特許第6836704号(P6836704)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6836704ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6836704
(24)【登録日】2021年2月10日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/02 20160101AFI20210222BHJP
【FI】
   C08G75/02
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-248209(P2015-248209)
(22)【出願日】2015年12月21日
(65)【公開番号】特開2017-114922(P2017-114922A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】三川 直浩
(72)【発明者】
【氏名】井上 敏
【審査官】 三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−201274(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/199869(WO,A1)
【文献】 特開2014−005207(JP,A)
【文献】 特開2002−293937(JP,A)
【文献】 特開2014−024981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 75/00−75/32
79/00−79/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程(1):極性有機溶媒の存在下、アルカリ金属硫化物、または、アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させるポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応後、重合反応で得られた粗反応混合物から前記極性有機溶媒を固液分離させて、前記極性有機溶媒を主成分として、少なくともカルボキシアルキルアミノ基含有化合物が含まれる液相成分と、ポリアリーレンスルフィド樹脂およびアルカリ金属含有無機塩と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む反応混合物からなる固相成分とを分離し、固相成分を除去して、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む有機極性溶媒(a)を得る工程、
工程(2):反応容器内に、前記工程(1)で得られた前記有機極性溶媒(a)を供給する工程、
工程(3):反応容器内に、少なくとも、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを供給する工程、
工程(4):反応容器内で、前記工程(2)および(3)を経て得られた、少なくとも、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを原料として、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む有機極性溶媒中で重合反応させる工程、を有し、かつ、前記工程(4)において、原料を含む有機極性溶媒中において前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の割合が、原料中の硫黄原子1モルに対して0.004モル以下の範囲であることを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物が、下記一般式(1)
【化1】
(式中、nは0〜2であり、Yはハロゲン原子を、Yは水素原子又はハロゲン原子を、Rは水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、Rは炭素原子数3〜5のアルキレン基を、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。)で表されるものである請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物が、アルカリ金属塩である請求項1または2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記工程(1)を経て得られた前記有機極性溶媒(a)が、ポリアリーレンスルフィド樹脂オリゴマーを含むものである請求項1〜3のいずれか一項記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記工程(1)で得られた前記有機極性溶媒(a)を、密閉機構を備えた容器内で保存する工程を有し、かつ、前記工程(2)が、当該容器から前記有機極性溶媒(a)を取り出して反応容器内に供給する工程である請求項1〜4の何れか一項記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法に関する。より詳しくは、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造工程で排出される極性有機溶媒を、新たなポリアリーレンスルフィド樹脂の製造工程に再利用する、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂(PAS樹脂)は、耐熱性、耐薬品性等に優れ、電気電子部品、自動車部品、給湯機部品、繊維、フィルム用途等に幅広く利用されている。特に、リチウムイオン電池用パッキンやガスケット部材といった用途では、近年、特に高分子量ポリアリーレンスルフィド樹脂が、靭性および成形性に優れることから広く用いられている。
【0003】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略すことがある)などの極性有機溶媒中で、スルフィド化剤と、ポリハロ芳香族化合物とを重合反応させる方法等により得られるが、目的物質のポリアリーレンスルフィド樹脂と共に、溶媒、塩化ナトリウムなどのアルカリ金属含有無機塩や下記一般式(1)
【0004】
【化1】
(式中、nは0〜2であり、Yはハロゲン原子を、Yは水素原子又はハロゲン原子を、Rは水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、Rは炭素原子数3〜5のアルキレン基を、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。)に代表されるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物などの副生成物を含有する粗反応生成物が得られる。
【0005】
製品として有用なポリアリーレンスルフィド樹脂は種々の後処理工程を経て生成されるが、当該後処理工程で排出される成分は、産業廃棄物として廃棄処理されてきたのが実情で、有効活用されてこなかった。
【0006】
特に、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物は、COD負荷原因となることから、環境負荷低減のために、低減することが求められており、水洗または熱水洗後に得られる廃水中に含まれる当該カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を、例えば、NMP等の極性有機溶媒(特許文献1)や、パラジクロロベンゼン等のポリハロ芳香族化合物(特許文献2)や、キシレン等の非水溶性溶媒(特許文献3)を用いて分離・抽出ないし再利用化する方法が提案されていた。
【0007】
しかし、上記方法はいずれもポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応後の粗反応生成物を固液分離して得られる固相側に含まれるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物の分離・抽出ないし再利用化に関する提案であり、固液分離して得られる液相成分については、産業廃棄物として廃棄処理されてきたのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014−005207号公報
【特許文献2】特開2014−005208号公報
【特許文献3】特開2014−005317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明が解決しようとする課題は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造工程で排出される極性有機溶媒を、新たなポリアリーレンスルフィド樹脂の製造工程に再利用する、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは種々の検討を行った結果、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応後の粗反応生成物を固液分離して得られる液相側にも、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物が極性有機溶媒に溶解していること、当該極性有機溶媒が新たなポリアリーレンスフィド樹脂の重合反応に再利用できること、ただし、当該カルボキシアルキルアミノ基含有化合物が多くなると、新たなポリアリーレンスフィド樹脂の重合反応に再利用しようとした場合に、重合阻害を引き起こす傾向があることから、再利用に適した濃度範囲があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、工程(1):ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応後、固液分離により固相成分を除去して、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む有機極性溶媒(a)を得る工程、
工程(2):反応容器内に、前記工程(1)で得られた前記有機極性溶媒(a)を供給する工程、
工程(3):反応容器内に、少なくとも、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを供給する工程、
工程(4):前記工程(2)および(3)を経て得られた反応容器内で、少なくとも、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを原料として、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む有機極性溶媒中で重合反応させる工程、を有し、かつ、前記工程(4)において、原料を含む有機極性溶媒中において前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の割合が、原料中の硫黄原子1モルに対して0.004モル以下の範囲であることを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造工程で排出される極性有機溶媒を、新たなポリアリーレンスルフィド樹脂の製造工程に再利用する、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法は、
工程(1):ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応後、固液分離により固相成分を除去して、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む有機極性溶媒(a)を得る工程、
工程(2):反応容器内に、前記工程(1)で得られた前記有機極性溶媒(a)を供給する工程、
工程(3):反応容器内に、少なくとも、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを供給する工程、
工程(4):前記工程(2)および(3)を経て得られた反応容器内で、少なくとも、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを原料として、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む有機極性溶媒中で重合反応させる工程、を有し、かつ、前記工程(4)において、原料を含む有機極性溶媒中において前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の割合が、原料中の硫黄原子1モルに対して0.004モル以下の範囲であることを特徴とする。
【0014】
本発明は、工程(1)として、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応後、固液分離により固相成分を除去して、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む有機極性溶媒(a)を得る工程を有する。
【0015】
より具体的には、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを原料として極性有機溶媒中で反応させてポリアリーレンスルフィド樹脂とアルカリ金属含有無機塩と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物と前記極性有機溶媒を含む粗反応混合物を得(重合工程)、その後、粗反応混合物から前記極性有機溶媒を固液分離により固相成分を除去する工程(固液分離工程)を例示することができる。
【0016】
重合工程は、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを原料として極性有機溶媒中で反応させてポリアリーレンスルフィド樹脂とアルカリ金属含有無機塩と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物と前記極性有機溶媒を含む粗反応混合物を得る工程である。
【0017】
ここで、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合工程で用いられるポリハロ芳香族化合物としては、例えば、芳香族環に直接結合した2個以上のハロゲン原子を有するハロゲン化芳香族化合物であり、具体的には、p−ジクロルベンゼン、o−ジクロルベンゼン、m−ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、テトラクロルベンゼン、ジブロムベンゼン、ジヨードベンゼン、トリブロムベンゼン、ジブロムナフタレン、トリヨードベンゼン、ジクロルジフェニルベンゼン、ジブロムジフェニルベンゼン、ジクロルベンゾフェノン、ジブロムベンゾフェノン、ジクロルジフェニルエーテル、ジブロムジフェニルエーテル、ジクロルジフェニルスルフィド、ジブロムジフェニルスルフィド、ジクロルビフェニル、ジブロムビフェニル等のジハロ芳香族化合物及びこれらの混合物が挙げられ、これらの化合物をブロック共重合してもよい。これらの中でも好ましいのはジハロゲン化ベンゼン類であり、特に好ましいのはp−ジクロルベンゼンを80モル%以上含むものである。
【0018】
また、枝分かれ構造とすることによってポリアリーレンスルフィド樹脂の粘度増大を図る目的で、1分子中に3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物を分岐剤として所望に応じて用いてもよい。このようなポリハロ芳香族化合物としては、例えば、1,2,4−トリクロルベンゼン、1,3,5−トリクロルベンゼン、1,4,6−トリクロルナフタレン等が挙げられる。
【0019】
更に、アミノ基、チオール基、ヒドロキシル基等の活性水素を持つ官能基を有するポリハロ芳香族化合物を挙げることが出来、具体的には、2,6−ジクロルアニリン、2,5−ジクロルアニリン、2,4−ジクロルアニリン、2,3−ジクロルアニリン等のジハロアニリン類;2,3,4−トリクロルアニリン、2,3,5−トリクロルアニリン、2,4,6−トリクロルアニリン、3,4,5−トリクロルアニリン等のトリハロアニリン類;2,2’−ジアミノ−4,4’−ジクロルジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノ−2’,4−ジクロルジフェニルエーテル等のジハロアミノジフェニルエーテル類およびこれらの混合物においてアミノ基がチオール基やヒドロキシル基に置き換えられた化合物などが例示される。
【0020】
また、これらの活性水素含有ポリハロ芳香族化合物中の芳香族環を形成する炭素原子に結合した水素原子が他の不活性基、例えばアルキル基などの炭化水素基に置換している活性水素含有ポリハロ芳香族化合物も使用できる。
【0021】
これらの各種活性水素含有ポリハロ芳香族化合物の中でも、好ましいのは活性水素含有ジハロ芳香族化合物であり、特に好ましいのはジクロルアニリンである。
【0022】
ニトロ基を有するポリハロ芳香族化合物としては、例えば、2,4−ジニトロクロルベンゼン、2,5−ジクロルニトロベンゼン等のモノまたはジハロニトロベンゼン類;2−ニトロ−4,4’−ジクロルジフェニルエーテル等のジハロニトロジフェニルエーテル類;3,3’−ジニトロ−4,4’−ジクロルジフェニルスルホン等のジハロニトロジフェニルスルホン類;2,5−ジクロル−3−ニトロピリジン、2−クロル−3,5−ジニトロピリジン等のモノまたはジハロニトロピリジン類;あるいは各種ジハロニトロナフタレン類などが挙げられる。
【0023】
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合工程で用いられるアルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。また、アルカリ金属硫化物はアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物との反応によっても導くことができる。尚、通常、アルカリ金属硫化物中に微量存在するアルカリ金属水硫化物、チオ硫酸アルカリ金属と反応させるために、少量のアルカリ金属水酸化物を加えても差し支えない。
【0024】
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合工程で用いられるアルカリ金属水硫化物としては、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウム及びこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属水硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。
【0025】
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合工程で用いられるアルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等が挙げられるが、これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。これらの中でも、入手が容易なことから水酸化リチウムと水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。アルカリ金属水酸化物の使用量は、固形のアルカリ金属硫化物の生成が促進される点から、アルカリ金属水硫化物1モル当たり、0.8〜1.2モルの範囲が好ましく、特に0.9〜1.1モルの範囲がより好ましい。
【0026】
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合工程で用いられる極性有機溶媒としては、ホルムアミド、アセトアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−メチル−ε−カプロラクタム、ε−カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン酸などのアミド、尿素及びラクタム類;スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン類;ベンゾニトリル等のニトリル類;メチルフェニルケトン等のケトン類及びこれらの混合物を挙げることができ、これらの中でもN−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−メチル−ε−カプロラクタム、ε−カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン酸の脂肪族系環状構造を有するアミドが好ましい。
【0027】
ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応は、これらの極性有機溶媒の存在下、スルフィド化剤として上記アルカリ金属硫化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。または、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応は、これらの極性有機溶媒の存在下、スルフィド化剤として上記アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。重合条件は一般に、温度200〜330℃の範囲であり、圧力は重合溶媒及び重合モノマーであるポリハロ芳香族化合物を実質的に液相に保持するような範囲であるべきであり、一般には0.1〜20MPaの範囲、好ましくは0.1〜2MPaの範囲より選択される。ポリハロ芳香族化合物の仕込み量は、前記スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、0.2モル〜5.0モルの範囲が挙げられる。また、極性有機溶媒の仕込み量は、使用する化合物の種類及び系内の水分割合によっても異なり、一概に規定することはできないものの、均一な重合反応が可能な反応系の粘度を保持すること、また、ある程度の生産性を維持するため、その量が、前記スルフィド化剤の硫黄原子1モル当り1.0〜6.0モルとなる範囲であることが好ましく、さらに、生産性を更に高める観点から、1.2〜5.0モルの範囲がより好ましく、更に1.5〜4.5モルなる範囲が最も好ましい。
【0028】
上記した極性有機溶媒の存在下、スルフィド化剤とポリハロ芳香族化合物とを重合させる具体的態様としては、例えば、
1)アルカリ金属カルボン酸塩またはハロゲン化リチウム等の重合助剤を使用する方法、
2)芳香族ポリハロゲン化合物等の架橋剤を使用する方法、
3)少量の水の存在下に重合反応を行い次いで水を追加してさらに重合する方法、
4)アルカリ金属硫化物と芳香族ジハロゲン化合物との反応中に、反応釜の気相部分を冷却して反応釜内の気相の一部を凝縮させ液相に還流させる方法、などが挙げられる。
5)ポリハロ芳香族化合物の存在下、アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、脂肪族環状構造を有するアミド、尿素またはラクタムとを、脱水させながら反応させて固形のアルカリ金属硫化物を含むスラリーを製造する工程、該スラリーを製造した後、更にNMPなどの極性有機溶媒を加え、水を留去して脱水を行う工程、次いで、脱水工程を経て得られたスラリー中で、ポリハロ芳香族化合物と、アルカリ金属水硫化物と、前記脂肪族環状構造を有するアミド、尿素またはラクタムの加水分解物のアルカリ金属塩とを、NMPなどの極性有機溶媒1モルに対して反応系内に現存する水分量が0.02モル以下で反応させて重合を行う工程を必須の製造工程として有するポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法が挙げられる。
【0029】
このうち1)〜4)の重合方法でポリアリーレンスルフィド樹脂を製造すると、副生成物の生成がより多くなる傾向にあるため、本発明の方法により、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を低減することが好ましい。
【0030】
ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合終了後に、ポリアリーレンスルフィド樹脂とアルカリ金属含有無機塩と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物と前記極性有機溶媒を含む粗反応混合物を得ることができる。
【0031】
次に、固液分離工程は、得られた粗反応混合物から極性有機溶媒を固液分離させて、極性有機溶媒を主成分とする液相成分と、ポリアリーレンスルフィド樹脂およびアルカリ金属含有無機塩と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む反応混合物からなる固相成分とを分離し、固相成分を除去して、極性有機溶媒を主成分とする液相成分を得る。該固液分離には大きく分けて、後述するフラッシュ法とクウェンチ法の2種類がある。フラッシュ法は、溶媒を蒸発させて溶媒回収し、同時に固形物を回収する方法であり、一般的に、減圧下に130〜200℃に加熱して溶媒を留去することにより行われる。フラッシュ法で溶媒回収した直後の溶媒温度はおおむね130〜200℃の範囲であるが、通常、室温(例えば、20℃。以下同じ。)環境下での作業のため70〜150℃の範囲まで冷却される傾向にある。このため、工程(1)において、フラッシュ法の場合、得られる前記有機極性溶媒(a)の温度としては、70〜200℃の範囲である。
【0032】
一方、クウェンチ法は、重合反応物を、除冷して粒子状のポリアリーレンスルフィド樹脂を回収する方法であり、一般的に、反応釜内で反応スラリーを必要に応じて貧溶媒を加えながら冷却し、ポリアリーレンスルフィド樹脂を晶析させた後に固液分離する方法が挙げられる。クウェンチ法における固液分離は、濾過やスクリューデカンター等の遠心分離機を用いて分離した後、得られた濾過残渣に直接水を加えスラリー化したのち、固液分離を繰り返し行う方法や、得られた濾過残渣を非酸化性雰囲気下で加熱して、残存する溶媒を除去する方法などが挙げられる。クエンチ法で溶媒回収した直後の溶媒温度は130〜200℃の範囲であり、通常、室温環境下での作業のため70〜150℃の範囲までさらに冷却される傾向にある。このため、工程(1)において、クエンチ法の場合にも、得られる前記有機極性溶媒(a)の温度としては、70〜200℃の範囲である。フラッシュ法は、固形物を比較的簡便に回収することができる点で好ましく、クウェンチ法は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の粒度を制御しやすい点や晶析時にポリマー粒子にアルカリ金属含有無機塩やその他の不純物を取り込みにくくなるため、高純度のポリマーが得られる点で好ましい。
【0033】
こうして得られた液相成分には、極性有機溶媒を主成分として、少なくとも前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物が含まれ、その他に水や線状ないし環状のPASオリゴマーなどが含まれる。極性有機溶媒中のカルボキシアルキルアミノ基含有化合物やその他に含まれる水やオリゴマーの含有濃度は重合条件や固液分離条件によって大きく異なるため一概にその範囲を決めることはできないが、得られた液相成分の一部を公知の分析方法で測定することで、容易に知ることができる。
【0034】
前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物としては下記一般式(1)
【0035】
【化2】
(式中、nは0〜2であり、Yはハロゲン原子を、Yは水素原子又はハロゲン原子を、Rは水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、Rは炭素原子数3〜5のアルキレン基を、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。)で表されるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物が挙げられる。このうち、Xのアルカリ金属原子は、重合工程で原料として用いたアルカリ金属硫化物またはアルカリ金属水硫化物のアルカリ金属と同様である。
【0036】
さらに、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造時に、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造原料として、例えば、極性有機溶媒がN−メチル−2−ピロリドン、ポリハロ芳香族化合物がp−ジクロロベンゼンである場合には前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物として、下記一般式(2)
【0037】
【化3】
(式中、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。)で表されるものが得られる(この化合物を“CP−MABA”と略記し、特にXが水素原子の場合を“CP−MABA(水素型)”、アルカリ金属原子の場合を“CP−MABA(アルカリ金属塩型)”、特にXがナトリウム原子の場合は“CP−MABA(Na塩型)”と略記することがある)。
【0038】
このようにして得られたカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む極性有機溶媒は、ポリアリーレンスフィド樹脂の原料に混ぜて、新たなポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法に使用(再利用)することができる。新たなポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法に使用(再利用)する場合には、原料に対する前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の割合が、硫黄原子1モルに対して、0.004モル以下の範囲、好ましくは0.003モル以下の範囲となるように調整する。一方、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物がPASの重合阻害の原因と考えられるため、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の割合は低いほど好ましく、このため、下限値は検出限界以下であってよいが、現実的には原料に対する前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の割合が、硫黄原子1モルに対して、0.0001モル以上の範囲となるように調整することが好ましい。
【0039】
なお、重合反応はアルカリ環境下で行うため、重合工程および固液分離工程後に得られるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物も、酸性化処理を行わない限りアルカリ金属塩を形成している。このため、上記の原料に対する前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の割合は、原料に対する前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物のアルカリ金属塩の割合として調製することが生産性の観点から好ましい。
【0040】
前記工程(1)で得られた前記有機極性溶媒(a)は、一旦、容器に収容して保管してもよい。一旦、容器に収容して保管する場合は、固液分離工程直後の前記有機極性溶媒が室温よりも高い温度であることから、有機極性溶媒、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物、その他の副生成物などが空気中の酸素で酸化が必要以上すすむ場合があり、その後のポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応に利用(再利用)した際に、重合阻害を引き起こす恐れがあるため、さらには突沸等や作業環境の問題から容器外へ飛散する場合があるため、密閉機構を備えた容器を用いて密閉することが好ましい。密閉機構としては、テンション締付け型ロック機構などが挙げられる。
【0041】
本発明は、続いて、工程(2)として、反応容器内に、前記工程(1)で得られた前記有機極性溶媒(a)を供給する工程を有する。前記工程(1)で得られた前記有機極性溶媒(a)は、工程(1)の固液分離装置から、一旦、容器に収容し、当該容器から取り出し、反応容器に移して使用すればよい。
【0042】
本発明は、さらに、工程(3)として、反応容器内に、少なくとも、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを供給する工程を有する。当該工程(2)と工程(3)はどちらか一方の工程を先に行っても、また、同時に行っても、いずれでも良い。工程(3)において、必要に応じ有機極性溶媒を反応容器内に供給することができ、工程(2)で反応容器内に仕込んだ有機極性溶媒の仕込み量が重合反応に必要な仕込み量に対して不足する場合に必要量を加えることができる。
【0043】
次に、本発明は、工程(4)として、前記工程(2)および(3)を経て得られた反応容器内で、少なくとも、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを原料として、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む有機極性溶媒中で重合反応させる工程を有する。すなわち、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む極性有機溶媒を原料に混ぜて、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応を行う。
【0044】
工程(3)および工程(4)は、反応溶媒として用いる有機極性溶媒の一部に、工程(2)で調製した、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む有機極性溶媒を用いること以外は、基本的に、前記工程(1)で説明したポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応と同様である。したがって、工程(4)として重合反応を行った後、固液分離工程を行い、固液分離工程後の固相成分からは、その後必要な後処理工程を施して、ポリアリーレンスルフィド樹脂を製造することができるし、一方の、液相成分からは、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む極性有機溶媒を再度得ることができ、この物は、さらに、新規のポリアリーレンスフィド樹脂の原料に混ぜて使用(再利用)することができる。ただし、極性有機溶媒中のカルボキシアルキルアミノ基含有化合物の含有濃度は、再利用を繰り返すうちに高くなる傾向にあるため、原料に対する前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の割合が、硫黄原子1モルに対して、上記範囲となるよう調整して用いる。
【0045】
その後必要な後処理工程としては、特に制限されるものではないが、例えば、(a)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸または塩基を加えた後、減圧下または常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過および乾燥する方法、或いは、(b)重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともポリアリーレンスルフィドに対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、ポリアリーレンスルフィドや無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法、或いは、(c)重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過および乾燥をする方法、(d)重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄の時に酸を加えて酸処理し、乾燥をする方法、(e)重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に水洗浄、濾過および乾燥する方法、等が挙げられる。
【0046】
尚、上記(a)〜(e)に例示したような後処理方法において、ポリアリーレンスルフィド樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
【0047】
このようにして得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、機械的強度を更に改善するために、充填材を含有することができる。本発明で用いる充填剤は必須成分ではないが、添加する場合は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して0質量部より多く、通常は1質量部以上、より好ましくは10質量部以上、かつ600質量部以下の範囲で加えることによって、目的に応じた各種性能を向上させることができる。
【0048】
該充填材としては、本発明の効果を損なうものでなければ公知慣用の材料を用いることもでき、例えば、繊維状のものや、粒状や板状などの非繊維状のものなど、さまざまな形状の充填材等が挙げられる。具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、硫酸カルシウム、珪酸カルシウム等の繊維、ウォラストナイト等の天然繊維等の繊維状充填材が使用でき、またガラスビーズ、ガラスフレーク、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、ゼオライト、マイカ、雲母、タルク、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラスビーズ等の非繊維状充填剤も使用できる。
【0049】
更に、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂は、さらに用途に応じて、適宜、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ四弗化エチレン樹脂、ポリ二弗化エチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等の合成樹脂、或いは、弗素ゴム等のエラストマーなどを配合したポリアリーレンスルフィド樹脂組成物として使用してもよい。また、これらの樹脂の使用量は、それぞれの目的に応じて異なり、一概に規定することはできないが、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して0.01〜1000質量部の範囲で、本発明の効果を損なわないよう目的や用途に応じて適宜調整して用いればよい。
【0050】
更に、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂は、本発明の効果を損ねない範囲であれば、成形加工の際に添加剤として、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤、滑剤、カップリング剤等の各種添加剤を含有させることができる。これらの添加剤の使用量は、それぞれの目的に応じて異なり、一概に規定することはできないが、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して0.01〜1000質量部の範囲で、本発明の効果を損なわないよう目的や用途に応じて適宜調整して用いればよい。
【0051】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法としては特に制限なく、本発明の製造方法で得られたポリアリーレンスルフィド樹脂と、上記の必要に応じて加える充填材等のその他の添加剤を、粉末、ベレット、細片など様々な形態でリボンブレンター、ヘンシェルミキサー、Vブレンターなどに投入してドライブレンドした後、バンバリーミキサーミキシングロール、単軸または2軸の押出機およびニーターなどを用いて溶融混練する方法などが挙げられる。なかでも十分な混練力を有する単軸または2軸の押出機を用いて溶融混練する方法が代表的である。
【0052】
このようにして得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、射出成形、圧縮成形、コンポジット、シート、パイプなどの押出成形、引抜成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形に供することが可能であるが、特に離形性に優れるため射出成形用途に適している。 得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の成形品は、シリコーン樹脂との接着性に優れる。このため、例えば、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からなる板状、箱型の成形品にシリコーン樹脂で封止または接合した後、当該硬化性樹脂を硬化することにより、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる成形体と、硬化性樹脂からなる硬化物とが接着して得られる複合成形品が得られる。
【0053】
複合成形品の主な用途例として箱型の電気・電子部品集積モジュール用保護・支持部材・複数の個別半導体またはモジュール、センサ、LEDランプ、コネクタ、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサ、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナ、スピーカ、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モータ、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、端子台、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダ、パラボラアンテナ、コンピュータ関連部品等に代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤ、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザディスク・コンパクトディスク・DVDディスク・ブルーレイディスク等の音声・映像機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライタ部品、ワードプロセッサ部品、あるいは給湯機や風呂の湯量、温度センサなどの水回り機器部品等に代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピュータ関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライタ、タイプライタなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクタ、ICレギュレータ、ライトディヤ用ポテンシオメーターベース、リレーブロック、インヒビタースイッチ、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディ、キャブレタースペーサ、排気ガスセンサ、冷却水センサ、油温センサ、ブレーキパットウェアーセンサ、スロットルポジションセンサ、クランクシャフトポジションセンサ、エアーフローメータ、ブレーキパッド摩耗センサ、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダ、ウォーターポンプインペラ、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュータ、スタータースイッチ、イグニッションコイルおよびそのボビン、モーターインシュレータ、モーターロータ、モーターコア、スターターリレ、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクタ、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターロータ、ランプソケット、ランプリフレクタ、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルタ、点火装置ケース等の自動車・車両関連部品、その他各種用途にも適用可能である。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
【0055】
〔溶融粘度の測定法〕
得られたポリマーの溶融粘度(η)は、高化式フローテスター(島津製作所製「CFT−500D型」フローテスター)を用い、300℃、20kgf/cm、L/D=10mm/1mmで6分間保持した後に測定した値である。
【0056】
〔ろ液中の組成の測定法:CP−MABA〕
よく攪拌したろ液から、1mlをサンプリングし、そこにHPLCの移動相を9ml加え、ろ液を測定サンプルとした。測定サンプルのHPLC測定を行い、下記の方法で作成した標準サンプルと同じ保持時間のピーク面積と検量線とから液中の濃度を求めた。HPLC測定条件は以下の通り。
装置名:株式会社 島津製作所製「高速液体クロマトグラム Prominence」
カラム:株式会社 島津ジーエルシー製
「Phenomenex Luna 5u C18(2) 100A」
検出器:DAD (Diode Array Detector)
データ処理:株式会社 島津製作所製「LCsolution」
測定条件:カラム温度40℃
移動相:水
流速 1.0ml/分
【0057】
(標準物質:CP−MABAの合成)
48%NaOH水溶液83.40g(1.000モル)とN−メチル−2−ピロリドン297.4g(3.000モル)を、撹拌機付き耐圧容器に仕込み、230℃で3時間撹拌した。この撹拌が終了した後、温度230℃のままバルブを開き、放圧し、N−メチル−2−ピロリドンの蒸気圧程度である230℃において0.1MPaまで圧力を低下させ、水を留去した。その後、再び密閉し200℃程度まで温度を低下させた。
【0058】
p−ジクロロベンゼン147.0g(1.000モル)を60℃以上の温度条件下で加熱溶解して反応混合物中に投入し、250℃まで昇温後4時間撹拌した。この撹拌が終了した後、室温まで冷却した。p−ジクロロベンゼンの反応率は31モル%であった。冷却後、内容物を取り出し、水を加えて撹拌後、未反応のp−ジクロロベンゼンが不溶物となって残ったものをろ過によって取り除いた。
【0059】
次いで、ろ液である水溶液に塩酸を加えて該水溶液のpHを4に調整した。このとき水溶液中に褐色オイル状のCP−MABA(水素型)が生じた。そこにクロロホルムを加えて褐色オイル状物質を抽出した。このときの水相には、N−メチル−2−ピロリドン及びその開環物である4−メチルアミノ酪酸(以下「MABA」と略記する。)が含まれるため水相は廃棄した。クロロホルム相は水洗を2回繰り返した。
【0060】
クロロホルム相に水を加えてスラリー化した状態で48%NaOH水溶液を加え、該スラリーのpHを13に調整した。このときCP−MABAはナトリウム塩となって水相に移り、クロロホルム相には副生成物であるp−クロロ−N−メチルアニリン及びN−メチルアニリンが溶解しているためクロロホルム相は廃棄した。水相はクロロホルム洗浄を2回繰り返した。
【0061】
水溶液に希塩酸を加えて該水溶液のpHを1以下に調整した。このときCP−MABAは塩酸塩となって水溶液中にとどまるので、水溶液にクロロホルムを加えて、副生成物であるp−クロロフェノールを抽出した。p−クロロフェノールが溶解したクロロホルム相は廃棄した。
【0062】
残った水溶液に48%NaOH水溶液を加え、該水溶液のpHを4に調整した。これにより、CP−MABAの塩酸塩が中和され、褐色オイル状のCP−MABA(水素型)が水溶液から析出した。CP−MABA(水素型)をクロロホルムで抽出し、クロロホルムを減圧除去することによってCP−MABA(水素型)を得た。さらに、得られたCP−MABA(水素型)に48%NaOH水溶液を加え、pHを13に調整し、CP−MABA(Na塩型)を得た。
【0063】
〔ろ液中の組成の測定法:水〕
水分量の測定は、カールフィッシャー水分測定機(平沼産業株式会社製カールフィッシャー水分計AQV−300)を用いて行った。
【0064】
〔ろ液中の組成の測定法:NMP〕
NMPは、アセトンで10倍希釈してGCで定量した。GC測定条件は以下の通り。
装置名:株式会社島津製作所社製「ガスクロマトグラフ GC−2014」
カラム:財団法人化学物質評価研究機構製「Gカラム G−300」
キャリアガス:He(76kPa)
分析温度:140℃(5分)→3℃/分昇温→200℃(20分) 計45分
注入口温度:250℃
検出器:FID(250℃)
【0065】
〔ろ液中の組成の測定法:オリゴマー〕
よく攪拌したろ液を200℃で120分間加熱した後、不揮発分量を測定し、ろ液中に含まれる不揮発分濃度を算出した。次に、前記CP−MABA濃度を差し引き、オリゴマー濃度とした。
【0066】
1.参考例1 ポリアリーレンスルフォド樹脂製造
オートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.75wt%NaS)205.5質量部と、NMP358.7質量部を仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら212℃まで昇温して、水49.10質量部を留出させた。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、パラジクロロベンゼン(以下、p−DCBと略すことがある)230.2質量部とNMP228.0質量部を仕込んだ。液温165℃で窒素ガスを用いて108,000Paに加圧して昇温を開始した。液温240℃まで135分かけて昇温し30分保持した。その後40分かけて液温250℃まで昇温し73分保持して反応を完結させ、その後、3時間かけて120℃まで冷却してスラリー(1)を得た。
【0067】
得られたスラリー(1)100.0質量部をろ過して溶媒を除去し、次に、ろ過残渣に残ったNMPと副生成物の塩化ナトリウムを溶解するため、60℃の温水400質量部に分散し10分間撹拌した後、さらにろ過し、ろ過ケーキに60℃の温水400質量部を通過させた。この操作を3回繰り返した後、含水ろ過ケーキは、120℃において3時間熱風循環乾燥機中で乾燥し、白色粉末状のポリマー(1)を得た。溶融粘度を測定したところ、40Pa・sであった。
【0068】
2.実施例1
参考例1と同様にしてスラリー(1)を得た。得られたスラリー(1)をろ過して溶媒を含むろ液(1)を得た。このろ液(1)の主な組成は、オリゴマー1.440wt%、CP−MABA(Na塩型)0.510wt%、水3.050wt%、NMP94.71wt%であった。ろ液(1)は、テンション締付け型ロック機構付き容器に収容して、30分間放置し、室温まで冷却し、保管した。
【0069】
オートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.75wt%NaS)202.4質量部と、NMP196.1質量部および前記容器から取り出した上記ろ液(1)183.0質量部を仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら212℃まで昇温して、水54.00質量部を留出させた。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、p−DCB227.3質量部(1.546モル部)とNMP238.0質量部を仕込んだ。液温165℃で窒素ガスを用いて108,000Paに加圧して昇温を開始した。液温240℃まで135分かけて昇温し30分保持した。その後40分かけて液温250℃まで昇温し73分保持して反応を完結させ、その後、3時間かけて120℃まで冷却してスラリー(2)を得た。
【0070】
なお、原料中における、フレーク状硫化ソーダ(60.75wt%NaS)由来の硫黄原子(1.575モル部)と、上記ろ液(1)中のオリゴマー由来の硫黄原子(0.02438モル部。ただし、オリゴマーの重量をPPSの繰り返し単位の分子量(108.1)で除した値より算出するものとする。以下同様。)とを合算すると、硫黄原子は1.599モル部であった。上記ろ液(1)由来のCP−MABA(Na塩型)0.940質量部(0.003756モル部)が原料中に加わっていることから、原料に加えたCP−MABA(Na塩型)の割合は、原料に含まれる硫黄原子1モルに対して、0.002375モルであった。
【0071】
次に、得られたスラリー(2)100.0質量部をろ過(桐山ロートに保留粒子1μmのセルロースろ紙を引き、スラリーを入れたビーカーをウォーターバスにかけ、スラリー温度が50℃になってから、ロートに投入し、水流ポンプでの減圧ろ過)して溶媒を除去し、ろ過残渣に残ったNMPと副生成物の塩化ナトリウムを溶解するため60℃の温水400質量部に分散し10分間撹拌した後、さらにろ過し、ろ過ケーキに60℃の温水400質量部を通過させた。この操作を3回繰り返した後、含水ろ過ケーキは、120℃において3時間熱風循環乾燥機中で乾燥し、白色粉末状のポリマー(2)を得た。溶融粘度を測定したところ、46Pa・sであった。
【0072】
3.実施例2
実施例1と同様にしてろ液(1)を得た。このろ液(1)の主な組成は、オリゴマー1.440wt%、CP−MABA(Na塩型)0.510wt%、水3.050wt%、NMP94.71wt%であった。ろ液(1)は、テンション締付け型ロック機構付き容器に収容して、30分間放置し、室温まで冷却し、保管した。
【0073】
オートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.75wt%NaS)205.5質量部と、NMP198.3質量部および前記容器から取り出した上記ろ液(1)183.0質量部を仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら212℃まで昇温して、水55.20質量部を留出させた。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、p−DCB229.5質量部(1.560モル部)とNMP231.4質量部を仕込んだ。液温165℃で窒素ガスを用いて108,000Paに加圧して昇温を開始した。液温240℃まで135分かけて昇温し30分保持した。その後40分かけて液温250℃まで昇温し73分保持して反応を完結させ、その後、3時間かけて120℃まで冷却してスラリー(3)を得た。
【0074】
なお、原料中における、フレーク状硫化ソーダ(60.75wt%NaS)由来の硫黄原子(1.600モル部)と、上記ろ液中のオリゴマー由来の硫黄原子(0.02438モル部)とを合算すると、硫黄原子は1.624モル部であった。上記ろ液(1)由来のCP−MABA(Na塩型)0.940質量部(0.003783モル部)が原料中に加わっていることから、原料に加えたCP−MABA(Na塩型)の割合は、原料に含まれる硫黄原子1モルに対して、0.002330モルであった。
【0075】
得られたスラリー(3)から、実施例1と同様にして、白色粉末状のポリマー(3)を得た。溶融粘度を測定したところ、43Pa・sであった。
【0076】
4.実施例3
実施例1と同様にしてろ液(1)を得た。このろ液(1)の主な組成は、オリゴマー1.440wt%、CP−MABA(Na塩型)0.510wt%、水3.050wt%、NMP94.71wt%であった。ろ液(1)は、テンション締付け型ロック機構付き容器に収容して、30分間放置し、室温まで冷却し、保管した。
【0077】
オートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.75wt%NaS)205.5質量部と、NMP138.0質量部および前記容器から取り出した上記ろ液(1)244.5質量部を仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら212℃まで昇温して、水55.20質量部を留出させた。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、p−DCB225.6質量部(1.534モル部)とNMP235.3質量部を仕込んだ。液温165℃で窒素ガスを用いて108,000Paに加圧して昇温を開始した。液温240℃まで135分かけて昇温し30分保持した。その後40分かけて液温250℃まで昇温し73分保持して反応を完結させ、その後、3時間かけて120℃まで冷却してスラリー(4)を得た。
【0078】
なお、原料中における、フレーク状硫化ソーダ(60.75wt%NaS)由来の硫黄原子(1.600モル部)と、上記ろ液(1)中のオリゴマー由来の硫黄原子(0.03257モル部)とを合算すると、硫黄原子は1.633モル部であった。上記ろ液(1)由来のCP−MABA(Na塩型)1.260質量部(0.005071モル部)が原料中に加わっていることから、原料に加えたCP−MABA(Na塩型)の割合は、原料に含まれる硫黄原子1モルに対して、0.003106モルであった。
【0079】
得られたスラリー(4)から、実施例1と同様にして、白色粉末状のポリマー(4)を得た。溶融粘度を測定したところ、39Pa・sであった。
【0080】
5.実施例4
実施例1と同様にしてスラリー(2)を得た。得られたスラリー(2)をろ過して溶媒を含むろ液(2)を得た。このろ液(2)の主な組成は、オリゴマー1.450wt%、CP−MABA(Na塩型)0.650wt%、水3.020wt%、NMP94.30wt%であった。ろ液(2)は、テンション締付け型ロック機構付き容器に収容して、30分間放置し、室温まで冷却し、保管した。
【0081】
オートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.75wt%NaS)202.3質量部と、NMP196.1質量部および前記容器から取り出した上記ろ液(2)183.0質量部を仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら212℃まで昇温して、水54.00質量部を留出させた。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、p−DCB226.9質量部(1.543モル部)とNMP238.8質量部を仕込んだ。液温165℃で窒素ガスを用いて108,000Paに加圧して昇温を開始した。液温240℃まで135分かけて昇温し30分保持した。その後40分かけて液温250℃まで昇温し73分保持して反応を完結させ、その後、3時間かけて120℃まで冷却してスラリー(5)を得た。
【0082】
なお、原料中における、フレーク状硫化ソーダ(60.75wt%NaS)由来の硫黄原子(1.575モル部)と、上記ろ液(2)中のオリゴマー由来の硫黄原子(0.02455モル部)とを合算すると、硫黄原子は1.600モル部であった。上記ろ液(2)由来のCP−MABA(Na塩型)1.190質量部(0.004790モル部)が原料中に加わっていることから、原料に加えたCP−MABA(Na塩型)の割合は、原料に含まれる硫黄原子1モルに対して、0.002994モルであった。
【0083】
得られたスラリー(5)から、実施例1と同様にして、白色粉末状のポリマー(5)を得た。溶融粘度を測定したところ、44Pa・sであった。
【0084】
6.実施例5
実施例4と同様にしてスラリー(5)を得た。得られたスラリー(5)をろ過して溶媒を含むろ液(3)を得た。このろ液(3)の主な組成は、オリゴマー1.480wt%、CP−MABA(Na塩型)0.790wt%、水3.090wt%、NMP94.27wt%であった。ろ液(3)は、テンション締付け型ロック機構付き容器に収容して、30分間放置し、室温まで冷却し、保管した。
【0085】
オートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.75wt%NaS)202.3質量部と、NMP196.1質量部および前記容器から取り出した上記ろ液(3)183.0質量部を仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら212℃まで昇温して、水54.00質量部を留出させた。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、p−DCB226.9質量部(1.543モル部)とNMP238.8質量部を仕込んだ。液温165℃で窒素ガスを用いて108,000Paに加圧して昇温を開始した。液温240℃まで135分かけて昇温し30分保持した。その後40分かけて液温250℃まで昇温し73分保持して反応を完結させ、その後、3時間かけて120℃まで冷却してスラリー(6)を得た。
【0086】
なお、原料中における、フレーク状硫化ソーダ(60.75wt%NaS)由来の硫黄原子(1.575モル部)と、上記ろ液(3)中のオリゴマー由来の硫黄原子(0.02505モル部)とを合算すると、硫黄原子は1.600モル部であった。上記ろ液(3)由来のCP−MABA(Na塩型)1.450質量部(0.005836モル部)が原料中に加わっていることから、原料に加えたCP−MABA(Na塩型)の割合は、原料に含まれる硫黄原子1モルに対して、0.003648モルであった。
【0087】
得られたスラリー(6)から、実施例1と同様にして、白色粉末状のポリマー(6)を得た。溶融粘度を測定したところ、44Pa・sであった。
【0088】
7.比較例1
「上記ろ液(1)183.0質量部」に替えて「上記ろ液(1)370.0質量部」としたこと以外は全て実施例1と同様にして、スラリー(7)を得た。
【0089】
なお、原料中における、フレーク状硫化ソーダ(60.75wt%NaS)由来の硫黄原子(1.575モル部)と、上記ろ液(1)中のオリゴマー由来の硫黄原子(0.04929モル部)とを合算すると、硫黄原子は1.624モル部であった。上記ろ液(1)由来のCP−MABA(Na塩型)1.900質量部(0.007647モル部)が原料中に加わっていることから、原料に加えたCP−MABA(Na塩型)の割合は、原料に含まれる硫黄原子1モルに対して、0.004709モルであった。
【0090】
得られたスラリー(7)から、実施例1と同様にして、白色粉末状のポリマー(7)を得た。溶融粘度を測定したところ、32Pa・sであった。
【0091】
8.比較例2
実施例5と同様にしてスラリー(6)を得た。得られたスラリー(6)をろ過して溶媒を含むろ液(4)を得た。このろ液(4)の主な組成は、オリゴマー1.490wt%、CP−MABA(Na塩型)0.990wt%、水3.020wt%、NMP94.04wt%であった。ろ液(4)は、テンション締付け型ロック機構付き容器に収容して、30分間放置し、室温まで冷却し、保管した。
【0092】
オートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.75wt%NaS)202.3質量部と、NMP196.1質量部および前記容器から取り出した上記ろ液(4)183.0質量部を仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら212℃まで昇温して、水54.00質量部を留出させた。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、p−DCB226.9質量部(1.543モル部)とNMP238.8質量部を仕込んだ。液温165℃で窒素ガスを用いて108,000Paに加圧して昇温を開始した。液温240℃まで135分かけて昇温し30分保持した。その後40分かけて液温250℃まで昇温し73分保持して反応を完結させ、その後、3時間かけて120℃まで冷却してスラリー(8)を得た。
【0093】
なお、原料中における、フレーク状硫化ソーダ(60.75wt%NaS)由来の硫黄原子(1.575モル部)と、上記ろ液(4)中のオリゴマー由来の硫黄原子(0.02522モル部)とを合算すると、硫黄原子は1.600モル部であった。上記ろ液(4)由来のCP−MABA(Na塩型)1.810質量部(0.007285モル部)が原料中に加わっていることから、原料に加えたCP−MABA(Na塩型)の割合は、原料に含まれる硫黄原子1モルに対して、0.004553モルであった。
【0094】
得られたスラリー(8)から、実施例1と同様にして、白色粉末状のポリマー(8)を得た。溶融粘度を測定したところ、32Pa・sであった。