特許第6837342号(P6837342)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6837342
(24)【登録日】2021年2月12日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】水素発生用電極およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/04 20210101AFI20210222BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20210222BHJP
   C25D 3/50 20060101ALI20210222BHJP
【FI】
   C25B11/08 Z
   C25B1/04
   C25D3/50 101
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-17607(P2017-17607)
(22)【出願日】2017年2月2日
(65)【公開番号】特開2018-123391(P2018-123391A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2019年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹之内 翔
【審査官】 菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−118023(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/103337(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B1/00−15/08
C25D1/00− 3/66
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基材と該導電性基材の上に形成された触媒層とを有し、該触媒層中に白金およびアルカリ成分を含有する水素発生用電極であって、該白金の(111)面におけるX線回折による結晶子径が200Å以下であり、かつ該白金の(220)面及び(311)面の結晶相存在割合が1〜15%である水素発生用電極。
【請求項2】
前記白金のX線回折による(111)面の結晶相存在割合が40%以上である請求項1に記載の水素発生用電極。
【請求項3】
前記白金のECSA(電気化学活性比表面積)が5m/g以上である請求項1または2に記載の水素発生用電極。
【請求項4】
前記触媒層におけるアルカリ成分の含有量が50ppm以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の水素発生用電極。
【請求項5】
前記アルカリ成分がカリウムである請求項1〜4のいずれか1項に記載の水素発生用電極。
【請求項6】
アルカリ水電解用である請求項1〜5のいずれか1項に記載の水素発生用電極。
【請求項7】
導電性基材と該導電性基材の上に形成された触媒層とを有し、該触媒層中に白金を含有する水素発生用電極の製造方法であって、
白金を含むめっき浴を用いて該導電性基材を電気めっき法によりめっき処理し、該導電性基材上に該白金をめっき浴から電析させるめっき処理工程を含み、
該めっき浴が、アルカリ成分を45〜70g/L含み、かつ
該めっき処理時の該めっき浴の温度が、20℃〜60℃の範囲内であることを特徴とする前記製造方法。
【請求項8】
前記アルカリ成分がカリウムである請求項7に記載の水素発生用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ水電解に用いる水素発生用電極およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は貯蔵及び輸送に適し、環境負荷が小さいエネルギー源として関心が集まっている。現在、水素は主に化石燃料の水蒸気改質などにより製造されているが、地球温暖化及び化石燃料枯渇問題の観点から、再生可能エネルギーを動力源に用いた水電解の重要性が増してきている。
【0003】
水電解は、アルカリ水電解、固体高分子型水電解及び水蒸気電解の3つに大きく分けられる。固体高分子型水電解の電解質には、プロトン導電性のフッ素樹脂系イオン交換膜が用いられ、電極には、白金、白金系合金又は白金担持カーボン等白金系の材料が用いられている。固体高分子型電解はアルカリ水電解に比べ高効率であるが、部材コストが高いため、大型化しにくい。
【0004】
水蒸気電解は700〜800℃程度の水蒸気を電気分解して水素を製造する技術であり、電解質として、セラミックからなる固体酸化物が使用される。高温であるため、低温動作の他の水電解システムに比べ高効率が期待できるが、使用できる環境が限定されている。また、研究開発中の技術であり、実用化には課題が多く残っている。
【0005】
一方、アルカリ水電解の電解質には高濃度アルカリ水溶液が用いられている。アルカリ水電解は、高価な貴金属触媒を使用することなく、アルカリ水を電気分解することで、安価に安定して水素を得られる方法として期待されている。アルカリ水電解は大規模な水素製造に適しており、大型化されている食塩電解装置の技術を活かすことができる。アルカリ水電解は高効率化が課題とされており、対応策として電極の改善が挙げられている。
【0006】
アルカリ水電解の両極における電極反応は以下のとおりである。
陽極反応:2OH→HO+1/2O+2e (1)
陰極反応:2HO+2e→H+2OH (2)
アルカリ水電解に用いられている陰極には、ソーダ電解に用いられている白金族系の焼成電極、又はニッケルメッキした鉄電極若しくはニッケル系金属電極のようなニッケル系材料が用いられている(特許文献1、並びに非特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−240001号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】平成25年度特許出願動向調査報告書(概要) 電解式水素製造及びその周辺技術、特許庁、p.24
【非特許文献2】水素エネルギーシステム、Vol.36、No.1(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の陰極は、水素発生過電圧が高く、電極寿命が短いという問題がある。焼成電極は、負の電位において酸化状態が還元されるため、水素発生過電圧が高くなると考えられる。また従来の陰極は、電解を繰り返すとアルカリ水溶液に白金が溶出してしまい、耐久性に劣るという問題もある。
【0010】
したがって、本発明は、従来の陰極より低い水素発生過電圧で、アルカリ水電解により水素を発生することができ、かつ耐久性に優れる水素発生用電極およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、触媒層に含まれる白金のX線回折による結晶子径が特定範囲である水素発生用電極は、従来の陰極より低い水素発生過電圧で水素を発生することができ、また耐久性に優れることを見出した。また、このような水素発生用電極は、導電性基材を電気めっき法によりめっき処理し、その際のめっき浴のアルカリ成分濃度およびめっき浴温度を特定範囲にすることにより得られることを見出した。
【0012】
すなわち本発明は、以下の通りである。
1.導電性基材と該導電性基材の上に形成された触媒層とを有し、該触媒層中に白金を含有する水素発生用電極であって、該白金の(111)面におけるX線回折による結晶子径が200Å以下であり、かつ該白金の(220)面及び(311)面の結晶相存在割合が1〜15%である水素発生用電極。
2.前記白金のX線回折による(111)面の結晶相存在割合が40%以上である前記1に記載の水素発生用電極。
3.前記白金のECSA(電気化学活性比表面積)が5m/g以上である前記1または2に記載の水素発生用電極。
4.前記触媒層におけるアルカリ成分の含有量が50ppm以上である前記1〜3のいずれか1に記載の水素発生用電極。
5.前記アルカリ成分がカリウムである前記1〜4のいずれか1項に記載の水素発生用電極。
6.アルカリ水電解用である前記1〜5のいずれか1項に記載の水素発生用電極。
7.導電性基材と該導電性基材の上に形成された触媒層とを有し、該触媒層中に白金を含有する水素発生用電極の製造方法であって、
白金を含むめっき浴を用いて該導電性基材を電気めっき法によりめっき処理し、該導電性基材上に該白金をめっき浴から電析させるめっき処理工程を含み、
該めっき浴が、アルカリ成分を40〜70g/L含み、かつ
該めっき処理時の該めっき浴の温度が、20℃〜60℃の範囲内である
ことを特徴とする前記製造方法。
8.前記アルカリ成分がカリウムである前記7に記載の水素発生用電極の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水素発生用電極は、従来の水素発生用電極と比較して、触媒層に含まれる白金の(111)面におけるX線回折による結晶子径が200Å以下であり、かつ該白金の(220)面及び(311)面の結晶相存在割合が1〜15%であるため、アルカリ水電解における水素発生過電圧が低く、またアルカリ水溶液への白金の溶出が抑制され耐久性が高い。したがって、本発明の水素発生用電極をアルカリ水電解に用いることにより、電極活性を大幅に向上させ、大きい電流密度でも触媒量を低減することができ、なおかつ耐久性に優れるため、水素製造のコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例1〜2および比較例1〜2で作製した水素発生用電極のSEM像、結晶子径、結晶相存在割合、ECSA、電極の電位の結果を示す図である。
図2図2は、実施例1で作製した電極のX線回折法による解析の結果を示す図である。
図3図3は、実施例1、実施例2、比較例1で作製した電極のX線回折法による解析の結果を示す図である。
図4図4は、実施例1、実施例2、比較例1で作製した電極の電気化学測定結果を示す図である。
図5図5は、比較例3で作製した水素発生用電極のSEM像、結晶子径、結晶相存在割合、ECSA、電極の電位の結果を示す図である。
図6図6は、実施例1、実施例2、比較例3で作製した電極の電気化学測定結果を示す図である。
図7図7は、実施例1、比較例3で作製した電極のX線回折法による解析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明は、導電性基材と該導電性基材の上に形成された触媒層とを有し、該触媒層中に白金を含有する水素発生用電極であって、該白金の(111)面におけるX線回折による結晶子径が200Å以下であり、(220)面及び(311)面の結晶相存在割合が1〜15%である水素発生用電極を提供する。
【0016】
本発明の水素発生用電極が有する触媒層とは、導電性基材上に形成された、水素発生過電圧を低減する機能を有する層を意味する。触媒層には白金が含有される。
【0017】
触媒層における白金の含有量は、コスト面及び耐久性の観点から、1〜50g/mであることが好ましく、より好ましくは5〜20g/mであり、さらに好ましくは5〜15g/mである。
【0018】
触媒層に含まれる白金の(111)面におけるX線回折による結晶子径は200Å以下であり、好ましくは150Å以下、より好ましくは120Å以下である。また白金の(220)面及び(311)面の結晶相存在割合が1〜15%であり、好ましくは5〜15%であり、より好ましくは10〜15%である。これらの条件を満たすことにより、反応比表面積が増大するため、水素発生過電圧を低く抑えることができ、また結晶性が高いため耐久性にも優れる。なお白金の(111)面の結晶相存在割合は好ましくは40%以上であり、より好ましくは45%以上であり、50%以上が最適である。更に、触媒層に含まれる白金の(222)面の結晶相存在割合は、1〜5%であることが好ましく、1〜4%であることがより好ましく、2〜3%であることが更に好ましい。白金の(222)面の結晶相存在割合が1〜5%であれば、水素発生過電圧をより低く抑えることができ、また耐久性も向上する。
【0019】
白金の(111)面における結晶子径および白金結晶の配向性を示す各結晶相存在割合は、X線回折法により求めることができ、(111面)における結晶子径は、下式により求めることができる。結晶相存在割合は各ピークの積分強度比より算出する。
結晶子径:D=(Κ・λ)/(β・cosθ)
Κ:Sherrer定数(=0.94)
λ:使用X線管球の波長
β:結晶子の大きさによる回折線の拡がり
θ:回折角
【0020】
白金のX線回折による(111)面の結晶相存在割合は、40%以上であることが好ましく、より好ましくは45%以上である。(111)面の結晶相存在割合が40%以上であることにより、水素吸着エネルギーが適度となるため、水素発生過電圧を低く抑えることができる。上限は特に限定されないが、通常80%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましい。(111)面の結晶相存在割合が80%を超えると、耐久性が低下しPtが溶出する場合がある。(111)面の結晶相存在割合は各白金結晶面の積分強度を算出することにより求める。
【0021】
白金のX線回折による結晶子径及び白金の(220)面、(311)面、(111)面、(222)面の結晶相存在割合は、後述する電気めっき法の温度、電流密度、めっき浴のpH及びめっき浴中のアルカリ成分の含有量等の条件を調整することにより調整することができる。具体的な条件としては、下記の製造方法の説明で詳述するが、例えば、電気めっき法の温度を好ましくは20〜60℃、電流密度を好ましくは1〜3A/dm、より好ましくは2〜3A/dm、アルカリ成分の含有量を40〜70g/Lとする条件が挙げられる。
【0022】
触媒層に含まれる白金のECSA(Electrochemical Surface area、電気化学活性比表面積)は5m/g以上であることが好ましく、より好ましくは10m/g以上であり、さらに好ましくは15m/g以上である。前記触媒層におけるECSAが5m/g以上であることにより、活性点が多いため、水素発生過電圧を低く抑えることができる。
【0023】
ECSAは水素原子吸着波の電気量から下式により算出する。
ECSA[cm/g]=QH[μC]/(210[μC/cm]×白金質量[g])
QH:水素吸着電荷量
210μC/cm:白金の単位活性面積当たり吸着電荷量
【0024】
前記白金のECSAは、後述する電気めっき法の温度、電流密度、めっき浴のpH等の条件を調整することにより調整することができる。具体的な条件としては、下記の製造方法の説明で詳述するが、例えば、電気めっき法の温度を好ましくは20〜60℃、電流密度を好ましくは1〜3A/dm、アルカリ成分の含有量を40〜70g/Lとする条件が挙げられる。
【0025】
触媒層におけるアルカリ成分の含有量は50ppm以上であることが好ましく、より好ましくは100ppm以上であり、さらに好ましくは150ppm以上である。触媒層におけるアルカリ成分の含有量が50ppm以上であることにより、表面が非晶質になるため、水素発生過電圧を低く抑えることができる。上限は特に限定されないが、通常500ppm以下であることが好ましい。触媒層におけるアルカリ成分の含有量は電極を溶解しICPにより測定することができる。
【0026】
前記アルカリ成分としては、例えば、カリウム及びナトリウムが挙げられ、耐久性およびめっき安定性の観点から、カリウムが好ましい。
【0027】
導電性基材としては、例えば、ニッケル、ニッケル合金及びステンレススチールなどを使用できる。しかし、ステンレススチールを高濃度のアルカリ水溶液中で用いた場合、鉄及びクロムが溶出すること、及びステンレススチールの電気伝導性がニッケルの1/10程度であることを考慮すると、導電性基材としてはニッケルが好ましい。
【0028】
導電性基材の形状は特に限定されず、目的によって適切な形状を選択することができ、板材、多孔板、エキスパンド形状又はニッケル線を編んで作製したいわゆるウーブンメッシュなどが好ましい。導電性基材の形状については、電解槽における陽極と陰極との距離によって好ましい仕様がある。陽極と陰極とが有限な距離を有する場合には、多孔板又はエキスパンド形状が用いられ、イオン交換膜と電極とが接するいわゆるゼロギャップ電解槽の場合には、細い線を編んだウーブンメッシュなどが用いられる。
【0029】
本発明の水素発生用電極の製造方法について詳細に説明する。本発明の水素発生用電極は、白金を含むめっき浴を用いて導電性基材を電気めっき法によりめっき処理し、該導電性基材上に該白金をめっき浴から電析させるめっき処理工程を含み、
該めっき浴が、アルカリ成分を40〜70g/L含み、かつ
該めっき処理時の該めっき浴の温度が、20℃〜60℃の範囲内である
ことを特徴とする。
【0030】
導電性基材は、予め表面を粗面化することが好ましい。これは、粗面化によって接触表面積を大きくすることができ、導電性基材と電析物との密着性が向上するためである。粗面化の手段としては特に限定されず公知の方法、例えば、サンドブラスト処理、蓚酸又は塩酸溶液などによりエッチング処理し、水洗及び乾燥して用いることができる。また、導電性基材と電析物の密着性を向上させるために予め下地メッキを施すことが好ましい。
【0031】
めっき浴の温度は、20〜60℃であることが好ましく、より好ましくは20〜50℃であり、さらに好ましくは20〜40℃である。めっき浴の温度を20〜60℃とすることにより、触媒層に含まれる白金の(111)面におけるX線回折による結晶子径を小さくし、水素発生過電圧を低く抑えることができる。
【0032】
めっきによる結晶子径への影響は、核生成と結晶成長の速度論で説明することができる。放電は電極表面全体で均一に行われるのではなく、凸部に放電が集中し、その部分に原子が析出する。原子の析出である核生成が結晶成長より優先的に進むと、結晶子径は小さくなり微結晶化する。一方、結晶成長が核生成より優先的に進むと結晶子径が大きくなる。めっき浴の温度を低くすることにより、核生成が結晶成長より優先的に進み、吸着電子やめっき浴中のカチオンの表面拡散距離が小さくなることで、結晶子径が小さくなり、微結晶化すると考えられる。
【0033】
電流密度は、1〜3A/dmとすることが好ましく、より好ましくは2〜2.5A/dmである。電流密度を1〜3A/dmとすることにより、白金の(111)面におけるX線回折による結晶子径を小さくし、微結晶化することができ、水素発生過電圧を低く抑えることができる。
【0034】
電流密度を高くすることにより、単位面積及び時間当たりの放電量が増加し、空間電荷の影響により放電場所が分散し、凸部が増加する。このことにより、核生成が結晶成長より優先的に進み、結晶子径が小さくなり、微結晶化すると考えられる。
【0035】
めっき浴はアルカリ成分を含有することが好ましい。アルカリ成分を含有する化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩化カリウム及び水酸化リチウムが挙げられ、中でもカリウムを含むアルカリ成分を含有する化合物が好ましい。
【0036】
めっき浴におけるアルカリ成分の含有量は、40〜70g/Lが好ましく、45〜65g/Lがより好ましく、55〜60g/Lがさらに好ましい。アルカリ成分をこのような含有量に設定することにより、めっき後の触媒層中アルカリ成分量を調整することができる。めっき浴のpHは、11〜14が好ましく、より好ましくは12〜14であり、さらに好ましくは13〜14である。
【0037】
めっき時間、析出速度及びめっき浴中の白金濃度等は特に限定されず、目的に応じて制御することが可能である。めっき後の電極は純水又はイオン交換水を用いて洗浄すればよい。
【0038】
前記本発明の製造方法により、白金の(111)面におけるX線回折による結晶子径が200Å以下であり、かつ該白金の(220)面及び(311)面の結晶相存在割合が1〜15%である水素発生用電極が得られる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0040】
実施例1
Ni板(幅2cm、高さ10cm)を前処理[サンドブラスト(粒径150〜180μm)し、室温にて1分間超音波洗浄し、30秒間電解脱脂[1分間1M塩酸より処理]したものを導電性基材とした。
【0041】
下記のめっき条件において、めっき温度を30℃とし、導電性基材を白金担持量が10g/mとなるようにめっき処理した。得られた水素発生用電極のSEM像、結晶子径、結晶相存在割合、ECSA、電極の電位を評価した。結果を図1に示す。
【0042】
(めっき条件)
めっき液:EEJA社製プラチナート100に対し、下記条件となるように変更を加えたもの。
Pt濃度:20g/L
カリウム濃度:55g/L
pH:13.8
析出速度:3分間/μm(2.5A/dm時)
めっき電流密度:2.2A/dm
【0043】
結晶子径は下記式を用いてX線回折法により求めた。
結晶子径:D=Κλ/βcosθ
Κ:Sherrer定数(=0.94)
λ:使用X線管球の波長
β:結晶子の大きさによる回折線の拡がり
θ:回折角
【0044】
ECSAは、硫酸水溶液中でCV測定(試料極測定面積:10cm)を行い、下式により水素原子吸着波の電気量からを算出した。
ECSA[cm/g]=QH[μC]/(210[μC/cm]×Pt質量[g])
QH:水素吸着電荷量
210μC/cm:Ptの単位活性面積当たり吸着電荷量
【0045】
実施例2および比較例1〜2
めっき条件を図1に記載したように変更した(実施例2は、浴温度=60℃とした。比較例1は浴温度=90℃、カリウム濃度=40g/Lとした。比較例2は、浴温度=90℃、電流密度=1.0A/dmとした。)こと以外は、実施例1と同様とした
【0046】
図1の結果から分かるように、実施例1〜2の水素発生用電極は、白金の(111)面におけるX線回折による結晶子径が200Å以下であり、かつ該白金の(220)面及び(311)面の結晶相存在割合が1〜15%であるため、該条件を満たさない比較例1〜2の電極に比べ、アルカリ水電解における水素発生過電圧が低くなることが示唆された。これにより、本発明の水素発生用電極をアルカリ水電解に用いることにより、電極活性を大幅に向上させ、大きい電流密度でも触媒量を低減することができることが分かった。
【0047】
なお図2に、実施例1で作製した電極のX線回折法による解析の結果を示す。
【0048】
また図3に、実施例1、実施例2、比較例1で作製した電極のX線回折法による解析の結果を示す。いずれのめっき浴温度においても白金の各結晶相の存在が確認されるが、比較例1の電極における白金の(111)面は、結晶子径が200Åを超えていた。これにより、アルカリ水電解における水素発生過電圧も高くなることが示唆される。
【0049】
また図4に、実施例1、実施例2、比較例1で作製した電極の電気化学測定を行った(n=3)。なお、電気化学測定前に電解脱脂、50mV/sでCV電位走査を行い、電極表面を毎回洗浄してから使用した。測定条件は以下の通りである。
図4に示すように、低い水素発生過電圧が示された。
【0050】
(電気化学測定条件)
参照電極:Ag/AgCl
補助電極:Pt/Ti
電解質溶液組成:30wt% KOH水溶液
温度:室温
測定面積:1cm
【0051】
比較例3
実施例1で調製した導電性基材(Ni板)の表面に、10質量%濃度の塩化白金酸水溶液を刷毛塗りし、500℃、30分間、大気焼成した。この操作を10〜15回程度繰り返し、白金担持量を10g/mに調整し、比較例3の水素発生用電極を得た。得られた水素発生用電極のSEM像、結晶子径、結晶相存在割合、ECSA、電極の電位を実施例1と同様に評価した。結果を図5に示す。
【0052】
続いて、30質量%濃度の水酸化カリウム水溶液を80℃に加温し、そこに実施例1の電極(ただし、白金担持量は10g/m)および比較例3の電極を100時間浸漬した(各n=2。すなわち実施例1の電極1および電極2、比較例3の電極1および電極2)。浸漬前後における水酸化カリウム水溶液中の白金濃度をICPにより測定し、該水溶液中への白金の溶出量を調べた。結果を以下に示す。
【0053】
実施例1の電極1の白金溶出量=0.050mg
実施例1の電極2の白金溶出量=0.040mg
比較例3の電極1の白金溶出量=0.512mg
比較例3の電極2の白金溶出量=0.690mg
【0054】
以上の結果から、実施例1の水素発生用電極の白金溶出量は、比較例3で作製したような従来の焼成電極に比べ、約1/10以下であり、本発明の水素発生用電極の耐久性が証明された。
【0055】
また、比較例3で作製した電極の電気化学測定を上記と同様に行った(n=3)。その結果を図6に示す。図6は、図4のグラフに比較例3の結果(符号5)を加えた図である。図6に示すように、本発明の電極は、比較例3で作製したような従来の焼成電極に比べ、低い水素発生過電圧が示された。
【0056】
また、図7に実施例1、比較例1で作製した電極のX線回折法による解析の結果を示す。図7に示すように、本発明の電極(実施例1)、塗布焼成電極(比較例3)ともにPt量は約10g/mであるにも関わらずピークの強度が大きく異なっており、本発明の電極は、比較例3で作製したような従来の焼成電極に比べ、結晶性の高いPt触媒層が形成されており、耐久性が高いことがわかった。
【0057】
なお、実施例1のめっき条件において、カリウム濃度が40g/Lであるめっき浴を用い、実施例1を繰り返したところ、導電性基材に白金めっきが付かなかったことが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7