(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0012】
本明細書において、「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
【0013】
本明細書において、「〜」を用いて示された数値範囲には、「〜」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
【0014】
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0015】
本明細書において、組成物中の各成分の含有率又は含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
【0016】
本明細書において、組成物中の各成分の粒子径は、組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
【0017】
本明細書において、「層」又は「膜」との語には、当該層又は膜が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている状態に加え、当該領域の一部にのみ形成されている状態も含まれる。
【0018】
本明細書において、「積層」は、層を積み重ねることを示し、二以上の層が結合されていてもよく、二以上の層が着脱可能であってもよい。
【0019】
本明細書において、「導体化」とは、金属含有粒子を融着させて導体に変化させることを意味する。「導体」は、導電性を有する物体をいい、より具体的には体積抵抗率が2000mΩ・cm以下である物体をいう。本明細書において、導体の体積抵抗率は、4端針面抵抗測定器で測定した面抵抗値と、非接触表面・層断面形状計測システム(商品名:VertScan、株式会社菱化システム)から求めた膜厚とから計算される値である。「導体」との語には、導電性を有する物体に、導電性を有する層(例えば、めっき層)を備えたものも含まれる。
【0020】
本明細書において、導体形成用組成物が「焼結」された状態、すなわち「焼結体」には、ウレタン結合を有する樹脂及びシランカップリング剤の一部又は全部が残存したまま、銅含有粒子が完全に又は部分的に融け合って一体化(融着)している状態、又は銅含有粒子が融合せずに接触しているのみの状態のいずれもが含まれる。
【0021】
<導体形成用組成物>
本実施形態の導体形成用組成物は、銅含有粒子と、ウレタン結合を有する樹脂と、シランカップリング剤と、を含有する。ウレタン結合を有する樹脂の含有量は、銅含有粒子100質量部に対して3.0質量部〜15.0質量部である。導体形成用組成物として具体的には、導電塗料、導電ペースト、導電インク等が挙げられる。
【0022】
[銅含有粒子]
銅含有粒子は、少なくとも金属銅を含み、必要に応じてその他の物質を含んでもよい。その他の物質としては、金、銀、白金、錫、ニッケル等の金属又はこれらの金属元素を含む化合物、有機物、酸化銅、塩化銅などを挙げることができる。導電性により優れる導体を形成する観点から、銅含有粒子中の銅の含有率は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。
【0023】
銅含有粒子の大きさは、特に制限されないが、低温での焼結性の観点から、長軸の長さが50nm以下である銅含有粒子(以下、「小径粒子」という場合がある。)の割合が55個数%以下であることが好ましい。
【0024】
本明細書において、銅含有粒子の長軸は、銅含有粒子に外接し、互いに平行である二平面の間の距離が最大となるように選ばれる二平面間の距離を意味する。本明細書において、長軸の長さが50nm以下である銅含有粒子の割合は、無作為に選択される200個の銅含有粒子中に占める割合である。例えば、長軸の長さが50nm以下である銅含有粒子が200個中に110個である場合は、長軸の長さが50nm以下である銅含有粒子の割合は55個数%である。
【0025】
低温での焼結性の観点から、長軸の長さが50nm以下である銅含有粒子の割合は、50個数%以下であることが好ましく、35個数%以下であることがより好ましく、20個数%以下であることがさらに好ましい。
【0026】
低温での焼結性の観点から、長軸の長さが70nm以上である銅含有粒子の割合は、30個数%以上であることが好ましく、50個数%以上であることがより好ましく、60個数%以上であることがさらに好ましい。本明細書において、長軸の長さが70nm以上である銅含有粒子の割合は、無作為に選択される200個の銅含有粒子に占める割合を意味する。
【0027】
低温での焼結性の観点から、銅含有粒子の長軸の長さの平均値は、55nm以上であることが好ましく、70nm以上であることがより好ましく、90nm以上であることがさらに好ましい。本明細書において、長軸の長さの平均値は、無作為に選択される200個の銅含有粒子について測定した長軸の長さの算術平均値を意味する。
【0028】
低温での焼結性の観点から、銅含有粒子の長軸の長さの平均値は、500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましい。
【0029】
低温での焼結性の観点から、長軸の長さが最長である銅含有粒子(以下、「最大径粒子」という場合がある。)は、その長軸の長さが500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましく、250nm以下であることがさらに好ましい。本明細書において、最大径粒子の長軸の長さは、無作為に選択される200個の銅含有粒子中で長軸の長さが最長である銅含有粒子の長軸の長さを意味する。
【0030】
低温での焼結性の観点から、長軸の長さが最短である銅含有粒子(以下、「最小径粒子」という場合がある。)は、その長軸の長さが5nm以上であることが好ましく、8nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。本明細書において、最小径粒子の長軸の長さは、無作為に選択される200個の銅含有粒子中で長軸の長さが最短である銅含有粒子の長軸の長さを意味する。
【0031】
銅含有粒子の長軸の長さは、例えば、後述する銅含有粒子の製造方法における原材料の種類、原材料を混合する際の温度、反応時間、反応温度、洗浄工程、洗浄溶媒等の条件を調節することによって行うことができる。
【0032】
銅含有粒子の長軸と短軸との比(長軸/短軸)であるアスペクト比の平均値は、1.0〜8.0であることが好ましく、1.1〜6.0であることがより好ましく、1.2〜3.0であることがさらに好ましい。本明細書においてアスペクト比の平均値は、無作為に選択される200個の銅含有粒子の長軸の算術平均値と短軸の算術平均値をそれぞれ求め、得られた長軸の算術平均値を短軸の算術平均値で除して得られる値である。銅含有粒子の短軸とは、銅含有粒子に外接し、互いに平行である二平面の間の距離が最小となるように選ばれる二平面間の距離を意味する。
【0033】
銅含有粒子のアスペクト比の調節は、例えば、後述する銅含有粒子の製造方法において使用される脂肪酸の炭素数等の条件を調節することによって行うことができる。
【0034】
銅含有粒子の長軸及び短軸の長さは、電子顕微鏡による観察等の公知の方法により、測定することができる。電子顕微鏡で観察する場合の倍率は、特に制限されないが、例えば、20倍〜50000倍とすることができる。なお、電子顕微鏡像から無作為に銅含有粒子を選択する際には、粒子径が3nm未満である銅含有粒子は測定対象から除外する。
【0035】
低温での焼結を促進する観点から、銅含有粒子は表面に凹凸を有する銅含有粒子を含むことが好ましい。より具体的には、円形度の平均値が0.70〜0.99であることがより好ましい。円形度は、4π×S/L
2で表される値であり、S及びLは、それぞれ測定対象粒子の電子顕微鏡(二次元像)における当該粒子の面積及び周囲(外周)の長さである。円形度は、画像処理ソフトを用いて電子顕微鏡像を解析することにより求めることができ、円形度の平均値は、任意に選択した200個の銅含有粒子について測定した円形度の平均値とする。
【0036】
銅含有粒子が表面に凹凸を有する銅含有粒子を含むことで低温での焼結が促進される理由は明らかではないが、銅含有粒子の表面に凹凸が存在することによりいわゆるナノサイズ効果による融点低下が生じ、低温での焼結性が促進されると推測される。
【0037】
銅含有粒子の形状は、特に制限されずに、球状、長粒状、扁平状、繊維状等の形状から導体形成用組成物の用途にあわせて選択できる。導体形成用組成物を印刷法に適用する場合は、銅含有粒子の形状は球状又は長粒状である(具体的には、例えば、アスペクト比の平均値が1.5〜8.0である)と、混合物の粘度の調整が容易であるために好ましい。
【0038】
保存性の観点から、銅含有粒子は、銅を含むコア粒子と、コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆する有機物と、を備えることが好ましい。このような銅含有粒子は、有機物が保護材としての役割を果たし、コア粒子の酸化が抑制される傾向にある。このため、大気中で長期保存した後も低温での良好な焼結性が維持される傾向にある。なお、有機物は銅含有粒子を焼結させる際の加熱により、熱分解又は揮発して、完全に又は部分的に消失する。
【0039】
コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆する有機物は、アルキルアミンに由来する有機物を含むことが好ましい。コア粒子が有機物又はアルキルアミンで被覆されていることは、窒素雰囲気下で有機物又はアルキルアミンが熱分解又は揮発する温度以上の温度で銅含有粒子を加熱し、加熱前後の質量を比較することによって確認することができる。
【0040】
コア粒子の表面の少なくとも一部を被覆する有機物は、その割合がコア粒子及び有機物の合計に対して0.1質量%〜20質量%であることが好ましい。有機物の割合が0.1質量%以上であると、充分な耐酸化性が得られる傾向にある。有機物の割合が20質量%以下であると、低温での焼結性が良好となる傾向にある。コア粒子及び有機物の合計に対する有機物の割合は0.3質量%〜10質量%であることがより好ましく、0.5質量%〜5質量%であることがさらに好ましい。
【0041】
コア粒子は、少なくとも金属銅を含み、必要に応じてその他の物質を含んでもよい。その他の物質としては、金、銀、白金、錫、ニッケル等の金属又はこれらの金属元素を含む化合物、後述する脂肪酸銅、還元性化合物又はアルキルアミンに由来する有機物であってコア粒子の内部に入り込んでいる有機物、酸化銅、塩化銅などを挙げることができる。導電性により優れる導体を形成する観点から、コア粒子中の銅の含有率は50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。
【0042】
銅含有粒子は、コア粒子の表面の少なくとも一部が有機物によって被覆されているために、大気中で保存しても銅の酸化が抑制されており、酸化物の含有率が小さい傾向にある。例えば、銅含有粒子中の酸化物の含有率が5質量%以下であってもよい。銅含有粒子中の酸化物の含有率は、例えばXRD(X−ray diffraction、X線回折)によって測定することができる。
【0043】
(銅含有粒子の製造方法)
銅含有粒子の製造方法は特に制限されない。例えば、銅含有粒子は脂肪酸と銅との金属塩と、還元性化合物と、アルキルアミンと、を含む組成物を加熱撹拌する工程を有する方法によって製造される。前記方法は、必要に応じて加熱撹拌工程後の遠心分離工程、洗浄工程等の工程を有していてもよい。
【0044】
上記方法は、銅前駆体として、脂肪酸と銅との金属塩を使用するものである。これにより、銅前駆体としてシュウ酸銀等を用いる特許文献1に記載の方法と比較して、より沸点の低い(すなわち、分子量の小さい)アルキルアミンを反応媒として使用することが可能になると考えられる。その結果、得られる銅含有粒子においてコア粒子の表面に存在する有機物がより熱分解又は揮発し易いものとなり、銅含有粒子を焼結(融着)させて導体に変化させることを低温で実施することがより容易になると考えられる。
【0045】
(脂肪酸)
脂肪酸は、RCOOHで表される1価のカルボン酸(Rは鎖状の炭化水素基であり、直鎖状であっても分岐を有していてもよい)である。脂肪酸は、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。コア粒子を効率的に被覆して酸化を抑制する観点から、直鎖状の飽和脂肪酸が好ましい。脂肪酸は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0046】
脂肪酸の炭素数は、9以下であることが好ましい。炭素数が9以下である飽和脂肪酸としては、酢酸(炭素数2)、プロピオン酸(炭素数3)、酪酸及びイソ酪酸(炭素数4)、吉草酸及びイソ吉草酸(炭素数5)、カプロン酸(炭素数6)、エナント酸及びイソエナント酸(炭素数7)、カプリル酸、イソカプリル酸及びイソカプロン酸(炭素数8)、ノナン酸及びイソノナン酸(炭素数9)等を挙げることができる。炭素数が9以下である不飽和脂肪酸としては、例えば、上記の飽和脂肪酸の炭化水素基中に1つ以上の二重結合を有するものを挙げることができる。
【0047】
脂肪酸の種類は、銅含有粒子の分散媒への分散性、融着性等の性質に影響しうる。このため、銅含有粒子の用途に応じて脂肪酸の種類を選択することが好ましい。粒子形状の均一化の観点から、炭素数が5〜9である脂肪酸と、炭素数が4以下である脂肪酸とを併用することが好ましい。例えば、炭素数が9であるノナン酸と、炭素数が2である酢酸とを併用することが好ましい。炭素数が5〜9である脂肪酸と炭素数が4以下である脂肪酸とを併用する場合の比率は、特に制限されない。
【0048】
脂肪酸と銅との塩化合物(脂肪酸銅)を得る方法は特に制限されない。例えば、水酸化銅と脂肪酸とを溶媒中で混合することで得てもよく、市販されている脂肪酸銅を用いてもよい。あるいは、水酸化銅、脂肪酸及び還元性化合物を溶媒中で混合することで、脂肪酸銅の生成と、脂肪酸銅と還元性化合物との間で形成される錯体の生成とを同じ工程中で行ってもよい。
【0049】
(還元性化合物)
還元性化合物は、脂肪酸銅と混合した際に両化合物間で錯体等の複合化合物を形成していると考えられる。これにより、還元性化合物が脂肪酸銅中の銅イオンに対する電子のドナーとなり、銅イオンの還元が生じ易いなり、錯体を形成していない状態の脂肪酸銅よりも自発的な熱分解による銅原子の遊離が生じ易くなると考えられる。還元性化合物は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0050】
還元性化合物として具体的には、ヒドラジン、ヒドラジン誘導体、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、抱水ヒドラジン等のヒドラジン化合物、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシルアミン誘導体等のヒドロキシルアミン化合物、水素化ホウ素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム等のナトリウム化合物などを挙げることができる。
【0051】
脂肪酸銅中の銅原子に対して配位結合を形成し易い、脂肪酸銅の構造を維持した状態で錯体を形成し易い等の観点から、還元性化合物は、アミノ基を有することが好ましい。アミノ基を有する還元性化合物としては、ヒドラジン及びその誘導体、ヒドロキシルアミン及びその誘導体等を挙げることができる。
【0052】
脂肪酸銅、還元性化合物及びアルキルアミンを含む組成物を加熱する工程における加熱温度を低くする(例えば、150℃以下)観点から、還元性化合物は、アルキルアミンの蒸発又は分解を生じない温度範囲において、銅イオンを還元し易く、銅原子から遊離し易いものを選択することが好ましい。このような還元性化合物としては、ヒドラジン及びその誘導体、ヒドロキシルアミン及びその誘導体等を挙げることができる。これらの還元性化合物は窒素原子を有するため、窒素原子が銅原子との配位結合を形成して錯体を形成することができる。また、これらの還元性化合物は一般にアルキルアミンと比較して還元力が強いため、生成した錯体が比較的穏和な条件で自発的な分解を生じ、銅イオンの還元及び銅原子からの遊離が生じ易い傾向にある。
【0053】
ヒドラジン又はヒドロキシルアミンの代わりにこれらの誘導体から好適なものを選択することで、脂肪酸銅との反応性を調節することができ、所望の条件で自発分解を生じる錯体を生成することができる。ヒドラジン誘導体としては、メチルヒドラジン、エチルヒドラジン、n−プロピルヒドラジン、イソプロピルヒドラジン、n−ブチルヒドラジン、イソブチルヒドラジン、sec−ブチルヒドラジン、t−ブチルヒドラジン、n−ペンチルヒドラジン、イソペンチルヒドラジン、neo−ペンチルヒドラジン、t−ペンチルヒドラジン、n−ヘキシルヒドラジン、イソヘキシルヒドラジン、n−ヘプチルヒドラジン、n−オクチルヒドラジン、n−ノニルヒドラジン、n−デシルヒドラジン、n−ウンデシルヒドラジン、n−ドデシルヒドラジン、シクロヘキシルヒドラジン、フェニルヒドラジン、4−メチルフェニルヒドラジン、ベンジルヒドラジン、2−フェニルエチルヒドラジン、2−ヒドラジノエタノール、アセトヒドラジン等を挙げることができる。ヒドロキシルアミンの誘導体としては、N,N−ジ(スルホエチル)ヒドロキシルアミン、モノメチルヒドロキシルアミン、ジメチルヒドロキシルアミン、モノエチルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン、N,N−ジ(カルボキシエチル)ヒドロキシルアミン等を挙げることができる。
【0054】
脂肪酸銅に含まれる銅と還元性化合物との比率は、所望の錯体が形成される条件であれば特に制限されない。例えば、前記比率(銅:還元性化合物)はモル基準で1:1〜1:4の範囲とすることができ、1:1〜1:3の範囲とすることが好ましく、1:1〜1:2の範囲とすることがより好ましい。
【0055】
(アルキルアミン)
アルキルアミンは、脂肪酸銅と還元性化合物とから形成される錯体の分解反応の反応媒として機能すると考えられる。さらに、還元性化合物の還元作用によって生じるプロトンを捕捉し、反応溶液が酸性に傾いて銅原子が酸化されることを抑制すると考えられる。
【0056】
アルキルアミンは、RNH
2(Rは炭化水素基であり、環状又は分岐状であってもよい。)で表される1級アミン、R
1R
2NH(R
1及びR
2は同じであっても異なっていてもよい炭化水素基であり、環状又は分岐状であってもよい。)で表される2級アミン、炭化水素鎖に2つのアミノ基が置換したアルキレンジアミン等であってもよい。アルキルアミンは、1つ以上の二重結合を有していてもよく、酸素、ケイ素、窒素、イオウ、リン等の原子を有していてもよい。アルキルアミンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
アルキルアミンの炭化水素基の炭素数は、7以下であることが好ましい。アルキルアミンの炭化水素基の炭素数が7以下であると、銅含有粒子を融着させて導体を形成するための加熱の際に、アルキルアミンが熱分解し易く、良好に銅含有粒子を焼結(融着)させることができる傾向にある。アルキルアミンの炭化水素基の炭素数は6以下であることがより好ましい。アルキルアミンの炭化水素基の炭素数の下限は、例えば、3以上であってもよい。
【0058】
1級アミンとして具体的には、エチルアミン、2−エトキシエチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、ペンチルアミン、イソペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オレイルアミン、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン等を挙げることができる。
【0059】
2級アミンとして具体的には、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルペンチルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン等を挙げることができる。
【0060】
アルキレンジアミンとして具体的には、エチレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N−ジメチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N’−ジメチル−1,3−ジアミノプロパン、N,N−ジエチル−1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノ−2−メチルペンタン、1,6−ジアミノへキサン、N,N’−ジメチル−1,6−ジアミノへキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,12−ジアミノドデカン等を挙げることができる。
【0061】
アルキルアミンは、炭化水素基の炭素数が7以下であるアルキルアミンの少なくとも1種を含むことが好ましい。これにより、低温での焼結性(融着性)により優れる銅含有粒子を製造することができる。アルキルアミンは1種を単独で用いても、2種以上を併用してよい。アルキルアミンは、炭化水素基の炭素数が7以下であるアルキルアミンと、炭化水素基の炭素数が8以上のアルキルアミンと、を含んでもよい。炭化水素基の炭素数が7以下であるアルキルアミンと炭化水素基の炭素数が8以上のアルキルアミンとを併用する場合、アルキルアミン全体に占める炭化水素基の炭素数が7以下であるアルキルアミンの割合は50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。
【0062】
脂肪酸銅に含まれる銅とアルキルアミンとの比率は、所望の銅含有粒子が得られる条件であれば特に制限されない。例えば、前記比率(銅:アルキルアミン)はモル基準で1:1〜1:8の範囲とすることができ、1:1〜1:6の範囲とすることが好ましく、1:1〜1:4の範囲とすることがより好ましい。
【0063】
脂肪酸銅、還元性化合物及びアルキルアミンを含む組成物を加熱撹拌する工程を実施するための方法は特に制限されない。例えば、脂肪酸銅と還元性化合物とを溶媒に混合した後にアルキルアミンを添加して加熱する方法、脂肪酸銅とアルキルアミンとを溶媒と混合した後に還元性化合物を添加して加熱する方法、脂肪酸銅の出発物質である水酸化銅と脂肪酸、還元性化合物及びアルキルアミンを溶媒に混合して加熱する方法、脂肪酸銅の出発物質である水酸化銅と脂肪酸、及びアルキルアミンを溶媒に混合した後に還元性化合物を添加して加熱する方法等を挙げることができる。
【0064】
加熱撹拌工程は、銅前駆体として炭素数が9以下である脂肪酸銅を用いることにより、比較的低温で行うことができる。例えば、150℃以下で行うことができ、130℃以下で行うことが好ましく、100℃以下で行うことがより好ましい。
【0065】
脂肪酸銅、還元性化合物及びアルキルアミンを含む組成物は、さらに溶媒を含んでもよい。脂肪酸銅と還元性化合物による錯体の形成を促進する観点から、極性溶媒を含むことが好ましい。ここで極性溶媒とは、25℃で水に溶解する溶媒を意味する。極性溶媒を用いることで、錯体の形成が促進される傾向にある。その理由は明らかではないが、固体である脂肪酸銅を溶解させながら水溶性である還元性化合物との接触が促進されるためと考えられる。溶媒は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0066】
極性溶媒としては、25℃で水に溶解するアルコールが挙げられる。25℃で水に溶解するアルコールとしては、炭素数が1〜8であり、分子中に水酸基を1個以上有するアルコールを挙げることができる。このようなアルコールとしては、直鎖状のアルキルアルコール、フェノール、分子内にエーテル結合を有する炭化水素の水素原子を水酸基で置換したもの等を挙げることができる。より強い極性を発現する観点から、分子中に水酸基を2個以上含むアルコールも好ましく用いられる。また、製造される銅含有粒子の用途に応じてイオウ原子、リン原子、ケイ素原子等を含むアルコールを用いてもよい。
【0067】
アルコールとして具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、アリルアルコール、ベンジルアルコール、ピナコール、プロピレングリコール、メントール、カテコール、ヒドロキノン、サリチルアルコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、スクロース、グルコース、キシリトール、メトキシエタノール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール等を挙げることができる。
【0068】
アルコールのうち、水に対する溶解度が極めて大きいメタノール、エタノール、1−プロパノール及び2−プロパノールが好ましく、1−プロパノール及び2−プロパノールがより好ましく、1−プロパノールがさらに好ましい。
【0069】
[ウレタン結合を有する樹脂]
ウレタン結合を有する樹脂の分子構造及び分子量は特に制限されず、導体形成用組成物の用途、基材の種類等に応じて選択できる。ウレタン結合を有する樹脂は、熱可塑性であっても、熱硬化性であってもよい。ウレタン結合を有する樹脂は、1種を単独で用いても、分子構造、分子量等が異なる2種以上を併用してもよい。
【0070】
セラミック、ガラス、無機フィラー含有樹脂等の無機材料を含む基材に対する接着性の観点から、ウレタン結合を有する樹脂は、アルコキシシリル基及びシラノール基からなる群より選択される少なくとも1つの基をさらに有することが好ましい。このような基に含まれるケイ素原子は、無機材料との親和性が高く、少量でも充分な接着力向上効果が得られる傾向にある。さらに、このような基を有することで導体形成用組成物の耐熱性が向上し、銅含有粒子を焼結させるための加熱工程による導体形成用組成物の劣化が抑制される傾向にある。
【0071】
アルコキシシリル基として具体的には、メトキシシリル基、ジメトキシシリル基、トリメトキシシリル基、エトキシシリル基、ジエトキシシリル基、トリエトキシシリル基、プロピロキシシリル基、ブトキシシリル基、イソプロピロキシシリル基等が挙げられる。ウレタン結合を有する樹脂がアルコキシシリル基を有する場合、アルコキシシリル基は1種のみであっても、異なる2種以上であってもよい。
【0072】
導体形成用組成物がウレタン結合を有する樹脂を含むか否かは、例えば赤外吸収スペクトル測定によって確認することができる。具体的には、ウレタン結合(−NH−COO−)を有する樹脂を含む場合は、NH伸縮振動由来の3300cm
−1付近のピーク、CO伸縮振動由来の1720cm
−1付近のピーク等を観測できる。
【0073】
導体形成用組成物がウレタン結合と、アルコキシシリル基及びシラノール基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有する樹脂を含むか否かは、例えばICP発光分光分析、
29Si−NMR測定、赤外吸収スペクトル測定によって確認することができる。
【0074】
ウレタン結合を有する樹脂の含有量は、銅含有粒子100質量部に対して3.0質量部〜15.0質量部であり、5.0質量部〜15.0質量部であることが好ましく、6.0質量部〜12.0質量部であることがより好ましい。ウレタン結合を有する樹脂の含有量が、銅含有粒子100質量部に対して3.0質量部以上であると、導体の基材に対する接着力が充分に得られる傾向にある。ウレタン結合を有する樹脂の含有量が銅含有粒子100質量部に対して15.0質量部以下であると、導体の体積抵抗率の増大が抑制される傾向にある。
【0075】
[シランカップリング剤]
シランカップリング剤の種類は特に制限されず、対象基材の種類、使用温度等に応じて選択することができる。シランカップリング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、シランカップリング剤は導体形成用組成物中の分散媒に可溶であっても、不溶であってもよい。
【0076】
シランカップリング剤としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニル−トリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリ(メタクリロキシエトキシ)シラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アニリノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−(4,5−ジヒドロイミダゾリル)プロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジイソプロペノキシシラン、メチルトリグリシドキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、トリメチルシリルイソシアネート、ジメチルシリルイソシアネート、フェニルシリルトリイソシアネート、テトライソシアネートシラン、メチルシリルトリイソシアネート、ビニルシリルトリイソシアネート、エトキシシラントリイソシアネート等が挙げられる。
【0077】
これらのシランカップリング剤の中でも、導体形成用組成物中の材料間の界面の結合又は濡れ性を向上させる効果が大きいシランカップリング剤が好ましい。
【0078】
シランカップリング剤の含有量は、銅含有粒子100質量部に対して0.25質量部〜4.0質量部であることが好ましく、0.5質量部〜3.0質量部であることがより好ましい。カップリング剤の量が銅含有粒子100質量部に対して0.25質量部以上であると、接着強度の向上効果がより得られ易い傾向にある。また、カップリング剤の量が銅含有粒子100質量部に対して4.0質量部以下であると、導体形成用組成物がゲル化しにくくなり、導体形成用組成物の成膜性がより良好になる。
【0079】
銅含有粒子、ウレタン結合を有する樹脂及びシランカップリング剤を含有する導体形成用組成物を焼結してなる焼結体を含む導体が、基材に対する接着性に優れる理由は明らかではないが、例えば、ウレタン結合を有する樹脂は極性が比較的高いため、少ない添加量でも基材に対する充分な接着性の向上効果を発揮できるためと考えられる。また、シランカップリング剤は無機物質である銅粒子とウレタン系樹脂との双方に対して高い親和性を有するため、基材に対する接着性が向上するものと考えられる。
【0080】
銅含有粒子、ウレタン結合を有する樹脂及びシランカップリング剤を含有する導体形成用組成物を焼結してなる焼結体を含む導体が、導電性に優れる理由は明らかではないが、例えば、一般的に接着力向上のために添加されるエポキシ樹脂、アクリル樹脂等の硬化速度の速い熱硬化性樹脂は、銅含有粒子を焼結させるための加熱工程において、銅含有粒子の焼結よりも速く樹脂の熱硬化が進行して充分な焼結が妨げられる傾向があるのに対し、ウレタン結合を有する樹脂は熱可塑性である(硬化しない)か、熱硬化性であっても硬化速度が比較的遅いため、銅含有粒子の焼結を妨げにくく、良好な導電性が発現し易いためと考えられる。また、ウレタン結合を有する樹脂は、硬化する際、体積収縮が収縮し、銅粒子の接触が進行したために良好な導電性が発現し易くなると考えられる。また、ウレタン結合を含む樹脂が収縮する際、シランカップリング剤が架橋剤と類似の硬化を発揮することで、ウレタン結合を含む樹脂の体積収縮がさらに進行し、ウレタン結合を含む樹脂単独で用いる場合よりも、良好な導電性が発現し易くなると考えられる。
【0081】
[分散媒]
導体形成用組成物は、分散媒を含有していてもよい。分散媒の種類は特に制限されず、導体形成用組成物の用途に応じて一般に用いられる有機溶媒から選択でき、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。導体形成用組成物を印刷法に適用する場合は、導体形成用組成物の粘度コントロールの観点から、テルピネオール、イソボルニルシクロヘキサノール、ジヒドロターピネオール及びジヒドロターピネオールアセテートからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0082】
導体形成用組成物の粘度は特に制限されず、導体形成用組成物の使用方法に応じて選択できる。例えば、導体形成用組成物をスクリーン印刷法に適用する場合は、粘度が0.1Pa・s〜30Pa・sであることが好ましく、1Pa・s〜30Pa・sであることがより好ましい。導体形成用組成物をインクジェット印刷法に適用する場合は、使用するインクジェットヘッドの規格にもよるが、粘度が0.1mPa・s〜30mPa・sであることが好ましく、5mPa・s〜20mPa・sであることがより好ましい。導体形成用組成物の粘度はE型粘度計(東機産業株式会社製、製品名:VISCOMETER−TV22、適用コーンプレート型ロータ:3°×R17.65)を用いて測定される25℃における粘度を意味する。
【0083】
[その他の成分]
導体形成用組成物は、必要に応じて銅含有粒子、ウレタン結合を有する樹脂、シランカップリング剤及び分散媒以外のその他の成分を含んでもよい。このような成分としては、ウレタン結合を有する樹脂以外の樹脂、ラジカル開始剤、還元剤等が挙げられる。
【0084】
導体形成用組成物がウレタン結合を有する樹脂以外の樹脂を含む場合、当該樹脂としてアルコキシシリル基及びシラノール基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有する樹脂を含んでもよい。この場合も、導体形成用組成物がウレタン結合と、アルコキシシリル基及びシラノール基からなる群より選択される少なくとも1つの基とを有する樹脂を含む場合と同様の効果を得ることができる。
【0085】
導体形成用組成物がウレタン結合を有する樹脂以外の樹脂を含む場合、樹脂全体におけるウレタン樹脂結合を有する樹脂の割合は導電性と保存安定性の観点から30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。
【0086】
本実施形態の導体形成用組成物は、低温(例えば、200℃以下)での加熱によって導体が得られるため、耐熱性が比較的低い材質からなる基材に導体を配置する場合に好適に用いることができる。耐熱性が比較的低い材質としては、熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂などが挙げられる。また、基材の耐熱性が高くても、基材に備えられる耐熱性の低い部材があって高温で加熱ができない場合でも、好適に用いることができる。
【0087】
<導体及びその製造方法>
本実施形態の導体は、上述した実施形態の導体形成用組成物を焼結してなる焼結体を含む。導体の形状は特に制限されず、薄膜状、パターン状等を挙げることができる。本実施形態の導体は、種々の電子部品の配線、被膜等の形成に使用できる。特に、本実施形態の導体は低温(例えば、200℃以下)で製造できるため、樹脂等の耐熱性の低い基材上に金属箔、配線パターン等を形成する用途に好適に用いられる。また、通電を目的としない装飾、印字等の用途にも好適に用いられる。
【0088】
基材上に導体形成用組成物からなる層を形成し、加熱して焼結体を得る場合、基材の材質は特に制限されず、導電性を有していても有していなくてもよい。具体的には、Cu、Au、Pt、Pd、Ag、Zn、Ni、Co、Fe、Al、Sn等の金属、これら金属の合金、ITO、ZnO、SnO、Si等の半導体、ガラス、セラミック、黒鉛、グラファイト等のカーボン材料、樹脂、紙、これらの組み合わせなどを挙げることができる。
【0089】
本実施形態の導体は、樹脂等の有機材料を含む基材に対して優れた接着性を示すとともに、セラミック、ガラス、無機フィラー含有樹脂等の無機材料を含む基材に対しても優れた接着性を示す。基材の形状は特に制限されず、板状、棒状、ロール状、フィルム状等であってよい。
【0090】
導体の体積抵抗率は2000mΩ・cm以下であることが好ましく、200mΩ・cm以下であることがより好ましく、10mΩ・cm以下であることがさらに好ましく、1mΩ・cm以下であることが特に好ましい。
【0091】
導体の基材に対する接着力は0.05N/m以上であることが好ましく、0.5N/m以上であることがより好ましく、5.0N/m以上であることがさらに好ましく、50.0N/m以上であることが特に好ましい。本明細書において導体の基材に対する接着力は、卓上ピール試験機を用いて幅10mmの導体をピール角度90°、ピール速度30mm/秒で基材から剥離したときの、基材と導体の接着力(N/m)である。
【0092】
本実施形態の導体は、種々の用途に用いることができる。具体的には、積層板、太陽電池パネル、ディスプレイ、タッチパネル、トランジスタ、半導体パッケージ、積層セラミックコンデンサ等の電子部品に使用される、電気配線、放熱膜、表面被覆膜等の部材として利用することができる。特に、本実施形態の導体は樹脂等の基材上に形成できるため、フレキシブルな積層板、太陽電池パネル、ディスプレイ等の製造に好適である。
【0093】
導体形成用組成物を加熱して得られる焼結体は、めっきシード層としても好適に用いることができる。焼結体をめっきシード層として用いる場合、めっきシード層上に形成されるめっき層に用いる金属の種類は特に制限されず、めっきの方法も電解めっき又は無電解めっきのいずれであってもよい。また、焼結体上にめっき層を形成することによって得られる導体もまた、上述の種々の用途に用いることができる。
【0094】
本実施形態の導体の製造方法は、本実施形態の導体形成用組成物を加熱して、焼結体を得る工程(加熱工程)を備える。加熱工程では、導体形成用組成物に含まれる銅含有粒子の表面の有機物を完全に又は部分的に熱分解又は揮発させ、かつ、銅含有粒子を焼結させて、焼結体を得る。本実施形態の導体形成用組成物は、200℃以下、好ましくは180℃以下の温度で銅含有粒子を焼結させて導体に変化させることが可能である。このとき、焼結体には、ウレタン結合を有する樹脂及びシランカップリング剤の一部又は全部が残存し得る。
【0095】
加熱工程が実施される雰囲気中の成分は特に制限されず、通常の導体の製造工程で用いられる窒素、アルゴン等から選択できる。また、水素、ギ酸等の還元性物質を、窒素等に飽和させた雰囲気中で加熱してもよい。加熱時の圧力は特に制限されないが、減圧とすることでより低温で銅含有粒子を焼結させて導体に変化させることが促進される傾向にある。
【0096】
加熱工程は一定の温度で行っても、温度を変えながら行ってもよい。加熱工程を、温度を上昇させながら行う場合は、一定の昇温速度で行っても、昇温速度を変えながら行ってもよい。
【0097】
加熱工程の時間は特に制限されず、加熱温度、加熱雰囲気、銅含有粒子の量等を考慮して選択できる。加熱方法は特に制限されず、熱板による加熱、赤外ヒータによる加熱、パルスレーザによる加熱等を挙げることができる。
【0098】
導体の製造方法は、必要に応じてその他の工程を有していてもよい。その他の工程としては、加熱工程前に導体形成用組成物を含む層を基材に設ける工程、加熱工程前に導体形成用組成物中の揮発成分の少なくとも一部を乾燥等により除去する工程、加熱工程後に還元雰囲気中で加熱により生成した酸化銅を還元する工程、加熱工程後に光焼成を行って残存成分を除去する工程、加熱工程後に得られた導体に対して荷重をかける工程などを挙げることができる。
【0099】
本実施形態の導体の製造方法は、焼結体上に、めっき層を形成する工程(めっき層形成工程)をさらに備えていてもよい。
【0100】
めっき層形成工程において、めっき層を形成する方法は特に制限されず、電解めっき又は無電解めっきのいずれであってもよい。めっき層の形成に用いる金属の種類は特に制限されず、銅、ニッケル、金、クロム等が挙げられる。
【0101】
<積層体>
本実施形態の積層体は、基材と、前記基材上に配置される上述した実施形態の導体と、を備える。基材の種類は特に制限されず、導体を形成しうる基材として上述したものから選択してもよい。基材上に配置される導体は、基材の全面に配置されていても、一部にのみ配置されていてもよい。
【0102】
<装置>
本実施形態の装置は、上述した実施形態の導体を備える。装置の種類は特に制限されない。例えば、上述した実施形態の導体からなる配線、被膜等を有する太陽電池パネル、ディスプレイ、タッチパネル、電子部品(トランジスタ、セラミックコンデンサ、半導体パッケージ等)などが挙げられる。また、これらの装置を内蔵する電子機器、家電、産業用機械、輸送用機械等も本実施形態の装置に含まれる。
【実施例】
【0103】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0104】
[製造例1]
[1.1]ノナン酸銅の合成
水酸化銅(II)(関東化学株式会社、特級)91.5g(0.94mol)に1−プロパノール(関東化学株式会社、特級)150mLを加えて撹拌し、これにノナン酸(関東化学株式会社)370.9g(2.34mol)を加えた。得られた混合物を、セパラブルフラスコ中で90℃、30分間加熱撹拌した。得られた溶液を加熱したままろ過して未溶解物を除去した。その後放冷し、生成したノナン酸銅を吸引ろ過し、洗浄液が透明になるまでヘキサンで洗浄した。得られた粉体を50℃の防爆オーブンで3時間乾燥してノナン酸銅(II)を得た。収量は340g(収率96質量%)であった。
【0105】
[1.2]銅含有粒子の合成
上記で得られたノナン酸銅(II)15.01g(0.040mol)及び酢酸銅(II)無水物(関東化学株式会社、特級)7.21g(0.040mol)をセパラブルフラスコに入れ、1−プロパノール22mL及びヘキシルアミン(東京化成工業株式会社)32.1g(0.32mol)を添加し、オイルバス中、80℃で加熱撹拌して溶解させた。氷浴に移し、内温が5℃になるまで冷却した後、ヒドラジン一水和物(関東化学株式会社、特級)7.72mL(0.16mol)を加えて、さらに氷浴中で撹拌した。なお、銅:ヘキシルアミンのモル比は1:4である。次いで、オイルバス中で10分間、90℃で加熱撹拌した。その際、発泡を伴う還元反応が進み、セパラブルフラスコの内壁が銅光沢を呈し、溶液が暗赤色に変化した。遠心分離を9000rpm(回転/分)で1分間実施して固体物を得た。固形物をさらにヘキサン15mLで洗浄する工程を3回繰り返し、酸残渣を除去して、銅光沢を有する銅含有粒子の粉体を含む銅ケークAを得た。
【0106】
上記で合成した銅ケークAに含まれる銅含有粒子を透過型電子顕微鏡(商品名:JEM−2100F、日本電子株式会社)で観察したところ、無作為に選択した200個の銅含有粒子の長軸の長さの平均値は104nmであり、長軸の長さが50nm以下である銅含有粒子の割合は18個数%であり、長軸の長さが70nm以上である銅含有粒子の割合は67個数%であり、最大径粒子の長軸の長さは200nmであり、アスペクト比の平均値は1.2であった。また、表面に凹凸を有する銅含有粒子が観察され、円形度の平均値は0.81であった。
図1に、銅含有粒子の透過型電子顕微鏡像を示す。
【0107】
[実施例1−1〜1−6、及び比較例1−1〜1−5]
銅ケークA(50質量部)、テルピネオール(25質量部)、及びイソボルニルシクロヘキサノール(商品名:テルソルブMTPH、日本テルペン化学株式会社)(25質量部)を混合した。得られたペースト状の混合物に、ウレタン結合と、アルコキシシリル基としてメトキシシリル基とを有するウレタン樹脂A(商品名:U201、荒川化学工業株式会社)を、銅ケークA100質量部に対して不揮発分として表1に示す量(質量部)で混合した。続いて、シランカップリング剤(商品名:KBM―903、信越化学工業)を、銅ケークA100質量部に対して表1に示す量(質量部)で混合して、導体形成用組成物を調製した。
【0108】
[実施例2−1〜2−6、及び比較例2−1〜2−5]
ウレタン樹脂Aに代えて、ウレタン結合を有し、アルコキシシリル基及びシラノール基のいずれも有しないウレタン樹脂B(商品名:KL424、荒川化学工業株式会社)を、銅ケークA100質量部に対して不揮発分として表1に示す量(質量部)で用いた以外は、実施例1−1等と同様にして、導体形成用組成物を調製した。
【0109】
[比較例3−1及び3−2]
液状エポキシ樹脂(9.95質量部)(商品名:YL980、三菱化学株式会社)、テルピネオール(45質量部)、及びイソボルニルシクロヘキサノール(商品名:テルソルブMTPH、日本テルペン化学株式会社)(45質量部)、イミダゾール系エポキシ硬化剤(商品名:キュアゾール2P4MHz、四国化成工業株式会社)(0.05質量部)を混合してエポキシ樹脂溶液を調製した。
【0110】
ウレタン樹脂Aに代えて、上記のエポキシ樹脂溶液を、銅ケークA100質量部に対して不揮発分として表1に示す量(質量部)で用いた以外は、実施例1−1等と同様にして、導体形成用組成物を調製した。
【0111】
[比較例4−1及び4−2]
ウレタン樹脂Aを用いなかった以外は、実施例1−1等と同様にして、導体形成用組成物を調製した。
【0112】
(ゲル化の評価)
実施例及び比較例で得られた導体形成用組成物がゲル化しているかどうかを目視にて観察した。ゲル化していなかったものを「○」と評価し、ゲル化していたものを「×」とした。結果を表1に示す。
【0113】
(導体の形成)
実施例及び比較例で得られた導体形成用組成物を、基材としてのガラス板上に塗布し、加熱して銅を含む薄膜(焼結体)を得た。加熱は、酸素濃度を100ppm以下とした1気圧の窒素雰囲気中、昇温速度4℃/秒で180℃まで加熱し、60分間保持することによって行った。銅を含む薄膜(焼結体)を透過型電子顕微鏡(商品名:JEM−2100F、日本電子株式会社)で観察したところ、実施例及び比較例のいずれにおいても、導体形成用組成物中の銅含有粒子同士が焼結しており、導体の形成が示唆された。
【0114】
(導電性の評価)
次いで、銅を含む薄膜(焼結体)の体積抵抗率を、4端針面抵抗測定器で測定した面抵抗値と、非接触表面・層断面形状計測システム(商品名:VertScan、株式会社菱化システム)から求めた膜厚とから計算した。結果を表1に示す。
【0115】
[接着性の評価]
得られた銅を含む薄膜(焼結体)に対して、JIS K5400に準じてクロスカット試験を実施した(幅1mm)。粘着テープを薄膜に貼り、そのテープを剥離したときに、ガラス板からの膜はがれがなかった(残存したマス目が100個中100個であった)場合を、接着性が「良好:○」であると評価した。一方、テープを剥離したときに、ガラス板からの膜はがれが生じた(残存したマス目が100個中99個以下であった)場合を、接着性が「不良:×」であると評価した。結果を表1に示す。
【0116】
【表1】
【0117】
表1に示されるように、ウレタン樹脂A又はウレタン樹脂Bを銅含有粒子100質量部に対して3.0質量部〜15.0質量部含有する実施例の導体形成用組成物を用いて形成した銅を含む薄膜(焼結体)は、体積抵抗率が低く導電性が良好であり、基材に対する接着性も良好であった。また、アルコキシシリル基及びシラノール基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有するウレタン樹脂A及びシランカップリング剤を用いて形成した銅を含む薄膜(焼結体)は、そのような基を有していないウレタン樹脂B及びシランカップリング剤を用いて形成した銅を含む薄膜(焼結体)に比べて、基材に対する接着性及び導電性により優れていた。これは、ウレタン樹脂Aのアルコキシシリル基及びシランカップリング剤のアルコキシシリル基が、基材(ガラス)と親和性が高く、少量でも充分な接着性が発現し、銅含有粒子同士の接触も起こり易くなったためであると考えられる。
【0118】
シランカップリング剤を用いることで、ウレタン樹脂A又はウレタン樹脂Bを単独で用いる場合と比較して、銅を含む薄膜(焼結体)の導電性が良好であった。これは、焼結する際、シランカップリング剤がウレタン樹脂と架橋構造を形成することで、導体形成用組成物の体積が収縮し、銅含有粒子同士の接触が起こり易くなったためであると考えられる。
【0119】
樹脂成分としてエポキシ樹脂を用いた比較例3−1及び3−2の導体形成用組成物を用いて形成した銅を含む薄膜(焼結体)は、体積抵抗率が高くなった。樹脂成分を含まず、カップリング剤のみを用いた比較例4−1では、銅を含む薄膜(焼結体)は導電性を示さなかった。また、樹脂成分を含まない比較例4−2では、体積抵抗率は低いものの、基材に対する接着力がほとんどなかった。
【0120】
これらの結果から、本発明の導体形成用組成物が、基材に対する接着性及び導電性に優れる導体を形成することが可能であることが確認された。