【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的イノベーシン創造プログラム(SIP)「コンクリート内部の鉄筋腐食検査装置の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
共振回路及び増幅回路を備えた信号受信回路を、例えば、放送または通信の用途に用いる場合には、通常、搬送波と信号波の周波数が十分乖離しており、混信を抑制するために共振回路のQ値を高く設定し、バンド幅を狭くすることが好ましい。一方、核磁気共鳴(NMR: Nuclear Magnetic Resonance)や音響誘起電磁(ASEM: Acoustically Stimulated Electromagnetic)応答を捕捉する場合のように、パルス状に外場変調を印加し、その応答信号を補足しようとする場合には、捕捉される応答信号の時間分解能を高める必要があり、共振回路のQ値を適度に低下させ、バンド幅を広げる調整をすることが求められる。
【0008】
LC並列共振回路のQ値を低下させるには、例えば、LC並列共振回路に抵抗素子を更に並列接続すればよい。しかしながら、この場合、信号電流はほとんど抵抗素子を流れることになり、増幅回路へ引き込まれる信号が小さくなり、信号ノイズ比(S/N)が低下する。これは、増幅回路側で生じる雑音強度は変化しないのに対し、入力信号電圧が小さくなるから、ともいえる。
【0009】
入力信号が特定の周波数帯域に局在していると予め期待できる場合には、共振回路を用いることで、目的の周波数帯域のみを選択的に捕捉できる。その信号を増幅回路によって増幅しようとするとき、一般に、増幅回路は、捕捉しようとする入力信号の周波数帯域よりも広い周波数帯域で作動することを要するが、増幅回路自身の入力換算雑音は、増幅回路の作動周波数帯域の全域に亘って積分され、増幅される。すなわち、目的信号を増幅しようとすると、増幅回路自身の持つ雑音が、前段の共振回路に関係なく増幅回路の作動周波数帯域の全域に亘って増幅され、雑音強度が大きくなる。
【0010】
増幅回路の出力信号に含まれる雑音を除去し、必要な周波数帯域のみを得るためには、増幅回路の後段に、バンドパスフィルタやローパスフィルタなどのフィルタ回路を設置することが考えられる。しかしながら、増幅回路後段のフィルタ回路は、増幅回路前段の共振回路とは連動していないため、共振回路における共振周波数及びその帯域幅を可変制御しようとすると、共振回路及びフィルタ回路を別々に調整する必要があり、煩雑である。また、増幅回路の増幅率を高くすると、雑音強度で増幅回路の出力が飽和してしまうことがあり、この場合、増幅回路後段のフィルタ回路によっても信号情報を再現することはできない。従って、増幅回路の入力換算雑音が、出力において最小限の寄与になるよう、信号の周波数帯域に応じて増幅回路の作動周波数帯域が追随すればよいが、このような設計を行うことは極めて困難である。
【0011】
本発明は、上記した点に鑑みてなされたものであり、共振回路及び増幅回路を備えた信号受信回路において、従来よりも高い信号ノイズ比(S/N)を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る信号受信回路は、非反転入力端子、反転入力端子及び出力端子を備えた差動増幅器を含み、前記反転入力端子と前記出力端子との間に第1の抵抗素子が設けられた増幅回路と、インダクタ及びキャパシタを含むLC並列共振回路と、前記LC並列共振回路と前記反転入力端子との間に設けられた第2の抵抗素子と、を含み、前記インダクタ及び前記キャパシタは、一端が前記非反転入力端子
の電位と同じ電位とされており、他端が前記第2の抵抗素子の一端に接続されて
おり、前記LC並列共振回路に信号源が直接接続されている。
【0013】
前記非反転入力端子が所定の定電位ラインに接続されていてもよい。
【0014】
前記インダクタ及び前記キャパシタの少なくとも一方が、外部電磁場を捕捉するアンテナを構成していてもよい。
【0015】
前記第2の抵抗素子の抵抗値は可変であってもよい。前記インダクタのインダクタンス及び前記キャパシタのキャパシタンスの少なくとも一方が可変であってもよい。
【0016】
前記増幅回路は、オペアンプを含んで構成され得る。
【0017】
本発明に係る測定装置は、上記の信号受信回路と、前記LC並列共振回路の共振周波数の帯域に含まれる周波数帯域の音波を発生させる音波発生部と、を含み、前記音波発生部から発せられる音波を受けて測定対象物から放射される電磁波を前記信号受信回路で受信する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、共振回路及び増幅回路を備えた信号受信回路において、従来よりも高い信号ノイズ比(S/N)を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。尚、各図面において、実質的に同一又は等価な構成要素又は部分には同一の参照符号を付している。
【0021】
図1Aは、後述する本発明の実施形態に係る信号受信回路100(
図2参照)に用いられるLC並列共振回路10の構成を示す図である。
図1Aには、信号源1が、LC並列共振回路10とともに示されている。LC並列共振回路10は、並列接続されたインダクタ11及びキャパシタ12を含んで構成されている。インダクタ11及びキャパシタ12の一端は、それぞれ、グランド電位を有するグランドラインに接続されている。
【0022】
信号源1から流出する電流信号I
SIGは、LC並列共振回路10に供給される。なお、信号源1は、どのような形態であってもよく、特に外部由来の微弱な電磁場信号を、インダクタ11及びキャパシタ12の少なくとも一方でアンテナを構成して捕捉してもよい。例えば、
図1Bに示すように、インダクタ11によってループアンテナを構成し、インダクタ11を通過する磁束密度の時間変化から得られる誘導起電力によって発生する電流を電流信号I
SIGとして扱うことができる。また、
図1Cに示すように、キャパシタ12によってロッド形状またはボウタイ形状の容量性のアンテナを構成し、このアンテナに誘起される電荷の時間変化を信号電流I
SIGとして扱ってもよい。
【0023】
なお、
図1Aに示すLC並列共振回路10は、散逸のない理想的なものとして示されているが、実際には、インダクタ11に寄生する抵抗成分、分布容量成分及びキャパシタ12の漏れ電流が存在する。すなわち、LC並列共振回路10は、
図1Dに示すように、インダクタ11及びキャパシタ12に対して更に抵抗素子13が並列接続されたものとして、表すことができる。インダクタ11のインダクタンスをL、キャパシタ12のキャパシタンスをC、抵抗素子13の抵抗値をR
pとすると、
図1Dに示すLC並列共振回路10の共振の中心周波数f
cは、下記の(1)式によって表され、Q値は、下記の(2)式によって表される。(2)式においてf
BWは、LC並列共振回路10の周波数特性における半値全幅である。
【0026】
図2は、LC並列共振回路10を備えた本発明の実施形態に係る信号受信回路100の構成を示す図である。信号受信回路100は、LC並列共振回路10、増幅回路20、抵抗素子14を含んで構成されている。
【0027】
増幅回路20は、差動増幅器21及び抵抗素子22を含んで構成されている。差動増幅器21は、反転入力端子a1、非反転入力端子a2及び出力端子a3を有し、反転入力端子a1に入力される電圧と非反転入力端子a2に入力される電圧の差分を増幅して出力端子a3から出力する機能を有する。非反転入力端子a2は、接地電位を有するグランドラインに接続されている。差動増幅器21として、市販のOPアンプ(オペレーショナルアンプリファイア:演算増幅器)を用いることができ、一例として、アナログデバイセズ社製のAD797を好適に用いることができる。また、差動増幅器21として、パッケージ品のみならず、OPアンプ相当回路をディスクリート部品で構成したものを用いることも可能である。
【0028】
抵抗素子22は、一端が出力端子a3に接続され、他端が反転入力端子a1に接続されており、帰還抵抗として機能する。増幅回路20は、反転入力端子a1と非反転入力端子a2との電位差がゼロとなるように動作する。すなわち、反転入力端子a1と非反転入力端子a2との間でイマジナリーショートが成立する。
【0029】
抵抗素子14は、LC並列共振回路10と、差動増幅器21の反転入力端子a1との間に設けられている。より具体的には、抵抗素子14は、一端がインダクタ11及びキャパシタ12の、グランドラインとは反対側の接続点に接続され、他端が差動増幅器21の反転入力端子a1に接続されている。増幅回路20のイマジナリーショート作用により、抵抗素子14の他端の電位は、グランド電位となる。従って、信号受信回路100の、LC並列共振回路10及び抵抗素子14を含む回路部分は、
図1Dに示す回路と等価である。なお、
図1Dに示される寄生抵抗成分としての抵抗素子13は、
図2に示す抵抗素子14に統合されたものとみなすことができる。すなわち、信号受信回路100において、LC並列共振回路10のQ値は、R
pを抵抗素子14の抵抗値として(2)式に示すとおりである。本実施形態において抵抗素子14は、抵抗値が可変である可変抵抗素子であり、抵抗値の調整によりLC並列共振回路10のQ値を調整することが可能である。なお、抵抗素子14は、抵抗値が固定された固定抵抗素子であってもよい。
【0030】
LC並列共振回路10の共振の中心周波数f
cは、信号電流I
SIGの周波数に一致するようにインダクタ11のインダクタンスおよびキャパシタ12のキャパシタンスが設定されている。これにより、信号電流のうち、共振周波数帯域外の成分は打ち消され、目的の周波数成分のみを取り出して増幅回路20へと導入される。なお、インダクタ11のインダクタンス及びキャパシタ12のキャパシタンスの少なくとも一方が可変であってもよい。これにより、LC並列共振回路10における共振の中心周波数f
cを可変とすることができる。
【0031】
抵抗素子14を流れる信号電流(共振電流)I
SIGは、増幅回路20の抵抗素子22に流れることで、電圧に変換され、下記の(3)式によって示される出力電圧V
outが出力端子a3から出力される。(3)式においてR
fは、抵抗素子22の抵抗値である。(3)式に示すように、信号受信回路100の出力電圧V
outは、抵抗素子22の抵抗値R
fに応じて定まり、LC並列共振回路10のQ値(抵抗素子14の抵抗値R
p)には、依存しない。
【0033】
ここで、増幅回路20において発生する雑音の要因には、抵抗素子22の熱雑音、差動増幅器21の電圧雑音及び電流雑音の3つが考えられる。増幅回路20の入力換算雑音電流I
nは、下記の(4)式によって表すことができ、増幅回路20の出力電圧V
outに現れる雑音は、下記の(5)式によって表すことができる。(4)式及び(5)式においてe
nは、増幅回路20の雑音の電圧性成分であり、i
nは増幅回路20の雑音の電流性成分である。k
Bはボルツマン定数であり、Tは絶対温度である。f
BWは、LC並列共振回路10の周波数特性における半値全幅である。
【0036】
(5)式に示されるように、抵抗素子22の熱雑音と差動増幅器21の電圧雑音は、等倍で出力されるため、信号に対して相対的に小さく抑えられる。さらに、増幅回路20とLC並列共振回路10とは、抵抗素子14を介して接続されており、(4)式で表される雑音電流I
nは、信号電流(共振電流)I
SIGと結合している。従って、雑音電流I
nの各周波数成分のうち、共振周波数帯域(f
BW)以外の成分は、LC並列共振回路10によって減衰される。すなわち、信号受信回路100によれば、増幅回路20において発生する雑音が、LC並列共振回路10によって帯域制限されるとともに、増幅回路20による増幅作用が抑制される。これにより、信号受信回路100の出力信号における信号ノイズ比(S/N)を高くすることができる。
【0037】
図3は、比較例に係る信号受信回路100Xの構成を示す図である。比較例に係る信号受信回路100Xは、LC並列共振回路10、抵抗素子14及び高入力インピーダンスの増幅回路20Xを含んで構成されている。
図3において、増幅回路20Xの入力インピーダンスは、抵抗素子23として示されている。増幅回路20Xは、非反転増幅回路に相当する回路構成を有し、差動増幅器21と、一端が差動増幅器21の出力端子a3に接続され、他端が差動増幅器21の反転入力端子a1に接続された抵抗素子25と、一端が差動増幅器21の反転入力端子a1に接続され、他端がグランドラインに接続された抵抗素子24と、を含んで構成されている。
【0038】
比較例に係る信号受信回路100Xにおいて、抵抗素子14は、インダクタ11及びキャパシタ12に対して並列接続されている。比較例に係る信号受信回路100Xは、抵抗素子14の両端に生じる電圧を増幅回路20Xによって増幅して出力する回路構成を有する。増幅回路20Xへの入力電圧V
inは、増幅回路20Xの入力インピーダンスが十分大きいとすると、下記の(6)式によって表され、信号受信回路100Xの出力電圧V
outは、下記の(7)式によって表される。(6)式においてQは、LC並列共振回路10のQ値であり(2)式で表される。また、R
pは抵抗素子14の抵抗値である。(7)式においてR
fは、抵抗素子25の抵抗値であり、R
iは抵抗素子24の抵抗値である。
【0041】
ここで、比較例に係る信号受信回路100Xの出力信号において、高時間分解能を得るために、抵抗素子14の抵抗値R
pを小さくしてLC並列共振回路10のQ値を小さくすると、入力電圧V
inが小さくなり、その結果、出力電圧V
outも小さくなる。すなわち、比較例に係る信号受信回路100Xによれば、出力電圧V
outの大きさは、LC並列共振回路10のQ値(抵抗素子14の抵抗値R
p)に依存する。一方、増幅回路20Xに起因する雑音成分の大きさは、抵抗素子14の抵抗値R
pに依存しないため、Q値を小さくすると結果的に信号ノイズ比(S/N)は小さくなる。
【0042】
また、増幅回路20Xにおいて発生する雑音のうち、抵抗素子24及び25の熱雑音を考えると、その雑音電流は、増幅回路の中で独立しており、信号電流(共振電流)I
SIGと結合しないので、増幅回路20Xの稼働周波数帯域の全幅f
BW(amp)に亘って積分される。増幅回路20Xの入力換算雑音の電流性成分i
nについては、信号電流(共振電流)I
SIGと結合され、共振周波数帯域(f
BW)以外の周波数成分についてはLC並列共振回路10によって打ち消されるものの、増幅回路20Xの入力換算雑音の電圧性成分e
nについては増幅回路20Xの稼働周波数帯域の全幅f
BW(amp)に亘って積分される。すなわち、比較例に係る信号受信回路100Xにおいて、出力電圧V
outに含まれるノイズ成分V
nの大きさは、下記の(8)式によって表される。
【0044】
このように、LC並列共振回路10に並列接続された抵抗素子14の両端電圧を増幅回路20Xによって増幅する回路構成を有する比較例に係る信号受信回路100Xによれば、増幅回路20Xの入力換算雑音の電圧性成分e
n及び抵抗素子24、25の熱雑音は、増幅回路20Xの稼働周波数帯域の全幅f
BW(amp)に亘って積分されるので、信号ノイズ比(S/N)を高くすることが困難である。また、比較例に係る信号受信回路100Xによれば、出力信号の時間分解能を高くするべくQ値を小さくすると、これに伴って信号ノイズ比(S/N)が小さくなる。
【0045】
更に、比較例に係る信号受信回路100Xによれば、LC並列共振回路10のキャパシタ12と増幅回路20Xの入力容量C
inとが並列になるため、これらの合計が共振周波数を決定する。特に増幅回路20Xの入力容量C
inが大きい場合には、目標とする共振周波数を設定することが困難となる場合がある。
【0046】
一方、本発明の実施形態に係る信号受信回路100は、LC並列共振回路10に流れる信号電流(共振電流)I
SIGを、増幅回路20において電圧に変換して出力する回路構成を有する。具体的には、抵抗素子14に流れる信号電流(共振電流)I
SIGを仮想接地点において帰還抵抗である抵抗素子22へと導入している。これにより、増幅回路20において発生する雑音電流I
nが全て信号電流(共振電流)I
SIGと結合されるので、雑音電流I
nの共振周波数帯域(f
BW)以外の周波数成分を、LC並列共振回路10によって打ち消すことができ、(5)式に示すように、雑音成分の帯域制限及び振幅増幅作用の抑制を実現できる。換言すれば、増幅回路20において発生する雑音成分が、増幅回路20の稼働周波数帯域の全幅f
BW(amp)に亘って積分されることがなくなる。従って、出力信号における信号ノイズ比(S/N)を、比較例に係る信号受信回路100Xと比較して高くすることができる。
【0047】
また、本発明に係る信号受信回路100において、抵抗素子14を流れる電流の振幅は、抵抗素子14の抵抗値によらず信号電流I
SIGの振幅と同じになることから、出力電圧V
outの振幅に影響を与えることなくQ値を調整することができる。従って、出力電圧V
out及び信号ノイズ比(S/N)に影響を与えることなく出力信号の時間分解能の設定を行うことが可能である。
【0048】
また、本発明の実施形態に係る信号受信回路100によれば、LC並列共振回路10の共振周波数は、増幅回路20の入力容量C
inの影響を受けないので、目標とする共振周波数を容易に得ることができる。
【0049】
図4は、信号受信回路100を備えた本発明の実施形態に係る測定装置200の構成を示す図である。測定装置200は、測定対象物300に超音波(
図4に示す励起音波A)を照射することによって励起される電磁波(
図4に示す電磁応答信号S)を捉えることで、測定対象物300の性状(特性及び状態の少なくとも一方)を測定するものである。
【0050】
弾性波である音波は,電磁波のように直接的に電気・磁気特性と結合しない。しかしながら、弾性変調は、固体の格子歪みや液体の密度変化を通してしばしば対象物の電荷や磁気モーメントに時間変調を与えることができる。このことは、超音波照射により、双極子放射等を通して超音波と同一周波数の電磁波が発生し得ることを意味する。本明細書では、超音波によって励起される電磁波を音響誘起電磁波(Acoustically Stimulated Electromagnetic (ASEM) wave) と呼ぶことにする。固体物質ならピエゾ効果や磁歪効果を通してASEM波が放射される。
【0051】
本実施形態に係る測定装置200によるASEM計測は、測定対象物300の電荷や磁化に超音波を通して変調を加え、電磁放射の形でこれらの情報を外部発信させる手法と見なすことができる。
【0052】
測定装置200は、パルサ210及び超音波振動子220を含んで構成される音波発生部と、デジタルオシロスコープ230と、信号受信回路100とを含んで構成されている。パルサ210は、所定周波数の電気パルス信号を生成する。超音波振動子220は、パルサ210から供給される電気パルス信号を超音波信号に変換し、これを励起音波Aとして出力する。励起音波Aは、遅延材310を介して測定対象物300に照射される。遅延材310は、固体または液体であってもよい。励起音波Aの照射によって測定対象物300から放射される電磁応答信号Sは、信号受信回路100によって受信される。LC並列共振回路10を構成するインダクタ11は、電磁応答信号Sを捕捉するためのループアンテナを構成している。また、LC並列共振回路10の共振周波数の帯域が、励起音波A(電磁応答信号S)の周波数帯域を含むように、インダクタ11のインダクタンス及びキャパシタ12のキャパシタンスが設定されている。なお、キャパシタ12としてキャパシタンスが可変である可変キャパシタを用いてもよい。信号受信回路100によって受信された電磁応答信号Sは、信号受信回路100に接続されたデジタルオシロスコープ230によって観測される。
【0053】
図5A及び
図5Bは、それぞれ、本発明の実施形態に係る測定装置200を用いて取得した電磁応答信号波形を示す図である。
図5Aは、シングルショット波形であり、
図5Bは、16回の積算平均波形である。信号受信回路100の出力信号波形には電磁応答信号Sのみならず励起音波A及び界面反射音波Eに起因するノイズが混入する。従って、電磁応答信号Sと、これらのノイズとを分離するために、信号受信回路100の出力信号の時間分解能をある程度高くしておく必要がある。信号受信回路100によれば、抵抗素子14の抵抗値R
pの調整により、出力電圧V
out及び信号ノイズ比(S/N)に影響を与えることなく、出力信号の時間分解能を調整することが可能である。
【0054】
一方、
図6A及び
図6Bは、それぞれ、比較例に係る信号受信回路100X(
図3参照)を用いて構成された比較例に係る測定装置(図示せず)を用いて取得した電磁応答信号波形を示す図である。
図6Aは、シングルショット波形であり、
図6Bは、16回の積算平均波形である。なお、
図5A、5B、6A、6Bにおいて、横軸は時間であり、縦軸は信号強度であり、各図において、横軸及び縦軸のスケールは同じである。
【0055】
本発明の実施形態に係る信号受信回路100及び比較例に係る信号受信回路100Xにおいて、インダクタ11のインダクタンスを1mH、キャパシタ12のキャパシタンスを100pF、抵抗素子14の抵抗値を10kΩとした。インダクタ11によってフェライトコア入りのループアンテナを構成し、超音波によって励起された中心周波数500kHzの電磁応答信号を捕捉した。本発明の実施形態に係る信号受信回路100では、差動増幅器21として、アナログデバイセズ社製のAD797を使用した。一方、比較例に係る信号受信回路100Xでは、増幅回路20Xとして、エヌエフ回路設計ブロック社製の超低雑音広帯域アンプSA−420F5を使用した。
【0056】
比較例に係る測定装置によれば、
図6Aに示すように、高周波ノイズ成分によって全体が覆い尽くされ、電磁応答信号が埋もれており、
図6Bに示すように、16回積算平均しても電磁応答信号を判別することは困難であった。
【0057】
一方、本発明の実施形態に係る測定装置200によれば、
図5Aに示すように、ノイズ成分は、LC並列共振回路10の共振の中心周波数f
cである500kHzの周辺に限定され、高い信号ノイズ比(S/N)を実現できた。
図5Bに示すように、16回の積算平均によって、励起タイミングと非同期のノイズは無視できる程度になった。更に、LC並列共振回路10のQ値を約3.2に設定することで高時間分解能(τ=1μs)を実現し、電磁応答信号を、励起ノイズ及び反射ノイズから時間分離することができた。
【0058】
本発明の実施形態に係る測定装置200によれば、信号ノイズ比(S/N)は、比較例に対して10倍程度向上した。なお、比較例に係る測定装置において、本発明の実施形態に係る測定装置200と同等の信号ノイズ比(S/N)を得るためには、測定装置200に対して100倍程度の積算平均回数が必要となる。つまり、本発明の実施形態に係る測定装置200によれば、比較例に係る測定装置よりも積算平均回数を削減することが可能であり、測定時間の大幅な短縮が可能である。
【0059】
なお、雑音電流I
nが、信号電流(共振電流)I
SIGと結合し、雑音電流I
nの共振周波数帯域(f
BW)以外の周波数成分が、LC並列共振回路10によって減衰される、という作用を生じる限りにおいて、信号受信回路100に対して種々の改変を加えることが可能である。例えば、抵抗素子、インダクタ、キャパシタ等の受動素子が更に付加されていてもよい。
【0060】
また、本実施形態では、インダクタ11、キャパシタ12の下端及び差動増幅器21の非反転入力端子a2を、グランド電位を有するグランドラインに接続する場合を例示したが、これに限定されるものではない。インダクタ11、キャパシタ12の下端及び差動増幅器21の非反転入力端子a2は、グランド電位とは異なる電位を有する電位ラインに接続されていてもよく、また、インダクタ11、キャパシタ12の下端及び差動増幅器21の非反転入力端子a2を、一定の電位に固定しなくても動作可能であり、例えば、インダクタ11、キャパシタ12の下端と差動増幅器21の非反転入力端子a2とを直接接続してもよい。