(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて、本発明に係るガラス板の具体的な実施の形態について詳述する。
【0011】
図1(a)〜(b)は、本発明に係るガラス板の一例を示し、
図1(a)は正面斜視図、
図1(b)は搬送装置内の搬送状態の概念図である。
図2(a)〜(c)は、本発明に係るガラス板の一例を示し、
図2(a)は正面図、
図2(b)は右側面図、
図2(c)は底面図である。ガラス板の
図1(a)〜
図2(c)を用いてガラス板の一例を詳述する。
【0012】
本実施形態のガラス板1は、略矩形状をなし、第1主面10と、第1主面10と対向する第2主面20と、第1主面10と第2主面20とを繋ぐ4つの端面を備え、4つの端面は、第1端面30と、第1端面30と対向する第2端面40と、第1端面30の一端と第2端面40の一端とを繋ぐ第3端面50と、第1端面30の他端と第2端面40の他端とを繋ぎ、第3端面50に対向する第4端面60とを有する。
【0013】
ガラス板1を搬送する搬送装置100において、上面が第1主面10であり、回転ローラ101と接触し反応ガスであるフッ化水素ガス(HF)でエッチングされる面が第2主面20であり、搬送方向(図中矢印方向参照)の先端面が第1端面30であり、第1端面30と反対側の端面が第2端面40であり、ガラス板1の第1主面10側から見て、右側が第3端面50、左側が第4端面60である。
【0014】
また、ガラス板1の第1主面10は、
図2(a)に示す通り、第1、第2、第3、第4端面30、40、50、60のいずれかからガラス板1の中央側に所定の幅(例えば約20mm)を占める縁領域11と、縁領域11よりも中央側を占める中央領域12とを備えている。
【0015】
ガラス板1の第1端面30は、
図2(b)に示す通り、第1主面10側を占める第1領域31と第2主面20側を占める第2領域32とを備えている。そして、本実施形態では、第1領域31と第2領域32の境界は、ガラス板1が撓むため波形形状となっている場合がある。
【0016】
ガラス板の第3端面50は、
図2(c)に示す通り、第1端面30側の第3領域51と、第2端面40側の第4領域52とを備える。即ち、第3領域51は、ガラス板1の搬送方向に対して上流側にある。
【0017】
本実施形態のガラス板1は、例えば液晶ディスプレイおよび有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)の製造に用いられる。ガラス板1は、例えば、板厚約0.2mm〜0.8mm、縦横約600mm〜3000mmの矩形状である。なお、ガラス板のことをガラス基板とも表現する。
【0018】
ガラス板1の第1主面10は、FPDの製造工程において、TFT等の半導体素子、カラーフィルタ、および、ブラックマトリックス(BM)等を含む複数層の薄膜が形成される面である。
【0019】
ガラス板1は、ケイ酸塩ガラスであれば組成は特に限定されないが、例えばFPD用のガラス基板の場合、SiO
2とAl
2O
3とB
2O
3およびアルカリ土類金属の酸化物を含む組成を有するアルミノケイ酸ガラスが好ましい。また、形成される素子の密着性及び不具合を抑制する観点から、アルミノケイ酸ガラスの中でも、アルカリ金属成分を実質的に含まない、いわゆる無アルカリガラスがより好ましい。なお、アルカリ金属成分を実質的に含まないとは、アルカリ金属成分を全く含まないことの他に、製造上の不可避成分の含有を許容するものである。具体的には、ガラス組成におけるアルカリ金属酸化物の含有量が、0.1質量%以下であることが好ましい。
【0020】
図3は、本実施形態のガラス板1の搬送状態を示す概念図である。
図3を用いて、本発明の目的を詳述する。
【0021】
搬送装置100は、ガラス板1を製造する工程内において、所定の寸法に切断済みのガラス板を1枚1枚連続して所定の方向に搬送するもので、図示しない駆動装置等で回転する複数の回転ローラ101と、回転ローラ101の下方に設置されたノズル102と、を備えている。
【0022】
ノズル102は、搬送装置100によって搬送されるガラス板1に対し、ガラス板1の搬送方向に対して略垂直方向でガラス板1の下側から反応ガスを吹き付ける。これにより、ガラス板1の第2主面20をエッチング(粗面化)する。また、ノズル102は、反応ガスを供給するガス供給路103と、反応ガスを吸引するガス吸引路104とを有している。
【0023】
ガス供給路103は、外部に設けられた、例えば図示しない原料ガスを供給する原料ガス供給装置と接続される。原料ガスは、例えば、フッ素系原料ガスと、キャリアガスとを含む。
【0024】
フッ素系原料ガスは、ガラス板1の表面と反応するフッ素系反応成分を生成するために用いられる。フッ素系反応成分は、フッ素系原料ガスをプラズマ化(分解、冷気、活性化、イオン化等を含む)することにより生成できる。キャリアガスは、フッ素系原料ガスの搬送および希釈や、プラズマ放電を行うために用いられる。本実施形態では、フッ素系原料ガスとしてCF
4が、キャリアガスとしてアルゴンが用いられる。
【0025】
なお、フッ素系原料ガスはこれに限られず、C
2F
6、C
3F
8といったその他のパーフルオロカーボン、CHF
3、CH
2F
2、CH
3Fといったハイドロフルオロカーボン、SF
6、NF
3、XeF
2といったその他のフッ素含有化合物を用いてもよい。また、キャリアガスはこれに限られず、N
2、ヘリウム、ネオン、キセノンといったその他の不活性ガスを用いてもよい。
【0026】
本実施形態では、ガラス板1を1枚1枚、反応ガス中に突入させて第2主面20をエッチングしているが、搬送装置100内に滞留したガスGを利用して第1端面30側もエッチングしている。第1端面30側を粗面化することによりガラス板1の向き(方向)を判別することが可能となる。滞留ガスGをあえて存在させて利用するため、搬送されてくるガラス板1毎に反応ガスを除去したり、フローを止めたりする必要がなくなる。本実施形態においては、ガス吸引路104を通して反応ガスを搬送装置100内から吸引している。本実施形態では、搬送方向に対して先端側に位置する端面である第1端面30も同時に粗面化するためにあえて反応ガスを搬送装置100内に滞留させてよい。滞留ガスGの量は粗面化の程度を考慮して制御することが可能である。また、ガラス板1の搬送方向後ろ側に向かうにつれて、反応ガスの密度・濃度が小さくなるように、あえてコントロールしてもよい。
このようにすることで、第2主面20及び縁領域11のうち、第1端面30に沿った領域がガスによって処理される。
【0027】
反応ガスは第2主面20をエッチングするために用いられ、ガラス板1の第1主面10の特に中央領域12は粗面化しないことが好ましい。第1主面10の第1表面粗さが、第2主面20の第2表面粗さよりも小さい。ここで、第1表面粗さとは、中央領域12内から無作為に6点抽出して測定した値の平均であり、第2表面粗さとは、後述する
図4(a)の(1)〜(6)に対応する第2主面20上の位置における測定値の平均とする。第1主面が半導体素子等の形成に適した面となる。
【0028】
製造ラインを完了したガラス板1を工場内でパレットに詰める際の向きや、納品先工程での搬送上で確認したいガラス板1の向きを、判別する作業が必要な場合があり、ガラス板1の向きが容易に分かると作業効率の向上を図ることができる。また、例えばガラス板1を5度程度傾斜させて立たせた状態で、搬送することがあるが、この際、下側のコンベアと接触する辺の表面粗さが小さすぎると、コンベアとの摩擦が小さすぎて、ガラス板1が滑ってしまう場合がある。
【0029】
本実施形態では、あえて粗らした端面(第1端面30)を1つ作ることで、ガラス板1の向きが容易に判別できる。また、当該端面を下にしてガラス板1を配置すれば、載置面(コンベア)に対して滑る問題を容易に解消することができる。
【0030】
図4(a)〜(b)は、第1主面10のフッ素量とAl/Si比とを測定した結果を示し、
図4(a)は測定ポイントの正面図、
図4(b)はフッ素量の測定結果とAl/Si測定結果の表である。尚、フッ素は簡易的な洗浄を追加で実施すると検出がほとんどなくなるので、洗浄前の値を
図4(b)に示しているが、Al/Siの値は、洗浄しても変わらないため洗浄前のどちらの値も有効である。
【0031】
尚、Al/Si比は、X線光電子分光法を用いて測定したガラス板1の表面(第1主面10)のAl濃度およびSi濃度の比、すなわち、Alのatm%およびSiのatm%の比である。測定装置には、アルバツク・ファイ社製のESCA5500を使用し、Si(2p)およびAl(2p)のピークを用い、パスエネルギー117.4eV、エネルギーステップ0.5eV/step、取り出し角(試料表面と検出器のなす角度)150の条件で測定を行った。スペク卜ルの解析には、解析ソフトMulti Pak Ver.8.2を使用した。フッ素量(フッ素の含有量)も同じ方法にて測定した。
【0032】
測定ポイントは6つでガラス板1の第1主面10上で(1)〜(6)で示してある(
図4(a)参照)。(1)は第1端面30と第4端面60に近い第1主面10の角側近傍、(2)は第1端面30と第3端面50に近い第1主面10の角側近傍、(3)は第2端面40と第3端面50に近い第1主面10の角側近傍、(4)は第2端面40と第4端面60に近い第1主面10の角側近傍、(5)は第1主面10の中央近傍、(6)は第1端面30近傍で(1)と(2)の中間である。また、測定ポイント(1)〜(4)および(6)は、第1主面10の縁領域11にある。
【0033】
第1主面10のフッ素量(atm%)測定結果(
図4(b)参照)によると、第1端面30に近い測定ポイント(1)、(2)、(6)において、他の測定ポイント(3)、(4)、(5)と比較してフッ素量が多く、反応ガスであるフッ化水素ガスの影響がでていることが理解される。表から第2主面20又は縁領域11は、フッ素の含有量が、0.35atm%以上の領域を有することが言える。また、好ましくは最大値が0.50atm%以上であり、さらに好ましくは0.70atm%以上である。
【0034】
このような値範囲とすることで、第1端面30が充分に粗れてガラス板1の向きの判別がし易くなり、第2主面20が充分に粗れてステージへのガラス板1の吸着、ステージからのガラス板1の剥離がし易くなる。
【0035】
第1主面10のAl/Si比の測定結果(
図4(b)参照)によると、第1端面30に近い測定ポイント(1)、(2)、(6)において、他の測定ポイント(3)、(4)、(5)と比較してAl/Si比が低くなっており、反応ガスであるフッ化水素ガスでAlがリーチングされており、反応ガスの影響がでていることが理解される。本実施形態において、ガラス板1は化学強化ガラスの一種であるアルミノシリケートガラス(アルミノケイ酸ガラス)であり、反応ガスであるフッ化水素ガスに暴露された部分はAlがリーチングされるためAl/Siの値が小さくなっている。なお、本実施形態で用いたガラスの組成は、Al/Siの値が約0.3のものである。なお、本実施形態において、ガラス成分からAlがリーチングされ、Fに置換される場合が考えられる。
【0036】
また、表から第2主面20又は縁領域11は、Al/Siが、0.17以下の領域を有することが好ましいと言える。そして、より好ましくは0.15以下であり、さらに好ましくは0.13以下である。また、特に限定されないが、例えば第2主面20又は縁領域11のいずれの領域においても、Al/Siが0.01以上でよい。
また、第2主面20又は縁領域11は、好ましくはAl/Siの平均値が0.20未満であり、さらに好ましくは0.18未満の領域を有する。また、特に限定されないが、下限値としては例えば0.01以上である。
【0037】
ガラス板1の向きの判別がし易くなり、ステージへのガラス板1の吸着、ステージからのガラス板1の剥離がし易くなる。
【0038】
本実施形態によって、第2主面20を十分に粗らしつつ、第1端面30も粗面化したガラス板1を提供できる。
【0039】
図5(a)〜
図8を用いて、第2主面20および第1端面30の粗面化が行われている状態を、粗さを示す幾つかの測定値に基づいて詳述する。
【0040】
図5(a)〜(b)は、第1端面30、第2端面40、第3端面50、第4端面60に於けるカレット剥離率を測定した表で、
図5(a)は第1サンプル、
図5(b)は第2サンプルである。カレットとは、ガラス板1から剥がれ落ちる微少なガラスの粒を指す。また、カレット剥離率(単位:%)は、テープ試験によってテープの粘着面に貼りついたカレットの専有面積の割合(カレット占有率)として求めた。テープ試験とは、ガラス板1の端面にテープを貼り付けた後、テープを引き剥がし、「どれだけガラス板1の端面からカレットが剥がれてテープの粘着面に付着しているか」を顕微鏡で測定する試験である。顕微鏡の測定では、テープの粘着面内から無作為に抽出した125μm×125μmの面積内に存在するカレットが占める面積を二値化処理により抽出し、125μm×125μmの面積内における存在率を示した。このようにして単位面積当たりのカレット占有面積を求め、パーセント表記したものをカレット剥離率(カレット占有率)とした。
尚、テープ試験で用いるテープは、例えば、JIS Z 0237:2009で規定される180°引き剥がし粘着力が、10N/25mmのものでよく、引き剥がし方法はJIS Z 0237:2009に準じたものでよい。
【0041】
また、以下、第1端面30のカレット剥離率を第1カレット剥離率、第2端面40のカレット剥離率を第2カレット剥離率、第3端面50のカレット剥離率を第3カレット剥離率、第4端面60のカレット剥離率を第4カレット剥離率、と述べる。
【0042】
図5(a)〜(b)の表から、第1端面30の第1カレット剥離率は、第2端面の第2カレット剥離率よりも大きく、第3端面50の第3カレット剥離率よりも大きく、第4端面60の第4カレット剥離率よりも大きいことがそれぞれ好ましいと言える。即ち、第1端面30は、全ての端面40、50、60のうちで、カレット剥離率が最も高いことが好ましいと言える。従って、ガラス板1の向き(方向)の判別性がさらに高まる。
【0043】
また、
図5(a)〜(b)の表から、第2カレット剥離率と、第3カレット剥離率と、第4カレット剥離率とが、第2カレット剥離率と、第3カレット剥離率と、第4カレット剥離率との平均値の0.5倍以上1.5倍以下であることが好ましいと言える。このことから、第2端面40と第3端面50と第4端面60には明確な傾向が表れておらず、それぞれに対してあまり差がなく、第1端面30だけが大きいと理解できる。従って、ガラス板1の向き(方向)の判別性がさらに高まる。
【0044】
さらに、
図5(a)の(第1端面30のカレット剥離率)/(第2端面のカレット剥離率)≒3.78、
図5(b)の(第1端面30のカレット剥離率)/(第2端面のカレット剥離率)≒5.24から、第1カレット剥離率は、第2カレット剥離率の3倍以上であることが好ましいと言える。即ち、第1端面30だけ他の端面40、50、60と比べて飛び抜けて大きいことが理解できる。従って、第1端面30の粗面化が目立つことで、ガラス板1の向き(方向)の判別性がさらに高まる。また上限値は特に限定されないが、例えば20倍以下である。
また、テープ試験において、第1サンプルでは長径6μm以上のカレットは発生しなかった。また第2サンプルでは長径9μm以上のカレットは発生しなかった。また第2サンプルはガラス基板として十分な強度を有し、第1サンプルは第2サンプルよりも強度が高かった。これより、第1端面30から剥離するカレットの大きさが好ましくは長径10μm以下、より好ましくは長径9μm未満、さらに好ましくは長径6μm未満であることが言える。即ち、第1端面30はカレットが剥離し易いが、大きすぎるカレットは剥離していないことが理解できる。上記範囲であることで、滞留ガスGの濃度を制御することで第1端面30を粗らしつつ、かつ第1端面30の端面強度の低下を抑制することができる。また、下限値は特に限定されないが、例えば長径0.1μm以上である。
【0045】
また、第1端面30のうち第2主面側が、エッチングされやすいため、第1カレット剥離率は、第1領域31よりも第2領域32の方が大きいことも言える。そして、第1領域31と第2領域32の境界は、ガラス板が撓む場合があるため波形形状である場合があることを上述した。従って、ガラス板1の向きを確認する作業において、容易にガラス板1の向き(方向)を判別できる。
【0046】
第3端面50の第3カレット剥離率では、第4領域52よりも第3領域51の方が大きいと言える。即ち、第3端面50の側辺のうち、滞留ガスGに触れやすい搬送方向上流の方が、カレット剥離率が高くなり、ガラス板1の向き(方向)の判別性がさらに高まる。
【0047】
図6(a)〜(b)は、カレットの電子顕微鏡による写真で、
図6(a)は第1端面30、
図6(b)は第2端面40である。黒い部分がカレットで、他の部分はテープである。第2端面40に比較して第1端面30のカレットが多いことが理解できる。
【0048】
図7は、第1端面30、第2端面40、第3端面50、第4端面60に於ける粗さを測定した表である。表中の各粗さを示す指標(RaおよびRδc)は以下の定義である。なお、これらの値はJIS B 0601:2013に規定される。尚、これらの値は各端面において無作為に5点測定して、その値を平均したものである。
Ra:「算術平均粗さ」であり、基準長さにおいて、Z(x)(1つの曲線の集合体)の絶対値の平均を表す値である。
Rδc:「粗さ曲線の切断レベル差」であり、二つの負荷長さ率に一致する高さ方向の切断レベルcの差を表す値である。
【0049】
図7の表から、第1端面30のRaおよびRδcの値は、他の端面40、50、60の値よりも大きいことが理解できる。即ち、第1端面30の表面粗さは、第2端面40の表面粗さよりも大きいことが好ましいと言える。
【0050】
そして、
図5(a)〜(b)および
図7の表から、第1主面10の第1表面粗さが、第2主面20の第2表面粗さよりも小さく、第1端面30の第1カレット剥離率は、第2端面40の第2カレット剥離率よりも大きいと理解できる。
【0051】
従って、ステージに吸着して剥離する側の第2主面20の粗面化により剥離帯電が防止でき、真空吸着からガラス板1が外し易くなり、第1端面30の粗面化によりガラス板1の方向性が容易に理解され、例えば納品先での搬送時に載置する側の判別作業の効率向上を図ることができる。
【0052】
また、縁領域11は、中央領域12よりも表面粗さが大きい領域を有することが好ましい。
図4(a)〜(b)において、反応ガスの影響を第1主面の縁領域11の搬送方向下流側については確認できるため、第1主面の縁領域11も第2主面20と同様の表面特性であると考えられる。縁領域11に中央領域12よりも表面粗さが大きい領域を備えれば、その部位から空気が入りやすいため、ガラス板1を積層させる際の合紙を剥がし易くなる。即ち、ガラス板1の周縁の一部が粗れているため、合紙をめくりやすいと言える。なお、縁領域11は、半導体素子の形成に適さなければ、後の工程で切り落としてよく、中央領域12のみを半導体素子の形成に用いればよい。
【0053】
搬送装置100内で搬送されるガラス板1の最初に突入する第1端面30は、反応ガスにより他の端面40、50、60に比べ粗くなり、カレット剥離率が大きくなるため、第1端面30が判別できる。この結果、ガラス板1の向き(方向)の判別性を付与することができ、ガラス板1の向きを容易に判別できる。
【0054】
図8は、第2主面20を種々の粗さを示す指標で測定した値を示す表であり、サンプル数Nは5個(N=5)である。
【0055】
表中の各粗さを示す指標(Rku、Rsk、等)は以下の定義である。なお、これらの指標はJIS B 0601:2013に規定される。
【0056】
Rku:「粗さ曲線のクルトシス」であり、二乗平均平方根高さRqの四乗によって無次元した基準長さにおいて、Z(x)の四乗平均を表す値である。
【0057】
Rsk:「粗さ曲線のスキューネス」であり、二乗平均平方根高さRqの三乗によって無次元化した基準長さにおいて、Z(x)の三乗平均を表す。歪度を意味し、平均線を中心としたときの山部と谷部の対称性を表す値である。また、原子間力顕微鏡により測定される表面の凹凸形状を表すパラメータの一種でもある。
【0058】
Rsm:「粗さ曲線要素の平均長さ」であり、基準長さにおいて、輪郭曲線要素の長さXsの平均を表す値である。
Rv:「粗さ曲線の最大谷深さ」であり、基準長さにおいて、輪郭曲線の谷深さZvの最大値である。
Rz:「最大高さ粗さ」であり、基準長さにおいて、輪郭曲線の山高さZpの最大値Rpと谷深さZvの最大値Rvの和を表す値である(Rz=Rp+Rv)。
【0059】
比表面積率の増加分とは、基準平面の表面積を1とした際の、第1主面10又は第2主面20の比表面積を測定し、それらの値と基準平面の表面積との差分(すなわち第1主面10又は第2主面20の比表面積の値から1を引いた値)を示す(単位は%)。
【0060】
図8の表において、第2主面20又は第1主面10の縁領域11が所望の粗面化をしていることを示す事実としてRskの値が正であることと、比表面積率の増加分の値が高いことが重要である。
【0061】
当該表から、第2主面20又は第1主面10の縁領域11は、Rsk(粗さ曲線のスキューネス)が正の領域を含むと言える。そして、Rskの最大値が好ましくは0.2以上であり、より好ましくは0.4以上、さらに好ましくは0.6以上である。また、Rskの最小値が好ましくは0.1以下であり、より好ましくは0.05以下である。さらに、第2主面20全体ではRskが正でもよく、その場合、第2主面20全体的に、好ましくは0.005以上であり、より好ましくは0.008以上、さらに好ましくは0.010以上である。
【0062】
粗面化することで剥離帯電が抑制され、ステージへのガラス板1の吸着、ステージからのガラス板1の剥離がしやすくなり、ガラス板1の方向性も容易に判別することができる。
【0063】
また、
図8の表から第2主面20又は第1主面10の縁領域11は、比表面積率の増加分が好ましくは0.01%以上の領域を備えると言える。そして、比表面積率の増加分が、より好ましくは0.02%以上であり、さらに好ましくは0.03%以上である。また、比表面積率の増加分の最大値は好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは0.07%以上、さらに好ましくは0.10%以上である。
【0064】
粗面化することで剥離帯電が抑制され、ステージへのガラス板1の吸着、ステージからのガラス板1の剥離がしやすくなり、ガラス板1の方向性も容易に判別することができる。
【0065】
本実施形態の説明において第1、第2等を使用したが、特に位置や方向性を限定する用語ではない。また、第1端面30の粗面化を説明したが、製造ラインによっては第3端面50や第4端面60を粗面化する方が有利な場合もあり、方向性の判別は一端面の粗面化であればよく、特に限定されない。
【0066】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0067】
特に、本実施形態では略矩形状のガラス板と表現したが、コーナーカットと呼ばれる、矩形のガラス板の角を切り落としたガラス板であってもよい。
【0068】
以上の事項より、本明細書は以下の内容を開示する。
[1]
第1主面と、前記第1主面と対向する第2主面と、前記第1主面と前記第2主面とを繋ぐ端面と、を有し、前記端面は、第1端面を備え、前記第1主面の第1表面粗さが、前記第2主面の第2表面粗さよりも小さく、前記第1端面の第1カレット剥離率は、他の端面のカレット剥離率とは異なることを特徴とするガラス板。
[2]
前記端面は、前記第1端面と対向する第2端面、を備え、前記第1端面の前記第1カレット剥離率は、前記第2端面の第2カレット剥離率よりもおおきい[1]に記載のガラス板。
[3]
前記端面は、前記第1端面の一端と前記第2端面の一端とを繋ぐ第3端面と、前記第1端面の他端と前記第2端面の他端とを繋ぎ、前記第3端面に対向する第4端面と、を備え、 前記第1カレット剥離率は、前記第3端面の第3カレット剥離率よりも大きく、前記第1カレット剥離率は、前記第4端面の第4カレット剥離率よりも大きい、[1]または[2]に記載のガラス板。
[4]
前記第2カレット剥離率と、前記第3カレット剥離率と、前記第4カレット剥離率とが、 前記第2カレット剥離率と、前記第3カレット剥離率と、前記第4カレット剥離率との平均値の0.5倍以上1.5倍以下である、[3]に記載のガラス板。
[5]
前記第1カレット剥離率は、前記第2カレット剥離率の3倍以上である、[2]から[4]のいずれか1項に記載のガラス板。
[6]
前記第1端面から剥離するカレットの大きさが長径10μm以下である、[1]から[5]のいずれか1項に記載のガラス板。
[7]
前記第1端面の表面粗さは、前記第2端面の表面粗さよりも大きい、[2]に記載のガラス板。
[8]
前記第1端面は、前記第1主面側を占める第1領域と、前記2主面側を占める第2領域と、を備え、前記第1カレット剥離率は、前記第1領域よりも前記第2領域の方が大きい、[1]から[7]のいずれか1項に記載のガラス板。
[9]
前記第1領域と前記第2領域の境界は、波形形状である、[8]に記載のガラス板。
[10]
前記第3端面は、前記第1端面側の第3領域と、第2端面側の第4領域とを備え、前記第3カレット剥離率は、前記第4領域よりも前記第3領域の方が大きい、[3]に記載のガラス板。
[11]
前記第1主面は、前記第1、第2、第3、第4端面のいずれかから前記ガラス板の中央側に所定の幅占める縁領域と、前記縁領域よりも中央側を占める中央領域と、を備え、前記縁領域は、前記中央領域よりも表面粗さが大きい領域を有する、[3]に記載のガラス板。
[12]
前記第2主面又は前記縁領域は、粗さ曲線のスキューネス(Rsk)が正の領域を有する、[11]に記載のガラス板。
[13]
前記第2主面又は前記縁領域は、比表面積率の増加分が0.01%以上の領域を有する、[11]に記載のガラス板。
[14]
前記第2主面又は前記縁領域は、フッ素含有量が、0.35atm%以上の領域を有する、[11]に記載のガラス板。
[15]
前記第2主面又は前記縁領域は、Al/Siが0.17以下である領域を有する、[11]に記載のガラス板。
[16]
前記縁領域は、前記第1端面から前記ガラス板の中央側に所定の幅占める領域である、[11]に記載のガラス板。