特許第6837719号(P6837719)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6837719
(24)【登録日】2021年2月15日
(45)【発行日】2021年3月3日
(54)【発明の名称】灯油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/04 20060101AFI20210222BHJP
【FI】
   C10L1/04
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-101220(P2017-101220)
(22)【出願日】2017年5月22日
(65)【公開番号】特開2018-193527(P2018-193527A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2020年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134647
【弁理士】
【氏名又は名称】宮部 岳志
(72)【発明者】
【氏名】香取 広平
(72)【発明者】
【氏名】今井 章雄
(72)【発明者】
【氏名】呂 梁
(72)【発明者】
【氏名】小松 泰幸
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−202184(JP,A)
【文献】 特開2007−077355(JP,A)
【文献】 特開2014−051665(JP,A)
【文献】 特開2010−065071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/00− 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度が0.7920〜0.8040g/cm、及び煙点が21.0mm以上、95%留出温度が240.0〜260.0℃で、
硫黄分が10mass ppm以下、及びインダン類が1.0〜4.0mass%で、ベンゾチオフェン類を含むことを特徴とする灯油組成物。
【請求項2】
PetroOXY誘導期間が70.0min以上である請求項1に記載の灯油組成物。
【請求項3】
原油を蒸留して得られる灯油留分と流動接触分解装置から留出する分解灯油留分を混合し、脱硫処理して得られる請求項1又は2に記載の灯油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭用暖房機器の燃料などに使用される灯油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家庭用暖房機器は冬季に使用するものである。冬季需要期が始まる前に製造された燃料が、冬季需要期が終了するまで使用されずに保存されている間も品質が維持されていることが必要である。そして、保存期間における品質維持には酸化安定性が重要な指標となる。
【0003】
酸化安定性は、例えば、特許文献1(特開2006−233087)、特許文献2(特開2007−77355)に、灯油組成物の組成を所定の範囲にすることで、酸化安定性を向上させる技術が開示されている。
【0004】
一方、家庭用暖房機器は一般住居で使用されることが想定されていることから、その燃料として使用される灯油組成物には、特別な知識を要することなく安全かつ快適に利用することを可能とする性能が求められている。すなわち、燃焼性に優れ煙が出にくいものであることが求められている。
【0005】
また、燃料補給の手間や燃料補給操作により事故が発生する危険性を低減するとともに、コストの観点から、燃費の良いものであること、換言すれば発熱量の高いものであることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−233087
【特許文献2】特開2007−77355
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、酸化安定性を向上させるための従来の技術では、酸化安定性とともに燃焼性と発熱量についても市場で要求される性能を満たす灯油組成物を製造することは難しい。
【0008】
そこで、本発明は、酸化安定性とともに燃焼性と発熱量についても優れた灯油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特にインダン類及びベンゾチオフェン類が酸化安定性に影響を与えることを見出した。すなわち、本発明は、密度が0.7920〜0.8040g/cm、及び煙点が21.0mm以上、95%留出温度が240.0〜260.0℃で、硫黄分が10mass ppm以下、及びインダン類が1.0〜4.0mass%で、ベンゾチオフェン類を含む灯油組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸化安定性とともに燃焼性と発熱量についても優れた灯油組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、灯油組成物A,灯油組成物B,灯油組成物Cのインダン類の含有量と酸化安定性との関係を示したグラフである。
図2図2は、灯油組成物A,灯油組成物B,灯油組成物Cのテトラリン類の含有量と酸化安定性との関係を示したグラフである。
図3図3は、実施例2〜5の灯油組成物と比較例1〜2の灯油組成物とについて、ベンゾチオフェン類の含有量と酸化安定性との関係を示したグラフである。
図4図4は、灯油組成物Dのベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類の含有量と酸化安定性との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る灯油組成物は、芳香族分を含んでいてもよい。芳香族分としては、例えば、インダン類やテトラリン類などの、ベンゼンにアルキル基やナフテン環を有する1環芳香族分、ナフタレンにアルキル基やナフテン環を有する2環芳香族分、及びフェナントレンやアントラセンにアルキル基やナフテン環を有する3環芳香族分が挙げられる。
【0013】
本発明に係る灯油組成物は、インダン類が4.0mass%以下である。インダン類とは、インダン及びインダンに1以上のアルキル基を有するもので、例えば、インダン、メチルインダン、ジメチルインダン、及びトリメチルインダンが挙げられる。本発明に係る灯油組成物は、インダン類が4.0mass%以下であり、酸化安定性を考慮した場合は3.5mass%以下であるのが好ましい。ナフテノベンゼン類の中でも、インダン類が特に酸化安定性に影響を与え、インダン類が多いと、酸化安定性が悪くなる(図1参照)。後述のように、インダン類は分解灯油留分に多く含まれるため、分解灯油留分の有効活用の面から、灯油組成物中のインダン類は、良好な酸化安定性を維持できる範囲でできるだけ多いのが好ましい。そのような観点から、インダン類は1.0mass%以上が好ましく、1.5mass%以上がより好ましく、2.0mass%以上が更に好ましく、2.5mass%以上が特に好ましく、3.0mass%以上が最も好ましい。
【0014】
本発明に係る灯油組成物は、テトラリン類を含んでいてもよい。テトラリン類とは、テトラリン及びテトラリンに1以上のアルキル基を有するもので、例えば、テトラリン、及びメチルテトラリンが挙げられる。テトラリン類は、インダン類とは異なり、灯油組成物の酸化安定性に大きな影響を与えないため(図2参照)、含有量は多くてもよいが、燃焼性の観点からは、好ましくは7.0mass%以下、より好ましくは6.0mass%以下、更に好ましくは5.0mass%以下である。また、製造コストの観点からは、0.1mass%以上含まれていてもよい。
【0015】
本発明に係る灯油組成物は、ベンゾチオフェン類を含む。ベンゾチオフェン類とは、ベンゾチオフェン及びベンゾチオフェンに1以上のアルキル基を有するものである。ベンゾチオフェン類は、インダン類が4.0mass%以下のときに灯油組成物中に含まれると、酸化安定性を良くする傾向がある。一方、インダン類が4.0mass%を超える範囲では、酸化安定性に殆ど影響を与えない傾向がある(図3〜4参照)。すなわち、インダン類が4.0mass%以下の場合には、インダン類の増加による酸化安定性の低下をベンゾチオフェン類の増加による酸化安定性の向上で補うことができる。これにより、インダン類の含有量を多くすることができ、しかも酸化安定性も高くすることができる。灯油組成物中、ベンゾチオフェン類は好ましくは1.0mass ppm以上、より好ましくは2.0mass ppm以上であり、3.0mass ppm以上、好ましくは3.5mass ppm以上、より好ましくは4.0mass ppm以上であると酸化安定性の改善効果が特に高いので望ましい。
【0016】
本発明に係る灯油組成物は、ジベンゾチオフェン類を含んでいてもよい。ジベンゾチオフェン類とは、ジベンゾチオフェン及びジベンゾチオフェンに1以上のアルキル基を有するものである。ジベンゾチオフェン類は、ベンゾチオフェン類とは異なり、灯油組成物の酸化安定性に大きな影響を与えない(図4参照)。
【0017】
本発明に係る灯油組成物は、硫黄分が10mass ppm以下であり、好ましくは8mass ppm以下である。硫黄分含有量は、少ないほど、人間にとって不快な臭気が少なくなる。また、硫黄分が多いと、燃焼時の硫黄酸化物量が増加する。
【0018】
本発明に係る灯油組成物は、密度が0.7900〜0.8100g/cmであり、好ましくは0.7920〜0.8040g/cm、より好ましくは0.7930〜0.8030g/cm、更に好ましくは0.7930〜0.8000g/cmである。密度が高くなると燃焼性が悪化することがある。ただし、密度が低いと暖房性に支障が出る可能性がある。
【0019】
本発明に係る灯油組成物は、蒸留性状初留点が140.0℃〜170.0℃であることが好ましい。10%留出温度は、160.0℃〜180.0℃であることが好ましい。95%留出温度は230.0℃〜270.0℃であることが好ましい。各留出温度が上記範囲よりも低い場合、芯式・放射形石油ストーブ最大燃焼使用時において、火足が伸び過ぎ、消火時間が長くなり安全な燃焼状態が保てず、また、燃料消費量も増加し経済性も良くないため好ましくない。上記範囲よりも高い場合は、着火性が悪くなるなどの問題が生じる可能性があり好ましくない。安全な燃焼状態のために、更に好ましくは初留点が145.0℃〜160.0℃、10%留出温度が165.0℃〜175.0℃、95%留出温度が240.0℃〜260.0℃である。なお、上記蒸留性状以外に、例えば、50%留出温度が180.0℃〜220.0℃、90%留出温度が230.0℃〜245.0℃とすることができる。
【0020】
本発明に係る灯油組成物は、燃焼性などの観点から、煙点が21.0mm以上、好ましくは21.0mm〜26.0mmである。
【0021】
本発明に係る灯油組成物は、PetroOXY誘導期間が好ましくは70.0min以上、より好ましくは72.0min以上、更に好ましくは80.0min以上、特に好ましくは90.0min以上である。
【0022】
本発明に係る灯油組成物は、総発熱量が好ましくは36800〜37170J/cmである。
【0023】
本発明に係る灯油組成物は、例えば、原油を精製する工程で得られる各種石油留分を分解・合成・配合することで得ることができる。インダン類やベンゾチオフェン類の含有量は、原油を蒸留して得られる灯油留分や分解灯油の蒸留性状、これら原料油を脱硫する時の脱硫条件、灯油留分や分解軽油の混合量などを適宜、調節することにより適切な範囲とすることができる。また、GTL灯油を脱硫装置の原料または脱硫後の灯油に適宜混合することにより得ることもできる。
【0024】
本発明に係る灯油組成物は、原油を蒸留して得られる灯油留分と流動接触分解装置から留出する分解灯油留分を混合し、脱硫処理して得ることが好ましい。この際、分解灯油留分は、好ましくは0〜20容量%、より好ましくは2〜20容量%、更に好ましくは5〜20容量%である。分解灯油留分は、後述のように灯油生産に振り替えることができるので多い方が好ましいが、多すぎると酸化安定性など灯油としての優れた性状を得ることが難しくなる。分解灯油留分には、インダン類やテトラリン類などのナフテノベンゼン類が多く含まれる。そのため、上述のようなインダン類の含有量とすることにより、分解灯油留分を有効に利用することができる。2014年7月末に改正された「エネルギー供給構造高度化法」の新たな判断基準により、製油所では直留系基材に対する分解系基材の比率が更に増加することが見込まれている。特に、分解ガソリンの重質分(分解灯油留分)の一部から灯油を製造するルートは、ガソリン需要の減少が想定されるなか、灯油生産に振り替えることが出来るので大変重要である。
【実施例】
【0025】
実験例における灯油組成物中の性状等は、下記のように測定した。
【0026】
インダン類、テトラリン類:
試料をAgilent 6890にて、下記の条件で測定し、インダン類及びテトラリン類の含有量を求めた。
カラム:Agilent 19091S−004 HP−DHA1 102m×0.50um×250um
オーブン温度:5℃(10min HOLD)→5℃/min→50℃(15min)→6℃/min→220℃(7min)
注入温度:250℃ スプリット:150:1
検出器:250℃(FID)
キャリアーガス:He、2.4ml/min
【0027】
ベンゾチオフェン類、ジベンゾチオフェン類:
試料を下記の方法にて、SCD検出器付きガスクロマトグラフを用いてベンゾチオフェン類の含有量を求めた。
カラム:DB―SULFUR.SCD
キャリアーガス:He
流量: 2.3ml/min
昇温条件:35℃(3min HOLD)→5℃/min→150℃→10℃/min→270℃(7min HOLD)
検出器温度:200℃
注入温度:270℃
サンプル中のベンゾチオフェン類由来の硫黄化合物の定量は、試薬のベンゾチオフェン由来の硫黄化合物が1mass ppmになるように調整した標準サンプルを作成し、そのサンプルと測定するサンプルのピーク面積の比から行った。
なお、ジベンゾチオフェン類も同様の方法によって含有量を求めた。
【0028】
密度:
JIS K 2249「原油及び石油製品−密度試験方法及び密度・質量・容量換算表」により測定した。
硫黄分:
JIS K 2541−2「原油及び石油製品−硫黄分試験方法 第2部:微量電量滴定式酸化法」により測定した。
蒸留性状:
JIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法 4.常圧法蒸留試験方法」に従って測定した。
【0029】
煙点:
JIS K 2537「石油製品−灯油及び航空タービン燃料油−煙点試験方法」により測定した。
PetroOXY誘導期間:
灯油組成物のPetroOXY誘導期間は、PetroOXY試験「経済産業省告知第72号(軽油中の酸化安定度の測定方法として経済産業大臣が定める方法)」により測定される誘導期間で表した。誘導期間とは、試料5mlに所定量の酸素を封入し、140℃まで上昇させて、初期圧力が10%低下するまでの時間である。
総発熱量:
JIS K 2279「原油及び石油製品―発熱量試験法及び計算による推定方法」により測定した。
【0030】
≪実験例1≫
下記のように実施例1〜7及び比較例1〜3に係る灯油組成物を調製した。得られた灯油組成物について、煙点、酸化安定性(PetroOXY誘導期間)、総発熱量を測定した。結果を表1及び2に示す。
【0031】
(実施例2)
原油を蒸留して得られた灯油留分93容量%に分解灯油7容量%混合し、CoMo系触媒を用いて、水素分圧4.0MPa、液空間速度4.1t/m/hr、反応温度335℃で硫黄分10mass ppm以下の実施例2に係る灯油組成物を得た。
【0032】
(実施例1,実施例3〜7,比較例1〜3)
実施例2で得られた灯油組成物に、インダン類、テトラリン類、ベンゾチオフェン類、及び硫黄分の含有量を調整するため、試薬のインダン(純度>95%)、テトラリン(純度>97%)、ベンゾチオフェン、及びジベンゾチオフェンの少なくとも1種を添加し、実施例1,実施例3〜7,比較例1〜3に係る灯油組成物を得た。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
インダン類の含有量が2.7mass%の実施例2〜5について、及びインダン類の含有量が4.7mass%の比較例1〜2について、ベンゾチオフェン類の含有量と酸化安定性との関係を図3に示す。
【0036】
図3より、インダン類の含有量が少ない場合は、ベンゾチオフェン類の含有量が増えると共に酸化安定性が良くなり、インダン類の含有量が多い場合は、ベンゾチオフェン類の含有量が増えても、酸化安定性が良くならないことが分かる。
【0037】
≪実験例2≫
灯油組成物A、灯油組成物B、灯油組成物Cにそれぞれインダン純度>95%のインダン試薬を添加した。インダン類の含有量と酸化安定性との関係を図1に示す。灯油組成物A,灯油組成物B,灯油組成物Cのインダン類の含有量は、添加した量と元々の含有量とを足した合計値とした。
【0038】
灯油組成物A、灯油組成物B、灯油組成物Cにそれぞれテトラリン純度>97%のテトラリン試薬を添加した。テトラリン類の含有量と酸化安定性との関係を図2に示す。灯油組成物A,灯油組成物B,灯油組成物Cのテトラリン類の含有量は、添加した量と元々の含有量とを足した合計値とした。
【0039】
実験例2より、インダン類は酸化安定性に大きな影響を与えるが、テトラリン類は酸化安定性にそれほど影響を与えないことが分かる。
【0040】
≪実験例3≫
インダン類の含有量が2.2mass%の灯油組成物Dに、ベンゾチオフェン又はジベンゾチオフェンを添加した。ベンゾチオフェン類(BT)及びジベンゾチオフェン類(DBT)の含有量と酸化安定性との関係を図4に示す。灯油組成物Dのベンゾチオフェン類及びジベンゾチオフェン類の含有量は、添加した量と元々の含有量を足した合計値とした。
【0041】
実験例3より、ベンゾチオフェン類は酸化安定性に大きな影響を与えるが、ジベンゾチオフェン類は酸化安定性にそれほど影響を与えないことが分かる。
図1
図2
図3
図4