシン類含有排ガスの処理方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、鉄鋼ダスト等一定量以上の塩素を含有する粗酸化亜鉛を原料として用いる酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいて、ダイオキシン類の再合成を防止し、効率的かつ確実に排ガス中のダイオキシン類を低減することができる、排ガスの処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の排ガス処理方法を適用して実施することできる酸化亜鉛鉱の製造プラントの一例を示すフロー図である。
【
図2】本発明の排ガス処理方法を実施する排ガス煙道と周辺装置の一構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の排ガス処理方法の好ましい一実施態様について説明する。本発明は、鉄鋼ダスト等一定量以上の塩素を含有する粗酸化亜鉛を原料とし、これをRRKにて還元焙焼することにより亜鉛を回収して酸化亜鉛鉱を製造する、酸化亜鉛鉱の製造プラントに広く適用することができる方法である。ここでは、原材料とする粗酸化亜鉛として鉄鋼ダストを用いる酸化亜鉛鉱の製造プラントへの適用を本発明の好ましい一実施態様として以下説明する。
図1は、本発明の排ガス処理方法を適用して実施することできる酸化亜鉛鉱の製造プラントの一例を示すフロー図である。但し、本発明は、以下の実施態様に限定されるものではない。
【0023】
<酸化亜鉛鉱の製造プラント>
図1に示す通り、ウェルツ法による酸化亜鉛鉱の製造プロセスは、鉄鋼ダスト等の亜鉛含有鉱を還元焙焼炉(RRK)で還元焙焼して亜鉛成分を揮発させる還元焙焼工程、還元焙焼工程から排出される燃焼排ガスから、電気集塵機やバグフィルターを用いて粗酸化亜鉛ダストを回収する粗酸化亜鉛ダスト回収工程、粗酸化亜鉛ダストからフッ素及びカドミウムを分離除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程、湿式工程で得た粗酸化亜鉛ケーキを乾燥加熱炉(DRK)で乾燥加熱して酸化亜鉛鉱を得る乾燥加熱工程を順次行うプロセスである。本発明はこのような酸化亜鉛鉱の製造プロセスを行う酸化亜鉛鉱の製造プラントにおける排ガス中のダイオキシン類の低減手段として極めて好適な排ガスの処理方法である。
【0024】
[還元焙焼工程]
還元焙焼工程においては、鉄鋼ダスト等の亜鉛含有鉱の還元焙焼処理が行われる。還元焙焼処理は、通常、亜鉛含有鉱と還元材とを還元焙焼ロータリーキルン(RRK)を用いて焙焼することにより行われる。
【0025】
RRKでは、長さ50m程度のキルン本体の排出端側からオイルバーナーによる加熱が行われ、装入端側から排ガスが排出される。RRKには、鉄鋼ダストを還元材としての粉コークスと共に予めペレット化した原材料が装入されるが、コークスの燃焼によって発生する一酸化炭素の作用によって、鉄鋼ダスト中の亜鉛は亜鉛蒸気として還元揮発し、鉄鋼ダスト中の鉄は金属鉄としてRRK内に残留し、クリンカーとして排出端側から排出される。排出端側でのクリンカーの温度は、1000〜1400℃になる。RRKの炉内物の融点を上昇させて炉内に付着物を生成させないように、上記の原材料ペレットと共に、石灰石等のカルシウム源が装入される。RRKから排出される燃焼排ガスの温度は600〜700℃で、ガス流量は25000〜27000Nm
3/hである。又、燃焼排ガスの組成は、CO
2が16体積%、O
2が3体積%、COが3体積%、H
2Oが4〜5体積%である。
【0026】
RRK内で揮発した亜鉛蒸気は、約1000℃よりも低い温度に冷却されることにより、速やかに酸化亜鉛へと形態を変え、粗酸化亜鉛ダストになる。RRKの燃焼排ガスのダスト濃度は、100〜200g/Nm
3程度である。原料となる鉄鋼ダストには比較的多くの塩素が含まれ、その含有量は、一般的に、3重量%以上4.5重量%以下である。この鉄鋼ダストを還元焙焼する際に、比較的多くの塩素が含まれる原料が、不完全燃焼、即ち、酸素が不足した状態で燃焼されるため、ダイオキシン類が発生することがある。又、鉄鋼ダストそのものにダイオキシン類が含まれているため、そのダイオキシン類が排ガスに随伴することや、一旦燃焼により分解したダイオキシン類が排ガス処理の過程で再合成されることがある。例えば、乾式電気集塵機では、捕集効率を上げることを目的として、入口ガス温度を300℃程度に冷却しており、ダイオキシン類が再合成されることがある。
【0027】
[粗酸化亜鉛ダスト回収工程]
粗酸化亜鉛ダスト回収工程においては、還元焙焼工程から排出される亜鉛を含有する燃焼排ガスを、乾式の電気集塵機及びバグフィルターを順次通過させて、粗酸化亜鉛ダストを回収する。RRK内で還元焙焼され揮発した粉状の酸化亜鉛は、RRKからの排出ガスと供に乾式の電気集塵機に導入され、捕捉されて粗酸化亜鉛ダストとして回収される。この粗酸化亜鉛ダストは、一般に8〜20%程度の塩素等のハロゲン不純物を含有する。
【0028】
この工程では、RRKの燃焼排ガスは先ず乾式の電気集塵機に導入される。RRKから排出された燃焼排ガスは、急激に自然放冷されるが、更に燃焼排ガスに外気を混入させることによって、更には場合によっては水を噴霧することによって、乾式の電気集塵機の入口温度を制御する。乾式の電気集塵機では、ダストの比抵抗値を制御してダストの捕集効率を上げるため、入口温度が260〜320℃になるように制御される。乾式の電気集塵機によって、粗酸化亜鉛ダストの80%程度が回収される。
【0029】
続いて、乾式の電気集塵機の処理排ガスは、バグフィルターに導入される。バグフィルターでは、バグを構成する高分子繊維の耐熱性により、入口温度が130〜180℃になるように制御される。ここで、乾式の電気集塵機からの処理排ガスには活性炭が吹込まれる。吹込まれた活性炭には、ガス流中で固気混合されることでダイオキシン類が吸着するが、更に活性炭がバグの表面に付着するため、排ガスがバグのろ過層を通過する際に活性炭と接触して、ダイオキシン類をほぼ完全に吸着除去することができる。このようにバグフィルターの上流側において乾式の電気集塵機から排出される排ガスに活性炭を吹込むことによって、ダイオキシン類が吸着された活性炭は、粗酸化亜鉛ダストと共にバグフィルターで回収される。
【0030】
上記の活性炭の吹込み量は、10〜20kg/hに調節される。活性炭は、ダイオキシン類吸着能があれば特に限定されないが、例えば、クラレケミカル株式会社製のクラレコールPDX−A(登録商標)を好適に使用することができる。乾式の電気集塵機で回収された粗酸化亜鉛ダスト及びバグフィルターで回収されたダイオキシン類が吸着された微量の活性炭を含む粗酸化亜鉛ダストは、工程内の水溶液によりレパルプされた後、次の湿式工程へと送られる。粗酸化亜鉛ダスト中のダイオキシン類は、湿式工程を経て、粗酸化亜鉛ケーキとしてDRKに装入される。又、バグフィルターで処理された排ガスは、RRK排ガスとして、ファン等の排風機を経由して煙突から放出される。
【0031】
[湿式工程]
湿式工程においては、還元焙焼工程で得た粗酸化亜鉛ダストに含有される塩素、フッ素等の水溶性不純物を処理液中に分離抽出し、更に固液分離処理によって、粗酸化亜鉛ダストから不純物を水洗浄法により除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式処理が行われる。より詳細には、塩素、フッ素等のハロゲン系不純物が処理液中に除去された状態において、固液分離により、不純物が分配された処理液をスラリーから除去する。これにより、粗酸化亜鉛ダストが、より高濃度の粗酸化亜鉛ケーキとなる。
【0032】
[乾燥加熱工程]
乾燥加熱工程においては、湿式工程で得た粗酸化亜鉛ケーキを焼成することにより、ハロゲン濃度を更に低減させつつ、高品位の酸化亜鉛鉱を製造する乾式処理を行う。この乾式処理は、通常、乾燥加熱用ロータリーキルン(DRK)を用いて行われる。この工程で処理対象となる粗酸化亜鉛ケーキの水分率は一般的に20質量%以上30質量%以下である。又、粗酸化亜鉛ケーキの一般的な組成は、亜鉛が61質量%以上68質量%以下、鉛が7質量%以上10質量%以下、塩素が0.3質量%以上0.9質量%以下、フッ素が0.2質量%以上1.5質量%以下(いずれも乾燥量基準)である。この粗酸化亜鉛ケーキは、含水ケーキ状のまま、スクリューフィーダ等の定量装入装置によって、DRKに投入される。DRKに投入された粗酸化亜鉛ケーキは、DRK内部の装入端側でペレット状に造粒され、次に乾燥され、加熱され、排出端側で焼成される。
【0033】
DRKには、酸化亜鉛鉱を排出する排出端側に、オイルバーナーが備えられており、排出端側から直火で加熱される。ロータリーキルンから排出される酸化亜鉛鉱の焼鉱の温度は、放射温度計にて、連続的に測定、監視されている。ここで、焼成温度については、酸化亜鉛鉱の焼鉱の温度で、900℃以上1200℃以下、好ましくは1000℃以上1150℃以下の範囲となるように、維持管理する。焼成温度は、例えばオイルバーナーへの供給オイル量によって調節することができる。排出された酸化亜鉛鉱温度を監視することによって、オイルバーナーのオイル、例えば重油使用量は、一例として400L/h以上700L/hの範囲で調整される。乾燥加熱工程において、DRKから排出される酸化亜鉛鉱のサイズは、概ね、1mm以上6mm以下であり、その一般的な組成は、亜鉛が60質量%以上70質量%以下、鉛が3質量%以上5質量%以下、塩素が0.5質量%以上1.5質量%以下、フッ素が0.6質量%以下程度(いずれも乾燥量基準)である。尚、既存の酸化亜鉛製造プロセスにおける酸化亜鉛鉱の産出量は、一例として、6t/h以上10t/h以下程度である。この乾燥加熱工程においては、DRKによる高温での完全燃焼によりダイオキシン類が分解する。
【0034】
尚、本発明の好適な適用対象であるDRKとは、耐火性を備える円筒形の釜であるキルン本体、キルン本体の排口側近傍に設けられる加熱装置であり熱源となるバーナー部、キルン本体に回転力を伝える駆動ギヤを備える回転式の加熱炉であり、上述の酸化亜鉛鉱の製造プロセスにおいては、本体の炉長が概ね30m程度のものが多く用いられている。
【0035】
[排ガス処理]
乾燥加熱工程において、DRKで発生する燃焼排ガスは、排ガス煙道に吸引され、湿式のガス洗浄塔(WT)、湿式の電気集塵機(MC)によって除塵され、ファン等の排風機を経由して煙突から放出される。DRKに装入された粗酸化亜鉛ケーキ等の装入物は、約30mのロータリーキルン内において、順に造粒、乾燥、加熱、焼成されるが、造粒、乾燥の過程で飛散した装入物の粉塵、加熱、焼成の過程で揮発した酸化物やハロゲン化物等がダストとなる。DRK排ガスのダスト濃度は、30〜40g/Nm
3程度である。DRKから排出される排ガス流量は14000〜15000m
3/hである。
【0036】
排ガス煙道内に特段の冷却手段を有さない従来の一般的な酸化亜鉛の製造プラントにおいては、DRKから排出される燃焼排ガスは、当該煙道の隙間部からの大気の吸入と自然放冷によって冷却されるのみであり、湿式のガス洗浄塔の入口部における温度は280〜300℃程度であった。このことは、湿式の排ガス洗浄塔までの間に、ダイオキシン類が再合成される可能性があることを意味する。
【0037】
これに対して、本発明の排ガス処理方法を同プラントに適用した場合には、DRKから排出される燃焼排ガスは、DRKから次工程を行う設備である湿式のガス洗浄塔にまで同ガスを移送する排ガス煙道内にて水冷処理が施されるため、上記湿式のガス洗浄塔の入口部では、ガス温度は80℃以下に冷却されていて、これにより上述のダイオキシン類の再合成を防止或いは十分に低減させることができる。
【0038】
尚、この排ガス煙道における燃焼排ガスの水冷処理は、冷却専用の撒水設備を適宜排ガス煙道の適切な位置に設置することによっても実施することができるが、例えば、以下に詳細を説明するような、特殊な形状の排ガス煙道を有する燃焼排ガスの洗浄装置を酸化亜鉛鉱の製造プラントに設置した場合には、当該排ガス煙道内を流れる燃焼排ガスからダストを分離するための洗浄水で十分な冷却を同時に行うことができるため、これに排ガス冷却装置としての機能も発揮させて酸化亜鉛鉱の製造プラントの操業を行うことができる。この場合においては、追加設備投資も少なくてすみ、経済性の観点からも極めて良好な態様で本発明の効果を享受することができる。以下、本願の好ましい一実施形態の具体例として、このような特殊な形状の排ガス煙道を有する燃焼排ガスの洗浄装置を排ガス冷却装置として機能させる場合の実施形態について具体的に説明する。
【0039】
(排ガス冷却装置)
図2は、上記の排ガス処理に好適に用いることができる排ガス冷却装置10の構成を示す模式図である。排ガス冷却装置10は、乾燥加熱炉(DRK)5から排出される排ガスを捕集して湿式のガス洗浄塔3にまで移送する排ガス煙道1と、排ガス煙道1の排ガス収集口の下方に位置する循環槽2と、排ガス煙道1の排ガス排出口に接続された湿式のガス洗浄塔3、及び、排ガス煙道1内に洗浄水を供給可能な洗浄ノズル4(4A、4B、4C)を備えるガス処理装置である。
【0040】
排ガス煙道1は、乾燥加熱炉(DRK)5の排ガス排出口近傍から垂直上方に向けて延伸する垂直煙道11と、垂直煙道11の頂部において排ガス煙道1の向きを斜め下方に向けて屈曲させている屈曲部12と、屈曲部12から斜め下方に向けて延伸している傾斜煙道13とからなる。排ガス煙道1はこのような屈曲部12を含む特異な外形からなり、乾燥加熱炉(DRK)5から排出された排ガスを湿式のガス洗浄塔3まで移送可能な一般的な管状構造を有するガス移送路である。
【0041】
洗浄ノズル4は、
図1に示す通り、垂直煙道11の上方から垂直煙道11内に洗浄水W1を流下させることができる位置に垂直煙道洗浄ノズル4Aが、又、傾斜煙道13の外側面の上方から洗浄水W2を傾斜煙道13内に流下させることができる位置に傾斜煙道上方洗浄ノズル4Bがそれぞれ設置される。又、傾斜煙道13の外側面の下方から洗浄水W3を傾斜煙道13内に注入することができる位置には、更に傾斜煙道下方洗浄ノズル4Cが設置されていることが好ましい。
【0042】
屈曲部12の屈曲角、即ち、傾斜煙道13の傾斜角度は、特に限定はされないが、傾斜煙道13の、水平面に対する仰角が、30度以上、80度以下であることが好ましい。又、傾斜煙道13の、水平面に対する仰角が、40度以上、50度以下であることがより好ましい。このような傾斜角度とすることで、洗浄水の流下方向に対するガス流の流れ方向が適切となり、ガスと洗浄水との適切な接触とガス中ダストの適切な沈降が図られる。更に、傾斜煙道13の内周面下部に適切な水量と流速の水流を形成することができる。
【0043】
傾斜煙道13の先端は、湿式のガス洗浄塔3に接続されている。湿式のガス洗浄塔は、下部側面からガスが導入され、上部からガスが排出される構造のものであれば、特に制限されない。湿式のガス洗浄塔としては、内部が中空のスプレー塔、洗浄効果を高めるために複数の多孔板が載置されたもの、更に「テラレット(登録商標)」等の充填物が充填されたもの等を用いることができる。
【0044】
又、湿式のガス洗浄塔3と循環槽2には、それぞれ1基以上の循環ポンプが備え付けられ、湿式のガス洗浄塔3と循環槽2の洗浄液を洗浄ノズル4(垂直煙道洗浄ノズル4A、傾斜煙道上方洗浄ノズル4B、及び傾斜煙道下方洗浄ノズル4Cの全て又は少なくともそれらのいずれか)に循環させることが好ましい。これにより、新たに加えられる洗浄水量、排出される洗浄後スラリー量を増やすことなく、適正な液ガス比を確保することができる。
【0045】
尚、上記の排ガス冷却装置10は、「酸化亜鉛鉱の製造プロセス」を行う製造プラントにおいて用いられる工業炉である「乾燥加熱用ロータリーキルン(DRK)」から排出されるDRK排ガスの処理に特に好ましく用いることができる。これは、DRKの場合は、排ガスを横方向に抜く構造であるため、排ガス排出口近傍から直接垂直煙道を立上げて、その下方に循環槽を設置することが容易であり、このような構造の排ガス洗浄装置を、既存設備の一部を活用しながら比較的容易に設置することができるからである。一方、通常のロータリーキルン以外の加熱炉の場合、排ガス排出口は通常炉の頂部にあるため、本願発明を実施するためには垂直煙道は排ガス排出口から水平方向に一定以上離れた位置に設置することが必須となり、排ガス排出口と垂直煙道を結ぶ水平煙道が別途必要となる。尚、本願発明を酸化亜鉛鉱の製造プロセスに適用する場合には、排ガスダストの多くを湿式処理によって回収することとなるが、このプロセスにおいては、湿式処理によって回収された排ガスダストも粗酸化亜鉛含有ケーキとして上流工程へそのまま繰り返せる点においても、このような排ガス冷却装置10による本発明の実施は、酸化亜鉛製造プロセスへの適合性は高い。
【0046】
(排ガス処理方法)
本発明の排ガス処理方法は、例えば上記の排ガス冷却装置10を用いて乾燥加熱炉(DRK)5から排出される燃焼排ガスを、次工程への移送過程内で速やかに急冷することにより、ダイオキシンの再合成を防ぐガス処理方法である。
【0047】
本発明の排ガス処理方法の実施において、排ガス煙道1内を流れるガスの平均流速は、1m/秒以上3m/秒以下であることが好ましい。必要な排ガス流量(m
3/秒)に対して、適切な断面積(m
2)を有する排ガス煙道1とすることによって、平均流速を1m/秒以上3m/秒以下とすることができる。平均流速が1m/秒未満では、排ガス煙道内の滞留時間が増え、排ガスと洗浄水の接触機会が増えて冷却効率は上がるが、排ガス煙道の内径を大きくする必要があり、設置コストが上昇し、広い設置スペースを必要とする。平均流速が3m/秒を超えると、排ガス煙道内の滞留時間が減り、排ガスと洗浄水の接触機会が減って冷却効率が下がる。例えば、酸化亜鉛鉱の製造プラントで用いるDRKの場合であれば、内径が1.55mの排ガス煙道1を備える排ガス冷却装置10を好ましく用いることができる。
【0048】
又、本発明の排ガス洗浄方法の実施において、排ガス煙道1内を流れる洗浄水の流量(m
3/h)に対する排ガス煙道1内を流れるガス流量(Nm
3/h)の比、即ち、液ガス比は16以上18以下であることが好ましい。液ガス比が18を超えると、洗浄水量が不足する他、傾斜煙道13の内周面下部に形成される水流が不足するために、ダストの回収率が低下し、垂直煙道11及び傾斜煙道13内へダストが付着する。液ガス比が16未満では、排ガス煙道1内の圧力損失が増加するので、排ガス流量が低下する。排ガス流量を低下させないようにするには、例えば、大型の排風機を用いることもできる。又、洗浄水の配管、循環ポンプを大型化することでこれに対応することもできる。尚、本明細書における、液ガス比とは、ガス流量(Nm
3/h)を水流量(m
3/h)で除した値のことである。
【0049】
以上のような構成を持つ本発明の酸化亜鉛鉱の製造プラントにおける排ガスの処理方法によれば、例えば、液ガス比が16以上18以下の多量の洗浄水によって排ガス煙道内で燃焼排ガスを排出後速やかに温度80℃以下にまで急冷することができる。又、急冷することによってダイオキシン類の再合成が防止できることから、DRK排ガスのダイオキシン類濃度上昇に付随した諸問題も解決することができる。例えば、DRKにおけるダイオキシン類が吸着された活性炭の処理を制限せざるを得ず、ダイオキシン類が吸着された活性炭を一時保管し、RRKのダイオキシン負荷を確認しながらRRKに装入することが不要になる。更には、DRK排ガスへの活性炭の添加を行う必要も無い。
【実施例】
【0050】
(比較例)
酸化亜鉛鉱の産出量が6〜10t/hであって、乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)の排ガス出口から湿式のガス洗浄塔までの間に、
図2に示されている垂直煙道−屈曲部−傾斜煙道が連接されてなる排ガス煙道(開口断面積:1.9m
2)が設置された酸化亜鉛製造プラントにおいて、試験的に煙道内に冷却水を撒水せずに、酸化亜鉛鉱製造の試験操業を行った。原材料とした粗酸化亜鉛は鉄鋼ダスト由来であり、塩素含有量は4.1重量%であった。DRKから排出される排ガスの排出直後の温度は390℃、煙道内におけるガス流量は14000〜15000Nm
3/h。煙道内の湿式のガス洗浄塔入口付近における排ガスのガス温度は、280℃であり、この場合における湿式のガス洗浄塔入口部の排ガスのダイオキシン濃度は5ng−TEQ/Nm
3であった。
【0051】
(実施例)
上記比較例と同一の酸化亜鉛製造プラントにおいて、排ガス煙道内に冷却水を撒水しながら操業したことの他は、比較例と同一の操業条件で、酸化亜鉛製造の試験操業を行った。冷却水の撒水量は、全冷却水の流量に対するガス流量の比(液ガス比)が18となる量とした。煙道内の湿式のガス洗浄塔入口付近における排ガスのガス温度は、75℃であり、この場合における湿式のガス洗浄塔入口部の排ガスのダイオキシン濃度は0.5ng−TEQ/Nm
3であった。
【0052】
上記結果より、本発明は、鉄鋼ダスト等塩素を多く含有する粗酸化亜鉛を原料として用いる酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいて、ダイオキシン類の再合成を防止し、効率的かつ確実に排ガス中のダイオキシン類を低減することができる、排ガスの処理方法であることが分かる。
【符号の説明】
【0053】
1 排ガス煙道
11 垂直煙道
12 屈曲部
13 傾斜煙道
2 循環槽
3 湿式のガス洗浄塔
4 洗浄ノズル
4A 垂直煙道洗浄ノズル
4B 傾斜煙道上方洗浄ノズル
4C 傾斜煙道下方洗浄ノズル
5 乾燥加熱炉(DRK)
10 排ガス冷却装置