(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836166
(24)【登録日】2021年2月9日
(45)【発行日】2021年2月24日
(54)【発明の名称】耐摩耗保護カバー、及び、それを用いた耐摩耗篩い
(51)【国際特許分類】
B07B 1/46 20060101AFI20210215BHJP
B07B 1/00 20060101ALI20210215BHJP
B07B 1/12 20060101ALI20210215BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20210215BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20210215BHJP
C22B 19/30 20060101ALI20210215BHJP
C22B 1/16 20060101ALI20210215BHJP
【FI】
B07B1/46 A
B07B1/00 B
B07B1/12 Z
C22B1/02
C22B1/00 601
C22B19/30
C22B1/16 101
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-61673(P2017-61673)
(22)【出願日】2017年3月27日
(65)【公開番号】特開2018-161638(P2018-161638A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2019年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】寺田 尚人
【審査官】
目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】
実開平05−028466(JP,U)
【文献】
実公昭57−010769(JP,Y2)
【文献】
特開2006−167571(JP,A)
【文献】
特開2016−080327(JP,A)
【文献】
米国特許第3134733(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B07B1/00−15/00
C22B1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐摩耗篩いのグリズリーバー用の耐摩耗保護カバーであって、
芯部と、該芯部の両側面及び天面側の各面を被覆する外殻部と、を含んでなり、
前記芯部及び前記外殻部は、いずれも、金属製の平板の一方の面に耐摩耗層が形成されてなる耐摩耗性板材からなり、
前記芯部は、複数の前記耐摩耗性板材が、前記グリズリーバーへの設置時において該グリズリーバーの設置面に対して垂直となる方向に沿って積層されてなり、
前記外殻部は、前記耐摩耗性板材が、前記耐摩耗層が表面に露出される態様で、前記芯部の両側面及び天面側の各面に接合されてなる、耐摩耗保護カバー。
【請求項2】
積層された複数の前記耐摩耗性板材の幅が、前記耐摩耗保護カバーの天面側頂部に向けて漸減していることによって、前記芯部の天面側には、前記耐摩耗性板材の両側端部に沿って山型の傾斜面が構成されていて、
前記傾斜面に前記耐摩耗性板材が接合されていることにより、
天面側に切妻屋根形状の外殻部が形成されている、請求項1に記載の耐摩耗保護カバー。
【請求項3】
前記耐摩耗性板材の耐摩耗層を構成する耐摩耗材が、高クロム鋳鉄系の耐摩耗材である請求項1又は2に記載の耐摩耗保護カバー。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の耐摩耗保護カバーが、前記グリズリーバーの天面側を被覆して設置されている、耐摩耗篩い。
【請求項5】
700℃以上に焼成された粒状又は粉状の焼成物を排出する工業炉と、該工業炉の排出端側に請求項4に記載の耐摩耗篩いが設置されてなる、焼成物選別設備。
【請求項6】
ウェルツ法による酸化亜鉛鉱の製造プラントであって、
還元焙焼工程用のロータリーキルン、及び/又は、乾燥加熱工程用のロータリーキルンの排出端側に請求項4に記載の耐摩耗篩いが設置されている酸化亜鉛鉱の製造プラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗保護カバー、及び、それを用いた耐摩耗篩いに関する。詳しくは、工業炉の出口等に設置され、700℃以上の高温環境下での使用が想定される耐摩耗篩いを構成する金属棒(所謂グリズリーバー)に被覆して用いる耐摩耗保護カバーと、このような耐摩耗保護カバーによって被覆されてなるグリズリーバーによって構成される耐摩耗篩いに関する。
【背景技術】
【0002】
各種の加熱処理を行う工業炉から排出される高温の排出物に混入している巨大な塊状物等の粗大物を分離するために、一般的に、グリズリーとも称される耐摩耗性を有する大型の篩い(本明細書においては、これを「耐摩耗篩い」と言う)が用いられている。
【0003】
一般に、耐摩耗篩いは、金属製の棒状の部材からなるグリズリーバーが相互に平行に配置された構造からなる(
図1参照)。同図に示すような耐摩耗篩いは、例えば、ウェルツ法による酸化亜鉛鉱の製造プロセスにおいて、900〜1200℃程度の高温に達している酸化亜鉛焼鉱を排出するロータリーキルンの排出端側に設置され、排出された高温の焼鉱を、次工程にそのまま搬送可能な粒状物のペレットと、搬送不能な巨大な塊状物とに分別する装置として用いられる。グリズリーバー上に残存し分離回収された巨大な塊状物は専用の排出口へ排出される。
【0004】
尚、上記の酸化亜鉛焼鉱は排出時においても、依然700〜900℃程度の高温状態を保持している。この例に代表される通り、耐摩耗篩いを構成するグリズリーバーは、通常、勢いよく落下してくる高温の焼鉱或いは塊状物との激しい衝突に恒常的に曝されることとなる。よって、その天面側には、通常、高温脆性に強い保護部材(本明細書においては、これを「耐摩耗保護カバー」と言う)が設置されている。
【0005】
ここで、従来の耐摩耗篩い用の「耐摩耗保護カバー」は、
図5に示す耐摩耗保護カバー5のように、鉄板51により形成された箱型及び三角柱型の複数のセル内に耐摩耗材52が溶射によって埋め込まれた複雑な構成により、三角屋根状の外形が形成されているものが広く用いられていた。そのため、耐摩耗保護カバーの製造に手間と時間が掛かり、又、高価な耐摩耗材を多量に使用するため、非常に製造コストが嵩むものであった。
【0006】
その一方で、セラミック製の部材をその上部に固着した構造のグリズリーバーも提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、この耐摩耗保護カバーは、セラミックであるが故に、金属系の耐摩耗材ほどの耐衝撃性は有し得ない。よって、例えば、上記のように高温の粉状物、粒状物或いは塊状物との恒常的な衝突が想定されるような箇所に用いるには耐衝撃強度が不十分であり、その使用条件の範囲に大幅な制約があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−219416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、例えば、700℃以上の高温環境下において高温の粉状物、粒状物或いは塊状物との恒常的な衝突が想定される状況における使用が十分に可能であり、このような環境下における耐摩耗性に優れるものでありながら、尚且つ、構造が簡単で低コストで製造可能な耐摩耗篩いのグリズリーバー用の耐摩耗保護カバーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、安価で入手が容易な、汎用的な耐摩耗性板材を積層してなる簡単な構造の耐摩耗保護カバーによって、上記課題が解決可能であることに想到し、本発明を完成させるに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0010】
(1) 耐摩耗篩いのグリズリーバー用の耐摩耗保護カバーであって、芯部と、該芯部の両側面及び天面側の各面を被覆する外殻部と、を含んでなり、前記芯部及び前記外殻部は、いずれも、金属製の平板の一方の面に耐摩耗層が形成されてなる耐摩耗性板材からなり、前記芯部は、複数の前記耐摩耗性板材が、前記グリズリーバーへの設置時において該グリズリーバーの設置面に対して垂直となる方向に沿って平行に積層されてなり、前記外殻部は、前記耐摩耗性板材が、前記耐摩耗層が表面に露出される態様で、前記芯部の両側面及び天面側の各面に接合されてなる、耐摩耗保護カバー。
【0011】
(1)の発明によれば、耐摩耗保護カバーを、安価で入手が容易な耐摩耗材を単に積層しただけの簡単な構造からなるものとした。これにより、700℃以上の高温環境下において高温の粉状物、粒状物或いは塊状物との恒常的な衝突が想定される状況における十分な耐摩耗性を有するものでありながら、尚且つ、低コストで製造可能なグリズリーバー用の耐摩耗保護カバーを得ることができる。
【0012】
(2) 積層された複数の前記耐摩耗性板材の幅が、前記耐摩耗保護カバーの天面側頂部に向けて漸減していることによって、前記芯部の天面側には、前記耐摩耗性板材の両側端部に沿って山型の傾斜面が構成されていて、前記傾斜面に前記耐摩耗性板材が接合されていることにより、天面側に切妻屋根形状の外殻部が形成されている、(1)に記載の耐摩耗保護カバー。
【0013】
(2)の発明によれば、芯部を構成する耐摩耗性板材のカット幅を変更することのみによって、(1)の耐摩耗保護カバーの天面側に、切妻屋根形状の外殻部を形成したものとした。これによれば、低コストで製造可能であるという(1)の発明のメリットを維持したまま、グリズリーバーの天面側を被覆する耐摩耗保護カバーの天面側の形状を切妻屋根形状とすることができ、耐摩耗性篩いの下方へ篩い落とすべき粉体等のグリズリーバー上への滞留、堆積や固着を回避し、耐摩耗性保護カバー自体の耐久性の更なる向上に寄与することができる。
【0014】
(3) 前記耐摩耗性板材の耐摩耗層を構成する耐摩耗材が、高クロム鋳鉄系の耐摩耗材である(1)又は(2)に記載の耐摩耗保護カバー。
【0015】
(3)の発明によれば、(1)又は(2)の耐摩耗保護カバーにおいて用いる耐摩耗性板材を、汎用的な耐摩耗性部材であり入手容易であって、耐熱性と耐摩耗性に優れる高クロム鋳鉄系の耐摩耗材を用いるものとした。これにより、(1)又は(2)の発明の奏する上記効果を、より、高い精度で、尚且つ、経済面も含めて、より容易に享受することができる。
【0016】
(4) (1)から(3)のいずれかに記載の耐摩耗保護カバーが、前記グリズリーバーの天面側を被覆して設置されている、耐摩耗篩い。
【0017】
(4)の発明によれば、上記のような高温環境下においての使用が想定される耐摩耗篩いにおいて、グリズリーバー又はその保護カバーの修理交換の頻度を下げて、耐摩耗篩いを含んでなる製造プラントの生産性を向上させることができる。
【0018】
(5) 700℃以上に焼成された粒状又は粉状の焼成物を排出する工業炉と、該工業炉の排出端側に(4)に記載の耐摩耗篩いが設置されてなる、焼成物選別設備。
【0019】
(5)の発明によれば、例えば、700℃以上の高温の焼成物を排出するロータリーキルンの排出端等において、耐摩耗篩いによって焼成物中の粗大排出物の選別を行う設備の稼働効率を向上させることができる。
【0020】
(6) ウェルツ法による酸化亜鉛鉱の製造プラントであって、還元焙焼工程用のロータリーキルン、及び/又は、乾燥加熱工程用のロータリーキルンの排出端側に(4)に記載の耐摩耗篩いが設置されている酸化亜鉛鉱の製造プラント。
【0021】
(6)の発明によれば、(4)の耐摩耗篩いを、ウェルツ法による酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいて用いることができる。これによれば、鉄スクラップ中の亜鉛を効率的且つ経済的に回収する技術として、鉱物資源を持たない我が国の資源リサイクルに大いに貢献している上記製造プラントの生産性向上に寄与することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高温環境下において高温の粉状物、粒状物或いは塊状物との恒常的な衝突が想定される状況における使用が十分に可能であり、このような環境下における耐摩耗性に優れるものでありながら、尚且つ、構造が簡単で低コストで製造可能な耐摩耗篩いのグリズリーバー用の耐摩耗保護カバーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の耐摩耗保護カバーが天面側に設置されているグリズリーバーを備える耐摩耗篩いの平面図である。
【
図2】
図1に示す耐摩耗篩いの全体構成を模式的に示す立面図である。
【
図3】本発明の耐摩耗保護カバーがグリズリーバーの天面側に設置されている実施形態にかかる斜視図である。
【
図4】本発明の耐摩耗保護カバーの構造を示す正面図及び上面図である。
【
図5】従来の耐摩耗保護カバーがグリズリーバーの天面側に設置されている実施形態にかかる斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の耐摩耗保護カバー、及び、それを用いた耐摩耗篩いの好ましい実施形態について説明する。本発明は、粉状、粒状或いは塊状の高温排出物を排出する種々の工業炉の排出端側に設置して、これらの排出物から粗大排出物を選別する機能を有する工業用の大型の篩い全般に広く適用可能な技術である。一具体例として、この技術は、上述の通り、ウェルツ法による酸化亜鉛鉱の製造プロセスにおいて、酸化亜鉛焼鉱を排出するロータリーキルンの排出端側において好ましく用いることができる。以下においては、本発明の耐摩耗保護カバー、及び、それを用いた耐摩耗篩いを、酸化亜鉛鉱の製造プロセスへ適用した場合、より詳しくは同プロセスを構成するロータリーキルンの排出端側にこの耐摩耗篩いを設置した製造プラントに用いる場合における実施形態を、本発明の好ましい実施形態の一例として詳細に説明する。但し、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で変更が可能である。
【0025】
<耐摩耗篩い>
図1及び
図2に示す通り、耐摩耗篩い10は、複数本のグリズリーバー2が平行に配置されることによって構成される篩い面を備え、高温の粉状物及び高温の塊状物を篩い分けることができる大型の選別装置である。各のグリズリーバー2は、金属製の棒状の部材からなり、グリズリーバー2の天面側、即ち、耐摩耗篩い10の使用時において、高温の焼鉱等が恒常的に直撃する側を被覆して耐摩耗保護カバー1が設置されている。
【0026】
耐摩耗篩い10は、酸化亜鉛鉱の製造プラントを構成するロータリーキルン等の高温の排出物を排出する工業炉の排出端側において高温の排出物をグリズリーバー2上に落下させることができる位置に設置される。そして、耐摩耗篩い10は、通常は、
図2に示すように、グリズリーバー2によって構成される篩い面が斜め向きの面となるように設置される。
【0027】
又、耐摩耗篩い10は、
図2に示すように、グリズリーバー2が、その端部が回転軸に対して偏芯設置されたディスク板3に接続された状態で取り付けられていることにより、当該回転軸が1回転することに伴い、グリズリーバー2が上下に1往復動する構造となっていることが好ましい。又、隣接するグリズリーバー2同士の上記偏芯の位相が、180度ずれるように取り付けられていることにより、隣接するグリズリーバー2同士が逆方向の上下動を繰り返す構造であることがより好ましい。このような揺動可能な態様でグリズリーバー2が設置されている耐摩耗篩いは搖動ロストルとも称される。本発明の耐摩耗篩い10をこのような搖動ロストルにも好ましく適用することができる。このような搖動ロストルは、篩い面上における耐摩耗性篩いの下方へ篩い落とすべき粉体等の排出物の滞留や堆積、固着を更に高い精度で防止可能であり、篩い面上に残留した巨大な塊状物による目詰まり等の不具合も少なく、篩い面上に残留した巨大な塊状物を速やかに排出することができる、選別能力の高い耐摩耗性篩いとして、これを配置した製造プラントの生産性向上に有意に寄与することができる。
【0028】
例えば、ウェルツ法による酸化亜鉛鉱の製造プロセスにおいて、乾燥加熱用のロータリーキルンからの塊状物と粉状物とが混在する高温の排出物を、この耐摩耗篩い10により篩い分ける場合、複数のグリズリーバー2によって構成される耐摩耗篩い10の篩い面上に投下された、高温の粉状物、粒状物或いは塊状物のうち、一定以上の大きさの塊状物のみが、グリズリーバー2上に残留し、傾斜面となるように配置されている篩い面上を転がって専用の排出口へ排出される。そして粒径が一定以下である粉状物、粒状物或いは塊状物は篩い面から下方に落下し、コンベヤー4によって次工程に搬出される。
【0029】
<耐摩耗保護カバー>
図3に示すように、耐摩耗保護カバー1は、耐摩耗篩い10を構成するグリズリーバー2の天面側を被覆して設置される。
【0030】
図3及び
図4に示すように、耐摩耗保護カバー1は、芯部11、12と、これを被覆する外殻部13、14とを少なくとも含んで構成されている。そして、耐摩耗保護カバー1は、芯部11、12と、外殻部13、14とが、いずれも、汎用部材として入手容易な耐摩耗性板材によって構成可能な簡単な構造からなるものであることを特徴とする。
【0031】
耐摩耗保護カバー1を構成する耐摩耗性板材111、121としては、一方の面に耐摩耗層が形成されていて、所望の耐熱性及び耐摩耗性を有する金属製の板材であれば、特に限定なく、各種の金属板材を適宜用いることができる。但し、耐熱性、耐摩耗性、及び、汎用品であることによる価格も含めた入手容易性等をバランスよく兼ね備える高クロム鋳鉄系の耐摩耗材によって耐摩耗層が形成されている金属板を、耐摩耗性板材111、121として、特に好ましく用いることができる。高クロム鋳鉄系の耐摩耗材による耐摩耗処理が施された金属板としては、例えば、特殊電極株式会社製のTOPプレート(商品名「TOP Gr−C」)を使用することができる。尚、「TOP Gr−C」の成分は、高Cr鋳鉄系+複合炭化物で、硬さは、ショア硬さで80HS以上90HS以下である。
【0032】
図3及び
図4に示すように、耐摩耗保護カバー1の芯部11、12は、複数の耐摩耗性板材111、121が、グリズリーバー2への設置時においてグリズリーバー2の設置面に対して垂直となる方向に沿って平行に積層されている構造からなる。尚、積層される各耐摩耗性板材111、121同士の接合については、クロム系の耐摩耗材の溶射による接合であることが好ましい。
【0033】
又、耐摩耗保護カバー1は、
図3及び
図4に示すように、その天面側に切妻屋根形状の外殻部が形成されているものであることが好ましい。芯部11、12のうち、天面側寄りの一部(天面側芯部12)において、この部分を構成する耐摩耗性板材121a〜dの幅が、
図4に示すように、耐摩耗保護カバー1の天面側頂部に向けて漸減している構成とすることにより、耐摩耗性板材121a〜dの両側端部に沿って山型の傾斜面を構成し、これにより、単一種類の板材のカット幅の変更という簡易な加工のみで、芯部の天面側の形状をこのような切妻屋根形状とすることができる。尚、切妻屋根形状の天面側の形状について、切妻屋根の頂角、即ち、上記両傾斜面のなす角の角度は、例えば90°であることを、その好ましい角度の一例として挙げることができる。
【0034】
又、
図3及び
図4に示すように、耐摩耗保護カバー1の外殻部13、14は、耐摩耗性板材が、耐摩耗層が表面に露出される態様で、芯部11、12の両側面及び天面に接合されてなる構造からなる。尚、外殻部13、14を構成する耐摩耗性板材の芯部11、12への接合についても、クロム系の耐摩耗材の溶射による接合であることが好ましい。
【0035】
図3及び
図4に示すように、耐摩耗保護カバー1が、その天面側に切妻屋根形状の外殻部が形成されているものである場合、芯部11、12のうち、底面側寄りの一部(底面側芯部11)の側面には、外殻部13(側面側外殻部13)が、切妻屋根形状の天面側芯部12の両傾斜面には、外殻部14(天面側外殻部14)が、それぞれ接合されて、耐摩耗保護カバー1の外殻部は構成されている。
【0036】
尚、耐摩耗保護カバー1は、グリズリーバー2への設置を容易に行うことができ、且つ、設置後の接続部分の安定性を高めることができる接続部15を更に備えるものであることが好ましい。この接続部15は、
図3に示すような断面コの字形状の部材であることが好ましく、鋼材等を加工した部材であってもよいが、芯部11、12や外殻部13、14を構成するものと同一の耐摩耗性板材を上記形状に加工形成したものであることがより好ましい。接続部15と芯部11、12、外殻部13、14との接合についても、上記同様、クロム系の耐摩耗材の溶射による接合が好ましい。尚、接続部15とグリズリーバー2との接合については、消耗時の交換作業が容易に行える着脱可能なボルト締め等による固定であることが好ましい。
【0037】
<酸化亜鉛鉱の製造プラント>
ウェルツ法による酸化亜鉛鉱の製造プラントは、鉄鋼ダスト等の亜鉛含有鉱を還元焙焼して粗酸化亜鉛ダストを得る還元焙焼工程、還元焙焼工程で得た粗酸化亜鉛ダストからフッ素及びカドミウム等を分離除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程、湿式工程で得た粗酸化亜鉛ケーキを乾燥加熱して酸化亜鉛鉱(焼鉱)を得る乾燥加熱工程を順次行うプロセスを実施する工業プラントである。本発明は、このような酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいて、上記の還元焙焼工程で用いる還元焙焼用ロータリーキルン(RRK)若しくは乾燥加熱工程で用いる乾燥加熱用ロータリーキルン(DRK)、或いは、同プラントにおけるそれら両方のロータリーキルンの排出端側に設置する、700℃以上にも達する高温の排出物を篩い分ける焼成物選別装置として好ましく用いることできる。
【0038】
[還元焙焼工程]
還元焙焼工程においては、鉄鋼ダストを還元材とともに予めペレット化した原材料等を、還元焙焼用ロータリーキルン(RRK)によって還元焙焼する処理が行われる。この還元焙焼処理においては、被処理物の最高温度が1100〜1200℃程度になるように制御される。RRKには、残留物(クリンカー)を排出する排出端側に、オイルバーナーが備えられており、排出端側から直火で加熱される。装入端側の排ガス温度は、400℃から700℃の範囲内の適切な温度で管理される。そしてRRKにおいては、カルシウム源として石灰石を投入することにより、炉内残留物の融点を上昇させ、キルン内にベコを付着させないように調節しているが、あえて燃焼状態が持続しやすいコークス等の炭材を使用していること、そして還元された金属鉄は一酸化炭素ガス濃度が低下すればキルン内で速やかに酸化され、酸化反応に伴い発熱することにより、特に排出端付近の残留物が高温になりやすく、これに起因して、炉内の排出端側にベコが生成しやすい。そこで、このベコの過剰な生成を防ぐためのコーチングカッターと呼ばれる、キルン運転中にベコを機械的に掻き落とす装置が備わっている場合が多く、この場合、RRKの排出物には、塊状物である剥離したベコが混入することがある。特にこのようなRRKにおいては、被処理物の排出端側に、耐摩耗篩いを備えることが必須となる。そして、このような態様で設置される耐摩耗篩いにおいて、本発明の耐摩耗保護カバーを極めて好ましく用いることができる。
【0039】
[湿式工程]
還元焙焼工程に続く湿式工程においては、還元焙焼工程で得た粗酸化亜鉛ダストに含有される塩素、フッ素、カドミウム等の水溶性不純物を処理液中に分離抽出し、更に固液分離処理によって、粗酸化亜鉛ダストから不純物を水洗浄法により除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式処理が行われる。
【0040】
[乾燥加熱工程]
乾燥加熱工程においては、湿式工程で得た粗酸化亜鉛ケーキを乾燥加熱用ロータリーキルン(DRK)に投入して焼成することにより、ハロゲン濃度を更に低減させつつ、高品位の酸化亜鉛鉱を製造する乾式処理を行う。粗酸化亜鉛ケーキは、含水ケーキ状のまま、スクリューフィーダ等の定量装入装置によってDRKに投入される。DRKに投入された粗酸化亜鉛ケーキは、ロータリーキルンの内部の装入端側でペレット状に造粒され、次に乾燥され、加熱され、排出端側で焼成される。DRKには、酸化亜鉛鉱を排出する排出端側に、オイルバーナーが備えられており、排出端側から直火で加熱される。ロータリーキルンから排出される酸化亜鉛鉱の焼鉱の温度は900℃以上1200℃以下の範囲となるように維持管理する。RRKと同様に、DRKにおいても、バーナーの火炎に近い排出端側の酸化亜鉛鉱が高温になりやすく、排出端側のキルン内にベコが生成しやすい。よって、DRK内では、内壁に付着した付着物が剥がれ落ち、それが大塊としてキルンの排出端から排出されることがある。一定以上の大きさの塊状物が排出され、そのまま、次工程に搬出されてしまうと、様々な故障や生産上のトラブルの原因となるため、これを選別して分離するための分別機能を備えた耐摩耗篩いの設置が必要となる。そして、このような態様で設置される耐摩耗篩いにおいて、本発明の耐摩耗保護カバーを極めて好ましく用いることができる。
【実施例】
【0041】
高クロム鋳鉄系の耐摩耗材による耐摩耗処理が施された耐摩耗性板材として、上述の特殊電極株式会社製のTOPプレート(商品名「TOP Gr−C」、母材厚さ6mm、耐摩耗層厚さ6mm、総厚さ12mm)を用いて、
図3に示すように天面側の形状が切妻屋根形状である耐摩耗保護カバーを製造して、試験操業により、その効果を検証した。
【0042】
芯部については、上記の耐摩耗性板材を、長さ500mm、幅100mmに切断し、6枚を積層して、各板材相互を溶接接合して、直方体形状の底面側芯部を形成した。又、この底面側芯部の天面側に、上記の耐摩耗性板材を、長さ500mm、幅76mmに切断したものを重ね、その上に、同板材を、長さ500mm、幅52mmに切断したもの、同板材を、長さ500mm、幅28mmに切断したものを順次積層して、各板材相互を溶接接合して、切妻屋根形状の天面側芯部を形成した。
【0043】
外殻部については、上記の通り形成した底面側芯部11の両側面に、上記の耐摩耗性板材を、長さ500mm、幅76mmに切断したものを、それぞれ溶接接合して、側面側外殻部を形成した。又、上記の通り形成した底面側芯部11の天面側の両斜面に、上記の耐摩耗性板材を、長さ500mm、幅71mmに切断したものを、それぞれ溶接接合して、天面側外殻部を形成した。
【0044】
上記の各耐摩耗性板材同士は、抗張力60級ワイヤーにて接合し、接合部分をCr−Nb−V溶接棒にて硬化肉盛り処理をした。又、各板材間の隙間にも、同様の硬化肉盛り処理を行った。
【0045】
以上の通り製造した耐摩耗保護カバーを、ウェルツ法による酸化亜鉛の製造を行う製造プラントの乾燥加熱用ロータリーキルン(DRK)の排出端側に設置されている耐摩耗篩いのグリズリーバーに取り付けて、試験操業を半年間行った。尚、この試験操業の開始前においては、
図5に示す従来構造の耐摩耗保護カバーが取り付けられていた。この従来構造の耐摩耗保護カバーは、
図5に示すように、鉄板51により形成された箱型及び三角柱型の複数のセル内に耐摩耗材が溶射によって埋め込まれた構成からなるものであり、耐摩耗材としては、上記の実施例の耐摩耗材と同様の高クロム鋳鉄系の耐摩耗材が用いられているものであった。
【0046】
実施例の耐摩耗保護カバーの製作時間は、従来構造との比較で約半分に削減された。又、製造コストについても、従来構造との比較で60%に削減することができた。一方で、試験操業を半年継続した後の耐摩耗保護カバーの摩耗程度は、従来構造との比較で遜色のないものであった。
【0047】
以上より、本発明の耐摩耗保護カバーは、構造が簡単で安価に製造できるものでありながら、700℃以上の高温環境下における耐摩耗性に優れるものであり、グリズリーバー又はその保護カバーの修理交換の頻度を下げて、ウェルツ法による酸化亜鉛鉱の製造プラントに代表される、耐摩耗篩いを含んでなる製造プラントの生産性を向上させることができることが確認された。
【符号の説明】
【0048】
1 耐摩耗保護カバー
11、12 芯部
111、121 耐摩耗性板材
13、14 外殻部
15 接続部
3 ディスク板
4 コンベヤー
5 耐摩耗保護カバー(従来型)
51 鉄板
52 耐摩耗材
10 耐摩耗篩い